説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体並びに磁気記録再生装置

【課題】磁気記録媒体の表面の異物を効率良く確実に除去することができ、当該磁気記録媒体の表面に残存したマスク層が残留することがなく、磁性層のパターン形成の生産性が高い磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、磁性層上にマスク層を形成する工程と、マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成する工程と、マスクパターンを用いて磁性層に磁気記録パターンを形成する工程と、マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程と、マスクパターンを除去する工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)等に用いられる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体並びに磁気記録再生装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の適用範囲は著しく増大されその重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にMRヘッド及びPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増しており、近年ではさらにGMRヘッド、TMRヘッドなども導入されて1年に約100%ものペースで増加を続けている。これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのためには磁性層の高保磁力化、高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって、面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
ところで、最新の磁気記録再生装置においては、トラック密度が110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合うため、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となってSNRを損なうという問題が生じやすくなっている。このことはそのままビットエラーレート(Bit Error rate)の低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
【0004】
そこで、面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかしながら、記録ビットを微細化していくと1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0005】
また、トラック間距離が近づくため、磁気記録再生装置には、極めて高精度のトラックサーボ技術が要求され、記録を幅広く実行すると共に再生が隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。しかしながら、この方法では、トラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0006】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体の表面にトラックに沿った凹凸を形成して記録トラック同士を物理的に分離することでトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。
【0007】
ところで、ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板上に磁性層を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1)。
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸を有する基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0008】
一方、ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録層を形成した後に、物理的にトラックを形成する方法と、基板表面に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録層の薄膜形成を行う方法とが知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(特許文献4〜6)。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、いわゆる、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造工程においては、磁性層を、酸素やハロゲンを用いた反応性プラズマもしくは反応性イオンに晒すことにより磁気記録パターンを形成する場合や、磁性層をイオンミリング等により磁気記録パターンを有するように加工する場合がある。これらの製造方法の場合、磁性層の表面にマスク層を形成し、このマスク層をフォトリソグラフィー技術によりパターニングする工程を含むこととなる。また、マスク層をパターニングする別の方法としては、表面に凹凸形状を形成したスタンプを用いた、ナノインプリント技術を用いる場合もある。この場合は、マスク層の上にレジスト層を設け、このレジスト層にナノインプリント技術を用いて凹凸パターンを転写し、この転写された凹凸パターンを用いて、マスク層をイオンミリング等で加工する。
【0010】
図4は、ナノインプリント技術を用いた従来の磁気記録媒体の製造方法を示す工程断面図である。磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造するには、先ず、図4(a)に示すように、非磁性基板101上に磁性層102を形成し、この磁性層102上に磁気記録パターンを形成するためのマスク層103を形成する。
次に、マスク層103の上にレジストを塗布してレジスト層104を形成する。ここで、レジストは通常液体であるため、図4(a)に示すように、異物111が混入しやすく、また大気中に浮遊する異物111がレジストに付着する場合もある。
次に、レジスト層104に磁気記録パターンを転写する。しかしながら、ナノインプリント技術によりレジスト層104をパターニングする場合は、図4(b)に示すように、この異物111がスタンパーによりマスク層103や磁性層102に深く埋め込まれてしまい、異物111がさらに除去されにくくなる。
