説明

磁気記録媒

【課題】
微粒子化した六方晶系フェライト磁性粉末は平板状の磁性粉末特有の積層化による磁気凝集体を形成しやすい。
【解決手段】
平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末が磁性粉合計含有量の70〜90重量%の範囲にあり、残部を平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末とすることで、磁気記録媒体の出力を維持したままノイズ低減でき、高いSNRを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄と窒素を少なくとも構成元素とする粒状ないしは楕円状の磁性粉末を用いた磁気記録媒体、詳しくは、デジタルビデオテープ、コンピユータ用のバックアップテープなどの超高密度記録に最適な磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体、つまり非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体は、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。とくに、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が、年々、高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、記録時の厚み損失を小さくするために磁性層の厚さを200nm以下、特に100nm以下に薄膜化することが効果的である。このような高記録密度媒体に用いられる再生用磁気ヘッドとしては、高出力が得られるMRヘッドが一般に用いられているが、さらに高感度なGMRヘッドの使用が検討されている。
【0004】
また、ノイズ低減のため、磁性粉末においては、年々、微粒子化がはかられ、現在、粒子径が45nm程度の針状のメタル磁性粉末が実用化されている。さらに短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9kA/m(3000Oe)程度の保磁力が実現されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体においては、保磁力が粒子の針状形状に基づく形状磁気異方性に依存することから、上記粒子径からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。
【0005】
即ち、針状メタル磁性粉末は、針状形状にすることによる形状磁気異方性により保磁力を発現しているが、微粒子化に伴い必然的に針状比(粒子長さ/幅)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高記録密度化する上で、致命的な問題となる。このように針状メタル磁性粉末は、微粒子化に伴い保磁力が低下する本質的な問題があり微粒子化に限界がある。
【0006】
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、Fe16相を主相としたBET比表面積が10m/g程度の窒化鉄系磁性粉末を用いた媒体が提案されている(特許文献4参照)。このFe16相を主相としたBET比表面積が10m/g程度の窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力は得られるが、粒子サイズが大きく高密度記録媒体には適さない。
【0007】
さらに、上記針状の磁性粉末とは異なる磁性粉末として、板状で、かつ板面に垂直な方向に磁化容易軸を有する六方晶系フェライト磁性粉末が提案されている(特許文献5−7参照)。この板状の六方晶系フェライト磁性粉末は、保磁力を結晶磁気異方性に基づいているため、微粒子になっても高い保磁力を維持できて、高密度記録領域において高い出力と同時にノイズが低く、その結果高いノイズ対出力比(SNR)が得られ高密度記録媒体に適した磁性粉末であることが示されている。しかし粒子形状が板状で、板面に垂直な方向に磁化容易軸があるため、本質的に板状粒子同士が積層凝集して大きな磁気クラスターを形成しやすく、個々の粒子は小さいにもかかわらず、その粒子体積から期待されるような低ノイズが実現できないのが現状である。
【0008】
一方、本発明者らにより希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくとも一つの元素と鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末を用いた記録媒体が提案されている(特許文献8参照)。この記録媒体は、磁性粉末が5〜50nmの微粒子で粒状ないし楕円状でありながら高保磁力を有するため、高密度記録領域における高い出力と同時にノイズが低く、その結果高いノイズ対出力比(SNR)を示す。
【0009】
【特許文献1】特開平3−49026号公報(第4頁)
【特許文献2】特開平10−83906号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−34085号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2000−277311号公報(第3頁、図4)
【特許文献5】特開2004−273094号公報(第3頁、図2)
【特許文献6】特開平6−290924号公報(第2頁)
【特許文献7】特開2005−340690号公報(第2頁)
【特許文献8】特開2002−298331号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5〜7の六方晶系フェライト磁性粉は、粒子形状が板状で、板面に垂直な方向に磁化容易軸を有するため、本質的に板状粒子同士が積層凝集しやすく、個々の粒子は小さいにもかかわらず、粒子の磁気的凝集体である磁気クラスターサイズが大きく、粒子サイズから期待されるほどノイズが低下しない。
【0011】
