説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】垂直記録方式に適した塗布型の磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層とをこの順で有する磁気記録媒体であって、前記強磁性層は、実質的に垂直方向に磁化容易軸を有し、前記軟磁性層は、6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有するとともに、実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されている磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録特性に優れた塗布型の磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粉末が結合剤中に分散された磁性層を有する塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、記録密度の一層の向上が要求されている。特に、高密度デジタルビデオテープやコンピュータバックアップテープなどに用いられる磁気記録媒体においては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
記録密度を向上させるためには、トラック密度と線記録密度とを向上させる必要がある。トラック密度を向上させると、信号再生のためのトラック幅が減少するため出力が低下するが、最近は再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(GMRヘッド)やトンネル磁気抵抗効果型磁気ヘッド(TMRヘッド)などの高感度ヘッドの適用が検討されてきている。このようなGMRヘッドなどの高感度ヘッドを利用するシステムにおいては、トラック密度の向上による出力の低下を抑えることができる。
【0004】
一方、線記録密度の向上に関しては、これまでの磁気記録媒体には記録方式として、針状の磁性粉末を長手方向に配向させた磁性層を面内方向に磁化する面内記録方式が用いられているため、記録密度の向上が限界に近づいてきている。これは、線記録密度を増加させようとして記録波長を短波長化すると、記録時に磁性層内の反磁界が増加して、残留磁化の減衰と回転とを生じ、記録信号の検出が困難となるためである。
【0005】
このため、従来から磁性層の残留磁化の垂直成分が面内成分より大きくなるように垂直方向に磁性粉末を配向させ、垂直方向に磁化容易軸を有する磁性層を設けた磁気記録媒体を用い、該磁性層に垂直方向に信号を記録する垂直記録方式が提案されている(例えば、特許文献1〜2)。磁性粉末を垂直配向させた磁性層を有する磁気記録媒体は、記録ビットの境界である磁化遷移領域付近の反磁界が小さく、また自己減磁も小さいため、高出力が得られるというメリットがある。しかしながら、従来の針状の磁性粉末は塗布時の機械配向によって長手方向に配向しやすいことから、磁性粉末を垂直配向させることは困難であり、また垂直配向によって磁性粉末が磁性層表面から突出し、磁性層の表面性が低下しやすい。従って、針状の磁性粉末の長軸長と磁性層の厚さとが同レベルとなるような磁性層厚さの領域では、針状の磁性粉末を垂直配向させることは本質的に適さない。
【0006】
そこで、垂直配向性に優れる板状の六方晶フェライト系磁性粉末や球状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末などの粒状の強磁性粉末を上層磁性層に用いた磁気記録媒体が提案されており、本出願人も低保磁力磁性粉末を含有する低保磁力層と、該低保磁力層上に窒化鉄系磁性粉末を垂直配向させた薄層の上層磁性層を有する磁気記録媒体を先に提案した(特許文献3)。この磁気記録媒体によれば、上層磁性層が高保磁力、高飽和磁化を有する粒状の窒化鉄系磁性粉末を含有するため、上層磁性層の厚みが薄い場合でも、表面平滑性に優れた上層磁性層を得ることができ、再生出力に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【特許文献1】特開昭57−183626号公報
【特許文献2】特開昭59−167854号公報
【特許文献3】特開2004−335019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ハードディスクなどの分野では、線記録密度を飛躍的に向上させるための有効な手法の一つとして、記録媒体に、磁性層面に対して垂直方向に磁気異方性を有する垂直磁性薄膜層と、該垂直磁性薄膜層と磁気的に密接に結合した軟磁性裏打ち層とを有する垂直磁気記録媒体を用いるとともに、記録ヘッドに、記録能力に優れる単磁極ヘッドを用いる垂直記録方式が提案されている。この垂直記録方式によれば、上述したような線記録密度の上昇に伴う記録磁化の減磁を抑えることができるだけでなく、記録密度が高くなるほど反磁界が減少し、記録磁化をより安定化させることができる。
【0008】
上記の垂直磁気記録媒体で、軟磁性裏打ち層は、記録時に他方の磁気ヘッドとして機能し、記録ヘッドからの記録磁界を還流させる役割や、垂直方向に記録した記録ビットの下側から発生する磁束が軟磁性裏打ち層で閉じられるため、再生時に垂直磁性薄膜層の上側から発生する磁束を再生ヘッドに導く役割を果たしている。このため、軟磁性裏打ち層には高透磁率で、数kA/m程度の極めて低保磁力のパーマロイなどからなるスパッタ膜が用いられている。
【0009】
しかしながら、上記のハードディスクなどのようなスパッタ法などにより形成される連続媒体と異なり、塗布型の磁気記録媒体では、上層磁性層と下層磁性層とを磁気的に密接に結合させることが難しい。これは、複数の磁性層を積層した塗布型の磁気記録媒体を形成する場合、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層用塗料を非磁性支持体上に塗布して軟磁性層をまず形成し、この軟磁性層上に、強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層用塗料を塗布して強磁性層を形成する必要があり、そのため両層が独立の層として形成されるからである。また、塗布型の磁気記録媒体で使用される磁性粉末は、一般に磁性を示す範囲では粒子サイズが小さくなるほど保磁力が高くなる傾向がある。従って、塗布型の磁気記録媒体においては、ハードディスクなど垂直磁気記録媒体に利用される軟磁性裏打ち層のような数kA/m程度の低保磁力の軟磁性層を形成することが本質的に難しい。このため、特許文献3のような下層に低保磁力層を設け、この低保磁力層上に粒状の窒化鉄系磁性粉末を垂直配向させた上層磁性層を有する磁気記録媒体では、GMRヘッドなどの高感度ヘッドを用いても短波長出力の向上が不十分となる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、垂直配向性に優れた粒状の強磁性粉末を含有する強磁性層を上層に有する塗布型の磁気記録媒体において、短波長記録時の自己減磁損失を低減し、より高い短波長出力を達成し得るための最適な軟磁性層を形成し、それによって優れたSNRを有する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層とをこの順で有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性層は、実質的に垂直方向に磁化容易軸を有し、
