説明

磁気記録用支持体および磁気記録媒体

【課題】磁性層の変性を防止しつつ、導電性に優れ、高温高湿下での保管後も良好な耐久性と記録信号の保持に優れた磁気記録媒体を得ることができる磁気記録媒体用支持体を提供すること。
【解決手段】樹脂フィルム上に導電性ポリマーを含むポリマー層を少なくとも1層有し、導電性ポリマーがポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物からなり、導電性ポリマー中の硫黄原子(S)と第1族〜第12族元素(M)の原子数比(M/S)が1,000ppm以上である磁気記録媒体用支持体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れ、高温高湿下での保管後も良好な耐久性と記録信号の保持に優れた磁気記録媒体を得ることができる磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体には、映像のデジタル記録用のビデオ用途、サーバー等のデータバックアップ用のコンピューター用ともに、特に機材の軽量化、小型化、長時間記録化のため高密度化が厳しく要求されている。
【0003】
大容量化のためには、薄膜化によるテープカートリッジ収容テープ長の増加や、記録信号の高密度化などが有効であり、また、感度(特に高周波領域での出力)を改善するために、磁気記録層の表面が平滑に仕上げられている。これとともに、摩擦の増加によって発生する帯電が、磁気ヘッドに用いられるMR(磁気抵抗効果)素子への放電や周辺塵埃の吸着による異物に起因するヘッドとの密着不良による記録・読み出しの不良を引き起こすという、相反した問題が顕在化してきた。
【0004】
この対策として、例えば特許文献1にみられるように、磁性層下層からの潤滑剤の供給による摩擦低減だけではなく、磁性層中に含まれるカーボンブラックによる導電性付与がなされてきた。しかし、磁性層に径の大きなカーボンブラック粒子を多く存在させることは、そのカーボンブラック粒子そのものによる塗膜表面の粗面化を引き起こし、帯電防止と引き替えに出力の低減を引き起こしていた。
【0005】
これに対し、特許文献2では、磁性粉末そのものに導電性をもたせるべく磁性粉末を炭素被覆することが試みられている。しかし、記録密度の増加に伴う磁性粉末の微細化および粒子形状均一化には限界がある。
【0006】
また、特許文献3では、磁性層ではなく支持体にも導電性を付与することで磁性層表面の電荷によるMRヘッドへの放電や塵埃の吸着を防止することが試みられている。しかし、導電性熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂の薄膜成形では平滑表面との両立が困難であり、カーボンブラック含有樹脂の使用は、磁性層へのカーボンブラック添加と同様に磁気記録媒体表面の粗面化を生んでいた。さらにポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物による帯電防止は、平滑表面の実現は達成されていたが、チオフェンに対して電気伝導を付与するためにポリ陰イオンによってドープされている対イオンである水素イオンが強酸として働き、高温高湿下にさらされることもある磁気記録媒体においては、磁性層を構成する無機磁性粉末のみならず、それらを固定している結合剤樹脂の変性を引き起こすもととなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−259402号公報
【特許文献2】特開2002−56517号公報
【特許文献3】特開2009−272039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決し、磁性層の変性を防止しつつ、導電性に優れ、高温高湿下での保管後も良好な耐久性と記録信号の保持に優れた磁気記録媒体を得ることができる磁気記録媒体用支持体およびそれを用いた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、樹脂フィルム上に導電性ポリマーを含むポリマー層を少なくとも1層有し、導電性ポリマーがポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物からなり、導電性ポリマー中の硫黄原子(S)と第1族〜第12族元素(M)の原子数比が1,000ppm以上である磁気記録媒体用支持体であることを特徴とする。
【0010】
なお、導電性ポリマー中の第1族〜第12族元素(M)が、原子番号3以上30以下であることも好ましい。
【0011】
また、導電性ポリマーが、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物に架橋剤が含有されてなる樹脂であることも好ましい。
【0012】
また、導電性ポリマー中の第1族〜第12族元素(M)が、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことも好ましい。
【0013】
また、少なくとも一方の表面の表面比抵抗が1×104.0〜1×108.5Ω/□であることも好ましい。
【0014】
さらにまた、上記した磁気記録媒体用支持体を用いた磁気記録媒体も好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁気記録媒体用支持体により、磁気記録媒体に加工した場合に、磁性層の変性を防止しつつ、導電性に優れ、高温高湿下での保管後も良好な耐久性と記録信号の保持に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各条件におけるエラーレートをプロットした概略グラフである。
【図2】各条件におけるエラーレートをプロットした概略グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物としては、例えば下記化学式(1)
【0018】
【化1】

【0019】
・・・(1)
および/または化学式(2)
【0020】
【化2】

【0021】
・・・(2)
で示した構造単位を繰り返し単位とする化合物を、ポリ陰イオンの存在下で重合することによって得ることができる。化学式(1)において、R、Rは、それぞれ独立に、水素元素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基を表し、例えば、メチル基、エチル基、メチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシレン基、ベンゼン基などである。化学式(2)において、nは1〜4の整数である。
【0022】
本発明においては、化学式(2)で表される構造式からなるポリチオフェン誘導体を用いることはさらに好ましく、例えば、化学式(2)で、n=1(メチレン基)、n=2(エチレン基)、n=3(プロピレン基)の化合物が好ましい。中でも特に好ましいのは、n=2のエチレン基の化合物、すなわち、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンである。
【0023】
本発明において、ポリチオフェン誘導体としては、例えば、チオフェン環の3位と4位の位置が置換された構造を有する化合物が例示され、かつ、上記した通り該3位と4位の炭素原子に酸素原子が結合した化合物が例示される。該炭素原子に直接、水素原子あるいは炭素原子が結合したものは、塗液の水性化が容易でない場合がある。
【0024】
本発明において、ポリ陰イオンとは、遊離酸状態の酸性ポリマーであり、高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸、ポリビニルスルホン酸などである。高分子カルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示され、高分子スルホン酸としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸が例示され、特に、ポリスチレンスルホン酸が導電性の点で最も好ましい。これら、ポリ陰イオンを重合時に用いることにより、本来、水に不溶なポリチオフェン系化合物を水分散あるいは水性化しやすく、かつ、酸の対イオンがポリチオフェン系化合物のドーピング剤として機能も果たす。
