説明

磁気記録媒体及び磁気記録再生装置

【課題】磁気記録媒体上の汚染物質を低減して、安定した磁気記録再生特性を有する磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板1上に磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とをこの順序で有し、潤滑剤層4が下記一般式(1)に示す化合物Aと、下記一般式(2)に示す化合物Bまたは下記一般式(3)に示す化合物Bとを含み、質量比(A/B)または質量比(A/B)が0.05〜0.3の範囲内である磁気記録媒体11を用いる。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に関する。特に、ハードディスクドライブなどの磁気記録再生装置などに用いられる磁気記録媒体に関し、さらに詳しくは、磁気記録媒体の表面の潤滑剤層に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気記録再生装置の記録密度は250Gビット/平方インチにまで到達しており、さらに今後、磁気記録再生装置の記録密度の向上は続くと言われている。そして、磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
前記磁気記録媒体としては、磁気記録媒体用の基板上にスパッタリング法などにより記録層等を積層した後、前記記録層上にカーボン等の保護膜を形成し、更に前記保護膜上に液体の潤滑剤を塗布する構成が主流となっている。
【0003】
上記構成において、前記保護層は、前記記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める効果を有する。しかし、保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分ではない。そのため、前記保護層の表面に、厚さが0.5〜3nm程度の潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、前記保護層の耐久性を改善している。
前記潤滑剤層を設けることによって、磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)が保護層と直接接触するのを防止することができるとともに、磁気記録媒体上を摺動する磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)の摩擦力を著しく低減させることができる。
【0004】
前記潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤や脂肪族炭化水素系潤滑剤などが提案されている。
例えば、特許文献1には、HOCH−CFO−(CO)−(CFO)−CHOH(p、qは整数。)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。また、特許文献2には、HOCHCH(OH)−CHOCHCFO−(CO)−(CFO)―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(p、qは整数。)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテル(テトラオール)の潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。さらに、特許文献3には、−CFO−または−CFCFO−から選ばれたパーフルオロオキシアルキレン単位とホスファゼン化合物を有する磁気記録媒体用途の潤滑剤が開示されている。
【0005】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量をより小さくして、前記磁気ヘッドを磁気記録媒体の表面により近づける必要が生じる。
【0006】
従来、磁気記録媒体の表面には、イオン性の汚染物質が存在する場合が多かった。このイオン性の汚染物質の多くは、磁気記録媒体の製造工程において外部(例えば、周囲環境または磁気記録媒体のハンドリング)から付着するものである。たとえば、磁気記録媒体を高温・高湿条件下に保持した場合、磁気記録媒体の表面にイオンなどの環境物質を含む水などが吸着する。このイオンなどの環境物質を含む水は容易に潤滑剤層を通り抜け、潤滑剤層の下に存在する微少なイオン成分を凝縮させて、イオン性の汚染物質を発生させる。
【0007】
このような汚染物質が磁気記録媒体上に存在する場合には、前記汚染物質が小さい場合でも、前記磁気ヘッドを磁気記録媒体の表面により近づけると、前記磁気ヘッドは前記汚染物質と容易に接触して、前記磁気ヘッドに前記汚染物が付着(転写)する。
前記磁気ヘッドに前記汚染物質が付着(転写)すると、前記磁気ヘッドの記録再生特性が低下するとともに、前記磁気ヘッドの浮上安定性が損なわれ、ひいては前記磁気ヘッドを破壊させる場合が発生する。そのため、磁気記録媒体製造の際には、このような汚染物質を除去する必要があった。
【0008】
前記汚染物質を除去するために、例えば、特許文献4には、保護膜を形成した磁気記録媒体の表面を純水でスクラブ洗浄して、磁気記録媒体の表面に付着した蟻酸イオン,しゅう酸イオン,アンモニアイオン、腐食性イオン(SO2−,NO,Na)を除去した後、磁気記録媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法が開示されている。
【0009】
