説明

磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体を用いて、電磁変換特性およびエッジ品質に優れ、走行耐久性やドロップアウト発生率の面で信頼性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体31上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層32と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層33とを、この順に有する磁気記録媒体30であって、裁断後の磁気記録媒体30の裁断側端面30aの白波量Sが、20%〜50%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関し、より詳細には、電磁変換特性およびエッジ品質に優れた磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に磁気テープなどの磁気記録媒体は、強磁性粉末を結合剤(バインダー)中に分散させた磁性層が非磁性の支持体上に設けられている。この磁気テープの製造は、まず、強磁性粉末を結合剤、添加剤、有機溶剤とともに混合分散して磁性塗布液をつくり、この磁性塗布液を非磁性の支持体上に塗布した後、乾燥して幅の広い磁気テープ原反をつくる。そして、この幅広の磁気テープ原反を、スリッタと呼ばれる裁断装置で、8mm、1/2インチ、1インチ等の所要の幅に裁断することによって、幅狭の磁気テープが製造される。
【0003】
磁気テープ製造用の裁断装置10は、図4に示すように、上下対になった回転上刃1と回転下刃2によって構成されており、この回転上刃1と回転下刃2の間に磁気テープ原反3を通過させることによって、磁気テープ原反3を長手方向に裁断して幅狭の磁気テープ4を製造している。
【0004】
磁気記録媒体の高密度化や薄層化、またドライブの高速化により、磁気テープ4の裁断側端面4aの形状が電磁変換特性に大きな影響を及ぼすので、裁断時における裁断側端面4aの形状管理は、重要な管理項目である。具体的には、裁断時に、磁性層のエッジ部に表れるクラックの発生を抑制するとともに、裁断側端面4aの凹凸形状の発生を抑制することが求められる。これは、磁性層にクラックが発生したり、裁断側端面4aの凹凸が大きくなったりすると、長期間の使用によって磁性層が削られて、磁性層表面への粉落ち、磁気ヘッドと磁性層表面との間の目詰まり等が生じ、その結果、ドロップアウトの発生、記録時の書き込み不良や、読み取り時の読み取り不良等を頻繁に発生させるためである。
【0005】
一方、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を得るため、電子線などの放射線によって硬化する官能基を持つ化合物、即ち放射線硬化性化合物を用いて放射線硬化層を形成するようにした磁気記録媒体が知られている。放射線硬化層が設けられた磁気記録媒体は、従来の裁断条件で裁断すると、裁断側端面4aの切れ味が劣化する傾向があり、磁気ヘッドの汚れなどによって書き込み不良や読み取り不良等が発生する問題があった。
【0006】
電磁変換特性に優れた磁気記録媒体としては、バックコート層における放射線硬化型結合剤樹脂として、放射線硬化型塩化ビニル系重合体を含むものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、上下対とされた下刃および上刃の間に、磁気テープ原反を供給して所定の幅に裁断する際、磁気テープ原反の磁性層面が下刃に接触するように供給して、良好な裁断面を得るようにした裁断装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。更に、回転上刃に面取り部を設け、横方向のヤング率の高い支持体を備える磁気記録媒体でのクラックの発生や裁断側端面での凹凸量を抑制して、信頼性の高い磁気テープを製造するようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−84565号公報
【特許文献2】特開2003−245890号公報
【特許文献3】特開2007−257693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の磁気記録媒体は、非磁性支持体の裏面(磁気記録層と反対側の面)に設けられるバック層の結合剤を、放射線硬化型塩化ビニル系重合体として電磁変換特性の改善を図ったものであり、磁気記録媒体の側端面の形状や裁断については、何ら記載されていない。また、特許文献2および特許文献3に記載の裁断方法および装置は、磁気テープ原反の磁性層面が回転する下刃に接触するように供給して裁断し、あるいは上刃に面取り部を設けることによって切れ味を維持し、クラックの発生や裁断側端面での凹凸量の抑制を図っているが、必ずしも、十分に良好な裁断面を得ることができず、更なる改善が求められていた。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体を用いて、電磁変換特性およびエッジ品質に優れ、走行耐久性やドロップアウト発生率の面で信頼性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記磁気記録媒体およびその製造方法によって達成される。
