説明

磁石体

【課題】厚み方向に磁化された平板状の永久磁石11と非平板状の継鉄部12,13とを交互配置で一線状に並べたうえで永久磁石11は交互に向きを変えて斜めするとともに継鉄部は交互に磁極用と短絡用にした磁石体30について、磁極(N,S)から外部へ出る磁束の密度を高める。
【解決手段】磁極用継鉄部13を挟む永久磁石同士の開角θを鋭角にする。また、磁極用継鉄部13を挟む両隣の永久磁石の合計長(W×2)を、両永久磁石に亘る磁極長Lの1.42(約√2)倍以上にする。磁極用継鉄部13は横断面二等辺三角形が良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平板状の永久磁石と非平板状の継鉄部とを交互配置で一線状に並べた磁石体に関し、詳しくは、永久磁石が交互に向きを変えて斜めになっており、継鉄部が交互に磁極用と短絡用になっている磁石体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリニアモータでは(図7(a)〜(c)参照)、可動子にコイル(電機子)が用いられ、固定子には永久磁石を含んだ磁石体(永久磁石界磁)が用いられていた。この磁石体は、永久磁石とヨーク(継鉄)とを一直線状(一線状)に隣接配置して作られているが、何れの永久磁石も継鉄部も、横断面矩形の平板状か直方体状に形成されていて、一線方向・隣接配置方向に対して平行になる状態か直交する状態か何れかの状態で実装されていた。このような従来の磁石体では、永久磁石に形成容易な横断面矩形のものを用いているが、相対的に高価な永久磁石が相対的に安価な継鉄部より多量に使用されるため、原価低減が難しい。
【0003】
これに対し、永久磁石式回転モータでは、厚み方向に磁化された平板状の永久磁石を円筒状の継鉄に埋め込んだ回転子(永久磁石界磁,無端可動子)が開発されており、例えば初期の回転子10では(図7(d)及び特許文献1を参照)、平板状の永久磁石11と平板状の短絡用継鉄部12と平板状の永久磁石11と横断面扇状で非平板状の磁極用継鉄部13とを交互配置で一円(一線状)に並べた磁石体となっている。永久磁石11は表裏から出した磁束を総て継鉄部12,13に送り込むようになっており、短絡用継鉄部12は磁束を内部に収めて両隣の永久磁石11,11の橋渡しを行うもので、磁極用継鉄部13は両隣の永久磁石11,11から来た磁束を外部へ出すものであって交互にN磁極とS磁極になっている。
【0004】
この回転子10では、磁極用継鉄部13を挟む永久磁石11,11同士の開角θが直角であったが(図7(d)及び特許文献1を参照)、その後に開発された回転子20(永久磁石界磁,無端可動子)では、磁極用継鉄部13を挟む永久磁石11,11同士の開角θが鈍角に広がっている(図7(e)及び特許文献2〜4を参照)。このような回転子20は、平板状の永久磁石11と非平板状の継鉄部12,13とを交互配置で一円(一線状)に並べた磁石体であって、永久磁石11が交互に向きを変えて斜めになっており、継鉄部が交互に短絡用継鉄部12と磁極用継鉄部13になっている磁石体に該当する。
【0005】
そして、そのうちN磁極とS磁極とを含む部分として図7(e)の回転子20の下半分弱を特定すると、その部分の磁石体にあっては、厚み方向に磁化された平板状の第1永久磁石11(aa)と、強磁性体からなる第1磁極用継鉄部13(N)と、厚み方向に磁化された平板状の第2永久磁石11(bb)と、強磁性体からなる短絡用継鉄部12と、厚み方向に磁化された平板状の第3永久磁石11(cc)と、強磁性体からなる第2磁極用継鉄部13(S)と、厚み方向に磁化された平板状の第4永久磁石11(dd)とが、その順で図では左から下を経て右に至る半円(一線状)に隣接配置されており、前記第1永久磁石11(aa)と前記第2永久磁石11(bb)とが一端部を近接させ他端部を離隔させてN極面同士を斜めに向き合わせており、両N極面の間に装填された状態で前記第1磁極用継鉄部13(N)が外部へ磁束を出すN磁極になっており、前記第3永久磁石11(cc)と前記第4永久磁石11(dd)とが一端部を近接させ他端部を離隔させてS極面同士を斜めに向き合わせており、両S極面の間に装填された状態で前記第2磁極用継鉄部13(S)が外部へ磁束を出すS磁極になっており、前記短絡用継鉄部12が前記第2永久磁石11(bb)のS極面と前記第3永久磁石11(cc)のN極面との間に装填された状態で磁束を内部に収めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−9537号公報
【特許文献2】特開平10−51984号公報
【特許文献3】特開2009−112121号公報
【特許文献4】特開2009−284621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような磁石埋込形の磁石体では、継鉄に対する永久磁石の割合が小さいので、原価低減が進む。また、その磁束分布状態をみると、隣の永久磁石から磁極用継鉄部に入る磁束の本数と磁極用継鉄部の磁極面から外部へ出る磁束の本数とがほぼ等しいので、磁極用継鉄部の磁極面の磁束密度と永久磁石の極面の磁束密度との比が、磁極用継鉄部に対する永久磁石の隣接面積と磁極用継鉄部の磁極面積との比、横断面について言い換えれば磁極用継鉄部を挟む両隣の永久磁石の合計長と両永久磁石に亘る磁極長との比で決まるところ、上述したように永久磁石同士の開角が直角か鈍角であることや、磁極用継鉄部の横断面形状が三角形でなく扇形であることから、その比は1.42(約√2)未満にとどまっていた。固定子と回転子とのエアギャップを狭くできる永久磁石式回転モータにおける従来の磁石体では、永久磁石から出た磁束を磁極に向けて絞り込む磁極用継鉄部の磁束収斂能が1.42倍より小さくて足り、それが1以下になる鈍角を推奨するものもある。
【0008】
ところで、リニアモータについても、低コスト化を推進するには、永久磁石界磁を磁石埋込形に類似した磁石体に改造するのが良かろうと考えられる。すなわち、N磁極とS磁極とが交互に並んだ直線状の磁石体を作る際にも、上述した従来品のように永久磁石にも継鉄部にも横断面矩形のものを用いるのでなく、厚み方向に磁化された平板状の永久磁石と非平板状の継鉄部とを交互配置で一直線状(一線状)に並べたうえで、永久磁石は交互に向きを変えて斜めにするとともに、継鉄部が交互に磁極用と短絡用になるよう磁極用継鉄部は同極性の永久磁石面で挟み短絡用継鉄部は異極性の永久磁石面で挟むのである。これにより、永久磁石式回転モータの回転子のように、継鉄部の割合が上がって永久磁石の割合が下がるので原価が低下すると期待される。
【0009】
