説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】高記録密度が得られ、しかも、帯電し難い磁性層を有する磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】SmCo系磁性微粒子12と、親水性バインダとを含む磁性層を備え、SmCo系磁性微粒子12が、SmCo系ナノ粒子からなるコア14と、コア14の表面の少なくとも一部を被覆する、親水性高分子からなる被覆層16とを有し、SmCo系ナノ粒子からなるコア14を被覆する親水性高分子よりも親水性バインダの分子量の方が大きい磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の一種である磁気記録テープは、通常、ベースフィルムと、ベースフィルムの一方の面上に形成された磁性層と、ベースフィルムの他方の面上に形成されたバックコート層とから構成される。磁性層は、磁性材料及びバインダ(樹脂材料)等を含有する層であり、バックコート層は、カーボンブラック等の非磁性粉末及びバインダ等を含有する層である。近年、SOX法、e−文書法の導入等に見られるようなIT社会の進展に対応すべく、磁気記録媒体の長期保存化及び高記録密度化が求められている。
【0003】
磁気記録媒体の磁性層に含まれる磁性材料の一例としては、下記特許文献1に、SmCo合金からなるSmCo系磁性微粒子が開示されている。SmCo合金は、極めて高い一軸性の結晶磁気異方性を示すため、高記録密度を実現する磁気記録媒体用の磁性材料として好適である。
【特許文献1】特開2006−245313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、高密度記録に対応するため、磁気記録テープに記録されたデータの読み出し等は、磁気抵抗効果(MR)ヘッドを用いて行われている。ところが、このようなMRヘッドは、磁気記録テープに帯電された静電気によって影響され易く、この影響が大きいと正確な読み出しを行えなくなる場合もある。そのため、磁気記録テープを構成する磁性層には、高記録密度を達成できるとともに、できるだけ帯電し難い特性を有していることが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高記録密度が得られ、しかも、帯電し難い磁性層を有する磁気記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の磁気記録媒体は、SmCo系磁性微粒子と、親水性バインダとを含む磁性層を備え、SmCo系磁性微粒子が、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、親水性高分子からなり、コアの表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層とを有することを特徴とする。ここで、本発明におけるSmCo系ナノ粒子とは、SmCo系合金から構成され、且つ平均粒径が1nm以上100nm未満の粒子をいうこととする。
【0007】
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、SmCo系磁性微粒子が、親水性バインダに分散した構成を有している。この親水性バインダは、それ自体が帯電し難いものであるため、磁性層は、全体としても帯電し難いものとなる。したがって、本発明の磁気記録媒体によれば、例えばMRヘッドによる読み出しを安定させることができる。
【0008】
また、磁性層に含まれるSmCo系磁性微粒子は、親水性に近い特性を有するSmCo系ナノ粒子が、親水性高分子によって覆われた構成を有しているから、磁性層の親水性バインダ中に均一に分散され易い。しかも、このSmCo系ナノ微粒子は、極めて高い一軸性の結晶磁気異方性を有し、さらに微細(平均粒径が1nm以上100nm未満)なSmCo系ナノ粒子をコアとして有していることから、磁性層に高い磁気特性を付与できる。したがって、このようなSmCo系磁性微粒子を含む磁性層は、高記録密度化に極めて有利である。
【0009】
本発明の磁気記録媒体においては、被覆層を構成する親水性高分子よりも、親水性バインダの分子量の方が大きいと好ましい。こうすれば、磁性層が柔軟なものとなり、高密度記録に対応するためにSmCo系磁性微粒子を増加させても、磁気記録媒体の耐久性を十分に得ることができる。
【0010】
本発明はまた、上記本発明の磁気記録媒体の好適な製造方法を提供する。すなわち、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、Sm塩と、Co塩と、親水性高分子と、を溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び親水性高分子を含む混合物を得る第1工程と、この混合物に親水性バインダを加えて、磁性塗料を得る第2工程と、この磁性塗料を用いて、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、親水性高分子からなりコアの表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層と、を有するSmCo系磁性微粒子と、親水性バインダと、を含む磁性層を形成する第3工程とを有することを特徴とする。
【0011】
このような本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、上述したような高記録密度が得られ、しかも、帯電し難い磁性層を有する本発明の磁気記録媒体が良好に得られるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高記録密度が得られ、しかも、帯電し難い磁性層を有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