前記軟磁性層は、6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有するとともに、実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されている磁気記録媒体である。
【0012】
上記磁気記録媒体において、前記強磁性層は、窒化鉄系磁性粉末を含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層とをこの順で有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層用塗料を塗布して軟磁性塗料膜を形成し、
前記軟磁性塗料膜に、前記軟磁性塗料膜の面内方向と平行な方向の磁界を印加して、6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有し、且つ実質的に長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成し、
前記軟磁性層上に、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層用塗料を塗布して強磁性塗料膜を形成し、
前記強磁性塗料膜に、前記強磁性塗料膜の面内方向と垂直な方向の磁界を印加して、実質的に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層を形成し、
前記軟磁性層を長手方向に直流消磁する、製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、最適な軟磁性下層を設けることにより、短波長記録時の自己減磁損失を低減し、より高い出力を達成でき、それによって優れたSNRを有する垂直記録方式に適した塗布型の磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施の形態の磁気記録媒体は、垂直配向性に優れる粒状の強磁性粉末を含有する上層の強磁性層と、該強磁性層の下に6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有するとともに、実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されている下層の軟磁性層とを有する。
【0016】
垂直記録を行うためには、ハードディスクなどの垂直磁気記録媒体と同様に下層に低保磁力の軟磁性層を形成する必要があるが、既述したように、塗布型の磁気記録媒体では、上層磁性層と下層磁性層とを磁気的に密接に結合させることが難しい。また、塗布型の磁気記録媒体では、磁性粉末の特性から垂直磁気記録媒体に利用されている軟磁性裏打ち層程度の低保磁力の下層を形成することが困難である。すなわち、ハードディスクなどの垂直磁気記録媒体で利用されるスパッタ媒体では、容易に低保磁力の軟磁性裏打ち層を形成することができるが、磁性粉末を用いる塗布型の磁気記録媒体では、微粒子化に伴って磁性粉末の保磁力が増大する。そして、さらに微粒子になると磁性粉末は超常磁性を示すようになり、保磁力が低下するが、磁化率も低下する。このため、磁界に対する感度が低下して磁化され難くなるため、記録磁界を導く能力が低下して記録効率が低下することとなる。このため、垂直磁気記録媒体と異なり、塗布型の磁気記録媒体においては、垂直記録の特徴を十分に引き出すことが難しい。
【0017】
本発明者らは、塗布型の磁気記録媒体で垂直記録を実現するために上記問題を検討した結果、塗布型の磁気記録媒体においては、軟磁性層の保磁力がある程度高くても、軟磁性層が実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されていれば、高出力、低ノイズで、優れたSNRを有する垂直記録方式に適した塗布型の垂直磁気記録媒体が得られることを見出した。この理由は現在のところ必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。まず、記録時においては、一定の保磁力を有する軟磁性層によって記録ヘッドからの磁界を強磁性層に導くことができる。従来の塗布型の垂直磁気記録媒体では、軟磁性層上に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層を形成する際に、強磁性塗料膜の面内方向と垂直な方向に大きな配向磁界を付与する必要があるため、軟磁性層の磁性粉末もその配向磁界により垂直方向に磁化されることとなる。このため、軟磁性層に記録ヘッドからの磁界が導かれた際に、軟磁性層の磁化の方向から磁束のループが形成され難くなると考えられる。これに対して、軟磁性層が長手方向に磁化容易軸を有するよう形成されていれば、長手方向に一様に磁化を有するよう軟磁性層を直流消磁することができる。そして、直流消磁により軟磁性層が長手方向に一様に磁化されていれば、強磁性層と軟磁性層とが独立の層として形成される塗布型の磁気記録媒体においても、記録時の磁界が印加された際に軟磁性層に導入された磁束は、軟磁性層の磁化に従ってループを形成しやすくなり、それによって軟磁性層が記録ヘッドからの記録磁界を還流させる役割を果たすことができると考えられる。また、軟磁性層が実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されていれば、記録後に上層の強磁性層の下側から発生する磁界が下層の軟磁性層で閉じられ、それによって上層の強磁性層から発生する磁束を安定化させることができ、強磁性層の上側から発生する漏洩磁界を効率良く再生できると考えられる。そして、高線記録密度を達成するために記録波長が短くなってきていることを考慮すれば、短波長記録においては上層の強磁性層の最深部まで磁化されず、記録時の磁界によって下層の軟磁性層が磁化されることも防ぐことができると考えられる。
【0018】