しかしながら、鉄道のリニアモータカー等に用いられるリニアモータについては、エアギャップが常に一定に維持される永久磁石式回転モータと異なり、上述したように永久磁石界磁を固定子とし電機子を可動子とした場合であれ、逆に永久磁石界磁を可動子とし電機子を固定子とした場合であれ、列車の浮上状態や走行状態に応じて固定子と可動子とのエアギャップが変動するので、固定子と可動子との不所望な接触を防止するために、エアギャップを広くしておく必要がある。そして、そのためには、エアギャップにおける磁束密度(以下、エアギャップ磁束密度)を高めることが必要であり、永久磁石界磁用の磁石体については、磁極(界磁極)から外部へ出る磁束の密度を高めることが要請される。
【0010】
また、モータの推力やトルクを高めるには電機子巻線起磁力を強めるのが直截的であるが、電機子巻線での銅損を軽減して高効率化を追求するには、電機子巻線起磁力の影響すなわち電機子反作用を極力小さくすることが必要であり、そのためにも、エアギャップを広くしておく必要があり、この観点からも、永久磁石界磁用の磁石体の磁極の磁束密度を高めることが求められる。
そこで、平板状の永久磁石と非平板状の継鉄部とを交互配置で一線状に並べた磁石体について磁極の磁束密度を高めることが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁石体は、このような課題を解決するために創案されたものであるが、次のような基本構成を備えていることを前提として、改良を加えたものである。
即ち、本発明の磁石体は、厚み方向に磁化された平板状の第1永久磁石と、強磁性体からなる第1磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第2永久磁石と、強磁性体からなる短絡用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第3永久磁石と、強磁性体からなる第2磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第4永久磁石とが、その順で一線状に隣接配置されており、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてN極面同士を斜めに向き合わせており、両N極面の間に装填された状態で前記第1磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すN磁極になっており、前記第3永久磁石と前記第4永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてS極面同士を斜めに向き合わせており、両S極面の間に装填された状態で前記第2磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すS磁極になっており、前記短絡用継鉄部が前記第2永久磁石のS極面と前記第3永久磁石のN極面との間に装填された状態で磁束を内部に収めるようになっている、ことを前提としている。なお、以下の記述では、本発明の特徴を規定するに際し、解決手段1,3は開角で規定し、解決手段2,4は磁極長比で規定しているが、本質的な相違ではない。
【0012】
すなわち、本発明の磁石体は(解決手段1)、上述した前提としての基本構成を備えた磁石体において、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石との開角および前記第3永久磁石と前記第4永久磁石との開角が何れも鋭角になっていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の磁石体は(解決手段2)、上述した前提としての基本構成を備えた磁石体において、前記第1永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さと前記第2永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さとの合計長が、前記第1磁極用継鉄部の前記N磁極について前記第1永久磁石の離隔側の端部と前記第2永久磁石の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっており、且つ、前記第3永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さと前記第4永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さとの合計長が、前記第2磁極用継鉄部の前記S磁極について前記第3永久磁石の離隔側の端部と前記第4永久磁石の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっている、ことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の磁石体は(解決手段3)、上記解決手段1の磁石体であって、前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に代えて非磁性体からなる端部材が設けられ、前記第2永久磁石および前記第3永久磁石のうち前記端部材に近接しているものと前記端部材との開角が直角の半分未満になっていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の磁石体は(解決手段4)、上記解決手段2の磁石体であって、前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に代えて非磁性体からなる端部材が設けられ、前記第2永久磁石および前記第3永久磁石のうち前記端部材に近接している方の永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さが、前記第1磁極用継鉄部および前記第2磁極用継鉄部のうち何れか前記端部材に隣接しているものの磁極について前記永久磁石の離隔側の端部と前記端部材の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっている、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の磁石体は(解決手段5)、上記解決手段1〜2の磁石体であって、強磁性体からなる迂回中間部と迂回端部とを連ねた迂回用継鉄部が設けられ、前記迂回端部は、前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に対して一線状の隣接配置を延長する形で隣接配置されていて、その隣接している永久磁石から来た磁束を内部に収めて前記迂回中間部へ導くようになっており、前記迂回中間部は、前記N磁極および前記S磁極と異なる所に配置されていて、前記迂回端部から来た磁束を内部に収めて前記N磁極および前記S磁極を迂回させるようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明の磁石体にあっては(解決手段1)、永久磁石同士の開角が従来品では直角か鈍角であったのに対し、開角を鋭角にまで狭めたことにより、永久磁石から出た磁束を磁極に向けて絞り込む磁極用継鉄部の磁束収斂能が従来よりも向上する。
