説明

磁気駆動撹拌装置

【課題】 外部から伝えられる磁力により回転駆動されて容器内の流体を撹拌する磁気駆動撹拌装置において、その撹拌が長時間にわたって安定して効率良く行われるようにする。
【解決手段】
磁気駆動撹拌装置20は、撹拌翼21と、その撹拌翼21を中心軸39の周りに回転自在に支持するスラストボールベアリング22とを備えている。その撹拌翼21は、中心軸39から半径方向外方に延びる腕部23a,23bと、各腕部23a,23bの回転方向前縁下部から後方に向かって傾斜して延びるすくい上げ斜面部24a,24bと、中心軸39に関して線対称に配置され、外部駆動磁石の回転に応動して回転する従動磁石29a,29bとを有している。作動時には、外部駆動磁石と従動磁石との間に働く吸引磁力により、ベアリング台座31が容器の壁面に付着した状態で保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルバス等において容器内の熱媒体としての流体を撹拌するために用いられる撹拌装置に関するもので、特に、容器の外側において同容器の壁面に近接して回転する外部駆動磁石の磁力に応動して同容器内で回転する撹拌翼により当該容器内の流体を撹拌するようにした磁気駆動撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の温度を所望の温度に保って、あるいはプログラムに従った温度変化をさせながら、種々の実験や試験等を行う場合には、通常、オイルバスが用いられる。オイルバスは、容器内に熱媒体としての流体を収容し、その流体の温度を制御しながら、その流体中で種々の作業をするようにしたものである。その場合、熱媒体である流体としては、熱伝導性や流動性、安全性等を考慮して、通常、シリコンオイルが用いられるが、シリコンオイルに限られることはなく、熱伝導性や流動性等が良く安全に使用することができる流体であれば、例えば水や、その他の適当な油性液体等の流体も使用することができる。
【0003】
ところで、そのようなオイルバスにおいては、容器内の熱媒体としての流体の温度分布にばらつきが生じることのないようにするために、同流体を撹拌することが必要となる。容器内の流体を撹拌するための撹拌装置としては、従来、特許文献1あるいは2に記載されているように、駆動回転軸と一体的に回転する撹拌翼を使用したもの等が提案されているが、そのようなものでは、容器内の撹拌翼に動力を伝達するための伝動機構が必要となるので、容器の構造が複雑化することは避けられない。
【特許文献1】特開平9−131525号公報
【特許文献2】特開2003−33635号公報
【0004】
オイルバスのために特に適した撹拌装置としては、従来、容器の底壁の下面側において水平面内で回転する外部駆動磁石の磁力に応動して同容器内で上下方向の自転軸線周りに回転する撹拌子により、同容器内の熱媒体としての流体を撹拌するようにした磁気駆動撹拌装置が知られている。
以下、そのような磁気駆動撹拌装置の一例について図面により説明する。図10は従来の磁気駆動撹拌装置の一例を示すもので、その撹拌装置を用いたオイルバスの側面図であり、図11は図10に示した撹拌装置に用いられている撹拌子の拡大断面図である。また、図12はそのオイルバスを用いて実験を行っているときの状態を示す断面側面図である。
【0005】
図10において、実験台あるいは実験机等の載置面上に置かれた撹拌機1は、磁力線の透過を妨げない非磁性材料製の水平な支持板2を有している。その支持板2は、例えば4本の支持脚3,3,…によって支持されており、その支持板2の中央部下面側に縦軸モーター4が固定されている。そのモーター4の上向きの出力軸には、支持板2の中央部の上下方向の回転軸線の周りに回転する外部駆動磁石支持腕5が固定されている。そして、その外部駆動磁石支持腕5の両端部の、回転軸線に関して対称な位置に、一対の外部駆動磁石6,6が装着されている。こうして、互いに離隔して配置された一対の外部駆動磁石6,6が、支持板2に近接して水平面内で回転するようにされている。その外部駆動磁石6,6は円柱状のもので、上下方向に、すなわちその磁石6,6から出た磁力線が上下方向に向くように配置されている。
