説明

神経再生促進剤

【課題】神経再生促進剤を提供する
【解決手段】コムギふすま、コムギ末粉、オオムギぬかから選択される一以上の抽出物を有効成分とする神経再生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断された神経の再生を促進する剤に関する。
【背景技術】
【0002】
成熟した哺乳動物では、一般に神経細胞は分裂能を持っていない特殊な細胞からなる組織である。そのため一旦障害を受けると長期にわたって障害が続く。特に脳や脊髄といった中枢神経系では全く再生能がない。
外因性の傷害による脊髄損傷に代表される不随やアルツハイマー病、パーキンソン病といった神経変性疾患に対する治療方法がないことも、中枢神経における再生能が無いことが一つの原因である。一方で、末梢神経は再生能を有しており、一旦切断された後も軸索が再生し機能が回復する。しかしこの場合にも再生に要する期間は数ヶ月から1年以上と長時間を要する。このため、患者にとっての苦痛は大きい。
また神経の再生に長期間を要するために、その間に神経細胞が死滅し機能回復に至らない場合も多い。このように再生能を有する末梢神経の場合も、脳や脊髄といった中枢神経系の環境では全く伸長することはできない。そのため、中枢神経系には神経の伸長を阻止する物質が存在していることが推測されている。この中枢神経系に存在する神経再生阻害物質を抗体などで抑制すると、中枢で一部の神経再生が起こり、機能の回復も見られる。最近、この中枢神経再生阻害因子としてNogoが発見された(非特許文献1:Nature 403, 434, 2000、非特許文献2:Nature 403, 439, 2000)。しかし、Nogoを阻害することによって、再生する神経線維は一部であり、他の再生阻害物質が存在するのではないかと考えられているが、インビボで神経の再生阻害に働いている因子の一つとしてセフォマリンも推定されている(非特許文献3:Cell 75, 217, 1993、非特許文献4:Cell 75, 1389, 1993)が、これまで明らかにされていない。
【0003】
ところで、末梢神経は再生するとはいっても、その再生には神経組織中の阻害物質の影響を受けてなかなか再生できないことは上述したとおりである。そこで人工的な神経接合のため、接合管を用いて末梢神経のギャップを連結して神経を再生させようという試みがなされている。特許文献1(特開平5−237139号公報)には、ラミニンとフィブロネクチンとをコーティングしたコラーゲン繊維の束からなる神経再生補助材が開示されている。特許文献2(国際公開第98/22155号)には、生体分解吸収性材料の管状体と、その内腔に該管状体の軸線にほぼ平行に沿って該管状体を貫通する空隙を有するコラーゲン体からなり、該空隙がコラーゲン、ラミニン等を含むマトリックスゲルで充填されている人工神経管が開示されている。特許文献3(国際公開第99/63908号)には、生体分解吸収性材料の管状体と、その内腔に該管状体の軸線にほぼ平行にラミニンで被覆されたコラーゲン繊維束を挿入した人工神経管が開示されている。特許文献4(特開2000−325463号公報)には、生体内吸収性材料よりなる繊維を束ねた構造を有する神経再建用基材が開示されている。特許文献5(特開2001−70436号公報)には、コラーゲンからなるスポンジ、チューブ、コイル等の支持体が開示されている。特許文献6(特開2002−320630号公報)には、生体分解性材料又は生体吸収性材料からなるスポンジ状の微細なマトリックスと、直線状の生体組織誘導経路又は器官誘導経路とからなる支持体が開示されている。さらに、特許文献7(特開2003−19196号公報)には、生分解性ポリマー材料からなるスポンジと、該スポンジより分解吸収期間の長い生分解性ポリマーからなる強化材を含み、その内面がスポンジからなる神経再生管が開示されている。
【0004】
このような接合管によって末梢神経再生を試みるに当たって、神経の再生を促進する薬剤が提供されることによって、再生効率は飛躍的に向上するはずであるがそのような薬剤は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−237139号公報
【特許文献2】国際公開第98/22155号
【特許文献3】国際公開第99/63908号
【特許文献4】特開2000−325463号公報
【特許文献5】特開2001−70436号公報
【特許文献6】特開2002−320630号公報
【特許文献7】特開2003−19196号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature 403, 434, 2000
