説明

磁気記録媒体用ガラス基板

【課題】機械的特性に優れ、かつ主平面の表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を提供する。
【解決手段】この磁気記録媒体用ガラス基板は、ヤング率が68GPa以上で比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスからなり、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体、特に磁気ディスク装置においては、急激な高記録密度化が進んでいる。磁気ディスク装置では、磁気ヘッドを高速回転する記録媒体(ディスク)上に僅かに浮上させて走査することによってランダムアクセスを実現しており、高記録密度と高速アクセスを両立させるために、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔(ヘッド浮上量)を小さくすること、および磁気ディスクの回転数を上げることが求められる。磁気ディスクの基材は、従来アルミニウム(Al)にニッケル−リン(Ni−P)メッキを施した基板が主流であったが、高剛性で高速回転させても変形しにくく、表面の平滑性が高いガラス基板が使われるようになってきている。
【0003】
高速回転時の振動特性や強度を改善するためには、ヤング率、比弾性率、密度、熱膨張率、傷つきにくさ、破壊靭性などの諸特性を考慮し、適切なガラス組成のガラス基板を用いる必要がある。前記特性を実現するには、SiO−Al系のアルミノシリケートガラスが好適であることが知られている。特に、Alは、ガラスの骨格を形成する成分であり、ヤング率や比弾性率、破壊靭性等の機械的特性の向上に有効な必須成分である。
【0004】
前記した磁気ディスク装置における高記録密度化に伴い、磁気記録媒体用のガラス基板に対する要求特性は年々厳しくなっている。そして、高記録密度の達成のために、磁気ヘッドの浮上量を小さくする、ガラス基板の主平面の面積を有効活用するべく、磁気ヘッドをガラス基板の端部まで通過させる、などの検討が行われている。
【0005】
磁気ヘッドの浮上量を小さくする場合、磁気ディスクの主平面が平滑な面でないと、磁気ヘッドが接触して障害が生じるおそれがある。また、磁気ディスクの主平面の表面粗さが大きく磁気ヘッドとの距離が変動すると、リード・ライトの信頼性が低下するという問題がある。
【0006】
磁気記録媒体用ガラス基板の製造において、ガラス基板の主平面を平滑な鏡面に仕上げるために、研磨液と研磨パッドとを用いた研磨が行われている。特に、アルミノシリケートガラスからなる基板の主平面の研磨では、砥粒であるコロイド状のシリカ粒子(コロイダルシリカ)を含む酸性(pH1〜3)の研磨液を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、pHが1〜3の強酸性の研磨液を用いて研磨を行う前記方法では、アルミノシリケートガラス基板の表層のAl、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物等の成分が、酸によってイオン化して浸出(リーチング)される結果、表面粗さが大きくなり、面内が均一で平滑性の高い主平面を研磨により得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−257810号公報
【特許文献2】特開2011−704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、ヤング率や比弾性率、破壊靭性等の機械的特性に優れたアルミノシリケートガラスからなるガラス基板の主平面を研磨し、表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、ヤング率が68GPa以上で比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスからなり、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板は、酸化物換算で、SiOを55〜75モル%、Alを5〜17モル%、Bを0〜15モル%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜27モル%、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜20モル%含有するアルミノシリケートガラスからなり、かつ前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガラス基板の主平面の研磨工程において、安定した十分に高い研磨速度が達成されるうえに、ガラス基板の表層のAl、アルカリ金属およびアルカリ土類金属等の成分がイオンとなって浸出(リーチング)されることが抑制され、機械的特性に優れかつ表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製造される磁気記録媒体用ガラス基板の断面斜視図である。
【図2】製造方法における主平面研磨工程に使用される両面研磨装置の概略を示す一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下に記載される実施形態に限定されない。
【0015】
<磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法>
