説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】走行性が良好で、さらなる高密度記録化が可能な磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に少なくとも磁性層を有し、前記磁気記録媒体と磁気ヘッドの摺動部材との相対速度を1m/sとして測定される、前記磁気記録媒体の磁性層側表面の動摩擦係数が0.5以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法に関し、特に高密度磁気記録に適した磁気テープに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録媒体は、業務用あるいは民生用電子機器等の情報記録媒体や、データストレージのバックアップテープ等、広い用途で使われている。近年、ブロードバンドネットワークやデジタル放送の普及によって扱うデータ量は急速に増加している。そのため、データを保存するストレージ装置の大容量化に対する要求は強く、磁気記録媒体に対しても高密度記録化の要望はますます高まっている。
【0003】
高密度記録のために種々の技術が提案され、実用化されている。例えば、再生ヘッドとしてMRヘッド、信号処理方式としてPRMLが導入され、必須技術となっている。これらの技術の導入により、磁気記録媒体の高密度記録化が飛躍的に進み、そのための媒体作製の改良技術として、磁性層の平滑化・均一薄層化、強磁性体の磁気特性の改良、強磁性体粒子の微細化、強磁性体粒子の高充填化等が試みられてきた。
【0004】
その中で、磁性層の平滑化・均一薄層化は、磁気記録媒体の走行性やトライボロジとの両立の中で行われてきた。すなわち、磁性層側表面の平滑性が良好であればあるほど、スペーシングロスが小さくなり、より高密度記録化が可能となるが、一方で、磁気ヘッドの摺動部材との摩擦力が大きくなるため、磁性層側表面と摺動部材との貼り付きが起こる等、走行性やトライボロジの面で問題が生じる。そのため、従来の技術では、動摩擦係数を低減させた上で、高密度記録化することが行われている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−39643号公報
【特許文献2】特開2006−131874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来の技術では、磁気記録媒体の表面をより平滑化しようとすれば摩擦力が上昇することとなるので、さらなる高密度化が非常に困難である。
本発明の目的は、走行性が良好で、さらなる高密度記録化が可能な磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、磁気ヘッドとの動摩擦係数が従来よりはるかに大きな磁気記録媒体では、ヘッドと記録媒体間に同伴して生じるエアフィルムが薄く安定し、スペーシング変動が小さくなるため、走行性と電磁変換特性を両立できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、上記課題は、以下の手段により解決することができる。
1.非磁性支持体上に少なくとも磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の磁性層側表面の動摩擦係数を前記磁気記録媒体と磁気ヘッドの摺動部材との相対速度1m/sで測定した値が0.5以上である、磁気記録媒体。
2.上記1に記載の磁気記録媒体であって、磁性層側表面の算術平均粗さRaが、0.2nm以上1.0nm以下である磁気記録媒体。
3.上記1又は2に記載の磁気記録媒体であって、磁性層中に含まれる潤滑剤として脂肪酸を含まない磁気記録媒体。
4.上記1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体であって、磁性層中に潤滑剤として脂肪酸エステル化合物のみを含む磁気記録媒体。
5.磁気テープである、上記1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
6.上記1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性支持体上に少なくとも磁性層塗布液を塗布した後、研磨処理及び平滑化処理を行う、製造方法。
7.上記6に記載の製造方法であって、前記研磨処理がラッピング処理である、製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記録再生速度において磁気ヘッドと磁気記録媒体との隙間が低浮遊で安定し、上下動もないので、走行性に優れ、かつ電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるだけでなく、従来のものより動摩擦係数を大きくできるため、現在よりさらなる高密度記録化が可能な磁気記録媒体とすることができる。また、走行性が良好であることから、巻姿が良好な磁気テープが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の磁気記録媒体について、詳細に説明する。
本発明に係る磁気記録媒体は、層構成等は特に限定されないが、非磁性支持体の少なくとも一方面上に、磁性層が形成されている。
好ましい態様としては、非磁性支持体の一方の面上に磁性層を備え、他方の面(磁性層が形成されている面と反対側の面)上にバックコート層を備えるものである。また、磁性層の上に非磁性層を有する態様とすることもできる。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、磁性層側表面の動摩擦係数を、前記磁気記録媒体と磁気ヘッドの摺動部材との相対速度を1m/sとして測定した値が、0.5以上である。
なお、磁気ヘッドの摺動部材とは、高密度磁気記録媒体の場合は、例えばMRヘッドのAlTiC基板である。なお、MRヘッドのAlTiC基板表面の算術表面粗さRaは、通常0.5nm〜6.0nm程度であり、好ましくは0.5nm〜2.0nmである。
また、本発明における前記動摩擦係数は、温度23℃、湿度50%RHの条件で測定した値である。
前記動摩擦係数は、0.5以上0.9以下であることが好ましく、0.6以上0.8以下であることがより好ましい。
【0011】
磁気テープの記録再生時の速度は3m/s以上あり、この速度では磁気ヘッドと磁気テープとの間にエアフィルムが同伴する。前記動摩擦係数が0.5以上であることにより、この記録再生時の速度(3m/s以上)でのエアフィルムを薄く安定させることができ、したがって、磁気ヘッドと磁気テープの間の空間(以下、スペーシングという)自体を小さくすることができ、スペーシング変動も小さくなるため、再生出力レベルが上がり、しかも出力変動も小さくなるので、前記動摩擦係数が前記範囲外のものに比べて電磁変換特性を向上させることができると考えられる。
また、エアフィルムが安定して同伴するので磁気ヘッドとの摩擦、磨耗の影響はなく、走行時のテープ上下動(LTM)も発生しない。低速での摩擦係数が高いことから、磁気テープの場合のリールに巻かれる巻姿が良好であり、走行性の安定性に寄与している。
このように、本発明に係る磁気記録媒体は、優れた走行性及び電磁変換特性を両立できる新しい設計の磁気記録媒体であると言える。
【0012】
すなわち、種々の実験をした結果、速度1m/s(エアの巻き込みと接触状態との境界の領域とほぼ考えられる)での動摩擦係数が0.5以上になるものであれば優れた走行性及び電磁変換特性を両立できることが判明した。しかし、速度が磁気テープの記録再生時の速度により近い2m/sでは、磁気記録メディアとヘッドの間にエアが確実に巻き込まれて、エアによる流体潤滑の影響が支配的となり動摩擦係数は0.5以下で安定してしまう傾向があり、動摩擦係数の差が見えにくく本発明の目的を達成する範囲を有効に示すことができなかった。また、エアが巻き込まれない1m/sよりも遅い低速度領域では、接触状態となって、動摩擦係数は高くなるが、例えば0.5m/sで動摩擦係数0.5以上であるものであっても1m/sではエア巻き込み分による動摩擦係数低減で0.5以下となるものは本発明の目的を達成しない。よって、速度1m/sでの動摩擦係数が0.5以上であることが重要であることを見出し、本発明範囲を特定したものである。