[磁気記録媒体]
【0014】
図1は、好適な実施形態に係る磁気記録媒体の断面構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体(磁気記録テープ2)は、ベースフィルム4の一方の面上に磁性層6が形成されており、他方の面上にバックコート層8が形成されている。また、ベースフィルム4と磁性層6との間には、アンダーコート層10が配置されている。なお、磁気記録テープ2は、このアンダーコート層10を必ずしも有していなくてもよい。このような構成を有する磁気記録テープ2は、記録再生装置による各種記録データの記録再生が可能となるように構成されている。以下、磁気記録テープ2の各構成について説明する。
【0015】
(磁性層6)
磁性層6は、SmCo系磁性微粒子12と、親水性バインダとを含む。この磁性層6は、好ましくは親水性バインダが均一に分布しており、この親水性バインダ中にSmCo系磁性微粒子12が分散された構成となっている。
【0016】
磁性層6の表面の中心線平均粗さRaは1〜2nmであることが好ましい。磁性層6の表面の中心線平均粗さRaが小さ過ぎる場合、磁性層6の表面が平滑すぎて、磁気記録テープ2の走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じ易くなる傾向がある。一方、磁性層6の表面の中心線平均粗さRaが大き過ぎる場合、MR型ヘッドを用いた再生システムにおいて再生出力等の電磁変換特性が劣化する傾向にある。そこで、磁性層6の表面の中心線平均粗さRaを上記の好適範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0017】
磁性層6の厚さは0.01〜0.08μmであることが好ましい。磁性層6の厚さが薄過ぎる場合、磁性層6の厚み方向におけるSmCo系磁性微粒子12の個数が少なくなり、磁束密度が低下し、キャリア出力を得難くなる傾向がある。また、磁性層6の厚さが厚過ぎる場合、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる傾向がある。そこで、磁性層6の厚さを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0018】
ここで、磁性層6に含まれるSmCo系磁性微粒子12について説明する。
【0019】
図2は、SmCo系磁性微粒子12の断面構成を模式的に示す図である。図2に示すように、SmCo系磁性微粒子12は、SmCo系ナノ粒子からなるコア14と、このコア14の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層16とを備える。なお、被覆層16は、必ずしも図1に示すような明確な層状の形状を有している必要はなく、コア14の表面に被覆層16を構成する化合物が部分的に付着したような構成であってもよい。
【0020】
コア14は、SmCo系合金から構成される。SmCo系合金としては、SmとCoとのモル比が異なる種々の合金を用いることができる。これらのSmCo系合金は、その合成時において、SmとCo等の各材料物質の仕込み量や反応条件を適宜調整することによって形成することができる。
【0021】
コア14は、ナノ粒子であるため、その平均粒径は1nm以上100nm未満と定義され、2〜80nmであると好ましい。コア14の平均粒径が80nmより大きいと、磁性層6の表面性が悪化したり、磁性層6におけるSmCo系磁性微粒子12の充填密度が低下して、短波長記録における磁気記録テープ2の磁気特性が低下したりする傾向がある。また、コア14の平均粒径が2nmより小さい場合、SmCo系ナノ粒子14の体積に対する表面酸化層の割合が多くなるため、その磁気特性が低下する傾向がある。そこで、コア14の平均粒径を2〜80nmとすることによって、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の磁気特性及び電磁変換特性を向上させることができる。
【0022】
なお、一般的な磁気記録テープの磁性層の厚みは、湿潤状態で0.1〜0.2μmであり、この膜厚を超える磁性微粒子は使用が困難である。したがって一般的な磁気記録テープの磁性層に使用できる磁性微粒子の平均粒径は0.1μm(100nm)以下とする必要がある。平均粒径が0.1μmより大きい磁性微粒子を使用すると、磁性層表面の中心線粗さRaが大きくなるため、磁性層表面との接触によりヘッドが磨耗し易く、またヘッドの磨耗防止のためにテープ(磁性層)とヘッドとの間のスペースを余分に確保することにより、記録又は再生の出力が低下したりするなどの不具合が生じる傾向がある。このような傾向を回避する観点からも、SmCo系ナノ粒子14の平均粒径を上記の好適範囲内とすることが好ましい。
【0023】
コア14は球状であることが好ましい。コア14が球状であると、表面凹凸等が形成されている場合に比べて比表面積が小さくなるため、コア14の酸化を抑制され易くなり、磁気記録テープ2の耐候性を向上させることができる。また、コア14が球状であると、SmCo系磁性微粒子12も球状となり、磁性層6におけるSmCo系磁性微粒子12の充填密度を高くすることが可能となる。これにより、磁気記録テープ2の記録密度を更に向上させることができる。
【0024】
