説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】優れた電磁変換特性と摩擦特性とを兼ね備えた磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体。前記磁性層は、下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含み、前記磁性層の厚さt(μm)は、0.1μm以下であり、かつ1.1≦φ/t≦8.0の範囲にある。強磁性粉末、結合剤および上記式(1)で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含む磁性層形成用塗布液を用いて磁性層を形成する、前記磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性と摩擦特性とを兼ね備えた磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ量の増大、およびデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。
【0003】
高密度記録化のためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を磁性層中に高度に分散させることが広く行われる。このように微粒子磁性体を高度に分散させるほど、磁性体に起因する磁性層表面突起は減少するため磁性層の表面平滑性は高まる。しかし磁性層の表面平滑性を高めるほど再生ヘッドと媒体が摺動する際に摩擦係数が増大し走行耐久性は低下する。
【0004】
そこで磁性層中の非磁性フィラー(カーボンブラック、研磨剤等)の種類および添加量を調整することにより、磁性層の表面形状を制御することが行われている(例えば特許文献1参照)。また、特許文献2には、磁性層表面の粗さを制御するために、磁性層中の研磨剤粒子の平均粒径と磁性層厚さとの関係を規定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−103137号公報
【特許文献2】特開2002−288816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来行われているように、信号再生時の摩擦特性を向上(摩擦係数を低減)するためには、磁性層の表面形状を制御することによりヘッドと媒体との真実接触面積の低減を図ることが有効である。しかし一方で、摩擦特性を向上するため磁性層表面形状を制御すると、電磁変換特性が低下するという問題がある。これは、ヘッドと媒体との真実接触面積の低減は、電磁変換特性の劣化につながるヘッドと媒体表面とのスペーシング要因となるためである。
このように従来、摩擦特性と電磁変換特性とはトレードオフの関係にあり、両立することは困難であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、優れた電磁変換特性と摩擦特性とを兼ね備えた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
電磁変換特性と摩擦特性とを両立するための手段としては、特許文献2に記載されているように磁性層中の非磁性フィラーの平均粒径と磁性層厚さとの関係を規定し、磁性層表面からの非磁性フィラーの突出状態を制御することが考えられる。しかし、本願発明者の検討の結果、単に磁性層中の非磁性フィラーの平均粒径と磁性層厚さとの関係を規定するだけでは、電磁変換特性と摩擦特性は両立できないことが判明した。これは第一には、非磁性フィラー中に平均粒径を大きく下回り、摩擦特性向上に実質的に寄与しない粒子が含まれるため少量の添加では摩擦特性を十分に向上することが困難であること、第二には、摩擦特性向上に寄与する粒子数を増やすために添加量を増量すると、非磁性フィラー中の平均粒径を大きく外れる、スペーシング要因となる粗大粒子数が増加し電磁変換特性が低下すること、が原因と考えられる。
そこで本願発明者は、上記知見に基づき更に検討を重ね、磁性層中の非磁性フィラーとしてシャープな粒度分布を有する非磁性粉末を使用するとともに、該非磁性粉末と磁性層の厚さとの関係を、該非磁性粉末がスペーシング要因とはならず摩擦特性向上に寄与する範囲に設定することにより、摩擦特性と電磁変換特性との両立が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含み、
前記磁性層の厚さt(μm)は、0.1μm以下であり、かつ1.1≦φ/t≦8.0の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体。
[2]前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機酸化物粒子からなる[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、コロイド粒子からなる[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、シリカコロイド粒子からなる[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]前記磁性層に含まれる非磁性粉末の平均粒径φは、0.10〜0.20μmの範囲であり、かつ
前記磁性層は、強磁性粉末100質量部に対して1.5〜3.5質量部の前記非磁性粉末を含む[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]前記磁性層は、モース硬度6以上の無機粉末を更に含む[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]前記磁性層表面において原子間力顕微鏡により測定される突起密度は、下記式(3)を満たす[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
高さ25nm以上の突起密度/高さ15nm以上の突起密度<0.1 …(3)
[8]前記磁性層に含まれる非磁性粉末の最大粒径は、下記式(2):
最大粒径(μm)<φ+10σ …(2)
を満たす[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]前記磁性層に含まれる非磁性粉末の平均円形度は0.8超1.0以下である[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]前記非磁性層は放射線硬化層である[1]〜[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
強磁性粉末、結合剤および下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含む磁性層形成用塗布液を用いて磁性層を形成することを特徴とする、前記磁気記録媒体の製造方法。
[12]前記磁性層形成用塗布液を、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液と、前記非磁性粉末および有機溶媒を含む第二液とを混合することにより調製することを含む[11]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[13]前記第二液は、コロイド溶液である[12]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[14]前記コロイド溶液は、シリカゾルである[13]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[15]前記第一液に含まれる有機溶媒と第二液に含まれる有機溶媒は相溶性を有する[12]〜[14]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[16]前記第一液に含まれる有機溶媒および第二液に含まれる有機溶媒は、それぞれメチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合溶媒からなる群から選ばれる[15]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[17]前記磁性層形成用塗布液を、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液に、前記非磁性粉末を添加することにより調製することを含む[11]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[18]前記非磁性粉末は、前記第一液に含まれる有機溶媒に分散可能な非磁性粉末である[17]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[19]非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成し、該塗布層に硬化処理を施すことにより非磁性層を形成し、次いで形成した非磁性層上に前記磁性層形成用塗布液を塗布することを含む、[11]〜[18]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[20]前記非磁性層形成用塗布液に含まれる結合剤は、放射線硬化型樹脂を含む[19]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摩擦特性と電磁変換特性との両立が可能となるため、優れた電磁変換特性と走行耐久性とを兼ね備えた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[磁気記録媒体]
