説明

磁気記録媒体用支持体および磁気記録媒体

【課題】幅方向の湿度膨張係数が小さく、優れた寸法安定性を具備する磁気記録媒体用支持体の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム層(F層)の少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる強化膜層(M層)が設けられた磁気記録媒体用支持体であって、
フィルムの長手方向および幅方向の湿度膨張係数が、0〜5ppm/%RHである磁気記録媒体用支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルデータ用高密度磁気記録テープなどのベースフィルムに好適に用いることができる熱可塑性樹脂フィルムと金属系強化膜層とからなる磁気記録媒体用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気テープ、特に高密度に磁気記録を行うデータテープにおいては、データトラックの幅が非常に狭幅化してきており、テープ走行・保存時のわずかな熱的・力学的寸法変化や、データを記録する際と読み取る際の湿度環境の違いによって、データの再生不良が引起されるという問題点が生じてきた。したがって、高密度記録に対応する磁気記録媒体には、湿度といった環境変化や熱およびテープ張力などの応力に対する高い寸法安定性が要求される。特にリニア記録方式のデータテープにおいては、テープ幅方向の高い寸法安定性が必要となる。
【0003】
従来、磁気テープの素材としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)とならんで、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)が用いられてきた。特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有し、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などの支持体に使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性の要求はますます高くなってきており、特に磁気テープの幅方向における湿度膨張係数の低減が求められてきている。
【0004】
そこで、特許文献1や2では、上記の寸法安定性の要求に応え得る支持体として、ポリエステルフィルムに金属、半金属などの金属材料からなる強化膜を設けた磁気記録媒体用支持体やこの支持体を用いた磁気記録媒体が提案されている。
しかしながら、これら特許文献に記載された支持体を実際に使用しようとすると、幅方向の湿度膨張係数が小さくても、未だ寸法安定性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−216194号公報
【特許文献2】特開2006−216195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、幅方向の湿度膨張係数が小さく、しかも優れた寸法安定性を具備する磁気記録媒体用支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず上記特許文献1や2について鋭意研究したところ、真空蒸着などによって強化膜を形成する際に、幅方向の湿度膨張係数(αh)が小さい、すなわち幅方向に高度に分子鎖を配向させた二軸配向ポリエステルフィルムを用いることが理解できる。
【0008】
しかしながら、そのように高度に配向させた二軸配向ポリエステルフィルムであることから、真空蒸着の際に生じる熱や張力のかかり方などのわずかな違いにより、分子差の配向に大きな差ができ、湿度膨張係数が局所的に大きくばらつくことが判明した。
【0009】
そこで、本発明者らは、さらに鋭意研究したところ、フィルムの長手方向における湿度膨張係数をも低くすることで、その湿度膨張係数のバラツキを極めて小さくすることができ、結果として優れた寸法安定性を発現できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
かくして本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルム層(F層)の少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる強化膜層(M層)が設けられた磁気記録媒体用支持体であって、
支持体の長手方向および幅方向の湿度膨張係数が、0〜5ppm/%RHである磁気記録媒体用支持体が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、M層の厚みが、10〜150nmの範囲であること、F層の厚みが、3〜5μmの範囲であること、M層が、Al、Si、Cu、Zn、Ti、NiおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属類または金属系無機化合物であること、F層の両面にM層が設けられていること、熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティックポリスチレンおよびポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる1種であることの少なくともいずれか一つを具備する磁気記録媒体用支持体も提供される。