図1は、本実施の磁気記録媒体を用いた場合の信号の記録再生時の状態の一例を説明する概念図であり、図中(a)は記録時を、(b)は再生時を示す。なお、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いても、基本構成は図1と同様である。図1(a)に示すように、記録ヘッドは主磁極1aと補助磁極1bとを有しており、記録時に主磁極1aから出た磁界は強磁性層2に導かれる。これにより、強磁性層2は矢印2aの方向に磁化される。そして、主磁極1aから強磁性層2へと高い磁束密度で入力された記録磁界は、強磁性層2から軟磁性層3へと流れ、さらに軟磁性層3から補助磁極1bへと流れ、磁気回路Cが形成される。このとき、下層の軟磁性層3は磁束のループを形成する方向と同一の方向に磁化容易軸を有し、直流消磁によって矢印3aの一方向に磁化されているため、効率良く磁気回路Cが形成される。また、図1(b)に示すように、記録された強磁性層2から発生する磁界は、強磁性層2の上側及び下側の両側から発生する。このとき、下側から発生した磁界Hbは、下層の軟磁性層3が長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されているため、下層の軟磁性層3で閉じられ、強磁性層2の上側のみから発生する漏洩磁界Haを再生ヘッド4で効率良く再生できる。
【0019】
上記のように軟磁性層が長手方向に磁化を有するよう直流消磁するためには、長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成する必要がある。塗布型の磁気記録媒体において長手方向に磁化容易軸を有する磁性層を形成するためには、配向処理によって磁性粉末を配向させなければならないため一定の保磁力が必要とされる。一方、軟磁性層の長手方向の保磁力が高すぎると、軟磁性層から発生する磁界が大きくなり、強磁性層に記録した信号がその影響を受けノイズが増加する。本発明者らの検討によれば、軟磁性層の長手方向の保磁力が6.4〜39.8kA/mの範囲、好ましくは8.0〜34.2kA/mの範囲にあれば、直流消磁によって軟磁性層を一様に磁化可能であり、前記軟磁性層を形成することにより短波長記録における出力を向上できるとともに、ノイズの増加が抑えられ、垂直記録方式において優れたSNRを有する塗布型の磁気記録媒体が得られることが見出された。なお、上記軟磁性層の保磁力は、軟磁性層を試料振動型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m、磁場掃引速度80kA/m/分で測定したときの値を意味する。
【0020】
次に、本実施の形態の磁気記録媒体に用いられる強磁性層、軟磁性層の各組成、それらの製造方法を説明する。
【0021】
垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層を形成するため、上層の強磁性層は粒状の強磁性粉末を含有する。従来の鉄系金属磁性粉末などの針状の強磁性粉末は、保磁力が形状磁気異方性に依存するため、本質的に軸比の小さい粒状の強磁性粉末とすることが困難である。このため、本実施の形態においては、粒状の強磁性粉末が用いられる。このような粒状の磁性粉末としては、窒化鉄系磁性粉末、及び六方晶フェライト系磁性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種の強磁性粉末が好ましく、特に窒化鉄系磁性粉末が好ましい。窒化鉄系磁性粉末は微粒子でありながら、優れた結晶磁気異方性を有するため、異方性の小さい球状乃至楕円体状の形状を有していても、高保磁力を有している。また、結晶磁気異方性により、窒化鉄系磁性粉末は垂直配向されても、磁化容易軸が垂直方向に揃うだけで、強磁性層の表面平滑性が劣化せず、高密度記録に適した優れた表面平滑性を有する磁性層が得られる。また、六方晶フェライト磁性粉末は、板状の粒子であり、粒子サイズが小さく、その板面に垂直な方向に磁化容易軸があることから垂直方向に配向させることで、自己減磁を小さくすることができる。なお、上記粒状とは、球状、楕円体状、板状などの形状を意味するものである。
【0022】
強磁性粉末として窒化鉄系磁性粉末を用いる場合、Fe16相を主相として含有する窒化鉄系磁性粉末が好ましい。結晶性の高いFe16相を主相として含有することにより、保磁力及び飽和磁化を向上することができる。このようなFe16相を主相として含有する粒状の窒化鉄系磁性粉末は、例えば特開2000−277311号公報に記載されている。また、窒化鉄系磁性粉末の粒径は、5〜20nmが好ましく、その軸比は、1〜2が好ましい。このような微粒子で異方性の小さい窒化鉄系磁性粉末を使用することにより、粒子性ノイズを低減することができる。なお、本明細書において粒径とは、球状乃至楕円体状の強磁性粉末の場合は直径または長軸径を意味し、板状の強磁性粉末の場合、板径を意味する。粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した磁性粉末300個の粒径の平均値から求めることができる。また、このような窒化鉄系磁性粉末の中でも、鉄に対して窒素を1〜20原子%含有する窒化鉄系磁性粉末が好ましい。窒化鉄系磁性粉末は、鉄の一部が他の遷移金属元素で置換されていてもよい。このような他の遷移金属元素としては、具体的には、例えば、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。また、窒化鉄系磁性粉末は希土類元素を含有することが好ましい。特に、Fe16相を主相とする窒化鉄を主として含有するコア部と上記希土類元素を主として含有する外層部とを有する2層構成の窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力でありながら、高い分散性や優れた形状維持性を示すため好ましい。このような希土類元素としては、具体的には、例えば、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。これらの中でも、イットリウム、サマリウム、及びネオジウムは還元時の粒子形状の維持効果が大きいため、好ましい。希土類元素の含有量は、鉄に対し、0.05〜20原子%が好ましく、0.1〜15原子%がより好ましく、0.5〜10原子%が最も好ましい。希土類元素が少なすぎると、分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。希土類元素が多すぎると、未反応の希土類元素部分が多くなり、分散、塗布工程での障害となったり、保磁力や飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。また、窒化鉄系磁性粉末は、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを含有してもよい。このような元素を含有することにより、高分散性の窒化鉄系磁性粉末が得られる。これらの元素は、希土類元素に比べて安価であるため、コスト的にも有利である。これらの元素の含有量は、鉄に対し、ホウ素、シリコン、アルミニウム及びリンの総含有量で0.1〜20原子%が好ましい。これらの元素が少なすぎると、形状維持効果が少ない。また、これらの元素が多すぎると、飽和磁化が低下しやすい。なお、窒化鉄系磁性粉末は、必要により、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなどを含有してもよい。これら元素と希土類元素とを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能を得ることができる。