本発明は、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末(以下、「非磁性フィラー」ともいう)を磁性層に含むとともに、磁性層の厚さt(μm)が0.1μm以下であり、かつ1.1≦φ/t≦8.0の範囲にある。
【0012】
磁性層の厚さ
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の厚さは0.1μm以下である。磁性層の厚さが0.1μmを超えると高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得ることが困難となる。磁性層の厚さは、0.1μm以下の範囲内で、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することが好ましい。磁性層の厚さは、高密度記録化のためには0.01〜0.1μmであることが好ましく、0.02〜0.09μmであることがより好ましい。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0013】
非磁性粉末(非磁性フィラー)
磁性層に含まれる非磁性フィラーとしては、磁性層表面に適度に突出することにより摩擦特性の向上に寄与するため、平均粒径をφ(μm)とした場合、磁性層の厚さt(μm)と関係式φ/tが1.1以上であるものを使用する。φ/tが1.1未満では、磁性層表面における非磁性フィラーの突出が不十分であることによりヘッドと磁性層表面が摺動する際に摩擦係数が増大し良好な走行耐久性を得ることができない。一方、φ/tが8.0を超えると、磁性層表面からの非磁性フィラーの突出量が過剰となりスペーシング要因となるため電磁変換特性が低下する。したがって本発明では、電磁変換特性と走行耐久性の両立のため、非磁性フィラーとして、φ/tが1.1≦φ/t≦8.0である非磁性粉末を使用する。よりいっそう良好な電磁変換特性と走行耐久性を得るためには、1.5≦φ/t≦8.0であることが好ましく、2.0≦φ/t≦6.0であることが更に好ましい。本発明の磁気記録媒体における磁性層をはじめとする各層の厚さは、塗布条件(塗布液の塗布量、塗布面積等)から算出することができるが、磁気記録媒体の超薄切片(例えば10μm長)を透過型電子顕微鏡(TEM)で、例えば50万倍で観察して求めることもできる。
【0014】
ただし前述のように、単に非磁性フィラーの平均粒径と磁性層厚さとの関係を規定するだけでは、平均粒径を大きく外れる粗大粒子の影響によりスペーシングロスが顕著に発生するため良好な電磁変換特性を得ることはできない。そこで本発明では、非磁性フィラーとして、下記式(1)で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を使用する。
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
上記CV値が20%を超える非磁性粉末は、平均粒径を大きく外れる粗大粒子が多数含まれるため摩擦特性は向上できたとしても良好な電磁変換特性を得ることは困難となる。また、上記CV値が、例えば30%を超えるほど大きくなると、摩擦特性向上に有効な粒子自体が少なくなるため摩擦特性と電磁変換特性を両立することは困難となる。上記CV値は、より良好な摩擦特性と電磁変換特性を得るためには、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、7%以下であることが更に好ましい。上記CV値は小さいほど粒度分布がシャープであり好ましいが、実用上入手可能な粒子の粒度分布を考慮すると、その下限値は例えば3.0%程度である。
【0015】
本発明において、上記非磁性フィラーの平均粒径は、以下の方法によって測定された値とする。またCV値は、以下の方法により測定される50個の粒子の粒径の標準偏差と平均粒径から求められる値とする。
非磁性粉末を、透過型電子顕微鏡で印画紙にプリントして粒子写真を得る。例えば、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率50000〜100000倍程度で撮影し印画紙にプリントして粒子写真を得ることができる。
次いで、粒子写真から50個の粒子を無作為に抽出し、各粒子の輪郭をデジタイザーでトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円面積相当径)を算出する。本発明において非磁性フィラーの粒径とは、こうして算出される直径をいうものとする。上記粒径の算出には、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を使用することができる。また、スキャナーからの画像取り込みおよび画像解析の際のscale補正は、例えば直径1cmの円を用いて行うことができる。
上記方法により測定された50個の粒子の粒径の算術平均値を非磁性粉末の平均粒径とする。
なお、上記方法に求められる平均粒径は、50個の一次粒子について算出される平均値である。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。したがって非磁性粉末の平均粒径を測定するための試料粒子としては、一次粒子の粒径を測定可能なものであれば磁性層から採取した試料粉末であっても原料粉末であってもよい。磁性層からの試料粉末の採取は、例えば以下の方法によって行うことができる。
試料粉末採取方法
1.磁性層表面にヤマト科学製プラズマリアクターで1〜2分間表面処理を施し、磁性層表面の有機物成分(結合剤成分等)を灰化して取り除く。
2.シクロヘキサノンまたはアセトンなどの有機溶剤を浸したろ紙を金属棒のエッジ部に貼り付け、その上で上記1.の処理後の磁性層表面をこすり、磁性層成分を磁気記録媒体からろ紙へ転写し剥離する。
3.上記2.で剥離した成分をシクロヘキサノンやアセトンなどの溶媒の中に振るい落とし(ろ紙ごと溶媒の中にいれ超音波分散機で振るい落とす)、溶媒を乾燥させ剥離成分を取り出す。
4.上記3.でかき落とした成分を十分洗浄したガラス試験管に入れ、その中にn−ブチルアミンを磁性層成分の20ml程度加えてガラス試験管を封緘する。(n−ブチルアミンは、灰化せず残留した結合剤を分解できる量加える。)
5.ガラス試験管を170℃で20時間以上加熱し、バインダー・硬化剤成分を分解する。
6.上記5.の分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄後乾燥させ、粉末を取り出す。
以上の工程により、磁性層から試料粉末を採取することができる。
【0016】
上記非磁性フィラーは、平均粒径φが上記φ/tを満たし、かつ上記CV値が20%未満の非磁性粉末であれば無機物質であっても有機物質であってもよい。その平均粒径φは、1.1≦φ/t≦8.0を満たすものであればよいが、電磁変換特性をよりいっそう向上するためには0.10〜0.20μmであることが好ましい。
【0017】
前述のように、磁性層に含まれる非磁性フィラー中に、スペーシング要因となる平均粒径を大きく外れる粗大粒子が含まれることは電磁変換特性向上の観点から望ましくない。この点から、磁性層中の非磁性フィラーの最大粒径は、平均粒径を大きく外れないことが好ましい。具体的には、前述の方法により測定される50個の粒子の粒径の中の最大粒径が下記式(2)を満たすこと、即ち、平均粒径φ+10σより小さいことが好ましい。
最大粒径(μm)<φ+10σ …(2)
【0018】
前記磁性層中の非磁性粉末の含有量は、電磁変換特性と摩擦特性を両立できる範囲で設定すればよく特に限定されるものではないが、好ましくは強磁性粉末100質量部に対して1.0〜4.0質量部であり、より好ましくは1.5〜3.5質量部である。中でも、平均粒径0.10〜0.20μmの非磁性粉末を強磁性粉末100質量部に対して1.5〜3.5質量部の範囲で磁性層に添加することが好ましい。
【0019】
前述のように非磁性フィラーは無機物質であっても有機物質であってもよいが、単分散粒子の入手容易性の点からは無機物質粒子からなることが好ましい。上記無機物質としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物を挙げることができ、無機酸化物であることが好ましい。無機酸化物としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、二酸化珪素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、二酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを一種または二種以上組み合わせて使用することができる。単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物粉末としてはシリカ(二酸化珪素)粉末が好ましい。
【0020】
磁性層表面の突起が真球度が低いものであると、ヘッドとの摺動による粒子の磨耗が顕著であり磁性層表面において非磁性粒子が摩擦特性向上効果を長期間発揮することが困難となる場合がある。また、形状の異方性をもった粒子が高突起を形成し、スペーシング要因となる場合もある。以上の点から、非磁性粉末としては真球度が高いものを使用することが好ましく、真球度が高いものを磁性層において一次粒子として存在させることが更に好ましい。
真球度の指標としては、以下の式により求められる円形度を用いることができる。