次に、図4(c)に示すように、レジスト層104にイオンミリング等を施してレジストパターン104aを形成し、図4(d)に示すように、このレジストパターン104aに基づいてマスク層103をパターニングしてマスクパターン103aを形成し、このマスクパターン103aに基づいて磁性層102を加工する。
【0011】
このように、異物111が磁性層102の加工を阻害すると磁気記録媒体に不良のセクタが生じるが、このような不良セクタを含む磁気記録媒体であっても、ハードディスクドライブでは、この不良セクタを退避して使用することが可能である。しかしながら、図4(e)に示すように、磁気記録媒体表面に残留した異物111は、ハードディスクドライブのヘッドを破損させるという問題があった。したがって、このような異物111は除去する必要がある。また、このような異物111は、マスクパターン103aをイオンミリング等により除去する際に一緒に除去される場合もあるが、異物111の材質によっては除去されないという問題があった。さらに、異物111が除去された場合であっても、図4(f)に示すように、異物111の陰の部分に残存したマスク層103bが磁気記録媒体の表面に残りヘッドを損傷させる可能性があるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁気記録媒体の表面の異物を効率良く確実に除去することができ、当該磁気記録媒体の表面に残存したマスク層が残留することがなく、磁性層のパターン形成の生産性が高い磁気記録媒体の製造方法及びこの製造方法により製造された磁気記録媒体、並びにこの磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意努力研究した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下に関する。
[1] 磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成する工程と、前記磁性層上にマスク層を形成する工程と、前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成する工程と、前記マスクパターンを用いて前記磁性層に磁気記録パターンを形成する工程と、前記マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程と、前記マスクパターンを除去する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[2] 前記マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程は、研磨材を含むテープを前記マスクパターンに押しあてて擦過させる工程であることを特徴とする[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[3] 前記マスクパターンの表面を研磨剤によりバーニッシュする前に、前記マスクパターンの表面に潤滑剤を塗布することを特徴とする[1]又は[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[4] 前記潤滑剤を1Å以上の膜厚となるように塗布することを特徴とする[3]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[5] 前記マスクパターンを用いて前記磁性層に磁気記録パターンを形成する工程は、前記磁性層の前記マスクパターンに被覆されていない領域を反応性プラズマ又は反応性イオンの雰囲気中に曝露して、前記磁性層の前記領域の磁気特性を変化させる工程であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[6] [1]乃至[5]のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造した磁気記録媒体。
[7] [6]に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部とを備えてなる磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁性層のパターン形成を高い効率で行うことが可能となる。すなわち、磁性層のパターン形成の歩留まりを高め、また形成するパターンも高精度のものとすることが可能となる。よって、高い電磁変換特性、記録密度を有する磁気記録媒体を生産性高く提供可能な磁気記録媒体の製造方法を提供できる。また、本発明によれば、高い電磁変換特性、記録密度を有する磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明を適用した一実施形態である磁気記録媒体の製造方法を示す工程図である。また、図2は、本発明を適用した一実施形態である磁気記録媒体の製造方法に適用可能な表面処理装置を示す模式図である。なお、以下の図は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の研磨装置、磁気記録媒体、磁気記録再生装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0016】
<磁気記録媒体の製造方法>
先ず、本発明を適用した一実施形態である磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であり、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成する工程と、磁性層上にマスク層を形成する工程と、マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成する工程と、マスクパターンを用いて磁性層に磁気記録パターンを形成する工程と、マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程と、マスクパターンを除去する工程とから概略構成されている。
以下に、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法の各工程について、磁気記録媒体及び表面処理装置(バーニッシュ装置)と共に詳細に説明する。
【0017】
(磁気記録媒体)