【0006】
図10に示すように、支持板2上にはオイルバスを構成する容器7が載置される。その容器7としては、普通、ステンレススチール製の容器や耐熱ガラス製の容器が用いられるが、耐熱ガラス製の容器のように透明材料製の容器である場合には、実験中の容器の内部の様子が上方からのみならず側方からも容器壁を通して観察することができるので、都合が良い。容器7内には、熱媒体である流体として、例えばシリコンオイル8が適度の液面レベルまで満たされるとともに、更に、先端部がリング状に形成されたヒーター9のリング状先端部9aが、容器7内のシリコンオイル8中に没入される。ヒーター9は、例えば電熱抵抗線ヒーターで、測温抵抗体を用いた測温センサ10とともに、ヒーターユニット11により支持される。そのヒーターユニット11は、適宜の固定具を用いて容器7の外部に固定されている。また、ヒーター9は、ヒーターユニット11を介して、図示していない温度制御機器及び電源に通じるコードに接続されている。
【0007】
容器7内には、その底壁7a(図12参照)の中央部上に、撹拌子12が置かれている。図11に示すように、その撹拌子12は、円柱状の鉄心12aを中心としてその周囲に四弗化エチレン樹脂12bを成形した後、その鉄心12aを磁化させた磁石棒であって、支持板2及び容器7の底壁7aを透過して回転する外部駆動磁石6の磁力に応動して、撹拌子12の中央部を上下方向に横断する自転軸線の周りに水平面内で自転することにより、容器7内の熱媒体であるシリコンオイル8を撹拌する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の撹拌子12は、自転時に容器7の底壁7a上面と一点で接触してスムーズに回転するようにするために、中央部がやや膨らんだ形状の棒状体とされる。しかしながら、そのように容器7の底壁7a上面と点接触する撹拌子12では、自転中、その撹拌子12の自転中心線が外部駆動磁石6の回転中心線と一致した状態から逸脱して、スピンアウトすることがある。例えば、撹拌速度を急に上げたり、熱媒体としての流体の粘度に対して撹拌子12の回転速度が大きすぎたりした場合には、撹拌子12の回転抵抗にアンバランスが生じ、撹拌子12の自転軸線と外部駆動磁石6の回転軸線とがずれることがある。そして、一旦そのように撹拌子12の自転軸線が外部駆動磁石6の回転軸線上からずれると、撹拌子12は、容器7の側壁へ向けて振り回されることにより、たちまちスピンアウトをし、外部駆動磁石6の磁力の影響外に飛ばされてしまう。したがって、それ以後は全く回転しなくなってしまい、その結果、容器7内の熱媒体としての流体をそれ以上撹拌しなくなってしまう。
【0009】
また、従来の撹拌子12は、上述のように棒状体であったために、自転軸線周りに自転しても撹拌機能が十分ではなく、特に大きな容量の容器7の場合には、その容器7内の熱媒体としての流体を所望のとおりに撹拌することができなかった。しかも、撹拌子12の自転により、容器7内の流体が、上下方向の流れの成分がほとんどない単純な旋回渦を生成して、流体の表面が定常的な漏斗状の流体面となり、その結果、容器7の中心部の流体の表面の高さが極度に低くなって空気を渦流中に吸い込み、温度調節の精度に好ましくない影響を与えることとなるとともに、容器7内の温度分布にむらができ、所期の実験効果を上げることができなくなってしまうおそれもあった。
【0010】