円形度=(4π×S)/L2
上記式において、Sは前述と同様の方法で得られた粒子写真において、各粒子の輪郭をデジタイザーでトレースした領域の面積(単位:μm2)、Lはトレースした領域の周長(単位:μm)を表す。本発明では、上記粒子写真において無作為に抽出した粒子50個について測定される平均円形度(円形度の算術平均)で示される真球度が0.80超1.0以下である非磁性粉末を使用することが好ましい。なお、ある粒子が真球(粒子写真上は真円)であれば、円形度は1.0となる。
【0021】
本発明では粒度分布がシャープな非磁性粉末を磁性層のフィラーとして使用するが、シャープな粒度分布を有する非磁性粉末を使用することによる効果をよりいっそう良好に得るためには、磁性層中で非磁性粉末の凝集を抑制し高度に分散させることが好ましく、磁性層において非磁性粉末を一次粒子の状態で存在させることがより好ましい。上記のように真球度が高い非磁性粉末を使用する場合にも、磁性層において非磁性粉末を一次粒子の状態で存在させることが好ましい。このためには、(1)非磁性フィラーとしてコロイド粒子を使用する方法、(2)磁性層形成用塗布液に使用される有機溶媒に分散可能な非磁性粉末を使用する方法、を採用することができる。
以下、上記方法(1)、(2)について説明する。
【0022】
<方法(1)>
コロイド粒子は、分散媒中に安定に分散した状態で存在することができるため、磁性層形成用塗布液調製時にコロイド溶液を使用することにより、磁性層形成用塗布液中にコロイド粒子を高度に分散させることができる。したがって、こうして調製された磁性層形成用塗布液を使用し磁性層を形成することによって、非磁性フィラー(コロイド粒子)が高度に分散され、好ましくは非磁性フィラーが一次粒子の状態で存在する磁性層を得ることができる。
【0023】
コロイド粒子としては、入手容易性の点から無機コロイド粒子が好ましく、無機酸化物コロイド粒子がより好ましい。無機酸化物コロイド粒子としては、上記無機酸化物のコロイド粒子を挙げることができ、SiO2・Al23、SiO2・B23、TiO2・CeO2、SnO2・Sb23、SiO2・Al23・TiO2、TiO2・CeO2・SiO2などの複合無機酸化物コロイド粒子を挙げることもできる。好ましいものとしては、SiO2、Al23、TiO2、ZrO2、Fe23などの無機酸化物コロイド粒子を挙げることができ、単分散のコロイド粒子の入手容易性の点から、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)が特に好ましい。
【0024】
ところで、一般的なコロイド粒子は表面が親水性であるため水を分散媒とするコロイド溶液の作製に適する。例えば一般的な合成法により得られるコロイダルシリカは、表面が分極した酸素原子(O2-)で覆われているため水中で水を吸着して水酸基を形成して安定化している。しかしこれら粒子は、磁気記録媒体用塗布液に使用される有機溶媒中では、そのままではコロイド状態で存在することは困難である。そこで有機溶媒中でこれら粒子をコロイド状態で分散可能とするために、粒子表面に疎水化処理を施すことが行われている。本発明でも、このような疎水化処理を施したコロイド粒子を使用することが好ましい。そのような疎水化処理の詳細については、例えば特開平5−269365号公報、特開平5−287213号公報、特開平2007−63117号公報等に記載されている。このような表面処理が施されたコロイド粒子は、上記公報記載の方法等によって合成することができ、また市販品としても入手可能である。
【0025】
上記コロイド粒子を使用し磁性層層形成用塗布液を調製する方法としては、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液(磁性液)と、コロイド粒子を含む第二液(コロイド溶液)とを混合する方法を挙げることができる。ここで後述するように磁性層に研磨剤を添加する場合には、研磨剤は第一液、第二液の少なくとも一方に添加してもよく、別途研磨剤と有機溶媒を含む溶液(研磨剤液)を調製し、この研磨剤液を第一液、第二液と混合することも可能である。
【0026】
磁性層形成用塗布液の調製に使用する有機溶媒としては、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。上記有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。以上の観点から好ましい有機溶媒としては。メチルエチルケトン、シクロヘキサンノンおよびこれらを任意の割合で含む混合溶媒を挙げることができる。
【0027】
磁性液に使用する有機溶媒、コロイド溶液に使用する有機溶媒は、それぞれ上記例示した有機溶媒から任意に選択することが可能であるが、磁性液とコロイド溶液を混合した際にも安定なコロイド状態を維持するためには、磁性液に含まれる有機溶媒とコロイド溶液に含まれる有機溶媒は相溶性を有することが好ましい。ここで相溶性とは、目視で観察した際に二液以上に分離しない程度に両溶媒が均一に混合可能であることを意味する。この点から、磁性液用溶媒、コロイド溶液用溶媒を、それぞれ上記好ましい有機溶媒として例示したメチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合溶媒から選択することが好ましい。この場合、前記の研磨剤液の溶媒も、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合溶媒から選択することが好ましい。コロイド溶液中のコロイド粒子濃度は、例えば5〜50質量%程度であるが、非磁性粒子がコロイド状態で安定に存在し得る濃度であればよく特に限定されるものではない。
【0028】
<方法(2)>
上記方法(1)は、非磁性フィラーを溶液として磁性層形成用塗布液の調製に使用するものであるが、本発明は方法(1)に限定されるものではなく、磁性層形成用塗布液調製時に非磁性粉末を粉末として供給することも可能である。この場合、非磁性粉末としては、磁性層形成用塗布液の調製に使用される有機溶媒に分散可能な非磁性粉末を使用することが好ましい。ここで「分散可能」とは、溶媒中で凝集や沈殿が生じない状態を意味するものとする。上記有機溶媒に分散可能な非磁性粉末であることは、該非磁性粉末を有機溶媒に添加、分散した際、目視により粗大な凝集物または沈殿が観察されないことにより確認することができる。このように有機溶媒に分散可能な非磁性粉末としては、例えば特開2008−137854号公報、特開2008−247731号公報、特公平2−1089号公報記載のように表面に有機溶媒に対する親和性向上処理が施された非磁性粉末や、特開2004−359476号公報に記載されているように分散性向上のための添加剤を含む非磁性粉末を挙げることができる。
上記のように有機溶媒に分散可能な非磁性粉末は、上記公報記載の方法等を参照し公知の方法で得ることもでき、市販品として入手可能なものもある。
【0029】
次に、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0030】
磁性層
(i)強磁性粉末
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、六方晶フェライト粉末および強磁性金属粉末を挙げることができる。
【0031】
なお、強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0032】
本発明において、以下に記載する強磁性粉末等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0033】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。粉体サイズ測定において、標準偏差/平均値をパーセント表示したものを変動係数と定義する。
【0034】
六方晶フェライトとしては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等が挙げられる。また、六方晶フェライトの平均板径は、10〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜60nmであり、特に好ましくは10〜50nmである。特にトラック密度を上げるためMRヘッドで再生する場合、低ノイズにする必要があるため、平均板径は60nm以下、更には50nm以下であることが好ましい。10nmより小さいと熱揺らぎのため安定な磁化が望めない。100nmを越えるとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。六方晶フェライトの抗磁力Hcは高い方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。本発明で使用される六方晶フェライトのHcは2000〜4000Oe(160〜320kA/m)程度であることが好ましい。本発明で使用可能な六方晶フェライトの詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0034]〜[0037]を参照できる。
【0035】