したがって、この発明によれば、平板状の永久磁石と非平板状の継鉄部とを交互配置で一線状に並べた磁石体であって磁極の磁束密度が高いものを実現することができる。
【0018】
また、本発明の磁石体にあっては(解決手段2)、永久磁石の極長と磁極用継鉄部の磁極長との比が従来品では1.42(約√2)未満であったのに対し、磁極長比を1.42以上にまで大きくしたことにより、永久磁石から出た磁束を磁極に向けて絞り込む磁極用継鉄部の磁束収斂能が従来よりも向上する。
したがって、この発明によれば、平板状の永久磁石と非平板状の継鉄部とを交互配置で一線状に並べた磁石体であって磁極の磁束密度が高いものを実現することができる。
【0019】
さらに、本発明の磁石体にあっては(解決手段3)、最も端の永久磁石のところに非磁性体を配置したことにより有端化されるが、その最端のところでは、永久磁石が片方だけになったことに対応して、開角を直角の半分未満すなわち鋭角の半分にまで狭めたことにより、その最端のところでも、永久磁石から出た磁束を磁極に向けて絞り込む磁極用継鉄部の磁束収斂能が従来よりも向上する。
【0020】
また、本発明の磁石体にあっては(解決手段4)、最も端の永久磁石のところに非磁性体を配置したことにより全体が有端化され、それに伴って、その最端のところでは、永久磁石が片方だけになるが、それだけでも磁極長比が1.42以上になるようにしたことにより、その最端のところでも、永久磁石から出た磁束を磁極に向けて絞り込む磁極用継鉄部の磁束収斂能が従来より向上する。
【0021】
また、本発明の磁石体にあっては(解決手段5)、迂回用継鉄部を設けたことにより磁路が局所で閉じられて完結するので、単体で短い有端の磁石体として使用することも、複数多数を連ねて長い有端の磁石体にすることも、さらにはその両端を繋いで無端化することもできる。しかも、単体で短い有端の磁石体として使用する場合は何時でも、複数多数を連ねて長い磁石体にする場合は連結部で同一極性の磁極が隣り合うように連ねることで、各磁極から出た磁束が両隣の磁極へ分かれることなく両隣の磁極のうち極性の異なる方へ纏まって向かうので、磁極面から出た磁束がより遠くまで届くという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1について、磁石体の構造を示し、(a)が正面図、(b)がBB矢視の横断平面図、(c)が磁束分布図である。
【図2】本発明の実施例2について、磁石体の構造を示し、(a)が横断平面図と端部拡大図、(b)が磁束分布図である。
【図3】本発明の実施例3について、磁石体の構造を示し、(a)が正面図、(b)が横断平面図、(c)の磁束分布図である。
【図4】本発明の実施例4について、磁石体の構造を示す横断平面図と端部拡大図である。
【図5】その横断平面図と端部拡大図に係る磁束分布図である。
【図6】本発明の実施例5について、磁石体を可動子とするリニアモータの構造を示し、(a)が要部の横断平面図、(b)が磁束分布図である。
【図7】(a)〜(b)はそれぞれ従来のリニアモータの磁石配置例であり、(d)〜(e)はそれぞれ従来の永久磁石埋込型モータの回転子の磁石配置例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
このような本発明の磁石体について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜5により説明する。
図1に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図2に示した実施例2や,図3に示した実施例3は、上述した解決手段3〜4(出願当初の請求項3〜4)を具現化したものであり、図4〜5に示した実施例4は、上述した解決手段5(出願当初の請求項5)を具現化したものであり、図6に示した実施例5は、リニアモータへの適用例である。
【0024】
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
また、永久磁石や継鉄部に関する素材や製法なども、公知のもので足りるので、説明を割愛する。
なお、いずれの磁束分布図でも、磁束線を二点鎖線でイメージ表示している。
【実施例1】
【0025】
本発明の磁石体の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が磁石体30の正面図、(b)がBB矢視の横断平面図である。
この磁石体30が既述した従来の回転子20と相違する主な点は、永久磁石と継鉄部との交互配置が円弧でなく一直線(一線状)になっている点と、開角θが鋭角になっている点と、磁極用継鉄部13を挟む両隣の永久磁石の合計長(W×2)が両永久磁石に亘る磁極長Lの1.42(約√2)倍以上になっている点と、磁極用継鉄部13の横断面形状が二等辺三角形になっている点と、短絡用継鉄部12の横断面形状が二等辺三角形に近い台形になっている点と、短絡用継鉄部12も磁極用継鉄部13も永久磁石11を囲まなくなったので非磁性体製の保持部材31で奥行Dの両側から挟んで固定している点である。
【0026】
詳述すると、永久磁石11も短絡用継鉄部12も磁極用継鉄部13も奥行Dが同じになっており(なお、図1(a)では高さで示している)、更に横断面が奥行D方向のどこでも同じになっている。そこで、その横断面を見ると(図1(b)参照)、永久磁石11は、何れも同じ長方形になっていて、総てについて厚さHも長さWも等しいものであり、一線方向・隣接配置方向において一方(図では左方)から他方(図では右方)へ並び順に説明すると、先ず、第1永久磁石11(aa)は、一線方向との直交面から時計回りにθ/2だけ傾斜してS極面を一方側(左方)に向けN極面を他方側(右方)に向けている。
【0027】
