説明

磁気記録媒体用ガラス基板及びその製造方法

【課題】磁気ディスクの破損を防止することができる磁気記録媒体用ガラス基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ドーナツ形状の磁気記録媒体用ガラス基板100は、主表面101a及び外周端面102を連接する面取り面104aを有する。面取り面104aは、互いに連接する環状曲面部104a’及び錐面部104a”から成る。ガラス基板100の中心軸106を含むガラス基板100の断面における面取り面104aの外形線200の長さLに対する環状曲面部104a’の外形線の長さd1の百分率比は20%以上である。環状曲面部104a’の曲率半径Rは0.10〜0.50mmである。また、主表面101aと錐面部104aとが成す角度θは136〜165°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク等の磁気記録媒体用基板としては、アルミニウム基板が広く用いられてきたが、ノートブック型やモバイル型のPC(パーソナルコンピュータ)の普及に伴い、磁気ディスクには薄板化、記録面の高密度化の他、使用環境の変化に対する耐久性の要求が高まって来た。この要求に対処するために、近年では、高い耐衝撃性、剛性及び硬度と、使用環境の変化に対する高い化学的耐久性とを有し、且つ記録面の高密度化に欠かせないヘッドの低浮上化を実現する平坦度を有するガラス基板が広く用いられている。
【0003】
一般に、ドーナツ状のガラス基板の内周端面及び外周端面の寸法を所定の寸法に調整する研削加工や、面取り面を所定の形状に加工する面取り加工等の機械的加工では、研削砥石に付着された砥粒がガラスを削り取ることにより所定の寸法や形状を実現する。
【0004】
砥粒がガラスを削り取るメカニズムは、回転する研削砥石に付着された砥粒が衝撃力によってガラス基板の表面にクラックを発生させ、且つ該クラックを成長させることにより、ガラス基板の表面から微量のガラスを剥離させるというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微量のガラスの剥離が不完全なときには、ガラス基板の表面に微小クラックが残存する。この微小クラックは、研削砥石によって加工されたガラス基板に、ガラス基板表面への成膜時に発生する熱衝撃や、ガラス基板を使用した磁気ディスクをHDD(Hard Disk Drive)に組込む時に発生する機械的衝撃や、磁気ディスクを組み込んだノートブック型やモバイル型のPCの使用環境の変化によって発生する機械的衝撃又は熱衝撃に基づく応力が全体に分散して発生するときには、殆ど成長しない一方、上記機械的衝撃又は熱衝撃に基づく応力が1個所に集中して発生し、且つ応力が集中して発生した個所が微小クラックの存在個所と一致したときには、かなりの早さで成長し、該成長した微小クラックはいわゆるクラックとなり、該クラックはガラス基板を使用する磁気ディスクを破損させる。
【0006】
この微小クラックの残存要因として、研削砥石に付着されたダイヤモンド砥粒の形状不良や粒度大、及び機械的加工の研削速度大等が挙げられる。
【0007】
また、機械的衝撃又は熱衝撃に基づく応力は、内周端面及び外周端面の一方と面取り面との境界部に集中し易く、この境界部は、その両側から研削砥石で加工されるため、微小クラックが残存し易い。
【0008】
さらに、主表面と面取り面の境界部では機械的研削加工時に主表面側でガラスの剥離によるチッピングと呼ばれる小さなカケが発生し易く、このガラスの剥離の発生要因としては、面取り面と主表面との角度が135°以下の鈍角であることが挙げられる。
【0009】
本発明の目的は、磁気記録媒体の破損を防止することができる磁気記録媒体用ガラス基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の磁気記録媒体用ガラス基板は、主表面、外周端面及び内周端面を有し、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方とを連接する面取り面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、前記面取り面は互いに連接する錐面部及び環状曲面部から成り、前記ガラス基板の中心軸を含む前記ガラス基板の断面における前記面取り面の外形線の長さに対する前記環状曲面部の外形線の長さの百分率比が30%以上であり、前記面取り面と前記主表面とが成す角度が136〜165°であることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載のガラス基板は、請求項1記載のガラス基板において、前記百分率比が50%以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載のガラス基板は、請求項1又は2記載のガラス基板において、前記環状曲面部の外形線の曲率半径が0.10〜0.35mmであることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載のガラス基板は、請求項3記載のガラス基板において、前記曲率半径が0.20〜0.35mmであることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載のガラス基板は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス基板において、前記面取り面と主表面とが成す角度が140〜155°であることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載のガラス基板は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガラス基板において、破壊応力に基づいて算出したワイブル定数が20.0以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載のガラス基板は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のガラス基板において、ガラス基板の表面層中のアルカリ成分をイオン半径がより大きいものに置き換える化学強化処理が施されていることを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するために、請求項8記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、主表面、外周端面及び内周端面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方との間の角部に面取り加工を施して、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板を形成する面取り加工工程を有することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の製造方法は、請求項8記載の製造方法において、前記面取り加工工程後、前記主表面を5μm以上研磨する主表面研磨工程と、前記外周端面及び前記内周端面を5μm以上研磨する端面研磨工程とを有することを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の製造方法は、請求項9記載の製造方法において、前記ガラス基板は、母ガラスがアルカリ酸化物成分としてLiO及びNaOのいずれか一方を含有するシリケートガラスから成り、前記製造方法は、前記主表面研磨工程後、前記主表面の表面層のアルカリ成分を前記アルカリ酸化物成分より大きなイオン半径を有するアルカリ成分に置換する化学強化処理工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載のガラス基板によれば、ガラス基板の中心軸を含むガラス基板の断面における面取り面の外形線の長さに対する環状曲面部の外形線の長さの百分率比が30%以上であり、面取り面と主表面とが成す角度が136〜165°であるので、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面及び内周端面の一方と面取り面との境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができる。また、研削砥石による面取り面加工時にガラス基板の振れを防止し、面取り面の幅の狭隘化を阻止して面取り面に発生する応力を分散すると共に、未研削部の発生を防止して面取り面から微小クラックを除去することができ、加えて、主表面と面取り面との境界部でのチッピングの発生を防止して、チッピング除去のための研磨加工における研磨量を削減し、もって製造コストを削減することができる。
【0021】
請求項2記載のガラス基板によれば、ガラス基板の中心軸を含むガラス基板の断面における面取り面の外形線の長さに対する環状曲面部の外形線の長さの百分率比が50%以上であるので、請求項1記載のガラス基板による効果をより確実に奏することができる。
【0022】
請求項3記載のガラス基板によれば、環状曲面部の外形線の曲率半径が0.10〜0.35mmであるので、環状曲面部を加工する研削砥石の曲率半径の下限の増大により研削砥石面の砥粒を均一に付着させることができ、もって砥粒の付着力の強化により研削砥石の交換寿命を長くすることができるのに加えて、上記曲率半径の上限の低減により錐面部と環状曲面部との境界部が不連続になるのを防止することができ、もって錐面部と環状曲面部との境界部に発生する応力を分散することができ、磁気ディスクの破損をより確実に防止することができる。
【0023】
請求項4記載のガラス基板によれば、請求項3記載のガラス基板による効果をより確実に奏することができる。
【0024】
請求項5記載のガラス基板によれば、面取り面と主表面とが成す角度が140〜155°であるので、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス基板による効果を確実に奏することができる。
【0025】
請求項6記載のガラス基板によれば、破壊応力に基づいて算出したワイブル定数が20.0以上であるので、磁気ディスクの破損を確実に防止できる。
【0026】
請求項7記載のガラス基板によれば、ガラス基板の表面層中のアルカリ成分をイオン半径がより大きいものに置き換える化学強化処理が施されているので、ガラス基板の強度を向上させることができる。