【0023】
窒化鉄系磁性粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2004−273094号公報などに記載の方法が挙げられる。具体的には、出発原料としては、鉄系酸化物または鉄系水酸化物が用いられる。鉄系酸化物、鉄系水酸化物としては、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲーサイトなどが挙げられる。出発原料の粒径は、特に限定されないが、5〜80nmが好ましく、5〜50nmがより好ましく、5〜30nmがさらに好ましい。粒径が小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすい。粒径が大きすぎると、還元が不均質となりやすく、得られる窒化鉄系磁性粉末の粒径や磁気特性の制御が困難となる。
【0024】
上記の出発原料には希土類元素を被着させてもよい。被着処理の方法としては、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させた後、中和反応などにより出発原料に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。また、上記の出発原料にはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素を被着させてもよい。これらの元素の被着処理の方法としては、例えば、上記元素を含有する化合物を溶解させた溶液を調製し、この溶液に出発原料を浸漬して、出発原料にホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどを被着させる方法が挙げられる。これらの被着処理を効率良く行うために、溶液には還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤をさらに添加してもよい。さらに、被着処理において、希土類元素と、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素とを同時にあるいは交互に出発原料に被着させるようにしてもよい。
【0025】
次に、上記のような出発原料を水素気流中で加熱還元処理する。還元ガスは特に限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元処理温度としては、300〜600℃とするのが望ましい。還元処理温度が300℃より低いと、還元反応が十分進まなくなる。還元温度が600℃より高いと、焼結が起こりやすくなる。
【0026】
上記のような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、鉄と窒素とを構成元素として有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。また、アンモニアガス単体のほかに、これに水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。窒化処理温度は100〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力向上の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると窒化が過剰に促進され、FeN相やFeN相などの窒化鉄相の割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。窒化処理に際しては、鉄に対する窒素の含有量が1〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。窒素の量が多すぎると、FeN相やFeN相などの窒化鉄相が形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。上記のようにして得られる窒化鉄系磁性粉末の保磁力は160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。また、飽和磁化は40〜120Am/kgが好ましく、50〜100Am/kgがより好ましい。
【0027】
強磁性粉末として六方晶フェライト系磁性粉末を用いる場合、六方晶バリウムフェライト磁性粉末や六方晶ストロンチウムフェライト磁性粉末が好ましい。上記六方晶フェライト系磁性粉末は、所定の元素以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nbなどの元素を含んでいてもよい。六方晶フェライト系磁性粉末の製造方法としては、従来公知の製造方法を使用することができる。例えば、酸化バリウム、酸化鉄、鉄を置換する金属酸化物、及びガラス形成物質として酸化ホウ素などを所望のフェライト組成になるように混合し、該混合物を溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉末を得るガラス結晶化法などを挙げることができる。上記六方晶フェライト系磁性粉末の粒径は、六角板径で10〜35nmが好ましく、板径と厚みとの比は、1〜10が好ましい。また、六方晶フェライト系磁性粉末の保磁力は120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化は40〜60Am/kgが好ましい。
【0028】
強磁性層に用いられる結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、強磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などを挙げることができる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いるのが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、強磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0029】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。このような架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートを挙げることができる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0030】