更に、このようなオイルバスを用いて例えば液体試薬の加熱実験等を行う場合には、通常、図12に示すように、容器7内の撹拌子12の上方に、パンチングボードからなる棚板16を配備し、その棚板16上にビーカー13等の実験用容器を載置して、ヒーター9により容器7内の熱媒体としてのシリコンオイル8を加熱することによって、ビーカー13内の試薬14を加熱する。そのとき、容器7内のシリコンオイル8は撹拌子12の回転による撹拌によって温度分布の均一化が図られるが、ビーカー13内の試薬14にまでその撹拌は伝わらないので、試薬14の温度分布にはばらつきが生じる。そこで、ビーカー13内にも撹拌子12と同様の撹拌子15を入れ、外部からの磁力によりその撹拌子15を回転させて試薬14を撹拌する。すなわち、回転する外部駆動磁石6,6の磁力により容器7内の撹拌子12を回転させ、その撹拌子12の磁力によってビーカー13内の撹拌子15を回転させる。したがって、撹拌子12には、外部駆動磁石6の磁力をビーカー13内の撹拌子15に伝達するための中継という役割も求められる。そのために、容器7内の撹拌子12は、外部駆動磁石6,6の回転が確実に伝えられ、しかも、十分に強い磁力を発生するものとする必要がある。
【0011】
しかしながら、従来の撹拌子12は、上述のように、鉄心12aの周囲を取り巻くようにして四弗化エチレン樹脂12bを成形した後、その鉄心12aを磁化させて作成するという作成手順の関係から、その磁力を十分に強くすることができない。しかも、その鉄心12aから出る磁力線は水平となり、外部駆動磁石6,6から出る磁力線とは方向が異なるので、その間に働く磁力はどうしても弱くなる。そのために、外部駆動磁石6,6の回転を撹拌子12に確実に伝えることができない。その結果、ビーカー13内の撹拌子15の回転を確実なものにすることが難しい、という問題があった。
【0012】
本発明は、従来の撹拌子を用いた磁気駆動撹拌装置における上述のような問題に鑑みてなされたものであって、従来の撹拌子に代えて撹拌性能に優れた撹拌翼を使用することにより、容器内の流体が効率良く撹拌されるようにするとともに、撹拌翼の自転中心線が外部駆動磁石の回転中心線に確実に一致した状態で安定して保持されるようにし、更に、容器内の熱媒体としての流体と実験用容器内の液体試薬等とを同時に、しかも確実に撹拌することができるようにした、磁気駆動撹拌装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る本発明の磁気駆動撹拌装置は、容器内に収容されている熱媒体としての流体を撹拌するための磁気駆動撹拌装置であって、当該容器の外側において同容器の壁面に近接して回転する外部駆動磁石の磁力に応動して前記容器内で回転することにより同容器内の流体を撹拌する撹拌翼と、前記外部駆動磁石と前記撹拌翼との間に働く吸引磁力により前記容器の壁面に付着して同撹拌翼を中心軸の周りに回転自在に支持するスラストボールベアリングとを備えている。前記撹拌翼は、前記中心軸を中心として周方向に相互に等間隔を置いて半径方向外方へ延びる複数の腕部と、前記撹拌翼が前記容器内において水平面内で前記中心軸の周りに回転するとき同容器内の流体をすくい上げて同流体に斜め上向きの螺旋渦巻き旋回をさせるように、前記各腕部の正回転方向に見て同各腕部の前部の下縁から立ち上がり、後方に向かって傾斜して延びるすくい上げ斜面部と、前記撹拌翼に、前記中心軸から等距離の位置に装着され、前記外部駆動磁石との間で引斥力を生ずる従動磁石とを有している。また、前記スラストボールベアリングは、前記磁力により前記容器の壁面に付着するとき前記中心軸を中心とする円周上において同容器の壁面に接触するようにされたベアリング台座を有している。
【0014】
そして、請求項2に係る本発明の磁気駆動撹拌装置は、上記請求項1の磁気駆動撹拌装置において、前記従動磁石が円柱状磁石であり、同従動磁石が前記中心軸にほぼ平行に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
