説明

磁気記録媒体用基板、その製造方法及び磁気記録媒体

【課題】低ノイズで良好な信号再生特性を有する垂直磁気記録媒体の製造に適する基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板1上に、好ましくは核付け層2を設け、この上に反強磁性膜を含む多層軟磁性裏打ち層3を成膜する。この軟磁性裏打ち層3は、軟磁性膜と反強磁性膜の間で交換結合しており、かつ周方向もしくは径方向に異方性を有している。反強磁性膜は、好ましくは、Cr又はMnを含有する合金の膜又は自然酸化以外の金属酸化膜であり、めっき等により成膜することより得られる。また、該異方性化は磁場中熱処理により行われ、磁場印加方向により周と径異方性を作り分けられる。そして、この軟磁性裏打ち層3上に垂直磁気記録用の磁気記録層5を形成し、さらに、好ましくは保護層6及び潤滑層7を順次積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板及びその製造方法ならびに磁気記録媒体に関し、より詳細には、低ノイズで良好な信号再生特性を有する垂直磁気記録媒体の製造に適する基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録の技術分野において、文字や画像あるいは楽曲といった情報を磁気的に読み込み・書き出しする手段であるハードディスク装置(以下ではHDD)は、パーソナルコンピュータを初めとする電子機器の一次外部記録装置や内蔵型記録手段として必須のものとなっている。このようなHDDには磁気記録媒体としてハードディスクが内蔵されているが、従来のハードディスクでは、ディスク表面に磁気情報を水平に書き込むいわゆる「面内磁気記録方式(水平磁気記録方式)」が採用されていた。
【0003】
図9は、水平磁気記録方式のハードディスクの一般的な積層構造を説明するための断面概略図で、非磁性基板101上に、スパッタリング法で成膜されたCr系下地層103、磁気記録層105及び保護膜106としてのカーボン層が順次積層され、このカーボン層の表面に液体潤滑剤を塗布して形成された潤滑層107が形成されている(例えば、特許文献1参照)。磁気記録層105は、CoNiCr、CoCrTa、CoCrPt等の一軸結晶磁気異方性のCo系合金であり、該合金膜がディスク面と水平に磁化されて情報が記録されることとなる。
【0004】
しかしながら、このような水平磁気記録方式では、記録密度を高めるために個々の結晶粒のサイズを小さくすると、隣接した記録ビットのN極同士及びS極同士が反発し合って磁化の打ち消し合いが生じる。高記録密度化のためには磁気記録層の厚みを薄くして結晶粒の垂直方向のサイズを小さくする必要があること、また、結晶粒の微細化(小体積化)が進むと熱エネルギによって結晶粒の磁化方向が乱されてデータが消失するという「熱揺らぎ」の現象が生じること等の問題点が指摘され、高記録密度化には限界があるとされるようになった。
【0005】
このような問題に鑑みて検討されるようになったのが「垂直磁気記録方式」である。この記録方式では、磁気記録層はディスク表面と垂直に磁化されるため、記録ビットのN極とS極が交互に束ねられてビット配置され、各記録ビットのN極とS極は隣接しあって相互に磁化を強めることとなる(別な言い方では反磁場が低下する)。その結果、磁化状態(磁気記録)の安定性が高くなる。水平磁気記録方式とは異なり、結晶粒の垂直方向厚みをあまり小さくする必要はない。このため、結晶粒の水平方向のサイズを小さくしても、記録層厚を厚くして垂直方向を大きくとれば、全体としての記録時の体積が大きくなって「熱揺らぎ」の影響を小さくすることが可能である。
つまり、垂直磁気記録方式は、反磁場の軽減とKuV値(Kuは磁気記録層の結晶磁気異方性エネルギ、Vは単位記録ビット体積を表す)を確保できるため、「熱揺らぎ」による磁化不安定性が低減され、記録密度の限界を大幅に拡大することが可能となる磁気記録方式であることから、超高密度記録を実現する方式として期待されている。
【0006】
図10は、軟磁性裏打ち層(SUL)の上に垂直磁気記録のための記録層を設けた「垂直二層式磁気記録媒体」としてのハードディスクの基本的な層構造を説明するための断面概略図である。非磁性基板111上に、軟磁性裏打ち層113、磁気記録層115、保護層116、潤滑層117が順次積層されている。ここで、軟磁性裏打ち層113には、パーマロイやCoZrTaアモルファス等が典型的に用いられる。また、磁気記録層115としては、CoCrPt系合金の膜、PtCo膜、PdとCoの超薄膜を交互に数層積層させた多層膜、FePt、又はSmCoアモルフアス膜等が用いられる。
【0007】
図10に示すように、垂直磁気記録方式のハードディスクでは、通常、基板111の上に、磁気記録層115、保護層116、潤滑層117を備える。磁気記録層115の下地として軟磁性裏打ち層113が設けられ、その磁気的性質は「軟磁性」であり、層厚みは概ね100〜500nm程度とされる。この軟磁性裏打ち層113は、書き込み磁場の増大効果と磁気記録膜の反磁場低減を図るためのもので、磁気記録層115からの磁束の通り道であるとともに、記録ヘッドからの書き込み用磁束の通り道として機能する。つまり、軟磁性裏打ち層113は、永久磁石磁気回路における鉄ヨークと同様の役割を果たす。このため、書き込み時における磁気的飽和の回避を目的として、磁気記録層115の層厚に比較して厚く層厚設定される必要がある。
【0008】
積層構成の観点からは、軟磁性裏打ち層113は、水平磁気記録方式のハードディスクで設けられるCr系下地層103に対応するものであるが、その成膜は、水平記録媒体のCr系下地層103の成膜に比較して容易ではない。
水平磁気記録方式におけるハードディスクの各層の厚みはせいぜい20nm前後であり、全てドライプロセス(主にマグネトロンスパッタ)で形成される(特許文献1参照)。
【0009】
