説明

磁石の製造方法

【課題】 密着性に優れた保護膜が成膜され、耐食性および耐熱性に優れ、しかも、繰り返しめっき処理を行った場合でも、めっきの初期段階に使用する銅めっき液の劣化を有効に防止することができ、密着性の高い保護膜を安定して形成可能な磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】 銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む第1めっき液と、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含み、前記第1めっき液とは別の第2めっき液と、を準備する工程と、希土類を含む磁石の表面に、前記第1めっき液を用いて電解めっきを行い、第1保護膜を成膜する工程と、前記第1保護膜が形成された前記磁石の表面に、前記第2めっき液を用いて電解めっきを行い、前記第1保護膜とは別の第2保護膜を成膜する工程とを有することを特徴とする磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石などの磁石の製造方法に係り、さらに詳しくは、密着性に優れた保護膜が成膜され、耐食性および耐熱性に優れた磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能な永久磁石として、粉末冶金法によるSm−Co系希土類永久磁石が量産されている。しかしながら、この永久磁石は、原料として高価なSmおよびCoを使用することから、高価であるという課題を有する。
【0003】
希土類の中では、原子量が小さい希土類元素、たとえばセリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)は、サマリウム(Sm)よりも豊富に存在し、価格が比較的安い。また、鉄(Fe)も安価である。
【0004】
そこで、近年、比較的安価な原料を用い、Sm−Co系希土類永久磁石と同等以上の磁気性能を有するNd−Fe−B系希土類永久磁石が開発され、実用化されている。
【0005】
ところが、この永久磁石は、主成分として酸化され易い希土類元素と鉄とを含有するために、耐食性が比較的低く、性能の劣化や、ばらつきなどが課題となっている。
【0006】
そこで、この種の希土類(R)永久磁石の耐食性を改善するために、これらの永久磁石の表面に、Ni、Cu、Sn等を含有する金属被膜や樹脂膜を形成することにより、磁石表面を保護する方法が行われている。たとえば、Ni、Cu、Sn等を含有する金属被膜は、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、あるいは、蒸着などの気相法などにより形成されている。
【0007】
上述した金属被膜のなかでも、Cuを含有する金属被膜、特にめっき法により形成されるCuめっき膜は、磁石表面との密着性および均一性に優れているため、主に磁石素体上に直接めっきする、いわゆる下地めっき層として用いられている。しかしながら、Cuめっき膜は、一度、磁石素体上に形成されてしまえば、密着性に優れるという利点を有するが、Nd等の希土類元素やFe等の遷移金属元素を含む磁石素体上に成膜し難いという性質を有している。そのため、磁石素体上に、Cuめっき膜を成膜させるために種々の方法が提案されている。
【0008】
たとえば、特許文献1では、Cuめっき膜を形成する前に、このCuめっき膜よりもさらに薄いNiめっき膜を成膜することにより、Cuめっき膜の成膜性を向上させる方法が提案されている。しかしながら、この文献においては、Cuめっき膜の下に、薄い厚みではあるが、Niめっき膜を形成しているため、Cuめっき膜と磁石素体とが直接接触しないこととなるため、密着性に劣るという問題があった。
【0009】
また、特許文献2では、Cuめっき膜を成膜するためのめっき液として、脂肪族ホスホン酸を含有するめっき液を用いる方法が提案されている。この文献によると、脂肪族ホスホン酸を含有するめっき液を使用することにより、Cuめっき膜の成膜性を向上させることができるとともに、密着性、耐食性および耐熱性が向上する旨が記載されている。
【0010】
しかしながら、この特許文献2においては、実際の製造工程において、同じめっき液を使用して、繰り返しめっき処理を行っていくと、めっき液が劣化してしまい、Cuめっき膜の成膜性が低下し、密着性や耐食性に劣ってしまうという問題があった。そのため、この文献記載の方法では、たとえば500バッチや1000バッチに一度程度の割合で、新たなめっき液(めっき処理に使用していないめっき液)に交換してめっき処理を行わなければならず、高コスト化を招来する原因となっていた。
【0011】
なお、磁石素体にCuめっき膜を形成する場合には、素体と下地Cuめっき層との界面にピンホールなどの欠陥が発生してしまった場合には、続けてめっき処理を行っていっても、これらの欠陥は、Cuめっき膜の成長とともに進行していくため、単層のCuめっき膜を形成しただけでは、この問題は解決することができない。そのため、このような問題を解決するために、2層のCuめっき膜を形成する方法が提案されている。たとえば、特許文献2では、このような問題を解決するために、脂肪族ホスホン酸を含有する銅めっき液を使用した第1のCuめっき膜と、その上に、青化銅めっき液またはピロリン酸銅めっき液を使用した第2のCuめっき膜を形成する方法も開示されている。