本実施形態の磁気記録媒体は、例えば、非磁性基板の表面に軟磁性層、中間層、磁気パターンが形成された磁性層、保護膜を積層した構造を有しており、さらに最表面には潤滑膜が形成されて構成されている。また、図1(i)に示すように、本実施形態の磁気記録媒体10では、非磁性基板1、磁性層2(磁気記録パターン2A)、保護層9を必須構成として備えており、それ以外の層は適宜設けることが可能である。したがって、図1(a)〜図1(i)では、磁気記録媒体10を構成する非磁性基板1、磁性層2、保護層9以外の他の層、例えば、潤滑層やシード層、下地層、裏打ち層、中間層、軟磁性層等の記載は省略するものとする。
【0018】
(磁性層の形成工程)
先ず、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成する工程について説明する。この磁性層の形成は、スパッタ法等の一般的な薄膜形成方法を用いて行う。これにより、図1(a)に示すように、非磁性基板1上に磁性層2の薄膜を形成することができる。
【0019】
「非磁性基板」
非磁性基板1には、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。上述した材質の中でも、Al合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板、又はシリコン基板を用いることが好ましい。また、これらの基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが特に好ましい。
【0020】
「磁性層」
磁性層2は、主としてCoを主成分とする合金から形成することが好ましい。磁性層2として、CoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtB−X、CoCrPtB−X−Yに酸化物を添加した合金や、CoCrPt−O、CoCrPt−SiO、CoCrPt−Cr、CoCrPt−TiO、CoCrPt−ZrO、CoCrPt−Nb、CoCrPt−Ta、CoCrPt−Al、CoCrPt−B、CoCrPt−WO、CoCrPt−WOなどのCo系合金を例示することができる。なお、上記の構成材料中のXは、Ru、W等を示しており、Yは、Cu、Mg等を示している。また、磁性層2は、酸化物を0.5原子%〜6原子%の範囲内で含むことが好ましい。
【0021】
磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは5nm以上15nm以下の範囲である。磁性層2は、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。このため、磁性層2の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るためにある程度以上の磁性層膜厚が必要である。一方、記録再生特性を表す諸パラメーターは、出力の上昇と共に劣化するのが通例であるため、磁性層2を最適な膜厚に設定する必要がある。
【0022】
(マスク層の形成工程)
次に、磁性層上にマスク層を形成する工程について説明する。このマスク層の形成は、スパッタ法等の一般的な薄膜形成方法を用いて行う。これにより、図1(b)に示すように、磁性層2の上にマスク層3の薄膜を形成することができる。
【0023】
「マスク層」
マスク層3は、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO、Ta、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれた何れか一種以上を含む材料で形成することができる。このような材料を用いることにより、マスク層3の、後述するミリングイオン6に対する遮蔽性を向上することができる。また、マスク層3による後述する磁気記録パターン2Aの形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易であるため、後述する不活性ガス照射工程(図1(h)参照)において、残留物を減らし、磁気記録媒体10表面の汚染を減少させることができる。
【0024】
また、本実施形態のマスク層3には、本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上述した材料の中で、As、Ge、Sn、Gaを用いるのが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いるのがより好ましく、Mo、Ta、Wを用いるのが最も好ましい。さらに、マスク層3の厚さは、一般的には1nm〜20nmの範囲であることが好ましい。
【0025】
(マスクパターンの形成工程)
次に、マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成する工程について説明する。このマスクパターンの形成工程は、先ず、図1(c)に示すように、マスク層3上にレジストを塗布してレジスト層4を形成する。レジストの塗布方法は、特に限定されるものではなく、スピンコート等の一般的な薄膜形成方法を用いることができる。また、レジスト層4の厚さは、一般的には10nm〜100nmの範囲が好ましい。
【0026】
次に、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン(記録トラックを分離するために、記録トラックに対応してレジスト層に凹部を形成したもの)を転写してレジストパターンを形成する。このレジストパターンの形成は、図1(d)に示すように、スタンプ5を用いたナノインプリント方法により行うことが好ましい。具体的には、レジスト層4の形成後の流動性が高い状態において、このレジスト層4にネガパターンが形成されたスタンプ5を押圧する。そして、スタンプ5をレジスト層4に押圧した状態で、レジスト層4に放射線を照射して硬化させる。その後、スタンプ5をレジスト層4から離すことにより、スタンプ5に形成されたネガパターンの形状を精度良く、レジスト層4に転写することができ、レジストパターン4aを形成することができる。なお、図1(d)中に示す矢印Sは、スタンプ5の動きを示すものである。
【0027】
レジストパターン4aを形成後のレジスト層4の凹部4bの厚さは、0〜10nmの範囲内とすることが好ましい。レジスト層4の凹部4bの厚さをこの範囲とすることにより、後述する図1(e)で示したマスク層3のエッチングにおいて、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層3の後述するミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させると共に、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。
【0028】