(1)幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層とを、この順に有する磁気記録媒体であって、
裁断後の前記磁気記録媒体の側面の白波量が、20%〜50%である磁気記録媒体。
【0011】
上記構成の磁気記録媒体によれば、幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体上に、非磁性層と磁性層とが設けられている。非磁性層は放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化され、磁性層は強磁性粉末を結合剤中に分散させて形成されている。この磁気記録媒体の裁断後の側面の白波量は、20%〜50%であるので、電磁変換特性およびエッジ品質に優れており、走行耐久性やドロップアウト発生率の面で信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。なお、好ましい白波量は、20%〜40%であり、更に好ましくは、20%〜30%の範囲である。白波量が20%未満の媒体をドライブで走行した場合、非磁性支持体の側面が磁性層側面より突出量が多いため、非磁性支持体の削れ粉が多く発生し、ドロップアウトの増加等を招く、また白波量が50%を越えた媒体をドライブで走行した場合は、磁性層側面が非磁性支持体側面より突出量が多くなり、磁性層の削れ粉が多く発生し、磁性粉がヘッドに堆積して、最悪は走行停止になる。
【0012】
本明細書中において白波量とは、磁気記録媒体の裁断側端面における支持体と非磁性層との境界点と、該境界点から磁気記録媒体の厚さ方向に引いた垂線が裁断側端面と交わる交点との距離の、磁気記録媒体の全体厚さに対する割合(%)と定義する。
【0013】
(2)前記磁気記録媒体は、磁気テープである上記(1)に記載の磁気記録媒体。
【0014】
上記構成の磁気記録媒体によれば、磁気記録媒体が磁気テープであるので、電磁変換特性およびエッジ品質に優れた磁気テープが得られる。
【0015】
(3)幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層とを、この順に有する磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、0.01mm〜0.08mmのしのぎ量を有する回転上刃との両刃先側面を合わせて摺動回転させながら、前記回転下刃と前記回転上刃との間に長尺の前記磁気記録媒体の原反を送り込んで、所定の幅に裁断する磁気記録媒体の製造方法。
【0016】
上記の磁気記録媒体の製造方法によれば、0.01mm〜0.08mmのしのぎ量を有する回転上刃と、回転下刃との間に磁気記録媒体の原反を送り込んで、所定の幅に裁断するようにしたので、裁断後の磁気記録媒体の白波量を、20%〜50%に抑制することができ、これにより、電磁変換特性およびエッジ品質に優れた磁気記録媒体を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体を用いて、電磁変換特性およびエッジ品質に優れ、走行耐久性やドロップアウト発生率の面で信頼性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】磁気記録媒体の裁断装置の要部断面図である。
【図2】回転上刃の要部断面図である。
【図3】磁気記録媒体の裁断側端面の断面拡大図である。
【図4】従来の磁気記録媒体の裁断装置の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る磁気記録媒体およびその製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は磁気記録媒体の裁断装置の要部断面図、図2は回転上刃の要部断面図である。
【0020】
本実施形態で作成される磁気記録媒体(磁気テープ)は、非磁性支持体上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層とを、この順で形成したものであり、非磁性支持体は幅方向のヤング率が8GPa以上のものが用いられる。非磁性層支持体の幅方向のヤング率は8GPa以上の非磁性支持体を用いると、幅方向のテープの幅変化が少ないため、LTOドライブのようなサーボ信号記録ではサーボ信号の位置変化がなく安定した走行性が得られる。8GPa未満の非磁性支持体を用いた場合、テープ幅方向の幅変化が多くなるためサーボ信号が読めなくなり走行停止になる事が発生する。なお、非磁性層支持体の幅方向のヤング率は8GPa未満である場合には、エッジダメージを受け易くなり、耐久性が劣化し、ヘッド汚れが発生してしまう。
【0021】
図1に示すように、裁断装置20は、上下対になった複数対の回転上刃21と回転下刃22を備える。回転下刃22は、例えば、タングステンカーバイト等の超硬素材によって円筒状に形成されており、回転軸24が挿通されて一定の間隔で取り付けられている。回転軸24は、不図示のモータによって回転駆動される。回転下刃22は、一方側の側面(図1の右側面)が略円形の裁断面22aとして作用するようになっている。各回転下刃22の裁断面22aは、回転軸24の幅方向において、磁気テープの幅寸法と同じ間隔で配置されている。
【0022】