【0025】
なお、本発明においては、ポリ陰イオンの遊離酸を一部または全部が中和された塩の形とし、対イオンとして第1族〜第12族元素(M)を含有させることを特徴とする。これは、酸性ポリマーから遊離した水素イオンが、磁性層を構成する無機磁性粉末のみならず、それらを固定している結合剤樹脂の変性を引き起こすのを防止するとともに、磁性層に添加されている潤滑剤の主成分である高級脂肪酸およびそのエステルやアミド化合物の水素イオンによる加水分解を防止するほか、脂肪酸と対イオンとなった元素Mとの結合による潤滑剤成分が脂肪酸塩として固体潤滑剤となることによって、磁性層の特性維持および潤滑性の保持に寄与し、高温高湿下での保管時も良好な耐久性と記録信号の保持に寄与するためである。
【0026】
このような水素イオンの低減の観点から、この元素Mは、導電性ポリマー中の硫黄原子(S)との原子数比(M/S)で1,000ppm以上とする。これは、硫黄原子を有するポリチオフェン誘導体に対し、それにドープされている水素イオンが元素Mによる対イオンによって置換され、支持体表面に残存する水素イオン量を低減した量に相当するためである。
【0027】
これら第1族〜第12族元素(M)を対イオンとして含有させるためには、ポリ陰イオンを持つ酸性ポリマーを、元素Mの固体炭酸塩の存在下で、またはその水溶液と接触・撹拌することが好ましい。水酸化物塩でも中和は可能であるが、炭酸塩を用いることで、酸性ポリマーがpH=7に至る前に酸性側のままで平衡に至り水酸化物イオンが残存しないことと、pHの増加によって未反応の炭酸塩は固体として析出し除去が容易となること、さらに生成する二酸化炭素も大気圧下で容易に除去できることから好ましい。この中和反応は、ポリチオフェン誘導体との混合前に酸性ポリマー単独の溶液に対して行うことも、混合後にポリチオフェン誘導体との混合溶液に対して行うことも可能である。
【0028】
このような炭酸塩としては、原子番号3以上30以下の元素Mの炭酸塩が工業用に安価かつ大量に適用できる。これより原子番号の大きい元素(第5周期以降の元素)では、水素イオンを置換する陽イオンを形成しても、ポーリングやシャノンによるイオン半径にみられるように排除体積が大きくなりすぎることから、ドープされるイオンの存在密度が低下してしまい、導電性の観点から本発明の目的を達するのに不利である。
【0029】
なお、難溶性の炭酸塩との中和反応を開始させるため、元素Mの遊離イオンを酸性ポリマー溶液中に投入すべく、元素Mの塩化物塩を触媒量投入することができる。これにより、塩化物塩から溶出した元素Mの陽イオンを介して固体炭酸塩と溶液内での対イオンの交換・移動が促進される。ただし、過剰に投入すると、投入量に対応して生成する塩化水素の残存量が大きくなり、塗布後の乾燥において大気中に塩化水素ガスが放出される可能性があるため、最小限に留めることが好ましい。アンモニウム塩については、塗布後乾燥においてアンモニアガスが発生する可能性がある。
【0030】
水溶性である第1族元素であるアルカリ金属の炭酸塩も適用できるが、水に対して難溶性である第2族元素であるアルカリ土類金属の炭酸塩や、第3族〜第11族元素である遷移金属の炭酸塩、第12族元素である亜鉛族元素の炭酸塩のほうが、炭酸塩を過剰に投入した場合でも固体として残存し除去が容易である点で好ましい。
【0031】
この中でも、第2族元素であるアルカリ土類金属を用いた場合には、2価の陽イオンとして潤滑剤中の脂肪酸2分子と結合する対イオンとなり、潤滑剤の流動性を抑えて磁気記録媒体表面への過剰な析出を防止できる点で好ましい。また、垂直記録型など厚み方向に複数の磁気記録層を持つ磁気記録媒体など、支持体表面に近い磁性層が存在する場合、支持体表面に存在する対イオンが磁気モーメントを持たないことから、磁気共鳴による磁気記録および読み出しにおけるノイズを生じない点でも好ましい。原子番号30までのこのような元素としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムがある。
【0032】
一方で、第3族〜第11族元素である遷移金属、または第12族元素である亜鉛族元素を用いた場合には、これらの元素がd電子軌道を有することから、ポリチオフェン誘導体の共役電子系に対して元素M自身が移動せずとも、空のd電子軌道とチオフェン誘導体のπ電子軌道、硫黄原子上の孤立電子対との間での電子授受によって導電性が得られ、水素イオンや1価の陽イオン(アルカリ金属)原子全体の移動による電気伝導に比べ、電荷移動における立体障害の影響を受けにくい点で好ましい。原子番号30までのこのような元素としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛があり、これらの群から選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。
【0033】
上述の原子番号30以下の第1族〜第12族元素(M)は、その効果を阻害しない範囲で、複数の元素が導電性ポリマー中に共存していてもよい。
【0034】
なお、本発明においては、高分子カルボン酸や高分子スルホン酸は、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。
【0035】
ポリ陰イオンとして用いられる高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や導電性の点で、その数平均分子量は1,000〜1,000,000が好ましく、より好ましくは5,000〜150,000である。
【0036】
本発明においては、ポリチオフェン誘導体に対して、ポリ陰イオンは、固形分量比で過剰に存在させた方が導電性の点で好ましく、ポリチオフェン誘導体1質量部に対して、ポリ陰イオンは、1〜5質量部含有せしめることが好ましく、より好ましくは1〜3質量部である。
【0037】
また、上記したポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物は、例えば、特開平6−295016号公報、特開平7−292081号公報、特開平1−313521号公報、特開2000−63324号公報、ヨーロッパ特許EP602713号公報、米国特許US5391472号公報等に記載の方法により製造することができるが、これら以外の方法を用いてもよい。
【0038】
例えば、3,4−ヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4−エチレンジオキシチオフェンを得たのち、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4−エチレンジオキシチオフェンを導入し、反応させ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェン誘導体に、ポリスルホン酸などのポリ陰イオンが複合化した組成物を得ることができる。
【0039】
本発明においては、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物に架橋剤を含有させることが磁性体塗布において塗布溶剤への溶出を抑えられるため好ましい。架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミドエポキシ化合物、チタンキレート等のチタネート系カップリング剤、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系、アクリルアミド系などを用いることができる。
【0040】
本発明において、上記架橋剤は、数平均分子量が好ましくは1,000以下の架橋剤であることが好適である。特に、架橋剤を水溶性で数平均分子量を1,000以下とすることで、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物と架橋剤がより相溶しやすくなり、導電性ポリマーを含むポリマー層(以下、導電性ポリマー層ということがある)の亀裂を防止し、帯電防止性が向上する。
