説明

神経前駆細胞の集団

【課題】神経前駆細胞、分化したニューロン、グリア細胞、およびアストロサイトの集団を提供する。
【解決手段】幹細胞集団(胚性幹細胞など)を、分化を惹起し、神経前駆細胞集団を確立する成長条件の混液中で培養する。前駆細胞を培養下で、ドーパミン作動性ニューロンを含むさまざまな異なる神経表現型へとさらに分化させる。分化細胞集団または神経前駆細胞を、薬物スクリーニングおよび神経疾患の治療に用いるために大量に作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術の分野
本発明は一般に、胚細胞および神経前駆細胞の細胞生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、特殊な培養条件および選択法を用いて、ヒト多能性幹細胞にニューロン系譜およびグリア系譜の細胞を生成させる定方向分化に関する。
【0002】
関連出願の参照
本出願は、2000年5月17日に出願された米国仮特許出願第60/205,600号;および2000年12月22日に出願された第60/257,608号に対する優先権を主張するものである。米国における遂行を目的として、これらの優先出願はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
中枢神経系の修復は、医科学がまだ克服するに至っていない最前線の課題である。アルツハイマー病、パーキンソン病、てんかん、ハンチントン病および脳卒中などの疾患は、罹患者に悲惨な結果をもたらす。頭部または脊髄に対する外傷が起こると、日常生活の圏内から障害者の集団へと即座に追いやられる恐れがある。
【0004】
神経系の疾患の管理をこれほど困難なものとしているのは、障害が不可逆的なことが多いためである。これらの疾患に対して最も希望を与えるものは、神経回路網を再構成させ、神経系の機能を回復させることが可能な細胞集団を開発することである。
【0005】
この理由から、神経前駆細胞に対してはかなりの関心が寄せられている。これまでは、多能性神経前駆細胞の運命は、分化経路の初期の段階で、ニューロンに限定された細胞またはグリアに限定された細胞のいずれかに決定されると一般に考えられてきた。これらは続いて、成熟ニューロン、または成熟したアストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを生成すると考えられている。神経冠における多能性神経前駆細胞もニューロン、平滑筋細胞およびシュワン細胞に分化する。さまざまな系譜に限定された前駆細胞は自らを再生し、中枢神経系の特定の部位、例えば脊髄などに存在すると仮定されている。発生中の神経管における細胞系譜は、カルヤニ(Kalyani)らによる研究文献(Biochem. Cell Biol. 6:1051、1998(非特許文献1))に概説されている。
【0006】
多能性神経上皮細胞(NEP細胞)と推定されるものが、発生中の脊髄で同定されている。カルヤニ(Kalyani)ら(Dev. Biol. 186:202、1997(非特許文献2))は、ラットにおけるNEP細胞を報告している。ムイタバ(Mujtaba)ら(Dev. Biol. 214:113、1999(非特許文献3))は、マウスにおけるNEP細胞を報告している。NEP細胞が分化すると、特徴的な表面マーカーを有する限定された前駆細胞が生成されると考えられている。
【0007】
ニューロンに限定された前駆細胞(NRP)と推定されるものの特徴分析が、マイヤー-プロソヘル(Mayer-Prosohel)らによって行われている(Neuron 19:773、1997(非特許文献4))。これらの細胞は、神経細胞接着分子のポリシアル酸付加型イソ型である細胞表面PS-NCAMを発現する。それらにはさまざまな種類のニューロンを生成する能力があるが、グリア細胞は生成しないと報告されている。
【0008】
グリアに限定された前駆細胞(GRP)と推定されるものが、レイ(Rae)らによって同定されている(Dev. Biol. 188:48、1997(非特許文献5))。これらの細胞にはグリア細胞を生成する能力はあるが、ニューロンは生成しないように思われる。
【0009】
リン(Ling)ら(Exp. Neurol. 149:411、1998(非特許文献6))は、ラット胎仔中脳の胚域から前駆細胞を単離している。この細胞をEGF中で増殖させ、ポリリジンをコーティングしたプレートにプレーティングしたところ、それらはニューロンおよびグリア、時にはチロシンヒドロキシラーゼ陽性(ドーパミン作動性)細胞を生成し、これは培地中にIL-1、IL-11、LIFおよびGDNFを含めることによって増強された。
【0010】
ワグナー(Wagner)ら(Nature Biotechnol. 17:653、1999(非特許文献7))は、中脳腹側ドーパミン作動性の表現型を備えた細胞が不死化多能性神経幹細胞系から誘導されたことを報告している。細胞にNurr1発現ベクターをトランスフェクトした後に、VM 1型アストロサイトと共培養した。得られた細胞の80%以上が内因性ドーパミン作動性ニューロンに類似した表現型を有していたと主張されている。
【0011】
ムイタバ(Mujtaba)ら(前記)(非特許文献3)は、マウス胚性幹(mES)細胞からのNRPおよびGRP細胞の単離を報告している。NRPはPS-NCAM免疫反応性であり、規定培地中で自己複製を行い、多数のニューロン表現型へと分化した。それらはグリア細胞を生成しないように思われた。GRPはA2B5免疫反応性であり、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトには分化するがニューロンには分化しないと報告されている。
【0012】
最近のさまざまな発見により、胚細胞が、ヒトの治療に有用な細胞および組織に対する多能性供給源になるのではないかという期待が高まっている。多能性細胞は体内の本質的にすべての種類の細胞に分化する能力があると考えられている(R.A. Pedersen、Scientif. Am. 280(4):68、1999(非特許文献8))。胚性幹細胞に関する初期の研究は近交系マウス系統をモデルとして用いて行われた(Robertson、Meth. Cell Biol. 75:173、1997(非特許文献9);およびPedersen、Reprod. Fertil. Dev. 6:543、1994(非特許文献10)に総説がある)。
【0013】
マウスES細胞に比べて、サルおよびヒトの多能性細胞ははるかに脆弱であって、同一の培養条件には反応しないことがわかっている。霊長類動物のエクスビボで培養することを可能とする発見がなされたのはごく最近のことである。
【0014】
霊長類動物からの胚性幹細胞の培養に成功したのは、トムソン(Thomson)ら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995(非特許文献11))が最初であり、アカゲザルおよびマーモセットがモデルとして用いられた。彼らはその後、ヒト胚盤胞からヒト胚性幹(hES)細胞系を導き出した(Science 282:114、1998(非特許文献12))。ギアハート(Gearhart)らは、胎児性腺組織からヒト胚性生殖(hEG)細胞系を導き出した(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998(非特許文献13))。hES細胞およびhEG細胞はいずれも長い間探し求められてきたヒト多能性幹(hPS)細胞の特徴を備えている。すなわち、それらはインビトロで分化せずに増殖を続けることができ、正常な核型を保つほか、分化して成体のあらゆる細胞種を生成する能力がある。
