説明

磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】 耐久性、走行性に優れ、信頼性の高い磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 非磁性基板1、磁性層2、保護層3、バックコート層4、磁性層側潤滑剤層6bおよびバックコート層側潤滑剤層6aを有し、潤滑剤層6a中の潤滑剤が、式(a)の含フッ素モノエステルと、式(b)のフルオロポリエーテル系化合物:

(R1... フルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基、R2... アルキル基またはアルケニル基、a...0〜20の整数)


(X...OH,COOH,COOR3,又はOCOR3、R3...アルキル基又はアルケニル基、i,j...正の整数、h...0〜12の整数)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気記録媒体、特に、高密度磁気記録に適した強磁性金属薄膜を磁性層とする金属薄膜型磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録分野においては、より多くの情報を記録し得る、より小型の磁気記録媒体が要求されている。
【0003】この要求を満たす1つの方法として、強磁性金属が蒸着されて成る金属薄膜で磁性層を構成し、磁性層そのものを高密度記録に適したものにする方法がある。そのような磁気記録媒体は一般に金属薄膜型磁気記録媒体または高密度磁気記録媒体と称されている。
【0004】また、前記要求を満たす別法として、磁気記録媒体をより薄くし、所定寸法のパッケージにより多くの磁気記録媒体が収納されるようにする方法がある。この方法によれば、省資源および低コストといった効果ももたらされる。
【0005】磁気記録媒体を薄くする最も効果的な方法は、磁気記録媒体の厚さの多くを占める非磁性基板の厚さを薄くすることである。しかし、非磁性基板の厚さを小さくすると、磁気記録媒体の剛性が小さくなり、実用上問題が生じる場合がある。
【0006】そこで、例えば特開平7−37244号公報、特開平7−85466号公報、特開平10−27328号公報および特開平10−105941号公報等に記載されているように、非磁性基板の磁性層が形成されている面とは反対側の面に、金属の蒸着層がバックコート層として形成され、このバックコート層によって剛性を確保した磁気記録媒体が提案されている。
【0007】非磁性基板の一方の面に磁性層が、他方の面にバックコート層が形成された高密度磁気記録媒体の一例を、図3を参照して説明する。
【0008】図3に示す高密度磁気記録媒体は、非磁性基板(1)の上に、磁性層(2)、保護層(3)および潤滑剤層(5)がこの順に積層され、基板(1)の磁性層(2)が形成されている面とは反対側の面にバックコート層(4)および潤滑剤層(5)がこの順に積層された構造を有している。
【0009】非磁性基板(1)はポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド(以下、順にPET、PEN、PAと略する場合がある)等の非磁性体から成る。これらの材料から成る非磁性基板の磁性層と接する側の面には、SiO2、ZnO等の無機物質から成る超微粒子、あるいはイミド等の有機物質から成る超微粒子が、分散、固着している場合が多い。また、非磁性基板(1)の厚さは一般に約2〜7μmである。
【0010】磁性層(2)は、強磁性金属薄膜から成る。磁性層(2)は、例えばCo、NiもしくはFeのような強磁性金属、またはこれらを主成分とする合金から成る層を、単層もしくは多層構造となるように、連続的に金属蒸気の入射角を変化させる斜方蒸着法等によって形成することができる。また、磁性層(2)はCo−CrもしくはCo−Oを傾斜蒸着させて垂直磁化膜としてもよい。磁性層(2)の厚さは一般に30〜300nmである。
【0011】保護層(3)は、磁性層(2)がダメージを受けることを防止するために形成される。保護層(3)を構成する材料は、例えばダイヤモンドライクカーボンのような硬度の大きい物質である。また、保護層(3)の厚さは一般に1〜50nmである。
【0012】バックコート層(4)は、適当な金属を例えば蒸着させて形成した金属薄膜、または適当な金属を酸素存在下で例えば蒸着させて形成した酸化金属薄膜、あるいは炭素粒子を含むバインダーを塗布して形成した炭素膜である。バックコート層の表面には、図示するように磁気記録媒体の走行性を改善するために潤滑剤層(5)を設ける場合がある(特開平10−105941号公報参照)。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来から、種々多様な磁気記録媒体が提案され、実用に供されている。しかし、磁気記録媒体は、これを磁気記録テープとして使用する場合、ビデオデッキやカッセトデッキ等の走行系部材から大きな摩擦力を受けるため、金属薄膜から成るバックコート層は、その表面に潤滑剤層が形成されている場合でも依然として摩耗されやすい。そこで、磁気記録媒体の耐久性、走行性および耐食性等をより向上させるべく、バックコート層表面に設ける潤滑剤層についてより一層の改善が望まれている。
【0014】本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、非磁性基板の一方の面に磁性層を、他方の面にバックコート層を有して成る高密度磁気記録媒体を磁気記録テープとして使用する場合において、磁気記録媒体の走行耐久性を向上させ、実用信頼性をより向上させることを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板の一方の面に形成されている磁性層、非磁性基板の他方の面に形成されている金属薄膜から成るバックコート層、およびバックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、この潤滑剤層が、潤滑剤として、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルから選択される少なくとも1種類の化合物と、一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物から選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでいることを特徴とする:
【化3】