【0041】
また、本発明においては、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物に架橋剤が10〜85質量%含有されていることが好ましい。例えば、架橋剤が10質量%未満では樹脂の粘度が極端に高く、フィルム表面に均一な導電性ポリマーを形成することが困難となり、結果的に帯電防止性の悪化を招く場合がある。一方、架橋剤が85質量%を超えると帯電防止性が発現し難くなる。従って、架橋剤を10〜85質量%含有されてなることは、帯電防止性の点でより好ましく、さらに好ましくは25〜75質量%である。
【0042】
本発明のポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物またはそれに架橋剤を含有した組成物より導電性ポリマー層を形成するためには、各種の塗布方法が適用できる。基材となる樹脂フィルムへの塗布の方法は、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0043】
磁気記録媒体の薄膜化のために導電性ポリマー層を薄膜化できる点で、樹脂フィルム上への塗布方法としてインラインコーティングが好ましい。インラインコーティング方法は、例えば、溶融押出や溶液キャストされた未延伸フィルム、または長手方向に延伸して得られた一軸延伸フィルムに連続的に塗液を塗布した後、長手方向および/または幅方向に延伸するのが一般的である。長手方向・幅方向の延伸順は特に限られるものではなく、幅方向に延伸後に、塗布して、長手方向に延伸する方法、塗布した後、長手方向と幅方向に同時に延伸する方法など各種の方法を用いることができる。また、塗液を塗布する前に、樹脂フィルムの表面にコロナ放電処理などを施し、該樹脂フィルム面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とするのが、樹脂フィルムとの接着性や塗布性を向上させることができるので好ましい。更に、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒を塗液中に若干含有させて、濡れ性や樹脂フィルムとの接着性を向上させることも好適である。
【0044】
本発明の磁気記録媒体用支持体においては、少なくとも一方の表面の表面比抵抗が1×104.0〜1×108.5Ω/□であることが好ましい。1×104.0Ω/□未満である場合には、導電性が高すぎるために、磁気記録媒体およびそれを収めるケースや走行系において発生した帯電が、MRヘッドに向かって逆に流入し放電して、記録・読みとり不良につながる。1×108.5Ω/□を超える場合には、磁気記録媒体の製造において、磁性層塗布前には支持体上に、磁性層塗布後には磁気記録媒体上に異物や塵埃を引き寄せ付着させ、磁気記録媒体のドロップアウトの原因となる。より好ましくは1×105.0〜1×108.0Ω/□、さらに好ましくは、1×105.5〜1×107.5Ω/□である。
【0045】
上記の表面比抵抗値をとる表面は、ヘッドに接する磁性層側であることが好ましいが、磁性層側のみではなく、もう一方の表面(走行面側)の表面比抵抗も1×104.0〜1×108.5Ω/□にするのが、磁気記録媒体を巻き取った際に走行面に付着した異物や塵埃が磁性層側に接触しドロップアウトの原因となることを防ぐためには好ましい。
【0046】
また、本発明における導電性ポリマー層の厚みは、0.02〜1.0μmが好ましい。0.02μm未満のような薄膜は製造が困難であるとともに導電性ポリマー層の導電特性が安定に得難く、1.0μmを超えると磁気記録媒体の全厚みが厚くなって、1巻当たりのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなるためである。
【0047】
また、本発明の磁気記録媒体用支持体の厚みは、2.0〜8.0μmが好ましい。より好ましくは3.0〜6.5μm、さらに好ましくは3.5〜6.0μmである。
【0048】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、磁性層を形成する側の表面(以下、表面Aということがある)の中心線平均粗さRa(A)は1.5〜15nmであることが好ましく、より好ましくは2〜13nmであり、さらに好ましくは3〜10nmである。Ra(A)が1.5nm未満であると、フィルム表面A上に形成される磁性層が平滑すぎて、デジタルリニアテープ(DLT)、リニアテープオープン(LTO)、クオーターインチカセット(QIC)、デジタルビデオカセット(DVC)等のデータ記録装置での磁気記録・再生時に磁気ヘッドによる磁性層の摩耗や、磁気テープ加工工程におけるハンドリング性の低下といった問題を生じやすくなる。また、Ra(A)が15nmを超えると、磁気テープの電磁変換特性が低下してしまう。つまり、Ra(A)を上記範囲内とすることで、磁性層の記録・再生時の磁気ヘッドによる摩耗を極力少なくし、及び磁気記録テープの電磁変換特性を良好に保つことが可能となる。
【0049】
また、本発明の磁気記録媒体用支持体は、磁気テープとしたときの走行面となる表面(表面Aと反対側の表面;以下、表面Bということがある)の中心線平均粗さRa(B)は10〜30nmであることが好ましく、より好ましくは13〜25nm、さらに好ましくは15〜20nmである。Ra(B)が10nm未満であると、フィルム製造、加工工程等において、搬送ロール等との摩擦係数が大きくなり、工程トラブルを引き起こしたり、磁気テープとして用いる場合に、磁気ヘッドとの摩擦が大きくなり、磁気テープ特性が低下するといった問題が生じ易い。一方、Ra(B)が30nmを超えると、高密度記録の磁気テープとして用いる場合に、磁性面側に走行面側の粗大突起が転写し、磁性面側が粗くなり、電磁変換特性が低下するといった問題が生じ易くなる。
【0050】
また、本発明の磁気記録媒体用支持体に用いる樹脂フィルムは、特に限定されないが、二層以上の積層構造であることが好ましい。単層であると、例えば、磁気記録媒体用として用いる場合、粒子を含有させると表面の突起がそろわず、電磁変換特性や走行性が悪化する場合がある。
【0051】
また、本発明では、樹脂フィルムの基層部の片側にフィルムの走行性やハンドリング性を良化させる役割を担うフィルム層を薄膜積層した2層構造、または、両面に薄膜積層した3層構造をとるものが特に好ましい。なお、基層部とは、層厚みにおいて、最も厚みの厚い層のことであり、それ以外の層が積層部である。磁気材料用途で重要とされる弾性率や寸法安定性等の物性は、主に基層部の物性によって決定される。また、この2層構造のフィルムにおける積層部は、不活性粒子の平均粒径d(nm)と積層厚さt(nm)との関係が、0.2d≦t≦10dである場合、均一な高さの突起が得られるため好ましい。
【0052】
また、本発明の磁気記録媒体用支持体にもちいる樹脂フィルムの表面Aとなる側、表面Bとなる側のRaは、樹脂フィルム内部の粒子の種類、添加量の調整により調整することができる。なお、本発明の支持体中に含まれる粒子の種類、添加量は特に限定されるものではないが、粒子としては、不活性粒子を含有することが好ましい。この際、不活性粒子としては、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式または乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウム、アルミナおよびジルコニア等の無機粒子、アクリル酸、スチレン等を構成成分とする有機粒子、ポリエステル重合反応時に添加する触媒等によって析出する、いわゆる内部粒子等を挙げることができる。この中でも、高分子架橋粒子、アルミナ、球状シリカ、ケイ酸アルミニウムが特に好ましい。また、不活性粒子を含有する場合、平均粒径は1〜2,000nmが好ましく、より好ましくは5〜1,000nm、さらに好ましくは10〜500nmである。不活性粒子の平均粒径が1nm未満であると、支持体の表面突起としての役割を果たさないことがある。また、2,000nmを超えると、粗大突起となって脱落しやすくなったりすることがある。また、本発明に用いられる樹脂フィルムに含有される不活性粒子の含有量は、0.01〜3質量%が好ましく、より好ましくは0.02〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。不活性粒子の含有量が0.01質量%未満であると、樹脂フィルムの支持体走行特性等への寄与が小さくなる。また、3質量%を超えると、凝集して粗大突起となり脱落しやすくなる。