【0012】
さらにまた、本発明によれば、本発明の磁気記録媒体用支持体と、その少なくとも片面に形成された磁性層とからなる磁気記録媒体も提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、湿度膨張係数(αh)が幅方向だけでなく長手方向も低くいことから、幅方向の湿度膨張係数のバラつきが極めて小さく、湿度変化に対して優れた寸法安定性を具備する磁気記録媒体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、熱可塑性樹脂フィルム層(F層)の少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる強化膜層(M層)が設けられた磁気記録媒体用支持体であって、支持体の長手方向および幅方向の湿度膨張係数が0〜5ppm/%RHである。
【0015】
支持体の幅方向における湿度膨張係数が上限を超えると、バラつきを小さくすることが困難となり、またバラつきを小さくできたとしても寸法安定性の不十分な磁気記録媒体用支持体しかえられない。なお、下限は特に制限されないが、製膜条件などを過酷にしなくても良いことから、0.1ppm/%RH以上が好ましい。好ましい支持体の幅方向における平均の湿度膨張係数は0.1〜0.8ppm/%RH、さらに0.1〜0.7ppm/%RHの範囲である。
【0016】
また、支持体の長手方向における湿度膨張係数が上限を超えると、最大値と最小値の差が大きくなりやすく、寸法安定性の不十分な磁気記録媒体用支持体しかえられない。なお、下限は特に制限されないが、最大値と最小値の差が多少大きくなっても、緩和しやすいことから、0.1ppm/%RH以上が好ましい。好ましい支持体の幅方向における平均の湿度膨張係数は0.1〜0.8ppm/%RH、さらに0.1〜0.7ppm/%RHの範囲である。なお、リニア記録方式の磁気記録媒体の場合、支持体の幅方向にトラックが配置され、支持体の長手方向は磁気テープが走行する進行方向であることから、長手方向の湿度膨張係数が大きくなってもトラックズレなどの問題は生じず、寸法安定性には影響しないと考えられていた。しかしながら、本発明では、この長手方向の湿度膨張係数をも小さくすることで、幅方向における湿度膨張係数のバラツキを小さくすることができることを見出したのである。
【0017】
そのような観点から、支持体の幅方向に5cm間隔で10点測定したとき、幅方向における湿度膨張係数の最大値と最小値の差は、1ppm/%RH以下であることが好ましい。最大値と最小値の差が上記範囲以下にあることで、環境変化に対する寸法安定性をより高度に発現させることができる。好ましい支持体の幅方向における湿度膨張係数の最大値と最小値の差は、0.8ppm/%RH以下、さらに0.7ppm/%RH以下である。なお、下限は特に制限されず、0に近いほど好ましい。また、同様な観点から、長手方向における湿度膨張係数の最大値と最小値の差も、1ppm/%RH以下であることが好ましい。最大値と最小値の差が上記範囲以下にあることで、環境変化に対する寸法安定性をより高度に発現させることができる。好ましい支持体の長手方向における湿度膨張係数の最大値と最小値の差は、0.8ppm/%RH以下、さらに0.7ppm/%RH以下である。なお、下限は特に制限されず、0に近いほど好ましい。
【0018】
ところで、このような湿度膨張係数を具備する磁気記録媒体用支持体を製造するには、F層の分子鎖を高度に配向させるような延伸条件による方法では製膜方向と幅方向の両方の湿度膨張係数を低減するは難しいことから、F層として過酷な延伸条件を採用しなくても湿度膨張係数を低減できる熱可塑性樹脂を選択する方法が好ましい。
【0019】
そのような観点から、本発明における熱可塑性樹脂としては、シンジオタクティックポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0020】
本発明におけるシンジオタクティックポリスチレン(以下、SPSと称することがある。)としては、立体化学構造がシンジオタクティック構造を有するポリスチレンであり、核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるタクティシティーが、ダイアッド(構成単位が2個)で75%以上、好ましくは85%以上、ペンタッド(構成単位が5個)で30%以上、好ましくは50%以上であることが好ましい。
【0021】
かかるSPSとしては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)として、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)が挙げられ、これらのうち、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)が好ましく例示される。また、SPSは、数平均分子量が10,000以上、さらに50,000以上であることが好ましい。数平均分子量が下限に満たない場合、耐熱性や機械特性が不十分である。一方、数平均分子量の上限は500,000以下であることが好ましい。かかる上限を超える場合、製膜性に乏しくなる場合がある。
