説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】鉄を主成分とする強磁性粉末を含む、優れた保存安定性と走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体。前記磁性層は、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含む。非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法。非磁性支持体上に、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含む磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた保存安定性および耐久性を発揮し得る磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大容量のデータ保存に用いられるコンピュータ用のデータバックアップ用テープは、バックアップの対象となる文書、画像、映像などデータの大容量化に伴い、磁気テープ1巻当たりの記録容量が数TB(テラバイト)の磁気テープが商品化されている。また、世界の気象衛星、軍事衛星、映像情報等の大容量化に伴い、PB(ペタバイト)を超える大容量データの保存が求められている。これに伴い、これらデータのバックアップに用いられるテープの1巻あたりの容量も更に大容量化されつつあり、2008年時点では、6TBを超える容量のコンピュータ用磁気テープのロードマップが示されている。今後時代とともにますます高密度化が要求され、将来的には20TB/巻を超える時代が来ることが予想される。
【0003】
高記録容量化の手段として、磁気テープ側からのアプローチでは、記録面の平滑化、テープの薄手化、記録密度の向上等の高記録密度化技術が提案されている。記録密度の向上には、磁性粉末の微粒子化が挙げられるが、磁性粉末は微粒子化するほど凝集しやすくなり分散が困難となる。
【0004】
分散性低下に対する対策として、例えば特許文献1には、コハク酸等の高級脂肪酸エステルを分散剤として磁性塗料に添加することが提案されている。しかし、微粒子磁性体として鉄を主成分とする磁性体を使用すると、分散性の低下とともに保存安定性低下の問題も発生する。これは、磁性粉末は微粒子化するほど比表面積が増大し、鉄成分がより腐食されやすくなるためと考えられる。
【0005】
強磁性金属粉末や窒化鉄粉末等の鉄を主成分とする磁性体の分散性や保存安定性を改善するための手段として、特許文献2および3には、磁性粉末表面にリン酸化合物を結合させることや磁性層成分としてリン酸化合物を使用することが提案されている。
【特許文献1】特開平11−235576号公報
【特許文献2】特開2008−84418号公報
【特許文献3】特開2006−31751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、鉄主体の強磁性粉末に対し、特許文献2および3に記載されているように磁性層成分としてリン酸化合物を使用すると、経時や長期保存、繰り返し走行時等に保存安定性や走行耐久性が低下するという問題がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、鉄を主成分とする強磁性粉末を含む磁気記録媒体であって、優れた保存安定性と走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
磁性層成分として鉄を主成分とする強磁性粉末とリン酸化合物を併用すると、リン酸化合物が強磁性粉末の表面を覆い結合剤との間に介在することにより分散性が向上すると考えられる。また、リン酸化合物が強磁性粉末表面で覆われることにより耐腐食性が付与され保存安定性が向上すると考えられる。しかし、リン酸化合物は、経時や長期保存、繰り返し走行時に磁性体中の鉄成分と結合することによりリン酸鉄を生成し、これが多量に磁性層表面に析出すると走行耐久性が低下することとなる。更に、リン酸鉄生成により磁性体中の鉄含有量が低下するため、経時での減磁率が大きくなり保存安定性が低下する。
これに対し本発明者は、所定量のリン酸化合物とヒドロキシジカルボン酸化合物を併用することにより、走行耐久性と保存安定性を兼ね備えた磁気記録媒体が得られることを新たに見出した。この理由を、本発明者は以下のように推定している。
カルボキシル基は、リン酸基やホスホン酸基に比べて酸解離定数的に弱い酸である。Pearsonの提唱するHSAB理論(hard and sot acids and bases)によるところの、リン酸基やホスホン酸基に比べて相対的によりやわらかい酸と考えられ、Fe原子表面でイオン化するとき、Fe++、Fe+++が生成し、これら酸が存在するときに硬い酸とより硬くない酸の共存により、磁性体表面の安定化が図れるものと推察される。すなわちリン酸化合物のリン酸基やホスホン酸基のpKa1は、おおよそ1〜2前後であり、pKa2は6〜7前後となる。ここにカルボキシル基のpKaの4〜5前後の化合物が存在する場合、鉄イオンとの競争吸着においては複雑な結合状態に至り、鉄イオンとリン 酸基やホスホン酸基単独結合による化合物形成による脱離が避け得るものと考えられる。さらにカルボキシル基に含まれる水酸基が結合剤との親和性、反応性を考慮するうえで予期せぬ効果を与えるものと推察される。すなわち磁性層内に存在する水酸基は、結合剤成分(架橋剤ないしは硬化剤)として含まれるポリイソシアネートと反応し、結合剤を系内に留める作用を示すと考えられる。これらにより経時間や長期保存、繰り返し走行時に加速される鉄表面からの鉄イオンの遊離を抑制することができ、磁気特性が維持されるとともに、走行による汚れ成分の発生を抑制せしめるものと推察される。
本発明者らは上記知見に基づき更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[2]前記磁性層は、鉄を主成分とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した強磁性粉末を用いて形成された層である[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、下記一般式(1)で表される[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
HOOC−(CR12)n−C(R34)m−COOH …(1)
[一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基または水酸基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは水酸基を表す。nおよびmは、2≦(n+m)≦18を満たす整数を表す。]
[4]前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、酒石酸、メゾ酒石酸およびりんご酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である[3]に記載の磁気記録媒体。
[5]前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、Fe162を主成分とする窒化鉄粉末である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、強磁性金属粉末である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]前記磁性層は、ポリウレタン樹脂およびイソシアネート化合物を含む磁性層形成用塗布液を用いて形成された層である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性支持体上に、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含む磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成することを含む、前記製造方法。