本技術分野では、磁気記録媒体と磁気ヘッド、磁気テープとガイドなどの動摩擦係数が関係するが、動摩擦係数が0.5以上であると、磁気ヘッドでは磨耗や磁気記録媒体からの汚れや焼きつきの発生、磁気ヘッドのトラッキング不良等の問題が起き、また、ガイドでは、磁気テープの幅方向の変動が発生してトラッキング外れやテープエッジ部の損傷等の問題が起きると考えられていた。このため、動摩擦係数は通常0.2以下で設計されていた。よって、速度1m/sでの動摩擦係数が0.5以上というのは技術常識として考えられないほど大きい値である。
なお、背景技術で記載した特許文献においては、具体的態様として記載された磁気記録媒体の動摩擦係数は、いずれも本発明における測定速度よりきわめて小さい測定速度(5mm/s、18mm/s)において0.2〜0.3程度である。したがって、本発明の測定速度においては、更に動摩擦係数が小さくなる。
また、特開平7−73450号公報においては、比較例2では動摩擦係数が0.54であるとの記述があるが、動摩擦係数の測定速度は10.05mm/sであり、この比較例2に係る磁気記録媒体も、本発明に規定する測定速度における動摩擦係数は0.5未満である。
【0013】
前記動摩擦係数は、磁性層塗布液を塗布して形成した後の研磨処理及び表面平滑化処理(後述)における処理条件を変更することにより、前記範囲に調整することができる。より具体的には、研磨処理における湿式ラッピングと乾式ラッピングのラップ圧力や速度、表面平滑化処理におけるカレンダのカレンダロールの温度や速度を、後述する範囲内に設定することにより、前記動摩擦係数を前記範囲に制御することができる。
また、磁性層に添加する潤滑剤の種類を変更することによっても、前記動摩擦係数を制御することができる。具体的には、潤滑剤として、ステアリン酸等の脂肪酸と脂肪酸エステル化合物の混合系を用いるより、脂肪酸エステル化合物のみにすることによって、前記動摩擦係数を上げることができる。
【0014】
磁性層表面の算術平均粗さRaは、0.2nm以上1.0nm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaが1.0nm以下であると、記録再生時のテープ速度での磁気ヘッドと磁気テープとの間のエアフィルムが安定し、スペーシングをより小さく変動も少なくできるからである。また、Raが0.2nm以上であると磁性層表面が平滑になりすぎるのを抑えることができ、速度1m/sでの動摩擦係数測定時に貼り付きや、磁性層表面の破壊等を防止できる。
磁性層表面の算術平均粗さRaは、より好ましくは0.2nm以上0.8nm以下であり、更に好ましくは0.2nm以上0.5nm以下である。
なお、本発明における算術平均粗さRaは、JIS B 0601−1994の「表面粗さ−定義及び表示」に規定されたRaのことである。
また、算術平均粗さRaは、支持体の表面粗さや、磁性層に添加する粉体の粒径と添加量、また、前述の湿式ラッピングと乾式ラッピングのラップ圧力や速度、カレンダのカレンロールの表面形状や温度、速度等を後述の範囲内で調整することにより前記範囲に調整することができる。
【0015】
以下、本発明の磁気記録媒体を構成する各要素について説明する。
1.非磁性支持体
非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール等、公知のフィルムを使用できる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)である。
これらの非磁性支持体は、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0016】
非磁性支持体のヤング率は長手方向、幅方向ともに7GPa以上、好ましくは7.5〜11GPa、更に好ましくは7.6〜10.8GPaである。長手方向、幅方向のヤング率はそれぞれ異なっていても良い。
長手方向、幅方向のヤング率を調整するには、未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させることにより可能である。延伸方法としては、逐次二軸延伸法でも同時二軸延伸法でもよい。延伸温度や速度等の条件は常法に従うことができる。
【0017】
非磁性支持体の磁性層形成面の中心面平均表面粗さRa(WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定)は、0.5〜4.0nmが好ましく、0.5〜2.0nmの範囲であることがより好ましい。非磁性支持体の両面の粗さは異なっていてもよい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。
非磁性支持体の厚みは、通常3〜60μm程度であり、好ましくは3〜40μmである。磁気テープの場合の非磁性支持体の厚みは、通常3.0〜6.5μm程度であり、好ましくは3.5〜4.0μmである。
【0018】
2.磁性層
<強磁性粉末>
磁性層は強磁性粉末を含有する。強磁性粉末としては、強磁性金属粉末や六方晶フェライト粉末等を使用することができる。
強磁性金属粉末は、Feを主成分とするものであれば特に限定されないが、α−Feを主成分とするものであることが好ましい。
強磁性金属粉末には、Fe以外に、Al、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B等の原子を含んでいてもよい。Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つを含むことが好ましく、Co、Al、Yを含むことがより好ましい。Co、Al、Yを含む場合、Coの含有量はFeに対して10〜40原子%、Alの含有量は2〜20原子%、Yの含有量は1〜15原子%であることが好ましい。
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、又は酸化物が含まれてもよい。
また、強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とするのが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化するのが好ましい。
【0019】
上記強磁性金属粉末の平均長軸長は20〜100nmであることが好ましく、30〜90nmであることがより好ましく、40〜80nmであることが更に好ましい。強磁性金属粉末の平均長軸長が20nm以上であれば、熱揺らぎによる磁気特性の低下を有効に抑えることができる。また、平均長軸長が100nm以下であれば、低ノイズを維持したまま良好なS/N比を得ることができる。
強磁性金属粉末の平均長軸長は、透過型電子顕微鏡写真で強磁性金属粉末を撮影し、その写真から強磁性金属粉末の短軸長と長軸長とを直接読みとる方法と画像解析装置カールツァイス製IBASSIで透過型電子顕微鏡写真トレースして読みとる方法を併用して得られる値の平均から求めることができる。
【0020】
強磁性金属粉末の結晶子サイズは8〜20nmであることが好ましく、10〜18nmであることがより好ましく、12〜16nmであることが更に好ましい。結晶子サイズは、X線回折装置(理学電機製RINT2000シリーズ)を使用し、線源CuKα1、管電圧50kV、管電流300mAの条件で回折ピークの半値幅からScherrer法により求めた平均値である。
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、30〜50m2/gであることが好ましく、38〜48m2/gであることがより好ましい。この範囲であれば良好な表面性と低いノイズの両立が可能となる。
【0021】
強磁性金属粉末の抗磁力Hcは、好ましくは159.2〜238.8kA/mであり、更に好ましくは167.2〜230.8kA/mである。
また、飽和磁束密度は、好ましくは150〜300mTであり、更に好ましくは160〜290mTである。