本発明は、板状で微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末本来の低ノイズを実現し、この磁性粉末の特性を最大限に引き出すための磁性膜を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的に対し鋭意検討した結果、磁性粉末として、平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末を主構成磁性粉末として、この磁性粉末に、窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を同時に含有させ、六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が50〜95重量%の範囲となるようにすることにより、出力をほとんど低下させることなくノイズのみを著しく低減させることができて、その結果優れたSNRが得られることを見出したものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明は平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末と同時に、平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を、六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜90重量%の範囲になるように含有させることにより、磁気記録媒体としての出力を維持したままノイズを低減させることができ、その結果、高いSNRを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、六方晶系フェライト磁性粉末の平均粒子サイズが10〜30nmと小さいにもかかわらず、磁気記録媒体としたときに、その本来の低いノイズが得られない原因について考察した結果、この磁性粉末特有の平板状の形状に原因があることを明らかにした。即ちこの磁性粉末は、結晶磁気異方性を有し、その磁化容易軸が平板に垂直方向にあり、その結果、磁極が平板の上下面に発生する。従って、この磁性粉末は本質的に磁気凝集しやすく、その平板面同士が磁気的に結合して、強固な磁気凝集体を形成することがわかった。このような磁気凝集体は、磁化を有する磁性粉末において多かれ少なかれ生じるが、この六方晶系フェライト磁性粉末においては、粒子の平板面の上下に磁極が発生するため、平板面同士が磁気結合して、極めて強固な磁気クラスターを形成する。このような磁気クラスターは、通常の磁気塗料の分散に使用されるビーズ等を用いて分散しても、磁気クラスターを解砕して均一な分散体を得ることは極めて困難である。なぜなら、通常ビーズのサイズはミクロンサイズであり、磁気クラスターのサイズに比べると桁違いに大きいためである。
【0015】
一方、このような磁気クラスターを形成しやすい六方晶系フェライト磁性粉末の分散方法としては、一般的に磁性塗料作製時に、磁性粉末とともに、粒子サイズがナノサイズのアルミナ粒子等を多量に添加して、このアルミナ粒子により平板状粒子からなる磁気クラスターを解砕することが行われる。しかしこの方法では、磁気クラスターが解砕されてノイズは低下しても、非磁性体を多量に添加するために、磁性層の磁束密度が低下し、出力が低下する。その結果、ノイズは低下しても、SNRとして高い値を示す磁気記録媒体は得られない。
【0016】
一方、本発明者らは、磁性粉末が鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつ、Fe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmで、粒子形状が粒状ないし楕円状の磁性粉末を開発した。この磁性粉末は、従来の針状の磁性粉末とは異なり、粒子形状が粒状ないし楕円状であるにもかかわらず、結晶磁気異方性により高い保磁力を示す。この磁性粉末は、単独で使用しても優れた記録再生特性を示すが、上述した六方晶系フェライト磁性粉末とともに使用することにより、六方晶系フェライト磁性粉末の課題であった磁気凝集の問題を解決できることを見出した。即ち、六方晶系フェライト磁性粉末の磁性塗料を作製時に、上述した粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を、六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜95重量%の範囲になるように含有させることにより、粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末が六方晶系フェライト磁性粉末の平板状粒子の間に入り込み平板状粒子が積層凝集して生成した磁気クラスターを解砕する効果があることを見出した。そのとき解砕媒体自体が、磁性を有する窒化鉄系磁性粉であるため、磁性層の磁束密度は低下せず、その結果高い出力を維持しながら、ノイズのみを低減させることが可能になる。
【0017】
この窒化鉄系磁性粉末の含有量が上述した範囲より多いと、出力は低下しないが、六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が少なくなるため、この磁性粉末の本来の特徴である低いノイズを実現しにくくなる。一方、窒化鉄系磁性粉末の含有量が上述した範囲より少ないと、六方晶系フェライト磁性粉末の磁気クラスターを解砕する効果が少なくなり、ノイズが低減しない。したがって六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜95重量%の範囲になるように窒化鉄系磁性粉末を含有させたときに、出力を低下させることなくノイズのみを低減して、高いSNRを実現することができる。
【0018】
本発明は、磁性層の磁束密度を低下させることなく、ノイズだけを小さくすることにより、SNRを向上させるものである。即ち、本発明では、主構成磁性粉末として平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶フェライト系磁性粉末を用い、この磁性粉末とともに、Fe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を含有させることにより、六方晶フェライト系磁性粉末特有の平板状粒子の板面同士が積層凝集して生成した磁気クラスターを、形状が粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末により解砕し、六方晶フェライト系磁性粉末本来の低いノイズを実現するものである。
【0019】
即ち、形状の異なる磁性粉末を適度に含有させることにより、磁束密度を維持したまま、粒子の形状を利用して磁気クラスターを解砕し、ノイズを低減できることを見出したものである。
【0020】
この六方晶系フェライト磁性粉末の平均粒子サイズは10nmより小さいと、粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を含有させても、磁気クラスターを解砕することは難しく、また30nmより大きいと、解砕できても磁性粉末そのものの粒子サイズが大きいため、ノイズは低下の効果は少ない。また粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末の粒子サイズは10〜20nmのものが好ましく、このサイズより小さいと六方晶系フェライト磁性粉末の磁気クラスター解砕の効果は少なく、またこのサイズより大きいと、解砕できても磁性粉末自身の粒子サイズが大きいため、ノイズ低減の効果は少ない。
