説明

磁気記録媒体用支持体およびそれを用いたデータストレージ用テープ

【課題】寸法安定性に優れるだけでなく、走行耐久性や電磁変換特性にも優れる、特に高記憶容量のデータストレージ用テープのベースフィルムとして好適な磁気記録媒体用支持体の提供。
【解決手段】ポリエステル層F1(F1層)の片面にポリエステル層F2(F2層)が積層された積層フィルムと、その両面に積層された厚みが5〜200nmの金属類または金属系無機化合物の層(M1層とM2層)とからなる支持体であって、
F1層は、ポリエステルの固有粘度が0.55dl/g以上で、末端カルボキシル基濃度が30eq/106g以上で、かつ平均粒径が50〜1000nmの不活性粒子を含有し、その含有量がF2層より0.001重量%以上多い磁気記録媒体用支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データストレージ用テープなどのベースフィルムとして用いる磁気記録媒体用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
2軸配向ポリエステルフィルムを用いた磁気記録媒体用支持体は、デジタルビデオ用テープや、コンピュータのバックアップ用テープ(以後、データテープという)などに用いられている。近年、磁気テープ、特に高密度に磁気記録を行うデータテープにおいては、データトラックが非常に狭幅化したことによって、テープ走行・保存時のわずかな熱的・力学的寸法変化や、データを記録する際と読み取る際の温湿度環境の違いにより、データの再生不良を引き起こす問題が生じてきた。従って、高密度記録に対応する磁気記録媒体には、温湿度環境変化やテープドライブの張力などに対して高い寸法安定性が要求され、特にリニア記録方式のデータテープでは、テープ幅方向に高い寸法安定性が要求された。
【0003】
従来、磁気テープの素材としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)とならんで、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)が用いられてきたが、高密度記録の磁気テープのベースフィルムに求められる寸法安定性の要求はますます厳しくなってきており、それだけでは不十分であった。そこで、上記の寸法安定性の要求に応え得るベースフィルムとして、ポリエステルフィルムに金属類または金属系無機化合物からなるM層を設けた磁気記録媒体用支持体が提案されている(特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、このように強化膜を設けることで寸法安定性は向上するものの、強化膜の形成時やそのあとの保管時に、粒子含有量の多いポリエステル側に積層された強化膜の一部が浮き上がり、走行時に削り取られて走行耐久性や電磁変換特性を損なうなどの問題があった。
また、このような問題は、磁性層が薄くなるほど顕著に影響するため、特に記憶容量が1TB以上であるデータストレージのベースフィルムにおいて、重要な問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−346865号公報
【特許文献2】特開2006−216194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、寸法安定性に優れるだけでなく、走行耐久性や電磁変換特性にも優れる、特に記憶容量が1TB以上であるデータストレージのベースフィルムとして好適な磁気記録媒体用支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究したところ、表面粗さの粗い表面側のポリエステル層(F1層)の表面にオリゴマーが析出してきたり、含有する不活性粒子などが凝集したりして、F1層側に形成した金属類または金属系無機化合物からなる膜(M1層)の表面に大きな粗大突起が形成され、それが影響しているのではないかと考えた。そこで、F1層のポリエステルについて、鋭意研究したところ、特定の固有粘度と末端カルボキシル基量を満足するポリエステルとしたとき、極めて走行耐久性や電磁変換特性に優れた磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、ポリエステル層F2(F2層)の片面にポリエステル層F1(F1層)が積層された積層ポリエステルフィルムと、その両面に積層された厚みが5〜200nmの金属類または金属系無機化合物の層(M2層とM1層)とからなる支持体であって、
F1層は、ポリエステルの固有粘度が0.55dl/g以上で、末端カルボキシル基濃度が30eq/106g以上で、かつ平均粒径が50〜1000nmの不活性粒子を含有し、その含有量がF2層より0.001重量%以上多い磁気記録媒体用支持体が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、F2層側に積層されたM2層の露出面の表面粗さ(Ra2)が1〜5nmで、F1層側に積層されたM1層の露出面の表面粗さ(Ra1)がRa2よりも大きく、かつ3〜10nmの範囲にあること、F1層およびF2層のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであること、M1層およびM2層が、それぞれF1層およびF2層と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種のバインダー樹脂を含有する被膜層(C層)を介して積層されていること、塗膜層(C層)が粒径5〜50nmの微細粒子を含有し、塗膜層表面における粒子の頻度が100万〜1億個/mmであることの少なくともいずれか一つを具備する磁気記録媒体用支持体も提供される。
【0010】
さらにまた、本発明によれば、上記本発明の磁気記録媒体用支持体と、そのM2層側の表面に形成された磁性層とからなるデータストレージ用テープ、さらには磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式であるデータストレージ用テープも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁気記録媒体用支持体を用いれば、記憶容量が1TB以上のような高記録容量のデータストレージ用テープのベースフィルムに用いたときに、寸法安定性に優れるだけでなく、走行耐久性と電磁変換特性にも優れたデータストレージ用テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、詳述する。
