説明

示差屈折率計

【課題】 位置や角度の調整が容易なシングルパス方式のブライス型示差屈折率計で、圧力や温度の変動により溶媒の屈折率が変化した場合にも、照射位置のシフトの影響を除くことが可能で、かつ不感帯が生じにくい示差屈折率計を提供すること。
【解決の手段】 フローセルの位置検出光センサ側に、フローセルに近接して凸レンズを、凸レンズの焦点位置に複数の分割された受光面からなる位置検出光センサをそれぞれ設置し、さらに、前記センサに照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅を、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭くすることで前記課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体クロマトグラフ等に用い、屈折率の変化に基づき物質濃度を測定する示差屈折率計に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの物質は溶媒に溶け込むと、溶媒の屈折率が変化する。そのため、液体クロマトグラフではカラムから溶出される成分の汎用的な検出器として、溶媒(参照液という)と、成分が溶けた溶媒(試料液という)の屈折率の差を測定する示差屈折率計がよく用いられる。示差屈折率計としては屈折率による反射光強度の変化を検出するフレネル型示差屈折率計と屈折角の変化を検出するブライス型示差屈折率計がよく知られている。
【0003】
ブライス型示差屈折率計では、石英ガラスなどの透明体の内部に光軸に対して傾いた斜板で仕切られた二本の直角三角形断面をもつ液体流路を形成したフローセルに、試料液と、参照液を流通させた状態で、フローセルに概ね平行光線を照射し、該平行光線の進行方向の角度変化の大きさから、試料成分によって生じた屈折率の差を求めることができる。ブライス型示差屈折率計には、フローセルへの光透過のさせ方により、1回透過させるシングルパス方式と、2回透過させるダブルパス方式(特許文献1)がある。
【0004】
従来からある、シングルパス方式のブライス型示差屈折計(100)を図1に示す。図1のうち、aは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率が等しいときの平行光線を模式的に示す平面図(上から見た図、以下同じ)、bは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率に差があるときの平行光線を模式的に示す平面図、cは各構成要素の配置の正面図(前から見た図、以下同じ)である。シングルパス方式のブライス型示差屈折計は光源(101)と位置検出光センサ(105)がフローセル(104)を挟んだ位置に配置され、かつ光源(101)、アパーチャ(103)、フローセル(104)、位置検出光センサ(105)が概ね直線状に配置される。そのため、試料液と参照液の屈折率が等しい時に平行光線を位置検出光センサ(105)の中央に当てるように各構成要素の位置や角度を調整することは比較的容易である。しかし、フローセル(104)を構成する透明体の屈折率と液体の屈折率とが異なると、フローセル(102)に入射した平行光線はフローセル(104)を通過した後、入射平行光線に対して平行移動する。このことにより、位置検出光センサ(105)上の照射位置がシフトし、照射位置が位置検出光センサ(105)の中央から外れてしまう。また、圧力や温度の変動により溶媒の屈折率が変化し、試料液と参照液の屈折率が同じだけ変化した時でも位置検出光センサ(105)の照射位置がシフトするため、ポンプの脈動の影響や温度変動の影響が大きく出てしまう。そのため、照射位置のシフトの影響を除くことを目的とした、示差屈折率計の改良が行なわれた。
【0005】
改良されたシングルパス方式のブライス型示差屈折計(200)の一例を図2に示す。図2のうち、aは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率が等しいときの透過光線を模式的に示す平面図、bは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率に差があるときの透過光線を模式的に示す平面図、cは各構成要素の配置の正面図である。光源(201)、アパーチャ(203)、フローセル(204)、凸レンズ(207)、位置検出光センサ(205)が概ね直線状に配置されており、さらに、凸レンズ(207)はフローセル(204)の位置検出光センサ(205)側にフローセル(204)に近接して配置されており、位置検出光センサ(205)は凸レンズ(207)の焦点位置に配置されている。
【0006】
