説明

神経再生促進剤

一般式(1)


(式中の記号は明細書記載の通り)
で示される化合物、その塩またはそれらのプロドラッグを含有してなる神経再生促進剤。一般式(1)で示される化合物は、幹細胞(神経幹細胞、胚性幹細胞、骨髄細胞等)増殖・分化促進物質、神経前駆細細胞増殖・分化促進物質として、または神経栄養因子活性増強物質、神経栄養因子様物質、神経変性抑制物質として、神経細胞死を抑制し、神経細胞の新生および再生、軸索進展により神経組織および機能の修復・再生を促進する。さらに移植細胞(神経幹細胞・神経前駆細胞・神経細胞等)の脳組織、骨髄および胚性幹細胞等からの調製にも有用であると同時に、移植細胞の生着・増殖・分化および機能発現を促進するので、神経変性疾患の予防および/または治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、医薬として有用な神経再生促進剤に関する。
【背景技術】
古くから神経細胞は、再生しないものであると考えられてきた。しかし、1990年頃に未分化状態にある神経幹細胞の培養に成功して以来、成体脳にも神経細胞に分化可能な幹細胞が存在し、神経は再生可能であることが明らかとなってきた。
神経幹細胞は、自己複製能を持ち、かつ神経細胞(ニューロン)や、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトのような支持細胞を作り出すことができる多分化能を持った細胞である。神経細胞は通常、未分化な神経幹細胞から神経前駆細胞を経て形成される。また、胚性幹細胞(ES細胞)や骨髄細胞(骨髄幹細胞等)等も神経細胞に分化可能であることが知られている。現在、再生医療の分野で先行している技術、例えば、骨や皮膚組織を再生させる技術においては、本来の組織の物理的状態を再現することにより、ある程度の目的を達することができる。しかしながら、神経再生を医療技術として使用するためには、神経細胞を物理的に形成させるだけでは足りず、この神経細胞を如何にして成熟させるか、如何にして機能させるかが重要な課題である。
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病等の神経変性疾患は、神経細胞死が進行性に起きる疾患である。これら神経変性疾患の治療法としては、現在、主に神経伝達物質の枯渇を補う補充療法あるいは対症療法が行われている。しかしながら、補充療法や対症療法では、神経変性の進行を完全に抑制することは出来ず、病状は進行する。しかしながらこのような疾患の場合においても、成体脳に存在する内在性の神経幹細胞は神経細胞へと分化していることが知られている。例えば、虚血モデル動物において神経幹細胞から神経再生が起きることが報告されている[ジャーナルオブニューロサイエンス(J.Neurosci.),18巻,7768〜7778頁,1998年]。
近年、これらの神経変性疾患の治療を目的として、内在性の神経幹細胞を活性化させ、障害された神経組織および機能を再生させるという試みがなされている[ネイチャーメディシン(Nature Medicine),4巻,1313〜1317頁,1998年、ネイチャーメディシン(Nature Medicine),6巻,271〜277頁,2000年]。また、胚性幹細胞や堕胎胎児脳さらには患者自身の組織より神経幹細胞を調製し、移植により神経再生を目指す試みも行われている[ネイチャー(Nature),405巻,951〜955頁,2000年、ヨーロピアン ジャーナルニューロサイエンス(Eur.J.Neurosci.),10巻,2026〜2036頁,1998年]。さらに、神経変性疾患のみならず脱髄疾患においても、幹細胞を末梢血管から投与することによる症状改善効果も示されている[ネイチャー(Nature),422巻,688〜694頁,2003年]。
一方、2−プロピルペンタン酸誘導体は、アストロサイト機能改善作用を有するため、神経変性疾患、脳卒中や脳脊髄外傷後の神経機能障害、脳腫瘍、感染症に伴う脳脊髄疾患等の治療剤および/または予防剤として有用であると報告されている(例えば、欧州特許公開第0632088号明細書参照)。
また、係る2−プロピルペンタン酸誘導体は、パーキンソン病またはパーキンソン症候群の治療剤および/または予防剤としても有用であると報告されている(例えば、欧州特許公開第1174131号明細書参照)。
さらに、これらの2−プロピルペンタン酸誘導体の作用は、細胞内S100β含量の減少作用に基づく異常活性化アストロサイトの機能改善作用によるものであると報告されている(例えば、Tateishi.N,外8名,ジャーナル・オブ・セレブラル・ブラッド・フロウ・メトボリズム(Journal of cerebral blood flow & metabolism),2002年,第22巻,p.723〜734参照)。
また、座骨神経の軸索を切断した成熟ラットにおいて、2−プロピルペンタン酸を投与することにより、軸索が伸長し、運動機能が回復することが報告されている(例えば、Xia Zhang,外6名,ブレイン・リサーチ(Brain Research),2003年,第975巻,p.229〜236参照)。
しかし、これらの文献には、2−プロピルペンタン酸誘導体が、神経幹細胞や神経前駆細胞に対して増殖や分化を促進することについては記載されておらず、また、グリア細胞等の非神経細胞から神経細胞を誘導する作用があるということについても触れられていない。さらに、2−プロピルペンタン酸誘導体を移植用神経細胞の細胞調製に用いるという方法に関しても、記載も示唆も一切なされていない。
アルツハイマー病やパーキンソン病等に代表される神経変性疾患は、神経の欠落を来たす重大な疾患であるにも関わらず、対症療法ではない効果的な疾患の治療法は未だ見出されていない。例えば、神経変性疾患が、前記非特許文献2に記載の動物モデルの如く、軸索の切断が起こるだけのものであれば、2−プロピルペンタン酸の投与は有効な治療法となる可能性がある。しかしながら神経変性疾患は、軸索だけではなく、神経細胞自体が徐々に死んでいく疾患の総称であり、その具体的な治療法は見出されていない。また近い将来、神経変性疾患の効果的な治療法となりうる幹細胞移植、または内在性幹細胞の活性化においても、移植幹細胞や内在性幹細胞を実際に機能する神経細胞まで導く技術は見出されていない。
このような神経変性疾患の治療における問題点を鑑み、現在医療現場では神経変性疾患の予防剤、治療剤等の医薬として有用な化合物の開発が切望されている。
【発明の開示】
神経変性疾患の原因や、神経細胞自体の性質を考慮すると、神経変性疾患の予防・治療剤としては、(1)神経栄養因子様作用、(2)神経栄養因子活性増強作用、(3)神経変性後における神経細胞新生作用、(4)神経変性後における神経細胞再生促進作用を有する化合物(例えば、(a)神経幹細胞や神経前駆細胞の新生・増殖・分化を促進させる化合物、(b)神経幹細胞、神経前駆細胞、または神経細胞を移植した際の、移植細胞の生着・分化・増殖を促進させる化合物、または(c)神経細胞の成熟を促進させる化合物等)が有用であると推測される。これらの条件を満たす化合物は、神経変性疾患における神経細胞死を抑制し、神経細胞死が起こった後においても内在性または移植時の細胞の神経再生を促進することによって、該疾患の症状を改善することが可能と考えられる。そこで、本発明者らは、上記の条件を満たす化合物を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明に係る脂肪酸化合物、その塩またはそれらのプロドラッグ(以下、本発明化合物ということがある。)が、これらの条件を満たす優れた化合物であることを見出し、本発明を完成した。
さらに本発明者らは、本発明化合物による神経再生促進作用について鋭意検討を重ねた結果、本発明化合物は、幹細胞や神経前駆細胞等の増殖や分化を促進する作用だけでなく、アストロサイト等のグリア細胞から神経細胞への分化も促進するという、実に驚くべき作用を有していることを見出し、本発明を完成した。なお、前記特許文献(欧州特許公開第0632088号明細書)には、2−プロピルペンタン酸誘導体化合物が、アストロサイト機能改善作用を有し、アストロサイトからリアクティブアストロサイトへの誘導を阻害する旨が記載されているが、その化合物がアストロサイトから神経細胞への分化誘導作用を有するということは、記載も示唆も一切なされておらず、本発明は前記特許文献からは全く予期できないことである。
すなわち、本発明は、1.脂肪酸化合物(ただし、レチノイン酸およびプロスタグランジン化合物は除く。)、その塩またはそれらのプロドラッグを含有してなる神経再生促進剤、2.脂肪酸化合物が、不飽和脂肪酸化合物である前記1記載の神経再生促進剤、3.脂肪酸化合物が、飽和脂肪酸化合物である前記1記載の神経再生促進剤、4.脂肪酸化合物が、分枝鎖状脂肪酸化合物である前記1記載の神経再生促進剤、5.脂肪酸化合物が、炭素数4〜20の直鎖状または分枝鎖状脂肪酸化合物である前記1記載の神経再生促進剤、6.脂肪酸化合物が、一般式(I)

(式中、Rは、ヒドロキシ基を表わし、RおよびRは、それぞれ独立して、(a)水素原子、(b)塩素原子、(c)C3〜10アルキル基、(d)C3〜10アルケニル基、(e)C2〜10アルコキシ基、(f)C2〜10アルキルチオ基、(g)C3〜7シクロアルキル基、(h)フェニル基、(i)フェノキシ基、(j)(塩素原子1個または2個で置換されたC2〜10アルキル)−CH−基、(k)(C1〜4アルコキシ基、C3〜7シクロアルキル基、フェニル基またはフェノキシ基から選ばれる1個または2個の置換基で置換されたC1〜5アルキル)−CH−基、(l)(1個の炭素原子が1〜3個のフッ素原子で置換されたC1〜10アルキル)−CH−基、または(m)酸化されたC3〜10アルキル基を表わすか、または一緒になってC3〜10アルキリデン基を表わし、Rは、C2〜3アルキル基または酸化されたC2〜3アルキル基を表わす。)で示される前記1記載の神経再生促進剤、7.脂肪酸化合物が、(1)2−プロピルオクタン酸、(2)(2R)−2−プロピルオクタン酸、(3)(2S)−2−プロピルオクタン酸、(4)2−プロピルペンタン酸、(5)(2R)−7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(6)(2R,7R)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(7)(2R,7S)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、または(8)(2R)−8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸である前記6記載の神経再生促進剤、8.脂肪酸化合物が、(2R)−2−プロピルオクタン酸である前記7記載の神経再生促進剤、9.神経組織再生剤または神経機能再生剤である前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、10.幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞の生着、分化、増殖および/または成熟促進剤である前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、11.幹細胞が、胚性幹細胞、骨髄幹細胞または神経幹細胞である前記10記載の神経再生促進剤、12.幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞が、内在性細胞である前記10記載の神経再生促進剤、13.幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞が、移植細胞である前記10記載の神経再生促進剤、14.間葉系細胞、骨髄間質細胞またはグリア細胞から神経細胞を誘導する前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、15.グリア細胞がアストロサイトである前記14記載の神経再生促進剤、16.神経が、中枢神経または末梢神経である前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、17.中枢神経が、脳神経、脊髄神経または視神経である前記16記載の神経再生促進剤、18.末梢神経が、運動神経または知覚神経である前記16記載の神経再生促進剤、19.移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞の培養用である前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、20.神経栄養因子様作用剤である前記1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤、21.前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経再生を促進する方法、22.前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞を含有する培地に添加することを特徴とする移植用細胞の培養方法、23.神経再生剤を製造するための、前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの使用、24.移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞の培養用添加剤を製造するための、前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの使用、25.前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグと、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、ニコチン受容体調節薬、βセクレターゼ阻害薬、γセクレターゼ阻害薬、βアミロイド蛋白凝集阻害薬、βアミロイドワクチン、βアミロイド分解酵素、脳機能賦活薬、ドーパミン受容体作動薬、モノアミン酸化酵素阻害薬、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、筋萎縮性側索硬化症治療薬、高脂血症治療薬、痴呆の進行に伴う異常行動・徘徊の治療薬、アポトーシス阻害薬、神経分化・再生促進薬、降圧薬、糖尿病治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、非ステロイド性抗炎症薬、疾患修飾性抗リウマチ薬、TNF阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬、ステロイド薬、性ホルモン誘導体、副甲状腺ホルモンおよびカルシウム受容体拮抗薬から選ばれる1種以上とを組み合わせてなる医薬、26.前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞を含有する培地に添加することを特徴とする、移植用細胞の調製方法、および27.前記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞を含有する培地に添加することを特徴とする移植用細胞の製造方法等に関する。
本発明において、「神経再生」は、当該分野で用いられる用語である「神経新生」および「神経再生」を共に包含する。すなわち、本発明化合物の生体への投与または培養細胞用培地への添加によって、生体内または培地中の神経細胞および/または成熟神経細胞が増加すれば、それは全て本発明における神経再生に含まれる。
本発明において、神経再生は、量的な神経再生と質的な神経再生に分類することができる。量的な神経再生とは、神経細胞数が増加することを意味し、質的な神経再生とは、成熟神経細胞が増加することを意味する。ここで、成熟神経細胞とは、成熟した神経細胞、すなわち、信号のやりとり等の機能的に働く状態に成長した神経細胞を意味する。これらの神経再生は、生体内で起こるものであっても、また、生体外で起こるものであっても構わないが、特に生体内での神経再生について、例えば、生体内における量的神経再生を「神経組織再生」、生体内における質的神経再生を「神経機能再生」と称することもできる。
本発明において、神経再生は、前記した神経細胞および/または成熟神経細胞の増加という意味に加え、神経における正常発生の過程を少なくとも一部再現するものという意味をも含む。すなわち、最終的に神経細胞や成熟神経細胞になる細胞もしくはなることが知られている細胞(以下、再生する細胞という。)の、生着、分化、増殖および/または成熟の過程をいずれか一つでも誘導する場合、それは全て本発明における神経再生に含まれる。これらの過程は勿論、生体内で起こるものであっても、また、生体外で起こるものであっても構わない。
本発明において、神経再生は、再生する細胞の種類や由来によって限定されるものではない。再生する細胞としては、例えば、幹細胞(例えば、神経幹細胞、胚性幹細胞、骨髄細胞等)、神経前駆細胞または神経細胞等が挙げられる。これらの細胞は、内在性の細胞であっても、外因性の細胞(例えば、移植細胞等)であってもよい。外因性の細胞としては、成熟神経細胞を用いることも可能である。外因性の細胞は、自家由来の細胞であっても他家由来の細胞であってもよい。さらに、神経幹細胞より未分化な細胞であっても、神経幹細胞を経て分化するものであれば、全て本発明における神経再生に包含される。また、神経幹細胞から、神経細胞とは違う方向に分化段階の進んだ細胞(例えば、グリア細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、上衣細胞等)、グリア前駆細胞等)であっても、神経細胞および/または成熟神経細胞へと分化すれば、全て本発明における神経再生に包含される。
本発明において、神経再生は、どのようなメカニズムに基づくものであってもよい。例えば、神経栄養因子様作用や神経栄養因子活性増強作用に基づくものであってもよい。ここで、神経栄養因子とは、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、成熟神経細胞等に対して栄養として働く因子を意味する。神経栄養因子としては、従来、例えば、NGF(Nereve Growth Factor:神経成長因子)、BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor:脳由来神経栄養因子)、インシュリン様成長因子等のタンパク質が知られている。神経栄養因子様作用とは、これら神経栄養因子の如き作用であればよく、例えば、軸索の伸長作用、神経伝達物質の合成促進作用、神経細胞の分化・増殖を促進する作用、神経細胞の活動を維持する栄養分としての作用、シナプス形成作用、神経細胞保護作用等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また神経栄養因子活性増強作用としては、上記の神経栄養因子による作用を増強する活性を意味する。
本発明によって、生体内に存在する、あるいは生体外に取り出した移植用の神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞等は、より分化段階の進んだ細胞へと増殖および/または分化させることができる。具体的には、神経幹細胞は神経前駆細胞、神経細胞、成熟神経細胞、機能性神経細胞等に、神経前駆細胞は神経細胞、成熟神経細胞、機能性神経細胞等に、神経細胞は成熟神経細胞、機能性神経細胞等に、増殖および/または分化させることができる。これらの細胞の判別の仕方は公知の方法で行うことができるが、例えば、これらの細胞がそれぞれの分化段階に応じて特徴的に発現するタンパク質やmRNA等を指標に用いて検出することが好ましい。このような指標としては、例えば、神経幹細胞であればNestin等を、神経前駆細胞であれば、PSA−NCAMやDoublecortin等を、神経細胞であれば、βIII−tubulin(Tuj1)等を、成熟神経細胞であれば、MAP2、NeuN、NSE等を、機能性神経細胞であればGABA等を用いることができる。なお、本明細書中、神経細胞や一部の神経前駆細胞は、成熟していない神経細胞という意味で、幼若神経細胞と称する場合がある。
本発明における移植用細胞の培養方法は、本発明化合物を培地中に添加することを特徴とするものであるため、基礎培地やその他の添加剤等の培養条件は、公知の技術を用いればよい。具体的な培養条件としては、例えば、後記の実施例に記載の方法等が挙げられる。
また、本発明における移植用細胞の培養方法は、その培養期間におけるいずれかの過程で、本発明化合物と移植用細胞が接触するものであればよく、その接触期間の長短によって限定されるものではない。
さらに、本発明における移植用細胞の培養方法は、他の公知の技術と組み合わせることによって、より優れた効果を得ることもできる。例えば、胚性幹細胞等に電気刺激やその他の物理的、化学的刺激等を与えて大量の神経幹細胞を調製する方法が知られているが、例えば、この様な方法で得られた神経幹細胞を患者に移植後、本発明化合物を患者に投与すること、移植の際に、本発明化合物をともに脳内に添加すること、または刺激中もしくは刺激前あるいは刺激後の培養中に本発明化合物を添加剤として添加しておくことが可能である。
本発明において、脂肪酸化合物とは、カルボキシ基を1個有する鎖式化合物であればよく、特に限定されない。ここで、鎖式化合物とは、カルボキシ基が結合する炭素原子が炭素鎖の構成原子となっている化合物を意味する。脂肪酸化合物中の炭素鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、また、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよいが、このような炭素鎖を有する脂肪酸化合物は、それぞれ飽和脂肪酸化合物、不飽和脂肪酸化合物、直鎖状脂肪酸化合物、分枝状脂肪酸化合物とすることがある。
本発明において、プロスタグランジン化合物とは、炭素数20個のモノカルボン酸であり、以下の基本骨格を有する化合物を表わす。

本発明において、C1〜4アルコキシ基とは、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C1〜4アルキル基とは、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、窒素原子1個を含有する4〜7員の複素環とは、例えば、ピロール、ピリジン、アゼピンまたはそれらの一部が飽和した環または全部が飽和した環(例えば、ピロリジン、ピペリジン等)等を意味する。
本発明において、それらが結合する窒素原子と一緒になって、窒素原子を1個または2個含有する4〜7員の飽和複素環とは、例えば、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ペルヒドロアゼピン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、ペルヒドロジアジン(例えば、ピペラジン等)、ペルヒドロジアゼピン等を意味する。