レジスト層4に照射する放射線には、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波を用いることができる。また、放射線の照射は、スタンプ5をレジスト層4に押圧した状態で照射する場合に限定されるものではなく、レジスト層4にパターンを転写後に当該レジスト層4からスタンプ5を離した後に照射するものであっても良い。さらに、レジスト層4に放射線を照射する方法は、特に限定されるものはなく、例えば、スタンプ5の反対側、すなわち基板側1側から放射線を照射する方法、スタンプ5の材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ5側から放射線を照射する方法、スタンプ5の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ5または基板1からの熱伝導により放射線を照射する方法等を適宜選択することができる。このようにナノインプリント方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5に形成されたネガパターンの形状を精度良く転写してレジストパターン4aを形成することができる。
【0029】
「レジスト層」
レジスト層4に用いるレジスト材料は、放射線照射により硬化性を有する材料を適用することができる。また、放射線照射により硬化性を有する材料は、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。本実施形態では、レジスト材料としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
「スタンプ」
スタンプ5に用いるスタンプ材料には、紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。これにより、スタンプ5をレジスト層4に押圧した状態で紫外線を照射した場合であっても、スタンプ5が紫外線を透過することができるため、レジスト層4に効率的に紫外線を照射することができる。また、紫外線を透過するスタンプ5は、マザースタンパを用いて作製したものであってもよい。このマザースタンパは、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したものが使用でき、材料としてはプロセスに耐えうる硬度、耐久性が要求される。たとえばNiなどが使用できるが、前述の目的に合致するものであれば材料は問わない。そして、マザースタンパには、通常のデータを記録するトラックの他にバーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成できる。これにより、スタンプ5に磁気記録パターンのネガパターンを形成することができる。
【0031】
次に、図1(e)に示すように、レジストパターン4aに被覆されていないマスク層4の領域を除去してマスクパターン3aを形成する。マスク層4の上記領域の除去方法には、具体的には、反応性ガスを用いたドライエッチングを用いることができる。なお、図1(d)に示すように、レジスト層4の凹部4bにレジストが残存する場合には、この残存するレジストを除去した後に、マスク層3のパターニングを行う。以上のようにして、磁性層2上にマスクパターン3aを形成する。
【0032】
(磁気記録パターンの形成工程)
次に、マスクパターンを用いて磁性層に磁気記録パターンを形成する工程について説明する。この磁気記録パターンの形成工程は、先ず、イオンミリング等により磁性層2の表層の一部を除去することが好ましい。磁性層2の表層の一部を除去すると、後述するように反応性プラズマ又は反応性イオンの雰囲気中に曝露して磁性層2の磁気特性を改質させる際に、磁性層2の一部を除去しなかった場合に比べて磁気記録パターン2Aのコントラストがより鮮明になるため好ましい。また、図1(i)に示す磁気記録媒体10のS/Nが向上するため好ましい。これは、磁性層2の表層部を除去することにより、その表面の清浄化・活性化が図られ、反応性プラズマ又は反応性イオンとの反応性が高まるためと考えられる。また、磁性層2の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて磁性層2に反応性イオン等が侵入しやすくなるためと考えられる。
【0033】
具体的には、図1(f)に示すように、磁性層2のマスクパターン3aに被覆されていない領域の表層部をイオンミリングにより除去する。なお、ミリングイオン6が照射されて磁性層2に形成された凹部7の深さdは、0.1〜15nmの範囲であることが好ましく、1〜10nmの範囲であることがより好ましい。深さdが0.1nm未満の場合は、前述した磁性層2を除去する効果が得られないため好ましくない。一方、深さdが15nmを越えると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化してしまい、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなるため好ましくない。
【0034】
次に、磁性層2のマスクパターン3aに被覆されていない領域を反応性プラズマ又は反応性イオンの雰囲気中に曝露して、磁性層2の当該領域の磁気特性を変化させる。具体的には、例えば磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する領域を、すでに成膜された磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層2の磁気特性を改質(磁気特性の低下)する。上記の磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する箇所を改質する方法には、成膜された磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層2を非晶質化する方法を例示できる。また、本実施形態における磁性層2の磁気特性の改質とは、磁性層の結晶構造の改変によって実現することも含む。さらに、本実施形態において磁性層2を非晶質化するとは、磁性層2の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指すものとし、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指すものとする。そして、この原子配列状態(非晶状態)を分析手法により確認する場合は、X線回折又は電子線回折において結晶面を表すピーク波形が認められず、ハローな波形が認められるのみの状態を指す。
【0035】
反応性プラズマは、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)を例示することができる。また、反応性イオンには、前述の誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンを例示することができる。
