説明

磁気転写方法及び磁気転写装置

【課題】磁気転写用スタンパの情報を磁気記録媒体に高精度で磁気転写できる信頼性が高い磁気転写方法及び磁気転写装置を提供する。
【解決手段】磁気転写装置10は、加圧しないように第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を重ね合わせて第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が密着した磁気転写用中間体18を作成可能である重ね合わせユニット30と、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を加圧しないように磁気転写用中間体18を保持しつつ第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを介して磁気記録媒体14に外部磁場を印加可能である外部磁場印加ユニット40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写用スタンパを用いて磁気記録媒体に所定の情報を転写するための磁気転写方法及び磁気転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等の磁気記録媒体はサーボ領域とデータ領域とに区分けされ、サーボ領域には記録/再生ヘッドの位置決めのためのサーボ情報が記録され、サーボ情報に基づいて記録/再生ヘッドのトラッキング等が行われる。ハードディスクの場合、径方向に沿う複数のサーボ領域が周方向に適宜な間隔で放射状に設定される。これらサーボ領域の間の部分がデータ領域であり、データ領域には所定のトラックに沿ってデータが記録される。尚、サーボ領域は通常、記録/再生ヘッドの円弧軌道と同じ又は記録/再生ヘッドの円弧軌道に近い円弧形状である。サーボ情報は、具体的には記録層における1ビットの情報に相当する各領域を0又は1の情報に対応する方向に所定のサーボパターンで磁化することにより記録される。面内記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する周方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。又、近年主流となりつつある垂直記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する表面に垂直な方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。このようにサーボ情報は、0の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素と1の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素とが所定のサーボパターンで配置された構成である。このようなサーボ情報は、サーボ記録装置によって各磁気記録媒体毎に記録層における各領域を0の情報及び1の情報に応じて順次磁化させていくものであるため、磁気記録媒体の1面あたりのサーボ情報の記録に時間を要し生産性が低いという問題があった。特に近年、面記録密度の向上のため、サーボ情報についても高密度で、高精度な記録が要求されるようになっており、サーボ情報の記録の効率改善に対するニーズが高まっている。
【0003】
そこで磁気転写用スタンパを用いて磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することが提案されている。具体的には、サーボパターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用スタンパを用意し、予め一方向に磁化させた磁気記録媒体の被転写面に磁気転写用スタンパの転写面を接触させて予め磁化させた方向とは反対の方向の適当な大きさの直流外部磁場を印加することにより磁気記録媒体における磁気転写用スタンパの転写面の凸部に接触する部分が予め磁化させた方向とは反対の方向に選択的に磁化されサーボ情報が記録される。磁気転写用スタンパを用いれば短時間で磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することができるので、サーボ情報の記録効率の大幅な向上が期待されている。
【0004】
このような磁気転写用スタンパによる磁気情報の良好な転写を実現するためには、磁気転写用スタンパの転写面と磁気記録媒体の被転写面とが密着した状態で磁気転写が行われることが好ましい。一方、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間には空気が混入することがあり空気の混入は磁気情報が正確に転写されない原因となりうる。
【0005】
そこで、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間への空気の混入を回避する様々な手法が提案されている。例えば、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間に潤滑剤等の液体を介在させると共に磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧することにより磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との密着性を向上させる手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。又、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間が真空に近い状態になるように減圧すると共に磁気転写用スタンパにおける転写面の反対側及び磁気記録媒体における被転写面の反対側には大気圧が作用するようにして大気圧で磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧しつつ外部磁場を印加する手法が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。又、ハンドアームやローラ等により磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体の一部分を加圧し加圧点を起点に非加圧領域へ空気を押し出す手法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−170231号公報
【特許文献2】特開2003−85746号公報
【特許文献3】特開2008−310909号公報
【特許文献4】特開2011−28824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間への空気の混入を回避しても、磁気転写用スタンパから磁気記録媒体へ良好なサーボ情報を磁気転写することができないことがあった。これにより所望のトラッキング性能が得られないことがあった。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、磁気転写用スタンパの情報を磁気記録媒体に高精度で磁気転写できる信頼性が高い磁気転写方法及び磁気転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成する重ね合わせ工程と、磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧しないように磁気転写用中間体を保持しつつ磁気転写用スタンパを介して磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含む磁気転写方法により上記目的を達成したものである。
【0010】
又、本発明は、加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成可能である重ね合わせユニットと、磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧しないように磁気転写用中間体を保持しつつ磁気転写用スタンパを介して磁気記録媒体に外部磁場を印加可能である外部磁場印加ユニットと、を含む磁気転写装置により上記目的を達成したものである。
【0011】