(式中、R1はフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基を示し、R2は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、aは0〜20の整数である)
【化4】


(式中、Xは−OH、−COOH、−COOR3、または−OCOR3であり、ここでR3は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、iおよびjは1以上の整数であり、hは0〜12の整数である)。
【0016】本発明の磁気記録媒体は、金属薄膜であるバックコート層によってその剛性が確保されるとともに、バックコート層の非磁性基板の反対側の面に形成される潤滑剤層(この潤滑剤層を「バックコート層側潤滑剤層」と呼ぶ場合がある。)を構成する化合物の種類を上記のように特定することで、厳しい環境下においても優れた走行性および耐久性を示すものとなる。
【0017】なお、本明細書において、「バックコート層の非磁性基板とは反対側の面」、「バックコート層(の)表面」および「バックコート層(の)上」という用語は、いずれも、非磁性基板と接触している面とは反対側のバックコート層の面を意味するものとして使用する。同様に、「磁性層の非磁性基板とは反対側の面」、「磁性層(の)表面」および「磁性層(の)上」という用語も、いずれも、非磁性基板と接触している面とは反対側の磁性層の面を意味するものとして使用する。また、「保護層(の)表面」および「保護層の上」という用語は、磁性層上およびバックコート層上に形成されているいずれの保護層についても、保護層を形成したときに露出している面、即ち、保護層の非磁性基板から遠い側の面を意味するものとして使用する。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0019】図1は本発明の磁気記録媒体の一例の断面を模式的に示したものであり、図3に示す磁気記録媒体と同様、非磁性基板(1)の上に、磁性層(2)、保護層(3)および潤滑剤層(6b)がこの順に積層され、基板(1)の磁性層(2)が形成されている面とは反対側の面にバックコート層(4)、バックコート層側潤滑剤層(6a)がこの順に形成されている。なお、磁性層(2)上に形成されている保護層(3)は、後述するバックコート層上に形成される保護層と区別するために「磁性層側保護層」とも呼ぶ。
【0020】バックコート層側潤滑剤層(6a)は、上記一般式(a)で示される少なくとも1種類の含フッ素モノエステルと一般式(b)で示される少なくとも1種類のフルオロポリエーテル系化合物とを潤滑剤として含む。バックコート層側潤滑剤層(6a)は、これらの特定の化合物に加え、必要に応じて他の既知の潤滑剤、防錆剤、および/または極圧剤等を含んでもよい。
【0021】本発明で用いる含フッ素モノエステルは一般式(a)で示され、同一分子内に1個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル基、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル末端基と、1個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基と、1個のエステル結合を有する。
【0022】一般式(a)において、R1はフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基である。R1がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。また、フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基は、具体的には、パーフルオロへキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基であることが好ましい。
【0023】R1がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000程度であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合もしくは6000を超える場合には潤滑性および信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0024】一般式(a)において、aはメチレン(−CH2−)の数に相当し、aは0〜20の整数であることが好ましく、0〜12の整数であることがより好ましい。一般式(a)で示される化合物にメチレン鎖が存在しない場合でも、この化合物を含む潤滑剤の性能に悪影響がもたらされることはなく、したがって、aは0を含む。
【0025】R1がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R1は下記の一般式(c)、(d)および(e)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0026】一般式(c):
【化5】


において、kは1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。
【0027】一般式(d):
【化6】