本発明の磁気記録媒体用支持体は、ポリエステル層F2(F2層)の片面にポリエステル層F1(F1層)が積層された積層ポリエステルフィルムと、その両面に積層された厚みが5〜200nmの金属類または金属系無機化合物の層(M2層とM1層)とからなる。
【0013】
前記F1層およびF2層を形成するポリエステルとしては、フィルムに製膜可能なポリエステルであれば、特に制限されないが、芳香族ポリエステルが好ましく、F1層とF2層のポリエステルは異なる種類のポリマーであっても良いが、カールや剥離などを抑える観点から同じ種類であることが好ましい。
【0014】
前記芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナ
フタレンジカルボキシレート)などが例示でき、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などを共重合したものも好ましく挙げられる。
【0015】
これらポリエステルは、ホモポリエステルであっても、コポリエステルであっても良く、コポリエステルの場合の共重合成分としては、それ自体公知のものを採用できる。その共重合量は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されないが、繰り返し単位のモル数を基準として、20モル%以下、さらには10モル%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明で重要なことは、積層ポリエステルフィルムを形成する2つのフィルム層(F1層およびF2層)のうち、不活性粒子の含有量が多いフィルム層、すなわちF1層を構成するポリエステルを、固有粘度が0.55dl/g以上で、末端カルボキシル基濃度が30eq/106g以上のポリエステルとしたことにある。
【0017】
前記F1層のポリエステルの固有粘度が下限に満たない場合、オリゴマー等のブリードアウトや突起の脱落が酷くなり、これらが反対面に転写して平滑性を損なうというトラブルを生じ易くなる。好ましいF1層のポリエステルの固有粘度は、0.57dl/g以上、特に0.60dl/g以上である。F1層のポリエステルをこのような固有粘度の範囲にするには、原料ポリマーの固有粘度を高くしておく方法や、溶融押出し条件のマイルド化(ポリマー劣化をできるだけ抑制する押出し条件の採用)等が有効である。なお、F1層における固有粘度の上限は特に制限されないが、製膜性などの観点から1.0dl/g以下、さらに0.8dl/g以下、特にが好ましい。
【0018】
また、本発明におけるF1層は、前述のとおり、ポリマーの末端カルボキシル基濃度が30eq/106g以上である。好ましい末端カルボキシル基濃度の上限は、60eq/106g以下である。さらに好ましい末端カルボキシル基濃度は34〜60eq/106gであり、特に36〜55eq/106gである。この末端カルボキシル基濃度が下限に満たないと、含有する不活性粒子との親和性が劣り、不活性粒子の凝集などにより表面の欠陥が生じたり、フィルム製造時またはM層を形成する工程で不活性粒子の脱落が生じたりする。その結果、磁性層を形成する側の表面の平坦性などが損なわれてしまう。なお、この末端カルボキシル基濃度が過度に多くなると、不活性粒子に対する親和性はより一層向上するが、F1層の表面にM層を形成する際に、表面の平坦性が損なわれることがあるので、前述のとおり、60eq/106g以下であることが好ましい。このような末端カルボキシル基濃度の範囲にするには、例えば、重縮合終了後にポリマーを溶融保持する方法や、重縮合を末端カルボキシル基濃度が通常より多くなる条件で行う等を例示できる。
【0019】
本発明におけるF1層は、F2層よりも平均粒径が50〜1,000nmの不活性粒子を、各フィルム層の重量を基準として、0.001重量%以上多く含有する必要がある。このF1層の不活性粒子の含有量が、F2層の含有量よりも少ない場合、積層ポリエステルフィルムの製造工程やM層の形成工程でブロッキングなどの問題が生じる。該不活性粒子の平均粒径は50〜1,000nm、好ましくは100〜800nm、さらに好ましくは150〜700nm、特に好ましくは200〜600nmである。そして、該不活性粒子の含有量は、F1層に対し、0.05〜1重量%、好ましくは0.06〜0.8重量%、さらに好ましくは0.07〜0.6重量%、特に好ましくは0.08〜0.4重量%である。
【0020】
F1層に含有させる不活性粒子としては、それ自体公知の不活性粒子が好適に使用でき、例えば架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイアモンド、カオリンまたはクレーなどが挙げられる。これらの中でもF1層の末端カルボキシル基との反応で親和性をより一層向上しやすい水酸基が粒子表面上に多く存在する不活性粒子が好ましく、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル樹脂、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、カオリン及びクレーから選ばれる不活性粒子が好ましく、特に粒度分布が比較的シャープで均一な突起を形成しやすいことから、真球状の架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、二酸化ケイ素などの粒子が好ましい。これら不活性粒子は、1種に限らず、2種以上を併用してもよい。例えば、不活性粒子として平均粒径の違う2種以上の粒子を用いる場合、小さい平均粒径の第2、第3の粒子(微細粒子)として、例えばコロイダルシリカ、α、γ、δ、θなどの結晶形態を有するアルミナなどの微粒子を用いてもよい。
【0021】
本発明におけるF2層は、磁性層を形成する側の表面に配される層である。F2層はF1層ほど不活性粒子を大量に含有しないので、ポリマーの固有粘度をあまり高くする必要はないが、それでも0.45dl/g以上、さらに0.47dl/g以上、特に0.50dl/g以上であることが好ましい。このF2層におけるポリマーの固有粘度が下限未満の場合、オリゴマー等のブリードアウトや製膜巻取り工程での破断等が生じやすくなる。
【0022】
F2層におけるポリマーの固有粘度を0.45dl/g以上にする方法としては、原料ポリマーの固有粘度を0.45dl/gよりもやや高くしておくことや、溶融押出し条件のマイルド化(ポリマー劣化をできるだけ抑制する押出し条件の採用)等が好適に用いることができる。
【0023】
