説明

神経保護作用を有するペプチド及びこれを含む薬剤

【課題】本発明は、神経保護作用、又は神経変性疾患の予防、治療効果を有するペプチドを提供すること。
【解決手段】配列番号4から6のいずれかのペプチド、又はSer−Asn−Proで表されるペプチド、及び配列番号2のペプチド又はその部分配列を含む前記ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする神経保護作用剤又神経変性疾患の予防、治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経保護作用を有するペプチド及び、そのペプチドを含む薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害又は神経毒性は、神経変性をもたらす可能性のあるものであって、特定の脳領域の進行性変性を次第に進行させる。アルツハイマー病(AD)は脳皮質に生じる神経変性疾患であり、疾患の進行に伴って徐々にニューロンが消失することから最終的には痴呆に至る。主な神経病理学的所見は、脳萎縮、老人斑、神経原線維集積物及びアミロイドアンギオパシーである。アルツハイマー病と脳の正常老化のいずれにおいても、ニューロンの喪失と、βアミロイド(以下、Aβと略記することもある。)の異常沈着が出現する。このような病変は記憶と認知にかかわる海馬や大脳皮質の特定領域に主に認められる。
【0003】
本発明者は、脳において発現しているプロテアーゼを、天然型脳β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)の切断活性を指標に検索することで、天然型脳APPを基質とする新規なプロテアーゼを同定した(特許文献1)。このプロテアーゼは、脳APPを複数の部位で切断してAβ含有ペプチドを生成する活性を有する約40kDaのタンパク質であり、カルボキシペプチダーゼ(CP)ファミリーに属する新規プロテアーゼであることを明らかにした。このプロテアーゼは、ヒト脳カルボキシペプチダーゼB(HBCPB)と同定された。HBCPBは、脳に特異的な選択的スプライシングにより発現しているCPBであり、肝臓で産生される血漿型CPBとは異なる。HBCPBのアミノ酸配列はC末端14アミノ酸が特有でその脳特異性に強く関連しており、またその配列は単一エクソンによりコードされている(C14モジュール)。HBCPBは正常脳の神経細胞体、特に海馬錐体ニューロンや外側膝状体ニューロン等限られた神経細胞、全ての上衣細胞・脈絡膜細胞及び一部のミクログリア等グリア細胞の細胞質に発現を認め、特にニューロンではその主たる細胞内局在は小胞体であることを明らかにした。また、HBCPBが髄液及び血液中にも発現していることを明らかにした。さらに、孤発性アルツハイマー病患者の脳では、脳海馬におけるHBCPBの発現が著しく低下していることを明らかにした。また、抗AβN端抗体及び同C端抗体を利用したウェスタン解析から、HBCPBが、AβペプチドをそのC末端から分解するエキソペプチターゼ活性を有することを明らかにし、併せて同活性によりAβペプチドの2量体等オリゴマーを解離する活性を持つことも明らかにした(非特許文献1−10)。
【0004】
また、本発明者は、単離されたHBCPBのエピトープ、特に脳のCPBに特異的に発現しているC末端14アミノ酸残基のエピトープの1つとして、C−ターミナル・エピトープ1(以下、EP1と略記することもある。)を特定した(非特許文献4、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4579422号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松本明ら、ニューロレポート(NeuroReport)、 第8巻、3297−3301頁、1997年
【非特許文献2】松本明ら、ニューロサイエンス・レターズ(NeuroscienceLetters)、 第242巻、109−111頁、1998年
【非特許文献3】松本明ら、アクタ・ニューロパソロジカ(Acta Neuropathologica)、 第98巻、530−532頁、1999年
【非特許文献4】松本明ら、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(European Journal of Neuroscience)、 第12巻、227−238頁、2000年
【非特許文献5】松本明、ニューロレポート(NeuroReport)、 第11巻、373−377頁、2000年
【非特許文献6】松本明ら、ニューロサイエンス・リサーチ(Neuroscience Research)、 第39巻、313−317頁、2001年
【非特許文献7】松本明ら、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(European Journal of Neuroscience)、 第13巻、1653−1657頁、2001年
【非特許文献8】松本明ら、アクタ・ヒストケミカ・サイトケミカ(Acta Histochemica Cytochemica)、 第34巻、275−283頁、2001年
【非特許文献9】松本明ら、ニューロサイエンス・リサーチ・コミュニケーションズ(Neuroscience Research Communications)、 第31巻、75−84頁、2002年
【非特許文献10】松本明ら、アクタ・バイオロジカ・ハンガリカ(Acta Biologica Hungarica)、 第54巻、55−62頁、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、神経保護作用、又は神経変性疾患の予防、治療効果を有するペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者により単離されたHBCPBは、APPプロセッシングにおいて生理的機能を果たしており、アルツハイマー病の病態生理にも重要である。また、HBCPBはそれ自体アルツハイマー病の予防、治療のための薬剤として、また、該予防や治療のための薬剤のスクリーニングへの利用が期待される。一方で、本発明者は、単離されたHBCPBに関連して、HBCPBのC末端14アミノ酸残基からなる特異的モジュールペプチド(単一エクソンにコードされるペプチドのことで、以下HBCPB−C14と略記することもある。)及びHBCPB−C14のエピトープの1つであるEP1に注目して鋭意研究を重ねた。その結果、HBCPB−C14及びEP1を含むその部分配列、とりわけHBCPB−C14のN末端のアミノ酸3残基(Ser−Asn−Pro)を有するペプチドが、胎児マウス大脳皮質由来初代培養細胞及び同海馬由来初代培養細胞に対する神経保護作用を有することを知見した。また、本発明者はHBCPB−C14及びその部分配列を有するペプチドが、末梢血流から中枢神経系へ直接、あるいは脈絡膜細胞とトランスサイレチン(以下TTRと略す。プレアルブミンともいう。)を介する移行特性を駆使して、神経保護活性を発揮することを知見し、さらに研究を重ね、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする神経保護作用剤;
[2]配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号2のN末端側の3アミノ酸残基(Ser−Asn−Pro)を有するものである前記[1]記載の神経保護作用剤;