本発明において、それらが結合する窒素原子と一緒になって、窒素原子と酸素原子を1個ずつ含有する4〜7員の飽和複素環とは、例えば、オキサゾリジン、ペルヒドロオキサジン(例えば、モルホリン等)、ペルヒドロオキサゼピン等を意味する。
本発明において、それらが結合している窒素原子と一緒になって表わすアミノ酸残基は、いずれのアミノ酸残基であってもよく、これらの残基には、カルボキシ基がエステルに変換されたものも含まれる。具体的には、例えば、グリシン、アラニン、セリン、システイン、シスチン、スレオニン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、フェニルアラニン、チロシン、チロニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、オルニチン、ヒスチジン残基およびこれらのエステル(例えば、C1〜4アルキルエステル、ベンジルエステル等)等が挙げられる。
本発明において、1個の炭素原子が1〜3個のフッ素原子で置換されているC1〜10アルキル基とは、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基およびそれらの異性体基等中の1つの炭素原子が1、2または3個のフッ素原子で置換されている基を意味する。
本発明において、C3〜10アルキル基とは、例えば、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C3〜10アルケニル基とは、例えば、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニルおよびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C2〜10アルコキシ基とは、例えば、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C2〜10アルキルチオ基とは、例えば、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、オクチルチオ、ノニルチオ、デシルチオ基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C3〜7シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチル基等を意味する。
本発明において、C2〜10アルキル基とは、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C2〜3アルキル基とは、例えば、エチル、プロピル、イソプロピル基を意味する。
本発明において、酸化されたC2〜3アルキル基または酸化されたC3〜10アルキル基における「酸化された」とは、アルキル基が1〜3個の水酸基またはオキソ基によって置換されていることを意味する。ここでのオキシ基と水酸基はアルキル基の末端炭素原子の場合のみ、同一炭素原子に置換してよい。
本発明において、C1〜5アルキル基とは、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明において、C3〜10アルキリデン基とは、例えば、プロピリデン、ブチリデン、ペンチリデン、ヘキシリデン、ヘプチリデン、オクチリデン、ノニリデン、デシリデン基およびそれらの異性体基等を意味する。
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基には直鎖のものおよび分枝鎖のものが含まれる。さらに、二重結合、環、縮合環における異性体(E、Z、シス、トランス体)、不斉炭素の存在等による異性体(R、S体、α、β配置、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、クロマトグラフ分離による極性体(高極性体、低極性体)、平衡化合物、回転異性体、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように

本発明化合物の塩には薬理学的に許容されるものすべてが含まれる。薬理学的に許容される塩は毒性のない、水溶性のものが好ましい。適当な塩としては、例えば、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等)、有機アミン(例えば、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩、酸付加物塩(例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)等)が挙げられる。本発明化合物の塩には、溶媒和物、または上記のアルカリ(土類)金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、酸付加物塩の溶媒和物も含まれる。溶媒和物は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。適当な溶媒和物としては、例えば、水、アルコール系溶媒(例えば、エタノール等)等の溶媒和物が挙げられる。本発明化合物は、公知の方法で薬理学的に許容される塩に変換される。
また、本発明化合物またはその塩のプロドラッグとは、生体内もしくは培養細胞の細胞内において酵素や胃酸等による反応により本発明化合物またはその塩に変換する化合物をいう。例えば、一般式(I)で示される化合物またはその塩のプロドラッグとしては、Rが、[1]C1〜4アルコキシ基、[2]フェニル基1個で置換されたC1〜4アルコキシ基または[3]NR基(基中、RおよびRは、それぞれ独立して、(1)水素原子、(2)C1〜4アルキル基、(3)フェニル基、(4)(i)C1〜4アルコキシ基または(ii)カルボキシル基で置換されたフェニル基、(5)窒素原子を1個含有する4〜7員の複素環、(6)(i)フェニル基、(ii)C1〜4アルコキシ基またはカルボキシル基で置換されたフェニル基または(iii)窒素原子を1個含有する4〜7員の複素環から選択される基で置換されたC1〜4アルキル基、(7)それらが結合する窒素原子と一緒になって、窒素原子を1個または2個含有する4〜7員の飽和複素環、(8)それらが結合する窒素原子と一緒になって、窒素原子と酸素原子を1個ずつ含有する4〜7員の飽和複素環、または(9)それらが結合する窒素原子と一緒となって、アミノ酸残基である化合物等が挙げられる。また、これら以外にも、例えば、本発明化合物またはその塩がアミノ基を有する場合、そのアミノ基が、例えば、アシル化、アルキル化またはリン酸化等された化合物(例えば、一般式(I)で示される化合物またはその塩のアミノ基が、エイコサノイル化、アラニル化、ペンチルアミノカルボニル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メトキシカルボニル化、テトラヒドロフラニル化、ピロリジルメチル化、ピバロイルオキシメチル化、アセトキシメチル化、tert−ブチル化された化合物等);本発明化合物またはその塩が水酸基を有する場合、その水酸基が、例えば、アシル化、アルキル化、リン酸化またはホウ酸化等された化合物(例えば、一般式(I)で示される化合物またはその塩の水酸基が、アセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、サクシニル化、フマリル化、アラニル化、ジメチルアミノメチルカルボニル化された化合物等);本発明化合物またはその塩は、そのカルボキシ基が、例えば、エステル化またはアミド化等された化合物(例えば、一般式(I)で示される化合物またはその塩のカルボキシ基が、エチルエステル化、フェニルエステル化、フェニルエチルエステル化、カルボキシメチルエステル化、ジメチルアミノメチルエステル化、ピバロイルオキシメチルエステル化、エトキシカルボニルオキシエチルエステル化、フタリジルエステル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル化、シクロヘキシルオキシカルボニルエチルエステル化、メチルアミド化等が挙げられる。これらの化合物はそれ自体公知の方法によって製造することができる。また、一般式(I)で示される化合物またはその塩のプロドラッグは水和物および非水和物のいずれでもよい。
一般式(I)中、Rとしては、ヒドロキシ基以外に、プロドラッグであるC1〜4アルコキシ基等が好ましく、より好ましくは、例えば、ヒドロキシ基、メトキシ、エトキシ基等であり、最も好ましくは、ヒドロキシ基である。
およびRとしては、いずれの基も好ましく、例えば、塩素原子、水素原子、C3〜7アルキル基または1個の炭素原子が1〜3個のフッ素原子で置換されているC3〜7アルキル基等が好ましく、より好ましくは、例えば、塩素原子、水素原子、プロピル、ヘキシル、3,3,3−トリフルオロプロピル、4,4,4−トリフルオロブチル、5,5,5−トリフルオロペンチル基等であり、最も好ましくは、水素原子、プロピル、ヘキシル基である。
本発明化合物のうち、好ましい化合物としては、例えば、(1)2−プロピルオクタン酸、(2)2−ヘキシルペント−4−エン酸、(3)2−ヘキシルペント−4−イン酸、(4)2−プロピルペンタン酸、(5)2−エチルヘキサン酸、(6)2−プロピルヘプタン酸、(7)2−プロピルヘキサン酸、(8)2−プロピルデカン酸、(9)2−プロピルペント−4−エン酸、(10)5−メチル−2−プロピルヘキサン酸、(11)4−メチル−2−プロピルペンタン酸、(12)5,5−ジメチル−2−プロピルヘキサン酸、(13)6,6−ジメチル−2−プロピルヘプタン酸、(14)5−エチル−2−プロピルヘプタン酸、(15)7−メチル−2−プロピルオクタン酸、(16)6−メチル−2−プロピルヘプタン酸、(17)2−プロピルオクト7−エン酸、(18)(2E)−2−プロピルペント−2−エン酸、(19)5−フルオロ−2−プロピルペンタン酸、(20)5,5−ジフルオロ−2−プロピルペンタン酸、(21)5,5,5−トリフルオロ−2−プロピルペンタン酸、(22)7,7−ジフルオロ−2−プロピルヘプタン酸、(23)8,8−ジフルオロ−2−プロピルオクタン酸、(24)6,6,6−トリフルオロ−2−プロピルヘキサン酸、(25)7−フルオロ−2−プロピルヘプタン酸、(26)8−フルオロ−2−プロピルオクタン酸、(27)6−フルオロ−2−プロピルヘキサン酸、(28)6,6−ジフルオロ−2−プロピルヘキサン酸、(29)9−フルオロ−2−プロピルノナン酸、(30)9,9−ジフルオロ−2−プロピルノナン酸、(31)8,8,8−トリフルオロ−2−プロピルオクタン酸、(32)7,7,7−トリフルオロ−2−プロピルヘプタン酸、(33)7−クロロ−2−プロピルヘプタン酸、(34)2−クロロ−2−プロピルペンタン酸、(35)2−エトキシペンタン酸、(36)2−プロポキシペンタン酸、(37)2−ブトキシペンタン酸、(38)2−(2−エトキシエチル)ペンタン酸、(39)2−(2−メトキシエチル)ペンタン酸、(40)5−メトキシ−2−プロピルペンタン酸、(41)2−(ペンチルオキシ)ペンタン酸、(42)5−エトキシ−2−プロピルペンタン酸、(43)2−(ヘキシルオキシ)ペンタン酸、(44)6−メトキシ−2−プロピルヘキサン酸、(45)2−(ペンチルチオ)ペンタン酸、(46)5−シクロヘキシル−2−プロピルペンタン酸、(47)5−フェニル−2−プロピルペンタン酸、(48)5−フェノキシ−2−プロピルペンタン酸、(49)6−フェニル−2−プロピルヘキサン酸、(50)2−(2−シクロヘキシルエチル)ペンタン酸、(51)2−(シクロヘキシルメチル)ペンタン酸、(52)2−ベンジルペンタン酸、(53)2−シクロヘキシルペンタン酸、(54)2−シクロペンチルペンタン酸、(55)2−フェニルペンタン酸、(56)2−フェノキシペンタン酸、(57)1−(2−プロピルオクタノイル)ピペリジン、(58)4−(2−プロピルオクタノイル)モルホリン、(59)2−プロピルオクタンアミド、(60)N−イソプロピル−2−プロピルオクタンアミド、(61)N,N−ジメチル−2−プロピルオクタンアミド、(62)6,6,6−トリフルオロ−N−(4−メトキシフェニル)−2−プロピルヘキサンアミド、(63)N−ベンジル−6,6,6−トリフルオロ−2−プロピルヘキサンアミド、(64)6,6,6−トリフルオロ−2−プロピル−N−ピリジン−3−イルヘキサンアミド、(65)(2S)−2−[(6,6,6−トリフルオロ−2−プロピルヘキサノイル)アミノ]プロパン酸、(66)N−メチル−2−プロピルペンタンアミド、(67)N,N−ジメチル−2−プロピルペンタンアミド、(68)2−プロピル−4−ヘキシン酸、(69)7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(70)7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(71)8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(72)2−プロピルスベリン酸、(73)6−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(74)6−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(75)2−(2−ヒドロキシプロピル)オクタン酸、(76)2−(2−オキソプロピル)オクタン酸、(77)2−(3−ヒドロキシプロピル)オクタン酸、その光学活性体等が挙げられる。
より好ましいものとして、例えば、(1)2−プロピルオクタン酸、(2)2−ヘキシルペント−4−エン酸、(3)2−ヘキシルペント−4−イン酸、(4)2−プロピルペンタン酸、(5)2−エチルヘキサン酸、(6)2−プロピルヘプタン酸、(7)2−プロピルヘキサン酸、(8)2−プロピルデカン酸、(68)2−プロピル−4−ヘキシン酸、(69)7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(70)7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(71)8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、その光学活性体もしくはその塩またはそのプロドラッグ等が挙げられる。
特に好ましいものとして、例えば、(1)2−プロピルオクタン酸、(1−1)(2R)−2−プロピルオクタン酸、(1−2)(2S)−2−プロピルオクタン酸、(2)2−ヘキシルペント−4−エン酸、(2−1)(2R)−2−ヘキシルペント−4−エン酸、(2−2)(2S)−2−ヘキシルペント−4−エン酸、(3)2−ヘキシルペント−4−イン酸、(3−1)(2R)−2−ヘキシルペント−4−イン酸、(3−2)(2S)−2−ヘキシルペント−4−イン酸、(4)2−プロピルペンタン酸、(5)2−エチルヘキサン酸、(5−1)(2R)−2−エチルヘキサン酸、(5−2)(2S)−2−エチルヘキサン酸、(68)2−プロピル−4−ヘキシン酸、(68−1)(2R)−2−プロピル−4−ヘキシン酸、(68−2)(2S)−2−プロピル−4−ヘキシン酸、(69)7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(69−1)(2R)−7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(69−2)(2S)−7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(70)7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(70−1)(2R,7R)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(70−2)(2R,7S)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(70−3)(2S,7R)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(70−4)(2S,7S)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(71)8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(71−1)(2R)−8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(71−2)(2S)−8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、その塩またはそのプロドラッグ等が挙げられる。
[本発明化合物の製造方法]
本発明化合物は、それ自身公知であるか、または公知の方法[例えば、一般式(I)で示される化合物は、欧州特許公開第0632008号明細書、WO99/58513号パンフレット、WO00/48982号パンフレット、WO03/051852号パンフレット、WO03/097851号パンフレット等に記載の方法]、例えば、コンプリヘンシヴ・オーガニック・トランスフォーメーションズ:ア・ガイド・トウー・ファンクショナル・グループ・プレパレーションズ、セカンド・エディション(リチャードC.ラロック、ジョンワイリーアンドサンズInc,1999)[Comprehensive Organic Transformations:A Guide to Functional Group Preparations,2nd Edition(Richard C.Larock,John Wiley & Sons Inc,1999)]に記載された方法等に従って、またはそれらの方法を適宜組み合わせることにより製造することができる。
[毒性]
本発明化合物の毒性は十分に低いものであり、医薬品として使用するために十分安全であることが確認された。例えば、イヌを用いた単回静脈内投与では、(2R)−2−プロピルオクタン酸は、100mg/kgで死亡例が見られなかった。
[医薬品への適用]
本発明化合物は、ヒトを含めた動物、特にヒトにおいて、幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞の生着、分化、増殖および/または成熟促進物質として、または神経栄養因子活性増強物質、神経栄養因子様物質、神経変性抑制物質として、神経細胞死を抑制し、神経細胞の新生、再生および/または軸索進展により神経組織および神経機能の修復・再生を促進する。さらに、本発明化合物は、移植用細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞等)の脳組織、骨髄および/または胚性幹細胞等からの調製にも有用であると同時に、移植用細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞等)の生着、増殖、分化およびまたは成熟を促進するので、神経変性疾患の悪性化抑制、予防および/または治療に有用である。具体的には、例えば、パーキンソン病もしくはパーキンソン症候群、アルツハイマー病、ダウン症、筋萎縮性側索硬化症、家族性筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、ハンチントン病、脊髄小脳失調症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、オリーブ橋小脳萎縮症、皮質基底核変性症、家族性痴呆症、前頭側頭型痴呆症、老年性痴呆、びまん性レビー小体病、線条体−黒質変性症、舞踏病−無定位運動症、ジストニア、メージ症候群、晩発性小脳皮質萎縮症、家族性痙性対麻痺、運動神経病、マッカードジョセフ病、Pick病、脳卒中または脳血管障害(例えば、脳出血もしくはくも膜下出血後、または脳血栓もしくは塞栓発症後の脳梗塞および脳梗塞後の神経機能障害等)、脳脊髄外傷後の神経機能障害、毒物(例えば、ヒ素、カドミウム、有機水銀等)、毒ガス(例えば、サリン、ソマン、タブン、VXガス等)または放射線等による神経機能障害、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎、急性小脳炎、横断性脊髄炎等)、脳腫瘍(例えば、星状膠細胞腫等)、感染症に伴う脳脊髄疾患(例えば、髄膜炎、脳膿瘍、クロッツフェルド−ヤコブ病、エイズ痴呆等)、精神疾患(統合失調症、躁うつ病、神経症、心身症等)、睡眠障害(例えば、ナルコレプシー、原発性過眠症、反復性過眠症、突発性過眠症、不眠症等)、てんかん等の悪性化抑制、予防および/または治療に有用である。
また、上記したように本発明化合物は、移植用細胞の生体、例えば、脳組織、骨髄および/または胚性幹細胞等からの調製にも有用であり、例えば、移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞、移植用神経細胞、移植用成熟神経細胞等の、生体外での培養時に添加剤として、好ましくは増殖・分化促進剤として用いることができる。ここで、移植は自家移植に限定されず、他家移植でも構わない。移植用の細胞としては、神経幹細胞、神経前駆細胞が好ましい。
さらに、本発明化合物は、神経幹細胞より分化段階の進んだ細胞、特に、グリア細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、上衣細胞等)やグリア前駆細胞等の細胞に対して作用し、神経細胞へと、さらには成熟神経細胞へと分化させることができる。これらの細胞から神経細胞や成熟神経細胞への分化の機構はどのようなものであっても構わないが、例えば、これらグリア細胞やグリア前駆細胞が、幼弱化の過程を経る等して神経幹細胞や神経前駆細胞となった後、神経細胞や成熟神経細胞へと分化、増殖する機構が挙げられる。
本発明化合物を上記の目的で用いるには、通常、ヒトおよび動物においては全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与され、培養細胞においては培養液中に添加あるいは細胞に直接注入することで処置される。また、生体に投与する場合、外科的に、例えば、脳室内等に直接投与することも可能である。
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、経口投与の場合、通常、成人一人当たり、1回につき、1μgから5000mgの範囲で1日1回から数回経口投与される。非経口投与の場合は、成人一人当たり、1回につき、0.1ngから500mgの範囲で1日1回から数回非経口投与される。非経口投与形態は、好ましくは、静脈内投与であり、1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
培養細胞の場合、1pmol/Lから100mmol/Lの範囲で培養液中に添加されるか、あるいは0.1fmol/Lから100μmol/Lの範囲で細胞に直接注入(例えば、マイクロインジェクション等)される。
