説明

磁気駆動回路および光スイッチ装置

【課題】 ヨークのY方向の寸法を大幅に圧縮可能な磁気駆動回路および光スイッチ装置を提供すること。
【解決手段】 光スイッチ装置1のクランプ用磁気駆動回路70は、ヨーク71と、このヨーク71に巻回されたクランプ用コイル72と、永久磁石73とを有している。ヨーク71は、Y方向で離間した位置で対向して押圧部材41のY方向における動作領域を設定する一対の磁芯711、712、および一対の磁芯711、712の端部同士を連結する連結部713を備えた略C字形状を有しており、クランプ用コイル72は、ヨーク71の連結部713に巻回されている。また、永久磁石73は、Y方向における磁芯711、712の間に相当する高さ位置において、一方の磁極(例えば、N極)をヨーク71の方に向けて、押圧部材41の端部の磁石保持部43に固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動子をY方向に変位させる磁気駆動回路、およびこの磁気駆動回路を備えた光導波路切り換え装置や可変光減衰器などの光スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバなどの光導波路同士の結合状態を切り換える光スイッチ装置としては、光ファイバの熱による屈折率変動を利用する光導波路タイプのもの、半導体プロセスによるマイクロ光学素子とマイクロアクチュエータを利用するMEMS(Micro Electro Mechanical System)タイプのものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
前者の光導波路タイプの光導波路切り換え装置は、光導波路ファイバの結合や分岐による光学的なロスが大きい。また、光導波路を切り換え後の状態を保持するために、常時ヒータに電力を供給しておく必要があり、装置の寿命が比較的短い。また、MEMSタイプの光スイッチは半導体プロセスを利用するために製造コストが高いという問題がある。
【0004】
そこで、共通の入力用光導波路と複数の出力用光導波路が配列されている光ファイバアレイに直角プリズムミラーを正対させ、光ファイバが並んでいる方向に直角プリズムミラーを移動させることにより、光導波路同士の結合状態を切り換えるものが案出されている。このようなタイプの光スイッチ装置は、例えば、直角プリズムミラーを搭載した可動体と、この可動体を光ファイバが並んでいる左右方向、および上下方向に移動可能にワイヤで支持する固定側部材とを有しており、可動体が、磁気駆動回路によって駆動制御されることにより、所望の位置に移動することにより光導波路を切り換える。
【0005】
この種の光スイッチ装置においては、押圧部材によって可動体を固定側部材に向けて押し付け固定するクランプ機構を設けることにより、可動体の位置ずれを防止する構成が検討されている。但し、クランプ機構にバネの付勢力と磁気駆動回路とを併用した駆動機構を採用すると、バネの付勢力に抗する方向に動作させた際、その状態を維持するのにコイルに通電し続けなければならないという問題がある。これに対して、Y方向で離間する位置に3つの磁芯を備えたE字状ヨークに対して、その中芯にコイルを巻回する一方、両外芯を延長し、その内側に永久磁石を配置した磁気駆動回路によれば、永久磁石の磁力によって、押圧部材を所定の位置に保持できるという利点がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−250874号公報
【特許文献2】特開2004−70162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のもののように、E字状ヨークを用いた場合には、一方の外芯と中芯との間に永久磁石を配置し、かつ、他方の外芯と中芯との間に永久磁石を配置する必要があるため、ヨークのY方向の寸法が大きくなってしまうという問題点がある。また、特許文献2に記載のものでは、E字状ヨークの側に2つの永久磁石を必ず配置する必要があるなど、設計の自由度が低いという問題点がある。