強磁性層は、導電性、表面潤滑性、耐久性などの特性の向上を目的に、カーボンブラック、潤滑剤、非磁性粉末などの添加剤を含有してもよい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックの含有量は、強磁性粉末100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましい。潤滑剤としては、具体的には、例えば、10〜30の炭素数を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどを使用することができる。潤滑剤の含有量は、強磁性粉末100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましい。非磁性粉末としては、具体的には、例えば、アルミナ、シリカなどの非磁性粉末を使用することができる。非磁性粉末の含有量は、強磁性粉末100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0031】
本実施の形態の磁気記録媒体は、下層に低保磁力の軟磁性層を設け、該軟磁性層上に垂直配向に好適な粒状の強磁性粉末を含有する強磁性層が形成されるため、塗布された強磁性塗料膜に含まれる粒状の強磁性粉末を効率的に磁場配向することができる。強磁性層の垂直方向の角形は、磁化容易軸が垂直方向にあれば特に限定されないが、0.50〜0.80が好ましく、0.60〜0.65がより好ましい。垂直方向の角形は高いほど短波長出力が向上するが、高い角形を得ようとする場合、強い配向磁界が必要となるため、強磁性粉末が凝集しやすくなり、ノイズを増加させることとなる。しかしながら、本実施の形態の磁気記録媒体は、前述のように強磁性層の下に長手方向に比較的高い保磁力を有するとともに、長手方向に磁化容易軸を有し、直流消磁されている軟磁性層が形成されているため強磁性層の角形がそれ程高くなくても、垂直記録を行った際に優れたSNRを得ることができる。なお、強磁性層の角形は、磁気光学効果測定装置(外部磁場:127kA/m)用いて強磁性層を測定することにより求めることができる。
【0032】
強磁性層の垂直方向の保磁力は80〜320kA/mが好ましい。保磁力が上記範囲より小さいと、短波長記録において高出力が得られ難くなる傾向がある。保磁力が上記範囲より大きいと、磁気ヘッドで飽和記録するのが難しくなる傾向がある。強磁性層の厚さは5〜200nmが好ましく、15〜150nmがより好ましい。強磁性層の厚みが200nm以下であれば、信号記録時に磁気ヘッドからの磁界が軟磁性層に導かれやすくなる。一方、強磁性層の厚さが5nm以上であれば、均一な強磁性層を形成することができる。
【0033】
軟磁性層に用いられる軟磁性粉末としては、上記の長手方向の保磁力を有し、直流消磁する際に上層の強磁性層が磁化されない程度の低い磁界で消磁可能な軟磁性層を形成できる磁性粉末であれば特に限定されない。具体的には、例えば、鉄、ニッケルなどの金属、鉄、ニッケル、コバルトなどを主構成元素とする合金、マグネタイト、γ−酸化鉄、マンガン−亜鉛フェライトなどの酸化物、窒化鉄、ホウ化鉄、炭化鉄などの化合物などからなる軟磁性粉末が挙げられる。軟磁性粉末の形状は、特に限定されず、針状、球状、板状、立方状などの任意の形状が挙げられる。また、軟磁性粉末は長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成するため、一軸異方性を有することが好ましい。ただし、一軸異方性のない球状の軟磁性粉末であっても、磁界中で配向することにより球状の軟磁性粉末がチェーン状に繋がり長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成することができれば、好ましく用いることができる。
【0034】
軟磁性層に用いられる結合剤としては、強磁性層に用いられる結合剤と同様の結合剤を用いることができる。結合剤の含有量は、軟磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部が好ましく、10〜35質量部がより好ましい。
【0035】
軟磁性層は、強磁性層に導電性及び表面潤滑性を付与するために、カーボンブラック及び潤滑剤を含有することが好ましい。このようなカーボンブラック及び潤滑剤としては、強磁性層と同様のものを使用することができる。カーボンブラックの含有量は、軟磁性粉末100質量部に対して、15〜35質量部が好ましく、20〜30質量部がより好ましい。潤滑剤の含有量は、軟磁性粉末100質量部に対して、0.7〜7質量部が好ましい。なお、潤滑剤は、脂肪酸と脂肪酸エステルとを併用することが好ましい。また、軟磁性層は、強磁性層と同様の非磁性粉末を含有してもよい。このような非磁性粉末を含有することにより、軟磁性層と強磁性層との密着性を向上することができる。
【0036】
軟磁性層の長手方向の角形は、磁化容易軸が長手方向にあれば特に限定されないが、0.59〜0.80が好ましく、0.59〜0.75がより好ましい。軟磁性層の角形が0.59以上であれば、軟磁性層が実質的に長手方向に磁化容易軸を有するため、直流消磁により軟磁性層を一様に一方向に磁化することができる。一方、角形が高いほど配向性に優れるため好ましいが、高い角形を有する軟磁性層を形成しようとすると、強磁界による配向処理を行う必要があるため、軟磁性粉末が凝集しやすくなる。なお、軟磁性層の角形は、軟磁性層の保磁力と同様の方法で測定することができる。
【0037】
軟磁性層の厚さは、0.1〜3μmが好ましく、0.2〜1μmがより好ましい。軟磁性層の厚さが上記範囲であれば、軟磁性層から発生する磁界の影響が抑えられるとともに、平滑性に優れた軟磁性層を形成することができる。
【0038】
強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料の調製にあたっては、従来から公知の磁気記録媒体の製造で使用されている塗料製造方法を使用できる。具体的には、ニーダなどによる混練工程と、サンドミル、ピンミルなどによる一次分散工程との併用が好ましい。また、非磁性支持体上に、強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料を塗布するにあたっては、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布方法を使用できる。強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料の塗布は、逐次重層塗布方法、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット法)のいずれを使用してもよい。