強磁性金属粉末としては、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。磁性層に使用される強磁性金属粉末のBET法による比表面積は、45〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは50〜80m2/gである。45m2/g以上であれば低ノイズであり、100m2/g以下であれば良好な表面性を得ることができる。強磁性金属粉末の平均長軸長は10nm以上150nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以上150nm以下であり、さらに好ましくは30nm以上120nm以下である。強磁性金属粉末の平均針状比は3以上15以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のσsは100〜180A・m2/kgであることが好ましく、より好ましくは110〜170A・m2/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力Hcは2000〜3500Oe(160〜280kA/m)であることが好ましく、更に好ましくは2200〜3000Oe(176〜240kA/m)である。本発明で使用可能な強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0038]〜[0041]を参照できる。
【0036】
(ii)添加剤
磁性層、更に後述する非磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0043]、[0049]および[0050]を参照できる。本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0037】
中でも本発明では、磁性層に添加剤としてモース硬度6以上の無機粉末を含むことが好ましい。前述のように非磁性フィラーとしては真球度の高いものを使用することが好ましいが、これのみでは磁性層の研磨性を十分に確保することができずヘッド付着物の除去が不十分となり走行耐久性が低下する場合がある。そこでこのような場合には、上記のようにモース硬度6以上であり高い研磨能を有する無機粉末を併用することが好ましい。研磨能の点からは、モース硬度9以上の無機粉末がより好ましい。このような無機粉末としては、研磨剤として一般的に使用される各種無機粉末を挙げることができる。具体的には、アルミナ(Al23)、炭化珪素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化クロム(Cr23)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド粉末を挙げることができ、中でもアルミナおよび炭化珪素が好ましい。これら無機粉末は針状、球状、サイコロ状等のいずれの形状でもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。なお、このような無機粉末として使用される研磨剤により磁性層表面に突起を形成し摩擦特性を向上することも考えられるが、研磨剤により形成される突起のみで摩擦特性を維持し得る量の磁性層表面突起を形成すると研磨能が高くなりすぎヘッドダメージが顕著となる。他方、ヘッドに大きなダメージを与えない範囲で研磨剤により突起を形成すると摩擦特性を維持することが困難となる。そこで従来は、研磨剤とともに非磁性フィラーとしてカーボンブラックを使用し、カーボンブラックによる突起によって摩擦特性を維持することが行われていた(例えば上記特開2009−54270号公報参照)。しかし本願発明者の検討によれば、磁性層にカーボンブラックをフィラーとして含む磁気記録媒体では、電磁変換特性が低下する現象が見られた。これは、カーボンブラックは通常、粒度分布が大きいため、摩擦特性向上に有効な突起を形成すると平均粒径を大きく外れる粗大粒子の影響によりヘッドと媒体表面とのスペーシングが増大するためと推察される。これに対し本発明では、前記の粒度分布(CV値)を有し、平均粒径と磁性層厚さとの比φ/tが前述の範囲である非磁性フィラーを使用することにより、電磁変換特性と摩擦特性を両立することができる。
以上の点から、本発明の磁気記録媒体は磁性層にカーボンブラックを含まないことが好ましい。
【0038】
上記研磨剤成分の有無にかかわらず、磁性層表面ではスペーシング要因となる粗大突起を排除ないしは低減することが好ましい。具体的には、磁性層表面において原子間力顕微鏡により測定される突起密度は、下記式(3)を満たすことが好ましい。
高さ25nm以上の突起密度/高さ15nm以上の突起密度<0.1 …(3)
上記式(3)で表される割合は、上記の通り0.1未満であることが好ましく、0.09以下であることが更に好ましい。また、磁性層表面に高さ25nm以上の突起が存在しないこと、即ち上記式(3)で表される割合が0であることが最も好ましい。
【0039】
本発明において原子間力顕微鏡(AFM)による表面突起の測定は、40μm角(40μm×40μm)の範囲で行うものとし、Si単結晶を加工して作製された先端曲率半径(公称値)100nm未満の三角錐形の探針で磁性層表面の40μm角中、位置合わせのためのマーキング部を除いた30μm角の領域を対象に突起と凹みの体積が等しくなる面を基準面(高さ0nm)として突起高さを決定するものとする。
【0040】
前記式(3)を満たすように粗大突起を低減する方法としては、非磁性フィラーを磁性層において高度に分散させることが好ましく、一次粒子として存在させることがより好ましい。また、磁性層塗布液の分散条件、研磨剤成分を添加する場合にはその粒径および添加量、カレンダ処理条件、等によって磁性層表面の粗大突起を低減することができる。例えば研磨剤の平均粒径は、10〜300nmであることが好ましく、30〜250nmであることがより好ましく、50〜200nmであることが更に好ましい。その添加量は、強磁性粉末100質量部あたり1〜20質量部とすることが好ましく、3〜15質量部とすることがより好ましく、4〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0041】
また、磁性層塗布液の分散条件については、分散滞留時間は、分散機の先端周速および分散媒体の充填率にもよるが、例えば0.2〜10時間、好ましくは0.3〜7時間、更に好ましくは0.4〜5時間とすることができる。分散機の先端周速は5〜20m/秒が好ましく、7〜15m/秒であることがさらに好ましい。分散媒体としては、ジルコニアビーズを使用することが好ましく、その粒径は0.1〜1mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることが更に好ましい。分散媒体の充填率は30〜80%、好ましくは50〜80%とすることができる。
【0042】
カレンダ処理条件としては、カレンダロールの種類および段数、カレンダ圧力、カレンダ温度、カレンダ速度等を挙げることができる。カレンダを強化するほど高さ25nm以上の突起数は低減する傾向にある。カレンダ圧力は、例えば200〜500kN/m、好ましくは250〜350kN/mであり、カレンダ温度は、例えば70〜120℃、好ましくは80〜100℃であり、カレンダ速度は、例えば50〜300m/min、好ましくは100〜200m/minである。また、カレンダロールとして表面が硬いロールを使用するほど、また段数を増やすほど、磁性層表面は平滑化する傾向にあるためカレンダロールの組み合わせや段数によって突起数を調整することができる。
【0043】
(iii)結合剤
本発明において、磁性層、および後述する非磁性層に使用する結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については、朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。その詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0044]〜[0049]も参照できる。結合剤の添加量は、磁性層については強磁性粉末100質量部あたり5〜30質量とすることが好ましく、非磁性層については非磁性粉末100質量部あたり10〜20質量部とすることが好ましい。
【0044】
また、結合剤としては公知の放射線硬化型樹脂を使用することも可能である。放射線硬化型樹脂としては、上記例示した樹脂に放射線硬化性官能基を導入したものを挙げることができる。放射線硬化性官能基とは、放射線照射により硬化反応(架橋反応)を起こし得るものであればよく特に限定されるものではないが、反応性の点から、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基が好ましく、アクリル系二重結合基が更に好ましい。ここでアクリル系二重結合基とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等の残基をいう。これらの中でも、反応性の点からは(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルとを含むものする。このような放射線硬化性官能基を有する樹脂としては、例えば特開2002−117520号公報段落[0037]〜[0044]に記載の各種放射線硬化型樹脂を用いることができる。
【0045】
結合剤として放射線硬化型樹脂を使用する場合、塗布液の塗布工程後、放射線硬化処理が行われる。これにより、放射線硬化型樹脂に含まれる放射線硬化性官能基が硬化反応を起こすことにより、放射線硬化層を形成することができる。放射線硬化条件については、上記特開2002−117520号公報段落[0068]〜[0071]を参照することができる。非磁性層に結合剤として放射線硬化型樹脂を使用する場合には、非磁性層塗布液の塗布および乾燥後、放射線照射を行い塗布層を放射線硬化させ放射線硬化層(非磁性層)を形成した後、その上に磁性層塗布液を塗布することが好ましい。