被覆層16は、親水性高分子によって構成される。まず、親水性高分子は、分子内に極性の高い基又は電荷を有する基を有しており、水に対する親和性の高い高分子である。特に、親水性高分子としては、疎水性の分子鎖の一方の末端に、極性の高い親水基が結合した構成を有するものが好適である。
【0025】
親水性高分子としては、例えば、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸又はこれらの塩、ビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン又はこれらの誘導体若しくは共重合体、セルロース、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルブチラール、水溶性ウレタン樹脂等が挙げられる。なお、これらの親水性高分子は、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0026】
親水性高分子の平均分子量は、100〜10000であると好ましい。親水性高分子の分子量が小さ過ぎる場合、その合成が困難となり、またSmCo系磁性微粒子12の表面を親水性高分子で充分に被覆し難くなる傾向がある。一方、親水性高分子の分子量が大き過ぎると、磁性層6を形成するための塗布液に含まれる溶媒に対して親水性高分子16が溶解し難くなる傾向があり、また、親水性高分子の分子鎖が長くなり過ぎ、一つの親水性高分子に複数のコア14が吸着され易くなって、その結果、SmCo系磁性微粒子12の磁性層6における分散が悪くなる場合がある。そこで、親水性高分子の平均分子量を上記の好適範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制でき、磁性層6において、親水性バインダでのSmCo系磁性微粒子12の分散性が向上するようになる。
【0027】
このように被覆層16が親水性高分子で形成されると、磁性層6の親水性の物質の割合が増大し、より帯電性を良好に低減することができる。
【0028】
被覆層16は、コア14の少なくとも一部を被覆していればよいが、コア14の表面全体を被覆(表面全体にわたって付着)していると特に好ましい。これにより、コア14を構成しているSmCo系ナノ粒子の酸化を抑制し易くなり、磁気記録テープ2の耐候性を向上させることができ、また、磁性層6におけるSmCo系磁性微粒子12の分散性を向上させることもできる。
【0029】
次に、磁性層6に含まれる親水性バインダについて説明する。
【0030】
親水性バインダは、親水性を有し、SmCo系磁性微粒子12を分散可能な高分子化合物であれば特に制限無く適用できる。親水性バインダとしては、例えば、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸又はこれらの塩、ビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン又はこれらの誘導体若しくは共重合体、セルロース、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルブチラール、水溶性ウレタン樹脂等が挙げられる。なお、これらの親水性バインダは、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0031】
この親水性バインダは、SmCo系磁性微粒子12の被覆層16を構成する親水性高分子と同じであってよく、異なっていてもよい。より好適な場合、親水性バインダは、被覆層16を構成する親水性高分子よりも分子量が大きいことが好ましい。親水性バインダが親水性高分子よりも大きな分子量を有すると、磁性層6全体が柔軟となり易く、磁気記録テープ2の読み出しに有利となったり、磁気記録テープ2の耐久性が向上したりする。具体的には、親水性バインダの分子量は、100〜10000であると好ましい。
【0032】
また、磁性層6は、SmCo系磁性微粒子12及び親水性バインダに加えて、界面活性剤を更に含んでいてもよい。この場合、界面活性剤は、磁性層6において、SmCo系磁性微粒子12を被覆するように配置していると好ましい。このようにSmCo系磁性微粒子12を被覆した界面活性剤は、SmCo系磁性微粒子12を親水性バインダ中により均一に分散させることができる。つまり、界面活性剤は、SmCo系磁性微粒子12を親水性バインダ中に分散させる分散剤として機能できる。このように、磁性層6に界面活性剤を含有すると、磁気記録テープ2の耐候性や電磁変換特性を向上させることができる。また、磁性層6が界面活性剤を含むと、磁性層6とアンダーコート層10との接着性を向上させることもでき、さらに磁性層6の剛性を向上させることもできる。
【0033】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系活性剤、ノニオン系活性剤及び高分子系活性剤等を用いることができる。アニオン系活性剤としては、スルホン酸系活性剤等が挙げられる。ノニオン系活性剤としては、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルキルアミン系、及びポリオキシエチレンアルキルアミン系の各活性剤が挙げられる。高分子系活性剤としては、アクリル系、ウレタン系、ビニルアルコール系、及びビニルピロリドン系の各活性剤等が挙げられる。なお、これらの界面活性剤は、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0034】