本発明におけるF2層は、実質的に粒子を含有しないものでもよく、不活性粒子を含有するものでもよい。F2層が実質的に不活性粒子を含有しない場合、磁気記録媒体としたとき優れた電磁変換特性が得られるが、オリゴマーなどのブリードアウトや電磁変換特性に悪影響を与えない範囲の不活性粒子を含有させると、走行耐久性の向上を図ることができる。具体的には、体積形状係数0.1〜π/6、平均粒径30〜400nmの不活性粒子を、F2層に対し、0.001重量%以上0.05重量%未満含有させることが好ましい。具体的な不活性粒子としては、前述のF1層で説明したのと同様な不活性粒子が好適に挙げられる。
【0024】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、F1層およびF2層のそれぞれの表面に金属類または金属系無機化合物からなるM1層(F1層の表面に形成された層)とM2層(F2層の表面に形成された層)を有する。M1層およびM2層を有することで、積層ポリエステルフィルムのみからなる磁気記録媒体用支持体に比べ、温湿度環境変化および荷重による寸法変化の好ましい範囲を両立することが容易となる。ここで、金属類とは、いわゆる単体金属、半金属、合金、金属間化合物を表し、具体的には、例えば単体金属ではMg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Sn、Pt、Au、Pb、半金属ではC、Si、Ge、Sb、Teなどが挙げられ、これらの金属の数種を混ぜ合わせて合金や金属間化合物としてもよい。また、金属系無機化合物としては、例えば、上記金属類の酸化物や窒化物、炭化物、ホウ化物、硫化物などを用いることができる。具体的には、例えば、CuO、ZnO、Al、SiO、Fe、Fe、AgO、TiO、MgO、SnO、ZrO、InOなどの酸化物、Si、TiN、ZrN、GaN、TaN、AlNなどの窒化物、TiC、WC、SiC、NbC、ZrC、FeCなどの炭化物が挙げられる。また、上記の金属系無機化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、もちろん複数種を混合して用いても構わない。これらの中でも、M1層およびM2層を構成する金属材料は経済性の観点からアルミニウムや珪素を含むことが好ましい。
【0025】
M1層およびM2層の形成方法としては物理蒸着法や化学蒸着法を用いることができる。物理蒸着法には真空蒸着法、スパッタリング法があり、真空蒸着法が一般的である。特に金属層の結晶粒径を小さく緻密にするためには蒸着物の運動エネルギーを高める必要がある。そのため電子ビーム蒸着やスパッタリング法が好ましい。
【0026】
M1層およびM2層の厚みは、それぞれ5〜200nmが好ましく、より好ましくは10〜150nm、最も好ましくは20〜100nmである。この範囲にすることでM1層およびM2層の金属の結晶粒径を細かくすることができ、補強効果の向上と、表面平滑性への悪影響がないなどの条件を満足し易いため好ましい。厚みが下限未満の場合、M1層およびM2層の金属の結晶形成が不完全となるため、強度を増加させる効果が小さくなり、本発明の寸法安定性向上の効果が小さくなることがある。一方、M1層およびM2層の厚みが上限を超える場合はクラックや粒界ができやすく、磁気記録媒体の表面が粗くなって電磁変換特性が悪化したり、M層が製造工程や、走行を繰り返す際に剥離や脱落が起こり易く、生産性が低下することがある。
【0027】
本発明の磁気記録媒体用支持体において、磁気記録テープとしたときのカッピングやカールを抑制する観点から、M1層およびM2層の厚みはできる限り等しいことが望ましいが、積層ポリエステルフィルムがもともと有するカッピングやカールの影響を打ち消すように、多少厚みを異ならしても良い。そのような観点から、M1層とM2層の厚みの比は、0.8〜1.25の範囲にあることが好ましい。
【0028】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、長手方向のヤング率が5〜20GPaの範囲にあることが好ましい。さらに好ましい支持体の長手方向のヤング率は5.5〜18GPa、特に6.0〜15GPaである。長手方向のヤング率が下限未満だと、磁気記録テープとして使用するときに生じる張力の変動で、幅方向の寸法変化が発生しやすくなる。他方、長手方向のヤング率が上限を超えると、幅方向のヤング率を範囲内に維持することが困難となり、ヘッドとの接触状態を安定に保つのが困難となりやすい。
【0029】
また、本発明の磁気記録媒体用支持体は、幅方向のヤング率が、8〜20GPa、さらに9〜18GPa、特に10〜16GPaの範囲にあることが好ましい。支持体の幅方向のヤング率が下限未満だと、磁気ヘッドとの接触状態が不安定化するため電磁変換特性が悪化しやすくなる。他方、支持体の幅方向のヤング率が上限を超えると、支持体の長手方向のヤング率が乏しくなりやすい。
【0030】
支持体の長手方向のヤング率(YMD)と幅方向のヤング率(YTD)の比、YMD/YTDは0.5〜1.0であることが、上述のヘッドとの安定接触と、張力変動による長手方向の変形抑制を両立できる点から好ましい。より好ましいYMD/YTDの範囲は0.55〜0.9、特に好ましくは0.6〜0.8である。
【0031】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、その幅方向の温度膨張係数が、0ppm/℃未満〜−5ppm/℃以上の範囲にあることが好ましい。より好ましい磁気記録媒体用支持体の幅方向の温度膨張係数は、上限が−1ppm/℃以下であり、下限が−4ppm/℃以上、さらに−3ppm/℃以上である。一般的に磁気記録装置に用いられている磁気ヘッドの温度膨張係数は7ppm/℃前後である。支持体の幅方向の温度膨張係数が0ppm/℃以上の場合には、磁気テープとしたときの幅方向の温度膨張が磁気ヘッドの温度膨張よりも大きくなりすぎるため、磁気データを記録・再生する環境が低温から高温に変化した際に、テープの幅方向に磁気ヘッドに対して相対的に膨張し、再生不良を起こしやすい。また、支持体幅方向の温度膨張係数が−5ppm/℃より小さい場合には、フィルムの温度膨張が磁気ヘッドの温度膨張よりも小さすぎるため、低温から高温に変化した際に、テープの幅方向に磁気ヘッドに対して相対的に収縮し、再生不良を起こしやすくなる。
【0032】