[9]前記磁性層形成用塗布液を、鉄を主成分とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した強磁性粉末を用いて調製する[8]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[10]前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、下記一般式(1)で表される[8]または[9]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
HOOC−(CR12)n−C(R34)m−COOH …(1)
[一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基または水酸基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは水酸基を表す。nおよびmは、2≦(n+m)≦18を満たす整数を表す。]
[11]前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、酒石酸、メゾ酒石酸およびりんご酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である[10]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[12]前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、Fe162を主成分とする窒化鉄粉末である[8]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[13]前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、強磁性金属粉末である[8]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[14]前記磁性層形成用塗布液は、ポリウレタン樹脂およびイソシアネート化合物を更に含む[8]〜[13]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期にわたり優れた電磁変換特性および耐久性を発揮し得る磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[磁気記録媒体]
本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、磁性層に、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含むものである。
リン酸化合物を所定量のジヒドロキシカルボン酸化合物と併用することにより、リン酸化合物による分散性向上効果による優れた電磁変換特性とともに、長期にわたる優れた耐久性および保存安定性を得ることができる。
以下、本発明の磁気記録媒体について更に詳細に説明する。
【0012】
リン酸化合物、ヒドロキシジカルボン酸化合物
本発明の磁気記録媒体は、鉄を主成分とする強磁性粉末を含む磁性層において、リン酸化合物とヒドロキシジカルボン酸化合物を併用する。リン酸化合物の使用による分散性向上等の作用により高い電磁変換特性を得ることができ、更にヒドロキシジカルボン酸化合物を併用することにより、長期にわたり優れた保存安定性および耐久性を発揮し得る。その理由については、本発明者は前記のように推察している。ただし、リン酸化合物とヒドロキシジカルボン酸化合物の合計量が、強磁性粉末100質量部に対し1.5質量部未満では、リン酸化合物の添加による分散性向上・保存安定性向上効果およびヒドロキシジカルボン酸化合物の併用による効果を十分に得ることができず、7質量部を超えると強磁性粉末表面に結合できず遊離する成分が多くなり、保存中や走行中に遊離成分が析出することにより耐久性が低下する。そこで本発明では、上記化合物の合計量を強磁性粉末100質量部あたり1.5〜7質量部の範囲とする。磁気テープ表面や磁気ヘッドへの析出物発生や析出物付着を抑制しつつ電磁変換特性および耐久性をより向上する観点から、好ましい範囲は2.0〜6.5質量部であり、より好ましい範囲は3.0〜6.5質量部である。
【0013】
更に本発明では、磁性層におけるリン酸化合物とヒドロキシジカルボン酸化合物の割合を、リン酸化合物/ヒドロキシジカルボン酸化合物(質量比)で、90/10〜10/90の範囲とする。リン酸化合物に対するヒドロキシジカルボン酸化合物の使用量が過度に少ないと、ヒドロキシジカルボン酸化合物の併用による効果を得ることが困難となり、過度に多いとリン酸化合物による腐食抑制・電磁変換特性向上効果を得ることが困難となるからである。両化合物の添加効果をより効果的に得るためには、上記範囲は、79/21〜15/85であることが好ましく、79/21〜21/79であることがより好ましい。
【0014】
本発明においてリン酸化合物とは、リン酸の誘導体をいい、保存安定性向上および電磁変換特性向上の観点からは有機リン酸化合物であることが好ましい。有機リン酸化合物としては、ニトリロメチルリン酸、フェニルリン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル等のアルキルリン酸エステル類、フェニルホスホン酸、モノオクチルフェニルホスホン酸等の芳香族ホスホン酸類、メチルホスホン酸等を挙げることができる。
【0015】
ヒドロキシジカルボン酸化合物としては、カルボキシル基2つと水酸基を有するものであればよく、具体例としては下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
HOOC−(CR12)n−C(R34)m−COOH …(1)
【0016】
以下、一般式(1)について説明する。
一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基または水酸基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは水酸基を表す。一般式(1)中に含まれる水酸基の数は1つ以上であればよく特に限定されるものではない。アルキル基としては、直鎖であってもよく分岐を有していてもよいが、強磁性金属粉末表面への吸着性の点から炭素数3以下の低級アルキル基が好ましく、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基を挙げることができる。強磁性粉末表面への吸着性の点からは、R1〜R4は水酸基または水素原子であることが好ましい。
【0017】
一般式(1)中、(n+m)が2以上であれば、強磁性粉末表面上で良好に反応し得る。ただし、(n+m)が18を超えると高融点となり塗布溶剤中で十分に溶解させることが困難となる。そこで一般式(1)において、(n+m)は2以上18以下とする。溶解性および反応性の点から、(n+m)は、好ましくは2以上14以下であり、より好ましくは2以上8以下である。一般式(1)で表されるヒドロキシジカルボン酸化合物の具体例としては、りんご酸、酒石酸、メゾ酒石酸、2−オキシグルタル酸を挙げることができ、中でも好ましい具体例としては、りんご酸、酒石酸、メゾ酒石酸を挙げることができる。
【0018】
本発明において使用されるリン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物は、いずれも公知の方法により合成可能であり、また市販品としても入手可能である。
【0019】
強磁性粉末
本発明の磁気記録媒体において、磁性層に含まれる磁性体は、鉄を主成分とする強磁性粉末である。ここで「鉄を主成分とする」とは、鉄を100原子%としたときの他元素の含有量が、49原子%以下であることをいう。後述する強磁性金属粉末については、磁気特性の点からは、鉄以外の他元素として、鉄100原子%に対してCoが40原子%以下含まれることが好ましく、1〜40原子%含まれることがより好ましく、鉄およびCo以外の原子の含有量が鉄100原子%に対して12原子%以下であることが更に好ましい。