【0012】
しかしながら、このように2層のCuめっき膜を形成した場合でも、上記と同様の理由により、繰り返しめっき処理を行っていくと、脂肪族ホスホン酸を含有するめっき液を使用した第1のCuめっき膜の密着性が低下してしまうため、上記と同様の問題が発生していた。さらに、この文献においては、各層を形成するためのめっき浴として、組成の異なるめっき浴を使用しているため、磁石素体によるめっき液の持ち込みに起因するめっき液の混合が発生してしまう。そのため、繰り返し使用による、めっき液の劣化が起こり易くなるという問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開平5−82320号公報
【特許文献2】特開2001−295091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、密着性に優れた保護膜が成膜され、かつ、耐食性および耐熱性に優れ、しかも、繰り返しめっき処理を行った場合でも、密着性の高い保護膜を安定して成膜することができる磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、めっきの初期段階に使用するめっき液の劣化を防止することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る磁石の製造方法は、
銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む第1めっき液と、
銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含み、前記第1めっき液とは別の第2めっき液と、を準備する工程と、
希土類を含む磁石の表面に、前記第1めっき液を用いて電解めっきを行い、第1保護膜を成膜する工程と、
前記第1保護膜が形成された前記磁石の表面に、前記第2めっき液を用いて電解めっきを行い、前記第1保護膜とは別の第2保護膜を成膜する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、第1保護膜を成膜するための第1めっき液、および第2保護膜を成膜するための第2めっき液として、それぞれ、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む銅めっき液を使用する。そのため、密着性に優れた保護膜を成膜することができるとともに、磁石の耐食性および耐熱性を向上させることができる。
【0018】
しかも、本発明においては、上記に加えて、第1保護膜を成膜するための第1めっき液と、第2保護膜を成膜するための第2めっき液とを、それぞれ別々の銅めっき液とする。そのため、繰り返しめっき処理を行った場合でも、密着性の高い保護膜を安定して成膜することが可能となる。さらに、本発明においては、第1保護膜および第2保護膜を形成するためのめっき浴として、実質的に同じ組成を有するめっき浴を使用するため、上述の特許文献2(特開2001−295091号公報)のように、磁石素体による液の持ち込みの問題も発生することはない。
【0019】
本発明の製造方法においては、前記第1保護膜の厚みが、前記第2保護膜の厚みよりも薄くなるようにすることが好ましい。本発明においては、まず、第1めっき液を使用して、第1保護膜を薄く形成し、その後、第2めっき液を使用して、第2保護膜を形成することが好ましく、このようにすることにより、めっきの初期段階に使用する第1めっき液の劣化を有効に防止することができ、本発明の作用効果を高めることができる。
【0020】
なお、本発明において、必ずしも明らかではないが、第2めっき液は磁石素体表面と直接接触しないため、第1めっき液と比較して劣化が遅く、磁石の保護膜の特性に与える影響が少ない傾向にあると考えられる。
【0021】
本発明の製造方法においては、前記第1保護膜の厚みを、7μm以下とすることが好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下とする。前記第1保護膜の厚みが厚すぎると、本発明の効果が得難くなる傾向にある。なお、前記第1保護膜の厚みの下限は、特に限定されず、0μmより厚くすればよいが、実際上は、0.5μm程度以上である。
【0022】
本発明の製造方法においては、前記第1保護膜と、前記第2保護膜との合計の厚みを、前記磁石の表面中心部において、好ましくは10〜25μm、より好ましくは13〜22μm、さらに好ましくは15〜20μmとする。
【0023】