第1の実施の形態は、ガラス素板を中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する形状付与工程と、前記ガラス基板の主平面を研磨する研磨工程と、前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程とを有する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法である。そして、前記ガラス基板は、ヤング率が68GPa以上で比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスからなる基板であって、前記研磨工程は、一次粒子の平均粒子径が1〜80nmのシリカ粒子を含有し、pHが3.5〜5.5で電気伝導率が7mS/cm以下の研磨液を用いて前記ガラス基板の主平面を研磨する仕上げ研磨工程を有する。
【0016】
第1の実施形態における研磨対象としてのガラス基板は、ヤング率が68GPa以上であり、かつヤング率を密度で除した値である比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスにより構成されている。アルミノシリケートガラスは、ケイ素酸化物とアルミニウム酸化物を主成分として含有するガラスであり、ヤング率、比弾性率、破壊靭性などの機械的特性に優れている。また、耐熱性、耐薬品性が良好であり、洗浄処理等で化学薬液に曝されても、研磨後のガラス基板の表面が過度に荒らされるおそれが少ない。
【0017】
第1の実施形態において、ガラス基板を構成するアルミノシリケートガラスは、酸化物換算で、SiOを55〜75モル%、Alを5〜17モル%、Bを0〜15モル%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜27モル%、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜20モル%含有する。
なお、本明細書においては、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属酸化物を、ROと表すことがある。また、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上の酸化物を、R´Oと表すことがある。そして、各酸化物の化学式は、その酸化物のモル%表記での含有量を表すことがあるものとする。
【0018】
このようなアルミノシリケートガラスの組成において、SiO含有量とAl含有量との差、すなわち(SiO−Al)は62モル%以下であることが好ましい。また、SiO含有量と、Al含有量と、B含有量と、ROの含有量の合計と、R´Oの含有量の合計との総計、すなわち(SiO+Al+B+RO+R´O)は90モル%以上であることが好ましい。
【0019】
また、アルカリ金属酸化物であるROを必須成分とし、以下の組成とすることもできる。すなわち、アルミノシリケートガラスの組成を、酸化物換算で、SiOを55〜75モル%、Alを5〜17モル%、Bを0〜8モル%、ROを合計で4〜27モル%、R´Oを合計で0〜20モル%含有し、(SiO−Al)が62モル%以下で、かつ(SiO+Al+RO+R´O)が90モル%以上とすることができる。このようなROを必須成分とするアルミノシリケートガラスを、アルカリアルミノシリケートガラスということもある。
【0020】
上記組成を有するアルミノシリケートガラスにおいて、SiOはガラスの骨格を形成する成分であり、必須成分である。SiOの含有量が55モル%未満では、ガラスの密度が大きくなる、ガラスにキズが付きやすくなる、失透温度が上昇しガラスが不安定になる、耐酸性が大きく低下する、などの問題がある。SiOの含有量は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは61モル%以上、さらに好ましくは62モル%以上、特に好ましくは63モル%以上、最も好ましくは64モル%以上である。SiOの含有量が75モル%を超えると、ガラスのヤング率および比弾性率が低くなるばかりでなく、粘性が高くなりすぎてガラスの溶融が困難になる、などの問題がある。SiOの含有量は、好ましくは71モル%以下、より好ましくは70モル%以下、特に好ましくは68モル%以下である。ガラスの耐酸性については、SiOの含有量が63モル%未満になると、耐酸性が低下して好ましくない。
【0021】
Alは、ガラスの骨格を形成し、ヤング率や比弾性率、破壊靭性を高くする成分であり、必須成分である。Alの含有量が5モル%未満では、ヤング率や比弾性率が低くなるばかりでなく、破壊靭性が低くなる。Alの含有量は、好ましくは6モル%以上、より好ましくは7モル%以上、特に好ましくは8モル%以上である。Alの含有量が17モル%を超えると、粘性が高くなりすぎてガラスの溶融が困難になる、耐酸性が低下する、などの問題がある。Alの含有量は、好ましくは15モル%以下、より好ましくは14モル%以下である。耐酸性については、Alの含有量が12.5モル%を超えると、耐酸性が低下して好ましくない。
【0022】
上記の通り、SiOの含有量が少なくAlの含有量が多いと耐酸性は低くなるので、(SiO−Al)の値が小さくなると、アルミノシリケートガラスの耐酸性は顕著に低下することになる。一方、ヤング率や比弾性率、破壊靭性などの機械的特性を向上させるには、Alの含有量が多いことが有効であり、機械的特性に優れたガラスは耐酸性が低い傾向にある。
【0023】