【0020】
鉄を主成分とする強磁性粉末は、微粒子化するほど腐食されやすくなり保存安定性が低下する。これに対し本発明によれば、リン酸化合物をヒドロキシジカルボン酸化合物とともに、上記の所定範囲で使用することにより、リン酸鉄生成による耐久性低下を抑制しつつ、鉄を主成分とする強磁性粉末の保存安定性低下を抑制することができる。
【0021】
鉄を成分とする強磁性粉末としては、窒化鉄粉末および強磁性金属粉末を挙げることができる。以下、上記強磁性粉末について説明する。
【0022】
(ii)窒化鉄粉末
本発明における窒化鉄粉末とは、少なくともFe162相を含む磁性粉末を意味するが、好ましくはFe162を主成分とする窒化鉄粉末をいう。本発明において、「Fe162を主成分とする」とは、X線回折においてFe162相を示すプロファイルを示し、かつ鉄に対する窒素の含有量が7.0〜14原子%の範囲であることを意味する。窒素含有量は、蛍光X線分析法、X線電子分光法、窒素分析装置等によって測定することができる。
【0023】
前記窒化鉄粉末は、Fe162相以外の窒化鉄の相を含まないことが好ましい。これは、窒化鉄(Fe4NやFe3N相)の結晶磁気異方性は1×105erg/cc(1×10-2J/cc)程度であるのに対し、Fe162相は2×106〜7×106erg/cc(2×10-1〜7×10-1J/cc)の高い結晶磁気異方性を有するからである。これにより、微粒子化した際にも高い保磁力を維持することができる。この高い結晶磁気異方性は、Fe162相の結晶構造に起因する。結晶構造は、N原子がFeの八面体格子間位置に規則的に入った体心正方晶であり、N原子が格子に入る際の歪が、高い結晶磁気異方性の発生原因と考えられる。Fe162相の磁化容易軸は窒化により伸びたC軸である。
【0024】
Fe162相を含む粒子の形状は粒状ないし楕円状であることが好ましい。さらに好ましくは球状である。これは、立方晶であるα−Feの等価な3方向のうち一方向が窒化により選ばれc軸(磁化容易軸)となるため、粒子形状が針状であれば、磁化容易軸が短軸方向、長軸方向にある粒子が混在することになり好ましくないからである。従って、長軸長/短軸長の軸比の平均値は好ましくは、2以下(例えば、1〜2)であり、より好ましくは1.5以下(例えば、1〜1.5)である。
【0025】
一般に粒径は窒化する前の鉄粒子の粒径で決まり、単分散であることが好ましい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。そして、Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末の粒径は、通常、鉄粒子の粒径で決まり、鉄粒子の粒径分布は単分散であることが好ましい。これは粒子サイズの大きい粒子と小さい粒子で窒化の度合いが異なり、磁気特性が異なるためである。この意味からも窒化鉄系磁性粉末の粒径分布は単分散であることが好ましい。
【0026】
窒化鉄の平均粒径は、35nm未満であることが好ましい。平均粒径が35nm未満であれば、粒子の大きさに基づくノイズが少なく高密度記録に好適である。ただし、磁性粉末の平均サイズが小さすぎると熱による残留磁化の確保が困難となり、また保磁力が低下し、粒子の分子間引力が増大するため磁性層塗布液中での分散が困難になる。従って窒化鉄粉末としては、上記の点を考慮し好適な平均粒子サイズを有するものを選択することが好ましい。具体的には、窒化鉄粉末の平均粒径は5〜20nmであることがより好ましく、10〜18nmであることがより一層好ましい。なお、本発明における窒化鉄の平均粒径は、Fe162相の平均粒径をいい、Fe162粒子の表面に層が形成されている場合は、当該層を含まないFe162粒子そのものについての平均サイズをいうものとする。なお、Fe162粒子は、その表面に酸化防止層等の層を任意に有することができる。
【0027】
強磁性粉末の平均サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均サイズとする。
【0028】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0029】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0030】
また、窒化鉄の粒径分布は、単分散であることが好ましくい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。粒径の変動係数は15%以下(好ましくは2〜15%)であり、さらに好ましくは、10%以下(好ましくは2〜10%)である。なお、本発明において「粒径の変動係数」とは、円相当径での粒径分布の標準偏差を求め、これを平均粒径で除したものを意味する。
【0031】
Fe162相を含む粒子において、鉄に対する窒素の含有量は、1.0〜20.0原子%が好ましく、さらに好ましくは5.0〜18.0原子%、より好ましくは8.0〜15.0原子%である。これは、窒素が少なすぎると、Fe162相の形成量が少なくなるからであり、保磁力増加は窒化による歪に起因しており、窒素が少なくなると保磁力が低くなるからである。窒素が多すぎると、Fe162相は準安定相であるため、分解して安定相である他の窒化物となり、この結果、飽和磁化が過度に低下するからである。
【0032】
Fe162を主成分とする窒化鉄粉末は、その表面が酸化皮膜で覆われていることが好ましい。これは、微粒子Fe162は酸化しやすく、窒素雰囲気でのハンドリングを要するからである。
【0033】
酸化皮膜は、希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムから選ばれる元素を含んでいることが好ましい。これにより、従来の鉄、Coを主成分とするいわゆるメタル粒子と同様の粒子表面を有することとなり、メタル粒子を取り扱っていた工程との親和性が高くなるからである。希土類元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Gdが好ましく用いられ、特にYが分散性の観点から好ましく用いられる。
【0034】
また、シリコンおよびアルミニウム以外に、必要に応じて、ホウ素やリンを含有させてもよい。さらに、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなども有効な元素として含有させてもよい。これらの他の元素と希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムとを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能を得ることができる。
【0035】
表面化合物層の組成については、鉄に対する希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの総含有量が0.1〜40.0原子%が好ましく、さらに好ましくは1.0〜30.0原子%、より好ましくは3.0〜25.0原子%である。これらの元素が少なすぎると、表面化合物層の形成が困難となり、磁性粉末の磁気異方性が減少するだけでなく、酸化安定性に劣る傾向がある。またこれらの元素が多すぎると、飽和磁化の過度な低下が起こりやすい。
【0036】
酸化皮膜の厚みは1〜5nmが好ましく、2〜3nmがより好ましい。この範囲より薄いと酸化安定性が低くなりやすく、厚いと実質的に粒子サイズが小さくなりにくくなることがあるからである。
【0037】
Fe162を主成分とする窒化鉄粉末の磁気特性としては、その保磁力(Hc)が、79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)であることが好ましく、159.2〜278.6kA/m(2000〜3500Oe)であることがより好ましい。さらに好ましくは、197.5〜237kA/m(2500〜3000Oe)である。これは、Hcが低いと、例えば面内記録の場合、隣の記録ビットの影響を受けやすくなり、高記録密度に適さなくなることがあるからであり、高すぎると記録されづらくなることがあるからである。