改良されたシングルパス方式のブライス型示差屈折計(300)の別の一例を図3に示す。図3のうち、aは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率が等しいときの透過光線を模式的に示す平面図、bは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率に差があるときの透過光線を模式的に示す平面図、cは各構成要素の配置の正面図である。光源(301)、アパーチャ(303)、フローセル(304)、凸レンズ(307)、凹レンズ(308)、位置検出光センサ(305)が概ね直線状に配置されており、凸レンズ(307)はフローセル(304)の位置検出光センサ(305)側にフローセル(304)に近接して、凹レンズ(308)は凸レンズ(307)と位置検出光センサ(305)との間に、位置検出光センサ(205)は凸レンズ(307)と凹レンズ(308)の合成焦点位置に、それぞれ配置されている。
【0007】
図2及び3の構成を採用することにより、照射位置のシフトの問題を解消することができた。当該構成では、収差の小さいレンズを使用し、できるだけ厳密にレンズの焦点位置に位置検出光センサを配置するのが好ましい。しかしながら、収差の小さいレンズを使用した場合、位置検出光センサに照射される光の幅が位置検出光センサの有する素子間ギャップより細くなることがあるため、不感帯が生じる問題があった。また、位置検出光センサの中心が照射される光の位置から大きくずれた場合、一方の素子だけが照射されるので、照射位置が変わってもセンサ内各受光素子に照射される光量が変化しない問題もあった。
【0008】
従来からある、ダブルパス方式のブライス型示差屈折計(400)を図4に示す。図4のうち、aは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率が等しいときの平行光線を模式的に示す平面図、bは各構成要素の配置及び試料液と参照液の屈折率に差があるときの平行光線を模式的に示す平面図、cは各構成要素の配置の正面図である。ダブルパス方式のブライス型示差屈折計は、光源(401)と位置検出光センサ(405)がフローセル(404)に対して同じ側に配置され、光源(401)から出た平行光線は1度フローセル(404)を通過した後、ミラー(406)で反射され、再度フローセル(404)を通過した光を、位置検出光センサ(405)に当てて検出する。上から見た場合、試料液と参照液の屈折率が等しければ(図4a)、平行光線は往復で概ね同じ経路を通過する。したがって、圧力や温度の変動により溶媒の屈折率が変化し、試料液と参照液の屈折率が同じだけ変化した時でも位置検出光センサ(405)の照射位置が変わらないため、ポンプの脈動の影響や温度変動の影響が小さくなる。しかし図4cに示すように、光源(401)と位置検出光センサ(405)が上下に配置されるため、試料液と参照液との屈折率が等しい時に平行光線を位置検出光センサ(405)の中央に当てるように各構成要素の位置や角度を調整することは、シングルパス方式と比較し煩雑な作業を要する。
【0009】
【特許文献1】特開平3−218442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
位置や角度の調整が容易なシングルパス方式のブライス型示差屈折率計において、ポンプの脈動による圧力変動や温度変動により溶媒の屈折率が変化した場合にも位置検出光センサへの照射位置のシフトの影響を除くことが可能で、かつ不感帯が生じにくい示差屈折率計を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0012】
第一の発明は、概ね平行光線を生成する光源部と、アパーチャと、内部が前記平行光線の軸に対して傾いた斜板で仕切られた、参照液と試料液を通過させるための二つの中空部を有するフローセルと、前記フローセルを透過した光の偏向を検出するためにフローセルと離して設けられる位置検出光センサと、前記位置検出光センサの出力信号から屈折率を演算する演算装置から構成され、前記光源部と前記フローセルと前記位置検出光センサが当該順序で概ね直線的に配置されたブライス型示差屈折率計において、
前記フローセルの位置検出光センサ側に、フローセルに近接して凸レンズが設置され、
前記凸レンズの焦点位置に前記位置検出光センサが設置され、
前記位置検出光センサが複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0013】
第二の発明は、概ね平行光線を生成する光源部と、アパーチャと、内部が前記平行光線の軸に対して傾いた斜板で仕切られた、参照液と試料液を通過させるための二つの中空部を有するフローセルと、前記フローセルを透過した光の偏向を検出するためにフローセルと離して設けられる位置検出光センサと、前記位置検出光センサの出力信号から屈折率を演算する演算装置から構成され、前記光源部と前記フローセルと前記位置検出光センサが当該順序で概ね直線的に配置されたブライス型示差屈折率計において、
前記フローセルの位置検出光センサ側にフローセルに近接して凸レンズが設置され、