【非特許文献2】Nature 403, 439, 2000
【非特許文献3】Cell 75, 217, 1993
【非特許文献4】Cell 75, 1389, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、末梢神経の再生促進作用を有する剤を提供することを課題とする。またこの剤を含有する飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはコムギ末粉に着目して試験した結果、コムギ末粉を含む複数の麦類の未利用資源の抽出物に神経突起の発生と神経の再生促進作用があることを知見したことに基づき、本発明を提案する。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)コムギふすま、コムギ末粉、オオムギぬかから選択される一以上の抽出物を有効成分とする神経再生促進剤。
(2)神経が末梢神経である(1)記載の神経再生促進剤剤。
(3)経口剤である(1)又は(2)に記載の神経再生促進剤。
(4)神経の再生が接合管を用いた再生である(1)〜(3)のいずれかに記載の神経再生促進剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の神経再生促進剤を含有する飲食品
【発明の効果】
【0010】
本発明は、新たな神経再生促進剤を提供することができる。また神経再生を促進する飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コムギふすま、コムギ末粉、オオムギぬかの水抽出物によるラット褐色細胞腫由来PC12細胞に対する神経突起伸長作用を示すグラフ。
【図2】坐骨神経の再生を確認するために、染色標本作成用に再生部位を切断した箇所を示す模式図。
【図3】再生した神経束断面積を画像解析によって測定した結果を示すグラフ。
【図4】再生した神経軸索本数を画像解析によって計測した結果を示すグラフ。
【図5】再生した神経軸索断総面積を画像解析によって計測した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の神経再生促進剤はコムギふすま、コムギ末粉、オオムギぬかから選択される一以上の抽出物を有効成分とする。
【0013】
オオムギ、コムギは主要な食料資源として広く利用されている。通常は種子の胚乳部分が製粉され、種々の食品に利用されている。製粉の過程で、種子の外皮部分は篩い分けされて、非食用として家畜飼料に利用される。
コムギは、製粉工程でふすまとコムギ粉に分類される。コムギふすまは、コムギの外皮部分で、ほとんどがセルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維で構成され、コムギ粉よりも粗粒の物質であり、皮部以外に胚芽及び製粉で粉にしきれなかった少量の胚乳も混入する。
本発明で使用するふすまは、白コムギを製粉する際に得られるものである。
コムギ粉を分類するには大きく分けて2つの方法がある。ひとつは、タイプ(種類)による分類で、もうひとつはグレード(等級)によるものでる。グレードによる分類は、原料のコムギ粒の形態に由来する。
同じコムギ粒の胚乳部分でも、中心部は灰分が少なく、色が白く、またたんぱく質の量も少なくなる傾向がある。製粉工程で、主にこの中心部分からとれる粉を分類して上級粉と呼ぶ。上級粉は、灰分が低く、乳白色または淡黄色の冴えた色をしている。逆に、表皮近くからとれる下級粉は、たんぱく質も多くなり、色がくすんで茶褐色を帯びてくる。一般に、灰分値が0.3〜0.35%のものは特等粉、0.35〜0.45%のものは1等粉、0.45〜0.65%のものは2等粉、0.7〜1.0%のものは3等粉、そして1.2〜2.0%のものを末粉(すえこ)と分類している。またコムギ粒の外皮はふすまとして別に篩い分けられる末粉は通常食用には適さないため、ふすまとあわせて動物用飼料としたり、工業用の糊原料とされたりする。本発明はこの末粉を原料としている。
オオムギぬかとは、オオムギを食糧用として精白する段階で、副産物として発生するものを総称して「オオムギぬか」と呼ぶ。「オオムギぬか」は、その粒度の違いによって荒ぬか・仕上ぬか・混合ぬかなどに区別される。「オオムギぬか」には種皮や胚芽由来の部分がふくまれておりバーレーブラン(Barly Bran)とも呼ばれ、食物繊維の一種であるβ−グルカンを豊富に含む。
【0014】
オオムギぬかから本発明の剤を調製するためには、ぬかを水で抽出する。ぬかは荒ぬか・仕上ぬか・混合ぬかのいずれでも差し支えない。本発明ではこれらを総称してオオムギぬかという。