このような幅方向の温度膨張係数は、M1層およびM2層の材質や厚み、さらにM1層およびM2層を設ける積層ポリエステルフィルムの幅方向の温度膨張係数とヤング率によって調整できる。具体的には、積層ポリエステルフィルムの幅方向の温度膨張係数は、その方向の分子鎖の配向を高めること、すなわち延伸倍率を高くすることなどによって小さくできる。そして、M層は積層ポリエステルフィルムと比較して非常に大きな値のヤング率を有しており、また材質によっては大きな温度膨張係数を有することから、使用するF層の温度膨張係数がマイナスサイドにある場合は、温度膨張係数の大きなM層を使用したり、M層の厚みを厚くし、他方使用するF層の温度膨張係数がさほどマイナスサイドにない場合は、温度膨張係数の小さなM層を使用したり、M層の厚みを薄くするなど組合せによる最適化も可能である。
【0033】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、M2層の表面、すなわち磁性層を形成する側の表面の表面粗さRa2が、1〜5nm、さらに2〜4.5nmの範囲にあることが好ましい。Ra2が上限より大きいと、高密度磁気記録媒体として十分な電磁変換特性を得られにくい。また、Ra2が下限未満だと、搬送工程や、テープ走行中に、搬送不良のトラブルを引き起こしたり、走行面の突起が転写したり、走行中にゴミによる傷が付きやすくなったりする。このようなM2層の表面粗さは、F2層の表面粗さやM2層の厚さで制御することが可能である。Ra2を好ましい範囲に制御するためには、F2層の表面粗さは、1〜7nm、さらに2〜5nmの範囲にあることが好ましく、前述の不活性粒子の平均粒径や含有量で調整できる。金属層の厚みは前記のとおりであり、厚みが厚いほど、表面が粗くなりやすい。
【0034】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、M1層の表面、すなわち磁性層を形成しない側の表面の表面粗さRa1は、前述のRa2より大きく、好ましくは1nm以上大きく、3〜10nm、さらに4〜8nm、特に5〜7nmの範囲にあることが好ましい。Ra1が上限より大きいと、保存中に磁性面側へ転写が起こり、磁性面側の表面粗さが粗くなることがある。また、Ra1が下限未満だと、テープの走行性が低下し、ドライブ中で走行不良を引き起こすことがある。このようなM1層の表面粗さは、F1層の表面粗さやM1層の厚さで制御することが可能である。Ra1を好ましい範囲に制御するためには、F1層の表面粗さは、3〜12nm、さらに5〜10nmの範囲にあることが好ましい。金属層の厚みは前記のとおりであり、厚みが厚いほど、表面が粗くなりやすい。
【0035】
本発明の磁気記録媒体用支持体の全厚みは、2.0〜6μmが好ましい。より好ましくは2.5〜5.5μm、さらに好ましくは3〜5μm、特に好ましくは3.5〜4.5μmである。厚みが下限より薄いと、テープに腰がなくなるため、電磁変換特性が低下する。他方、厚みが上限を超えると、テープ1巻あたりのテープ長さが短くなるため、磁気テープの小型化、高容量化が困難になりやすい。
【0036】
ところで、本発明の磁気記録媒体用支持体は、前述のM1層およびM2層が、それぞれF1層およびF2層と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種のバインダー樹脂を含有する塗膜層を介して積層されていることが好ましい。特に好ましいのはアクリル変性ポリエステル樹脂である。アルキッド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などに比べ、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびアクリル−ポリエステル樹脂のいずれかを選択することで、積層ポリエステルフィルムに対する密着性、突起保持性、易滑性などをより高度に具備させることができる。これらのポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびアクリル−ポリエステル樹脂は、水溶性もしくは水分散性(多少の有機溶剤を含有していても良い)であることが塗膜層の形成などの点から好ましい。このような塗膜層の存在により、積層ポリエステルフィルムの表面に出てくるオリゴマーの析出による問題や、積層ポリエステルフィルム中の粒子の脱落を抑制できる。
【0037】
前記水溶性もしくは水分散性のポリエステル樹脂について、さらに説明する。該ポリエステル樹脂を構成する酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、コハク酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸を例示できる。また、該ポリエステル樹脂を構成するヒドロキシ化合物成分は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロパン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物を例示できる。該ポリエステル樹脂は、これらの多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物から常法によってつくることができる。特に水性塗料をつくる点から、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分またはカルボン酸塩基を含有する水分散性または水溶性ポリエステル樹脂が好ましい。かかるポリエステル樹脂は分子内に官能基を有する自己架橋型とすることができるし、メラミン樹脂、エポキシ樹脂のような硬化剤を用いて架橋してもよい。
【0038】
前記水溶性もしくは水分散性のアクリル樹脂について、説明する。該アクリル樹脂の製造に用いるアクリル成分は、アクリル酸エステル(アルコール残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基などを例示できる);メタクリル酸エステル(アルコール残基は上記と同じ);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2ーヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの如きヒドロキシ含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N’−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドなどの如きアミド基含有モノマー;N,N’−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N’−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの如きアミノ基含有モノマーなどを挙げることができる。