発明者らは、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間への空気の混入を回避しても磁気転写用スタンパから磁気記録媒体へ良好なサーボ情報を磁気転写することができない原因について鋭意研究した結果、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との位置ずれが一因であることを突き止めた。最初に磁気転写用スタンパと磁気記録媒体とが正確に重ね合わせられていたとしても加圧されることによって磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との位置ずれが生ずると考えられる。
【0012】
これに対し、上記の磁気転写方法及び磁気転写装置では加圧されないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体が重ね合わされる。更に、磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体が加圧されないように磁気転写用中間体が保持されて磁気記録媒体に外部磁場が印加される。従って、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との位置ずれが防止又は実用上問題ないレベルに抑制される。
【0013】
尚、磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に磁気転写用スタンパにおける磁気記録媒体と反対側及び磁気記録媒体における磁気転写用スタンパと反対側の少なくとも一方も減圧環境下に保持しつつ磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせることが好ましい。このようにすることで、磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧することなく、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間への空気の混入を防止又は抑制する効果を高めることができる。
【0014】
即ち、次のような本発明により、上記目的を達成することができる。
【0015】
(1)加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成する重ね合わせ工程と、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を加圧しないように前記磁気転写用中間体を保持しつつ前記磁気転写用スタンパを介して前記磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【0016】
(2) (1)において、前記重ね合わせ工程において、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に前記磁気転写用スタンパにおける前記磁気記録媒体と反対側及び前記磁気記録媒体における前記磁気転写用スタンパと反対側の少なくとも一方も前記減圧環境下に保持しつつ前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を重ね合わせることを特徴とする磁気転写方法。
【0017】
(3) (1)又は(2)において、前記重ね合わせ工程の前に、前記磁気記録媒体及び前記磁気転写用スタンパの少なくとも一方の表面に液状材料を塗布する液状材料塗布工程を更に含むことを特徴とする磁気転写方法。
【0018】
(4) (3)において、前記液状材料は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかであることを特徴とする磁気転写方法。
【0019】
(5)加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成可能である重ね合わせユニットと、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を加圧しないように前記磁気転写用中間体を保持しつつ前記磁気転写用スタンパを介して前記磁気記録媒体に外部磁場を印加可能である外部磁場印加ユニットと、を含むことを特徴とする磁気転写装置。
【0020】
(6) (5)において、前記重ね合わせユニットは、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に前記磁気転写用スタンパにおける前記磁気記録媒体と反対側及び前記磁気記録媒体における前記磁気転写用スタンパと反対側の少なくとも一方も前記減圧環境下に保持しつつ前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を重ね合わせ可能であることを特徴とする磁気転写装置。
【0021】
(7) (5)又は(6)において、前記磁気記録媒体及び前記磁気転写用スタンパの少なくとも一方の表面に液状材料を塗布するための液状材料塗布ユニットを更に含むことを特徴とする磁気転写装置。
【0022】
(8) (7)において、前記液状材料塗布ユニットは前記液状材料としてフェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを塗布するように構成されたことを特徴とする磁気転写装置。
【0023】
尚、本出願において「加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせる」とは、外力に基づく荷重が磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体に実質的に作用しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせることを意味し、磁気転写用スタンパの転写面及び磁気記録媒体の被転写面に外力に基づく荷重が全く作用しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせる場合の他、例えば磁気転写用スタンパ又は磁気記録媒体の自重に相当する程度の荷重及び/又はこれらを覆うカバー等の質量に相当する程度の荷重が作用する状態で磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせる場合のように0.01MPa以下(大気圧(0.1MPa)の10分の1以下)の圧力が磁気転写用スタンパの転写面及び磁気記録媒体の被転写面に作用する状態で磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせる場合も含む意味で用いる。「磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を加圧しないように磁気転写用中間体を保持する」についても同様である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、磁気転写用スタンパの情報を磁気記録媒体に高精度で磁気転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気転写装置の構造を模式的に示す側面図
【図2】同磁気転写装置で磁気転写される磁気記録媒体及び同磁気転写装置で用いられる磁気転写用スタンパの構造を拡大して模式的に示す断面図
【図3】同磁気転写装置の液状材料塗布ユニットの構造を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図4】同磁気転写装置の重ね合わせユニットの第1重ね合わせ装置の構造を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図5】同重ね合わせユニットの第2重ね合わせ装置の構造を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図6】同磁気転写装置の外部磁場印加ユニットの構造を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図7】同磁気転写装置を用いた磁気転写方法の概要を示すフローチャート
【図8】液状材料が塗布されて第1磁気転写用スタンパが重ねあわされた前記磁気記録媒体を拡大して模式的に示す断面図
【図9】前記第1磁気転写用スタンパ及び第2磁気転写用スタンパを介して外部磁場が印加される前記磁気記録媒体を拡大して模式的に示す断面図
【図10】本発明の実施例及び比較例に係るサンプルの半径が30mmの環状の部位における円周方向の位置とPESとの関係を示すグラフ