なお、前記潤滑剤層は、一般に、フッ素樹脂系潤滑剤をフッ素系溶媒に溶解または分散させて、潤滑剤を含む溶液を調整した後、これを保護層上に塗布して形成する。前記塗布方法としては、スピンコート法やディップ法などがある。
たとえば、前記ディップ法では、潤滑剤浸漬槽に入れた前記潤滑剤を含む溶液中に磁気記録媒体を浸漬した後、前記潤滑剤浸漬槽から磁気記録媒体を所定の速度で引き上げて磁気記録媒体表面に均一な膜厚の潤滑剤層を形成する。
【0010】
前記汚染物質は、前記潤滑剤層の形成工程で、周囲の環境から前記潤滑剤層に入り込んだ微量のイオン性の有機化合物などの場合もある。潤滑剤層から、このようなイオン性の汚染物質を除去する方法としては、例えば、特許文献5に開示されているフッ素系溶媒の調整方法がある。ここでは、シリカゲル、アルミナ等の吸着材を用いて、潤滑剤の調整工程等で混入するフッ素、臭素、塩素、リン酸、硫酸、硝酸、亜硝酸、酢酸、蟻酸、(メタ)アクリル酸、蓚酸、フタル酸等の汚染物質を除去する方法が記載されている。
【0011】
また、特許文献6には、磁気記録媒体用潤滑剤の調整方法が開示されており、超臨界抽出法により、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む潤滑剤からイオン性不純物(金属イオン、例えばナトリウムイオン、カリウムイオンなど、無機イオン、例えば塩素イオン、HCOイオン、HSOイオン、硫酸イオン、アンモニアイオン、シュウ酸イオン、蟻酸イオン)を除去する方法が記載されている。さらに、特許文献7には、イオン性不純物の除去方法が開示されており、潤滑剤中の非水系液層中のイオン性不純物を除去する方法が記載されている。
【0012】
なお、記録密度を向上させるために、磁気記録再生装置の磁気ヘッドの浮上量をより小さくする場合、前記潤滑剤層もより薄くすることが求められる。
しかし、前記潤滑剤層を薄くすると、前記潤滑剤層による磁気記録媒体の表面の被覆率が低下する。これにより、磁気記録媒体の表面の一部が露出される場合が発生する。このとき、汚染物質によって、その露出部分から磁気記録媒体の表面が汚染される場合が発生する。
【0013】
しかし、従来の上記方法では、磁気記録再生装置の記録密度の高まりに伴い、磁気ヘッド浮上量がより小さくなることにより問題となり始めた極微量の汚染物質を磁気記録媒体上から完全に取り除くことができなかった。そのため、磁気ヘッドへ前記汚染物質が付着(転写)され、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を不安定とする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭62−66417号公報
【特許文献2】特開平9−282642号公報
【特許文献3】特開2002−275484号公報
【特許文献4】特開2000−235708号公報
【特許文献5】特開2002−45606号公報
【特許文献6】特開2004−51716号公報
【特許文献7】特開2001−67656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、磁気記録媒体上の汚染物質を極限まで低減して、磁気ヘッドへの前記汚染物質の付着(転写)を防止して、安定した磁気記録再生特性を有する磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、磁気記録再生装置の磁気ヘッドの破損や汚染を引き起こした磁気記録媒体上のイオン性の汚染物質の一つが、今まで認識されていなかった新たな汚染物質であって、磁気記録再生装置の密閉用のゴムシールとして使われるシロキサン系有機Siからのアウトガスであることを発見した。
【0017】
また、本発明者は、前記汚染物質の量が、潤滑剤層に用いた化合物の分子構造と関係していることを発見した。
つまり、前記潤滑剤層にホスファゼン化合物のように大きな分子構造を有する化合物を用いた場合には、前記潤滑剤層にイオン性の汚染物質が保護層(炭素膜)に侵入する隙間を生じさせ、その隙間から前記汚染物質が磁気記録媒体の表面を汚染するメカニズムを発見した。
【0018】
上記課題を解決すべく研究を重ね、本発明者は、保護層との結合力が高く、かつ、保護層の層厚を下げた場合にも被覆率の高い潤滑剤層を有する磁気記録媒体を完成させた。
すなわち、本発明は以下に関する。
【0019】
(1) 非磁性基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑剤層と、をこの順序で有する磁気記録媒体であって、前記潤滑剤層が、下記一般式(1)に示す化合物Aと、下記一般式(2)に示す化合物Bまたは下記一般式(3)に示す化合物Bと、を含み、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)または化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が、0.05〜0.3の範囲内であることを特徴とする磁気記録媒体。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
[上記一般式(1)中、xは1〜5の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基のいずれかであり、Rは末端基が−CHOHまたは−CH(OH)CHOHの置換基であり、上記一般式(2)中、pは4〜60の範囲の整数、qは4〜60の範囲の整数であり、上記一般式(3)中、rは4〜36の範囲の整数、sは4〜36の範囲の整数である。]
