説明

祖先ウィルスおよびワクチン

本発明は、HIVおよびFIV祖先ウィルスの核酸およびアミノ酸配列、ならびにそれらの配列を生成し、予防および診断を含む用途において使用する方法を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
HIV−1は、ワクチンの開発のための非常に困難な標的であることが証明されている。HIV−1感染に対する防御免疫の免疫相関は、依然として不明なままである。ウィルスは、感染した個体中で継続的に複製し、宿主の体内で活発な体液性および細胞性免疫応答が誘起されるにもかかわらず、否応なく疾病を発症させる。HIV−1は、感染中に急速に突然変異し、免疫認識を逃れることができるウィルスの生成を誘起する。高度な多様性を有する他のウィルス(例えばインフルエンザ)とは異なり、ある祖先株が次の均一な株で置き換えられるといった変異体の継承は起こらないようである。むしろ、多くのHIVに感染した個体から採取したウィルス配列の進化系統樹は、殆どの変異株が系統樹の中心からおよそ等距離に存在するスターバースト(star-burst)パターンを呈する。HIV−1ウィルスはまた、後に個体内での複製が可能な潜在性プロウィルスDNAとしていつまでも存続し得る。
【0002】
現在、数種類のHIV−1ワクチンの開発のアプローチが展開されているが、それぞれについて相対的な強みおよび弱みがある。これらのアプローチには、生きた弱毒化ワクチン、アジュバントペプチドやサブユニットワクチンを用いた不活性化ウィルス、生ベクターによるワクチンおよびDNAワクチンの開発を含む。エンベロープ糖タンパク質は表面に露出していることから、ワクチン開発(vaccine regimen)における主要な抗原であると考えられていたが、それらが理想的な免疫源ではないことが明らかになった。このことは、これらのウィルスの進化を推進する免疫学的な選択力から予測される結果である。自然感染において殆ど免疫原性を示さないという糖タンパク質の同様な性質がワクチン開発の妨げとなってきたと思われる。しかし、ワクチン処方の改良によりこれらの問題は克服できるかもしれない。例えば、融合対応免疫源に感化された個体からの初代単離物がウイルスを中和することに成功した(マウスにおいて)という最近の報告は、この考えを支持するものである。
【0003】
他のアプローチとして、ワクチンの処方においてHIV−1の天然単離株を使用することが考えられる。しかし、初期変異株の同定は、エイズ(AIDS)の流行開始時に近い時点における保存された検体からですら到底期待できない。天然単離株はまた、ワクチンの候補として理想的な特徴(エピトープ等)も殆ど包含していない。さらに、任意の天然ウィルス単離株は、特定のヒト宿主内における特異的な相互作用による適応を反映した特徴を有している。これらの個体特異的な特徴は、ウィルスの全てあるいは殆どの株について見出されないと予測され、そのため、個々の単離株に基づくワクチンは、世の中に出回っている広範囲のウィルスに対して有効であるとは思われない。
【0004】
他のアプローチとして、HIVの挑戦に対し広範な防御を発現させるために、ワクチンの処方において可能な限り多くの異なるHIV−1単離株を含めることが考えられる。まず、多くの世の中に出回っているHIV株の中から、1種類または複数種類の株が選択される。このアプローチの利点は、そのような株は生育能力のあるウィルスの感染型であることが知られていることである。しかし、そのような株は、世の中に出回っている他の株とは遺伝学的に非常に異なっており、そのため広範な防御を発現することができない。関連するアプローチは、世の中に出回っている株やデータベース中の株に基づいてコンセンサス配列を構築するものである。コンセンサス配列は、世の中に出回っている株から遺伝学的にはさほど遠くないが、しかし、全ての現存するウィルスについて評価したものではないため、広範な防御をもたらさないおそれがある。
【0005】
したがって、HIVの感染の予防用および治療用のワクチン開発のために、候補となる配列を同定する新しい効果的な方法にを欲する技術的な要求が存在する。本発明は、この要求や他の要求を充足するものである。
【0006】
ネコ免疫不全ウィルス(FIV)は、飼育されたネコの感染として1987年に最初に報告され(Pedersen, N. C., et al., Science 235:790-793, 1987)、数種の野生のネコについて発見された(Brown E. W., et al., J. Virol. 68:5953-5968, 1994; Langley, R. J., et al., Virol. 202:853-864, 1994; Olmsted, R. A., et al., J. Virol. 66:6008-6018, 1992)。FIVの感染は、体重の減少、慢性の日和見感染、および、頻度は低いが神経性の異常等の免疫不全の症状を伴う(Dow, S. W., et al., J. Acquired Immune Defic. Syndr. 3:658-668, 1990; Yamamoto, J. K., et al., J. Am. Vet. Med. Assoc. 194(2):213-220, 1989)。FIVは、ワクチン開発について同様の課題をもたらす。同じように、FIV感染を防止するための効果的なワクチンに対する技術的な要求が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、祖先ウィルスの遺伝子配列およびウィルスの祖先タンパク質の配列を決定するための組成物および方法を提供するものである。1つの側面において、FIV、HIV−1、HIV−2またはC型肝炎ウィルス等の高度な多様性を有するウィルスの祖先ウィルスの配列を決定するための計算法が提供される。これらの計算法では、世の中に出回っているウィルスの試料を使用して最尤法による系統解析を行い、祖先ウィルスの配列を決定する。祖先ウィルスの配列は、例えば、FIV祖先ウィルスの遺伝子配列、HIV−1祖先ウィルスの遺伝子配列、HIV−2祖先ウィルスの遺伝子配列またはC型肝炎祖先ウィルスの遺伝子配列であってもよい。他の実施形態において、祖先ウィルスの遺伝子配列は、FIVサブタイプA、B、C、D、HIV−1サブタイプA、B、C、D、E、F、G、H、J、AGもしくはAGI、HIV−1グループM、NもしくはO、またはHIV−2サブタイプAもしくはBに由来するものである。祖先ウィルスの遺伝子配列はまた、広範に分散しているFIV変異株、地域的に限定されたFIV変異株、広範に分布しているHIV−1変異株、地域的に限定されたHIV−1変異株、広範に分布しているHIV−2変異株、または地域的に限定されたHIV−2変異株に由来するものであってもよい。通常は、祖先遺伝子はenv遺伝子またはgag遺伝子である。
【0008】
祖先ウィルスの遺伝子配列は、概して、他のいずれの変異株よりは、任意の、世の中に出回っているウィルスの遺伝子配列に、より密接に関連している。いくつかの実施形態においては、祖先ウィルスの遺伝子配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、または配列番号29に記載された配列と少なくとも70%の同一性を有するが、任意の世の中に出回っている変異株と100%の同一性を有していない。
【0009】
1つの側面において、本発明は、HIV−1サブタイプBのenv遺伝子に対する祖先配列を提供する。HIV−1サブタイプBは、西半球およびヨーロッパにおいて最も感染を引き起こしている。決定された祖先ウィルスの配列は、概して、他のいずれの変異株よりも任意の、世の中に出回っているウィルスに、より密接に関連している。env祖先遺伝子配列は、envの遺伝子産物で、長さ884アミノ酸残基であるgp160のオープンリーディングフレームをコードしている。
【0010】
他の側面において、本発明は、HIV−1サブタイプCのenv祖先遺伝子に対する祖先配列を提供する。サブタイプCは、全世界で最も流行しているサブタイプである。この配列は、平均して、他のいずれの変異株よりも、任意の、世の中に出回っているウィルスにより密接に関連している。この配列は、envの遺伝子産物で、長さ853アミノ酸であるgp160のオープンリーディングフレームをコードしている。
【0011】
単離されたHIV祖先タンパク質またはその断片も提供される。単離された祖先タンパク質は、例えば、HIV−1サブタイプBのenv祖先タンパク質(配列番号2)、またはHIV−1サブタイプCのenv祖先タンパク質(配列番号4)の隣接した配列であってよい。祖先タンパク質は、HIV−1サブタイプA、B、C、D、E、F、G、H、J、AGもしくはAGI、HIV−1グループM、NもしくはO、またはHIV−2サブタイプAもしくはBに由来するものであってもよい。
【0012】
単離されたFIV祖先タンパク質またはその断片も提供される。単離された祖先タンパク質は、例えば、FIVのenv祖先タンパク質(例えば、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、または配列番号30)またはその断片の連続した配列であってよい。FIV祖先タンパク質は、FIVサブタイプA、B、CまたはDの祖先タンパク質であってよい。
【0013】
本発明はまた、他の祖先ウィルスの配列を決定するための計算法も提供する。この計算法は、例えば、他のHIVサブタイプ、例えば、途上国において広範に分布しているHIVサブタイプE等についての祖先ウィルスの配列決定等に拡張することが可能である。この計算法は、例えば、HIV−1の株、サブタイプおよびグループ等の、既知のおよび新たに出現する、高度に多様性を有する全てのウィルスについての祖先ウィルスの配列決定にも拡張することが可能である。例えば、タイまたはブラジルにおけるHIV−1−B、中国、インド、南アフリカまたはブラジルにおけるHIV−1−Cおよび同種のものについて祖先ウィルスの配列を決定することができる。他の実施形態において、HIV−1のnef遺伝子またはそのポリペプチド、pol遺伝子またはそのポリペプチドまたは他の遺伝子またはそのポリペプチドについての祖先ウィルスにおける配列が決定される。この計算法は、FIV等の他のレトロウィルスについての祖先ウィルスの配列の決定に拡張することが可能である。
【0014】
本発明はまた、転写プロモータ、祖先タンパク質をコードする核酸、および転写ターミネータを含む発現コンストラクトも提供する。核酸は、例えば、HIV−1の祖先タンパク質(例えば配列番号2または配列番号4のもの)をコードするもであってよい。核酸は、例えば、HIV−1サブタイプBまたはCのenv遺伝子配列(例えば、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号6のもの)であってよい。1つの実施形態において、核酸は、宿主細胞内での発現に最適化されたものである。核酸は、例えば、FIVの祖先タンパク質(例えば、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30)をコードするものであってよい。核酸は、例えば、FIVサブタイプA、B、CまたはDのenv遺伝子配列(例えば、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27または配列番号29のもの)であってよい。核酸は、例えば、ネコ科の宿主に最適化されたFIVのenv核酸配列(例えば、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、または配列番号42のもの)であってよい。
【0015】
プロモータは、サイトメガロウィルスプロモータ等の異種プロモータであってよい。発現コンストラクトは、原核または真核細胞中で発現させることができる。好適な細胞としては、例えば、ほ乳類の細胞、ヒトの細胞、ネコの細胞、大腸菌細胞、出芽酵母細胞が挙げられる。1つの実施形態においては、発現コンストラクトはセムリキ森林ウィルスのレプリコンと作用可能なように連結された核酸配列を有し、この場合において、その結果生じた組換えレプリコンは、サイトメガロウィルスプロモータと作用可能なように連結されている。
【0016】
他の側面において、ほ乳類において免疫応答を誘起する組成物が提供され、該組成物は、ウィルスの祖先タンパク質または祖先タンパク質由来の免疫原性を有する断片を含んでいる。祖先タンパク質は、HIV−1サブタイプBもしくはCのenv祖先タンパク質または他のHIV−1、HIV−2もしくはC型肝炎ウィルスの祖先タンパク質から誘導されるものであってよい。祖先タンパク質は、FIVサブタイプA、B、CまたはDのenv祖先タンパク質に由来するものであってよい。組成物は、AIDSワクチン等の、高度な多様性を有するヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)の感染から防御するためのワクチンとして、またはHIV−2もしくはC型肝炎、またはFIVの感染から防御するためのワクチンとして使用することができる。祖先ウィルスの配列は、HIV−1ウィルスの祖先(例えばグループM)、HIV−1サブタイプ(例えばB、C、またはE)、広範に分布している変異株、地域的に限定された変異株または新規に発生している変異株であってよい。組成物は、例えばFIVサブタイプA、B、CおよびDの祖先タンパク質等の、1種類または複数種類のサブタイプの祖先タンパク質を含んでいてよい。
【0017】
他の側面において、ウィルスの祖先タンパク質に特異的に結合する単離抗体および複数の世の中に出回っている子孫ウィルスの祖先タンパク質に特異的に結合する単離抗体が提供される。祖先タンパク質は、例えば、FIV、HIV−1、HIV−2またはC型肝炎ウィルスに由来するものであってよい。抗体は、モノクローナル抗体またはその抗原結合能を有する断片であってもよい。1つの実施形態において、抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である。他の好適な抗体またはその抗原結合能を有する断片は、単鎖抗体、単一の重鎖抗体、抗原結合能を有するF(ab’)フラグメント、抗原結合能を有するFab’フラグメント、抗原結合能を有するFabフラグメント、または抗原結合能を有するFvフラグメントであってよい。
【0018】
祖先ウィルスの配列を決定することに加え、本発明は、祖先ウィルス配列に基づく免疫原性を有する組成物の調製および試験方法を提供する。特定の実施形態において、(祖先ウィルス配列に基づく)免疫原性を有する組成物を調製し、例えば、マウスモデルやサル−ヒト免疫不全ウィルス(SHIV)感染マカクザルモデル等の適当なモデルを使用して、ほ乳類に投与する。免疫原性を有する組成物は、単離された祖先ウィルスの遺伝子配列もしくはポリペプチドの配列、またはそれらの一部を使用して調製することができる。免疫原性を有する組成物および該組成物の投与に関する説明書を含むキットも提供される。
【0019】
さらに他の側面において、祖先ウィルス配列に基づく核酸、ペプチドまたは抗体を使用して、検体におけるHIV、FIVおよび/またはAIDSもしくはFAIDSを検知する診断方法が提供される。
【0020】
他の側面において、FIV祖先タンパク質を使用してネコ宿主における免疫応答を検査する方法が提供される。FIV祖先タンパク質に対する免疫を有しておりFIVに暴露したネコ宿主は、他の種における免疫不全ウィルスの疾病モデルとして有用たり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明をさらに詳述する前に、以後本明細書中で使用されるような特定の用語の定義を記述することは、その理解を深める上で有用であると思われる。
【0022】
<定義>
別途定義しない場合には、本明細書中で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する業界の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されたものと同様の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用し得るが、例示的な方法および材料のみを記載する。本発明の目的のために、以下の用語は下記のように定義される。
【0023】
本発明との関係において、「祖先配列」とは、通常、任意の他の変異体よりも、概して任意の所定変異体とより密接に関連するものである、決定された始祖配列(determined founder sequence)を意味する。「祖先ウィルス配列」とは、通常、任意の他の変異体に対してよりも、概して任意の所定の世の中に出回っているウィルスに対してより密接に関連するものである、決定された始祖配列を意味する。「祖先ウィルス配列」は、世の中に出回っているウィルスの核酸および/またはアミノ酸配列を使用して、最尤法による系統解析(本明細書中により十分に記載されているような)の適用により決定される。「祖先ウィルス」とは、「祖先ウィルス配列」を含むウィルスである。「祖先タンパク質」とは、アミノ酸祖先ウィルス配列を有するタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドである。
【0024】
「世の中に出回っているウィルス」という用語は、感染個体中に見出されるウィルスを意味する。
【0025】
「変異体」という用語は、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸において、他のウィルス、遺伝子または遺伝子産物と配列が異なるウィルス、遺伝子または遺伝子産物を意味する。
【0026】
「免疫学的な」または「免疫応答」という用語は、被験者におけるHIVペプチドに対する、有益な、体液性(抗体を媒介される)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはそれらの分泌産物により媒介される)応答の発現を意味する。このような応答は、特に、免疫原の投与により誘導される活性応答であってよい。細胞免疫応答は、クラスIまたはクラスIIMHC分子に結合したエピトープの提示によって、抗原特異的CD4Tヘルパー細胞(ヘルパーTリンパ球)および/またはCD8細胞傷害性T細胞を活性化することにより誘発される。
細胞に媒介される免疫学的応答の存在は、例えばCD4T細胞の増殖検定(HTL(ヘルパーTリンパ球)応答を測定する)により、あるいはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)検定により決定することができる(例えば、Burke, et al., J. Inf. Dis. 170:1110-19(1994); Tigges, et al., J. Immunol. 156:3901-10(1996)参照)。免疫原の防御的または治療的作用に対する体液性および細胞性応答の相対的寄与は、免疫感作した遺伝的に同質な動物(immunized syngeneic animal)からIgGおよびT細胞を別々に単離し、第2の被験体における、防御的または治療的作用を測定することにより区別することができる。例えばエフェクター細胞は削除することができ、その結果生じる応答が解析することができる(例えば、Schmitz, et al., Science 283:857-60(1999); Jin, et al., J Exp. Med. 189:991-98(1999) 参照)。
【0027】
「抗体」とは、単一または複数の免疫グロブリン遺伝子またはその断片により実質的にコードされ、検体(抗原)に特異的に結合し、認識するポリペプチドを意味する。認識された免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、κまたはλとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δまたはεとして分類され、これらは転じて、それぞれ免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定める。
【0028】
典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、4量体から成る。各4量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一対で構成され、各対は1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100〜110またはそれ以上のアミノ酸の可変部を有する。「可変軽鎖」(VL)および「可変重鎖」(VH)という用語は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を意味する。
【0029】
抗体は、例えば無傷な免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼを使用した消化により産生される、多数の十分特性が明らかにされた抗原結合断片として存在する。例えばペプシンは、ヒンジ部のジスルフィド結合より下で抗体を消化して、それ自体はジスルフィド結合によりVH−CH1に連結された軽鎖であるFabの2量体であるF(ab’)断片を産生する。F(ab’)断片は、穏やかな条件下で還元されて、ヒンジ部のジスルフィド結合が切断され、それによりF(ab’)2量体はFab’単量体に転換される。
Fab’単量体は、本質的にはヒンジ部の一部を伴うFabである(Fundamental Immunology, Third Edition, W.E.Paul (ed.), Raven Press, N.Y. (1993)参照)。種々の抗体断片は無傷の抗体の消化という観点から定義されているが、このような断片は化学的にまたは組換えDNA法を利用することにより新たに合成することもできることを当業者は認識するだろう。したがって「抗体」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体断片、例えば1本鎖抗体、抗原結合能を有するF(ab’)断片、抗原結合能を有するFab’断片、抗原結合能を有するFab断片、抗原結合能を有するFv断片、1本鎖の重鎖またはキメラ抗体も含む。このような抗体は、無傷の抗体の修飾により産生することができるか、あるいは組換えDNA法を使用して新たに合成することができる。
【0030】
「生体試料」という用語は、ゲノムもしくはウィルスDNAあるいはその他の核酸(例えばmRNA、ウィルスRNA等)またはタンパク質を有する任意の組織または液体試料を意味する。「生体試料」はさらに、遊離のウィルスを含有する血清および血漿等の流体を含み、そして正常健常細胞およびHIV感染が疑われる細胞も含む。
【0031】
「核酸」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそのポリマーで、1本鎖または2本鎖のいずれの形態をとるものをも意味する。特に限定しない限り、当該用語は、対照される核酸と同様の結合特性を有する天然ヌクレオチドの既知のアナログを含有する核酸を包含する。別記しない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば縮重コドン置換)および相補的な配列も黙示的に包含する。特に縮重コドン置換は、選択された1つまたは複数の(あるいは全ての)コドンの3番目の位置が、混合された塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換される配列を生成することにより達成することができる(例えば、Batzer, et al., Nucleic Acid Res. 19:5081(1991);Ohtsuka, et al., J. Biol. Chem. 260:2605-08(1985);Rossolini, et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98(1994)参照)。
核酸は、少なくとも10の連続するヌクレオチドの断片(例えばハイブリッド形成可能部分)も包含し、別の実施形態では、核酸は少なくとも25ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、150ヌクレオチド、200ヌクレオチド、または250ヌクレオチドまでもしくはそれ以上のものを含む。「核酸」という用語は、遺伝子、遺伝子によりコードされるcDNAおよびmRNAと同義に使用される。
【0032】
本明細書中で使用する場合、「核酸プローブ」とは、1つまたは複数の種類の化学結合、通常は水素結合等の形成等の相補的な塩基対形成により、相補的な配列の標的核酸(例えばHIV−1核酸)と結合し得る核酸と定義される。本明細書中で使用する場合、プローブは天然の(例えばA、G、CまたはT)または修飾された塩基(例えば7−デアザグアノシン、イノシン等)を含んでいてよい。さらにプローブ中の塩基は、それがハイブリダイゼーションを阻害しない限り、ホスホジエステル結合以外の結合により連結されていてもよい。したがって、例えばプローブは、組成塩基がホスホジエステル結合ではなくペプチド結合により連結されるペプチド核酸であってもよい。その程度はハイブリダイゼーション条件がどれほどストリンジェントなものであるかに依存するが、プローブ配列との完全な相補性を欠く標的配列にプローブが結合し得るということは、当業者により理解されるだろう。
【0033】
核酸プローブは、DNAまたはRNA断片であってもよい。DNA断片は、例えばプラスミドDNAの消化、PCRの使用、またはBeaucageとCarruthers(Tetrahedron Lett. 22:1859-62(1981))により記載されているホスホアミダイト法、もしくはMatteucci等(J. Am. Chem. Soc. 103:3185(1981))によるトリエステル法等の化学合成により調製することができる。次に、所望により、化学合成した1本鎖を適当な条件下で一緒にアニーリングすることにより、または適切なプライマー配列を用い、DNAポリメラーゼを使用して相補鎖を合成することにより、2本鎖断片が得られる。核酸プローブに関する特定の配列が示される場合、相補鎖も同定され、包含されると理解される。相補鎖は、標的が2本鎖の核酸である場合に同様に好ましい。
【0034】
「標識核酸プローブ」とは、プローブに結合された標識の存在を検出することによりプローブの存在が検出されるように、共有結合により、リンカーを介して、またはイオン結合、ファンデルワールス結合もしくは水素結合により標識と結合された核酸プローブである。
【0035】
「作用可能なように連結される」という用語は、核酸の発現制御を行う配列(例えばプロモータ、シグナル配列、または転写因子結合部位の任意の配列)と二つ目の核酸配列との間の機能的連結を意味するが、この場合、当該発現制御を行う配列は、二つ目の配列に対応する核酸の転写および/または翻訳に影響を及ぼす。
【0036】
「増幅プライマー」は、選定した核酸配列の増幅のもとになる機能を果たす天然またはアナログのヌクレオチドのいすれか含む核酸であり、通常はオリゴヌクレオチドである。それらの例としては、例えばポリメラーゼ連鎖反応のプライマーおよびリガーゼ連鎖反応のオリゴヌクレオチドの両者が挙げられる。
【0037】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを意味するものとして、本明細書中では同義的に使用される。本用語は、天然のアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーと同様に、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工の化学的な模倣物であるアミノ酸ポリマーにも使用される。
【0038】
「アミノ酸」または「アミノ酸残基」という用語は、本明細書中で使用される場合、天然に存在するL−アミノ酸または以下に詳述するようなD−アミノ酸を意味する。アミノ酸に関して一般的に使用される1文字および3文字表記が本明細書中で使用される(例えば、Alberts, et al., Molecular Biology of the Cell, Garland Publishing, Inc., New York (3d ed. 1994); Creighton, Proteins, W. H. Freeman and Company (1984) 参照)。
【0039】
「保存的な置換」とは、タンパク質について述べる場合、タンパク質の活性を実質的に変える可能性の低い、タンパク質のアミノ酸組成の変化を意味する。したがって、特定アミノ酸配列の「保存的に改変された改変」とは、タンパク質の活性に重要である可能性の低いアミノ酸の置換、または重要なアミノ酸の置換であっても活性を実質的に変えないような同様の特性(例えば、酸性、塩基性、正荷電または負荷電、極性または非極性等)を有する他のアミノ酸へのアミノ酸の置換を意味する。多くの場合機能的に同様であるアミノ酸を示す保存的なアミノ酸置換表は、当業者の間で周知である(例えば、Creighton, Proteins, W. H. Freeman and Company (1984) 参照)。さらに、コード配列中の単一アミノ酸または少数のアミノ酸を変更、付加または欠失する個々の置換、欠失または付加も「保存的に改変された改変」である。
【0040】
「同一の」または「〜パーセントの同一性」という用語は、2つまたはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列との関係においては、以下の配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または手動アラインメントおよび目視により測定した場合において、比較し、比較ウインドウすなわち所定の領域にわたって最もよく一致するように並べた場合に、同一であるか、または特定の割合のアミノ酸残基またはヌクレオチドが同一である2つまたはそれ以上の配列または部分列を意味する(特定領域にわたって60%の同一性、場合によっては65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性)。その場合、このような配列は、「実質的に同一である」という。この定義は、試験配列の相補配列にも適用される。場合によっては、同一性は、少なくとも約30アミノ酸またはヌクレオチド長、通常は50、75または150アミノ酸またはヌクレオチド長の領域にわたって存在する。1つの実施形態では、配列はコード領域の全長にわたって実質的に同一である。
【0041】