【0015】
ロイビノフ(Reubinoff)ら(Nature Biotechnol. 18:399、2000(非特許文献14))は、ヒト胚盤胞の体細胞分化を報告している。この細胞は培養下で自然に分化するが、一定した構造的組織化のパターンは示さない。高密度で4〜7週間培養した後に、単層平面の上部に多細胞性凝集物が形成された。培養下の種々の細胞が、β-アクチン、デスミン、およびNCAMの発現を含むさまざまな異なる表現型を呈した。
【0016】
培養下または奇形腫において多能性幹細胞が自然分化すると、ある範囲にわたる種々の細胞系譜に相当する、非常に不均一な表現型の混合物からなる細胞集団が生じる。ほとんどの用途では、分化した細胞は、それらが示す表現型およびそれらが生成しうる子孫の種類の双方の点に関して、比較的均一であることが望ましい。
【0017】
したがって、ヒト由来の多能性細胞から、より均一な分化細胞集団を生じさせるための技術に対しては差し迫った需要が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Kalyaniら、Biochem. Cell Biol. 6:1051、1998
【非特許文献2】Kalyaniら、Dev. Biol. 186:202、1997
【非特許文献3】Mujtabaら、Dev. Biol. 214:113、1999
【非特許文献4】Mayer-Prosohelら、Neuron 19:773、1997
【非特許文献5】Raeら、Dev. Biol. 188:48、1997
【非特許文献6】Lingら、Exp. Neurol. 149:411、1998
【非特許文献7】Wagnerら、Nature Biotechnol. 17:653、1999
【非特許文献8】R.A. Pedersen、Scientif. Am. 280(4):68、1999
【非特許文献9】Robertson、Meth. Cell Biol. 75:173、1997
【非特許文献10】Pedersen、Reprod. Fertil. Dev. 6:543、1994
【非特許文献11】Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995
【非特許文献12】Thomsonら、Science 282:114、1998
【非特許文献13】Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998
【非特許文献14】Reubinoffら、Nature Biotechnol. 18:399、2000
【発明の概要】
【0019】
本発明は、多能性細胞からニューロン系譜またはグリア系譜の細胞に分化した霊長類細胞の効率的な作製のためのシステムを提供する。ほかの前駆細胞、中枢神経系の成熟細胞:すなわちニューロン、アストロサイトまたはオリゴデンドロサイトを生成する源となる、いずれかの系譜に対する前駆細胞を含む細胞集団について述べる。本発明のいくつかの態様は、両方の系譜の細胞を生じさせることができる。本発明の前駆細胞および成熟細胞は、薬物検査および神経系の機能を回復させるための治療法を含む、さまざまな重要な用途に用いることができる。
【0020】
本発明の1つの態様は、集団内の細胞の少なくとも約30%が、神経細胞、グリア細胞またはその両方を生成する、インビトロ培養物において増殖し、霊長類多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる細胞集団である。第2の態様は、細胞の少なくとも10%が神経細胞に分化可能であって、細胞の少なくとも10%がグリア細胞に分化可能である、インビトロ培養物において増殖し、神経前駆細胞を少なくとも約60%含む細胞集団である。第3の態様は、細胞の少なくとも10%がA2B5を発現し、細胞の少なくとも10%がNCAMを発現する、インビトロ培養物において増殖し、神経前駆細胞を少なくとも約60%含む細胞集団である。
【0021】
本発明のある種の細胞集団は、ヒト胚性幹細胞などの霊長類多能性幹細胞を分化させることによって得られる。あるものは、成長因子受容体と結合する少なくとも2つまたはそれ以上のリガンドを含む培地中で幹細胞を分化させることによって得られる。またあるものは、成長因子を含む培地中でpPS細胞を分化させ、NCAMまたはA2B5の発現に関して分化細胞を選別した後に、選別した細胞を収集することによって得られる。ある種の細胞集団は、細胞の少なくとも70%がNCAMまたはA2B5を発現するように集積化がなされている。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、本発明の前駆細胞集団をさらに分化させることによって得られる、成熟したニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトまたはそれらの任意の組み合わせを含む細胞集団である。このような集団のあるものは、cAMP活性化物質、神経栄養因子またはこのような因子の組み合わせを含む培地中で神経前駆細胞を培養することによって得られる。以下に述べるように、このような方法によって生じたニューロンは、活動電位を示すことができ、ゲート型のナトリウムチャネルおよびカリウムチャネルを示し、神経伝達物質またはその同等物を投与した場合にカルシウム流を示す。例えばチロシンヒドロキシラーゼに対する染色によって検出可能な、ドーパミン作動性ニューロンをかなりの割合で含む細胞集団も範囲に含まれる。
【0023】
同じく本発明の範囲に含まれるものには、細胞集団の1つから望ましい表現型に関して細胞を選択することによって得られる、単離された神経前駆細胞、ニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトがある。
【0024】
確立されたpPS細胞株から派生させた場合、本発明の細胞集団および単離された細胞は一般に、その由来となった細胞系と同一のゲノムを有すると考えられる。このことは、通常の有糸分裂の過程を経て未分化細胞系から神経細胞を得たとした場合に推測しうるように、pPS細胞と神経細胞との間で染色体DNAの90%以上が同一であることを意味する。導入遺伝子(TERTなど)の導入または内因性遺伝子のノックアウトのために組換え法によって処理された神経細胞も、操作されていないすべての遺伝因子が保存されているため、やはりその由来となった細胞系と同一のゲノムを有すると考えられる。
【0025】
本発明のさらにもう1つの態様は、神経細胞毒性または神経細胞の修飾に関する化合物のスクリーニングの方法であって、化合物および神経細胞または本発明の細胞集団を含む培養物を調製し、化合物との接触によって生じた細胞における表現型または代謝の変化を評価する方法である。
【0026】
