説明

磁気記録媒体

【課題】L10型FePt磁性合金薄膜からなる磁気記録層を適用した磁気記録媒体の表面平坦性を改善し、磁気ヘッドと磁気記録媒体の間の距離(スペーシング)を十分に詰めて高密度記録に適合した分解能で記録再生動作が出来るようにする。
【解決手段】磁気記録層14は、Fe及びPtを主原料とする磁性合金と、カーボン、酸化物、窒化物から選ばれる少なくとも一種の非磁性材料を含有する複数の磁性層21,22により構成される。基板側に位置する第一の磁性層21は、FePt合金を主原料とする磁性合金粒子と前記非磁性材料を主原料とする粒界部が分離したグラニュラー構造を有し、第一の磁性層よりも表面側に位置する第二の磁性層22は、FePt合金と前記非磁性材料とが第一の磁性層におけるFePt磁性合金粒子の直径よりも微細な状態で混ざり合った均質な構造を有するように作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録方式及びアシスト型磁気記録方式に係り、特に1平方センチメートルあたり150ギガビット以上の面記録密度を実現可能な磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、コンピューターや民生エレクトロニクス製品で大容量の情報記録を要する用途において必要不可欠な装置である。今後も大容量記録へのニーズは高く、省スペース・省エネルギーなどの要求を満たしつつ大容量化を実現するために、記録媒体における面記録密度を増加させていく必要がある。現在、垂直記録方式の改善による高密度化へのアプローチが図られているが、従来型の垂直記録方式では150Gbit/cm2(1Tbit/inch2)が実現可能な最大記録密度であると推定されている。記録密度に限界がある理由は、媒体の熱安定性が高密度記録に適した媒体において劣化するという、記録方式の根本的な原理によるものと解釈されている。高密度で磁気記録を行うには磁気記録媒体を構成する磁性粒子を微細化し、高精度で記録ビット境界(磁化転移領域)を形成する必要がある。しかし、磁性粒子を微細化すると各磁性粒子における磁化方向を安定化させる磁気的エネルギーKuVが、外乱である熱エネルギーkBTに対して十分な大きさを保てないため、記録直後から記録された磁化情報が劣化するという現象(熱減磁)が発生する。ここでKu,V,kB,Tはそれぞれ一軸磁気異方性エネルギー、磁性粒子体積、ボルツマン定数、絶対温度である。
【0003】
熱安定性を維持したまま面記録密度を高めるためには、高い磁気異方性エネルギーKuをもつ磁気記録層を用いる必要がある。非特許文献1等に示されているようにL10型FePt規則合金は現行のCoCrPt系合金に比べて高い垂直磁気異方性エネルギーKuをもつ材料であり、次世代の磁気記録層材料として注目されている。このL10型FePt規則合金を磁気記録層として用いるためには結晶粒子間の交換相互作用を低減することが必須であり、近年L10型FePt規則合金にMgO,SiO2,Cなどの非磁性材料を添加してグラニュラー構造とする試みが多く報告されている。ここでグラニュラー構造とはFePt合金からなる磁性結晶粒子とそれを取り巻く非磁性材料からなる結晶粒界からなる構造のことを指す。
【0004】
ただし、このような高いKuを有する磁気記録層材料に現在の磁気ヘッドを用いて記録することは出来ない。これは記録磁極に用いる軟磁性材料の飽和磁束密度Bの最大値が約2.5Tであり、畢竟、記録磁極から発生しうる磁界の大きさに限界があるためである。そこでアシスト磁気記録方式という新たな磁気記録方式のコンセプトが提案されている。現在は、主にレーザー加熱及びマイクロ波照射の二つのアシスト方式が提案されており、それぞれ熱アシスト磁気記録方式(非特許文献2)及びマイクロ波アシスト磁気記録方式(非特許文献3)と呼ばれている。これらのアシスト磁気記録方式では、アシストエネルギーを磁気記録層に照射して磁化反転を容易にした上で、記録磁極から発生する磁界を用いて記録ビットを形成する。
【0005】
FePtはL10型規則構造のほかに準安定相として不規則fcc構造を有するため加熱処理によって規則化を行う必要があり、規則化の程度(規則度S)が高いほど高い磁気異方性エネルギーが得られることが知られている。規則度を高めるためには加熱処理が必要であり、その方法は、FePt合金を製膜した後に加熱する方法(ポストアニール法)、予め加熱しておいた基板にFePt合金を製膜する方法(基板加熱法)の大きく二つに分類される。FePt合金薄膜に非金属元素を加えてグラニュラー化を行う場合には、いずれかの加熱方法を前提として作製方法を決定する必要がある。
【0006】
ポストアニール法を用いた作製法の一例は非特許文献4に開示されている。同文献によれば、Fe層、Pt層、及び粒界材料であるSiO2層からなる周期構造をn回繰返して積層した多層膜構造をポストアニール処理を行うことでグラニュラー構造を有するL10型FePt合金磁性薄膜が得られる。このときのFePt結晶粒径は約6nmで高密度磁気記録に適用することが可能である。一方、基板加熱法を用いた作製法の例は非特許文献5及び6に開示されている。非特許文献4のような周期積層構造を用いずにグラニュラー構造を得ることができ、基板の加熱温度や非磁性材料の添加量によって比較的容易に粒径を制御できることが報告されている。また、粒界材料として今まで各種酸化物及びC(カーボン)が検討されてきたが、この中でもとりわけCは優れたグラニュラー構造を実現できる粒界材料であることが分ってきた。非特許文献7には、結晶粒径が6nm程度の良好なグラニュラー構造と、3T(30kOe)以上の大きな保磁力Hcを両立したL10型FePt合金磁性薄膜の作製例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−158054号公報
【特許文献2】特開2009−70540号公報