(2) 上記一般式(1)におけるRが、−(CO)−(CFO)−CHOH(t、uは整数。)、または、−(CO)−(CFO)―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(t、uは整数。)であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3) 上記一般式(1)における、xが4であり、RがCFであり、Rが−CH(OH)CHOH末端基を有する置換基であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(4) 上記一般式(2)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜8000の範囲内または上記一般式(3)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜5000の範囲内であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5) 前記潤滑剤層の平均膜厚が5Å以上13Å以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0024】
上記の構成によれば、磁気記録媒体上の汚染物を極限まで低減して、磁気ヘッドへの前記汚染物の付着(転写)を防止して、安定した磁気記録再生特性を有する磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を提供することができる。
【0025】
本発明の磁気記録媒体は、保護層との結合力が高く、かつ、保護層の被覆率の高い潤滑剤層を有する構成なので、イオン性の汚染物質の影響を低減し、磁気記録媒体の表面から磁気ヘッドへの前記汚染物の転写を防止することができ、磁気記録再生特性を安定させることができる。
【0026】
本発明の磁気記録再生装置は、保護層との結合力が高く、かつ、保護層の被覆率の高い潤滑剤層を有する磁気記録媒体を備えた構成なので、高温条件下におかれた場合であっても、磁気記録媒体上のイオン性の汚染物質に起因する磁気ヘッドの汚染や破損が生じにくく、耐環境性に優れ、磁気記録再生特性の安定した磁気記録再生装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【図3】磁気記録媒体のSiに対する脆弱性評価結果を示すグラフであって、潤滑剤層の平均膜厚に対するSi量(任意値)を示すグラフである。
【図4】磁気記録媒体のSiに対する脆弱性評価結果を示すグラフであって、質量比(A/B)に対するSi量(任意値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、磁性層2、保護層3、潤滑剤層4と、がこの順序で積層されて概略構成されている。
【0029】
<非磁性基板>
非磁性基板1としては、AlまたはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成されたものなどを用いることができる。また、非磁性基板1としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0030】
<磁性層>
磁性層2は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましく、例えば、Co−Cr−Ta系、Co−Cr−Pt系、Co−Cr−Pt−Ta系、Co−Cr−Pt−B−Ta系合金等からなる層を用いることができる。
【0031】
磁性層2は、面内磁気記録または垂直磁気記録の磁性層(磁気記録層ともいう)のいずれでもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁気記録の磁性層が好ましい。
面内磁気記録の磁性層2としては、強磁性のCoCrPtTa磁性層を用いることができ、この場合、前記磁性層2と非磁性基板1との間に非磁性のCrMo下地層を設けることが好ましい。前記下地層は、単層であっても多層であってもよい。
【0032】
垂直磁気記録の磁性層2としては、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる磁性層を用いることができ、前記磁性層2と非磁性基板1との間に、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要によりRu等の中間膜を設けることが好ましい。
【0033】
磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下とすることが好ましく、5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。
磁性層2は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法など従来の公知のいかなる方法によって形成してもよいが、通常、スパッタ法により形成する。
【0034】
<保護層>
保護層3としては、従来の公知の材料、例えば、カーボン、SiCの単体またはそれらを主成分とした材料を使用することができる。なお、本発明の実施形態で用いる潤滑剤層4は、特に、カーボンからなる保護層3に対して高い結合力と被覆率が得られるので、カーボンがより好ましい。
【0035】