前記凸レンズと前記位置検出光センサとの間に凹レンズが設置され、
前記凸レンズと前記凹レンズの合成焦点位置に前記位置検出光センサが設置され、
前記位置検出光センサが複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0014】
第三の発明は、第一の発明に記載の示差屈折率計において、前記センサの有する素子間ギャップが、照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅よりも狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0015】
第四の発明は、第二の発明に記載の示差屈折率計において、前記センサの有する素子間ギャップが、照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅よりも狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0016】
第五の発明は、第一の発明に記載の示差屈折率計において、前記センサに照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の2分の1より狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0017】
第六の発明は、第二の発明に記載の示差屈折率計において、前記センサに照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の2分の1より狭いことを特徴とする、示差屈折率計である。
【0018】
第七の発明は、第一から第六の発明に記載の示差屈折率計において、光源部から生成される概ね平行な光線が、平行光線に対して僅かに収束する光線、あるいは僅かに発散する光線であることを特徴とする、示差屈折率計である。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の示差屈折率計で用いる光源としては、タングステンランプ、ハロゲン封入タングステンランプ、発光ダイオードを例示できる。示差屈折率計において、フローセルを透過させる光は概ね平行光線である必要があり、そのためには前記光源からでた光を平行光に変換させる必要があるが、平行光線への変換方法としては、以下の方法が例示できる。
(1)レンズ付ランプやレンズ付発光ダイオードを用いる方法。
(2)輝度の高い光源と適正に選択されたレンズを組み合わせる方法。
(3)光源から十分離れた位置にフローセルを設置する方法。
【0021】
このうち、本発明の示差屈折率計における平行光線への変換方法としては、良質な平行光線が得られる(2)の方式が最も好ましい。さらに、レンズの口径はレンズの有効径がアパーチャの透過部をカバーするように選択し、発光ダイオードが発した光を有効に利用するためにレンズと発光ダイオードの距離を近づけ有効立体角を広げることが好ましく、レンズは球面収差を抑えるために非球面レンズ、あるいはアクロマティックレンズに代表される貼合せレンズを使うことができる。
【0022】
なお、本発明の示差屈折率計におけるフローセルを透過させる光は概ね平行光線であればよく、平行光線に対して僅かに収束する光線、あるいは僅かに発散する光線でもよい。前記光線に変換する具体的な方法としては、輝度の高い光源と適正に選択されたコリメータレンズを使い、光源の位置をレンズの焦点位置から僅かに前後させる方法が例示できる。
【0023】
平行光線断面内の光強度分布は液体流路の幅方向の範囲で概ね均一であればよい。また、光強度分布の均一性を改善するために、ビーム変換レンズを使ったり、平行光線の強度分布と逆の空間分布を示す吸収特性をもたせたフィルタなどを使うこともできる。
【0024】
本発明の示差屈折率計で用いるフローセルの一態様として、図5に示す、試料液と参照液をそれぞれ通過させるための一対の中空部(501、503)をもつフローセル(500)をあげることができる。フローセルの材質は光の透過性と液体に対する耐蝕性を考慮して選択すればよいが、多くの場合、透明な石英ガラスが用いられる。また、光が通過する部分以外の全て、あるいは一部を黒色石英ガラスといった不透明体材料で作ることもできる。
【0025】
フローセルの別の態様として、図6に示す、試料液に溶解した目的成分の広がりを防ぐために、試料を流す中空部(601)の断面積を参照液を流す中空部(603)の断面積より小さくしたフローセル(600)もあげることができる。図6のフローセルの場合は、アパーチャに近い側の中空部を小さくし、そこに試料液を流すのが好ましい。
【0026】
なお、フローセルの光源側に近接して設けられる前記アパーチャの他に、追加のアパーチャを設けることによって、適宜、不要な光を遮断することもできる。
【0027】