において、p,qはともに1以上の整数であり、好ましくは1〜30の整数であり、より好ましくは1〜8の整数である。
【0028】一般式(e):
【化7】


において、R4はフルオロアルキル基を示す。R4は好ましくはパーフルオロアルキル基である。R4の炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。一般式(e)において、mは通常1〜6の整数であり、また、nは通常1〜30の整数であり、より好ましくは1〜8の整数である。
【0029】一般式(c)、(d)および(e)におけるk、pおよびqならびにmおよびnがこれらの範囲外である場合、磁気記録媒体の潤滑性および保存信頼性が低下することがある。
【0030】一般式(a)において、R2は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、その炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または30を超える場合には、潤滑性能が低下することがある。また、R2は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R2は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、1−ドデセニル基、1−トリデセニル基、1−テトラデセニル基、1−ペンタデセニル基、1−ヘキサデセニル基、1−へプタデセニル基、1−オクタデセニル基、1−ノナデセニル基、1−イコセニル基、1−ヘンイコセニル基および1−ドコセニル基のいずれかであることが好ましい。
【0031】一般式(a)で示される化合物は、含フッ素アルコールと脂肪酸とを反応させることにより合成できる。この反応は、含フッ素アルコールおよび脂肪酸を、触媒の存在下で、溶媒中にて加熱しながら混合攪拌すると、都合良く進行させることができる。溶媒として、ヘプタン、オクタンまたはトルエンを用いることが好ましい。また、加熱温度が低いと未反応物が多量に残る傾向にあり、加熱温度が高いと副生成物が生成される傾向にある。したがって、加熱温度は、80〜150℃とすることが好ましく、120〜130℃とすることがより好ましい。触媒は、酸触媒であることが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸を用いることができる。
【0032】一般式(b)で示される化合物は、フルオロポリエーテル系化合物である。当該フルオロポリエーテル系化合物の分子量は、約1000〜約20000であることが好ましく、約1000〜約4000であることがより好ましい。
【0033】一般式(b)におけるXは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR3)またはアシルオキシル基(−OCOR3)である。Xが−COOR3または−OCOR3である場合、R3は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R3の炭素数は1〜24であることが好ましく、12〜20であることがより好ましい。R3は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基およびイコシル基のいずれかであることが好ましい。
【0034】一般式(b)において、iおよびjは1以上の整数であり、どちらも1〜30の整数であることが好ましく、1〜8の整数であることがより好ましい。hは0〜12の整数であり、0〜6の整数であることが好ましい。
【0035】一般式(b)で示される化合物に相当するものとしては、Ausimont社製のFomblin Z Dol(商品名)およびFomblin Z Diac(商品名)がある。Fomblin Z Dolは、一般式(b)において、Xが水酸基であり、hが1〜11の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。Fomblin Z Diacは、一般式(b)において、Xがカルボキシル基であり、hが0〜10の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。分子の両末端にアルコキシカルボニル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端にカルボキシル基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Diac(商品名))とR3OHで示されるアルコールをエステル化反応させることにより生成できる。分子の両末端にアシルオキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端に水酸基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Dol(商品名))とR3COOHで示されるカルボン酸をエステル化反応させることにより生成できる。
【0036】あるいは、一般式(b)で示される化合物は、所定の骨格を有するグリコールをフッ化水素掃去剤の存在下で直接フッ素化法によりフッ素化して両末端が酸フルオライド(−COF)に変性したフルオロポリエーテル系化合物を得、これを所定の反応に付して分子の両末端に所定の基を結合させることにより生成できる。グリコールの骨格は、一般式(b)のh、i、およびjに基づいて選択される。
【0037】末端が酸フルオライドであるフルオロポリエーテル系化合物を加水分解すると、両末端にカルボキシル基が結合したものが得られる。このカルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物を還元するとカルボキシル基が−CH2OHとなり、水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物が得られる。カルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物をアルコールと反応させれば、両末端にアルコキシカルボニル基が結合した化合物を得ることができる。水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物をカルボン酸と反応させれば、両末端にアシルオキシル基が結合した化合物を得ることができる。