本発明の製造方法においては、前記第2保護膜の上にさらに、別の保護膜を1層以上形成しても良い。このような保護膜としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択すれば良いが、たとえば、電解ニッケルめっき膜、または電解ニッケルめっき膜および電解スズめっき膜などの多層膜が挙げられる。特に、Cuめっき膜は、比較的酸化し易いため、たとえば、ボイスコイルモータ(VCM)のような微粉を嫌う用途においては、最表面に用いるのに適さない。そのため、このような用途に使用する場合には、電解ニッケルめっき膜を形成することが有効である。また、高い耐食性を要求される場合には、電解ニッケルめっき膜および電解スズめっき膜などの多層膜を形成すると良い。なお、Cuめっき膜は、Niめっき膜と比較して、素体上に析出するめっき膜厚のばらつきが小さいため、表面酸化の影響が小さな用途では、Cuめっき膜を最表面とすることが好ましい。
【0024】
本発明の方法が適用される磁石としては、特に限定されないが、R(ただし、RはY元素または希土類元素)、FeおよびBを含むR−Fe−B系希土類磁石などの永久磁石である場合に、特に効果が大きい。R−Fe−B系希土類磁石の代表例が、Nd−Fe−B系希土類永久磁石である。
【0025】
特に、Nd−Fe−B系永久磁石は、他の永久磁石と異なり、C軸と垂直な方向に負の熱膨張係数を持ち、温度の上昇と共に収縮する傾向にあり、そのため、従来方法で成膜されためっき膜で被覆された永久磁石は、磁石とめっき膜の熱膨張係数の違いから、温度変化により磁気特性の劣化を引き起こし耐熱性に問題があった。これに対し、本発明では、第1保護膜および第2保護膜を形成するための第1めっき液および第2めっき液として、それぞれ、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む銅めっき液を使用する。そのため、永久磁石として、Nd−Fe−B系永久磁石を使用した場合においても、上記問題を有効に防止することができ、耐熱性を向上させることが可能となる。
【0026】
本発明の製造方法により得られる磁石の具体的な用途としては、特に限定されないが、自動車・産業機械などの、使用条件として耐熱性および耐温度変化性を要求される部品、または部品の製造過程で耐熱性を要求される(例えば磁石を樹脂モールディングする等)部品などとして好適に用いられる。また、本発明の製造方法により得られる磁石は、形状が特に薄い等、重量に対する比表面積が大きい場合でも、良好な磁気特性を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、密着性に優れた保護膜が成膜され、かつ、耐食性および耐熱性に優れ、しかも、繰り返しめっき処理を行った場合でも、めっきの初期段階に使用する銅めっき液の劣化を有効に防止することができ、密着性の高い保護膜を安定して形成することができる磁石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、耐食性および耐熱性に優れた永久磁石の製造方法について説明する。
【0029】
永久磁石
本実施形態において、第1保護膜および第2保護膜を表面に形成するための永久磁石は、R(ただし、RはY元素または希土類元素)、FeおよびBを含むR−Fe−B系希土類磁石である。
【0030】
本実施形態の永久磁石において、R、FeおよびBの含有量は、
5.5原子%≦R≦30原子%、
42原子%≦Fe≦90原子%、
2原子%≦B≦28原子%、
であることが好ましい。
【0031】
特に永久磁石体を焼結法により製造する場合、下記の組成であることが好ましい。
Rとしては、Nd,Pr,Dy,Ho,Tbのうち少なくとも1種、あるいはさらに、La,Sm,Ce,Gd,Er,Eu,Pm,Tm,Yb,Lu,Yのうち1種以上を含むものが好ましい。
【0032】
なお、Rとして2種以上の元素を用いる場合、原料としてミッシュメタル等の混合物を用いることもできる。
【0033】
Rの含有量は、5.5〜30原子%であることが好ましい。
Rの含有量が少なすぎると、磁石の結晶構造がα−Feと同一構造の立方晶組織となるため、高い保持力(Hcj)が得られず、多すぎると、Rリッチな非磁性相が多くなり、残留磁束密度(Br)が低下する。
【0034】
Feの含有量は42〜90原子%であることが好ましい。
Feの含有量が少なすぎると、Brが低下し、多すぎると、iHcが低下する。
【0035】
Bの含有量は、2〜28原子%であることが好ましい。
Bの含有量が少なすぎると、磁石の結晶構造が菱面体組織となるため保持力(iHc)が不十分であり、多すぎると、Bリッチな非磁性相が多くなるため、残留磁束密度(Br)が低下する。
【0036】
なお、Feの一部をCoで置換することにより、磁気特性を損うことなく温度特性を改善することができる。この場合、Co置換量がFeの50原子%を超えると磁気特性が劣化するため、Co置換量は50原子%以下とすることが好ましい。
【0037】
また、R、FeおよびBの他、不可避的不純物として、Ni,Si,Al,Cu,Ca等が全体の3原子%以下含有されていてもよい。
【0038】
