説明

磁気記録用軟磁性合金およびスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体

【課題】 飽和磁束密度、非晶質性、結晶化温度および耐食性に優れた熱アシスト磁気記録媒体用軟磁性合金およびそのスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 at.%で、Fe:0〜70%を含み、かつ下記(A)群の各種元素の1種または2種以上を5〜20%、残部Coおよび不可避的不純物からなる磁気記録用軟磁性合金。また、上記に加えて、at.%で、Fe:0〜70%を含み、かつ下記(B)群元素の1種または2種以上を5〜30%含有し、かつ(A)群元素と(B)群元素との和を10〜35%とし、残部Coおよび不可避的不純物からなる磁気記録用軟磁性合金およびスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体。
(A)Ti,Zr,Hf、(B)Cr,Mo,W

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ用熱アシスト磁気記録媒体におけるSUL層として用いるCo系磁気記録用軟磁性合金およびスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体にある。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められており、従来普及している垂直磁気記録媒体より更に高記録密度化が実現できる、熱アシスト磁気記録方式が検討されている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式は、レーザで磁気記録媒体を加熱しながらデータを記録する方式である。磁気記録媒体は高密度化が進むと、磁気的に記録したデータが周囲の熱の影響で消える熱揺らぎの問題が顕著になる。この熱揺らぎの問題を回避するには、記録媒体に用いる磁性材料の保磁力を高める必要がある。しかし、保磁力が高くなり過ぎると、記録が出来なくなる。この問題を解決する方式が熱アシスト磁気記録方式である。
【0004】
一方、記録媒体を加熱すると保磁力が下がるために記録が可能になり、記録後に媒体が冷えると再び保磁力が高くなるので熱揺らぎに強くなる。熱アシスト方式用の磁気記録媒体として、例えば、特開2010−182386号公報(特許文献1)に示す磁気記録媒体が検討されている。この特許文献1に開示されているように、軟磁性層には非晶質が求められているが、熱アシスト方式は上記の通り、記録媒体を加熱する。そのため、特許文献1で示される軟磁性層用合金には、加熱時においても結晶化しない、十分に高い結晶化温度が求められる。しかし、特開2001−110044号公報(特許文献2)によると特許文献1に示されている軟磁性層の結晶化温度は約400℃(670K)であるため、結晶化してしまう課題がある。
【0005】
また、増本 健著「アモルファス金属の基礎」オーム社、1982,P94(非特許文献1)に開示されている組成では、800K程度の結晶化温度を示すが、Si,Ge,P,B,Cのような半金属を使用しているため、軟磁性層に用いるには耐食性に課題があった。また、非磁性の合金では、非特許文献2に示すように、800Kを超える結晶化温度を示す合金も紹介されているが、軟磁性膜用途では、磁性を有することが求められるので適用できない。
【特許文献1】特開2010−182386号公報
【特許文献2】特開2001−110044号公報
【非特許文献1】増本 健著「アモルファス金属の基礎」オーム社、1982,P94
【非特許文献2】OH JE,WOOLLAM J A,AYLESWORTHKD,SELLMYER D J,POUCH J J、J Appl Phys.,Vol.60,No.12 PP.4271〜4286,1986
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1における合金の軟磁性層には非晶質が求められているが、熱アシスト方式は記録媒体を加熱するため、特許文献1で示される軟磁性層では結晶化してしまう課題がある。また、非特許文献1に開示されている組成では、800K程度の結晶化温度を示すが、Si,Ge,P,B,Cのような半金属を使用しているため、軟磁性層に用いるには耐食性に問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意検討した結果、Co合金において、Zr,Hf,Tiといった非晶質化促進元素の添加によってアモルファス性を確保し、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wの添加によって高い結晶化温度を実現し、かつアモルファス性の向上にも寄与する。また、Ni,Mnの添加によって飽和磁束密度を調整する。さらに加えて、Al、Cuの添加によって耐食性の向上を、Si、Ge、P、B、Cの添加によってアモルファス性の改善を図ることができる等の優れた特性を図ることを可能とした磁気記録用軟磁性合金を提供する。
【0008】
その発明の要旨するところは、
(1)at.%で、Fe:0〜70%を含み、かつ下記(A)群の各種元素の1種または2種以上を5〜20%含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(A)Ti,Zr,Hf
【0009】
(2)前記(1)に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(B)群の各種元素の1種または2種以上を5〜30%含有し、かつ(A)群元素と(B)群元素との和を10〜35%とし、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(B)Cr,Mo,W
【0010】
(3)前記(1)または(2)に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(C)群の各種元素の1種または2種以上を30%以下含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(C)V,Nb,Ta
【0011】
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(D)群の各種元素の1種または2種を30%以下含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(D)Ni,Mn
【0012】
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加えて、at.%で下記(E)群の各種元素の1種または2種を5at%以下、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(E)Al、Cu
【0013】
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加えて、at.%で下記(F)群の各種元素の1種または2種以上を10at%以下、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(F)Si、Ge、P、B、C
【0014】