上述の界面活性剤の中でも、脂肪酸系活性剤、アルキルアミン系活性剤、または高分子系活性剤は、磁性層6を形成するための塗布液を調製する際に、SmCo系磁性微粒子12を分散させる分散剤として好適である。また、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸系活性剤や、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミン系活性剤は、安価な点において界面活性剤として好適である。これらは、単独で用いてもよく、併用してもよい。なお、チオール等の硫黄化合物も界面活性剤としては有用である。ただし、場合によってはテープドライブ内の部品の腐食を生じさせるおそれもあるため、上述したような界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0035】
以上のような構成を有する磁性層6は、これに含まれるSmCo系磁性微粒子12が親水性バインダに分散した構成を有しており、またこの親水性バインダは、磁性層6を帯電し難くする特性を有していることから、全体として極めて帯電し難いものとなる。また、磁性層6に含まれるSmCo系磁性微粒子12は、磁気特性の高いSmCo系ナノ粒子からなるコア14を有しており、しかも、表面が被覆層16によって覆われているから、高い磁気特性を有し、しかも磁性層6中に均一に分散されている。したがって、このようなSmCo系磁性微粒子12を含む磁性層6は高記録密度化も容易である。
【0036】
(アンダーコート層10)
以下、磁気記録テープ2における磁性層6以外の構成について説明する。まず、アンダーコート層10は、上述のように、ベースフィルム4と磁性層6との間に配置される。このアンダーコート層10を有することによって、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができるとともに、ベースフィルム4と磁性層6との密着性を向上させることもできる。
【0037】
アンダーコート層10は、軟磁性材料を含有する軟磁性層であることが好ましい。磁気記録テープ2がアンダーコート層10として軟磁性層を備えることにより、垂直磁気記録が可能となり、従来の長手磁気記録の場合に比べて、磁気記録テープ2の記録密度を向上させることができる。なお、軟磁性材料としては、Fe合金又はCo(コバルト)合金等を用いることができる。
【0038】
アンダーコート層10の中心線平均粗さRaは、1〜3nmであることが好ましい。アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが大き過ぎる場合、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが、アンダーコート層10の上層に形成される磁性層6のRaにも影響を与えるため、ヘッド−テープ間のスペーシング変動による出力変動が顕著となる傾向がある。また、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが小さ過ぎる場合、ドライブ内のガイドピン表面との摩擦力が高まることにより、磁気記録テープ2の走行が不安定となる傾向がある。そこで、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制し、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0039】
また、アンダーコート層の厚さは、0.1〜1.0μmであることが好ましい。アンダーコート層10の厚さをこの範囲に設定することにより、磁気記録テープ2の走行耐久性を保証するに足る諸添加物を貯留することが可能となる。さらに、ベースフィルム4の表面粗度が磁性層6に与える影響を、最小限に抑えることができるため、記録再生時のエラーを大幅に低減し易くなる。したがって、アンダーコート層10の厚さを、0.1〜1.0μmの範囲に設定することによって、製造される磁気記録テープの信頼性が良好に得られるようになる。
【0040】
(ベースフィルム4)
ベースフィルム4は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド及びポリアミドイミド等の樹脂材料等の材料から形成することができる。
【0041】
(バックコート層8)
バックコート層8は、磁気記録テープのバックコート層に適用される公知の構造や組成を有する層であればよい。例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末及び結合剤等から構成されるものが挙げられる。このバックコート層8によって、磁気記録テープ2の走行性を向上させることができると共に、ベースフィルム4の傷付き(摩耗)や磁気記録テープ2の帯電を防止することができる。
[磁気記録テープ2の製造方法]
【0042】
次に、上述したような構成を有する磁気記録テープ2の製造方法の例について説明する。
【0043】
磁気記録テープ2の製造方法は、特に限定されず、公知の磁気記録テープ2の製造方法を用いることができる。例えば、Sm塩と、Co塩と、親水性高分子とを溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び親水性高分子を含む混合物を得る工程(第1工程)と、混合物に親水性バインダを加えて、磁性塗料を得る工程(第2工程)と、磁性塗料を用いて、SmCo系ナノ粒子からなるコア14、及び、上記親水性高分子からなりコアの表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層16を有するSmCo系磁性微粒子12と、親水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を形成する工程(第3工程)と、を備える。本実施形態の製造方法によれば、上述の磁気記録テープ2を容易に形成することができる。