上記請求項1に係る本発明の磁気駆動撹拌装置によれば、撹拌翼が、容器内において水平面内で中心軸の周りに回転するとき各腕部の正回転方向に見て同各腕部の前部の下縁から立ち上がり、後方に向かって傾斜して延びるすくい上げ斜面部を有しているので、容器内において水平面内で回転したとき、同容器内の流体をすくい上げて同流体に斜め上向きの螺旋渦巻き旋回をさせるようになり、容器内の流体を効率良く撹拌して同容器内の熱媒体としての流体の温度分布にばらつきが生じないようにすることができる。しかも、容器内の流体には上下方向の流れの成分が与えられるので、容器の中心部の流体の表面の高さが極度に低くなって空気を渦流中に吸い込み、温度調節の精度に好ましくない影響を与えることや、容器内の温度分布にむらができることを未然に防止することができる。
【0016】
また、その撹拌翼には、外部駆動磁石との間で引斥力を生ずる従動磁石が、撹拌翼の自転軸線である中心軸から等距離の位置に装着されているので、容器内に入れるだけで、撹拌翼の自転中心線と外部駆動磁石の回転中心線とが整合するようになる。したがって、従来の撹拌子と同様に取り扱うことができる。しかも、その撹拌翼を回転自在に支持する中心軸を備えたスラストボールベアリングのベアリング台座が、容器の壁面と円周上において接触するようにされているので、従来の撹拌子のように容器の底壁上面と点接触するものに比べると、はるかに安定して支持されることになり、撹拌翼の自転中心線を外部駆動磁石の自転中心線に確実に一致させた状態に保持することができる。したがって、長時間にわたって撹拌翼の回転を続けさせることができ、所期の実験効果を十分に上げることができる。
【0017】
また、上記請求項2に係る本発明の磁気駆動撹拌装置によれば、請求項1に係る磁気駆動撹拌装置において、従動磁石が外部駆動磁石と同様の円柱状磁石とされ、その従動磁石が中心軸にほぼ平行に配置されるので、外部駆動磁石と従動磁石との間に働く吸引磁力によってそれらがほぼ同方向に位置することになり、それら外部駆動磁石と従動磁石との間に働く磁力をより強めることができる。したがって、オイルバスを構成する容器内にその磁気駆動撹拌装置を設置して外部駆動磁石を回転させた場合には、その磁気駆動撹拌装置の撹拌翼に外部駆動磁石の回転を確実に伝えることができ、容器内の熱媒体としての流体を十分に撹拌することができる。しかも、その撹拌翼に装着される従動磁石も十分に強い磁力を発生するものとなるので、オイルバス内にビーカー等の実験用容器を設置し、その実験用容器内に従来のものと同様の撹拌子を入れれば、その撹拌子にも確実に外部駆動磁石の磁力を伝達することができる。したがって、撹拌子を確実に回転させることができ、容器内の熱媒体としての流体と実験容器内の液体試薬等とを同時に、しかも確実に撹拌することが可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。図中、図1〜図9は本発明による磁気駆動撹拌装置の一実施例を示すもので、図1はその撹拌装置の斜視図、図2は図1のA−A線に沿って見た撹拌装置の断面図、図3は図1の撹拌装置に用いられている撹拌翼の平面図、図4はその撹拌翼の正面図、図5はその撹拌翼の側面図、図6は撹拌翼を支持するためのスラストボールベアリングの回転座を示す平面図、図7は図6のB−B線に沿って見た回転座の断面図、図8はそのスラストボールベアリングのベアリング台座を示す平面図、図9は図8のC−C線に沿って見たベアリング台座の断面図である。
なお、この実施例の説明において、オイルバス及び撹拌機は従来のものと同様であるので、それらの説明には図12をそのまま用いることとする。
【0019】
図1及び図2に示すように、本発明による磁気駆動撹拌装置20は、撹拌翼21と、その撹拌翼21を自転軸線周りに回転自在に支持するスラストボールベアリング22とを備えている。その撹拌翼21は、図12に示したように容器7の底壁7aの下側において水平面内で回転する外部駆動磁石6,6の磁力線の動きに応動して、図1において右周り、すなわち時計方向を正回転の向きあるいは正回転方向として回転するように構成されている。
【0020】
なお、図示実施例の撹拌翼21は、上述のように時計方向の回転を正回転の向きあるいは正回転方向として回転するように構成されているが、これとは逆に、撹拌翼が、図1において左周り、すなわち反時計方向の回転を正回転の向きあるいは正回転方向として回転するように構成することも可能である。