[3]配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号3から12のいずれか、又はSer−Asn−Proで表されるペプチドである前記[1]又は[2]記載の神経保護作用剤;
[4]神経保護作用が、Aβ蛋白誘発神経毒性及び/又はグルタミン酸神経毒性に対する保護作用である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の神経保護作用剤;
[5]配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩を有効性成分として含有することを特徴とする、神経変性疾患の予防又は治療剤;
[6]配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号2のN末端側の3アミノ酸残基(Ser−Asn−Pro)を有するものである前記[5]記載の予防又は治療剤;
[7]配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号3から12のいずれか、又はSer−Asn−Proで表されるペプチドである前記[5]又は[6]記載の予防又は治療剤;
[8]神経変性疾患が、Aβ蛋白誘発神経毒性及び/又はグルタミン酸神経毒性に関連する疾患である前記[5]〜[7]のいずれかに記載の予防又は治療剤;
[9]神経変性疾患が、脳神経変性疾患、眼神経変性疾患、全身性ALアミロイドーシス、神経芽細胞腫、褐色細胞腫及びアミロイド性糖尿病から選択される少なくとも1の疾患である前記[5]〜[8]のいずれかに記載の予防又は治療剤;
[10]神経変性疾患が、脳神経変性疾患又は眼神経変性疾患である前記[5]〜[8]のいずれかに記載の予防又は治療剤;
[11]脳神経変性疾患が、認知症、脳血管障害後亜急性期神経変性症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、進行性核上性球麻痺、ハンチントン病、クロイツフェルド・ヤコブ病、狂牛病、神経線維腫瘍から選択される少なくとも1の疾患である前記[9]又は[10]記載の予防又は治療剤;
[12]眼神経変性疾患が、網膜色素変性症、黄斑変性症及び緑内障から選択される少なくとも1の疾患である前記[9]又は[10]記載の予防又は治療剤;
[13]注射剤である前記[1]〜[12]のいずれかに記載の剤;及び
[14]注射剤が静脈内注射用である前記[13]に記載の剤;
に関する。
【0010】
さらに、本発明は、配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩と、製薬学的に許容される添加物とを含有することを特徴とする神経保護作用用製剤、又は神経変性疾患の予防又は治療用製剤に関する。また、本発明は、神経保護作用用医薬、又は神経変性疾患の予防又は治療用医薬を製造するための配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩の使用に関する。さらに、本発明は、配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩を哺乳類に投与することを特徴とする神経保護方法、又は神経変性疾患の予防又は治療方法に関する。
【0011】
また、本発明は、
[15]配列番号3から5、7から12のいずれかのペプチド、もしくはSer−Asn−Proで表されるペプチド、又はその塩;
[16]神経保護作用又は神経変性疾患の予防もしくは治療作用を有する配列番号3から5、7から12のいずれかのペプチド、もしくはSer−Asn−Pro、又はその塩;及び
[17]配列番号3から5、7から12のいずれかのペプチド、もしくはSer−Asn−Pro又はその塩を製造する方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るペプチドは、Aβの凝集により誘発される神経毒性や、グルタミン酸神経毒性に対して、極めて高い神経保護作用を有する。このため、本発明に係るペプチドは、神経毒性に関連する神経変性疾患、例えば、脳神経変性疾患、眼神経変性疾患、全身性ALアミロイドーシス、神経芽細胞腫、褐色細胞腫又はアミロイド性糖尿病等の予防、治療薬として利用できる。
また、本発明に係るペプチドは、極めて高度な中枢神経移行性と安定性が期待できる。本発明に係るペプチドは、肝臓で合成される血清蛋白の1つであり、同時に脳脈絡膜細胞で産生される主要な髄液蛋白であり、甲状腺ホルモンやレチノイン酸の運搬を担うTTRと複合体を形成し、血中運搬されると考えられる。このため、TTRに結合したペプチドは、従来のペプチド薬の欠点である血中プロテアーゼによる分解や、ペプチド自身のリンパ球感作による抗体産生等の副作用機序を原理的にブロックできる優位性を有する。一方、本発明に係るペプチドは、血中に投与した場合、短い物ほど神経脳関門や血液脳関門、血液眼関門を通過できる可能性が高いことは他のペプチド系薬物と同様である。一方TTR結合能という本発明に係るペプチドの特殊性から、神経毒性により変性をきたした中枢神経部や網膜を含む眼底とは異なる遠位部に投与して血中から、変性をきたした中枢神経部や網膜を含む眼底に運搬できる。
さらに、上記TTRの作用効果は、TTRの結合ポケット(例えば、Aβ、レチノイン酸や、甲状腺ホルモンのサイレキシン、本発明に係るペプチドとの結合ポケット)の解析・加工により、脳内移行性や眼内移行性に難点があった他の有用な低分子化合物の創薬展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(10μM)神経毒性に対する配列番号4で示されるペンタペプチド(EP1N5)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールの酸脱水素酵素(LDH)の放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図2】図2は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(10μM)神経毒性に対する配列番号5で示されるヘキサペプチド(EP1N6)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図3】図3は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(10μM)神経毒性に対する配列番号6で示されるヘプタペプチド(EP1)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図4】図4は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(10μM)神経毒性に対する配列番号2で示されるペプチド(HBCPB−C14)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図5】図5は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(30μM)神経毒性に対するEP1の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図6】図6は、マウス海馬由来初代培養細胞におけるグルタミン酸(10μM及び30μM)神経毒性に対するHBCPB−C14及びEP1の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロール(N.C.)のLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図7】図7は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対するSer−Asn−Proで表されるトリペプチド(EP1N3)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図8】図8は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対する配列番号3で示されるテトラペプチド(EP1N4)の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図9】図9は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対するEP1N5の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図10】図10は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対するEP1N6の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図11】図11は、マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対するEP1の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロールのLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図12】図12は、マウス海馬由来初代培養細胞におけるAβ42蛋白(5μM)誘発神経毒性に対するEP1、EP1N6及びEP1N3の神経保護効果を示す図である。細胞毒性(%)は、ネガティブコントロール(N.C.)のLDHの放出量を100%としたときの相対量を示す。
【図13】図13は、ラット脳の海馬及び脈絡膜の組織像と免疫染色所見の図である。(a)は、ラット脳海馬を抗C14EP1 mab−cl 60を用いて染色された免疫組織像を示す図である。(b)は、ラット脳海馬を、抗TTRポリクロナール抗体を用いて染色された免疫組織化学像を示す図である。(c)は、ラット脳の脈絡膜を抗C14EP1 mab−cl 60を用いて染色された免疫組織像を示す図である。(d)は、ラット脳の脈絡膜を、抗TTRポリクロナール抗体を用いて染色された免疫組織像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
配列番号2のペプチド(HBCPB−C14)又はその部分配列からなるペプチド(以下、本発明に係るペプチドということもある。)は、脳カルボキシペプチダーゼB(HBCPB)のアミノ酸配列(配列番号1)に含まれる部分ペプチドである。HBCPBは、脳で発現し、脳β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)を複数の部位で切断してAβ含有ペプチドを生成するペプチダーゼ活性を有する。またHBCPBは、AβペプチドをそのC末端から分解するエキソペプチダーゼ活性を有する(特許第4579422号(対応する米国特許7060266号、米国特許7524934号、米国公開2010/021951号公報);European Journal of Neuroscience, Vol. 12, pp. 227-238, 2000)。配列番号2のペプチドは、HBCPBのモジュールペプチドとして同定されたペプチドの一つ、C14モジュールペプチドである(European Journal of Neuroscience, Vol. 12, pp. 227-238, 2000)。配列番号2のペプチドは、HBCPBのC末端14アミノ酸残基(配列番号1の第347位Ser・・・第360位Lys)に相当する。
【0015】
配列番号2の部分配列からなるペプチドとしては、配列番号2のN末端側の3アミノ酸残基(Ser−Asn−Pro)を有するものが好ましい。具体的には、表1に示すペプチドが好ましく、さらにSer−Asn−Proで表されるトリペプチド(EP1N3)、配列番号3のテトラペプチド(EP1N4)、配列番号4のペンタペプチド(EP1N5)、配列番号5のヘキサペプチド(EP1N6)又は配列番号6のへプタペプチド(EP1)がより好ましい。
【0016】
【表1】

【0017】
EP1は、HBCPBのC末端14アミノ酸残基を認識するHBCPB抗体が認識するC−ターミナル・エピトープとして同定されたエピトープ1に相当する(European Journal of Neuroscience, Vol. 13, pp. 1653-1657, 2001)。
【0018】
本発明に係るペプチドの合成は、特に限定されず、公知の方法(例えば、ペプチド合成の基礎と実験、泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦、脇道典著、丸善1985年等参照)を用いて実施できる。具体的方法としては、例えば、有機化学合成法、液相合成法又は固相合成法が挙げられる。ペプチドの合成は、C末端からN末端へ、又はN末端からC末端とペプチド鎖を伸長させて実施できる。好ましくは、C末端からN末端へのペプチド鎖伸長である。前記ペプチド鎖伸長は、例えば、以下のスキームに従って、行うことができる。
【0019】
スキーム
第1工程:ペプチドのC末端になるアミノ酸のα-アミノ基以外のすべての官能基を保護する。
第2工程:アミノ酸配列でその隣のアミノ酸の主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能基を保護する。
第3工程:第2工程で調製したアミノ酸のカルボキシ基を活性化する。
第4工程:第1工程で調製したアミノ酸のアミノ基を第3工程で活性化されたカルボキシ基と反応させアミノ酸が結合したペプチドとする。
第5工程:第4工程で生成されたペプチドの、次のアミノ酸と反応させるα-アミノ基のみを脱保護する。
第6工程:N末端のアミノ酸に到達するまで、第2工程〜第5工程を繰り返す。
第7工程:すべての官能基を脱保護(Deprotection)する。
【0020】
αアミノ基の保護基は限定されないが、好ましくは、ベンジルオキシカルボニル基(CbzあるいはZ)、tert−ブトキシカルボニル基(Boc)、フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)、又はアリルオキシカルボニル基(Alloc) 等が挙げられる。アミノ基への保護基の導入と脱保護の方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、保護基がZ基の場合、クロロギ酸ベンジル(ZCl)とのショッテン・バウマン反応で導入できる。Z基の脱保護はフッ化水素酸等の処理の他、水素化等によっても行なうことができる。保護基がBoc基の場合、二炭酸ジ−tert−ブチル(BocO)とのショッテン・バウマン反応で導入できる。Boc基の脱保護はトリフルオロ酢酸(TFA)又は4N−HCl/DOX(4N-Hydrogen chloride in 1,4-Dioxane)等による処理で行なうことができる。保護基がFmoc基の場合、N−(フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)コハク酸イミド(FmocOSu)とアミン存在下に反応させることで導入できる。Fmoc基の脱保護はピペリジンやトリフルオロ酢酸等による処理で行なうことができる。保護基がAlloc基の場合、炭酸水素ナトリウム水溶液等を塩基として用い、クロロギ酸アリル(Alloc−Cl)とのショッテン・バウマン反応で導入できる。Alloc基はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)で処理することで脱保護される。