【0027】
請求項8記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方との間の角部に面取り加工を施して、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板を形成するので、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面及び内周端面の一方と面取り面との境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができる。
【0028】
請求項9記載の製造方法によれば、ガラス基板の面取り加工後、その主表面を5μm以上研磨し、外周端面及び内周端面を5μm以上研磨するので、微小クラックを確実に除去することができ、もって磁気ディスクの破損を確実に防止することができる。
【0029】
請求項10記載の製造方法によれば、母ガラスがアルカリ酸化物成分としてLiO及びNaOのいずれか一方を含有するシリケートガラスから成るガラス基板の主表面における表面層のアルカリ成分をアルカリ酸化物成分より大きなイオン半径を有するアルカリ成分に置換するので、ガラス基板の強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、主表面、外周端面及び内周端面を有し、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方とを連接する面取り面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、面取り面は互いに連接する錐面部及び環状曲面部から成り、ガラス基板の中心軸を含むガラス基板の断面における面取り面の外形線の長さに対する環状曲面部の外形線の長さの百分率比が20%以上、好ましくは50%以上であるときは、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面及び内周端面の一方と面取り面との境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができることを見出した。
【0031】
また、本発明者は、主表面、外周端面及び内周端面を有し、主表面と外周端面及び内周端面の一方とを連接する面取り面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、面取り面と主表面とが成す角度が136〜165°好ましくは140〜155°であるときは、研削砥石による面取り面加工時に磁気記録媒体用ガラス基板の振れを防止し、面取り面の幅の狭隘化を阻止して面取り面に発生する応力を分散すると共に、未研削部の発生を防止して面取り面から微小クラックを除去することができ、加えて、外周端面及び内周端面の一方と面取り面との境界部でのチッピングの発生を防止して、チッピング除去のための研磨加工における研磨量を削減し、もって製造コストを削減することができることを見出した。
【0032】
さらに、本発明者は、主表面、外周端面及び内周端面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方との間の角部に面取り加工を施して、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板を形成する面取り加工工程を有するとき、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面及び内周端面の一方と面取り面との境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができることを見出した。
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板について図面を参照して詳述する。
【0034】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の断面図である。
【0035】
図1において、ドーナツ形状の磁気記録媒体用ガラス基板100は、2つの主表面101a,101bと、外周端面102と、内周端面103と、主表面101a及び外周端面102を連接する面取り面104aと、主表面101b及び外周端面102を連接する面取り面104bと、主表面101a及び内周端面103を連接する面取り面105aと、主表面101b及び内周端面103を連接する面取り面105bとを有する。
【0036】
図2は、図1のガラス基板100の拡大断面図である。
【0037】
面取り面104aは、互いに連接する環状曲面部104a’及び錐面部104a”から成る。
【0038】
ガラス基板100の中心軸106を含むガラス基板100の断面における面取り面104aの外形線200の長さLに対する環状曲面部104a’の外形線の長さd1の百分率比(d1/L)は20%以上、好ましくは50%以上である。これにより、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面102と面取り面104aとの境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができる。