【0021】
図1ないし図5において、撹拌翼21は、着磁性を有するステンレススチール製の板によって形成されており、上下方向の自転軸線を中心として周方向に相互に等間隔を置いて半径方向外方へ延びる複数の腕部、すなわち図示実施例では下板部23によって形成される周方向に180°の間隔を置いた2本の水平な平板状の腕部23a,23b、を有している。各腕部23a,23bは、正回転方向に見たときの前部下縁から立ち上がり、それぞれ後方に向かって傾斜して延びるすくい上げ斜板部24a,24bを有している。そして、これら各すくい上げ斜板部24a,24bの上面によって、撹拌翼21が容器内で自転軸線の周りに水平面内で正回転したとき、容器内の熱媒体としての流体をすくい上げて同流体に斜め上向きの強制縦循環流成分を伴った螺旋渦巻き旋回をさせるすくい上げ斜面部が形成されている。
【0022】
図1ないし図5に示すように、下板部23の中心部には、撹拌翼21を軸支するための、撹拌翼21の自転軸線と同心の中心孔25が形成されている。また、その両側には、後述する係合爪33a,33bを係合させるための一対の係合孔26a,26bが形成されている。更に、下板部23の両側部によって構成される腕部23a,23bの各中心部には、それぞれ比較的小径の従動磁石取り出し用孔27a,27bが形成されている。そして、すくい上げ斜板部24a,24bには、従動磁石取り出し用孔27a,27bに対向する位置に、より大径の従動磁石支持孔28a,28bが形成されている。したがって、それら従動磁石取り出し用孔27a,27b及び従動磁石支持孔28a,28bは、撹拌翼21の自転軸線に関して対称に位置するようになっている。
【0023】
図1及び図2に示すように、撹拌翼21には、その自転軸線に関して線対称に、したがって上下方向に、円柱状の従動磁石29a,29bが装着されている。それらの従動磁石29a,29bは、全体が着磁性の強い材料によって形成されており、それぞれ従動磁石支持孔28a,28bに挿通して、その下端面を腕部23a,23bに吸着させることにより撹拌翼21に固定支持されるようになっている。なお、従動磁石取り出し用孔27a,27bは、そのようにして撹拌翼21に固定された従動磁石29a,29bを取り外すときのためのもので、そのときには、腕部23a,23bの下面側から従動磁石取り出し用孔27a,27bにマッチ棒などを差し込んで、従動磁石29a,29bを押し上げるようにする。
【0024】
撹拌翼21を回転自在に支持するスラストボールベアリング22は、撹拌翼21を支持する回転座30と、容器の底壁7a(図2参照)上に載置されるベアリング台座31と、それらの間に配置される多数個の転動ボール32,32,…とから構成されている。これら回転座30、台座31、及び転動ボール32は、いずれも非磁性材料のステンレススチール等によって形成されている。
【0025】
図6及び図7において、回転座30は、円板状の平板部33と、その平板部33の周縁に沿って環状に形成されたボール案内溝部34と、平板部33の中心部に形成された中心孔35と、その中心孔35を挟んで中心孔35の直径方向に互いに対向して、プレス加工により立ち上がり形成された係合爪33a,33bとを有している。
【0026】
図8及び図9において、ベアリング台座31は、円板状の平板部36と、その平板部36の周縁に沿って環状に形成されたボール案内溝部37と、平板部36の中心部に形成された比較的小径の中心孔38とを有している。そのボール案内溝部37は上向きに凹、すなわち下向きに凸の形状に湾曲形成されており、容器の底壁7a(図2)上に載置されたときには、その下端部が同底壁7a上面に接触するようにされている。したがって、ベアリング台座31は、スラストボールベアリング22が容器の底壁7a上に載置されたとき、その中心孔38、すなわち撹拌翼21の自転軸線を中心とする円周上において容器の底壁7a上面に接触するようになっている。