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、ヨークのY方向の寸法を大幅に圧縮可能な磁気駆動回路および光スイッチ装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、1つの永久磁石でも確実に動作可能な磁気駆動回路および光スイッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、可動子をY方向に変位させる磁気駆動回路であって、Y方向で離間した位置で対向して前記可動子のY方向における動作領域を設定する一対の磁芯、および該一対の磁芯の端部同士を連結する連結部を備えた略C字形状のヨークと、該ヨークに巻回されたコイルと、前記可動子側あるいは前記ヨーク側に配置された永久磁石とを有し、前記コイルに通電されたときに前記ヨークが発生する磁束と前記永久磁石の磁束とが合成されて前記可動子を前記一対の磁芯の一方に近接する方向に駆動し、前記コイルへの通電を停止した状態では、前記永久磁石の磁力により、前記可動子を近接している磁芯の方に吸引させておくことを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記永久磁石は、前記可動子の側に構成されていることが好ましい。本発明の磁気駆動回路では、コイルに通電すると、ヨークからはその通電方向に対応する方向の磁束が発生し、この磁束と、可動子側の永久磁石が発生する磁束とが合成されて可動子に作用する。従って、コイルの通電方向によって可動子の変位方向を制御できる。また、コイルに対する通電を停止しても、永久磁石の磁力により、可動子を近接している磁芯の方に吸引させ、可動子をそこに保持しておくことができる。それ故、可動子を停止させておく期間、コイルに対する通電が必要ないので、省電力化を図ることができる。また、本発明では、略C字形状のヨークを用いているため、中芯がない。それ故、ヨークの磁芯同士を近接配置できる分、ヨークのY方向の寸法を大幅に圧縮できる。さらに、略C字形状のヨークを用いているため、中芯がないので、可動子の側に永久磁石を配置しても動作を妨げられることがなく、このように永久磁石を可動子の側に配置するのであれば、永久磁石が1つで済むという利点がある。
【0011】
本発明において、前記可動子の側には、永久磁石を除く磁性体部を構成し、前記永久磁石は、前記一対の磁芯の各々に近接する位置に各々、配置してもよい。本発明の磁気駆動回路では、コイルに通電すると、ヨークからはその通電方向に対応する方向の磁束が発生し、この磁束と、ヨーク側の永久磁石が発生する磁束とが合成されて可動子側の磁性体部に作用する。従って、コイルの通電方向によって、ヨークの一対の磁芯において、可動子の磁性体部を吸引する力が入れ換わるので、可動子の変位方向を制御できる。また、コイルに対する通電を停止しても、永久磁石の磁力により、可動子を近接している磁芯の方に吸引させ、可動子をそこに保持しておくことができる。それ故、可動子を停止させておく期間、コイルに対する通電が必要ないので、省電力化を図ることができる。また、本発明では、略C字形状のヨークを用いているため、中芯がない。それ故、ヨークの磁芯同士を近接配置できる分、ヨークのY方向の寸法を大幅に圧縮できる。
【0012】
本発明に係る磁気駆動回路は、例えば、光スイッチ装置に用いることができる。この光スイッチ装置は、互いに直交する方向をそれぞれX方向、Y方向およびZ方向としたとき、Z方向から入射してきた光を反射してX方向にずれた所定位置から出射するための光反射部材が搭載された可動体と、該可動体をX方向およびY方向に移動可能に支持する固定側部材と、前記可動体をX方向およびY方向に駆動する駆動手段と、前記可動体を前記固定側部材に押し付け固定したクランプ状態、および前記可動体を解放したアンクランプ状態に切り換える押圧部材とを有しており、前記磁気駆動回路は、当該押圧部材を前記可動子としてクランプ位置とアンクランプ位置とに変位させる。このように構成すると、コイルへの通電方向によってクランプ状態およびアンクランプ状態に切り換えることができる。また、クランプ状態およびアンクランプ状態は、コイルへの通電を停止しても維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気駆動回路では、コイルに通電すると、ヨークが発生する磁束と永久磁石の磁束とが合成されて可動子に作用する。