保護層3の膜厚は1nm〜10nmの範囲内とすることが好ましい。これにより、高記録密度状態で使用した場合、磁気的スペーシングを低減することができるとともに、耐久性を向上させることができる。ここで、磁気的スペーシングとは、磁気ヘッド(特に素子部)と磁性層4との間の距離を表す。磁気的スペーシングを狭くするほど電磁変換特性を向上させることができる。
【0036】
保護層3の成膜方法としては、通常のカーボンターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエンなどの炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法,IBD(イオンビーム蒸着)法などを用いることができる。
さらに、これらの方法を組み合わせて複数の層として構成しても良い。
【0037】
<潤滑剤層>
潤滑剤層4は、上記一般式(1)に示す化合物Aと、上記一般式(2)に示す化合物Bまたは上記一般式(3)に示す化合物Bと、を含む構成とされている。
【0038】
ここで、上記一般式(1)中、xは1〜5の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基のいずれかであり、Rは末端基が−CHOHまたは−CH(OH)CHOHの置換基である。
特に本願発明では、上記一般式(1)におけるRを、−(CO)−(CFO)−CHOH(t、uは整数。)、または、−(CO)−(CFO)―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(t、uは整数。)とするのが好ましい。これらの置換基は従来から潤滑剤の置換基として使われているからである。
また、上記一般式(2)中、pは4〜60の範囲の整数、qは4〜60の範囲の整数である。さらに、上記一般式(3)中、rは4〜36の範囲の整数、sは4〜36の範囲の整数である。
【0039】
<化合物A>
上記一般式(1)に示す化合物Aは、ホスファゼン化合物であって、具体的には、X−1p(商品名、DowChemical社製)、MORESCO PHOSPHAROL A20H−2000(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)、A20H−DD(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)、またはこれらの関連物質を出発原料として合成、精製して得た反応生成物を挙げることができる。
【0040】
本願発明では、化合物Aとして下記一般式(4)に示す化合物を用いるのが好ましい。すなわち、上記一般式(1)に示す化合物Aにおいて、xが4であり、RがCFであり、Rが−CH(OH)CHOHの末端基を有する置換基である化合物である。ここで、下記一般式(4)中、RはC、F、Oからなる化合物である。
【0041】
【化4】

【0042】
<化合物B、化合物B
化合物B、化合物Bは、それぞれパーフルオロオキシアルキレン単位を有する化合物であり、化合物Bとしては、例えば、Fomblin Z−DOL(商品名、Solvay Solexis社製)を挙げることができ、化合物Bとしては、例えば、Fomblin Z−TETRAOL(商品名、Solvay Solexis社製)を挙げることができる。
【0043】
化合物Bの平均分子量が1000〜8000の範囲内または化合物Bの平均分子量が1000〜5000の範囲内であることが好ましい。
化合物Bまたは化合物Bの平均分子量を上記範囲内とした場合には、化合物Aを保護層3に塗布した際に生ずる隙間を、化合物Bまたは化合物Bが埋めやすくなり、磁気記録媒体の内部に侵入する汚染物質を阻止しやすくなる。
【0044】
潤滑剤層4が、上記一般式(1)に示す化合物Aと、上記一般式(2)に示す化合物Bまたは上記一般式(3)に示す化合物Bと、とからなる場合には、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が保護層3を構成する炭素原子へ強く結合して、保護層3の表面を強力に保護する。
また、潤滑剤層4が上記構成からなる場合には、潤滑剤層4の膜厚を薄くしても、アイランド状または網目状となることがなく、ほぼ均一の膜厚で潤滑剤層4を形成することができ、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持して、磁気記録媒体に対する
環境物質の影響を低減して、汚染物質の発生を抑制して、磁気記録媒体の耐汚染性を保持する。
【0045】
特に、化合物Aとして、上記一般式(1)でxが4であり、RがCFであり、Rが−CH(OH)CHOHである化合物を用いた場合には、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が形成する保護層3を構成する炭素原子への結合に、−CH(OH)CHOHからなる末端基を有する置換基も結合して、保護層3の表面をより強力に保護する。
【0046】
<質量比(A/B)または(A/B)>
化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)または化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)は、0.05〜0.3の範囲内とすることが好ましい。
質量比(A/B)または質量比(A/B)を上記範囲内とすることにより、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が形成する保護層3を構成する炭素原子への結合がより強められる。
【0047】
<潤滑剤層の膜厚>