本発明の図2の構成からなる示差屈折率計で用いる、フローセルの位置検出光センサ側にフローセルに近接して設置される凸レンズとしては、フローセルを通過した透過光を、前記センサの受光面上で少なくともフローセルの高さ方向に直交する方向に対して収束する集光性をもっておればよく、シリンドリカル凸レンズあるいは球面凸レンズを例示できる。また、収差を減らすことを目的に、非円柱面レンズ、非球面レンズ、あるいはアクロマティックレンズに代表される貼り合せレンズを用いることもできる。
【0028】
本発明の図3の構成からなる示差屈折率計で用いる、フローセルの位置検出光センサ側にフローセルに近接して設置された凸レンズ、及び凸レンズと位置検出光センサの間に設置された凹レンズとしては、フローセルを通過した透過光を、前記センサの受光面上で少なくともフローセルの高さ方向に直交する方向に対して収束する集光性をもたせればよい。
【0029】
本発明の示差屈折率計で用いる位置検出光センサについて詳細に説明する。
【0030】
従来のブライス型示差屈折計に用いられた位置検出光センサの例として、受光面が左右に2分割されたフォトダイオードからなる位置検出光センサ(700)を図7に示す。図7のうち、aは試料液と参照液の屈折率が等しいときのフローセルを通過した透過光線の照射位置(703)とセンサ(700)との位置関係、bは試料液と参照液の屈折率に差があるときの透過光線の照射位置(703)とセンサ(700)との位置関係をそれぞれ示した図である。図7において縦横に2×2分割された受光面を有するフォトダイオードを使う場合には、縦の2つの受光面を並列接続して1つの受光面(701)として使うことにより2分割フォトダイオードとして使用することができる。しかしながら、図8aに示すように透過光線の照射位置(803)の幅が狭い場合、受光素子間ギャップが大きい位置検出光センサ(800)では、照射位置(803)の幅が受光素子間ギャップ(802)よりも小さくなるため、不感帯が生じる。また、参照液と試料液との屈折率の差が大きい場合、及び前記位置検出センサの位置がずれている場合には、図8bに示すように2分割された受光素子(801)の片側一方の受光素子にしか透過光線が照射されないので、受光素子(801)に照射される光量が照射位置の変化に比例して変化しない、という問題点があった。
【0031】
一方、本発明の位置検出光センサは、複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅よりも狭いことを特徴としている。本発明の位置検出光センサの一態様を図9に示す。図9はフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置(903)の幅に対し、受光面(901)の全幅が広く、かつ受光素子間ギャップ(902)が狭いセンサ(900)である。また、図9のうち、aは試料液と参照液の屈折率が等しいときの透過光線の照射位置(903)とセンサ(900)との位置関係、bは試料液と参照液の屈折率に差があるときの透過光線の照射位置(903)とセンサ(900)との位置関係をそれぞれ示した図である。図9のセンサ(900)を図2及び図3の示差屈折率計に採用することにより、点発光に近い光源と収差の小さいレンズを使用した場合においても、従来のセンサ(700、800)と比較し、不感帯が生じる可能性を低減することができる。また、図9のセンサ(900)は、透過光線の照射位置(903)の変化に対する各受光面に照射される光量が従来のセンサ(700、800)より大きく変化するので、屈折率の変化をより高い感度で検出することができる。
【0032】
本発明の示差屈折率計の別の態様として、収差の大きいレンズを使用することで、位置検出光センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅を、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭くなるように、前記センサに照射する光を収束光とする態様があげられる。前記態様では、前記センサの受光面における照射位置の幅を広くしているため、検出感度は低下するものの、検出上限値を上げることができ、かつ素子間ギャップが広い位置検出光センサも用いることができる。
【0033】
本発明の示差屈折率計のさらに別の態様として、位置検出光センサの有する素子間ギャップを狭くする、あるいは収差の大きいレンズを使用することで、位置検出光センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅を、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の1/2より狭くする態様があげられる。前記態様では、従来の示差屈折率計と比較し、感度が向上し、かつダイナミックレンジを拡大させることができる。
【0034】