その次の第2永久磁石11(bb)は、一線方向との直交面から反時計回りにθ/2だけ傾斜してN極面を一方側(左方)に向けS極面を他方側(右方)に向けている。更にその次の第3永久磁石11(cc)は、第1永久磁石11(aa)と同様に一線方向との直交面から時計回りにθ/2だけ傾斜しているが、第1永久磁石11(aa)と異なりN極面を一方側(左方)に向けS極面を他方側(右方)に向けている。最後の第4永久磁石11(dd)は、第2永久磁石11(bb)と同様に一線方向との直交面から反時計回りにθ/2だけ傾斜しているが、第2永久磁石11(bb)と異なりS極面を一方側(左方)に向けN極面を他方側(右方)に向けている。
【0028】
このような配置では、第1永久磁石11(aa)と第2永久磁石11(bb)とが、両者間の近接点32のところで両者の一端部同士を近接させ、他端部を磁極長Lだけ離隔させて、N極面同士を開角θで斜めに向き合わせている。また、第3永久磁石11(cc)と最後の第4永久磁石11(dd)も、両者間の近接点32のところで両者の一端部同士を近接させ、他端部を磁極長Lだけ離隔させているが、こちらはS極面同士を開角θで斜めに向き合わせている。何れの近接点32でも、近接状態は、密接が望ましいが、磁束漏れが無視できる程度であれば多少離れていても良い。さらに、第2永久磁石11(bb)と第3永久磁石11(cc)は、S極面とN極面とを斜めに向き合わせている。短絡用継鉄部12は、そのような第2永久磁石11(bb)のS極面と第3永久磁石11(cc)のN極面とに挟まれて両極面の間にピッタリ収まっているので、両極面に亘る磁束を外部に漏らさないよう継鉄内部に収めるものとなっている。
【0029】
第1磁極用継鉄部13(N)は、第1永久磁石11(aa)と第2永久磁石11(bb)とで挟まれて両磁石の間にピッタリ収まる横断面二等辺三角形に形成されていて、近接点32のところの頂角が開角θと同じになっており、そこを挟む両辺の長さが永久磁石長Wと同じになっており、対辺(図1(b)では下辺)の長さが磁極長Lになっている。この対辺のところは、奥行も考慮すれば露出面であり、両隣の永久磁石11のN極面から入ってきた磁束が外部へ出て行くN磁極(界磁極)となっている。また、第2磁極用継鉄部13(S)は、第3永久磁石11(cc)と第4永久磁石11(dd)とで挟まれて両磁石の間にピッタリ収まる横断面二等辺三角形に形成されていて、第1磁極用継鉄部13(N)と同じく、近接点32のところの頂角が開角θと同じになっており、そこを挟む両辺の長さが永久磁石長Wと同じになっており、対辺の長さが磁極長Lになっているが、第1磁極用継鉄部13(N)と異なり、対辺のところは、両隣の永久磁石11のS極面から入ってきた磁束が外部へ出て行くS磁極(界磁極)となっている。
【0030】
そして、従来品との明確な相違点として、第1永久磁石11(aa)と第2永久磁石11(bb)との開角θが直角より小さな鋭角になっており、同じく第3永久磁石11(cc)と第4永久磁石11(dd)との開角θも直角より小さな鋭角になっている。また、第1永久磁石11(aa)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWと第2永久磁石11(bb)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWとの合計長(W×2)が、第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極について第1永久磁石11(aa)の離隔側の端部と第2永久磁石11(bb)の離隔側の端部とに亘る磁極長Lの1.42倍以上になっている。さらに、第3永久磁石11(cc)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWと第4永久磁石11(dd)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWとの合計長(W×2)が、第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極について第3永久磁石11(cc)の離隔側の端部と第4永久磁石11(dd)の離隔側の端部とに亘る磁極長Lの1.42倍以上になっている。
【0031】
この実施例1の磁石体30について、磁気回路の状態を、図面を引用して説明する。図1(c)は、磁石体30の横断平面図に係る磁束分布図である。
【0032】
磁石体30では、第2永久磁石11(bb)のN極面から第1磁極用継鉄部13(N)に入った磁束が、その磁極用継鉄部13のN磁極面から外部に出て、右方の第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極面に至り、そこから第2磁極用継鉄部13(S)に入って第3永久磁石11(cc)にそのS極面から入り、それから第3永久磁石11(cc)と短絡用継鉄部12と第2永久磁石11(bb)の内部を通って元の所に戻り、一巡する。
その際、外部に出るのはN磁極からS磁極へ至る部分の経路だけである。
【0033】
また、第1永久磁石11(aa)のN極面から第1磁極用継鉄部13(N)に入った磁束は、その磁極用継鉄部13のN磁極面から外部に出て、左方へ行ってから上述したのと同様の或いは適宜な別態様の磁路を経て元の所に戻り、一巡する。さらに、第4永久磁石11(dd)のS極面から第2磁極用継鉄部13(S)に入った磁束は、その磁極用継鉄部13のS磁極面から外部に出て、右方へ行ってから上述したのと同様の或いは適宜な別態様の磁路を経て元の所に戻り、これも一巡する。
【0034】
そして、このような磁気回路にあっては、磁極用継鉄部13の横断面が二等辺三角形であって双方の斜辺から入って来る磁束の極性が同じなので、左の斜辺から入って来た磁束は下方へ方向転換して二等辺三角形の底辺の左半分から抜け出し、右の斜辺から入って来た磁束は下方へ方向転換して二等辺三角形の底辺の右半分から抜け出す。そのため、永久磁石11の磁束密度が磁極用継鉄部13の磁極(界磁極)では磁極長比の(W×2/L)倍に高まるが、磁極用継鉄部13を挟む永久磁石11同士の開角θが鋭角なので、1.42倍以上に高まることとなり、例えば、磁極用継鉄部13の横断面が正三角形であれば、開角θが60゜で、磁極長比が2なので、磁束密度も2倍に高まる。
【0035】
また、磁極用継鉄部13の内部では、磁束分布がほぼ均一になり、磁束密度がどこでも同程度になって、各部が同様に磁化されるので、継鉄が磁化に無駄なく利用される。すなわち、磁化状態について、一部の継鉄がほとんど磁化されないうちに他の部分の継鉄が磁気飽和してしまう、といったことが発生しにくい。なお、磁極用継鉄部13の形状は、横断面で正三角形や二等辺三角形になっているのが磁気的性能ばかりか製造容易性等の観点からも好ましいが、多少であれば辺長の異なる三角形になっていても良く、角部や隅部が面取りされていても良く、磁極面が少しなら曲がっていても良い。