本発明のさらにもう1つの態様は、本開示においてさらに記載および例示するように、神経前駆細胞または分化細胞においてより高度に発現されるmRNA中に含まれるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを入手することである。本ヌクレオチド配列は続いて、神経細胞において豊富に存在する、または抑制されている、組換え型または合成性のポリヌクレオチド、タンパク質、および遺伝子産物に対する抗体を生産するために用いることができる。本発明の細胞を、神経細胞において豊富に存在する、または抑制されているマーカーを同定するための免疫原または吸着剤として用いることによって抗体を入手することもできる。
【0027】
本発明のさらにもう1つの態様は、個体に本発明の単離された細胞または細胞集団を投与する、個体における中枢神経系(CNS)機能の再構成または補助の方法である。単離された細胞および細胞集団は、臨床的治療および獣医学的治療に用いるための医薬品の調製に用いることができる。本発明の細胞を含む医薬品を、このような治療的用途に用いるために製剤化することができる。
【0028】
本発明の他の態様は、本開示に概要を示した技法を適した幹細胞集団に対して用いて、神経前駆細胞および本発明の完全分化細胞を入手することである。霊長類胚性幹細胞から、ドーパミン作動性細胞を1%、3%または5%の頻度で含む細胞集団(およびドーパミン作動性細胞をこの頻度で生成しうる前駆細胞の集団)を作製する方法も範囲に含まれる。パーキンソン病で起こるドーパミン性ニューロン機能の低下を考慮すると、これは特に重要である。本開示に記載する組成物、方法および技法は、診断、薬物スクリーニング、および治療の用途における使用に関して非常に有望である。
【0029】
本発明の上記およびその他の態様は、以下の説明から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ヒト胚性幹細胞から派生した、神経細胞マーカーを有する細胞の増殖を示すグラフである。上の図は、CNTF、bFGFおよびNT3の存在下で維持した後に、NCAMの発現に関して選別した細胞の増殖を示している。下の図は、EGF、bFGF、PDGFおよびIGF-1の存在下で維持した後に、A2B5の発現に関して選別した細胞の増殖を示している。H1、H7、H9およびH13という4種の異なるhES細胞系を用いた。A2B5で選別した集団は7回継代した時点で、さらに神経細胞およびグリア細胞に分化することができる。
【図2】A2B5陽性細胞を得るための例示的な手順の概要を示した概略図である。用いた略号は以下の通りである:MEF-CM=マウス胚線維芽細胞との培養による馴化培地;+/-SHH=ソニックヘッジホッグの存在下または非存在下;D/F12=DMEM/F12培地;N2およびB27、培養用添加物(Gibco);EPFI=分化誘導物質EGF、PDGF、bFGFおよびIGF-1;PLL=ポリ-Lリジン基質;PLL/FN=ポリ-Lリジンおよびフィブロネクチン基質。
【図3】緑色蛍光タンパク質を発現する細胞を投与した新生仔ラットの脳の蛍光顕微鏡写真の中間調複写図である。左図:親hES細胞系。中央図:親細胞系から生じた胚様体細胞。右図:NCAMの発現に関して選別した分化細胞。未分化hES細胞および胚様体細胞は投与領域に残存し、壊死の所見を示している。これに対して、分化したNCAM細胞は単細胞の外観を呈し、注射部位から移動している。
【図4】ドーパミン作動性細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対する細胞染色を示した蛍光顕微鏡写真の複製写真である。ヒトES細胞から生じた胚様体を10μmレチノイン酸の存在下で4日間維持し、ニューロン補助性混液中にプレーティングした後に、10ng/mL NT-3および10ng/mL BDNFを含む培地に継代した。本発明のある種の集団はTH-陽性細胞を1%を上回る頻度で含む。
【図5】ニューロンに限定された前駆細胞の種々の神経伝達物質に対する反応を示した一連のグラフである。図面Aは、2つの異なるカバーグラス上の単細胞からの放出データの比を示している。どちらの細胞も、GABA、カリウム増加、アセチルコリン、およびATPに反応した。図面Bは、個々の神経伝達物質に反応した被験細胞の頻度を示している。図面Cは、観察された神経伝達物質応答の組み合わせを示している。
【図6】ニューロンに限定された前駆細胞の電気生理を示した一連のグラフである。図面Aは、-100mVの保持電位から-80〜80mVの範囲の試験電位に脱分極させた2つの細胞において観察されたナトリウム電流およびカリウム電流を示している。図面Bは、観察された内向き(Na)および外向き(K)のピーク電流と電圧の関係を示している。図面Cは、脱分極刺激に応答して同一細胞によって生じた活動電位を示している。これらの測定結果は、ヒトES細胞に由来する神経前駆細胞が、神経伝達に特徴的な活動電位を生じうることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、治療的投与および薬物スクリーニングの目的に用いるのに適した神経前駆細胞の調製および特徴分析のためのシステムを提供する。
【0032】
多能性幹細胞を選択した分化誘導物質(differentiating agent)の存在下で培養すると、神経細胞の表現型特徴を備えた細胞が著しく高い割合を占める細胞集団が導き出されることが見いだされた。選択的には、分化細胞を細胞表面マーカーに従って選別することにより、神経細胞の割合を高めることができる。ある種の多能性幹細胞(胚性幹細胞など)は培養下で1年またはそれ以上にわたって増殖可能であるため、本開示に述べる本発明により、神経前駆細胞のほとんど限りない供給が得られる。本発明のある種の細胞集団はニューロン系譜またはグリア系譜の細胞を生成することができ、培養下で多数の継代を通じて自らを複製することができる。
【0033】
図1は、分化誘導物質の存在下で培養した後にポリシアル酸付加型NCAMまたはA2B5エピトープを有するか否かに従って選別した細胞の増殖曲線を示している。これらの細胞集団はいずれも多数の細胞倍加回数を経て増殖することができる。
【0034】
A2B5発現に関して陽性選択された分化細胞は、NCAMを発現せずにA2B5を発現するように思われる細胞、ならびにA2B5およびNCAMをともに発現する細胞を含む。以下に述べる実験の1つでは、これらの細胞の成熟によってオリゴデンドロサイトが13%、ニューロンが38%生じた。これらの細胞は表現型を失わずに長期培養下で増殖するため、本集団は多能性細胞の備蓄物(reserve)となりうる。CNS機能障害のある対象に投与すると、本集団は必要に応じてニューロン系譜およびグリア細胞系譜の両方を再び存在させる細胞を含むようになると考えられる。
【0035】
必要であれば、神経栄養因子などの成熟因子とともに培養することにより、または前駆細胞の再生を支える1つもしくは複数の因子を除去することにより、神経前駆細胞をさらにエクスビボで分化させることができる。ニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトは神経細胞系譜の成熟分化細胞であり、前駆細胞をこのようにして培養することによって得ることができる。これらの方法によって得られたニューロンは、この細胞種に特徴的な突起を伸ばし、ニューロフィラメントおよびMAP-2のようなニューロン特異的マーカーに対する染色を示すほか、シナプトフィジン染色によって検出されるシナプス形成の所見も示す。図5は、これらの細胞が種々の神経伝達物質に反応することを示している。図6は、これらの細胞が標準的なパッチクランプシステムにおける測定で活動電位を生じうることを示している。これらのすべての点で、この細胞は完全な神経機能を果たしうるように思われる。