【0022】
本発明におけるポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと称することがある。)としては、主たる構成単位が、-O-(C6H4)-O-(C6H4)-C(O)-(C6H4)-からなるポリマーである。これらポリマーは、特公昭60−32642号公報,特公昭61−10486号公報,特開昭57−137116号公報等に記載されているように、それ自体公知であり、且つそれ自体公知の方法で製造することができる。本発明におけるPEEKは、見かけの溶融粘度が380℃,見かけの剪断速度1000sec-1の条件で、50〜1000Pa・s(500ポイズ〜10000ポイズ)、更には100〜500Pa・s(1000ポイズ〜5000ポイズ)の範囲にあるものが製膜性,フィルム特性の点から好ましい。
【0023】
本発明における、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと称することがある。)としては、繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が下記一般式で示される構造単位からなる重合体をいう。
【0024】
【化1】

【0025】
上記一般式に示す構造単位からなる重合体成分が80モル%未満ではポリマーの結晶性、軟化点等が低くなり、得られるフィルムの耐熱性、寸法安定性および機械的特性などを損なう。繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロックを問わない。
これらのSPS、PEEKおよびPPSは、それ自体公知の方法で製造できる。
【0026】
また、本発明における熱可塑性樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合しても良い。特に、フィルムにしたときの走行性や巻取り性などの観点から、本発明における熱可塑性樹脂は、不活性粒子などを滑剤として含有することが好ましい。
【0027】
[フィルム]
本発明における熱可塑性樹脂フィルム層(F層)は、前述の熱可塑性樹脂を製膜したもので、1軸もしくは2軸に配向したフィルム層であり、単層に限らず、2層以上のフィルム層を有する積層フィルムであっても良い。
【0028】
ところで、本発明において、面方向とはF層または支持体の厚み方向に直交する面の方向である。また、製膜方向は、F層または支持体の縦方向、長手方向またはMachine Direction(MD方向)であり、幅方向は、F層または支持体の製膜方向(MD)と厚み方向に直交する方向であり、横方向またはTransverse Direction(TD方向)という。
【0029】
[M層]
本発明の支持体は、熱可塑性樹脂フィルム層(F層)の少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる強化膜層(M層)が設けられた支持体である。M層を有さない場合は、湿度膨張係数を低減できても、磁気テープにして走行させる際に張力などによって磁気テープが伸びたりして、本発明の効果を得ることができない。すなわち、M層を有することで、F層のみからなるフィルムに比べ、湿度変化および荷重による寸法変化の好ましい範囲を両立できるのである。
【0030】
ここで、本発明における金属類とは、いわゆる単体金属、半金属、合金、金属間化合物を表し、具体的には、例えば単体金属ではMg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Sn、Pt、Au、Pb、半金属ではC、Si、Ge、Sb、Teなどが挙げられ、これらの金属の数種を混ぜ合わせて合金や金属間化合物としてもよい。また、金属系無機化合物としては、例えば、上記金属類の酸化物や窒化物、炭化物、ホウ化物、硫化物などを用いることができる。具体的には、例えば、CuO、ZnO、Al、SiO、Fe、Fe、AgO、TiO、MgO、SnO、ZrO、InOなどの酸化物、Si、TiN、ZrN、GaN、TaN、AlNなどの窒化物、TiC、WC、SiC、NbC、ZrC、FeCなどの炭化物が挙げられる。また、上記の金属系無機化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、もちろん複数種を混合して用いても構わない。これらの中でも、M層を構成する金属材料は、寸法安定性とM層の形成しやすさから、Al、Si、Cu、Zn、Ti、NiおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属類または金属系無機化合物であることが好ましく、特にアルミニウム、酸化アルミニウムもしくはそれらの複合体または酸化ケイ素が好ましい。
【0031】
M層の形成方法としては物理蒸着法や化学蒸着法を用いることができる。物理蒸着法には真空蒸着法、スパッタリング法があり、真空蒸着法が一般的である。特に金属層の結晶粒径を小さく緻密にするためには蒸着物の運動エネルギーを高める必要がある。そのため電子ビーム蒸着やスパッタリング法が好ましい。
【0032】