【0021】
本発明に使用する六方晶系フェライト磁性粉末は、飽和磁化としては20〜60Am/kg(20〜60emu/g)の範囲のものが、また保磁力は79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)の範囲のものが好ましく、また窒化鉄系磁性粉末は、飽和磁化としては30〜100Am/kg(30〜100emu/g)の範囲のものが79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)の範囲のものが好ましい。それぞれの磁性粉末の磁気特性がこの範囲のときに、SNRに優れた、良好な記録再生特性を示す。
【0022】
また本発明の磁気記録媒体の磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜358.2kA/m(1500〜4500Oe)で、角形(Br/Bm)は0.65〜0.92で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。また垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)で、角形(Br/Bm)は0.60〜0.85で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。さらに無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)で、角形(Br/Bm)は0.40〜0.65で、飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。
【0023】
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜95重量%の範囲にあるときに、粒状ないし楕円状粒子による平板状の六方晶系フェライト磁性粉末の磁気クラスター解砕効果が顕著に現れ、出力を維持したままで、ノイズが顕著に低下し、高いSNRが得られることが分かった。
このように平板状の六方晶系フェライト磁性粉末とともに粒状ないし楕円状の磁性粉末を含有させるとノイズが顕著に低減するメカニズムは以下の通りであると考えられる。
【0024】
通常磁性粉末は磁性層中に高充填するほど磁束密度が大きくなり、再生出力が大きくなる。これは従来の塗膜の基本的設計指針であり、従来針状磁性粉末を用いた磁気記録媒体においては磁性粉末をできる限り高充填する努力がなされてきた。一方六方晶系フェライト磁性粉末は形状が平板状であるため、粒子が積層凝集しやすく、針状磁性粉末に比べて本質的に高充填されやすい特徴がある。この特徴は高い再生出力が得られる反面、磁性粉末が磁気クラスターを形成しやすくなる。磁気クラスター内では、個々の平板状粒子間に強い磁気的相互作用が働き、記録再生時において、この磁気クラスターがあたかも1個の粒子のように振舞う。この磁気クラスターの形成は、記録再生においては磁性層内に粒子サイズの大きな磁性粉末が存在することと同等の現象を引き起こし、ノイズが高くなる。この磁気クラスターサイズは、高密度記録媒体においては、SNRに大きな影響を与える。即ち高充填することによる再生出力の増加以上に、磁気クラスター形成によりノイズが増加し、SNRは逆に低下する。この現象は、再生ヘッドがMRヘッドからGMRヘッドさらにはTMRヘッドのように高感度化するにしたがいより顕著になる。
【0025】
一方六方晶系フェライト磁性粉末とともに粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を特定量同時に含有させると、分散時に平板状粒子のエッジの部分に粒状ないし楕円状粒子が衝突すると、この粒状ないし楕円状粒子は積層した平板状粒子の間に入り込み、平板状粒子を分断し、その結果、磁気クラスターサイズが小さくなると考えられる。即ち、粒状ないし楕円状粒子は、粒子自身出力に寄与する磁性粉末であると同時に、平板状粒子の磁気クラスターを解砕して分散させるための分散体としての作用を有すると考えられる。
【0026】
一方このような効果は、平板状の磁性粉末と粒状ないし楕円状の磁性粉末が特定の割合で共存しているときに得られる。粒状ないし楕円状の磁性粉末の割合が多すぎても、SNRとしてはそれほど大きな影響はないが、六方晶系フェライト磁性粉末の特徴である低ノイズが得られにくくなる。一方、粒状ないし楕円状の磁性粉末の割合が少なすぎると、分散体としての効果が現れにくく、平板状粒子の磁気クラスターを解砕して本来の低いノイズが得られにくくなる。
【0027】
次に本発明の六方晶系フェライト磁性粉末および窒化鉄系磁性粉末の製造方法について、説明する。
【0028】
まず六方晶フェライト系磁性粉末の製造方法について説明する。なお本製造法は、六方晶フェライト系磁性粉末の製造方法の一例を示したものであり、本製造方法に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0029】
六方晶系フェライト磁性粉末の構成元素であるバリウム(Ba)塩かストロンチウム(Sr)塩のいずれか一種以上の金属塩と鉄塩とを含む金属塩の水溶液にアルカリ水溶液を添加して共沈物を作る。次にこの共沈物を水熱処理することによって、六方晶系フェライト磁性粉末とする。バリウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩としては、これらの金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩が好適に使用される。このとき、これらの金属塩と共に、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)などの金属イオンを適当量添加することにより、保磁力と同時に粒子サイズを任意に制御できる。特に粒子サイズの小さな六方晶系フェライト磁性粉末を得るためには、これらの金属イオンの添加は不可欠である。またアルカリとしては通常水酸化ナトリウムが使用され、添加する金属塩のモル等量以上で、過剰アルカリ濃度が0.1モル/L以上とするのが好ましく、特に粒子サイズの小さい六方晶系フェライト磁性粉末を得るには、過剰アルカリ濃度を2モル/L以上とすることが好ましい。
【0030】
水熱処理は、オートクレーブを用いて行われ、オートクレーブ中での加熱処理は、粒子サイズの小さい六方晶系フェライト磁性粉末を得るには、200〜350℃で1〜6時間処理することが好ましい。
【0031】