一方、回転上刃21は、例えば、タングステンカーバイト等の超硬素材によって薄い円盤状に形成されており、回転軸23に一定の間隔で取りつけられている。回転軸23は、回転下刃22が設けられた回転軸24と平行に配置され、モータによって回転駆動される。各回転上刃21同士の間には、スペーサ25が介在して、回転上刃21が回転軸23の幅方向に一定の間隔で配置されている。
【0023】
回転上刃21は、その下端部が回転下刃22同士の間に形成された隙間に入り込んで(即ち、側方から見て回転上刃21の下端部と、回転下刃22の上端部とがオーバーラップ)配置されている。また、回転上刃21は、皿ばねなどの弾性部材26によってスラスト方向(図1において左方向)に押圧されており、磁気テープ原反を裁断するときの抵抗によって回転上刃21が回転下刃22から逃げることが防止されている。
【0024】
図2に示すように、回転上刃21は、その一方側の側面(図1および図2の左側面)が裁断面21aであり、回転上刃21の外周面21bの幅方向長さ、換言すれば厚み方向長さ(以後、しのぎ量と言う)Wは、0.01mm〜0.08mm、好ましくは、0.01mm〜0.05mmとなっている。回転上刃21の裁断面21aは、回転下刃22の裁断面22aと摺接して裁断作用を生じるようになっている。即ち、回転上刃21の裁断面21aと、回転下刃22の裁断面22aとによって、幅広の磁気テープ原反を裁断する。
【0025】
図3は磁気記録媒体の裁断側端面の断面拡大図である。図3に示すように、本発明で用いられる磁気記録媒体30は、非磁性支持体31の一方の面(表面)に、非磁性層32と磁性層33とが、この順で形成されている。非磁性支持体31は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどから形成され、幅方向のヤング率は8GPa以上である。
【0026】
非磁性層32は、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させて形成されている。放射線硬化性化合物は、分岐構造を有し、環構造を有しないジイソシアネートからなる放射線硬化性化合物であって、分子中に放射線硬化性官能基を有する放射線硬化性化合物を含んでいる。また、非磁性粉末としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩などの無機物質や、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末などの有機物粉末や、カーボンブラックなどが使用できる。
【0027】
ここで、放射線硬化性化合物(分岐構造を有し、環構造を有しないジイソシアネートからなる放射線硬化性化合物であって、分子中に放射線硬化性官能基を有する放射線硬化性化合物)について詳述する。
【0028】
放射線硬化性化合物とは、紫外線または電子線などの放射線を照射すると重合または架橋を開始し、高分子化して硬化する性質を有する化合物である。放射線硬化性化合物は、外部からエネルギー(紫外線または電子線)を与えない限り反応が進行しない。このため、放射線硬化性化合物を含む塗布液は、紫外線または電子線を照射しない限り粘度が安定しており、高い塗膜平滑性を得ることができる。また、紫外線または電子線による高いエネルギーにより瞬時に反応が進むため、放射線硬化性化合物を含む塗布液では高い塗膜強度を得ることができる。
【0029】
なお、本発明で用いられる放射線には、電子線(β線)、紫外線、X線、γ線、α線などの各種の放射線が含まれる。
【0030】
本発明の放射性硬化性化合物としては、例えば分岐構造としてメチル基等の分岐側鎖を有し、環構造をもたないジイソシアネートを用いたウレタンアクリレートやウレタンメタクリレート化合物を用いることができる。
【0031】
本発明の放射性硬化性化合物は、分岐構造を有することで、分岐構造を有しない直鎖型脂肪族に比べて結晶化しにくく、非磁性層の粘度を低下させることができる。その結果、塗布した際のレベリング性に優れ、支持体上の微小な突起を埋めることができ、平滑性に優れた磁性層が得られ、高い電磁変換特性を得ることができる。
【0032】
分岐構造が異性体である放射線硬化性化合物の混合物であると、粘度を低下させる効果が高いので、さらに好ましい。具体的には、後述するジイソシアネートとして、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの混合物を用いて得られた放射性硬化性化合物が例示できる。
【0033】
本発明の放射性硬化性化合物は、以下の方法で得ることができる。
(1)イソシアネートと反応する基および放射線硬化性官能基を分子中に有する化合物に、前記ジイソシアネートを反応させて得ることができる。
【0034】
また、(2)前記ジイソシアネートにジオールを反応させた末端NCOプレポリマーに、イソシアネートと反応する基(水酸基)および放射線硬化性官能基を分子中に有する化合物を反応させてもよい。
【0035】
さらに、(3)前記ジイソシアネートとジオールを反応させた末端OHウレタンプレポリマーに、NCO基及び放射線硬化性官能基を分子中に有する化合物を反応させて得ることもできる。
【0036】
本発明に使用することのできるジイソシアネートとしては、リジンジイソシアネートメチルエステル、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