【実施例2】
【0036】
本発明の磁石体の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図2(a)は、磁石体40の横断平面図と端部拡大図である。
【0037】
この磁石体40が上述した実施例1の磁石体30と相違するのは、磁石体30を一直線方向(一線方向・隣接配置方向・図では左右方向)に繰り返し配設して長物になった点と、両端にそれぞれ端部材41を配設して有端の磁石体になった点である。
磁石体40の中間部は、上述した磁石体30と同じなので、繰り返しとなる説明は割愛する。磁石体40の左端部は裏から見ると右端部と同じ構造なので、左端部の説明も割愛して、以下、磁石体40の右端部の構造を説明する。
【0038】
磁石体40の右端部が上述の磁石体30と相違するのは、非磁性体からなる平板状の端部材41(dd)が第4永久磁石11(dd)の代わりに導入された点と、端部材41の向きが一直線方向に直交する状態になっている点と、それに伴って第2磁極用継鉄部13(S)の横断面形状が二等辺三角形を縦に二分した左方の直角三角形になっている点である。そして、この磁石体40では、第3永久磁石11(cc)と端部材41(dd)が、第3永久磁石11(cc)と第4永久磁石11(dd)との近接点32だったところで両者の一端部同士を近接させるとともに、他端部を磁極長M=L/2だけ離隔させており、さらに、S極面と非磁化面とを開角φ=θ/2で斜めに向き合わせている。
【0039】
また、片割れ状態になった第2磁極用継鉄部13(S)は、第3永久磁石11(cc)のS極面と端部材41(dd)の非磁化面とで挟まれて両者の間にピッタリ収まる横断面直角三角形に形成されていて、近接点のところの頂角が開角φ=θ/2と同じで直角の半分未満になっており、対辺(図では下辺)の長さが磁極長Mになっているが、この対辺は、第3永久磁石11(cc)のS極面から入ってきた磁束が外部へ出て行くS磁極(界磁極)となっている。さらに、磁極長Mは磁極長Lの半分なので、端部材41(dd)に近接している方の永久磁石である第3永久磁石11(cc)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWが、端部材41(dd)に隣接している第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極について永久磁石11の離隔側の端部と端部材41の離隔側の端部とに亘る磁極長Mの1.42倍以上になっている。
【0040】
この実施例2の磁石体40について、磁気回路の状態を、図面を引用して説明する。図2(b)は、磁石体40の横断平面図と端部拡大図に係る磁束分布図である。
この場合、第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極から外部へ出た磁束が右端の端部材41(dd)によって、そこから右方への磁束の展開が阻止される。
【0041】
そのため、繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、磁石体30の磁気回路と同様、第1磁極用継鉄部13(N)のN極面から外部に出た磁束が、右方の第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極面に至り、そこから第2磁極用継鉄部13(S)に入って第3永久磁石11(cc)と短絡用継鉄部12と第2永久磁石11(bb)と第1磁極用継鉄部13(N)を経て一巡する。また、第2磁極用継鉄部13(S)における磁束分布状態が第1磁極用継鉄部13(N)の半分の鏡像状態になるので、第2磁極用継鉄部13(S)についても第1磁極用継鉄部13(N)と同じく磁極(界磁極)の磁束密度が永久磁石11の磁束密度に比べて1.42倍以上に高まる。
【実施例3】
【0042】
本発明の磁石体の実施例3について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図3は、(a)が磁石体50の正面図、(b)が横断平面図である。
【0043】
この磁石体50が上述した実施例2の磁石体40と相違するのは、非磁性体からなる平板状の端部材41(aa)による置き換えが第1永久磁石11(aa)のところにもなされた点である。右端の端部材41(dd)と同様、左端の端部材41も、その向きが一直線方向に直交する状態になっている。また、第1磁極用継鉄部13(N)は、第2磁極用継鉄部13(S)とほぼ同様だがそれとは鏡像状態で、横断面形状が二等辺三角形を縦に二分した右方の直角三角形になっている。そして、この磁石体50では、第2永久磁石11(bb)が、第1永久磁石11(aa)との近接点32だったところで端部材41(aa)と一端部同士を近接させるとともに、他端部を磁極長M=L/2だけ離隔させており、さらに、S極面を非磁化面と開角φ=θ/2で斜めに向き合わせている。
【0044】
また、片割れ状態になった第1磁極用継鉄部13(N)は、第2永久磁石11(bb)のN極面と端部材41(aa)の非磁化面とで挟まれて両者の間にピッタリ収まる横断面直角三角形に形成されていて、近接点のところの頂角が開角φ=θ/2と同じで直角の半分未満になっており、対辺(図では下辺)の長さが磁極長Mになっているが、この対辺は、第2永久磁石11(bb)のN極面から入ってきた磁束が外部へ出て行くN磁極(界磁極)となっている。さらに、磁極長Mは磁極長Lの半分なので、端部材41(aa)に近接している方の永久磁石である第2永久磁石11(bb)に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さWが、端部材41(aa)に隣接している第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極について永久磁石11の離隔側の端部と端部材41の離隔側の端部とに亘る磁極長Mの1.42倍以上になっている。
【0045】
この実施例3の磁石体50について、磁気回路の状態を、図面を引用して説明する。図3(c)は、磁石体50の横断平面図に係る磁束分布図である。
【0046】
磁石体50は、磁石体40を左方から削り落として最も短くできる限界のものであり、この場合、右半分に磁石体40の構造をそのまま引き継いだ右端部については上述のように第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極から外部へ出た磁束が右端の端部材41(dd)によってそこから右方への磁束の展開が阻止されるとともに、端部材41(aa)を導入した左端部については、第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極から外部へ出た磁束が、左端の端部材41(aa)によって、そこから左方への磁束の展開が阻止される。