もちろん前記したように、投与・処置量は種々の条件により変動するので、上記投与・処置量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて投与・処置の必要な場合もある。
本発明化合物を投与する際には、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤、および非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤、吸入剤、経鼻剤等として用いられる。
経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。また錠剤には舌下錠、口腔内貼付錠、口腔内速崩壊錠等が含まれる。
このような内服用固形剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質はそのままか、または賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
舌下錠は公知の方法に準じて調製される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質に賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカ、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、膨潤剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カーボポール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、グアーガム等)、膨潤補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸、アルギニン等)、安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモン、バニラ等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また、必要に応じて常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を加えることもできる。
口腔内貼付錠は公知の方法に準じて調製される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質に賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカ、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、付着剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カーボポール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、グアーガム等)、付着補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸、アルギニン等)安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモン、バニラ等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また、必要に応じて常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を加えることもできる。
口腔内速崩壊錠は公知の方法に準じて調製される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質をそのまま、あるいは適当なコーティング剤(例えば、エチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸メタクリル酸コポリマー等)、可塑剤(例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル等)を用いて被覆を施した活性物質の原末もしくは造粒原末粒子に、賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカ、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、分散補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸、アルギニン等)、安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモン、バニラ等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また必要に応じて、常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を加えることもできる。
経口投与のための内服用液剤は、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
非経口的投与のための外用剤の剤形には、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤、リニメント剤、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、エアゾル剤、点眼剤、および点鼻剤等が含まれる。これらはひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、公知の方法または通常使用されている処方により製造される。
軟膏剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を、基剤に研和または溶融させて製造される。軟膏基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高級脂肪酸または高級脂肪酸エステル(例えば、アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル等)、ロウ類(例えば、ミツロウ、鯨ロウ、セレシン等)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、高級アルコール(例えば、セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)、シリコン油(例えば、ジメチルポリシロキサン等)、炭化水素類(例えば、親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マクロゴール等)、植物油(例えば、ヒマシ油、オリーブ油、ごま油、テレピン油等)、動物油(例えば、ミンク油、卵黄油、スクワラン、スクワレン等)、水、吸収促進剤、かぶれ防止剤から選ばれるものを単独で、または2種以上を混合して用いられる。さらに、保湿剤、保存剤、安定化剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
ゲル剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させて製造される。ゲル基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、低級アルコール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等)、ゲル化剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース等)、中和剤(例えば、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等)、界面活性剤(例えば、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等)、ガム類、水、吸収促進剤、かぶれ防止剤から選ばれるものを単独で、または2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
クリーム剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を、基剤に溶融または乳化させて調製される。クリーム基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高級脂肪酸エステル、低級アルコール、炭化水素類、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、高級アルコール(例えば、2−ヘキシルデカノール、セタノール等)、乳化剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、脂肪酸エステル類等)、水、吸収促進剤、かぶれ防止剤から選ばれるものを単独で、または2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
湿布剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させ、練合物とし支持体上に展延塗布して製造される。湿布基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、増粘剤(例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース等)、湿潤剤(例えば、尿素、グリセリン、プロピレングリコール等)、充填剤(例えば、カオリン、酸化亜鉛、タルク、カルシウム、マグネシウム等)、水、溶解補助剤、粘着付与剤、かぶれ防止剤から選ばれるものを単独で、または2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
貼付剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させ、支持体上に展延塗布して製造される。貼付剤用基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高分子基剤、油脂、高級脂肪酸、粘着付与剤、かぶれ防止剤から選ばれるものを単独で、または2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
リニメント剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物を水、アルコール(例えば、エタノール、ポリエチレングリコール等)、高級脂肪酸、グリセリン、セッケン、乳化剤、懸濁化剤等から選ばれるものを単独で、または2種以上に溶解、懸濁または乳化させて調製される。さらに、保存剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
噴霧剤、吸入剤、およびスプレー剤は、一般的に用いられる希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような緩衝剤、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば米国特許第2,868,691号および同第3,095,355号に詳しく記載されている。
非経口投与のための注射剤としては、すべての注射剤を包含する。例えば、筋肉への注射剤、静脈内への注射剤、静脈内への点滴剤等を含む。