【0038】
窒化鉄粉末の「Ms・V」は、5.2×10-16〜6.5×10-16であることが好ましい。なお、「Ms・V」における飽和磁化Msは、例えば、振動式磁気測定器(VSM)を用い測定することができる。また、体積Vは透過型電子顕微鏡(TEM)を用い粒子観察を行い、Fe162相の粒径を求め、体積換算することにより求めることができる。
【0039】
窒化鉄粉末の飽和磁化は80〜160Am2/kg(80〜160emu/g)が好ましく、80〜120Am2/kg(80〜120emu/g)がより好ましい。これは低すぎると、信号が弱くなることがあり、高すぎると例えば面内記録の場合、隣の記録ビットに影響を及ぼしやすくなり、高記録密度に適さなくなるためである。
【0040】
また、窒化鉄粉末は、BET比表面積が40〜100m2/gであることが好ましい。これは、BET比表面積が小さすぎると、粒子サイズが大きくなり、磁気記録媒体に適用すると粒子性ノイズが高くなり、また磁性層の表面平滑性が低下して、再生出力が低下しやすいからである。また、BET比表面積が大きすぎると、Fe162相を含む粒子が凝集しやすくなり均一な分散物を得ることが難しく、平滑な表面を得ることが難しくなるからである。
【0041】
本発明において使用可能な窒化鉄は、公知の方法で合成することができ、また市販品として入手可能なものもある。本発明において使用可能な窒化鉄の詳細については、例えば特開2007−36183号公報、特開2007−305221号公報等を参照することができる。
【0042】
(ii)強磁性金属粉末
磁性層に使用する強磁性金属粉末は、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量はFe100原子%に対して0原子%以上40原子%以下であることが好ましく、1原子%以上40原子%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは15原子%以上35原子%以下、よりいっそう好ましくは20原子%以上35原子%以下である。Yの含有量は1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、特に好ましくは4原子%以上9原子%以下である。Alは1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、より好ましくは4原子%以上9原子%以下である。
【0043】
これらの強磁性金属粉末には、あとで述べる分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭46−39639号公報、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0044】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeまたはFe−Co粒子などを得る方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法のいずれを施すこともできる。
【0045】
磁性層に使用される強磁性金属粉末のBET法による比表面積は、45〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは50〜80m2/gである。45m2/g以上であれば低ノイズであり、100m2/g以下であれば良好な表面性を得ることができる。強磁性金属粉末の結晶子サイズは80〜180Åであることが好ましく、より好ましくは100〜180Å、更に好ましくは110〜175Åである。強磁性金属粉末の長軸長は0.01μm以上0.15μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上0.15μm以下であり、さらに好ましくは0.03μm以上0.12μm以下である。強磁性金属粉末の平均長軸長は、40nm以下であることが好ましい。平均長軸長が40nm以下であれば、粒子の大きさに基づくノイズが少なく高密度記録に好適である。ただし、先に説明したように、磁性粉末の平均サイズが小さすぎると熱による残留磁化の確保が困難となり、また保磁力が低下し、粒子の分子間引力が増大するため磁性層塗布液中での分散が困難になる。従って強磁性金属粉末としては、上記の点を考慮し好適な平均粒子サイズを有するものを選択することが好ましい。具体的には、平均長軸長が10〜40nmであることが好ましく、15〜34nmであることがより好ましい。
【0046】
強磁性金属粉末の平均針状比は3以上15以下であることが好ましく、さらには5以上12以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のσsは100〜180A・m2/kgであることが好ましく、より好ましくは110〜170A・m2/kg、更に好ましくは125〜160A・m2/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力は2000〜3500Oe(160〜280kA/m)であることが好ましく、更に好ましくは2200〜3000Oe(176〜240kA/m)である。
【0047】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とすることが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12とすることができ、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわないが、支持体面に平行な配向を行う場合は配向性等の観点から、針状であることが好ましい。針状強磁性金属粉末としては、前記範囲の平均針状比を有するものが好ましい。
【0048】
強磁性金属粉末自体のSFDは小さい方が好ましく、0.8以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のHcの分布を小さくすることが好ましい。尚、SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また、磁化反転がシャープでピークシフトも少なくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hcの分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲ−タイトの粒度分布を良くする、焼結を防止するなどの方法がある。
【0049】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層は、上記各成分を含むものである。リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物による強磁性粉末表面の改質効果を効果的に得るためには、磁性層を、鉄を主体とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した強磁性粉末を用いて形成することが好ましい。本発明の磁気記録媒体の磁性層の形成方法等の詳細については、本発明の磁気記録媒体の製造方法について後述する通りである。
【0050】
[磁気記録媒体の製造方法]
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性支持体上に、鉄を主体とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含む磁性層形成用塗布液(以下、「磁性層塗布液」ともいう)を塗布および乾燥することにより磁性層を形成することを含むものである。前記強磁性粉末、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物の詳細は、先に説明した通りである。