【0036】
特に関心がもたれるのは、このシステムがドーパミン作動性ニューロンの供給源を生成しうることである(図4)。この種の細胞は、現時点で最も優れた選択肢が胎児脳組織の同種移植となっているパーキンソン病の治療のために特に望ましい。臨床治療における胎児組織の使用には供給および手順に関する問題が伴うが、適切な種類の細胞を十分に豊富に供給できる他の源はこれまで報告されていない。本発明の神経前駆細胞は、ニューロンの数%がドーパミン作動性表現型を有する分化細胞を生成しうる。これはパーキンソン病における細胞補充療法のためには十分な割合と考えられており、本発明の前駆細胞集団を治療用途に向けて開発する根拠となる。
【0037】
本発明の多能性幹細胞および系譜が限定されたある種の前駆細胞は培養下で十分に増殖するため、本開示に記載のシステムは、CNS異常の研究、医薬品開発および治療的管理に用いるための神経細胞およびグリア細胞の無限の供給源となる。本発明の細胞の調製および利用に関して、以下の説明でさらに例示を行う。
【0038】
定義
本開示の目的に関して、「神経前駆体細胞」または「神経前駆細胞」という用語は、神経細胞(ニューロン前駆細胞または成熟ニューロンなど)またはグリア細胞(グリア前駆細胞、成熟アストロサイト、または成熟オリゴデンドロサイトなど)のいずれかである子孫を生成する細胞を意味する。一般に、本細胞は神経細胞系譜に特徴的な表現型マーカーのいくつかを発現する。これらは一般に、何らかの様式で脱分化または再プログラミングを行わない限り、単独でインビトロで培養した場合に他の胚葉の子孫を生じない。
【0039】
「ニューロン前駆体細胞(neuronal progenitor cell)」または「ニューロン前駆細胞(neuronal precursor cell)」とは、成熟ニューロンである子孫を生じうる細胞のことである。これらの細胞はグリア細胞を生じる能力も有してもよく、有していなくてもよい。
【0040】
「グリア前駆体細胞(glial progenitor cell)」または「グリア前駆細胞(glial precursor cell)」という用語は、成熟アストロサイトまたは成熟オリゴデンドロサイトである子孫を生じうる細胞のことである。これらの細胞は神経細胞を生じる能力も有してもよく、有していなくてもよい。
【0041】
「多能性神経前駆細胞集団」とは、神経細胞(ニューロン前駆細胞または成熟ニューロンなど)である子孫、およびグリア細胞(グリア前駆細胞、成熟アストロサイトまたは成熟オリゴデンドロサイトなど)である子孫の両方、ならびに時に他の種類の細胞を生成する能力を有する細胞集団のことである。この用語は、集団内の個々の細胞に両方の種類の子孫を生成する能力があることを要求するものではないが、多能性神経前駆細胞である個々の細胞が存在してもよい。
【0042】
細胞の個性発生の文脈において、「分化した(differentiated)」という形容詞は相対語である。「分化細胞(differentiated cell)」とは、比較対象の細胞よりも発生経路の下流に進行した細胞のことである。したがって、多能性胚性幹細胞は、血液細胞種に関して多能性である造血細胞;肝細胞に関して多能性である肝細胞前駆細胞;および上に挙げたさまざまな種類の神経前駆細胞などの、系譜が限定された前駆細胞に分化することができる。これらは続いて、経路の下流にある他の種類の前駆細胞、または特定の組織型において特徴的な役割を果たす最終分化細胞へとさらに分化することができ、これらはさらに増殖する能力を保持していてもよく、保持していなくともよい。ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトはすべて終末分化細胞の例である。
【0043】
本開示で用いる「分化誘導物質」は、神経細胞系譜の分化細胞(前駆細胞および終末分化細胞を含む)を作製するために本発明の培養系において用いる一群の化合物の1つのことを指す。化合物の作用様式に関する制限は全く意図していない。例えば、本物質は、表現型の変化を誘導もしくは補助すること、特定の表現型を有する細胞の増殖を促進することもしくは他のものの増殖を遅延させること、または未知の機序を介して他の作用物質とともに作用することによって分化過程を補助するものであってよい。
【0044】
明示的にそれ以外の指定がない限り、本発明の技法は、神経細胞またはグリア細胞に分化しうる任意の種類の前駆細胞に対して制限なく適用することができる。
【0045】
原型となる「霊長類多能性幹細胞」(pPS細胞)とは、受精後の任意の時点にある前胚、胚または胎児組織に由来する多能性細胞のことであり、適切な条件下で、8〜12週齡SCIDマウスに奇形腫を形成させる能力といった当技術分野で標準的に認められた検査に従って、胚の3つの層である内胚葉、中胚葉および外胚葉のすべてからの派生物であるいくつかの異なる細胞種を子孫として生成しうるという特徴を有する。
【0046】
pPS細胞の定義には、トムソン(Thomson)ら(Science 282:1145、1998)によって記載されたヒト胚性幹(hES)細胞;他の霊長類に由来する胚性幹細胞、例えばアカゲザル幹細胞(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)、マーモセット幹細胞(Thomsonら、Biol. Reprod. 55:254、1996)およびヒト胚性生殖(hEG)細胞(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998)などを例とする、さまざまな種類の胚細胞が含まれる。他の種類の非悪性多能性細胞もこの用語に含まれる。胚の3つの層のすべてに由来する子孫を生じうる霊長類由来のあらゆる細胞が、胚組織、胎児組織または他の源のいずれに由来したかに関係なく含まれる。pPS細胞は悪性の源に由来するものではない。本細胞の核型は正常であることが望ましい(しかし、必ずしも必然的というわけではない)。
【0047】
pPS細胞の培養物は、集団内の幹細胞およびその派生物の本質的な割合が、胚または成体由来の分化細胞とは明らかに区別される形態を示す場合、「未分化」であると記載される。pPS細胞は当業者によって容易に認識され、一般的には二次元の顕微鏡像で核/細胞質比が高く、核小体が顕著な細胞のコロニーとして認められる。集団内の未分化細胞のコロニーはしばしば分化した隣接細胞によって取り囲まれることがあることが認識されている。
【0048】
「フィーダー細胞」または「フィーダー」は、第2の種類の細胞が増殖しうる環境を提供するために、別の種類の細胞と共培養されるある種類の細胞のことである。例えば、ある種のpPS細胞は、初代マウス胚線維芽細胞、不死化マウス胚線維芽細胞、またはhES細胞から分化したヒト線維芽細胞様細胞による補助が可能である。pPS細胞集団は、pPSの増殖を補助する新たなフィーダー細胞を加えない分割を少なくとも1回経た上で細胞が増殖している場合に、フィーダー細胞を「本質的に含まない」という。
【0049】