【特許文献3】特開2009−187652号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE Trans. Magn., vol.36, p.10 (2000)
【非特許文献2】IEEE Trans. Magn., vol.37, p.1234 (2001)
【非特許文献3】IEEE Trans. Magn., vol.44, p.125 (2008)
【非特許文献4】Appl. Phys. Lett., vol.91, p.072502 (2007)
【非特許文献5】Appl. Phys. Lett., vol.91, p.132506 (2007)
【非特許文献6】J. Appl. Phys., vol.103, p.023910 (2008)
【非特許文献7】J. Magn. Magn. Mater., vol.322, p.2658 (2010)
【非特許文献8】J. Magn. Magn. Mater., vol.320, p.3144 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでに開示されている技術要件に基づき、発明者らはL10型FePt合金磁性薄膜の作製方法の検討を行い、その磁気特性及び微細構造の調査を行った。最適化を施した幾つかの作製条件において良好なグラニュラー構造を有し、かつ規則度S及び保磁力Hcの高い磁性薄膜を得ることが出来た。しかし、多くの場合、これらのFePt合金磁性薄膜は表面平坦性が悪く、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた評価によれば、二乗平均平方根(Root Mean Square、以下RMS)粗さで2nm、最大粗さで10nm程度の表面粗さを有していた。昨今の磁気記録方式(アシスト磁気記録方式含む)においては磁気ヘッドの記録及び再生素子を1−2nm程度の距離(スペーシング)で磁気記録媒体に近接させ、十分に高い分解能で記録再生動作を行うことにより高密度化を実現している。しかるに、上述のような表面粗さを持つ磁気記録媒体を用いると、磁気ヘッドを磁気記録媒体に近づけることが不可能であるため、高密度記録に適合した分解能で記録再生動作をさせることが出来ない。すなわち、表面平坦性の観点からはFePt合金磁性薄膜は磁気記録層に適合した特性を有していなかった。
【0010】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものである。より具体的には、1平方センチあたり150ギガビット以上の面記録密度を実現するのに十分な磁気異方性エネルギーと結晶粒径を備え、かつヘッドと媒体間のスペーシングを十分に詰めることの出来る表面平坦性を備えた磁気記録媒体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の提案者らは、上記の目的を達成するために様々な組成及び構造のFePt合金磁性薄膜を試作し、そのグラニュラー構造、表面平坦性、規則度S、及び保磁力Hcについて詳細な検討を行った。その結果、以下に示すような特徴を有するFePt合金磁性薄膜においては、上記の目的を満たす特性を兼ね備えた磁気記録層を得ることが可能であることを見出した。さらに本発明の磁気記録層を用いた磁気記録媒体に熱アシスト磁気記録方式を適用することにより、150Gbit/cm2以上の記録密度が実現できることを見出した。
【0012】
本発明に開示される代表的な磁気記録媒体は、非磁性基板上に下地層、磁気記録層、及び保護層を順次積層した磁気記録媒体である。下地層は、磁気記録層の結晶配向性や微細構造を制御するために用いるものである。磁気記録層は、カーボン(C)や酸化物(例えばSiO2,TiO2,Ta25)、窒化物(例えばCN,SiN,TiN)からなる物質群から選ばれる少なくとも一種の非磁性材料を添加したFePt磁性合金を主原料とする複合材料からなる。磁気記録層は下地層の形成後に、基板を加熱するプロセスと、磁気記録層を製膜するプロセスとを組み合わせて形成する。保護層は記録膜全体を機械的及び化学的に保護するための層であり、通常、カーボンを主原料した薄膜である。カーボン薄膜はダイヤモンド構造に代表される硬質な機械特性を有し、基板上に形成された記録膜を保護するために有効である。
【0013】
保護膜上には、パーフルオロポリエーテル(PFPE)系の潤滑剤を薄く塗布した潤滑膜を形成する。潤滑膜は記録磁性膜表面の表面エネルギーを低減することで記録磁性膜の耐擦動性を高め、磁気ヘッドなどが衝突した場合の膜破壊を防止する作用がある。
【0014】
本発明の磁気記録媒体は、上述の基本構造を有しており、かつ磁気記録層が材料組成及び微細構造の異なる複数の磁性層により構成されている。本発明の磁気記録媒体の顕著な特徴の一つは、これら複数の磁性層が互いに異なる微細構造を有することである。磁気記録層下部(下地層に近い部位)には、FePt磁性合金粒子と非磁性粒界が明瞭に分離したグラニュラー構造を有する膜を適用する。このような磁性層を、以下、FePtグラニュラー磁性層と呼ぶことにする。そして磁気記録層上部(保護層に近い部位)には、FePt合金材料と非磁性材料が下部のグラニュラー構造よりも小さいスケールで混ざり合い、構造及び組成がFePtグラニュラー磁性層と比較して均質で、連続した磁性膜としての特性を示す構造を有する膜を適用する。
【0015】
このような構造を有する磁気記録層上部は、現在の垂直記録媒体においてしばしばキャップ磁性層と呼ばれるものと良く似た形態を有するので、以下、FePtキャップ磁性層と呼ぶことにする。ここで、本発明のFePtキャップ磁性層はFePt合金を主原料とする磁性層であり、FePtキャップ磁性層中のFePt合金はFePtグラニュラー磁性層と同じ(001)配向したL10結晶構造を有する。これに加えて、FePtキャップ磁性層は次に示すような適量の非磁性材料を含む。