また飽和磁化(σs)は、好ましくは140〜170A・m2/kgであり、更に好ましくは145〜160A・m2/kgである。
【0022】
強磁性金属粉末は、針状の強磁性粉末が好ましい。強磁性金属粉末の平均針状比[(長軸長/短軸長)の算術平均]は4〜12が好ましく、更に好ましくは5〜12である。
【0023】
上記強磁性金属粉末を製造する方法としては、例えば、焼結防止処理を行った含水酸化鉄、酸化鉄を水素等の還元性気体で還元してFe又はFe−Co粒子等を得る方法、複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素等の還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジン等の還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法等が挙げられる。更に、このようにして得られた強磁性金属粉末に対して徐酸化処理を施すことができる。徐酸化処理としては、含水酸化鉄、酸化鉄を水素等の還元性気体で還元し、酸素含有ガスと不活性ガスの分圧、温度、時間を制御して表面に酸化皮膜を形成する方法が、減磁量が少なく好ましい。
【0024】
強磁性粉末として六方晶フェライト粉末も使用できる。
六方晶フェライト粉末は、六角状のマグネトプランバイト構造を有し、極めて大きな一軸結晶磁気異方性をもつと共に非常に高い抗磁力(Hc)を有する。このため、六方晶フェライト粉末を使用した磁気記録媒体は、化学安定性、耐蝕性及び耐摩擦性に優れたものとなり、かつ、高密度化に伴う磁気スペースシングの減少、薄膜化の実現、高C/N及び分解能等が可能となる。従って、強磁性粉末としては六方晶フェライト粉末を使用することがより好ましい。
【0025】
六方晶フェライト粉末としては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等からなるものが挙げられる。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト等からなるものが挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nb、Zrなどの原子を含んでもよい。例えば、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを好ましく使用することができる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0026】
強磁性六方晶フェライト粉末の平均板径は5〜40nmであることが好ましく、より好ましくは10〜38nmであり、更に好ましくは15〜36nmである。
強磁性六方晶フェライト粉末の平均板径は、透過型電子顕微鏡写真で強磁性六方晶フェライト粉末を撮影し、その写真から強磁性六方晶フェライト粉末の板径を直接読みとる方法と、画像解析装置カールツァイス製IBASSIで透過型電子顕微鏡写真をトレースして読みとる方法とを併用して測定した値の平均値から求めることができる。
【0027】
強磁性六方晶フェライト粉末の板状比(板径/板厚)は1〜15が好ましく、より好ましくは2〜7である。板状比が上記範囲であると、十分な配向性が得られ、また、粒子間のスタッキングが少なく、ノイズを低く抑えることができるので好ましい。この粒子サイズ範囲のBET法による比表面積(SBET)は10〜200m2/gを示す。比表面積は概ね粒子板径と板厚からの算術計算値と符合する。
【0028】
結晶子サイズは、好ましくは50〜450Å、より好ましくは100〜350Åである。
粒子板径・板厚の分布は通常狭いほど好ましい。数値化は困難であるが粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定する事で比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均サイズ=0.1〜2.0であることが好ましい。粒子サイズ分布をシャープにするには粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。たとえば酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0029】
六方晶フェライト粉末のHcは、159.2〜238.8kA/mの範囲が好ましく、より好ましくは175.1〜222.9kA/mであり、更に好ましくは183.1〜214.9kA/mである。但し、記録ヘッドの飽和磁化が1.4T以下の場合には159.2kA/m以下にすることが好ましい。Hcは、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0030】
六方晶フェライト粉末のσsは、40〜80A・m2/kgが好ましい。σsは高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。σsの改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。
【0031】
六方晶フェライト粉末の製法としては、例えば、酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る、ガラス結晶化法、バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等が挙げられる。
六方晶フェライト粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr等の無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0032】
<結合剤>
磁性層には通常結合剤が含まれる。結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体又は共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。
【0033】
また、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び反応型樹脂については、いずれも朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。
【0034】
また、公知の電子線硬化型樹脂を使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。
以上の樹脂は単独又はこれらを組み合わせた態様で使用することができる。
【0035】
上記の中でも、ポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ポリウレタン樹脂には、より優れた分散性と耐久性を得るために、必要に応じて−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、又はアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を共重合又は付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gとすることができ、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
ポリウレタン樹脂は、ガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0〜100℃、破断伸びが100〜2,000%、破断応力は0.49〜98MPa、降伏点は0.49〜98MPaが好ましい。
【0036】
結合剤の具体例としては、例えば、ユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR8700、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210等を挙げることができる。
【0037】
