説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】媒体保護層の硬度を維持しつつ、当該媒体保護層の表面を工夫することで潤滑層の媒体保護層に対する付着率を向上させた磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】記録磁気媒体の製造方法は、磁気記録層を成膜する磁気記録層成膜工程と、CVD(Chemical Vapour Deposition)法を用いて媒体保護層を成膜する保護層成膜工程と、媒体保護層の表面を窒化処理する窒化処理工程と、潤滑層を成膜する潤滑層成膜工程と、を含み、保護層成膜工程は、第1圧力の雰囲気で成膜した後に第2圧力の雰囲気で媒体保護層を成膜し、第1圧力は、第2圧力未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスク(磁気記録媒体)にして、1枚あたり200GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり400GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(垂直磁気記録媒体)が提案されている。従来の面内磁気記録方式は磁気記録層の磁化容易軸が基体面の平面方向に配向されていたが、垂直磁気記録方式は磁化容易軸が基体面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて磁性粒が微細化するほど反磁界(Hd)が大きくなって保磁力Hcが向上し、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
また、このような情報記録密度の増加に伴い、円周方向の線記録密度(BPI:Bit Per Inch)、半径方向のトラック記録密度(TPI:Track Per Inch)のいずれも増加の一途を辿っている。さらに、磁気記録媒体の磁気記録層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を狭くしてS/N比を向上させる技術も検討されている。近年望まれる磁気ヘッドの浮上量は10nm以下である。
【0005】
上述した磁気的スペーシングを狭くするための技術として、磁気ヘッド素子の動作時に、ヘッド素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドを熱膨張させ、ABS(the Air Bearing Surface)方向にわずかに突出させるDFH(Dynamic Flying Height)ヘッドが提案されている。これにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隙を調節し、狭い磁気的スペーシングで磁気ヘッドを常に安定して飛行させることができる。
【0006】
また、磁気ヘッドが低浮上量化してきたことに伴い、外部衝撃や飛行の乱れによって磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に接触する可能性が高まっている。このため磁気記録媒体では、磁気ヘッドが磁気記録媒体に衝突した際、磁気記録層の表面が傷つかないように保護する媒体保護層が設けられる。媒体保護層は、カーボンオーバーコート(COC)、即ち、カーボン(炭素)皮膜によって高硬度な皮膜を形成する。媒体保護層には、カーボンの硬いダイヤモンドライク結合と、柔らかいグラファイト結合とが混在しているものもある(例えば、特許文献1)。また、ダイヤモンドライク結合保護膜を、CVD(Chemical Vapour Deposition)法によって製造する技術も開示されている(例えば、特許文献2)。
【0007】
また媒体保護層の上には、磁気ヘッドが衝突した際に媒体保護層および磁気ヘッドを保護するために、潤滑層が形成される。潤滑層は、例えばパーフルオロポリエーテルを塗布して焼結することにより形成される。
【特許文献1】特開平10−11734号公報
【特許文献2】特開2006−114182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように媒体保護層の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上させるためには、炭素原子を緻密に成膜することでダイヤモンドライク結合を有するカーボン(ダイヤモンドライクカーボンDiamond Like Carbon: DLC)の含有率を増加させる必要がある。
【0009】
しかし、媒体保護層の表面に緻密に炭素原子が配されると、潤滑層の媒体保護層との付着率(BR:Bonding Ratio)が低下するという問題が発生する。BRは、潤滑層を有する磁気記録媒体を、潤滑剤を分解可能な溶媒に例えば30秒程度浸漬し、浸漬後に残存している潤滑剤のパーセンテージによって表される。例えば、潤滑層がパーフルオロポリエーテル(PFPE:Per Fluoro Poly Ether)の場合、PFPEの末端に存在する水酸基が媒体保護層に正常に付着していればBRは高いが、PFPEの水酸基が正常に付着していず、PFPEの分子が潤滑層に単に絡んでいるだけの場合には、溶媒に容易に分解されてしまい、除去されてしまうため、BRは低くなる。
【0010】
特に、上述したDFHヘッドを用いた場合において、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触したとき、磁気記録媒体における潤滑層の媒体保護層との付着率(BR)が弱い場合には、潤滑層が磁気ヘッドに移着してしまう場合がある(Lub Pick Up)。すると磁気ヘッドが覆われることによってリードライトに不良を生じたり、磁気ヘッドの浮上が不安定となったりしてハイフライライト現象を生じるおそれがある。ハイフライライト現象とは、磁気ヘッドが磁気記録媒体から離れてしまったことにより書き込んだはずのデータが書き込まれていない現象であり、必ずしもハードウェアは故障していなくても読み出しエラーを生じてしまう。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、媒体保護層の硬度を維持しつつ、当該媒体保護層の表面を工夫することで潤滑層の媒体保護層に対する付着率を向上させた磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、基体上に、磁気記録層と、媒体保護層と、潤滑層とをこの順に備える磁気記録媒体の製造方法であって、磁気記録層を成膜する磁気記録層成膜工程と、CVD(Chemical Vapour Deposition)法を用いて媒体保護層を成膜する保護層成膜工程と、媒体保護層の表面を窒化処理する窒化処理工程と、潤滑層を成膜する潤滑層成膜工程と、を含み、保護層成膜工程では、媒体保護層を、第1圧力の雰囲気で成膜した後に第2圧力の雰囲気で成膜し、第1圧力は、第2圧力未満であることを特徴とする。潤滑層は、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有してもよい。