【0038】なお、炭化水素ポリエーテル系化合物を直接フッ素化する方法は、特公平7−64929号公報において詳細に説明されており、実際の製造に際してはその記載を参照することができる。また、この引用により当該公報に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0039】本発明の磁気記録媒体において、バックコート層側潤滑剤層(6a)は、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルと一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物とを、重量比で8:2〜2:8の割合で含むことが好ましく、7:3〜4:6の割合で含むことがより好ましい。両化合物は、混合された状態で、バックコート層側潤滑剤層(6a)に含まれることが好ましい。
【0040】バックコート層側潤滑剤層(6a)は、先に述べたように、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルと上述の一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物以外に、他の潤滑剤、防錆剤、および/または極圧剤等を含んでよい。その場合、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルと一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物とを合わせた量は、それらと他の潤滑剤等とを合わせた全体の量の40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物とを合わせた量が40重量%未満であると、本発明の効果が得られ難い。
【0041】また、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルおよび一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物は合わせて、潤滑剤層の表面1m2当たり、好ましくは0.05〜100mg、より好ましくは0.1〜50mg存在するようにバックコート層側潤滑剤層(6a)に含まれる。
【0042】バックコート層側潤滑剤層(6a)の厚さは、0.05〜50nmであることが好ましい。0.05nm未満では、磁性層側保護層(3)にダメージを与えるおそれがあり、50nmを超えると走行不良が生じるため好ましくない。
【0043】次にバックコート層側潤滑剤層(6a)の形成方法を説明する。バックコート層側潤滑剤層(6a)の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液をバックコート層上(後述のように保護層を介してバックコート層側潤滑剤層を形成する場合には、保護層上)に塗布する工程、ならびに混合有機溶媒を乾燥させる工程を含む。最終的に混合有機溶媒が蒸発することにより、バックコート層表面(または保護層表面)には溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液の塗布厚を大きくしても、溶媒の蒸発によりバックコート層上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤がバックコート層の非磁性基板とは反対側の面を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0044】本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレンおよびケトン等であり、本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールである。混合有機溶媒は、具体的には、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、ヘキサンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、またはヘプタンとイソプロピルアルコールの混合溶媒であることが好ましい。
【0045】アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎると不経済であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。この混合有機溶媒を用いることにより、バックコート層(後述のように保護層を介してバックコート層側潤滑剤層を形成する場合には、保護層)表面を均一に被覆する塗布ムラのない均一な厚さを有する潤滑剤層が形成され、その結果、優れた潤滑性を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0046】塗布液の濃度および塗布厚は、溶媒が蒸発した後にバックコート層上に形成される潤滑剤層が所望の厚さになるように選択する。一般には、潤滑剤の濃度が100〜10000ppmである塗布液を、10〜100μmの厚さとなるように塗布することが好ましい。
【0047】前述の塗布液を用いて潤滑剤層を形成する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースコーティング法、ダイコーティング法、ディッピング法およびスピンコート法等の湿式塗布法または有機蒸着法がある。本発明においては、いずれの方法を採用してもよい。
【0048】以上、本発明の磁気記録媒体のバックコート層側潤滑剤層について説明したが、上記一般式(a)および(b)で示される含フッ素化合物は、非磁性基板(1)に形成された磁性層(2)の上に磁性層側保護層(3)を介して形成される潤滑剤層(6b)(この潤滑剤層を「磁性層側潤滑剤層」と呼ぶ場合がある)にも含まれてよい。この場合、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルと一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物との好ましい混合割合、および潤滑剤層中における両化合物の含有量等については、バックコート層側潤滑剤層(6a)と同様であるから、ここではその詳細な説明を省略する。また、磁性層側潤滑剤層(6b)の厚さは、バックコート層側潤滑剤層(6a)のそれと同様、0.05〜50nmであることが好ましい。