「類似性」または「〜パーセントの類似性」という用語は、2つまたはそれ以上のポリペプチド配列との関係においては、以下の配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または手動アラインメントおよび目視より測定した場合において、比較し、比較ウインドウすなわち所定の領域にわたって最もよく一致するように並べた場合に、特定の割合のアミノ酸残基が前記の保存的なアミノ酸の置換で定義されるように同一であるかまたは類似する2つまたはそれ以上の配列または部分配列を意味する(特定領域にわたって少なくとも60%、場合によっては65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%類似する)。その場合、このような配列は、「実質的に類似する」といわれる。場合によっては、この同一性は、少なくとも長さ約25アミノ酸の領域にわたって、さらに好ましくは長さ約50、75または100アミノ酸の領域にわたって存在する。
【0042】
配列比較に関しては、通常1つの配列が参照配列となり、これと試験配列とが比較される。配列比較アルゴリズムを使用した場合、試験配列および参照配列は、通常はコンピューターに入力され、必要ならば部分列の座標が設定され、そして配列アルゴリズムプログラムのパラメータが設定される。配列比較アルゴリズムは次に、設定されたプログラムのパラメータに基づいて、参照配列と比較した、試験配列に関する配列の同一性のパーセントを算定する。
【0043】
比較のための配列の最適アラインメントは、例えばSmithとWatermanの局所相同アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2:482(1981))により、NeedlemanとWunschの相同アラインメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443(1970))により、PearsonとLipmanの同一性に関する検索法(Pro. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444(1988))により、コンピュータによるこれらのアルゴリズムの実行(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Conputer Group, 575 Science Dr. Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により、または目視(一般に、Ausubel, et al., Current protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York(1996)参照)により実行することができる。
【0044】
有用なアルゴリズムの一例は、PILEUPである。PILEUPは、プログレッシブペアワイズアラインメントを使用して、一群の関連配列からマルチプルシーケンスアラインメントを作製し、関連性および配列の同一性のパーセントを示す。それは、アラインメントを作製するために用いられたクラスタリングの関係を示す系統樹または樹状図のプロットも行う。PILEUPは、FengとDoolittleのプログレッシブアラインメント法(J. Mol. Evol. 35:351-60(1987))を単純化した方法を使用する。使用される方法は、HigginsとSharpにより記載されたCLUSTAL法(Gene 73: 237-44 (1988); CABIOS 5: 151-53(1989))と同様の方法である。当該プログラムは、それぞれが最大長で5,000ヌクレオチドまたはアミノ酸を有する配列を300配列までアラインメントすることができる。多重アラインメントの手法は、2つの最もよく似た配列のペアワイズアラインメントにより開始され、2つのアラインメントされた配列のクラスターを生じる。このクラスターはその後、次に最も関連した配列またはアラインメントされた配列のクラスターとアラインメントされる。配列の2つのクラスターは、2つの個々の配列のペアワイズアラインメントを単純に拡張することによりアラインメントされる。最終アラインメントは、一連のプログレッシブペアワイズアラインメントにより達成される。プログラムは、配列比較の領域について特定の配列およびそれらのアミノ酸またはヌクレオチドの座標を設定し、プログラムのパラメータを設定することにより実行される。例えば参照配列は、以下のパラメータを使用して、他の試験配列と比較され、配列同一性のパーセントの関係を決定されることができる:デフォルトのギャップの重み(3.00)、デフォルトのギャップ長の重み(0.10)および重み付けされた末端ギャップ。
【0045】
配列の同一性のパーセントおよび配列の類似性を決定するのに適したアルゴリズムの別の例は、BLASTアルゴリズムであり、これはAltschul等により説明されている(J. Mol. Biol. 215:403-10(1990))。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、米国バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公衆に利用可能である。このアルゴリズムは、先ずデータベース中の同一長のワードとアラインメントされた場合、あるプラス評価の閾値のスコアTに適合するかまたはそれを満たす問い合わせ配列中の長さWの短いワードを特定することにより、HSP(High-scoring Sequence Pairs)を同定することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschul他、上記)。これらの始めの隣接ワードのヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出すための検索を開始するための核としての役割を果たす。ワードのヒットは次に、累積アラインメントスコアが増大する限り、各配列に沿って両方向に延長される。ヌクレオチド配列に関して、累積スコアは、パラメータM(マッチング残基対に関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチング残基に関するペナルティースコア;常に<0)を使用して算定される。アミノ酸配列に関しては、スコアリング行列を使用して、累積スコアを算定する。各方向のワードのヒットの延長が停止するのは、累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少する場合、一つまたはそれ以上のマイナスにスコアリングされた残基のアラインメントの蓄積のために、累積得点がゼロまたはそれ以下になる場合、あるいはいずれかの配列の末端に到達した場合である。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。(ヌクレオチド配列用の)BLASTNプログラムは、デフォルトとして、3のワード長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=−4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列に関しては、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリング行列を使用する(Henikoff and Henikoff, Pro. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915(1989)参照)。
【0046】
配列の同一性のパーセントの算定に加え、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性に関する統計学的解析も実施する(例えば、Karlin and Altschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-87(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は最小合計確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間のマッチングが偶然により起こる確率の指標を提供する。例えば核酸は、参照核酸との試験核酸との比較における最小合計確率が通常約0.35と約0.1の間の値をとる場合には、参照配列に類似すると考えられる。2つの核酸が実質的に同一であるという別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズするということである。「〜と特異的にハイブリダイズする」という語句は、その配列が複合(例えば全細胞の)DNAまたはRNA混合物中に存在する場合にストリンジェントな条件下での特定のヌクレオチド配列のみとの分子の結合、対形成またはハイブリダイズすることを意味する。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸との間の相補的ハイブリダイゼーションを指し、標的ポリヌクレオチド配列の所望の検出を達成するためにハイブリダイゼーション溶液のストリンジェントさの度合いを低減することにより生じ得る、重要ではないミスマッチを包含する。
【0047】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は、サザンハイブリダイゼーションおよびノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験との関係においては配列に依存し、異なる環境パラメータの下では異なる。より長い配列は、より高温でも特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに対する広範な指針は、Tijssen, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Acid Probes, part I, chapter2 “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,” Elsevier, N.Y.(1993)に見出される。一般に、ハイストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、特定のイオン強度およびpHにおける特定配列に関する融解温度(T)より約5℃低い値となるよう選定される。通常、「ストリンジェントな条件」下では、プローブはその標的部分列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない。
【0048】
は、(特定のイオン強度およびpH下で)標的配列の50%が、完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。極めてストリンジェントな条件は、特定プローブに関するTと等しいよう選択される。サザンブロットまたはノーザンブロットのフィルター上に100以上の相補的な残基を有する相補的な核酸のハイブリダイゼーションに関するストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の一例は、4〜6xSSCまたはSSPE中の50%ホルムアミドで42℃または4〜6xSSCまたはSSPEを含有する水性溶液中で65〜68℃である。非常にストリンジェントな洗浄条件の一例は、72℃で約15分間の0.15MNaClである。ストリンジェントな洗浄条件の一例は、65℃で15分間の0.2xSSCでの洗浄である(一般的に、Sambrook, et al., Molecular cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Publish., Cold Spring Harbor, NY (1989)参照)。しばしば、バックグラウンドのプローブのシグナルを除去するために、非常にストリンジェントな洗浄はあまりストリンジェントでない洗浄に先立って行われる。例えば100以上のヌクレオチドの2重鎖に関する中程度にストリンジェントな洗浄の一例は、45℃で15分間の1xSSCである。例えば100以上のヌクレオチドの2重鎖に関するあまりストリンジェントでない洗浄の一例は、40℃で15分間の4〜6xSSCである。短いプローブ(例えば約10〜50ヌクレオチド)に関しては、ストリンジェントな条件は、通常、pH7.0〜8.3で約1.0M未満の、通常は約0.01〜1.0Mの濃度のNaイオン(またはその他の塩)を含み、温度は通常少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミド等の不安定化剤の付加によっても達成することができる。概して、特定のハイブリダイゼーション検定における非関連プローブに関して観察されたものの2倍(またはそれ以上)のシグナル対ノイズ比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出であることを示す。ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸であっても、それらがコードするポリペプチドが実質的に同一である場合には、実質的に同一である。これは、例えば遺伝暗号により許容される最大のコドン縮重を使用して核酸のコピーが作製される場合に起こる。
【0049】
2つの核酸またはポリペプチドが実質的に同一であるというさらなる指標は、第1の核酸によりコードされるポリペプチドが、第2の核酸によりコードされるポリペプチドに対して生じた抗体と免疫学的に交差反応するか、またはそれと特異的に結合することである。したがって、ポリペプチドは通常、例えば2つのペプチドが保存的な置換によってのみ異なる第2のポリペプチドとは実質的に同一である。
【0050】
「抗体と特異的に(または選択的に)結合する」または「〜と特異的に(または選択的に)免疫反応性である」という語句は、タンパク質またはペプチドに言及する場合、タンパク質およびその他の生体物質の異種集団の存在下でのタンパク質の存在を決定付ける結合反応を意味する。したがって所定のイムノアッセイ条件下では、特異的抗体は特定タンパク質と結合し、試料中に存在する他のタンパク質と有意量で結合しない。このような条件下でのタンパク質との特異的結合には、特定タンパク質に対するその特異性のために選択される抗体を要する。例えば本発明の核酸のいずれかによりコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質に対して生じる抗体は、そのタンパク質とは特異的に免疫反応性であるが、多型変異体を除く他のタンパク質とは特異的に免疫反応性でない抗体を得るようにして選択することができる。種々のイムノアッセイの形式を使用して、特定タンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選定することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイ、ウエスタンブロットまたは免疫組織化学法は、タンパク質と特異的に免疫反応性であるモノクローナル抗体を選定するために普通に使用される(例えば特異的免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイの形式および条件の説明に関しては、Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, N.Y.(1988)参照)。通常は、特異的または選択的反応は、バックグラウンドシグナルすなわちノイズの少なくとも2倍、さらに典型的にはバックグラウンドの10〜100倍である。
【0051】
「免疫原性組成物」という用語は、特定の免疫原に対して抗体を生じさせる免疫応答または細胞性免疫応答を誘起する組成物を意味する。免疫原性組成物は、注射用として、液体溶液、懸濁液、乳剤等として調製することができる。「抗原性組成物」という用語は、宿主の免疫系により認識されうる組成物を意味する。例えば、抗原性組成物は、宿主免疫系の体液性(例えば抗体)および/または細胞性(例えばTリンパ球)の部分により認識することができるエピトープを含んでいる。
【0052】
「ワクチン」という用語は、疾患、特にウィルス疾患に対する防御を付与するための、霊長類、特にヒトを宿主とする、宿主への生体内への投与のための免疫原性組成物を意味する。
【0053】
「単離された」という用語は、その天然の細胞の環境から取り出されたウィルス、核酸またはポリペプチドを意味する。単離されたウィルス、核酸またはポリペプチドは、通常、細胞性の核酸、ポリペプチドおよびその他の構成成分から少なくとも部分的に精製される。
【0054】
本発明との関係において、「合祖事象」とは、それらの最新の共通祖先に系統学上の2つの系統が合流することを意味する。
【0055】
「合祖間隔」とは、合祖事象間の時間を説明する。各合祖間隔に関する予測時間は指数関数的に分布し、n<<Nに関して平均E[tnyn-1]=2N/n(n−1)で生成する。
【0056】
<祖先配列の系統発生的決定>
1つの側面において、祖先配列を決定するための計算方法が提供される。そのような方法は、例えば、祖先ウィルスの配列決定に使用することができる。通常これらの計算方法は、高度な多様性を有するウィルス集団として存在するウィルスの、祖先配列の決定に使用される。例えば、ある種の高度な多様性を有するウィルス(FIV、HIV−1、HIV−2、C型肝炎ウイルス等が挙げられる)は、ある祖先株が次の単一の株に置き換えられるという変異体の承継により進化するとは考えられない。その代わりに、ウィルス配列の系統樹は、「スターバーストパターン」を形成することがあり、殆どの株はスターバーストの中心からほぼ等距離にある。このスターバーストパターンは、多数の、多様性を有する世の中に出回っているウィルスが共通の祖先から進化したことを示している。この計算方法は、FIV、HIV−1、HIV−2、C型肝炎ウィルスや他のウィルス等の、高度な多様性を有するウィルスの祖先配列の決定に使用することができる。
【0057】
祖先配列を決定する方法は、通常、世の中に出回っているウィルスの核酸配列に基づいている。ウィルスの核酸配列が複製される際に、それは複製プロセスにおけるエラーに起因する塩基の変化を獲得する。例えば、ある核酸配列が複製される際に、チミン(T)は、その正常相補体であるシトシン(C)ではなくグアニン(G)と結合する場合がある。殆どの場合、これらの塩基の変化(あるいは突然変異)は、その後の複製において増殖しないが、一定割合の突然変異は、子孫配列に受け継がれる。多くの複製サイクルを経るほど、核酸配列はより多くの突然変異を受ける。1つまたは複数の突然変異を有する核酸配列から2つの分離した系統が発生すると、その結果生じた2つの系統は同一の親核酸配列を共有し、同一の親変異を有する。これらの系統の「経歴」を遡ってたどると、それらは、共通の分岐点を有しており、その分岐点において2つの系統が共通の祖先から生じたのである。同様に、現在世の中に出回っているウィルスの核酸配列の経歴を遡ってたどると、これらの経歴における節点と呼ばれる分岐点もまた、共通の祖先が子孫系列を生じた点に対応する。
【0058】
本発明に係る計算方法は、最尤原理(maximum likelihood principle)に基づいており、世の中に出回っているウィルスの核酸配列の試料を使用する。試料中のウィルスの配列は、通常、共通のウィルス株、サブタイプまたはタイプに由来するものであるような共通の特徴を有する。系統樹は、ウィルスの核酸が複製される際に核酸が置換される確率を特定する進化モデルを使用することにより構築される。配列中の核酸が異なる点(即ち突然変異の部位)において、本方法では、観測された核酸配列が得られる確率が最大となるように、ヌクレオチドの1つを節点(即ち系統の分岐点)に割り当てる。節点へのヌクレオチドの割当ては、単数または複数の予測された系統樹に基づく。各データセットについて、異なるウィルス株、サブタイプまたはグループに由来するいくつかの配列がアウトグループとして使用され、対象となる配列の系統樹の根が決定される。配列の置換のモデルおよび最尤系統樹が、各データセット(例えばサブタイプおよびアウトグループ)について決定される。最尤系統樹とは、試料において観測される核酸配列を生じる確率が最も高い系統樹である。最尤系統樹の基底の節点に位置する配列は、祖先配列(または最新の共通祖先)と呼ばれる(例えば、図1および図2を参照)。したがって、この祖先配列は、試料中の異なる配列からほぼ等距離にある。
【0059】
最尤系統樹は、世の中に出回っているウィルスの配列の試料を使用する。世の中に出回っているウィルスの配列は、例えば、ウィルス感染者の血液、組織またはその他の生物試料から核酸を抽出し、ウィルスの核酸のシーケンシングを行うことにより決定される(例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Publish., Cold Spring Harbor, N. Y. (1989); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, W. H. Freeman, N. Y. (1990); Ausubel, et al.,上記等を参照)。1つの実施形態として、抽出されたウィルスの核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅され、次いでシーケンシングされてもよい。世の中に出回っているウィルスの試料は、保存されている生物試料からおよび/または世の中に出回っているウィルスの試料から予測的に得られる(例えば、エチオピアに対してインドにおけるHIV−1サブタイプCをサンプリングする)。ウィルス配列は、データベース(例えば、GenBank(登録商標)およびLos Alamos sequence databases)からも同定してもよい。
【0060】
一旦世の中に出回っているウィルスの試料(通常約20〜約50試料)が収集されれば、本発明の計算方法を使用して、1つまたは複数の遺伝子の核酸配列が解析される。1つの方法では、配列中の任意の所定の部位に関して、系統樹上の全ての節点のヌクレオチドが割り当てられる。世の中に出回っているウィルスについて観測される配列を得る確率を最大にするすべての節点に関するヌクレオチドの配置が決定される。この方法を使用して、全節点にわたる状態の結合の尤度が最大にされる。
【0061】
第2の方法は、系統樹上の所定のヌクレオチド部位および所定の節点に関して、系統樹上の他の節点でのヌクレオチドのすべての考え得る割り当てを許容して、世の中に出回っているウィルスについて観測される配列を得る確率を最大にするヌクレオチドを選択することである。この第2の方法は、特定の配置の境界の尤度を最大にする。しかし、これらの方法に関しては、祖先配列の再構築(即ち祖先の状態)は、必ずしも単一の決定された配列のみを生じる必要はない。それらの尤度の順にランクされた多数の祖先配列を選択することができる。
【0062】
HIVの集団に関しては、モデリングの第2層が最尤系統解析に付加され、特に当該層は解析に使用される進化のモデルに付加される。この第2層は、合祖尤度解析を基礎にする。合祖とは、配列の系統の数学的説明であり、集団に作用する過程を考慮に入れる。これらの過程がある程度確実に既知である場合、合祖の使用は、各種類の系統樹に従来の確率を割り当てるために使用することができる。系統樹の尤度を考慮すると、事後の確率は、決定された系統樹が正しい所定のデータであると決定されることができる。一旦系統樹が選定されれば、祖先の状態は、前記と同様に決定することができる。したがって合祖尤度解析は、祖先ウィルス配列(例えば、始祖または最新の共通祖先(MRCA)の配列)の配列を決定するためにも適用することができる。典型的な実施形態では、最尤系統解析は、祖先配列(例えば祖先ウィルス配列)を決定するために適用される。通常、ウィルス系統、サブタイプまたはグループのような共通の特徴を有する20〜50の核酸配列試料(例えば、同一サブタイプの世界的多様性を有する試料)が使用される。他のウィルス(例えば別の株、サブタイプまたはグループ)からの付加的配列が得られ、解析中のウィルス配列を捜し出すためのアウトグループとして使用される。ウィルス配列の試料は、データベース(例えばGenBank(登録商標)およびLos Alamos sequence databases)から、あるいは同様の配列情報の供給源から同定された、現在世の中に出回っているウィルスから決定される。配列は、CLUSTALW(Thompson, et al., Nucleic Acids Res. 22:4673-80(1994)、この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)を使用して整列され、これらのアラインメントは、GDE(Smith, et al.,CABIOS 10:671-75(1994)、この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)を使用して改善される。アミノ酸配列は、核酸配列から翻訳される。ギャップは、それらがコドン間に挿入されるよう操作される。このアラインメント(アラインメントI)は、一義的にアラインメントできない領域が除去されるよう、系統発生的解析のために修正され(Learn, et al., J. Virol. 70:5720-30(1996)、 この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)、アラインメントIIを生じる。
【0063】
これらの配列(アラインメントII)に関する系統発生および祖先の状態の再構築のための適切な進化モデルは、Modeltest 3.0(Posada and Crandall, Bioinformatics 14:817-8(1998))(この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)で実行される場合、赤池情報量基準(AIC)(Akaike, IEEE Trans. Autom. Contr. 19: 716-23 (1974)、この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)を使用して選定される。例えばサブタイプCの祖先配列のための解析に関しては、最適モデルは、両クラスのトランジションに関しては等速度であり、4つのクラス全てのトランスバージョン関しては異なる速度であって、不変部位、ならびに可変部位の部位−部位の速度変動性のΓ分布を伴う(TVM+I+Gモデルとして言及される)。この場合のモデルのパラメータは、例えば、平衡ヌクレオチド頻度:f=0.3576、f=0.1829、f=0.2314、f=0.2290;不変部位の割合=0.2447;Γ分布の形状パラメータ(α)=0.7623;速度マトリックス(R)マトリックス値:RA→C=1.7502、RA→G=RC→T=4.1332、RA→T=0.6825、RC→G=0.6549、RG→T=1。
【0064】
配列(アラインメントII)に関する進化系統樹は、PAUPバージョン4.0b(Swofford, PAUP 4.0: Phylogenetic Analysis Using Parsimony (And Other Methods); Sinauer Associates, Inc. (2000)、この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)で実行される場合、最尤概算(MLE)法を使用して推定される。例えば、HIV−1サブタイプCの配列に関しては、10の異なる亜系統樹の剪定と接木(SPR)ヒューリスティックが、各々異なる無作為の付加の順序を使用して実施することができる。祖先ウィルスヌクレオチド配列は、系統学、データベースからの配列(アラインメントII)、ならびに限界尤度の概算(下記参照)を使用した前記のTVM+I+Gモデルを使用して基底の節点での配列であることが決定される。
【0065】
上に述べた方法においては、コドンとしてアラインメントされたが、その後ヌクレオチドとして再構成される。(ヌクレオチドについて使用されるような4塩基×4塩基速度行列ではなく)起こりうる置換に関する64コドン×64コドン速度行列を使用して、祖先配列をコドンとして再構成する同様な方法を使用することもできる。行列は、アミノ酸のコドンの終止コドンによる置換確率がほぼ0であるという束縛を受ける。
【0066】
場合によっては、決定配列は可変部(例えば、HIV−1−Cに関する可変部V1、V2、V4およびV5)の一部について祖先配列を含まず、あるいはいくつかの短い領域を一義的には整列することができない。以下の手法は、場合によっては、高度な可変部(例えばアラインメントIから欠失されたもの)を含めた完全配列に関するアミノ酸配列を予測するために使用することができる。決定祖先配列は視覚的にアラインメントIと配列されて、GDE(Smith, et al.,上記)を使用して翻訳される。高度な可変部は完全なコドンとして欠失することができるため、翻訳リーディングフレームは保存され、コドンは維持されることができる。アラインメントIIから欠失された領域に関する祖先アミノ酸配列は視覚的に予測され、コンピュータープログラムMacCladeバージョン3.08a(Maddison and Maddison. MacClade-Analysis of Phylogeny and Character Evolution - Version 3. Sinauer Associates, Inc.(1992))を使用したこれらの部位に対する節約法を基礎とした配列再構築を使用して精製される。
【0067】
祖先アミノ酸配列は、場合によっては、特定細胞型における発現のために最適化される。アミノ酸配列は、例えばWisconsin配列解析パッケージ(GCG)、バージョン10のBACKTRANSLATEプログラムならびにコドン使用頻度データベースからのヒト遺伝子コドン表(http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=Homo+sapiens+[gbpri]、この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)を使用して、ある種の細胞型(例えばヒト細胞またはネコ細胞)中での発現のために最適化されたDNA配列に転換することができる。
【0068】