また、本発明に使用することができるイソシアネート基と反応する基及び放射線硬化性官能基を有する化合物としては、2−イソシアネートエチルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート等が挙げられる。硬化性に優れることから、2−イソシアネートエチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0038】
水酸基と放射線硬化性官能基を有する化合物としては、以下のものが例示できる。具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、ジトリメチロールプロパントリメタクリレート等がある。2−ヒドロキシエチルアクリレートを好ましく使用することができる。
【0039】
前記の末端NCO基や末端OH基を有するウレタンプレポリマーに用いることのできるジオールは公知のものを用いることができるが、分岐構造を有し、環構造をもたないジオールが好ましい。例えば以下のような脂肪族ジオールが挙げられる。
【0040】
2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル3−エチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−3−ブチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−3−ブチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジブチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジプロピル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、3−ブチル−3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、3−ブチル−1,5−ペンタンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール、3−ミリスチル−1,5−ペンタンジオール、3−ステアリル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−プロピル−1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−1,6−ヘキサンジオール、5−エチル−1,9−ノナンジオール、5−プロピル−1,9−ノナンジオール、5−ブチル−1,9−ノナンジオール等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールが好ましい。
また、前記のジオールを用いたポリエステルポリオールを用いてもよい。
【0042】
本発明の放射線硬化性化合物の分子量は400〜5,000であることが好ましい。分子量が上記範囲内であると、未反応物が塗膜表面に析出せず、また、粘度が適当で、十分な平滑性が得られるので好ましい。
【0043】
本発明の放射線硬化性化合物は、分子内に放射線硬化性官能基を有するが、放射線硬化性官能基は、アクリロイル基であることが好ましい。放射線硬化性官能基を分子内に2官能〜6官能有することが好ましい。放射線硬化性官能基の数が上記範囲内であると、原料の保存安定性が良好であり、また良好な硬化性を得ることができるので好ましい。
【0044】
本発明の放射線硬化性化合物は、分子内に放射線硬化性官能基を有するので、硬化性に優れ、さらに高い架橋密度が得られる。その結果、未反応のモノマー成分が長期保存により磁性層表面に析出することが抑制でき、長期保存による走行耐久性低下を抑制できる。
【0045】
本発明において、放射線硬化する非磁性層には、本発明の放射線硬化性化合物の他に、公知の放射線硬化性化合物を併用することもできる。
併用する放射線硬化性化合物としてはアクリロイル基を同一分子内に2官能以上有するものが好ましい。
【0046】
併用するものとして好ましいものは5−エチル−2−(2−ヒドロキシ−1,1’−ジメチルエチル)−5−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキサンジアクリレート、テトラヒドロフランジメタノールジアクリレート、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンジアクリレート等の環状構造を有するものやトリメチロールプロパンのエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンのプロピレンオキサイド変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等の4官能以上のアクリロイル基を有するものがある。
【0047】
中でも好ましいものは3官能以上の脂肪族系アクリレートであり、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンのプロピレンオキサイド変性トリアクリレートが好ましい。
【0048】