M層の厚みは5〜150nmが好ましく、より好ましくは10〜120nm、最も好ましくは15〜100nmである。この範囲にすることでM層の金属の結晶粒径を細かくすることができ、補強効果の向上と、表面平滑性への悪影響がないなどの条件を満足し易いため好ましい。厚みが下限より薄い場合、M層の金属の結晶形成が不完全となり、強度を増加させる効果が小さくなるため、本発明の寸法安定性向上の効果が小さくなることがある。厚みが上限より厚い場合はクラックや粒界ができやすく、磁気記録媒体の表面が粗くなって電磁変換特性が悪化したり、M層が製造工程や、走行を繰り返す際に剥離や脱落が起こり易く、生産性が低下することがある。
【0033】
本発明の支持体において、M層はF層の片側にのみ設けても良いし、両側に設けても良いが、磁気記録テープとしたときのカッピングやカールを抑制する観点から、F層の両側にM層を設けることが好ましい。なお、上記好ましいM層の厚みは、F層の両面に設けた場合は、それぞれのM層が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
(ヤング率)
本発明の支持体は、長手方向のヤング率は5〜20GPa、幅方向のヤング率は5〜20GPaであることが好ましい。支持体の長手方向のヤング率はさらに好ましくは5.5〜18GPa、特に好ましくは6.0〜15GPaである。長手方向のヤング率が下限未満の時には磁気記録媒体を使用する際に張力の変動があった際に長手方向に変形しやすくなり、結果として、ポアソン比による幅方向の寸法変化が引起されやすくなる。一方、長手方向のヤング率が上限を超える際には、幅方向のヤング率を範囲内に維持することが困難となり、ヘッドとの接触状態を安定に保つのが困難となる。また、支持体の幅方向のさらに好ましいヤング率は9〜18GPa、特に好ましくは10〜16GPaである。支持体の幅方向のヤング率が下限未満の場合、磁気ヘッドとの接触状態が不安定化するため電磁変換特性が悪化しやすくなる。一方、支持体の幅方向のヤング率が上限を超える場合には、上記の好ましい支持体の長手方向のヤング率範囲を達成することが困難となる。
【0035】
<F層の製造方法>
本発明におけるF層の製造方法は特に制限されず、それ自体公知の方法を採用できる。例えば、熱可塑性樹脂をチップ状物の状態で用いる場合、水分を除去するために十分に乾燥させる。乾燥条件は、SPSの場合120℃で3時間程度、PEEKの場合180℃で6時間程度、PPSの場合150℃で6時間程度が好ましい。
【0036】
このようにして、乾燥させた熱可塑性樹脂を押出機に供給して、熱可塑性樹脂の融点(以下、Tmと称する)以上Tm+50℃以下の温度で溶融混練する。例えば、SPSとPPSの場合300℃程度、PEEKの場合380℃程度が好ましい。このときの滞留時間は長くなればなるほど熱可塑性樹脂の熱劣化が進むことから未溶融物が残らない範囲でなるべく短いことが好ましく、5〜30分の間が好ましい。そして、溶融状態となった熱可塑性樹脂はダイからシート状に押し出す。このシート状物は、通常冷却ドラムの表面で冷却し、未延伸シートとされる。このときの冷却ドラムの温度は、使用する熱可塑性樹脂の結晶性などによって調整され、例えば、PEEKやSPSの場合50〜60℃程度、PPSの場合30℃程度が好ましい。この冷却ドラムで冷却する際、静電気などによって冷却ドラムとシート状物との密着性を高めることは、得られるF層の厚み斑を均一にしやすいことから好ましい。
【0037】
つぎに、得られた未延伸シートは、好ましくは製膜方向及び幅方向に延伸される。延伸温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上Tg+80℃以下が好ましく、延伸倍率は用いる熱可塑性樹脂にもよるが2〜5倍の間が好ましい。より具体的には、SPSの場合110℃程度の温度で、製膜方向および幅方向にそれぞれ3〜4倍程度延伸するのが好ましく、PEEKの場合170〜180℃程度の温度で2〜3倍程度延伸するのが好ましく、PPSの場合110〜130℃程度の温度で1.5〜2.5倍程度延伸するのが好ましい。この製膜方向および幅方向の延伸は、逐次でも同時でもよいし、再度製膜方向または幅方向に延伸する多段延伸であっても良い。
【0038】
このようにして延伸されたフィルムは、さらに前述の延伸温度以上Tm―20℃以下の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。より具体的には、SPSやPPSの場合200〜220℃程度、PEEKの場合220〜240℃程度が好ましい。
このようにして本発明で用いるF層は製造することができる。
【0039】
(M層の製造方法)
次に、上記F層にM層を設ける。なお、ここでは、真空蒸着法を用いたM層の製造方法の例を挙げる。
【0040】
真空蒸着装置内に設置されたフィルム走行装置に、F層をセットし、真空蒸着を行う。1.00×10−5〜1.00×10−1Paの高真空で蒸着することが好ましい。0〜50℃の冷却金属ドラムを介して、走行させ、蒸着物を加熱蒸発させ、フィルムの片面もしくは両面に形成して巻取る。フィルム走行速度は、10〜200m/分が好ましく、より好ましくは、50〜150m/分である。走行速度が上記範囲を外れる場合には、金属層の厚みを好ましい範囲に設定することが困難となったり、生産性が劣る場合がある。F層の両側に金属層を設ける場合には、同一の真空層内に2つの加熱蒸着装置と冷却ドラムを設けて、1パスで両面を蒸着することが好ましいが、一度片面に蒸着を行ない、巻き取った後に、再びもう一方の面に金属層を設ける2パスで行っても良い。さらに、20〜50℃の温度で1〜3日間エージングすることが好ましく、さらに好ましくは湿度60%以上の結露しない程度の環境下でエージングすることが好ましい。