【0016】
FePtキャップ磁性層が含む非磁性材料としては、Cもしくは酸化物が好ましい。Cを添加する場合、その添加量は7vol.%以上18vol.%以下とすることが望ましい。また、酸化物もしくは窒化物を添加する場合、その添加量は11vol.%以上32vol.%以下とすることが望ましい。上記範囲で非磁性材料を添加した場合に限って、上述のような均質な構造が得られる。なお、この添加量よりも低いとFePt合金の凝集が促進され、この添加量よりも高いと非磁性材料とFePt合金とが大きなスケールで分離した不均質な構造の形成が促進されるため、所望の均質な構造を得ることが出来ない。
【0017】
特許文献1及び2にはキャップ磁性層及びFePtグラニュラー層を組み合わせた類似する構造が開示されている。しかし、同文献に開示されたキャップ磁性層はCo合金からなり、本発明のFePtキャップ磁性層とは磁性材料の組成が異なる。Co合金層は六方最密(hcp)構造の結晶格子を有し、そのc軸と平行な磁化容易軸を有する。一方でFePtグラニュラー磁性層のFePt合金はL10構造を有し、その(001)軸に平行な磁化容易軸を有する。Co合金層を本発明のFePtグラニュラー磁性層の上にエピタキシャル成長させても、Co合金はFePtグラニュラー磁性層と異なる磁化容易軸方向を示す。このように層間で磁化容易軸が異なる場合には、磁気記録層全体として良好な記録再生特性を実現することは難しい。したがって、キャップ磁性層には本発明のようにグラニュラー磁性層と同じFePt合金系を用いることが極めて望ましい。
【0018】
また特許文献3にはFePt合金材料からなるキャップ磁性層を適用した媒体が開示されている。しかし、同文献におけるFePtキャップ磁性層は本発明のように非磁性材料の添加を前提としておらず、この点で本発明と根本的に異なっている。発明者らの検討においては、非磁性材料を含まないFePt合金層に加熱プロセスを適用した場合には、本発明で意図するグラニュラー構造を有さない均質な磁性層を得ることが出来なかった。したがって、非磁性材料の添加は、本発明のFePtキャップ磁性層における顕著な特徴である。
【0019】
ここで上述のFePtキャップ磁性層の厚さは1nm以上3nm以下とすることが好ましい。グラニュラー磁性層における磁性粒子は磁気記録における磁化反転の最小単位であるが、非特許文献8に示されているように、キャップ磁性層にはこれらの磁性粒子間に働く交換相互作用を制御して記録再生特性を改善させる効果がある。3nmよりも厚いFePtキャップ磁性層ではグラニュラー磁性粒子間に働く交換相互作用が強くなりすぎるため、キャップ磁性層を用いることによる記録特性の劣化が顕著となる。さらに、厚さ3nm以上ではFePtキャップ磁性層の結晶配向性が著しく劣化する事が判明した。一方、表面平坦性を効果的に改善するためにはFePtキャップ磁性層の厚さを1nm以上とすることが望ましい。
【0020】
発明者らの検討によれば、均質な構造を有するFePtキャップ磁性層を形成するためには、以下に述べるような適切な製膜プロセスを用いることが本質的である。まず、FePt合金に非磁性材料を混合した材料は低温(室温近傍)で製膜することが望ましい。予め加熱した基板上に前記材料を製膜すると、FePt合金を主原料とする磁性合金粒子の結晶成長が促進され、このFePt磁性合金粒子と非磁性材料からなる粒界との分離が容易になるため、目的とする均質な構造を得ることは非常に難しかった。これに対して、FePtキャップ磁性層を低温(室温近傍)で製膜した場合には相分離の進行していない均質な構造が得られた。しかし、低温製膜ではFePtキャップ磁性層におけるFePt合金の規則化が進まないため、磁気記録層として必要な磁気異方性エネルギーを得ることが出来ない。そこで、FePtキャップ磁性層においてL10構造への合金規則化を促進するために、低温製膜後に加熱処理(ポストアニール処理)を行うことが必要となる。
【0021】
前記ポストアニール処理において、FePt合金を主原料とする磁性合金粒子部の凝集が起こり、その結果、表面平坦性が著しく損なわれる場合がしばしばある。その凝集を抑制するための手段が上述の非磁性材料の添加である。その他、ポストアニール処理の温度を下げることでも表面平坦性が改善される傾向が確認されている。ただし、加熱温度を下げるためには、低温でFePt合金をL10構造に規則化させる必要がある。規則化のために必要なアニール温度を低減する有効な手段として、例えば、Agなどの金属をFePt合金中に少量添加する方法が知られている。また、超高真空下でFePt合金を製膜して膜中の不純物(水分等)を排除した場合、比較的低温で規則化が進行する可能性が指摘されている。
【0022】
また、本発明を特徴づける別の観点は、異なる非磁性材料を含有する複数のFePtグラニュラー磁性層によって磁気記録層が構成されている点である。ここで、下地層に近い第一のFePtグラニュラー磁性層は、その上に形成される第二のFePtグラニュラー磁性層と比較して、非磁性材料であるカーボンの含有量が多く、それ以外の酸化物及び窒化物の含有量が少ないことが望ましい。各FePtグラニュラー磁性層にはFePt合金を微粒子化するために必要な量の非磁性材料を添加する必要があり、非磁性材料の種類や比率にかかわらず、添加量を合計で20vol.%以上55vol.%とすることが望ましい。この範囲よりも添加量が少ないと、磁気記録層における磁性粒子の直径が大きくなるために高記録密度において十分な信号品質を得ることが出来ない。逆にこの範囲よりも添加量が多いと、磁気記録層におけるFePt磁性合金の体積比率が少ないために磁気再生に必要な信号強度を得ることが困難になる。
【0023】
