説明

神経保護剤としてのプラミペキソールの使用

【課題】すぐれた神経保護剤を提供する。
【解決手段】化合物2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾールおよびその薬理学上許容される酸付加塩の有効量を投与することからなる、ニューロン障害をわずらっているか、またはそれに感受性である患者においてニューロン障害またはニューロン障害の進行を予防する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経保護剤としてのプラミペキソールまたは2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾ−チアゾール、またはその(+)−もしくは(−)−エナンチオマー、およびそれらの薬理学上許容される塩に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の中枢神経系の病気および状態がニューロンの障害という結果を引き起こす。これらの状態は、一次神経変性病;ハンチントン舞踏病;発作および他の低酸素症または虚血症の過程;神経外傷;代謝的に誘導された神経系障害;脳性発作由来の続発症;出血発作;二次神経変性病(代謝的または毒性);パーキンソン病;アルツハイマー病;アルツハイマーのタイプの老年痴呆(SDAT);加齢関連認識的機能不全;または血管痴呆、多種梗塞痴呆、ロウイ体痴呆、または神経変性痴呆を含む神経障害につながる。
【0003】
プラミペキソールは、欧州特許第186 087号およびその対応出願である米国特許第4,886,812号にその合成が記載されるドーパミン−D3/D2アゴニストである。それは精神分裂病およびパーキンソン病の治療につき主に知られている。ドイツ国特許出願DE38 43 227から、プラミペキソールがプロラクチンの血漿レベルを下げることが公知である。また、この欧州特許出願には薬物依存の治療におけるプラミペキソールの使用が開示されている。さらに、プラミペキソールが、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の異常に高いレベルを減少させるために用いることができることが、ドイツ国特許出願DE 39 33 738から公知である。米国特許第5,112,842号には、該化合物の経皮投与およびこれらの活性化合物を含む経皮システムが開示されている。WO特許出願PCT/EP93/03389には、抗鬱剤としてのプラミペキソールの使用が記載されている。
【0004】
現在まで、効力が証明された発作の治療的処置のための商業的に入手可能な薬剤はない。
驚くべきことに、かつ、予期せぬことに、プラミペキソールおよびその(+)−エナンチオマーが共に神経保護効力を有することが判明した。
【0005】
ドーパミンレセプターを含めた多くのレセプターに結合する血管拡張薬であるピリベジルは、全体の脳虚血症のアレチネズミモデルの機能的および生物化学的パラメーターに対する影響を有することが報告されてきた。ソサイアティ・フォア・ニューロサイエンス・アブストラクツ(Society for Neuroscience Abstracts)、19:673(1993);同書、1645。
【0006】
リスリドはドーパミンDおよび5−HT1aレセプターを含めたいくつかの異なるレセプターに結合する。リスリドは、事の前に投与されると、脳梗塞のラットモデルにおける減少した脳浮腫および生存時間の延長を起こすことが報告されている。ミヤザワ(Miyazawa)ら、日本薬理学雑誌98(6):449−561、(1991)。
【非特許文献1】Society for Neuroscience Abstracts,19:673(1993);1645
【非特許文献2】ミヤザワ(Miyazawa)ら、日本薬理学雑誌98(6):449−561、(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規な神経保護剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール、その(−)−エナンチオマーまたは(+)−エナンチオマーおよびその医薬上許容される塩の有効量、特に、2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール−二塩酸塩の(−)−エナンチオマーまたは2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール二塩酸塩の(+)−エナンチオマーの有効量を投与することからなるこのようなニューロン障害をわずらっている、またはこれらに感受性である患者においてニューロン障害を予防するための方法を提供する。
【0009】
ニューロン障害を引き起こす状態は、通常の技量の神経学者または類似の内科医によく知られており、
一次神経変性病;
ハンチントン舞踏病;
発作および他の低酸素症または虚血症の過程;
神経外傷;
代謝的に誘導された神経系障害;
脳性発作由来の続発症;
出血発作;
二次神経変性病(代謝的または毒性);
パーキンソン病;
アルツハイマー病、他の記憶障害;または、
血管痴呆、多種梗塞痴呆、ロウイ体痴呆、または神経変性痴呆を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の状況において、プラミペキソールのための好ましい適応症は、黒質線条体のドーパミンニューロンによって特徴付けられるパーキンソン病である。この意味で、パーキンソン病という用語は、パーキンソン症候群という用語も含む。プラミペキソールの一時緩和の作用(すなわち、失われたドーパミン神経伝達物質機能の置換)に加え、該化合物は、生き残ったドーパミンニューロンの変性を遅らせ、それにより病気の進行を遅らせるであろう。