従って、コイルの通電方向によって、可動子の変位方向を制御できる。また、コイルに対する通電を停止しても、永久磁石の磁力により、可動子を近接している磁芯の方に吸引させ、可動子をそこに保持しておくことができる。それ故、可動子を停止させておく期間、コイルに対する通電が必要ないので、省電力化を図ることができる。また、略C字形状のヨークを用いているため、中芯がない。それ故、ヨークの磁芯同士を近接配置できる分、ヨークのY方向の寸法を大幅に圧縮できる。よって、本発明に係る磁気駆動回路を、例えば、光スイッチ装置において可動体に対するクランプ・アンクランプ用に用いれば、押圧部材の駆動部分のY方向の寸法を大幅に圧縮でき、かつ、コイルへの通電を停止しても可動体に対するクランプ状態およびアンクランプ状態を確実に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した光スイッチ装置を説明する。
【0015】
[実施の形態1]
(光スイッチ装置の基本原理)
図1は、本発明の光スイッチ装置の基本原理を模式的に示す説明図である。なお、以下の説明では、互いに直交する方向をそれぞれ、X方向、Y方向、およびZ方向として説明する。
【0016】
図1において、光スイッチ装置1は、Z方向に延びた1本の入力側光ファイバ20、および8本の出力側光ファイバ21がX方向に沿って並列配置された8チャンネルの光スイッチ装置であり、入力側光ファイバ20から出力された光を8本の出力側光ファイバ21のいずれかに導くことができる。ここで、入力側光ファイバ20と出力側光ファイバ21とからなる光ファイバアレイ3は、光ファイバが、X方向で250μmのピッチで等間隔に並んでいる。
【0017】
本形態の光スイッチ装置1では、Z方向から入射してきた光を反射してX方向にずれた所定位置からZ方向に向けて出射するための光反射部材として、X方向に駆動されるプリズムミラー10が用いられている。プリズムミラー10は、光がZ方向から入出射する斜面101、この斜面101から入射してきた光をX方向に反射する第1の反射面102、およびこの第1の反射面102に対して直交し、第1の反射面102から反射してきた光を斜面101に向けて反射する第2の反射面103を備えた直角プリズムであり、斜面101(開口側)は光ファイバアレイ3に向けて正対している。また、入力側光ファイバ20から出射された光は、プリズムミラー10に入射する前に、コリメートレンズ22により、コリメートな光となっている。なお、図示を省略するが、8本の出力側光ファイバ21と、プリズムミラー10の斜面101との間にもコリメートレンズが配置されている。
【0018】
このように構成した光スイッチ装置1において、例えば、プリズムミラー10が実線で示す位置に固定されているとする。この状態では、入力側光ファイバ20から出射された光は、プリズムミラー10に入射し、プリズムミラー10内の第1の斜面102と第2の斜面103をそれぞれ90度で反射する光路L1の経路を辿り、出力側光ファイバ21の最右端にある出力側光ファイバ21aに導かれる。
【0019】
次に、出力側の光導波路を出力側光ファイバ21aから、右側から6番目に位置する出力側光ファイバ21fに切り換える場合には、プリズムミラー10をX方向に駆動して点線で示す位置に移動させる。このようにプリズムミラー10を移動させると、入力側光ファイバ20から出射された光は、プリズムミラー10内の第1の斜面102と第2の斜面103での反射位置が移動し、光路L2を辿って出力側光ファイバ21fに導かれることになる。
【0020】
ここで、光ファイバアレイ3では、入力側光ファイバ20、および出力側光ファイバ21が250μmのピッチで並んでいるので、プリズムミラー10については、入力側光ファイバ20、および出力側光ファイバ21のピッチの1/2倍に相当する125μm単位でX方向に移動させる。
【0021】
(光スイッチ装置の全体構成)
図2は、本発明を適用した光スイッチ装置のY方向における断面図である。図3は、本発明の光スイッチ装置の前半分に搭載された光スイッチ本体を、押圧部材を外した状態で斜め後方からみた斜視図である。
【0022】