【図11】同サンプルの半径と各半径の環状の部位のPES(3σ)との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態は、図1に示されるような磁気転写装置10に関する。磁気転写装置10は、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを用いて磁気記録媒体14に情報を磁気転写するための装置であり、磁気記録媒体14の表面に液状材料16を塗布するための液状材料塗布ユニット20と、加圧しないように第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を重ね合わせて第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が密着した磁気転写用中間体18を作成可能である重ね合わせユニット30と、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を加圧しないように磁気転写用中間体18を保持しつつ第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを介して磁気記録媒体14に外部磁場を印加可能である外部磁場印加ユニット40と、を備えている。
【0027】
磁気記録媒体14は連続膜の記録層を有する垂直記録型のハードディスクであり、中心孔を有する円板形状である。図2に示されるように、磁気記録媒体14は、基板14Aを有し、更に基板14Aの両面に対称的に形成された軟磁性層14B、配向層14C、記録層14D及び保護層14Eを有している。尚、磁気記録媒体14は、基板14Aと軟磁性層14Bとの間に下地層や反強磁性層を有していてもよい。
【0028】
第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bも中心孔を有する円板形状である。図2に示されるように、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面にはハードディスクのサーボパターンに対応する凹凸パターンが形成されている。第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの厚さは例えば0.2〜10mmである。又、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの直径は例えば20〜200mmである。尚、スタンパ12Aの直径は磁気記録媒体14の直径よりも大きく、第2磁気転写用スタンパ12Bの直径は第1磁気転写用スタンパ12Aの直径よりも大きい。又、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面の凹凸の段差は40〜120nmである。尚、図2では本実施形態の理解のため第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの凹凸パターンを実際よりも著しく大きく描いている。後述する図8及び9でも同様である。第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bは、凹凸パターンが形成された基板12C、12Dと基板の凹凸形状に倣って凹凸の面の上に形成された磁性膜12E、12Fとを有している。基板12C、12Dの材料はポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂である。磁性膜12E、12Fの材料は、CoPt合金、CoFe合金等である。尚、基板12C、12Dと磁性膜12E、12Fとの間にPt等の下地膜を形成してもよい。又、磁性膜12E、12Fの上にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の保護膜及び/又はパーフルオロポリエーテルの潤滑膜を形成してもよい。保護膜の厚さは例えば2〜4nmである。又、潤滑膜の厚さも例えば2〜4nmである。
【0029】
液状材料塗布ユニット20はスピンコート装置であり、図3に示されるように磁気記録媒体14を中心孔において保持して回転可能である軸部20Aと、磁気記録媒体14の上側の面に液状材料16を供給するための上側ノズル20Bと、磁気記録媒体14の下側の面に液状材料16を供給するための下側ノズル20Cと、を有している。上側ノズル20B及び下側ノズル20Cは、磁気記録媒体14の中心孔の近傍に液状材料16を供給するようになっている。
【0030】
液状材料16は大気圧(0.1MPa)よりも低い(例えば100Pa程度の)減圧環境下において蒸発しにくい材料であることが好ましい。言い換えれば、液状材料16は減圧環境下において蒸発速度が遅い材料、或いは蒸気圧が低い材料であることが好ましい。このような液状材料としては例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールn−プロピルエ−テル、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブタノール、ミネラルスピリット、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールn−ブチルエ−テル、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコ−ルメチルエ−テル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコ−ルメチルエ−テルアセテ−ト、ジプロピレングリコールn−プロピルエ−テル、3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−オン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールn−ブチルエ−テル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、アクリル酸、アクリル酸ブチル、ベンジルアクリレートを挙げることができる。又、蒸気圧が低い液状材料としてはシリコンオイルや、例えばハードディスクの潤滑剤として用いられるパーフルオロポリエーテルなどのフッ素系潤滑剤を挙げることができる。又、大気圧よりも低い(例えば100Pa程度の)減圧環境下において蒸発しにくい材料であれば、以上の液状材料よりも粘度が著しく高い樹脂材料を用いてもよい。具体的には、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、アクリル(メタクリル)樹脂(MMA)等を用いてもよい。樹脂材料は、1種類のモノマー、或いは1種類のオリゴマーで構成されていてもよいし、複数の種類のモノマー又は複数の種類のオリゴマーの混合物であってもよい。又、1種類又は複数の種類のモノマーと1種類又は複数の種類のオリゴマーとの混合物であってもよい。
【0031】
重ね合わせユニット30は、磁気記録媒体14の一方の面に第1磁気転写用スタンパ12Aを重ね合わせるための第1重ね合わせ装置30Aと、磁気記録媒体14の他方の面に第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせるための第2重ね合わせ装置30Bと、を備えている。
【0032】
図4に示されるように、第1重ね合わせ装置30Aは、真空チャンバー32Aと、スタンパ保持器34Aと、磁気記録媒体保持器36Aと、を有している。真空チャンバー32Aは天板部が脱着可能であり、図示しない真空ポンプにより内部が減圧されるようになっている。スタンパ保持器34Aは複数の保持部材で構成されており、これらの保持部材は第1磁気転写用スタンパ12Aを外周近傍の複数の箇所(例えば4箇所)において保持するように真空チャンバー32Aの側壁の内周面に取り付けられている。具体的には、各保持部材は第1磁気転写用スタンパ12Aを外周の近傍において下方から支持し第1磁気転写用スタンパ12Aの上方への動きは規制しないようになっている。又、各保持部材は第1磁気転写用スタンパ12Aの外周面に当接又は近接し、第1磁気転写用スタンパ12Aの水平方向の動きを規制するようになっている。尚、スタンパ保持器34Aの内径(複数の保持部材の内側の端面を通る円の直径)は磁気記録媒体14の外径よりも大きい。又、各保持部材の間には隙間があり、第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も減圧されるようになっている。これにより第1重ね合わせ装置30Aは第1磁気転写用スタンパ12A及び磁気記録媒体14の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持できるようになっている。尚、磁気記録媒体14における第1磁気転写用スタンパ12Aと反対側も同じ減圧環境下に保持されるようになっている。磁気記録媒体保持器36Aは、磁気記録媒体14を中心孔の近傍において保持する昇降部と、昇降部を上下動自在に保持するベース部と、を有している。昇降部はスタンパ保持器34Aに保持された第1磁気転写用スタンパ12Aから磁気記録媒体14が下方に離間する位置と、磁気記録媒体14が第1磁気転写用スタンパ12Aの下面に接触する位置又はこれよりも高い位置との間で上下動可能である。ベース部は水平方向に移動可能であり、磁気記録媒体14の水平方向の位置を調整できるようになっている。又、第1重ね合わせ装置30Aは、磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの水平方向の位置ずれ量を検出可能である図示しない位置ずれ検出器を備えている。位置ずれ検出器は例えば磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの表面の基準マーク等を撮像するカメラを備え、撮像結果に基づいて磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの水平方向の位置ずれ量を検出可能である。