併用する際の本発明の放射線硬化性化合物の含有量は放射線硬化性化合物全体の30wt%以上が好ましく、更に好ましくは50wt%以上である。非磁性層が放射線硬化性化合物を用いると、磁性層が塗布されたときの磁性層の溶剤で非磁性層の界面が浸食されない特徴がある。非磁性層と磁性層の界面が乱れると電磁変化特性が悪化してしまう。
【0049】
本発明において使用される放射線は電子線や紫外線を用いることができる。紫外線を使用する場合には前記の化合物に光重合開始剤を添加することが必要となる。電子線硬化の場合は重合開始剤が不要であり、透過深さも深いので好ましい。
【0050】
電子線加速器としてはスキャニング方式、ダブルスキャニング方式あるいはカーテンビーム方式が採用できるが、好ましいのは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が30〜1000kV、好ましくは50〜300kVであり、吸収線量として0.5〜20Mrad、好ましくは2〜10Mradである。加速電圧が上記範囲内であると、十分なエネルギー透過量と、良好なエネルギー効率が得られるので好ましい。
【0051】
電子線を照射する雰囲気は窒素パージにより酸素濃度を200ppm以下にすることが好ましい。酸素濃度が上記範囲内であると、表面近傍の架橋、硬化反応が阻害されないので好ましい。
【0052】
紫外線光源としては、水銀灯が好ましい。水銀灯は20〜240W/cmのランプを用い、速度0.3m/分〜20m/分で使用されることが好ましい。基体と水銀灯との距離は一般に1〜30cmであることが好ましい。
【0053】
また、紫外線の発光エネルギーを有する発光ダイオードを用いた紫外線光源を用いることもできる。例えば、発光ピーク波長が365nmのLED光源を使用することができる。
【0054】
紫外線硬化に用いる光重合開始剤として光ラジカル重合開始剤が用いられる。詳細は例えば「新高分子実験学第2巻 第6章 光・放射線重合」(共立出版1995発行、高分子学会編)記載されているものを使用できる。具体例としては、アセトフエノン、ベンゾフエノン、アントラキノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルメチルケタール、ベンジルエチルケタール、ベンゾインイソブチルケトン、ヒドロキシジメチルフエニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフエニルケトン、2,2−ジエトキシアセトフエノン、などがある。芳香族ケトンの混合比率は、放射線硬化性化合物100重量部に対し、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは2〜15重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。
【0055】
放射線硬化装置、条件などについては「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センタ−発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000、(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。
【0056】
磁性層33は、針状強磁性粉末や、強磁性六方晶フェライト粉末などの平板状強磁性粉末を、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂などの結合剤中に分散させて形成されている。
【0057】
また、非磁性支持体31の他方の面(裏面)には、バック層34が形成されている。バック層34としては、例えば、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させ、塗布して形成される。
【0058】
裁断装置20のよって裁断された磁気記録媒体30の裁断側端面30aは、裁断側端面の断面拡大図である図3に示すように、裁断初期のせん断作用によって生じるせん断面と、裁断後期の破断作用よって生じる破断面とからなる凹凸面となる。裁断側端面30aは、通常、磁性層33が非磁性支持体31よりも突出した凹凸面であり、非磁性支持体31の最大凸部Cと、磁性層33の最大凸部Dとの距離Y(以後、ベース突出量Yと言う)は、小さい方が電磁変換特性や走行耐久性の観点からは好ましい。
【0059】
しのぎ量Wが0.01mm〜0.08mm、好ましくは、0.01mm〜0.05mmである回転上刃21を備える本実施形態の裁断装置20によって裁断された磁気記録媒体(磁気テープ)30の裁断側端面30aの白波量Sは、20%〜50%となっている。白波量Sの好ましい値は20%〜40%であり、20%〜30%が更に好ましい。
【0060】
ここで、白波量Sとは、磁気記録媒体30の裁断側端面30aにおける非磁性支持体31と非磁性層32との境界点Aと、該境界点Aから磁気記録媒体30の厚さ方向に引いた垂線Vが裁断側端面30aと交わる交点Bとの距離Xの、磁気記録媒体30の全体厚さtに対する割合(%)と定義する。つまり、白波量S=X/t×100と表すことができる。
【0061】
しのぎ量Wを0.01mm〜0.08mmとしたのは、しのぎ量Wが0.1mmを超える回転上刃によって裁断すると、磁気記録媒体30の裁断側端面30aにはクラックが発生しやすく、またしのぎ量Wが0.01mm未満の回転上刃によると、裁断長が長くなるにつれて裁断面の引きちぎれが大きくなり、極端な場合は、裁断できなくなって切断などが発生することがある。