【0039】
本実施の形態の磁気記録媒体は、上記のようにして調製された各磁性層用塗料を非磁性支持体上に塗布し、塗布された各磁性塗料膜を配向、乾燥することにより製造することができる。非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜20μmのプラスチックフィルムが挙げられる。
【0040】
塗布処理と同時または連続して行われる配向処理においては、軟磁性層が長手方向に、強磁性層が垂直方向に磁化容易軸を有するように、配向磁界の向き及び強度が調整される。具体的には、軟磁性塗料膜の配向処理においては、その配向方向が軟磁性塗料膜の面内方向と平行な方向に配向磁界が印加される。軟磁性塗料膜の配向処理における磁場強度は、0.05〜0.5Tが好ましい。上記範囲であれば、軟磁性粉末の凝集を抑えることができる。強磁性塗料膜の配向処理においては、その配向方向が強磁性塗料膜の面内方向と垂直な方向に配向磁界が印加される。強磁性塗料膜の配向処理における磁場強度は、0.1〜1Tが好ましい。上記範囲であれば、強磁性粉末の凝集を抑えることができる。軟磁性塗料膜を配向させるための配向手段は、永久磁石の同極を対向させた反発対向磁石を用いてもよく、ソレノイド磁石を用いてもよい。また、強磁性塗料膜を配向させるための配向手段は、永久磁石の異極を対向させる異極対向磁石を用いることが好ましい。
【0041】
本実施の形態の磁気記録媒体は、上記のようにして軟磁性層及び強磁性層を形成した後、軟磁性層を直流消磁する。この直流消磁により、軟磁性層を一方向に磁化させることができる。すなわち、軟磁性層は長手方向に6.4〜39.8kA/mの低保磁力を有するため、低い磁界で軟磁性層を直流消磁することができ、それによって軟磁性層を一様に磁化することができる。直流消磁の磁界強度は、軟磁性層の長手方向の保磁力より大きければ特に限定されない。
【0042】
本実施の形態の磁気記録媒体は、耐久性の向上や導電性の付与を目的として、非磁性支持体と軟磁性層との間にさらに下塗り層を設けてもよい。下塗り層の厚さは、好ましくは0.1〜3.0μmであり、より好ましくは0.15〜2.5μmである。下塗り層の厚さが0.1μm未満では、磁気テープの耐久性が悪くなる傾向がある。また、下塗り層の厚さが3.0μmを超えると、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和する傾向があり、またテープ全厚が厚くなるため、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる傾向がある。下塗り層には、塗料粘度や剛性の制御を目的で、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの非磁性粉末;γ−酸化鉄、Co−γ−酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Ni−Co合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライトなどの磁性粉末を含ませてもよい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。また、下塗り層には導電性を付与するため、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含ませてもよい。下塗り層に使用される結合剤としては、上記の磁性層で使用される結合剤と同様の樹脂を使用することができる。
【0043】
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が設けられている面と反対面にバックコート層が設けられてもよい。バックコート層の厚さは、好ましくは0.2〜0.8μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmであり、さらに好ましくは0.3〜0.6μmである。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、磁性層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。これら中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましい。
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
[窒化鉄系磁性粉末の作製]
出発原料として、略球状の形状を有し、約17nmの粒径を有するマグネタイト粒子を用いた。このマグネタイト粒子10部を500部の水に、超音波分散機を用いて30分間分散させた。この分散液に、Y/Feが2.0原子%となるように硝酸イットリウムを加えて溶解し、分散液を30分間撹拌した。この分散液に、Al/Feが20.0原子%となるようにアルミン酸ナトリウムを溶解させた水酸化ナトリウム水溶液をpHが7〜8になるように調整しながら滴下した。この処理により、マグネタイト粒子表面にイットリウム水酸化物及びアルミニウム水酸化物を被着させた。その後、分散液をろ過し、固形分を水洗し、空気中110℃で乾燥することにより、マグネタイト粒子の表面にイットリウム水酸化物及びアルミニウム水酸化物を被着させた粉末を作製した。
【0046】
次に、この粉末を水素気流中、450℃で6時間、さらに460℃で1時間加熱還元処理し、粉末の内部に鉄を含有し、粉末の表面にアルミニウム化合物及びイットリウム化合物が形成されたY−Al−鉄系磁性粉末を得た。次に、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて140℃まで降温した。温度が140℃に到達した時点で、水素ガスからアンモニアガスに切り替え、温度を140℃に維持した状態で、20時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、140℃から40℃まで降温した。温度が40℃に到達した時点で、アンモニアガスから酸素と窒素との混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。次いで、混合ガスを流した状態で、60℃まで昇温し、60℃で2時間安定化処理を行った。さらに、混合ガスを流した状態で、60℃から40℃まで降温し、40℃で約24時間粉末を保持した後、室温まで冷却し、粉末を空気中に取り出した。