【0053】
本発明において、樹脂フィルムがポリエステルフィルムである場合は、分子配向により高強度フィルムとなるポリエステルを使用したものであれば特に限定しないが、主としてベンゼン環、ナフタレン環を主鎖骨格にもつポリエステルであるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどからなることが好ましい。特に好ましくはクリープ特性が良好であるポリエチレンテレフタレートである。エチレンテレフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどのジオール成分、グリセリン、ペンタエリトリトール、などのポリオール成分、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカンジオン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが使用できる。さらに、エステル結合を生成するモノマーとして、ジカルボン酸成分、ジオール成分以外に、カルボキシル基とヒドロキシ基を一分子内に有するモノマーである、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2,4−ジオキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸を共重合せしめることができる。これら共重合ポリマーの構成モノマー分率はNMR法(核磁気共鳴法)や顕微FT−IR法(フーリエ変換顕微赤外分光法)などの分光法を用いて調べることができる。
【0054】
また、本発明において樹脂フィルムが芳香族ポリアミドフィルムである場合は、例えば以下の製造方法により得ることができる。
【0055】
まず、芳香族ポリアミドポリマーを酸クロリドとジアミンから得る場合は、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中で、溶液重合し、水系媒体を使用する界面重合などで合成する。ポリマー溶液は、単量体として酸クロリドとジアミンを使用すると塩化水素が副生するので、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を使用するとよい。また、イソシアネートとカルボン酸との反応により芳香族ポリアミドポリマーを製造する場合は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行うとよい。また、ポリマー溶液には溶解助剤として無機塩例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。
【0056】
これらのポリマー溶液はそのまま製膜原液として使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解して製膜原液を調製してもよい。
【0057】
本発明の磁気記録媒体用支持体に用いられる樹脂フィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の各種添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤などを添加することもできる。
【0058】
本発明の磁気記録媒体用支持体の表面A側に磁性層を設けることにより、磁気記録媒体を作製することができる。
【0059】
磁性層としては、強磁性金属微粉末を結合剤中に分散してなる磁性層などが好適な例として挙げられる。磁性粉末としては、強磁性鉄粉末、強磁性鉄-コバルト粉末、強磁性酸化鉄粉末、強磁性二酸化クロム粉末、強磁性合金粉末、バリウムフェライトやストロンチウムフェライトなどの六方晶フェライト粉末等が挙げられる。
【0060】
また、結合剤としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、尿素−ホルムアルデヒト樹脂またはこれらの混合物などが挙げられる。中でも、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂それぞれ単独もしくは、これらの混合で用いるのが好ましい。また、これらはイソシアネート化合物を架橋剤として用い、より耐久性を向上させたりしてもよい。さらに、磁性層中の結合剤量としては、磁性粉末100質量部に対し、10〜50質量部であることが好ましい。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、種々の電子線硬化型樹脂を使用することも可能である。
【0061】
磁性層の形成法は、磁性粉を、熱可塑性、熱硬化性あるいは放射線硬化性などの高分子(結合剤)と混練し、塗布、乾燥、カレンダリングを行う塗布法などが採用できる。
【0062】
本発明の磁気記録媒体においては、磁性層上に保護膜が設けられていてもよい。この保護膜によって、さらに走行耐久性、耐食性を改善することができる。保護膜としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物保護膜、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物保護膜、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物保護膜、グラファイト、無定型カーボン等の炭素からなる炭素保護膜があげられる。前記炭素保護膜は、プラズマCVD法、スパッタリング法等で作製したアモルファス構造、グラファイト構造、ダイヤモンド構造、もしくはこれらの混合物からなるカーボン膜であり、特に好ましくは一般にダイヤモンドライクカーボンと呼ばれる硬質カーボン膜である。また、この硬質炭素保護膜上に付与する潤滑剤との密着性をさらに向上させる目的で、硬質炭素保護膜表面を酸化性もしくは不活性気体のプラズマによって表面処理してもよい。
【0063】
本発明では、磁気記録媒体の走行耐久性および耐食性を改善するため、上記磁性膜もしくは保護膜上に、潤滑剤や防錆剤を付与することが好ましい。潤滑剤としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の高級脂肪酸、これら脂肪酸の脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等が挙げられる。中でも、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドをそれぞれ組み合わせて用いるのが好ましい。含有量としては、磁性粉末100質量部に対し、脂肪酸を0.1〜3質量部、脂肪酸エステルを0.1〜3質量部、脂肪酸アミドを0.1〜1.5質量部とするのが好ましい。
【0064】
さらに、磁性分散液を調製するための溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸グリコールモノエチルエステル等のエステル系溶剤、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロロヒドリン、ジクロロベンゼン等の有機塩素化合物系溶剤が挙げられる。
【0065】