最適化配列は、非最適化祖先配列と同一の、当該遺伝子(例えばenv遺伝子)についてのアミノ酸配列をコードする。最適化配列を有する合成ウィルスは、異なるリーディングフレーム中の付加的な遺伝子における欠失、RNAの二次構造的特徴(例えばHIV−1のRev応答素子(RRE))等の存在のために完全に機能するわけではない。最適化過程は付加的な遺伝子(例えばHIV−1のvpu、tatおよびrev遺伝子)のコード領域に影響を及ぼし得るし、RNAの二次構造を破壊し得る。したがって祖先配列は、半最適化することができる。半最適化配列は、他の特徴に及ばない配列の部分に関しては最適化配列を有するが、それ以外の部分では非最適化祖先配列が代わりに使用される。例えば、HIV−1祖先配列に関しては、最適化された祖先配列は、vpu、tat、revおよびRRE領域に及ばない配列の部分に関して用いられ、一方、「非最適化」祖先配列は、vpu、tat、revおよびRRE領域を重複する配列の部分に関して使用される。
【0069】
<HIV祖先ウィルス配列の系統学的決定>
祖先ウィルス配列は、HIVタイプ1(HIV−1)、HIVタイプ2(HIV−2)またはその他のHIVウィルス、例えばHIV−1サブタイプ、HIV−2サブタイプ、その他のHIVサブタイプ、新たに出現するHIVサブタイプ、ならびに例えば広範に分散している、または地域的に限定された変異株のようなHIV変異株などからの任意の単数または複数の遺伝子に関して決定することができる。例えば祖先ウィルス遺伝子配列は、HIV−1、例えばHIV−1サブタイプA、B、C、D、E、F、G、H、J、AG、AGIならびにグループM、N、Oに由来するenvおよびgag遺伝子に関して、あるいはHIV−2ウィルスまたはHIV−2サブタイプAまたはBに関して決定することができる。特定の実施形態では、祖先ウィルス配列は、HIV−1サブタイプBおよび/またはCに由来するenv遺伝子に関して、またはサブタイプBおよび/またはCに由来するgag遺伝子に関して決定される。他の実施形態では、祖先ウィルス配列は、nef、polまたはその他の付加的な遺伝子またはポリペプチド等のその他のHIV遺伝子またはポリペプチドに関して決定される。
【0070】
現在世の中に出回っているおよび/または以前の世の中に出回っていたウィルスから選択されたHIV−1またはHIV−2遺伝子の核酸配列は、既存のデータベース(例えばGenBank(登録商標)またはLos Alamos sequence databases)から同定することができる。世の中に出回っているウィルスの配列は、組換えDNA法によっても決定することができる(例えば、Sambrook, et al., Molecular cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Publish., Cold Spring Harbor, N.Y.(1989); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, W. H. Freeman, N.Y.(1990); Ausube, et al., 上記、参照)。各データセットに関しては、異なるウィルス系統、サブタイプまたは群からのいくつかの配列は、当該配列の根を決定するためのアウトグループとして使用される。配列置換のモデル、次いで最尤系統が、各データ組(例えばサブタイプおよびアウトグループ)に関して決定される。祖先ウィルス配列は、変異体配列の基底の節点での配列として決定される(例えば、図1および図2参照)。したがってこの祖先配列は、サブタイプ内の異なる配列からほぼ等距離にある。
【0071】
1つの実施形態では、祖先HIV−1グループMサブタイプBのenv配列は、41の異なる単離物を使用して決定された(決定された核酸およびアミノ酸配列は、それぞれTable1およびTable2(配列番号1および配列番号2)に示されている)。図2を参照すると、38のサブタイプB配列および3つのサブタイプD(アウトグループ)配列を使用して、サブタイプB配列の根を特定した。サブタイプB配列は、9カ国からのものであり、多様性を有するサブタイプBの広範な試料に相当する:オーストラリア、8配列;中国、1配列;フランス、5配列;ガボン、1配列;ドイツ、2配列;英国、2配列;オランダ、2配列;スペイン、1配列;米国、15配列。決定された祖先タンパク質は、長さ884アミノ酸である。この祖先ウィルス配列とそれを決定するために用いられた世の中に出回っている系統との間の距離は、平均で12.3%(8.0〜21.0%の範囲)であったが、一方、利用可能な標本の間では、互いに17.3%異なっていた(13.3〜23.2%の範囲)。したがって祖先配列は、概して、任意の他の変異体より任意の所定の世の中に出回っているウィルスにより密接に関連している。他のサブタイプB系統と比較した場合、祖先配列は、アミノ酸レベルで94.6%の同一性を有してUSAD8(Theodore, et al., AIDS Res. Human Retrovir. 12: 191-94 (1996))に最も類似する。
【0072】
意外なことに、HIV−1サブタイプBのenv遺伝子について決定された祖先ウィルス配列は、抗原提示のためにプロセッシングされた場合、多様な免疫学的に活性なペプチドをコードする。ほぼすべての既知のサブタイプBのCTLエピトープのコンセンサスアミノ酸(387/390;99.23%)が、サブタイプBのgp160配列に関して決定された祖先ウィルス配列中に現れる。対照的に、HIV−1サブタイプBの大半のその他の変異体において、エピトープ配列の保存を示す割合は95%を下回る(これは祖先ウィルス配列の必然的な特徴というわけではなく、HIV−1の急速な拡大の結果である)。したがって、このサブタイプBの祖先タンパク質に対する免疫原性の組成物は、同一サブタイプBのHIV−1単離物に対して広範な中和抗体を生み出す。このサブタイプB祖先タンパク質に対する免疫原性の組成物は、抗原特異的T細胞により媒介される広範な細胞応答をも誘起する。
【0073】
別の実施形態では、同様の計算方法を使用して、HIV−1サブタイプCのenv遺伝子配列の祖先ウィルス配列を決定した。HIV−1サブタイプCは、発展途上国において蔓延している。サブタイプCは、世界的に最も一般的なサブタイプであって、HIV−1感染のおよそ30%に関与し、アフリカ、インドおよび中国における流行の主要な構成要因である。HIV−1グループMサブタイプCのenv遺伝子に関する祖先ウィルス配列は、57の異なる単離物(39のサブタイプC配列および18のアウトグループ配列(他のグループMに属するそれぞれのサブタイプからそれぞれ2つずつ);図8)を使用して決定された。決定されたアミノ酸配列は、Table4(配列番号4)に示されている。ヒト細胞中での発現のために最適化された決定核酸配列は、Table3(配列番号3)に示されている。
【0074】
サブタイプC配列は、12のアフリカおよびアジア諸国からであり、世界規模の多様性を有するサブタイプCの広範な試料に相当する:ボツワナ、8配列;ブラジル、2配列;ブルンジ、8配列;中国、1配列;ジブチ、2配列;エチオピア、1配列;インド、8配列;マラウイ、3配列;セネガル、1配列;ソマリア、1配列;ウガンダ、1配列;およびザンビア、3配列。決定された祖先タンパク質は、長さ853アミノ酸である。この祖先ウィルス配列とそれを決定するために使用される世の中に出回っている系統との間の距離は、平均で11.7%(9.3〜14.3%の範囲)であり、一方、利用可能な標本は、平均で互いに16.6%異なっていた(7.1〜21.7%の範囲)。したがって祖先タンパク質配列は、概して、任意の他の変異体より任意の所定の世の中に出回っているウィルスにより密接に関連する。他のサブタイプC系統と比較した場合、祖先配列はMW965(Gao, et al., J Virol. 70:1651-67(1996))と最も類似し、アミノ酸レベルで89.5%の同一性を有する。
【0075】
意外なことに、決定された祖先ウィルス配列は、抗原提示のためにプロセッシングされた場合、広範な免疫学的に活性なペプチドをコードする。ほぼすべての既知のサブタイプCのCTLエピトープのコンセンサス配列(389/396;98.23%)が、サブタイプCのgp160配列に関する決定された祖先ウィルス配列中に現れる。対照的に、HIV−1サブタイプCの典型的変異体(祖先配列を決定するために使用されるもの)において、エピトープ配列の保存の割合は95.19%未満(平均90.36%、64.56〜95.19%の範囲)である。したがって、このサブタイプC祖先ウィルス配列に対するワクチンは同一サブタイプのHIV−1単離物に対する広範な中和抗体を生み出す。このサブタイプC祖先タンパク質に対する免疫原性組成物はまた、抗原特異的T細胞により媒介される広範な細胞応答を誘起する。
【0076】
HIV祖先配列に関する最適化および半最適化配列も提供される。祖先ウィルス配列は、特定の宿主細胞中での発現のために最適化することができる。最適化祖先配列は遺伝子に関し非最適化配列と同一のアミノ酸配列をコードする一方、最適化配列は、異なるリーディングフレームにおける付加的な遺伝子の欠失、RNA二次構造の崩壊等のために、合成ウィルス中で完全に機能するとは限らない。例えばHIV−1のenv配列の最適化は、vpu、tatおよび/またはrevなどの付加的な遺伝子、および/またはRNA二次構造、Rev応答性素子(RRE)を欠失させる場合がある。半最適化配列は、他の遺伝子、RNA二次構造等に及ばない配列の部分に対して最適化配列を使用することにより調製される。特徴的構造が重複する配列の部分に関して(例えばvpu、tat、revおよび/またはRREが重複する領域に関して)、「非最適化」祖先配列が使用される。特定の実施形態では、HIV−1サブタイプBおよびCに関する半最適化祖先ウィルス配列が提供される(Table5(配列番号5)およびTable6(配列番号6)参照)。
【0077】
他の実施形態では、祖先ウィルス配列は、広範に世の中に出回っている変異株または地理的に制限された変異株に関して決定される。例えば、広範囲に分布している(例えば、多数の国にまたは明白な地理的境界のない地域に存在する)HIV−1サブタイプについて試料を収集することができる。同様に、地理的に(例えば、国、地域またはその他の物理的に限定された領域に)制限されたHIV−1サブタイプの試料が収集される。試料中の遺伝子(例えばgagまたはenv)の配列は、組換えDNA法(例えば、Sambrook, et al., 上記、Kriegler, 上記、Ausubel, et al., 上記)により、あるいはデータベース中の情報から決定される。通常、試料の数は、それらの現在の利用可能性、およびウィルスが当該領域中で世の中に出回っていた時間(例えばウィルスが世の中に出回っていた時間が長いほど、多様性は大きく、試料から収集される情報は多い)によるが、約20〜約50の範囲である。次に核酸またはアミノ酸の祖先ウィルス配列が、本明細書中に記載した計算方法を使用して決定される。
【0078】
<FIVの祖先ウィルス配列の系統学的決定>
例えば、FIVサブタイプやFIV変異株を含む、FIV由来の任意の単数または複数の遺伝子について祖先ウィルスの配列を決定することができる。例えば、祖先ウィルスの遺伝子配列は、FIVサブタイプA、B、CおよびD等のFIVのenvまたはgag遺伝子について決定することができる。特定の実施形態においては、祖先ウィルスの配列は、nef、polもしくは他の付加的な遺伝子またはポリペプチド等について決定される。
【0079】
現在世の中に出回っているおよび/または過去に世の中に出回っていたウィルスに由来するFIV遺伝子から選択された核酸配列は、既存のデータベース(例えば、Genbank(登録商標)またはLos Alamos sequence databases)から同定することができる。世の中に出回っているウィルスの配列は、組換えDNA法によっても決定することができる(例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Publish. , Cold Spring Harbor, N. Y. (1989); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, W. H. Freeman, N. Y. (1990); Ausubel, et al., 上記等を参照)。各データセットについて、異なるウィルス株、サブタイプまたはグループに由来するいくつかの配列がアウトグループとして使用され、対象となる配列の系統樹の根が決定される。配列の置換のモデルおよび最尤系統樹が、各データセット(例えばサブタイプおよびアウトグループ)について決定される。祖先配列は、最尤系統樹の基底節点に位置する配列として決定される。したがって、この祖先配列は、サブタイプ内の異なる複数の配列からほぼ等距離にある。
【0080】
1つの実施形態において、祖先FIVサブタイプBのenv配列を、40の異なる単離株を使用して決定した。決定した核酸およびアミノ酸配列をTable7およびTable8に示す(配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号14、配列番号16および配列番号18)に示す。決定した祖先タンパク質の配列は、各々長さ861アミノ酸である。ネコ細胞中での発現のために最適化した、決定した核酸配列をTable9に示す。
【0081】
他の実施形態において、同様の計算方法を使用して、FIVサブタイプA、CまたはDのenv遺伝子の祖先ウィルスの配列を決定した。FIVサブタイプAのenv遺伝子の祖先ウィルスの配列は、62の異なる単離株を使用して決定した。FIVサブタイプCのenv遺伝子の祖先ウィルスの配列は、18の異なる単離株を使用して決定した。FIVサブタイプDのenv遺伝子の祖先ウィルスの配列は、26の異なる単離株を使用して決定した。決定したアミノ酸配列をTable8に示す。ネコ細胞中での発現のために最適化した、決定した核酸配列をTable9に示す。
【0082】
HIVの祖先配列について最適化および半最適化された配列も提供される。祖先ウィルスの配列は、特定の宿主細胞中での発現のために最適化することができる。最適化された祖先配列は、最適化されていない配列と、遺伝子の同一のアミノ酸配列をコードしているものの、最適化した配列は、合成ウィルス中では、異なるリーディングフレームの付加的な遺伝子の欠失、RNAの二次構造の破壊等により、完全に機能しない場合がある。例えば、FIVのenv配列の最適化により付加的な遺伝子の欠失が生じうる。半最適化配列は、配列中で他の遺伝子や二次構造等に及ばない部分について最適化された配列を使用して調製される。それらの特徴を有する部分と重複する部分については、「最適化されていない」祖先配列が使用される。
【0083】
他の実施形態では、祖先ウィルス配列は、広範に世の中に出回っている変異株または地理的に制限された変異株に関して決定される。例えば、広範囲に分布する(例えば、多数の国にまたは明白な地理的境界のない地域に存在する)、FIVサブタイプAまたはB等のFIVサブタイプについて試料を収集することができる。同様に、地理的に(例えば、国、地域またはその他の物理的に限定された領域に)制限されたFIVサブタイプの試料が収集される。試料中の遺伝子(例えばgagまたはenv)の配列は、組換えDNA法(例えば、Sambrook, et al., 上記、Kriegle, 上記、Ausubel, et al., 上記参照)により、あるいはデータベース中の情報から決定される。通常、試料の数は、それらの現在の利用可能性、ならびにウィルスが当該領域中で世の中に出回っていた時間(例えばウィルスが世の中に出回っていた時間が長いほど、多様性は大きく、試料から収集される情報は多い)によるが、約20〜約50の範囲である。次に核酸またはアミノ酸の祖先ウィルス配列が、本明細書中に記載した計算方法を使用して決定される。
【0084】
<祖先ウィルス配列をコードする核酸>
本明細書に記載された方法により祖先ウィルス配列が決定されれば、組換えDNA法を使用して、当該祖先ウィルス配列をコードする核酸を調製することができる。適切な方法としては、(1)祖先ウィルス配列に最も類似する既存ウィルス系統を修飾すること、(2)より短いオリゴヌクレオチド(例えば160〜200ヌクレオチド長)を連結することにより祖先ウィルス配列をコードする核酸を合成すること、または(3)これらの方法の組合せ(例えば、より多様性を有する配列をあらたに合成しながら、祖先ウィルス配列との非常に高い類似性を有する断片を使用して既存配列を修飾することによる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
核酸配列は常法により生成され操作することができる(例えばSambrook, et al., 上記、Kriegler, 上記、Ausubel, et al., 上記参照)。別記しない限り、酵素はすべて、メーカーの使用説明書にしたがって使用される。
【0086】
通常の実施形態では、祖先ウィルス配列をコードする核酸は、長いオリゴヌクレオチドを連結することにより合成される。核酸をあらたに合成することにより、所望の特徴が遺伝子中に容易に導入することができる。このような特徴としては、核酸配列のさらなる操作を可能にするのに便利な制限酵素切断部位、ポリペプチド配列の免疫原性に対して有利に働く、生体内での発現レベルを大きく増大するためのコドン頻度(例えばヒトコドン頻度)の最適化等が挙げられるが、これらに限定されない。長いオリゴヌクレオチドは、固相法を使用して非常に低い誤差率で合成することができる。5’および3’末端の両方で20〜25ヌクレオチド相補配列を使用して設計された長いオリゴヌクレオチドは、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼなどを使用して連結することができる。必要ならば、合成核酸の配列は、DNA配列解析により評価することができる。
【0087】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、化学的に合成することができる。適切な方法としては、例えばBeaucageとCarruthers (Tetrahedron Lett. 22:1859-62(1981))により最初に記載された固相ホスホアミダイトトリエステル法、ならびに自動合成機の使用(例えば、Needham Van Devanter, et al., Nucleic Acids Res. 12:6159-68(1984)参照)が挙げられる。オリゴヌクレオチドの精製は、例えばネイティブアクリルアミドゲル電気泳動によるか、またはPearsonとReanier (J. Chrom. 255:137-49(1983))に記載されたような陰イオン交換HPLCによる。
【0088】
核酸の配列は、例えばMaxam等(Methods in Enzymology 65: 499-560(1980))の化学分解法または2本鎖鋳型をシーケンシングするためのチェーンターミネーション法(例えば、Wallace, et al., Gene 16: 21-26(1981)参照)を使用して評価することができる。サザンブロットハイブリダイゼーション法は、Southern等(J. Mol. Biol. 98: 503(1975))、Sambrook等(上記)またはAusubel等(上記)の文献にしたがって実行することができる。
【0089】
<祖先ウィルス配列の発現>
祖先ウィルス配列をコードする核酸は、適切な発現ベクター(挿入されたポリペプチドをコードする配列の転写および翻訳に必要な調節領域を含有するベクター)中に挿入することができる。種々の宿主ベクター系は、ポリペプチドをコードする配列を発現するために利用することができる。これらの例としては、例えばウィルス(例えばワクチニアウィルス、アデノウィルス、シンドビスウィルス、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウィルス等)を感染させたほ乳類細胞系、ウィルス(例えばバキュロウィルス)を感染させた昆虫細胞系、酵母ベクターを含有する酵母等の微生物、またはバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAを形質転換した細菌が挙げられる。ベクターの発現調節領域は、それらの強さおよび特異性が異なる。利用される宿主−ベクター系によって、多数の適切な転写および翻訳調節領域のうちいずれかを使用することができる。特定の実施形態では、祖先ウィルス配列は、ヒト細胞、その他のほ乳類細胞、酵母または細菌中で発現される。さらに別の実施形態では、祖先ウイルスの配列の免疫学的に活性な領域を含む配列の断片が発現される。
【0090】
発現ベクターに祖先ウィルス配列をコードする核酸を挿入するために、任意の適切な方法を使用することができる。適切な発現ベクターは、通常、適切な転写および翻訳制御シグナルを含む。適切な方法としては、試験管内での組換えDNAおよび合成技術、ならびに生体内での組換え技術(遺伝子組換え)が挙げられる。核酸配列の発現は、遺伝子をコードする核酸が組換えDNA分子で形質転換された宿主中で発現されるように、2番目の
核酸配列により調節することができる。例えば、祖先ウィルス配列の発現は、当業者の間で既知の適切なプロモータ/エンハンサー配列により制御することができる。適切なプロモータとしては、例えばSV40初期プロモータ領域(Beoist and Chambon, Nature 290:304-10(1981))、ラウス肉腫ウィルスの3’末端繰り返し配列に含まれるプロモータ(Yamamoto, et al., Cell 22:787-97(1980))、ヘルペスチミジンキナーゼプロモータ(Wagner, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1441-45 (1981))、サイトメガロウィルスプロモータ、ポリペプチド鎖延長因子EF−1αプロモータ、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster, et al., Nature 296:39-42(1982))、原核生物のプロモータ、例えばβ−ラクタマーゼプロモータ(Villa-Komaroff, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 75:3727-31(1978))またはtacプロモータ(de Boer, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 80:21-25(1983))、植物発現ベクター、例えばカリフラワーモザイクウィルス35S RNAプロモータ(Gardner 他、Nucl. Acids Res. 9:2871-88(1981))、ならびに光合成酵素リブロース2リン酸カルボキシラーゼのプロモータ(Herrera-Estrella, et al., Nature 310:115-20(1984))、酵母またはその他の真菌からのプロモータ配列、例えばGAL7およびGAL4プロモータ、ADH(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモータ、PGK(グリセロールリン酸キナーゼ)プロモータ、アルカリ性ホスファターゼプロモータ等が挙げられる。
【0091】
その他のほ乳類プロモータの例としては、例えば、組織特異性を示す以下の動物転写制御領域が挙げられる:膵臓腺房細胞中で活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift, et al., Cell 38:639-46 (1984); Ornitz, et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 50:399-409(1986); MacDonald, Hepatology 7(1 Suppl.): 42S-51S(1987));膵臓β細胞中で活性であるインスリン遺伝子制御領域(Hanahan, Nature 315:115-22(1985));リンパ細胞中で活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl, et al., Cell 38: 647-58(1984); Adams, et al., Nature 318:533-38(1985); Alexander, et al, Mol. Cell. Biol. 7:1436-44(1987));精巣、乳腺、リンパおよびマスト細胞中で活性であるマウス乳癌ウィルス制御領域(Leder, et al.,Cell 45:485-95(1986));肝臓中で活性であるアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert, et al., Genes Dev. 1:268-76(1987));肝臓中で活性であるα−フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf, et al., Mol. Cell. Biol. 5:1639-48(1985); Hammer, et al., Science 235:53-58(1987));肝臓中で活性であるα1−抗トリプシン遺伝子制御領域(Kelsey, et al., Genes and Devel. 1:161-71(1987));骨髄細胞中で活性であるβ−グロブリン遺伝子制御領域(Magram, et al., Nature 315:338-40(1985); Kollias, et al., Cell 46:89-94(1986));脳のオリゴデンドロサイト中で活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead, et al., Cell 48:703-12(1987));骨格筋中で活性であるミオシン軽鎖−2遺伝子制御領域(Shani, Nature 314:283-86(1985));ならびに視床下部で活性である生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason, et al., Science 234:1372-78(1986))。
【0092】
特定の実施形態では、祖先ウィルス配列をコードする核酸と作用可能なように連結されたプロモータ、1つまたは複数の複製起点、ならびに任意に1つまたは複数の選択マーカー(例えば抗生物質耐性遺伝子)を含むベクターが使用される。選択可能マーカーとしては、例えばアンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン、G418等に対する耐性を付与するものが挙げられる。発現コンストラクトは、例えば祖先ウィルス配列をコードする核酸をpRSECT発現ベクターの制限酵素切断部位中にサブクローニングすることにより作製することができる。このようなコンストラクトは、T7プロモータの制御下で、発現ポリペプチドのアフィニティー精製のためのヒスチジンアミノ末端フラッグ配列付加した祖先ウィルス配列の発現を可能にする。
【0093】
例示的な実施形態では、以下でさらに考察されるように、最大のタンパク質の発現を達成するために非常に高い効率のRNA/タンパク質発現コンポーネント(例えばセムリキ森林ウィルスから)を有する高い効率のDNAトランスファーベクター(pJW4304 SV40/EBVベクター)を使用する高い効率の発現系を使用することができる。pJW4304 SV40/EBVは、Robinson等(Ann. New York Acad. Sci. 27:209-11(1995))およびYasutomi等(J. Virol. 70:678-81(1996))により記載されているように、pJW4303から調製される。
【0094】
祖先ウィルス配列を発現する発現ベクター/宿主系は、当業者に周知の一般的アプローチにより、例えば(a)核酸ハイブリダイゼーション、(b)「マーカー」遺伝子機能の存在または非存在、(c)挿入配列の発現、あるいは(d)標準的な組換えDNA法による形質転換細胞のスクリーニングにより同定することができる。第1のアプローチでは、宿主細胞中に挿入された祖先ウィルス配列の核酸の存在は、挿入された核酸と相同である配列を含むプローブを使用した核酸ハイブリダイゼーションにより検出することができる。第2のアプローチでは、発現ベクター/宿主系は、所望の核酸を含有するベクターの挿入により誘起されるある種の「マーカー」遺伝子機能(例えばチミジンキナーゼ活性、抗生物質に対する耐性、形質転換表現型、バキュロウィルス中での封入体形成等)の存在または非存在に基づいて同定し、選択することができる。例えば、核酸がベクターのマーカー遺伝子配列内に挿入されている場合、祖先ウィルス配列を含有する組換え体は、マーカー遺伝子機能が存在しないことにより同定することができる。
【0095】
第3のアプローチでは、発現ベクター/宿主系は、組換え宿主生物により発現される祖先ウィルス配列のポリペプチドについて検定することにより同定することができる。このような検定は、例えば、試験管内での検定系における祖先ウィルス配列ポリペプチドの物理的または機能的特性(例えば抗体による結合)を基礎にすることができる。第4のアプローチでは、発現ベクター/宿主細胞は、既知の組換えDNA法により形質転換した宿主細胞をスクリーニングすることにより同定することができる。
【0096】
適切な発現ベクター宿主系および増殖状態が一旦確立されれば、当業者の間で既知の方法を使用してそれを増殖させることができる。さらに、挿入核酸配列の発現を調整する、あるいは所望の特異的な方式で遺伝子産物を修飾またはプロセシングする宿主細胞を選択することができる。ある種のプロモータからの発現は、ある種の誘導因子の存在下で増大させることができる。したがって、祖先ウィルス配列の発現を制御することができる。さらに、ポリペプチドの翻訳時および翻訳後のプロセシングおよび修飾(例えばグリコシル化またはリン酸化)のための特徴的および特異的メカニズムを有する異なる宿主細胞を使用することができる。適切な細胞株または宿主系を選定し、確実に発現ポリペプチドの所望の修飾およびプロセシングを行うことができる。例えば、細菌系における発現を使用して、非グリコシル化ポリペプチドを生成することができる。
【0097】
<祖先タンパク質>
本発明はさらに、決定された祖先ウィルス配列に基づく祖先タンパク質に関する。このような祖先タンパク質としては、例えば全長タンパク質、ポリペプチド、その断片、誘導体およびアナログが挙げられる。1つの側面において、本発明は祖先タンパク質のアミノ酸配列を提供する(例えば、Table2、Table4、およびTable8、配列番号2、配列番号4、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、および配列番号30参照)。いくつかの実施形態では、祖先タンパク質は機能的に活性である。祖先タンパク質、断片、誘導体およびアナログは、典型的には所望の免疫原性または抗原性を有し、そして、例えばイムノアッセイに、免疫感作に、ワクチン等に使用することができる。特定の実施形態は、抗体が結合することができる祖先タンパク質、断片、誘導体またはアナログに関する。このような祖先タンパク質、断片、誘導体またはアナログは、当業者の間で既知の手法により、所望の免疫原性に関して試験することができる(例えば、Harlow and Lane、上記、参照)。