非磁性粒界材料の中でもカーボンはとりわけFePt磁性合金粒子を孤立させる効果が強力である。したがって、カーボンを第一のFePtグラニュラー磁性層に多く添加することで良好なグラニュラー構造を得ることが容易となる。一方、カーボン添加は副作用としてFePtグラニュラー磁性層の表面粗さを増大させる作用がある。一方、酸化物や窒化物はFePt磁性合金粒子を孤立させる効果は弱いが表面平坦性は比較的高く保たれるので、これらを第二のFePtグラニュラー磁性層に多く添加することによってFePtグラニュラー磁性層全体の表面平坦性を改善することが出来る。FePtグラニュラー磁性層に適用する酸化物及び窒化物としては、Al,Cr,Hf,Mg,Nb,Si,Ta,Ti,V,Zr等の酸化物及び窒化物が考えられる。
【0024】
この複合FePtグラニュラー磁性層に対して、前述のFePtキャップ磁性層を適用し、これら組み合わせることも出来る。両技術の組合せにより表面平坦性はさらに改善される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の磁気記録媒体によれば、FePt合金を主原料とする磁気記録層の磁気異方性エネルギー、微細粒状構造、磁気記録特性などを損なうことなく、表面平坦性を高めることが可能となる。磁気記録層の表面平坦性が改善されることで、磁気ヘッドの記録及び再生素子と磁気記録媒体とのスペーシングを詰め、高い分解能で記録再生動作を行うことが容易となる。その結果、本発明の磁気記録媒体に対してアシスト磁気記録方式を適用し、1平方センチあたり150ギガビット以上の高い面記録密度で磁気記録を実現することが出来る。
【0026】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1に係る磁気記録媒体の積層構造を示す図である。
【図2】実施例1に係る磁気記録媒体の磁気記録層の積層構造を示す図である。
【図3】実施例1に係る磁気記録媒体のRMS表面粗さとFePtキャップ磁性層のカーボン含有量との関係を示す図である。
【図4】実施例1に係る磁気記録媒体の磁化ヒステリシス曲線の角型比S及びRMS表面粗さとFePtキャップ磁性層の厚さとの関係を示す図である。
【図5】実施例1において熱アシスト磁気記録方式による記録再生特性の評価のために用いた熱アシスト磁気記録ヘッド主要部の概略断面図である。
【図6】実施例2に係る磁気記録媒体のRMS表面粗さとFePtキャップ磁性層の酸化物含有量との関係を示す図である。
【図7】実施例4に係る磁気記録媒体の磁気記録層の積層構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した幾つかの具体的な実施例に基づき、図面を参照しながら本発明の具体的な作用効果について説明する。なお、これらの実施例は本発明の一般的な原理を表すことを目的に述べられるものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0029】
[実施例1]
本実施例の磁気記録媒体の断面模式図を図1に示す。本実施例の磁気記録媒体は、耐熱性ガラス基板11上にNiTa合金層12、MgO酸化物層13、磁気記録層14、カーボン保護層15を順次形成した構造となっている。耐熱性ガラス基板11は2.5インチ型HDDに適合するようにドーナツ状に加工したもので、製膜前に予め洗浄した。基板11をインライン型真空スパッタリング装置に導入し、前記各層をDC及びRFスパッタリング法を用いて形成した。
【0030】
NiTa合金層12はNiTa38ターゲット(下付きの数値は合金中の元素含有率の原子百分率。以下同様)を用いて厚さが100nmとなるように製膜した。NiTa合金層12はアモルファス構造を有しており、電子線回折においてはハロー状の回折リングが観察される。NiTa合金層12は高温においても結晶化し難く、規則化のための加熱処理等を行った後も良好な平坦性を保つので、積層膜全体のガラス基板11への密着性を高める効果がある。さらにNiTa合金層12を100nm程度まで厚くすることで、基板加熱時に用いる赤外線ヒーターからのエネルギーを吸収し、その吸収した熱を蓄える作用が得られる。よって、このNiTa合金層12の適用により、下地層13や磁気記録層14の結晶配向等に影響を与えることなく、基板表面の温度制御が容易になるメリットがある。同様な効果はNiを主成分とし、Nb,Taのうち少なくとも一種類の元素を含有する合金によっても実現可能であり、Nb添加量は20at.%以上70at.%以下、Ta添加量は30at.%以上60at.%以下の範囲がそれぞれ好ましい。また、これらの合金の替わりに軟磁性材料を適用すれば、垂直磁気記録における軟磁性裏打層(SUL)の効果を得ることが出来る。軟磁性材料としては、例えばFeCo34Ta10Zr5合金等の適用が考えられる。
【0031】
MgO酸化物層13はB1型(岩塩型)結晶構造を有し、(100)配向([100]軸が膜面垂直に配向)するように形成した。MgO酸化物は磁気記録層14に適用されるL10型FePt規則合金結晶を(001)配向させる目的でしばしば用いられる材料である。MgO酸化物層13は類似の結晶配向制御作用を示す材料に置き換えることが可能であり、例えばペロブスカイト構造のSrTiO3、同じ岩塩構造のTiN、fcc構造を有するAg,Au,Cu,Ir,Pt,Pdのうち少なくとも一種の元素を含む金属又は合金、あるいはbcc構造のCr,Moのうち少なくとも一種の元素を含む金属又は合金、を用いることが出来る。さらにこれらの下地層を複数組み合わせた複合下地層を用いても良い。
【0032】
次に本発明の磁気記録媒体の特徴である磁気記録層14の材料組成、製膜方法、及び微細構造について詳述する。図2に示すように、本実施例の磁気記録層14はFePtグラニュラー磁性層21とその上に形成されるFePtキャップ磁性層22の二層構造からなる。
【0033】