これらモノマーは、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸およびそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)などの如きスルホン酸基またはその塩を含有するモノマー;クロトン酸、イタコン酸、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、およびそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)などの如きカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの無水物を含有するモノマー;その他ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アリルグリシジルエーテルなどの単量体と組合せて用いることができる。この場合、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体の如き(メタ)アクリルモノマーの成分が50モル%以上含まれているのが好ましく、特にメタクリル酸メチルの成分を含有しているものが好ましい。かかる水溶性もしくは水分散性のアクリル樹脂は分子内の官能基で自己架橋することができるし、メラミン樹脂やエポキシ化合物などの架橋剤を用いて架橋することもできる。
【0039】
本発明において、水溶性または水分散性のアクリル−ポリエステル樹脂は、アクリル変性ポリエステル樹脂とポリエステル変性アクリル樹脂とを包含するものである。具体的には、アクリル樹脂成分とポリエステル樹脂成分とが、互いにグラフトタイプやブロックタイブなどの形態で結合したものである。アクリル−ポリエステル樹脂は、例えばポリエステル樹脂の両端にラジカル開始剤を付加してアクリル単量体の重合を行わせたり、ポリエステル樹脂の側鎖にラジカル開始剤を付加してアクリル単量体の重合を行わせたり、あるいはアクリル樹脂の側鎖に水酸基を付け、末端にイソシアネート基やカルボキシル基を有するポリエステルと反応させて櫛形ポリマーとするなどによって製造できる。
【0040】
該アクリル−ポリエステル樹脂を構成する成分は、前記の水溶性もしくは水分散性のアクリル樹脂または水溶性または水分散性のポリエステル樹脂で例示したものを、同様に挙げることができる。
【0041】
ところで、M2層とF2層およびM1層とF1層との間に介在する塗膜層は、バインダー樹脂のほかに、微細粒子を含有することが好ましい。本発明において、塗膜層を構成する微細粒子は、ポリスチレン、ポリスチレン―ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート共重合架橋体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーンなどの有機質、または、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、グラファイトなどの無機質などからなる粒子を好ましく挙げることができる。また、微細粒子の内外部が、それぞれの性質の異なる材質で構成される多層構造のコアシェル型粒子を用いてもよい。上記微細粒子の平均粒径は、走行性と平坦性との観点から、3nm以上50nm以下、さらに5nm以上30nm以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
本発明におけるF2層の表面に形成された塗膜層の表面(以下、F2層側塗膜層表面と称することがある。)の微細粒子による突起の頻度は、100万個/mm以上1億個/mm以下、さらに100万個/mm以上3000万個/mm以下、特に300万個/mm以上2000万個/mm以下であることが走行性などの点から好ましい。
【0043】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、高い寸法安定性を必要とする磁性層が塗布型のデジタル信号をリニア記録方式で記録する磁気記録テープの支持体として好ましく用いられる。中でも、LTOやDLTなどのデータストレージ用高密度磁気記録用テープに適したものである。
【0044】
つぎに、本発明の磁気記録媒体用支持体の製造方法について、まずは積層ポリエステルフィルムの製造方法から説明する。まず、本発明におけるポリエステルの合成方法は、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。
【0045】
また、不活性粒子を含有させる方法については、粗大粒子などをフィルターなどによって低減し、それを重合工程で添加して粒子の含有量が多いマスターポリエステルを作成し、該マスターポリエステルを、粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが、不活性粒子の凝集による粗大突起を低減する上で好ましい。
【0046】
本発明における積層ポリエステルフィルムは、データストレージなどの高密度磁気記録媒体のベースフィルムに用いることから、二軸配向フィルムである。二軸配向フィルムは、上述のポリエステルを溶融状態で押出し、二軸方向に延伸することで製造でき、製膜方法などはそれ自体公知のものを採用することができる。
【0047】
例えば、不活性粒子を含有させたF1層用のポリエステル組成物と、必要に応じて不活性粒子を含有させたF2層用のポリエステル組成物とを、ポリエステルの融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で各々押出し機より溶融押出しし、押出し口金内または口金以前(一般に、前者はマルチマニホールド方式、後者はフィードブロック方式と呼ぶ)で、積層複合し好適な厚み比の積層構造となし、次いで口金よりフィルム状に共押出ししたのち、20〜70℃の冷却ロールで急冷固化し、未延伸積層フィルムを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−10)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向とは直角方向(一段目延伸が縦方向の場合には、二段目延伸は横方向となる)に(Tg)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸する。さらに、必要に応じて、縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。すなわち、2段、3段、4段あるいは多段の延伸を行うとよい。全延伸面積倍率としては、通常9倍以上、好ましくは10〜35倍、さらに好ましくは12〜30倍である。