垂直二層式記録媒体においても、磁気記録層115と軟磁性裏打ち層113をドライプロセスで形成する方法が種々検討されているが、ドライプロセスで軟磁性裏打ち層113を形成する場合には、スパッタリング・ターゲットが飽和磁化の大きい強磁性体であること、しかも軟磁性裏打ち層113の厚みとして100nmもしくはそれ以上のものが必要とされること等の理由により、膜厚均一性や組成均一性、ターゲット寿命、プロセスの安定性、そして何よりも成膜速度の低さから、量産性や生産性の上で大きな問題を抱えている。
【0010】
また、高記録密度化のためには、磁気ディスク表面を浮上する磁気ヘッドの浮上高さ(フライングハイト)を極力低くする必要があるが、ドライプロセスにより成膜された比較的厚い膜はその表面平滑性が劣化しがちでヘッドクラッシュの原因ともなってしまう。
【0011】
このような理由により、厚膜化が容易でしかも研磨加工が可能なめっき法で、軟磁性裏打ち層113を形成する試みが検討されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−143972号公報
【特許文献2】特開2005−108407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
軟磁性層をめっき法により成膜した場合、軟磁性層を構成するめっき膜面の数mmから数cmの範囲にわたり特定の方向に磁性を帯びた磁区が多数発生し、それら磁区の境界には磁壁が発生する。特に、該軟磁性層が径方向に異方性を有する場合に、磁壁が顕著である。このような磁壁を有する軟磁性膜を裏打ち層として垂直二層式磁気記録媒体用ハードディスクに用いた場合、磁壁部分より発生する漏れ磁界によりスパイクノイズやマイクロスパイクノイズと呼ばれる孤立パルスノイズが発生し、信号再生特性が大きく損なわれる可能性が有る。該スパイクノイズは軟磁性膜の磁壁が主因で、該膜に異方性を付与することにより、ある程度抑制できる。
しかし、該異方性軟磁性膜においてもスパイクノイズの発生を完全には抑えきれておらず、特に径方向異方性の軟磁性膜の場合にスパイクノイズが顕著である。軟磁性膜の異方性化に更に加えて、スパイクノイズを抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、簡便な方法にて優れた特性を有する垂直二層式磁気記録媒体を得るべく、めっき法により軟磁性裏打ち層を形成する条件ならびに適用可能な軟磁性膜の種類について鋭意研究を重ねた。その結果、非磁性基板上にめっき法等を用いて軟磁性膜と、反強磁性膜を適度な組み合わせで積層し、交換結合させることにより、磁壁の発生を抑制することが可能であることを見出した。この効果は、基板の面内周方向もしくは面内径方向に異方性を有する軟磁性膜のどちらに対しても有効であるが、特に径方向異方性の場合により有効である。この理由は、径方向異方性軟磁性膜では、数百nm厚では磁壁がブロッホ型であるのに対して、周方向異方性軟磁性膜では数百nm厚までネール型である。そのため、径方向異方性膜のスパイクノイズがかなり大きい。該ブロッホ磁壁の発生を多層構造により抑制できるため、径方向異方性の方がより効果が大きいと考えられる。
【0014】
ここで、「異方性」とは、面内径方向の磁化飽和磁場強度(Hd)と面内周方向の磁化飽和磁場強度(Hc)との差(δH=Hd−Hc)を意味し、δHが正の場合(Hd−Hc>0)には面内径方向が磁化容易方向であり、δHが負の場合(Hd−Hc<0)には面内周方向が磁化容易方向であることを意味する。
【0015】
つまり、本発明は、反強磁性膜を含む多層軟磁性層をめっき法等により積層し異方性化処理を行って、スパイクノイズの少ない良好なS/N比の垂直二層式磁気記録媒の製造に適する基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明は、直径90mm以下で中心穴を有した円板形状の非磁性基板の上に軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体用基板であって、該軟磁性裏打ち層が、順序を問わない、めっき法を用いて形成された少なくとも一つの軟磁性膜と、少なくとも一つの反強磁性膜から構成され、周もしくは径方向磁気異方性を有する磁気記録媒体用基板を提供する。反強磁性膜は、好ましくは、Cr又はMnを含有する合金の膜又は自然酸化以外の金属酸化膜であり、軟磁性膜と交換結合しており、ネール温度が100℃以上で、膜厚が5nm以上50nm以下である。金属酸化膜は、好ましくは軟磁性膜の少なくとも一つを表面酸化した膜である。
また、本発明は、直径90mm以下で中心穴を有した円板形状の非磁性基板の上に軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体用基板の製造方法であって、どちらを先に行ってもよい、めっき法を用いて軟磁性膜を形成する段階を少なくとも一つと、反強磁性膜を形成する段階を少なくとも一つ含む軟磁性裏打ち層の形成工程と、該軟磁性裏打ち層に周もしくは径方向磁気異方性を付与する工程を含んでなる磁気記録媒体用基板の製造方法を提供する。反磁性膜を形成する段階の少なくとも一つは、好ましくはめっき法を用いて行われる。
また、反強磁性膜を形成する段階の少なくとも一つは、好ましくは、めっき法を用いて形成された軟磁性膜の表面を酸化させることを含み、より好ましくは、この軟磁性膜の表面の酸化は、酸化剤溶液中、又は酸化雰囲気下で行われる。
さらに、本発明は、この磁気記録媒体用基板を用いた垂直記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気記録媒体用基板に設けられる軟磁性裏打ち層は、その特に好ましい形態例では、CoとNiとFeからなる群から選択される少なくとも2種の元素と、BとCとPとSからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する合金からなる軟磁性めっき膜と100℃以上のネール点を有する反強磁性めっき膜により構成され、この軟磁性裏打ち層の磁化容易方向を面内径方向か面内周方向となるようにめっき後に磁場中熱処理して異方性化するもので、磁壁発生が抑制されスパイクノイズが低減される。