一方、非磁性層に熱硬化性樹脂を使用する場合には、非磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに磁性層塗布液を塗布する同時重層塗布(wet-on-wet)を行ってもよく、非磁性層塗布液が乾燥した後に磁性層塗布液を塗布する逐次重層塗布(wet-on-dry)を行ってもよい。これら塗布方法の詳細については、特開2009−54270号公報段落[0077]を参照できる。磁性層表面に摩擦特性向上に有効な突起を適切な量で形成するためには、磁性層中の非磁性フィラーや研磨剤成分が非磁性層へ沈み込む量が少ないことが好ましい。この点からは、上記逐次重層塗布を行うことが好ましい。更には、非磁性層塗布液を塗布乾燥し、熱硬化処理を施した後に磁性層を形成することが非磁性層への沈み込みをよりいっそう低減できるため好ましい。放射線硬化型樹脂を含む塗布層に放射線硬化処理を施し放射線硬化層(非磁性層)を形成した後、その上に磁性層を形成することも同様に、非磁性層への沈み込み低減に有効である。
なお、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、非磁性層が未硬化の状態であると磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解し、非磁性層と磁性層との間の界面変動またはうねり発生の原因となる場合がある。ここで非磁性層を硬化した後に磁性層塗布液を塗布することにより、磁性層塗布液に含まれる溶剤への溶解を抑制ないしは低減することができる。したがって、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、上層の磁性層用塗布液を塗布する前に硬化処理を行い、硬化層(非磁性層)上に磁性層を形成することが好ましい。上記硬化処理としては、生産性の観点からは、短時間の放射線照射により硬化層を形成可能な放射線照射が好ましい。
【0046】
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する。非磁性層に用いられる非磁性粉末は、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機化合物から選択することができる。無機化合物としては、例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ヘマタイト、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独または組合せで使用することができる。特に好ましいものは、粒度分布が小さく、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、更に好ましいものは二酸化チタン、α−酸化鉄である。これら非磁性粉末の平均粒子サイズは0.005〜2μmであることが好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。非磁性粉末の比表面積は1〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは5〜80m2/g、更に好ましくは10〜70m2/gである。非磁性層に使用可能な非磁性粉末の詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0051]〜[0053]を参照できる。
【0047】
非磁性層には、磁性層に使用可能な各種添加剤を使用することができる。その詳細は、前述の通りである。また、非磁性層には、非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のμビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2であり、薄膜硬度計(日本電気(株)製 HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0048】
本発明において、非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、更に好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの平均粒径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0049】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0050】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0051】
非磁性支持体
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmであることが好ましい。
【0052】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。
【0053】
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0054】
本発明の磁気記録媒体における磁性層の厚さについては前述の通りである。非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0055】
製造方法
磁性層、非磁性層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。
【0056】
各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0057】
磁性層塗布液、非磁性層塗布液の塗布および硬化については前述の通りである。これら塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。また、塗布工程後の媒体には、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)、熱収縮低減のための熱処理等の各種の後処理を施すことができる。カレンダー処理については前述の通りであり、その他の後処理は公知の方法で行うことができる。得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0058】
物理特性
本発明の磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は、100〜300T・m(1,000〜3,000G)であることが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hr)は、143.3〜318.4kA/m(1,800〜4,000Oe)であることが好ましく、より好ましくは159.2〜278.6kA/m(2,000〜3,500Oe)である。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.6以下であることが好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。
【0059】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。また、帯電位は−500〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2,000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1,500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0060】
磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方がよい場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が保存安定性は好ましいことが多い。
【0061】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の表面粗さは、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さRaとして、スペーシングの低減の観点から好ましくは3.5nm以下であり、より好ましくは3.0nm以下であり、更に好ましくは2.8nm以下である。走行性確保の観点から、その下限は1.0nm以上であることが好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。磁性層表面平均粗さRaは、原子間力顕微鏡により磁性層表面の5μm角(5μm×5μm)〜100μm角(100μm×100μm)程度の範囲を測定した値として求めることができ、例えば、40μm角(40μm×40μm)で測定した領域の内の30μm(30μm×30μm)角を対象にRaを算出することができる。
【0062】
本発明の磁気記録媒体における非磁性層と磁性層と間では、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし保存安定性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りをよくすることができる。
【0063】