磁性層に用いられる結合剤の添加量は、強磁性粉末に対して5〜50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30質量%の範囲である。ポリウレタン樹脂合を用いる場合は2〜20質量%の範囲が好ましい。
【0038】
<その他の成分>
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、分散剤、潤滑剤、界面活性剤、研磨剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラック等を挙げることができる。
分散剤としてはフェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩などが使用できる。
潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの固体潤滑剤、炭素数8〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)である脂肪酸潤滑剤、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステル又はジ脂肪酸エステル又はトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル潤滑剤、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステル及びそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、脂肪酸金属塩(Li、Na、K、Cuなど)又は、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、などのその他潤滑剤が使用できる。
【0039】
潤滑剤としての脂肪酸や脂肪酸エステル化合物として、具体的には下記のものが挙げられる。
脂肪酸としては、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。
脂肪酸エステル化合物としては、ブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル、アルコール類ではオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、などが挙げられる。
前述したように、本発明における動摩擦係数を前記範囲とするためには、磁性層に添加される潤滑剤は脂肪酸や脂肪酸エステル化合物を混合して用いるより、脂肪酸を使用せず、脂肪酸エステル化合物のみを使用することが好ましい。本発明の磁気記録媒体では、磁気ヘッドと磁気記録媒体がエアフィルムの同伴が非常に安定しているため、潤滑剤の主な役割は磁気記録テープ表面の保護のみとなる。そうなると、脂肪酸の潤滑剤を添加するとかえって低速での摩擦係数が下がり、不安定になりやすくなると考えられるからである。
【0040】
潤滑剤の添加量としては、強磁性粉末に対して0.01〜30質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましい。
【0041】
また、界面活性剤として、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又は燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0042】
磁性層に使用できる研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、微粒子ダイヤモンド、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上の公知の材料を単独又は組合せで使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。
これらの研磨剤には主成分以外の化合物又は元素が含まれる場合もあるが主成分が90質量%以上であれば効果に変わりはない。これら研磨剤の粉体サイズは0.01〜1μmであることが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粉体サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。
タップ密度は0.3〜1.5g/cc、含水率は0.1〜5質量%、pHは2〜11、比表面積は1〜40m2/gであることがそれぞれ好ましい。
研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、のいずれでも良いが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。
【0043】
具体的には、住友化学社製AKP−10、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−50、HIT−60A、HIT−50G、HIT−70、HIT−80、HIT−82、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。
磁性層中の研磨剤量は、例えば強磁性粉末100質量部に対して2〜20質量部とすることができ、非磁性層中の研磨剤量は、例えば非磁性粉末100質量部に対して2〜20質量部とすることができる。
【0044】
これらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤等は、磁性層及び/又は非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着又は結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着又は結合し、一度吸着した有機リン化合物は、金属又は金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、強磁性粉末表面又は非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、該強磁性粉末又は非磁性粉末の結合剤樹脂成分に対する親和性が向上し、更に強磁性粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性も改善される。また、潤滑剤としては遊離の状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させる等が考えられる。
【0045】
また、上記分散剤、潤滑剤等は必ずしも純粋でなくてもよく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分量は30質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは10質量%以下である。
【0046】
添加剤のすべて又はその一部は、磁性層又は非磁性層用の塗布液の製造時の何れの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合等がある。
【0047】
磁性層用塗布液には有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤としては、具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0048】
これら有機溶剤は必ずしも純粋でなくてもよく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれていてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶剤は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。具体的には磁性層(上層)の溶剤組成の算術平均値が、非磁性層(下層)の溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0049】
磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。
カーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。
【0050】
カーボンブラックの比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
カーボンブラックの具体例としては、キャボット製BLACKPEARLS2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCANXC−72、旭カーボン製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化成工業製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#2400B、#2300、#1000、#970B、#950、#900、#850B、#650B、#30、#40、#10B、MA−600、コロンビアカーボン製CONDUCTEXSC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、150、50、40、15、RAVEN−MT−P、アクゾー製ケッチェンブラックEC等が挙げられる。
【0051】
カーボンブラックを分散剤等で表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用してもよい。表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0052】
カーボンブラックは単独又は組み合わせで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上等の働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層及び非磁性層でその種類、量、組み合わせを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pH等の先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。
【0053】
磁性層の厚みは用いるヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであり、好ましくは0.03〜0.10μm、より好ましくは0.03〜0.08μmである。磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0054】
3.非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末を結合剤中に分散させた非磁性層を有していてもよい。
<非磁性粉末>
非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、非磁性層には非磁性粉末と共に、必要に応じてカーボンブラックを混合しても良い。
無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。
【0055】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタン等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。好ましくは、二酸化チタン、α−酸化鉄である。
【0056】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれであってもよい。
非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmが更に好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。
【0057】
非磁性粉末の比表面積は、1〜100m2/gであり、好ましくは5〜70m2/gであり、更に好ましくは10〜65m2/gである。比表面積が1〜100m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。
ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。
比重は1〜12、好ましくは3〜6である。
タップ密度は0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。
非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、pHは6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下又は脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることはない。
非磁性粉末の含水率は、0.1〜5質量%が好ましく、0.2〜3質量%がより好ましく、0.3〜1.5質量%が更に好ましい。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗布液粘度も安定するため好ましい。
強熱減量は小さいものが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
非磁性粉末が無機粉末である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。
非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、1〜20μmol/m2であることが好ましく、より好ましくは2〜15μmol/m2である。
非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。
100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。
水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。
【0059】
非磁性粉末は、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOで表面処理されたものであることが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、更に好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、又はその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0060】
非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工社製ナノタイト、住友化学社製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業社製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業社製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ社製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HD、堺化学社製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業社製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル社製AS2BM、TiO2P25、宇部興産社製100A、500A、チタン工業社製Y−LOP及びそれを焼成したものが挙げられる。
【0061】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。
【0062】
<結合剤>
非磁性層の結合剤としては、磁性層で挙げた結合剤を使用することができる。また、添加剤についても、磁性層で挙げたものを非磁性層に適用することができる。
【0063】