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の磁気記録用軟磁性合金を用いたスパッタリングターゲット材。
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の磁気記録用軟磁性合金を用いた磁気記録媒体にある。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明により飽和磁束密度、非晶質性、結晶化温度および耐食性に優れた熱アシスト磁気記録媒体用軟磁性合金およびそのスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体を提供できる極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る成分組成の限定理由を述べる。
Fe:0〜70%
Feは、軟磁性材料を得るための元素である。しかし、70%を超えると、耐食性が劣化するために、その上限を70%とした。
【0017】
(A)群元素の1種または2種以上を5〜20%
Ti,Zr,Hfは、Co系合金において、非晶質化(アモルファス化性)を確保するための元素であり、その元素の1種または2種以上の合計含有量が、5%未満ではその効果を十分達成することができない。また、20%を超えると、アモルファス化しないことから、その範囲を5〜20%とした。好ましくは6〜15%とする。さらに好ましくは9〜14%とする。
【0018】
(B)群元素の1種または2種以上を5〜30%
Cr,Mo,Wは、Co合金において、高い結晶化温度を実現するための元素であり、その元素の1種または2種以上の合計含有量が、5%未満ではその効果を十分達成することができない。また、30%を超えると、アモルファス化しないことから、その範囲を5〜30%とした。好ましくは10〜25%とする。
【0019】
(A)群元素と(B)群元素との和を10〜35%
(A)群元素と(B)群元素との和を10〜35%とした理由は、10%未満ではアモルファス化しない。また、35%超えるとアモルファス化しないことと、磁性も低下することから、その範囲を10〜35%とした。
【0020】
(C)群元素の1種または2種以上を30%以下
V,Nb,Taは、Co合金において、耐食性を著しく向上させ、かつアモルファス化を促進するための元素であり、特に(B)群と複合添加した場合には高耐食性と高い結晶化温度を実現することが可能な元素であり、その元素の1種または2種以上の合計含有量が、30%を超えると、アモルファス化しないことから、その上限を30%とした。好ましくは20%、さらに好ましくは10%とする。
【0021】
(D)群元素の1種または2種を30%以下
Ni,Mnは、Co合金において、飽和磁束密度を調整するための元素であり、その元素の1種または2種以上の合計含有量が30%を超えると、磁性が低下することから、上限を30%とした。好ましくは20%、さらに好ましくは10%とする。
【0022】
(E)群元素の1種または2種を5%以下
Al、Cuは、Co合金において、耐食性を向上するための元素である。しかし、1種または2種の合計含有量が5%を超えるとアモルファス化しないことから、その上限を5%とした。
【0023】
(F)群元素の1種または2種以上を10%以下
Si、Ge、P、B、Cは、Co合金において、アモルファス性を改善する元素である。しかし、1種または2種以上の合計含有量が10%を超えるとアモルファス化しないことから、その上限を10%とした。
【実施例】
【0024】
以下、本発明に係る合金について実施例によって具体的に説明する。
通常、垂直磁気記録媒体における薄膜は、その成分と同じ成分のスパッタリングターゲット材をスパッタし、ガラス基板などの上に成膜し得られる。ここでスパッタにより成膜された薄膜は急冷されている。これに対し、本発明では実施例、比較例の供試材として、単ロール式の液体急冷装置にて作製した急冷薄帯を用いている。これは実際にスパッタにより急冷され成膜された薄膜の、成分による諸特性への影響を、簡易的に液体急冷薄帯により評価したものである。
【0025】
[急冷薄帯の作製条件]
表1および表2に示す成分組成に秤量した原料30gを径10×40mm程度の水冷銅型にて減圧Ar中でアーク溶解し、急冷薄帯の溶解母材とした。急冷薄帯の作製条件は、単ロール方式で、径15mmの石英管中にてこの溶解母材にセットし、出湯ノズル径を1mmとし、雰囲気気圧61kPa、噴霧差圧69kPa、銅ロール(径300mm)の回転数3000rpm、銅ロールと出湯ノズルのギャップ0.3mmにて出湯した。出湯温度は各溶解母材の溶け落ち直後とした。このようにして作製した急冷薄帯を供試材とし、以下の項目を評価した。
【0026】
[急冷薄帯の飽和磁束密度の評価]
VSM装置(振動試料型磁力計)にて、印加磁場1200kA/mで測定した。供試材の重量は15mg程度、0.3T以上0.8T未満の飽和磁束密度のものは○、0.8T以上のものについては◎とした。0.3%未満のものは×とした。
【0027】
[急冷薄帯の構造]
通常、非晶質材料のX線回折パターンを測定すると、回折ピークが見られず、非晶質特有のハローパターンとなる。また、完全な非晶質でない場合は、回折ピークは見られるものの、結晶材料と比較してピーク高さが低くなり、かつハローパターンも見られる。そこで下記の方法にて非晶質性の評価とした。
【0028】
[非晶質性の評価]
非晶質性の評価としては、ガラス板に両面テープで供試材を貼り付け、X線回折装置にて回折パターンを得た。このとき、測定面は急冷薄帯の銅ロール接触面となるように供試材を貼り付けた。X線源はCu−α線で、スキャンスピード4°/minで測定した。この回折パターンにハローパターンが確認できるものを○、全くハローパターンが見られないものを×として非晶質性の評価とした。
【0029】
[急冷薄帯の結晶化温度]
通常、非晶質材料は、加熱に伴い結晶化を起こし、結晶化した温度を結晶化温度と呼ぶ。また、結晶化の際には発熱反応が起きる。結晶化温度は、結晶化に伴い発熱する温度を測定することで評価される。そこで下記の方法にて結晶化温度を評価した。示差走査熱量測定(DSC)により加熱速度0.67Ks-1の条件下で調べた。773K以上873未満の結晶化温度のものについては○、873K以上の結晶化温度については◎、773K未満の結晶化温度のものについては×とした。
【0030】
[急冷薄帯の耐食性評価(NaCl)]
ガラスペレットに急冷薄帯を両面テープで貼り付けた試料にて、塩水噴霧試験(5%NaCl水溶液で35℃、16時間)を実施した評価で、発錆が認められなかったものを○、発錆が認められたものを×とした。
[急冷薄帯の耐食性(HNO3)]
50mgの供試材を秤量し、3at.%HNO3水溶液を10ml滴下した後、室温にて1hr放置後、3%HNO3水溶液中へのCo溶出量を分析。Co溶出量が500ppm未満を◎、500以上1000ppm未満を○、1000ppm以上を×した。
【0031】
なお、表1の成分組成に記載する、例えば、No.9は、Zrが10%、Wが5%、Moが5%であるので、(Co−30Fe)は、100%−20%で80%であり、この80%を100としたとき、Coは(100−30)、Feは30の比率である。つまり、Coは56%、Feは24%であることを意味するものである。
【0032】
【表1】