【0011】
本発明の化合物の予防的使用は、パーキンソン病の初期または前兆候的段階におけるモノテラピーとしての、および虚血症に基づく神経変性異常の予防としての使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
プラミペキソールの合成、処方および投与が、ここに引用して本明細書の一部とみなす米国特許第4,843,086号;4,886,812号;および5,112,842号に記載されている。
【0013】
2−アミノ−6−n−プロピル−アミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール、特にその(−)−エナンチオマー、およびその薬理学上許容される酸付加塩は、神経障害を予防するために与えることができる。通常のガレン製剤の剤型は、実質的に不活性な医薬担体および有効量の活性物質よりなる;例えば、そのまままたはコートした錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、粉剤、溶液、懸濁液、乳液、シロップ、坐薬などである。
【0014】
L−ドーパは、培養中の小脳顆粒細胞に対し毒性であることが示されている。プラミペキソールおよび(+)−エナンチオマーはL−ドーパ毒性を阻害する。双方に対するEC50は0.3および1μMならびに10μMの間であり、但し、生存率測定ではL−ドーパに暴露されない対照細胞と同等であった。保護のメカニズムは、(+)エナンチオマーがモノアミンレセプター結合アッセイにおいて活性でないとすると、レセプター活性化に関係するとは思えない。2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール、その(+)および(−)エナンチオマーならびにその薬理学上許容される酸付加塩、特にプラミペキソールおよび(+)エナンチオマーが、L−ドーパのインキュベーションから生じたことが公知である反応性酸素種に対する抗酸化剤として作用するという可能性が存在する。
【0015】
有効な用量範囲は0.01ないし2.0mg/kgである。より好ましいのは、経口で1−2mg/kgである。神経保護のための好ましい全体用量レベルは、経口で0.5−20mg/kg/日である。好ましいヒト用量は、2または3投与に分けた全体用量0.1−6.0mg/日である。経口または静脈内の経路によって投与される以外に、プラミペキソールは経皮的に投与されてよい。
【0016】
本発明は以下に与えられる実施例によってより十分に理解される。
【実施例1】
【0017】
本発明者らは両側頚動脈閉塞を介した10分間の前脳虚血症に付したアレチネズミにおける28日にわたるドーパミン黒質線条体(NS)管の逆行性変性を組織学的に試験した。該期間にわたり、(チロキシンヒドロキシラーゼ免疫細胞化学によって判断して)、緻密帯におけるNS細胞体の39%の損失が対照動物中に存在した。虚血後毎日の、プラミキソールでの経口用量(損傷後1時間で開始する1mg/kg経口 BID)により、NS DAニューロンの虚血後28日の36%(p<0.01対ビヒクル処理)だけの損失を減じた。
【実施例2】
【0018】
本発明者らは、実施例1で見いだされたこと、すなわち、プラミペキソールが、10分間の両側頚動脈梗塞誘導前脳虚血症および28日の虚血後の生存のアレチネズミモデルにおける黒質線条体ドーパミンニューロンを保護しうることの発見を首尾よく繰り返した。プラミペキソールの投与は、虚血後60分間の1mg/kg経口の初期用量を経て、第一日の終わりに再度、次いで次の26日間は一日につき2回であった。0.3mg/kgの用量を一日二回行うことにより、閾値効果(ビヒクルと比較して黒質線条体ドーパミンニューロンにおいて14%の増加)が得られた。1mg/kgの用量を1日2回行うことにより、虚血から28日後のドーパミンニューロン生存において有意な38%の改良があった(p<0.0001対ビヒクル処理)。この作用は、ドーパミンニューロンに特異的であると思われる。なぜなら、海馬のCA1領域内の非ドーパミン作動性ニューロンの虚血後の損失は有意には影響されなかったからである。
【実施例3】
【0019】
小脳顆粒細胞の初代培養
小脳顆粒細胞の初代培養を、以前記載されたように(1)、8日齢のスプラーグ・ドーリー・ラット(Sprague Dawley rat)、チャールズ・リバー、ポーテージ、マサチューセッツ州(Charles River, Portage, MI)から調製した。ニューロンを、8−9日間、2ml/ウェルで、1×10細胞/mlの密度で、6ウェルの35mm培養皿で増殖させた。グリア細胞の増殖は、平板培養後19時間で、終濃度10μMにて、シトシン−アラビノフラノシド−一リン酸(シグマ、セイント・ルイス、ミズーリ州(Sigma, St. Louis, MO)の添加によって防いだ。この方法によって生じた培養を、特徴付け、90%以上の顆粒細胞を含むことが示された(2)。
【0020】
細胞毒性モデル