【0021】
α-カルボキシ基の保護はC末端のアミノ酸で必要となる。該保護の方法としては、カルボキシ基のエステル化が挙げられる。エステルとしては、メチルエステルあるいはエチルエステル又はベンジルエステル(Bzl又はBn)等が挙げられるが、ベンジルエステルが好ましい。ベンジルエステルはベンジルアルコール中で酸触媒あるいは縮合剤を用いてエステル化することで導入できる。又はカルボキシ基をセシウム塩として臭化ベンジルと反応させても導入できる。保護基は。水素化反応又はトリフルオロ酢酸等で処理することで除去できる。α-カルボキシ基の保護基の除去は、本発明に係るペプチドの合成の最後に側鎖の保護基の脱保護と同時に実施してもよい。
【0022】
本発明に係るペプチドを構成するアミノ酸のうち、リジンは側鎖にアミノ基を、グルタミン酸は側鎖にカルボキシ基を、アスパラギンは側鎖にアミド基を、及びセリンは側鎖にアルコール性ヒドロキシ基を官能基として有する。例えば、リジン側鎖のアミノ基の保護基としては、上記したαアミノ基の保護基を好ましく用いることができる。グルタミン酸側鎖のカルボキシ基の保護基としては、上記したα-カルボキシ基の保護基を好ましく用いることができる。アスパラギンのアミド基はトリチル基(Trt)やキサンチル基(Xan)を用いることができる。セリンのアルコール性ヒドロキシ基はベンジル基やtert−ブチル基等で保護できる。ベンジル基はフッ化水素酸処理や水素化、tert−ブチル基はトリフルオロ酢酸処理等で除去できる。
【0023】
固相合成法によるペプチド合成では、最初に合成しようとするペプチドのC末端のアミノ酸を樹脂に結合させる。このときカルボキシル基末端のアミノ酸のアミノ基は上記保護基で保護したアミノ酸のカルボキシル基を介して樹脂(例えば、ポリスチレン樹脂、レジン等)に結合させる。好ましくはFmoc基で保護したFmocアミノ酸のカルボキシル基をクロロメチル化ポリスチレン樹脂又は2−クロロトリチル(2-Chlorotrityl)レジン等と反応させてFmocアミノ酸と樹脂を結合(Coupling)させる。Fmocアミノ酸が樹脂結合した樹脂は、市販品、例えば、Fmocアミノ酸固定化PL−Rinkレジン(サイプレスインターナショナル社製)、Fmocアミノ酸固定化PL−Wangレジン(サイプレスインターナショナル社製)等を利用することもできる。カルボキシル基末端のFmocアミノ酸を結合した樹脂をカラムにつめFmoc保護基を取り除きアミノ基を遊離させる。次いでC末端から2番目のアミノ酸のαアミノ基を保護基で保護した、例えばFmocアミノ酸の活性エステルを反応させてペプチド結合を形成させる。以上の脱保護と結合を繰り返すことで目的とするアミノ酸配列を持ったペプチドをC末端からN末端に向けて合成できる。ペプチド鎖の延長が終われば樹脂からアミノ酸の官能基が保護基で保護されたペプチドを切り出す。ペプチドの切り出しは、特に限定されず、例えばトリフルオロ酢酸やアニソール等の後処理試薬を適宜選択できる。ついでFmocならびにアミノ酸側鎖の保護基を取り除くことにより、目的のペプチドを得ることができる。必要により、HPLCで精製できる。
【0024】
本発明に係るペプチドの合成は、自動合成装置により行ってもよい。自動合成装置は、公知の装置を利用することができる。公知の自動合成装置としては、例えば、Model 433A ペプチドシンセサイザ(アプライドバイオシステムイズ社製)、ペプチド合成装置PSSM−8(島津製作所製)、又はApex396全自動マルチペプチド合成装置(AAPPTEC社製)、Apogee全自動シングルペプチド合成装置(AAPPTEC社製)又はFocus XC全自動ペプチド合成装置(AAPPTEC社製)等を挙げることができる。自動合成装置を使用する場合、装置の合成プログラムに従い製造することができる。
【0025】
ペプチドのC末端は、カルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが挙げられる。
【0026】
本発明に係るペプチドのうち7以上のアミノ酸配を有するぺプチドは、本発明の神経保護作用を保持する限りにおいて、そのアミノ酸配列の5アミノ酸以内、好ましくは、4、3、2又は1アミノ酸が、置換、欠失、および/または挿入により、配列番号2、6〜12のペプチドに対してアミノ酸配列が異なるペプチドも本発明に含まれる。置換されるアミノ酸は、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましいと考えられる。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有すると考えられる。また、非荷電性としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。
【0027】
ペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩又は酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0028】
本発明において、神経保護はグルタミン酸やカイニン酸等興奮性物質による神経毒性によるもの、ペプチド又はタンパク質の凝集体による神経毒性(Aβ毒性、プリオン毒性を含む)によるもの、NO(一酸化窒素)や活性酸素種によるもの、中枢神経系の神経細胞に対する脳虚血等の虚血様作用によるもの等からの保護が含まれる。また、神経保護は、例えば、中枢神経系の神経細胞に対する負荷(例えば、ストレス、栄養障害、病気、外傷、手術等による体力低下、衰弱、老化等、恒常性維持に好ましくない物理的又は化学的な障害もしくは細胞毒性作用)による神経細胞死の予防や防止、神経細胞の機能低下の防止等も含まれる。神経保護作用は、神経障害又は神経毒性を抑制、阻害、抑止、コントロール、制御する作用等を含み、神経の変性を遅らせることや、障害を受けた神経を修復することを含む。神経障害、神経毒性は、特に大脳皮質又は海馬を含む脳の神経や網膜を含む眼神経における神経毒性が挙げられる。神経毒性誘発物質としては、例えば、アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患に伴うニューロン死を惹起する危険因子が挙げられる。前記危険因子としては、例えば、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸、アルツハイマー病因ペプチドであるAβ等が挙げられる。Aβは、Aβ40及びAβ42を含む。NMDA(N−メチル−D−アスパラギン酸)受容体を介するグルタミン酸神経毒性には、アポトーシスとネクローシスの両者が含まれ、その両方のニュ−ロン死の過程において一酸化窒素(NO)とスーパーオキシドの関与するラジカル連鎖反応も含まれる。
【0029】