実施形態においては、SiOおよびAlを含めた各成分の含有量が所定の範囲に特定されたアルミノシリケートガラスからなるガラス基板を使用し、一次粒子の平均粒子直径が1〜80nmのシリカ粒子を含有し、pHが3.5〜5.5で電気伝導率が7mS/cm以下に調整された研磨液を使用して主平面の研磨を行うことで、機械的特性に優れ、かつ表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることが可能となる。(SiO−Al)が62モル%超では、前記研磨プロセスを適用しても効果が現れにくい。(SiO−Al)は、48モル%以上59モル%以下がより好ましい。
【0024】
前記組成を有するアルミノシリケートガラスにおいて、アルカリ金属酸化物であるRO(LiO、NaOおよびKO)は、ガラスの溶融性を改善する成分である。このようなROの含有量の合計は、0〜27モル%の範囲とする。ROを必須成分とするアルカリアルミノシリケートガラスにおいては、ROの含有量の合計を4〜27モル%とすることが好ましい。ROの含有量の合計が4モル%未満では、ガラスの溶融性を改善する効果が小さくなる。ROの含有量の合計は、好ましくは13モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは16モル%以上、特に好ましくは17モル%以上、最も好ましくは18モル%以上である。ただし、ROの含有量の合計が27モル%を超えると、ヤング率や比弾性率が低くなる、破壊靭性が低くなる、水分との反応でアルカリが溶出しやすくなる、などの問題が生じる。したがって、ROの含有量の合計は、好ましくは25モル%以下、より好ましくは24モル%以下、特に好ましくは22モル%以下である。
【0025】
なお、上記ROの中でも特にLiOは、ヤング率や比弾性率、破壊靭性を高くする効果が大きいため、5モル%以上含有させることが好ましい。LiOの含有量は、好ましくは7モル%以上、最も好ましくは8%以上である。
【0026】
は、必須成分ではないが、ガラスの溶融性を改善し、密度を小さくする、ガラスを傷つきにくくする、などの効果を有する。このようなBの含有量は、ROを必須成分としないアルミノシリケートガラスにおいては、0〜15モル%とし、ROを必須成分とするアルカリアルミノシリケートガラスにおいては、0〜8モル%とする。
【0027】
アルカリ土類金属の酸化物であるR´O(MgO、CaO、SrOおよびBaO)は、いずれも必須ではないが、ガラスの溶融性を改善し、熱膨張係数を大きくする成分である。このアルミノシリケートガラスにおいては、R´Oを合計で20モル%までの範囲で含有してもよい。R´Oの含有量の合計が20モル%超では、密度が大きくなるばかりでなく、ガラスが傷つきやすくなる。R´Oの含有量の合計は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは6モル%以下、最も好ましくは4モル%以下である。
【0028】
さらに、実施形態のガラス基板を構成するアルミノシリケートガラスにおいては、ヤング率、比弾性率、密度、熱膨張係数、傷つきにくさや破壊靭性といった機械的特性を高めるために、(SiO+Al+B+RO+R´O)の値を90モル%以上とすることが好ましい。(SiO+Al+B+RO+R´O)が90モル%未満では、前記した機械的特性を高める効果が小さくなる。(SiO+Al+B+RO+R´O)は好ましくは93モル%以上、より好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上である。
【0029】
このアルミノシリケートガラスは、実質的に前記各成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。例えば、TiO、ZrO、Y、Nb、Ta、Laは,ヤング率や比弾性率、破壊靭性を高くする効果がある。これらの1種または2種以上を含有する場合、含有量の合計は7モル%以下が好ましい。7モル%を超えると、密度が大きくなるばかりでなく、ガラスが傷つきやすくなる。前記成分の含有量の合計は、より好ましくは5モル%未満、特に好ましくは4モル%未満、最も好ましくは3モル%未満である。さらに、SO、Cl、As、Sb、SnO、CeOの各成分は、ガラスを清澄する効果がある。これらのいずれか1種以上を含有する場合、含有量の合計は2モル%以下が好ましい。
【0030】
上記組成を有するアルミノシリケートガラスからなるガラス基板は、ヤング率や比弾性率、密度、熱膨張係数、傷つきにくさ、破壊靭性などの、ガラス基板として要求される諸特性に優れている。
【0031】
実施形態において、前記アルミノシリケートガラスのヤング率は68GPa以上であり、かつヤング率を密度で除した値である比弾性率(ヤング率/密度)は、27MNm/kg以上である。アルミノシリケートガラスのヤング率が68GPa未満であるか、あるいは比弾性率が27GPa未満である場合には、磁気ディスクのドライブ回転時にガラス基板に反りやたわみが発生しやすく、高記録密度の情報記録媒体を得ることが困難になる。ガラスのヤング率は、好ましくは72GPa以上であり、さらに好ましくは77GPa以上であり、特に好ましくは80GPa以上である。比弾性率は、好ましくは30GPa以上であり、さらに好ましくは31GPa以上であり、特に好ましくは33GPa以上である。
【0032】
また、アルミノシリケートガラスの密度は2.60g/cm以下であることが好ましい。密度が2.60g/cmを超えると、磁気ディスクのドライブ回転時にモーターに負荷がかかり、消費電力が大きくなるばかりでなくドライブ回転が不安定になるおそれがある。アルミノシリケートガラスの密度は、より好ましくは2.55g/cm以下、特に好ましくは2.53g/cm以下、最も好ましくは2.52g/cm以下である。
【0033】
磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、このようなアルミノシリケートガラスからなるガラス素板を、中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する形状付与工程と、円盤形状に加工されたガラス基の主平面を研磨する研磨工程と、研磨後のガラス基板を洗浄する洗浄工程とを有する。
【0034】
実施形態により製造される磁気記録媒体用ガラス基板の一例を、図1に示す。図1に示す磁気記録媒体用ガラス基板10は、中央部に円形の貫通孔(以下、円孔という。)11を有する円盤形状を有し、円孔11の内壁面である内周側面101と、外周側面102、および上下1対の主平面103からなる円盤形状を有している。そして、内周側面101および外周側面102と上下両方の主平面103との交差部に、それぞれ面取り部104(内周面取り部および外周面取り部)が形成されている。
【0035】
前記組成のアルミノシリケートガラスからなるガラス素板を製造する方法は、特に限定されず、各種方法を適用することができる。例えば、通常使用される各成分の原料を所望の組成となるように調合し、これをガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、公知のフロート法、プレス法、フュージョン法またダウンドロー法等の方法により所定の厚さの板状に成形する。そして、徐冷後、必要に応じて研削、研磨等の加工を行い、所定の寸法・形状のガラス素板とする。成形法としては、特に大量生産に適したフロート法が好適である。また、フロート法以外の連続成形法、すなわちフュージョン法、ダウンドロー法も行うことができる。
【0036】
こうして得られたガラス素板から磁気記録媒体用ガラス基板を製造する方法は、以下の工程を含む。
(1)形状付与工程
前記製造方法で得られたガラス素板を、中央部に円孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面の面取り加工を行う。
(2)主平面研削工程
ガラス基板の上下両主平面に、遊離砥粒または固定砥粒工具を用いて研削(ラッピング)加工を行う。
(3)端面研磨工程
ガラス基板の内周側面と内周面取り部とを合わせた内周端面、および外周側面と外周面取り部とを合わせた外周端面の研磨を行う。
(4)主平面研磨工程
ガラス基板の上下両主平面を研磨する。主平面の研磨工程は、一次研磨のみでもよく、一次研磨と二次研磨を行ってもよい。二次研磨の後にさらに三次研磨を行ってもよい。なお、主平面研磨工程において、最後に行う研磨工程を仕上げ研磨工程という。
(5)洗浄工程
ガラス基板の精密洗浄を行い、磁気記録媒体用ガラス基板を製造する。なお、こうして製造された磁気記録媒体用ガラス基板の上に磁性層等の薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【0037】
このような磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、各工程間にガラス基板の洗浄(工程間洗浄)やガラス基板表面のエッチング(工程間エッチング)を実施してもよい。また、主平面の研削(ラッピング)工程を粗ラッピング工程と精ラッピング工程とに分け、それらの間に形状付与工程あるいは端面研磨工程を設けてもよい。また、端面の研磨工程では、円盤形状のガラス基板の複数枚を積層して、それらの内周端面に対して、砥粒を用いたブラシ研磨を一括して行ってもよい。さらに、磁気記録媒体用ガラス基板に高い機械的強度が求められる場合には、ガラス基板の表層に強化層を形成する強化工程(例えば、化学強化工程)を、研磨工程前または研磨工程後、あるいは研磨工程間で実施してもよい。
【0038】
実施形態では、前記主平面研磨工程、より詳細には磁気記録媒体用ガラス基板の主平面の仕上げ研磨工程において、一次粒子の平均粒子径(以下、平均一次粒子径と示す。)が1〜80nmのシリカ粒子を配合し、pHが3.5〜5.5で電気伝導率が7mS/cm以下の研磨液と、例えば軟質発泡ウレタン樹脂のような軟質の発泡樹脂からなる研磨パッドを用いて研磨を行う。
【0039】
研磨液は、砥粒として平均一次粒子径が1〜80nmのシリカ粒子を含有する。含有されるシリカ粒子の平均一次粒子径が1nm未満の場合には、研磨速度が低くなりすぎる。シリカ粒子の平均一次粒子径が80nmを超える場合には、研磨により得られる主平面の表面粗さが大きくなり、平滑な主平面とすることが難しくなる。配合されるシリカ粒子の平均一次粒子径は、1〜60nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲がさらに好ましく、1〜40nmの範囲が特に好ましい。なお、この平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布計、動的光散乱方式の粒度分布測定装置、または電子顕微鏡を用いて測定された値である。
【0040】
研磨液に含有されるシリカ粒子は、前記研磨液中において、一部が凝集粒子(二次あるいは三次粒子)として存在する。研磨液中のシリカ粒子の平均粒子径は、動的光散乱方式の粒度分布測定機(例えば、日機装株式会社製、製品名:UPA-EX150)を用いて測定することができるが、こうして測定されたシリカ粒子の平均粒子径(D50)は、一次粒子径と二次以上の粒子径を測定したものとなる。こうして測定される研磨液中のシリカ粒子の平均粒子径(D50)は、10〜40nmの範囲であることが好ましい。なお、D50は、体積基準累積50%粒径である。すなわち、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、累積値が50%となる点の粒径である。
【0041】