【0039】
また、環状曲面部104a’の曲率半径Rは0.10〜0.50mm、好ましくは、0.20〜0.35mmである。これにより、環状曲面部104a’を加工する研削砥石の曲率半径の下限の増大により研削砥石面の砥粒を均一に付着させることができ、もって砥粒の付着力の強化により研削砥石の交換寿命を長くすることができるのに加えて、上記曲率半径の上限の低減により錐面部104a”と環状曲面部104a’との境界部が不連続になるのを防止することができ、もって錐面部104a”と環状曲面部104a’との境界部に発生する応力を分散することができ、磁気ディスクの破損をより確実に防止することができる。
【0040】
また、主表面101aと錐面部104aとが成す角度θは136〜165°、好ましくは140〜155°である。これにより、研削砥石による面取り面加工時にガラス基板100の振れを防止し、面取り面104aの幅の狭隘化を阻止して面取り面104aに発生する応力を分散すると共に、未研削部の発生を防止して面取り面104aから微小クラックを除去することによって磁気ディスクの破損を防止することができ、加えて、主表面101aと面取り面104aとの境界部でのチッピングの発生を防止してチッピング除去のための研磨加工における研磨量を削減し、もって製造コストを削減することができる。
【0041】
角度θが135°以下であるときには、主表面101aと面取り面104aの境界部においてチッピングが発生し易くなる一方、角度θが165°以上であるときには、研削砥石とガラス基板100との位置決めのズレによってガラス基板100の振れが発生し、全般的には外周交線200及び内周交線の長さLが長くなるため、面取り面104aを研磨することによって微小クラックを除去する際に面取り面104aを全て研磨することができず、その結果、未研磨部に微小クラックが残留し易くなる。
【0042】
上記と同様のことが、面取り面104b,105a,105bにも云える。
【0043】
また、ガラス基板100は、その母ガラスが、アルカリ等への化学的耐久性や剛性を有するシリケートガラスや、シリケートガラスを熱処理により結晶化した結晶化ガラスから成る。
【0044】
シリケートガラスとしては、例えば、建築用の窓ガラスに用いられるソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、硼珪酸シリケートガラス、易化学強化ガラス等が例示できる。易化学強化ガラスは、硝酸カリウム溶融塩にガラスを接触させてガラス中のリチウム成分やナトリウム成分をイオン半径がより大きなカリウムイオンに交換したり、又はガラスを硝酸ナトリウム溶融塩に接触させてガラス中のリチウムイオンをイオン半径がより大きなナトリウムイオンに交換することにより、表面層(約50〜200μm)に圧縮応力を形成したものである。このようなガラスとしては、主成分として質量%でSiO2:60〜65%、Al2O3:10〜20%、MgO:0〜5%、CaO:0〜5%、Li2O:2〜10%、Na2O:5〜15%を含有するものが例示できる。また、結晶化ガラスは、SiO2、Al2O3、Li2O、MgO、P2O3、ZrO、CeO2、TiO2、Na2O、K2Oから選択された成分を主成分とするものが例示できる。
【0045】
結晶化ガラスとしては、特にその組成が限定されていないが、例えば質量%でSiO2:70〜80%、Al2O3:2〜8%、K2O:1〜7%、Li2O:5〜15%、P2O5:1〜5%を含有するものが例示できる。
【0046】
ガラス基板100は、フロートガラス製造法、ダウンドロー製造法、リドロー製造法によって成型された板状のガラス素材から研磨砥石によってドーナツ状に形成されてもよく、溶融されたガラスから上型及び下型を用いたダイレクトプレスによって直接ドーナツ状に形成されてもよい。研磨砥石によってドーナツ状に形成するときには、研磨砥石を用いて板状のガラス素材の外径を円形に形成し、その後、円筒状の砥石を用いて外径を円形に形成されたガラス素材の中央部分をくり抜くことによって形成してもよい。
【0047】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法について図面を参照して説明する。
【0048】
図3は、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造手順のフローチャートである。
【0049】
本手順は、上述した本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板を製造するものである。
【0050】
図3において、まず、フロートガラス製造法によって溶融金属上において板状に形成されたアルミノシリケートガラスのガラス組成を持つガラス素板を準備し、該準備されたガラス素板から超硬合金カッターを用いて外周と内周を同時に加工することによって、外径96mmφ、内径24mmφ及び厚み1.15mmのドーナツ状のガラス基板100を形成する(ステップS300)。
【0051】