【0013】
保護層成膜工程において、媒体保護層の下部を成膜する際の圧力(第1圧力)よりも上部を成膜する際の圧力(第2圧力)を高くする構成により、媒体保護層の下部で硬度を維持しつつ、下部と比較して硬度の低い層を上部に成膜することができる。
【0014】
CVD法においては、雰囲気の圧力が低いほど平均自由行程が長くなるすなわち衝突頻度が低くなる。つまり、雰囲気の圧力が低いほど、プラズマとなった気体は、大幅なエネルギーの減少を伴わずに基体の表面へと到達することができる。したがって、雰囲気の圧力を低くすることによって、高密度で硬度が高い膜を成膜し、圧力を高くすることによって密度が低く硬度の低い膜を成膜することが可能となる。
【0015】
さらに、保護層成膜工程の後に、媒体保護層を窒化処理する窒化処理工程を含む構成により、媒体保護層の上部すなわち潤滑層を成膜する面に窒素を含有させることができる。特に上記保護層成膜工程において圧力を変化させる構成により、媒体保護層の上部は下部と比較して硬度が低い為、窒素エッチングによる窒化処理が効率よく行われ、媒体保護層の表面の窒素含有量を向上させることが可能となる。
【0016】
潤滑層として広く用いられるPFPEは、末端に水酸基(OH)を有しており、当該水酸基は媒体保護層の表面に存在する窒素と高い親和性がある。したがって、媒体保護層の表面の窒素含有率を向上させることが可能となる上記構成により、潤滑層の媒体保護層に対する付着率(BR)を向上させることができる。
【0017】
第1圧力は、CVD法におけるプラズマを発生させるための着火限界以下であって当該プラズマを維持可能な維持限界以上の圧力であってもよい。
【0018】
着火限界以下であって維持限界以上の圧力まで第1圧力を低減させることにより、最大限に高密度かつ硬度の高い媒体保護層を成膜することが可能となる。
【0019】
保護層成膜工程は、1のチャンバ内で遂行され、CVD法で用いる気体を導入することでチャンバ内の圧力を第1圧力以上でありかつCVD法におけるプラズマを発生させるための着火限界以上にし、チャンバ内の圧力が下降する際に着火することでプラズマを発生させ、チャンバ内を、気体の導入を継続して第1圧力に維持し、第1圧力で基体にバイアス電圧を印加しながら媒体保護層を成膜し、さらに、気体を導入することでチャンバ内の圧力を第1圧力から第2圧力に上昇させ、媒体保護層の成膜を行ってもよい。
【0020】
上記構成により、第1圧力を着火限界以下の圧力にして、媒体保護層を成膜することができる。
【0021】
上記チャンバ内の圧力を第1圧力から第2圧力に上昇させている間は、基体に印加したバイアス電圧を低下または0にして、媒体保護層の成膜速度の大幅な低減または、成膜を停止してもよい。
【0022】
第1圧力から第2圧力へ雰囲気の圧力を上昇させる際には、基体に印加したバイアス電圧を下げる構成により、圧力が安定しない状態での成膜される膜厚を最小化することが可能となる。また、雰囲気の圧力が第2圧力に維持された状態で媒体保護層の成膜を再開する構成により、安定して成膜を行うことができる。
【0023】
媒体保護層には、ダイヤモンドライクカーボンが含まれてもよい。これにより、緻密で耐久性のある媒体保護層とすることができる。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気記録媒体の代表的な構成は、上述した磁気記録媒体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0025】
上述した磁気記録媒体の製造方法の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該磁気記録媒体にも適用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる磁気記録媒体の製造方法は、媒体保護層の硬度を維持しつつ、当該媒体保護層の表面を工夫することで潤滑層の媒体保護層に対する付着率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
(実施形態)
本発明にかかる磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体の実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、補助記録層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
【0029】
[基体成型工程]
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0030】
[成膜工程]
上述した基体成型工程で得られたディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112、軟磁性層114、前下地層116、下地層118、非磁性グラニュラー層120、磁気記録層122(磁気記録層成膜工程)、補助記録層124(補助記録層成膜工程)を順次成膜を行い、媒体保護層126はCVD法により成膜する(保護層成膜工程)。この後、潤滑層128をディップコート法により成膜する(潤滑層成膜工程)。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成および製造方法について説明する。
【0031】
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。
【0032】
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
【0033】
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
【0034】
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造としてはNiW、CuW、CuCr、bcc構造としてはTaを好適に選択することができる。
【0035】
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
【0036】
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、上層側の第2下地層118bを形成する際に、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする。ガス圧を高くするとスパッタリングされるRuイオンの自由移動距離(平均自由行程)が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶分離性を改善することができる。
【0037】
非磁性グラニュラー層120は非磁性のグラニュラー層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、柱状のグラニュラー構造とすることができる。特にCoCr−SiO、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
【0038】
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有した強磁性層である。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bは、いずれも非磁性物質としてはSiO、Cr、TiO、B、Fe等の酸化物や、BN等の窒化物、B等の炭化物を好適に用いることができる。本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100は、ディスクリート型であるため、磁気記録層122がグラニュラー構造をとる構成により、SNRを向上させることが可能となる。
【0039】
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−Crを用いる。CoCrPt−Crは、粒界部に酸化物としてCrを含有し、CoCrPt−Crのhcp結晶構造を形成することができる。非磁性物質であるCrおよびCr(酸化物)は磁性物質であるCoの周囲に偏析して粒界を形成し、磁性粒(磁性グレイン)は柱状のグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
【0040】
また第2磁気記録層122bには、CoCrPt−SiO−TiOを用いる。CoCrPt−SiO−TiOは、粒界部に複合酸化物の例としてSiOとTiOを含有し、CoCrPt−SiO−TiOのhcp結晶構造を形成することができる。第2磁気記録層122bにおいても、非磁性物質であるCrおよびSiO−TiO(複合酸化物)は磁性物質であるCoの周囲に偏析して粒界を形成し、磁性粒はグラニュラー構造を形成した。
【0041】
なお、上記に示した第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bに用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bで異なる材料(ターゲット)であるが、これに限定されず組成や種類が同じ材料であってもよい。非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
【0042】
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて1種類の、第2磁気記録層122bにおいて2種類の非磁性物質(酸化物)を用いているが、これに限定されるものではなく、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方において2種類以上の非磁性物質を複合して用いることも可能である。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、本実施形態の如く特にSiOおよびTiOを含むことが好ましい。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO−TiOからなることが好ましい。また、次にSiOまたはTiOのいずれかに代えて/加えてCrを好適に用いることができる。
【0043】
補助記録層124は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層124は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層124の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層124は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層124は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層124は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
【0044】
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層124全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層124に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層124の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラー磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラー磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラー磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
【0045】
