説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を向上させることのできる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に磁性層を形成することにより被磁気転写媒体Wを形成する工程と、付着物除去工程と、マスター情報担体に被磁気転写媒体Wを重ね合わせ、マスター情報担体側から外部磁界を印加して、磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程とを備え、前記付着物除去工程が、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aよりも柔らかく粘着性を有さない表面を有する付着物捕捉板Hを被磁気転写面Aに貼り合わせ、被磁気転写面Aに付着した付着物を付着物捕捉板Hの塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、付着物捕捉板Hを被磁気転写面Aから引き剥がすことにより、付着物捕捉板Hとともに付着物を除去する引き剥がし工程とを有する磁気記録媒体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ信号等の磁気記録媒体に磁気転写する情報信号の書き込まれたマスター情報担体を用いて、磁気記録媒体に情報信号の磁気転写を行う磁気記録媒体の製造方法に関し、特に、1枚のマスター情報担体によって繰り返し転写できる回数を大幅に向上させることのできる磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(ハードディスクドライブ)においては、記録密度が年1.5倍以上増えており、今後もその増加傾向が続くと言われている。ハードディスク装置の記録密度の増大に伴って、高記録密度化に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。最新の磁気記録媒体においては、トラック密度は320kTPIにも達している。
【0003】
高いトラック密度を有する磁気記録媒体では、磁気ヘッドをトラック上で正確に走査するために、磁気ヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。現在のハードディスクドライブには、ディスクの1周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号や、アドレス情報信号、再生クロック信号などのサーボ信号等の情報信号が記録されている。そして、磁気ヘッドから一定間隔の時間で再生されるこれらの情報信号によって、磁気ヘッドの位置を検出しながら、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するように磁気ヘッドの位置を修正する制御が行われている。
【0004】
上述したサーボ信号等は、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となる。このため、サーボ信号等の書き込みには高い位置決め精度が求められる。
従来のハードディスクドライブの製造現場では、高精度の位置検出装置を組み込んだサーボ信号記録装置(以下、サーボライタという。)を用いて、磁気記録媒体に対するサーボ信号の書き込みを行っている。サーボライタは、一般に、生産性を高めるために、一つのスピンドルに多数枚の磁気記録媒体をチャッキングして、多数枚の磁気記録媒体に対して同時にサーボ信号等を書き込む構造となっている。
【0005】
サーボライタを用いてサーボ信号を書き込む場合、磁気ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックに亘って信号を書き込むため、長い時間が必要であり、生産性が低いという課題がある。この課題を解決するためには、同時にサーボ信号を書き込む磁気記録媒体の枚数を多くすればよい。
しかしながら、同時にサーボ信号を書き込む磁気記録媒体の枚数を増やすためにサーボライタの数を増やすと、サーボライタの維持管理に多額のコストがかかる。また、サーボライタのスピンドルを長くして、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やすと、サーボ信号を書き込む際の磁気記録媒体にブレが生じ易くなり、磁気記録媒体に対するサーボ信号の書き込み精度が低下する。このため、1つのスピンドルにチャッキングできる磁気記録媒体の枚数に限界があり、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やすことは困難であった。
【0006】
さらに、上述したサーボライタの数を増やす場合の問題や、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やす場合の問題は、磁気記録媒体のトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻となる。
そこで、サーボライタを用いることなく、磁気記録媒体にサーボ信号等の書き込みを行う技術が提案されている。具体的には、サーボ信号等の情報信号の書き込まれたマスター情報担体と磁気記録媒体とを重ね合わせ、外部から転写用のエネルギーを与えることにより、マスター情報担体に書き込まれた情報信号を磁気記録媒体に磁気転写する技術が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成されたマスター情報坦体表面を磁気記録媒体の表面に接触させることにより、マスター情報坦体表面の凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録する技術が記載されている。
磁気記録媒体に磁気転写されるサーボ信号等の情報信号が書き込まれたマスター情報担体を用いて、磁気記録媒体に情報信号の磁気転写を行う場合、サーボライタを用いる場合と比較して、磁気記録媒体に対する情報信号の書き込み作業を短時間で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開2009−252282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気転写に用いられる情報信号の書き込まれたマスター情報担体は、非常に高価なものである。しかし、マスター情報担体は、磁気記録媒体に情報信号を転写する際に繰り返し使用できるものである。このため、マスター情報担体の繰り返し磁気転写に使用できる回数(使用可能回数)をより多くして、磁気記録媒体の製造単価を低下させ、情報信号の書き込まれた磁気記録媒体の商業生産にマスター情報担体を適用できるようにすることが要求されている。
【0010】
マスター情報担体の使用可能回数をより多くする方法としては、磁気転写を行う前に、磁気記録媒体やマスター情報担体の表面をクリーニングしておくことにより、マスター情報担体の表面の摩耗を抑制する方法が考えられる。
磁気記録媒体の表面をクリーニングする方法としては、例えば、特許文献2に記載されているように、粘着シートを用いる方法などがある。
【0011】