「胚様体」という用語は、当技術分野で「凝集体」と同義の用語である。この用語は、pPS細胞を単層培養下で過成長させた場合、または懸濁培養下で維持した場合に出現する分化細胞および未分化細胞の凝集物のことを指す。胚様体は、形態的基準および免疫細胞化学によって検出可能な細胞マーカーによって識別できる、一般的には複数の胚葉に由来する、種々の細胞種の混合物である。
【0050】
「成長環境」とは、対象となる細胞がインビトロで増殖、分化または成熟すると考えられる環境のことである。環境の特徴には、細胞を培養する培地、存在しうる成長因子または分化誘導因子、および存在しうる支持構造(固体表面上の基質など)が含まれる。
【0051】
細胞は、任意の適した人為的操作の手段によってポリヌクレオチドが細胞内に導入された場合、または細胞がポリヌクレオチドを遺伝によって受け継いだ、最初の改変細胞の子孫である場合に、「遺伝的に改変された」「トランスフェクトされた」または「遺伝的に形質転換された」という。ポリヌクレオチドはしばしば、細胞がタンパク質を高いレベルで発現することを可能にする、対象となるタンパク質をコードする転写可能な配列を含むと考えられる。遺伝的改変は、改変細胞の子孫が同一の改変を有していれば「遺伝性」であるという。
【0052】
本開示において用いる「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を指す。この用語の適用範囲には、完全な免疫グロブリン分子だけでなく、当技術分野で知られた技法によって調製しうる、望ましい抗体結合特異性を維持している免疫グロブリン分子の断片および誘導体(一本鎖Fv構築物、小型二重特異性抗体(diabody)および融合構築物など)も意図的に含まれる。
【0053】
一般的な技法
本発明の実施に有用な一般的な技法のさらに詳細な説明に関して、実施者は細胞生物学、組織培養および発生学の標準的な教科書および総説を参照することができる。これに含まれるものには、「奇形腫および胚性幹細胞:実践的アプローチ(Teratocarcinomas and embryonic stem cells:A practical approach)」(E.J. Robertson編、IRL Press Ltd. 1987);「マウスの発生における技法の手引き(Guide to Techniques in Mouse Development)」(P.M. Wassermanら編、Academic Press 1993);「胚性幹細胞のインビトロ分化(Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro)」(MV. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993);「胚性幹細胞の特性および用途:ヒト生物学および遺伝子治療への応用の可能性(Properties and uses of Embryonic Stem Cells:Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy)」(P.D. Rathjenら、Reprod. Fertil. Dev. 10:31, 1998)が含まれる。
【0054】
神経系異常の詳細、ならびにさまざまな種類の神経細胞、マーカーおよび関連した可溶性因子の特徴分析に関しては、読者は、「CNS再生:基礎科学および臨床的進歩(CNS Regeneration: Basic Science and Clinical Advances)」、M.H. Tuszynski & J.H. Kordower編、Academic Press、1999を参照されたい。
【0055】
分子遺伝学および遺伝子工学における方法は、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第2版(Sambrookら、1989);「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」(M.J. Gait編、1984);「動物細胞の培養(Animal Cell Culture)」(R.I. Freshney編、1987);Methods in Enzymologyシリーズ(Academic Press, Inc.);「哺乳動物細胞用の遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)」(J.M. Miller & M.P. Cabs編、1987);「分子生物学における最新プロトコールおよび分子生物学における簡略プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology)」第3版(F.M. Ausubelら編、1987 & 1995);および「組換えDNAの方法II(Recombinant DNA Methodology II)」(R. Wu編、Academic Press 1995)に記載されている。本開示において言及する遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、およびキットは、バイオラッド(BioRad)、ストラタジーン(Stratagene)、インビトロジェン(Invitrogen)およびクロンテック(ClonTech)などの製造販売元から入手可能である。
【0056】
抗体の産生、精製および修飾、ならびに免疫組織化学を含むイムノアッセイ法の設計および実行に用いる一般的な技法に関しては、読者は、「実験免疫学ハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」(D.M. Weir & C. C. Blackwell編);「免疫学における最新プロトコール(Current Protocols in Immunology)」(J.E. Coliganら編、1991);ならびにマッセイエフ(R. Masseyeff)、アルバート(W.H. Albert)およびステイン(N.A. Staines)編、「免疫学的分析の方法(Methods of Immunological Analysis)」(Weinheim:VCH Verlags GmbH, 1993)を参照されたい。
【0057】
幹細胞の供給源
本発明はさまざまな種類の幹細胞を用いて行うことができ、それには以下の非制限的な例が含まれうる。
【0058】
米国特許第5,851,832号は、脳組織から得た多能性神経幹細胞を報告している。米国特許第5,766,948号は、新生児大脳半球からの神経芽細胞の作製を報告している。米国特許第5,654,183号および第5,849,553号は、哺乳動物神経冠幹細胞の使用を報告している。米国特許第6,040,180号は、哺乳動物多能性CNS幹細胞の培養物からの分化ニューロンのインビトロ作製を報告している。国際公開公報第98/50526号および国際公開公報第99/01159号は、神経上皮幹細胞、オリゴデンドロサイト-アストロサイト前駆細胞および系譜が限定されたニューロン前駆細胞の作製および単離を報告している。米国特許第5,968,829号は、胚前脳から入手し、グルコース、トランスフェリン、インスリン、セレン、プロゲステロンおよびいくつかの他の成長因子を含む培地で培養した神経幹細胞を報告している。
【0059】
別の要求がない限り、本発明は任意の脊椎動物種の幹細胞を用いて実施しうる。これに含まれるものには、ヒト;ならびに非ヒト霊長類、飼いならした動物(domestic animal)、家畜および他の非ヒト哺乳動物に由来する幹細胞がある。