【0049】磁性層側潤滑剤層(6b)は、バックコート層側潤滑剤層(6a)と同様の方法で形成でき、その場合、塗布液は磁性層側保護層(3)上に塗布される。なお、1つの磁気記録媒体において、磁性層側潤滑剤層(6b)およびバックコート層側潤滑剤層(6a)を構成する潤滑剤の組成は同じであっても、異なっていてもよい。また、両潤滑剤層の厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0050】本発明の磁気記録媒体の別の形態を図2示す。図2において、バックコート層(4)の上には保護層(7)が形成され(この保護層を「バックコート層側保護層」と呼ぶ場合がある)、バックコート層側潤滑剤層(6a)はバックコート層側保護層(7)を介して形成されている。バックコート層側保護層(7)を介して潤滑剤層(6a)を形成することにより、保存性および走行性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0051】バックコート層側保護層(7)は、磁性層(2)上に磁性層側保護層(3)を形成するに際して一般的に用いられる材料および方法によって、バックコート層(4)の非磁性基板(1)とは反対側の面に形成することができる。バックコート層側保護層(7)は、例えば、スパッタリングまたはプラズマCVD等の方法で得られる、アモルファス状、グラファイト状もしくはダイヤモンド状の炭素から成るカーボン薄膜、あるいはそれらの炭素を混合および/または積層して形成したカーボン薄膜を用いて形成することができる。
【0052】本発明ではダイヤモンド状の炭素、すなわちダイヤモンドライクカーボンでバックコート層側保護層(7)を形成することが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有するため、磁気記録媒体の損傷を抑制するとともに磁気ヘッドの損傷をも抑制することができることから、最も好ましい材料である。なお、いずれの材料を用いて薄膜を形成する場合も、バックコート層側保護層(7)の厚さは1〜50nmであることが好ましい。
【0053】バックコート層側保護層(7)を介してバックコート層側潤滑剤層(6a)を形成する場合、前記の所定の混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液は、バックコート層側保護層(7)の表面、即ち、バックコート層(4)と接している面とは反対側の面に塗布される。
【0054】本発明の磁気記録媒体においては、バックコート層側潤滑剤層(6a)以外の構成は特に限定されない。よって、非磁性基板(1)、磁性層(2)、磁性層側保護層(3)およびバックコート層(4)は常套の材料および方法で構成することができる。
【0055】本発明に使用する非磁性基板(1)は、その一方の面にバックコート層(4)を形成することにより、厚さを薄くすることが可能となる。非磁性基板(1)の厚さは、2〜7μmであることが好ましい。2μm未満であると表面に磁性層を形成することが困難となり、7μmを超えると磁気記録媒体全体に占める非磁性基板の割合が大きくなり高密度磁気記録媒体としては不利である。
【0056】非磁性基板(1)は、その厚さを薄くすることを除いては、その材料や構造が特に限定されることはない。例えば、非磁性基板の材料は、PET、PENおよびPA等から成るグループから選択できる。
【0057】ただし、バックコート層(4)を蒸着により形成する場合には、蒸着時の加熱により非磁性基板等の熱負荷が大きくなるため、耐熱性に劣る非磁性基板を用いると、基板が溶融あるいは変色するおそれがある。熱負荷を軽減するためには、蒸着時の巻き取り張力を高くして冷却を強化すればよいが、本発明では厚さの薄い非磁性基板を用いるため、巻き取り張力を大きくすると非磁性基板(1)に磁性層(2)が形成されている場合に磁性層(2)にクラックが生じるおそれがある。
【0058】そこで、バックコート層を高温雰囲気下で形成する場合には、非磁性基板はPENおよびPAのような耐熱性材料で構成することが望ましい。
【0059】非磁性基板(1)の磁性層(2)が形成される面(即ち、磁性層(2)と接する側の面)には、磁気記録媒体の走行性を向上させるために、直径5〜50nmであって、SiO2、ZnO等の無機物質またはイミド等の有機物質から成る超微粒子が、1μm2につき3〜150個、分散、固着していることが望ましい。また、超微粒子は、非磁性基板(1)のバックコート層(4)に接する側の面にも分散、固着していてよい。そのような非磁性基板の例は、特開平9−164644号公報および特開平10−261215号公報等に開示されている。
【0060】本発明は、磁性層を蒸着により形成する金属薄膜型磁気記録媒体に特に好ましく適用される。したがって、本発明の磁気記録媒体を構成する磁性層(2)は強磁性金属薄膜であることが好ましい。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属またはNi系金属で磁性層を形成することが好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0061】磁性層(2)は、具体的には、Fe、CoおよびNi、ならびにFe−Co、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Co−Cu、Co−Au、Co−Pt、Mn−Bi、Mn−Al、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−CrおよびFe−Co−Ni−Cr等の合金から選択される1つまたは複数の材料で形成される。磁性層(2)は、単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。
【0062】磁性層の一般的な形成方法としては、酸素雰囲気下で、CoもしくはCo−Ni合金等の強磁性金属に所定範囲の入射角で電子ビームを照射して金属を蒸発させ、これを、キャン状回転体等の冷却回転支持体に沿って移動する非磁性基板上に蒸着させる方法がある。それ以外の方法としては、例えば、抵抗加熱法もしくは外熱るつぼ法等で加熱して実施する蒸着、イオンプレーティングもしくはスパッタリングがある。
【0063】本発明では、磁性層の形成(または成膜)速度の観点から、非磁性基板に、強磁性金属を斜方から蒸着させる斜方蒸着法によって、磁性層を形成することが好ましい。この場合、非磁性基板の冷却回転支持体は、キャン状回転体またはベルト状支持体であってよいが、生産効率の点からは、蒸着領域の広いベルト状支持体を用いることが望ましい。
【0064】磁性層側保護層(3)は、常套の材料および方法で、即ち、バックコート層側保護層(7)と同様の材料および方法で形成することができる。したがって、ここではその詳細な説明を省略する。また、磁性層側保護層(3)の好ましい厚さは、バックコート層側保護層(7)と同様、1〜50nmである。