しかしながら、粘着シートを用いて磁気記録媒体やマスター情報担体の表面をクリーニングした場合、粘着シートの粘着物が磁気記録媒体等に付着して、磁気転写を行う際に磁気記録媒体とマスター情報担体との相互間で粘着物が転写されてしまい、逆に磁気記録媒体等が汚染されてしまう虞があった。このため、磁気記録媒体等の表面をクリーニングする技術を用いても、マスター情報担体の使用可能回数を、十分に多くすることは困難であった。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、繰り返し使用されるマスター情報担体を用いて磁気転写することにより情報信号が書き込まれる磁気記録媒体の表面に付着した付着物を効果的に除去できることにより、マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を向上させることのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、磁気記録媒体やマスター情報担体に付着する付着物に着目して鋭意検討を行った。その結果、磁気記録媒体等に付着する付着物の中でマスター情報担体を破損させる付着物としては、磁気記録媒体の保護層に使われる硬質炭素に起因する付着物が多いことが分かった。また、硬質炭素は、電気絶縁性で静電気を帯びるため、磁気記録媒体等の表面に付着物として付着しやすいことが分かった。さらに、磁気記録媒体に付着物として付着した硬質炭素は、磁気記録媒体の表面に対するワイピング工程において磁気記録媒体の外端部に掃き寄せられる場合があり、その後の磁気記録媒体のハンドリング等によってデータ面に再移動した硬質炭素が、マスター情報担体を破損させる原因となることを見出した。
【0014】
そこで、本発明者らは、磁気記録媒体やマスター情報担体に付着物として付着した硬質炭素に着目して、以下に示すように検討を重ねた。その結果、磁気記録媒体の保護層に用いられる硬質炭素からなる付着物は、硬質でゴツゴツした形状を有するものであり、塑性変形する柔らかい物質にめり込ませることにより効率よく捕捉できるものであることを見出した。このことから、本発明者らは、粘着物を用いることなく、硬質炭素などの付着物を磁気記録媒体等から効率よく除去でき、マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を向上できる本発明の製造方法を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1)基板上に磁性層を形成することにより被磁気転写媒体を形成する工程と、前記被磁気転写媒体の被磁気転写面に付着している付着物を除去する付着物除去工程と、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体に前記被磁気転写媒体を、前記被磁気転写面をマスター情報担体に対向させて重ね合わせ、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加して、前記被磁気転写媒体の前記磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程とを備え、前記付着物除去工程が、前記被磁気転写面よりも柔らかく粘着性を有さない表面を有する付着物捕捉板を前記被磁気転写面に貼り合わせ、前記被磁気転写面に付着した付着物を前記付着物捕捉板の塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、前記付着物捕捉板を前記被磁気転写面から引き剥がすことにより、前記付着物捕捉板とともに前記付着物を除去する引き剥がし工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0016】
(2)基板上に磁性層を形成することにより被磁気転写媒体を形成する工程と、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体の磁気転写面に付着している付着物を除去する付着物除去工程と、前記マスター情報担体に前記被磁気転写媒体を、前記被磁気転写面をマスター情報担体に対向させて重ね合わせ、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加して、前記被磁気転写媒体の前記磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程とを備え、前記付着物除去工程が、前記磁気転写面よりも柔らかく粘着性を有さない表面を有する付着物捕捉板を前記磁気転写面に貼り合わせ、前記磁気転写面に付着した付着物を前記付着物捕捉板の塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、前記付着物捕捉板を前記磁気転写面から引き剥がすことにより、前記付着物捕捉板とともに前記付着物を除去する引き剥がし工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0017】
(3)前記付着物捕捉板として、金属材料からなるものを用いることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4)前記付着物捕捉板が、アルミニウム、銅、金、またはその合金からなる群から選ばれる何れか1つからなるものであることを特徴とする(3)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)前記付着物除去工程を、減圧環境下で行うことを特徴とする(1)〜(4)の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前記被磁気転写面またはマスター情報担体の磁気転写面よりも柔らかい表面を有する付着物捕捉板を前記被磁気転写面またはマスター情報担体の磁気転写面に貼り合わせ、前記転写面に付着した付着物を前記付着物捕捉板の塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、前記付着物捕捉板を前記被磁気転写面またはマスター情報担体の磁気転写面から引き剥がすことにより、前記付着物捕捉板とともに前記付着物を除去する引き剥がし工程とを有する付着物除去工程を備える方法であるので、磁気記録媒体となる被磁気転写媒体またはマスター情報担体に付着している硬質炭素などからなる付着物を、粘着物を用いることなく被磁気転写媒体から効果的に除去できる。
【0019】
したがって、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体に被磁気転写媒体を、前記被磁気転写面をマスター情報担体に対向させて重ね合わせ、マスター情報担体側から外部磁界を印加して、前記被磁気転写媒体の前記磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程において、磁気記録媒体およびマスター情報担体間で付着物が転写されて、磁気記録媒体およびマスター情報担体が汚染されることを防止できる。