次に、上述した磁性層の安定塗布、走行耐久性の強化等の目的で形成する非磁性中間層ついて説明する。非磁性中間層は磁性層と支持体との間に設けられる。このような非磁性中間層によって、磁性層と支持体の間で密着性の維持や磁性層への潤滑剤供給などの機能を持たせることができるとともに、磁性層と層流をなして支持体上に塗布することで塗布が安定して行える塗布厚みを確保しつつも磁性層厚みだけを高密度記録を達成するのに必要なだけ薄く調整することを助ける効果もある。このような機能と特性を与える観点から、この非磁性中間層は原則として非磁性であることが好ましい。
【0066】
非磁性中間層に含まれる非磁性無機粉末、結合剤、及び必要に応じて使用される分散剤、帯電防止剤、防錆剤、潤滑剤等、及びこれら非磁性分散液を調製するために使用される溶剤は、種々のものがいずれも使用可能で何ら限定されるものではない。
【0067】
非磁性無機粉末としては、例えば、シリカ、酸化チタン、アルミナ、カーボンブラック、α−酸化鉄、炭酸カルシウム、酸化クロム等が挙げられる。これら粉末の形状は何ら限定されるものではないが、磁気記録媒体の温湿度膨張係数の低減のために板状もしくは針状が好ましい。中でも、磁気記録媒体の剛性の制御や走行耐久性の強化のために、α−酸化鉄とアルミナを組み合わせて用いるのが好ましく、潤滑剤を吸着でき帯電防止効果もあるカーボンブラックを磁性層表面に影響を及ぼさない粒径や濃度の範囲で併用することも、より好ましい。
【0068】
上述した磁性粉末と結合剤等との混合、非磁性無機粉末と結合剤等との混合、バックコート層用無機粉末と結合剤等との混合による塗料の調製については、従来公知の方法で行うことができるが、例えば、サンドミル、ロールミル、ボールミル、ニーダー、加圧ニーダー、エクストルーダー、ホモジナイザー、ディスパー、超音波分散機等を用いて行うことができる。このうち、ニーダーなどの混練を目的とする手段、サンドミルなどの分散を目的とする手段を適宜組み合わせて用いることが好ましい。
【0069】
本発明の磁気記録媒体用支持体上に磁性層を形成するための磁性分散液ならびに必要であれば非磁性中間層を形成するための非磁性分散液を、同時にもしくは逐次に形成する手法としては、ブレードコート、グラビアコート、ダイコート等従来公知の手法を用いることができる。バックコート層用分散液も同様である。さらに、磁気記録媒体用支持体上への塗布は、磁性層側とバックコート層側のどちらを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0070】
次に本発明の磁気記録媒体用支持体の製造法について具体的に説明するが、かかる例に限定されるものではない。
【0071】
本発明の磁気記録媒体用支持体は、ポリエステル樹脂を溶融成形したシートまたは芳香族ポリアミドを溶液キャストしたシートを、長手方向と幅方向に逐次二軸延伸および/または同時二軸延伸することにより延伸配向させるとともに、いずれかの段階で導電性ポリマー層を積層することで得ることができ、二軸延伸を多段階の温度で順次延伸を重ねて、高度に配向させる手法を採用すると好ましい。
【0072】
以下では、好ましい製造方法として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて逐次二軸延伸法により製造する例について説明する。
【0073】
まず、本発明で使用するポリエチレンテレフタレートは通常の方法により、即ち、次のいずれかのプロセスで製造される。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低分子量のポリエチレンテレフタレートまたはオリゴマーを得、さらにその後の三酸化アンチモンやチタン化合物を触媒に用いた重縮合反応によって高分子量ポリマを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低分子量体を得、さらにその後の三酸化アンチモンやチタン化合物を触媒に用いた重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス(DMT法)である。ここで、エステル化は無触媒でも反応は進行するが、エステル交換反応においては、通常、マンガン、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム、チタン等の化合物を触媒に用いて進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後に、該反応に用いた触媒を不活性化する目的で、リン化合物を添加する場合もある。
【0074】
上記方法により得られたPETのペレットを180℃で3時間以上、減圧乾燥した後、該ポリマーの融点以上に加熱後、定量的にTダイ口金から吐出させ、高電圧を印加しながら冷却ドラムに密着させて冷却し未延伸フィルムを得る。なお、フィルムを積層する場合には、2台以上の押出機およびマニホールドまたは合流ブロックを用いて、複数の異なるポリマーを溶融積層する。例えば、PETフィルムに導電性熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂を含む熱可塑性樹脂、またはカーボンブラック含有ポリエステルである導電性ポリマーが積層されたフィルムとする場合には、2台の押出機を用いて、積層未延伸フィルムを得る。この場合、一方の押出機には上記乾燥したPETを投入し該ポリマーの融点以上に加熱し、もう一方の押出機には、180℃で3時間以上、減圧乾燥した導電性ポリマーを、該ポリマーの融点以上、好ましくは210〜250℃、より好ましくは220〜240℃の範囲に加熱した後、上記加熱されたPETと導電性ポリマーを共押出し、定量的にTダイ口金から吐出させ、高電圧を印加しながら冷却ドラムに密着させて冷却し積層未延伸フィルムを得る。さらに、この際、各層の厚みは各ポリマーの押出し量により調整することができる。
【0075】
ここで、厚みむら低減の観点から、該口金のドラフト比(=口金リップ間隙/押し出されたシート厚み)を1〜15とすることが好ましく、更に好ましくは2〜10、より好ましくは2〜8である。また、静電印加法で用いる電極は、通常直径0.15mmワイヤー電極が好ましく、より好ましくは直径0.10mmワイヤー電極、さらに好ましくは断面が矩形で、長手方向に一様な形態を持つテープ状の電極を用いるとよい。
【0076】
続いて、該未延伸フィルムを、二軸延伸し、二軸配向させる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。延伸温度は、未延伸フィルムを70〜130℃の加熱ロール群で加熱し、長手方向に2.5〜10倍(再縦延伸を行う場合は2.5〜4倍)に1段もしくは多段で延伸し、20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。長手方向の延伸速度は5,000〜200,000%/分の範囲で行うのが好ましい。続いて、幅方向の延伸を行う。幅方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。幅方向の延伸倍率は3〜8倍(再縦延伸を行う場合は、3〜4.5倍)、延伸速度は1,000〜10,000%/分、延伸温度は90〜120℃の範囲で行うのが好ましい。さらに、再縦延伸、再横延伸を行う。その場合の延伸条件としては、長手方向の延伸は、80〜170℃の加熱ロール群で、延伸倍率1.2〜2.3倍、幅方向の延伸方法としてはテンターを用いる方法が好ましく、温度150〜230℃、延伸倍率1.2〜2倍で行うのが好ましい。続いて、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱処理する。この場合の熱処理温度は、160〜230℃で、時間は0.5〜10秒の範囲で行うのが好ましい。
【0077】