【0065】バックコート層(4)は、磁性層の磁性に悪影響を及ばさないよう、非磁性体の金属から成るものであることが好ましい。バックコート層(4)は、例えば、Ti、Cr、Mn、Fe、Al、Cu、Zn、Sn、Ni、Ag、およびCoならびにこれらの合金等から成るグループから選択される1つまたは複数の金属材料を用いて形成することができる。なお、Fe、NiおよびCoは磁性体であるから、これらを使用する場合には、酸化して非磁性体にした状態でバックコート層中に存在させることが好ましい。バックコート層(4)は、単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。
【0066】コスト、付着速度および酸化後の安定性の点からは、Cu、Al、あるいはCuまたはAlを主成分として好ましくは50原子%以上含むCu系合金またはAl系合金が最適である。特にAlまたはAl系合金は、低融点であることから、蒸着でバックコート層を形成する場合には、基板等に与えるダメージが小さくてすむという理由によっても好都合である。また、Al系合金およびその他の合金へ、耐食性および機械的強度を向上させるために添加する添加物は、Cu、Mn、Fe、Si、MgまたはZn等、一般的に使用されているものであればいずれでもよい。
【0067】バックコート層(4)は、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法もしくはプラズマCVD法等によって、非磁性基板(1)の磁性層(2)が位置する面とは反対側の面に形成される。いずれの方法を用いる場合も、バックコート層は酸素雰囲気中で形成し、酸化金属を含むように形成することが好ましい。酸化金属を含むバックコート層(4)は、優れた耐食性を有する。
【0068】バックコート層(4)は、非磁性基板(1)に磁性層(2)が形成された後に形成してもよい。その場合、輻射熱を小さくし、磁性層(2)を含む非磁性基板(1)の熱負荷を抑えるために、バックコート層(4)を形成する金属の融点は低いものであることが望ましく、具体的には、先に例示したAlまたはAl系合金の使用が好ましい。
【0069】本発明の磁気記録媒体においては、保護層への潤滑剤の化学吸着力を向上させるために、その表層部を含窒素プラズマ重合膜にすることが好ましい。ここで、「保護層の表層部」とは、保護層の潤滑剤層と接する側の面を意味する。含窒素プラズマ重合膜は、磁性層側保護層(図1および図2の符号3に相当)およびバックコート層側保護層(図2の符号7に相当)のいずれか一方、または両方に形成してよい。
【0070】含窒素プラズマ重合膜は、保護層を形成したものを真空容器中に入れ、真空容器中にプロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン等のアミン化合物をガス化して導入して、保護層の表面をアミン化合物のガスに曝し、容器内の圧力を0.1〜100Paに保った状態で、真空容器内部で高周波放電を生じさせることにより形成する。なお、炭素膜(保護層)の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する方法は、米国特許第5540957号および第5637393号に開示されており、この引用によりこれらの特許に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0071】含窒素プラズマ重合膜の厚さは0.3〜3nmであることが好ましく、0.3nm以下の場合は、当該膜が奏する効果、即ち、潤滑剤成分と保護層との間の化学吸着力を向上させる効果を十分に得ることができず、3nm以上の場合は、保護層自体の保護効果が低下する。
【0072】このように構成される本発明の磁気記録媒体は、バックコート層側潤滑剤層が、特定の含フッ素モノエステルから選択される少なくとも1種類の化合物と、特定のフルオロポリエーテル系化合物がら選択される少なくとも1種類の化合物とを含むために、優れた走行性および耐久性を示し、実用信頼性の高いものとなる。
【0073】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)図1に示す態様の磁気記録媒体を以下の手順で作製した。まず、磁気記録媒体の非磁性基板(1)として、厚さ4.8μm、幅150mm、長さ2000mmのPENフィルムを用意した。このフィルムの片面には、SiO2から成る直径20nmの微粒子が1μm2当り100個分散し、固着していた。
【0074】このPENフィルム(1)を冷却回転支持体であるベルト状支持体上で冷却し走行させながら、Coを用いて斜方蒸着法により厚さ200nmの強磁性金属薄膜を、PETフィルムの微粒子が存在する側の面に、磁性層(2)として形成した。
【0075】次に、磁性層(2)が形成された面と反対側の非磁性基板(1)の面に、Alを用いて蒸着法により約300nmのバックコート層(4)を形成した。耐食性を向上させるため、蒸着中に酸素を非磁性基板(1)に向けて供給した。非磁性基板(1)はキャン状冷却回転支持体上にて冷却し、走行させた。
【0076】続いて、磁性層(2)の上に、ダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ10nmの磁性層側保護層(3)を、メタンをイオン化するプラズマCVD法により形成した。磁性層側保護層(3)は、具体的には真空容器中にメタンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を10Paに保ちながら、放電管内の電極に電圧を印加することにより形成した。
【0077】次に、イソプロピルアルコールとトルエンとを重量比で1:1となるように混合した混合有機溶媒に、下記の化学式(a1)で示される含フッ素モノエステルと化学式(b1)で示されるフルオロポリエーテル系化合物とが1:1(重量比)の割合で混合されて成る潤滑剤を、その濃度が2000ppmとなるように溶解して塗布液を調製した。そして、この塗布液をバックコート層(4)の表面にリバースロールコータを用いて湿式塗布法により約80μmの厚さとなるように塗布した後、乾燥させた。最終的に、バックコート層(4)の非磁性基板とは反対側の面には、1m2あたり5mgの潤滑剤が含まれる厚さ5nmの潤滑剤層(6a)が形成された。更に、バックコート層側潤滑剤層(6a)を形成した方法と同様の方法で、バックコート層側潤滑剤層(6a)と同じ組成および厚さを有する磁性層側潤滑剤層(6b)を磁性層側保護層(3)上に形成した。
【0078】
【化8】