【0027】
転動ボール32,32,…は、これら回転座30及び台座31の各ボール案内溝部34,37によって形成されるボール受け部内に配列され、それによって、回転座30が台座31に対して回転自在に支持されるようになっている。
【0028】
撹拌翼21をスラストボールベアリング22に取り付けるときには、まず、図2に示すように、スラストボールベアリング22の回転座30の中心孔35に中心軸39を挿通するとともに、その中心軸39の下端部の小径部39aを台座31の中心孔38に挿通し、その下端をかしめることによって中心軸39を台座31に固定する。そして、その中心軸39に撹拌翼21の下板部23の中心孔25を挿通させるとともに、スラストボールベアリング22の回転座30の係合爪33a,33bを下板部23の係合孔26a,26bに挿入して係合させる。これにより、撹拌翼21と回転座30とが中心軸39を中心として一体的に回転するようになる。そこで、中心軸39に上下2枚のCクリップ40,40を嵌め込み、そのCクリップ40,40によって撹拌翼21の下板部23を支持させる。
このようにして、磁気駆動撹拌装置20が組み立てられる。
【0029】
次に、このように構成された磁気駆動撹拌装置20の作用について説明する。
この磁気駆動撹拌装置20をオイルバスに用いるときには、図12に示すように、撹拌機1の支持板2上に、熱媒体としての流体である例えばシリコンオイル8を適度の液面レベルまで満たした容器7を載置し、その容器7内のほぼ中央部に、従来の撹拌子12に代えてこの磁気駆動撹拌装置20を入れる。すると、容器7の下方に近接して配置されている外部駆動磁石6,6と撹拌翼21に装着されている従動磁石29a,29bとの間に働く引斥力により、外部駆動磁石6,6の回転中心線と撹拌翼21の自転軸線とが自動的に心合わせされる。そして、その状態で、外部駆動磁石6,6と撹拌翼21との間に働く磁力により、磁気駆動撹拌装置20全体が容器7の底壁7aに吸着されて固定される。このとき、従動磁石29a,29b及び中心軸39の各軸線は外部駆動磁石6,6の軸線に平行となる。
【0030】
そして、液体試薬の加熱実験等を行うときには、図12に示すように、容器7内の撹拌装置20(従来の撹拌子12に代えて入れられている)の上方に、パンチングボードによって形成された棚板16を配備し、その棚板16上に、液体試薬14を収容したビーカー13等の実験用容器を載置する。そのビーカー13内には従来と同様の撹拌子15を入れておく。その状態で、ヒーター9により容器7内のシリコンオイル8の加熱を開始するとともに、撹拌機1のスイッチを入れる。
【0031】
撹拌機1のスイッチを入れると、モーター4が回転し、外部駆動磁石6,6が上下方向の回転軸線周りに容器7の底壁7aに近接して回転する。したがって、その外部駆動磁石6,6から出る上下方向の磁力線が水平面内で回転する。そして、その磁力線は撹拌機1の支持板2及び容器7の底壁7aを透過して容器7内に達するので、その容器7内に位置する従動磁石29a,29bに作用することになる。その結果、従動磁石29a,29bが外部駆動磁石6,6の回転に追随して回転し、その従動磁石29a,29bが装着されている撹拌翼21が自転軸線、すなわち中心軸39の軸線の周りに正回転する。
【0032】
撹拌翼21が正回転すると、それに伴って容器7内のシリコンオイル8に旋回流が生成されるとともに、その撹拌翼21に設けられているすくい上げ斜板部24a,24bの上面(すくい上げ斜面部)によってシリコンオイル8がすくい上げられる。したがって、そのシリコンオイル8には上向きの強制縦循環流成分が付与され、容器7内のシリコンオイル8は螺旋渦巻き旋回をすることになる。このようにして、シリコンオイル8が斜め上向きの強制縦循環流成分を伴った螺旋渦巻き旋回をすることにより、その撹拌が極めて効率良く行われる。また、容器7内のシリコンオイル8に上下方向の流れの成分が十分に与えられることにより、そのシリコンオイル8の旋回渦によって容器7の中央部のシリコンオイル8の表面が異常に低くなり、その表面近くの空気を渦流中に吸い込んで、温度調節の精度に好ましくない影響を与えたり、容器内の温度分布にむらができたりする、等の不都合な現象を未然に防止することができる。