ここで、導電性ポリマーであるポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物を樹脂フィルムへ積層する場合には、塗布方法として、インラインコーティングが好ましい。インラインコーティング方法は、例えば、溶融押出しされた未延伸フィルムを長手方向の延伸し、一軸延伸されたフィルムに連続的に塗液を塗布した後、幅方向に延伸するのが一般的であるが、幅方向に延伸後に、塗布して、長手方向に延伸する方法、塗布した後、長手方向と幅方向に同時に延伸する方法など各種の方法を用いることができる。また、塗液を塗布する前に、樹脂フィルムの表面にコロナ放電処理などを施し、該樹脂フィルム面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とするのが、樹脂フィルムとの接着性や塗布性を向上させることができるので好ましい。更に、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒を塗液中に若干含有させて、濡れ性や樹脂フィルムとの接着性を向上させるこも好適である。さらに、樹脂フィルムへの塗布の方法は各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0078】
以上のようにして得られる磁気記録媒体は、例えば、デジタルリニアテープ(DLT)、リニアテープオープン(LTO)、クオーターインチカセット(QIC)、デジタルビデオカセット(DVC)等のデジタルデータおよび/またはデジタル画像記録装置における磁気記録に供することができる。
【0079】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
本発明における特性値の測定方法並びに効果の評価方法は次の通りである。
【0080】
(1)導電性ポリマー中の元素Mの定量
2次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、導電性ポリマー層中の元素分析を行う。支持体中に検出される元素(M+)と、導電性ポリマー中の硫黄元素(S+)との濃度比(M+/S+)を、表面から厚さ方向にSIMSで分析する。本発明の支持体の場合は、導電性ポリマーに起因する硫黄元素濃度が極大値の1/2まで減少した深さを導電性ポリマー層と樹脂フィルムとの界面とする。測定条件は次の通りである。
【0081】
1)測定装置
2次元イオン質量分析装置(SIMS)
西独、ATOMIKA社製 A−DIDA3000
2)測定条件
1次イオン種 :O
1次イオン加速電圧:12KV
1次イオン電流 :200nA
ラスター領域 :400μm□
分析領域 :ゲート30%
測定真空度 :5.0×10−9Torr
E−GUN :0.5KV−3.0A
樹脂フィルムを溶解する溶剤がある場合、例えば、PETなどのポリエステルではクロロフェノールにより樹脂フィルムを除去して、導電性ポリマー層を露出させてから測定に供することで、上記測定を迅速化することができる。
【0082】
また、事前に含有元素を把握するために、JIS−K0119(2008)に基づき、支持体を蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)により、含有量既知のサンプルで予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算して求めることもできる。
【0083】
(2)中心線平均粗さRa
触針式表面粗さ計を用いて下記条件にてフィルムの中心線平均粗さRaを測定する。フィルム幅方向に20回走査して測定を行い、得られた結果の平均値を本発明における中心線平均粗さRaとする。
【0084】
・測定装置:小坂研究所製高精度薄膜段差測定器ET−10
・触針先端半径:0.5μm
・触針荷重:5mg
・測定長:1mm
・カットオフ値:0.08mm
・測定環境 :温度23℃、湿度65%RH
(3)表面比抵抗
温度23℃、湿度65%RHにおいて24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計R8340(アドバンテスト(株)製)を用いて、印加電圧100V、10秒間印加後、測定を行った。単位はΩ/□である。
【0085】
(4)支持体(フィルム)全厚み、及び積層厚み
透過型電子顕微鏡(日立(株)製H−600型)を用いて、加速電圧100kVで、支持体の断面を、超薄切片(RuO染色)で観察する。その界面の観察結果から、全厚み、及び積層厚みを求める。倍率は判定したい支持体の全厚み、積層厚みによって適宜倍率に設定すればよいが、一般的には全厚み測定には1千倍、積層厚み測定には1万〜10万倍が適当である。
【0086】
(5)磁気記録媒体の調製
支持体の一方の表面A側に下記組成の磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布し(上層が磁性塗料で、塗布厚0.1μm、下層が非磁性塗料で塗布厚0.8μm)、磁気配向させ、乾燥温度100℃で乾燥させる。次いで反対側の表面B側に下記組成のバックコートを塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧2.0×10N/mでカレンダー処理した後、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ(12.65mm)幅にスリットし、パンケーキを作成する。次いで、このパンケーキから長さ200m分をカセットに組み込んで、カセットテープとする。
【0087】
(磁性塗料の組成)
・強磁性金属粉末:100質量部
〔Fe:Co:Ni:Al:Y:Ca=70:24:1:2:2:1(質量比)〕
〔長軸長:0.09μm、軸比:6、保磁力:153kA/m(1,922Oe)、飽和磁化:146Am/kg(146emu/g)、BET比表面積:53m/g、X線粒径:15nm〕
・変成塩化ビニル共重合体(結合剤):10質量部
(平均重合度:280、エポキシ基含有量:3.1質量%、スルホン酸基含有量:8×10−5当量/g)
・変成ポリウレタン(結合剤):10質量部
(数平均分子量:25,000、スルホン酸基含有量:1.2×10−4当量/g、ガラス転移点:45℃)
・ポリイソシアネート(硬化剤):5質量部
(日本ポリウレタン工業(株)製コロネートL(商品名))
・2−エチルヘキシルオレート(潤滑剤):1.5質量部
・パルミチン酸(潤滑剤):1質量部
・カーボンブラック(帯電防止剤):1質量部
(平均一次粒子径:0.018μm)
・アルミナ(研磨剤):10質量部
(αアルミナ、平均粒子径:0.18μm)
・メチルエチルケトン:75質量部
・シクロヘキサノン:75質量部
・トルエン:75質量部
(非磁性塗料の組成)
・変成ポリウレタン:10質量部
(数平均分子量:25,000、スルホン酸基含有量:1.2×10−4当量/g、ガラス転移点:45℃)
・変成塩化ビニル共重合体:10質量部
(平均重合度:280、エポキシ基含有量:3.1質量%、スルホン酸基含有量:8×10−5当量/g)
・メチルエチルケトン:75質量部
・シクロヘキサノン:75質量部
・トルエン:75質量部
・ポリイソシアネート:5質量部
(日本ポリウレタン工業(株)製コロネートL(商品名))
・2−エチルヘキシルオレート(潤滑剤):1.5質量部
・パルミチン酸(潤滑剤):1質量部
(バックコートの組成)
・カーボンブラック:95質量部
(帯電防止剤、平均一次粒子径0.018μm)
・カーボンブラック:10質量部
(帯電防止剤、平均一次粒子径0.3μm)
・アルミナ:0.1質量部
(αアルミナ、平均粒子径:0.18μm)
・変成ポリウレタン:20質量部
(数平均分子量:25,000、スルホン酸基含有量:1.2×10−4当量/g、ガラス転移点:45℃)
・変成塩化ビニル共重合体:30質量部
(平均重合度:280、エポキシ基含有量:3.1質量%、スルホン酸基含有量:8×10−5当量/g)
・シクロヘキサノン:200質量部
・メチルエチルケトン:300質量部
・トルエン:100質量部
(6)エラーレート
上記(5)で作成したカセットテープを、市販のIBM社製LTOドライブ3580−L11を用いて23℃65%RHの環境で300回(パス)走行することで評価する。エラーレートはドライブから出力されるエラー情報(エラービット数)から次式にて算出する。
【0088】
エラーレート=(エラービット数)/(書き込みビット数)
ランクA:エラーレートが1.0×10−6未満
ランクB:エラーレートが1.0×10−6以上、1.0×10−5未満