本発明の磁気記録媒体に磁気記録された信号を再生するヘッドについては特に制限はないが、高密度記録された信号を高感度再生するためには再生ヘッドとしてMRヘッドを使用することが好ましい。再生ヘッドとして使用されるMRヘッドには特に制限はなく、例えばAMRヘッド、GMRヘッドやTMRヘッドを用いることもできる。中でもGMRヘッドによれば、高密度記録された信号を高感度に再生することができるため好ましい。また、磁気記録に用いるヘッドは特に制限されないが、記録ヘッドの飽和磁化量は、高密度記録のために1.0T以上であることが好ましく、1.5T以上であることがより好ましい。
【0064】
[磁気記録媒体の製造方法]
更に本発明は、本発明の磁気記録媒体の製造方法に関する。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、強磁性粉末、結合剤および前記した式(1)で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含む磁性層形成用塗布液を用いて磁性層を形成する。このようなシャープな粒度分布を有する原料粉末を使用する効果をより良好に得るためには、先に説明したように磁性層における前記非磁性粉末の分散性を高めることが好ましい。このためには、強磁性粉末と前記非磁性粉末を別分散することが好ましく、より好ましくは、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液(磁性液)と、前記磁性粉末および有機溶媒を含む第二液(好ましくは前記したコロイド溶液)とを混合する方法、または上記第一液に対して、好ましくは第一液に含まれる有機溶媒に分散可能な非磁性粉末を添加する方法、のいずれかを用いることが好ましい。前者の方法では、第一液に含まれる有機溶媒と第二液に含まれる有機溶媒は相溶性を有することが好ましい。また、前者の方法に使用される非磁性粉末は、第二液に使用される溶媒に一次粒子の状態で均一に分散可能なものであることが好ましく、この観点から前記したようにコロイド粒子であることが好ましい。
【0065】
更に本発明の磁気記録媒体の製造方法では、前述のように、非磁性層と磁性層を逐次で重層塗布することが好ましい。逐次重層塗布のより好ましい態様としては、非磁性層塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成し、該塗布層に硬化処理を施すことにより非磁性層を形成し、次いで形成した非磁性層上に磁性層形成用塗布液を塗布する方法を挙げることができる。先に説明したように生産性の点からは放射線硬化が好ましいため、上記非磁性層塗布液に使用される結合剤としては、放射線硬化型樹脂が好ましい。
以上説明した本発明の磁気記録媒体の製造方法の詳細は、先に説明した通りである。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載の「部」の表示は、特に断らない限り、「質量部」を示す。
【0067】
[実施例1]
磁性層形成用塗布液
(磁性液)
強磁性体金属粉末:100部
Co/Fe=40原子%
Hc:2200エルステッド(175kA/m)
BET:75m2/g
表面処理層:Al23、Y23
平均長軸長:35nm
平均針状比:4
σs:110A・m2/kg(110emu/g)
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:15部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR104):10部
シクロヘキサノン:150部
メチルエチルケトン:150部
(研磨剤液)
α−アルミナ(平均一次粒径200nm、モース硬度9):4.5部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR110):0.4部
シクロヘキサノン:10部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均一次粒径0.30μm、σ=0.020):1.5部
メチルエチルケトン:3.5部
(その他成分)
ブチルステアレート:1部
ステアリン酸:1部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート):5.0部
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン:180部
メチルエチルケトン:180部
【0068】
非磁性層形成用塗布液
非磁性無機質粉末(α−酸化鉄):80部
(粒子サイズ:0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m2/g)
カーボンブラック(平均一次粒径20nm):20部
電子線硬化型塩化ビニル共重合体:13部
電子線硬化型ポリウレタン樹脂:6部
フェニルホスホン酸:3部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0069】
バックコート層形成用塗布液
非磁性無機質粉末(α−酸化鉄):80部
(粒子サイズ:0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m2/g)
カーボンブラック(平均一次粒径20nm):20部
カーボンブラック(平均一次粒径100nm):3部
塩化ビニル共重合体:13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:6部
フェニルホスホン酸:3部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ステアリン酸:3部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート):5部
メチルエチルケトン:400部
【0070】
上記磁性液をオープン型ニーダーにより混練・希釈処理後、横型ビーズミル分散機により、粒径0.5mmのジルコニア(ZrO2)ビーズ(以下、「Zrビーズ」と記載する)を用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。
研磨剤液は、アルミナ:塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR110):シクロヘキサノン=90:7:200(質量比)の混合物として調製した後、粒径1mmのZrビーズとともに竪型サンドミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液体積+ビーズ体積)が60%になるように調整し、180分間サンドミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過処理を施した。
磁性液、シリカゾルおよび研磨剤液と、その他の成分としての潤滑剤(ブチルステアレート、ステアリン酸)、硬化剤および仕上げ添加溶剤をディゾルバー攪拌機に導入し、周速10m/秒で30分間攪拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理した後に、1μmのフィルタで濾過して磁性層形成用塗布液を作製した。
【0071】
非磁性層形成用塗布液は以下の方法によって作製した。
潤滑剤(ブチルステアレート、ステアリン酸)を除く、前記成分をオープン型ニーダーにより混練・希釈処理して、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ブチルステアレート、ステアリン酸)を添加して、ディゾルバー攪拌機にて攪拌・混合処理を施して非磁性層形成用塗布液を作製した。
【0072】
バックコート層形成用塗布液は以下の方法によって作製した。
潤滑剤(ステアリン酸)およびポリイソシアネート、メチルエチルケトン(400部)を除く、前記成分をオープン型ニーダーにより混練・希釈処理して、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸)およびポリイソシアネート、メチルエチルケトン(400部)を添加して、ディゾルバー攪拌機にて攪拌・混合処理を施し、バックコート層形成用塗布液を作製した。
【0073】
厚さ6μmのポリエチレンナフタレート支持体上に、乾燥後の厚さが1.0μmになるよう非磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥した後、125kVの加速電圧で40kGyのエネルギーとなるよう電子線を照射した。その上に乾燥後の厚さが0.05μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥し、更にバックコート層形成用塗布液を、支持体の反対面に乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布、乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダーで速度80m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、温度100℃で表面平滑化処理を行った。その後、70℃dry環境で36時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ幅にスリットし、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性面に押し当たるように取り付けたテープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行いテープ試料を得た。
【0074】
[実施例2]
シリカゾル中のコロイダルシリカの添加量を3.5部、メチルエチルケトンの添加量を8.2部に変更した以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0075】