【0047】
上記のようにして得られたY−Al−窒化鉄系磁性粉末のY、Al、及び窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、Feに対してそれぞれ、1.8原子%、18.1原子%、10.3原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で得られた窒化鉄系磁性粉末を観察したところ、該窒化鉄系磁性粉末はコア部と外層部とからなる2層構成を有し、略球状の粒径が15.5nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、103m/gであった。
【0048】
また、このY−Al−窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を試料振動型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m、磁場掃引速度80kA/m/分で測定したところ、飽和磁化が62.4Am/kgであり、保磁力が175.9kA/mであることが確認された。
【0049】
[強磁性層用塗料の調製]
上記で作製したY−Al−窒化鉄系磁性粉末を用い、下記の表1に示す組成を有する強磁性層用塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミルを用いて分散処理を行い(滞留時間:60分)、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して強磁性層用塗料を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
[軟磁性層用塗料の調製]
下記表2の軟磁性層用塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミル(滞留時間:60分)で分散し、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、軟磁性層用塗料を調製した。
【0052】
【表2】

【0053】
[バックコート層用塗料の調製]
下記表3のバックコート層用塗料成分を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)を行い、得られた分散液にポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌し、ろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
【0054】
【表3】

【0055】
[磁気テープの作製]
まず、上記の軟磁性層用塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの非磁性支持体上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが1μmとなるように供給して軟磁性塗料膜を形成した。そして、湿潤状態の軟磁性塗料膜に配向処理(磁場強度:0.3T,配向方向:長手方向)を行いながら、乾燥した。このようにして形成された軟磁性層の長手方向の保磁力及び角形を、試料振動型磁力計(VSM)を用いて測定したところ、それぞれ9.6kA/m及び0.64であった。
【0056】
次に、形成された軟磁性層上に上記の強磁性層用塗料を、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが100nmとなるように供給して強磁性塗料膜を形成した。そして、湿潤状態の強磁性塗料膜に配向処理(磁場強度:0.5T,配向方向:垂直方向)を行いながら、乾燥した。
【0057】
次に、上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。
【0058】
上記のように非磁性支持体の片面に軟磁性層、及び強磁性層を、他面にバックコート層を形成した磁気シートを、5段カレンダ(温度:70℃、線圧:150Kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。得られた磁気シートを1/2インチ幅に裁断して、磁気テープを作製した。そして得られた磁気テープを直流消磁処理(印加磁界:79.6kA/m)して、評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した磁気テープの強磁性層の角形を磁気光学効果測定装置(日本分光社製,外部磁場:127kA/m)用いて測定したところ、0.65であった。
【0059】
<実施例2>
実施例1の磁気テープの作製において、磁場強度0.2Tで強磁性塗料膜の配向処理を行った以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.61であった。
【0060】
<実施例3>
実施例1の磁気テープの作製において、磁場強度0.1Tで軟磁性塗料膜の配向処理を行った以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した軟磁性層の磁気特性を実施例1と同様にして測定したところ、長手方向の保磁力が8.8kA/m、長手方向の角形が0.59であった。また、強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.65であった。
【0061】
<実施例4>
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、軟磁性粉末として針状γ−酸化鉄磁性粉末(保磁力:30.2kA/m,飽和磁化:74.8Am/kg,粒径[長軸]:250nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性層用塗料を調製した。そして、上記の軟磁性層用塗料を用い、磁場強度0.3Tで軟磁性塗料膜の配向処理を行った以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した軟磁性層の磁気特性を実施例1と同様にして測定したところ、長手方向の保磁力が34.2kA/m、長手方向の角形が0.75であった。また、強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.63であった。
【0062】
<実施例5>
実施例1の強磁性層用塗料の調製において、強磁性粉末として六方晶バリウムフェライト磁性粉末(保磁力:167.2kA/m,飽和磁化:52.1Am/kg,板径:30nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして強磁性層用塗料を調製した。そして、上記の強磁性層用塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.63であった。