【0041】
〔磁気記録媒体〕
本発明によれば、本発明の上記支持体をベースフィルムとし、その片面上に磁性層を有する磁気記録媒体が同様に提供される。なお、磁性層を形成する面は、表裏で表面粗さの異なる積層フィルムである場合、より平坦な方の表面であることが好ましい。
【0042】
磁気記録媒体としては、上記本発明の積層フィルムをベースフィルムとしていれば特に限定されず、例えば、QICやDLTさらには高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープなどが挙げられる。なお、ベースフィルムが温湿度変化による寸法変化が極めて小さいので、テープの高容量化を確保するためにトラックピッチを狭くしてもトラックずれを引き起こし難い高密度高容量に好適な磁気記録媒体となる。
【0043】
本発明によれば、本発明の上記支持体をベースフィルムとし、その一方の面に非磁性層および磁性層がこの順で形成され、他方の面にバックコート層が形成されている磁気記録媒体が好ましい。非磁性層の組成は特に限定されないが、熱硬化性樹脂、高エネルギー線硬化性樹脂などに無機微粉末、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタンなどを含有せしめたものが用いられる。非磁性層の厚さは0.5〜3.0μm、さらに1.0〜2.0μm、特に1.0〜1.5μmの範囲にあることが本発明の効果が奏されやすいことから好ましい。
【0044】
非磁性層上の磁性層の種類は、磁性粉をバインダとともに塗布した、いわゆる塗布型であることが磁気記録媒体の走行性の点から好ましい。磁性層を構成する磁性粉の種類は特に限定されず、酸化鉄、酸化クロム、コバルト被着酸化鉄、また、鉄、コバルト、鉄ーコバルト、鉄ーコバルトーニッケル、コバルトーニッケルなどの金属、それらの合金が好ましく用いられるが、酸化物より金属またはその合金が特に望ましい。また、磁性層を構成するバインダは特に限定されないが、熱硬化性樹脂系、高エネルギー線硬化型バインダが好ましく、その他添加剤として分散剤、潤滑剤、帯電防止剤などが含有されていてもよい。例えば、塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体、ポリウレタン、ポリイソシアネート、あるいはその混合物などが好ましく用いられる。磁性層の厚さは0.1〜1.0μm、さらに0.1〜0.5μmの範囲にあることが本発明の効果が奏されやすいことから好ましい。
【0045】
バックコート層については、組成は特に限定されないが、カーボンブラックと、熱硬化性樹脂系または高エネルギー線硬化型バインダとからなるものが好ましく、その他に添加剤として分散剤、潤滑剤、帯電防止剤などが含有されていてもよい。例えば、塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体、ポリウレタン、ポリイソシアネート、あるいはその混合物などが好ましく用いられる。バックコート層の厚さは0.1〜1.0μm、さらに0.3〜0.8μmの範囲であることが本発明の効果が奏されやすいことからが好ましい。
【0046】
また、本発明の磁気記録テープが上記の塗布型の場合は、支持体の厚みに対して、磁気記録テープの厚みから支持体の厚みを差し引いた厚みの割合が、0.2〜0.8倍の範囲、好ましくは0.3〜0.7倍特に0.3〜0.6倍の範囲にあることが好ましい。該厚みの割合が、下限未満になると、磁性層、非磁性層、バックコート層が薄くなり、塗布が難しくなるとともに、ベースフィルムの表面性が、磁性層、バックコート層の表面性に大きく影響し、エラー発生の原因となったり、ベースフィルムによる温度膨張の抑制効果が過度に発現し、却ってトラックずれを生じたりすることがある。また上限を超えると、テープ厚みが厚くなりすぎ、例えばカセットに入れるテープ長さが短くなって十分な磁気記録容量が得られにくくなることや、ベースフィルムによる温度膨張の抑制効果が十分に発現されにくくなることがある。
【0047】
また、本発明の支持体は、その表面に、真空蒸着により、鉄、コバルト、ニッケル、クロムまたはこれらを主成分とする合金もしくは酸化物よりなる強磁性金属薄膜層を形成すると、前述の塗布型に比べてより湿度膨張係数の小さな磁気記録媒体とすることもできる。金属薄膜層の厚さは100〜300nmであるものが好ましい。また、強磁性金属薄膜層の表面に、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)などの保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設けてもよい。さらに必要により、本発明の支持体の他方の表面に、公知の方法でバックコート層を設けてもよい。こうすることにより、特に短波長領域での出力、S/N、C/Nなどの電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない強磁性金属薄膜蒸着型磁気記録媒体として使用できる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0049】