このようにして作製された六方晶系フェライト粒子は、次に融剤を用いて、融剤中で加熱処理することにより、融剤中で六方晶系フェライト粒子が結晶成長して生成する。融剤は六方晶系フェライト粒子を結晶成長させるための母材であると同時に、六方晶系フェライト粒子同志の焼結を防止する役目を有する。その結果、粒子サイズ分布のシャープな六方晶系フェライト粒子が得られると同時に、粒子の結晶性が向上し、飽和磁化量が大きく、かつ分散性、配向性に優れた六方晶系フェライト磁性粉末となる。
【0032】
ここで使用される融剤としては、500〜1000℃で溶融し、かつ六方晶系フェライト粒子と固溶しないものが好ましく使用され、溶融温度がこれより低いものでは六方晶系フェライト粒子の熱処理が不充分となり、六方晶系フェライト粒子の結晶性を充分に向上せず、飽和磁化量を充分に大きくすることができない。一方溶融温度が高いものでは融剤中での六方晶系フェライト粒子の結晶成長が顕著になり、粒子が粗大化する傾向になる。また六力晶糸フエライト粒子と固溶するものは、飽和磁化量を低下しやすいため好ましくない。このような融剤としては、例えば、ナトリウム(Na)やカリウム(K)、リチウム(Li)の硫酸塩、塩化物、臭化物、沃化物やホウ酸などが好適なものとして使用され、特にNaClおよびKClは水によく溶解するため、加熱処理後、水洗することによりこれらの融剤を除去し易く、磁性粉末中に不純物として残らないため好ましい。
【0033】
この融剤による加熱処理は、750〜900℃の範囲内の温度で1〜4時間行うのが好ましく、処理温度が低すぎたり処理時間が短かすぎると熱処理が不充分となり、六方晶系フェライト粒子の結晶性が充分に向上して飽和磁化量を充分に大きくすることができず、処理温度が高すぎたり処理時間が長すぎると融剤が粒子表面固着して飽和磁化量をかえって低下させるおそれがある。
【0034】
また他の製造方法として、上述した六方晶系フェライト構成元素と融剤を混合した溶解物を急冷することにより、六方晶系フェライト粒子の成長を抑制し、この急冷物を400〜700℃で加熱処理することにより、融剤中で適度な大きさに六方晶系フェライト粒子に結晶成長させ、その後融剤を溶解除去することにより六方晶系フェライト粒子を得ることもできる。このような方法により、平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0035】
次に窒化鉄系磁性粉末の製造方法について説明する。
【0036】
窒化鉄系磁性粉末用出発原料としては、鉄系酸化物または水酸化物を使用できる。たとえば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが好適なものとして挙げられる。平均粒子サイズとしては、特に限定されないが、5〜30nm程度が望ましい。粒子サイズが小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、また大きすぎると、最終的に得られた磁性粉末の粒子サイズが大きすぎてノイズが高くなり、高いSNRが得られにくくなる。
【0037】
この出発原料に希土類元素やアルミニウム、シリコンなどを被着処理することも出来るし、またあらかじめこれらの元素を出発原料に添加しておくこともできる。被着処理するには、例えばアルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素やアルミニウム、シリコンの塩を溶解させ、中和反応などにより原料粉末にこれらの元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させることにより被着処理できる。
【0038】
次に、このような原料を、水素気流中で加熱還元する。還元ガスは、とくに限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元温度としては、300〜500℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また、500℃を超えると、粉末粒子の焼結が起こりやすくなり、好ましくない。
【0039】
このような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明の鉄と窒素を構成元素とする磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0040】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのが好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると、窒化が過剰に促進され、FeNやFeN相などの割合が増加するため保磁力が低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0041】
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素
の量が少なすぎると、Fe16の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、FeNやFeN相などが形成されやすくなり、保磁力が低下してさらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0042】
以下に、本発明の磁気記録媒体について説明する。
【0043】
本発明に使用する非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体をいずれも使用できる。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜15μm、特に2〜7μmのプラスチツクフイルムが好ましく用いられる。
【0044】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下の問題を解決するため、300nm以下とする必要である。磁性層厚さが300nm以上では、厚さ損失により再生出力が低下する。また、残留磁束密度と厚さの積が大きくなりすぎて、特に再生ヘッドにGMRヘッドを使用する場合には、再生出力の飽和による再生出力の歪が起こりやすい。一方、10nm未満では、均一な磁性層が得られにくい。
【0045】