【0048】
なお、前述の塗膜層は、積層ポリエステルフィルムを製膜した後に塗布して形成しても良いが、接着性や均一性の点から、積層ポリエステルフィルムの最終の延伸が終わるまでの間、好ましくは未延伸フィルムもしくは1軸延伸フィルムに塗液を塗布して乾燥し、延伸するのが好ましい。
【0049】
さらに、前記二軸配向フィルムは(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、180〜250℃で熱固定結晶化することによって、優れた寸法安定性が付与される。その際、熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0050】
つづいて、前述の方法で作成した積層ポリエステルフィルムにM層(M1層およびM2層)を設ける方法について説明する。なお、ここでは、真空蒸着法を用いた製造方法の例を挙げる。
【0051】
真空蒸着装置内に設置されたフィルム走行装置に、ポリエステルフィルムをセットし、真空蒸着を行う。1.00×10−5〜1.00×10−1Paの高真空で蒸着することが好ましい。0〜50℃の冷却金属ドラムを介して、走行させ、蒸着物を加熱蒸発させ、フィルムの両面に形成して巻取る。フィルム走行速度は、10〜200m/分が好ましく、より好ましくは、50〜150m/分である。走行速度が上記範囲を外れる場合には、M層の厚みを好ましい範囲に設定することが困難となったり、生産性が劣る場合がある。両面へのM層の形成方法は、同一の真空層内に2つの加熱蒸着装置と冷却ドラムを設けて、1パスで両面を蒸着することが好ましいが、一度片面に蒸着を行ない、巻き取った後に、再びもう一方の面にM層を設ける2パスで行っても良い。2パスの場合は勿論であるが、1パスの場合でも、M層を設ける順序としては、磁性層側、バックコート層側とした方が、カッピングを抑制できるため好ましい。
【0052】
さらに、上記の方法で磁気記録媒体支持体を作製した後、エージング処理を行うことが、クリープ変形を抑制し、寸法安定性を向上するために好ましい。処理温度は100〜120℃が好ましく、処理時間は10〜40時間が好ましく、より好ましくは、15〜20時間である。上記、エージング処理の好ましい条件のなかでも、処理温度が低い場合は処理時間を長くとる方が好ましいし、処理温度が比較的高めの場合には処理時間は短い方がよい。この温度と時間の両方に関係する処理条件は、示差走査熱量測定(DSC)によって得られる積層ポリエステルフィルムのエンタルピー緩和のピーク面積を指標として表すことができ、ピーク面積ΔHは、0.5J/g〜1J/gが好ましい。
【0053】
エージング処理は、積層ポリエステルフィルムを作製した後、M層を設ける前に行うことも可能であるが、この場合、積層ポリエステルフィルムの長手方向の熱収縮率が低くなり、蒸着工程でキャンとの密着が低下して、表面が粗くなったり、オリゴマーがフィルム表面に析出して、蒸着工程トラブルを引き起こしやすい。このため、エージング処理は、M層を設けた後に行う方が好ましい。
【0054】
本発明の磁気記録媒体用支持体を用いた磁気記録テープとしては、磁性層−非磁性層−支持体―バックコート層がこの順で積層されたものであることが好ましく、磁性層の表面をより高度に平坦にしやすいことから、非磁性層の厚みは0.9〜1.1μm、磁性層の厚みは0.05〜0.25μmの範囲にあることが好ましい。また、磁気記録テープの走行性を高度に発現させやすいことから、バックコート層の厚みは0.3〜0.7μmの範囲にあることが好ましい。特に本発明の効果の点からは、磁気記録テープ中に占めるコート層(磁性層、非磁性層、バックコート層など)の厚みの割合は、15〜35%、さらに22〜30%の範囲にあることが好ましい。コート層の厚みが下限未満では、非磁性層などの厚みが薄くなり、磁性層の平坦化向上効果が乏しくなりやすく、他方上限を超えると寸法安定性の向上効果が損なわれやすくなる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル、ポリエステルフィルムおよびデータストレージ用テープの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0056】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度は、o-クロロフェノール、35℃で測定し、o−クロロフェノールでは均一に溶解するのが困難な場合は、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて35℃で測定して求めた。
【0057】
(2)末端カルボキシル基濃度(eq/106g)
A. Conix の方法に準じて測定した。(Makromol.Chem.26,226(1958))
【0058】
(3)中心面平均粗さ(Ra)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetroProにより中心面平均粗さ(Ra)を求めた。
【0059】
(4)不活性粒子の平均粒径
(4−1)フィルム中の添加粒子の粒径
株式会社島津製作所製「CP−50型セントリヒューグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)」を用いて測定した。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径「等価球直径」を読み取り、この値を上記平均粒径(nm)とする(「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247)。
【0060】
(4−2)塗膜中に添加した微細粒子の粒径
塗膜中に添加する微細粒子の粒径は、光散乱法を用いて測定した。すなわち、ニコンプインストゥルメント株式会社(Nicomp Instruments Inc.)製の商品名「NICOMP MODEL 270 SUBMICRON PARTICLE SIZER」により求められる全粒子の50%の点にある粒子の「等価球直径」をもって、平均粒径(nm)とする。
【0061】
(5)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点は、試料10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0062】
(6)ヤング率
得られた積層ポリエステルフィルムおよび支持体を試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0063】
