説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】イオン注入の際にマスクとして用いたレジストを効率よく除去することができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】イオン注入処理の終了後、レジストパターンをアッシングする前に、レジストパターンをフッ素処理する。上記フッ素処理によって、イオンの照射により変質したレジストパターンは、上記アッシングによる除去処理に適した物質へ変換される。これにより、アッシング工程において効率よくレジストパターンを除去することが可能となる。また、レジストの残渣量が低減されることで、表面平坦度の高い磁気記録媒体を安定して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパターンドメディアの製造に用いられる磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスクリートトラック(DTR)、ビットパターンメディア(BPM)等のパターンドメディアにおいては、磁性領域である記録領域に隣接して、記録領域を個々に分離するための非磁性の分離パターンが形成されている。分離パターンには、UVレジストやハードマスク、スピンオングラス(SOG)等が用いられ、パターンマスクが磁性層の上に形成される。そして、このパターンマスクを介して磁性層をエッチングしたり、磁性層にイオン注入を施したりすることで、磁性層内に磁性劣化させた分離パターンを形成している。例えば特許文献1には、イオン注入によって非磁性領域を形成する磁気記録媒体の製造方法が記載されている。
【0003】
パターンドメディアに代表される高密度磁気記録媒体においては、磁気ヘッドと対向する表面に高度な平坦性が要求される。このため、分離パターンの形成後、レジストパターンは、磁性層の表面から除去される。例えば特許文献2には、酸素プラズマのアッシングによるレジストの除去方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−170062号公報
【特許文献2】特開2002−359138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イオン注入後のレジストパターンは、イオンの照射により変質し、酸素プラズマを用いた通常のアッシング処理によってはレジストパターンを十分に除去することができず、磁性層表面にレジストの残渣が発生するという問題がある。例えば、注入イオンに窒素イオンを用いた場合、有機材料で形成されているレジストの一部の領域が窒素と結合し、当該領域においてアッシングに必要な反応が十分に得られなくなることが原因であると推量される。これにより、アッシング工程後にレジスト残渣を除去するための後処理が必要とされることもあり、効率が非常に悪かった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、イオン注入の際にマスクとして用いたレジストを効率よく除去することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板の上に磁性層を形成する工程を含む。
上記磁性層の上に、開口部を有する有機材料のレジストパターンが形成される。
上記開口部から露出する上記磁性層の露出領域にイオンを注入することで、上記露出領域が非磁性化される。
上記レジストパターンはフッ素処理される。
上記フッ素処理したレジストパターンは、非フッ素系の反応性物質を用いてアッシングされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を説明する各工程の素子の概略断面図である。
【図2】図1のアッシング工程の詳細を説明する各工程の素子の概略断面図である。
【図3】本発明の各実施例におけるレジスト残渣量に関する実験結果である。
【図4】本発明の各実施例における磁性層の保磁力に関する実験結果である。
【図5】本発明の各実施例におけるイオンドーズ量とレジスト残渣量との関係を示す実験結果である。
【図6】本発明の各実施例におけるイオンドーズ量と磁性層の保磁力との関係を示す実験結果である。
【図7】本発明の一実施例におけるフッ素処理時の基板バイアスパワーとレジスト残渣量との関係を示す実験結果である。
【図8】本発明の一実施例におけるフッ素処理時の基板バイアスパワーと磁性層の保磁力との関係を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板の上に磁性層を形成する工程を含む。
上記磁性層の上に、開口部を有する有機材料のレジストパターンが形成される。
上記開口部から露出する上記磁性層の露出領域にイオンを注入することで、上記露出領域が非磁性化される。
上記レジストパターンはフッ素処理される。
上記フッ素処理したレジストパターンは、非フッ素系の反応性物質を用いてアッシングされる。
【0010】
上記磁気記録媒体の製造方法は、イオン注入処理の終了後、レジストパターンをアッシングする前に、レジストパターンをフッ素処理する工程を有する。上記フッ素処理によって、イオンの照射により変質したレジストパターンは、上記アッシングによる除去処理に適した物質へ変換される。したがって、上記磁気記録媒体の製造方法によれば、アッシング工程において効率よくレジストパターンを除去することが可能となる。また、レジストの残渣量が低減されることで、表面平坦度の高い磁気記録媒体を安定して製造することができる。