さらに、Bの一部を、C,P,Sのうちの1種以上で置換することにより、生産性の向上および低コスト化が実現できる。この場合、置換量は全体の4原子%以下であることが好ましい。また、保磁力の向上、生産性の向上、低コスト化のために、Al,Ti,V,Cr,Mn,Cu,Bi,Nb,Ta,Mo,W,Sb,Ge,Sn,Zr,Ni,Si,Hf等の1種以上を添加してもよい。この場合、添加量は総計で10原子%以下とすることが好ましい。
【0039】
本実施形態における永久磁石は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有する。この主相の粒径は、1〜100μm程度であることが好ましい。そして、通常、体積比で1〜50%の非磁性相を含むものである。
【0040】
上記のような永久磁石体は、以下に述べるような粉末冶金法により製造されることが好ましい。
まず、原料となる金属や合金を所望の組成となるように配合する。そして、配合した原料を、真空または不活性ガス雰囲気にて、溶解し、その後、鋳造し、所望の組成を有する合金を得る。鋳造方法としては、特に限定されないが、たとえば、ストリップキャスト法などが挙げられる。ストリップキャスト法とは、溶融し、液体状となった合金を、回転ロール上に供給することにより、合金薄板を連続的に鋳造する方法である。鋳造により得られる合金は、必ずしも、最終組成を有する単一の合金でなくても良く、たとえば、組成の異なる複数種の合金を混合したものであっても良い。また、合金の形状も特に限定されず、必ずしも薄板状である必要はなく、たとえば、インゴットであっても良い。
【0041】
そして、得られた合金を、ジョークラッシャなどを使用して粉砕することにより、5〜100mm角程度の大きさの合金塊とし、得られた合金塊に対して水素吸蔵させる。次いで、水素を吸蔵処理をした合金塊について、粗粉砕を行い、合金粉末を得る。なお、粗粉砕を行う際に、予め合金塊に水素を吸蔵させておくことにより、表面から自己崩壊的に粉砕を進行させることができる。その後、得られた合金粉末を熱処理することにより、脱水素処理を施す。
【0042】
次いで、脱水素処理を行った合金粉末について、粉砕助剤を0.03〜0.4重量%程度添加する。粉砕助剤を添加することにより、焼結後の残留炭素の量を低減することができ、磁気特性の向上を図ることができる。なお、粉砕助剤としては特に限定されないが、たとえば、脂肪酸系化合物が使用できる。
【0043】
次いで、粉砕助剤を添加した合金粉末に対して、ジェットミルなどを使用して、微粉砕を行う。微粉砕は、たとえば、合金粉末の粒径が1〜10μm程度、特に、3〜6μm程度となるまで行うことが好ましい。
【0044】
次いで、微粉砕により得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形し、成形体を得る。この場合、磁場強度は400〜1600kA/m程度、成形圧力は、50〜500MPa程度であることが好ましい。
【0045】
得られた成形体を、1000〜1200℃で0.5〜5時間焼結し、急冷する。その後、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500〜900℃にて1〜5時間、熱処理(時効処理)を行う。なお、熱処理(時効処理)までの各工程は、酸化防止のため、真空中あるいはArガス等の非酸化性ガス雰囲気中とすることが好ましい。
【0046】
このようにして製造された永久磁石は、たとえばRがNdである場合に、特に磁気特性に優れるが、C軸と垂直な方向に負の熱膨張係数を有することが知られている。このようにして得られる永久磁石の表面に、以下に示す方法により第1保護膜および第2保護膜を形成する。
【0047】
本実施形態においては、まず、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む第1めっき液を用いて、磁石素体上に、第1保護膜を成膜する。そして、この第1保護膜を成膜した磁石の表面に、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含み、上記第1めっき液とは別の第2めっき液を用いて、第2保護膜を形成する。
以下、第1保護膜および第2保護膜の形成方法について、詳細に説明する。
【0048】
第1保護膜の形成
まず、磁石の表面に第1保護膜を形成するための第1めっき液を準備する。
第1めっき液は、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む銅めっき液である。
【0049】
銅塩としては、特に限定されないが、たとえば硫酸銅、ピロリン酸銅、塩化銅、ホスホン酸銅などが例示される。
リン酸塩としては、特に限定されないが、たとえばリン酸銅、ピロリン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどが例示される。
脂肪族ホスホン酸化合物としては、特に限定されないが、脂肪族ホスホン酸の他、たとえば脂肪族ホスホン酸有機化合物、脂肪族ホスホン酸アルカリ金属化合物、脂肪族ホスホン酸遷移金属化合物が例示される。なお、本実施形態において、脂肪族ホスホン酸有機化合物とは、脂肪族ホスホン酸化合物のうち、脂肪族ホスホン酸に有機化合物が付いている誘導体を意味する。また、同様に、脂肪族ホスホン酸アルカリ金属化合物、および脂肪族ホスホン酸遷移金属化合物とは、脂肪族ホスホン酸化合物のうち、脂肪族ホスホン酸に、それぞれアルカリ金属、および遷移金属が付いている誘導体を意味する。