(7)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0064】
(8)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0065】
(9)トラックずれ
支持体の表面M2側に、下記組成の磁性塗料と非磁性下層塗料とをエクストルージョンコーターにより重層塗布(上層は磁性塗料で、塗布厚0.1μm、非磁性下層の厚みは適宜変化させた。)し、磁気配向させ、乾燥させる。次いで反対面に、下記組成のバックコート層を形成した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理した後、60℃で、48時間キュアリングする。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、磁気テープとして、長さ850m分をリールに巻き取った。
【0066】
(磁性塗料の組成)
・強磁性金属粉末 :100重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 10重量部
・変成ポリウレタン : 10重量部
・ポリイソシアネート : 5重量部
・ステアリン酸 : 1.5重量部
・オレイン酸 : 1重量部
・カーボンブラック : 1重量部
・アルミナ : 10重量部
・メチルエチルケトン : 75重量部
・シクロヘキサノン : 75重量部
・トルエン : 75重量部
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) : 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm): 10重量部
・αアルミナ : 0.1重量部
・変成ポリウレタン : 20重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 30重量部
・シクロヘキサノン :200重量部
・メチルエチルケトン :300重量部
・トルエン :100重量部
【0067】
作成した磁気テープをテープ走行試験器にセットし、下記の1および2の条件に試験器ごと5時間保持した後、同条件下で走行させ、それぞれの条件での走行時のテープ幅をレーザー寸法測定器で測定して、両条件間でのテープ幅の変化を「トラックずれ」とした。条件1の温度、湿度、張力下でのテープ幅をL1(μm)、条件2の温度、湿度、張力下でのテープ幅をL2(μm)として、以下の式より「トラックずれ」を算出した。
条件1:10℃、10%RH、張力1N、
条件2:29℃、80%RH、張力0.7N、
トラックずれ=|L2−L1|/L1×10(ppm)
このトラックずれの値が少ないものほど、高密度記録磁気テープとして用いた際に、環境変化によるエラーが発生しにくく優れている。
【0068】
(10)ドロップアウト(DO) と走行耐久性
上記(9)で作成した磁気テープをLTO用カートリッジに巻き込み、IBM社製LTO4ドライブ(記録ヘッドはインダクティブヘッド、再生ヘッドはMRヘッドを搭載)に装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P−P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは850m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算した。ドロップアウトは、少ないほど優れた特性であることを意味する。
【0069】
また、磁気テープを50回繰り返し走行した後、上記測定を再度行い、繰り返し走行後のドロップアウトの増加率を求めた。得られたドロップアウトと走行後増加率に基づき、下記の基準で評価した。
(ドロップアウト)
◎:ドロップアウト個数が1個/m未満
○:ドロップアウト個数が1個/m以上、3個/m未満
△:ドロップアウト個数が3個/m以上、5個/m未満
×:ドロップアウト個数が5個/m以上、10個/m未満
××:ドロップアウト個数が10個/m以上
(走行耐久性)
◎:ドロップアウト増加率が5%未満
○:ドロップアウト増加率が5%以上、10%未満
△:ドロップアウト増加率が10%以上、25%未満
×:ドロップアウト増加率が25%以上、50%未満
××:ドロップアウト増加率が50%以上
【0070】
(11)塗膜層中の微細粒子の個数
塗膜層表面を走査型電子顕微鏡により5万倍の拡大倍率で10視野以上観察し、塗膜層に含有させた微細粒子に基づく突起が1mmあたり何個あるかを測定することにより、塗膜層中の微細突起の頻度を求めた。
【0071】
[実施例1]
平均粒子径が0.3μmの架橋ポリスチレン粒子(架橋PSt)を0.04重量%、平均粒子径が0.1μmの架橋ポリスチレン粒子(架橋PSt)を0.06重量%含有し、重合工程での溶融保持時間を調整し、固有粘度が0.69dl/gで末端カルボキシル基濃度が33eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)組成物(樹脂1)、平均粒子径が0.1μmの架橋ポリスチレン粒子(架橋PSt)を、0.03重量%含有し、固有粘度が0.58dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)組成物(樹脂2)を用意し、これらをそれぞれのフィルム層(F1層とF2層)を形成する別の2台の押出機に供給して300℃で溶融し、矩形の合流ブロックにて合流させた後にダイから溶融状態で回転中の温度20℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、未延伸積層フィルムとした。この際、F1層に樹脂1を、F2層に樹脂2を用い、F1層側を冷却ドラムと接触する側とした。次に、この未延伸積層フィルムを予熱ロールおよび赤外線ヒーターを用いて100℃に加熱し、低速、高速のロール間で縦方向に倍率3.6倍で延伸し、縦延伸フィルムとした。つづいて、この縦延伸フィルムの両面に、下記組成の塗液を乾燥後の膜厚が10nmとなるように塗布した。その後、塗液を塗布した縦延伸フィルムをステンターに供給し、120℃から170℃に昇温しながら、横方向に倍率5.5倍で延伸し、さらに、210℃にて5秒間熱固定処理を行ない、170℃で幅方向に2%弛緩させた後、冷却して厚さ4.4μmの二軸延伸積層フィルムを得た。
【0072】
塗液の組成(固形分濃度1重量%の水分散体で、下記重量%は固形分の重量が基準)
・バインダー(アクリル変性ポリエステル(高松油脂株式会社製、商品名:SH−551A)):83重量%