【0060】
本発明における使用に最も適した幹細胞は、胚盤胞または妊娠期間中の任意の時点で採取した胎児組織もしくは胚組織などの妊娠後に形成される組織に由来する霊長類多能性幹(pPS)細胞である。その非制限的な例には、初代培養物、または確立された胚性幹細胞もしくは胚性生殖細胞系がある。
【0061】
胚性幹細胞
胚性幹細胞を、霊長類種に属する生物の胚盤胞から単離することができる(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)。ヒト胚性幹(hES)細胞は、トムソン(Thomson)ら(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145、1998;Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ff.、1998)およびロイビノフ(Reubinoff)ら、Nature Biotech. 18:399、2000に記載された技法を用いてヒト胚盤胞細胞から調製可能である。
【0062】
簡潔に述べると、ヒト胚盤胞は、ヒトのインビボ着床前胚から得られる。または、体外受精(IVF)胚を用いることもでき、または一細胞期のヒト胚を胚盤胞期まで発生させることもできる(Bongsoら、Hum Reprod 4:706、1989)。胚を胚盤胞期になるまでG1.2およびG2.2培地中で培養する (Gardnerら、Fertil. Steril. 69:84、1998)。プロナーゼ(Sigma)に短時間曝露させることによって胚盤胞から透明帯を除去する。胚盤胞を1:50に希釈したウサギ抗ヒト脾細胞抗血清に対して30分間曝露させた後にDMEM中で5分ずつ3回洗浄し、1:5に希釈したモルモット補体(Gibco)に対して3分間曝露させる免疫手術法によって内部細胞塊を単離する(Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099、1975)。DMEM中でさらに2回洗浄した後、溶解した栄養外胚葉細胞を穏やかなピペッティングによって無傷の内部細胞塊(ICM)から除去し、ICMをmEFフィーダー層の上にプレーティングする。
【0063】
9〜15日後に、内部細胞塊由来の増殖物を、カルシウムおよびマグネシウムを含まない1mM EDTA入りのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対する曝露、ディスパーゼもしくはトリプシンに対する曝露、またはマイクロピペットによる機械的解離によって集塊に分離した後、新たな培地を入れたmEF上に再びプレーティングする。未分化形態を有する成長中のコロニーをマイクロピペットによって個別に選別し、機械的に解離して集塊とした上で再びプレーティングする。ES様形態は、核-細胞質比が高く、核小体が顕著な稠密なコロニーであることを特徴とする。続いて、この結果得られたES細胞を、1〜2週間毎に短時間のトリプシン処理、ダルベッコPBS(2mM EDTAを含む)に対する曝露、IV型コラゲナーゼ(約200U/mL;Gibco)に対する曝露により、または個々のコロニーをマイクロピペットで選別することによってルーチン的に分割する。約50〜100個の細胞からなる集塊が最適である。
【0064】
胚性生殖細胞
ヒト胚性生殖(hEG)細胞は、最終月経から約8〜11週後に採取したヒト胎児中に存在する始原生殖細胞から調製することができる。適した調製法は、シャムブロット(Shamblott)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998および米国特許第6,090,622号に記載されている。
【0065】
簡潔に述べると、生殖隆起を等張緩衝液ですすいだ後に、0.1mL 0.05%トリプシン/0.53mM EDTAナトリウム溶液(BRL)中に入れ、切り刻んで1mm未満の塊にする。続いて100μLピペットチップによるピペッティングを行って組織をさらに細胞へと解離させる。これを37℃で約5分間インキュベートし、続いて約3.5mLのEG増殖培地を添加する。EG増殖培地は、DMEM、4500mg/L D-グルコース、2200mg/L NaHCO;15%ES用ウシ胎仔血清(BRL);2mMグルタミン(BRL);1mMピルビン酸ナトリウム(BRL);1000〜2000U/mLヒト組換え白血病抑制因子(LIF、Genzyme);1〜2ng/mlヒト組換えbFGF(Genzyme);および10mMフォルスコリン(10%DMSO中)である。代替的な手法では、ヒアルロニダーゼ/コラゲナーゼ/DNアーゼを用いてEG細胞を単離する。腸間膜を伴う性腺原基または生殖隆起を胎児材料から切り出し、生殖隆起をPBSですすいだ後に0.1ml HCD消化溶液(0.01%V型ヒアルロニダーゼ、0.002%DNアーゼI、0.1%IV型コラゲナーゼ、すべてSigma社、EG増殖培地中にて調製)に入れる。組織を細かく刻み、37℃で1時間または一晩インキュベートした後に1〜3mLのEG増殖培地中に再懸濁し、フィーダー層に対してプレーティングする。
【0066】
96穴組織培養プレートに前もって、LIF、bFGFおよびフォルスコリンを含まない改変EG増殖培地中でフィーダー細胞(例えば、STO細胞、ATCC番号CRL 1503)を3日間培養してサブコンフルエント層を調製しておき、5000radのγ線照射を行う。ウェルのそれぞれに約0.2mLの初代生殖細胞(PGC)懸濁液を加える。第1の継代はEG増殖培地中に7〜10日間おいた後に行い、各ウェルを、照射したSTOマウス線維芽細胞を前もって調製しておいた24穴培養皿の1ウェルに移す。培地を毎日交換しながら細胞を培養することにより、一般には1〜4回の継代を経て7〜30日間で、EG細胞に一致する細胞形態が観察されるようになる。
【0067】
未分化状態でのpPS細胞の増殖
pPS細胞は、分化を促すことなく増殖を促進する培養条件を用いて、培養下で連続的に増やすことができる。例示的な血清含有ES培地は、80%DMEM(Knock-Out DMEM、Gibcoなど)、20%規定ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)または血清代替物(国際公開公報第98/30679号)、1%非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、および0.1mMβ-メルカプトエタノールから構成される。使用の直前にヒトbFGFを最終濃度4ng/mLとなるように添加する(国際公開公報第99/20741号、Geron Corp.)。
【0068】
伝統的に、ES細胞はフィーダー細胞、一般には胚組織または胎児組織に由来する線維芽細胞の層の上で培養する。胚を妊娠13日のCF1マウスから採取し、2mLトリプシン/EDTA中に入れて細かく切り刻み、37℃で5分間インキュベートする。10%FBSを添加し、残渣を沈降させた上で、細胞を90%DMEM、10%FBSおよび2mMグルタミン中で増殖させる。フィーダー細胞層を調製するためには、細胞に対して、増殖は阻害するがES細胞を補助する重要な因子の合成は許容する程度の線量を照射する(約4000radのγ線照射)。培養プレートに0.5%ゼラチンを一晩かけてコーティングし、1ウェル当たり375,000個の照射mEFをプレーティングして、プレーティングから5時間〜4日後に用いる。pPS細胞を播く直前に培地を新たなhES培地に交換する。