非磁性層の厚みは通常0.2〜5.0μm、好ましくは0.3〜3.0μm、更に好ましくは1.0〜2.5μmである。
【0064】
4.バックコート層
本発明の磁気記録媒体は、帯電防止やカール補正等の目的でバックコート層を設けることができる。
バックコート層は、微粒子で電気伝導性が優れたカーボンブラックを主なフィラーとすることが好ましく、平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックを含有させることがより好ましい。
平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックとしては、例えば、平均粒子サイズが10〜30nmの微粒子状カーボンブラックと、平均粒子サイズが50〜500nm(好ましくは60〜400nm)の粗粒子状カーボンブラックを用いることができる。
【0065】
一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録の装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは、一般に潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0066】
バックコート層には、結合剤を含有していてもよい。結合剤としては、前記磁性層で挙げたものを使用することができる。バックコート層中の結合剤の配合量としては、主なフィラーに対して好ましくは10〜80質量%の範囲であり、更に好ましくは20〜60質量%の範囲である。
【0067】
バックコート層には、無機質粉末を含有してもよい。バックコート層に添加することができる無機質粉末としては、平均粉体サイズが80〜250nmでモース硬度が5〜9の無機質粉末が挙げられる。無機質粉末としては、非磁性層に使用される非磁性粉末や研磨剤などと同様のものを使用することができ、中でもα−酸化鉄、α−アルミナ等を用いることが好ましい。無機質粉末のバックコート層への添加量は、主なフィラーに対して、好ましくは1〜30質量%の範囲であり、より好ましくは5〜15質量%の範囲である。
【0068】
一方、平均粒子サイズ50〜500nm(好ましくは60〜400nm)の粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバックコート層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0069】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。括弧内は、平均粒子サイズを示す。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINNTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化学(株)製)。
粗粒子状カーボンブラックは、ゴム用カーボンブラックやカラー用カーボンブラックより選択することができる。具体的な商品としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVENMTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。
【0070】
バックコート層における微粒子状カーボンブラックと粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲とすることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15である。
【0071】
バックコート層には、前述の成分以外に、他の任意の成分として、分散剤、潤滑剤を添加することもできる。分散剤としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH;Rは炭素数11〜17個のアルキル基、又はアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記の脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸エステル、銅フタロシアニン、沈降性硫酸バリウム等を使用することができる。分散剤は、結合剤樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲で添加することができる。
【0072】
バックコート層の厚みは、通常0.1〜4μm、好ましくは0.3〜2.0μmである。
【0073】
5.その他の層
非磁性支持体と非磁性層又は磁性層の間に密着性向上のための下塗層を設けてもかまわない。下塗層の厚みは、例えば0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.5μmである。
【0074】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本発明の磁気記録媒体は、磁性層塗布液を調製し、非磁性支持体上に塗布した後、磁場配向、研磨処理及び表面平滑化処理、電子線照射を行うことにより製造することができる。
磁性層塗布液の調製は、強磁性粉末及び結合剤、必要に応じてカーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤等の成分を、通常は溶剤とともに混練分散することによって調製する。混練、分散の際に用いられる溶剤としては、前述の有機溶剤を使用することができる。
混練分散の方法は、通常磁性層塗布液の調製に利用されている方法であれば特に制限はなく、各成分の添加順序も適宜設定できる。更に成分の一部をあらかじめ予備分散しておいてから添加したり、別に分散しておき最後に混合することもできる。磁性層塗布液の調製には、通常の混練機、例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ディスパー、ニーダー、高速ミキサー、ホモジナイザー、及び超音波分散機などを使用することができる。混練分散に関する技術の詳細は、T. C. Patton "Paint Flow and Pigment Dispersion", John Wiley & Sons (1964)や田中信一著「工業材料」25巻37頁(1977年)、米国特許第2,581,414号明細書及び同第2,855,515号明細書、特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報等に記載されており、本発明の磁気記録媒体に適用することができる。
【0075】
なお、強磁性粉末は前述の分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤等により分散前にあらかじめ処理を行ってもよい。
また、強磁性粉末を分散する際、必要に応じて種々の表面処理剤により表面処理を施すことができる。表面処理剤としては、Al、Si、P等の酸化物又は水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤等を使用することができる。
【0076】
調製された磁性層塗布液を非磁性支持体上に塗布する際、塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコード、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。磁性層が多層構成の場合は、複数の磁性層塗布液を逐次あるいは同時に重層塗布してもよい。磁性層塗布液の塗布の詳細については、例えば株式会社「総合技術センター」発行の「最新コーテイング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0077】
磁性層塗布液の塗膜の磁場配向は、公知の技術に従って行うことができる。磁気テープの場合、塗膜中の強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に磁場配向処理を施す。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置する方法、ソレノイドで交流磁場を印加する方法等の磁場配向処理を施すことが好ましい。また、異極対向磁石等公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0078】