ランクC:エラーレートが1.0×10−5以上、1.0×10−4未満
ランクF(不合格):エラーレートが1.0×10−4以上
(7)高温高湿下保管後の耐久性試験
上記(5)で作成したカセットテープを、23℃65%RHに調整した恒温恒湿槽に入れ、60℃80%RHに昇温および加湿して7日間保持する。その後、結露を防止するために60℃0%RHに湿度を下げて1日間保持したのち、23℃0%RHまで降温して、23℃65%RH環境に戻す。その後、(6)と同様に、23℃65%RHの環境で300回(パス)走行することでエラーレートを算出する。
【0089】
その後、同ドライブで23℃65%RHの環境のまま、さらに10,000回(パス)走行したときのエラーレートを算出する。
【0090】
エラーレート=(エラービット数)/(書き込みビット数)
ランクA:エラーレートが1.0×10−6未満
ランクB:エラーレートが1.0×10−6以上、1.0×10−5未満
ランクC:エラーレートが1.0×10−5以上、1.0×10−4未満
ランクF(不合格):エラーレートが1.0×10−4以上
【実施例】
【0091】
実施例1
DMT法によるポリエチレンテレフタレート(PET)の重合を行った。即ち、テレフタル酸ジメチル194質量部とエチレングリコール124質量部に、酢酸マグネシウム4水塩0.1質量部を加え、140〜230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、リン酸トリメチル0.05質量部のエチレングリコール溶液、および三酸化アンチモン0.05質量部を加えて5分間撹拌した後、生成した低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。3時間重合反応させ所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻して重縮合反応を停止し、重合生成物を冷水中にストランド状に吐出し、直ちにカッティングして固有粘度0.65のPETのペレットとした。
【0092】
上記方法により得られた固有粘度0.65のPETについて、DSCを用いて熱特性を測定したところ、Tg:82℃、Tm:256℃であった。
【0093】
このPETを用い、押出機2台(A、B)を用いて、次の方法で製膜を行った。
【0094】
285℃に加熱された押出機Aには、実質的に不活性粒子を含有しない固有粘度0.65のPETに平均粒径0.08μmのシリカ粒子を1質量%含有させた原料(A1)を、180℃で3時間減圧乾燥した後に供給した。また、285℃に加熱した押出機Bには、上記した実質的に不活性粒子を含有しない固有粘度0.65のPETに平均粒径0.3μmの架橋ポリスチレン粒子を1質量%含有させた原料(B1)を、180℃で3時間減圧乾燥した後に供給した。
【0095】
続いて、原料(A1)をサンドフィルター、1.2μmカットの繊維焼結ステンレス金属フィルターおよび0.8μmカットの繊維焼結ステンレス金属フィルターの順に3段階に濾過し、また、原料(B1)をサンドフィルター、3μmカットの繊維焼結ステンレス金属フィルターの順に2段階で濾過した後、ポリマーの温度が285℃となるようにしてTダイで合流させ口金からシート状に押出した。このシート状押出ポリマを表面温度25℃のキャストドラム上に、ワイヤー電極を用いた静電印加法により密着させて冷却固化させ、2層積層した未延伸フィルム(積層厚み比A1/B1=5/1)を作製した。
【0096】
この得られた未延伸フィルムをロール式延伸機にて、長手方向に2段で、延伸速度20,000%/分、温度70℃から105℃で3.0倍延伸した。このフィルムの一方の面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとしその処理面に下記の導電性ポリマーa液を塗布し、さらに、塗布された延伸フィルムを、テンターを用いて、幅方向に延伸速度2,000%/分、温度100℃で3.0倍延伸した。続いて、ロール式延伸機で長手方向に1段で、温度80℃から140℃で1.7倍に再延伸し、テンターを用いて幅方向に温度170℃で1.5倍再延伸した。定長下で温度220℃で5秒間熱処理した後、幅方向に5%の弛緩処理を行い、厚み0.10μmの導電性ポリマーa層が積層された全厚み6.0μm、磁性層側の中心線平均粗さRa(A)が6.0nm、走行面側の中心線平均粗さRa(B)が18.0nmの磁気記録媒体用支持体を作成した。なお、PETフィルム厚みは、押出量の調節により実施した。
【0097】
[導電性ポリマーa液]
塗液成分a1:ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸からなる複合体と、ポリエステル樹脂を固形分含有量約3質量%で水に分散させた水性塗液(ナガセケムテック(株)製“デナトロン”#5002RZ)を、本水性塗液を撹拌しながらMgCO固体上に24時間通流し中和反応によってMgイオンを溶存させた後、静置して上澄みをとり、フィルタにより濾過して得た。
【0098】
塗液成分a2:エポキシ架橋剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系エポキシ架橋剤(ナガセケムテック(株)製“デナコール”EX−512(数平均分子量約630、エポキシ当量168、水溶率100%)を固形分含有量約3質量%で水に溶解させた水性塗液を得た。
【0099】
上記した塗液成分a1と塗液成分a2を固形分質量比で、a1/a2=75/25となるよう混合し、導電性ポリマーa液とした。
【0100】
表1に得られた磁気記録媒体用支持体の樹脂フィルムにおける磁性層側の中心線平均粗さRa(A)、走行面側の中心線平均粗さRa(B)、導電性ポリマー層のドープ種とその含有量、支持体の導電性ポリマー層表面の表面比抵抗(指数表記および対数表記)、およびその支持体から得られた磁気テープのエラーレートの測定結果を示す。この磁気記録媒体用支持体は、表1に示したとおり、磁気テープとした際のエラーレートが優れてるだけではなく、高温高湿下で保管した後の劣化も少なく、優れた耐久性も維持されていた。
【0101】
実施例2
実施例1において、MgCOの代わりにNiCO上を通流させ、Niイオンを溶存させたこと以外は、実施例1と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0102】
実施例3
実施例1において、MgCOの代わりにZnCO上を通流させ、Znイオンを溶存させたこと以外は、実施例1と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0103】
実施例4
実施例1において、MgCO固体の代わりに0.1当量のNaCO水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてNaイオンを溶存させたこと以外は、実施例1と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0104】
比較例1
実施例1において、MgCO上を通流することなく、中和反応で水素イオンを低減させることなく、特許文献3の実施例1と同様の塗液b液を塗布したこと以外は実施例1と同様に、磁気記録媒体用支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0105】
[導電性ポリマーb液]
塗液b1:ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸からなる複合体と、ポリエステル樹脂を固形分含有量約3質量%で水に分散させた水性塗液(ナガセケムテック(株)製“デナトロン”#5002RZ)
塗液b2:エポキシ架橋剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系エポキシ架橋剤(ナガセケムテック(株)製“デナコール”EX−512(数平均分子量約630、エポキシ当量168、水溶率100%)を固形分含有量約3質量%で水に溶解させた水性塗液