【0044】
第1の工程では、Sm塩(サマリウム塩)とCo塩(コバルト塩)と親水性高分子とをグリコール類等の溶媒に溶解して反応溶液を作る。サマリウム塩としては、サマリウムアセチルアセトナート水和物が好ましく、コバルト塩としては、コバルトアセチルアセトナートが好ましい。
【0045】
この反応溶液を作る過程においては、例えば、サマリウム塩を第1の溶媒に溶解させて第1の溶液を作り、コバルト塩を第2の溶媒に溶解させて第2の溶液を作り、第3の溶媒に被覆層16を形成するための親水性高分子を溶解させて第3の溶液を作った後、例えば、第1の溶液及び第2の溶液を、第3の溶液に添加し、混合することができる。
【0046】
第1、2、3の溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−へキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のグリコール類のいずれかを用いることができる。
【0047】
特に、第3の溶媒としては、親水性高分子を良好に溶解できる溶媒が好ましく、得られるSmCo系ナノ粒子14の結晶性を高める観点から、沸点が比較的高温(200〜300℃)である溶媒が好ましい。また、第3の溶媒としては、SmCo錯体の還元剤として機能するものも使用できる。還元作用のない第3の溶媒を用いる場合や、又は第3の溶液中での還元反応を促進する場合等は、LiAlH又はNaBHのような固体還元剤が適切な溶媒に溶解されたものを第3の溶媒に加えてもよい。さらに、SmCo系ナノ粒子に界面活性剤が吸着された構成とする場合は、第3の溶媒に、界面活性剤を含有させることもできる。
【0048】
次に、上記の反応溶液を十分に攪拌した後、これを110℃程度に保持して、水分を除去する。続いて、反応溶液を150〜320℃に保って反応させる。この反応が終わった後、室温になるまで放置し、その後、ウルトラフィルターを用いて脱水エタノール等で溶液変換と粒子の洗浄を行う。そして、エバポレータを用いて溶媒を留去した後、最後に真空乾燥させること等によって、SmCo系ナノ粒子14と、被覆層16の材料である親水性高分子とを含む混合物を固体粉末として取り出すことができる。
【0049】
次いで、第2の工程において、上記混合物及び親水性バインダ(結合剤)を溶剤中に分散させて、磁性層6を形成するための磁性塗料を調製する。
【0050】
この磁性層6の形成に用いる磁性層6形成用の磁性塗料には、界面活性剤を更に含有させることが好ましい。界面活性剤を含有する磁性塗料から形成した磁性層6においては、SmCo系磁性微粒子12が親水性バインダ中により分散し易くなって、これによりSmCo系ナノ粒子14が水分によって酸化することを更に抑制できる。また、磁気記録テープ2の耐候性及び電磁変換特性を向上させることができる。さらに、界面活性剤を含有する磁性塗料から形成した磁性層6では、その剛性が向上する傾向にある。
【0051】
磁性塗料には、更に、必要に応じて、公知の分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤、帯電防止剤等を添加してもよい。また、磁性塗料を作製する際には、分子量1万程度の高分子量ポリウレタンを更に添加してもよい。これにより、磁気記録テープ2の塗膜強度を良好に得ることができる。更に、硬化剤として日本ポリウレタン製のコロネート3041のような熱硬化剤を添加してもよい。この硬化剤を含むと、コア14を被覆する被覆層16と高分子量ポリウレタンとの間において強固な架橋が形成され、磁気記録テープ2に、高速走行に耐えうる塗膜強度を付与することができる。
【0052】
磁器記録テープ2の製造では、上記の磁性塗料のほか、アンダーコート層10、バックコート層8を形成するための各材料を混合、混練、分散、希釈等することにより、これらの層を形成するための塗料をそれぞれ作製する。
【0053】
例えば、バックコート層8やアンダーコート層10を形成するための塗料としては、これらの各層の構成材料の粉末及び結合剤等を溶剤中に分散させたものが挙げられる。これらの塗料には、必要に応じて、磁性層6を形成するための塗料に用いたものと同様の分散剤、研磨剤、潤滑剤等を添加してもよい。例えば、バックコート層8形成用には、非磁性粉末として、カーボンブラック、α酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、αアルミナ等の無機質粉末やこれらの混合物を用いる。また、アンダーコート層10形成用には、この非磁性粉末の代わりに、Fe合金又はCo(コバルト)合金等の軟磁性材料を用いればよい。
【0054】
その後、第3工程において、上述した磁性塗料を用いて磁性層6を形成し、磁気記録テープ2を得る。具体的には、例えば、ベースフィルム4の表面に対して、アンダーコート層4形成用の塗料を塗布し、この上に磁性層6形成用の磁性塗料を塗布する。また、ベースフィルム4のアンダーコート層10とは反対側の面に、バックコート層8形成用の塗料を塗布する。こうして、各層の前駆体が積層された構造を有する積層体を形成する。それから、必要に応じて、各層の前駆体に対して、配向、乾燥、カレンダー処理等を行った後、各層の前駆体の硬化処理を行う。そして、積層体を所望の形状に切断したり、カートリッジに組み込んだりすることにより、磁気記録テープ2を完成させる。
【0055】
このようにして得られた磁気記録テープ2の磁性層6は、SmCo系ナノ粒子からなるコア14、及び、親水性高分子からなりコア14の表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層16を有するSmCo系磁性微粒子12が、親水性バインダ中に分散されたような構成を有する。なお、本実施形態の製造方法では、SmCo系磁性微粒子12は、主に第1の工程において生じるが、第2又は第3工程において生じてもよい。