【0033】
図5に示されるように、第2重ね合わせ装置30Bは第1重ね合わせ装置30Aと類似した構成であり、真空チャンバー32Bと、スタンパ保持器34Bと、磁気記録媒体保持器36Bと、を有している。第2重ね合わせ装置30Bにおいて、磁気記録媒体14における第1磁気転写用スタンパ12Aが重ね合わされた面と反対側の面に第2磁気転写用スタンパ12Bが重ね合わされ、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が密着した磁気転写用中間体18が作成されるようになっている。真空チャンバー32Bの構成は第1重ね合わせ装置30Aの真空チャンバー32Aの構成と同じである。スタンパ保持器34Bは第2磁気転写用スタンパ12Bを保持するために第2磁気転写用スタンパ12Bの外径に対応した形状を有しており、これ以外は第1重ね合わせ装置30Aのスタンパ保持器34Aと同じ構成である。尚、スタンパ保持器34Bの内径(スタンパ保持器34Bを構成する複数の保持部材の内側の端面を通る円の直径)は第1磁気転写用スタンパ12Aの外径よりも大きい。磁気記録媒体保持器36Bは第1磁気転写用スタンパ12Aを介して磁気記録媒体14を保持するために、昇降部が第1磁気転写用スタンパ12Aを中心孔の近傍において保持するようになっており、これ以外は第1重ね合わせ装置30Aの磁気記録媒体保持器36Aと同じ構成である。又、第2重ね合わせ装置30Bも第1重ね合わせ装置30Aと同様に磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bの水平方向の位置ずれ量を検出可能である図示しない位置ずれ検出器を備えている。
【0034】
図6に示されるように、外部磁場印加ユニット40は、磁気転写用中間体18を保持するための磁気転写用中間体保持器42と、磁気転写用中間体18の上側に配置される上側磁石44と、磁気転写用中間体18の下側に配置される下側磁石46と、を備えている。磁気転写用中間体保持器42は第2磁気転写用スタンパ12Bの外周の近傍を上側及び下側から挟むように保持して磁気転写用中間体18を保持すると共に第2磁気転写用スタンパ12Bの外周面に当接又は近接し磁気転写用中間体18の水平方向の動きを規制するようになっている。上側磁石44は、支持部44Aと、支持部44Aの下端に取付けられた磁石部44Bと、を有している。磁石部44Bは永久磁石であり支持部44Aにより上下方向に駆動されて磁気転写用中間体18に上方から接近可能であり、又、磁気転写用中間体18から上方へ離間可能である。又、磁石部44Bは支持部44Aに駆動されて磁気転写用中間体18の中心軸とほぼ同心の中心軸周りに回転可能である。下側磁石46は上側磁石44に対して上下方向に対称の構成であり、支持部46Aと、支持部46Aの上端に取付けられた磁石部46Bと、を有している。磁石部46Bも永久磁石であり支持部46Aにより上下方向に駆動されて磁気転写用中間体18に下方から接近可能であり、又、磁気転写用中間体18から下方へ離間可能である。又、磁石部46Bも支持部46Aに駆動されて磁気転写用中間体18の中心軸とほぼ同心の中心軸周りに回転可能である。上側磁石44の磁石部44Bと下側磁石46の磁石部46Bは、一方のN極と他方のS極とが磁気転写用中間体18を挟むように対向すると共に対向した状態を保持して回転するようになっている。これにより、外部磁場印加ユニット40は磁気転写用中間体18の磁気記録媒体14の全面に外部磁場を印加可能である。尚、図1、6では磁気記録媒体14の水平方向の一端から他端まで同時に外部磁場を印加できるようになっているが、例えば外部磁場印加ユニットは磁気記録媒体14の中心又はその近傍から外周まで外部磁場を印加できる磁石を備えていてもよい。この場合も、磁石が回転することにより磁気記録媒体14の全面に外部磁場を印加できる。又、外部磁場印加ユニットは、磁石が固定され磁気転写用中間体が回転する構成でもよい。又、外部磁場印加ユニットは、永久磁石に代えて電磁石を備える構成でもよい。
【0035】
次に、磁気転写装置10を用いた磁気転写方法について図7のフローチャートに沿って説明する。
【0036】
まず、磁気記録媒体14に充分に大きい垂直方向(表面に対し垂直な方向)の外部磁場を印加し磁気記録媒体14を初期化する(S102:初期化工程)。これにより磁気記録媒体14の両面の記録層14Dが全面において垂直方向の一方の向きに磁化される。尚、この工程では上記の外部磁場印加ユニット40を用いてもよいし、外部磁場印加ユニット40とは別の外部磁場印加ユニットを用いてもよい。
【0037】
次に、液状材料塗布ユニット20により磁気記録媒体14の両面に液状材料16を塗布する(S104:液状材料塗布工程)。具体的には、磁気記録媒体14を回転させながら上側ノズル20B及び下側ノズル20Cで磁気記録媒体14の両面における中心孔の近傍に液状材料16を供給する。液状材料16は遠心力により磁気記録媒体14の径方向の外側に向かって流動し、磁気記録媒体14の両面の全面に液状材料16が塗布される。塗布される液状材料16の厚さは第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面の凹凸の段差よりも小さいことが好ましい。
【0038】
次に、重ね合わせユニット30により、加圧しないように第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を重ね合わせて第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が密着した磁気転写用中間体18を作成する(S106:重ね合わせ工程)。
【0039】
まず、第1重ね合わせ装置30Aにより磁気記録媒体14の一方の面に第1磁気転写用スタンパ12Aを重ね合わせる(S106A:第1重ね合わせ工程)。具体的には、磁気記録媒体14を磁気記録媒体保持器36Aで保持し、第1磁気転写用スタンパ12Aをスタンパ保持器34Aで保持する。尚、磁気記録媒体14が第1磁気転写用スタンパ12Aから下方に離間するように磁気記録媒体14を保持する高さを調整する。次に、真空チャンバー32Aの上部の開口部を天板部で閉塞し、真空ポンプにより真空チャンバー32Aの内部を減圧する。これにより、第1磁気転写用スタンパ12A及び磁気記録媒体14の間が大気圧よりも低い減圧環境下に保持されると共に磁気記録媒体14における第1磁気転写用スタンパ12Aと反対側も同じ減圧環境下に保持される。更に、第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持される。真空チャンバー32Aの内部は例えば、1000Pa以下まで減圧されることが好ましく、100Pa以下まで減圧されることが更に好ましい。次に、位置ずれ検出器で磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの水平方向の位置ずれ量を検出し、位置ずれ量が0又は実用上問題がないレベルまで充分に小さくなるように磁気記録媒体14の水平方向の位置を調整する。この状態で磁気記録媒体14を磁気記録媒体保持器36Aと共に第1磁気転写用スタンパ12Aの下面に接触する位置まで上昇させる。磁気記録媒体14の表面の液状材料16が第1磁気転写用スタンパ12Aの下面に接触すると磁気記録媒体14と第1磁気転写用スタンパ12Aとがメニスカス力によって密着する。