上記した塗液成分b1と塗液成分b2を固形分質量比で、b1/b2=75/25となるよう混合し、導電性ポリマーb液とした。
【0106】
本例では高温高湿下での保管により、エラーレートの増加が見られ、また10,000パスの走行においてエラーレートの上昇が激しく、磁性層の劣化により記録信号の保持に対する耐久性が失われていた。
【0107】
比較例2
実施例1において、MgCO固体の代わりに0.001当量のNaCO水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてNaイオンを溶存させたこと以外は、実施例1と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0108】
比較例3
実施例1において、MgCO固体の代わりに0.1当量のAl(OH)水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてAlイオンを溶存させたこと以外は、実施例1と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。得られた支持体の表面比抵抗は、ドープされたAlイオンが電気伝導性を発揮せず、製造直後の磁気テープからエラーレートは悪いとともに、高温高湿下での保管を経て、さらにエラーレートが大幅に悪化して許容できないものであった。
【0109】
【表1】

【0110】
実施例5
以下の方法で芳香族ポリアミドフィルムを得た。
【0111】
N−メチル−2−ピロリドンに芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、15モル%に相当する4、4−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、芳香族ジアミン成分に対して99モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、重合前に平均粒径80nmのシリカ、平均粒径100nmの有機粒子を芳香族ジアミン成分に対して0.2質量%になるように添加して、2時間撹拌して重合を完了した。これを炭酸リチウムで中和して、ポリマー濃度10質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0112】
このポリマー溶液を1μmカットのフィルターに通した後、ダイからエンドレスベルト上にキャストし、エンドレスベルト上で乾燥した。エンドレスベルトから剥離した後、湿式工程である水槽内へ剥離したフィルムを通し残存の溶媒と中和反応で生じた無機塩などを抽出した。この湿式工程にて長手方向に1.15倍延伸した。次に水分の乾燥を行い、上記した導電性ポリマーa液を塗布した。
【0113】
続いて熱をかけながら幅方向に1.45倍延伸を行い、厚み0.30μmの導電性ポリマーa層を積層した厚み3.6μm、磁性層側の中心線平均粗さRa(A)が1.1nm、走行面側の中心線平均粗さが8.0nmの磁気記録媒体用支持体を作成した。
【0114】
表2に得られた磁気記録媒体用支持体の樹脂フィルムにおける磁性層側の中心線平均粗さRa(A)、走行面側の中心線平均粗さRa(B)、導電性ポリマー層のドープ種とその含有量、支持体の導電性ポリマー層表面の表面比抵抗(指数表記および対数表記)、およびその支持体から得られた磁気テープのエラーレートの測定結果を示す。この磁気記録媒体用支持体は、表2に示したとおり、磁気テープとした際のエラーレートが優れているだけではなく、高温高湿下で保管した後の劣化も少なく、優れた耐久性も維持されていた。
【0115】
実施例6
実施例5において、MgCOの代わりにNiCO上を通流させ、Niイオンを溶存させたこと以外は、実施例5と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0116】
実施例7
実施例5において、MgCOの代わりにZnCO上を通流させ、Znイオンを溶存させたこと以外は、実施例5と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0117】
実施例8
実施例5において、MgCO固体の代わりに0.1当量のNaCO水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてNaイオンを溶存させたこと以外は、実施例5と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0118】
比較例4
実施例5において、MgCO上を通流することなく、中和反応で水素イオンを低減させることなく、特許文献3の実施例1と同様の塗液b液を塗布したこと以外は本願実施例5と同様に、磁気記録媒体用支持体とそれからなる磁気テープを調製した。高温高湿下での保管により、エラーレートの増加が見られ、また10,000パスの走行においてエラーレートの上昇が激しく、磁性層の劣化により記録信号の保持に対する耐久性が失われていた。
【0119】
比較例5
実施例5において、MgCO固体の代わりに0.001当量のNaCO水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてNaイオンを溶存させたこと以外は、実施例5と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。
【0120】
比較例6
実施例5において、MgCO固体の代わりに0.1当量のAl(OH)水溶液を水性塗液中に滴下しながら24時間反応させてAlイオンを溶存させたこと以外は、実施例5と同様に支持体とそれからなる磁気テープを調製した。得られた支持体の表面比抵抗は、ドープされたAlイオンが電気伝導性を発揮せず、製造直後の磁気テープからエラーレートは悪いとともに、高温高湿下での保管を経て、さらにエラーレートが大幅に悪化して許容できないものであった。
【0121】
【表2】

【0122】
以上の各実施例・比較例におけるエラーレートの変化を、図1および図2に示す。これらの図において、横軸のように磁気テープのエラーレート測定を進めるとともに、縦軸のエラーレート(対数表示)が右肩上がりになっているものは、劣化や耐久性不足により、信号読み出し不良であるエラーレートが増加していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム上に導電性ポリマーを含むポリマー層を少なくとも1層有し、導電性ポリマーがポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物からなり、導電性ポリマー中の硫黄原子(S)と第1族〜第12族元素(M)の原子数比(M/S)が1,000ppm以上である磁気記録媒体用支持体。
【請求項2】
導電性ポリマー中の第1族〜第12族元素(M)が、原子番号3以上30以下の元素である、請求項1に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項3】
導電性ポリマーが、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとを含む組成物に架橋剤が含有されてなる樹脂である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項4】
導電性ポリマー中の第1族〜第12族元素(M)が、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項5】
少なくとも一方の表面の表面比抵抗が1×104.0〜1×108.5Ω/□である、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体用支持体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体用支持体を用いてなる磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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