研磨液には、シリカ粒子の分散媒として水が含有される。水については特に制限はないが、後述する他の成分に対する影響、不純物の混入、pH等への影響の少なさの点から、純水、超純水、イオン交換水等を使用することが好ましい。そして、研磨液におけるシリカ粒子の含有割合(濃度)は、3〜30質量%とすることが好ましい。シリカ粒子の含有割合が3質量%未満の場合には、十分な研磨速度を得ることが難しい。また、含有割合が30質量%を超えると、後述する有機酸および無機アルカリの配合により研磨液のpHを3.5〜5.5の範囲に調整した際に、シリカ粒子が凝集しやすくなる。シリカ粒子の含有割合は、5〜25質量%がより好ましく、7〜20質量%がさらに好ましく、10〜18質量%が特に好ましい。
【0042】
実施形態で使用する研磨液においては、pHを3.5〜5.5の範囲とするとともに、電気伝導率を7mS/cm以下とする。
【0043】
研磨液のpHを3.5〜5.5とすることにより、前記アルミノシリケートガラスからなる基板に対して十分な研磨速度を達成することができるうえに、ガラス基板の表層のAl成分(Al)等の浸出(リーチング)が抑制され、機械的特性に優れかつ表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。pH3.5未満の研磨液を用いた場合には、ガラス基板の表層のAl、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物等の成分が、酸によってイオン化して浸出(リーチング)される結果、表面粗さとその面内均一性が低下する。pH5.5を超える研磨液を使用した場合には、研磨速度が低くなり、十分な生産性を上げることができない。特にpH9以上の研磨液を使用した場合は、アルカリ性の研磨液によりガラス基板の表面がエッチングされ、表面粗さが低下するばかりでなく、表面に異物欠陥が発生するおそれがある。研磨液のpHは3.8〜5.3の範囲がより好ましく、4.0〜5.0の範囲がさらに好ましい。
【0044】
前記pH3.5〜5.5の研磨液は、pH値が変動しやすく、安定した研磨速度でガラス基板を研磨することが難しい。そこで、pH3.5〜5.5の範囲でpH値が変動することを抑えるために、研磨液を調製する際に有機酸と無機アルカリを配合することが好ましい。有機酸と無機アルカリとを配合することで、pH緩衝作用によって研磨液のpHを3.5〜5.5の範囲に安定して保つことができる。そして、研磨速度の変動を抑制し、安定して高い研磨速度を維持することができるうえに、ガラス基板の表面の異物の増加を防止することができる。
【0045】
しかし、有機酸と無機アルカリとを過剰に配合して調製されたpH緩衝作用を有するpH3.5〜5.5の研磨液中では、シリカ粒子が凝集しやすい。そして、シリカ粒子の凝集が進行した研磨液を使用した場合は、研磨速度の低下や研磨キズの発生、ガラス基板の表面異物の増加等が生じやすくなる。そのため、実施形態で使用される研磨液では、電気伝導率を7mS/cm以下に調整し、シリカ粒子の凝集を抑制する。それにより、安定して高い研磨速度が維持されるうえに、研磨キズの発生や表面異物の増加等が生じず、研磨液の循環使用も可能となる。研磨液の電気伝導率は、6mS/cm以下が好ましく、2〜5.4mS/cmが特に好ましい。
【0046】
有機酸としては、アスコルビン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸およびフタル酸等を挙げることができる。また、有機酸としては、カルボン酸基を有するカルボン酸を好ましく使用することができる。カルボン酸基を2以上有する2価以上の多価カルボン酸がより好ましい。2価以上の多価カルボン酸は、錯形成作用により、研磨速度を向上させるとともに、砥粒の凝集を抑制して研磨キズの発生を抑える働きをする。すなわち、2価以上の多価カルボン酸は、ガラスの研磨の際に発生する金属イオンを捕捉して錯体(キレート)を形成することで、研磨速度の上昇に寄与するとともに、シリカ粒子の凝集を抑制する働きをする。
2価以上の多価カルボン酸として具体的には、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸およびフタル酸等が挙げられる。特に、クエン酸が好ましい。
【0047】
研磨液に配合される無機アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。特に、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0048】
なお、これらの有機酸および無機アルカリは、研磨液の調製の際に前記した酸またはアルカリを溶解して研磨液に含有されるものであり、使用の際の研磨液中には、必ずしも有機酸および無機アルカリのかたちで含有されているわけではなく、一部が電解したイオンの形で含有されている。また、前記有機酸および無機アルカリとともに、これらの有機酸と無機アルカリの反応により得られる塩を添加して、研磨液を調整することも可能である。また、前記有機酸と無機アルカリの反応により得られる塩と無機アルカリ、前記有機酸と無機アルカリの反応により得られる塩と有機酸を配合して研磨液を調整することも可能である。
【0049】
以上の各成分を配合してなる研磨液には、砥粒であるシリカ粒子の分散剤を含有させてもよい。分散剤としては、陰イオン性、陽イオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤や界面活性作用のある水溶性ポリマーを使用できる。
【0050】