【0079】
【化9】


【0080】以上のようにして作製した試料を8mm幅にスリットしてテープ状の磁気記録媒体を得た。
【0081】(実施例2)バックコート層(4)に、バックコート層側保護層(7)を介して潤滑剤層(6a)を形成させたことを除いては、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。バックコート層側保護層(7)は磁性層側保護層(3)と同様にして、真空容器中にメタンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を10Paに保ちながら、電圧を放電管内の電極に印加することにより形成した。
【0082】(実施例3)バックコート層(4)にバックコート層側保護層(7)を形成した後、その表層部に含窒素プラズマ重合膜(図示せず)を形成し、含窒素プラズマ重合膜に接するようにバックコート層側潤滑剤層(6a)を形成したことを除いては、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。含窒素プラズマ重合膜は、真空容器中にプロピルアミンガスを導入し高周波プラズマ処理を実施してバックコート層側保護層(7)の表層部に形成した。含窒素プラズマ重合膜の厚さは2.5nmであった。
【0083】(比較例1)バックコート層側潤滑剤層を形成しなかったことを除いては、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0084】(比較例2)化学式(a1)および化学式(b1)を混合した潤滑剤に代えて、化学式(a1)で示されるフルオロポリエーテル系化合物のみを潤滑剤として使用し、この潤滑剤で磁性層側およびバックコート層側潤滑剤層(6b,6a)を形成したことを除いては、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0085】(比較例3)化学式(a1)および化学式(b1)を混合した潤滑剤に代えて、化学式(b1)で示される含フッ素モノエステルのみを潤滑剤として使用し、この潤滑剤で磁性層側およびバックコート層側潤滑剤層(6b,6a)を形成したことを除いては、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0086】(比較例4)潤滑剤を溶解する有機溶媒として、イソプロピルアルコールおよびトルエンから成る混合有機溶媒に代えて、イソプロピルアルコールのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0087】(比較例5)潤滑剤を溶解する有機溶媒として、イソプロピルアルコールおよびトルエンから成る混合有機溶媒に代えて、トルエンのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0088】実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5で得られた8mm幅の磁気テープ状試料について、それぞれ下記の評価試験(a)および(b)を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0089】(a)耐久性試験RF(高周波)出力測定用に改造した市販8mmVTR(ソニー(株)社製、EV−S900)を用い、各8mm幅テープ試料を5℃、80%RHの環境下で500パス、500時間繰り返し再生を行った後のRF出力変化を測定した。結果は試験前に対する試験後の変化をデシベル表示で示した。
【0090】テープダメージは、試料を目視観察および微分干渉顕微鏡で状態観察し、5段階で評価した。評価基準は次のとおりである。
5:実用上全く問題ない。
4:実用上問題ない。
3:実用可能であるが、改善が必要である。
2:テープダメージがひどく、実用性は殆どない。
1:テープダメージがあまりにもひどく、実用性が全くない。
【0091】(b)走行性試験バックコート層側表面の動摩擦係数μkを測定した。各試料を、摩擦部材(ステンレス製(SUS420J2、表面粗さ0.2S)、外径6mm)への巻き付け角90°で摩擦部材に巻き付け、テンション0.2Nの条件で試料を18mm/秒の速度で巻き出し、同じ速度で巻き取り、巻き取り側においてテンションを測定して、巻き出し側のテンションとの比からオイラーの式より計算して求めた。各試験の評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】


【0093】表1から明らかなように、比較例1〜5との比較において、実施例1〜3の出力低下は小さく、かつ動摩擦係数μkは0.25以下であり走行性も良好であった。
【0094】バックコート層の表面に、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルと一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物とを含む潤滑剤層を有する実施例1〜3の磁気記録媒体は、バックコート層上に潤滑剤層が存在しない比較例1、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルのみを潤滑剤層に含む比較例2、および一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物のみを潤滑剤層に含む比較例3の磁気記録媒体と比較して、いずれも優れた耐久性および走行性を示した。
【0095】潤滑剤を溶解する有機溶媒としてイソプロピルアルコールおよびトルエンから成る混合有機溶媒を使用した実施例1〜3の磁気記録媒体は、イソプロピルアルコールのみ、またはトルエンのみを使用した比較例4および5の磁気記録媒体と比較して、いずれも優れた耐久性および走行性を示した。
【0096】バックコート層の上に保護層を有する実施例2および3の磁気記録媒体においては、実施例1と比較して耐久性試験後のテープダメージが大幅に改善された。更に、バックコート層側保護層の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成した実施例3においては、含窒素プラズマ重合膜の存在しない実施例2と比較して、出力低下と動摩擦係数μkに関して、より良好な結果を得ることができた。
【0097】なお、実施例では化学式(a1)および(b1)で示される化合物を混合したものを潤滑剤として用いたが、これ以外の潤滑剤、例えば、下記の化学式(a2)、(a3)、(a4)および(a5)で示される含フッ素モノエステルから選択した化合物と、下記の化学式(b2)、(b3)および(b4)で示されるフルオロポリエーテル系化合物から選択した化合物とを混合した潤滑剤を用いて、バックコート層側および磁性層側潤滑剤層を形成した磁気記録媒体、ならびに化合物(a1)〜(a5)で示される化合物から選択した化合物と(b1)〜(b4)で示される化合物から選択した化合物に加えて、公知の潤滑剤および/または防錆剤を混合したもので潤滑剤層を形成した磁気記録媒体についても、上記実施例と同様の効果が認められた。
【0098】
【化10】