FePtグラニュラー磁性層21の製膜にはFe45Pt45Ag10合金とカーボン(C)と共に焼結したスパッタターゲットを用いた。同ターゲット中のC含有量は体積濃度で約35vol.%とした。ここで、Cの含有量を原子濃度x(at.%)及び体積濃度y(vol.%)で表す場合に、両者は次式を用いて換算されるとした。
y=0.00322x2+0.619x
【0034】
まず、MgO酸化物層13まで製膜した基板を加熱チャンバーに移し、赤外線ヒーターを用いて基板両面から加熱した。加熱終了後に同基板を迅速に製膜チャンバーに移動させ、前述のFePtAg−35vol.%Cターゲットを用いてDCスパッタリング法により厚さ4nmのFePtグラニュラー磁性層21を形成した。加熱チャンバー内に設置した放射温度計を用いて推定した製膜時の基板温度は約450℃であった。
【0035】
続くFePtキャップ磁性層22の製膜には、Fe45Pt45Ag10合金のみからなるターゲットと同合金とカーボン(C)を焼結したターゲットの二つのスパッタターゲットを用いた。後者のターゲットにおけるCの含有量は35vol.%とした。
【0036】
まず、FePtグラニュラー磁性層21の製膜終了後に真空チャンバー内で基板を300秒待機させ、いったん加熱された基板の温度が下がるのを待った。基板温度がほぼ室温まで下がったのを確認した後に、前述の二つのターゲットを同時放電させてDCスパッタリング法で厚さ1から6nmのFePtキャップ磁性層22を製膜した。ここで二つのターゲットに与えるスパッタ電力を変えることでFePtキャップ磁性層22中に含まれるCの含有量を0から25vol.%の間で変化させた。
【0037】
スパッタ製膜後に再び基板を加熱チャンバーに移してポストアニール処理を行った。ポストアニール処理中の加熱温度は500℃、アニール時間は120秒とした。
【0038】
磁気記録層14の製膜後に再び基板温度が下がるのを待ち、カーボン保護層15を形成した。カーボン保護層15は厚さ3.5nmのカーボンを主原料とする高硬度薄膜である。窒素ガス比を10%とした全圧1.5Paのアルゴンと窒素の混合ガス中でカーボンターゲットを放電させてDCスパッタリング法により形成した。
【0039】
記録再生評価を行う磁気記録媒体のサンプルに対しては、カーボン保護層15の上部に厚さ約1nmの液体潤滑膜16を形成した。スパッタリング製膜終了後に真空槽から基板11を取り出し、ディップ法によりPFPE系の液体潤滑剤を塗布した。さらに媒体表面をテープ等でバーニッシュして異常突起部や異物を除去した。
【0040】
以上の手順で作製した本実施例の磁気記録媒体の表面粗さについて検討を行った。図3に、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したRMS表面粗さとFePtキャップ磁性層22のC含有量の関係を示す。ここでFePtキャップ磁性層22の厚さは2nmである。FePtキャップ磁性層22がCを含まないサンプルの場合、RMS表面粗さは約4.5nmと非常に大きかった。これはポストアニール処理の際にFePt合金が凝集を起こしてクラスターを形成したためであり、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平面及び断面構造を観察したところ、結晶粒径が数十nmに及ぶ非常に大きなFePt磁性合金粒子が観察された。
【0041】
FePtキャップ磁性層22にCを添加していくにしたがってRMS表面粗さは減少する傾向を示し、図3に示すように、Cの添加量が7vol.%以上18vol.%以下においては0.5nm以下まで減少した。この領域の磁気記録媒体の平面及び断面構造を観察したところ、FePtキャップ磁性層22は均質な構造を有する連続膜であった。ここで均質な構造とはCが2nm以下の非常に小さな微粒子としてFePtキャップ磁性層内に均質に分散した状態であると考えられる。このように適量のCを添加することによってポストアニール処理中のFePt合金の凝集が抑制され、その結果として表面平坦性が向上した。C添加量が7vol.%より少ない領域では凝集の抑制が十分でなかったものと考えられる。
【0042】
C添加量が18vol.%より多い領域では再び均質な構造が失われ、TEM観察によってC部とFePt合金部とに分離した構造が観察された。C添加量が多すぎる場合にはCが大きな集合体となり、FePtキャップ磁性層22の均質性が損なわれたと考えられる。図3に示すように、この場合のRMS表面粗さは1.5−2.0nm程度と大きく、磁気記録媒体として好適な表面平坦性は得られなかった。
【0043】
次に、FePtキャップ磁性層22のC含有量を12vol.%とし、キャップ磁性層厚の影響について調べた。図4に、Kerr効果磁力計で測定したヒステリシス曲線の角型比S、及びRMS表面粗さのFePtキャップ磁性層厚依存性を示す。図4から、キャップ磁性層の厚さを1nm以上とすることで、RMS表面粗さは0.44nmと磁気記録媒体として許容できる水準まで低下した。一方、FePtキャップ磁性層22の厚さが3nmよりも大きくなると角型比Sが1から減少した。この角型比Sの減少は、FePtキャップ磁性層22の磁化容易軸が膜面垂直方向から逸れたことと関係している。X線回折プロファイルから、FePtキャップ磁性層22が3nmよりも厚いサンプルにおいては(111)配向を示すFePt磁性合金粒子が現れることが確認された。更にこのような(111)配向を示すキャップ磁性層においては表面平坦性も僅かに劣化していた。以上から、本発明においては、FePtキャップ磁性層22の厚さを1nm以上3nm以下とすることで、良好な表面平坦性及び磁化容易軸方向(結晶配向性)を有する磁気記録媒体が得られることが分かった。
【0044】