金属水酸化物としては、特に限定されないが、たとえば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが例示される。
【0050】
第1保護膜を形成するための第1めっき液は、銅を5〜40g/リットル含有し、リンを1〜10g/リットル含有している水溶液が好ましい。また、この第1めっき液は、脂肪族ホスホン酸化合物を5〜150g/リットル含有し、金属水酸化物を25〜200g/リットル含有することが好ましい。
【0051】
なお、本実施形態においては、この第1めっき液には、光沢剤が、0〜10ミリリットル/リットルの範囲で含まれていても良い。光沢剤としては、特に限定されないが、たとえば各種有機化合物や、アミノ酸化合物、ホスホン酸化合物などが例示される。
【0052】
そして、この第1めっき液を使用して、電解めっきを行い、銅被膜から成る第1保護膜を成膜する。
【0053】
第1保護膜を成膜する際の条件としては、特に限定されないが、たとえば、以下の条件とすることができる。
すなわち、第1めっき浴のペーハ(pH)は、好ましくは8〜12、さらに好ましくは9.5〜10.5とする。第1めっき浴の温度は、好ましくは55〜65℃とする。めっきの手法は、特に限定されないが、バレルめっき法やラックめっき法が例示される。めっき時の電流密度は、特に限定されないが、1〜10A/dm程度が好ましい。また、めっき時間は、0〜2時間程度(ただし、0は含まず)とすることが好ましい。
【0054】
このように、第1めっき液を使用し、上記条件にて成膜される第1保護膜の厚みは、後に説明する第2保護膜よりも薄く形成することが好ましい。具体的には、保護膜の厚みは、7μm以下とすることが好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下とする。前記第1保護膜の厚みが厚すぎると、本発明の効果が得難くなる傾向にある。なお、前記第1保護膜の厚みの下限は、特に限定されず、0μmより厚くすればよいが、実際上は、0.5μm程度以上である。
【0055】
第2保護膜の形成
次に、第1保護膜が形成された永久磁石の表面に、第2保護膜を形成する。
第2保護膜は、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含み、上記第1めっき液とは別の第2めっき液を用いて、形成される。
【0056】
第2保護膜を形成するための第2めっき液は、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む銅めっき液であれば良いが、好ましくは、上記第1めっき液と同様の構成とする。また、第2めっき液は、第1めっき液と同じ組成の銅めっき液としても良いが、異なる組成のめっき液としても良い。
【0057】
上記第2保護膜の成膜は、具体的には以下の方法により行うことができる。
まず、上記にて得られた第1保護膜を成膜した永久磁石を水洗する。第1保護膜成膜後の水洗時間および移槽時間を、好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内とする。そして、第2めっき液に浸けて、電解めっきを行い、銅被膜からなる第2保護膜を成膜する。なお、第2保護膜を成膜する際の条件としては、特に限定されないが、上記第1保護膜と同様にすればよい。ただし、第2保護膜を成膜する際のめっき時間は、0.5〜5時間程度とすることが好ましい。
【0058】
このように、第1めっき液を使用して成膜される第1保護膜と、第2めっき液を使用して成膜される第2保護膜との合計の厚みは、10〜25μmとすることが好ましく、より好ましくは13〜22μm、さらに好ましくは15〜20μmとする。
【0059】
なお、上述の第1保護膜および第2保護膜の形成された永久磁石の表面には、さらに別の保護膜(第3保護膜)を形成しても良い。この第3保護膜としては、特に限定されないが、電解ニッケルめっき膜、または電解ニッケルめっき膜および電解スズめっき膜などの多層膜が例示される。
【0060】
電解ニッケルめっき膜を形成する場合には、めっき浴としては、下記の組成のめっき浴を用いることが好ましい。すなわち、スルファミン酸ニッケルを150〜500g/リットル、臭化ニッケルを1〜10g/リットル、硼酸を30〜50g/リットルを含むことが好ましい。また、めっき浴には、必要に応じて、光沢剤を、適宜添加しても良い。このめっき浴のペーハ(pH)は、好ましくは3.5〜6.0さらに好ましくは4.0〜5.0であり、その温度は、好ましくは40〜50℃である。
【0061】
スズめっき膜を形成する場合には、めっき浴としては、下記の組成のめっき浴を用いることが好ましい。すなわち、硫酸第1すずを30〜50g/リットル、硫酸を40〜80g/リットル、クレゾールスルホン酸を30〜60g/リットル、ゼラチンを1〜3g/リットル、β−ナフトールを0.5〜1g/リットルを含むことが好ましい。また、めっき浴には、必要に応じて、光沢剤を、適宜添加しても良い。このめっき浴のペーハ(pH)は、好ましくは5.5〜6.5であり、その温度は、好ましくは10〜30℃である。