このため、該軟磁性裏打ち層上に垂直磁気記録用磁性膜を設けたハードディスクは、ヘッド磁束の増大により良好な書き込み特性を有する高記録密度の磁気記録媒体が得られる。また、本発明の磁気記録媒体用基板は、特に軟磁性裏打ち層が湿式のめっき法により成膜される場合には、蒸着法等によるドライプロセス成膜に比較して製造プロセスが大幅に簡便化され、かつ、生産性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体用基板は垂直磁気記録用のもので、軟磁性裏打ち層上に磁気記録層を形成することで、垂直二層式磁気記録媒体としてのハードディスクが得られる。すなわち、本発明の磁気記録媒体用基板は、図1に示すように、非磁性基板1上にめっき法等により成膜された軟磁性裏打ち層3が設けられている。そして、たとえば、この軟磁性裏打ち層3上に好ましくは配向制御用の中間膜4を形成し、垂直磁気記録用の磁気記録層5を形成し、さらに、好ましくは保護層6及び潤滑層7を順次積層することで、本発明の磁気記録媒体が得られる。
【0019】
本発明の軟磁性裏打ち膜基板を用いる場合、図1に示すように、非磁性基板1として好ましい単結晶Si基板と軟磁性裏打ち層3との間に、好ましくは核付け膜(下地めっき層)2を設ける。軟磁性裏打ち層3は、軟磁性膜と反強磁性膜を含む二層以上の層で構成される。
【0020】
本発明の磁気記録媒体用基板に用いられる非磁性基板としては、好ましくは単結晶Si基板が挙げられる。非磁性基板として単結晶Si基板を用いると、表面の原子配列が面内で一様であり、めっき工程における表面化学的状態や表面電位状態も面内で均質となるという利点がある。また、NiやNiPの核付け膜を成膜する際に単結晶Si基板上への直接めっきが可能であり、しかも、めっき不均一に起因する磁気的な不均一を抑制できる。
【0021】
単結晶Si基板としては、CZ(チョコラルスキー)法あるいはFZ(フローティングゾーン)法により結晶育成されたものが容易に入手可能である。基板の面方位に特に制限はなく、(100)、(110)あるいは(111)等の任意の面方位であってよい。また、基板中に含まれる不純物として、Siとの原子比で10%程度まで(〜1022atoms/cm3)のドナーやアクセプターあるいは酸素、炭素、窒素といった軽元素を含んでいてもよい。
【0022】
本発明においては、非磁性基板の基板直径は90mm以下で中心穴が開いている。これは、高記録密度用のHDD小口径基板の製作を目的としているためである。
【0023】
非磁性基板として単結晶Si基板を用いる場合には、好ましくは、単結晶Si基板と軟磁性裏打ち層との間に核付け膜を設ける。核付け膜は、軟磁性裏打ち層と単結晶Si基板の相互密着力を確保するために有効である。
核付け膜としては、Ni、NiP、NiFe等が用いられ、上部の軟磁性裏打ち層のめっき成膜に際し、めっき活性を有することが好ましい。Niは置換めっきで成膜でき、NiPやNiFeは還元剤を添加してめっきすることができる。前二者の成膜詳細については、既に出願した特許に述べている(特許文献2)。NiFeの場合もめっき浴(例えば、硫酸ニッケルと硫酸鉄)を所定液組成とし、それ以外はNiPの場合と同様に行えばよい。
核付け膜の厚さは、好ましくは、10〜1000nmである。
【0024】
核付け膜と軟磁性裏打ち層の間に、さらに非磁性層(CuやPd)を成膜することもある。
【0025】
本発明の軟磁性裏打ち層は、少なくとも一つの軟磁性膜と少なくとも一つの反強磁性膜を含んだ多層構造を有する。反強磁性膜で軟磁性膜に交換結合を及ぼすことにより、印加される交換磁場の影響で磁壁発生が抑制される。反強磁性膜と軟磁性膜の交換結合は、軟磁性材料と反磁性材料との界面における粒子の交換結合であり、磁壁のノイズを抑制する結合である。
【0026】
スパッタ成膜による軟磁性裏打ち層成膜においても、反強磁性層を用いることが提案されている(特開2002−279615号公報及び特開2002−342909号公報)。軟磁性裏打ち層構成の点ではスパッタ膜と大きく異なるものではない。しかし、本発明の主にめっき成膜による多層軟磁性裏打ち層はスパッタ成膜による膜にはない利点を有していることを本発明者らは見出したものである。
【0027】
スパッタによる多層軟磁性裏打ち膜の磁気特性(交換結合の様子)は、強磁性膜厚や反強磁性/強磁性界面に非常に敏感に影響される。スパッタによる強磁性膜では膜厚増加とともに、膜の磁化が常に面直成分を持とうとする。軟磁性裏打ち膜の面直成分はノイズとなるため、好ましくない。つまり磁化が面内から立ち上がろうとする傾向があるため、反強磁性膜により強くピンニングして、面内に倒しておく必要がある。ピンニングできる強磁性膜厚制御や平滑で元素拡散の少ない良好な界面が要求され、ピンニング可能な膜厚は100nm程度までと言われている。このため多層の各膜を精密に制御することが求められる。
【0028】
これに対して本発明の主にめっき成膜による多層軟磁性裏打ち層は、強磁性膜の膜厚が厚くてもピンニングできて、1000nm前後まで交換結合を及ぼす事が可能である。これは、めっき強磁性膜に残留応力が強く働いて、磁化を面内に強く束縛しているため、磁化の面直成分抑制を行う必要がないからである。このため1000nmまでの間で強磁性膜厚は必要に応じた膜厚に調整することができ、強磁性膜が数百nm厚でもピンニングに問題がないことを初めて見出した。更に、めっきは低温成膜であるため、反強磁性/強磁性界面における各層間の元素相互拡散も起こらない。界面の平滑性もスパッタ膜ほどの平滑性は必要ない。この理由ははっきりしないが、低温成膜であるため界面原子層がダメージを受けてないためではないかと考えている。本発明のめっきによる多層軟磁性裏打ち層において、このような効果(別な言葉では、構造と膜厚に敏感でない)が得られることは従来知られていなかった事で、スパッタによる多層軟磁性裏打ち層に比較して大きな利点である。
【0029】
本発明による多層軟磁性裏打ち層の構成の例を図2(a)〜(e)に示すが、本発明はこれだけに限定されるものではない。また、図2(a)〜(e)では反強磁性膜(AFL)は全て1層だけであるが、必要に応じて複数の膜を用いてもよい。