製造方法における主平面研磨工程に使用される研磨装置の一例を図2に示す。この研磨装置20は、上下に対向して配置された上定盤201と下定盤202、およびこれらの間に配設されたキャリア30を有する両面研磨装置である。キャリア30は、その保持部に複数枚のガラス基板10を保持している。上定盤201と下定盤202のガラス基板10と対向する面には、それぞれ樹脂等からなる研磨パッド40、50が装着されている。研磨パッドとしては、軟質または硬質の発泡樹脂からなるものが好ましく、特に軟質発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドが好ましい。なお、研磨パッドの研磨面は、研磨対象物であるガラス基板10に接する面をいう。
【0051】
ガラス基板10は、キャリア30の保持部に保持された状態で、上側および下側の研磨パッド40の研磨面との間に狭持されており、上側および下側の研磨パッド40、50の研磨面を、それぞれガラス基板10の上下両主平面に押し付けた状態で、ガラス基板10の両主平面に前記した研磨液を供給するとともに、キャリア30を自転させながらサンギア203の周りを公転させ、かつ上定盤201と下定盤202をそれぞれ所定の回転数で回転させることで、ガラス基板10の両主平面を同時に研磨する。
【0052】
このような両面研磨装置を使用して、ガラス基板の主平面を研磨(仕上げ研磨)した後は、ガラス基板の洗浄(例えば、精密洗浄)を行い、磁気記録媒体用ガラス基板を得る。洗浄工程では、例えば、洗剤を用いたスクラブ洗浄を行った後、洗剤溶液へ浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行う。洗浄後の乾燥は、例えば、イソプロピルアルコール蒸気による蒸気乾燥により行う。こうして得られた磁気記録媒体用ガラス基板の上に、磁性層などの薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【0053】
第1の実施形態の製造方法によれば、機械的特性に優れるアルミノシリケートガラスからなる基板の主平面を十分な研磨速度で研磨することができるうえに、ガラス基板の表層のAl、アルカリ金属およびアルカリ土類金属等の浸出(リーチング)が抑制され、機械的特性に優れ表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【0054】
<磁気記録媒体用ガラス基板>
本発明の第2の実施の形態である磁気記録媒体用ガラス基板は、図1に示すガラス基板10の上下両主平面103を、前記した方法で研磨することにより得られるものであり、前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域(記録再生領域内)で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満となっている。光学式表面観察機としては、例えば、KLA-Tencor社製のCandelaを使用することができる。この光学式表面観察機は、波長λが405nmのレーザー光をガラス基板の表面に照射して正反射光や散乱光を検出し、P波(90°偏光)とS波(0°偏光)の正反射光量の変化などにより、ガラス基板表面の組成変化や形状変化を捉えるものである。
【0055】
このように、本発明の実施形態の磁気記録媒体用ガラス基板は、記録再生領域内において光学式表面観察機により測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満となっており、表面粗さが極めて小さくかつ表面粗さの面内均一性に優れているので、磁気ヘッドの浮上量を小さくして高記録密度の実現が可能な磁気ディスク装置を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の例1〜17のうちで、例1〜3および例9〜17は本発明の実施例であり、例4〜8は比較例である。
【0057】
例1〜17
表1に示す組成を有するガラス板A〜Iを用意した。前記したように、表1中のROはLiO、NaOおよびKOから選ばれる酸化物を表し、R´OはMgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる酸化物を表す。また、これらのガラス板を構成するガラスの密度、ヤング率および比弾性率の値を、表1に示す。
これらのガラス板A〜Iはいずれも、本発明で使用するアルミノシリケートガラスの組成を満足しており、ヤング率が68GPa以上であり、かつ比弾性率が27MNm/kg以上となっている。
【0058】
【表1】

【0059】
次に、これらのガラス板A〜Iの一つをガラス素板として使用し、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの磁気記録媒体用ガラス基板となるように、中央部に円孔を有する円盤形状に加工した。そして、この中央部に円孔を有する円盤状ガラス基板の内周側面と外周側面を、面取り幅0.15mm、面取り角度45°の磁気記録媒体用ガラス基板が得られるように面取り加工した。
【0060】
次いで、内周端面(内周側面と内周面取り部)を、酸化セリウム砥粒を含む研磨液と研磨ブラシを用いて研磨し、面取り加工等により内周端面に生じたキズを除去し、鏡面となるように研磨した。その後、外周端面(外周側面と外周面取り部)を、前記と同様に酸化セリウム砥粒を含む研磨液と研磨ブラシを用いて研磨し、外周端面のキズを除去し、鏡面となるように研磨した。端面研磨後のガラス基板に対しては、洗剤を用いたスクラブ洗浄と、洗剤に浸漬した状態での超音波洗浄を行い、酸化セリウム砥粒を洗浄・除去した。
【0061】
次に、端面研磨後のガラス基板の上下両主平面を、ダイヤモンド砥粒を含有する固定砥粒工具と研削液を用い、両面研磨装置(スピードファム社製、装置名:DSM22B-6PV-4MH)により、所望の板厚と平坦度に研削した。研削後、ガラス基板に付着した研削液および加工屑を洗浄除去した。