図8に示されるように、液状材料16は第1磁気転写用スタンパ12Aの転写面の凹部の少なくとも一部を充填し、これにより密着力が高められる。第1磁気転写用スタンパ12A及び磁気記録媒体14の間が減圧環境下に保持されているので、第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14との間への空気の混入が防止又は実用上問題がない程度に抑制される。又、第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側及び磁気記録媒体14における第1磁気転写用スタンパ12Aと反対側も同じ減圧環境下に保持されているので、気圧の差によって第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14とが加圧されることがない。又、スタンパ保持器34Aは第1磁気転写用スタンパ12Aの上方への動きを規制しないように第1磁気転写用スタンパ12Aを外周の近傍において下方から支持しているので、磁気記録媒体14の上昇による機械的な力によって第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14とが加圧されることもない。即ち、第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14は加圧されることなく重ね合わされる。従って、第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14との位置ずれが防止又は実用上問題ないレベルに抑制される。
【0040】
次に、第2重ね合わせ装置30Bにより磁気記録媒体14の他方の面に第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせる(S106B:第2重ね合わせ工程)。具体的には、磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aを磁気記録媒体保持器36Bで保持し、第2磁気転写用スタンパ12Bをスタンパ保持器34Bで保持する。尚、磁気記録媒体14が第2磁気転写用スタンパ12Bから下方に離間するように磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aを保持する高さを調整する。次に、真空チャンバー32Bの上部の開口部を天板部で閉塞し、真空ポンプにより真空チャンバー32Bの内部を減圧する。これにより、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14の間が大気圧よりも低い減圧環境下に保持されると共に第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持される。更に、第2磁気転写用スタンパ12Bにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持される。真空チャンバー32Bの内部も例えば、1000Pa以下まで減圧されることが好ましく、100Pa以下まで減圧されることが更に好ましい。次に、位置ずれ検出器で磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bの水平方向の位置ずれ量を検出し、位置ずれ量が0又は実用上問題がないレベルまで充分に小さくなるように磁気記録媒体14(及び第1磁気転写用スタンパ12A)の水平方向の位置を調整する。この状態で磁気記録媒体保持器36Bと共に磁気記録媒体14(及び第1磁気転写用スタンパ12A)を磁気記録媒体14が第2磁気転写用スタンパ12Bの下面に接触する位置まで上昇させる。磁気記録媒体14の表面の液状材料16が第2磁気転写用スタンパ12Bの下面に接触すると磁気記録媒体14と第2磁気転写用スタンパ12Bとがメニスカス力によって密着する。第2重ね合わせ工程(S106B)でも第1重ね合わせ工程(S106A)と同様に、液状材料16は第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面の凹部の少なくとも一部を充填し、これにより密着力が高められる。第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14の間が減圧環境下に保持されているので、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との間への空気の混入も防止又は実用上問題がない程度に抑制される。又、第2磁気転写用スタンパ12Bにおける磁気記録媒体14と反対側及び第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持されているので、気圧の差によって第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14と第2磁気転写用スタンパ12Bとが加圧されることがない。又、スタンパ保持器34Bは第2磁気転写用スタンパ12Bの上方への動きを規制しないように第2磁気転写用スタンパ12Bを外周の近傍において下方から支持しているので、磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの上昇による機械的な力によって第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14と第2磁気転写用スタンパ12Bとが加圧されることもない。このように第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14も加圧されることなく重ね合わされるので、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれも防止又は実用上問題ないレベルに抑制される。又、第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14との位置ずれも防止又は実用上問題ないレベルに抑制される。これにより磁気記録媒体14の両面に第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bが高精度で配置されて重ね合わされた磁気転写用中間体18が得られる。
【0041】
尚、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面のサーボパターン領域における平面視における凹部の面積S1と凸部の面積S2との比率S2/S1が0.8〜1.2の範囲であり、磁気記録媒体14に塗布された液状材料16の厚さが転写面の凹凸の段差の40%以上である場合、転写面の凹部の多くの(例えば半分以上の)部分が液状材料16で充填され磁気記録媒体14と第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bとの高い密着力が得られる。一方、S2/S1が0.8〜1.2の範囲であり、磁気記録媒体14の表面に塗布される液状材料16の厚さが転写面の凹凸の段差の40%以下である場合、転写面の凸部の先端と磁気記録媒体14の表面とのギャップが5nm程度又は5nmよりも小さい値に抑制され好ましい。
【0042】
次に、外部磁場印加ユニット40により第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を加圧しないように磁気転写用中間体18を保持しつつ図9に示されるように第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを介して磁気記録媒体14に前記初期化工程(S102)の直流外部磁場の向きと逆の向きの垂直方向の外部磁場を印加する(S108:外部磁場印加工程)。具体的には、まず第2重ね合わせ装置30Bの真空チャンバー32Bから磁気転写用中間体18を取り出して外部磁場印加ユニット40の磁気転写用中間体保持器42で第2磁気転写用スタンパ12Bの外周の近傍を保持して磁気転写用中間体18を保持する。次に、上側磁石44を上方から磁気転写用中間体18に接近させ、下側磁石46を下方から磁気転写用中間体18に接近させる。磁気記録媒体14には第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面の凸部を介して直流外部磁場が印加され、磁気記録媒体14の両面の記録層14Dにおける第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの凸部に接触又は近接する部分が直流外部磁場の方向に磁化される。上側磁石44及び下側磁石46を磁気転写用中間体18の中心軸とほぼ同心の中心軸周りに回転させることにより磁気記録媒体14の両面の記録層14Dに磁気転写が行われサーボ情報が記録される。尚、直流外部磁場の大きさが過大であると、記録層14Dの全面が直流外部磁場の方向に磁化されうるので、直流磁場の大きさは磁気記録媒体14に第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの凹凸パターンに倣ったサーボ情報を磁気転写できる大きさに制限する。