なお補助記録層124として、単一の層ではなく、高い垂直磁気異方性かつ高い飽和磁化MSを示す薄膜を形成するCGC構造(Coupled Granular Continuous)としてもよい。なおCGC構造は、グラニュラー構造を有する磁気記録層と、PdやPtなどの非磁性物質からなる薄膜のカップリング制御層と、CoBとPdとの薄膜を積層した交互積層膜からなる交換エネルギー制御層とから構成することができる。
【0046】
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成する。本実施形態において媒体保護層126は、水素化カーボンで構成されている。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層であり、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含んで構成される。したがって、緻密で耐久性のある媒体保護層126とすることができる。
【0047】
一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
【0048】
本実施形態において、媒体保護層126を成膜する保護層成膜工程は、第1圧力の雰囲気で成膜した後に第2圧力の雰囲気で媒体保護層126を成膜し、第1圧力は、第2圧力未満である。
【0049】
保護層成膜工程において、媒体保護層126の下部を成膜する際の圧力(第1圧力)よりも上部を成膜する際の圧力(第2圧力)を高くする構成により、媒体保護層126の下部で硬度を維持しつつ、下部と比較して硬度の低い(隙間の多い)層を上部に成膜することができる。
【0050】
CVD法においては、雰囲気の圧力が低いほど平均自由行程が長くなるすなわち衝突頻度が低くなる。つまり、雰囲気の圧力が低いほど、プラズマとなった気体は、大幅なエネルギーの減少を伴わずにディスク基体110の表面へと到達することができる。したがって、雰囲気の圧力を低くすることによって高密度で硬度が高い膜を成膜し、圧力を高くすることによって密度が低く、柔らかい膜を成膜することが可能となる。
【0051】
図2は、保護層成膜工程における、CVDチャンバ内の圧力変化およびバイアス変化を説明するための説明図である。本実施形態の保護層成膜工程は、CVDチャンバを変えずに同一のCVDチャンバで雰囲気圧力を変化させて成膜を行う。
【0052】
図2に示すように、まず、気体(本実施形態ではエチレン(C))を導入することでチャンバ内の圧力を第1圧力以上でありかつCVD法における着火限界以上にし、チャンバ内の圧力が下降する際に着火することでプラズマを発生させる。
【0053】
その後、チャンバ内を気体の導入を継続して第1圧力に維持し、第1圧力で補助記録層124まで成膜した基体にバイアス電圧を印加しながら媒体保護層126を成膜する。
【0054】
ここで第1圧力は、CVD法におけるプラズマを発生させるための着火限界以下であって当該プラズマを維持可能な維持限界以上の圧力である。
【0055】
着火限界以下であって維持限界以上の圧力まで第1圧力を低減させることにより、最大限に高密度かつ硬度の高い媒体保護層を成膜することが可能となる。
【0056】
そして、基体に印加したバイアス電圧を下げた後、さらに気体を導入することでチャンバ内の圧力を第2圧力に維持し、さらに媒体保護層126の成膜を行う。
【0057】
上記構成により、第1圧力を着火限界以下の圧力にして、媒体保護層126を成膜することができる。また、第1圧力から第2圧力へ雰囲気の圧力を上昇させる際には、基体に印加したバイアス電圧を下げる構成により、圧力が安定しない状態での成膜を停止すること可能となる。また、雰囲気の圧力が第2圧力に維持された状態で媒体保護層126の成膜を再開する構成により、安定して成膜を行うことができる。
【0058】
本実施形態では、媒体保護層126を成膜した後さらに窒化処理工程を遂行する。
【0059】
窒化処理工程は、チャンバ内に窒素ガスを導入して、磁気記録媒体に高周波バイアスを印加し、表面エッチングにより行う。
【0060】
保護層成膜工程の後に、媒体保護層126を窒化処理する窒化処理工程を含む構成により、媒体保護層126の上部すなわち潤滑層128を成膜する面に窒素を含有させることができる。特に上記保護層成膜工程において圧力を変化させる構成により、媒体保護層126の上部は下部と比較して隙間が多く成膜されるため、窒化処理により効率よく当該隙間に窒素を含有させることができ、媒体保護層126の表面の窒素含有量を向上させることが可能となる。
【0061】
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜する。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、末端に水酸基(OH)を配している。PFPEの末端に配される水酸基は媒体保護層126の表面に存在する窒素と高い親和性がある。したがって、本実施形態にかかる保護層成膜工程および窒化処理工程を含むことにより媒体保護層126の表面の窒素含有率を向上させることが可能となり、潤滑層128の媒体保護層126に対する付着率(BR)を向上させることができる。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
【0062】
(実施例と評価)
ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoFeTaZrとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。下地層118は、第1下地層118aは低圧Ar下でRuを成膜し、第2下地層118bは高圧Ar下でRuを成膜した。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。第1磁気記録層122aの組成は、CoCrPt−Crとし、第2磁気記録層122bの組成は、CoCrPt−SiO−TiOとした。補助記録層124の組成はCoCrPtBとした。媒体保護層126はCVD法によりCを用いて成膜し、同一チャンバ内で、窒素を導入して窒化処理を行った。潤滑層128はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
【0063】
ここで実施例として、媒体保護層126を成膜する保護層成膜工程において、2PaのC雰囲気で成膜した後に、4PaのC雰囲気で成膜を行った垂直磁気記録媒体100を作成した。また、比較例として、媒体保護層126を成膜する保護層成膜工程において、2PaのC雰囲気でのみ成膜を行った垂直磁気記録媒体と、4PaのC雰囲気でのみ成膜を行った垂直磁気記録媒体とを作成した。実施例、比較例ともに、ディスク基体110に印加したバイアスは、−400Vである。