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0051】
前記磁性層形成用塗布液は、混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を経て調製することができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。強磁性粉末、リン酸化合物、ヒドロキシジカルボン酸化合物、結合剤、および任意に添加される各種添加剤、溶剤などすべての原料は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、各層形成用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0052】
本発明では強磁性粉末表面にリン酸化合物をヒドロキシジカルボン酸化合物とともに存在させることにより、リン酸鉄生成による耐久性低下を抑制しつつ、リン酸化合物による腐食防止効果および分散性向上効果を得ることができる。したがって、本発明では、磁性層塗布液中でリン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を、強磁性粉末表面に良好に吸着させることが好ましい。また、添加した上記化合物が高吸着率で強磁性粉末表面に吸着することは、遊離成分による汚れ発生を抑制するうえでも好ましい。上記化合物の強磁性粉末表面への吸着性を高めるためには、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物によって強磁性粉末表面を表面処理することが好ましい。即ち、鉄を主体とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した上で、磁性層塗布液を調製することが好ましい。このためには、磁性層塗布液調製のための混練工程の前に、強磁性粉末と上記化合物を混合することが好ましい。強磁性粉末と結合剤との間にリン酸化合物を介在させることによって分散性を向上する観点から、リン酸化合物は、結合剤添加前に強磁性粉末と混合することが好ましい。この観点から、リン酸化合物は、少なくとも混練工程の前に強磁性粉末と混合することが好ましい。ヒドロキシジカルボン酸化合物は、リン酸化合物と同時に強磁性粉末と混合してもよく、リン酸化合物と強磁性粉末を混合した後に添加混合してもよい。添加効果をより効果的に得る観点からは、ヒドロキシジカルボン酸化合物は、結合剤を添加する前に、強磁性粉末およびリン酸化合物と混合することが好ましい。
【0053】
次に、前記磁性層塗布液に含まれる各種成分について説明する。
【0054】
結合剤
結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化系樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。
【0055】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネ−トプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネ−トの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0056】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知の構造のものを使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM,−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は、例えば10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0057】
本発明に用いられる結合剤は、公知の方法で合成可能であり、また市販品としても入手可能である。
【0058】
磁性層塗布液および後述する非磁性層塗布液には、非磁性粉末または磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものを用いることが好ましい。
【0059】
結合剤樹脂としてポリウレタン樹脂を含む磁性層塗布液には、通常、塗膜強度を高めるため架橋剤(硬化剤)としてイソシアネート化合物が添加される。本発明者は、イソシアネート化合物を含む磁性層塗布液においてヒドロキシジカルボン酸化合物を使用することは、磁気特性および耐久性の維持に有効であると推察している。これは、カルボキシル基に含まれる水酸基がイソシアネート化合物中のNCO基と反応することにより結合剤を強磁性粉末表面上に留める作用を果たし、強磁性粉末表面が結合剤層により被覆されたような状態になることが、(1)強磁性粉末からの鉄イオンの遊離抑制、(2)走行時の結合剤成分の遊離による汚れ発生抑制、の作用を示すことによるものと考えられる。ヒドロキシジカルボン酸化合物およびポリウレタン樹脂に含まれる水酸基に対するNCO基の当量比は、系内に存在する水分等の影響を考慮し過剰量とすることが好ましい。
【0060】
イソシアネート化合物としては、多官能のポリイソシアネート化合物が好ましく、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類は、市販品として入手可能であり、それらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。また、後述する非磁性層形成用塗布液の結合剤成分としてイソシアネート化合物を使用することにより、下層のイソシアネート化合物が上層に位置する磁性層にマイグレートし、強磁性粉末表面のヒドロキシジカルボン酸化合物と反応することによって、上記作用を得ることも可能である。
【0061】
添加剤
磁性層塗布液には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラック等の磁性層に通常使用される各種添加剤を挙げることができる。これらは市販品として容易に入手可能である。また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸またはリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0062】
上記添加剤は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0063】
また、磁性層塗布液には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独または組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層および非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明において使用できるカーボンブラックは市販品として入手可能であり、詳細については、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0064】
研磨剤としてはα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、工業用ダイヤモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料が単独または組合せて使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。上記研磨剤は、市販品として容易に入手可能である。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0065】
溶剤