【0020】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法では、付着物捕捉板として、前記被磁気転写面またはマスター情報担体の磁気転写面よりも柔らかく、塑性変形により付着物を捕捉できる表面を有するものを用いているので、被転写面に磁気記録媒体の保護層として使われる硬質炭素が付着している場合に、被磁気転写面に付着している付着物を効果的に除去できる。その結果、マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図であって、被磁気転写媒体の一例を示した断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図であって、付着物除去工程を行っている状況を示した断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図であって、磁気転写工程を行っている状況を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
「磁気記録媒体の製造方法」
図1〜図3は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、被磁気転写媒体を形成する工程と、付着物除去工程と、磁気転写工程とを備えている。図1は、被磁気転写媒体の一例を示した断面模式図であり、図2は、付着物除去工程を行っている状況を示した断面模式図であり、図3は、磁気転写工程を行っている状況を示した断面模式図である。
【0024】
被磁気転写媒体を形成する工程は、基板200上に、磁気転写工程において情報信号の書き込まれる磁性層201を形成する工程である。本実施形態においては、被磁気転写媒体Wを形成する工程において、図2に示すように、基板200の一方の面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体Wを形成する。
なお、本実施形態においては、被磁気転写媒体Wを形成する工程において、図1に示す被磁気転写媒体Wを形成するが、図面を見やすくするため、図2には基板200と磁性層201のみを記載し、図1に示す被磁気転写媒体Wの詳細な積層構造および製造方法については後述する。
【0025】
また、本実施形態においては、被磁気転写媒体を形成する工程の後で付着物除去工程の前に、ワイピング工程および/またはバーニッシュ工程を行ってもよい。
【0026】
ワイピング工程は、例えば、回転させた被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに、ワイピングテープを押し当てて、被磁気転写面Aを拭く工程とすることができる。ワイピング工程を行うことにより、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに付着したスパッタダスト等を除去することができるので、被磁気転写面Aを清浄化することができ、磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることが可能となる。
ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、例えば、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物などを用いることができる。
【0027】
バーニッシュ工程は、例えば、回転させた被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに、研磨テープを押し当てることにより、被磁気転写面Aを研磨する工程とすることができる。バーニッシュ工程を行うことにより、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aにある異常突起物や微小な塵埃等を除去することができ、被磁気転写面Aが平滑化される。したがって、ハードディスクドライブでの磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることができるとともに、磁気転写工程において被磁気転写媒体Wとマスター情報担体Mとの間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明となったり、マスター情報担体Mが損傷を受けたりすることを防止できる。
【0028】
バーニッシュ工程に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、ポリエステル製のベースフィルム上に、研磨材層が形成されたテープなどが挙げられる。
研磨材層を形成する際に用いられる研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が挙げられる。
【0029】
付着物除去工程は、磁気記録媒体またはマスター情報担体の転写面に付着している付着物を除去する工程であり、この工程は付着物捕捉板を磁気記録媒体またはマスター情報担体の転写面に貼り合わせる工程と、その後この付着物捕捉板を前記転写面から引き剥がす工程とを含む。この付着物除去工程は磁気記録媒体に対する場合とマスター情報担体に対する場合でほぼ同じため、以下の説明は主に磁気記録媒体に対する場合で行う。
【0030】
本実施形態においては、付着物除去工程において、図2に示すように、付着物捕捉板Hを被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに貼り合わせ、被磁気転写面Aに付着した付着物を付着物捕捉板Hの塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、付着物捕捉板Hを被磁気転写面Aから引き剥がすことにより、付着物捕捉板Hとともに付着物を除去する引き剥がし工程とを行う。
【0031】
貼り合わせ工程および引き剥がし工程においては、例えば、磁気転写工程を行う際に被磁気転写媒体Wおよびマスター情報担体Mを保持する装置と同様の装置などを用いて付着物捕捉板Hおよび被磁気転写媒体Wを保持して、付着物捕捉板Hと被磁気転写媒体Wとの貼り合わせと、付着物捕捉板Hと被磁気転写媒体Wとの引き剥がしとを行うことができる。
【0032】
付着物除去工程は、減圧環境下で行うことが好ましい。付着物除去工程を減圧環境下で行った場合、付着物除去工程において、被磁気転写媒体Wと付着物捕捉板Hとが吸着して、被磁気転写媒体Wから付着物捕捉板Hを引き剥がしにくくなることを防止でき、効率よく付着物除去工程を行うことができる。
【0033】
付着物捕捉板Hは、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aよりも柔らかく、塑性変形する表面を有するものである。また、従来用いられている粘着テープのように、僅かであっても粘着物が被磁気転写面Aに付着することが無いように、付着物捕捉板Hの表面は粘着性を有さないようにする。なお、本発明において、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aよりも柔らかくとは、より具体的には被磁気転写媒体Wの保護層として用いられる炭素膜より柔らかいことを指す。また、付着物除去工程をマスター情報担体に対して行う場合は、マスター情報担体の転写面よりも柔らかくすることを指し、より具体的にはマスター情報担体の表面が炭素保護膜で覆われている場合はその炭素膜より柔らかいことを指す。