【0056】
以上、本発明に係る磁気記録媒体の好適な実施形態として、磁気記録テープ2について説明したが、本実施形態の磁気記録テープ2は、上述した磁性層6を有しているため、高記録密度化が可能であり、しかも帯電し難いという特性を有するようになる。
【0057】
テープ状の磁気記録媒体(磁気記録テープ)は、普通は剛直ではないため、テープ走行時の振動を無くすのが困難である。そのため、磁気記録テープは、ヘッドに常に接触させることでその部分のテープを固定し、出力変動を抑制することによって高密度記録化を可能とする。ところが、従来の磁気記録テープは、金属磁性粉と疎水性高分子の混合によって構成されていることが多いため、電気伝導性に乏しく、テープ走行による摩擦によって帯電し易い傾向にあった。
【0058】
ところが、近年、高密度記録にはMRヘッドを用いるのが必須となっているが、このMRヘッドを使用したシステムでは、帯電したテープとヘッドとの間で静電気放電(ESD)が起こり、これによってヘッドが破壊されてしまうことがあった。特に、最近では更なる高密度記録化が進んでおり、これに対応し得るヘッドも磁気記録テープの帯電によって一層破壊され易くなり、帯電への対策は更に重要となっている。
【0059】
これに対し、本実施形態の磁気記録テープ2は、上述した構成の磁性層6を有することから極めて帯電され難いものである。したがって、上述のような高密度記録に対応したヘッドにも良好に用いることができ、これらのヘッドの破壊を引き起こすことが少ない。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0061】
例えば、上述した実施形態では、1つのSmCo系磁性微粒子12につき1つのコア14のみが含まれる形態を説明したが、これに限定されず、SmCo系磁性微粒子12は、被覆層16中に複数のコア14が分散したような構成を有していてもよい。また、例えば、コア14は、上述した実施形態のように、単一のSmCo系ナノ粒子(一次粒子)であることが好ましいが、複数のSmCo系ナノ粒子からなる二次粒子であってもよい。
【0062】
また、上述の実施形態の磁気記録テープ2は、ベースフィルム4の上にアンダーコート層10が積層され、アンダーコート層10の上に磁性層6が積層されている構造を有するが、磁気記録テープ2の構造はこれに限定されない。例えば、磁気記録テープにおいて、ベースフィルム(支持体)の上に、下層磁性層及び上層磁性層が順に積層された積層構造であってもよく、また、ベースフィルムの上に、非磁性層及び磁性層が順に積層された積層構造であってもよい。
【0063】
さらに、磁気記録テープ2は、ベースフィルム4と磁性層6との間に、軟磁性材料を含有する軟磁性層を更に備えていてもよい。磁気記録テープ2が軟磁性層を備えることにより、垂直磁気記録が可能となり、従来の長手磁気記録の場合に比べて、磁気記録テープ2の記録密度を更に向上させることができる。このような効果を確実に得るためには、軟磁性層が磁性層6に隣接していることが好ましい。例えば、図1の磁気記録テープ2は、アンダーコート層10と磁性層6との間に軟磁性層を備えていてもよい。なお、軟磁性材料としては、Fe合金又はCo合金等を用いることができる。
【0064】
また、上述の実施形態の磁気記録テープ2の製造方法では、第1工程において、反応溶液からいったん固体粉末を取り出した後、第2工程において、この固体粉末を用いて磁性塗料を調製したが、磁性塗料の調製法はこれに限定されない。例えば、第1工程において、反応溶液から固体粉末を取り出さずに、反応溶液中の溶媒を磁性塗料用の溶媒に置換し、適宜固形分濃度を調整した後、第2工程において、これに親水性バインダ等を加えることで磁性塗料を得てもよい。なお、この場合であっても、第1工程で反応溶液を得た後、この反応溶液の一部を留去する等して除去することが、磁気記録テープの高出力化により記録再生特性の高い信頼性を確保する観点から好ましい。
【0065】
さらに、磁気記録媒体としては、上述した実施形態の磁気記録テープ2以外に、磁気カード、磁気ディスク等の公知のものも適用できる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
<SmCo系磁性微粒子の合成>
以下のようにして、実施例1の磁気記録テープを作成した。先ず、サマリウムアセチルアセトナート水和物([CHCOCH=C(O−)CH]Sm・xHO)223.8重量部を、1,4ジオキサン20000重量部に溶解させ、Sm溶液を調製した。次に、コバルトアセチルアセトナート([CHCOCH=C(O−)CH]Co)534.4重量部を、1,4−ジオキサン20000重量部に溶解させ、Co溶液を調製した。また、テトラエチレングリコール90000重量部に、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)を1000重量部溶解させて高分子溶液を調製した。なお、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)は、後述するSmCo系磁性微粒子において、被覆層を形成する親水性高分子である。
【0068】
次に、Sm溶液とCo溶液とを高分子溶液に添加したものを混合して反応溶液を調整し、これを約12時間攪拌混合した。次に、攪拌後の反応溶液から、Sm塩の原料及びアルコール溶媒中に含まれる水分を除去するため、この反応溶液を不活性ガス気体の気流下で110℃に保ち、約1時間加熱した。これにより、Sm塩やCo塩の溶解に使用された1,4ジオキサンも一緒に除去され、Sm塩及びCo塩は反応溶液のアルコール溶媒中に移行した。続いて、不活性気体の気流下で、反応溶液を250〜300℃で約3時間加熱還流し、化学反応を生じさせた。これによって、反応溶液中にSmCo系磁性微粒子を生成させた。