【0069】
ジェロン(Geron)社の研究者らは、フィーダー細胞がなくてもpPS細胞を未分化状態で代替的に維持しうることを発見した。フィーダー細胞を含まない培養のための環境は、適した培養基質、特にマトリゲル(Matrigel)(登録商標)またはラミニンなどの細胞外マトリックスを含む。pPS細胞を、15,000個・cm−2(90,000cm−2〜170,000cm−2が最適である)を上回る密度でプレーティングする。一般的には、細胞が完全に分散する前に酵素消化を停止する(例えば、IV型コラゲナーゼで約5分間)。続いて、約10〜2000個の細胞を含む凝集塊を、それ以上分散させずに基質上に直接プレーティングする。
【0070】
フィーダーを含まない培養物は、一般的には照射した初代マウス胚線維芽細胞、テロメラーゼ導入処理を行った(telomerized)マウス線維芽細胞、またはpPS細胞由来の線維芽細胞様細胞を培養することによる馴化栄養培地によって補助される。培地は、20%血清代替物および4ng/mL bFGFを添加したKO DMEMなどの無血清培地中にフィーダーを約5〜6×10−2cmの密度でプレーティングすることによって馴化させることができる。1〜2日間にわたり馴化した培地にさらにbFGFを添加し、pPS細胞培養物を補助するために1〜2日間用いる。
【0071】
ES細胞は顕微鏡下では、核/細胞質比が高く、核小体が顕著であって、細胞間結合がほとんど識別できない稠密なコロニーを形成するものとして認められる。霊長類ES細胞は、発生段階特異的胚性抗原(SSEA)3および4、ならびにTra-1-60およびTra-1-81と命名された抗体を用いて検出可能なマーカーを発現する(Thomsonら、Science 282:1145、1998)。マウスES細胞は、SSEA-1に関する陽性対照として、ならびにSSEA-4、Tra-1-60およびTra-1-81に関する陰性対照として用いることができる。SSEA-4はヒト胚性癌(hEC)細胞上に常に存在する。細胞がインビトロで分化すると一般にSSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81の発現が低下し、SSEA-1の発現が増加する。SSEA-1はhEG細胞上にも認められる。
【0072】
神経前駆細胞および終末分化細胞を調製するための材料および手順
本発明のある種の神経前駆細胞は、望ましい表現型を備えた細胞を集積させる(望ましい細胞の増生による、または他の細胞種の抑制または死滅による)特殊な成長環境において幹細胞の培養、分化または再プログラミングを行うことによって得られる。これらの方法は、前項に述べた霊長類多能性幹(pPS)細胞を含む、多くの種類の幹細胞に適用可能である。
【0073】
分化は一般に、適した基質、および分化誘導物質を添加した栄養培地を含む培養環境で行う。適した基質には、塩基性アミノ酸、例えばポリ-L-リジンおよびポリオルニチンなどの陽性荷電を有するコーティングを施した固体表面が含まれる。基質には細胞外マトリックス成分、例えばフィブロネクチンをコーティングすることができる。他の許容される細胞外マトリックスには、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)(エンゲルブレス-ホルム-スワーム腫瘍細胞由来の細胞外マトリックス)およびラミニンが含まれる。ポリ-L-リジンをフィブロネクチン、ラミニンまたはその両方と組み合わせた配合基質も適している。
【0074】
適した分化誘導物質には、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α)、任意の種類の線維芽細胞成長因子(例えば、FGF-4、FGF-8および塩基性線維芽細胞成長因子=bFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF-1など)、高濃度インスリン、ソニックヘッジホッグ、ニューロトロフィンファミリーのメンバー(神経成長因子=NGF、ニューロトロフィン3=NT-3、脳由来神経栄養因子=BDNF)、骨形態形成タンパク質(特にBMP-2およびBMP-4)、レチノイン酸(RA)、およびgp130と複合体を形成する受容体のリガンド(LIF、CNTFおよびIL-6)などのさまざまな種類の成長因子が含まれる。前記の因子に対するそれぞれの細胞表面受容体と結合する代替リガンドおよび抗体も適している。一般的には複数の分化誘導物質を用いるが、これには上記のまたは下記の実施例において列挙する作用物質の2個、3個、4個またはそれ以上が含まれうる。その例は、EGF、bFGF、PDGFおよびIGF-1を含む混液である(実施例1および2)。
【0075】
諸因子を栄養培地中にある細胞に補給するが、培地は望ましい細胞種の増殖または生存を補助する任意の培地でよい。血清ではなく、遊離アミノ酸として栄養分を供給する規定培地を用いることがしばしば望ましい。また、神経細胞の持続培養のために開発された添加物を培地に加えることも有益である。その例には、ギブコ(Gibco)社から販売されているN2およびB27添加物がある。
【0076】
幹細胞がpPS細胞である場合には、細胞(フィーダー細胞による補助を受けた培養物、またはフィーダーを含まない培養物から得られたもの)を、分化誘導物質の適した混合物の存在下で培養することによって分化させる。
【0077】
分化を行わせる1つの方法では、pPS細胞を、ポリアミンをコーティングしたカバーグラスといった付着性ガラスまたはプラスチック表面などの適した基質上に直接プレーティングする。続いて細胞を、望ましい細胞系譜へと分化を促進させるのに適合した、適した栄養培地中で培養する。これを「直接分化」法と呼ぶ。
【0078】
もう1つの方法では、pPS細胞をまず不均一な細胞集団へと分化させる。その変法の一例では、pPS細胞を懸濁培養することにより、それから胚様体を形成させる。選択的には、胚様体内部の分化を促進するために、前に挙げた分化誘導物質の1つまたは複数(レチノイン酸など)を培地中に含めることができる。胚様体が十分な大きさに達した時点(一般的には3〜4日)で、それらを分化培養用の基質上にプレーティングする。胚様体は、細胞を分散させずに基質上に直接プレーティングすることができる。これにより、神経細胞前駆細胞が胚様体の外側および細胞外マトリックスに遊走することが可能になる。その後、これらの培養物を適切な培地中に継代すると、神経前駆細胞を選別するのに有用である。
【0079】
これらの手順に従って調製した細胞は、さらに増殖しうることが明らかになっている(実施例1)。細胞の30%、50%、75%またはそれ以上もの割合が、ポリシアル酸付加型NCAMもしくはA2B5エピトープまたはその両方を発現する。一般的には、細胞の少なくとも約10%、約20%、約30%または約50%がNCAMを発現し、細胞の少なくとも約10%、約20%、約30%または約50%がA2B5を発現し、このことは、それらにそれぞれニューロン系譜およびグリア系譜の細胞を生成する能力があることを意味する。
【0080】