本実施例においては、前述のように、FePtキャップ磁性層22は室温付近で製膜し、その後でポストアニール処理を行っている。この製膜方法に代えて、FePtグラニュラー磁性層と同じように予め450℃まで加熱した基板にFePtキャップ磁性層22を形成する方法を適用した比較例1の媒体を作製した。ここで、FePtキャップ磁性層22の厚さは2nm、C含有量は12vol.%とした。同じキャップ磁性層の厚さ及び組成を有する実施例1の媒体と比較例1の媒体のRMS表面粗さを表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1のRMS表面粗さが0.38nmと良好であるのに対して、比較例1のRMS表面粗さは1.2nmと非常に大きかった。TEMによって比較例1のキャップ磁性層部を観察したところ明瞭なグラニュラー構造が確認された。高温の基板上に製膜されたFePtAg−C合金薄膜においては、FePt磁性合金粒子の結晶成長が促進されると共に、FePt磁性合金粒子とC粒界との分離が進むために、均質な構造のキャップ磁性層を得ることが出来なかったと考えられる。
【0047】
キャップ磁性層の厚さ及び組成が同じである実施例1及び比較例1の媒体に対して、熱アシスト磁気記録ヘッドを用いて記録再生実験を行った。図5に熱アシスト磁気記録ヘッドの概略断面図を示す。熱アシスト磁気記録ヘッドは、記録磁界を発生する主磁極51、主磁極51に隣接して作りこまれた近接場光発生素子52、近接場光発生素子52までレーザー光を導く導波路53を備えており、これら記録素子部とは別にトンネル磁気抵抗効果を用いた再生素子部54を有する。この記録及び再生素子は固体スライダー55内に電極等と共に作りこまれており、さらに固体スライダー55をヘッドサスペンションの先端に接着した上で熱アシスト磁気記録ヘッドとして使用する。導波路53に導入したレーザー光によって近接場光発生素子52の近傍に近接場光56を発生させると、近接場光56によって磁気記録媒体57が加熱される。主磁極51を固体スライダー55内に形成したコイルによって励磁することで加熱された領域に熱アシスト磁気記録を行う。ここで、再生素子の幾何幅は約32nm、計算により推定した近接場光56の直径は約35nmであった。
【0048】
静止記録装置(ドラッグテスター)に実施例1又は比較例1の媒体と上述の熱アシスト磁気記録ヘッドを取り付け、媒体に記録及び再生素子部を密着させた状態で、ピエゾ素子によって媒体とヘッドの相対位置を変えながら記録再生実験を行った。その結果を表1に示した。表1において、記録再生ビット長とは、記録後に記録トラック中心位置を再生した時の信号対雑音比SNRが14dB以上となる最短ビットの長さである。記録再生幅とは、記録後に再生ヘッドを用いて見積もった記録トラックの幅である。また、これらの値を参考に推定した実現可能な最大面記録密度を推定面記録密度として示した。
【0049】
実施例1の媒体の推定面記録密度が約189Gb/cm2であったのに対して、比較例1の媒体の推定面記録密度は107Gb/cm2に留まっており、明らかに実施例1の方が優れた記録再生性能を示した。様々な要因が絡んでいるために厳密な議論は困難であるが、表1はRMS表面粗さを低減することによって記録再生性能が著しく向上したことを示している。RMS表面粗さを低減することで、ヘッドと磁気記録媒体間の距離(スペーシング)を小さくすることが可能になる。スペーシング低減は、一般に、記録再生性能を大きく改善する因子であることが分かっている。表面平坦性の改善によってスペーシング低減が可能となったと考えれば、実施例1による性能改善のかなりの部分が説明される。
【0050】
本実施例において、FePtグラニュラー磁性層21の製膜にはC含有量を35vol.%としたFe45Pt45Ag10−C複合ターゲットを用いた。しかし、非特許文献7に開示されているように、グラニュラー構造は様々なC組成比で得られることが分かっている。実際、FePtグラニュラー磁性層21の製膜に、C含有量を25vol.%及び45vol.%に変えた別のFe45Pt45Ag10−C複合ターゲットを用いた場合にも同様な効果が得られることが分かった。C添加量はこれらに限定されるものではなく、FePtグラニュラー磁性層を形成するのに好適な20vol.%以上55vol.%以下において同様な効果が得られる。
【0051】
[実施例2]
本実施例の磁気記録媒体は、FePtキャップ磁性層22を除いて実施例1と同じ材料構成及び製膜条件で作製した。本実施例と実施例1の違いは、FePtキャップ磁性層22に添加する非磁性粒界材料としてCに変えて酸化物を用いた点である。
【0052】
FePtキャップ磁性層22の製膜にはFe45Pt45Ag10合金のみからなるターゲットと同合金と酸化物を焼結したターゲットの二つのスパッタターゲットを用いた。酸化物を含有するターゲットとしてはFe45Pt45Ag10−SiO2,Fe45Pt45Ag10−TiO2,Fe45Pt45Ag10−Ta25の三種類を使用した。ここで各ターゲットの酸化物含有量はいずれも50vol.%とした。
【0053】
SiO2の含有量をモル濃度x(mol.%)と体積濃度y(vol.%)で表す場合に、両者は次式を用いて換算されるとした。
y=−0.0348x2+2.98x
【0054】
同様にTiO2の場合には次式で換算されるとした。
y=−0.0180x2+2.17x
【0055】
同様にTa25の場合には次式で換算されるとした。
y=−0.134x2+5.43x
【0056】
FePtキャップ磁性層22に上記酸化物を添加した本実施例の磁気記録媒体のRMS表面粗さの検討を行った。図6に原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したRMS表面粗さとFePtキャップ磁性層22の酸化物含有量の関係を示す。ここでFePtキャップ磁性層22の厚さは2nmとした。
【0057】