【0036】
誘導結合プラズマは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。この誘導結合プラズマは、電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合と比較して、広い面積の磁性層2において、高い効率で磁気特性の改質を実現することができる。また、反応性イオンプラズマは、プラズマ中にO、SF、CHF、CF、CCl等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。本実施形態では、このようなプラズマを反応性プラズマとして用いることで、磁性層2の磁気特性の改質をより高い効率で実現することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、反応性プラズマもしくは反応性イオンが、ハロゲンイオンを含有していることが好ましい。また、このハロゲンイオンが、CF、SF、CHF、CCl、KBrからなる群から選ばれた何れか1種以上のハロゲン化ガスを反応性プラズマ中に導入して形成されたハロゲンイオンであることが好ましい。これにより、磁性層2とプラズマとの反応性を高めることができ、形成する磁性層パターンをシャープにする上で好ましい。なお、この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、磁性層2の表面に形成している異物をエッチングし、これにより磁性層2の表面が清浄化し、磁性層2の反応性が高まることが考えられる。また、清浄化した磁性層2の表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。
【0038】
また、本実施形態では、成膜された磁性層2を反応性プラズマにさらすことにより磁性層2を改質するが、この改質は、磁性層2を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子またはイオンとの反応により実現することが好ましい。上記の反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入して例えば、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属が窒化すること、磁性金属が珪化すること等をいうものとする。以上のようにして、磁気記録パターン2Aを形成する。
【0039】
なお、本実施形態では、磁性層2のマスクパターン3aで被覆されていない領域を反応性プラズマ又は反応性イオンの雰囲気中に曝露する前に上述のようにイオンミリングする工程を含むことが好ましいが、このイオンミリングする工程はなくても可能である。この場合には、磁性層2のマスクパターン3aで被覆されていない領域が反応性プラズマや反応性イオンにさらされることになる。
さらに、本実施形態では、磁性層2の磁気特性を部分的に改質して磁気記録パターン2Aを形成しているが、このような工程を適用せずに、磁性層2を部分的に物理的に除去し、その除去した箇所に非磁性材料を埋め込むことによって磁性層2に磁気記録パターン2Aを形成しても良い。
【0040】
「磁気記録パターン」
本実施形態において、磁気的に分離した磁気記録パターン2Aとは、後述する図1(g)に示すように、磁気記録媒体を上面側から見た場合において、磁性層2が非磁性化等した領域21により分離された状態を指すものとする。すなわち、磁性層2が表面側から見て分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。また、本実施形態の磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
【0041】
上述したように本実施形態では、磁気的に分離した磁気記録パターン2Aが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用することが、その製造における簡便性から好ましい。また、本実施形態では、磁気記録パターン2Aを形成するための磁性層2の改質とは、磁性層をパターン化するために、非磁性化することの他、磁性層の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指すものであり、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化等を下げることを指すものである。
【0042】
(バーニッシュ工程)
次に、マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程について説明する。このバーニッシュ工程には、図2に示すような表面処理装置30を用いて、マスクパターン3aの表面を研磨材によりバーニッシュする。なお、バーニッシュとは、具体的には、研磨材を用いてマスク層に残留する異物を削り落とすことをいう。また、本実施形態では、マスクパターン3aの表面を研磨材によりバーニッシュする工程を、研磨材を含むテープ(研磨テープ)をマスク面に押しあて、擦過させることで行うことが好ましい。
【0043】
「表面処理装置」
表面処理装置30は、図2に示すように、マスク層が残留する磁気記録媒体8を研磨加工する研磨テープ32と、この研磨テープ32を押圧して磁気記録媒体8に接触させるパッド33とから概略構成されている。研磨テープ32は、図1(f)に示すような磁性層2(2A)とマスクパターン3a(マスク層)が形成されて、このマスク層上にレジストパターン4a(レジスト層4)が残留する磁気記録媒体8の表面8a、8bに接触して研磨加工するテープであり、図示例では、複数のガイド31によって保持され、R方向からR方向に巻き送り可能に設けられている。研磨テープ32は、図示略の回動手段によってR方向からR方向に巻き送りされることにより、研磨加工に使用された部分が図示略の回収手段に巻き取られるとともに、未使用部分が磁気記録媒体8と相対する位置に繰り出されるようになっている。
研磨テープ32のベースの材質としては、例えば、PET等の樹脂が用いられる。また研磨テープ32の片側の表面に付着される砥粒としては、アルミナ、炭化珪素、ダイヤモンド等が用いられる。
【0044】
パッド33は、研磨テープ32を押圧して磁気記録媒体8に接触させる機能を有する部材であり、材質としては、樹脂や織布が用いられる。またこの部材をゴムローラ(バッキングゴムローラとも呼ぶ。)とすることも可能である。図示例では、パッド33は、金属製のブロック34に取り付けられている。このブロック34は、表面処理装置30の待機時は、図2(a)に示すように、研磨テープ32とパッド33が接触しない位置となるように配されているが、磁気記録媒体8を研磨加工する際は、図2(b)に示すように、図示略の駆動手段によってF1、F2方向に向けて動作するように設けられている。そして、このようなブロック34の動作に伴い、パッド33が研磨テープ32を押圧するように構成されている。なお符号35は、パッド33に帯電した静電気を逃がすためのアース線である。さらに、スピンドル36は、図示略のモータによって回転し、取り付け部37に取り付けられた磁気記録媒体8を回転させるものである。