(1)固有粘度
得られた熱可塑性樹脂の固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0050】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)は、試料10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0051】
(3)数平均分子量
検出器として示差屈折率計と差圧粘度計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置により、標準ポリスチレンから作成した較正曲線を用いて、数平均分子量(Mn)を求めた。溶離液にはクロロホルムを用い、カラムは昭和電工(株)製Shodex 806Lを3本連結して用いた。
【0052】
(4)溶融粘度
(株)東洋精機製キャピラリーレオメータ(キャピログラフ 型式1D)を用い、キャピラリー長10.0mm、キャピラリー径1.0mm、測定温度380℃にて測定速度を任意に変更し測定した結果得られたShear Rate/Viscosityカーブより1000sec-1での溶融粘度を読み取った。
【0053】
(5)ヤング率
得られた磁気記録媒体用支持体を試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。
【0054】
(6)湿度膨張係数(αh)
得られた磁気記録媒体用支持体を、幅方向における中心部分から両端部に向かって、幅方向に5cm間隔で、幅5mmのサンプルを測定方向が製膜方向及び幅方向になるようにそれぞれ10個切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、それぞれの測定方向について、10個の測定結果を得て、そこから平均値と最大値と最小値の差を算出した。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0055】
(7)データストレージ(磁気テープ)の作成
ダイコーターで、20MPaの張力条件で、幅500mmにスリットされた長さ850mの磁気記録媒体用支持体の磁性層形成側の表面に、下記組成の非磁性塗料、磁性塗料を同時に、乾燥後の非磁性層および磁性層の厚みが、それぞれ1.2μmおよび0.1μmとなるように膜厚を変えて塗布し、磁気配向させて120℃×30秒の条件で乾燥させる。さらに、小型テストカレンダ−装置(スチ−ルロール/ナイロンロール、5段)で、温度:70℃、線圧:200kg/cmでカレンダ−処理した後、70℃、48時間キュアリングする。次に、その磁性層の反対面に下記組成のバックコートを固形分の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理し、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、長さが850mのデータストレージカートリッジを作成した。
【0056】
(非磁性塗料の組成)
・非磁性無機質粉末(α−酸化鉄:平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7,BET比表面積:52m/g):100重量部
・エスレックA(積水化学製、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体):10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン: 1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm): 2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
(磁性塗料の組成)
・磁性粉(戸田工業株式会社製、商品名:NF30x):100重量部
・エスレックA(積水化学製、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体):10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン: 1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm): 2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) : 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm): 10重量部
・αアルミナ : 0.1重量部
・変成ポリウレタン : 20重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 30重量部
・シクロヘキサノン : 200重量部
・メチルエチルケトン : 300重量部
・トルエン : 100重量部
【0057】
(8)支持体、F層およびM層の厚み
磁気記録媒体用支持体およびF層の厚みは、磁気記録媒体用支持体またはF層を層間の空気を排除しながら10枚重ね、JIS規格のC2151に準拠し、(株)ミツトヨ製ダイヤルゲージMDC−25Sを用いて、10枚重ね法にて厚みを測定し、1枚当りの磁気記録媒体用支持体厚みを計算する。この測定を10回繰り返して、その平均値を1枚あたりの磁気記録媒体用支持体またはF層の全体の厚みとした。