実施例1のC添加の場合と同様に、FePtキャップ磁性層22に酸化物を添加していくにしたがってRMS表面粗さは減少する傾向を示し、図6に示すように、11vol.%以上32vol.%以下においては0.5nm以下まで減少した。この領域の磁気記録媒体の平面及び断面構造を観察したところ、FePtキャップ磁性層22は均質な構造を有する連続膜であった。ここで均質な構造とは、酸化物が2nm以下の非常に小さな微粒子としてFePtキャップ磁性層内に均質に分散した状態を示している。このように適量の酸化物を添加することによってポストアニール処理中のFePt磁性合金粒子の凝集が抑制され、その結果として表面平坦性が向上した。
【0058】
ここでFePtキャップ磁性層22に添加する酸化物材料がSiO2,TiO2,及びTa25のいずれの場合も、ほぼ同様の傾向を示した。良好な表面平坦性を有する磁気記録媒体は、酸化物添加量が概ね11vol.%以上32vol.%以下の領域において得ることが出来た。
【0059】
実施例1のC添加の場合と同様に、酸化物添加量が32vol.%より多くなるとRMS表面粗さが2nm程度まで再び増加した。TEM観察によれば酸化物の大きな集合体が観察された。これによりFePtキャップ磁性層22の均質性が失われたものと考えられる。
【0060】
FePtキャップ磁性層22に15vol.%の酸化物を添加し、その厚さを2nmとした磁気記録媒体を記録再生評価用に作製した。酸化物として実施例2−1にはSiO2を、実施例2−2にはTiO2を、実施例2−3にはTa25をそれぞれ適用した。表2に、これらの実施例のRMS表面粗さと実施例1の方法による記録再生評価の結果を示す。RMS表面粗さはいずれも0.3−0.5nmで十分な表面平坦性が保たれていた。また、推定面記録密度もC添加の場合に近い値が得られ、RMS表面粗さ低減による記録再生性能の改善が確認された。
【0061】
【表2】

【0062】
[実施例3]
本実施例の磁気記録媒体は、実施例1の積層構造及び製膜条件に準じる条件で作製した。ただし、磁気記録層14(FePtグラニュラー磁性層21及びFePtキャップ磁性層22)にはAg元素の添加を行わず、磁気記録層14の製膜にはFe50Pt50−35vol.%Cターゲット及びFe50Pt50ターゲットを用いた。Ag元素の添加が無い場合にはFePt合金の規則化に必要な温度が高くなる傾向があるので、本実施例では、FePtグラニュラー磁性層21の製膜時の基板温度を500℃、FePtキャップ磁性層22の製膜後のポストアニール処理温度を550℃とそれぞれ50℃ずつ高くした。
【0063】
実施例3−1の媒体として、FePtグラニュラー磁性層21に約35vol.%のCを添加し、FePtキャップ層22に約10vol.%のCを添加したものを作製した。また、実施例3−2の媒体として、FePtグラニュラー磁性層21に約35vol.%のCを添加し、FePtキャップ層22に約15vol.%のCを添加したものを作製した。表3に、これらの実施例の媒体のRMS表面粗さと実施例1の方法による記録再生評価の結果を示す。
【0064】
加熱処理の温度はやや高いものの、RMS表面粗さはいずれも0.5nm以下となっており、FePtキャップ磁性層22による表面平坦性の改善効果を確認することが出来た。推定面記録密度も実施例1と同等の値が得られた。
【0065】
【表3】

【0066】
[実施例4]
本実施例の磁気記録媒体は、磁気記録層14を除いて実施例1と同じ膜構成及び製膜条件で作製した。図7に示すように、本実施例では磁気記録層14は少なくとも第一のFePtグラニュラー磁性層71及び第二のFePtグラニュラー層72の二つのFePtグラニュラー磁性層からなる。各グラニュラー磁性層の厚さは2nmとした。
【0067】
実施例4−1においては、第一のFePtグラニュラー磁性層71には35vol.%のCを添加し、第二のFePtグラニュラー層72には35vol.%のSiO2を添加した。第一及び第二グラニュラー磁性層を製膜する直前にはそれぞれ基板を加熱し、製膜時の基板温度は約450℃とした。実施例4−1はFePtキャップ磁性層73を持たず、磁気記録層14の総膜厚は4nmであった。
【0068】
実施例4−2として、実施例4−1の磁気記録層上にさらに厚さ2nmのFePtキャップ磁性層73を積層したものを作製した。この場合の磁気記録層14の総膜厚は6nmであった。FePtキャップ磁性層73には実施例1のものと同じ材料組成及び作製プロセスを適用した。室温製膜後に500℃で120秒間のポストアニール処理を行った。
【0069】
比較例2として、第一及び第二のFePtグラニュラー磁性層の両方に35vol.%のCを添加したものを作製した。また、比較例3として、第一のFePtグラニュラー磁性層71には35vol.%のSiO2を添加し、第二のFePtグラニュラー磁性層72には35vol.%のCを添加したものを作製した。比較例3は実施例4−1の積層順を反対にしたものである。これらの比較例もFePtキャップ磁性層73を持たず、磁気記録層14の総膜厚は4nmであった。
【0070】
表4に、実施例4−1、実施例4−2、比較例2、比較例3のRMS表面粗さと実施例1の方法による記録再生評価の結果を示す。
【0071】
【表4】

【0072】
実施例4−1はFePtキャップ磁性層73が無いにも拘らず、比較的良好なRMS表面粗さを有しており、比較例と比べて明らかに高密度記録特性が優れていた。比較例2との比較から、表面に近い第二のFePtグラニュラー磁性層にSiO2を適用する事でグラニュラー磁性層の表面平坦性が高まることが分かった。
【0073】