【0062】
研削後のガラス基板の上下両主平面を、硬質ウレタン製の研磨パッドと砥粒を含有する研磨液(平均粒子径が1.0μmの酸化セリウム粒子を含有する研磨液)を使用し、両面研磨装置(スピードファム社製、装置名:DSM22B-6PV-4MH)により研磨(一次研磨)し、その後、酸化セリウム砥粒を洗浄除去した。
【0063】
次いで、一次研磨後のガラス基板の上下主平面を、シリカ粒子を含有し、表2および表3に示すpHおよび電気伝導率を有する研磨液を使用し、上定盤側および下定盤側にいずれも軟質発泡ウレタン製の研磨パッドが装着された両面研磨装置(スピードファム社製、装置名::DSM22B-6PV-4MH)により研磨(仕上げ研磨)を行った。なお、仕上げ研磨において1バッチは200枚とした。
【0064】
使用した研磨液は、分散媒である水に、平均一次粒子径が20nmのシリカ粒子を15質量%の割合で配合し、かつ表2および表3に示す酸および/または無機アルカリを同表に示す割合で配合してなるものである。この研磨液中でのシリカ粒子の平均粒子径D50、およびシリカ粒子の凝集性を、研磨液のpHおよび導電率とともに表2および表3に示す。また、このような仕上げ研磨における研磨速度も同表に示す。
【0065】
なお、研磨液のpHおよび導電率は、導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製、装置名:Cyberscan PC300)用いて測定した。また、研磨液中でのシリカ粒子の平均粒子径D50、シリカ粒子の凝集性、および研磨速度は、それぞれ以下に示す装置または方法を用いて測定した。
【0066】
[シリカ粒子の平均粒子径D50]
動的光散乱方式粒度分布測定機(日機装株式会社製、装置名:UPA-EX150)を使用し、周波数解析(FFT-ヘテロダイン法)により、研磨液中のシリカ粒子の平均粒子径D50を測定した。
【0067】
[シリカ粒子の凝集性]
調製から72時間(3日)後の研磨液中でのシリカ粒子の平均粒子径D50を、前記方法で測定した。そして、この測定値から、研磨液調製直後のシリカ粒子の平均粒子径D50を減じた値(以下、D50増大値と示す。)により、研磨液の凝集性を評価した。D50増大値が10nm以下の場合は、a判定(凝集しにくく、分散性が良好)とし、10nmを超える場合はb判定(凝集し易く、分散性に劣る)とした。
【0068】
[研磨速度]
精密電子天秤(エー・アンド・デイ社製、装置名:HR-202i)を使用し、研磨前後の質量変化量を測定した。そして、研磨前後の質量変化量をガラス基板の密度と主平面の面積で除することで、研磨により除去したガラス基板の板厚(総研磨量)を算出した。この板厚(総研磨量)を研磨時間で除することで、ガラス基板の両主平面に対する研磨速度を算出した。なお、表2および表3には、こうして求められたガラス基板の両主平面に対する研磨速度を記載したが、研磨前後の質量変化量を、ガラス基板の密度と両主平面の面積(主平面の面積×2)で除することで、片側の主平面の研磨量を算出することができる。
【0069】
次に、こうして仕上げ研磨を行ったガラス基板に対して、洗剤によるスクラブ洗浄、洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行い、イソプロピルアルコール蒸気により乾燥した。
【0070】
洗浄乾燥後のガラス基板において、上下両主平面の表面粗さの均一性、表面粗さRaおよび表面欠陥数を、以下に示す方法でそれぞれ調べた。結果を表2および表3に示す。
【0071】
[表面粗さ均一性]
光学式表面観察機(KLA-Tencor社製、装置名:Candela、型式:OSA6300、測定条件:Nano-RMS Application)を使用し、ガラス基板の主平面の記録再生領域において表面粗さRMS値を測定した。ここで、RMS値の測定は、ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で行った。そして、ガラス基板の同一基板面内におけるRMS値の標準偏差が0.5nm未満の場合は、a判定(表面粗さ均一性が良好)とし、0.5nm以上の場合はb判定(表面粗さ均一性が不良)とした。
なお、この光学式表面観察機の使用では、波長λが405nmの25mWレーザーをガラス基板の表面に照射し、P波(90°偏光)とS波(0°偏光)の正反射光量および散乱光量の変化により、ガラス基板表面の形状変化を捉え、表面粗さRMS値を測定した。
【0072】
[表面粗さRa]
原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製、装置名:Nano Scope D3000)を使用し、ガラス基板の主平面の記録再生領域(測定範囲10μm×10μm)において表面粗さRaを測定した。
【0073】
[表面欠陥数]
光学式表面観察機(KLA-Tencor社製、装置名:Candela、型式:OSA6100、測定条件:Particle Inspection Application)を使用し、波長λが405nmの25mWレーザーをガラス基板の表面に照射して散乱光を検出することにより、ガラス基板の主平面の異物欠陥を検出した。ガラス基板の主平面の記録再生領域において検出された直径80nm以上の欠陥の数が80個以下の場合は、a判定(良品)とし、80個を超える場合はb判定(表面異物欠陥多く不良)とした。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