[実施例3]
シリカゾル中の平均粒径0.30μmのコロイダルシリカを平均粒径0.20μm、σ=0.011のコロイダルシリカに変更した以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0076】
[実施例4]
シリカゾル中のコロイダルシリカの添加量を3.5部、メチルエチルケトンの添加量を8.2部に変更した以外は、実施例3と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0077】
[実施例5]
シリカゾル中の平均粒径0.30μmのコロイダルシリカを平均粒径0.10μm、σ=0.0052のコロイダルシリカ(日産化学工業MEK−ST−ZL)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0078】
[実施例6]
シリカゾル中のコロイダルシリカの添加量を3.5部、メチルエチルケトンの添加量を8.2部に変更した以外は、実施例5と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0079】
[実施例7]
磁性層形成用塗布液調製時、シリカゾルに代えて平均粒径0.20μm、σ=0.011の粉末シリカ(日本触媒製シーホスターKE−P20)を1.5部添加した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0080】
[実施例8]
シリカゾル中のコロイダルシリカの添加量を0.9部、メチルエチルケトンの添加量を2.1部に変更した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0081】
[実施例9]
磁性層の乾燥後の厚さが0.10μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0082】
[実施例10]
非磁性層形成用塗布液中の電子線硬化型塩化ビニル共重合体をスルホン酸基含有塩化ビニル共重合体に変更するとともに、電子線硬化型ポリウレタン樹脂をスルホン酸基含有ポリウレタン樹脂に変更したうえで、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート)を5部添加して非磁性層形成用塗布液を調液した。
乾燥後の厚さが1.0μmになるように非磁性層形成用塗布液を塗布し乾燥させた後、バックコート層形成用塗布液を、支持体の反対面に乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布し乾燥させた。一度巻き取った支持体を70℃dry環境で36時間熱処理を行った。熱処理後の非磁性層上に、乾燥後の厚さが0.05μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布し乾燥させた。上記の点以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0083】
[実施例11]
乾燥後の厚さが1.0μmになるように非磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥した後、乾燥後の厚さが0.05μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥し、更にバックコート層形成用塗布液を、支持体の反対面に乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布、乾燥させた。上記の点以外は、実施例10と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0084】
[実施例12]
磁性層形成用塗布液成分を以下のように変更した以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。
(磁性液)
バリウムフェライト磁性粉:100部
(Hc:2100Oe(168kA/m)、平均粒子サイズ:25nm)
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:15部
シクロヘキサノン:150部
メチルエチルケトン:150部
(研磨剤液)
α−アルミナ(平均一次粒径110nm、モース硬度9):9.0部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR110):0.7部
シクロヘキサノン:20部
(シリカゾル)
実施例4で使用したシリカゾル
(その他成分)
ブチルステアレート:1部
ステアリン酸:1部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート):2.5部
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン:180部
メチルエチルケトン:180部
【0085】
[比較例1]
コロイダルシリカをカーボンブラック液(カーボンブラックの平均粒径0.20μm、σ=0.21、強磁性金属粉末100部に対するカーボンブラック添加量0.25部、シクロヘキサノンの添加量1部)とした以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。カーボンブラック液は、攪拌機付きバッチ型超音波分散装置にて、攪拌回転数1500rpmで、30分処理して液化処理した。液化したカーボンブラック液を横型ビーズミル分散機により、粒径0.5mmのZrビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、6パスの分散処理を行った。その液をディゾルバー攪拌機で周速10m/秒で30分攪拌後、フロー式超音波分散機にて流量3kg/分で、3パス処理したものを使用した。
【0086】
[比較例2]
磁性層の乾燥後の厚さが0.2μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0087】
[比較例3]
平均粒径0.50μm、σ=0.020の粉末シリカを3.5部添加した以外は、実施例7と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0088】
[比較例4]
磁性層の乾燥後の厚さが0.2μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布した以外は、比較例3と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0089】
[比較例5]
シリカゾル中のコロイダルシリカを平均粒径0.20μm、σ=0.053のコロイダルシリカに変更した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0090】
[比較例6]
シリカゾルとして、平均粒径0.04μm、σ=0.01のコロイダルシリカを0.5部含み、メチルエチルケトンの添加量が1.2部であるシリカゾルを使用し、磁性層の乾燥後の厚さが0.3μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布した以外は、実施例4と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0091】
[比較例7]
平均粒径0.25μm、σ=0.057の球状粉末シリカを2.5部添加し、磁性層の乾燥後の厚さが0.2μmになるように磁性層形成用塗布液を塗布した以外は、実施例7と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0092】
[比較例8]
シリカゾルを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法でテープ試料を作製した。
【0093】
なお上記実施例および比較例で使用したシリカゾルおよび粉末シリカは、商品名を示したものは市販品として入手したものであり、その他は公知の方法により得たものである。シリカゾルについては、目視によりシリカ粒子がコロイド状態で安定に分散していることを確認した。実施例7で使用した粉末シリカについては、磁性層形成用塗布液に使用した有機溶媒であるシクロヘキサノンおよびメチルエチルケトン中に添加し分散性を目視で確認したところ、粗大な凝集物や沈殿は観察されなかった。この結果から、実施例7で使用した粉末シリカが、上記溶媒に分散可能であることが確認できる。
【0094】
評価方法
1.電磁変換特性の評価
S/N比を、ヘッドを固定した1/2吋リールテスターで測定した。ヘッド/テープ相対速度は4m/secとした。
記録はMIGヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅3.0μm)を使い、記録電流は各テープの最適記録電流に設定した。
再生ヘッドには素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、リード幅1.0μmのGMRヘッドを用いた。
線記録密度(200KFci)の信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をS/N比とした。得られたS/N比を、以下の基準で判断した。
比較例1のS/N比を0dBとし、
S/N比 +0dB以上 ◎
S/N比 −0.5dB以上+0dB未満 ○
S/N比 −0.5dB以下 ×
2.摩擦特性(摺動性)の評価