【0098】
別の側面では、祖先タンパク質の少なくとも8〜10の連続するアミノ酸を有する断片からなるか、またはそれを含むポリペプチドが提供される。他の実施形態では、断片は祖先タンパク質の少なくとも20または50の連続するアミノ酸を含む。その他の実施形態では、断片は35、100または200アミノ酸よりも長くない。
【0099】
祖先タンパク質誘導体およびアナログは、当業者の間で既知の種々の方法により製造することができる。それらを製造させる操作は、遺伝子またはタンパク質レベルで起こすことができる。例えば祖先タンパク質をコードする核酸は、当業者の間で既知の多数の方法のいずれかにより(例えば、Sambrook, et al., 上記、参照)、例えば保存的な置換、欠失、挿入等を起こすことにより改変することができる。核酸配列は、制限エンドヌクレアーゼを使用して適切な部位で切断され、その後試験管内でさらに酵素により修飾され、所望により単離され、そしてライゲーションすることができる。祖先タンパク質の断片、誘導体またはアナログをコードする核酸の産生に際して、改変した核酸は通常適当な翻訳リーディングフレーム内に残存し、リーディングフレームは、断片、誘導体またはアナログの合成を妨げる翻訳停止シグナルあるいはその他のシグナルにより中断されない。祖先ウィルス配列の核酸は、試験管内または生体内でも突然変異を誘発されて、翻訳、開始および/または終止配列を作製および/または破壊することができる。祖先ウィルス配列をコードする核酸は突然変異を誘発されて、コード領域内に多様性を生じ、および/または新規の制限エンドヌクレアーゼ部位を形成するかまたは既存のものを破壊し、そしてさらに試験管内での改変を促進することができる。当業者の間で既知の突然変異誘発のための任意の技法を使用することができるが、その例としては、化学的突然変異誘発、試験管内での部位特異的な突然変異誘発等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
祖先ウィルス配列の操作は、タンパク質レベルで行うことができる。本発明の範囲内に含まれるのは、合成中または合成後に別個改変される(例えば生体内または試験管内翻訳)祖先タンパク質断片、誘導体またはアナログである。このような改変としては、保存的な置換、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解的切断、抗体分子またはその他の細胞に対するリガンドとの連結等が挙げられる。多数の化学修飾のいずれかが、特異的な化学的な切断(例えば臭化シアンによる)、酵素による切断(例えばトリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ等による)、例えばNaBHアセチル化、ホルミル化、酸化および還元による修飾;ツニカマイシンの存在下での代謝的合成等を含む既知の技法により実行されるが、それに限定されない。
【0101】
さらに、祖先タンパク質の断片、誘導体およびアナログは、化学的に合成することができる。例えば、所望のドメインを含む祖先タンパク質の一部または断片に対応するペプチドは、例えば自動ペプチド合成機を使用した化学的合成法の使用により合成することができる(Hunkapiller, et al., Nature 310:105-11(1984); Stewart and Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chemical Co., Rockford, IL, (1984)も参照)。さらに、所望により、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸アナログを、置換または付加としてポリペプチド配列中に導入することができる。非古典的アミノ酸としては、一般的なアミノ酸のD−異性体、α−アミノイソ酪酸,4−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、セレノシステイン、フルオロアミノ酸、β−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、Nα−メチルアミノ酸等のデザイナーアミノ酸、ならびにその他のアミノ酸アナログが挙げられるが、これらに限定されない。さらにアミノ酸は、D(右旋性)またはL(左旋性)であってよい。
【0102】
祖先タンパク質、断片、誘導体またはアナログは、そのアミノまたはカルボキシ末端で、ペプチド結合により異なるタンパク質のアミノ酸配列と連結される祖先タンパク質、その断片、誘導体またはアナログ(典型的には祖先タンパク質の少なくとも1ドメインまたはモチーフ、あるいは祖先タンパク質の少なくとも10の連続するアミノ酸からなる)を含むキメラまたは融合タンパク質であってもよい。1つの実施形態では、このようなキメラタンパク質は、キメラタンパク質をコードする核酸の組換えによる発現により産生される。キメラ核酸は、適切な核酸配列を適当なリーディングフレーム内で互いに結合し、そして当業者の間で一般に既知の方法によりキメラ産物を発現することにより作製することができる。あるいは、キメラタンパク質は、タンパク質合成技法により(例えば自動ペプチド合成機の使用により)製造することができる。
【0103】
祖先タンパク質は、標準的方法により、例えばクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、分子ふるいクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度の差異により、またはタンパク質の精製のための任意のその他の標準技法により単離、精製することができる。
【0104】
<祖先タンパク質、断片、誘導体およびアナログに対する抗体>
祖先タンパク質(その断片、誘導体およびアナログを含む)は、このような祖先タンパク質と、ならびに世の中に出回っている変異体と免疫特異的に結合する抗体を生成するための免疫原として使用することができる。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、1本鎖抗体、抗原結合抗体断片(例えばFab、Fab’、F(ab’)、Fvまたは超可変領域)ならびにFab発現ライブラリーが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、祖先タンパク質に対するポリクローナルおよび/またはモノクローナル抗体が産生される。他の実施形態では、祖先タンパク質の1ドメインに対する抗体が産生される。さらに他の実施形態では、免疫原性を有する(例えば親水性)と同定される祖先タンパク質の断片は、抗体製造のための免疫原として使用される。
【0105】
当業者の間で既知の種々の手法は、ポリクローナル抗体の製造のために使用することができる。このような抗体の製造のために、種々の宿主動物(例えばウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ラクダ等が挙げられるが、これらに限定されない)は、祖先タンパク質、断片、誘導体またはアナログを注射することにより免疫感作することができる。宿主種によって種々のアジュバントを使用して免疫学的応答を増大することができるが、その例としては、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウム等の無機ゲル、リゾレシチン、プルロニックポリオール、多価陰イオン、ペプチド、オイルエマルジョン等の界面活性剤、テンガイヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(カルメットゲラン桿菌)およびCorynebacterium parvum等の有用であると考えられるヒトアジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
祖先タンパク質、その断片、誘導体またはアナログに対するモノクローナル抗体の調製に関しては、培養中の連続細胞株による抗体分子の産生を提供する任意の技法を使用することができる。このような技法としては、例えばKohlerとMilstein(例えば、Nature 256:495-97(1975)参照)により最初に開発されたハイブリドーマ法、トリオーマ法(例えば、Hagiwara and Yuasa, Hum, Antibodies Hybridomas. 4:15-19(1993); Hering, et al., Biomed. Biochim. Acta 47:211-16(1988)参照)、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(例えば、Kozbor, et al., Immunology Today 4:72(1983)参照)、ならびにヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBV−ハイブリドーマ法(例えば、Cole, et al., In: Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss. Inc., pp. 77-96(1985)参照)が挙げられる。ヒト抗体を使用することができ、ヒトハイブリドーマ(例えば、Cote, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-30(1983)参照)を使用することにより、または試験管内でEBVウィルスでヒトB細胞を形質転換する(例えば、Cote, et al., 上記、参照)ことにより得られる。
【0107】
さらに本発明のために、「キメラ」または「ヒト化」抗体(例えば、Morrison, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-55(1984); Neuberger, et al., Nature 312:604-08(1984); Takeda, et al., Nature 314:452-54(1985)参照)を調製することができる。このようなキメラ抗体は、通常、適切な生物学的活性のヒト抗体分子の遺伝子と一緒に、祖先タンパク質に特異的な抗体分子の非ヒト遺伝子をスプライシングすることにより調製される。非ヒト抗体の抗原結合領域(例えばFab’、F(ab’)、Fab、Fvまたは超可変領域)を、組換えDNA技法によりヒト抗体の枠組み構造中に移し、実質的ヒト分子を産生することが望ましい。このような「キメラ」分子の製造方法は一般的に周知であり、例えば、米国特許第4,816,567号明細書、第4,816,397号明細書、第5,693,762号明細書および第5,712,120号明細書;国際公開第87/02671号パンフレットおよび第90/00616号パンフレット;ならびに欧州特許出願公開239400号明細書(この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)に記載されている。あるいはヒトモノクローナル抗体またはその一部は、Huse等(Science 246:1275-81(1989))により一般的に記述された方法にしたがって祖先タンパク質と特異的に結合する抗体をコードするDNA分子について、先ずヒトB細胞cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。次にDNA分子がクローン化され、所望の特異性を有する抗体(または結合ドメイン)をコードする配列を得るために増幅することができる。ファージディスプレイ法は、祖先タンパク質、その断片、誘導体またはアナログと結合する抗体を選定するためのもうひとつの技法を提供する(例えば、国際公開第91/17271号パンフレットおよび国際公開第92/01047号パンフレット;Huse, et al., 上記、参照)。
【0108】
本発明の別の側面によれば、1本鎖抗体の産生に関して記載された技法(例えば、米国特許第4,946,778号明細書および第5,969,108号明細書参照)は、1本鎖抗体を産生するために適用することができる。本発明のさらなる側面では、Fab発現ライブラリーの構築に関して記載された技法(例えば、Huse, et al., 上記、参照)を利用して、祖先タンパク質、その断片、誘導体またはアナログに対する所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速且つ容易な同定が可能になる。
【0109】
分子のイデオタイプを含有する抗体は、既知の技法により生成することができる。例えば、このような断片としては、抗体分子のペプシン消化により産生することができるF(ab’)断片、F(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成することができるFab’断片、パパインおよび還元剤で抗体分子を処理することにより生成することができるFab断片、ならびにFv断片が挙げられるが、これらに限定されない。組換えFv断片も、例えば米国特許第5,965,405号明細書に記載された方法を使用して真核生物細胞中で産生することができる。
【0110】
抗体の産生において、所望の抗体に関するスクリーニングは、当業者の間で既知の技法(例えばELISA(酵素免疫定量法))により達成される。一例において、祖先タンパク質の特異的ドメインを認識する抗体を使用して、そのドメインを含有するポリペプチドと結合する生成物を生産する、得られたハイブリドーマを検定することができる。祖先タンパク質のドメインに特異的な抗体も提供される。
【0111】
祖先タンパク質(断片、誘導体およびアナログを含む)に対する抗体は、当業者の間で既知の方法にしたがって、受動的な抗体処理のために使用することができる。抗体は、ウィルス感染を予防または治療するために個体に導入することができる。通常、このような抗体療法は、ワクチン接種プロトコルに対する補助療法として実施される。抗体は前記と同様に製造され、そしてポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよいし、静脈内に、腸内に(例えば腸溶性被覆錠剤形態として)、エアロゾルにより、経口的に、経皮的に、経粘膜的に、胸膜腔内に、鞘内に、またはその他の適切な経路により投与することができる。
【0112】
<免疫原性組成物およびワクチン>
本発明は、ワクチン等の免疫原性組成物も提供する。本発明の配列を使用するワクチン(「デジタルワクチン」)の開発の一例を、図4に示す。本発明は、HIV祖先ウィルス配列(例えばHIVのenvもしくはgag遺伝子またはポリペプチド;またはFIVのenv遺伝子またはポリペプチド)を使用してワクチンを製造するための新しい方法も提供する。このような祖先ウィルス配列は、典型的には、実際の生物学的存在である始祖ウィルス(「ウィルスのイブ」)の構造に対応する。
【0113】
<製剤>
免疫原的有効量の1つまたは複数の祖先ウィルスタンパク質配列あるいはその断片、誘導体またはアナログを含有する免疫原性組成物およびワクチンが提供される。祖先タンパク質配列中の免疫原性エピトープは当業者の間で既知の方法により同定され、それらのエピトープを含有するタンパク質、断片、誘導体またはアナログは、種々の方法により、ワクチン組成物中にデリバリーすることができる。適切な組成物としては、例えばリポペプチド(例えば、Vitiello 他、J. Clin. Invest. 95:341(1995))、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコライド)(「PLG」)ミクロスフェアに封入されたペプチド組成物(例えば、Eldridge, et al., Molec. Immunol. 28:287-94(1991); Alonso, et al., Vaccine 12:299-306(1994); Jones, et al., Vaccine 13:675-81(1995)参照)、免疫刺激複合体(ISCOMS)中に含入されたペプチド組成物(例えば、Takahashi, et al., Nature 344:873-75(1990); Hu, et al., Clin. Exp. Immunol. 113:235-43(1998)参照)、多価抗原ペプチド系(MAP)(例えば、Tam, Pro. Natl. Acad. Sci. USA. 85:5409-13(1988); Tam, J. Immunol. Methods 196:17-32(1996)参照)、ウィルスデリバリーベクター(例えば、Perkus, et al., In: Concepts in vaccine development, Kaufmann(ed.), p.379(1996)参照)、ウィルス由来または合成起源の粒子(例えば、Kofler, et al., J. Immunol. Methods. 192:25-35(1996); Eldridge, et al., Sem. Hematol. 30: 16 (1993); Falo, et al., Nature Med. 7:649(1995)参照)、アジュバント(例えば、Warren, et al., Annu. Rev. Immunol. 4:369(1986); Gupta, et al., Vaccine 11:293(1993)参照)、リポソーム(例えば、Reddy, et al., J. Immunol. 148:1585(1992); Rock, Immunol. Today 17:131(1996)参照)、あるいは裸のまたは粒子吸収cDNA(例えば、Shiver, et al., In: Concepts in vaccine development, Kaufmann(ed.), p.423(1996)参照)が挙げられる。受容体媒介性ターゲッティングとしてもしられる毒素標的化デリバリー法、例えばAvant Immunotherapeutics, Inc. (Needham, Massachusetts)のものも使用することができる。
【0114】
さらに、本発明の免疫原性組成物およびワクチンとともに使用することができる有用な担体は当業者の間で周知であり、その例としては、例えばチログロブリン、ヒト血清アルブミン等のアルブミン、破傷風毒素、ポリL−リシン、ポリL−グルタミン酸等のポリアミノ酸、インフルエンザ、B型肝炎ウィルスコアタンパク質等が挙げられる。組成物およびワクチンは、生理学的に耐容な(許容可能な)希釈剤、例えば水または生理食塩水、典型的にはリン酸緩衝化生理食塩水を含有し得る。組成物およびワクチンは、典型的にはアジュバントも含む。不完全フロイントアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウムまたはミョウバン等のアジュバントは、当業者の間で周知の物質の例である。さらに、本明細書中に開示されているように、CTL応答は、祖先タンパク質(またはその断片、誘導体またはアナログ)を脂質、例えばトリパルミトイル−S−グリセリルシステイニル−セリル−セリン(PCSS)と結合させることにより開始することができる。
【0115】
本明細書中にさらに詳細に開示されているように、注射、エアロゾル、経口、経皮、経粘膜、胸膜腔内、鞘内またはその他の適切な経路により、本発明にしたがって祖先ウィルス配列タンパク質の組成物を含有する組成物またはワクチンで免疫感作する場合、宿主の免疫系は、所望の抗原に特異的な大量のCTL、HTLおよび/または抗体を産生することにより組成物またはワクチンに応答する。したがって宿主は、通常は、後の感染に対して少なくとも部分的に免疫になるか、または進行中の慢性感染の発症に対して少なくとも部分的に耐性になるか、あるいは少なくとも何らかの治療の利益を享受する。
【0116】
治療的または予防的免疫感作に関しては、祖先タンパク質(断片、誘導体およびアナログを含む)は、ウィルスまたは細菌ベクターによっても発現することができる。発現ベクターの例としては、弱毒化ウィルス宿主、例えばワクチニアまたは鶏痘が挙げられる。1つの実施形態では、このアプローチは、例えばポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現するためのベクターとしてのワクチニアウィルスの使用を包含する。急性または慢性感染宿主中への、あるいは非感染宿主中への導入時に、組換えワクシニアウィルスは免疫原性タンパク質を発現し、それにより宿主CTL、HTLおよび/または抗体応答を引き出す。免疫感作プロトコルにおいて有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号明細書(この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)に記載されている。本発明のペプチドの治療的投与または免疫感作に有用な広範な、アデノウィルスおよびアデノ関連ウィルスベクター、レトロウィルスベクター、Salmonella typhimuriumベクター、無毒化炭疽菌毒素ベクター、アルファウィルス等の種々のその他のベクターも、本明細書中の説明から当業者に明らかになるように、使用することができる。使用することができるアルファウィルスベクターとしては、例えばシンドビスおよびベネズエラウマ脳脊髄炎(VEE)ウィルスが挙げられる(例えば、Coppola, et al., J. Gen. Virol. 76:635-41(1995); Caley, et al., Vaccine 17:3124-35(1999); Loktev, et al., J. Biotechnol. 44:129-37(1996)参照)。
【0117】
1つまたは複数の祖先タンパク質(断片、誘導体またはアナログを含む)をコードするポリヌクレオチド(例えばDNAまたはRNA)も、患者に投与することができる。このアプローチは、例えばWolff等(Science 247:1465(1990))に、米国特許第5,580,859号明細書、第5,589,466号明細書、第5,804,566号明細書、第5,739,118号明細書、第5,736,524号明細書、第5,679,647号明細書および国際公開第98/04720号パンフレットに、そして以下で詳細に記載されている。DNAに基づくデリバリー技法の例としては、「裸DNA」、促進(ブピビカイン、ポリマーまたはペプチド媒介性)デリバリー、陽イオン性脂質複合体、粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性デリバリー(例えば、米国特許第5,922,687号明細書参照)が挙げられる。
【0118】
ワクチン接種の1手段としてのタンパク質抗原をコードする裸プラスミドDNAの直接注入は、過去10年間に開発された、いくつかの(例えばHIVの)デリバリーおよび発現系の中で、大いに注意を引くものである。マウスモデルでは、ならびに大型動物モデルにおいては、体液性および細胞性の両免疫応答が容易に誘導されて、いくつかの場合には試験感染に対する防御免疫を生じる。セムリキ森林ウィルス(SFV)レプリコンも、例えば裸DNA免疫感作において使用することができる。SFVは、アルファウィルス科に属し、この場合ゲノムは、それ自体のレプリカーゼをコードする正の極性を有する1本鎖RNAからなる。SFV構造遺伝子を当該遺伝子に取り替えることにより、総細胞タンパク質の25%という高い発現レベルが得られる。プラスミドベクターを上回るこのアルファウィルスのもうひとつの利点は、その非持続性である。当該抗原は、高レベルで、しかし短期間(通常<72時間)発現される。対照的に、プラスミドベクターは、一般に長時間にわたって当該抗原の合成を誘導し、外来DNAの染色体組込みおよび細胞の形質転換の危険に曝す。さらに抗原持続性または少量の抗原の反復接種は、寛容を誘導することが実験的に示されている。したがって長期抗原合成は、理論的に、免疫よりむしろ非応答性を生じさせうる。
【0119】
祖先タンパク質、断片、誘導体およびアナログは、生体内または生体外でも目的物に導入することができる。例えば祖先ウィルス配列は、限定された細胞集団中に導入することができる。遺伝子導入のための適切な方法としては、例えば以下のものが挙げられる。
1)直接遺伝子導入(例えば、Wolff, et al., Science 247: 1465-68(1990)参照)。
2)リポソームが媒介するDNA導入(例えば、Caplen, et al., Nature Med. 3:39-46(1995); Crystal, Nature Med. 1:15-17(1995); Gao and Huang, Biochem. Biophys. Res. Comm. 179:280-85(1991)参照)。
3)レトロウィルスが媒介するDNA導入(例えば、Kay, et al., Science 262:117-19(1993); Anderson, Science 256:808-13(1992)参照)。レトロウィルスプラスミドベクターが得られるレトロウィルスとしては、レンチウィルスが挙げられる。それらの例としてはさらに、モロニーマウス白血病ウィルス、脾臓壊死ウィルス、レトロウィルス、例えばラウス肉腫ウィルス、ハーベイ肉腫ウィルス、トリ白血病ウィルス、テナガザル白血病ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、骨髄増殖性肉腫ウィルスおよび乳癌ウィルスが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、レトロウィルスプラスミドベクターは、モロニーマウス白血病ウィルスから得られる。遺伝子療法におけるレトロウィルスベクターの使用を示す例としては、以下のものが挙げられる:Clowes 他、(J. Clin. Invest. 93:644-51(1994); Kiem 他、(Blood 83:1467-73(1994);SalmonsおよびGunzberg (Human Gene Therapy 4:129-41(1993);およびGrossmanおよびWilson (Curr. Opin. In Genetics and Devel. 3:110-14(1993))。
4)DNAウィルスが媒介するDNA導入。このようなDNAウィルスとしては、アデノウィルス(例えばAd−2またはAd−5に基づくベクター)、ヘルペスウィルス(通常は、単純ヘルペスウィルスベースのベクター)およびパルボウィルス(例えば「欠陥」または非自律性パルボウィルスベースのベクターまたはAAV−2ベースのベクター等のアデノ関連ウィルスベースのベクター)(例えば、Ali, et al., Gene Therapy 1:367-84(1994);米国特許第4,797,368号明細書および第5,139,941号明細書参照)(この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)。アデノウィルスは、広範な宿主範囲を有し、静止性の、または最後まで分化した細胞、例えばニューロンまたは肝細胞に感染することができるし、本質的に非発癌性と思われる点で利点がある。アデノウィルスは、宿主ゲノム中に組み込まれるとは考えられない。それらは染色体外に存在するため、挿入性突然変異誘発の危険は大いに低減される。アデノ関連ウィルスは、アデノウィルスベースのベクターと同様の利点を示す。しかしながらAAVは、ヒト第19染色体上での部位特異的挿入を示す。
【0120】
KozarskyとWilson(Current Opinion in Genetics and Development 3:499-503(1993))は、アデノウィルスベースの遺伝子療法の再検討を示している。Bout等(Human Gene Therapy 5:3-10(1994))は、アカゲザルの呼吸上皮に遺伝子を導入するためのアデノウィルスベクターの使用を実証する。Herman等(Human Gene Therapy 10:1239-49(1999))により、フェーズIの臨床試験におけるヒト前立腺中への単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子を含有する複製欠陥アデノウィルスの前立腺内への注入と、その後のプロドラッグ・ガンシクロビルの静脈内投与が記載されている。遺伝子療法におけるアデノウィルスの使用のその他の例は、Rosenfeld等(Science 252:431-34(1991));Rosenfeld等(Cell 68:143-55(1992));Mastrangeli等(J. Clin. Invest. 91:225-34(1993));Thompson(Oncol. Res. 11:1-8(1999))に見出することができる。
【0121】
当該祖先ウィルス配列を導入するための特定のベクター系の選定は、種々の因子によっている。重要な一因子は、標的細胞集団の性質である。レトロウィルスベクターは広範に研究され、そして多数の遺伝子療法用途に用いられてきたが、しかしこれらのベクターは一般に、非分裂中の細胞を感染させるには適していない。さらにレトロウィルスは、発癌性に対する潜在性を有する。しかしながらレンチウィルスベクターの分野における近年の発達により、これらの制限のいくつかを回避することができる(Naldini, et al., Science 272:263-67(1996)参照)。
【0122】
祖先タンパク質あるいはその断片、誘導体またはアナログをコードする核酸を含有する任意の適切な発現ベクターは本発明にしたがって使用することができる、と当業者は理解するだろう。このようなベクターを構築するための技術は既知である(例えば、Anderson, Nature 392:25-30(1998); Verma, Nature 389:239-42(1998)参照)。標的部位へのベクターの導入は、既知の技法を使用することで達成することができる。
【0123】