【0033】
このように撹拌翼21が自転しているとき、例えばその撹拌翼21の回転速度を急に上げたり、シリコンオイル8の粘度に対して撹拌翼21の回転速度が大きすぎたりすると、撹拌翼21の回転抵抗にアンバランスが生じることがある。しかしながら、その撹拌翼21を回転自在に支持するスラストボールベアリング22は、撹拌翼21の自転軸線、すなわち中心軸39を中心とする円周上において容器7の底壁7a上面に接触しているので、撹拌翼21の回転抵抗に多少のアンバランスが生じたとしても、その撹拌翼21の自転中心線が外部駆動磁石6,6の回転中心線から逸脱するようなことはない。したがって、外部駆動磁石6,6による撹拌翼21の回転駆動は安定して維持される。
【0034】
このようにして、撹拌翼21の自転により、容器7内のシリコンオイル8が効率良く撹拌されて、その温度分布がほぼ均一に保持される。そして、シリコンオイル8の温度上昇に伴い、そのシリコンオイル8中に浸されているビーカー13内の試薬14が加熱される。その試薬14は、ビーカー13内に入れられている撹拌子15によって撹拌される。
その撹拌子15は、容器7の底壁7a上面に吸着されている撹拌装置20の撹拌翼21に装着された従動磁石29a,29bによって回転駆動される。その場合、前述したように、その従動磁石29a,29bには外部駆動磁石6,6の回転が確実に伝達されている。また、その従動磁石29a,29bは十分に磁力の強いものとされている。したがって、外部駆動磁石6,6の回転が撹拌翼21を介して撹拌子15に伝えられることになり、容器7内の熱媒体としてのシリコンオイル8とビーカー13等の実験用容器内の液体試薬14とを同時に、しかも確実に撹拌することができる。
【0035】
また、パンチングボードからなる棚板16を使用することにより、容器7内のシリコンオイル8は、その棚板16に設けられている多数の小開口を通して流通することになる。したがって、撹拌翼21によって生成されたシリコンオイル8の斜め上向き螺旋旋回流には、適度の乱流効果が生じ、シリコンオイル8の旋回流が極度に大きな漏斗状の表面を形成して、その表面が容器7の中央部において異常に低くなることが防止される。すなわち、棚板16を使用することにより、容器7内の棚板16上に置かれたビーカー13等の実験用容器を、実験中、熱媒体としてのシリコンオイル8中に十分に浸した状態に置くことができ、所期の実験効果を上げることができる。
【0036】
なお、図1ないし図9に示した磁気駆動撹拌装置は、本発明の好適な実施例を示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で種々の実施の形態に従って実施をすることができる。例えば、上記実施例においては、撹拌翼21は磁性材料の板状体によって形成されるものとしているが、これを、軽量材料からなる成形体とすることもできる。ただし、従来の撹拌子よりも耐熱性に優れたものとするためには、撹拌翼21及びスラストボールベアリング22全体を金属製のものとすることが望ましい。
また、上記実施例においては、その磁気駆動撹拌装置20は容器7の底壁7aに吸着されるものとして説明したが、その磁気駆動撹拌装置20を容器7の側壁内面に吸着させるようにすることもできる。その場合には、外部駆動磁石6,6を、容器7の外側においてその容器7の側壁に近接して配置し、その側壁に沿って回転させるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による磁気駆動撹拌装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿って見た撹拌装置の断面図である。
【図3】図1の撹拌装置に用いられている撹拌翼の平面図である。