【0043】
これにより磁気転写装置10を用いたサーボ情報の磁気転写が完了する。尚、磁気記録媒体14の両面の第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bは磁気記録媒体14から剥離する。以後同様に、所定の数の磁気記録媒体14への磁気転写が完了するまで磁気転写装置10を用いたサーボ情報の磁気転写を繰り返す。
【0044】
このように第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14は加圧されないように重ね合わされ、加圧されないように第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを介して磁気記録媒体14に外部磁場が印加されるので、これらの工程において第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれが防止又は実用上問題ないレベルに抑制される。従って、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの凹凸パターンの情報を磁気記録媒体14に高精度で磁気転写できる。尚、液状材料16としてフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル(メタクリル)樹脂等を用いた場合、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との高い密着力が得られ、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれを防止又は抑制する効果が高いという利点がある。例えば、第1重ね合わせ装置30Aから第2重ね合わせ装置30Bへの磁気転写用中間体18の搬送や、第2重ね合わせ装置30Bから外部磁場印加ユニット40への磁気転写用中間体18の搬送の際に、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれを防止又は抑制する高い効果が得られる。この場合、磁気転写後、溶剤等で液状材料16を除去しパーフルオロポリエーテル等の潤滑剤を磁気記録媒体14の両面に塗布する。一方、液状材料16としてパーフルオロポリエーテル等のハードディスクの潤滑剤として用いられるフッ素系潤滑剤を用いた場合、液状材料16をそのまま磁気記録媒体14の潤滑剤として用いることができるという利点がある。
【0045】
尚、本実施形態において、スピンコート法により液体材料16を磁気記録媒体14の表面に塗布しているが、ディッピング法やドクターブレード法により液体材料16を磁気記録媒体14の表面に塗布してもよい。
【0046】
又、本実施形態において、磁気記録媒体14の表面に液状材料16を塗布しているが、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの表面に液状材料16を塗布してもよい。又、磁気記録媒体14の表面に液状材料16を塗布すると共に第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bの表面にも液状材料16を塗布してもよい。
【0047】
又、本実施形態において、液状材料16を介して第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせているが、重ね合わせユニット30から外部磁場印加ユニット40への搬送等において第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bの位置ずれが生じにくい場合には、液状材料の塗布を省略し液状材料を介さずに第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせてもよい。
【0048】
又、本実施形態において、重ね合わせユニット30の第1重ね合わせ装置30A、第2重ね合わせ装置30Bは真空チャンバー32A、32Bを備え減圧環境下で第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせているが、磁気転写用スタンパと磁気記録媒体との間への空気の混入が問題とならない場合には、例えば大気圧の下で第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせてもよい。
【0049】
又、本実施形態において、重ね合わせユニット30は第1重ね合わせ装置30Aと第2重ね合わせ装置30Bとを備えているが、重ね合わせユニットが重ね合わせ装置を1つだけ備え、この1つの重ね合わせ装置で磁気記録媒体14の一方の面に第1磁気転写用スタンパを重ね合わせると共に、同じ重ね合わせ装置で磁気記録媒体14の他方の面に第2磁気転写用スタンパを重ね合わせてもよい。この場合、第1磁気転写用スタンパの外径、第2磁気転写用スタンパの外径に合わせて重ね合わせ装置のスタンパ保持器の内径が調整可能であるように、例えばスタンパ保持器を構成する各保持部材が径方向に可動である構成とすればよい。
【0050】
又、本実施形態において、重ね合わせユニット30は第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを水平な姿勢(法線が垂直な姿勢)で保持し、これらを上下方向に相互に接近させて重ね合わせるように構成されているが、第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを垂直な姿勢(法線が水平な姿勢)で保持し、これらを水平方向に相互に接近させて重ね合わせる構成の重ね合わせユニットを用いてもよい。このような重ね合わせユニットを用いる場合、第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bにこれらの自重に相当する荷重も作用しないように、これらを重ね合わせることができるという利点がある。
【0051】
同様に、本実施形態において、外部磁場印加ユニット40も、第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを水平な姿勢(法線が垂直な姿勢)で保持し、これらに外部磁場を印加するように構成されているが、第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bを垂直な姿勢(法線が水平な姿勢)で保持し、これらに外部磁場を印加する構成の外部磁場印加ユニットを用いてもよい。このような外部磁場印加ユニットを用いる場合も、第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bにこれらの自重に相当する荷重が作用することを回避しつつ、これらに外部磁場を印加できるという利点がある。
【0052】
又、本実施形態において、磁気記録媒体14は両面に記録層14D等を備え、磁気転写用中間体18は第1磁気転写用スタンパ12A、磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bが重ね合わされた構成であるが、磁気記録媒体が片面だけに記録層を備え、磁気転写用中間体は1つの磁気転写用スタンパと磁気記録媒体14とが重ね合わされた構成であってもよい。この場合、重ね合わせ工程(S106)では第2重ね合わせ工程(S106B)を省略し第1重ね合わせ工程(S106A)と同様の1つの工程のみを実行すればよい。
【0053】
又、本実施形態において、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bは樹脂の基板12C、12Dと磁性膜12E、12Fとを有しているが、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bは樹脂以外の非磁性の基板と磁性膜とを有する構成でもよい。又、第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bは磁性材料で構成されていてもよい。