【0069】
この反応溶液をキャピラリーで分取して無水エタノールで溶媒置換した後、TEM観察用グリッドに滴下して乾燥させた。TEM観察より、合成されたSmCo系磁性微粒子の平均粒径は2〜7nmの範囲であることが確認された。
【0070】
次に、反応溶液を静置し、上澄みを除去した後、アセトンを加えて洗浄することにより、SmCo系磁性微粒子においてSmCo系ナノ粒子からなるコアを被覆している親水性高分子のうちの一部を溶解除去した。これにより、親水性高分子に対するSmCo系ナノ微粒子の総重量の重量比を約6とした。
【0071】
<磁性層用塗料の調製>
SmCo系磁性微粒子を含む上述のスラリー:143重量部(SmCo系ナノ粒子:100重量部、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン):14重量部、アセトン:29重量部、(SmCo系ナノ粒子/ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)の重量比=7/1、固形分濃度80wt%)、親水性バインダであるポリビニルアルコール(分子量:10000):2.7重量部、α−Al:6質量部、フタル酸:2質量部、及びブチルアルコールを加え合わせて、固形分濃度80wt%のスラリーを調製し、これを加圧ニーダーで2時間混練した。混練後のスラリーに、ブチルアルコールを加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルによる分散処理を行った。分散処理後のスラリーに対して、ブチルアルコール、ステアリン酸:1質量部、ステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部に水溶性ポリイソシアネート化合物(大日本インキ製)0.82質量部を加え、磁性層用の塗料を得た。
【0072】
<アンダーコート層用塗料の調製>
針状α−Fe:85質量部、カーボンブラック:15質量部、電子線硬化型塩化ビニル系樹脂:15質量部、電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂:10質量部、α−Al:5質量部、o−フタル酸:2質量部、メチルエチルケトン(MEK):10重量部、トルエン:10重量部、及びシクロヘキサン:10重量部を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行い、スラリーを得た。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて8時間分散処理を行った。分散処理後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとしてアンダーコート層用の塗料を得た。
【0073】
<バックコート層用塗料の調製>
ニトロセルロース:50質量部、ポリエステルポリウレタン樹脂:40質量部、カーボンブラック:85質量部、BaSO:15質量部、オレイン酸銅:5質量部、及び銅フタロシアニン:5質量部をボールミルに投入し、24時間分散を行って、混合物を得た。この混合物に、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=1/1/1重量比)を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとした。続いて、このスラリー100質量部にイソシアネート化合物1.1質量部を加えて、バックコート層用塗料とした。
【0074】
<磁気記録テープの製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ベースフィルム)の表面上に、アンダーコート層用の塗料を、乾燥厚み2.0μmとなるよう塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理をして、最後に電子線照射により塗膜を硬化させてアンダーコート層を形成した。次に、アンダーコート層上に、磁性層用の塗料を、乾燥厚み0.20μmとなるように塗布し、磁場配向処理を行い、これを乾燥した後、カレンダー処理をして磁性層を形成した。次に、磁性層上に、フッ素溶液(パーフルオロポリエーテル:1重量部、n-ヘキサン:1000重量部)を塗布し、乾燥して、撥水層を形成した。
【0075】
さらに、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面に、バックコート層用の塗料を、乾燥厚み0.6μmとなるように塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理してバックコート層を形成した。このようにして、ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に各層が形成された磁気記録テープ原反を得た。その後、この磁気記録テープ原反を、60℃のオーブンに24時間入れ、熱硬化を行った。熱硬化後の磁気記録テープ原反を、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、実施例1の磁気記録テープを得た。
【0076】
(比較例1)
<SmCo系磁性微粒子の合成>