【0047】
そのため、ここでも、上述した磁石体30,40の磁気回路と同様、第1磁極用継鉄部13(N)のN極面から外部に出た磁束が、右方の第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極面に至り、そこから第2磁極用継鉄部13(S)に入って第3永久磁石11(cc)と短絡用継鉄部12と第2永久磁石11(bb)と第1磁極用継鉄部13(N)を経て一巡する。また、左方の第1磁極用継鉄部13(N)における磁束分布状態が上述した右方の第2磁極用継鉄部13(S)におけるそれの鏡像状態になるので、第1磁極用継鉄部13(N)についても第2磁極用継鉄部13(S)と同じく磁極(界磁極)の磁束密度が永久磁石11の磁束密度に比べて1.42倍以上に高まる。
【実施例4】
【0048】
本発明の磁石体の実施例4について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図4は、磁石体60の横断平面図と端部拡大図である。
この磁石体60は、端部材61と閉路ユニット62(正)と閉路ユニット62(逆)と端部材61とを左から右へその順で一直線状(一線状)に隣接配置したものである。端部材61は、何れも、上述の端部材41と同様に磁石体60の有端化のために設けられており、平板状の非磁性体からなり、一直線方向に対して直交する状態で配置されている。
【0049】
閉路ユニット62(正)と閉路ユニット62(逆)は同一構造のものであって違いは配置に際して左右反転させただけのことなので、以下の構造説明では、閉路ユニット62(正)を閉路ユニット62として説明する。
閉路ユニット62が上述した実施例1の磁石体30と相違するのは、磁石体30相当部分に後背側から迂回用継鉄部63が装着されている点である。なお、後背側はN磁極やS磁極と磁気的にも機械的にも最も干渉の少ないところなので迂回用継鉄部63の装着に好適であるが、干渉が許容範囲内であれば、磁石体30相当部分に対して上側や下側あるいは斜め方向など他の方向から迂回用継鉄部63を装着するようになっていても良い。
【0050】
迂回用継鉄部63は、強磁性体からなる一体物であり、後背側の迂回中間部64と左方の迂回端部65と中央の直接短絡部66と右方の迂回端部65とを具備している。そのうち直接短絡部66は、短絡用継鉄部12と同じ形状であって、それと同じく第2永久磁石11(bb)と第3永久磁石11(cc)との間で両者に挟まれている。左方の迂回端部65は、短絡用継鉄部12を左右に2分割した右方の片割れと同じ形状であって、第1永久磁石11(aa)に対して左側から隣接配置されて一線状の隣接配置を左方へ延長するものとなっている。右方の迂回端部65は、短絡用継鉄部12を左右に2分割した左方の片割れと同じ形状であって、第4永久磁石11(dd)に対して右側から隣接配置されて一線状の隣接配置を右方へ延長するものとなっている。迂回中間部64は、左右に長いもので、上述した各部65,66,65をその後背側で連結している。なお、直接短絡部66は、ここでは一体化しているが、分割して別体にしても良く、そうすれば上述した磁石体30における短絡用継鉄部12になる。
【0051】
この実施例4の磁石体60について、磁気回路の状態を、図面を引用して説明する。図5は、磁石体60の横断平面図と端部拡大図に係る磁束分布図である。
【0052】
閉路ユニット62(正)と閉路ユニット62(逆)は磁気回路の状態も左右反転したものになるので、閉路ユニット62(正)に係る磁気回路の状態を詳述すると(端部拡大図を参照)、第2永久磁石11(bb)のN極面から第1磁極用継鉄部13(N)に入った磁束は、その磁極用継鉄部13のN磁極面の右半分から外部に出て、右方の第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極面の左半分に至り、そこから第2磁極用継鉄部13(S)に入って第3永久磁石11(cc)にそのS極面から入り、それから第3永久磁石11(cc)と短絡用継鉄部12相当の直接短絡部66と第2永久磁石11(bb)の内部を通って元の所に戻り、一巡する。その際、外部に出るのはN磁極からS磁極へ至る部分の経路だけである。そして、この一巡する磁路は、磁石体30について上述したのと同様である。
【0053】
これに対し、第1永久磁石11(aa)のN極面から第1磁極用継鉄部13(N)に入った磁束は、その磁極用継鉄部13のN磁極面から外部に出てから、上述した磁石体30とは異なる磁路を通る。すなわち、N磁極面の左半分から外部に出た磁束も、左方でなく右方へ行って、右方の第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極面の右半分に至り、そこから第2磁極用継鉄部13(S)に入る。それから、第4永久磁石11(dd)にそのS極面から入って第4永久磁石11(dd)と右方の迂回端部65と後背側の迂回中間部64と左方の迂回端部65と第1永久磁石11(aa)の内部を通って元の所に戻り、一巡する。このときも外部に出るのはN磁極からS磁極へ至る部分の経路だけであるが、その一巡する経路は、上述した磁石体30同様の経路の外側を辿ることとなる。
【0054】
このように、左右の迂回端部65が何れも隣接している永久磁石11から来た磁束を内部に収めて迂回中間部64へ導くとともに、第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極の位置とも第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極の位置とも異なる後背側に配置された迂回中間部64が、迂回端部65から来た磁束を内部に収めてその磁束に第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極も第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極も迂回させるようになっているので、第1磁極用継鉄部13(N)のN磁極から外部に出た磁束は、そのほどんどが、第2磁極用継鉄部13(S)のS磁極に到達する。しかも、各磁極(界磁極)の磁束密度は磁石体30と同様に従来より高密になっているので、磁束が磁極面から従来より遠くまで到達する。
【0055】