図2に示すように、本発明の光スイッチ装置1は、偏平な略直方体形状を有しており、光スイッチ装置1の上側は、プリズムミラー10が搭載された可動体2を付勢する押圧部材41により覆われている。光スイッチ装置1の前半分には、図1に示した原理を用いた光スイッチ本体100が搭載されている。光スイッチ装置1の後半分には、光スイッチ装置1の上側を覆う押圧部材41とともにクランプ機構40を構成するクランプ用磁気駆動回路70が搭載されている。光スイッチ装置1の中央位置の左右両側には、固定側部材13の底板14の両側から一対の支柱48が立ち上がり、一対の支柱48の各々には、押圧部材41の揺動支点51が設けられている。
【0023】
(光スイッチ本体の構成)
図3に示すように、光スイッチ装置1の前半分において、光スイッチ本体100は、点線で示すプリズムミラー10が搭載された可動体2と、この可動体2をX方向およびY方向に移動可能にサスペンションワイヤ4で支持する固定側部材13と、可動体2をX方向およびY方向に駆動するミラー駆動用の磁気駆動回路とを有している。
【0024】
可動体2には、プリズムミラー10を搭載したプリズムミラー搭載部11と、Y方向駆動用の駆動コイル5、および左右一対のX方向駆動用の駆動コイル6が搭載されているフレーム部分16とからなる。プリズムミラー10は斜面101を前方に向けて、プリズムミラー搭載部11のX方向の中央位置に搭載されている。
【0025】
プリズムミラー搭載部11の下面11aには、X方向の全範囲にわたって、V字溝30が一定のピッチで連続的に形成されている。本形態では、光ファイバアレイ3のピッチが250μmであるので、それに対応して、V字溝30のピッチは125μmとしてある。プリズムミラー搭載部11のさらに前方は、図1を参照して説明した光ファイバアレイ3が配置される領域であり、光ファイバアレイ3の入力側光ファイバ20からの出射光、および光ファイバアレイ3の出力側光ファイバ21への出射の各光軸を、光軸Linおよび光軸Loutで示してある。
【0026】
固定側部材13は、光スイッチ装置1の底面を規定する底板14と、底板14に取り付けられた支持ベース12と、固定部15とからなる。底板14には、Y方向駆動用の駆動マグネット7、左右一対のX方向駆動用の駆動マグネット8、およびヨーク9が搭載されている。駆動マグネット7は、駆動用コイル5の内側に位置している。また、駆動マグネット8は、駆動コイル6に対向している。底板14において、可動体2のプリズムミラー搭載部11の真下位置には、可動体2を受ける固定部15が設けられている。
【0027】
固定部15は、プリズムミラー搭載部11の下面11aよりもX方向に長い寸法を有している。固定部15の上面15aには、図6を参照して後述するように、可動体2の下面11aに形成されたV字溝30(凹凸)と噛み合うV字溝31(凹凸)が連続的に形成され、V字溝31のピッチも125μmである。ここで、可動体2のX方向への移動経路、プリズムミラー搭載部11の下面11a、および固定側部材13に形成された固定部15の上面15aは、互いに平行に形成されている。
【0028】
支持ベース12からは、可動体2を左右の両側から挟んで片持ち状態で支持する左右2本ずつのサスペンションワイヤ4が固定側部材13の底板14と平行に延びている。なお、可動体2に搭載された駆動コイル5、6に対する制御回路(図示せず)は、支持ベース12の側に配置され、可動体2に搭載された駆動コイル5、6に対する通電はサスペンションワイヤ4を通電ラインとして行われる。
【0029】
駆動マグネット7は、可動体2に搭載された駆動コイル5に対して鎖交する磁束を発生するものであり、駆動コイル5と対になって、可動体2をY方向に駆動する磁気駆動回路を構成している。従って、駆動コイル5に通電することより、可動体2にはY方向の推力が加わる。また、駆動マグネット8は、可動体2に搭載された駆動コイル6に対して鎖交する磁束を発生するものであり、駆動コイル6と対になって、可動体2をX方向に駆動する磁気駆動回路を構成している。従って、駆動コイル6に通電することより、可動体2にはX方向の推力が加わる。
【0030】
(クランプ機構の構成)