潤滑剤層4の平均膜厚は、0.5nm(5Å)〜3nm(30Å)の範囲内であることが好ましく、5Å〜13Åの範囲内とすることがより好ましい。
潤滑剤層4の平均膜厚を上記範囲内にすることにより、潤滑剤層4をアイランド状または網目状に形成することなく、潤滑剤層4を均一の膜厚で形成して、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持することができる。これにより、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができる。
また、潤滑剤層4の平均膜厚を上記範囲内にすることにより、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくして、磁気記録媒体の記録密度を高くすることができる。
【0048】
逆に、潤滑剤層4の平均膜厚が5Å未満とした場合には、潤滑剤層4を均一の膜厚で形成することができず、潤滑剤層4をアイランド状または網目状に形成してしまい、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持することができない。その結果、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができない。
また、潤滑剤層4の平均膜厚を30Å超とした場合には、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくすることができず、磁気記録媒体の記録密度を向上させることができない。
【0049】
なお、他の一般的な潤滑剤を用いて形成した平均膜厚が13Å以下の膜は、ほとんど完全にアイランド状または網目状となり、保護層3の表面を完全に被覆できず、磁気記録媒体の耐汚染性をほとんど保持できないので、本実施形態の潤滑剤層4を用いた場合との差異が顕著に現れる。
【0050】
さらに、化合物Aのみを用いて形成した平均膜厚が30Å以下の膜は、化合物Aがホスファゼン骨格という大きな分子構造を有するので、アイランド状または網目状となり、完全に保護層3の表面を被覆することができない。
【0051】
保護層3の表面が潤滑剤層4によって完全に被覆されない場合、磁気記録媒体11の表面に吸着したイオン性不純物などの環境物質を含む水が、潤滑剤層4の隙間を容易に通り抜けて、潤滑剤層4の下に隠されていた微少なイオン成分を凝集させてイオン性の汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)が磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させる。この問題は、磁気記録媒体11を高温・高湿条件下に保持した場合、より顕著に現れる。
【0052】
前記環境物質とは、例えば、イオン性不純物であり、前記イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどを挙げることができ、無機イオンとしては、例えば、シリコンイオン、塩素イオン、HCOイオン、HSOイオン、硫酸イオン、アンモニアイオン、シュウ酸イオン、蟻酸イオンなどを挙げることができる。
【0053】
<潤滑剤層の形成方法>
潤滑剤層は、潤滑剤層形成用溶液を調製した後、前記潤滑剤層形成用溶液を磁気記録媒体上に塗布して形成する。
まず、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)または化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が0.05〜0.3の範囲内となるように化合物Aと化合物Bまたは化合物Bとを混合して、潤滑剤層形成用溶液(塗布溶液)を調整する。
【0054】
通常、潤滑剤単体は粘度の大きい油状液体である。このため、潤滑剤を溶媒で希釈して、塗布方法に適した濃度の潤滑剤層形成用溶液(塗布溶液)とする。ここで用いる溶媒としては、例えば、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒などを挙げることができる。
【0055】
次に、スピンコート法やディップ法などを用いて、潤滑剤層形成用溶液を保護層3上に塗布して潤滑剤層4を形成する。
例えば、ディップ法では、ディップコート装置の潤滑剤浸漬槽に入れた前記潤滑剤層形成用溶液中に、保護層3までの各層を形成した非磁性基板1を浸漬した後、潤滑剤浸漬槽から非磁性基板1を所定の速度で引き上げて非磁性基板1の保護層3上の表面に均一な膜厚の潤滑剤層4を形成する。
【0056】
本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、少なくとも磁性層2と、保護層3と、潤滑剤層4と、をこの順序で有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層4が、上記一般式(1)に示す化合物Aと、上記一般式(2)に示す化合物Bまたは上記一般式(3)に示す化合物Bと、を含む構成なので、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bまたは化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が形成する保護層3を構成する炭素原子と間の結合が強められ、保護層3の表面を強力に保護することができる。磁気ヘッドなどの接触により磁気記録媒体が傷つけられるのを防止することができる。また、潤滑剤層4の膜厚を薄くしても、アイランド状または網目状となることがなく、ほぼ均一の膜厚で潤滑剤層4を形成することができ、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持して、磁気記録媒体に対する環境物質の影響を低減して、汚染物質の発生を抑制して、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができる。これにより、磁気記録媒体の表面から磁気ヘッドへの前記汚染物質の転写を防止することができ、磁気記録再生特性を安定させることができる。