表1に示すように、No.1〜32は本発明例であり、No.33〜46は比較例である。
【0033】
表1に示す比較例No.33は(B)群元素の含有量が低いために、結晶化温度が低い。比較例No.34は(B)群元素の含有量が高いために、飽和磁束密度が低く、結晶化温度が低い。比較例No.35は(B)群元素の合計量が低いために、結晶化温度が低い。比較例No.36は(B)群元素の合計量が高いために、アモルファス化せず結晶化温度が低い。比較例No.37は(A)群元素がないために、非晶質性が悪い。
【0034】
比較例No.38は(A)群元素の含有量が低いために、非晶質性が悪い。比較例No.39は(A)群元素の含有量が高く、非晶質性が不足し、かつFe含有量が高いために、耐食性が不足する。比較例No.40はFe含有量が高いために、耐食性が不足する。比較例No.41は(A)群元素の含有量が低く、(A)群元素と(B)群元素との合計量が低いために、非晶質性が悪い。比較例No.42は(A)群元素と(B)群元素との合計量が高いために、磁性が低く、かつ非晶質性が不足する。
【0035】
比較例No.43は(D)群元素の含有量が高く、磁性が悪い。比較例No.44は半金属であるB、Si元素を含むために、耐食性が不足する。比較例No.45は(B)群元素の含有量が低く、かつ(A)群元素と(B)群元素との合計量が低いために、非晶質性が不足する。比較例No.46はCoとFeを含まず、かつ(D)群元素とを含まないことから、非磁性である。これに対し、本発明例No.1〜32はいずれも本発明の条件を満たしていることから、飽和磁束密度、非晶質性に優れ、結晶化温度が高く、かつ耐食性に優れていることが分かる。
【0036】
【表2】