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせ等が用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば、凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
非経口投与のための吸入剤としては、エアロゾル剤、吸入用粉末剤または吸入用液剤が含まれ、当該吸入用液剤は用時に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁させて使用する形態であってもよい。
これらの吸入剤は公知の方法に準じて製造される。例えば、吸入用液剤の場合には、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、パラベン等)、着色剤、緩衝化剤(例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、濃グリセリン等)、増粘剤(例えば、カリボキシビニルポリマー等)、吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して調製される。吸入用粉末剤の場合には、滑沢剤(例えば、ステアリン酸およびその塩等)、結合剤(例えば、デンプン、デキストリン等)、賦形剤(例えば、乳糖、セルロース等)、着色剤、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、パラベン等)、吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して調製される。吸入用液剤を投与する際には通常噴霧器(例えば、アトマイザー、ネブライザー等)が使用され、吸入用粉末剤を投与する際には通常粉末薬剤用吸入投与器が使用される。
非経口投与のためのその他の組成物としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される直腸内投与のための坐剤および腟内投与のためのペッサリー等が含まれる。
本発明化合物は、その化合物の(1)予防および/または治療効果の補完および/または増強、(2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)副作用の軽減のために他の薬剤と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
また、併用する他の薬剤の(1)予防および/または治療効果の補完および/または増強、(2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)副作用の軽減のために、本発明化合物を組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
本発明化合物と他の薬剤の併用剤(以下、本発明の併用剤と略記する。)は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明化合物を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明化合物を後に投与してよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
本発明の併用剤により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、本発明の併用剤によって、それらを単独で投与した場合に比較して、予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。
本発明の併用剤に用いられる他の薬剤としては、例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、ニコチン受容体調節薬、βアミロイド蛋白産生、分泌、蓄積、凝集および/または沈着抑制薬(例えば、βセクレターゼ阻害薬、γセクレターゼ阻害作用薬、βアミロイド蛋白凝集阻害作用薬、βアミロイドワクチン、βアミロイド分解酵素等)、脳機能賦活薬、他のパーキンソン病治療薬(例えば、ドーパミン受容体作動薬、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬等)、筋萎縮性側索硬化症治療薬、コレステロール低下薬等の高脂血症治療薬(例えば、スタチン系、フィブラート系、スクワレン合成酵阻害薬等)、痴呆の進行に伴う異常行動、徘徊等の治療薬、アポトーシス阻害薬、神経分化・再生促進薬、降圧薬、糖尿病治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、非ステロイド性抗炎症薬、疾患修飾性抗リウマチ薬、抗サイトカイン薬(例えば、TNF阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬等)、ステロイド薬、性ホルモンまたはその誘導体、副甲状腺ホルモン(例えば、PTH等)、カルシウム受容体拮抗薬等が挙げられる。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬としては、例えば、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、ザナペジル(TAK−147)等が挙げられる。
βセクレターゼ阻害薬としては、例えば、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−(N,N−ジメチルアミノ)メチルテトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−(N,N−ジプロピルアミノ)メチルテトラリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)メチル−6−(4’−メトキシビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル]テトラリン、2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]−6−(4’−メチルビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]−6−(4’−メトキシビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、6−(2’,4’−ジメトキシビフェニル−4−イル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)フェニル]メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−(3’,4’−ジメトキシビフェニル−4−イル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、その光学活性体、その塩およびその水和物、OM99−2(WO01/00663)等が挙げられる。
βアミロイド蛋白凝集阻害作用薬としては、例えば、PTI−00703、ALZHEMED(NC−531)、PPI−368(特表平11−514333)、PPI−558(特表2001−500852)、SKF−74652(Biochem.J.,340(1)巻,283−289,1999年)等が挙げられる。
脳機能賦活薬としては、例えば、アニラセタム、ニセルゴリン等が挙げられる。
ドーパミン受容体作動薬としては、例えば、L−ドーパ、ブロモクリプテン、パーゴライド、タリペキソール、プラシペキソール、カベルゴリン、アダマンタジン等が挙げられる。
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬としては、例えば、サフラジン、デプレニル、セルジリン(セレギリン)、レマセミド(remacemide)、リルゾール(riluzole)等が挙げられる。
抗コリン薬としては、例えば、トリヘキシフェニジル、ビペリデン等が挙げられる。
カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬としては、例えば、エンタカポン等が挙げられる。
筋萎縮性側索硬化症治療薬としては、例えば、リルゾール、神経栄養因子等が挙げられる。
スタチン系の高脂血症治療薬としては、例えば、プラバスタチンナトリウム、アトロバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチン等が挙げられる。
フィブラート系の高脂血症治療薬としては、例えば、クロフィブラート等が挙げられる。
アポトーシス阻害薬としては、例えば、CPI−1189、IDN−6556、CEP−1347等が挙げられる。
神経分化・再生促進薬としては、例えば、レテプリニム(Leteprinim)、キサリプローデン(Xaliproden;SR−57746−A)、SB−216763等が挙げられる。
非ステロイド性抗炎症薬としては、例えば、メロキシカム、テオキシカム、インドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、アスピリン、インドメタシン等が挙げられる。
ステロイド薬としては、例えば、デキサメサゾン、ヘキセストロール、酢酸コルチゾン等が挙げられる。
性ホルモンまたはその誘導体としては、例えば、プロゲステロン、エストラジオール、安息香酸エストラジオール等が挙げられる。
以上の薬剤は例示であって、本発明の併用剤はこれらに限定されるものではない。
本発明の併用剤における本発明に係る化合物の投与量、および投与方法は、前記と同様である。
本発明化合物と他の薬剤の重量比は特に限定されない。他の薬剤は、任意の2種以上を組み合わせて投与してもよい。また、本発明化合物の予防および/または治療効果を補完および/または増強する他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【発明の効果】
本発明化合物は、ヒトを含めた動物、特にヒトにおいて、神経再生促進作用を有するので、神経変性疾患の予防および/または治療に有用であるため、医薬品として利用可能である。また、移植用神経細胞の体外での調製に際し、培養添加剤として用いることにより、効率的に神経細胞を得ることができるため、医薬用途の細胞調製に利用可能である。例えば、神経変性疾患の予防および/または治療を目的として、本発明化合物を生体に投与し、内在性細胞を分化、増殖および/または成熟させてもよいし、神経幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞を生体に移植した後に本発明化合物を生体に投与し、それらの細胞を生着、分化、増殖および/または成熟させてもよい。また、生体外で本発明化合物の存在下、移植細胞を培養し、適度に分化・増殖させた後に生体に移植してもよい。また、本発明によって、例えば、グリア細胞等の非神経細胞からでも神経細胞や成熟神経細胞を得ることができるので、これらの細胞を大量に調製することが可能である。さらに、本発明は、自己の細胞または自己から採取した少数の細胞原料から、大量の神経細胞、成熟神経細胞を得ることができるので、倫理的にも問題とならない。
【図面の簡単な説明】
図1は、(2R)−2−プロピルオクタン酸を投与したラット四血管結紮(4VO)モデルにおける生存錐体神経細胞数の変化を示すグラフである。