表2および表3からわかるように、例1〜3および例9〜17においては、ヤング率が68GPa以上で比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスからなるガラス板A〜Iに対して、pHが3.5〜5.5の範囲でかつ導電率が7mS/cm以下の研磨液を使用して主面の研磨を行っているので、十分に高い研磨速度を達成することができるうえに、表面粗さとその面内均一性に優れ、表面の異物欠陥も少ない磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【0077】
それに対して、例4および例7〜8では、pHが3.5未満の研磨液が使用されているので、ガラス基板の表面粗さおよび表面粗さの面内均一性が悪くなっている。また、例7〜8では、研磨液のpHを調整する酸として、2価のカルボン酸であるクエン酸ではなく無機酸である硝酸が配合されているので、ガラス基板の表面粗さが著しく大きくなっているばかりでなく、表面の異物欠陥も多くなっており、さらに例8では研磨速度も低くなっている。
【0078】
例6では、pHが9以上の研磨液が使用されているので、十分な研磨速度が得られていないばかりでなく、ガラス基板表面の異物欠陥が多くなっている。
例5では、pHは3.5〜5.5の範囲にあるが導電率が7mS/cmを超える研磨液が使用されているので、研磨液中でのシリカ粒子の凝集性が大きくなっており、安定した高い研磨速度が得られていない。また、ガラス基板表面の異物欠陥も多くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、ガラス基板の主平面の研磨において、安定した高い研磨速度を達成することができるうえに、研磨液によるガラス基板に含有される金属イオンの浸出(リーチング)を防止し、機械的特性に優れかつ表面粗さとその面内均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
10…磁気記録媒体用ガラス基板、11…円孔、103…主平面、104…面取り部、20…研磨装置、30…キャリア、40…上側研磨パッド、50…下側研磨パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤング率が68GPa以上、比弾性率が27MNm/kg以上のアルミノシリケートガラスからなり、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板であって、
前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満であることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項2】
中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板は、酸化物換算で、SiOを55〜75モル%、Alを5〜17モル%、Bを0〜15モル%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜27モル%、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜20モル%含有するアルミノシリケートガラスからなり、かつ前記磁気記録媒体用ガラス基板の主平面において、内周端面より3.5mm以上外周側でかつ外周端面より3.5mm以上内周側の領域で、光学式表面観察機によりレーザー光を使用して測定された表面粗さの標準偏差が0.5nm未満であることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
前記アルミノシリケートガラスの組成において、モル%表記でのSiO含有量とAl含有量との差が62モル%以下であり、かつSiO含有量と、Al含有量と、B含有量と、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上の含有量の合計と、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上の含有量の合計との総計が90モル%以上である、請求項2に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
前記アルミノシリケートガラスは、酸化物換算で、SiOを55〜75モル%、Alを5〜17モル%、Bを0〜8モル%、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上を合計で4〜27モル%、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上を合計で0〜20モル%含有し、モル%表記でのSiO含有量とAl含有量との差が62モル%以下であり、かつSiO含有量と、Al含有量と、B含有量と、LiO、NaOおよびKOから選ばれる1種または2種以上の含有量の合計と、MgO、CaO、SrOおよびBaOから選ばれる1種または2種以上の含有量の合計との総計が90モル%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256424(P2012−256424A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−217920(P2012−217920)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2011−128191(P2011−128191)の分割
【原出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】