上述した実施例に加えて、さらに、請求項3および4に係る実施例を表2に示す。No.1〜25は本発明例であり、No.26〜34は比較例である。
【0037】
比較例No.26はAl含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.27はCu含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.28はC含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.29はB,Si、Pの合計含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.30はTa含有量が高く、かつAl含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.31はV含有量が高く、かつCu含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.32はNb含有量が高く、かつC含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.33はP含有量が高いために、アモルファス化しない。比較例No.34はGe含有量が高いために、アモルファス化しない。
【0038】
次に、スパッタリングターゲット材の製造方法を示す。表1の本発明例No.1、No.3、No.4、No.5、No.8、No.13、No.18、No.23、No.27、No.32および表1の比較例No.33、No.36に示す12種類の成分組成について、溶解原料を秤量し、減圧Arガス雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解したあと、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、Arガスによりアトマイズした。このガスアトマイズ粉末を原料として、外径220mm、内径210mm、長さ200mmのSC製の缶に脱気装入した。脱気時の真空到達度は約1.3×10-2Paとした。上記の粉末充填ビレットを1150℃に加熱したあと、径230mmの拘束型コンテナ内に装入し、500MPaの加圧にて成形した。上記の方法で作製した固化成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工し、スパッタリングターゲット材とした。
【0039】
これら12種類の成分組成についてスパッタリングターゲット材を用い、ガラス基板上にスパッタ膜を成膜した。X線回折パターンは、本発明例No.1、No.3、No.4、No.5、No.8、No.13、No.18、No.23、No.27、No.32はいずれにおいてもハローパターンが見られ、比較例No.33、No.36は結晶ピークが見られた。また、急冷薄帯と同様に結晶化温度の測定をおこなったところ、本発明例No.1、No.3、No.4、No.5、No.8、No.13、No.18、No.23、No.27、No.32はいずれも結晶化温度が773K以上と高く、比較例No.33、No.36では773K未満と低い温度を示した。
【0040】
耐食性は表には示さないが、急冷薄帯にて評価した結果と同様の◎、○、×であった。磁気特性についても急冷薄帯と同様に磁気特性の測定を行ったところ、急冷薄帯にて評価した結果と同様の◎、○、×であった。
以上総括すると、急冷薄帯にて評価した結果とスパッタリングターゲット材を用いて成膜したスパッタ膜の評価とが同等の傾向であることを確認した。
【0041】
また、表2の本発明例No.1、No.3、No.5、No.7、No.11、No.15、No.18、No.24、No.25および表2の比較例No.26、No.28、No.29、No.33に示す13種類の成分組成について、溶解原料を秤量し、減圧Arガス雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解した後、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、Arガスによりアトマイズした。このガスアトマイズ粉末を原料として、外径220mm、内径210mm、長さ200mmのSC製の缶に脱気装入した。脱気時の真空到達度は約1.3×10-2Paとした。上記の粉末充填ビレットを1000℃に加熱した後、径230mmの拘束型コンテナ内に装入し、500MPaの加圧にて成形した。上記の方法で作製した固化成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径165mm、厚さ6mmの円盤状に加工し、スパッタリングターゲット材とした。
【0042】
これら13種類の成分組成についてスパッタリングターゲット材を用い、ガラス基板上にスパッタ膜を成膜した。X線回折パターンは、本発明例No.1、No.3、No.5、No.7、No.11、No.15、No.18、No.24、No.25はいずれにおいてもハローパターンが見られ、比較例No.26、No.28、No.29、No.33には結晶ピークが見られた。また、急冷薄帯と同様に結晶化温度の測定をおこなったところ、本発明例No.1、No.3、No.5、No.7、No.11、No.15、No.18、No.24、No.25はいずれも結晶化温度が773K以上と高く、比較例No.33、No.36では773K未満と低い温度を示した。
【0043】
耐食性は表には示さないが、急冷薄帯にて評価した結果と同様の◎、○、×であった。磁気特性についても急冷薄帯と同様に磁気特性の測定を行ったところ、急冷薄帯にて評価した結果と同様の◎、○、×であった。
以上総括すると、急冷薄帯にて評価した結果とスパッタリングターゲット材を用いて成膜したスパッタ膜の評価とが同等の傾向であることを確認した。
【0044】
以上述べたように、本発明により特に飽和磁束密度、非晶質性(アモルファス性)を確保し、高い結晶化温度、かつ耐食性に優れた熱アシスト磁気記録媒体用軟磁性合金およびそのスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体を提供するものである。



特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
at.%で、Fe:0〜70%を含み、かつ下記(A)群の各種元素の1種または2種以上を5〜20%含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(A)Ti,Zr,Hf
【請求項2】
請求項1に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(B)群の各種元素の1種または2種以上を5〜30%含有し、かつ(A)群元素と(B)群元素との和を10〜35%とし、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(B)Cr,Mo,W
【請求項3】
請求項1または2に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(C)群の各種元素の1種または2種以上を30%以下含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(C)V,Nb,Ta
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加え、at.%で下記(D)群の各種元素の1種または2種を30%以下含有し、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(D)Ni,Mn
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加えて、at.%で下記(E)群の各種元素の1種または2種を5at%以下、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(E)Al、Cu
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載した磁気記録用軟磁性合金に加えて、at.%で下記(F)群の各種元素の1種または2種以上を10at%以下、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする磁気記録用軟磁性合金。
(F)Si、Ge、P、B、C
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録用軟磁性合金を用いたスパッタリングターゲット材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録用軟磁性合金を用いた磁気記録媒体。

【公開番号】特開2012−108997(P2012−108997A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92631(P2011−92631)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】