磁場配向した後、研磨処理及び表面平滑化処理を行うことが好ましい。研磨処理及び表面平滑化処理を適当な条件のもとに行うことにより、磁性層側表面の動摩擦係数を前記範囲に調整することができる。
研磨処理としては、ラッピング処理、化学処理、電解研磨等の方法を用いることができる。中でも、研磨処理としてラッピング処理を行うことが好ましい。
ラッピング処理は、通常、工作液を用いる湿式ラッピングをまず行った後、工作液を用いない乾式ラッピングを行う。
【0079】
ラッピング処理における砥材、工作液等は、通常用いられるものを使用することができる。
砥材は、湿式ラッピングでは炭化ケイ素を主体とするC系砥粒を使用することが好ましく、乾式ラッピングでは酸化アルミナを主体とするA系砥粒を使用することがより好ましい。
また、砥材の粒度は、湿式ラッピングの場合は、♯200〜1000の範囲が好ましく、♯600〜900の範囲がより好ましい。乾式ラッピングの場合は、♯1000〜2000の範囲が好ましく、#1300〜1700の範囲がより好ましい。
湿式ラッピングで使用する工作液は、脂肪酸エステル等の潤滑剤を用いることが好ましい。
ラップ圧力としては、湿式ラッピングの場合は、100〜200kPaの範囲とすることが好ましく、120〜180kPaの範囲とすることがより好ましく、140〜160kPaの範囲とすることが更に好ましい。乾式ラッピングの場合は、20〜100kPaの範囲とすることが好ましく、30〜80kPaの範囲とすることがより好ましく、40〜60kPaの範囲とすることが更に好ましい。
ラップ速度としては、湿式ラッピングの場合は、10〜25m/minの範囲とすることが好ましく、10〜20m/minの範囲とすることがより好ましい。乾式ラッピングの場合は、5〜20m/minの範囲とすることが好ましく、8〜15m/minの範囲とすることがより好ましい。
ラッピング処理の際の温度としては、15〜30℃の範囲が好ましく、20〜25℃の範囲がより好ましい。
【0080】
また、表面平滑化処理としては、カレンダ処理、ラッピング処理、化学処理、電解処理の方法を用いることができる。中でも、表面平滑化処理としてカレンダ処理を行うことが好ましい。
カレンダロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールや金属ロール等を使用することができる。
カレンダロールの温度は、60〜110℃の範囲が好ましく、90〜100℃の範囲がより好ましい。
カレンダ処理の線圧は、98〜490kN/mの範囲とすることが好ましく、196〜441kN/mの範囲とすることがより好ましく、250〜350kN/mの範囲とすることが更に好ましい。
カレンダ速度としては、20〜150m/minの範囲とすることが好ましく、30〜100m/minの範囲とすることがより好ましい。
【0081】
研磨処理、表面平滑化処理を行った後、常法に従って電子線の照射を行うことができる。
なお、非磁性層及びバックコート層等を形成する場合は、各層を形成するための塗布液を調製した後、常法に従い塗布、乾燥を行うことにより形成することができる。
得られた磁気記録媒体は、裁断機等を使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。磁気記録媒体の形状は、ディスク状であってもよいし、テープ状であってもよい。
【0082】
本発明の磁気記録媒体は、MRヘッドを使用する磁気記録再生システムに好適である。記録ヘッドにより媒体に記録された磁気信号を、MR再生ヘッドを用いて再生する磁気記録再生システムにおいて、エラーレート上昇を抑制しつつ高い出力を得ることができる。
【実施例】
【0083】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に示す態様に限定されるものではない。以下において、「部」との表示は「質量部」を表す。
【0084】
[実施例1]
(1)磁性層塗布液及びバック層塗布液の調製
下記処方の磁性層塗布液及びバックコート層用塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで混練した後、サンドミルで分散処理を施した。得られた分散液を0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液及びバック層塗布液を調製した。
<磁性層塗布液>
六方晶フェライト粉末 100部
バリウムフェライト(組成式:Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.5/1)
Hc:199kA/m(2.5kOe)
平均板径:20nm
平均板状比:4
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂* 10部
放射線硬化型樹脂(トリプロピレングリコールアクリレート) 20部
カーボンブラック(平均粒径:20nm) 0.3部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:50nm) 0.5部
シクロヘキサノン 100部
メチルエチルケトン 100部
ブチルステアレート 0.5部
ステアリン酸 1部
*「スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂」として、スルホン酸基濃度500eq./ton、平均分子量90000、のポリウレタン樹脂を使用
【0085】
<バック層用塗布液>
非磁性無機質粉末:α−酸化鉄 80部
平均長軸長:0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック(平均粒子径:20nm) 20部
カ−ボンブラック(平均粒子径:50nm) 3部
塩化ビニル共重合体 13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂* 6部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
*「スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂」として、スルホン酸基濃度200eq./ton、平均分子量100000、のポリウレタン樹脂を使用
【0086】
(2)テープ試料の作製
厚さ6.0μmのPEN樹脂からなる支持体(磁性層側表面の算術平均粗さRa=0.5nm、バック層側表面の算術平均粗さRa=1.0nm)上に、磁性層の厚さが100nmになるように磁性層塗布液を塗布し、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに0.5Tの磁力を持つ磁石で磁場配向を行った。その後、温度25℃で湿式ラッピング(砥材:炭化ケイ素、工作液:ブチルステアレート、粒度:#800、ラップ圧力:150kPa、速度:10m/min)と乾式ラッピング(砥材:酸化アルミナ、粒度:#1500、ラップ圧力:50kPa、速度:10m/min)による研磨処理を複数回行なって磁性層の厚さが50nmになるように削り、金属ロール(5段)のみから構成されるカレンダで速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、温度100℃で表面平滑化処理を行なった後、表面に加速電圧150KVの電子線を吸収線量が0.5Mradになるように照射し硬化させた。その後、厚み0.5μmのバックコート層塗布液を塗布した後、1/2インチ(1.27cm)幅にスリットし、実施例1のテープ試料を得た。
【0087】
[実施例2〜4]
湿式ラッピングの速度のみを各々15m/min、20m/min、25m/minに変更したこと以外は実施例1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0088】
[実施例5,6]