また磁気特性としては、例えば長手配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が119.4〜358.2kA/m(1500〜4500Oeで、角形(Br/Bm)は0.65〜0.92の範囲に、垂直配向媒体とする場合には、垂直方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)で、角形(Br/Bm)は0.60〜0.85の範囲に、また無配向媒体とする場合には、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.5kA/m(1000〜4000Oe)で、角形(Br/Bm)は0.40〜0.65の範囲にすることが好ましい。これらの保磁力範囲が好ましいのは、保磁力が低過ぎると、短波長領域で反磁界による減磁により出力低下が起こりやすくなり、また保磁力が高過ぎると、磁気ヘッドによる記録が困難になるためである。また飽和磁束密度と磁性層厚さの積(Bm・t)は、長手配向、垂直配向、無配向に関わらず0.001〜0.1μTmの範囲とすることが好ましい。この範囲が好ましいのは、0.001μTm未満では、GMRのような高感度ヘッドを使用した場合でも再生出力が小さく、また1μTmを超えると、GMRのような高感度ヘッドを使用した場合に、出力が飽和して歪みやすくなるためである。
【0046】
いずれの配向状態の磁気記録媒体においても、六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜95重量%の範囲とすることにより、平板状の六方晶系フェライト磁性粉末の磁気的凝集体である磁気クラスターを粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末により解砕する効果が顕著に現れ、出力を維持したままでノイズのみが低減し、その結果高いSNRが得ることができる。
【0047】
また、磁性層の平均面粗さとしてはRaが1.0〜3.2nmの範囲が好ましく、この範囲のときにヘッドとのコンタクトがよくなり、高いSNRが得られる。一方Raがこの範囲以下になると、ヘッドの張り付きなどにより摺動性が低下する傾向があり、またこの範囲以上では、ヘッドのコンタクトが悪くなり出力が低下しやすくなる。
【0048】
本発明は、磁性層の磁束密度を低下させることなく、磁気クラスターサイズだけを小さくすることにより、SNRを向上させるものである。即ち、本発明では、主構成磁性粉末として平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末を用い、この磁性粉末とともに、Fe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を含有させることにより、平板状の六方晶系フェライト磁性粉末の磁気クラスターを解砕するものである。即ち、形状の異なる磁性粉末を適度に含有させることにより、磁束密度を維持したまま、磁気クラスターサイズ低減によるノイズを低減することにより高いSNRを得ることに成功したものである。
【0049】
また磁性層には、導電性向上と表面潤滑性向上を目的にカーボンブラックや、研磨性向上を目的にアルミナ等を含ませることが好ましい。このカーボンブラックやアルミナとしては従来公知のものを使用できる。
【0050】
下塗層は必須の構成要素ではないが、耐久性の向上を目的として、非磁性支持体と磁性層との間に設けることが好ましい。下塗層の厚さとしては、0.1〜3.0μmが好ましく、0.1μm以下では、磁気テープの耐久性が悪くなる場合があり、3.0μm以上では、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和するばかりでなく、テープ全厚が厚くなって、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる。
【0051】
下塗層に含ませる無機粒子としては特に限定されるものではないが、例えば非磁性の酸化鉄を用いる場合には、針状のものでは平均長さが50〜200nmのものが好ましく、また粒状または無定形のものでは平均粒径5〜200nmのものが好ましく用いられる。
【0052】
また、磁性層を垂直配向して垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層には磁性粒子を使用することが好ましい。この際、磁性粒子の種類に特に限定はなく酸化鉄、金属あるいは合金が使用できるが、磁性層からの磁束を下塗層で閉じて、表面からのみ強い磁束を発生させることが目的であるため、下塗層に使用する磁性粒子はできるだけ保磁力が小さく、かつ飽和磁化の大きいものが好ましい。また好ましい粒子サイズや粒子形は、非磁性粒子を使用する場合と同様である。
【0053】
またさらに垂直記録媒体として使用する場合には、下塗層の磁性層と、信号記録するための上層の磁性層との間に、さらに中間層を形成することもできる。この中間層は、上層と下塗層間の磁気的相互作用を制御し、垂直磁化成分をより有効に活用するために有効である。
【0054】
下塗層、磁性層に使用する結合剤は特に限定されるものではなく、通常磁気記録媒体に使用されているものが使用できる。例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などの塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース、エポキシ樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂との組み合わせがある。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを併用するのが好ましい。
【0055】
またこれらの結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。
【0056】
磁性層、下塗層に含ませる潤滑剤には、従来公知の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどがいずれも用いられる。その中でも、炭素数10以上、好ましくは12〜30の脂肪酸と、融点35℃以下、好ましくは10℃以下の脂肪酸エステルとを併用するのが、特に好ましい。
【0057】
バックコート層は、必須の構成要素ではないが、磁気テープの場合、非磁性支持体の磁性層形成面の反対面にバックコート層を形成するのが望ましい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では走行性の向上効果が不十分で、0.8μmを超えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記憶容量が小さくなるためである。
【0058】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、溶剤としては、従来から使用されている有機溶剤をすべて使用することができる。たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤などを使用でき、その他、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの各種の有機溶剤が用いられる。