磁性層塗布液には、公知の有機溶剤が使用できる。有機溶媒としては、具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0066】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0067】
本発明で使用される各種添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば潤滑剤は遊離の状態で存在するため、非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0068】
非磁性層形成用塗布液
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、非磁性層と磁性層とを有する磁気記録媒体を製造することもできる。非磁性層形成用塗布液は、非磁性粉末、結合剤および任意に使用される各種添加剤を溶剤中で混合することにより調製することができる。非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0069】
具体的には、二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。上記非磁性粉末は、公知の方法で合成可能であり、また市販品としても入手可能である。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0070】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0071】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0072】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であり、さらに好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0073】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0074】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは、例えば上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40質量%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。非磁性層形成用塗布液に使用するカーボンブラックは市販品とて容易に入手可能であり、その詳細については、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0075】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0076】
非磁性層形成用塗布液の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層形成用塗布液のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。非磁性層形成用塗布液の調製方法については、磁性層塗布液の調製方法に関する前述の記載を参照できる。
【0077】
下塗り層
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法では、下塗り層を形成してもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0078】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0079】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さ(Ra)が8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さ(Ra)が小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのものを各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0080】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)であることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0081】
層構成
磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0082】
磁性層の厚みは、好ましくは 5〜300nm、より好ましくは10〜150nm、更に好ましくは 15〜80nmであり、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することが好ましい。磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0083】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明における磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体、軟磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0084】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることができる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。表面磁気抵抗は、25℃50%RHで、10-4〜10-7Ω/in2であることが好ましい。
【0085】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層形成用塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層用形成用塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層形成用塗布液と磁性層形成用塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。なお、逐次重層塗布(wet−on−dry)とは、下層に乾燥処理を施した後に上層形成用塗布液を塗布する塗布方式であり、同時重層塗布(wet−on−wet)とは、下層が湿潤状態にあるうちに上層形成用塗布液を塗布する塗布方式である。磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0086】
塗布液の塗布後の乾燥工程における乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0087】
乾燥工程後の塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理に施すことができる。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0088】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。カレンダー処理条件としては、例えば、カレンダーロールの温度は60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲である。カレンダー処理は、磁性層の表面平滑性を高める作用がある。本発明における磁気記録媒体は、磁性層表面が、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さ(Ra)として0.1〜4nm、更には1〜3nmの範囲という極めて優れた表面平滑性を有することが好ましい。
【0089】