【0057】
また、本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)または化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が0.05〜0.3の範囲内である構成なので、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bまたは化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が形成する保護層3を構成する炭素原子と間の結合が強められ、保護層3の表面を強力に保護することができる。また、潤滑剤層4の膜厚を薄くしても、アイランド状または網目状となることがなく、ほぼ均一の膜厚で潤滑剤層4を形成することができ、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持して、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができる。
【0058】
また、本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、上記一般式(1)におけるxが4であり、RがCFであり、Rが−CH(OH)CHOH末端基を有する置換基である構成なので、化合物Aのホスファゼン骨格と、化合物Bまたは化合物Bのパーフルオロオキシアルキレン単位と、が形成する保護層3を構成する炭素原子と間の結合が強められ、保護層3の表面を強力に保護することができる。また、潤滑剤層4の膜厚を薄くしても、アイランド状または網目状となることがなく、ほぼ均一の膜厚で潤滑剤層4を形成することができ、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持して、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができる。
【0059】
また、本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、上記一般式(2)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜8000の範囲内または上記一般式(3)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜5000の範囲内である構成なので、化合物Aを保護層3に塗布した際に生ずる隙間を、化合物Bまたは化合物Bが埋めやすくなり、磁気記録媒体の内部に侵入する汚染物質を阻止することができる。
【0060】
さらにまた、本発明の実施形態である磁気記録媒体11は、潤滑剤層4の平均膜厚が5Å以上13Å以下である構成なので、アイランド状または網目状となることがなく、ほぼ均一の膜厚で潤滑剤層4を形成することができ、潤滑剤層4による保護層3の表面への被覆率を保持して、磁気記録媒体の耐汚染性を保持することができる。これにより、磁気記録媒体の表面から磁気ヘッドへの前記汚染物質の転写を防止することができ、磁気記録再生特性を安定させることができる。また、磁気記録再生装置に用いたときに、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくすることができ、磁気記録媒体の記録密度を向上させることができる。
【0061】
<磁気記録再生装置>
次に、本発明の実施形態である磁気記録再生装置の一例について説明する。図2は、本発明の実施形態である磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
本発明の実施形態である磁気記録再生装置101は、本発明の実施形態である磁気記録媒体11と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部123と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド124と、磁気ヘッド124を磁気記録媒体11に対して相対運動させるヘッド移動部126、磁気ヘッド124への信号入力と磁気ヘッド124からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号処理部128とを具備したものである。これらを組み合わせて、記録密度の高い磁気記録再生装置を構成することができる。
【0062】
磁気ヘッド124の素子部(再生部)をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することができる。
また、磁気ヘッド124の浮上量を0.005μm(5nm)〜0.020μm(20nm)と従来用いられているより低い高さで浮上させると、出力が向上して高いSNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置とすることができる。
【0063】