実施例1と同様にしてSmCo系磁性微粒子を含む反応溶液を得た後、この反応溶液を静置し、更にウルトラフィルターにより濾過してテトラエチレングリコールを除去した。その後、得られた濾過物を、脱水処理したアセトンで洗浄することにより、SmCo系磁性微粒子においてSmCo系ナノ粒子からなるコアを被覆している親水性高分子のうち一部を溶解除去した。これにより、親水性高分子に対するSmCo系ナノ微粒子の総重量の重量比を7/1とした。
【0077】
<磁性層用塗料の調製>
SmCo系磁性微粒子を含む上述のスラリー:143重量部(SmCo系ナノ粒子:100重量部、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン):14重量部、アセトン:29重量部、(SmCo系ナノ粒子/ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン))の重量比=7/1、固形分濃度80wt%)、疎水性バインダである高分子ウレタン(東洋紡:UR8700):2.7重量部、α−Al:6質量部、フタル酸:2質量部、及び混合溶媒(メチルエチルケトン(MEK)/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加え合わせて、固形分濃度80wt%のスラリーを調整し、これを加圧ニーダーで2時間混練した。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルによる分散処理を行った。分散処理のスラリーに対して、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.82質量部を加え、磁性層用の塗料を得た。
【0078】
<アンダーコート層用塗料及びバックコート層用塗料の調製>
実施例1と同様にして、アンダーコート層用塗料及びバックコート層用塗料を調製した。
【0079】
<磁気記録テープの製造>
実施例1の磁性層用の塗料に代えて、比較例1の磁性層用の塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして磁気記録テープを得た。
【0080】
[特性評価]
<電磁返還特性の評価>
MIGヘッドを用いて0.2μmの記録波長で記録し、GMRヘッドを用いて再生して、実施例1及び比較例1の磁気記録テープの電磁変換特性を測定した。なお、電磁変換特性の測定にはドラムテスタを用いた。測定の結果、実施例1及び比較例1の磁気記録テープでは、共に良好な電磁変換特性が得られた。
【0081】
<帯電性評価>
実施例1及び比較例1で得られた磁気記録テープを、これらに記録・再生を行う場合と同様にしてMRヘッドに対して繰り返し走行させた。そして、磁気記録テープの走行を行う前、及び1万回走行後における各磁気記録テープの表面電位(V)及び表面帯電量(nC)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0082】
表1に示すように、実施例1の磁気記録テープによれば、MRヘッドを用いた記録・再生の際に帯電し難く、また、表面電位も小さいことから、MRヘッドによる記録・再生を安定して行うことができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】好適な実施形態に係る磁気記録媒体の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】SmCo系磁性微粒子12の断面構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0084】
2…磁気記録テープ、4…ベースフィルム、6…磁性層、8…バックコート層、10…アンダーコート層、12…SmCo系磁性微粒子、14…コア、16…被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SmCo系磁性微粒子と、親水性バインダと、を含む磁性層を備え、
前記SmCo系磁性微粒子が、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、親水性高分子からなり、前記コアの表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層と、を有するものである、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記被覆層を構成する前記親水性高分子よりも、前記親水性バインダの分子量の方が大きい、請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
Sm塩と、Co塩と、親水性高分子と、を溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び前記親水性高分子を含む混合物を得る第1工程と、
前記混合物に親水性バインダを加えて、磁性塗料を得る第2工程と、
前記磁性塗料を用いて、前記SmCo系ナノ粒子からなるコア、及び、前記親水性高分子からなり前記コアの表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層を有するSmCo系磁性微粒子と、前記親水性バインダと、を含む磁性層を形成する第3工程と、
を有する、磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−134831(P2009−134831A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311365(P2007−311365)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】