・微細粒子(架橋ポリスチレン粒子(平均粒径30nm、JSR株式会社製、商品名:SX8721)):7重量%
・界面活性剤(三洋化成株式会社製、商品名:ナロアクティーN−70):10重量%
【0073】
上記の方法で作成した二軸延伸積層フィルムの両面に、以下の方法で、M1層およびM2層を設けた。まず、真空蒸着装置内に設置されたフィルム走行装置に、得られた二軸延伸積層フィルムをセットし、1.00×10−3Paの高真空にした後に、20℃の冷却金属ドラムを介して走行させた。アルミニウムのターゲットを電子ビームで加熱蒸発させ、蒸着装置内に導入した酸素ガスで、M層中のアルミニウムと酸素の元素比が1:1.2となるように酸化させつつ、走行するフィルム上に蒸着することにより、アルミナ膜からなるM層を形成した。片面に蒸着後一旦巻き取ったロールを、蒸着面が逆になるように走行させつつ、同様に蒸着することにより、反対面にもM層を形成した。蒸着の順序は、M2層、M1層の順で行い、各M層の厚みは、電子ビームの強度と走行速度を調整することで、各々70nmとした。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0074】
[実施例2]
樹脂1を固有粘度0.73dl/g、末端カルボキシル基濃度が28eq/tのPET組成物に変更し、M1層およびM2層の厚みを、それぞれ表1の厚みになるように変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例3]
樹脂1を固有粘度0.65dl/g、末端カルボキシル基濃度が38eq/tのPET組成物に変更し、M1層およびM2層の厚みを、それぞれ表1の厚みになるように変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0076】
[実施例4]
塗液中の微細粒子の割合を表1に示す突起数になるように減らし、塗膜層の厚みを表1に示すように変更し、さらにM1層およびM2層を形成するために用いるターゲットをアルミニウムから二酸化ケイ素に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
樹脂1を固有粘度0.65dl/g、末端カルボキシル基濃度が38eq/tのポリエチレン−2,6−ナフタレートに変更し、樹脂2を固有粘度0.58dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートに変更し、冷却ドラムの温度を60℃、縦延伸温度を125℃、縦延伸倍率を4.5倍、横延伸温度の最初の温度を140℃、横延伸の最終温度を180℃、横延伸倍率を6倍に変更し、さらにM1層およびM2層を形成するために用いるターゲットをアルミニウムから二酸化ケイ素に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
樹脂1の固有粘度を0.58dl/gに変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
重合工程での溶融保持時間を短縮し、樹脂1を固有粘度を0.72dl/gで末端カルボキシル濃度が20eq/tのPET組成物に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0080】
[比較例3]
塗膜層を設けなかったほかは、比較例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0081】
[比較例4]
M1層の厚みを40nmに変更し、M2層を設けなかったほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気テープの特性を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1中の、MDは製膜方向、TDは幅方向、AlO1.2はアルミニウムと酸素の元素費が1:1.2の不完全酸化アルミナ、SiOは二酸化ケイ素を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層F1(F1層)の片面にポリエステル層F2(F2層)が積層された積層ポリエステルフィルムと、その両面に積層された厚みが5〜200nmの金属類または金属系無機化合物の層(M1層とM2層)とからなる支持体であって、
F1層は、ポリエステルの固有粘度が0.55dl/g以上で、末端カルボキシル基濃度が30eq/106g以上で、かつ平均粒径が50〜1000nmの不活性粒子を含有し、その含有量がF2層より0.001重量%以上多いことを特徴とする磁気記録媒体用支持体。
【請求項2】
F2層側に積層されたM2層の露出面の表面粗さ(Ra2)が1〜5nmで、F1層側に積層されたM1層の露出面の表面粗さ(Ra1)がRa2よりも大きく、かつ3〜10nmの範囲にある請求項1記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項3】
F1層およびF2層のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである請求項1記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項4】
M1層およびM2層が、それぞれF1層およびF2層に、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種のバインダー樹脂を含有する塗膜層を介して積層されている請求項1記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項5】
塗膜層が粒径5〜50nmの微細粒子を含有し、塗膜層表面における粒子の頻度が100万〜1億個/mmである請求項4記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体用支持体と、そのM2層側の表面に形成された磁性層とからなるデータストレージ用テープ。
【請求項7】
磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式である請求項6記載のデータストレージ用テープ。

【公開番号】特開2011−150744(P2011−150744A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8982(P2010−8982)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】