【0045】
本実施形態では、上述した表面処理装置30によりマスクパターン3aまたはレジストパターン4aの表面を研磨材によりバーニッシュすることにより、パターニングした磁性層2を傷つけることなく、マスク層3等に残留し、または食い込んだ異物を効率良く除去することができる。また、本実施形態では、バーニッシュ工程の前に、マスクパターン3a又はレジストパターン4aが残留する場合にはレジストパターン4aの表面に潤滑剤を塗布することが好ましい。マスクパターン3a等の表面に潤滑剤を塗布することにより、バーニッシュ工程で磁性層2に傷が付くことが更に少なくなり、より安定してマスク層3(マスクパターン3a)表面等から異物を除去することが可能となる。さらに、本実施形態に適用可能な潤滑剤には、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、平均膜厚1Å以上の厚さで潤滑剤を塗布することが好ましい。なお、塗布する潤滑剤が薄くなると、潤滑剤は塗布表面で連続膜とはならない。本願発明で塗布する潤滑剤は、塗布表面において連続膜とならないアイランド状の場合であっても効果がある。この場合、潤滑剤の厚さは平均膜厚で表現する。
【0046】
なお、本実施形態では、図1(f)に示すように、マスク層3が残留する磁気記録媒体8のマスクパターン3a上にレジストパターン4aが残っている。しかしながら、このレジストパターン4aは、前述の反応性プラズマ等の雰囲気中に曝露する工程によって膜厚が薄くなり又は劣化しているため、バーニッシュ工程によってマスク層3に残存する異物が除去されやすくなっている。加えて、レジストパターン4aは、前述の反応性プラズマによって無くなっている場合もある。すなわち、本実施形態のバーニッシュ工程とは、マスクパターン3a(マスク層3)を直接バーニッシュする場合を含む他、レジストパターン4a(レジスト層4)を介してマスクパターン3aの表面をバーニッシュし、その表層部に残存する異物を除去することを当然に含んでいる。
【0047】
(マスクパターンの除去工程)
次に、マスクパターンを除去する工程について説明する。このマスクパターンの除去工程は、図1(g)に示すように、レジストパターン4a及びマスクパターン3aを除去する工程である。この工程には、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を用いることができる。なお、本実施形態では、当該マスクパターンの除去工程の前に、前述のバーニッシュ工程を設けているので、レジストパターン4a及びマスクパターン3aは薄くなり、又は、ある程度除去され、又は、レジストパターン4aは無くなり、あるいは、ドライエッチング等に際して障害となる異物等が除去されている。したがって、レジストパターン4a及びマスクパターン3aの除去をより確実に、かつ、残留物が無いように行うことが可能となる。
【0048】
(不活性ガスの照射工程)
次に、本実施形態では、図1(h)に示すように、磁性層パターン2Aが形成された磁性層2に不活性ガスを照射して、磁性層2を安定化させることが好ましい。このような工程を設けることにより、磁性層2が安定し、高温多湿環境下においても磁性粒子のマイグレーション等の発生を抑制することができる。このマイグレーション等が抑制される理由は明らかではないが、磁性層2の表面に不活性元素が侵入することにより磁性粒子の移動が抑制されること、又は、不活性ガスの照射により磁性層2の活性な表面が除去され、磁性粒子のマイグレーション等が抑制されることが考えられる。
【0049】
「不活性ガス」
上述の不活性ガスには、Ar、He、Xeからなる群から選ばれた何れか1種以上のガスを用いることが好ましい。これらの元素は安定であり、磁性粒子のマイグレーション等の抑制効果が高いからである。また、不活性ガスの照射方法には、イオンガン、ICP,RIEからなる群から選ばれた何れかの方法を用いることが好ましい。特に、照射量の多さの点で、ICP,RIEを用いることが好ましい。ICP,RIEについては前述したとおりである。
【0050】
(保護層の形成工程)
最後に、本実施形態では、図1(i)に示すように、磁性層パターン2Aが形成された磁性層2の上に保護層9を形成し、この保護層9上に潤滑剤を塗布する工程を採用することが好ましい。保護膜9の形成方法は、特に限定されるものではないが、一般的にはダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon)の薄膜をP−CVD装置を用いて成膜する方法により行われる。
【0051】
「保護膜」
保護膜9には、炭素(C)、水素化炭素(HC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層や、SiO、Zr、TiNなど、通常用いられる保護膜材料を用いることができる。また、保護膜9を2層以上の層から構成してもよい。また、保護膜9の膜厚は、10nm未満とする必要がある。保護膜9の膜厚が10nmを越えるとヘッドと磁性層との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるため好ましくない。なお、保護膜9の上には、潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層を形成することが好ましい。
以上のようにして、図1(i)に示すように、磁気記録媒体10が製造される。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法によれば、磁性層2を、マスクパターン3aを用いてパターニングした後に、マスクパターン3aの表面を研磨材によりバーニッシュするため、磁気記録媒体の表面に残留した異物を除去することができる。その後にマスクパターン3aを除去することにより、異物を効率良く確実に除去し、磁気記録媒体の表面に、異物や、異物の陰に残存するマスク層を残留することがない。したがって、このような工程を採用することにより磁性層のパターン形成を高い効率、生産性で行うことが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の製造方法によれば、磁気トラック間領域(磁性層を分離する領域)の磁気特性を低下、例えば保磁力、残留磁化を極限まで低減させることにより磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体10を提供することが可能となる。