本発明にかかる神経保護作用の評価は、例えば細胞死を測定することで評価できる。細胞死は例えば細胞膜の傷害等を定量する方法で評価できる。具体的には、例えば(i)トリパンブルーやプロピディウムイオダイド(PI)を用いて染色された細胞を顕微鏡観察によってカウントする方法;(ii)[51Cr]や[3H]−チミジン等のラジオアイソトープや、蛍光色素により,あらかじめ標識された細胞からの放出をアッセイする方法;又は、(iii)傷害細胞から放出される細胞質由来酵素活性を測定する方法等が挙げられる。(iii)には、例えばアルカリ又は酸性ホスファターゼ等の放出酵素活性や、乳酸脱水素酵素(LDH)を測定する方法が挙げられる。なかでも、LDHは細胞に存在する細胞質由来の安定な酵素で,細胞膜が傷害をうけるとすみやかに培養上清中に放出されるので、LDHを測定する方法が好ましい。具体的には、例えば、実施例に示すように、胎児マウス又はラット等の海馬又は大脳皮質由来の初代培養神経細胞系において、例えばAβ42又はグルタミン酸と本発明に係るペプチドとを共に培養し、培養液に放出されるLDHを測定することにより本発明に係るペプチドの神経保護作用を評価できる。
【0030】
神経変性疾患は、神経の変性を伴う疾患をいい、例えば神経毒性に関連する神経変性疾患を含む。神経変性は、例えば神経細胞内部に異常蛋白質が蓄積し神経細胞に選択的な細胞死(ニューロン死)を生じさせることを含む。神経変性疾患としては、中枢神経の中の特定の神経細胞群が細胞死を引き起こす疾患が挙げられる。これらの神経変性疾患における細胞死の要因としては、種々の内在性物質、例えば、Aβやグルタミン酸等が挙げられる。このため神経変性疾患としては、Aβ誘発神経毒性及び/又はグルタミン酸神経毒性に関連する疾患が挙げられる。神経毒性に関連するには、神経毒性に誘発されること、起因すること、誘因となること、及びきっかけとなること等を含む。
【0031】
神経変性疾患としては、神経毒性に関連する疾患であれば特に限定されないが、例えば、脳神経変性疾患、眼神経変性疾患、全身性ALアミロイドーシス、神経芽細胞腫、褐色細胞腫又はアミロイド性糖尿病等が挙げられる。前記脳神経変性疾患としては、認知症、脳血管障害後亜急性期神経変性症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、進行性核上性球麻痺、ハンチントン病、クロイツフェルド・ヤコブ病、狂牛病又は神経線維腫瘍等が挙げられる。認知症には、アルツハイマー病、軽度認知機能障害、レヴィ小体病、前頭側頭型痴呆症又は脳血管性痴呆等の血管性病態に随伴する神経変性疾患が含まれる。眼神経変性疾患としては、網膜色素変性症、黄斑変性症又は緑内障(例えば、正常眼圧緑内障等)等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るペプチドは、例えば、神経保護作用薬剤、神経変性疾患の予防薬や治療薬等医薬への応用が考えられる。本発明に係るペプチドを医薬として用いる場合には、本発明に係るペプチドを直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。製剤化は、例えば、薬理学的、製薬的に許容される水性液又は油性液に溶解補助剤等の添加物等と適宜組み合わせて注射剤とすることができる。水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウム等)等が挙げられ、溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油(HCO−50)等)等が挙げられる。油性液としては、例えばゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等が挙げられる。また、注射剤には、上記の他、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等)等を配合してもよい。調製された注射剤は、通常、適当なアンプル又はバイアル瓶に充填される。注射剤は、公知の方法で無菌的に製造される。また、注射剤は、例えば、凍結乾燥法等により、バイアル瓶中で乾燥製剤とされ、用時、注射用水や生理食塩水等の溶解液で溶解して用いる形態であってもよい。凍結乾燥製剤は、溶解液とのキット又はセットの包装形態とすることもできる。注射剤は、静脈内注射用、筋肉内注射用、皮下注射用、髄腔内又は脳室内注射用を含むが、静脈内注射用が好ましい。
【0033】
また、本発明に係るペプチドは、例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤等の形態で経口に供される製剤とすることもできる。例えば、本発明に係るポリペプチドを薬理学的、製薬的に許容される添加剤とともに公知の方法で製剤化できる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤;乳糖、デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤;デンプン、セルロース等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;又は、ショ糖、乳糖又はサッカリン等の甘味剤等が挙げられる。本発明に係るペプチドを経口投与用製剤とする場合、腸溶性コーティング剤で、コーティングした顆粒剤又は錠剤、あるいは腸溶性カプセル剤とすることが好ましい。腸溶性コーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマー、カルボキシメチルエチルセルロース等が挙げられる。
【0034】
本発明に係るペプチドを含有する製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、神経変性疾患を患っている哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。本発明に係るペプチドの投与量は、患者の体重や年齢、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。例えば、アルツハイマー病の治療目的で本発明に係るポリペプチドを静脈内投与する場合の投与量は、通常、成人(60kgとして)一人当たり、本発明に係るペプチドを約0.3〜3.0mg/日が好ましい。
【0035】
また、実施例5に示すように、ラット脳の免疫組織化学研究において、HBCPB−C14のエピトープの1つであるEP1が脈絡膜及び海馬において検出された。また同時に脈絡膜では、EP1が検出された同位置にTTRが検出された。しかし、TTRは海馬に検出されなかった。このことは、本発明に係るペプチドはTTRを介する中枢神経系への移行特性を駆使して、脈絡膜上皮細胞に選択的に輸送され得ること示すものと考えられる。前記TTRを介するには、TTRを介在、仲介又は媒介すること、或いはTTRと結合又は複合体を形成することを含む。脈絡膜は、脳脈絡膜及び網膜脈絡膜を含む。脈絡膜は、血液から必要な成分を脳内(例えば、海馬等を含む大脳辺縁系等)又は網膜に移行させ得る。従って、脈絡膜に輸送された本発明に係るペプチドは、脈絡膜から脳内又は網膜に移行され得る。このことから、本発明に係るペプチドの効果は、脳関門や、血液眼関門を通過できることを含む。このため、本発明に係るペプチドは、脳や眼内の神経変性部位に局所的に投与することなく、ボーラス投与や、点滴静注等によって、末梢血流から神経変性部位のある脳や眼内に、本発明に係るペプチドを到達させ得る。また、TTRと結合又は複合体を形成した本発明に係るペプチドは、血中プロテアーゼによる分解を受けにくく、投与された後も安定に体内で存在し得るし、さらに、TTRのポケットを介し包含されるため、リンパ球感作を受けにくくなり、当該ペプチドに対する抗体産生等の副作用もブロックし得るので、安全に使用できる。
【0036】
本発明に係る脳内移行は、例えば脳バイオプシー等で得られる試料を、標識ペプチド(例えば、EP1又はTTR等)に対する抗体を用いて免疫組織化学的に光学顕微鏡、又は複数の抗体の反応性を同一組織切片上で行う共焦点レーザー顕微鏡、あるいは蛍光顕微鏡下で可視化して確認することができる。