【0062】
第3保護膜の膜厚は、特に限定されず、目的に応じて適宜調整すれば良いが、20μm以下とすることが好ましい。
【0063】
本実施形態においては、第1保護膜を成膜するための第1めっき液、および第2保護膜を成膜するための第2めっき液として、それぞれ、銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む銅めっき液を使用する。そのため、密着性に優れた保護膜を成膜することができるとともに、永久磁石の耐食性および耐熱性を向上させることができる。
【0064】
さらに、本実施形態においては、上記に加えて、第1保護膜を成膜するための第1めっき液と、第2保護膜を成膜するための第2めっき液とを、それぞれ別々の銅めっき液とする。そのため、繰り返しめっき処理を行った場合でも、密着性の高い保護膜を安定して成膜することが可能となる。
【0065】
特に、本実施形態においては、好ましくは、第1保護膜の厚みを、第2保護膜の厚みよりも薄くなるようにする。そのため、本実施形態では、繰り返しめっき処理を行った場合でも、第1保護膜を成膜するための第1めっき液の劣化を有効に防止することができ、めっきの初期段階における成膜性の劣化を有効に防止することができる。なお、めっき液の劣化の原因については、必ずしも明らかでないが、めっき処理中において、めっき液中にNd等の希土類元素やFe元素が溶解してしまうためではないかと考えられる。
【0066】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、本発明では、第3保護膜としては、上述しためっき膜に限らず、樹脂膜や塗装膜などであっても良い。また、上述した実施形態では、第2保護膜の表面に形成する別の保護膜として、第3保護膜1層だけを形成する場合を例示したが、第2保護膜の上に形成する別の保護膜の数は、特に限定されず、2層以上形成しても良い。なお、この場合においては、各保護膜の厚みは、20μm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0068】
実施例1
粉末冶金法によって作成した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成をもつ焼結体を、Ar雰囲気中で600℃にて2時間、熱処理を施し、30×40×5(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行なって永久磁石素体を得た。
【0069】
次いでこの永久磁石素体のサンプルについて、まず、アルカリ性脱脂液で洗浄後、良く水洗した。そして、硝酸洗浄を行い、水洗した後に、アルカリ超音波洗浄を施し、再度、水洗した。次いで、この永久磁石素体のサンプルの表面に、以下に説明する方法により、第1保護膜および第2保護膜を成膜した。
【0070】
まず、第1保護膜を形成するための第1めっき浴として、以下の方法によりホスホン酸めっき浴を調製した。
ホスホン酸めっき浴を調製するために、まず、以下の原料を準備した。
塩化銅(銅塩):15g
リン酸カリウム(リン酸塩):3g
脂肪族ホスホン酸有機化合物(脂肪族ホスホン酸化合物):18g
水酸化カリウム(金属水酸化物):75g
光沢剤:2.5ml
なお、上記脂肪族ホスホン酸有機化合物とは、脂肪族ホスホン酸に有機化合物の付いた誘導体であって、種々の誘導体が混合されたものである。また、上記光沢剤としては、「ブライトナー」と「ポリマー」とで構成される光沢剤を使用した。具体的には、「ブライトナー」としては、ビス−3−スルホプロピルジサルファイドナトリウム、チオ尿酸およびヤーヌスグリーンの混合物を使用し、「ポリマー」としては、ポリエチレングリコールを使用した。
【0071】
次いで、準備した各原料を、水に溶解させ、1000mlの水溶液(原液)とした。そして、この水溶液(原液)を60L準備して、60Lのホスホン酸めっき浴を調製した。
【0072】
次いで、第1めっき浴として上記にて調製したホスホン酸めっき浴を使用して、バレルめっき法により、電解めっきを行い、永久磁石素体の表面に、第1保護膜を成膜した。具体的には、ペーハ(pH)を9.5〜10.5に調整し、温度60℃として、電流密度1A/dm、めっき時間0.2時間、φ3mmのスチールボール5kgを用い、120個の永久磁石について、第1保護膜を成膜した。
【0073】
次いで、第1保護膜を成膜した永久磁石を水洗し、第1保護膜を成膜した永久磁石の試料を120個得た。なお、本実施例においては、得られた120個の永久磁石の試料のうち、10個の永久磁石の試料を第1保護膜の厚みおよび第1保護膜の密着性を測定するための試料(それぞれ5個ずつの合計10個)とした。そのため、以下に説明する第2保護膜の成膜は、この10個の永久磁石の試料を除いた110個の永久磁石の試料に対してのみ行った。
【0074】
上記にて第1保護膜を成膜した永久磁石の試料を、第1保護膜を形成してから約2分で、第2めっき浴に浸け、バレルめっき法により、電解めっきを行い、第2保護膜を成膜して、第1保護膜および第2保護膜を成膜した永久磁石の試料を得た。第2保護膜を成膜するための第2めっき浴としては、上記第1めっき浴と同様の方法により調製したホスホン酸めっき浴を使用した。ただし、第2めっき浴は、第1めっき浴とは、別のめっき浴とした。また、第2保護膜を成膜するためのめっき時間は、3.0時間とし、φ3mmのスチールボール5kgを用い、110個の永久磁石の試料について、第2保護膜を成膜した。
【0075】
なお、本実施例においては、上記第1保護膜および第2保護膜を成膜した永久磁石の試料を、上記第1めっき浴および第2めっき浴を連続して使用し、1000バッチ分の試料を連続的に製造した。すなわち、同じ第1めっき浴、および同じ第2めっき浴を使用し続け、1バッチ目の試料〜1000バッチ目の試料の合計1000バッチ分の試料を、それぞれ120個/バッチ作製した。すなわち、総計で120000個(=120個/バッチ×1000バッチ)の試料を作製した。ただし、本実施例では、第1保護膜の厚みおよび第1保護膜の密着性を測定するために、第1保護膜を形成した試料のうち、10個/バッチの試料(厚み測定用試料5個/バッチと、密着性測定用試料5個/バッチとの合計)を使用した。そのため、実際に第2保護膜を形成した試料の数は、120個/バッチから、これら10個/バッチを除いた110個/バッチである。
【0076】
そして、得られた永久磁石の試料について、以下の方法により、第1保護膜の厚み、第2保護膜の厚み、1バッチ目の試料の密着性および耐食性、1000バッチ目の試料の密着性および耐食性を測定した。
【0077】
第1保護膜の厚みは、第1保護膜のみを成膜した永久磁石の試料を5個用意して、蛍光X線分析(FX)により、第1保護膜の膜厚を測定した。膜厚の測定は、永久磁石の試料の平面中心部について行い、5個の平均値にて求めた。測定の結果、第1保護膜の厚みは平均1μmであった。
【0078】
第2保護膜の厚みは、第1保護膜および第2保護膜を成膜した永久磁石の試料を5個用意し、これらの試料について、蛍光X線分析(FX)により、第1保護膜と第2保護膜との合計の厚みを測定し、次いで、この合計の厚みから、上記にて測定した第1保護膜の厚みを減じることにより求めた。膜厚の測定は、永久磁石の試料の平面中心部について行い、5個の平均値にて求めた。測定の結果、第2保護膜の厚みは、平面中心部では平均15μmであった。
【0079】
密着性の測定は、1バッチ目の試料および1000バッチ目の試料を、それぞれ5個ずつ用意し、これらの試料について、それぞれ行った。具体的には、各試料の表面に、10mmの幅で深さ30〜40μm、長さ20〜30mmの切れ目を2本平行にいれて、切れ目の片端を同様の深さの切れ目で結んで、その部分から垂直にめっき膜のみを引き剥がした場合の引き剥がし力を測定し、5個の平均値にて求めた。測定の結果、1バッチ目の試料、1000バッチ目の試料、いずれも引き剥がし力が、測定限界を超えた50MPa以上であった。
【0080】
耐食性の測定は、1バッチ目の試料および1000バッチ目の試料について、それぞれ行った。具体的には、まず、上記方法により製造した1バッチ目の試料、および1000バッチ目の試料を、それぞれ100個ずつ用意した。そして、各100個ずつの試料について、120℃、100%RH、2atm、100時間の条件にて、P.C.T.(プレッシャークッカーテスト)を行い、テスト後の試料の表面状態を目視観察することにより点錆、フクレの有無を確認し、耐食性を評価した。なお、本実施例においては、点錆、またはフクレの発生した試料を不良品と評価し、全測定試料に対する不良率[%]を算出することにより、耐食性を評価した。測定の結果、本実施例では、1バッチ目の試料および1000バッチ目の試料のいずれも、最表面層はこげ茶色に変色していたが、点錆およびフクレの発生した試料は無かった。
【0081】
実施例2
第1保護膜を成膜する際のめっき時間を1.0時間、第2保護膜を成膜する際のめっき時間を2.0時間とした以外は、実施例1と同様にして、1000バッチ分の永久磁石の試料を、それぞれ120個/バッチ作製した。すなわち、総計で120000個(=120個/バッチ×1000バッチ)の試料を作製した。ただし、実施例1と同様の理由により、実際に第2保護膜を形成した試料の数は、110個/バッチである。そして、得られた永久磁石の試料について、実施例1と同様な試験を行った。結果を表2に示す。
【0082】
実施例3
第1保護膜を成膜する際のめっき時間を1.4時間、第2保護膜を成膜する際のめっき時間を1.6時間とした以外は、実施例1と同様にして、1000バッチ分の永久磁石の試料を、それぞれ120個/バッチ作製した。すなわち、総計で120000個(=120個/バッチ×1000バッチ)の試料を作製した。ただし、実施例1と同様の理由により、実際に第2保護膜を形成した試料の数は、110個/バッチである。そして、得られた永久磁石の試料について、実施例1と同様な試験を行った。結果を表2に示す。