【0054】
以上のように、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体10の表面の異物を効率良く確実に除去することができ、当該磁気記録媒体10の表面に残存したマスク層3が残留することがなく、磁性層2のパターン形成の生産性が高い磁気記録媒体10の製造方法及び磁気記録媒体10を提供することができる。
【0055】
<磁気記録再生装置>
次に、本発明を適用した一実施形態である磁気記録再生装置について説明する。図3は、本実施形態の磁気記録再生装置を示す斜視図である。
本実施形態の磁気記録再生装置20は、図3に示すように、上述の磁気記録媒体10と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部21と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド27と、磁気ヘッド27を磁気記録媒体30に対して相対運動させるヘッド駆動部28と、磁気ヘッド27への信号入力と磁気ヘッド27からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系29とを具備したものである。これらを組み合わせることにより記録密度の高い磁気記録再生装置20を構成することが可能となる。なお、磁気記録媒体10の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0056】
さらに上述の磁気ヘッド27の再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置20を実現することができる。またこの磁気ヘッド27の浮上量を0.005μm〜0.020μmと従来よりも低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置20を提供することができる。また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録、再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の磁気記録再生装置20によれば、高い電磁変換特性、記録密度を有する磁気記録媒体10を備える磁気記録再生装置20を提供することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<評価試料の作製:実施例1〜9、比較例1,2>
実施例1〜9及び比較例1,2の磁気記録媒体を、本発明を適用して以下のように製造した。先ず、HD用のガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10−5Pa以下に真空排気した。ここで、使用したガラス基板は、LiSi、Al−KO、Al−KO、MgO−P、Sb−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスであり、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は、2オングストロームであった。
【0060】
次に、上記のガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として65Fe−30Co−5B、中間層としてRu、磁性層として、グラニュラ構造の垂直配向の磁性層を形成した。また、磁性層の合金組成は、Co−10Cr−20Pt−8(SiO)(これらはモル比)とし、膜厚は150Åとした。また、他の層の膜厚は、FeCoB軟磁性層は600Å、Ru中間層は100Åとした。次に、上記の磁性層の上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した。このマスク層には、Taを用いて膜厚を60nmに形成した。さらに、上記のマスク層の上にレジストをスピンコート法により塗布してレジスト層を形成した。レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。また、膜厚は、100nmとした。
【0061】
次に、上記のレジスト層の上に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、このスタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で、レジスト層に押圧した。なお、このスタンプには、紫外線の透過率が95%以上のガラス製のものを用いた。次に、スタンプがレジスト層を押圧した状態で、波長250nmの紫外線をスタンプの上部から10秒間照射してレジストを硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離して磁気記録パターンをレジスト層に転写して、レジストパターンを形成した。このレジストパターンは、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状であり、レジスト層の層厚が80nm、レジスト層の凹部の厚さが約5nmであった。また、レジスト層凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
【0062】
次に、上記のレジストパターンの凹部の底部及びマスク層であるTa層をドライエッチングによって除去してマスクパターンを形成した。上記のドライエッチングは、レジスト層に関しては、Oガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒のエッチング条件を用いて行い、マスク層であるTa層に関しては、CFガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒のエッチング条件を用いて行った。
【0063】
その後、磁性層のマスクパターンに被覆されていない領域について、その表面をイオンミリングにより除去した。イオンミリングには、Arイオンを用いた。また、イオンミリングの条件は、高周波放電力:800W、加速電圧:500V、圧力:0.014Pa、Ar流量:5sccm、処理時間:40秒、電流密度:0.4mA/cmとした。次に、イオンミリングを施した表面を反応性プラズマの雰囲気中に曝露して、磁性層のマスクパターンに被覆されていない領域の磁気特性の改質を行った。上記の反応性プラズマ処理には、アルバック社の誘導結合プラズマ装置NE550を用いた。この反応性プラズマには、CFガスを用いて、流量を90cc/minとした。また、反応性プラズマの処理条件は、プラズマ発生のための投入電力:200W、装置内の圧力:0.5Pa、処理時間:300秒とした。その後、ガスをCFからOに変えて、さらに磁性層を50秒間処理した。