【0062】
上記したように、本実施形態の磁気記録媒体およびその製造方法によれば、幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体を用いて、電磁変換特性およびエッジ品質に優れ、走行耐久性やドロップアウト発生率の面で信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【実施例】
【0063】
本発明の効果を確認するため、本発明の磁気記録媒体に係る実施例と、該実施例と比較する比較例について説明する。
磁気記録媒体は、実施例及び比較例(比較例4を除く)ともに、下記のようにして作成したものを用いた。なお、実施例中の「部」は、断らない限り「重量部」である。
【0064】
[放射線硬化性化合物の合成]
リジンジイソシアネートメチルエステルを還流式冷却器、撹拌機を具備した容器にメチルエチルケトン70%溶液に窒素気流下60℃で溶解した。次いでジブチルスズジラウレートをリジンジイソシアネートメチルエステルに対して60ppm、メトキシハイドロキノン200ppmを加え、更に5分間溶解した。更に2−ヒドロキシエチルアクリレートをリジンジイソシアネートメチルエステル1モルに対して2モル加えて80℃にて6時間加熱反応し、放射線硬化性化合物溶液を得た。
得られた放射線硬化性化合物溶液はFTIRで分析し、アクリロイル基の消失がないことを確認した。
【0065】
[磁性層塗布液の調製]
針状強磁性合金粉末(Hc 175kA/m(2,200Oe)、BET比表面積(SBET)70m2/g、長軸長45nm、針状比4、σS125A・m2/kg(emu/g))100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いでSO3Na含有ポリウレタン溶液(固形分30%、SO3Na含量70μeq/g、重量平均分子量8万)を10部(固形分)加え、更にシクロヘキサノン30部を加えて60分間混練した。
次いで
研磨剤(Al3、粒子サイズ0.3μm) 2部
カーボンブラック(粒子サイズ40μm) 2部
メチルエチルケトン/トルエン=1/1 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン(MEK) 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性塗料を調製した。
【0066】
[下層非磁性塗布液Aの調製]
α―Fe(平均粒径0.15μ、Sbet52m/g) 100部
放射線硬化性化合物
(2−イソシアネート エチルアクリレート) 20部
シクロヘキサン 30部
を加えてオープンニーダで60分混錬した。
次いでメチルエチルケトン/シクロヘキサン=6/4 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに、
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、更に20分間撹ハン混合したあと、1μmのフィルターを用いろ過し、下層非磁性塗布液Aを調液した。
[バック層処方]
混練物(1)
カーボンブラックA 粒径 40nm 100部
ニトロセルロース RS1/2 50部
ポリウレタン樹脂 40部
(ガラス転移温度: 50℃)
分散剤
オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
沈降性硫酸バリウム 5部
メチルエチルケトン 500部
トルエン 500部
上記をロールミルで予備混練した後、
混練物(2)
カーボンブラックB SSA 8.5m/g 100部
平均粒径 270nm;DBP吸油量 36ml/100g pH10
ニトロセルロース RS1/2 40部
ポリウレタン樹脂 10部
メチルエチルケトン 300部
トルエン 300部
上記(1)と(2)とをサンドグラインダーで分散し、完成後、以下を添加した。
ポリエステル樹脂 5部
ポリイソシアネート 5部
以上を加えて、バック層用分散液を作成した。
【0067】
厚さ5.0μmの幅方向のヤング率が8.5GPaの非磁性支持体(PEN)上に前記非磁性塗料を乾燥厚みが1.4μmになるように塗布、乾燥させ、塗膜表面に加速電圧125KVの電子線を吸収線量が3Mradになるように照射して硬化させた。さらにその上に前記磁性塗料を乾燥厚みが0.1μmとなるように塗布した。磁性塗料が未乾燥状態で5000GのCo磁石と4000Gのソレノイド磁石で磁場配向を行ない溶剤乾燥させた後に、非磁性支持体の反対面に厚さ0.5μmのバック層塗布乾燥させた。上記塗布品を金属ロールの7段組み合わせたカレンダー機にて処理をおこなった。
【0068】
尚、比較例4の磁気記録媒体は、上記磁気記録媒体の下層非磁性として放射線硬化層を形成せず、下記に示す下層非磁性塗布液Bを用いて塗布して磁気記録媒体を作成した。その他については、上記(実施例1〜4及び比較例1〜3)の磁気記録媒体と同様である。実施例2〜比較例7には幅方向のヤング率が異なる非磁性支持体を用いた非磁性支持体のヤング率を表1に示す。
【0069】
[下層非磁性塗布液Bの調整]
非磁性粉体ヘマタイト:80部
長軸長:0.10μm
BET法による比表面積:52m/g
pH:8.7
タップ密度:0.8