付着物捕捉板Hの表面は、被磁気転写面Aに付着した付着物を効果的に捕捉できるように、平坦性に優れたものであることが好ましい。具体的には、付着物捕捉板Hの表面は、被磁気転写面Aと同程度の平坦性を有するものであることが好ましい。
【0034】
付着物捕捉板Hは、図2に示すように、被磁気転写媒体Wと平面視同形とすることができる。なお、付着物捕捉板Hの平面形状は、被磁気転写媒体Wと平面視同形に限定されるものではなく、例えば、被磁気転写媒体Wと重ね合わせた時に被磁気転写媒体Wの輪郭の外側に付着物捕捉板Hの輪郭が配置される被磁気転写媒体Wよりも平面積の大きい形状であってもよい。
【0035】
また、付着物捕捉板Hとしては、金属材料からなるものを用いることが好ましい。金属材料からなる付着物捕捉板Hは、付着物除去工程を終了した後の被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに、付着物捕捉板Hを構成する材料からなる付着物が残留することがなく、好ましい。また、付着物捕捉板Hを導電性のある金属材料とすることで静電気の発生を防ぎ、硬質炭素粉のような帯電した付着物を捕捉し易くなる。
【0036】
また、付着物捕捉板Hに用いられる金属材料としては、具体的には、アルミニウム、銅、金、またはその合金からなる群から選ばれる何れか1つからなるものであることが好ましい。これらの材料からなる付着物捕捉板Hは、柔らかく、容易に塑性変形して被磁気転写面Aに付着した付着物がめり込むため、付着物を容易により効率よく捕捉でき、被磁気転写面Aに付着している付着物をより効果的に除去できる。本発明の付着物捕捉板Hは、上記の金属材料によって形成するほか、ベースとなる板の表面にスパッタリング、真空蒸着、電気メッキ等の方法により金属薄膜として形成しても良い。その場合の薄膜の膜厚は付着物の粒径より大きくし、好ましくは薄膜が容易に塑性変形できるように付着物の粒径の数倍程度以上とする。
【0037】
付着物捕捉板Hは、繰り返し使用できるものである。なお、付着物捕捉板Hは、被磁気転写面Aに付着した付着物を効果的に捕捉できるように、付着物除去工程を5000回程度行う毎に交換することが好ましい。
【0038】
次に、付着物除去工程後に得られた付着物の除去された被磁気転写媒体Wに、情報信号を書き込む磁気転写工程を行う。
磁気転写工程では、まず、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aである信号記録面を初期磁化する。初期磁化は、磁気記録媒体として面内磁気記録媒体を製造する場合は、トラック方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行い、垂直磁気記録媒体を製造する場合は、被磁気転写面Aに対して垂直な方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行う。
【0039】
初期直流磁界は、永久磁石や電磁石を用いて被磁気転写媒体Wに印加できる。永久磁石としては、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いることが好ましい。また、初期直流磁界の印加は、被磁気転写媒体Wと非接触の状態で行うことが、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aの清浄性を維持する上で好ましい。
【0040】
また、磁気転写工程では、図3に示すように、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体Mを用意する。マスター情報担体Mとしては、例えば、図3に示すように、表面に凸部100a及び凹部100bが形成されたNi基材100と、このNi基材100の一方の面上に形成された磁性層101とを備えたものを挙げることができる。また、マスター情報担体Mの他の例としては、例えば、図3に示すマスター情報担体Mの凹部100b内に、磁性層101が埋め込まれたものが挙げられる。
【0041】
図3に示すマスター情報担体Mは、例えば、以下に示す方法などによって製造できる。
まず、ウェハの表面に電子線レジストをスピンコート法により塗布する。次いで、電子線露光装置を用いて、電子線レジストにサーボ信号等に対応させて変調した電子ビームを照射し、レジストの露光・現像を行う。その後、未露光部分を除去することによって、ウェハ上に、被磁気転写媒体Wに情報信号を書き込むための転写パターンに対応したレジストパターンを形成する。なお、転写パターンとしては、ハードディスクドライブのサーボ信号の他、ハードディスクドライブにおいてサーボ信号を生成するためのプリサーボ信号やセルフサーボ信号などの情報信号に対応するパターンが例示できる。
【0042】
次に、このレジストパターンをマスクにして、ウェハに対して反応性エッチング処理を行い、ウェハのレジストでマスクされていない箇所を掘り下げる。このエッチング処理後、ウェハ上に残存するレジストパターンを溶剤で除去することにより、マスター情報担体Mを作製するための原盤が得られる。
次に、原盤上に、スパッタリング法によりNiからなる導電層を10nm程度の厚みで形成する。その後、導電層の形成された原盤を母型として用い、電鋳法により、この原盤上に数ミクロン厚のNi層を形成する。その後、Ni層を原盤から外して洗浄することにより、図3に示すように、表面に凸部100a及び凹部100bの形成されたNi基材100が得られる。
【0043】
次に、Ni基材100の表面に磁性層101を形成する。磁性層101としては、上記被磁気転写媒体Wに用いられる磁性層と同じものを形成することができる。なお、Ni基材100の表面に形成された磁性層101のうち、被磁気転写媒体Wへの磁気転写に用いられるのは凸部100aが形成された部分の磁性層101であり、凹部100bが形成された部分の磁性層101は、被磁気転写媒体Wと接触しないため、磁気転写に用いられない。
【0044】
さらに、図3に示す磁性層101の形成されたNi基材100の表面に、数nm程度の厚さの硬質炭素膜等からなる保護膜(図示略)を形成してもよい。保護膜を設けることにより、マスター情報担体Mの耐摩耗性を高めることができる。
以上の工程を経ることによって、図3に示す情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体Mが得られる。
【0045】
次に、図3に示すように、マスター情報担体Mの磁性層101側の面と、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aとを対向させて、マスター情報担体Mに被磁気転写媒体Wを接触させた状態で所定の押圧力で密着させて重ね合わせる。その後、図3に示すように、マスター情報担体Mの転写面とは反対側から、磁界生成手段Gを用いて、磁界生成手段Gを相対的にトラック方向Xに移動させながら外部磁界を印加して、被磁気転写媒体Wの磁性層に情報信号を書き込む。この転写用の外部磁界は、上記初期直流磁界とは逆方向となる磁界である。これにより、被磁気転写媒体Wでは、マスター情報担体Mの転写パターンと対向する箇所で磁化反転が生じ、サーボ信号等に対応した磁化パターンが書き込まれる。
以上の工程により、情報信号の書き込まれた磁気記録媒体が得られる。
【0046】