コムギふすまから本発明の剤を調製するためには、ぬかを水で抽出する。
コムギ末粉から本発明の剤を調製するためには、末粉を水で抽出する。以降「末粉」として記載した場合は、コムギ末粉を意味する。
末粉は飼料用として市販されているものでよいが、製粉直後のものが含有されている脂質分の酸化がなく好ましい。
【0015】
コムギふすま、コムギ末粉、あるいはオオムギぬか1重量部に対して水5〜10重量部を加え、攪拌しながら、0.5〜1時間室温抽出する。抽出時間を短縮するためには、超音波振動を与えるなど物理的な振動を加え、水溶性成分を抽出する。小規模な抽出操作であれば、コムギふすま、末粉、オオムギぬか各1重量部に対して水5重量部を加え攪拌分散させた後、超音波処理を3〜10分行うことで有効成分が水に溶出してくる。
ついで、遠心分離あるいはフィルター濾過で固液分離を行い、ロ液又は上清を回収する。回収した上清又はロ液は乾燥処理を行い粉末化する。乾燥処理は通常の液体を乾燥する方法であれば噴霧乾燥やドラムドライヤー、凍結乾燥などどのような方法でも適用できるが、活性を低下させないためには可能な限り低温で乾燥させることが好ましい。
【0016】
本発明の神経再生促進剤は、上記の方法で得られた乾燥物を更に粉砕し、超微細粒子とすることもできる。
本発明品の神経再生促進剤は、常法によって、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤として製品化することができる。また、水や加重に溶解して液状、ゼリー状の飲料として製品化することもできる。更に、各種飲食品に添加して利用することもできる。
このような飲食品としては、特に限定されない。
本発明の神経再生促進剤の有効投与量は、経口摂取において成人1日当り1〜10gである。
以下実施例を示し、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0017】
<試験例1>
1.神経突起伸長促進試験
神経芽細胞に対する神経突起の伸長作用を試験する。
(1)使用細胞及び培養方法
DSファーマバイオメディカル株式会社より購入したラット褐色細胞腫由来PC12細胞(継代数X+14)を使用した。通常培養用培地はD-MEM(GIBCO(ライフテクノロジージャパン株式会社))に不活化したウシ胎児血清(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)5%、ウマ胎児血清(DSファーマバイオメディカル株式会社)、ペニシリンストレプトマイシン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)0.05 pot.を添加して使用した。通常培養は、コラーゲンタイプIコート10cmディッシュ(IWAKI(AGCテクノグラス株式会社)で行った。80%コンフルエント時にピペッティングにて細胞を剥離し、10mL針付シリンジ(21G x 1 1/2";テルモ)で20回ほどピペッティングして細胞をジングルセルにした。培養は37℃、5%二酸化炭素、95%空気存在下で行った。
【0018】
(2)試薬調製
Nerve growth factorの調製
神経突起伸長因子としてnerve growth factor(NGF,2.5S Nerve Growth Factor, Mouse;和光純薬工業株式会社)を用いた。NGFをbovine serum albumin(BSA;Albumin, from Bovine Serum, Fraction V, Fatty acid-free, Nuclease- and Protease-Free;Merck Calbiochem(メルク株式会社))1mg/mL 生理食塩水で10μg/mLになるよう調製し、最終濃度10μg/mLになるよう血清フリー培地(D-MEM/1%ペニシリンストレプトマイシン/1% N-2 supplement(GIBCO(ライフテクノロジージャパン株式会社))に添加した。
【0019】
(3)コムギ末粉抽出物の調製
日本製粉株式会社製のコムギ末粉1gに対して水5mLを添加し、1分30秒超音波処理を行った。ついで遠心機で1,000rpm×10分遠心後、上清を回収し、凍結乾燥機で水分を飛ばしたものを水抽出物とした。これを以下末粉抽出物と呼ぶ。
この粉末を−20℃で保存し、必要時に室温に戻して使用した。
【0020】
(4)コムギふすま抽出物の調製
日本製粉株式会社製コムギふすま1gに対して水5mLを添加し、4分超音波処理を行った。その後、遠心機で10,000rpm×15分遠心し、上清を回収し、凍結乾燥機で水分を飛ばしたものを水抽出物とした。これを以下ふすま抽出物という。