【0059】
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料の調製にあたり、従来から公知の塗料製造工程を使用でき、とくにニーダなどによる混練工程や一次分散工程を併用するのが好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用することにより、磁性粉末などの分散性の改善とともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0060】
また、非磁性支持体上に、磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料を塗布する際には、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から公知の塗布方法が用いられる。とくに、下塗塗料および磁性塗料の塗布方法は、非磁性支持体上に下塗塗料を塗布し乾燥したのちに磁性塗料を塗布する、逐次重層塗布方法か、下塗塗料と磁性塗料とを同時に塗布する、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット)かのいずれを採用してもよい。塗布時における薄層磁性層のレベリングを考えると、下塗塗料が湿潤状態のうちに磁性塗料を塗布する、同時重層塗布方式を採用するのがとくに好ましい。
【0061】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において部とあるのは重量部を意味するものとする。
【0062】
また主磁性粉末として使用する六方晶系フェライト非磁性粉末として、一般式BaO・6Feで表されるバリウムフェライト磁性粉末を用いた例について説明するが、バリウムフェライト磁性粉末に限定されるものではないことは、言うまでもない。
【実施例1】
【0063】

(A)バリウムフェライト磁性粉末の作製
1モルの塩化第二鉄と、1/8モルの塩化バリウムおよび1/20モルの塩化コバルトを1Lの水に溶解した混合溶液を、5モルの水酸化ナトリウムを溶解した1Lの水酸化ナトリウム水溶液に加えて攪拌した。次いでこの懸濁液を1日間熟成した後、沈機物をオートクレーブ中に入れ、280℃で4時間、加熱反応させてバリウムフェライトのプリカーサを得た。
【0064】
このバリウムフェライトプリカーサをpHが8以下になるまで十分に水洗した後、バリウムフェライトプリカーサを含む全体の容量が1Lになるように沈降させて懸濁液を作り、上澄液を除去した後、この懸濁液中に融剤として300gのNaClを添加して攪拌し、溶解した。次に、このNaClを溶解したバリウムフェライトプリカーサの懸濁液を面積の広いハツトに入れ、乾燥機で100℃に加熱して、水を蒸発させた。
【0065】
このようにして得られたバリウムフェライトプリカーサとNaClの混合物をるつぼに入れ、まず830℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解し、次に温度を780℃まで下げ、780℃で約10時間加熱処理し、その後、室温まで冷却した。次に、水洗によりNaClを溶解して除去し、バリウムフェライト磁性粉末を取り出した。得られたバリウムフェライト磁性粉末の粒子径は、約25nmであった。
【0066】
また、このバリウムフェライト磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は42.1Am/kg(42.1emu/g)、保磁力は156.0kA/m(1960Oe)であった。

(B)窒化鉄系磁性粉末の作製
形状がほぼ球状に近い平均粒子サイズが約17nmのマグネタイト粒子10gを500ccの水に、超音波分散機を用いて、30分間分散させた。この分散液にY/Fe:2.0at%になるように硝酸イットリウムを加えて溶解し、30分間撹拌した。この分散液に、Al/Fe:20.0at%になるようにアルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液をpHが7〜8になるように調整しながら滴下し、マグネタイト粒子の表面にアルミニウムおよびイットリウムの水酸化物を被着させた。その後、分散液をろ過し、固形分を水洗した後、空気中110℃で乾燥した。
【0067】
その後、この粉末を水素気流中450℃で6時間、さらに460℃で1時間加熱還元し、粒子内部が鉄で表面がアルミニウムとイットリウムの化合物で被覆されたアルミニウムーイットリウム−鉄系磁性粉末を得た。つぎに、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、140℃まで降温した。140℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を140℃に保った状態で、20時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、140℃から40℃まで降温し、40℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。さらに混合ガスを流した状態で温度を60℃まで昇温し、60℃で2時間安定化処理を行った。
【0068】
ついで、混合ガスを流した状態で、60℃から40℃まで降温し、40℃で約24時間保持した後、混合ガスを流した状態で室温まで冷却し、空気中に取り出した。
【0069】
このようにして得られたアルミニウムーイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのアルミニウム、イットリウムおよび窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ18.1at%、1.8at%および10.3at%であった。また、X線回折パターンより、Fe16相を示すプロファイルを得た。
【0070】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが15.5nmであり、内部がFe16構造の窒化鉄で、表面がアルミニウムとイットリウムからなる酸化物層で構成されたコアシェル構造であることがわかった。またBET法により求めた比表面積は、103.2m/gであった。
【0071】
また、この磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は62.4Am/kg(62.4emu/g)、保磁力は175.9kA/m(2210Oe)であった。

(C)磁性塗料の作製