もうひとつの実施形態では、非常に高効率性のRNA/タンパク質発現系(セムリキ森林ウィルス)をもつDNA導入ベクター(pJW4304 SV40/EBVベクター(pJW4304 SV40/EBVベクターは、Robinson, et al., Ann. New York Acad. Sci. 27:209-11(1995)およびYasutomi, et al., J. Virol. 70: 678-81 (1996)により記載されているpJW4303から調製された))を使用する新規発現系が、安全且つ安価なワクチンを使用してワクチン接種された宿主細胞中での最大タンパク質発現を達成するために使用される。SFVcDNAは、例えばサイトメガロウィルス(CMV)プロモータの制御下に置かれる(図7参照)。慣用的に用いられているDNAベクターと異なり、CMVプロモータは、抗原をコードする核酸の発現を直接駆動しない。代わりにそれは、組換えSFVレプリコンRNAの転写物の合成を制御する。このRNA分子の翻訳は、組換えRNAの細胞質自己増幅を触媒するSFVレプリカーゼ複合体を生成し、その結果として実際的に抗原をコードするmRNAを高レベルで生成する。ベクターデリバリー後、トランスフェクションされた宿主細胞は2〜3日以内に死滅する。本発明においては、envおよび/またはgag遺伝子は通常このベクター中でクローン化される。ノーザンブロット、ウエスタンブロット、SDS−PAGE、免疫沈降検定およびCD4結合検定を使用する試験管内での実験は、タンパク質発現レベル、タンパク質特性、発現持続時間およびベクターの細胞障害作用を評価することによりこの系の効率を決定するために、下記のように実施することができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、祖先タンパク質(その断片、誘導体またはアナログを含む)は、それを必要とする被験者に投与される。初期治療における免疫感作のための投与量は一般に、低い方の値が約1、5、50、500または1,000μg、および高い方の値が10,000、20,000、30,000または50,000μgである単位投与量範囲で生じる。ヒトに関する投与量値は、典型的には約500μg〜50,000μg/70kg患者の範囲である。数週間〜数ヶ月にわたる増加する処方に従った約1.0μg〜約50,000μgのポリペプチドの増加する投与量は、患者の血液から得られた抗体レベルまたはCTLおよびHTLの特異的活性を測定することにより決定した場合の患者の応答および症状に応じて投与することができる。
【0125】
タンパク質または核酸組成物のネコ用の単位用量の形態は、典型的には、使用可能な担体、通常は水担体のネコ用の単位用量を含む製剤組成物中に含入され、そしてヒトへのこのような組成物の投与にあたって使用される体積であることが当業者に既知である所定の流体の体積で投与される(例えば、Remington “Pharmaceutical Sciences”, 17 Ed., Gennaro (ed.), Mack Publishing Co., Easton, Pennsylvania(1985)参照)。
【0126】
祖先タンパク質および核酸は、リポソームを介しても投与され、これはリンパ組織等の特定の組織に対してペプチドを標的化するのに、あるいは感染細胞に対して選択的に標的化するのに、ならびに組成物の半減期を増大させるのに役立つ。リポソームとしては、エマルション、発泡体、ミセル、不溶性単一層、液晶、リン脂質分散液、ラメラ層等が挙げられる。これらの調製において、デリバリーされるタンパク質または核酸は、単独でまたはリンパ細胞の間で流布している受容体と結合する分子、例えばCD45抗原等と結合するモノクローナル抗体と一緒に、あるいはその他の治療用または免疫原性組成物と一緒に、リポソームの一部として組入れられる。したがって、所望のタンパク質または核酸で満たされたまたは装飾されたリポソームは、リンパ細胞の部位に向けられ、そこでは、リポソームは次に、タンパク質組成物を細胞にデリバリーする。本発明にしたがって使用するためのリポソームは、一般的に中性および負電荷リン脂質およびステロール、例えばコレステロールを含入する標準的な小胞を形成する脂質から生成される。脂質の選定は、一般的には、例えばリポソームサイズ、酸不安定性および血流中のリポソームの安定性の考慮により導き出される。種々の方法が、例えばSzoka, et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467(1980)ならびに米国特許第4,235,871号明細書、第4,501,728号明細書、第4,837,028号明細書および第5,091,369号明細書に記載されたように、リポソームを調製するために利用可能である。
【0127】
免疫系の細胞をターゲッティングするために、リポソーム中に組入れられるリガンドとしては、例えば所望の免疫系細胞の細胞表面決定基に特異的な抗体またはその断片が挙げられる。タンパク質または核酸を含有するリポソーム懸濁液は、例えば静脈内に、局部的に、局所的等で、とりわけ投与方法は、デリバリー中のタンパク質または核酸等によって変わる用量で、投与することができる。
【0128】
固体組成物に関しては、慣用される非毒性固体担体が用いられ、その例としては例えば医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等が挙げられる。経口投与に関しては、通常使用される賦形剤、例えば前記の担体、および一般的に10〜95%で、典型的には25%〜75%の濃度での活性成分、即ち祖先タンパク質または核酸のいずれかを組入れることにより、製薬上使用可能な非毒性組成物が生成される。
【0129】
エアロゾル投与に関しては、免疫原性タンパク質または核酸は、通常、細かく粉砕された形態で、界面活性剤および噴射剤とともに存在する。ペプチドの適切なパーセンテージは約0.01重量%〜20重量%、典型的には約1重量%〜10重量%である。界面活性剤は、もちろん非毒性であり、そして通常は噴射剤中で可溶性である。このような物質の代表は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸およびオレイン酸等の約6〜22個の炭素原子を含有する脂肪酸と、脂肪族多価アルコールまたはその環状無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合エステル、例えば混合または天然アシルグリセロールを使用することができる。界面活性剤は、組成物の約0.1重量%〜約20重量%、典型的には0.25〜5%を構成することができる。組成物の残余は、普通は噴射剤である。例えば鼻腔内デリバリーのためにレシチンを使用するように、所望により担体も含有させることができる。
【0130】
<祖先ウィルス配列により誘起される免疫応答>
祖先タンパク質(断片、誘導体およびアナログを含む)は、上記のようにワクチンとして使用することができる。「デジタルワクチン」と呼ばれるこのようなワクチンは、通常、既存ウィルスの任意の配列により、またはコンセンサス配列によりコードされるタンパク質抗原を含むワクチンより広い、世の中に出回っている系統の分画に対する中和抗体および/またはウィルス(例えばHIVまたはFIV)特異的CTLを引き出すものについてスクリーニングされる。このようなデジタルワクチンは、通常、祖先ウィルス配列が得られたサブタイプと同一のウィルス(例えばHIV−1ウィルス、FIVウイルス)のサブタイプにより感染を試みられた場合に、防御をさせる。
【0131】
本発明は、祖先ウィルス遺伝子配列の機能を解析するための方法も提供する。例えば1つの実施形態では、HIVのgp160の祖先ウィルス遺伝子配列は、例えばCD4結合、コレセプター(co-receptor)結合、受容体特異性(例えばCCR5受容体との結合)、タンパク質構造および細胞融合を引き起こす能力といった機能に関する検定により解析される。祖先配列は成育可能ウィルスを生成することができるが、しかしこのような成育可能ウィルスは好ましい結果のワクチンを得るためには必要でない。例えば正確に折りたたまれないgp160祖先は、普通は免疫系に埋もれさせるエピトープを露出させることにより、より免疫原性になることができる。さらに祖先ウィルス配列はワクチンとして有効に使用することができるが、しかしこのような配列は、免疫原(例えばワクチン)として使用される場合、tatまたはrevのようなタンパク質をコードする代替的オープンリーディングフレームを含む必要がない。
【0132】
したがって1つの観点では、マウスは祖先タンパク質で免疫感作され、体液性および細胞性免疫応答に関して試験される。典型的には、5〜10匹のマウスが、例えば50μL容量中に祖先ウィルス配列をコードするgagおよび/またはenv遺伝子を含有するプラスミドを皮下または筋内注射される。2つの対照群は、典型的にはその結果を説明するために使用される。1つの対照群は、標準的な実験室系統(例えばHIV−1−IIIB)からのgagまたはenv遺伝子を含有する同一ベクターを注射される。第2対照群は、いかなる挿入物も有さない同一ベクターを注射される。gagまたはenvタンパク質に対する抗体の滴定は、下記のように、標準イムノアッセイ(例えばELISA)を使用して実施される。中和抗体は、pNL4−3(HIV−1−IIIB)等のサブタイプ特異的実験室HIV−1系統、ならびにHIV−1感染個体からの一次単離物により解析される。広範な一次単離物を中和する祖先ウィルス配列タンパク質誘導中和抗体の能力は、免疫原性またはワクチン組成物を示す一因子である。同様の研究は、大型動物、例えば非ヒト動物(例えばマカクザル)またはヒトで実施することができる。
【0133】
<祖先タンパク質誘導抗体を滴定するためのイムノアッセイ>
試料中の抗体を検出するための当業者に既知の種々の検定がある(例えば、Harlow and Lane, 上記、参照)。概して、祖先タンパク質ワクチンで免疫感作された検体中の抗体の存在または非存在は、(a)免疫感作検体から得られた生物学的試料を1つまたは複数の祖先タンパク質(その断片、誘導体またはアナログを含む)と接触させ、(b)(単数または複数の)祖先タンパク質と結合する抗体のレベルを試料中で検出し、そして(c)抗体のレベルをあらかじめ決められたカットオフ値と比較することにより決定することができる。
【0134】
典型的な実施形態では、検定は、試料からの抗体と結合しそして試料から除去するために固体支持体上に固定された祖先タンパク質(断片、誘導体またはアナログを含む)の使用を包含する。結合抗体は次に、レポーター基を含有する検出試薬を使用して検出することができる。適切な検出試薬としては、抗体/祖先タンパク質複合体およびレポーター基で標識された遊離タンパク質と結合する抗体を含む(例えば半競合試験において)。あるいは、当該祖先タンパク質と結合する抗体がレポーター基で標識され、抗原を試料とともにインキュベートした後に固定化された抗原との結合が可能になる競合検定が利用することができる。試料の構成成分が当該祖先タンパク質との標識化抗体の結合を抑制する程度は、固定化された祖先タンパク質との試料の反応性を示す。
【0135】
抗原が取り付けられ得る固体支持体は、当業者に既知の任意の固体物質であってよい。例えば固体支持体は、マイクロタイタープレート中の試験ウェル、あるいはニトロセルロース膜またはその他の適切な膜であってよい。あるいは支持体は、ビーズまたはディスク、例えばガラス、ガラス繊維、ラテックスまたはポリスチレンもしくはポリ塩化ビニル等のプラスチック材料であってよい。支持体は、磁気を帯びた粒子または光ファイバーセンサー、例えば米国特許第5,359,681号明細書(この記載内容は引用により本発明に組み込まれているものとする)に開示されているものであってよい。
【0136】
祖先タンパク質は、当業者に既知の種々の技法を使用して固体支持体に結合することができる(これは特許および科学文献中に詳細に記載されている)。本発明において、「結合された」という用語は、吸着等の非共有結合および共有結合の両者を意味する(例えば、Pierce Immunotechnology Catalog and Handbook, at A12-A13(1991)参照)。
【0137】
ある種の実施形態では、検定は酵素免疫定量法(ELISA)である。この検定は、当該祖先タンパク質を認識する試料内に存在する抗体が固定タンパク質と結合されるように、まず、固体支持体上に、一般的にはマイクロタイタープレートのウェル上に固定された祖先タンパク質を試料と接触させることにより実施することができる。次に非結合試料を固定した祖先タンパク質から除去し、固定抗体−タンパク質複合体と結合することができる検出試薬が付加される。次に固体支持体に結合されたままの検出試薬の量が、特定の検出試薬に関して適切な方法を使用して決定される。
【0138】
特に、祖先タンパク質が前記のように支持体上に固定されれば、支持体上の残りのタンパク質結合部位は、典型的には遮断される。当業者に既知の任意の適切なブロッキング剤、例えばウシ血清アルブミンまたはTween(登録商標)20(Sigma Chemical Co., St Louis, Mo)が使用することができる。次に固定祖先タンパク質は試料とともにインキュベートされ、抗体がタンパク質と結合される。試料は、インキュベーション前に適切な希釈剤、例えばリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で希釈することができる。概して、適切な接触時間(インキュベーション時間)は、免疫感作検体の生物学的試料内の抗体の存在を検出するのに十分な時間である。平衡を達成するのに必要な時間は、時間中に起こる結合のレベルを検定することにより容易に決定することができる、と当業者は理解するだろう。室温では、約30分のインキュベーション時間が一般的に十分である。
【0139】
非結合試料は、適切な緩衝液、例えば0.1%Tween(登録商標)20を含有するPBSで固体支持体を洗浄することにより除去することができる。次に検出試薬が固体支持体に付加することができる。適切な検出試薬は、固定された抗体−タンパク質複合体と結合し、そして当業者に既知の種々の手段のいずれかにより検出することができる任意の化合物である。典型的には、検出試薬は、レポーター基に結合された結合物質(例えばプロテインA、プロテインG、免疫グロブリン、レクチンまたは遊離抗原)を含有する。適切なレポーター基としては、酵素(例えば西洋わさびペルオキシダーゼまたはアルカリ性ホスファターゼ)、基質、補因子、阻害剤、染料、放射性核種、発光基、蛍光基およびビオチンが挙げられる。結合物質とレポーター基との結合は、当業者に既知の標準方法を使用して達成することができる。種々のレポーター基に結合される前の一般結合物質は、多数の販売元(例えばZymed Laboratories, San Francisco, CAおよびPierce, Rockford, IL)から購入することができる。
【0140】
次に検出試薬が、結合抗体を検出するのに十分な時間、固定抗体−タンパク質複合体とともにインキュベートされる。適切な時間は、一般的にメーカーの使用説明書から、あるいは時間中に起こる結合のレベルを検定することにより決定することができる。次に結合していない検出試薬が除去され、レポーター基を使用して結合した検出試薬が検出される。レポーター基を検出するために使用される方法は、レポーター基の性質によっている。放射性基に関しては、シンチレーション計数法またはオートラジオグラフィー法が一般的に適している。分光解析法は、染料、発光基および蛍光基を検出するために使用することができる。ビオチンは、異なるレポーター基(一般に、放射性基または蛍光基または酵素)に結合されたアビジンを使用して検出することができる。酵素レポーター基は一般に、基質を付加し(一般的に特定時間の間)、その後反応産物の分光解析またはその他の解析を実施することにより検出することができる。
【0141】
試料中の抗祖先タンパク質抗体の存在または非存在を決定するために、固体支持体に依然として結合されるレポーター基から検出されたシグナルは、一般的に、あらかじめ決められたカットオフ値に対応するシグナルと比較される。1つの実施形態では、カットオフ値は、固定祖先タンパク質が免疫感作していない検体からの試料とともにインキュベートされた場合に得られる平均シグナルである。
【0142】
関連する実施形態では、検定は迅速フロースルーまたはストライプ試験の形式で実施され、この場合、祖先タンパク質は、例えばニトロセルロース、ナイロン、PVDF等の膜上に固定される。フロースルー試験では、試料内の抗体は、試料が膜を通過すると、固定されたポリペプチドと結合する。検出試薬(例えばプロテインA−金コロイド)は次に、検出試薬を含有する溶液が膜を通して流れる際に、抗体−タンパク質複合体に結合する。次に結合検出試薬の検出は、前記のように実施することができる。ストライプ試験の形式では、祖先タンパク質が結合された膜の一端は、試料を含有する溶液中に浸される。試料は検出試薬を含有する領域を通って固定祖先タンパク質の領域に、膜に沿って移動する。タンパク質での検出試薬の濃度は、試料中の抗祖先タンパク質抗体の存在を示す。典型的には、その部位での検出試薬の濃度は、視覚的に読取られ得る線のようなパターンを生じる。このようなパターンの非存在は、陰性の結果を示す。概して、膜上に固定されるタンパク質の量は、生物学的試料が上記のように陽性シグナル(例えばELISAにおいて)を生成するのに十分である抗体のレベルを含有する場合、視覚的に識別可能なパターンを生じるよう選定される。典型的には、膜上に固定されるタンパク質の量は、約25ng〜約1μg、さらに典型的には約50ng〜約500ngの範囲である。このような試験は、典型的には極少量(例えば1滴)の被験者血清または血液を使用して実施することができる。
【0143】
<細胞傷害性Tリンパ球の検定>
FIVまたはHIV−1感染等の、感染の治療または検出における別の因子は、細胞性免疫応答、特にCD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の関与する細胞性免疫応答である。細胞傷害性Tリンパ球検定は、標準的な方法を使用して前記と同様に、同種および異種HIV系統に対する祖先ウィルス配列を使用したサブゲノム免疫感作後に細胞性免疫応答をモニタリングするために使用することができる(例えば、Burke, et al., 上記; Tigges, et al., 上記、参照)。
【0144】
T細胞応答を検出するために利用される慣用的な検定としては、例えば増殖検定、リンホカイン分泌検定、直接細胞傷害性検定、限定希釈検定等が挙げられる。例えば、祖先タンパク質とともにインキュベートされた抗原提示細胞は、応答細胞集団においてCTL応答を誘導する能力に関して検定することができる。抗原提示細胞は、末梢血単核球または樹状細胞のような細胞であり得る。あるいは、内部プロセッシングペプチドをクラスI分子に提示する能力を欠く、そして適切なヒトクラスI遺伝子でトランスフェクトされた突然変異体の非ヒトほ乳類細胞株を使用して、in vitroでの一次CTL応答を誘導する当該祖先ペプチドの能力を試験することができる。
【0145】
末梢血単核球(PBMC)は、CTL前駆体の応答細胞供給源として使用することができる。適切な抗原提示細胞は、祖先タンパク質とともにインキュベートされ、その後、タンパク質を提示した抗原提示細胞が、最適培養条件下で、応答細胞集団とともにインキュベートされる。陽性のCTL活性化は、放射性標識した標的細胞に細胞死を誘導するCTLの存在に関して培養液を検定することにより決定することができ、放射性標識した標的細胞としては、特異的ペプチドのパルスにさらされた標的細胞ならびに内因性にプロセッシングされた形態で、提示するペプチド配列の元になった抗原を発現する標的細胞の両方がある。
【0146】
別の適切な方法は、フルオレセイン標識化HLA4量体複合体を使用して染色することにより、抗原特異的T細胞の直接定量を可能にする(Altman et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 90:10330(1993); Altman et al., Science 274:94(1996))。その他の比較的新しい技術開発としては、細胞内リンホカインの染色、ならびにインターフェロン放出検定またはELISPOT検定が挙げられる。4量体染色、細胞内リンホカイン染色およびELISPOT検定は、典型的には、慣用的検定より少なくとも10倍感受性である(Lalvani, et al., J. Exp. Med. 186:859(1997); Dunbar, et al., Curr. Biol. 8:413(1998); Murali-Krishna, et al., Immunity 8:177(1998))。
【0147】
<診断>
本発明は、本明細書中に記載した祖先ウィルス配列を使用したウィルス(例えばHIV、FIV)感染および/またはAIDSまたはネコ後天性免疫不全症候群(FAIDS)の診断方法も提供する。ウィルス(例えばHIV、FIV)感染および/またはAIDSまたはFAIDSの診断は、当業者に周知の種々の方法を使用して実行することができる。このような方法としては、上記のようなイムノアッセイ、ならびに核酸配列の存在を検出するための組換えDNA法が挙げられるが、これらに限定されない。ウィルス遺伝子配列の存在は、例えば標準技法を使用して、Table1またはTable3に記述された配列またはその一部を使用して設計された特定のプライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検出することができる(例えば、Innis, et al., PCR Protocols A Guide to Methods and Application(1990);米国特許第4,683,202号明細書、第4,683,195号明細書および第4,889,818号明細書;Gyllensten, et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA 85: 7652-56 (1988);Ochman, et al., Genetics 120:621-23(1988); Loh, et al., Science 243:217-20(1989)参照)。あるいは、ウィルス遺伝子配列は、当業者に周知の方法により、Table1またはTable3に記述された配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸プローブを使用するハイブリダイゼーション法を使用して生体試料中で検出することができる(例えば、Sambrook, et al., 上記、参照)。
【実施例1】
【0148】
<祖先ウィルス配列の決定>
HIV−1サブタイプCの遺伝子を表示する配列を、GenBank(登録商標)およびLos Alamos sequence databaseから選択した。39のサブタイプC配列を使用した。18のアウトグループ配列(他のグループMのそれぞれのサブタイプから2つずつ(図8))は、サブタイプC配列の系統樹の根を捜し出すためのアウトグループとして使用した。CLUSTALW(Thompson, et al., Nucleic Acids Res. 22:4673-80(1994))を使用して配列をアラインメントし、GDE(Smith, et al., CABIOS 10: 671-5 (1994))を使用してアラインメントを改善し、そしてアミノ酸配列をそれらから翻訳した。ギャップを、それらがコドン間に挿入されるように操作した。このアラインメント(アラインメントI)を、一義的にアラインメントされ得ない領域を除去するよう、系統発生解析用に修飾し(Learn, et al., J. Virol. 70:5720-30(1996))、アラインメントIIを生じた。
【0149】
これらの配列(アラインメントII)に関する系統発生および祖先状態再構築のための適切な進化モデルを、Modeltest 3.0(Posada and Crandall, Bioinformatics 14:817-8(1998))で実施した場合、赤池情報量基準(AIC)(Akaike, IEEE Trans. Autom. Contr. 19: 716-23 (1974))を使用して選定した。サブタイプC祖先配列の解析に関しては、最適モデルは、両クラスのトランジションに関しては等速度であり、4つのクラス全てのトランスバージョンに関しては異なる速度であって、不変部位、ならびに可変部位の部位−部位の速度変動性のΓ分布を伴う(TVM+I+Gモデルとして言及される)。この場合のモデルのパラメータを以下に示す:平衡ヌクレオチド頻度:f=0.3576、f=0.1829、f=0.2314、f=0.2290;不変部位の割合=0.2447;Γ分布の形状パラメータ(α)=0.7623;速度マトリックス(R)マトリックス値:RA→C=1.7502、RA→G=RC→T=4.1332、RA→T=0.6825、RC→G=0.6549、RG→T=1。
【0150】
配列(アラインメントII)に関する進化系統樹は、PAUPバージョン4.0b(Swofford, PAUP* 4.0b: Phylogenetic Analysis Using Parsimony (And Other Methods); Sinauer Associates, Inc. (2000))で実行される場合、最尤概算(MLE)法を使用して推定した。特にサブタイプC配列に関しては、10の異なる亜系統樹の剪定と接木(SPR)ヒューリスティック検索を、各々異なる無作為の付加の順序を使用して実施した。10のすべての検索が、同一のMLE系統樹を見出した(LnL=−33585.74)。サブタイプCに関する祖先ヌクレオチド配列を、この系統樹、データベース(アラインメントII)、ならびに限界尤度概算(下記参照)を使用した前記のTVM+I+Gモデルを使用して、このサブタイプの基底の節点での配列であると推定した。
【0151】
この推定配列は、いくつかの可変部(V1、V2、V4およびV5)、ならびに一義的にアラインメントされ得ない4つの付加的短領域の部分に関する予測された祖先配列を含まない(これら8つの領域は、アラインメントIIを生成するためにアラインメントIから除去される)。以下の手法を使用して、高可変部を含めた完全gp160に関するアミノ酸配列を予測した。推定祖先配列は視覚的にアラインメントIと1列に整列されて、GDE(Smith, et al., 上記)を使用して翻訳される。高可変部を完全なコドンとして欠失させたため、翻訳は正しいリーディングフレーム内であり、コドンは適正に維持された。アラインメントIIから欠失された領域に関する祖先アミノ酸配列を視覚的に予測し、コンピュータープログラムMacCladeバージョン3.08a(Maddison and Maddison. MacClade-Analysis of Phylogeny and Character Evolution - Version 3. Sinauer Associates, Inc.(1992))を使用したこれらの部位に関する最節約法に基づく配列再構築を使用して改善した。このアミノ酸配列を、Wisconsin配列解析パッケージ(GCG)、バージョン10のBACKTRANSLATEプログラムおよびコドン使用データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=Homo+sapiens+[gbpri])からのヒト遺伝子コドン表を使用して、ヒト細胞中での発現のために最適化されたDNA配列に転換した。
【実施例2】
【0152】
所定のサブタイプに関する最尤系統発生を決定するためには、異なる方法が利用可能である。このような方法の1つは、進化している大集団から得た遺伝子配列の試料の系統樹の数学的説明である合祖理論に基づいている。合祖解析は、生体内のならびに、より大流行中のHIV集団を考慮に入れ、そして異なる過程がHIV集団に作用した場合に、サンプリングした系統樹がどのように振舞うかを理解する1つの方法を提供する。この理論を使用して、祖先ウィルス配列、例えば始祖またはMRCAの配列を決定し得る。指数関数的に増殖する集団は、時間を遡ると合祖間隔低減を示し、一方、減少する集団に関してはこの逆も成り立つ。
【0153】
米国およびタイにおける流行は、指数関数的に増大しつつある。米国およびタイにおけるサブタイプB流行に関する合祖の日付は、流行のデータの通りである。タイにおけるサブタイプEの流行に関する合祖の日付は、流行のデータから予測されるよりも早い。この矛盾を説明し得る理由として考えられるものとしては、例えばHIV−1が複数回上陸していたこと(この点に関する系統発生学的証拠はない)、約7年間、タイにおけるHIV−1検出がなされなかったこと、ならびにHIV−1サブタイプEおよびBにおけるenv遺伝子に関する突然変異率の差が挙げられる。
【0154】
<再構築の単位>
この再構築の単位は、再構築される祖先ウィルス配列(即ち状態)の状態に関係する。再構築の3つの考え得る単位が存在する:即ち、ヌクレオチド、アミノ酸またはコドンである。1実施態様では、個々のヌクレオチドの状態が再構築され、次にこの再構築を基礎にしてアミノ酸配列が決定される。別の実施形態では、アミノ酸祖先状態が直接再構築される。典型的実施形態では、進化のコドンモデルを使用する尤度ベースの手法を使用して、コドンが再構築される。進化のコドンモデルは、コドンの頻度を、そして暗示的にあるヌクレオチドを別のヌクレオチドに置換する確率を考慮に入れる。言い換えれば、それは、単一モデルにおいてヌクレオチドおよびアミノ酸置換の両方を考慮に入れる。当業者に理解されるように、これを実行し得るコンピュータープログラムが利用可能であり、あるいは容易に開発することができる。
【0155】
<祖先状態を概算するための限界または合同尤度の使用>
限界または合同尤度を使用して、祖先状態を概算することができる。限界および合同尤度は、系統樹における他の節点での祖先状態をどのように概算するかによって、異なる。任意の特定の系統樹に関しては、根における配列アラインメント上の所定部位の祖先状態が、例えばAである確率は、異なる方法で決定することができる。
【0156】
ヌクレオチドがアデニン(A)であるという尤度は、より高い節点(祖先ウィルス配列、始祖またはMRCAにより近い節点)がアデニンか、シトシン(C)か、グアニン(G)かまたはチミン(T)を有するかにかかわらず、決定し得る。これは祖先状態がAであるという限界尤度である。
【0157】
あるいは、ヌクレオチドがAであるという尤度は、前記の節点がAか、Cか、GかまたはTであるかに依存して決定し得る。この概算はAの合同尤度で、その部位に関する他のすべての祖先の再構築を伴う。
【0158】
合同尤度は、全系統樹に亘ってすべての祖先状態が決定される必要がある場合には、好ましい方法である。ある所定節点で最も考えられる状態を確立するためには、限界尤度が好ましくは使用される。特定部位での不確実性がある場合、祖先状態の尤度の概算は、ある状態が統計学的に別のものより良好であるか否かを試験するのを可能にする。2つの考え得る祖先状態が統計学的に異なる尤度を有さない場合、あるいは祖先状態が複数の部位で複数の状態となってしまう場合には、すべての考え得る配列を構築することは望ましくない。しかしながらすべての組合せの尤度をコンピューター処理し、ランク付けを行うことができ、そしてある判定基準値より上のものだけを使用する。例えば、A、C、G、Tに関して異なる尤度(下表参照)を各々有する配列上の2つの部位を考えると、
【0159】
【表1】