カレンダの速度のみを各々70m/min、50m/minに変更したこと以外は実施例3と同様にしてテープ試料を作製した。
【0089】
[実施例7]
乾式ラッピングの速度を8m/min、カレンダの温度を110℃、速度を30m/minに変更したこと以外は実施例3と同様にしてテープ試料を作製した。
【0090】
[実施例8]
磁性層塗布液からステアリン酸1部を除いたこと以外は実施例3と同様にしてテープ試料を作製した。
【0091】
[実施例9]
磁性層塗布液からステアリン酸1部を除いたこと以外は実施例5と同じにしてテープ試料を作製した。
【0092】
[比較例1]
磁性層の厚さを50nmになるように磁性層塗布液を塗布し、湿式ラッピングによる研磨処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0093】
[比較例2]
湿式ラッピングの速度を40m/minに変更したこと以外は実施例1と同じにしてテープ試料を作製した。
【0094】
[比較例3]
カレンダの速度を70m/min、磁性層塗布液からステアリン酸1部を除いたこと以外は実施例4と同じにしてテープ試料を作成した。
【0095】
[比較例4]
カレンダの速度を70m/minに変更したこと以外は実施例4と同様にしてテープ試料を作製した。
【0096】
[比較例5]
磁性層塗布液からステアリン酸1部を除いたこと以外は比較例1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0097】
[テープ試料の特性測定]
上記実施例及び比較例で作製したテープ試料について、下記項目の測定を行った。測定結果を表1に示す。なお、下記項目の測定は全て23℃50%RH環境で行った。
(1)表面粗さの測定
作製した各テープ試料を、原子間力顕微鏡(AFM)(デジタルインスツルメンツ社製、Nanoscope3)を用いて、磁性層表面の算術平均粗さRaを測定した。深針は、稜角70度の四角錘のSiNの深針を用いた。測定領域は30μm平方角とした。
【0098】
(2)動摩擦係数
テープ試料を、巻き付け角90°で水平に置いたAlTiC棒(直径2mm、算術平均粗さRa=2.0±1.0nmの)に巻き付け、重力側のテープ端に100gの錘を付けて100gf(0.98N)とし、もう一方のテープ端(水平方向)をテープ速度Vを0.01m/sから2m/sまで変化させて引っ張ったときの力を測定し、動摩擦係数を測定した。動摩擦係数(μk)の計算は、オイラーの式を使って、μk=(2/π)×ln(T1/100)(ただしT1はテープを引っ張るときのテンションメータで計測した力(gf)である)。AlTiC棒は、磁気ヘッドと磁気テープの接触による摩擦をシミュレーションするため磁気ヘッドの主摺動面であるAlTiC基板と同じ部材、近い表面性のものである。本測定での動摩擦係数計測可能な上限は0.9であり、貼り付き気味で測定できないテープ試料は、磁性層の破壊がない場合は0.9以上と表記した。
【0099】
(3)電磁変換特性
テープ試料をLTOリールに巻き込み、リールテスタにLTO用磁気ヘッドを搭載して記録再生を行なった。測定時のテープ速度は5m/sとした。測定時の磁気ヘッドの位置は、磁気テープが静止した状態でラップ角4度となるような位置に設定した。静止時には磁気ヘッドは磁気テープから離した位置に退避させておき、そのままテープを走行させてテープ速度が安定してから磁気ヘッドをテープ試料に近づけて、設定したラップ角4度の位置まで移動させて電磁変換特性の測定を開始した。
なお、電磁変換特性は、250kfci(=9.84kfcmm)信号を記録再生したときの再生出力をスペクトラムアナライザで計測した。線記録密度が250kfciのときにシステムが成立するビットエラーレート1×10-5を満たす基準テープに対して3dB以上であれば充分満足できる。また、同再生信号をデジタルオシロスコープで計測し、再生信号の1振幅(ピークtoバレー)を10000回取得して、統計処理により標準偏差/平均値×100(%)で規格化された振幅のばらつき度合い(振幅分布)を求めた。振幅変動によるエラーをさけるため、統計分布から計算して250kfci以上の高密度で必要とされている振幅分布5%以内であれば充分満足できる。
【0100】
(4)巻き姿
テープ試料をLTOリールに巻き込み、リールテスタで1往復させたときの巻き姿のテープエッジ飛び出しがシステム設計上問題ないとされている5箇所以内であれば充分満足できる。走行条件は電磁変換特性測定と同様で、テープ速度が安定してから磁気ヘッドを磁気テープに近づけて、設定したラップ角4度の位置まで移動させた。テープ速度は5m/sとした。
【0101】
(5)LTM(テープ幅方向の上下動)
リールテスタでの磁気ヘッド部でのテープ幅方向の上下動を変位センサーで計測した。システム設計上問題ないとされている2μm以下であれば充分満足できる。走行条件は電磁変換特性測定と同様で、テープ速度が安定してから磁気ヘッドを磁気テープに近づけて、設定したラップ角4度の位置まで移動させた。テープ速度は5m/sとした。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例1から9及び比較例1から5より、速度1m/sの動摩擦係数が0.5以上であると、巻き姿、LTM、電磁変換特性のすべてが良好であることがわかる。また、動摩擦係数が高くなると、更に効果が大きくなることがわかる。
実施例3と5,6,7を比較すると、Raが0.2nm以上1.0nm以下であると巻き姿、LTM、電磁変換特性の効果が更に大きく、Ra値が小さいほど効果が大きいことがわかる。ただし、比較例3,4のように動摩擦係数が0.5未満であるとRaが1.0nm以下であっても、巻き姿、LTM、電磁変換特性への効果は小さいことがわかる。
実施例3と8、5と9の比較より、添加する潤滑剤を脂肪酸エステルのみにする方が動摩擦係数が上がり、巻き姿、LTM、電磁変換特性ともに効果が更に大きくなることがわかる。ただし、比較例3,5のように動摩擦係数が0.5未満であると脂肪酸エステルのみでも巻き姿、LTM、電磁変換特性への効果は小さいことがわかる。
実施例3,5,9の比較より、動摩擦係数0.5以上であることに加えて、Raが1.0nm以下であり、潤滑剤が脂肪酸エステルのみの条件が加わることで、巻き姿、LTM、電磁変換特性の効果が更に大きくなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に少なくとも磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の磁性層側表面の動摩擦係数を前記磁気記録媒体と磁気ヘッドの摺動部材との相対速度1m/sで測定した値が0.5以上である、磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体であって、磁性層側表面の算術平均粗さRaが、0.2nm以上1.0nm以下である磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体であって、磁性層中に含まれる潤滑剤として脂肪酸を含まない磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体であって、磁性層中に潤滑剤として脂肪酸エステル化合物のみを含む磁気記録媒体。
【請求項5】
磁気テープである、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性支持体上に少なくとも磁性層塗布液を塗布した後、研磨処理及び平滑化処理を行う、製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法であって、前記研磨処理がラッピング処理である、製造方法。

【公開番号】特開2010−73302(P2010−73302A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189383(P2009−189383)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】