実験は、細胞を試験管内に8日間置いた後に開始した(8DIV)。細胞を2mlの無血清成長培地で洗浄した。無血清成長培地中のPPXおよび(+)エナンチオマーの100倍濃度の保存溶液を作成した。これらを、成長培地中の細胞にウェルあたり20μlを添加することにより細胞に与えた。薬剤の終濃度は、1nMから10μMの範囲であった。5分後、無血清成長培地におけるL−ドーパの10×保存溶液20μLを各々のウェルに添加し、終濃度が100μMとなった。細胞を上記の状態で24時間インキュベートした。生存率の測定のために、細胞を次いで2回洗浄し、1μCi/mlのα−(メチル)−14C)アミノイソ酪酸(ニュー・イングランド・ニュークリアー(New England Nuclear)で、ロックの緩衝液中、1時間パルスした。細胞を可溶化し、次いで、0.5% トリトン X−100で洗浄した。可溶化した細胞を次いでシンチレーションカウンターで放射能を計測した。データを、それぞれの点に対して三連の±S.D.の平均として表した。
【0021】
表からの結果により、プラミペキソールが、L−ドーパと関連した毒性に対し神経保護的であることが示された(64.8%)。10μMのプラミペキソールでは、L−ドーパ処理細胞は、対照と異ならなかった。プラミペキソールは、小脳顆粒細胞におけるcAMPレベルを、わずかであるが、有意に減少させることが示されてきた(3)。このことは、神経保護の仕組みにおけるドーパミンレセプター(D2ファミリー)の関与が有り得ることを示唆する。この仮定を検定するため、(+)エナンチオマーを、プラミペキソールと平行した実験において試験した。(+)エナンチオマーは、アドレナリン作動性およびセロトニン作動性のレセプターが関与する一連の結合アッセイにおいて不活性で、ドーパミン作動性レセプターにおいてはより活性が低いことが示された。この結果は、(+)エナンチオマーが、このアッセイにおいて神経保護剤としてのプラミペキソールと比較して、同等に能力があり、有効であることを示す。
【0022】
小脳顆粒細胞においてL−ドーパ媒介毒性におけるプラミペキソールの神経保護効果は、ドーパミンレセプターの活性化に関与するように思われない。
プラミペキソールの(+)エナンチオマーは、それがモノアミンレセプターに結合する能力をほとんど有さないという事実にかかわらず、神経保護剤としての有用性を示す。
プラミペキソールおよびその(+)エナンチオマーが、反応性酸素種の発生に関与することが公知であるL−ドーパ毒性に対して抗酸化剤として作用しうるという可能性が存在する。
【0023】
【表1】


*対照は、100μM L−ドーパよりむしろビヒクル緩衝液に暴露した細胞と関連する放射能として定義される。対照値は、三連の計測に対し、129547CPMの平均と同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾールおよびその薬理学上許容される酸付加塩の有効量を投与することからなる、ニューロン障害をわずらっているか、またはそれに感受性である患者においてニューロン障害またはニューロン障害の進行を予防する方法。
【請求項2】
該状態が、パーキンソン病、一次神経変性病;ハンチントン舞踏病;発作および他の低酸素症または虚血症の過程;神経外傷;代謝的に誘導された神経系障害;脳性発作由来の続発症;出血発作;二次神経変性病(代謝的または毒性);アルツハイマー病;他の記憶の障害;または、血管痴呆、多種梗塞痴呆、ロウイ体痴呆、または神経変性痴呆から選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
該状態がパーキンソン病である請求項2記載の方法。
【請求項4】
該化合物の全用量が約0.1−6mg/日である請求項3記載の方法。
【請求項5】
該化合物が(+)エナンチオマー形である請求項1−4記載の方法。
【請求項6】
該化合物が(−)エナンチオマー形である請求項1−4記載の方法。
【請求項7】
該化合物が二塩酸塩である請求項1−6記載の方法。
【請求項8】
ニューロン障害またはニューロン障害の進行の予防のための医薬を調製するための2−アミノ−6−n−プロピルアミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾールおよびその薬理学上許容される酸付加塩から選択される化合物の使用。
【請求項9】
該神経障害が、パーキンソン病、一次神経変性病;ハンチントン舞踏病;発作および他の低酸素症または虚血症の過程;神経外傷;代謝的に誘導された神経系障害;脳性発作由来の続発症;出血発作;二次神経障害病(代謝的または毒性);アルツハイマー病;他の記憶の障害;または、血管痴呆、多種梗塞痴呆、ロウイ体痴呆、または神経変性痴呆の結果である請求項8記載の使用。
【請求項10】
ニューロン障害がパーキンソン病に由来する請求項8記載の方法。
【請求項11】
用量が0.1−6mg/日である請求項8−11記載の使用。
【請求項12】
該化合物が(+)エナンチオマーである請求項8−12記載の使用。
【請求項13】
該化合物が(−)エナンチオマーである請求項8−12記載の使用。
【請求項14】
該化合物が二塩酸塩である請求項8−13記載の使用。

【公開番号】特開2007−217432(P2007−217432A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143213(P2007−143213)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【分割の表示】特願平8−519081の分割
【原出願日】平成7年12月12日(1995.12.12)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【出願人】(507143912)ベーリンガー・インゲルハイム・コマンディットゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】BOEHRINGER INGELHEIM KG
【Fターム(参考)】