*Lは、−lnL(負の対数尤度)を表し、したがって小さいほどより尤度が高い。
【0160】
16の考え得る配列形状が存在し、各々が、各塩基についての対数尤度を単純に合計したものである固有の対数尤度を有する。その値は、下表に示すとおりである。
【0161】
【表2】

【0162】
尤度の順に、ランキングを示すと、TT、GT、CT、AT、TG、GG、CG、AG、TC、GC、CC、AC、TA、GA、CA、AAである。
【0163】
最初の4つの配列は、第2部位にTを有する。これは、広範囲にわたって拡散されるその部位での尤度に起因し、この部位にT以外の任意のヌクレオチドを有する確率を非常に低くする。しかしながら部位1では、任意のヌクレオチドが全く同様の尤度で与えられる傾向がある。この種のランキングは、変異が考慮される場合に注目する配列の数を減じる1つの方法である。
【0164】
再構築した祖先状態における前記のバリエーションは、進化過程の統計学的性質のために、ならびに通常使用されるその過程の確率論的モデルのために、生じるバリエーションを取り扱う。バリエーションの別の供給源は、配列のサンプリングに起因する。サンプリングが祖先状態再構築に如何に影響するかを試験する1つの方法は、既存データ組におけるジャックナイフ再サンプリングを実施することである。これは、配列の何らかの部分(例えば半分)の取替えを伴わずに無作為に欠失させ、そして祖先状態を再構築することを包含する。あるいは、祖先状態を1組のブートストラップ樹の各々に関して概算し、そして特定ヌクレオチドが概算された回数を所定部位に関する祖先状態としてレポートし得る。ブートストラップ樹はブートストラップデータを使用して生成するが、しかし祖先状態再構築は、元のデータでのブートストラップ樹を使用する。
【0165】
進化の異なるモデルを使用して、根の節点についての祖先状態を再構築し得る。モデルの例は既知であり、多数のレベルに関して選定し得る。例えば進化のモデルは、いくつかのヒューリスティックにより、または祖先配列について最高尤度(すべての部位にわたる尤度を合計することにより得られる)を生じるものを抜き取ることにより選定し得る。あるいは祖先状態は、進化のすべてのモデルに亘る各部位で、合計獲得尤度のすべてで、そして最高尤度を有する選定祖先状態で、再構築される。
【実施例3】
【0166】
HIV−1サブタイプCのCTLアミノ酸のコンセンサスエピトープの保存を解析した。エピトープの総数は395であった。以下の表は、サブタイプCのCTLコンセンサス配列と、世の中に出回っているそれぞれのウィルス配列の類似性の結果を要約したものである。HIV−1サブタイプCのenvタンパク質(配列番号4)に関する決定された祖先ウィルス配列は、最高スコア(98.48%)を有する。切り詰めた配列を使用したために、いくつかの系統に関するスコアが65%より低いことに注意が必要である。
【0167】
【表3】