【0037】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、実施例は、本発明を限定するものではない。
なお、以下の略号は、アミノ酸を表す。
Asn:L−アスパラギン
Glu:L−グルタミン酸
Leu:L−ロイシン
Lys:L−リジン
Pro:L−プロリン
Ser:L−セリン
Val:L−バリン
【0038】
以下の略号は、対応する下記のアミノ酸の保護基及び側鎖保護アミノ酸を表す。
Fmoc:9−フルオレニルメチルオキシカルボニル
tBu:t−ブチル
Trt:トリチル
Boc:t−ブチルオキシカルボニル
Fmoc−Asn(Trt)−OH:Nα−9−フルオレニルメチルオキシカルボニル−N−γ−トリチル−L−アスパラギン
Fmoc−Glu(OtBu)−OH:Nα−9−フルオレニルメチルオキシカルボニル−L−グルタミン酸−γ−t−ブチルエステル
Fmoc−Ser(tBu)−OH:Nα−9−フルオレニルメチルオキシカルボニル−O−t−ブチル−L−セリン
【0039】
以下の略号は、対応する下記の反応溶媒、反応試薬等を表す。
HBTU:2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム・ヘキサフルオロホスフェート
HOBt:N−ヒドロキシベンゾトリアゾール
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
TFA:トリフルオロ酢酸
BSA:ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin)
【実施例1】
【0040】
マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるグルタミン酸神経毒性に対する各種ペプチドの効果
1.細胞培養用Plateのコーティング
(1)コーティング液の調整
ポリエチレンイミン2mLを0.15Mホウ酸緩衝液(ホウ酸18.54g/2L純水(RO水))200mLに加え、コーティング原液として4℃で保存した。保存したコーティング原液を0.15Mホウ酸緩衝液で5倍に希釈してコーティング液とした。
(2)プレートのコーティング
クリーンベンチでコーティング液を滅菌フィルター(ポアサイズ:0.22μm;ミリポア社製)を用い、フィルター滅菌した。滅菌したコーティング液を、プレート(48穴プレート)に加え、一晩静置してコーティングした。コーティングしたプレートを滅菌水で2回洗浄した。アスピレータを用いてポリエチレンイミンを吸引し、滅菌水でプレートを洗浄し、紫外線ランプを照射しながら、クリーンベンチ内で、乾燥させた。
2.培地の調整
培地は、神経細胞培養用培地を用いた。具体的には、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(イーライ・リリー社製)を添加したNeurobasal(インビトロジェン社製)50mLに、B−27 Supplement(ギブコ社製)1mL及びL−グルタミン125μL(最終濃度:0.5mM)を加え、FBSを10%濃度となるよう添加して調製した。
3.被験薬
被験薬として、インビトロジェン株式会社にて合成されたHBCPB/C14、EP1、EP1N3、EP1N4、EP1N5及びEP1N6を用いた。被験薬は、10μM濃度となるようリン酸緩衝液(カルシウム無添加)に溶解したものを培地に添加した。陽性対象として、NMDA受容体アンタゴニストであるMK801(マレイン酸ジゾシルピン;和光純薬社製)を用いた。
【0041】
4.マウス胎児大脳皮質由来細胞の調製と、調製した細胞を用いたグルタミン酸神経毒性アッセイ
(1)マウス胎児大脳皮質由来細胞の調製
雌性マウス(妊娠18日齢)にネンブタール麻酔を施した。クリーンベンチにアルミ箔をひき、その上に麻酔をしたマウスを置き、開腹して胎児を取り出し、10cm細胞培養ディッシュに入れた。はさみで胎児の頭を切り取り、新しい10cm細胞培養ディッシュに入れた。次いで、頭部をピンセットで抑え、はさみで頭を切り開き、薬さじで脳を取り出した。実体顕微鏡下で大脳皮質部を取り出した。大脳皮質部からピンセットで脳膜を除去し、大脳皮質(cortex)をハンクス液が入っている細胞培養ディッシュに入れた。前記大脳皮質(cortex)とハンクス液を50mLチューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離した。遠心した上清を捨て、トリプシン溶液4mLを入れ、37℃で20分間、トリプシン処理した。その後、培地16mLを入れ、細胞をよく懸濁させた後、1000rpmで5分間遠心分離して上清を捨てた。細胞の入ったチューブに培地を加え、細胞を再懸濁させた後トリパンブルーを用いて染色されていない生細胞数をカウントし、コーティングした48穴プレートに細胞数が1.2〜1.5×105細胞/well(1well当たりの用量:0.9−1.2ml)となるように、細胞を播種した。
(2)グルタミン酸神経毒性アッセイ
グルタミン酸神経毒性アッセイは、マウス胎児大脳皮質由来細胞の初代培養細胞を用いてその細胞毒性をLDHアッセイで測定した。すなわち、調製した細胞の入ったwellに、本発明に係るペプチド及びグルタミン酸(最終濃度:10μM又は30μM)を添加し、37℃で3日間、5%COインキュベータで培養した。培養3日目に、グルタミン酸を含まない培地に交換し、さらに培養を行った。培養7日又は8日目にグルタミン酸により障害を受けた細胞(又は溶解した細胞)から放出された乳酸脱水素酵素(LDH)をLDHアッセイ法で測定した。LDHアッセイは、LDH Cytotoxicity Assay Kit(Cayman Chemical社製)を用いた。陽性コントロールは、MK801(ジゾシルピン)1μMを用いた。細胞毒性は、グルタミン酸及び被験薬フリーの培地で測定した細胞から放出されるLDH量(ネガティブコントロール)を100%としたときのLDHの相対量(%)で示した。
【0042】
図1〜5に示すように、グルタミン酸による細胞の処理は、LDH放出量がグルタミン酸無添加時に比較して大きく増加した。本発明に係るペプチドはいずれもグルタミン酸によるLDH放出量を大きく抑制した。本発明に係るペプチドはいずれも10nM以下の低濃度でも神経保護作用を示した。
【実施例2】
【0043】
マウス胎児海馬由来初代培養細胞におけるグルタミン酸神経毒性に対する各種ペプチドの効果
(1)マウス胎児海馬由来細胞の調製
ICRマウス(妊娠15日齢)を頚椎脱臼法により屠殺した。クリーンベンチにアルミ箔をひき、その上にマウスを置き、開腹して胎児を取り出し、10cm細胞培養ディッシュに入れた。はさみで胎児の頭を切り取り、新しい10cm細胞培養ディッシュに入れた。次いで、実体顕微鏡下で脳を取り出し、脳の背側を上にして脳膜をはがした後、海馬を切り取り、カルシウム無添加リン酸緩衝液に入れた。前記海馬と等張緩衝液を50mLチューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離した。遠心した上清を捨て、トリプシン溶液4mLを入れ、37℃で20分間、トリプシン処理した。その後、培地16mLを入れ、細胞をよく懸濁させた後、1000rpmで5分間遠心分離して上清を捨てた。細胞の入ったチューブに培地を加え、細胞を再懸濁させた後トリパンブルーを用いて染色されていない生細胞数をカウントし、コーティングした48穴プレートに細胞数が1.2〜1.5×105細胞/well(1well当たりの用量:0.9−1.2ml)となるように、細胞を播種した。
(2)グルタミン酸神経毒性アッセイ