本実施形態においては、このようにして得られた磁気記録媒体に対してグライド検査を行う。グライド検査とは、磁気記録媒体の表面に突起物が無いかどうか検査する工程である。すなわち、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体に対して記録再生を行う際に、磁気記録媒体の表面に浮上量(媒体と磁気ヘッドの間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッドが突起に衝突して磁気ヘッドが損傷したり、磁気記録媒体に欠陥が発生したりする原因となる。グライド検査では、そのような高い突起の有無を検査する。
【0047】
グライド検査をパスした磁気記録媒体には、通常ではサーティファイ検査が実施される。サーティファイ検査とは、通常のハードディスクドライブの記録再生と同様に、磁気記録媒体に対して磁気ヘッドで所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体の記録不能を検出し、磁気記録媒体Wの電気特性や欠陥の有無など媒体の品質を確かめるものである。
なお、本実施形態において製造された磁気記録媒体は、サーボ信号等の情報信号が既に書き込まれているため、従来の方式でのサーティファイ検査とは異なる。すなわち、磁気記録媒体に磁気転写されたサーボ信号等を用いて、磁気ヘッドを特定箇所に位置づけして読み書きを行う形式の検査を行う。
【0048】
なお、本実施形態の磁気転写工程においては、磁界生成手段Gとして、電磁石や永久磁石からなるものを用いることができる。また、図3に示す磁界生成手段Gは、被磁気転写媒体Wの半径方向において同一方向の外部磁界を発生させながら、被磁気転写媒体Wの中心からトラック方向Xに回転移動させることが可能となっている。
本実施形態の磁気転写工程においては、磁気記録媒体として面内磁気記録媒体を製造する場合、磁界生成手段Gによってトラック方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させ、垂直磁気記録媒体を製造する場合、磁界生成手段Gによって被磁気転写面Aに対して垂直な方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させる。
【0049】
なお、1枚のマスター情報担体Mを用いて複数の被磁気転写媒体Wに情報信号を書き込み、複数の磁気記録媒体を製造する場合、マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を効果的に向上させるために、全ての磁気記録媒体の製造に用いる被磁気転写媒体Wに対して付着物除去工程を行うことが好ましいが、一部の被磁気転写媒体Wに対してのみ付着物除去工程を行ってもよい。また、磁気転写工程ごとにマスター情報担体に対して付着物除去工程を行うことが好ましいが、所定回数ごとに付着物除去工程を行ってもよい。一部の被磁気転写媒体Wに対してのみ、または所定の磁気転写工程ごとに付着物除去工程を行った場合であっても、付着物除去工程を行わない場合と比較して、マスター情報担体の繰り返し転写できる使用可能回数を向上させることができる。また、一部の被磁気転写媒体Wや所定の磁気転写工程ごとに付着物除去工程を行った場合、全ての被磁気転写媒体W等に対して付着物除去工程を行う場合と比較して、効率よく磁気記録媒体を製造でき、磁気記録媒体の生産性を向上させることができる。
【0050】
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、転写面(被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aまたはマスター情報担体Mの磁気転写面)よりも柔らかい表面を有する付着物捕捉板Hを転写面に貼り合わせ、転写面に付着した付着物を付着物捕捉板Hの塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、付着物捕捉板Hを転写面から引き剥がすことにより、付着物捕捉板Hとともに付着物を除去する引き剥がし工程とを有する付着物除去工程を備える方法であるので、磁気記録媒体またはマスター情報担体の転写面に付着している硬質炭素などからなる付着物を、粘着物を用いることなく転写面から効果的に除去できる。
【0051】
したがって、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体Mに被磁気転写媒体Wを、被磁気転写面Aをマスター情報担体Mに対向させて重ね合わせ、マスター情報担体M側から外部磁界を印加して、被磁気転写媒体Wの磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程において、磁気記録媒体Wおよびマスター情報担体M相互間で付着物が転写されて、磁気記録媒体Wおよびマスター情報担体Mが汚染されることを防止できる。
【0052】
また、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法では、付着物捕捉板として、転写面よりも柔らかく、塑性変形により付着物を捕捉できる表面を有するものを用いているので、転写面に磁気記録媒体の保護層に用いられる硬質炭素が付着している場合に、転写面に付着している付着物を効果的に除去できる。その結果、マスター情報担体Mの繰り返し転写できる使用可能回数を向上でき、磁気記録媒体の生産コストを大幅に低減できる。
【0053】
また、上述した磁気記録媒体の製造方法では、被磁気転写媒体を形成する工程において、図2に示すように、基板200の一方の面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体Wを形成したが、基板200の両面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体を形成してもよい。基板200の両面に磁性層201を形成する場合、一方の面に形成された磁性層と、他方の面に形成された磁性層とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
基板200の両面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体を形成した場合、被磁気転写媒体の両面に被磁気転写面Aが形成されるので、付着物除去工程において、被磁気転写媒体の両面に付着している付着物を除去する。
また、基板200の両面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体に、情報信号を書き込む磁気転写工程を行う場合、以下に示す方法により、磁気記録媒体の両面に情報信号を書き込むことが好ましい。
【0055】
すなわち、一対のマスター情報担体Mを磁性層101側の面を内側に向けて対向配置し、一対のマスター情報担体Mの間に、両面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体を挟み込み、マスター情報担体Mと被磁気転写媒体とを接触させた状態で所定の押圧力で密着させる。その後、マスター情報担体Mの転写面と反対側から、磁界生成手段Gを用いて外部磁界を印加する。これにより、被磁気転写媒体の両面に、サーボ信号等に対応した磁化パターンが書き込まれる。