【実施例4】
【0168】
マカクザルにおいて増殖したサル免疫不全ウィルスに関して、祖先配列再構築を実施した。マカクザルを相対的に同種のSIV接種物に感染させ、挑戦させた。感染後3年までにウィルス配列を得て、最尤系統解析を使用してMRCAを推定するために使用した。その結果生じた配列を、接種物のコンセンサス配列と比較した。MRCA配列は、ウィルス接種物と97.4%同一であることが判明した。この数値は、5つのグリコシル化部位での収束が除去されると、98.2%に改善した。この収束は、組織培養のウィルスが動物において増殖するための再適応のためであった(Edmonson, et al., J. Virol. 72:405-14(1998))。MRCA配列およびコンセンサス配列は、ヌクレオチドレベルで1.5%異なることが判明した。図3は、サル免疫不全ウィルスのMRCA系統の決定を示す。
【実施例5】
【0169】
HIV−1サブタイプBの祖先ウィルスのenv遺伝子配列の生物学的活性を試験するための実験を実施した。HIV−1サブタイプBの祖先ウィルスのenv遺伝子配列をコードする核酸配列を、長い(160〜200塩基)オリゴヌクレオチドから収集した。収集した遺伝子をANC1と名づけた。ANC1 HIV−1−B Envの生物学的活性を、コレセプター(co-receptor)結合およびシンシチウム形成検定で評価した。決定したおよび化学合成したHIV−1サブタイプB祖先gp160Env配列を保有するプラスミドpANC1、またはHIV−1サブタイプB89.6gp160Envを含有するポジティブコントロールプラスミドを、COS7細胞中にトランスフェクトした。これらの細胞は、高効率で外来DNAを取込み、発現し得るので、したがって他の細胞に対する提示のためのウィルスタンパク質を産生するために決まりきった手法として使用される。次にトランスフェクト化COS7細胞を、2つの主要HIV−1コレセプター(co-receptor)タンパク質CCR5またはCXCR4のうちの1つを発現するGHOST細胞と混合した。CCR5は、感染の初期にHIVにより使用される優性の受容体である。CXCR4は、感染の後期に用いられ、後者受容体の使用は疾患の発症と時間的に関連する。COS7−GHOST−コレセプター(co-receptor)細胞を次に、巨大細胞形成に関しては光学顕微鏡により、そしてウィルスEnvタンパク質の発現に関してはHIV−Env−特異的抗体染色および蛍光検出によりモニタリングした。
【0170】
ANC1 Envを発現する細胞は、HIV−特異的抗体との結合、蛍光検出に基づいて発現されることが、そしてCCR5コレセプター(co-receptor)の存在下で多核化巨細胞の形成を引き起こすが、CXCR4コレセプター(co-receptor)の場合は起こさないことが示された。ポジティブコントロールの89.6EnvはCCR5およびCXCR4の両方を利用して、いずれかの補助受容体を発現する細胞とシンシチウムを形成した。したがってANC1 Envタンパク質は、コレセプター(co-receptor)結合およびシンシチウム形成により生物学的に活性であることが示された。
【実施例6】
【0171】
コンセンサス配列が配列中の各部位での最も一般的ヌクレオチドまたはアミノ酸残基の配列を表すため、最尤系統の再構築は伝統的コンセンサス配列決定とは異なる。したがってコンセンサス配列は、偏りのあるサンプリングを受ける。特にコンセンサス配列の決定は、多数の試料が同一配列を有する場合には偏りを受ける。さらにコンセンサス配列は実在するウィルス配列である。
【0172】
これに対比して、最尤系統解析は、各位置での各ヌクレオチドの頻度のみに基づいて最新の共通祖先の配列を決定するわけではないため、試料の偏りの影響をあまり受けないと考えられる。決定祖先ウィルス配列は、サンプリングした世の中に出回っているウィルスの共通の祖先であるウィルスである実際のウィルスの概算である。
【0173】
祖先配列を決定するための方法のうち最も簡単なものでは、配列アラインメント上の単一の部位に関して、節点間の変化の総数が最小にされるように、ヌクレオチドが祖先の節点に割り当てられる。このアプローチは「最節約型の再構築」と呼ばれる。最尤の原理に基づいた代替的方法は、系統樹にした場合に観察された配列を獲得する確率を最大にするように、節点にヌクレオチドを割り当てる。系統樹は、ヌクレオチド置換の確率を特定する進化のモデルを使用することにより構築される。最尤系統は、観察されたデータを生じる最高確率を有するものである。
【0174】
図5を参照すると、祖先ウィルス配列(例えば始祖配列または最新の共通祖先配列(MRCA))の決定の最節約的方法および最尤方法の比較が示されている。最節約的な再構築(「MP」)は、祖先の分枝点(節点)で不明瞭な状態を生じるという望ましくない問題を有するおそれがある。この例では、この節点からの2つの子孫配列は、配列中の特定の位置にアデニン(A)またはグアニン(G)を有する。この部位での祖先配列に関する最節約的な再構築(「MP再構築」)は、この位置でAまたはG(「R」と記号を付す)であり得るため、不明瞭である。これに対比して、最尤系統解析は、配列進化についての知識を応用する。例えば尤度解析は、部分的に、他の変異体中の同一位置でのヌクレオチドの特性に依存する。したがってこの例では、隣接する節点の変異体も同一位置にGを有するため、GからAへの突然変異は、AからGへの突然変異より尤度が高い。
【0175】
図6を参照すると、別の例で最新の共通祖先を決定するためのこれらの方法における差を示す。この例では、7ヌクレオチドの12の配列が示されている。これらの配列は、図示された進化歴を共有する。これらの配列から算定したコンセンサス配列は、CATACTGである。パネルAでは、決定された祖先節点の最尤再構築は、GATCCTGと示されている。その他の決定配列は、他の内部の節点に隣接して示されている。パネルBでは、同一節点での最節約的な再構築が示されている。図示されているように、最節約的な再構築は、コンセンサス配列GAWCCTGを予測する。この場合、「W」は、AまたはTが第3位置に存在することが等しく可能であることを示す符号である。同様に、他の最節約的な再構築は、種々の内部の節点に示されている。第7の内部の節点では、最後にヌクレオチドは符号「V」で示されており、A、CまたはGが存在し得ることをあらわす。この例では、コンセンサス配列は少なくとも2つの部位(第1および第4位置)で、MRCAについて最尤または最節約−決定配列と異なることにも留意されたい。
【実施例7】
【0176】
FIVのenv遺伝子を表す配列は、GenBank(登録商標)から得られた。62のサブタイプAの配列を使用した。40のサブタイプBの配列を使用した。18のサブタイプCの配列を使用した。26のサブタイプDの配列を使用した。これらのオリジナルの配列は、いくらかの異なる長さを有している。オリジナル配列のうち17の配列は、2583塩基対であった。残りの配列は、1084番目〜1587番目の塩基対にわたる部分であり、約500塩基対であった。
【0177】
配列のアラインメントは、Clustal Wにより、標準のパラメータ設定を使用して行い(Thompson, J. D., et al., Nucleic Acids Res. 24:4876-4882, 1997)、手動で調節することにより、複数配列にわたるコドンの配置を確立し、保存した。
【0178】
次いで、配列に関する進化系統樹は、Paup* v4b10(Swofford, D. L.、PAUP*:Phylogenic analysis using parsimony(* and other methods). Sinauer, Sunderland, Mass., 2001)を使用して推定した。アラインメントされたヌクレオチド配列を使用して系統樹の推定を行った。まず、近隣結合(NJ)系統樹を、座位毎に異なる置換速度を有する(ビン数4、形状パラメータα=0.5のΓ−分散)GTRモデルの下で計算された距離の最尤(ML)評価値を使用して評価した。次いで、ML系統樹を、NJ系統樹より推定されたαおよびR(置換)行列、経験的なヌクレオチドの頻度を使用し、NJ系統樹を出発点として使用して推定した。推定は、TBR枝交換法を使用してMacintosh(登録商標)G4上で行った。推定は、Linux(登録商標)オペレーティングシステム上でのSPR枝交換法により完了した。この解析により、3つの同様の尤度を有する系統樹が得られた。以下の解析は全てこれらの系統樹の各々を使用して行われた。
【0179】
3種類の方法:N法、B法およびC法をして祖先配列の再構築を行った。他の任意のクレードを使用して系統樹の根が決定されると、各クレードについて基底の節点に対する配列が祖先配列として採用された。個々の場合において、配列は4つの別個のクレードに分離し、系統樹は、個々の主要な分岐の末端にクレードを有する事実上4つの分類群を有する系統樹であった。
【0180】
<N法>
N法を使用して祖先配列を推定するために、配列を、アミノ酸をコードしないヌクレオチドとして、OS X Darwin(登録商標)の下で動作するPAML v3.13(Yang, Z. 1997. PAML: a program package for phylogenetic analysis by maximum likelihood. CABIOS 13:555-556)のbasemlモジュールを使用して解析した。パラメータは以下に示すとおりである:枝の長さを有するユーザーツリーを入力する;GTR置換モデル;κ(トランジション/トランスバージョン比)を、初期値=5を使用して推定する;α(Γ−分布の形状パラメータ)を、系統樹の推定より得られた0.452028に設定し、ビン値4を使用する;系統樹の内部節点において限界再構築を行う。このような設定を行わないと、プロセスは系統樹にわたりおよび配列に沿って均質であると仮定された。
【0181】
サブタイプAのオリジナル配列の1つが、祖先配列が構築された後に埋め込まれた停止コドンを有することが発見された。この配列は取り除かれ、系統樹1を使用してヌクレオチドベースでの再構築を再度行った。この配列を使用しても用いなくても同一の祖先配列が得られたため、系統樹2または3については再度試行を行わなかった。
【0182】
<B法>
配列を、アミノ酸をコードするヌクレオチド(コドン)として、MS Windows 2000(登録商標)の下で動作するPAML v3.13のbasemlモジュールを使用して解析した。パラメータは:枝の長さを有するユーザーツリーを入力する;HKY85置換モデル;Mgene=4とし、データファイルのヘッダーラインにGCを付与する;κ(トランジション/トランスバージョン比)を、初期値=5を使用して推定する;α(Γ−分布の形状パラメータ)を、0.3に設定し、ビン値4を使用する;系統樹の内部節点において限界再構築を行う。このような設定を行わないと、プロセスは系統樹にわたりおよび配列に沿って均質であると仮定された。
【0183】
サブタイプAのオリジナル配列の1つが、埋め込まれた停止コドンを有することが発見された。この配列は、互いに数塩基しか相違しない大変類似した数種類の配列が存在する部位に存在した。この配列を系統樹およびデータファイルの両者から取り除き、系統樹の再評価を行わずに解析を実行した。
【0184】
<C法>
配列を、アミノ酸をコードするヌクレオチド(コドン)として、MS Windows 2000(登録商標)の下で動作するPAML v3.13のcodemlモジュールを使用して解析した。パラメータは:枝の長さを有するユーザーツリーを入力する;データファイルのヘッダーラインにGCを付与する;配列をコドンとして解釈;各配列についてヌクレオチドの頻度は、コドンのx番目の塩基について推定された表(3×4)を使用する;単一のdN/dS比:κ(トランジション/トランスバージョン比)を、初期値=2を使用して推定する;α(Γ−分布の形状パラメータ)を、0.3に設定し、ビン値4を使用する;系統樹の内部節点において限界再構築を行う。このような設定を行わないと、プロセスは系統樹にわたりおよび配列に沿って均質であると仮定された。
【0185】
サブタイプAのオリジナル配列の1つが、埋め込まれた停止コドンを有することが発見された。この配列は、互いに数塩基しか相違しない大変類似した数種類の配列が存在する部位に存在した。この配列を系統樹およびデータファイルの両者から取り除き、系統樹の再評価を行わずに解析を実行した。
【0186】
各方法を使用して、3つの同様の尤度を有する系統樹が得られた。これらの系統樹は、互いに大変類似したトポロジーを有していた。前のサブタイプの表記が同一である全ての配列は、単一系統のクレードを生じた。3つの同様の尤度を有する系統樹は、1つのクレードにおける微細構造が相違するのみであった。
【0187】
N法の下では、各系統樹から同一の祖先配列が推定された。B法の下では、各系統樹から、クレードB、CおよびDについて同一の祖先配列が推定された。クレードAについては、系統樹1および2からの祖先配列は同一であったが、系統樹3からの祖先配列とは約2%相違していた。C法の下では、系統樹1および3からは同一の祖先配列が得られたが、系統樹2からのものとは、様々な割合で異なっていた。
【0188】
各々のクレードと再構成法の組み合わせに対し、より共通な配列の再構成を選択した。ヌクレオチドの配列をTable7に示し、アミノ酸の配列をTable8に示す。
【0189】
FIVのenvサブタイプBおよびCについては、概して祖先配列はそれら相互の間よりも世の中に出回っているウィルスに本質的により近かった。サブタイプAに対する祖先配列は、それら相互の間よりも世の中に出回っているウィルスにわずかに近く、サブタイプDに対する祖先配列はわずかに遠かった。下表に結果をまとめて示す。
【0190】
平均距離(標準偏差)は、(a)サブタイプ内でのFIVのenv試料の配列間でペアを作って、および(b)再構成した祖先FIVのenv配列と、祖先配列の再構成に使用した各方法で別個に計算した各試料配列間で計算した値である。これらの結果は、系統樹#1について得られたものである。系統樹2および3を使用した場合にもほぼ同一の結果が得られた。距離は、最尤法および一般時間逆転(GTR)進化モデルを使用して計算された。
【0191】
【表4】