一方、M層の厚みは、支持体の小片をエポキシ樹脂にて固定成形し、ミクロトームにて約60nmの厚みの超薄切片(フィルムの製膜方向および厚み方向に平行に切断する)を作成する。この超薄切片の試料を透過型電子顕微鏡にて観察しその境界からM層の厚みを求めた。
【0058】
(9)磁気テープでの寸法安定性のバラツキ
上記(7)で作成した磁気テープの中から10個を抜き出し、それぞれについて、温度30℃・湿度20%RHの状態で24時間静置してから、キーエンス株式会社製レーザー外経測定器(本体:3100型、センサー:3060型)を用い、20MPaの張力を掛けた状態で磁気テープの幅(L20)を測定し、その後温度30℃・湿度80%RHの状態で24時間静置してから再度同様に磁気テープの幅(L80)を測定し、それぞれの磁気テープの寸法変化量(△L:L80−L20)を求めた。得られた10個の寸法変化量(△L)の最大値と最小値の差が、0.7μm以上のものを不良、0.7μm未満0.2μm以上のものを良、0.2μm未満のものを優とした。
【0059】
[実施例1]
シンジオタクティックポリスチレン(出光興産製、商品名:ZAREC 142ZE)を、120℃で3時間ギアオーブンにて事前乾燥してから、押し出し機に供給して295℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が110℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、110℃で予備加熱を4秒間行った後、延伸温度120℃、延伸倍率3.5倍その後熱固定処理(205℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmのSPSの二軸配向フィルムを得た。
上記の方法で作成した二軸延伸フィルムの磁性層を塗布する面(冷却ドラムと接していない表面)に、以下の方法で、M層を設けた。まず、真空蒸着装置内に設置されたフィルム走行装置に、得られた二軸延伸フィルムをセットし、1.00×10−3Paの高真空にした後に、20℃の冷却金属ドラムを介して走行させた。このとき、酸素ガスを導入しつつアルミを電子ビームで加熱蒸発させ、アルミナの強化膜層(M層:厚み100nm)を形成し、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
実施例1のアルミナを蒸着する面を走行面(冷却ドラムと接した表面)にする以外は、実施例1と同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0061】
[実施例3]
実施例1において、M層を両面にしたことと、M層を形成する際に酸素ガスを導入しなかった以外は、同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0062】
[実施例4]
実施例1において、M層を両面にし、かつ各M層の厚みを表1に示すように変更した以外は、同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0063】
[実施例5]
PEEK(Victrex社製381G)を、180℃で6時間ギアオーブンで事前乾燥してから、押し出し機に供給して385℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が170℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率2.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で予備加熱を4秒間行った後、延伸温度180℃、延伸倍率2.5倍その後熱固定処理(230℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸配向PEEKフィルムを得た。このようにして得たフィルムの両面に、M層の厚みを表1に示すように変更する以外は、実施例4と同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0064】
[実施例6]
縦倍率を3.5倍、横倍率を4.0倍に変更し、かつM層の厚みを表1に示すように変更する以外は、実施例4と同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0065】
[実施例7]
M層を形成する膜をシリカにする以外は、実施例6と同様の方法で、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0066】
[実施例8]