また、基板200の両面に磁性層201が形成された被磁気転写媒体であっても、磁気転写する情報信号がプリサーボ情報やセルフサーボ情報の場合は、磁気記録媒体の片面のみに情報信号を書き込むことができる。
【0056】
「被磁気転写媒体」
次に、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法において形成した被磁気転写媒体Wについて、図1を用いて詳細に説明する。図1は、被磁気転写媒体Wの一例を示した断面模式図である。図1に示す被磁気転写媒体Wは、非磁性基板(基板)31上に、スペーサ層32bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層32aを含む軟磁性下地層32と、配向制御層33と、非磁性下地層38と、垂直磁性層34と、保護層35と、潤滑剤膜36とを順次積層した構造を有している。
【0057】
また、垂直磁性層34は、下層の磁性層34aと、中層の磁性層34bと、上層の磁性層34cとの3層を含み、磁性層34aと磁性層34bの間に非磁性層37aが挟み込まれ、磁性層34bと磁性層34cの間に非磁性層37bが挟み込まれていることで、磁性層34a〜34cと非磁性層37a,37bとが交互に積層されたものとなっている。
【0058】
非磁性基板31としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、例えば、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものなどを用いてもよい。
【0059】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができる。アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。
セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物からなるものなどを用いることができる。
【0060】
非磁性基板31は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0061】
また、非磁性基板31は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層32と接して配置されている場合、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。このため、非磁性基板31と軟磁性下地層32の間に密着層を設けることが好ましい。非磁性基板31と軟磁性下地層32の間に密着層を設けることにより、腐食の進行を抑制できる。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0062】
軟磁性層32aとしては、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いることが好ましい。また、軟磁性層32aの透磁率や耐食性を高めるために、Ta、Nb、Zr、Crの中から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有させることが好ましい。
スペーサ層32bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができ、中でも特にRuを用いることが好ましい。
【0063】
配向制御層33は、垂直磁性層34の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するためのものである。配向制御層33としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものを用いることが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金を用いることが好ましい。また、配向制御層33は、上記の合金を多層化したものであってもよい。具体的に例えば、非磁性基板31側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を積層したものであることが好ましい。
【0064】
配向制御層33の直上の垂直磁性層34の初期部には、ノイズの原因となる結晶成長の乱れが生じやすい。このため、配向制御層33と垂直磁性層34の間に非磁性下地層38を設けることが好ましい。垂直磁性層34の初期部の結晶成長の乱れた部分を、非磁性下地層38に置き換えることで、ノイズの発生を抑制することができる。
【0065】
非磁性下地層38としては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料からなるものを用いることが好ましい。非磁性下地層38のCrの含有量は、25原子%以上、50原子%以下とすることが好ましい。非磁性下地層38に含まれる酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。非磁性下地層38の酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、18mol%以下とすることが好ましい。
【0066】
磁性層34a,34bは、グラニュラー構造のものであることが好ましく、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料を用いることが好ましい。磁性層34a,34bに含まれる酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、中でも特に、TiO、Cr、SiOなどが好適に用いられる。
また、下層の磁性層34aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物を含むものであることが好ましい。中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0067】
磁性層34a,34bに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの組成物を挙げることができる。
【0068】
また、上層の磁性層34cは、酸化物を含まない磁性層とすることが好ましい。上層の磁性層34cに適した材料としては、具体的には、上述した磁性層34a,34bに適した材料から酸化物を除いた材料などが挙げられる。
【0069】
なお、垂直磁性層34は、4層以上の磁性層で構成してもよい。例えば、グラニュラー構造の磁性層を上記磁性層34a,34bに1層加えて3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層34cを設けた4層構造の垂直磁性層としてもよいし、グラニュラー構造の磁性層34a,34bの上に、酸化物を含まない磁性層34cを2層構造として設けた4層構造の垂直磁性層34としてもよい。
【0070】
また、垂直磁性層34を構成する3層以上の磁性層間には、非磁性層37a、37bが設けられていることが好ましい。非磁性層37a、37bを適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。非磁性層37a、37bには、従来公知の材料を用いることができ、例えばRu,Re,Cuなどを用いることが可能である。