基板の上1に、図2(a)は、核付け膜2F、軟磁性膜3S、反強磁性膜3A、軟磁性膜3Sを順次設ける態様、図2(b)は、強磁性核付け膜2F、反強磁性膜3A、軟磁性膜3Sを順次設ける態様、図2(c)は、軟磁性核付け膜2S、反強磁性膜3A、軟磁性膜3Sを順次設ける態様、図2(d)は、非磁性核付け膜2N、反強磁性膜3A、軟磁性膜3Sを順次設ける態様、図2(e)は、非磁性核付け膜2N、軟磁性膜3S、反強磁性膜3Aを順次設ける態様を示す。
【0030】
図2(d)では、核付け膜に軟磁性を示すもの(例えばNiFe等)を用いており、該層は核付けと軟磁性層の両方の機能を担っている。
【0031】
軟磁性膜は、通常、無電解めっきにより成膜される。めっき浴としては、硫化物浴又は塩化物浴の何れを用いることも可能であり、その浴中に含有される金属種としても種々のものを採用し得る。好ましくは、めっき膜の磁気特性を軟磁性膜としてのものとすると同時にその結晶構造を立方晶とする必要から、Co、Ni、Feからなる群から選択される少なくとも2種の元素を含有する金属塩含有のめっき浴が選ばれる。このような金属元素の選択とするのは、Co、Ni、及びFeは何れも無電解めっきが可能であるものの、単独元素のめっき膜からは良好な軟磁気特性を得ることが困難なためである。具体的な浴組成としては、例えば、硫酸ニッケルと硫酸コバルト混合浴、あるいは硫酸鉄を含む混合浴等が例示され、その好ましい濃度は0.01〜0.5Nである。なお、めっき浴の温度は40〜95℃の範囲に設定することが好ましい。
【0032】
また、このようなめっき浴には、BとCとPとSからなる群から選択される少なくとも1種の元素がめっき膜中に有意に(好ましくは3at%(原子%)以下)含有されるように、必要に応じて、浴に含まれる金属イオンに応じた還元剤が添加される。このような還元剤としては、例えば、次亜燐酸(H2PO2)やジメチルアミンボラン(DMAB:(CH32HNBH3)等がある。めっき膜中に、B、C、P、及びSのうちの少なくとも1種の元素を含有させるのは、膜の軟磁気特性を考慮してのものであり、これらの元素の少なくとも1種を有意に含有させる点は、スパッタリング法等の乾式成膜法との大きな相違点である。
【0033】
多層磁性裏打ち層のうち、少なくとも一層の反強磁性膜を有する。反強磁性膜は、好ましくは、合金の膜又は自然酸化以外の金属酸化膜等の金属系反強磁性膜で構成される。
合金の反強磁性膜としては、Cr系合金(Cr−Mn、Cr−Pt、Cr−Ru、Cr−Rh、Cr−Ir、Cr−Os、Cr−Re等)やMn系合金(Mn−Pt、Mn−Ir等)が用いられ、その混合系でも構わない。めっきのし易さから、特にCr系合金が望ましい。
Cr単体では反強磁性のネール温度(反強磁性構造から常磁性構造に変わる温度)が310K程度と低いが、遷移金属でMn、貴金属系でPt、Ru、Rh、Ir、Os、Re等を1〜10at%程度、好ましくは1〜5at%の添加により、100K以上上昇させることができ、ネール温度を100℃以上とすることができる。Crに該添加金属を添加した反強磁性膜をめっきで成膜することにより、多層磁性裏打ち層12を形成することが可能となる。
反強磁性膜の組成としては、特に好ましくは、Cr−Mn、Cr−Pt、Cr−Ru等が上げられる。
【0034】
合金の反強磁性膜は、好ましくは、めっき法を用いて形成できる。
反強磁性膜のめっきとしては、電解めっき又は無電解めっきのどちらでもよい。反強磁性膜がCr系合金の場合には電解めっきが好ましい。
具体的な浴組成は塩化浴又は硫酸塩浴を用いる。たとえば、塩化クロムと塩化マンガンの混合浴、又は硫酸クロムと硫酸マンガン等の混合浴が好ましい。濃度は0.01〜1.0Mol/Lがよく、特に0.1〜0.8Mol/Lが好ましい。pHが1から5の弱酸性がよい。電流密度は5A/dm2以上、60A/dm2以下がよい。錯化剤としてはグリシン等の有機アミンや硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ホウ酸が好ましい。
反強磁性膜の厚みは、好ましくは2〜50nm、より好ましくは5〜20nmである。反強磁性膜は、コロイダルシリカ等を用いて所望の表面粗さになるように研磨してもよい。
【0035】
自然酸化以外の金属酸化膜の反強磁性膜は、好ましくは、Co、Ni及びFeからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属の酸化物であり、例えば、NiFeO、CoNiFeO{CoNiFeOx(xは正数である)}が挙げられる。
自然酸化以外の金属酸化膜の反強磁性膜は、好ましくは軟磁性裏打ち層を構成する少なくとも一つの軟磁性膜の酸化により得ることができる。
軟磁性がNiFeパーマロイ膜の場合、酸化されるとNi(Fe)Oであり、該酸化膜は反強磁性を示す。軟磁性がCoNiFe膜の場合、酸化されるとCoNiFeOx(xは正数である)であり、この場合も反強磁性膜となる。
反強磁性膜の酸化は、湿式めっき工程中において酸化剤(H22等)を入れた液中で湿式酸化させてもよいし、めっき後に大気中ないし雰囲気制御下で乾式酸化(好ましくはオゾン酸化)させてもよい。
【0036】
自然酸化以外の金属酸化膜の反強磁性膜の厚みは、好ましくは、酸化の条件を変えることにより好ましくは2nmから50nm程度、より好ましくは5〜20nm程度の間で制御可能で、最適な膜厚の反強磁性膜を含む多層磁性裏打ち層を形成することができる。50nm以上の酸化膜とすることは可能であるが、酸化処理に時間がかかりすぎるため、好ましくない。
反強磁性膜は、コロイダルシリカ等を用いて所望の表面粗さになるように研磨してもよい。
【0037】
軟磁性裏打ち層を構成する少なくとも一つの軟磁性膜は、例えば、無電解めっきとして知られる一般的な方法でめっき膜厚が好ましくは100〜1500nmとなるように成膜した後に、このめっき膜を所定の厚みまで研磨して好ましくは50〜500nmとすることにより得られる。この研磨工程は、コロイダルシリカやセリア等の無機微粒子を用いて行われ、厚み調整と同時に表面粗さ制御も兼ねるものである。
【0038】
本発明の軟磁性裏打ち層は、面内径もしくは周方向が磁化容易方向の異方性を有する膜である。本発明者らが以前出願しためっき軟磁性膜のみであれば、磁場中めっきにより異方性を付与することができる。しかし、本発明の多層磁性裏打ち層は反強磁性膜を含むため、磁場中めっきだけでは層全体を異方性化できない。したがって、異方性化はめっき後の磁場中熱処理により行われる。