【0054】
又、本実施形態において、磁気記録媒体14はハードディスクであるが、ハードディスク以外の磁気記録媒体の製造にも本発明は適用可能である。
【実施例1】
【0055】
前記実施形態のとおり磁気記録媒体14に磁気転写を行い両面にサーボ情報が転写された磁気記録媒体14のサンプルを作成した。
【0056】
磁気記録媒体14の仕様は以下のとおりであった。
直径:65mm
内径:20mm
基板の厚さ:0.8mm
基板の材料:ガラス
記録層の厚さ:20nm
記録層の材料:Co−Cr−Pt合金
記録層の保磁力:5kOe
保護層の厚さ:4nm
保護層の材料:DLC
尚、記録層と基板との間には下地層、軟磁性層、配向層が形成されていたが、これらの層の厚さ、材料は実施例1の理解のために重要とは思われないため説明を省略する。
【0057】
又、第1磁気転写用スタンパ12Aの仕様は以下のとおりであった。
直径:80mm
基板の厚さ:0.6m
基板の材料:アモルファスポリオレフィン樹脂
磁性膜の厚さ:40nm
磁性膜の材料:Co−Pt合金
転写面の凹凸の段差:80nm
【0058】
又、第2磁気転写用スタンパ12Bの仕様は以下のとおりであった。
直径:90mm
基板の厚さ:0.6m
基板の材料:アモルファスポリオレフィン樹脂
磁性膜の厚さ:40nm
磁性膜の材料:Co−Pt合金
転写面の凹凸の段差:80nm
【0059】
初期化工程(S102)では磁気記録媒体14に記録層14Dの飽和磁場以上の外部磁場を印加した。
【0060】
液状材料塗布工程(S104)では、液状材料16としてパーフルオロポリエーテルを磁気記録媒体14の表面に塗布した。塗布された液状材料16の厚さは約4nmだった。
【0061】
第1重ね合わせ工程(S106A)では、まず磁気記録媒体14を磁気記録媒体保持器36Aで保持した。次に、第1磁気転写用スタンパ12Aをスタンパ保持器34Aで保持した。尚、磁気記録媒体14が第1磁気転写用スタンパ12Aから下方に離間するように磁気記録媒体14を保持する高さを調整した。次に、真空チャンバー32Aの上部の開口部を天板部で閉塞し、真空ポンプにより真空チャンバー32Aの内部を100Pa以下まで減圧した。これにより、第1磁気転写用スタンパ12A及び磁気記録媒体14の間が大気圧よりも低い減圧環境下に保持されると共に磁気記録媒体14における第1磁気転写用スタンパ12Aと反対側も同じ減圧環境下に保持された。更に、第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持された。次に、位置ずれ検出器で磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aの水平方向の位置ずれ量を検出し、位置ずれ量が0になるように磁気記録媒体14の水平方向の位置を調整した。この状態で磁気記録媒体14が第1磁気転写用スタンパ12Aの下面に接触する位置まで磁気記録媒体14を上昇させた。磁気記録媒体14の表面の液状材料16が第1磁気転写用スタンパ12Aの下面に接触し磁気記録媒体14と第1磁気転写用スタンパ12Aとが密着した。第1磁気転写用スタンパ12Aと磁気記録媒体14は加圧されることなく重ね合わされた。尚、第1磁気転写用スタンパ12Aの転写面及び磁気記録媒体14の被転写面に作用した荷重は第1磁気転写用スタンパ12Aの質量に相当する荷重であり圧力は約13Paであった。
【0062】
第2重ね合わせ工程(S106B)では、まず磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aを磁気記録媒体保持器36Bで保持した。次に、第2磁気転写用スタンパ12Bをスタンパ保持器34Bで保持した。尚、磁気記録媒体14が第2磁気転写用スタンパ12Bから下方に離間するように磁気記録媒体14及び第1磁気転写用スタンパ12Aを保持する高さを調整した。次に、真空チャンバー32Bの上部の開口部を天板部で閉塞し、真空ポンプにより真空チャンバー32Bの内部を100Pa以下まで減圧した。これにより、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14の間が大気圧よりも低い減圧環境下に保持されると共に第1磁気転写用スタンパ12Aにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持された。更に、第2磁気転写用スタンパ12Bにおける磁気記録媒体14と反対側も同じ減圧環境下に保持された。次に、位置ずれ検出器で磁気記録媒体14及び第2磁気転写用スタンパ12Bの水平方向の位置ずれ量を検出し、位置ずれ量が0になるように磁気記録媒体14(及び第1磁気転写用スタンパ12A)の水平方向の位置を調整した。この状態で磁気記録媒体14が第2磁気転写用スタンパ12Bの下面に接触する位置まで磁気記録媒体14(及び第1磁気転写用スタンパ12A)を上昇させた。磁気記録媒体14の表面の液状材料16が第2磁気転写用スタンパ12Bの下面に接触し磁気記録媒体14と第2磁気転写用スタンパ12Bとが密着した。第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14は加圧されることなく重ね合わされた。これにより磁気記録媒体14の両面に第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bが高精度で配置されて重ね合わされた磁気転写用中間体18が得られた。尚、第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面に作用した荷重は第2磁気転写用スタンパ12Bの質量に相当する荷重であり圧力は約15Paであった。又、第1磁気転写用スタンパ12Aの転写面に作用した荷重は第2磁気転写用スタンパ12Bの質量及び磁気記録媒体14の質量の合計に相当する荷重であり圧力は約34Paであった。
【0063】
外部磁場印加工程(S108)では、加圧しないように磁気転写用中間体18を真空チャンバー32Aから取り出して外部磁場印加ユニット40の磁気転写用中間体保持器42で磁気転写用中間体18を保持した。具体的には、第1磁気転写用スタンパ12Aが上側、第2磁気転写用スタンパ12Bが下側である姿勢で磁気転写用中間体保持器42で第2磁気転写用スタンパ12Bの外周の近傍を保持した。次に、上側磁石44を上方から磁気転写用中間体18に接近させ、下側磁石46を下方から磁気転写用中間体18に接近させた。上側磁石44の下端と下側磁石46の上端とのギャップは約21mmだった。又、上側磁石44の下端と磁気記録媒体14の上面とのギャップは約10.1mmだった。又、下側磁石46の上端と磁気記録媒体14の下面とのギャップも約10.1mmだった。上側磁石44及び下側磁石46を60rpmの回転速度で回転させて、磁気転写用中間体18に初期化工程(S102)の直流外部磁場の向きと逆の向きの垂直方向の外部磁場を印加した。外部磁場の大きさは5kOeだった。
【0064】
その後、磁気記録媒体14から第1磁気転写用スタンパ12A及び第2磁気転写用スタンパ12Bを分離することにより両面の記録層14Dにサーボ情報が転写された磁気記録媒体14のサンプルが得られた。このようにして得られたサンプルのサーボ信号を測定した。ポジションエラーシグナル(PES)は概ね10%以下で良好であった。従って、良好なトラッキング性能が得られた。図10は、サンプルの第2磁気転写用スタンパ12Bが密着していた側の面の半径が30mmの環状の部位(外周近傍の部位)における円周方向の位置とPESとの関係を示す。又、図11は、サンプルの第2磁気転写用スタンパ12Bが密着していた側の面の半径と各半径の環状の部位における1周あたりのPESの値(3σ)との関係を示す。図10及び11においてW1を付した太い線が実施例1のサンプルのデータである。尚、サンプルの第1磁気転写用スタンパ12Aが密着していた側の面でも図10及び11に示されるW1を付したデータと同様のデータが得られた。
【実施例2】
【0065】
上記実施例1に対し、液状材料塗布工程(S104)において、液状材料16としてパーフルオロポリエーテルに代えてアクリル樹脂を用いた。アクリル樹脂の粘度は約400mPa・sだった。尚、実施例1で用いたパーフルオロポリエーテルの粘度は137mPa・sだった。即ち、実施例1で用いたパーフルオロポリエーテルよりも粘度が著しく高い樹脂材料を用いた。又、塗布された液状材料16の厚さは約32nm(第1スタンパ12Aの転写面の凹凸の段差(80nm)の40%)だった。
【0066】