なお、位置検出光センサについては図7から9に示した、左右に2分割されたフォトダイオード及び2×2分割されたフォトダイオードの代わりに、さらに細かく分割されたフォトダイオードや1次元CCDセンサ、及び1次元CMOSセンサといったセンサを用いることができる。また、2次元CCDセンサ、及び2次元CMOSセンサといったセンサも用いることができる。
【0035】
前記位置検出センサにて検出した透過光線は、光源の発光量に変動がなければ、各受光面に生じる光電流を電流電圧変換回路等を用いて電圧信号に変換した後、差回路を使うことによって、出力として示差屈折率信号を得ることができる。また、差回路と和回路を使って2素子の差信号と和信号を求め、さらに割算回路を使って差信号を和信号で割ることによって、出力として示差屈折率信号を得ることもできる。示差屈折率信号を得る際は、ノイズ信号を抑制するために適宜フィルタ回路を用いることができる。電流電圧変換回路にはノイズやドリフトを減らすため、オフセット電流やバイアス電流が小さい高精度Opアンプを使うのが好ましい。
【0036】
また、アナログ演算回路を用いる代わりに、各受光面から得られた電圧信号を、ΔΣ型AD変換器などのAD変換器でデジタル値に変換し、デジタル回路で割算演算を行ない、示差屈折率信号を得ることができる。AD変換器の前には適宜アンチエリアスフィルタ回路が挿入することができる。また、デジタル値に変換した後、デジタルフィルタを掛けてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本願発明の示差屈折率計は、フローセルの位置検出光センサ側に近接して凸レンズを設置し、前記位置検出光センサを凸レンズの焦点位置に設置した、シングルパス方式のブライス型示差屈折率計において、位置検出光センサが複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭いことを特徴としている。本発明により、点発光に近い光源と収差の小さいレンズを用いたときに生ずる不感帯の問題を解消することができる。
【0038】
本発明の一態様である、位置検出光センサの有する素子間ギャップを、位置検出光センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅よりも狭くした示差屈折率計の場合は、点発光に近い光源と収差の小さいレンズを使用した場合においても、従来のセンサと比較し、不感帯が生じる可能性を低減することができる。また、透過光線の照射位置の変化に対する各受光面に照射される光量が従来のセンサより大きく変化するので、屈折率の変化をより高い感度で検出することができる。
【0039】
本発明の別の態様である、収差の大きいレンズを使用し、位置検出光センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅を、位置検出光センサの有する素子間ギャップより広くした示差屈折率計の場合は、従来のセンサを用いても、不感帯が生じる可能性を低減し、かつ検出上限値を上げることができる。当該態様の場合には、位置検出光センサの位置を前後させ、ポンプの圧力変動や温度変動の影響を受けにくい位置に位置検出光センサを設置するのがより好ましい。
【0040】
本発明のさらに別の態様である、位置検出光センサの有する素子間ギャップを狭くする、あるいは収差の大きいレンズを使用することで、位置検出光センサに照射されるフローセル及びレンズを通過した透過光線の照射位置の幅を、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の1/2より狭くした示差屈折率計は、従来の示差屈折率計と比較し、不感帯が生じる可能性が低減され、感度も向上し、かつダイナミックレンジも拡大させることができる。
【0041】
また、フローセルの位置検出光センサ側に近接して凸レンズを設置し、凸レンズと前記位置検出光センサとの間に凹レンズを設置し、前記位置検出光センサを前記凸レンズと凹レンズの合成焦点位置に設置した、シングルパス方式のブライス型示差屈折率計において、本発明を採用した示差屈折率計も前述の示差屈折率計と同様の効果を有する。
【0042】
なお、フローセルを透過させる光は概ね平行光線であればよく、平行光線に対して僅かに収束する光線、あるいは僅かに発散する光線であっても、前述の示差屈折率計と同様の効果を有する。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1 本発明の示差屈折率計(その1)
図2の構成を有する示差屈折率計において、本発明を採用したときの例を以下に示す。
【0045】
光源(201)は点発光LEDを用い、非球面レンズからなるコリメータレンズ(202)を用いて発散光を平行光に変換した。アパーチャ(203)としてはフローセル(204)の中空部の幅(0.8mm)より狭いスリット(0.6mm)を用い、アパーチャ(203)を通過した照射光がフローセル(204)の中空部の側面に接して反射光や散乱光を生じることがないようにした。
【0046】