【0011】
上記レジストパターンのフッ素処理では、フッ素を含むガスのプラズマである第1のプラズマを用いて上記レジストパターンを処理することができる。上記レジストパターンのアッシング処理では、非フッ素系のガスのプラズマである第2のプラズマを用いて上記レジストパターンを処理することができる。
上記フッ素処理により、レジストパターンは、アッシング処理時にガス化しやすい物質へ変換される。そして、上記アッシング処理により、当該フッ素処理されたレジストパターンを効率よく除去することができる。
【0012】
上記第1のプラズマを用いた処理時間を第1の時間、上記第2のプラズマを用いた処理時間を第2の時間としたとき、上記第1の時間および上記第2の時間の総和に対する上記第1の時間の比率は、5%以上55%以下とすることができる。
上記比率が5%未満の場合、レジストパターンに対してフッ素処理による効果が十分でないおそれがある。一方、上記比率が55%を超える場合、レジストパターンの下地層である磁性層に対するフッ素の影響が無視できなくなり、磁性層の保磁力の低下を招くおそれがある。したがって、上記比率を5%以上55%以下とすることにより、レジスト残渣量を低減しながら、所望の磁気特性を有する磁気記録媒体を製造することができる。
【0013】
上記レジストパターンのフッ素処理は、上記基板に0.03W/cm以上5W/cm以下のバイアス電力を印加する工程を含んでもよい。
これにより、レジストパターンのフッ素処理を促進でき、フッ素処理に要する時間の短縮を図ることができる。上記バイアス電力が0.03W/cm未満の場合、レジストパターンに対するフッ素処理が不十分となり、アッシング処理でレジストを効率よく除去できないおそれがある。一方、上記バイアス電力が5W/cmを超える場合、レジストパターンの下地層である磁性層に対するフッ素の影響が無視できなくなり、磁性層の保磁力の低下を招くおそれがある。
【0014】
磁性層の非磁性化のために注入するイオンは、特に限定されないが、例えば窒素イオンを用いることができる。これにより、フッ素処理によって、レジストパターンをアッシング処理時に除去されやすい化学的性質へ効率よく改質することが可能となる。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を概略的に説明する、主要工程の素子の断面図である。本実施形態では、磁気記録媒体として、複数の磁性領域が非磁性領域によって相互に分離されたパターンドメディアを例に挙げて説明する。
【0017】
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、磁性層の形成工程と、レジストパターンの形成工程と、イオン注入工程と、レジストパターンの除去工程と、保護膜の形成工程とを有する。
【0018】
図1(A)は、磁性層の形成工程を示している。この工程では、基板11上に磁性層12が形成される。基板11は、典型的にはガラス基板やシリコン基板であるが、勿論これらに限られない。磁性層12には、Fe、Co、Niに代表される各種強磁性金属、合金、人工格子、アモルファス金属が用いられ、特に本実施形態では軟磁気特性を有する強磁性材料が用いられる。磁性層12の形成方法は特に限定されず、スパッタリング法、蒸着法等が挙げられる。
【0019】
磁性層12は、単層構造に限られず、多層構造であってもよい。また、基板11との密着性を高めるための下地層や磁性層表面を保護する保護層等が形成されていてもよい。
【0020】
図1(B)は、レジストパターンの形成工程を示している。この工程では、後述するイオン注入処理によって磁性層12の層内に非磁性領域を形成するためのマスクとして機能するレジストパターン13が磁性層12の表面に形成される。レジストには公知の有機材料が用いられる。レジストパターン13は、磁性層12の表面にレジスト層を形成した後、当該レジスト層を所定のパターン形状に露光および現像することによって形成される。上記レジスト層は、磁性層12の表面に塗布された液状レジストでもよいし、磁性層12の表面に貼り合わされたドライフィルムレジストでもよい。
【0021】
レジストパターン13は開口部13aを有し、レジストパターン13によって被覆される領域と、開口部13aを介して露出する露出領域とに磁性層12を区画する。開口部13aは、非磁性領域の形状を決定し、開口部13aの形状および大きさは、磁気記録媒体の種類や仕様に応じて適宜設定される。例えば、パターンドメディアに代表される高密度磁気記録媒体の作製に必要なレジストパターン13の厚みおよびパターン幅は、例えば数十〜数百ナノメートルオーダとされる。
【0022】
図1(C)は、イオン注入工程を示している。この工程では、レジストパターン13をマスクとして磁性層12へイオンが照射される。レジストパターン13の開口部13aから露出する磁性層12の露出領域は、イオンが注入されることで非磁性化される。これにより、磁性層12の層内に、レジストパターン13で被覆された強磁性領域12aと、レジストパターン13の開口部13aに対応する非磁性領域12bとが形成される。
【0023】