グルタミン酸神経毒性アッセイは、マウス胎児海馬由来細胞の初代培養細胞を用いてその細胞毒性をLDHアッセイで測定した。すなわち、調製した細胞の入ったwellに、本発明に係るペプチド及びグルタミン酸(最終濃度:10μM又は30μM)を添加し、37℃で3日間、5%COインキュベータで培養した。培養3日目に、グルタミン酸を含まない培地に交換し、さらに培養を行った。培養7日又は8日目にグルタミン酸により障害を受けた細胞(又は溶解した細胞)から放出された乳酸脱水素酵素(LDH)をLDHアッセイ法で測定した。LDHアッセイは、LDH Cytotoxicity Assay Kit(CaymanChemical社製)を用い、キットに添付のマニュアルに従い測定した。陽性コントロールは、MK801(ジゾシルピン)1μMを用いた。細胞毒性は、グルタミン酸及び被験薬フリーの培地で測定した細胞から放出されるLDH量(ネガティブコントロール)を100%としたときのLDHの相対量(%)で示した。
【0044】
図6に示すように、グルタミン酸による細胞の処理は、LDH放出量がグルタミン酸無添加時に比較して大きく増加した。本発明に係るペプチドはいずれもグルタミン酸によるLDH放出量を大きく抑制した。本発明に係るペプチドは、グルタミン酸(10μM)細胞毒性に対していずれも10nM以下の低濃度でも神経保護作用を示した。
【実施例3】
【0045】
マウス胎児大脳皮質由来初代培養細胞におけるAβ42神経毒性に対する各種ペプチドの効果
実施例1の4.(2)におけるグルタミン酸(最終濃度:10μM又は30μM)の代わりにAβ42(最終濃度:5μM)を添加する以外は実施例1と同様に試験を行った。
【0046】
図7〜11に示すように、Aβ42による細胞の処理は、LDH放出量がAβ42無添加時に比較して約2.5〜3.5倍に増加した。本発明に係るペプチドはいずれもAβ42によるLDH放出量を大きく抑制した。本発明に係るペプチドは、Aβ42(5μM)神経毒性に対していずれも10nM以下の低濃度でも神経保護作用を示した。
【実施例4】
【0047】
マウス胎児海馬由来初代培養細胞におけるAβ42神経毒性に対する各種ペプチドの効果
実施例2の(2)におけるグルタミン酸(最終濃度:10μM又は30μM)の代わりにAβ42(最終濃度:5μM)を添加する以外は実施例2と同様に試験を行った。
【0048】
図12に示すように、Aβ42による細胞の処理は、LDH放出量がAβ42無添加時に比較して約2.5〜3.5倍に増加した。本発明に係るペプチドはいずれもAβ42によるLDH放出量を大きく抑制した。本発明に係るペプチドは、Aβ42(5μM)神経毒性に対していずれも10nM以下の低濃度でも神経保護作用を示した。
【実施例5】
【0049】
安全性試験
マウス尾静脈にEP1を20mg/kg、投与した。2カ月間飼育観察した。その結果、マウスの生活状況、習性、記憶学習機能等に変化を窺わせる所見はみられなかった。このことから、EP1は、安全に使用できる医薬になり得ると考えられた。
【実施例6】
【0050】
2.免疫組織化学的研究
免疫組織化学的研究に使用されるサンプルは、ラット脳を用い、定法に従い、10%ホルムアルデヒドで固定後、厚さ5μmのパラフィン切片を調製した。免疫組織化学的分析は、アビジン・ビオチン・複合体(ABC)法で行った。すなわち、パラフィン切片のパラフィンを除去し、3%過酸化水素水に5分間浸し、内因性ペルオキシダーゼ活性を抑制した。切片はクエン酸ナトリウム緩衝液に入れ、次いでリン酸緩衝生理食塩水に浸した。切片は一次抗体(1%BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水で100倍希釈)とともにモイストチャンバー内で、4℃で一晩インキュベートした。反応生成物は、3,3−ジアミノベンジジンで呈色し、光学顕微鏡下で観察した。一次抗体は、EP1に対するモノクロナル抗体(mab)の中から特異性の良好なクローン60(cl60)を選択し、抗EP1 mab−cl.60抗体(以下、抗EP1抗体という。)として用い、また、TTRに対する一次抗体は、抗TTRポリクロナール抗体(Santa Cruz社製又は和光純薬株式会社製)を使用した。
【0051】
図13(a)は、ラット海馬における抗EP1抗体による免疫組織化学的所見を示す。EP1は、ラット海馬に存在していることが分かる。図13(b)は、ラット海馬における抗TTR抗体による免疫組織化学的所見を示す。TTRは、ラット海馬に検出されなかった。図13(c)は、ラット大脳皮質脈絡膜における抗EP1抗体による免疫組織化学的所見を示す。EP1は、ラット大脳皮質脈絡膜の脈絡膜上皮細胞に検出された。図13(d)は、ラット大脳皮質脈絡膜における抗TTR抗体による免疫組織化学的所見を示す。TTRは、EP1が検出された部位と同じラット大脳皮質脈絡膜の脈絡膜上皮細胞に検出された。これらの結果から、EP1がTTRと親和性を介して、脳脊髄液(CSF)に移行し、脈絡膜上皮細胞に選択的に輸送され、脈絡膜上皮細胞においてTTRからEP1が遊離され、脳内に移行したと考えられた。また、本結果から、EP1は脳血液関門(blood-brain barrier;BBB)での透過性の制約を受けず、脳内に移行できることが示唆された。
【実施例7】
【0052】
Ser−Asn−Pro(EP1N3)の合成の合成
Fmoc−NHlが結合した担体樹脂を自動合成機(島津製作所)の反応容器に入れ、DMFを加えて3分間攪拌し溶液を排出した後、島津製作所の合成プログラムに従い次の操作を行う。
(a)30%ピペリジン−DMF溶液を加えて混合物を4分間攪拌し、該溶液を排出し、この操作をもう1回繰り返す。
(b)担体樹脂をDMFで1分間洗浄し、該溶液を排出し、この操作を5回繰り返す。
(c)Fmoc−Pro−OH、HBTU、HOBt・1水和物及びDIEAをDMF中で3分間攪拌し、得られた溶液を樹脂に加えて混合物を60分間攪拌し、溶液を排出する。
(d)担体樹脂を600μLのDMFで1分間洗浄後溶液を排出し、これを5回繰り返した。こうして、Fmoc−Pro−NH が担体上に合成される。
(e)次に、(a)及び(b)の工程の後、(c)の工程でFmoc−Asn(Trt)−OHを用いて縮合反応を行い、(d)の洗浄工程を経て、Fmoc−Pro−Asn(Trt)−NHが担体上に合成される。
(f)工程(c)において、Fmoc−Ser(tBu)−OHを用いて、(a)〜(d)を繰り返した後、(a)(b)の脱保護、洗浄工程を経て、メタノール、ブチルエーテルで順次洗浄し、減圧下12時間乾燥して、側鎖保護ペプチドの結合した担体樹脂を得る。これに、TFA(90%)、チオアニソール(5%)及び1,2−エタンジチオール(5%)からなる混合溶液を加えて室温で2時間放置し、側鎖保護基を除去するとともに樹脂よりペプチドを切り出る。樹脂を濾別後、得られた溶液にエーテルを加え、生成した沈澱を遠心分離及びデカンテーションにより回収し、粗ペプチドを取得する。この粗生成物全量を酢酸水溶液に溶解後、逆相カラム(資生堂製、CAPCELL PAK C18 30mmI.D.X250mm)を用いたHPLCで精製する。0.1%TFA水溶液に、TFA0.1%を含む90%アセトニトリル水溶液を加えていく直線濃度勾配法で溶出し、220nmで検出し、EP1N3を含む画分を得る。この画分を凍結乾燥して、EP1N3を得る。
【実施例8】
【0053】
Ser−Asn−Pro−Pro(EP1N4;配列番号3)の合成