【0064】
次に、実施例1〜5,8,9及び比較例1について、基板表面に潤滑剤を塗布した。潤滑剤には、フッ素系の潤滑剤としてZ−dol 2000を用いた。また、潤滑剤の塗布膜厚は、5〜20オングストロームとした。この潤滑剤の塗布条件を表1に示す。
次に、実施例1〜9について、マスク層(マスクパターン)及びレジスト層(レジストパターン)の表面を研磨テープによりバーニッシュ処理をした。この研磨テープには、研磨材として粒径0.3μmのAlを用いた住友スリーエム株式会社製、型番DQ3を用いた。なお、実施例1〜9のバーニッシュ条件を表1に示す。
【0065】
次に、実施例1〜9及び比較例1,2について、レジスト層(レジストパターン)及びマスク層(マスクパターン)をドライエッチングにより除去した。上記のドライエッチングは、ガス:SF、流量:100sccm、圧力:2.0Pa、高周波プラズマ電力:400W、処理時間:300秒の処理条件を用いて行った。次に、磁性層の表面に不活性ガスプラズマを照射した。不活性ガスプラズマは、不活性ガス:Ar、流量:5sccm、圧力:0.014Pa、加速電圧:300V、電流密度:0.4mA/cm、処理時間:15秒の条件を用いて照射した。最後に、磁性層の表面にCVD法にてカーボン(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)保護膜を4nm成膜し、その後、潤滑剤として、Z−dol 2000を20オングストローム塗布して、実施例1〜7及び比較例1,2の磁気記録媒体を製造した。
【0066】
<評価方法>
実施例1〜9及び比較例1,2の磁気記録媒体についてグライド検査を実施した。グライド検査は、衝撃センサーを付けたヘッドスライダーを磁気記録媒体表面から高さ6nm浮上させて磁気記録媒体表面を走査し、センサーから検出された衝撃物の個数をカウントした。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
<評価結果>
表1に示すように、マスク層の除去工程であるドライエッチングの処理前にバーニッシュ処理を行わなかった比較例1,2については、潤滑剤の塗布の有無に関わらずに衝撃物の個数が500個以上検出された。
これに対して、バーニッシュ処理を行った実施例1〜9については、磁気記録媒体表面の衝撃物の個数が112個以下であった。さらに、バーニッシュ処理の前に潤滑剤を塗布した実施例1〜5,8,9については、衝撃物の個数が12個以下に抑制されたことを確認した。
以上のように、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録媒体の表面の異物を効率良く確実に除去することができ、当該磁気記録媒体の表面に残存したマスク層が残留することがないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、高記録密度の磁気記録媒体を、高い生産性で提供することが可能となり産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、本発明を適用した一実施形態である磁気記録媒体の製造方法を示す工程図である。
【図2】図2は、本発明を適用した一実施形態である磁気記録媒体の製造方法に適用可能な表面処理装置を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明を適用した一実施形態である磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【図4】図4は、ナノインプリント技術を用いた従来の磁気記録媒体の製造方法を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1…非磁性基板、2…磁性層、3…マスク層、3a…マスクパターン、4…レジスト層、4a…レジストパターン、4b…凹部、5…スタンプ、6…ミリングイオン、7…磁性層に形成された凹部、8…マスク層が残留する磁気記録媒体、9…保護膜、10…磁気記録媒体、20…磁気記録再生装置、21…媒体駆動部、27…磁気ヘッド、28…ヘッド駆動部、29…記録再生信号系、30…表面処理装置、31…ガイド、32…研磨テープ、33…パッド、34…ブロック、35…アース線、36…スピンドル、37…取り付け部、d…凹部7の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成する工程と、
前記磁性層上にマスク層を形成する工程と、
前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成する工程と、
前記マスクパターンを用いて前記磁性層に磁気記録パターンを形成する工程と、
前記マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程と、
前記マスクパターンを除去する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記マスクパターンの表面を研磨材によりバーニッシュする工程は、研磨材を含むテープを前記マスクパターンに押しあてて擦過させる工程であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記マスクパターンの表面を研磨剤によりバーニッシュする前に、前記マスクパターンの表面に潤滑剤を塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記潤滑剤を1Å以上の膜厚となるように塗布することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記マスクパターンを用いて前記磁性層に磁気記録パターンを形成する工程は、前記磁性層の前記マスクパターンに被覆されていない領域を反応性プラズマ又は反応性イオンの雰囲気中に曝露して、前記磁性層の前記領域の磁気特性を変化させる工程であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造した磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部とを備えてなる磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−205750(P2009−205750A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47630(P2008−47630)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】