磁性層12へ注入されるイオンは特に限定されず、本実施形態では窒素イオンが用いられる。なおこれ以外にも、酸素、ホウ素、炭素、フッ素、バリウム、アルゴン、ヘリウム等の各種イオンを用いることができる。磁性層12へ注入されるイオンの量(ドーズ量)は特に限定されず、イオンの種類や磁性層12の材料の種類等に応じて適宜設定される。
【0024】
図1(D)は、レジストパターン13の除去工程を示している。この工程では、レジストパターン13が磁性層12の上から除去される。レジストパターン13の除去工程には、主として、酸素や水素などのプラズマを利用したアッシング処理が採用される。本実施形態では、このアッシング処理の前にレジストパターン13に対するフッ素処理が実施されるが、その詳細は後述する。
【0025】
図1(E)は、保護膜の形成工程を示している。この工程では、磁性層12の表面に保護膜14が形成される。保護膜14の種類は特に限定されず、本実施形態ではダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が用いられるが、これ以外にも、スパッタカーボン膜、窒素化カーボン膜、窒素化珪素(SiN)膜などが適用可能である。保護膜14の形成方法も特に限定されず、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが用いられる。
【0026】
以上のような工程が順次実施されることにより、磁気記録媒体10が作製される。
【0027】
次に、レジストパターンの除去工程の詳細について図2を参照して説明する。図2は、イオン注入からアッシング処理までの各工程を説明する素子の模式断面図である。
【0028】
図2(A)に示すイオン注入工程では、レジストパターン13は、磁性層12へのイオンの照射領域を画定しつつ、イオンの照射を受けることで物理的および化学的変化を生じさせられる。すなわち、レジストパターン13は、イオンにより物理的にスパッタされてマスク厚みが徐々に減少させられる。また、レジストパターン13は、窒素イオンの注入を受けることで一部の領域に化学変化が生じ、C−N系の化合物(C等)が生成させられる。したがって、図2(B)に示すようにイオン注入処理の前後においてレジストパターン13は形状的に変化するだけでなく化学的にも変化する。
【0029】
このように化学構造が変化したレジストパターンは、酸素プラズマや水素プラズマを用いた通常のアッシング処理では除去され難く、磁性層表面に残渣を発生させやすい。これは、有機材料で形成されているレジストの一部の領域が窒素と結合し、当該結合領域においてアッシングに必要な反応が十分に得られなくなることが原因であると推量される。これにより、アッシング工程後にレジスト残渣を除去するための後処理が必要とされることもあり、効率が非常に悪かった。
【0030】
そこで本実施形態では、レジストパターン13のアッシング前に、レジストパターン13のフッ素処理工程を有する。図2(C)は、レジストパターン13のフッ素処理工程を概略的に示している。本実施形態では、図示しない真空チャンバ内に、イオン注入工程後の基板11が装填され、上記真空チャンバ内においてフッ素系ガスのプラズマを発生させることで、基板11上のレジストパターン13が処理される。これにより、プラズマ中のフッ素ラジカルがレジストパターン13内のC−N結合を分解し、水素プラズマあるいは酸素プラズマを用いた通常のアッシング処理によって、CHxなどの揮発しやすい状態に変換される。このような処理をアッシング前に実施することによって、図2(D)および図2(E)に示すように磁性層12の表面からレジストパターン13を容易に除去できるようになり、レジストの残渣量が低減される。
【0031】
レジストパターン13のフッ素処理およびアッシング処理は、別々の真空チャンバで実施されてもよいし、同一の真空チャンバ内において実施されてもよい。同一の真空チャンバで両処理を実施する場合、フッ素処理工程とアッシング処理工程とは、真空チャンバに導入されるプロセスガスを入れ替えることによって、切り替えることができる。この場合、プラズマの発生条件は、各工程において逐次最適化されればよい。
【0032】
フッ素処理に使用されるフッ素系ガスは特に限定されず、例えば、CF、C、C、CHF、NF、SF、あるいはこれらとAr、N、O等の混合ガスを用いることができる。
【0033】
アッシング処理に使用されるガスは、H、O、O、あるいはこれらとAr、N2等の混合ガスを用いることができる。
【0034】
上述のフッ素処理工程では、レジストパターン13の一部はフッ素ラジカルとの反応によりCFxを生成して揮発し、フッ素処理の前後においてレジストパターン13の厚みあるいはパターン幅が減少する。一方、磁性層12とフッ素ラジカルとの反応は磁性の劣化を引き起こすため、処理時間が長くなるに従い、強磁性領域12aの磁気特性の低下を招くおそれがある。磁気特性の低下には、例えば保磁力、残留磁化の低下が挙げられる。したがって、フッ素処理に要する時間は、レジストパターン13の性状、アッシング処理条件、要求される素子の磁気特性等に応じて適宜設定される。
【0035】
本実施形態では、フッ素処理の処理時間を第1の時間、アッシング処理の処理時間を第2の時間としたとき、第1の時間および第2の時間の総和に対する第1の時間の比率が5%以上55%以下とされている。上記比率が5%未満の場合、レジストパターン13に対してフッ素処理による効果が十分でないおそれがある。一方、上記比率が55%を超える場合、レジストパターン13の下地層である磁性層(強磁性領域12a)に対するフッ素の影響が無視できなくなり、磁性層の保磁力の低下を招くおそれがある。したがって、上記比率を5%以上55%以下とすることにより、レジスト残渣量を低減しながら、所望の磁気特性を有する磁気記録媒体を製造することができる。