DBP吸油量:27〜37g/100g
表面処理:Al、SiO
カーボンブラック:20部
平均一次粒経:18mμ
pH:8.0
DBP吸油量:80ml/100g
BET法による比表面積:250m/g
塩化ビニル共重合体 MR110 (日本ゼオン社製):17部
ポリウレタン樹脂 UR8200 (東洋妨社製):5部
α―Al(平均粒経0.2μm):5部
ブチルステアレート:1部
ステアリン酸:1部
メチルエチルケトン:50部
を加え、更に20分間攪拌混合した後、1μmのフィルターを用い濾過し、下層非磁性塗布液Bを調液した。
【0070】
このようにして作成した各磁気記録媒体(磁気テープ原反)を、しのぎ量Wがそれぞれ異なる回転上刃を備える裁断装置により、1/2インチ幅に裁断して実施例1〜3、および比較例1〜4の磁気テープサンプルを作成して評価試験を行った。各実施例および比較例で用いた回転上刃のしのぎ量Wの具体的数値は、表1に示す。
【0071】
[評価試験および評価方法]
1.電磁変換特性
磁気テープサンプルをLTOカートリッジに組み込み、LTO−IBMドライブでの再生出力を測定した。市販LTOカートリッジの再生出力を0dBとした。
【0072】
2.走行耐久性
上記磁気テープサンプルを、LTO−IBMドライブで走行させ、300パスまでの走行停止パス回数と、走行後のドライブヘッドの汚れを目視により観察した。
【0073】
3.白波量測定
磁気テープサンプルの裁断側端面を顕微鏡で観察して、厚さt、およびX寸法を測定して白波量Sを演算により求めた。また、ベース突出量Yを測定した。
【0074】
試験結果
実施例および比較例の試験結果を、裁断に用いた回転上刃のしのぎ量Wと共に、表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、しのぎ量Wが0.01mm〜0.08mmの回転上刃を用いて裁断した各実施例(実施例1〜3)の磁気テープサンプルは、いずれも白波量Sが20%〜50%の範囲内であり、良好な端面形状であった。また、出力2.3dB以上、走行耐久性300パス以上であり、走行耐久性後のヘッド汚れもなく良好な結果であった。
【0077】
一方、しのぎ量Wが0.005mm、0.1mm、0.2mmの回転上刃を用いて裁断した各比較例(比較例1〜3)の磁気テープサンプルは、それぞれ白波量Sが10%、60%、80%であり、本発明の目標値である20%〜50%の範囲から外れている。また、出力は2.0dB、走行耐久性は300パスに達せず、走行耐久性後のヘッド汚れも見られた。
【0078】
また、しのぎ量W0.05mmの回転上刃を用いて裁断した比較例4の磁気テープサンプルは、白波量Sが25%、走行耐久性300パス以上であり、走行耐久性後のヘッド汚れもなかったが、出力が0dBと小さかった。さらに、比較例5の磁気テープサンプルは、しのぎ量W0.009mmの回転上刃を用いて裁断したため、白波量が15%と小さく、ベース突出量が0.5μmと大きくなり、ヘッド汚れが発生した。比較例6の磁気テープサンプルは、しのぎ量W0.15mmの回転上刃を用いて裁断したため、白波量が70%と大きくなり、走行耐久性後のヘッド汚れが発生した。比較例7の磁気テープサンプルは非磁性層支持体の幅方向のヤング率は8GPa未満であるため、実施例2と同じ白波量であるものの、エッジダメージを受け易く、耐久性が劣化し、ヘッド汚れが生じてしまった。従って、本発明の有効性が実証された。
【0079】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0080】
21 回転上刃
21a 裁断面
22 回転下刃
22a 裁断面
30 磁気記録媒体(磁気テープ)
30a 裁断側端面
31 非磁性支持体
32 非磁性層
33 磁性層
W しのぎ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層とを、この順に有する磁気記録媒体であって、
裁断後の前記磁気記録媒体の側面の白波量が、20%〜50%である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録媒体は、磁気テープである請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
幅方向のヤング率が8GPa以上の非磁性支持体上に、放射線硬化性化合物と非磁性粉末を結合剤中に分散させて放射線硬化させた非磁性層と、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性層とを、この順に有する磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、0.01mm〜0.08mmのしのぎ量を有する回転上刃との両刃先側面を合わせて摺動回転させながら、前記回転下刃と前記回転上刃との間に長尺の前記磁気記録媒体の原反を送り込んで、所定の幅に裁断する磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−259377(P2009−259377A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12784(P2009−12784)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】