位置検出光センサ(205)は浜松ホトニクス製フォトダイオードS5980を用いた。当該ダイオードは、受光面が2×2の画素に分割されているが、上下の2画素を並列に接続して1つの受光面として扱い、全体として2分割フォトダイオードとして用いた。フォトダイオードS5980の受光素子間ギャップは0.03mmである。
【0047】
そして、圧力や温度変動によって溶媒の屈折率が変化した時であっても位置検出光センサ(205)上の照射位置がシフトしないように、シングルパス方式の示差屈折率計のフローセル(204)と位置検出光センサ(205)の間にシリンドリカル凸レンズ(207)を挿入した。なお、凸レンズ(207)の曲率あるいは焦点距離は、平行光線を照射した時に透過光線が位置検出光センサ(205)の位置で集光するように決めた。この時、位置検出光センサ(205)上には、フローセルの高さ方向を長辺とする長方形の形状に透過光線が照射される。また、屈折率による照射位置の移動量を大きくすることを目的に、凸レンズ(207)はフローセル(204)に近接して設置した。
【0048】
図2に示す示差屈折率計(200)において、フローセルと位置検出光センサの距離を110mmとした時、照射位置の移動量は、屈折率差が1×10−4で0.01mmと見積もることができる。
【0049】
従来のブライス型示差屈折計で用いる受光素子間ギャップが0.03mmである位置検出光センサ(図7)を用いたときでも、位置検出光センサ(205)上における透過光線の照射位置の幅が0.04mm以上ある場合は、正確に光学系を調整すれば、屈折率の差が±0.5×10−4の範囲では各素子に照射される光量が屈折率の差に比例して変化する。しかし、収差が小さいレンズを使う場合、センサ上における透過光線の幅が0.03mm未満になり、不感帯が生じる。また、屈折率の差が±0.5×10−4以上になると一方の受光面だけに照射されるようになり屈折率の差に対する信号の割合が半分に落ちる。さらにまた、位置検出光センサの位置がずれていると、最初から片方の受光面にしか光が当たらなかったり、片方の受光面に当たる光量が変化しないということが生じる。
【0050】
そこで、位置検出光センサ(205)を、当該センサの有する受光素子間ギャップが0.03mm未満のセンサに交換することで、収差の小さいレンズを用いたときでも、不感帯を生じることなく、かつ感度の高い示差屈折率計が得られる。
【0051】
実施例2 本発明の示差屈折率計(その2)
図2の構成を有する示差屈折率計において、本発明を採用したときの別の例を以下に示す。
【0052】
実施例1との違いは、光源(201)の位置をコリメータレンズ(202)の焦点位置から前後に移動させて、平行光線に対して僅かに収束する光線、あるいは僅かに発散する光線に変換し、当該光線をフローセルに照射していることである。本実施例の示差屈折率計(200)では、位置検出光センサ上における透過光線の照射位置の幅を0.04mm以上にすることができるため、市販のフォトダイオード(例えば、浜松ホトニクス製フォトダイオードS5980)でも実施例1の示差屈折率計と同様の効果を得ることができる。
【0053】
実施例3 本発明の示差屈折率計(その3)
図3の構成を有する示差屈折率計において、本発明を採用したときの例を以下に示す。
【0054】
実施例1の示差屈折率計(200)との違いは、シングルパス方式の示差屈折計のフローセル(304)と位置検出光センサ(305)の間にシリンドリカル凸レンズ(307)と、さらにシリンドリカル凹レンズ(308)を挿入していることである。シリンドリカル凸レンズ(307)の曲率あるいは焦点距離は、シリンドリカル凹レンズ(308)を外した時に透過光線が位置検出光センサ(305)の手前で集光するように決めた。シリンドリカル凹レンズ(308)の曲率あるいは焦点距離は、シリンドリカル凸レンズ(307)とシリンドリカル凹レンズ(308)を取り付けた時に透過光線が位置検出光センサ(305)の位置で集光するように決めた。
【0055】
本実施例の示差屈折率計(300)では、試料液と参照液に屈折率の差が生じた時の照射位置の移動量が、実施例1の示差屈折率計(200)と比較し大きくなる。そのため、図3の示差屈折率計において、本発明を採用する際には、実施例1の示差屈折率計(200)と比較し透過光線の移動量が大きいので、同一の位置検出光センサと増幅器を用いても高い感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】シングルパス方式のブライス型示差屈折率計
【図2】改良されたシングルパス方式のブライス型示差屈折率計
【図3】改良されたシングルパス方式のブライス型示差屈折率計
【図4】ダブルパス方式のブライス型示差屈折率計
【図5】ブライス型示差屈折率計のフローセルを示す図(断面図)
【図6】ブライス型示差屈折率計のフローセルを示す図(断面図)
【図7】従来の位置検出光センサと透過光線の照射位置との関係を示す図