PPS(ポリプラスチックス社製フォートロン0220A9)を、120℃で3時間ギアオーブンで事前乾燥してから、押し出し機に供給して295℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度30℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が110℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率1.8倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、110℃で予備加熱を4秒間行った後、延伸温度120℃、延伸倍率2.5倍その後熱固定処理(205℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmのSPSの二軸配向フィルムを得た。このようにして得たフィルムの両面に、実施例6と同様な方法でM層を形成し、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレート(PET)を160℃で3時間、ギアオーブンで事前に乾燥してから、押し出し機に供給して280℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度30℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が100℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、105℃で予備加熱を4秒間行った後、延伸温度110℃、延伸倍率4.5倍その後熱固定処理(205℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmのPETの二軸配向フィルムを得た。そして、実施例1と同様な方法で、磁性層を塗布する面にM層を形成し、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
M層を形成する面を走行面に変更する以外は、比較例1と同様な方法で磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
M層を磁性面と走行面の両面に変更する以外は、比較例1と同様な方法で磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0070】
[比較例4]
固有粘度0.62のポリエチレンー2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)を180℃で6時間ギアオーブンで事前乾燥してから、押し出し機に供給して280℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、130℃で予備加熱を4秒間行った後、延伸温度150℃、延伸倍率5.0倍その後熱固定処理(205℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmのPENの二軸配向フィルムを得た。そして、実施例5と同様な方法で、両面にM層を形成し、磁気記録媒体用支持体を作成した。
得られた磁気記録媒体用支持体の特性を表1に示す。
【0071】
[比較例5]
縦倍率を4.0倍、横倍率5.0倍にする以外は、比較例3と同様の方法で表1のようなフィルムを得た。
【0072】
【表1】

【0073】
表1中の、MDはフィルムの製膜方向、TDはフィルムの幅方向、磁性面および走行面は、それぞれ前述の(7)磁気テープの作成で磁性層を形成した側の面とバックコート層を形成した側の面をそれぞれ意味し、同欄にある数値は、それぞれの面に形成されたM層の厚みを示す。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の支持体は、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような優れた寸法安定性を有し、寸法安定性が求められる用途、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム層(F層)の少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる強化膜層(M層)が設けられた磁気記録媒体用支持体であって、
支持体の長手方向および幅方向の湿度膨張係数が、0〜5ppm/%RHであることを特徴とする磁気記録媒体用支持体。
【請求項2】
M層の厚みが、10〜150nmの範囲である請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項3】
F層の厚みが、3〜5μmの範囲である請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項4】
M層が、Al、Si、Cu、Zn、Ti、NiおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属類または金属系無機化合物である請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項5】
F層の両面にM層が設けられている、請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティックポリスチレンおよびポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる1種である請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の支持体と、その少なくとも片面に形成された磁性層とからなることを特徴とする磁気記録媒体。