AFMで40μm角で測定した時のRa=15nmの直径4mmのAlTiC製の丸棒にテープを180°ラップさせ、100gの荷重をかけて14mm/secの速度で45mm摺動させた。この時の1パス目、100パス目の等速で摺動中の荷重をロードセルで検出し、以下の式:
摩擦係数=ln(測定値(g)/100(g))/π
に基づいて摩擦係数を算出し、1パス目および100パス目の摩擦係数両方について、下記基準で判断をした。
0.3未満 ◎
0.4未満 ○
0.5未満 △
0.5以上 ×
3.磁性層非磁性粉末の平均粒径、最大粒径、標準偏差σ、真球度(平均円形度)の評価
上記原料粉末を、溶媒分散のものは塗膜にして乾燥後、SEMの5万倍(平均粒径0.30μm、0.20μmのコロイダルシリカ、平均粒径0.50μm、0.25μm、0.20mμmの粉末シリカ、平均粒径0.20μmのカーボン)、10万倍(平均粒径0.10μm、0.04μmのコロイダルシリカ)の画像をデジタイザーを用いて粒子各50個ずつトレースした。個々の粒子をトレースした領域と同じ面積を有する円の直径(円面積相当径)を個々の粒子の粒径とし、さらにこのようにして求めた粒径を50個の粒子で平均(算術平均)し、平均粒径とした。得られた粒径から標準偏差σ、最大粒径を求めた。更に、上記でトレースした50個の粒子について、前記した式により各粒子の円形度を算出し、さらにこのようにして求めた円形度を50個の粒子で平均(算術平均)し、平均円形度を求めた。
4.磁性層表面突起数の測定
AFM(Veeco社Nanoscope4)でテープ表面40μm×40μmの領域を測定した。スキャン速度(探針移動速度)は40μm/sec、分解能は512×512pixelとした。この領域の内、同一領域を観察するためのマーキング部を除く30×30μmの領域を対象に、基準面からの高さが15nm以上、20nm以上、25nm以上となる突起数をそれぞれ求めた。
【0095】
【表1】

【0096】
評価結果
摩擦特性、電磁変換特性とも評価結果に「×」が含まれるものは、実用上十分な性能を有さないことを示す。表1に示すように、実施例1〜12の磁気テープは、摩擦特性、電磁変換特性の評価結果とも「△」以上であり、優れた摩擦特性と電磁変換特性を兼ね備えていることがわかる。
これに対して、粒度分布の変動係数が20%を大きく超える比較例1では、摩擦特性と電磁変換特性を両立することはできなかった。これは粒度分布が大きいため、摩擦特性向上に有効な粒子数が少なかったことおよび平均粒径を大きく外れる粗大粒子によるスペーシングロスが発生したことに起因すると考えられる。
比較例2および6は、摩擦特性が著しく劣化したため電磁変換特性を測定することができなかった。これはφ/tの値が1.1に満たないため、摩擦特性向上に有効な突起を磁性層表面に存在させることができなかったことに起因すると考えられる。比較例8も同様に摩擦特性が著しく劣化したため電磁変換特性を測定することができなかった。これは摩擦特性向上に寄与する非磁性フィラーを含まないことに起因すると考えられる。
一方、比較例3〜5、7は、摩擦特性は良好であったが電磁変換特性が劣化した。比較例3についてはφ/tの値が8.0を大きく超え磁性層表面にスペーシング要因となる粗大突起が多数存在したためであり、比較例4は磁性層厚さが0.1μmを超えたためと考えられる。比較例5については、粒度分布の変動係数が20%以上であったため平均粒径を大きくはずれる粒子が多数存在しスペーシング要因となったことが電磁変換特性劣化の原因と推察され、比較例7については磁性層厚さが0.1μmを超えたことと粒度分布の変動係数が20%以上であったため平均粒径を大きくはずれる粒子によるスペーシングロスにより電磁変換特性が低下したと考えられる。
以上の結果から、磁性層厚0.1μm以下の薄層磁性層中に、磁性層厚tと平均粒径φとの関係が1.1≦φ/t≦8.0を満たす、CV値20%未満のシャープな粒度分布を有する非磁性フィラーを添加することにより摩擦特性と電磁変換特性の両立が可能となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の磁気記録媒体は、更なる高密度化が求められるコンピュータバックアップ用テープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含み、
前記磁性層の厚さt(μm)は、0.1μm以下であり、かつ1.1≦φ/t≦8.0の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機酸化物粒子からなる請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、コロイド粒子からなる請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末は、シリカコロイド粒子からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末の平均粒径φは、0.10〜0.20μmの範囲であり、かつ
前記磁性層は、強磁性粉末100質量部に対して1.5〜3.5質量部の前記非磁性粉末を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性層は、モース硬度6以上の無機粉末を更に含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層表面において原子間力顕微鏡により測定される突起密度は、下記式(3)を満たす請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
高さ25nm以上の突起密度/高さ15nm以上の突起密度<0.1 …(3)
【請求項8】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末の最大粒径は、下記式(2):
最大粒径(μm)<φ+10σ …(2)
を満たす請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層に含まれる非磁性粉末の平均円形度は0.8超1.0以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記非磁性層は放射線硬化層である請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
強磁性粉末、結合剤および下記式(1):
CV(%)=σ/φ×100 …(1)
[σ:粒径の標準偏差、φ:平均粒径(μm)]
で表される粒度分布の変動係数CVが20%未満である非磁性粉末を含む磁性層形成用塗布液を用いて磁性層を形成することを特徴とする、前記磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記磁性層形成用塗布液を、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液と、前記非磁性粉末および有機溶媒を含む第二液とを混合することにより調製することを含む請求項11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記第二液は、コロイド溶液である請求項12に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
前記コロイド溶液は、シリカゾルである請求項13に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
前記第一液に含まれる有機溶媒と第二液に含まれる有機溶媒は相溶性を有する請求項12〜14のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
前記第一液に含まれる有機溶媒および第二液に含まれる有機溶媒は、それぞれメチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合溶媒からなる群から選ばれる請求項15に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項17】
前記磁性層形成用塗布液を、強磁性粉末、結合剤および有機溶媒を含む第一液に、前記非磁性粉末を添加することにより調製することを含む請求項11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項18】
前記非磁性粉末は、前記第一液に含まれる有機溶媒に分散可能な非磁性粉末である請求項17に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項19】
非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成し、該塗布層に硬化処理を施すことにより非磁性層を形成し、次いで形成した非磁性層上に前記磁性層形成用塗布液を塗布することを含む、請求項11〜18のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項20】
前記非磁性層形成用塗布液に含まれる結合剤は、放射線硬化型樹脂を含む請求項19に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2011−48878(P2011−48878A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196322(P2009−196322)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】