図4は、本発明の光スイッチ装置の後半分に搭載されたクランプ用磁気駆動回路を斜め上方からみた斜視図である。図5(a)、(b)はそれぞれ、クランプ用磁気駆動回路で発生する磁束を示す説明図である。
【0031】
図2、図4および図5において、本形態の光スイッチ装置1では、クランプ機構40は、可動体2を付勢して固定側部材13に固定する板状の押圧部材41(可動子)と、この押圧部材41を揺動可能に支持する揺動支点51と、押圧部材41を駆動するクランプ用磁気駆動回路70とから構成され、このクランプ用磁気駆動回路70に本発明の磁気駆動回路が適用されている。
【0032】
押圧部材41は、光スイッチ本体100の上方を覆って光スイッチ装置1の後方まで延びる天板42と、後端側で下方に折れ曲がった磁石保持部43とを備えており、天板42の前端部では、下方に半円形状の押圧突起44が突き出ている。
【0033】
本形態において、クランプ用磁気駆動回路70は、ヨーク71と、このヨーク71に巻回されたクランプ用コイル72と、永久磁石73とを有している。ヨーク71は、Y方向で離間した位置で対向して押圧部材41のY方向における動作領域を設定する一対の磁芯711、712、および一対の磁芯711、712の端部同士を連結する連結部713を備えた略C字形状を有しており、クランプ用コイル72は、ヨーク71の連結部713に巻回されている。永久磁石73は、Y方向における磁芯711、712の間に相当する高さ位置において、一方の磁極(例えば、N極)をヨーク71の方に向けて、押圧部材41の端部の磁石保持部43に固着されている。従って、永久磁石73からは、図5(a)、(b)に矢印L1で示すように、ヨーク71の側に位置する面側から背面側に向かう磁束が発生している。
【0034】
従って、クランプ用磁気駆動回路70において、図5(a)に示すように、クランプ用コイル72に矢印Dで示す方向に通電すると、ヨーク71では、矢印L2で示すように、磁芯711から磁芯712に向かう磁束が発生する。その結果、磁芯711の付近C1では磁束が弱められるのに対して、磁芯712の付近C2では磁束が強められるので、永久磁石73には、下方に向かう力が作用し、押圧部材41の後端部は下方に移動する。その結果、押圧部材41の前端部は浮き上がることになる。この状態がアンクランプ状態である。
【0035】
このアンクランプ状態に移行した後、クランプ用コイル72への通電を停止しても、永久磁石73は、それ自身の磁力で、近接している磁芯712に吸引されたままであり、押圧部材41の後端部は、近接している磁芯712に吸引された状態に保持される。従って、押圧部材41の後端部は下方に変位したままであり、押圧部材41の前端部は浮き上がった状態のままである。それ故、クランプ用コイル72への通電を停止した以降もアンクランプ状態が維持される。
【0036】
これに対して、図5(b)に示すように、クランプ用コイル72に矢印Uで示す方向に通電すると、ヨーク71では、矢印L3で示すように、磁芯712から磁芯711に向かう磁束が発生する。その結果、磁芯712の付近C2では磁束が弱められるのに対して、磁芯711の付近C1では磁束が強められるので、永久磁石73には、上方に向かう力が作用し、押圧部材41の後端部は上方に移動する。その結果、押圧部材41の前端部は沈み込むことになる。この状態がクランプ状態である。
【0037】
このクランプ状態に移行した後、クランプ用コイル72への通電を停止しても、永久磁石73は、それ自身の磁束で、近接している磁芯711に吸引されたままであり、押圧部材41の後端部は、近接している磁芯711に吸引された状態に保持される。従って、押圧部材41の後端部は上方に変位したままであり、押圧部材41の前端部は沈み込んだ状態のままである。それ故、クランプ用コイル72への通電を停止した以降もクランプ状態が維持される。
【0038】
(光導波路切り換え動作の説明)
図6は、光スイッチ装置において光導波路を切り換える動作を行う際、可動体と固定側部材との位置関係などを示す説明図である。
【0039】
図6(a)に示すように、初期の固定位置では、可動体2は、押圧部材41により固定側部材13に向けて付勢され、固定されたクランプ状態にある。プリズムミラー搭載部11の下面11aおよび固定部15の上面15aに形成されたV字溝30、31は係合した状態にある。