【図8】従来の位置検出光センサと透過光線の照射位置との関係を示す図
【図9】本発明の位置検出光センサと透過光線の照射位置との関係を示す図
【符号の説明】
【0057】
100、200、300、400:示差屈折率計
101、201、301、401:光源
102、202、302、402:コリメータレンズ
103、203、303、403:アパーチャ
104、204、304、404、500、600:フローセル
105、205、305、405、700、800、900:位置検出光センサ
207、307:シリンドリカル凸レンズ
308:シリンドリカル凹レンズ
406:平面ミラー
501、503:中空部
502、504、602、604:連通穴
601:小さい中空部
603:大きい中空部
701、801、901:受光素子
702、802、902:受光素子間ギャップ
703、803、903:透過光線の照射位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概ね平行光線を生成する光源部と、アパーチャと、内部が前記平行光線の軸に対して傾いた斜板で仕切られた、参照液と試料液を通過させるための二つの中空部を有するフローセルと、前記フローセルを透過した光の偏向を検出するためにフローセルと離して設けられる位置検出光センサと、前記位置検出光センサの出力信号から屈折率を演算する演算装置から構成され、前記光源部と前記フローセルと前記位置検出光センサが当該順序で概ね直線的に配置されたブライス型示差屈折率計において、
前記フローセルの位置検出光センサ側に、フローセルに近接して凸レンズが設置され、
前記凸レンズの焦点位置に前記位置検出光センサが設置され、
前記位置検出光センサが複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項2】
概ね平行光線を生成する光源部と、アパーチャと、内部が前記平行光線の軸に対して傾いた斜板で仕切られた、参照液と試料液を通過させるための二つの中空部を有するフローセルと、前記フローセルを透過した光の偏向を検出するためにフローセルと離して設けられる位置検出光センサと、前記位置検出光センサの出力信号から屈折率を演算する演算装置から構成され、前記光源部と前記フローセルと前記位置検出光センサが当該順序で概ね直線的に配置されたブライス型示差屈折率計において、
前記フローセルの位置検出光センサ側にフローセルに近接して凸レンズが設置され、
前記凸レンズと前記位置検出光センサとの間に凹レンズが設置され、
前記凸レンズと前記凹レンズの合成焦点位置に前記位置検出光センサが設置され、
前記位置検出光センサが複数の分割された受光面からなり、かつ前記センサに照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップより広く、前記センサの有する受光面の全幅より狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項3】
請求項1に記載の示差屈折率計において、前記センサの有する素子間ギャップが、照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅よりも狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項4】
請求項2に記載の示差屈折率計において、前記センサの有する素子間ギャップが、照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅よりも狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項5】
請求項1に記載の示差屈折率計において、前記センサに照射される前記凸レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の2分の1より狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項6】
請求項2に記載の示差屈折率計において、前記センサに照射される前記凹レンズを透過した収束光の幅が、前記センサの有する素子間ギャップの2倍より広く、前記センサの有する受光面の全幅の2分の1より狭いことを特徴とする、示差屈折率計。
【請求項7】
請求項1から6に記載の示差屈折率計において、光源部から生成される概ね平行な光線が、平行光線に対して僅かに収束する光線、あるいは僅かに発散する光線であることを特徴とする、示差屈折率計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−25905(P2010−25905A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191266(P2008−191266)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】