次いで、後述する図4の研削砥石を用いた研削加工によって、ガラス基板100の外周端面102の寸法を95mmφに調整し、且つ内周端面103の寸法を25mmφに調整すると共に、主表面101a及び外周端面102を連接する面取り面104aと、主表面101b及び外周端面102を連接する面取り面104bと、主表面101a及び内周端面103を連接する面取り面105aと、主表面101b及び内周端面103を連接する面取り面105bとを形成する。このとき、面取り面104a,104b,105a,105bの各々と、外周端面102及び内周端面103のいずれか一方との交差個所に存在する環状曲面部104a’の曲率半径Rを0.2mmに調整し、角度θを155°に調整する(ステップS301)。
【0052】
図4は、図3のステップS301において使用される研削砥石を示す図である。
【0053】
図4において、研削砥石は、外周端面102の寸法を調整する外周端面研削用砥石400と、内周端面103の寸法を調整する内周端面研削用砥石401とによって構成される。
【0054】
外周端面研削用砥石400は、回転軸402と、砥石群404とで構成される。砥石群404は、その外径部に外周端面102及び面取り面104a,104bの形状が相補された形状の加工溝を有する環状の砥石403が所定数だけ積層されたものである。外周端面研削用砥石400は、回転軸402を中心に回転すると共に、加工溝を介して外周端面102と接触することによってガラス基板100の外周端面102の寸法を調整し、且つ面取り面104a,104bを所定の形状に形成する。
【0055】
また、内周端面研削用砥石401も、回転軸405と、砥石群407とで構成される。砥石群407は、その外径部に内周端面103及び面取り面105a,105bの形状が相補された形状の加工溝を有する砥石406が所定数だけ積層されたものである。内周端面研削用砥石401は、回転軸405を中心に回転すると共に、加工溝を介して内周端面103と接触することによってガラス基板100の内周端面103の寸法を調整し、且つ面取り面105a,105bを所定の形状に形成する。また、砥石403,406の加工溝の表面にはダイヤモンド砥粒が付着されている。
【0056】
図3に戻り、ガラス基板100の複数を、任意のガラス基板100の主表面101aと他のガラス基板100の主表面101bが接触するように積層して回転させ、該積層されたガラス基板100に研磨剤を水溶させたスラリーを掛けると共に、積層されたガラス基板100の外周端面102、内周端面103、及び面取り面104a,104b,105a,105bを5μm以上研磨ブラシによって研磨する(ステップS302)。
【0057】
続くステップS303では、ガラス基板100に粒度#1000の研磨材を用いてガラス基板100の上下の両主表面101a,101bをラッピングする。このとき、ガラス基板100の両主表面101a,101b等に残留した研磨材は、以下に説明するステップS304の第1研磨工程(主表面研磨工程)において、両主表面101a,101bのキズ等の要因となるため、ラッピングが終了した後に、ガラス基板100の全ての面を酸性又はアルカリ性の水溶液で洗浄する。
【0058】
次いで、酸化セリウムの懸濁液等の微粒研磨剤を用いて、ステップS304の第1研磨工程では、ステップS303のラッピングで発生した両主表面101a,101bのキズを除去し、続くステップS305の第2研磨工程(主表面研磨工程)では、精密研磨することによってガラス基板100の厚みを1.0mmに調整すると共に、両主表面101a,101bを滑面化する。ステップS304及びステップS305における研磨される厚みは合計すると5μm以上であり、その後、両主表面101a,101bを酸性又はアルカリ性の水溶液によって洗浄する。
【0059】
上記両主表面101a,101bが洗浄されたガラス基板100は、磁気ディスク高速回転時等の強度をより確実に確保すべく化学強化処理によりさらに強化され、温水、又はアルカリ洗浄水若しくは純水により洗浄され、本処理を終了する(ステップS306)。
【0060】
この化学強化処理は、ガラス基板100の表面層中のアルカリ成分をイオン半径がより大きいものに置き換えるものである。具体的には、400〜450℃の硝酸カリウム(KNO3)と硝酸ナトリウム(NaNo3)の溶融塩にガラス基板100を2〜5時間浸漬することにより、ガラス基板100の表面層中のナトリウムイオンをカリウムイオンに、リチウムイオンをナトリウムイオン上に置換して、ガラス基板100の強度を向上させるものである。
【0061】
図3の手順によれば、機械的衝撃又は熱衝撃によって外周端面102及び内周端面103の1つと面取り面104a,104b,105a,105bの1つとの境界部に発生する応力を分散することができ、もって磁気記録媒体の破損を防止することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0063】
まず、図3の手順をステップS302まで実行し、表1に示す10種類の磁気記録媒体用ガラス基板のテストピースを作製した(実施例1〜9、比較例1)。
【0064】
【表1】

【0065】
その後、これら10種類のテストピースの各々について、(株)島津製作所製強度試験器(商品名:AUTOGRAPH)(図5)を用いて破壊応力を測定し、該測定した破壊応力に基づいてワイブル定数を算出した。