【0083】
比較例1
第1保護膜を成膜する際のめっき時間を3.0時間とし、第2保護膜を成膜しなかった以外は、実施例1と同様にして、1000バッチ分の永久磁石の試料を、それぞれ120個/バッチ作製した。すなわち、総計で120000個(=120個/バッチ×1000バッチ)の試料を作製した。そして、得られた永久磁石の試料について、実施例1と同様な試験を行った。結果を表2に示す。
【0084】
比較例2
第2保護膜を成膜する際の第2めっき浴として、以下に示すピロリン酸銅めっき浴を使用し、以下に示す条件にて、第2保護膜を成膜した以外は、実施例1と同様にして、1000バッチ分の永久磁石の試料を、それぞれ120個/バッチ作製した。すなわち、総計で120000個(=120個/バッチ×1000バッチ)の試料を作製した。ただし、実施例1と同様の理由により、実際に第2保護膜を形成した試料の数は、110個/バッチである。
【0085】
すなわち、比較例2においては、第2めっき浴として、ピロリン酸銅3水和物:85g/L、ピロリン酸カリウム:300g/L、アンモニア:3ml/L、光沢剤:0.3ml/Lを含有し、容量60Lのピロリン酸銅めっき浴を使用した。また、第2保護膜の成膜条件は、ペーハ(pH)を8.5〜9.5に調整し、温度55℃として、電流密度1A/dm、めっき時間3.0時間とした。
【0086】
そして、得られた永久磁石の試料について、実施例1と同様な試験を行った。結果を表2に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
評価
表1には、実施例1〜3、比較例1,2における第1保護膜および第2保護膜の成膜条件を示す。また、表2には、実施例1〜3、比較例1,2における第1保護膜および第2保護膜を成膜する際に使用しためっき浴および膜厚と、1バッチ目の試料の密着性および耐食性と、1000バッチ目の試料の密着性および耐食性を示す。なお、表2において、第2保護膜の厚みとしては、平面中心部の厚みを示した。すなわち、実施例1においては、平面中心部の厚みは平均15μmである。
【0090】
表2に示すように、ホスホン酸めっき浴を使用して第1保護膜を成膜し、第1保護膜を成膜しためっき浴とは別のホスホン酸めっき浴を使用して第2保護膜を成膜した実施例1〜3は、1バッチ目の試料だけでなく、1000バッチ目の試料においても、密着性および耐食性に優れていることが確認できた。
【0091】
一方、第1保護膜しか形成しなかった比較例1においては、1バッチ目の試料においては、密着性および耐食性は良好であったが、1000バッチ目の試料においては、密着性が低く、さらに、点錆やフクレが発生した試料が10%となり耐食性に劣る結果となった。また、第2保護膜を形成する際に、ホスホン酸めっき浴の代わりに、ピロリン酸めっき浴を使用した比較例2においても、1バッチ目の試料においては、密着性および耐食性は良好であったが、1000バッチ目の試料においては、点錆やフクレが発生した試料が13%となり耐食性に劣る結果となった。
【0092】
以上の結果より、本発明の磁石の製造方法によると、密着性に優れた保護膜が成膜され、かつ、耐食性および耐熱性に優れ、しかも、繰り返しめっき処理を行った場合でも、密着性の高い保護膜を安定して成膜することができることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含む第1めっき液と、
銅塩、リン酸塩、脂肪族ホスホン酸化合物、金属水酸化物を少なくとも含み、前記第1めっき液とは別の第2めっき液と、を準備する工程と、
希土類を含む磁石の表面に、前記第1めっき液を用いて電解めっきを行い、第1保護膜を成膜する工程と、
前記第1保護膜が形成された前記磁石の表面に、前記第2めっき液を用いて電解めっきを行い、前記第1保護膜とは別の第2保護膜を成膜する工程とを有することを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第1保護膜の厚みが、前記第2保護膜の厚みよりも薄くなるようにする請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第1保護膜の厚みを、7μm以下とする請求項1または2に記載の磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第1保護膜と、前記第2保護膜との合計の厚みを、前記磁石の表面中心部において、10〜25μmとする請求項1〜3のいずれかに記載の磁石の製造方法。
【請求項5】
前記磁石が、R(ただし、RはY元素または希土類元素)、FeおよびBを含むR−Fe−B系希土類磁石である請求項1〜4のいずれかに記載の磁石の製造方法。

【公開番号】特開2006−219696(P2006−219696A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31849(P2005−31849)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】