本発明の実施形態である磁気記録再生装置101は、本発明の実施形態である磁気記録媒体11と、磁気ヘッド124と、を具備する構成なので、磁気ヘッド124の浮上量を十分小さくすることができ、磁気記録媒体11の記録密度を向上させることができる。また、磁気記録媒体11上を摺動する磁気ヘッド124の摩擦力を著しく低減させることができるとともに、高温条件下におかれた場合であっても、磁気記録媒体11上の汚染物質に起因する磁気ヘッド124の汚染や破損を生じにくくして、耐環境性に優れ、磁気記録再生特性の安定した磁気記録再生装置101とすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
まず、非磁性基板として、外径65mm、内径25mm、板厚1.27mmのアモルファスガラス基板(HOYA社製)を用意した。次に、この非磁性基板にテクスチャーを施して、十分に洗浄し乾燥した。次に、上記テクスチャーを施した非磁性基板をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社(日本)製、C3010)のチャンバ内にセットした後、前記チャンバ内の真空到達度が2×10−7Torr(2.7×10−5Pa)となるまで排気した。
【0065】
DCスパッタリング法を用いて、非磁性基板上に軟磁性層としてFeCoB膜、中間層としてRu膜、磁性層として25Fe−30Co−45Pt膜を順次成膜した。成膜したそれぞれの層の膜厚は、軟磁性層が600Å、中間層が100Å、磁性層が150Åであった。
【0066】
次に、CVD法を用いて、3nmの膜厚の保護膜(カ−ボン層)を積層した後、前記チャンバ内から上記各層を形成した非磁性基板を取り出した。このようにして、潤滑剤層形成前基板を作製した。
【0067】
次に、ディップ法を用いて、前記潤滑剤層形成前基板の保護層上に潤滑剤層を形成した。
まず、化合物AとしてA20H−DD(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)を、化合物BとしてFomblin Z−TETRAOL(商品名、Solvay Solexis社製)を用い、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が0.1となるように、化合物Aと化合物Bとを混合して、潤滑剤層形成用溶液を調整した。
なお、潤滑剤層形成用溶液を溶解するための溶媒として、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)を用いた。また、潤滑剤層形成用溶液中における潤滑剤(化合物A及び化合物B)の濃度はいずれも0.3質量%とした。
【0068】
次に、ディップコート装置の浸漬槽に前記潤滑剤層形成用溶液を満たし、その中に前記潤滑剤層形成前基板を浸漬した。次に、一定の引き上げ速度で前記浸漬槽から前記潤滑剤層形成前基板を引き上げて、前記潤滑剤層形成前基板の保護層上に均一な膜厚の潤滑剤層を形成して、実施例1の磁気記録媒体を作製した。なお、潤滑剤層の平均膜厚は19.5Åであった。
【0069】
(実施例2〜4)
前記引き上げ速度を制御して、潤滑剤層の平均膜厚を15.5Å(実施例2)、12.5Å(実施例3)、10Å(実施例4)とした他は実施例1と同様にして、実施例2〜4の磁気記録媒体を作製した。
【0070】
(実施例5)
化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)を0.2とし、潤滑剤層の平均膜厚を10Åとした他は実施例1と同様にして、実施例5の磁気記録媒体を作製した。
【0071】
(比較例1〜4)
潤滑剤に、A20H−DD(商品名、松村石油研究所(MORESCO)社製)のみを使用し、潤滑剤層の平均膜厚を19.5Å(比較例1)、15.5Å(比較例2)、12.5Å(比較例3)、10Å(比較例4)とした他は実施例1と同様にして、比較例1〜4の磁気記録媒体を作製した。
【0072】
(比較例5)
化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)を0(化合物Bのみ)とし、潤滑剤層の平均膜厚を10Åとした他は実施例1と同様にして、比較例5の磁気記録媒体を作製した。
【0073】
(比較例6)
化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)を0.5とし、潤滑剤層の平均膜厚を10Åとした他は実施例1と同様にして、比較例6の磁気記録媒体を作製した。
【0074】
(磁気記録媒体の耐環境性評価)
実施例1〜5および比較例1〜6の磁気記録媒体の耐環境性評価を実施した。この耐環境性評価は、高温環境下において環境物質による汚染を調べる評価手法の一つである。
まず、評価対象である磁気記録媒体を、温度85℃、湿度0%の高温環境下で、シロキサン系Siゴムの存在下に48時間保持した。
次に、前記磁気記録媒体の表面に存在するSiの量をtof−SIMS(time of flight−Secondary Ion Mass Spectrometry)で分析測定して、高温環境下における環境物質であるSiイオンによる汚染の程度を評価した。
【0075】
図3は、潤滑剤層の平均膜厚とSi量(任意値)との関係を示すグラフであって、磁気記録媒体のSiイオンに対する脆弱性を示すグラフである。
潤滑剤層の平均膜厚が同じ値の実施例と比較例とを比較すると、潤滑剤層の平均膜厚が13Åより厚い場合には、ほとんど変わらなかった。具体的には、図3に示すように、実施例1のSi量(任意値)と比較例1のSi量(任意値)はほとんど変わらず、実施例2のSi量(任意値)と比較例2のSi量(任意値)はほとんど変わらなかった。