【0066】
図5は、本発明の実施例で使用した強度試験器の概略構成を示す側面図である。
【0067】
図5において、テストピース500を鋼鉄製の置き台501上にセットし、該セットされたテストピース500の上に鋼鉄製のリング502をセットした。その後、置き台501とリング502との相対変位速度を0.5mm/分に調整して置き台501及びリング502を介してテストピース500に加圧し、テストピース500が破壊したときの荷重をロードセル503で検出した。
【0068】
以上の破壊荷重の検出を各種テストピース500毎に100回行い、検出した破壊荷重を破壊応力データに換算し、100回分の破壊応力データに基づいてワイブル定数を算出した。
【0069】
また、磁気ディスクの面記録密度が7ギガビット/平方インチとなる膜を各種テストピース500毎に10000枚ずつ成膜し、10000枚の成膜されたテストピース500のうち破損した枚数を成膜時破損率として集計した。
【0070】
さらに、主表面101a,101bの1つと面取り面104a,104b,105a,105bの1つとの境界部に発生するチッピングの発生確率をチッピング不良率として算出した。
【0071】
これらのワイブル定数、成膜時破損率及びチッピング不良率も上記表1に示されている。
【0072】
上記表1から明らかなように、比較例1は、外形線200の長さLに対する環状曲面部104a’の長さd1の百分率比が17%と小さい、即ち、外周端面102と面取り面104a,104bとの境界部に応力が集中し易いので、定数値が小さいほど強度信頼性が低いことを表すワイブル定数は15.2であって、成膜時破損率は5/10000と高い値を示した一方、実施例9は環状曲面部104a’の百分比率が30%と大きい、即ち、外周端面102と面取り面104a,104bとの境界部に応力が集中し難いので、ワイブル定数は20.0であって、成膜時破損率は2/10000と強度信頼性を満足する値を示した。さらに、実施例5は環状曲面部104a’の百分比率が56%とより大きい、即ち、外周端面102と面取り面104a,104bとの境界部に応力がより集中し難いので、ワイブル定数は22.0であって、成膜時破損率は1/10000と、より強度信頼性を満足する値を示した。これにより、環状曲面部104a’の百分比率は30%以上、好ましくは50%以上であれば、磁気ディスクの破損を確実に防止できることを確認できた。
【0073】
また、上記表1から明らかなように、比較例1は環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.05mmと小さい、即ち、環状曲面部104a’に応力が集中し易いので、ワイブル定数は15.2であって、成膜時破損率は5/10000と高い値を示した一方、実施例4は環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.10mmと大きい、即ち、環状曲面部104a’に応力が集中し難いので、ワイブル定数は20.0であって、成膜時破損率は2/10000と強度信頼性を満足する値を示した。さらに、実施例7は環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.20mmとより大きい、即ち、環状曲面部104a’に応力がより集中し難いので、ワイブル定数は21.8であって、成膜時破損率は1/10000と、より強度信頼性を満足する値を示した。これにより、環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.10mm以上であれば、磁気ディスクの破損を防止でき、好ましくは、0.20mm以上であれば、磁気ディスクの破損を確実に防止できることを確認できた。
【0074】
さらに、上記表1から明らかなように、実施例2は環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.35mmと小さい、即ち、環状曲面部104a’に応力がより集中し難いので、ワイブル定数は21.5であって、成膜時破損率は1/10000と、強度信頼性を満足する値を示した。これにより、環状曲面部104a’の曲率半径Rが0.50mm以下、好ましくは0.35mm以下であれば、磁気ディスクの破損を確実に防止できることを確認できた。
【0075】
また、上記表1から明らかなように、実施例6は角度θが165°と小さい、即ち、ガラス基板100の振れに基づいて面取り面の幅が狭くなる部分(以下「狭隘部」という。)が発生し難いので、ワイブル定数は20.0であって、成膜時破損率は2/10000と強度信頼性を満足する値を示した。さらに、実施例3は角度θが155°とより小さい、即ち、狭隘部がより発生し難いので、ワイブル定数は20.8であって、成膜時破損率は1/10000と、より強度信頼性を満足する値を示した。これにより、角度θが165°以下、好ましくは155°以下であれば、磁気ディスクの破損を確実に防止できることを確認できた。
【0076】