【0040】
この状態から、光導波路を切り換える動作を行うには、まず、クランプ用コイル72に対してアンクランプ方向(図5(b)の矢印D方向)に通電する。また、同時に可動体2をY方向に浮上させる。その結果、図6(b)に示すように、押圧部材41は、前端部が浮き上がるように揺動支点51を中心に揺動し、押圧部材41の先端に位置する押圧突起44が可動体2から浮き上がる。その後、クランプ用コイル72に対する通電を停止する。
【0041】
次に、駆動コイル6に通電して、図6(c)に示すように、可動体2をX方向に移動させる。そして、可動体2がX方向の所望の位置まで移動してきたとき、図6(d)のように、駆動コイル5への通電を停止して、サスペンションワイヤ4の弾性復帰力によって、可動体2をY方向下方に沈み込ませる。
【0042】
次に、クランプ用コイル72に対してクランプ方向(図5(b)の矢印U方向)に通電する。その結果、図6(e)に示すように、押圧部材41は、可動体2をY方向下方に付勢して固定側部材13に押し付け固定したクランプ状態になる。その際、可動体2に形成されたV字溝30と、固定側部材13に形成されたV字溝31が噛み合い、可動体2は、X方向に位置決めされる。
【0043】
しかる後に、駆動コイル6への通電を停止する。また、クランプ用コイル72に対する通電を停止する。これにより、光導波路の切り換え動作が完了する。従って、入射側光ファイバ20からプリズムミラー10に入射した光は、プリズムミラー10を介して、所定の出力側光ファイバ21に出射されることになる。
【0044】
(本形態の効果)
以上説明したように、本形態のクランプ用磁気駆動回路70および光スイッチ装置1では、クランプ用コイル72に通電すると、ヨーク71からはその通電方向に対応する方向の磁力が発生し、この磁力と、押圧部材40側の永久磁石73が発生する磁力とが合成されて押圧部材40側に作用する。従って、クランプ用コイル72の通電方向によって、押圧部材40の変位方向を制御できる。また、クランプ用コイル72に対する通電を停止しても、永久磁石73の磁力により、押圧部材40側を近接している磁芯の方に吸引させ、押圧部材41をそこに保持しておくことができる。それ故、押圧部材41を停止させておく期間、クランプ用コイル72に対する通電が必要ないので、省電力化を図ることができる。
【0045】
また、本発明では、略C字形状のヨーク71を用いているため、中芯がない。それ故、ヨーク71の磁芯711、712同士を近接配置できる分、ヨーク71のY方向の寸法を大幅に圧縮できる。
【0046】
さらに、略C字形状のヨーク71を用いているため、中芯がないので、押圧部材41の側に永久磁石73を配置しても動作を妨げられることがなく、このように永久磁石73を押圧部材41の側に配置するのであれば、永久磁石73が1つで済むという利点がある。
【0047】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の形態2に係る光スイッチ装置のクランプ用磁気駆動回路の説明図である。なお、本形態に係る光スイッチ装置は、基本的な構成が実施の形態1と同様であるため、共通する機能を有する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0048】
図7に示すように、本形態の光スイッチ装置1′でも、実施の形態1と同様、クランプ機構40は、可動体2(図2、3を参照)を付勢して固定側部材13(図2、3を参照)に固定する板状の押圧部材41(可動子)と、この押圧部材41を揺動可能に支持する揺動支点51(図2を参照)と、押圧部材41を駆動するクランプ用磁気駆動回路70Aとから構成され、このクランプ用磁気駆動回路70Aに本発明の磁気駆動回路が適用されている。
【0049】
本形態において、クランプ用磁気駆動回路70Aは、ヨーク71と、このヨーク71に巻回されたクランプ用コイル72と、永久磁石73A、73Bとを有している。ヨーク71は、Y方向で離間した位置で対向して押圧部材41のY方向における動作領域を設定する一対の磁芯711、712、および一対の磁芯711、712の端部同士を連結する連結部713を備えた略C字形状を有しており、クランプ用コイル72は、ヨーク71の連結部713に巻回されている。ここで、磁芯711の先端部713は下方に屈曲し、磁芯712先端部714は上方に屈曲している。