磁性粉末として上記(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末を、上記(B)で作製した窒化鉄系磁性粉末を使用し、以下の組成の磁性塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分とした分散処理を行い、これにポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)6重量部を加え、撹拌ろ過して磁性塗料を調製した。
【0072】
(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末 63重量部
(B)で作製したAl-Y-窒化鉄系磁性粉末 7重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 15重量部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 9重量部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:80nm) 4重量部
シクロヘキサノン 156重量部
トルエン 156重量部
(D)下層用塗料の作製
下記の下層用塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、下層用塗料を調整した。
【0073】
酸化鉄粉末(平均粒径:55nm) 70重量部
アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 10重量部
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 20重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂 10重量部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5重量部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
メチルエチルケトン 130重量部
トルエン 80重量部
ミリスチン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1.5重量部
シクロヘキサノン 65重量部
(E)磁気テープの作製
上記下層用塗料を、非磁性支持体であるポリエチレンテレフタレートフイルムに、乾燥およびカレンダ処理後の下層厚さが2μmとなるように塗布し、この上にさらに、上記の磁性塗料を、磁場配向処理、乾燥およびカレンダ処理後の磁性層厚さが100nmとなるように塗布厚さを調整しながら塗布した。
【0074】
つぎに、この非磁性支持体の下塗層および磁性層の形成面とは反対面側に、バツクコート塗料を、乾燥およびカレンダ処理後のバツクコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バツクコート塗料は、下記のバツクコート塗料成分を、サンドミルにより滞留時間45分間分散したのち、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して調製したものである。
【0075】
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 40重量部
カーボンブラツク(平均粒径:370nm) 1重量部
硫酸バリウム 4重量部
ニトロセルロース 28重量部
ポリウレタン樹脂(SONa基含有) 20重量部
シクロヘキサノン 100重量部
トルエン 100重量部
メチルエチルケトン 100重量部
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、1/2インチ幅に裁断した。
【実施例2】
【0076】
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から56重量部と14重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【実施例3】
【0077】
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から65.8重量部と4.2重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【実施例4】
【0078】
実施例1における磁性塗料の作製(C)において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から72重量部と8重量部に、かつ塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂およびポリイソシアネート使用量を、それぞれ15重量部、9重量部および6重量部から、10重量部、6.5重量部および3.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【実施例5】
【0079】
実施例1のバリウムフェライト磁性粉末の作製において、水酸化ナトリウムの添加量を5モルから3モルに変更し、かつバリウムフェライトプリカーサをNaCl融剤中での加熱処理を、まず830℃で20分間加熱してNaClを溶解した後、温度を750℃まで下げ、750℃で約10時間加熱処理し、室温まで冷却した。その他の工程は、実施例1と同様にしてバリウムフェライト磁性粉末を作製した。得られたバリウムフェライト磁性粉末の粒子径は、約17nmであった。
【0080】
また、このバリウムフェライト磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は28.4Am/kg(28.4emu/g)、保磁力は139.3kA/m(1750Oe)であった。
【0081】
このバリウムフェライト磁性粉末と、実施例1の(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末と(B)を用いて、その他は実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【実施例6】
【0082】
実施例1のバリウムフェライト磁性粉末の作製において、水酸化ナトリウムの添加量を5モルから10モルに変更し、かつバリウムフェライトプリカーサをNaCl融剤中での加熱処理を、まず830℃で20分間加熱してNaClを溶解した後、温度を780℃まで下げ、780℃で約5時間加熱処理し、室温まで冷却した。その他の工程は、実施例1と同様にしてバリウムフェライト磁性粉末を作製した。得られたバリウムフェライト磁性粉末の粒子径は、約22nmであった。
【0083】
また、このバリウムフェライト磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は38.8Am/kg(38.8emu/g)、保磁力は144.1kA/m(1810Oe)であった。