これとは別に、カレンダー処理工程前後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層塗布液の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、例えば12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0090】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0091】
物理特性
磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。角型比としては、支持体に対して長手方向、垂直方向ともに1に近いほど望ましく、テープとしては0.6〜0.9が実現できる。
【0092】
磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において、例えば0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0093】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置(例えばエー・アンド・デイ株式会社製レオバイブロン等)により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0094】
磁性層中に含まれる残留溶媒は、好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0095】
本発明では、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりをよくすることができる。
【実施例】
【0096】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0097】
磁性層塗布液成分A
Fe162を主成分とする強磁性窒化鉄粉末 100部
(Hc:209kA/m、σs:85A・m2/Kg、平均粒子径:19nm、粒径の変動係数:19%、平均針状比:1.0、比表面積(SBET):55.0m2/g、組成:Al/Y/V/Fe=7.7/2.0/9.5/100(原子%))
化合物a/化合物b 表1参照
塩化ビニル共重合体 7部
(−SO3K基を1.2×10-4eq/g含有、重合度:300)
ポリエステルポリウレタン樹脂 3.5部
(ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI=0.9/2.6/1、−SO3Na基:1×10-4eq/g含有)
α−アルミナ(平均粒子径:0.05μm) 8部
カーボンブラック(平均粒子径:18nm) 4.0部
secブチルステアレート 1.5部
ステアリン酸 2.5部
メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤 300部
【0098】
上記の窒化鉄粉末を容器に投入し、容器内で粉末の塊を粉砕した。その後、容器内へ化合物aおよびbを同時に添加し窒化鉄粉末と混合した。次いで、カーボンブラック、塩化ビニル共重合体、メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤130部を加え、ニーダで混練した後、上記の残りの成分を添加混合し、次いで0.4mmφのジルコニアビーズを使用しサンドグラインダーで1時間分散した。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社コロネートL)5部を加え、さらにメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤を4部加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを使用して濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0099】
磁性層塗布液成分B
強磁性金属粉末 100部
(Hc:186kA/m、σs:106A・m2/kg、比表面積(SBET): 63m2/g、平均長軸長:35nm、長軸長の変動係数:19%、組成:Fe/Co/Al/Y=100/24/6.0/7(原子%)、焼結防止剤:Al23、Y23
化合物a/化合物b 表2参照
塩化ビニル共重合体 11部
(−SO3K基を1×10-4eq/g含有、重合度:300)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI =0.8/2.5/1、−SO3Na基:1.8×10-4eq/g含有)
α−アルミナ(平均粒子径:0.08μm) 7部
カーボンブラック(平均粒子径:20nm 4.0部
secブチルステアレート 3部
ステアリン酸 3部
メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤 350部
【0100】
上記の強磁性金属粉末を容器に投入し、容器内で粉末の塊を粉砕した。その後、容器内へ化合物aおよびbを同時に添加し窒化鉄粉末と混合した。次いで、カーボンブラック、塩化ビニル共重合体、メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤130部を加え、ニーダで混練した後、上記の残りの成分を添加混合し、次いで0.4mmφのジルコニアビーズを使用しサンドグラインダーで1時間分散した。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社コロネートL)5部を加え、さらにメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤を4部加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを使用して濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0101】
非磁性層塗布液成分
針状ヘマタイト(非磁性粉末) 40部
カーボンブラック(コロンビアカーボン社製コンダクテックスSC)60部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110) 10部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200) 4部
ステアリン酸 3部
secブチルステアレート 1部
イソオクチルステアレート 1部
メチルエチルケトンとシクロヘキサノン8:2混合溶剤 250部
【0102】
上記の針状ヘマタイト、カーボンブラック、塩化ビニル共重合体、メチルエチルケトンとシクロヘキサノン8:2混合溶剤150部をニーダで混練した後、上記の残りの成分を添加混合し、次いで0.4mmφのジルコニアビーズを使用しサンドグラインダーを使用して1時間分散し調製した。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社コロネートL)8部、シクロヘキサノン30部を加え、得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを使用して濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
【0103】
バックコート層塗布液成分
カーボンブラック(平均粒子径:18m) 40.5部
カーボンブラック(平均粒子径:370nm) 0.3部
硫酸バリウム 2.5部
ニトロセルロース 25部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 25部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0104】