【0071】
また、垂直磁性層34を構成する3層以上の磁性層間には、非磁性層37a、37bが設けられていることが好ましい。非磁性層37a、37bを適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。非磁性層37a、37bには、従来公知の材料を用いることができ、例えばRu,Re,Cuなどを用いることが可能である。
【0072】
保護層35は、垂直磁性層34の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触したときの表面の損傷を防ぐためのものである。保護層35には、従来公知の材料を用いることができ、例えばC、SiO、ZrOなどを含むものを用いることが可能である。保護層35の厚みは、1〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0073】
潤滑層36は、磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)に内蔵された磁気記録媒体の表面を磁気ヘッドがシークするに際して磁気記録媒体の表面を保護するために用いられるが、マスター情報担体Mを用いて、磁気記録媒体の磁性層34に情報信号を書き込む際に、保護層35がマスター情報担体Mに接触して、マスター情報担体Mの摩耗を促進させることを防止する効果もある。潤滑層36としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を保護層35上に塗布することによって形成できる。
【0074】
「被磁気転写媒体の製造方法」
図1に示す被磁気転写媒体Wを製造するには、まず、非磁性基板31上に、密着層と、軟磁性下地層32と、配向制御層33と、非磁性下地層38と、垂直磁性層34と、保護層35と、潤滑層36とを順次積層する積層構造形成工程を行う。
【0075】
積層構造形成工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、非磁性基板31上に、スパッタ法などを用いて、密着層、軟磁性層32aとスペーサ層32bと軟磁性層32aとからなる軟磁性下地層32、配向制御層33、非磁性下地層38、下層の磁性層34aと非磁性層37aと中層の磁性層34bと非磁性層37bと上層の磁性層34cとからなる垂直磁性層34を下から順に積層する。その後、CVD法、イオンビーム法などを用いて保護層35を成膜する。次いで、保護層35上に潤滑剤を塗布する方法などによって潤滑層36を形成する。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
(実施例1)
【0077】
<被磁気転写媒体を形成する工程>
非磁性基板として、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を用意し、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
その後、ガラス基板の上に60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。
【0078】
次に、密着層の上に46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層、層厚0.76nmのRu層、層厚34nmの46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を成膜し、これを軟磁性下地層とした。
次に、軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm(ガス圧1Pa)、20nm(ガス圧6Pa)の層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0079】
次に、配向制御層の上に、スパッタ法を用いて多層構造の磁性層として、84(Co12Cr16Pt)−16TiO(膜厚3nm)、91(Co5Cr22Pt)−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co(膜厚0.5nm)、Co15Cr16Pt6B(膜厚3nm)を積層した。
【0080】
次に、CVD法により層厚2.5nmの炭素膜からなる保護層を成膜した。
次に、保護層上に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤を塗布することによって、厚さ15オングストロームの潤滑層を形成した。以上の工程により、被磁気転写媒体Wを得た。
【0081】
次に、潤滑層までの各層の形成された被磁気転写媒体Wに対して、ワイピング処理を施した。ワイピング処理は、被磁気転写媒体を回転数300rpmで回転させ、ワイピングテープを送り速度10mm/秒で送り出しながら、ワイピングテープを被磁気転写媒体に押圧力98mNで5秒間押し当てることにより行った。ワイピングテープとしては、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維を用いた。
【0082】
次に、ワイピング処理を施した被磁気転写媒体Wに対してバーニッシュ加工を施した。バーニッシュ加工は、被磁気転写媒体を回転数300rpmで回転させ、研磨テープを送り速度は10mm/秒で送り出しながら、研磨テープを被磁気転写媒体に押圧力98mNで5秒間押し当てることにより行った。バーニッシュテープとしては、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。
【0083】
<付着物除去工程>
付着物除去工程においては、付着物捕捉板Hを被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに貼り合わせて、被磁気転写面Aに付着した付着物を付着物捕捉板Hの塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、付着物捕捉板Hを被磁気転写面Aから引き剥がすことにより、付着物捕捉板Hとともに付着物を除去する引き剥がし工程とを行った。
【0084】
付着物捕捉板Hとしては、被磁気転写媒体Wと平面視同形のアルミニウムからなるものを用いた。本実施例の付着物捕捉板は次の方法で製造した。先ず、外径65mm、内径20mm、厚さ1.3mmのドーナツ状のアルミニウム合金(5086相当品)の表面を、D50(平均粒径)が0.5μmのアルミナ砥粒を用いて3分間研磨した。その後、D50が30nmのコロイダルシリカ砥粒を用いて10分間研磨し、表面の平均表面粗さ(Ra)を1nm(10Å)以下、微小うねり(Wa)を0.3nm以下とした。
付着物除去工程は、この付着物捕捉板を磁気記録媒体の片面に減圧雰囲気下で重ね、50mNで1秒間押し当てた後に離した。また、付着物捕捉板Hは、付着物除去工程を5000回行う毎に交換した。
【0085】
<磁気転写工程>
「マスター情報担体の製造」