比較例3の場合、第一のFePtグラニュラー磁性層71にSiO2を適用し、表面に近い第二のFePtグラニュラー磁性層にはCを適用している。この場合は、実施例4−1のような表面平坦性の大きな改善が見られなかった。したがって、表面平坦性を高めるためには、表面に近い第二のFePtグラニュラー磁性層にSiO2を適用する事が極めて好ましい。また、比較例3は、比較例2と比べてRMS表面粗さが小さいにもかかわらず、高密度記録特性は劣化した。これは、第一のFePtグラニュラー磁性層71にSiO2を添加したことで、Cを添加した場合と比べてFePt磁性合金粒子の孤立性が劣化したことが原因だと推測される。
【0074】
実施例4−2では、FePtグラニュラー磁性層のみで表面平坦性を改善できた実施例4−1の構造に、さらにFePtキャップ磁性層を適用した。この場合は相乗効果によって更にRMS表面粗さが小さくなり、推定面記録密度も231Gbits/cm2と最大値が得られた。
【0075】
本実施例ではFePtグラニュラー磁性層に添加する非磁性材料の添加量を35vol.%としたが、非磁性材料の添加量はこれに限定されるものではなく、FePtグラニュラー磁性層を形成するのに好適な20vol.%以上55vol.%以下としても同様な効果が得られる。
【0076】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
11 耐熱ガラス基板
12 Ni−Ta合金層
13 MgO層
14 磁気記録層
15 カーボン保護層
16 液体潤滑膜
21 FePtグラニュラー磁性層
22 FePtキャップ磁性層
51 主磁極
52 近接場光発生素子
53 導波路
54 磁気再生素子
55 固体スライダー
56 近接場光
57 磁気記録媒体
71 第一のFePtグラニュラー磁性層
72 第二のFePtグラニュラー磁性層
73 FePtキャップ磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも磁気記録層が形成されてなる磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層は、それぞれがFe及びPtを主原料とする磁性合金と、カーボン、酸化物、窒化物から選ばれる少なくとも一種の非磁性材料を含有する複数の磁性層により構成されており、
基板側に位置する第一の磁性層は、FePt合金を主原料とする磁性合金粒子と前記非磁性材料を主原料とする粒界部が分離したグラニュラー構造を有し、
第一の磁性層よりも表面側に位置する第二の磁性層は、FePt合金と前記非磁性材料とが第一の磁性層におけるFePt磁性合金粒子の直径よりも微細な状態で混ざり合った均質な構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層に添加した前記非磁性材料の体積あたりの含有量が20vol.%以上55vol.%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体において、前記第二の磁性層に添加した非磁性材料がカーボンであり、その体積あたりの含有量が7vol.%以上18vol.%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体において、前記第二の磁性層に添加した非磁性材料が酸化物もしくは窒化物であり、その体積あたりの含有量が11vol.%以上32vol.%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層は予め加熱した基板上に製膜して形成され、前記第二の磁性層は第一の磁性層製膜時よりも低温に冷却した基板上に製膜した後にポストアニール処理を行って形成されたものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層は、いずれもFePt合金を主原料とする磁性合金粒子と前記非磁性材料を主原料とする粒界部が分離したグラニュラー構造を有する二層の磁性層からなり、前記二層の磁性層のうち基板側に位置する磁性層はそれよりも表面側に位置する磁性層と比較して、非磁性材料であるカーボンの含有量が多く、それ以外の酸化物及び窒化物の含有量が少ないことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性基板上に少なくとも磁気記録層が形成されてなる磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層は、それぞれがFe及びPtを主原料とする磁性合金と、カーボン、酸化物、窒化物から選ばれる少なくとも一種の非磁性材料を含有する複数の磁性層により構成されており、
基板側に位置する第一の磁性層、及び第一の磁性層よりも表面側に位置する第二の磁性層は、いずれもFePt合金を主原料とする磁性合金粒子と前記非磁性材料を主原料とする粒界部が分離したグラニュラー構造を有し、
第一のFePtグラニュラー磁性層は、第二のFePtグラニュラー磁性層と比較して、非磁性材料であるカーボンの含有量が多く、それ以外の酸化物及び窒化物の含有量が少ないことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録層は前記第二の磁性層よりも表面側に位置する第三の磁性層を有し、
前記第三の磁性層は、FePt合金と前記非磁性材料とが前記第一の磁性層及び前記第二の磁性層におけるFePt磁性合金粒子の直径よりも微細な状態で混ざり合った均質な構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、前磁磁気記録層におけるFePt合金がAg元素を含有してなることを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−181902(P2012−181902A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45496(P2011−45496)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】