【0063】
<比較例1>
実施例1の磁気テープの作製において、軟磁性塗料膜の配向処理、及び軟磁性層の直流消磁処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した軟磁性層の磁気特性を実施例1と同様にして測定したところ、長手方向の保磁力が7.1kA/m、長手方向の角形が0.22であった。また、強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.64であった。
【0064】
<比較例2>
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、軟磁性粉末として粒状マグネタイト磁性粉末(保磁力:4.8kA/m,飽和磁化:67.3Am/kg,粒径:20nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性層用塗料を調製した。そして、上記の軟磁性層用塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した軟磁性層の磁気特性を実施例1と同様にして測定したところ、長手方向の保磁力が5.4kA/m、長手方向の角形が0.56であった。また、強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.64であった。
【0065】
<比較例3>
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、軟磁性粉末として針状Co−γ−酸化鉄(保磁力:38.2kA/m,飽和磁化:74.1Am/kg,粒径[長軸]:250nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性層用塗料を調製した。そして、上記の軟磁性層用塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。上記のようにして作製した軟磁性層の磁気特性を実施例1と同様にして測定したところ、長手方向の保磁力が43.8kA/m、長手方向の角形が0.72であった。また、強磁性層の垂直方向の角形を実施例1と同様にして測定したところ、0.63であった。
上記のようにして作製した実施例及び比較例の各磁気テープについて、以下の電磁変換特性を測定した。
【0066】
〔電磁変換特性〕
電磁変換特性の評価には、記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(トラック幅:12μm,ギャップ長:0.17μm,Bs:1.2T)と、再生ヘッドとしてスピンバルブタイプのGMRヘッド(トラック幅:2.5μm,ギャップ長:0.17μm)とが装着されたドラムテスターを用いた。このドラムテスターの回転ドラムに磁気テープを巻きつけ、3.4m/sの相対速度で磁気テープを走行させながら、信号を記録し、300kfciの記録密度における再生出力とブロードバンドノイズとを測定した。なお、再生出力、ノイズ、及びSNRは比較例1のそれらを基準(0dB)とした相対値で評価した。
表4はこの結果を示す。
【0067】
【表4】

【0068】
上記表に示すように、粒状の強磁性粉末が垂直方向に配向された強磁性層と、軟磁性粉末が長手方向に配向されており、一定範囲の長手方向の保磁力を有し、直流消磁された軟磁性層とを有する実施例1〜5の磁気テープは、軟磁性層の配向処理及び直流消磁処理が行われていない比較例1の磁気テープに比べて、高出力であり、ノイズも低く、優れたSNRが得られることが分かる。
【0069】
これに対して、軟磁性層の保磁力が低い比較例2の磁気テープは、軟磁性層の保磁力が低いため、軟磁性粉末の配向が不十分となり、短波長出力が劣っている。また、軟磁性層の保磁力が高すぎる比較例3の磁気テープは、長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成することができるが、ノイズが増加した。なお、上記では記録ヘッドとしてリング型ヘッドを有する評価装置を使用したが、単磁極ヘッドを使用すると上記効果はさらに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施の形態の磁気記録媒体における信号の記録再生状態を説明する概念図であり、(a)は記録時を、(b)は再生時を示す。
【符号の説明】
【0071】
1 記録ヘッド
2 強磁性層
2a 強磁性層の磁化の方向
3 軟磁性層
3a 軟磁性層の磁化の方向
4 再生ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層とをこの順で有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性層は、実質的に垂直方向に磁化容易軸を有し、
前記軟磁性層は、6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有するとともに、実質的に長手方向に磁化容易軸を有し、且つ長手方向に直流消磁されている磁気記録媒体。
【請求項2】
前記強磁性層は、前記強磁性粉末として、窒化鉄系磁性粉末を含有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層とをこの順で有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性支持体上に、軟磁性粉末及び結合剤を含有する軟磁性層用塗料を塗布して軟磁性塗料膜を形成し、
前記軟磁性塗料膜に、前記軟磁性塗料膜の面内方向と平行な方向の磁界を印加して、6.4〜39.8kA/mの長手方向の保磁力を有し、且つ実質的に長手方向に磁化容易軸を有する軟磁性層を形成し、
前記軟磁性層上に、粒状の強磁性粉末及び結合剤を含有する強磁性層用塗料を塗布して強磁性塗料膜を形成し、
前記強磁性塗料膜に、前記強磁性塗料膜の面内方向と垂直な方向の磁界を印加して、実質的に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層を形成し、
前記軟磁性層を長手方向に直流消磁する、製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−223970(P2009−223970A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68420(P2008−68420)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】