同様に−20℃で保存した。
【0021】
(5)オオムギぬか抽出物の調製
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センターで調製したオオムギぬか1gに対して水5mLを添加し、4分超音波処理を行った。遠心機で10,000rpm×10分遠心後、上清を回収し、凍結乾燥機で水分を飛ばしたものを水抽出物とした。 これを以下オオムギぬか抽出物という。
同様に−20℃で保存して使用した。
【0022】
(6)試験用溶液の調製
各抽出物をそれぞれ11.1100mg/mL、33.3100mg/mLおよび100mg/mLとなるよう蒸留水で調製した。
【0023】
(7)試験細胞のプレート播種
継代したPC12細胞(継代数X+17〜20)を血清フリーNGF添加培地で5.0×104 cells / mLとした。この細胞の分散液に各抽出液の調製液を最終濃度11.1μg/mL、33.3μg/mLおよび100μg/mLとなるよう培地(細胞入り血清フリーNGF添加培地)に添加し、コラーゲンタイプIコート24wellプレート(IWAKI(AGCテクノグラス株式会社))上に、播種した。
【0024】
(8)神経突起伸長促進作用の活性測定
プレート播種(被験物質曝露)から48時間後、実体顕微鏡で写真を撮影し(4箇所 / well)、細胞体よりも2倍以上神経突起が伸長している細胞数 / 全細胞数をカウントした(n=4)。
【0025】
(10)測定結果
コムギ末粉抽出物、ふすま抽出物およびオオムギぬか抽出物神経突起伸長作用を図1に示す。
コムギ末粉抽出物の神経突起伸長作用は、コムギふすま抽出物よりも強かった。各抽出物の濃度が11.1および33.3μg/mLのとき、神経突起伸長した細胞の割合がコムギ末粉がそれぞれ19.6%および22.9%であったのに対し、コムギふすまでは15.9および20%であった。またコムギ末粉抽出物は低濃度(11.1μg/mL)でも神経突起伸長作用を有していた。またオオムギぬか抽出物はコムギ末粉とほぼ同程度の活性を有することがわかった。
【0026】
2.坐骨神経再生促進効果確認試験.
本試験では上記の1.の試験で好成績を収めたコムギ末粉抽出物の神経再生促進作用を試験したものである。
(1)試験試料
上記1.で調製したコムギ末粉抽出物を用いた。
【0027】
(2) 投与検体の調製
試験試料は、あらかじめ1日分ずつ規定量を秤量・分注し,投与日および群を記載して−20℃に保存した。投与液の調製は用時調製とし、転倒混和にて3.33mg/mLおよび10mg/mLになるように溶解した。
【0028】
(3)モデル動物
ラット,Slc:SD,雄33匹
入荷時:5週齢
手術時:6週齢
解剖時:10週齢

入荷時に種、系統、週齢、動物数及び性別を確認し、一般状態および外観を観察するとともに体重を測定した。馴化期間は7日間とした。
個体識別は尾に番号を記載することで行った。手術翌日の体重をもとに、各群に差がないよう群分けを行い、群分け後の動物は2匹ずつケージに収容し、群、動物番号および個体識別番号を明記したラベルをケージ前面に付けた。
【0029】
(4) 試験系の環境条件
設定温度:24℃(許容範囲21〜27℃)、設定湿度:55%(許容範囲35〜75%)、照明:午前7時点灯、午後7時消灯の12時間、換気回数:10〜20回/時に維持された動物飼育室コンベンショナル区域内の飼育室で動物を飼育した。動物は,プラスチック製エコンTPXケージ(345×403×177mm)を用いて、1ケージあたり2匹で飼育した。
飼料は、入手後3ヶ月以内の固形飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業株式会社)をオートクレーブ処理(121℃、25分)し、給餌器に入れて自由に摂取させた。
飲料水はオートクレーブ処理(121℃、25分)した水道水を給水瓶より自由に摂取させた。
【0030】
(5)試験モデル動物作成のための手術方法
ドロペリドール(ドロレプタン注射液;第一三共株式会社)0.25mg/kgおよびトリブロモエタノール溶液※を937.5mg/kg腹腔内投与し、筋弛緩および麻酔を施した。左後肢大腿部外部を毛剃りし,横臥位に保定し、70%エタノールで消毒した。大腿骨直上を1〜2cm程度切皮し,筋肉を鈍性剥離し、坐骨神経を露出させ、坐骨神経の下に幅8mmのシリコンシートを敷きこんだ。内径1mm,外径2mm,長さ6mmのシリコンチューブ(三商株式会社)に切り込みを入れて開閉できるようにしたものを坐骨神経にはめ込み,両端から1mmのところでシリコンチューブと坐骨神経を縫い付けた(絹糸7-0;夏目製作所株式会社)。シリコンチューブの切れ込みを開き、坐骨神経を切断して1mm程度の隙間を生じさせた。その隙間にシリンジを用いて生理食塩水を満たし、シリコンチューブの切れ目を閉じた。坐骨神経を元の位置に戻し、皮膚を縫合した。