【0099】
【化11】


【0100】
【化12】


【0101】
【化13】


【0102】
【化14】


【0103】
【化15】


【0104】
【化16】


【0105】
【発明の効果】以上のように本発明は、非磁性基板の一方の面に形成された磁性層、および非磁性基板の他方の面に形成された金属薄膜から成るバックコート層を有する磁気記録媒体であって、バックコート層の非磁性基板とは反対側の面に潤滑剤層が形成され、この潤滑剤層が、潤滑剤として、特定の含フッ素モノエステルから選択される少なくとも1種類の化合物と、特定のフルオロポリエーテル系化合物から選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでいることを特徴とする。この特徴により本発明の磁気記録媒体は、厳しい環境下においても優れた耐久性および走行性を示す、信頼性の高いものとなる。
【0106】更に、バックコート層の非磁性基板とは反対の面に、保護層を介して、または保護層およびその表層部に形成された含窒素プラズマ重合膜を介して潤滑剤層を形成することにより、耐久性および走行性がより優れた磁気記録媒体が得られる。従って、本発明の磁気記録媒体は、例えばテープとして使用される場合には、ビデオデッキ等の再生・録画装置の走行系部材から加えられる大きな摩擦力に十分に耐えることができ、繰り返しの使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の磁気記録媒体の略断面図である。
【図2】 本発明の磁気記録媒体の略断面図である。
【図3】 従来の磁気記録媒体の略断面図である。
【符号の説明】
1 非磁性基板
2 磁性層(強磁性金属薄膜)
3 磁性層側保護層
4 バックコート層
5 潤滑剤層
6a バックコート層側潤滑剤層
6b 磁性層側潤滑剤層
7 バックコート層側保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性基板の一方の面に形成されている磁性層、非磁性基板の他方の面に形成されている金属薄膜から成るバックコート層、およびバックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、この潤滑剤層が、潤滑剤として、一般式(a)で示される含フッ素モノエステルから選択される少なくとも1種類の化合物と、一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物から選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでいることを特徴とする磁気記録媒体:
【化1】


(式中、R1はフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基を示し、R2は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、aは0〜20の整数である)
【化2】


(式中、Xは−OH、−COOH、−COOR3、または−OCOR3であり、ここでR3は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、iおよびjは1以上の整数であり、hは0〜12の整数である)。
【請求項2】 バックコート層の非磁性基板とは反対側の面に保護層を有し、潤滑剤層はこの保護層を介してバックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 バックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている保護層がダイヤモンドライクカーボンから成ることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 バックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている保護層の表層部が含窒素プラズマ重合膜であり、潤滑剤層が保護層の含窒素プラズマ重合膜と接するように形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 磁性層の非磁性基板とは反対側の面に保護層を有し、この保護層を介して磁性層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている潤滑剤層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】 磁性層の非磁性基板とは反対側の面に形成されている潤滑剤層が、潤滑剤として、前記一般式(a)で示される含フッ素モノエステルから選択される少なくとも1種類の化合物と、前記一般式(b)で示されるフルオロポリエーテル系化合物から選択される少なくとも1種類の化合物とを含んでいることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 磁性層の非磁性基板とは反対側の面にある保護層がダイヤモンドライクカーボンで形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】 磁性層の非磁性基板とは反対側の面にある保護層の表層部が含窒素プラズマ重合膜であり、潤滑剤層が保護層の含窒素プラズマ重合膜と接するように形成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】 バックコート層を構成する金属が、非磁性金属であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】 バックコート層を構成する金属が、AlまたはAl系合金であることを特徴とする請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】 バックコート層が蒸着法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】 バックコート層が酸素雰囲気中で形成されたものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】 非磁性基板が、ポリエチレンナフタレートまたはポリアミドから成ることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】 磁性層が、Co系金属またはFe系金属から成る強磁性金属薄膜であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】 磁性層が、キャン状回転体またはベルト状支持体上で支持された非磁性基板上に磁性金属が斜方蒸着されて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】 請求項1〜15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を製造する方法において、バックコート層の非磁性基板とは反対側の面に形成される潤滑剤層の形成工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を、バックコート層上またはバックコート層上に形成された保護層上に塗布する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項17】 請求項6〜15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を製造する方法において、磁性層の非磁性基板とは反対側の面に形成される潤滑剤層の形成工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を、磁性層上に形成された保護層上に塗布する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項18】 炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲にあることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−216626(P2001−216626A)
【公開日】平成13年8月10日(2001.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−20202(P2000−20202)
【出願日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】