【0050】
本形態において、永久磁石73Aは、磁芯711の内側の面に対して、先端部713の屈曲部分に固着され、永久磁石73Aの下面と磁芯711の先端部713Bの下面とは同一平面を構成している。永久磁石73Bは、磁芯712の内側の面に対して、先端部714の屈曲部分に固着され、永久磁石73Bの上面と磁芯712の先端部714の上面とは同一平面を構成している。ここで、永久磁石73A、73Bは、同一の磁極同士(例えば、N極同士)を対向させている。
【0051】
また、本形態において、押圧部材41の後端部には、永久磁石を除く磁性体部としての鉄片74が固着され、この鉄片74は、ヨーク71の磁芯711、712の間、および永久磁石73A、73Bの間に位置している。
【0052】
従って、クランプ用磁気駆動回路70Aにおいて、クランプ用コイル72に矢印Uで示す方向に通電すると、ヨーク71では、磁芯712から磁芯711に向かう磁束が発生する。その結果、磁芯711の付近C1では磁束が強められるのに対して、磁芯712の付近C2では磁束が弱められるので、鉄片74には、上方に向かう力が作用し、押圧部材41の後端部は上方に移動する。その結果、押圧部材41の前端部は沈み込むことになる。この状態がクランプ状態である。
【0053】
このクランプ状態に移行した後、クランプ用コイル72への通電を停止しても、鉄片74は、永久磁石73Aの磁力で、近接している磁芯711に吸引されたままであり、押圧部材41の後端部は、近接している磁芯711に吸引された状態に保持される。従って、押圧部材41の後端部は上方に変位したままであり、押圧部材41の前端部は沈み込んだ状態のままである。それ故、クランプ用コイル72への通電を停止した以降もクランプ状態が維持される。
【0054】
これに対して、クランプ用コイル72に矢印Dで示す方向に通電すると、ヨーク71では、磁芯711から磁芯712に向かう磁束が発生する。その結果、磁芯712の付近では磁束が強められるのに対して、磁芯711の付近では磁束が弱められるので、鉄片74には、下方に向かう力が作用し、押圧部材41の後端部は下方に移動する。その結果、押圧部材41の前端部は浮き上がることになる。この状態がアンクランプ状態である。
【0055】
このアンクランプ状態に移行した後、クランプ用コイル72への通電を停止しても、鉄片74は、永久磁石73Bの磁力で、近接している磁芯712に吸引されたままであり、押圧部材41の後端部は、近接している磁芯712に吸引された状態に保持される。従って、押圧部材41の後端部は下方に変位したままであり、押圧部材41の前端部は浮き上がった状態のままである。それ故、クランプ用コイル72への通電を停止した以降もアンクランプ状態が維持される。
【0056】
このように本形態のクランプ用磁気駆動回路70Aおよび光スイッチ装置1′でも、クランプ用コイル72に通電すると、ヨーク71からはその通電方向に対応する方向の磁力が発生し、この磁力と、押圧部材40側の永久磁石73が発生する磁力とが合成されて押圧部材40側に作用する。従って、クランプ用コイル72の通電方向によって、押圧部材40の変位方向を制御できる。また、クランプ用コイル72に対する通電を停止しても、永久磁石73A、73Bの磁力により、押圧部材40を近接している磁芯の方に吸引させ、押圧部材41をそこに保持しておくことができる。それ故、押圧部材41を停止させておく期間、クランプ用コイル72に対する通電が必要ないので、省電力化を図ることができる。また、本形態でも、略C字形状のヨーク71を用いているため、中芯がない。それ故、ヨーク71の磁芯711、712同士を近接配置できる分、ヨーク71のY方向の寸法を大幅に圧縮できる。
【0057】
[その他の実施の形態]
上記形態1、2では、光ファイバの交換機に用いられる光導波路切り換え装置に本発明を適用した例であったが、光入力を適宜減衰させるための可変光減衰器に本発明を適用してもよい。
【0058】