【0031】
(6)試験試料の投与方法
胃ゾンデを用いた強制経口投与とした。投与回数、投与期間および投与液量は1日1回28日間投与した。投与液量は、最も近い測定体重値より10mL/kgで算出した。
【0032】
(7)試験群の群構成および投与量
以下の投与量とした。
投与量(mg/kg) 使用動物数
対照群 0 11
コムギ末粉抽出物33.3mg/kg群 33.3 11
コムギ末粉抽出物100mg/kg群 100 11
【0033】
(8) 解剖、組織標本の作製
4週間の経口投与後、トリブロモエタノール溶液にて麻酔し、腹部大動脈から放血して屠殺した。手術部位である坐骨神経を取り出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液に浸漬した。
パラフィン包埋・ブロック作製は一晩10%中性緩衝ホルマリン溶液に浸漬した後、図2に示すように坐骨神経再生部位の上位に朱色、下位に黒の墨汁で色付し、密閉式自動固定包埋装置(ティシュー・テックVIP5ジュニア;サクラファインテックジャパン株式会社)にて脱脂・脱水、パラフィン浸透を行った。パラフィン包埋ブロック作製装置(ティシュー・テックTEC5エンベンディングコンソールシステム;サクラファインテックジャパン株式会社)にて、ブロックを作製した。
【0034】
(9)薄切・免疫染色
坐骨神経上位(朱色部分)を切出した後、各個体薄切部位に差異が出ないよう、再生部位の上位から数μmの箇所を免疫染色用に薄切し、スライドを作製した。免疫染色には一次抗体としてneurofilament protein(Anti-Neurofilament M (145 kDa)、 C-terminus(NFP);日本ミリポア株式会社)、二次抗体としてAlexa F488:goat-anti rabbit F488(蛍光FITC標識488;ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いた。
【0035】
(10)画像解析
ア.神経束断面積の画像解析
露光時間を上げて撮影した画像からphotoshopを用いて2値化し、黒色部分の面積をImage J(NIH Image 1.63)を用いて求めた。
イ.軸索本数および軸索断総面積の画像解析
NFP(マイナス)で蛍光染色したスライドを用いて蛍光を発しない露光時間を設定し、撮影した。
神経束断面積と同じく、photoshopを用いて2値化し、軸索の本数および総面積をImage J(NIH Image 1.63)を用いて求めた。
【0036】
(11)結果
画像解析結果を図3、図4、図5に示す。神経束断面積(図3)の結果では、無投与群に比べ100mg/Kg投与群で神経束断面積が有意に増加していることが確認できた。
軸索本数(図4)についても同様に無投与群に比べ100mg/Kg投与群で神経軸索が増加していることが確認できた。
また軸索断総面積(図5)においても、無投与群に比べコムギ末粉抽出物100mg/Kg投与群で有意に増加していることが確認された。
以上の結果からコムギ末粉抽出物は、経口投与で、切断された神経の再生を促進していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コムギふすま、コムギ末粉、オオムギぬかから選択される一以上の抽出物を有効成分とする神経再生促進剤。
【請求項2】
神経が末梢神経である請求項1記載の神経再生促進剤。
【請求項3】
経口剤である請求項1又は請求項2に記載の神経再生促進剤。
【請求項4】
神経の再生が接合管を用いた再生である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の神経再生促進剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の神経再生促進剤を含有する飲食品

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71910(P2013−71910A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212280(P2011−212280)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】