磁場中熱処理は、多層磁性裏打ち層の反強磁性膜ネール点の少し上の温度から開始し(例えば10〜100℃)、徐々に冷却することにより層全体に周方向ないし径方向異方性を付与することが可能となる。磁場は100エルステッド(Oe)以上で数kOe程度まで印加すればよい。
【0039】
磁場を印加する磁気回路としては、例えば、図3(a)および図4(a)のような磁気回路を用いることができる。磁極面84、94と直交する磁石側面同士を対向させて形成される空隙が磁場印加空間となっている。該磁気回路では、対向する磁石側面の対角線の交点同士を結ぶ直線上、2つの対向面から等距離にある位置において、永久磁石82、92の磁化方向81、91と逆向きの磁場を発生することができる。
図の2種類の磁気回路の使い分けにより、被処理基板83、93の磁場印加方向を選択できる。図3(a)は径方向磁場、図4(a)は周方向磁場印加となる。径方向と周方向との中間の方向に磁場を印加する場合は、該中間の方向に磁化方向が向くように永久磁石を配置すればよい。
図3(b)、図4(b)のように、非磁性支持板88を用い対の磁石82、92を複数スタックし、空隙を複数設けることにより、処理空隙の狭い点をカバーできる。一方、被処理基板83、93の近傍に磁気回路を設けるため、該磁気回路は相対的に小さくてよい。
【0040】
径方向に磁場を発生させる場合には、試料の1面に、径方向磁化を有する永久磁石を1個または複数個(2〜40個)を配置することができる。複数個を配置する場合は、均等に配置することが好ましい。
周方向に磁場を形成させる場合には、試料の1面に、周方向磁化を有する永久磁石を1個または複数個(2〜6個)配置することができる。複数個配置する場合は、図4(a)に示すように、それぞれの磁石が干渉されないように、または、磁石間でショートしないように、同一試料面上、間隔をあけて配置することが望ましい。上記間隔は均等であることが好ましい。
【0041】
径方向または周方向に磁場を発生させるために、径方向磁化または周方向磁化を有する永久磁石を1個配置する場合、例えば、図5(a)および図5(b)に示す磁気回路を用いることができる。図5(a)および図5(b)において、磁気回路の仮想中心軸87と、予め設定しておいた未処理試料93の中心位置を貫通し固定する支持棒86とを一致させて、相対的に回転96することにより、時間平均でみた場合、未処理試料の同心円周上のどの点においても軸対称磁場を印加することができる。なお、磁石側面を95で示す。
「磁気回路の仮想中心軸」は、中心点から放射状の位置に磁石を形成した磁気回路の中心をいう。
【0042】
上記磁場中での回転96は、熱処理とともに行われ、該熱処理工程は、通常、5分以上数時間かけてゆっくり行われるので、相対的に5rpm以上500rpm以下の回転速度で回転していれば、軸対称磁場印加したものとみなせる。5rpm未満の回転速度では時間平均の軸対称性が得られない場合があり、500rpmを超える回転速度では回転機構が複雑かつ難しくなる場合がある。回転速度の好ましい下限は、10rpm、好ましい上限は、150rpmである。
上記回転は、被処理基板、磁気回路のどちらか一方を回転しても、両方を互いに反対方向に回転してもよいが、作業性の点で、未処理試料を回転することが好ましい。
【0043】
上記磁場中での回転によって磁気異方性の付与を行う場合、配置する永久磁石は、図5(a)に示すように、切り欠け部85を設けたものであってよい。
切り欠け部85を設けることにより、未処理試料に支持棒86を挿入したのち、該支持棒86を磁気回路の仮想中心軸87と一致するようにセッティングすることができ、作業性を向上することができる。
上記回転を用いた磁気異方性の付与を行う場合、同一試料面上に配置する永久磁石の数は、1個であってもよいし、複数個であってもよい。
【0044】
従来、磁場中熱処理は、電磁石、永久磁石からなる磁気回路、超伝導マグネット等で構成された磁場発生手段を設けた内部に、非磁性炉部品で構成された熱処理炉を設け、該熱処理炉空間内に一方向磁場を発生させることにより行われてきたが、磁場発生手段はどの装置を用いるにしろ大型になり、熱処理炉も複雑な構成になりやすいという問題がある。
そこで、磁場中熱処理装置として、熱処理炉内部に磁気回路を配設する都合、耐熱性を有する磁気回路を用いればよい。
磁場中熱処理の温度は、被処理基板の材質等により異なるが、概ね150℃以上350℃以下で行われることが多い。磁気回路も、該温度範囲でほとんど熱減磁しない、つまり、不可逆減磁(初期減磁)が好ましくは、5%以下、より好ましくは、1%以下である。
磁場中熱処理の炉内は、通常、Ar、He、窒素等の不活性ガス雰囲気とする。
本明細書において、上記不可逆減磁(初期減磁)は、保持初期に減磁されることをいい、熱をかけて1時間保持の点での磁場強度の減少割合を表すものであり、ガウスメータを用いて測定される値である。
【0045】
図6のような永久磁石磁気回路を炉の中に挿入し、磁石間空隙に本発明の軟磁性膜裏打ち層形成基板を保持し、該基板を回転しながら熱処理を行う。基板に対する磁場印加の方向により、径方向と周方向異方性を作り分けることができる。
【0046】
磁気記録層は、軟磁性裏打ち層の上に直接形成してもよいが、結晶粒径及び磁気特性の整合をとる等のために、必要に応じて、種々の中間膜を設け、この中間膜上に形成するようにしてもよい。
中間膜としては、例えばRu膜、Re膜等が用いられる。また、中間膜を複数層積層 させるようにしてもよい。
中間膜の厚みは、好ましくは2〜25nmである。
【0047】
軟磁性裏打ち層の上に設けられる磁気記録層は、垂直磁化記録を行うための硬磁性材料からなる。
磁気記録層の組成は、層面に垂直な方向に磁化容易な磁区を形成可能な硬磁性材料であれば特別な制限はない。スパッタ法成膜する場合には、たとえば、Co−Cr系合金膜、Fe−Pt合金膜、CoCrPt−SiOxグラニュール膜、Co/Pd多層膜等を用いることができる。