そして、複数・多数の閉路ユニット62を一方向に連ねて長い磁石体を作るときには、磁石体60のように閉路ユニット62(正)と閉路ユニット62(逆)とを交互に並べれば、隣のユニットからの磁気干渉が防止されるので、任意の長さの磁石体が容易に作れるうえ、閉路ユニット62単位で簡単に交換できるので、修理や保守も遣りやすい。しかも、永久磁石11の形状や配置は磁石体30,40と同じなのに、N磁極とS磁極のサイズとピッチは磁石体30,40の2倍になり、外部への磁束の到達距離も磁石体30,40のそれより増して遠くなる。
【実施例5】
【0056】
本発明の磁石体の実施例5について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図6(a)は、上述した実施例2の磁石体40を可動子とするリニアモータ40+70の要部の横断平面図である。
【0057】
このリニアモータ40+70は、有端可動子の磁石体40に加えて固定子70も備えたものであり、磁石体40と固定子70は、鉄道の列車と線路と分かれて並列状態・並走状態で設置されて、所定の離隔距離で磁極面を対向させている。
このリニアモータ40+70では、磁石体40が永久磁石界磁として列車に搭載され、固定子70が電機子として軌道に敷設されるが、逆でも良い。磁石体40も固定子70もそれぞれ必要なだけ一線方向に連ねて設置されるが、図示したのは繰り返しの基本単位となる磁石体30一個分だけである。また、磁石体40におけるポールピッチτは、N磁極とS磁極それぞれの中心位置に相当する近接点32,32の距離で図示した。
【0058】
固定子70は、三相電流で駆動されるU相コイルとV相コイルとW相コイルとを、その順で繰り返し隣接状態で並べて、幅J×奥行Dの長方形を断面形状とする長い角柱状の強磁性体に、嵌め込んだものである。U相コイルとV相コイルとW相コイルとを連ねた長さが磁石体30の長さと同じになっており、各コイルの奥行Dは磁石体40(30)と同じでありコイル断面は縦E×横Fの長方形である。固定子70のコイル嵌入面と磁石体40(30)の磁極面とはギャップ長Gのエアギャップを挟んで対向している。
【0059】
この実施例5のリニアモータ40+70について、磁気回路の状態を、図面を引用して説明する。図6(b)は、リニアモータ40+70の横断平面図に係る磁束分布図である。磁石体40(30)における第1永久磁石11(aa)から第4永久磁石11(dd)までの部分と、固定子70においてU相コイルとV相コイルとW相コイルとを連ねた部分とが真向かいで対向しているときが、推進力の最大になるときであるが、その状態でも、磁石体40(30)の磁極用継鉄部13における磁束分布に生じる濃淡差・密度の高低差すなわち磁束の乱れは小さいので、磁極用継鉄部13は、全域が適度に磁化されて、推進力の発生に無駄なく寄与する。
【0060】
数値例を挙げると、永久磁石11の保持力Hcを915kA/mとし、継鉄部にJFE50JN800を用い、ギャップ長Gを12mmとし、磁極長Lを160mmとし、ポールピッチτを240mmとし、永久磁石長Wを160mmとし、永久磁石厚さHを30mmとし、奥行Dを200mmとすると、エアギャップ磁束密度は約1.15Tになる。また、そこから永久磁石長Wを300mmに変えると、エアギャップ磁束密度は約1.6Tになる。さらに、そこから永久磁石厚さHを40mmに変えると、エアギャップ磁束密度は約1.8Tになる。これらのエアギャップ磁束密度は、希土類永久磁石の残留磁束密度の約1.15Tと同程度かそれを超えるものであり、従来のモータにおけるエアギャップ磁束密度(例えば、特許文献3の段落0027及び図9によれば、永久磁石の残留磁束密度が1.1〜15Tのとき、エアギャップ磁束密度の最大値が約0.7T)より可成り大きい。また、ギャップ長Gの12mmは鉄道への応用に適うものである。
【0061】
さらに、固定子70の継鉄幅Jを100mmとし、固定子70の各コイルの断面の縦Eを60mmで横Fを30mmとし、各相コイルの巻数を60回として、電流30Aを流すと、最大推力が1極当たりで1680Nという大きなものになるうえ、吸引力も質量117kgの磁石体40の自重をはるかに超える30989N(3160kg重)になるので、磁石体40を列車に搭載したリニアモータカーを無理なく実現することができる。
【0062】
[その他]
上記実施例では、磁極用継鉄部の開角と短絡用継鉄部の開角とが同じで永久磁石と継鉄部との隣接配置が一直線状になっていたが、永久磁石と継鉄部との隣接配置は、曲線状でも良く、例えば磁極用継鉄部の開角と短絡用継鉄部の開角とに差をつけることで容易に曲げることができる。
上記実施例では、永久磁石と継鉄部の連なりばかりかN磁極とS磁極の連なりも一直線状になっていたが、それらの連なりは、両方とも曲線状になっていても良く、片方だけ直線状で他方が曲線状でも良い。例えば、永久磁石と継鉄部の連なりが直線状であって、N磁極とS磁極の連なりが螺旋状になっているような場合、軸回転しながら昇降する広告表示筒の駆動などに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の磁石体は、鉄道用リニアモータの高性能化に寄与することを主目的に開発されたものであるが、適用がリニアモータに限定されるものでなく、同じく鉄道分野で使用されている磁気トレッドルや、上述したような他分野で用いられる昇降部材の駆動など、他の物にも適用することができる。
【0064】
なお、磁気トレッドルは(吉村寛・吉越三郎著「信号」17版P.490〜491参照)、磁気インパルス発生器とも呼ばれ、主磁極とこれと逆方向の磁束を生ずる副磁石(いずれも永久磁石)およびその合成された磁束の圏内にある有極リレーから成っており、平常は主磁極によって有極リレーが一定方向に動作しているが、列車の車軸が入るとそのフランジ(輪縁)で主磁極の分路を作り、リレーに分岐する主磁極の磁束は弱められ、反対方向の副磁極の磁束によって有極リレーは転極し電気接点を開閉するものである。車軸が動作範囲を離れると、主磁極,副磁極の磁束は動作関係も復旧するので、有極リレーの接点も現状に戻り復旧するようになっている。
【0065】
列車の走行するレールの脇に磁気トレッドルを設置しておくことで、列車の去来を検知することが可能となる。磁気トレッドルは、上述したように列車の車軸(車輪)が通過する際に磁界が変化するのを利用してリレーを作動させるものなので、本願発明の磁石体を組み込むことにより、磁界の変化量が大きくなることから、レールとの距離を大きくできるとともに、検出量が大きいので検出し易くなる。
【符号の説明】
【0066】
10…回転子(無端可動子,磁石体)、
11…永久磁石、12…短絡用継鉄部(ヨーク)、
13…磁極用継鉄部(ヨーク)、20…回転子(無端可動子,磁石体)、