図2は、1%ウシ胎児血清(大日本製薬)含有DMEM/F12培地中(化合物非添加群)および(2R)−2−プロピルオクタン酸を含有する培地中(化合物添加群)で7日間培養したラット胎児脳由来幹細胞分化試験におけるβIII−tubulin陽性細胞数の変化を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明化合物が、神経再生作用および病態改善効果を有することは、例えば、以下の実験によって証明された。また、本発明化合物を評価する測定方法は、測定精度および/または測定感度の向上をはかるために、以下のように改良を加えたものである。以下に詳細な実験方法を示す。
実施例1:インビボ(in vivo)神経幹細胞分化に及ぼす効果の検討
1−A:組織学的所見による評価
1−A−1:ラット四血管結紮(4VO)モデルの作成
ラット四血管結紮(4VO)モデルは、プルシネリーらの方法(J.Cereb Blood Flow Metab,16巻,973−980,1979年)を一部改変し作製した。すなわち、雄性ウィスター系ラットの両側椎骨動脈を永久閉塞し、翌日、総頚動脈を露出し、クリップにて10分間の一時閉塞を行った。両側総頚動脈閉塞直後より、無反応となり正向反射が消失したものを実験に用いた。
1−A−2:神経再生作用の評価
1−A−2−1:ニッスル染色による評価
神経細胞再生の評価は、ニッスル染色による脳組織標本を作製し、左右の海馬CA1領域の神経細胞数を計測することで行った。媒体(0.1vol% Tween 80)および被験化合物(10mg/kg)の投与は、海馬CA1領域の錐体神経細胞が遅発性神経細胞死を呈している4VO処置8日後から40日間、1日1回の強制経口投与により行った。
[結果]
その結果、正常群に対し、10分間の前脳虚血を施した媒体処置群では、海馬CA1領域に存在する錐体神経細胞数は有意に減少していた。一方化合物処置群では、媒体処置群に対し、生存する錐体神経細胞数が有意に増加した。
例えば、被験化合物として(2R)−2−プロピルオクタン酸を用いた場合の結果を図1に示す。
1−A−2−2:BrdUおよびNeuNの二重免疫染色による評価
実施例1−A−2−1で増加した錐体神経細胞が再生した神経細胞であることの確認は、BrdUとNeuNを免疫染色した脳組織標本を作製し、左右の海馬CA1領域の二重染色陽性の神経細胞数を計測することで行った。なお、抗NeuN抗体は成熟神経細胞の検出を目的として、BrdUおよび抗BrdU抗体は新生細胞の検出を目的として使用した。媒体(0.1vol% Tween 80)および被験化合物(10mg/kg)の投与は、前記と同様に行った。また、BrdUの投与は、4VO処置における血液再灌流直後から組織摘出まで1日1回、腹腔内に投与(50mg/kg)することにより行った。二重染色陽性の神経細胞数は、海馬CA1領域の神経細胞層長と二重染色陽性神経細胞数とを用い、単位長さ(mm)当たりの個数として算出した。
[結果]
その結果、媒体投与群に対し、化合物処置群では、海馬CA1領域に存在する、抗BrdU抗体と抗NeuN抗体による二重染色陽性細胞が有意に増加した。
例えば、被験化合物として(2R)−2−プロピルオクタン酸を用いた場合、媒体処置群(n=13)で、2.5±0.7個/mmであった二重染色陽性細胞は、被験化合物投与群(n=13)では、5.7±1.2個/mmであった(p=0.0322:t−test)。
1−B:行動薬理学的試験による評価
1−B−1:ラット四血管結紮(4VO)モデルの作成と薬物投与
実施例1−A−1に記載の方法によってラット四血管結紮(4VO)モデルを作成し、以下の試験に付した。なお、媒体(0.1vol% tween 80)および被験化合物((2R)−2−プロピルオクタン酸:1、3、10mg/kg)の投与は、海馬CA1領域の錐体神経細胞が確実に遅発性神経細胞死を呈している4VO処置8日後から48日後まで、週5回の強制反復経口投与により行った。群構成を以下の表1に示す。

1−B−2:水迷路学習試験での評価
水迷路学習試験には、直径150cm×高さ50cmの黒色円形プール(ニューロサイエンス(株))を使用した。このプールに約23℃の水道水を、高さ約30cm(プラットホーム上面が水面下約1cmになる)まで満たした。ゴールとなるプラットホーム(無色透明アクリル製:直径10cmの円形)は、プール内壁からの距離が約35cmとなるように設置した。試験期間中は、実験室内のラック、照明器具および実験者等の空間認知の手掛かりになるものの位置は一定とし、照明レベルも一定とした。
反復投与終了3日後のラットを任意のスタート位置に静置し、プラットホームに乗るまでの時間(逃避潜時(秒):escape latency(sec))を計測した。ラットがプラットホームに乗るまでの遊泳時間は最高90秒間とし、ラットがプラットホームに乗った場合は、そこに約30秒間放置した後、ケージに戻した。また、90秒間の計測時間内に、ラットがプラットホームに乗ることができなかった場合は、ラットを水から取り出し、プラットホームの上に移して約30秒間放置した後、ケージに戻した。なお、この場合の逃避潜時は90秒とした。各トライアルの間隔は約30分間とし、1日4トライアルを行い、これを1セッションとした。このセッションを4日間連続して行い、(1)逃避潜時、および(2)成功回数(4トライアル中にプラットホームに到達することができた回数を評価した。
[結果]
(1)逃避潜時
逃避潜時の結果を以下の表2に示す。

4VO処置を行った対照群は、正常群と比較して、第2、第3および第4セッションにおいて有意に逃避潜時が延長した(第2、第3および第4セッション:p<0.001:Wilcoxon順位和検定)。
(2R)−2−プロピルオクタン酸の3mg/kg群および10mg/kg群は、対照群と比較して、第4セッションにおいて有意に逃避潜時が短縮した(p<0.05:Wilcoxon順位和検定)。
(2)成功回数
成功回数における匹数の割合を算出し、その結果を以下の表3に示す。

対照群は、正常群と比較して、第2、第3および第4セッションにおいて有意な差が認められた(第2、第3セッション:p<0.05:χ検定、第4セッション:p<0.001:χ検定)。
(2R)−2−プロピルオクタン酸の3mg/kg群および10mg/kg群は、対照群と比較して、第4セッションにおいて有意な差を示した(p<0.05:χ検定)。
1−B−3:組織学的所見による評価
水迷路学習試験の終了翌日、ペントバルビタール(約35mg/kg、ネンブタール(登録商標)注射液、大日本製薬(株))をラット腹腔内に投与し、麻酔した。その後、ヘパリン加(10U/mL、ヘパリンナトリウム注射液、清水製薬(株))生理食塩液(フィシザルツ−PL、扶桑薬品工業(株))にて経心的に脳を灌流し、続いて10%中性緩衝ホルマリン(和光純薬工業(株))にて脳を灌流固定した。全脳を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン中にて保存後、病理組織標本の作製を行った。
病理組織標本は、1個体の脳組織サンプルにつき、(1)ニッスル染色標本(Interaural lineより5.7mmの部位)、(2)ヘマトキシリン−エオジン染色標本、および(3)未染色標本(厚さ:10μm)の3種を作成した。このうち、ニッスル染色標本について、イメージアナライザー(MCID Elite7.0 Rev.1.0)を用いて、左右の海馬CA1神経細胞層長および神経細胞数を計測し、単位長さ(mm)当たりの個数を算出することによって、組織学的評価を行った。
[結果]
海馬CA1領域における神経細胞数の計測結果を、以下の表4に示す。

対照群は、正常群と比較して、有意に神経細胞数の減少が認められた(p<0.001:Wilcoxon順位和検定)。
(2R)−2−プロピルオクタン酸の3mg/kg群および10mg/kg群は、対照群と比較して、有意に神経細胞数が増加した(3mg/kg:p<0.05:Wilcoxon順位和検定、10mg/kg:p<0.01:Wilcoxon順位和検定)。
実施例2:インビトロ(in vitro)神経幹細胞分化に及ぼす効果の検討
2−A:ラット胎児脳由来幹細胞の分化試験による評価
2−A−1:サンプル調製と神経細胞数の評価
ウィスター系妊娠ラットから胎児を取り出し、胎児脳から線条体を摘出した。ピペッティングにより細胞を分散させ、増殖培地(N2添加物(N2Plus supplement,R&D systems)、抗生物質、塩基性線維芽細胞増殖因子(20ng/mL bFGF,R&D systems)および上皮細胞増殖因子(20ng/mL EGF,R&D systems)含有DMEM/F12培地(Gibco))にて6日間乃至7日間培養した。形成されたニューロスフェアを回収し、ピペッティングにより細胞を分散させた後、増殖培地によりさらに6日間乃至7日間培養した。再度形成されたニューロスフェアを回収し、細胞を分散させた後、ポリ−L−オルニチンコーティングを施したチャンバースライドに細胞を播種した。培養24時間後、被験化合物を含有した分化培地(N2添加物、抗生物質および1%ウシ胎児血清含有DMEM/F12培地)に交換した。7日間分化させた後、4%パラホルムアルデヒドで固定を行い、神経幹細胞から神経細胞への分化の指標となるマウス抗βIII−tubulin抗体(2次抗体:FITC標識抗マウス IgG抗体)で免疫染色を行った。
[結果]
ラット線条体由来神経幹細胞を、1%ウシ胎児血清(大日本製薬)含有DMEM/F12培地中(化合物非添加群)または被験化合物を含有する培地中(化合物添加群)で7日間培養した結果、顕微鏡下(倍率100倍)で1視野当たりのβIII−tubulin陽性(Tuj1)細胞数は、化合物非添加群に比べ、化合物添加群では有意に増加した。例えば、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸を用いた場合、化合物非添加群の8±1.3個(8視野計測)に対し、化合物添加群では31±4.6個(8視野計測)であった。結果を図2に示す。
2−A−2:神経細胞の分化段階の確認
ラット線条体由来の神経幹細胞を分化させることによって得た上記の神経細胞について、その分化段階を免疫染色法によって確認した。なお、成熟神経細胞の確認には抗MAP2抗体、機能性神経細胞の確認には抗GABA抗体を用いた。
[結果]
抗MAP2抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では34±0.9個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では50±7.4個であった。
抗GABA抗体を用いて染色される、1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では19±2.7個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では101±9.5個であった。
以上の結果から、ラット胎児線条体由来神経幹細胞を(2R)−2−プロピルオクタン酸を添加した培地を用いて神経細胞に分化させることによって、成熟神経細胞や機能性神経細胞が得られることがわかった。
実施例3:初代培養アストロサイトから神経細胞への分化に及ぼす効果の検討
3−A:ラット大脳皮質由来アストロサイトの分化試験による評価
3−A−1:サンプル調製
ウィスター系新生ラットから大脳を摘出し、実体顕微鏡下で髄膜を剥離した後に、氷冷DMEM培地中でフロスト付スライドガラスのフロスト部にてすりあわせ懸濁液とした。100×gで3分間の遠心分離を行い、沈渣を10%ウシ胎児血清−DMEM培地にて懸濁し、75cmフラスコに播種した。培養開始2日後、細胞精製を行った。