【0036】
また、上述のフッ素処理において、基板11に適宜のバイアス電力が印加されてもよい。これにより、レジストパターン13のフッ素処理を促進でき、フッ素処理に要する時間の短縮を図ることができる。
【0037】
バイアス電力(パワー密度)は特に限定されないが、例えば、0.03W/cm以上5W/cm以下とすることができる。上記バイアス電力が0.03W/cm未満の場合、レジストパターン13に対するフッ素処理が不十分となり、アッシング処理でレジストパターン13を効率よく除去できないおそれがある。一方、上記バイアス電力が5W/cmを超える場合、レジストパターン13の下地層である磁性層(強磁性領域12a)に対するフッ素の影響が無視できなくなり、磁性層の保磁力の低下を招くおそれがある。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、アッシング工程において効率よくレジストパターン13を除去することができる。また、レジストの残渣量が低減されることで、表面平坦度の高い磁気記録媒体10を安定して製造することができる。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
磁性層上に形成した厚み30nmの有機レジストに窒素イオンを注入した後、当該レジストのアッシング処理を実施した。磁性層を構成する強磁性材料は、厚み20nmのCoCrPtとした。有機レジストには、市販のレジスト材料(モレキュラーインプリンツ社製)を用いた。イオンのドーズ量[atoms/cm]は、1×1015(1E+15)、1×1016(1E+16)、5×1016(5E+16)とした。
【0040】
前処理として、図2(C)を参照して説明したフッ素処理を実施し、後処理として、図2(D)に示したアッシング処理を実施した。前処理には、ICPプラズマ処理装置(アルバック社製、NE-5700)を用い、後処理にはマイクロ波プラズマ処理装置(アルバック社製、NA-1300)を用いた。前処理および後処理の処理条件は、それぞれ以下のとおりとした。
(前処理)
ICP:アンテナ周波数12.5MHz、パワー密度6W/cm
基板バイアス:周波数13.56MHz、パワー密度3W/cm
処理ガス:CF
圧力:5Pa
(後処理)
マイクロ波:周波数2.45GHz、パワー密度6W/cm
処理ガス:10%N90%H
圧力:100Pa
【0041】
前処理の処理時間と後処理の処理時間との合計は60秒とした。そして、前処理の処理時間を3秒(時間比率5%)、後処理を57秒としたときの磁性層表面のレジスト残渣量と、磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。残渣量の測定には原子間力顕微鏡(ナノテクノロジーズ社製、Nano-I)を用い、保磁力の測定にはカー効果測定装置(日本分光社製、K-250)を用いた。
【0042】
[実施例2]
上記前処理の処理時間を12秒(時間比率20%)、上記後処理の処理時間を48秒とした以外は、実施例1と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0043】
[実施例3]
上記前処理の処理時間を30秒(時間比率50%)、上記後処理の処理時間を30秒とした以外は、実施例1と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0044】
[実施例4]
上記前処理の処理時間を33秒(時間比率55%)、上記後処理の処理時間を27秒とした以外は、実施例1と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0045】
[比較例1]
上記前処理を省略し、上記後処理のみを実施した以外は、上述の実施例1と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0046】
[比較例2]
上記前処理に先立って上記後処理を実施し、その後、上記前処理を実施した。上記後処理の処理時間を42秒(時間比率70%)、上記前処理の処理時間を18秒とした以外は、上述の実施例1と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0047】
[比較例3]
上記後処理の処理時間を48秒(時間比率80%)、上記前処理の処理時間を12秒とした以外は、上述の比較例2と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0048】
[比較例4]
上記後処理の処理時間を57秒(時間比率95%)、上記前処理の処理時間を3秒とした以外は、上述の比較例2と同一の条件でレジストの残渣量および磁性層の保磁力をそれぞれ測定した。
【0049】
実施例1〜4および比較例1〜4におけるレジストの残渣量および磁性層の保磁力の測定結果を図3および図4にそれぞれ示す。図3の横軸の「処理前ref」は、アッシング処理(前処理および後処理)前のレジストの初期膜厚を示している(図5、図7において同じ)。また、図4の横軸の「処理前ref」は、処理前の磁性層の保磁力を示しており、各例の保磁力は、当該処理前の保磁力の相対比で示されている(図6において同じ)。なお図4は、イオンのドーズ量が1E+16[atoms/cm]の場合を示している。