また、上記形態1、2では、本発明を適用した磁気駆動回路を光スイッチ装置のクランプ機構に用いた例であったが、電源スイッチのようなON−OFF(2値動作)で済むような駆動機構や2焦点レンズのアクチュエータなどに対して本発明に係る磁気駆動回路を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明が適用される光導波路切り換え装置の原理を模式的に表した図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る光スイッチ装置のY方向における断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る光スイッチ装置の前半分に搭載された光スイッチ本体を、押圧部材を外した状態で斜め後方からみた斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る光スイッチ装置の後半分に搭載されたクランプ用磁気駆動回路を斜め上方からみた斜視図である。
【図5】図4に示すクランプ用磁気駆動回路で発生する磁束を示す説明図である。
【図6】本発明を適用した光スイッチ装置において、光導波路を切り換える動作を行う際の可動体と固定側部材との位置関係などを示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る光スイッチ装置のクランプ用磁気駆動回路の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1、1′ 光スイッチ装置
2 可動体
3 光ファイバアレイ
4 サスペンションワイヤ
10 プリズムミラー
13 固定側部材
40 クランプ機構
41 押圧部材(可動子)
51 揺動支点
70、70A クランプ用磁気駆動回路
71 ヨーク
72 クランプ用コイル
73、73A、73B 永久磁石
74 鉄片(磁性体部)
100 光スイッチ本体
711、712 磁芯
713 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子をY方向に変位させる磁気駆動回路であって、
Y方向で離間した位置で対向して前記可動子のY方向における動作領域を設定する一対の磁芯、および該一対の磁芯の端部同士を連結する連結部を備えた略C字形状のヨークと、
該ヨークに巻回されたコイルと、
前記可動子側あるいは前記ヨーク側に配置された永久磁石とを有し、
前記コイルに通電されたときに前記ヨークが発生する磁束と前記永久磁石の磁束とが合成されて前記可動子を前記一対の磁芯の一方に近接する方向に駆動し、前記コイルへの通電を停止した状態では、前記永久磁石の磁力により、前記可動子を近接している磁芯の方に吸引させておくことを特徴とする磁気駆動回路。
【請求項2】
請求項1において、前記永久磁石は、前記可動子の側に構成されていることを特徴とする磁気駆動回路。
【請求項3】
請求項1において、前記可動子の側には、永久磁石を除く磁性体部が構成され、
前記永久磁石は、前記一対の磁芯の各々に近接する位置に各々、配置されていることを特徴とする磁気駆動回路。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに規定する磁気駆動回路を備えた光スイッチ装置であって、
互いに直交する方向をそれぞれX方向、Y方向およびZ方向としたとき、Z方向から入射してきた光を反射してX方向にずれた所定位置から出射するための光反射部材が搭載された可動体と、該可動体をX方向およびY方向に移動可能に支持する固定側部材と、前記可動体をX方向およびY方向に駆動する駆動手段と、前記可動体を前記固定側部材に押し付け固定したクランプ状態、および前記可動体を解放したアンクランプ状態に切り換える押圧部材とを有し、
前記磁気駆動回路は、当該押圧部材を前記可動子としてクランプ位置とアンクランプ位置とに変位させることを特徴とする光スイッチ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−10847(P2006−10847A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185136(P2004−185136)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】