また、上記表1から明らかなように、比較例1は角度θが135°と小さいので、チッピング不良率は3.0%と高い値を示した一方、実施例5は角度θが136°であるので、チッピング不良率は1.0%を示した。さらに、実施例7は角度θが140°であるので、チッピング不良率は0.8%を示した。これにより、角度θが136°以上であれば、製造コストを削減することができ、好ましくは、140°以上であれば、製造コストをより削減することができることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の断面図である。
【図2】図1の磁気記録媒体用ガラス基板100の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造手順のフローチャートである。
【図4】図3のステップS301において使用される研削砥石を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例で使用した強度試験器の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0078】
100 磁気記録媒体用ガラス基板
101 主表面
102 外周端面
103 内周端面
104a,104b,105a,105b 面取り面
104a’ 環状曲面部
104a” 錐面部
200 外形線
400 外周端面研削用砥石
401 内周端面研削用砥石
402,405 回転軸
403,406 砥石
404,407 砥石群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面、外周端面及び内周端面を有し、前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方とを連接する面取り面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板において、
前記面取り面は互いに連接する錐面部及び環状曲面部から成り、前記ガラス基板の中心軸を含む前記ガラス基板の断面における前記面取り面の外形線の長さに対する前記環状曲面部の外形線の長さの百分率比が30%以上であり、
前記面取り面と前記主表面とが成す角度が136〜165°であること
を特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項2】
前記百分率比が50%以上であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
前記環状曲面部の外形線の曲率半径が0.10〜0.35mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
前記曲率半径が0.20〜0.35mmであることを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項5】
前記面取り面と前記主表面とが成す角度が140〜155°であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項6】
破壊応力に基づいて算出したワイブル定数が20.0以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項7】
ガラス基板の表面層中のアルカリ成分をイオン半径がより大きいものに置き換える化学強化処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項8】
主表面、外周端面及び内周端面を有するドーナツ状の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、
前記主表面と前記外周端面及び内周端面の一方との間の角部に面取り加工を施して、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板を形成する面取り加工工程を有することを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記面取り加工工程後、前記主表面を5μm以上研磨する主表面研磨工程と、前記外周端面及び前記内周端面を5μm以上研磨する端面研磨工程とを有することを特徴とする請求項8記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス基板は、母ガラスがアルカリ酸化物成分としてLiO及びNaOのいずれか一方を含有するシリケートガラスから成り、前記製造方法は、前記主表面研磨工程後、前記主表面の表面層のアルカリ成分を前記アルカリ酸化物成分より大きなイオン半径を有するアルカリ成分に置換する化学強化処理工程を有することを特徴とする請求項9記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−282539(P2008−282539A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215300(P2008−215300)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【分割の表示】特願2001−143534(P2001−143534)の分割
【原出願日】平成13年5月14日(2001.5.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】