磁気記録層の厚みは、5〜100nm程度が好ましく、より好ましくは10〜50nm程度である。また、磁気記録層は、その保磁力が、好ましくは2〜10kOeとなるように成膜され、より好ましくは3〜6kOeとなるように成膜される。
【0048】
磁気記録層の上面に設けられる保護層は、従来の磁気記録媒体に用いられてきた材料で形成することができる。たとえば、スパッタ法やCVD法により形成される非晶質カーボン系の保護膜をはじめ、アルミナ(Al23)等の結晶質の保護膜を用いることができる。保護層の厚みは、例えば2〜10nm程度とされる。
【0049】
保護層の上面には、潤滑層が設けられる。潤滑層もまた、従来の磁気記録媒体に用いられてきた材料を塗布して形成することができ、その剤種及び塗布方法についての制限は特にない。たとえば、フッ素系油脂を塗布して単分子膜を形成する等により潤滑層を形成する。潤滑層の厚みは、例えば2〜10nm程度とされる。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜4
本実施例では、非磁性基板として単結晶Si基板を用いた。CZ法で結晶育成された直径200mm(8インチ)のSi単結晶から、コア抜き、芯取り、及びラッピングを行い、外径48mm内径12mmの(100)Si単結晶の板(Pドープのn型)を得た。このSi単結晶の板を、平均粒径15nmのコロイダルシリカを含有するスラリーを用いて両面研磨し、表面粗さ(Rms)4nmのSi基板を得た。なお、Rmsは平方平均粗さであり、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定した。
このSi基板を、2質量%の苛性ソーダ水溶液(液温45℃)に3分間浸漬して基板表面の薄い表面酸化膜を除去するとともに、極表面のSiをエッチングする表面活性化処理を行った。引き続いて核付け膜成膜のため、0.1Nの硫酸ニッケル水溶液に硫酸アンモニウムを0.5N添加した下地めっき浴を調合して液温80℃に保持した浴中に5分間浸漬して下地Niめっき層を得た。もしくは、非磁性核付け膜を以下手順で成膜した。0.5モル/L苛性ソーダと1モル/LのH22を含有する水溶液(液温45℃)に10分間浸漬して基板表面を親水化処理する。十分に洗浄後、引き続いて非磁性核付け膜成膜のため、0.1M硫酸ニッケルと0.5M硫酸アンモニウムと0.1Mクエン酸ナトリウムの混合浴を調合して、還元材として0.1M次亜りん酸Naを添加し、液温80℃、pH7〜7.5に保持した浴中に基板を2分間浸漬して非磁性核付け膜を得た。
【0051】
次に、軟磁性膜成膜のため、硫酸アンモニウム0.2N、硫酸ニッケル0.02N、硫酸コバルト0.1N、硫酸鉄0.01N、還元剤としてジメチルアミンボラン0.04N含むめっき液を調合し、この液温を65℃となるように加熱・保持した。なお、液温を65℃としたのは、軟磁性膜を無電解めっきする際の膜成長速度を0.1μm/分とするためである。該Si基板を60rpmで自転させながら各々10分間のめっきを行って、下地めっき層より上に、Co−Ni−Fe系軟磁性膜を得た。もしくは、0.07M硫酸ニッケルと0.03M硫酸鉄と0.5M硫酸アンモニウムと1Mクエン酸ナトリウムの混合浴を調合して、還元材として0.05Mジメチルアミンボランを添加し、液温65℃、pH7〜8に保持した浴中に、基板を60rpmで自転させながら15分間浸漬してNi-Fe系軟磁性膜を得た。得られた組成は、概ねCo70Ni13Fe17、又はNi80Fe20(原子比)で、還元剤より由来するS、C及びBを1〜2at%含有していた。多層軟磁性膜では各膜層分だけ厚みが足された。
【0052】
反強磁性膜成膜のため、0.5M塩化クロムと0.05M塩化マンガンと1M硫酸アンモニウムと1Mグリシンと0.5Mホウ酸の混合浴を調合して、液温30℃、pH2〜3に保持した浴中に、基板を陰極に設置し、20A/dm2の電流密度で電析することにより15nmのCr−Mnを主成分とする反強磁性膜を得た。また、0.5M塩化クロムと0.01M塩化ルテニウムと1M硫酸アンモニウムと1Mグリシンと0.5Mホウ酸の混合浴を調合して、液温30℃、pH2〜3に保持した浴中に、基板を陰極に設置し、10A/dm2の電流密度で電析することにより15nmのCr−Ruを主成分とする反強磁性膜を得た。
【0053】
軟磁性裏打ち層が形成されたSi基板を、1キロエルステッド(kOe)の径方向静磁場を印加し、ネール温度より20℃から70℃上の温度(200℃から250℃)で1時間保持後、0.5℃/分の速度で100℃まで連続的に磁場中冷却を行った。得られた軟磁性層の最上層軟磁性膜をコロイダルシリカにて研磨し、軟磁性裏打ち層全体として100〜500nm厚まで調厚した。該研磨膜について、カー効果で磁化曲線を測定した結果を表1に纏めた。また、得られた研磨面をカー効果で磁区観察を行ったが、明瞭な磁区は観察されなかった。図7に径方向異方性膜のノイズ測定結果の一例を示す。ただし本例では、内径保持治具の影響で内径側に一部磁壁が観察されているが、これは治具の改良によりなくすことができた。面内径方向の磁化飽和磁場強度(Hd)と面内周方向の磁化飽和磁場強度(Hc)との差(δH=Hd−Hc)が10エルステッド以上(概ね15〜20エルステッド程度)の異方性が得られている。なお、保磁力は何れの軟磁性膜においても略5エルステッド(Oe)以下の良好な軟磁気特性を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1中、Subは基板、NLは核付け膜、FM−は強磁性−、NM−は非磁性−、SoftFM−は軟磁性−、SULは軟磁性裏打ち膜、AFLは反強磁性膜を表す。基板の上に、膜構成に記載されている順にしたがって積層した。膜構成中の後ろの数字は膜厚(nm)を表す。
【0056】
製造例1
実施例1で得られた軟磁性裏打ち層上に垂直磁気記録層をスパッタ成膜した。スパッタリング条件は、基板温度を180℃に維持した状態で、先ずRu膜を8nm形成し、このRu膜上に、Co:Cr:Pt=76:19:5(質量%)とSiO2の同時スパッタにより、の組成の磁性膜を厚み12nm成膜して磁気記録層を得た。この磁気記録層の保磁力は、膜面と垂直な方向の保磁力が4キロエルステッド(kOe)であった。この磁気記録層上に厚み8nmのアモルファスカーボンを被覆し、さらにディップ法によりフッ素潤滑膜を塗布して垂直磁気記録媒体を得た。