【0050】
図3に示すように、フッ素処理(前処理)のない比較例1を除いて、レジストの残渣量を2nm以下に低減できることが確認された。このことから、フッ素処理の実施により、レジストの除去効果が大きく高まることが確認された。
【0051】
一方、図4に示すように、磁性層の保磁力に関しては、実施例1〜4に比べて、比較例2〜4は顕著な低下が認められた。これは、フッ素処理がアッシング処理の後に実施されたことで磁性層がフッ素の影響を受けたためであると推認される。したがって、アッシング処理の前にフッ素処理を実施することは、磁性層の磁気特性の低下防止に大きく貢献する。また、フッ素処理の時間比率が5%〜50%である実施例1〜3においては、保磁力の低下が0.05%以下に抑えられることが確認された。
【0052】
次に、実施例1〜3において、イオンのドーズ量の違いによるレジスト残渣量を測定したところ、図5に示すような結果が得られた。各実施例ともに、イオンのドーズ量による残渣の違いは、ほとんど認められなかった。
【0053】
一方、実施例1〜3において、イオンのドーズ量の違いによる磁性層の保磁力の変化を測定したところ、図6に示すような結果が得られた。各実施例ともに、イオンのドーズ量による保磁力の差は、ほとんど認められなかった。
【0054】
図7および図8は、実施例2において基板にバイアス電力を印加してフッ素処理(前処理)を実施したときの、バイアス電力とレジストの残渣量および磁性層の保磁力との関係をそれぞれ示す実験結果である。
【0055】
図7に示すように、基板にバイアス電力を印加することで、レジスト残渣の低減効果が高くなることが確認された。また、バイアスバイアスパワー密度が0.03W/cm以上においてバイアスパワー密度の大きさにほとんど関係なく一定の残渣量に抑えられることが確認された。
【0056】
一方、図8に示すように、バイアスパワー密度が高くなるほど保磁力の低下が確認された。したがって、磁性層の磁気特性の劣化を抑制する観点から、バイアスパワー密度に上限を設定することが好ましい。例えば、バイアスパワー密度を5W/cm以下とすることで、保磁力の低下を0.05%以下に抑えることが可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0058】
例えば以上の実施形態では、レジストパターンに対するフッ素処理として、フッ素系ガスのプラズマを利用したドライ処理を適用したが、これに代えて、フッ素系の薬液を用いたウェット処理が採用されてもよい。同様に、フッ素処理の後に実施されるアッシング処理もウェット処理で実施されてもよい。
【0059】
また、以上の実施形態では、磁気記録媒体としてパターンドメディアに代表される高密度磁気記録媒体を例に挙げて説明したが、これに限られず、例えば磁気ヘッド、MRAMに代表される磁気抵抗効果素子の製造にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10…磁気記録媒体
11…基板
12…磁性層
12a…強磁性層
12b…非磁性層
13…レジストパターン
14…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に磁性層を形成し、
前記磁性層の上に、開口部を有する有機材料のレジストパターンを形成し、
前記開口部から露出する前記磁性層の露出領域にイオンを注入することで、前記露出領域を非磁性化し、
前記レジストパターンをフッ素処理し、
前記フッ素処理したレジストパターンを非フッ素系の反応性物質を用いてアッシングする
磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
前記レジストパターンのフッ素処理では、フッ素を含むガスのプラズマである第1のプラズマを用いて前記レジストパターンを処理し、
前記レジストパターンのアッシング処理では、非フッ素系のガスのプラズマである第2のプラズマを用いて前記レジストパターンを処理する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
前記第1のプラズマを用いた処理時間を第1の時間、前記第2のプラズマを用いた処理時間を第2の時間としたとき、前記第1の時間および前記第2の時間の総和に対する前記第1の時間の比率は5%以上55%以下である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
前記レジストパターンのフッ素処理は、前記基板に0.03W/cm以上5W/cm以下のバイアス電力を印加する工程を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
前記イオンは、窒素イオンである磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−14781(P2012−14781A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149633(P2010−149633)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】