30…磁石体、31…保持部材、32…近接点、
40…磁石体、41…端部材、50…磁石体、60…磁石体、
61…端部材、62…閉路ユニット、63…迂回用継鉄部(ヨーク)、
64…迂回中間部、65…迂回端部、66…直接短絡部、70…固定子、
θ,φ…開角、L,M…磁極長、W…永久磁石長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に磁化された平板状の第1永久磁石と、強磁性体からなる第1磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第2永久磁石と、強磁性体からなる短絡用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第3永久磁石と、強磁性体からなる第2磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第4永久磁石とが、その順で一線状に隣接配置されており、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてN極面同士を斜めに向き合わせており、両N極面の間に装填された状態で前記第1磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すN磁極になっており、前記第3永久磁石と前記第4永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてS極面同士を斜めに向き合わせており、両S極面の間に装填された状態で前記第2磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すS磁極になっており、前記短絡用継鉄部が前記第2永久磁石のS極面と前記第3永久磁石のN極面との間に装填された状態で磁束を内部に収めるようになっている磁石体において、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石との開角および前記第3永久磁石と前記第4永久磁石との開角が何れも鋭角になっていることを特徴とする磁石体。
【請求項2】
厚み方向に磁化された平板状の第1永久磁石と、強磁性体からなる第1磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第2永久磁石と、強磁性体からなる短絡用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第3永久磁石と、強磁性体からなる第2磁極用継鉄部と、厚み方向に磁化された平板状の第4永久磁石とが、その順で一線状に隣接配置されており、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてN極面同士を斜めに向き合わせており、両N極面の間に装填された状態で前記第1磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すN磁極になっており、前記第3永久磁石と前記第4永久磁石とが一端部を近接させ他端部を離隔させてS極面同士を斜めに向き合わせており、両S極面の間に装填された状態で前記第2磁極用継鉄部が外部へ磁束を出すS磁極になっており、前記短絡用継鉄部が前記第2永久磁石のS極面と前記第3永久磁石のN極面との間に装填された状態で磁束を内部に収めるようになっている磁石体において、前記第1永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さと前記第2永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さとの合計長が、前記第1磁極用継鉄部の前記N磁極について前記第1永久磁石の離隔側の端部と前記第2永久磁石の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっており、且つ、前記第3永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さと前記第4永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さとの合計長が、前記第2磁極用継鉄部の前記S磁極について前記第3永久磁石の離隔側の端部と前記第4永久磁石の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっている、ことを特徴とする磁石体。
【請求項3】
前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に代えて非磁性体からなる端部材が設けられ、前記第2永久磁石および前記第3永久磁石のうち前記端部材に近接しているものと前記端部材との開角が直角の半分未満になっていることを特徴とする請求項1記載の磁石体。
【請求項4】
前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に代えて非磁性体からなる端部材が設けられ、前記第2永久磁石および前記第3永久磁石のうち前記端部材に近接している方の永久磁石に係る近接側の端部から離隔側の端部に至る長さが、前記第1磁極用継鉄部および前記第2磁極用継鉄部のうち何れか前記端部材に隣接しているものの磁極について前記永久磁石の離隔側の端部と前記端部材の離隔側の端部とに亘る磁極長の1.42倍以上になっている、ことを特徴とする請求項2記載の磁石体。
【請求項5】
強磁性体からなる迂回中間部と迂回端部とを連ねた迂回用継鉄部が設けられ、前記迂回端部は、前記第1永久磁石および前記第4永久磁石のうち何れか一方または双方に対して一線状の隣接配置を延長する形で隣接配置されていて、その隣接している永久磁石から来た磁束を内部に収めて前記迂回中間部へ導くようになっており、前記迂回中間部は、前記N磁極および前記S磁極と異なる所に配置されていて、前記迂回端部から来た磁束を内部に収めて前記N磁極および前記S磁極を迂回させるようになっている、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された磁石体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−151989(P2012−151989A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8317(P2011−8317)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】