この垂直磁気記録媒体をスピンスタンドに設置してDCイレーズを実施した後、浮上高10nmのナノスライダーヘッドにより書き込みを実施して再生信号のノイズレベル測定を行った結果、エンベローブパターン中にスパイクノイズは認められなかった(図7)。また、そのS/N比の平均レベルは24dBと良好であった。反強磁性膜が挿入されていない場合はスパイクノイズが見られるが、本発明の構成によって抑制できることが分かった。
【0057】
実施例5〜11
本実施例では、非磁性基板として単結晶Si基板を用いた。CZ法で結晶育成された直径200mm(8インチ)のSi単結晶から、コア抜き、芯取り、及びラッピングを行い、外径48mm内径12mmの(100)Si単結晶の板(Pドープのn型)を得た。このSi単結晶の板を、平均粒径15nmのコロイダルシリカを含有するスラリーを用いて両面研磨し、表面粗さ(Rms)4nmのSi基板を得た。なお、Rmsは平方平均粗さであり、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定した。
このSi基板を、2質量%の苛性ソーダ水溶液(液温45℃)に3分間浸漬して基板表面の薄い表面酸化膜を除去するとともに、極表面のSiをエッチングする表面活性化処理を行った。引き続いて核付け膜成膜のため、0.1Nの硫酸ニッケル水溶液に硫酸アンモニウムを0.5N添加した下地めっき浴を調合して液温80℃に保持した浴中に5分間浸漬して下地Niめっき層を得た。もしくは、非磁性核付け膜を以下手順で成膜した。0.5モル/Lの苛性ソーダと1モル/LのH22を含有する水溶液(液温45℃)に10分間浸漬して基板表面を親水化処理した。十分に洗浄後、引き続いて非磁性核付け膜成膜のため、0.1M硫酸ニッケルと0.5M硫酸アンモニウムと0.1Mクエン酸ナトリウムの混合浴を調合して、還元材として0.1M次亜りん酸Naを添加し、液温80℃、pH7〜7.5に保持した浴中に基板を2分間浸漬してNiP非磁性核付け膜を得た。
【0058】
次に、軟磁性膜成膜のため、硫酸アンモニウム0.2N、硫酸ニッケル0.02N、硫酸コバルト0.1N、硫酸鉄0.01N、還元剤としてジメチルアミンボラン0.04N含むめっき液を調合し、この液温を65℃となるように加熱・保持した。なお、液温を65℃としたのは、軟磁性膜を無電解めっきする際の膜成長速度を0.1μm/分とするためである。該Si基板を60rpmで自転させながら各々10分間のめっきを行って、下地めっき層より上に、Co−Ni−Fe系軟磁性膜を得た。得られた組成は概ねCo70Ni13Fe17(原子比)で、還元剤より由来するS、C、Bを1〜2at%含有していた。多層軟磁性膜では各膜層分だけ厚みが足された。
もしくは、0.07M硫酸ニッケルと0.03M硫酸鉄と0.5M硫酸アンモニウムと0.1Mクエン酸ナトリウムの混合浴を調合して、還元剤として0.05Mジメチルアミンボランを添加し、液温65℃、pH7〜8に保持した浴中に、基板を60rpmで自転させながら15分間浸漬してNi-Fe系軟磁性膜を得た。得られた組成は概ねNi80Fe20(原子比)で、還元剤より由来するS、C、Bを1〜2at%含有していた。多層軟磁性膜では各膜層分だけ厚みが足された。
【0059】
反強磁性膜成膜のため湿式か乾式でそれぞれ酸化膜を形成した。
湿式成膜は、軟磁性膜成膜後に水洗し、更にH22添加温水中に10分間前後浸漬して該軟磁性膜表面を酸化し、H22添加量と温度を変化させて、概ね10〜15nmの酸化膜を形成した。必要に応じ、更に軟磁性膜を成膜し、多層化を行った。
乾式成膜では、軟磁性膜をめっき後、水洗・乾燥を行い、該めっき基板を酸化雰囲気もしくはオゾン雰囲気中で加熱酸化(180〜250℃)させて酸化膜を形成した。酸化膜厚の制御は、酸化ガス量と熱処理温度で制御し、概ね10nm〜15nmの酸化膜とした。
高い平滑度が要求される場合は、軟磁性膜を研磨加工後に前記酸化処理を行った。
【0060】
軟磁性裏打ち層が形成されたSi基板を、1kOeの静磁場を印加し、ネール温度より20℃上の温度で1時間保持後、0.5℃/分の速度で100℃まで連続的に磁場中冷却を行った。得られた軟磁性膜をコロイダルシリカにて研磨し、軟磁性裏打ち層全体として100〜500nm厚まで調厚した。該研磨膜について、カー効果で磁化曲線を測定した結果を表1に纏めた。また、得られた研磨面をカー効果で磁区観察を行ったが、何れも明瞭な磁区は観察されなかった。図8に周方向異方性膜の磁区測定結果の一例を示す。ただし本例では、内径保持治具の影響で内径側に一部磁壁が観察されているが、これは治具の改良によりなくすことができた。面内径方向の磁化飽和磁場強度(Hd)と面内周方向の磁化飽和磁場強度(Hc)との差(δH=Hd−Hc)が概ね10エルステッド(Oe)以上の異方性が得られている。なお、保磁力は何れの軟磁性膜においても略5エルステッド以下の良好な軟磁気特性を示した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2中、Subは基板、NLは核付け膜、FM−は強磁性−、NM−は非磁性−、SoftFM−は軟磁性−、SULは軟磁性裏打ち膜、AFLは反強磁性膜を表す。基板の上に、膜構成に記載されている順にしたがって積層した。膜構成中の後ろの数字は膜厚(nm)を表す。
【0063】
製造例2
実施例7で得られた軟磁性裏打ち層上に垂直磁気記録層をスパッタ成膜した。スパッタリング条件は、基板温度を180℃に維持した状態で、先ずRu膜を8nm形成し、このRu膜上に、Co:Cr:Pt=76:19:5(質量%)とSiO2の同時スパッタにより、の組成の磁性膜を厚み12nm成膜して磁気記録層を得た。この磁気記録層の保磁力(VSM)は、膜面と垂直な方向の保磁力が4kOeであった。この磁気記録層上に厚み8nmのアモルファスカーボンを被覆し、さらにディップ法によりフッ素潤滑膜を塗布して垂直磁気記録媒体を得た。