培養開始後19日目に、0.05%トリプシン/EDTAを用いてアストロサイトを回収し、分化培地(N2添加物(N2 Plus supplement,R&D systems)および1%ウシ胎児血清(大日本製薬)含有DMEM/F12培地(Gibco))を用いて細胞を再懸濁した。チャンバースライドに播種し、翌日被験化合物を含有した分化培地(N2添加物、抗生物質および1%ウシ胎児血清含有DMEM/F12培地)に培養液を交換した。7日間分化させた後、4%パラホルムアルデヒドで固定を行い、以下の免疫染色法に付した。
3−A−2:神経細胞の分化段階の確認
ラット大脳皮質由来アストロサイトを分化させることによって得た神経細胞について、その分化段階を免疫染色法によって確認した。なお、幼若神経細胞の確認には抗βIII−tubulin抗体、抗Doublecortin抗体を、成熟神経細胞の確認には抗MAP2抗体、抗NeuN抗体、抗NSE抗体を、機能性神経細胞の確認には抗GABA抗体を用いた。
[結果]
抗βIII−tubulin抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では93±10.9個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では177±11.8個、100μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では230±11.0個、300μmol/Lの2−プロピルペンタン酸添加群では174.8±7.8個であった。
抗Doublecortin抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では55±5.7個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では168±16.6個であった。
抗MAP2抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では50±7.4個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では104±10.3個であった。
抗NeuN抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では106個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では199個であった。
抗NSE抗体を用いて染色される1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では108個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では166個であった。
抗GABA抗体を用いて染色される、1視野あたりの陽性細胞数を計数した結果、化合物非添加群では20±1.0個、30μmol/Lの(2R)−2−プロピルオクタン酸添加群では60±8.8個であった。
以上の結果から、ラット大脳皮質由来アストロサイトを(2R)−2−プロピルオクタン酸を添加した培地を用いて神経細胞に分化させることによって、成熟神経細胞や機能性神経細胞が得られることがわかった。
製剤例1:
(2R)−2−プロピルオクタン酸(2.0kg)とリン酸三ナトリウム・12水和物(3.54kg)を加え、注射用水を用いて40Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア0.22μmメンブレン)で濾過し、2mLずつプラスチックアンプルに充填し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、1アンプル中100mgの活性成分を含有するアンプル2万本を得た。
【産業上の利用可能性】
本発明化合物は、ヒトを含めた動物、特にヒトにおいて神経再生促進作用を有するので、神経変性疾患の予防および/または治療に有用であるため、医薬品として利用可能である。また、移植用神経細胞の体外での調製に際し、培養添加剤として用いることで、効率的に神経細胞を得ることができるため、医薬用途の細胞調製に利用可能である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸化合物(ただし、レチノイン酸およびプロスタグランジン化合物は除く。)、その塩またはそれらのプロドラッグを含有してなる神経再生促進剤。
【請求項2】
脂肪酸化合物が、不飽和脂肪酸化合物である請求の範囲1記載の神経再生促進剤。
【請求項3】
脂肪酸化合物が、飽和脂肪酸化合物である請求の範囲1記載の神経再生促進剤。
【請求項4】
脂肪酸化合物が、分枝鎖状脂肪酸化合物である請求の範囲1記載の神経再生促進剤。
【請求項5】
脂肪酸化合物が、炭素数4〜20の直鎖状または分枝鎖状脂肪酸化合物である請求の範囲1記載の神経再生促進剤。
【請求項6】
脂肪酸化合物が、一般式(I)

(式中、Rは、ヒドロキシ基を表わし、RおよびRは、それぞれ独立して、(a)水素原子、(b)塩素原子、(c)C3〜10アルキル基、(d)C3〜10アルケニル基、(e)C2〜10アルコキシ基、(f)C2〜10アルキルチオ基、(g)C3〜7シクロアルキル基、(h)フェニル基、(i)フェノキシ基、(j)(塩素原子1個または2個で置換されたC2〜10アルキル)−CH−基、(k)(C1〜4アルコキシ基、C3〜7シクロアルキル基、フェニル基またはフェノキシ基から選ばれる1個または2個の置換基で置換されたC1〜5アルキル)−CH−基、(l)(1個の炭素原子が1〜3個のフッ素原子で置換されたC1〜10アルキル)−CH−基、または(m)酸化されたC3〜10アルキル基を表わすか、または一緒になってC3〜10アルキリデン基を表わし、Rは、C2〜3アルキル基または酸化されたC2〜3アルキル基を表わす。)で示される請求の範囲1記載の神経再生促進剤。
【請求項7】
脂肪酸化合物が、(1)2−プロピルオクタン酸、(2)(2R)−2−プロピルオクタン酸、(3)(2S)−2−プロピルオクタン酸、(4)2−プロピルペンタン酸、(5)(2R)−7−オキソ−2−プロピルオクタン酸、(6)(2R,7R)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、(7)(2R,7S)−7−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、または(8)(2R)−8−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸である請求の範囲6記載の神経再生促進剤。
【請求項8】
脂肪酸化合物が、(2R)−2−プロピルオクタン酸である請求の範囲7記載の神経再生促進剤。
【請求項9】
神経組織再生剤または神経機能再生剤である請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項10】
幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞の生着、分化、増殖および/または成熟促進剤である請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項11】
幹細胞が、胚性幹細胞、骨髄幹細胞または神経幹細胞である請求の範囲10記載の神経再生促進剤。
【請求項12】
幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞が、内在性細胞である請求の範囲10記載の神経再生促進剤。
【請求項13】
幹細胞、神経前駆細胞または神経細胞が、移植細胞である請求の範囲10記載の神経再生促進剤。
【請求項14】
間葉系細胞、骨髄間質細胞またはグリア細胞から神経細胞を誘導する請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項15】
グリア細胞がアストロサイトである請求の範囲14記載の神経再生促進剤。
【請求項16】
神経が、中枢神経または末梢神経である請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項17】
中枢神経が、脳神経、脊髄神経または視神経である請求の範囲16記載の神経再生促進剤。
【請求項18】
末梢神経が、運動神経または知覚神経である請求の範囲16記載の神経再生促進剤。
【請求項19】
移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞の培養用である請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項20】
神経栄養因子様作用剤である請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の神経再生促進剤。
【請求項21】
請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経再生を促進する方法。
【請求項22】
請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの有効量を移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞を含有する培地に添加することを特徴とする移植用細胞の培養方法。
【請求項23】
神経再生剤を製造するための、請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの使用。
【請求項24】
移植用神経幹細胞、移植用神経前駆細胞または移植用神経細胞の培養用添加剤を製造するための、請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグの使用。
【請求項25】
請求の範囲1乃至8のいずれか1項に記載の化合物、その塩またはそれらのプロドラッグと、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、ニコチン受容体調節薬、βセクレターゼ阻害薬、γセクレターゼ阻害薬、βアミロイド蛋白凝集阻害薬、βアミロイドワクチン、βアミロイド分解酵素、脳機能賦活薬、ドーパミン受容体作動薬、モノアミン酸化酵素阻害薬、抗コリン薬、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害薬、筋萎縮性側索硬化症治療薬、高脂血症治療薬、痴呆の進行に伴う異常行動・徘徊の治療薬、アポトーシス阻害薬、神経分化・再生促進薬、降圧薬、糖尿病治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、非ステロイド性抗炎症薬、疾患修飾性抗リウマチ薬、TNF阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬、ステロイド薬、性ホルモン誘導体、副甲状腺ホルモンおよびカルシウム受容体拮抗薬から選ばれる1種以上とを組み合わせてなる医薬。

【国際公開番号】WO2005/032535
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514504(P2005−514504)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014879
【国際出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】