又、外部磁場印加工程(S108)の後に、液状材料16を溶剤で除去した。その後、磁気記録媒体14の表面にパーフルオロポリエーテルを塗布した。塗布されたパーフルオロポリエーテルの厚さは4nmだった。
【0067】
他の条件は実施例1と同じ条件で両面の記録層14Dにサーボ情報が転写された磁気記録媒体14のサンプルが得られた。得られたサンプルのサーボ信号を実施例1と同様に測定した。実施例1と同様にポジションエラーシグナル(PES)は概ね10%以下であった。実施例1と同様に良好なトラッキング性能が得られた。
【0068】
[比較例]
上記実施例1に対し、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14を加圧して重ね合わせた。具体的には実施例1と同様に磁気記録媒体14に第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bを重ね合わせた後、磁気転写用中間体18を2枚のガラス板で挟み、プレス機を用いて第1磁気転写用スタンパ12Aの転写面、第2磁気転写用スタンパ12Bの転写面及び磁気記録媒体14の被転写面に0.1MPaの圧力が印加されるように磁気転写用中間体18を加圧した。各ガラス板の厚さは9.5mmだった。
【0069】
更に、磁気転写用中間体18を加圧した状態で上側磁石44を上方から上側のガラス板に接触させ、下側磁石46を下方から下側のガラス板に接触させた。上側磁石44の下端と下側磁石46の上端とのギャップは実施例1と同様に約21mmだった。又、上側磁石44の下端と磁気記録媒体14の上面とのギャップは実施例1と同様に約10.1mmだった。又、下側磁石46の上端と磁気記録媒体14の下面とのギャップも実施例1と同様に約10.1mmだった。更に、上側磁石44及び下側磁石46を実施例1と同様に60rpmの回転速度で回転させて実施例1と同様に磁気転写用中間体18に初期化工程(S102)の直流外部磁場の向きと逆の向きの垂直方向の外部磁場を印加した。外部磁場の大きさは実施例1と同様に5kOeだった。
【0070】
他の条件は実施例1と同じ条件で両面の記録層14Dにサーボ情報が転写された磁気記録媒体14のサンプルが得られた。得られたサンプルのサーボ信号を実施例1と同様に測定した。ポジションエラーシグナル(PES)は実施例1のサンプルのサーボ信号のよりも著しく大きかった。図10及び11に比較例のサンプルのPESのデータを併記する。図10及び11においてCを付した細い線が比較例のサンプルの第2磁気転写用スタンパ12Bが密着していた側の面のデータである。尚、比較例のサンプルの第1磁気転写用スタンパ12Aが密着していた側の面でも図10及び11に示されるCを付したデータと同様のデータが得られた。
【0071】
図10に示されるように、比較例のサンプルはPESの波形の振幅が大きく振幅の変動も大きかった。又、図11に示されるように、比較例のサンプルは外周近傍において半径が大きくなるにつれてPESの値(3σ)が急激に増加する傾向があった。これに対し、実施例1のサンプルは比較例のサンプルよりもPESの波形の振幅が小さく振幅の変動も小さかった。又、実施例1のサンプルは半径が異なる位置でもPESの値(3σ)はほぼ同じ値であり概ね10%以下に抑制され良好であった。比較例では、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が加圧されて重ね合わされ、更に加圧されて外部磁場が印加されたため、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれが生じてPES特性が悪化したと考えられる。これに対し、実施例1では第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12B及び磁気記録媒体14が加圧されることなく重ね合わされると共に加圧されることなく外部磁場が印加されたため、第1磁気転写用スタンパ12A、第2磁気転写用スタンパ12Bと磁気記録媒体14との位置ずれが防止又は実用上問題ないレベルに抑制され、良好なPES特性が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、ハードディスク等の磁気記録媒体の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
10…磁気転写装置
12A…第1磁気転写用スタンパ
12B…第2磁気転写用スタンパ
14…磁気記録媒体
16…液状材料
18…磁気転写用中間体
20…液状材料塗布ユニット
30…重ね合わせユニット
40…外部磁場印加ユニット
S102…初期化工程
S104…液状材料塗布工程
S106…重ね合わせ工程
S106A…第1重ね合わせ工程
S106B…第2重ね合わせ工程
S108…外部磁場印加工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成する重ね合わせ工程と、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を加圧しないように前記磁気転写用中間体を保持しつつ前記磁気転写用スタンパを介して前記磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記重ね合わせ工程において、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に前記磁気転写用スタンパにおける前記磁気記録媒体と反対側及び前記磁気記録媒体における前記磁気転写用スタンパと反対側の少なくとも一方も前記減圧環境下に保持しつつ前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を重ね合わせることを特徴とする磁気転写方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記重ね合わせ工程の前に、前記磁気記録媒体及び前記磁気転写用スタンパの少なくとも一方の表面に液状材料を塗布する液状材料塗布工程を更に含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記液状材料は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかであることを特徴とする磁気転写方法。
【請求項5】
加圧しないように磁気転写用スタンパ及び磁気記録媒体を重ね合わせて前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体が密着した磁気転写用中間体を作成可能である重ね合わせユニットと、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を加圧しないように前記磁気転写用中間体を保持しつつ前記磁気転写用スタンパを介して前記磁気記録媒体に外部磁場を印加可能である外部磁場印加ユニットと、を含むことを特徴とする磁気転写装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記重ね合わせユニットは、前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体の間を大気圧よりも低い減圧環境下に保持すると共に前記磁気転写用スタンパにおける前記磁気記録媒体と反対側及び前記磁気記録媒体における前記磁気転写用スタンパと反対側の少なくとも一方も前記減圧環境下に保持しつつ前記磁気転写用スタンパ及び前記磁気記録媒体を重ね合わせ可能であることを特徴とする磁気転写装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記磁気記録媒体及び前記磁気転写用スタンパの少なくとも一方の表面に液状材料を塗布するための液状材料塗布ユニットを更に含むことを特徴とする磁気転写装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記液状材料塗布ユニットは前記液状材料としてフェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂のいずれかを塗布するように構成されたことを特徴とする磁気転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−195029(P2012−195029A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57535(P2011−57535)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)