しかし、潤滑剤層の平均膜厚が13Åより薄い場合には、実施例3のSi量(任意値)が比較例3のSi量(任意値)よりも低く、実施例4のSi量(任意値)が比較例4のSi量(任意値)よりも低かった。
【0076】
図4は、潤滑剤層の質量比(A/B)とSi量(任意値)との関係を示すグラフであって、磁気記録媒体のSiイオンに対する脆弱性を示すグラフである。
図4に示すように、比較例5および比較例6に対して実施例4および実施例6のSi量(任意値)は低い値を示した。
以上の結果を表1にまとめた。実施例1〜5の磁気記録媒体は、高温環境下で環境物質による汚染の少ないことが明らかになった。
【0077】
本願発明の潤滑剤層を有する磁気記録媒体は、潤滑剤層の膜厚が13Å以下となった場合に、特にその効果が発現する。この効果は、本願発明の磁気記録媒体を内蔵した磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の信頼性を著しく高めるものである。
すなわち、ハードディスクドライブに内蔵される磁気記録媒体は高速で回転するため、その表面に塗布された潤滑剤層は遠心力により飛散し徐々にその膜厚が薄くなる(この現象をスピンアウトと呼ぶ場合がある)。これに加え、ハードディスクドライブの内部は高温になるため、潤滑剤が揮発して膜厚が徐々に薄くなる。
よって、ハードディスクドライブの出荷時には潤滑剤層の膜厚を16Åとした場合でも、その使用環境によって潤滑剤層の膜厚は徐々に薄くなり、そして膜厚が13Å以下となった時に、本願発明の磁気記録媒体の耐環境性が顕著に発現することになる。また、本実施例の評価には汚染物質としてSiを用いているが、磁気記録媒体への侵入性が高い金属イオンの場合は、潤滑剤層の膜厚が13Åより厚い場合においても、本願発明の効果が発現する。
【0078】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の磁気記録媒体及び磁気記録再生装置は、高記録密度の磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を利用・製造する産業において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0080】
1…非磁性基板。
2…磁性層。
3…保護層。
4…潤滑剤層。
11…磁気記録媒体。
101…磁気記録再生装置。
123…媒体駆動部。
124…磁気ヘッド。
126…ヘッド移動部。
128…記録再生信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑剤層と、をこの順序で有する磁気記録媒体であって、
前記潤滑剤層が、下記一般式(1)に示す化合物Aと、
下記一般式(2)に示す化合物Bまたは下記一般式(3)に示す化合物Bと、を含み、
化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)または化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が、0.05〜0.3の範囲内であることを特徴とする磁気記録媒体。
【化1】

【化2】

【化3】

[上記一般式(1)中、xは1〜5の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基のいずれかであり、Rは末端基が−CHOHまたは−CH(OH)CHOHの置換基であり、上記一般式(2)中、pは4〜60の範囲の整数、qは4〜60の範囲の整数であり、上記一般式(3)中、rは4〜36の範囲の整数、sは4〜36の範囲の整数である。]
【請求項2】
上記一般式(1)におけるRが、−(CO)−(CFO)−CHOH(t、uは整数。)、または、−(CO)−(CFO)―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(t、uは整数。)であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記一般式(1)における、xが4であり、RがCFであり、Rが−CH(OH)CHOH末端基を有する置換基であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記一般式(2)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜8000の範囲内または上記一般式(3)に示す化合物Bの平均分子量が1000〜5000の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記潤滑剤層の平均膜厚が5Å以上13Å以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、
を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−108583(P2010−108583A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210794(P2009−210794)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(508222689)ショウワデンコウ エイチディ シンガポール ピーティイー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】