この垂直磁気記録媒体をスピンスタンドに設置してDCイレーズを実施した後、浮上高10nmのナノスライダーヘッドにより書き込みを実施して再生信号の測定を行った。エンベローブパターン中にスパイクノイズは認められなかった。また、そのS/N比の平均レベルは23dBと良好であった。その他の軟磁性裏打ち層上に同じ成膜を行った場合も、スパイクノイズは観察されなかった。
【0064】
比較製造例1
実施例7の膜構成で、反強磁性膜NiOの代わりにCrを反強磁性膜として同じ10nm成膜をスパッタ法で行った。Crのネール温度は312K(38℃)であり、ネール温度が低いため十分な交換結合力が得られず、記録膜を成膜したメディアでスパイクノイズが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、低ノイズで良好な信号再生特性を有する垂直磁気記録媒体の製造に適する基板及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】非磁性基板としてSi基板を用い、核付け膜を設けた、本発明の垂直二層式磁気記録媒体の基本的な層構造を説明するための断面概略図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体用基板に設けられる、各種の多層軟磁性裏打ち層の概念図である。
【図3】(a)は、磁石間の空隙における磁場方向が、径方向に軸対称になるように永久磁石を配置した本発明の磁気回路の一態様を示す模式的斜視図、(b)は、未処理試料を支持棒に通し磁気回路にセットした状態での(a)に示す磁気回路のB−B断面での断面図である。
【図4】(a)は、磁石間の空隙における磁場方向が、周方向に軸対称になるように永久磁石を配置した本発明の磁気回路の一態様を示す模式的斜視図、(b)は、未処理試料を支持棒に通し磁気回路にセットした状態での(a)に示す磁気回路のB−B断面での断面図である。
【図5】試料を回転することにより(a)径方向、または、(b)周方向に軸対称な異方性を付与することができる本発明の磁気回路の一態様を示す模式的斜視図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体用基板の磁場中熱処理に用いられる磁気回路例である。
【図7】本発明の磁気記録媒体用基板の軟磁性裏打ち層ノイズ測定例(径方向異方性軟磁性裏打ち層の1トラック分のデータ)である。
【図8】本発明の磁気記録媒体用基板のカー効果による磁区観察例(周方向異方性)を示す。
【図9】水平磁気記録方式ハードディスクの一般的な積層構造を説明する断面概略図である。
【図10】軟磁性裏打ち層の上に垂直磁気記録のための記録層を設けた垂直二層式磁気記録媒体の基本的な層構造を説明するための断面概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1、101、111 非磁性基板
2 102、112 核付け膜
3、103、113 軟磁性裏打ち層
4 中間膜
5、105、115 磁気記録層
6、106、116 保護層
7、107、117 潤滑層
81a,81b、91 磁化方向
82、92 永久磁石
83、93 被処理基板
84、94 磁極面
85 切り欠け部
86 支持棒
87 磁気回路の仮想中心軸
88 非磁性支持板
95 磁石側面
96 試料回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径90mm以下で中心穴を有した円板形状の非磁性基板の上に軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体用基板であって、該軟磁性裏打ち層が、順序を問わない、めっき法を用いて形成された少なくとも一つの軟磁性膜と、少なくとも一つの反強磁性膜から構成され、周もしくは径方向磁気異方性を有する磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
上記反強磁性膜の少なくとも一つが、Cr又はMnを含有する合金の膜又は自然酸化以外の金属酸化膜であり、上記軟磁性膜と交換結合しており、ネール温度が100℃以上で、膜厚が5nm以上50nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
上記金属酸化膜が、上記軟磁性膜の少なくとも一つを表面酸化した膜である請求項2に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項4】
直径90mm以下で中心穴を有した円板形状の非磁性基板の上に軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体用基板の製造方法であって、どちらを先に行ってもよい、めっき法を用いて軟磁性膜を形成する段階を少なくとも一つと、反強磁性膜を形成する段階を少なくとも一つとを含む軟磁性裏打ち層の形成工程と、該軟磁性裏打ち層に周もしくは径方向磁気異方性を付与する工程を含んでなる磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項5】
上記反磁性膜を形成する段階の少なくとも一つが、めっき法を用いて行われる請求項4に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項6】
上記反強磁性膜を形成する段階の少なくとも一つが、上記めっき法を用いて形成された軟磁性膜の表面を酸化させることを含む請求項4に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項7】
上記めっき法を用いて形成された軟磁性膜の表面の酸化が、酸化剤溶液中、又は酸化雰囲気下で行われる請求項6に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板を用いた垂直記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−176846(P2008−176846A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8074(P2007−8074)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】