【図4】その撹拌翼の正面図である。
【図5】その撹拌翼の側面図である。
【図6】撹拌翼を支持するためのスラストボールベアリングの回転座を示す平面図である。
【図7】図6のB−B線に沿って見た回転座の断面図である。
【図8】そのスラストボールベアリングのベアリング台座を示す平面図である。
【図9】図8のC−C線に沿って見たベアリング台座の断面図である。
【図10】従来の磁気駆動撹拌装置の一例を示すもので、その撹拌装置を用いたオイルバスの側面である。
【図11】図10に示した撹拌装置に用いられている撹拌子の拡大断面図である。
【図12】図10のオイルバスを用いて実験を行っているときの状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 撹拌機
2 支持板
3 支持脚
4 モーター
5 外部駆動磁石支持腕
6 外部駆動磁石
7 容器
7a 底壁
8 シリコンオイル(熱媒体としての流体)
9 ヒーター
9a リング状先端部
10 測温センサ
11 ヒーターユニット
12 撹拌子
12a 鉄心
12b 四弗化エチレン樹脂
13 ビーカー(実験用容器)
14 液体試薬
15 撹拌子
16 棚板
20 磁気駆動撹拌装置
21 撹拌翼
22 スラストボールベアリング
23 下板部
23a,23b 腕部
24a,24b すくい上げ斜板部(すくい上げ斜面部)
25 中心孔
26a,26b 係合孔
27a,27b 従動磁石取り出し用孔
28a,28b 従動磁石支持孔
29a,29b 従動磁石
30 回転座
31 ベアリング台座
32 転動ボール
33 平板部
33a,33b 係合爪
34 ボール案内溝部
35 中心孔
36 平板部
37 ボール案内溝部
38 中心孔
39 中心軸
39a 小径部
40 Cクリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容されている熱媒体としての流体を撹拌するための磁気駆動撹拌装置であって、
前記容器の外側において同容器の壁面に近接して回転する外部駆動磁石の磁力に応動して前記容器内で回転することにより同容器内の流体を撹拌する撹拌翼と、前記外部駆動磁石と前記撹拌翼との間に働く吸引磁力により前記容器の壁面に付着して同撹拌翼を中心軸の周りに回転自在に支持するスラストボールベアリングと、を備え、
前記撹拌翼が、前記中心軸を中心として周方向に相互に等間隔を置いて半径方向外方へ延びる複数の腕部と、前記撹拌翼が前記容器内において水平面内で前記中心軸の周りに回転するとき同容器内の流体をすくい上げて同流体に斜め上向きの螺旋渦巻き旋回をさせるように、前記各腕部の正回転方向に見て同各腕部の前部の下縁から立ち上がり、後方に向かって傾斜して延びるすくい上げ斜面部と、前記撹拌翼に、前記中心軸から等距離の位置に装着され、前記外部駆動磁石との間で引斥力を生ずる従動磁石と、を有しており、
前記スラストボールベアリングのベアリング台座が、前記磁力により前記容器の壁面に付着するとき前記中心軸を中心とする円周上において同容器の壁面に接触するようにされていることを特徴とする磁気駆動撹拌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気駆動撹拌装置において、前記従動磁石が円柱状磁石であり、同従動磁石が前記中心軸にほぼ平行に配置されていることを特徴とする、磁気駆動撹拌装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−150221(P2006−150221A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344156(P2004−344156)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(594017112)理工科学産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】