表面に271kトラック/インチのプリサーボ信号等の転写パターンに対応する形状を有する凸部と凹部とを備えるNiからなる基材を用意した。なお、基材の磁気記録媒体に磁気転写される情報信号に対応するトラックは幅120nm、トラック間隔は60nmであり、基材凸部と基材凹部との段差(転写パターンの段差)は45nmであった。
【0086】
このような基材上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜からなる下地層を基材凸部および基材凹部の形状に沿って形成した。その後、下地層上に基材凸部および基材凹部の形状に沿って、DCスパッタリング法を用いて、層厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜と、層厚15nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜とからなる磁性層とを順次積層し、磁気記録媒体に磁気転写される情報信号が書き込まれた磁性層を形成した。
【0087】
次に、磁性層上に、CVD法により、層厚20nmの炭素膜からなる保護膜を形成した。以上の工程を経ることによって、情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体Mを得た。
【0088】
次に、付着物除去工程後に得られた付着物の除去された被磁気転写媒体Wに、以下に示す方法により、情報信号を書き込んだ。
まず、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aに対して、NdFeB系焼結磁石を用いて、被磁気転写媒体Wを貫通する方向に10kOeの初期直流磁界を印加することにより、初期磁化を施した。
【0089】
次に、マスター情報担体Mの磁性層側の面と、被磁気転写媒体Wの被磁気転写面Aとを対向させて、マスター情報担体Mに被磁気転写媒体Wを接触させた状態で98mNの押圧力で密着させて重ね合わせた。その後、マスター情報担体Mの転写面とは反対側から、4kOeの外部磁界を10秒間印加して、被磁気転写媒体Wの片面の磁性層に情報信号を書き込んだ。
以上の工程により、情報信号の書き込まれた磁気記録媒体を得た。
【0090】
<磁気記録媒体の評価>
上記方法で1枚のマスター情報担体Mを繰り返し用いて複数枚の磁気記録媒体を製造し、得られた磁気記録媒体のそれぞれについて、以下に示すようにして、プリサーボ信号等の再生特性を評価した。
すなわち、磁気記録媒体に記録されたプリサーボ信号等を読み込み、得られた信号を用いて磁気ヘッドを位置決めできる装置であるリードライトアナライザ(型番:RWA1632;米国GUZIK社製)、及び、スピンスタンド(型番:S1701MP)を用い、磁気ヘッドとして、TuMRを用いた磁気ヘッドを使用して、プリサーボ信号の読み込み時のS/N比(Singnal to noise ratio)を測定した。そして、S/N比が16.0dB以下となった場合に磁気転写不良と判断し、磁気転写不良が発生するまでの1枚のマスター情報担体Mの磁気転写回数を、磁気転写可能な回数と評価した。
【0091】
その結果、実施例1では、1枚のマスター情報担体Mを用いて、82000回の磁気転写が可能であった。
【0092】
(比較例1)
比較例1では、付着物除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして複数枚の磁気記録媒体を製造した。
その結果、比較例1では、1枚のマスター情報担体Mを用いて、35000回の磁気転写が可能であった。
【符号の説明】
【0093】
31…非磁性基板 32…軟磁性下地層 32a…軟磁性層 32b…スペーサ層 33…配向制御層 34…垂直磁性層 35…保護層 36…潤滑層 38…非磁性下地層 100…Ni基材 100a…凸部 100b…凹部 101…磁性層 200…非磁性基板 201…磁性層 A…被磁気転写面 H…付着物捕捉板 M…マスター情報担体 W…被磁気転写媒体 G…磁界生成手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性層を形成することにより被磁気転写媒体を形成する工程と、
前記被磁気転写媒体の被磁気転写面に付着している付着物を除去する付着物除去工程と、
情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体に前記被磁気転写媒体を、前記被磁気転写面をマスター情報担体に対向させて重ね合わせ、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加して、前記被磁気転写媒体の前記磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程とを備え、
前記付着物除去工程が、前記被磁気転写面よりも柔らかく粘着性を有さない表面を有する付着物捕捉板を前記被磁気転写面に貼り合わせ、前記被磁気転写面に付着した付着物を前記付着物捕捉板の塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、
前記付着物捕捉板を前記被磁気転写面から引き剥がすことにより、前記付着物捕捉板とともに前記付着物を除去する引き剥がし工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
基板上に磁性層を形成することにより被磁気転写媒体を形成する工程と、
情報信号に対応する転写パターンの形成されたマスター情報担体の磁気転写面に付着している付着物を除去する付着物除去工程と、
前記マスター情報担体に前記被磁気転写媒体を、前記被磁気転写面をマスター情報担体に対向させて重ね合わせ、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加して、前記被磁気転写媒体の前記磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程とを備え、
前記付着物除去工程が、前記磁気転写面よりも柔らかく粘着性を有さない表面を有する付着物捕捉板を前記磁気転写面に貼り合わせ、前記磁気転写面に付着した付着物を前記付着物捕捉板の塑性変形により捕捉させる貼り合わせ工程と、
前記付着物捕捉板を前記磁気転写面から引き剥がすことにより、前記付着物捕捉板とともに前記付着物を除去する引き剥がし工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記付着物捕捉板として、金属材料からなるものを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記付着物捕捉板が、アルミニウム、銅、金、またはその合金からなる群から選ばれる何れか1つからなるものであることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記付着物除去工程を、減圧環境下で行うことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−155780(P2012−155780A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11942(P2011−11942)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)