上記で得られた非磁性層塗布液を、非磁性支持体である厚さが4μmのポリエチレンナフタレートフィルム(105℃,30分の熱収縮率が縦方向で0.8%、横方向で0.6%、中心面平均粗さ2.0nm)に、乾燥後の非磁性層の厚さが0.8μmとなるように塗布し、80〜100℃の多段の槽で乾燥させた。この上にさらに、上記の磁性層塗布液を乾燥後の厚さが60nmとなるように塗布(ウエットオンドライ塗布)し、40〜100℃の多段の槽で乾燥した。次に、この非磁性支持体の非磁性層および磁性層の形成面とは反対面側に、上記成分を混合することにより調製したバックコート層塗布液を、乾燥およびカレンダ処理後のバックコート層の厚さが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧269.5kN/m、温度90℃で表面平滑化処理を行った。バックコート層は、上記成分をサンドミルで滞留時間45分分散した後、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社コロネートL)7.0部を加え、撹拌ろ過して、調製し、乾燥時膜厚0.5μmで作製した。このようにして得た磁気シートを、7段カレンダ(温度90℃、線圧294kN/m)で鏡面化処理し、60℃、40%RH下、48時間サーモ処理を施した。その後、1/2インチ幅に裁断し、これを100m/分で走行させながら、磁性層表面をダイヤモンドホイール(回転測度+150%、巻付け角30°)で研磨して、磁気テープを作製した。
【0105】
評価方法
1.減磁率:振動試料式磁力計(東英工業(株)製VSM)により磁気テープの残留磁束密度(Bm)を測定し、60℃90%RHで30日保存後再度測定し、経時前の値からの変化率を算出した。
2.電磁変換特性:磁気テープを60℃90%RHで30日保存後、記録ヘッドとしてトラック幅:6μm、ギャップ長:0.10μm、Bs:1.5TのMIGヘッドを使用し、再生ヘッドとして、トラック幅:4.5μm、SH−SH:0.12μmのGMRヘッドを使用してSNRを求めた。SNRは、テープとヘッドとの相対速度を5.0m/分とし、スペクトルアナライザーを使用して250kfciの記録密度における再生出力(S)とブロードバンドノイズ(N)を測定し、再生出力(S)/ブロードバンドノイズ(N)、の比として求めた。なお表1中の再生出力、ノイズレベルおよびSNRは、比較例1のテープの値を0dBとして、相対値として示した。
3.耐久性パス回数:磁気テープを60℃90%RHで30日保存後、LTO−G3ドライブを用いて、張り付き耐久性テストを行った。表1に、テープは100パスごとに停止、走行開始を繰り返し、走行摩擦係数が上昇し走行に耐えなくなる時点での走行回数を示した。
【0106】
【表1】


【0107】
【表2】

【0108】
評価結果
表1および2に示すように、リン酸化合物とヒドロキシジカルボン酸化合物を所定量使用した実施例1〜14では、比較例と比べて、(1)優れた保存安定性(低減磁率)、(2)電磁変換特性、(3)走行耐久性、を達成することができた。(1)はリン酸化合物の使用により鉄の腐食を抑制できたことによる効果、(2)はリン酸化合物の使用による磁性体の分散性向上による効果、ならびにリン酸化合物の使用による磁性体の腐食抑制および酸化防止による磁気特性劣化防止に伴う効果、(3)はヒドロキシジカルボン酸化合物併用によるリン酸鉄生成抑制による効果、であると考えられる。また、ヒドロキシジカルボン酸化合物の水酸基とポリイソシアネート化合物のNCO基の反応性も、上記(3)に寄与しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、長期にわたり優れた性能を発揮し得る磁気記録媒体を提供することができる。本発明の磁気記録媒体は、長期にわたり高い信頼性が求められるバックアップテープ等として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性層は、鉄を主成分とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した強磁性粉末を用いて形成された層である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、下記一般式(1)で表される請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
HOOC−(CR12)n−C(R34)m−COOH …(1)
[一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基または水酸基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは水酸基を表す。nおよびmは、2≦(n+m)≦18を満たす整数を表す。]
【請求項4】
前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、酒石酸、メゾ酒石酸およびりんご酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、Fe162を主成分とする窒化鉄粉末である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、強磁性金属粉末である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層は、ポリウレタン樹脂およびイソシアネート化合物を含む磁性層形成用塗布液を用いて形成された層である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性支持体上に、鉄を主成分とする強磁性粉末を含み、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合かつ該化合物の合計量で上記強磁性粉末100質量部に対し1.5〜7質量部の量で含む磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成することを含む、前記製造方法。
【請求項9】
前記磁性層形成用塗布液を、鉄を主成分とする強磁性粉末を、該粉末100質量部に対し、リン酸化合物およびヒドロキシジカルボン酸化合物を質量比で90/10〜10/90の割合で含む表面処理剤1.5〜7質量部によって表面処理した強磁性粉末を用いて調製する請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、下記一般式(1)で表される請求項8または9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
HOOC−(CR12)n−C(R34)m−COOH …(1)
[一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基または水酸基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは水酸基を表す。nおよびmは、2≦(n+m)≦18を満たす整数を表す。]
【請求項11】
前記ヒドロキシジカルボン酸化合物は、酒石酸、メゾ酒石酸およびりんご酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項10に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、Fe162を主成分とする窒化鉄粉末である請求項8〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記鉄を主成分とする強磁性粉末は、強磁性金属粉末である請求項8〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
前記磁性層形成用塗布液は、ポリウレタン樹脂およびイソシアネート化合物を更に含む請求項8〜13のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2010−86605(P2010−86605A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254610(P2008−254610)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】