実施例7の工程(c)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Pro−OHを用い、(e)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Pro−OHを用い、工程(f)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Asn(Trt)−OH及びFmoc−Ser(tBu)−OHを順次用いて実施例1と同様にペプチド鎖を合成し、精製しEP1N4を得る。
【実施例9】
【0054】
Ser−Asn−Pro−Pro−Val(EP1N5;配列番号4)の合成
実施例7の工程(c)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Val−OHを用い、(e)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Pro−OHを用い、工程(f)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH及びFmoc−Ser(tBu)−OHを順次用いて実施例1と同様にペプチド鎖を合成し、精製しEP1N5を得る。
【実施例10】
【0055】
Ser−Asn−Pro−Pro−Val−Glu(EP1N6;配列番号5)の合成
実施例7の工程(c)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Glu(OtBu)−OHを用い、(e)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Val−OHを用い、工程(f)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH及びFmoc−Ser(tBu)−OHを順次用いて実施例1と同様にペプチド鎖を合成し、精製しEP1N6を得る。
【0056】
参考例1:Ser−Asn−Pro−Pro−Val−Glu−Lys(EP1)の合成
実施例7の工程(c)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Lys−OHを用い、(e)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Glu(OtBu)−OHを用い、工程(f)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Val−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH及びFmoc−Ser(tBu)−OHを順次用いて実施例1と同様に順次ペプチド鎖を合成し、精製し、EP1を得る。
【0057】
参考例1:Ser−Asn−Pro−Pro−Val−Glu−Lys−Leu−Leu−Pro−Leu−Ser−Leu−Lys(HBCPB−C14)の合成
実施例7の工程(c)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Lys−OHを用い、(e)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Leu−OHを用い、工程(f)のFmoc−アミノ酸として、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Lys−OH、Fmoc−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Val−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH及びFmoc−Ser(tBu)−OHを順次用いて実施例1と同様にペプチド鎖を合成し、精製しHBCPB−C14を得る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るペプチドは、神経保護作用を有するので、これを含む製剤は、神経変性疾患の予防、治療用製剤として、医薬の分野に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする神経保護作用剤。
【請求項2】
配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号2のN末端側の3アミノ酸酸残基(Ser−Asn−Pro)を有するものである請求項1記載の神経保護作用剤。
【請求項3】
配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号3から12のいずれか、又はSer−Asn−Proで表されるペプチドである請求項1又は2記載の神経保護作用剤。
【請求項4】
神経保護作用が、βアミロイド蛋白誘発神経毒性及び/又はグルタミン酸神経毒性に対する保護作用である請求項1〜3のいずれかに記載の神経保護作用剤
【請求項5】
配列番号2のペプチドもしくはその部分配列からなるペプチド又はその塩を有効性成分として含有することを特徴とする、神経変性疾患の予防又は治療剤。
【請求項6】
配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号2のN末端側の3アミノ酸残基(Ser−Asn−Pro)を有するものである請求項5記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
配列番号2の部分配列からなるペプチドが、配列番号3から12のいずれか、又はSer−Asn−Proで表されるペプチドである請求項5又は6記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
神経変性疾患が、βアミロイド蛋白誘発神経毒性及び/又はグルタミン酸神経毒性に関連する疾患である請求項5〜7のいずれかに記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
神経変性疾患が、脳神経変性疾患、眼神経変性疾患、全身性ALアミロイドーシス、神経芽細胞腫、褐色細胞腫及びアミロイド性糖尿病から選択される少なくとも1の疾患である請求項5〜8のいずれかに記載の予防又は治療剤。
【請求項10】
神経変性疾患が、脳神経変性疾患又は眼神経変性疾患である請求項5〜8のいずれかに記載の予防又は治療剤。
【請求項11】
脳神経変性疾患が、認知症、脳血管障害後亜急性期神経変性症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、進行性核上性球麻痺、ハンチントン病、クロイツフェルド・ヤコブ病、狂牛病、神経線維腫瘍から選択される少なくとも1の疾患である請求項9又は10記載の予防又は治療剤。
【請求項12】
眼神経変性疾患が、網膜色素変性症、黄斑変性症及び緑内障から選択される少なくとも1の疾患である請求項9又は10記載の予防又は治療剤。
【請求項13】
注射剤である請求項1〜12のいずれかに記載の剤。
【請求項14】
注射剤が静脈内注射用である請求項13に記載の剤。
【請求項15】
配列番号3から5、7から12のいずれかのペプチド、もしくはSer−Asn−Proで表されるペプチド又はその塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−232952(P2012−232952A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104158(P2011−104158)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(599061121)
【Fターム(参考)】