【0084】
このバリウムフェライト磁性粉末と、実施例1の(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末を用いて、その他は実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
(比較例1)
実施例1における磁性塗料の作製において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から70重量部と0重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。即ち、粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を使用することなく平板状のバリウムフェライト磁性粉末のみを使用して、磁気テープを作製した。
(比較例2)
実施例1における磁性塗料の作製において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から42重量部と28重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
(比較例3)
実施例1における磁性塗料の作製において、(A)で作製したバリウムフェライト磁性粉末と(B)で作製したAl−Y−窒化鉄系磁性粉末の割合を、それぞれ63重量部と7重量部から67.9重量部と2.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0085】
上記の実施例1〜4および比較例1〜3の各磁気テープについて、下記の要領で磁気特性として長手方向の保磁力(Hc)、角形(Br/Bm)および電磁変換特性を測定した。これらの結果は、表1にまとめて示す。
【0086】
<電磁変換特性の測定>
電磁変換特性は回転ドラム装置を用いて測定した。測定条件は、記録ヘッドとして、
トラック幅:12μm、ギャップ長:0.15μm、Bs:1.2TのMIGヘッドを使用し、再生ヘッドとして、トラック幅が2.5μmでSH−SH幅が0.15μmのスピンバルブタイプのGMRヘッドを使用した。テープとヘッドの相対速度は3.4mであり、スペクトルアナライザーを使用して169kfciの記録密度における再生出力(S)とブロードバンドノイズ(N)を測定し、SNRを求めた。なお再生出力、ノイズレベルおよびSNRは、比較例1のテープの値を0dBとして、相対値として示した。
【0087】
表1より明らかなように、バリウムフェライト磁性粉末と粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を同時に含有させたテープは、バリウムフェライト磁性粉末のみから作製した比
較例1のテープに比べてSNRは向上する。これは、バリウムフェライト磁性粉末より高い飽和磁化を有する窒化鉄系磁性粉末を含有させることにより、磁性層の磁束密度が向上し、その結果、出力が増加するためである。
【0088】
【表1】

【0089】
一方、主構成磁性粉末であるバリウムフェライト磁性粉末に窒化鉄系磁性粉末が特定の割合で含有している実施例1〜6のテープでは、SNR向上の効果が顕著に現れる。これはバリウムフェライト磁性粉末より高い飽和磁化を有する窒化鉄系磁性粉末を含有させることによる磁性層の磁束密度が向上による出力の増加と同時に、粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末により、平板状のバリウムフェライト磁性粉末の磁気凝集体が解砕され、その結果、磁気クラスターサイズが小さくなり、ノイズも低減するためである。
【0090】
このように平板状のバリウムフェライト磁性粉末に特定の割合で粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末を含有させることにより、平板状の磁性粉末特有の積層化による磁気凝集体を粒状ないし楕円状粒子により解砕し、出力を低下させることなくノイズを低減させることが可能になり、高いSNRが得られること分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、上記磁性層が磁性粉末として、平均粒子サイズが10〜30nmの平板状の六方晶系フェライト磁性粉末と、窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16相を少なくとも含む平均粒子サイズが10〜20nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末からなり、かつ六方晶系フェライト磁性粉末と窒化鉄系磁性粉末の合計含有量に対する六方晶系フェライト磁性粉末の含有量が70〜95重量%の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
六方晶系フェライト磁性粉末がバリウムフェライトあるいはストロンチウムフェライトの中から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
窒化鉄系磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
窒化鉄系磁性粉末が窒素とさらに希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素を含有する請求項1〜3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
窒化鉄系磁性粉末中の希土類元素、アルミニウム、シリコンの内の少なくとも1種の元素の含有量が、鉄に対してそれぞれ0.05〜20.0原子%であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
希類土元素がイットリウム、サマリウム、ネオジウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素であることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性支持体と磁性層の間に、少なくとも一層の無機粉末および結合剤を含有する下塗り層有し、磁性層の厚さが0.3μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2010−61732(P2010−61732A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226167(P2008−226167)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】