【0192】
ヌクレオチド配列は、ネコにおける最も共通なコドンを使用するために書き直した(GenBank Release 129.0[15 April 2002]を使用した、http://www.kazusa.or.jp/codon/)(Nakamura, Y., et al., Nuc. Acids Res., 26:334, 1998)。これらの配列をTable9に示す。再構築したネコの配列間の相対的な相違について、図9に示す。
【0193】
これまで議論してきたように、再構築に使用したオリジナルの配列は、数種類の異なる長さを有していた。大部分は、第1084−1587塩基対の範囲内にあった。したがって、中央領域(第1084−1719塩基対付近)の再構築は、より多くの配列に基づいて行われた。下表は、env遺伝子のいくつかの領域における各クレードに相当する配列の数を表す。いくつかの領域の境界はおよそのものであり、約±20塩基の変動がある。
【0194】
【表5】

【0195】
クレードAについて再構築した祖先配列は、B法およびN法の下では、第508−510塩基の位置に停止コドンを有していた。この再構築は、この位置におけるわずか7つの配列に基づいて行われた。C法を使用した場合、再構築されたDNA配列におけるこの位置には、あるアミノ酸に対するコードが存在した。B法では、クレードAについて第508−510塩基に停止コドンを有する祖先配列を生成した。
【0196】
前記から、説明のために本発明の特定の実施形態を本明細書中に記載してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく種々の修正がなすることができることが了解されるだろう。本明細書中に引用した出版物および特許出願はすべて、個々の出版物または特許出願の各々が参照により組み込まれることを特定的に且つ個別に示された場合のように、それらの記載内容は、参照により本明細書中に組み込まれる。前記の発明は理解を平易にするために図面および実施例により多少詳細に記載してきたが、しかし、本発明の教示に鑑みて、添付の特許請求の範囲の精神または範囲を逸脱することなく、ある種の変更および修正がそれらになすことができることは、当業者には容易に明らかになるだろう。
【0197】
【表6】



【0198】
【表7】

【0199】
【表8】



【0200】
【表9】

【0201】
【表10】



【0202】
【表11】



【0203】
【表12】















【0204】
【表13】






【0205】
【表14】
















【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】HIV−1の系統分類を示す図である。丸で囲んだ節点は、HIV−1のメイングループ(グループM)およびメイングループのクレードA〜G、J、AGIおよびAGの祖先状態を概算したものである。
【図2】HIV−1サブタイプBの系統的関係および系統樹上の決定されたサブタイプBの祖先の節点を示す図である。HIV−1サブタイプDの系統的関係は、アウトグループとして示されている。
【図3】マカクザルへの接種後3年以内に、接種したSIVについて最尤再構成法を使用して得られた最新の共通祖先の再構成祖先配列を示す図である。コンセンサス配列と最新の共通祖先の配列とは、ヌクレオチド配列で1.5%相違することが判明した。
【図4】祖先ウィルス配列を使用したデジタルワクチンの開発の一例を示す図である。
【図5】「最節約的な再構成」法と「最尤再構成」法との比較を示す図である。
【図6】「最節約的な再構成」法と「最尤再構成」法との別の比較を示す図である。
【図7】pJW4034 SV40/ENVベクターのマップを示す図である。
【図8】HIV−1サブタイプCの関係および系統樹上の画定されたサブタイプCの祖先の節点の位置を示す図である。
【図9】FIVのenv遺伝子について再構成されたネコウィルスの祖先配列の系統的関係を示す図である。配列間の相違は、共通時間逆転(GTR)進化モデルにより推定した距離を使用した近隣結合(NJ)系統樹の計算結果により図示した。各名称の最初の文字はサブタイプを表し、「Anc」の後の文字は、再構成に使用した方法のタイプを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度な多様性を有するウィルスの株、サブタイプまたはグループについて決定された始祖配列である、単離されたネコ免疫不全ウィルス(FIV)またはその断片の核酸配列。
【請求項2】
前記FIV祖先ウィルスの核酸配列が、FIVサブタイプA、B、CまたはDに由来するものである、請求項1に記載の配列。
【請求項3】
FIVウィルスの祖先核酸が、env遺伝子またはその断片である、請求項1に記載の配列。
【請求項4】
前記配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27または配列番号29に記載の配列と少なくとも70%の同一性を有するが、前記配列は、世の中に出回っている任意の変異株と100%の同一性を有しない、請求項1に記載の配列。
【請求項5】
配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30に記載の祖先タンパク質をコードする、請求項1に記載の配列。
【請求項6】
前記配列が、ネコ科の宿主における発現のために最適化された、請求項1に記載の配列。
【請求項7】
前記配列が、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41または配列番号42に記載の配列と少なくとも70%の同一性を有するが、前記配列は、世の中に出回っている任意の変異株と100%の同一性を有しない、請求項6に記載の配列。
【請求項8】
FIVから単離された祖先タンパク質またはその断片。
【請求項9】
配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30に記載の連続した配列を有する、請求項8に記載の単離された祖先タンパク質。
【請求項10】
前記祖先タンパク質が、FIVサブタイプA、B、CまたはDに由来するものである、請求項8に記載の単離された祖先タンパク質。
【請求項11】
前記祖先タンパク質が、FIVサブタイプAのenv祖先タンパク質、FIVサブタイプBのenv祖先タンパク質、FIVサブタイプCのenv祖先タンパク質またはFIVサブタイプDの祖先タンパク質に由来する少なくとも10の連続するアミノ酸配列である、請求項10に記載の単離された祖先タンパク質。
【請求項12】
作用可能なように連結された以下の要素:
転写プロモータ、
FIV祖先タンパク質をコードする核酸および
転写ターミネータ
を有する、単離された発現コンストラクト。
【請求項13】
請求項12に記載の発現コンストラクトにより形質転換またはトランスフェクトされた、培養された原核または真核細胞。
【請求項14】
前記核酸が、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30に記載の祖先タンパク質をコードするものである、請求項13に記載の真核細胞。
【請求項15】
前記原核細胞が大腸菌細胞である、請求項13に記載の原核細胞。
【請求項16】
前記真核細胞がネコの細胞である、請求項13に記載の真核細胞。
【請求項17】
高度に多様性を有するFIVの祖先タンパク質または抗原性を有するFIV祖先タンパク質の断片を含む、ほ乳類の免疫応答を誘起する組成物。
【請求項18】
前記断片が、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30に記載の配列から得られるものである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
FIVのウィルスのアミノ酸配列を調製する方法であって、該方法は、
(a)FIVの世の中に出回っているウィルスの配列を選択することと、
(b)世の中に出回っているFIVの配列の最新の共通祖先であり、世の中に出回っているFIV配列についての進化系統樹の進化の中心を示すものであるFIVの祖先配列を、最尤系統解析により確定することと、
(c)任意の世の中に出回っているウィルスの配列とは100%の同一性を有しないが、その推定されるアミノ酸配列が、それらのうちの任意のものと少なくとも70%の同一性を有しているウィルスの配列を合成することと、を含む、FIVのウィルスのアミノ酸配列を調製する方法。
【請求項20】
宿主中でのFIVに対する免疫応答を誘導する方法であって、該方法は、
免疫学的に有効な量の、FIV祖先タンパク質またはその抗原性を有する断片を含む組成物を宿主に投与することを含む、宿主中でのFIVに対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項21】
宿主中でのFIVに対する免疫応答を誘導する方法であって、該方法は、
免疫学的に有効な量の、FIV祖先タンパク質またはその抗原性を有する断片をコードする核酸を含む組成物を宿主に投与することを含む、宿主中でのFIVに対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項22】
前記FIVの祖先タンパク質が、以下に示す配列:配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28または配列番号30のうちの1つに記載された配列に由来する、少なくとも10の連続するアミノ酸配列を含むものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
FIVワクチンを作成する方法であって、該方法は、
FIV祖先タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞中で発現させることと、
前記祖先タンパク質を含む調製物を前記宿主細胞から単離することと、を含む、FIVワクチンを作成する方法。
【請求項24】
a)FIV祖先タンパク質または抗原性を有するFIV祖先タンパク質の断片を含む組成物と、
b)前記組成物を対象物に投与するための説明書
とを有するキット。
【請求項25】
FIVの感染を検知する方法であって、該方法は、
対象物から採取した生体試料中に存在する核酸を含む試料を提供することと、
前記試料を、請求項1に記載の核酸であるプローブに接触させることと、
前記試料が、前記プローブにハイブリダイズする核酸を含むか否かを決定することと、を含む、FIVの感染を検知する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−500518(P2007−500518A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533241(P2006−533241)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/015816
【国際公開番号】WO2005/001029
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(503447416)オークランド ユニサーヴィスィズ リミテッド (10)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【住所又は居所原語表記】4311 11th Avenue N.E.,Suite 500,Seattle,WA98105,U.S.A
【Fターム(参考)】