【0064】
図3、図4、図5は、実施例と比較例を比較した比較図であり、図3は、媒体保護層の硬度を、図4は、潤滑層の付着率を図5は媒体保護層の窒素含有率を、それぞれ比較した図である。
【0065】
図3に示すように、4PaのC雰囲気で成膜を行った垂直磁気記録媒体(以下、単に比較例4Paと称する)の媒体保護層は、少なくとも膜厚が5.4nm程度ないとスクラッチを生じてしまう。一方、実施例の媒体保護層126は、2PaのC雰囲気で成膜を行った垂直磁気記録媒体(以下、単に比較例2Paと称する)と同様に、4.8nm以上あればスクラッチが発生しない。
【0066】
図4に示すように、実施例の潤滑層128の付着率(BR)は、比較例4Paと同等であり、比較例2Paよりも著しく高い。
【0067】
さらに、媒体保護層126の窒素含有量については、実施例は、比較例4Paと同等であり、比較例2Paよりも多い(図5参照)。
【0068】
図6は、図3から図5の結果をまとめた図である。図6に示すように、実施例と比較して、比較例2Paでは、潤滑層128付着率および窒素含有量は低く、比較例4Paでは媒体保護層126の硬度が低い。
【0069】
上述した潤滑層128の付着率、媒体保護層の硬度(スクラッチテスト)、および媒体保護層の窒素含有量の測定結果によれば、本実施例の磁気記録媒体は、比較例2Paと同等の高い媒体保護層126の硬度を有し、比較例4Paと同等の高い潤滑層128の付着率と、媒体保護層の高い窒素含有量を有する。
【0070】
以上説明したように、本実施例にかかる磁気記録媒体の製造方法によれば、媒体保護層126の硬度を維持しつつ、媒体保護層126の表面を工夫することで潤滑層128の媒体保護層126に対する付着率を向上させた磁気記録媒体を製造することが可能となる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
例えば、上述した実施形態の保護層成膜工程において、基体に印加するバイアスを一定にしているが、これに限定されず、バイアスを変化させて印加することで、媒体保護層の硬度を変えることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態にかかる磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】保護層成膜工程における、CVDチャンバ内の圧力変化およびバイアス変化を説明するための説明図である。
【図3】実施例と比較例を比較した比較図である。
【図4】実施例と比較例を比較した比較図である。
【図5】実施例と比較例を比較した比較図である。
【図6】図3から図5の結果をまとめた図である。
【符号の説明】
【0075】
100 …垂直磁気記録媒体
110 …ディスク基体
112 …付着層
114 …軟磁性層
114a …第1軟磁性層
114b …スペーサ層
114c …第2軟磁性層
116 …前下地層
118 …下地層
118a …第1下地層
118b …第2下地層
120 …非磁性グラニュラー層
122 …磁気記録層
122a …第1磁気記録層
122b …第2磁気記録層
124 …連続層
126 …媒体保護層
128 …潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、磁気記録層と、媒体保護層と、潤滑層とをこの順に備える磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁気記録層を成膜する磁気記録層成膜工程と、
CVD(Chemical Vapour Deposition)法を用いて前記媒体保護層を成膜する保護層成膜工程と、
前記媒体保護層の表面を窒化処理する窒化処理工程と、
前記潤滑層を成膜する潤滑層成膜工程と、
を含み、
前記保護層成膜工程では、前記媒体保護層を、第1圧力の雰囲気で成膜した後に第2圧力の雰囲気で成膜し、
前記第1圧力は、前記第2圧力未満であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第1圧力は、前記CVD法におけるプラズマを発生させるための着火限界以下であって該プラズマを維持可能な維持限界以上の圧力であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記保護層成膜工程は、1のチャンバ内で遂行され、
前記CVD法で用いる気体を導入することで前記チャンバ内の圧力を前記第1圧力以上でありかつ前記CVD法におけるプラズマを発生させるための着火限界以上にし、
前記チャンバ内の圧力が下降する際に着火することでプラズマを発生させ、
前記チャンバ内を、前記気体の導入を継続して前記第1圧力に維持し、
前記第1圧力で前記基体にバイアス電圧を印加しながら前記媒体保護層を成膜し、
さらに、前記気体を導入することで前記チャンバ内の圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に上昇させ、前記媒体保護層の成膜を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記チャンバ内の圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に上昇させている間は、前記基体に印加したバイアス電圧を低下させて、媒体保護層の成膜を停止することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記潤滑層は、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記媒体保護層には、ダイヤモンドライクカーボンが含まれることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6に記載の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−86585(P2010−86585A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253045(P2008−253045)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】