選択的には、特定の集団を集積させるために、分化細胞を表現型特徴に基づいて選別することができる。これは一般に、各細胞を神経細胞に特徴的なマーカーと結合する抗体またはリガンドと接触させた後に、特異的に認識された細胞を集団内の他の細胞から分離することを含むと考えられる。1つの方法は、特異抗体を固体表面と結合させるイムノパンニングである。細胞を表面と接触させた上で、マーカーを発現しない細胞を洗い流す。続いて、結合した細胞をより強力な溶出によって収集する。この方法の変法には、アフィニティークロマトグラフィーおよび抗体を介した磁気細胞選別がある。1つの典型的な選別手順では、細胞を一次特異抗体と接触させた後に、磁気ビーズと結合させた二次抗免疫グロブリン試薬によって捕捉する。続いて、磁場内でビーズを集めることによって付着細胞を収集する。
【0081】
もう1つの方法は、蛍光活性化細胞選別法である。マーカーを発現する細胞を、一般的には蛍光標識した二次抗免疫グロブリンを用いて、特異抗体により標識する。続いて細胞を、適した選別装置を用いて、結合した標識の量に従って個別に分離する。これらの方法の任意のものにより、対象となるマーカーを有する細胞集団を陽性選択し、陽性選択されるために十分な密度または到達性を備えたマーカーを有していない細胞集団を陰性選択することが可能となる。細胞を、特異抗体および抗体が結合した細胞を溶解させる補体調製物とともに逐次的にインキュベートすることによって陰性選択を行うこともできる。分化細胞集団の選別は任意の時点で行うことができるが、一般には分化過程を開始させて少し後に選別を行うのが最も良いことが明らかになっている。
【0082】
ポリシアル酸付加型NCAMに関して陽性選択された細胞は、60%、70%、80%またはさらに90%もの割合がNCAM陽性である集団をもたらしうることが明らかになった(実施例1)。このことは、それらがニューロンを含む何らかの種類の神経細胞を生成しうることを意味する。
【0083】
同じく、A2B5に関して陽性選択された細胞も、60%、70%、80%またはさらに90%もの割合がA2B5陽性である集団をもたらしうることが明らかになった(実施例2)。このことは、それらがニューロンおよびグリア細胞の両方をおそらく含む何らかの種類の神経細胞を生成しうることを意味する。A2B5陽性細胞はさらに、A2B5陽性かつNCAM陰性のもの、およびA2B5陽性かつNCAM陽性のものという2つの別の集団に選別することができる。
【0084】
この手順に従って調製した分化または分離した細胞は、任意の適した培地中で維持すること、またはさらに増殖させることができる。一般に、培地は細胞を分化させるために最初に用いた成分のほとんどを含むと考えられる。
【0085】
これらの手順に従って調製した神経前駆細胞を、必要に応じて、成熟したニューロン、アストロサイト、またはオリゴデンドロサイトにさらに分化させることができる。これは細胞を、フォルスコリン、またはコレラ毒素、イソブチルメチルキサンチン、ジブチルアデノシンサイクリック一リン酸などの細胞内cAMPレベルを上昇させる他の化合物、またはc-kitリガンド、レチノイン酸もしくはニューロトロフィンなどの他の因子といった成熟因子の存在下で培養することによって行うことができる。特に有効なものは、ニューロトロフィン-3(NT-3)および脳由来神経栄養因子(BDNF)である。その他の候補は、GDNF、BMP-2およびBMP-4である。代替的または追加的に、神経前駆細胞の増殖を促進するEGFまたはFGFなどの因子の一部またはすべてを除去することによって成熟させることもできる。
【0086】
治療用途または他の用途に用いるためには、前駆細胞または成熟神経細胞の集団が未分化pPS細胞を実質的に含まないことが望ましい場合がしばしばある。集団から未分化幹細胞を除去する方法の一つは、それらに、未分化細胞における選好的な発現を引き起こすプロモーターの制御下にあるエフェクター遺伝子を含むベクターをトランスフェクトすることである。適したプロモーターには、TERTプロモーターおよびOCT-4プロモーターが含まれる。エフェクター遺伝子は細胞に対して直接溶解性であってもよい(例えば、毒素またはアポトーシス伝達物質をコードするもの)。または、エフェクター遺伝子は、抗体またはプロドラッグなどの外部因子の毒性作用に対する感受性を細胞に付与するものでもよい。その一例は、それを発現した細胞にガンシクロビルに対する感受性をもたらす単純ヘルペスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子である。適したpTERT-tk構築物は、国際公開公報第98/14593号(Morinら)に開示されている。
【0087】
神経前駆細胞および終末分化細胞の特徴
細胞はさまざまな表現型基準に従って特徴づけることができる。基準には、形態的特徴の顕微鏡観察、発現された細胞マーカー、酵素活性、または神経伝達物質およびそれらの受容体の検出または定量化、ならびに電気生理機能が非制限的に含まれる。
【0088】
本発明に含まれるある種の細胞は、神経細胞またはグリア細胞に特徴的な形態的特徴を有する。これらの特徴はこのような細胞の存在を評価している当業者によって容易に認識される。例えば、ニューロンの特徴は、細胞体が小さいこと、ならびに軸索および樹状突起を思わせる多数の突起である。本発明の細胞を、さまざまな種類の神経細胞に特徴的な表現型マーカーを発現するか否かに従って特徴づけることもできる。
【0089】
対象となるマーカーには、ニューロンに特徴的なβ-チューブリンIII、微小管関連タンパク質2(MAP-2)またはニューロフィラメント;アストロサイトに存在するグリア線維性酸性タンパク質(GFAP);オリゴデンドロサイトに特徴的なガラクトセレブロシド(GalC)またはミエリン塩基性タンパク質(MBP);未分化hES細胞に特徴的なOct-4;神経前駆細胞および他の細胞に特徴的なネスチン;ならびにすでに述べたA2B5およびポリシアル酸付加型NCAMが非制限的に含まれる。神経細胞系譜細胞を検討する場合にはA2B5およびNCAMが有益なマーカーであるが、これらのマーカーは肝細胞または筋細胞などの他の細胞種にも認められることがある点を認識しておくべきである。β-チューブリンIIIは、以前は神経細胞に特異的と考えられていたが、hES細胞の亜集団もβ-チューブリンIII陽性であることが判明している。MAP-2は、さまざまな種類の完全分化ニューロンに対するより厳密なマーカーである。
【0090】
本開示において列挙した、および当技術分野で知られている組織特異的マーカーは、任意の適した免疫学的手法(例えば、細胞表面マーカーに関するフローイムノサイトケミストリー(flow immunocytochemistry)、細胞内マーカーまたは細胞表面マーカーに関する免疫組織化学(例えば、固定した細胞または組織切片に対するもの)、細胞抽出物のウエスタンブロット分析、および細胞抽出物または培地中に分泌された産物に関する固相酵素免疫アッセイ法など)を用いて検出することができる。細胞による抗原の発現は、標準的な免疫細胞化学またはフローサイトメトリーアッセイ法において、選択的には細胞の固定後に、さらに選択的には標識を増幅するために標識した二次抗体または他の結合物(ビオチン-アビジン結合物など)を用いて、明らかに検出可能な量の抗体が抗原と結合する場合に「抗体で検出可能である」という。
【0091】
組織特異的遺伝子産物の発現を、ノーザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析、または配列特異的プライマーを標準的な増幅法に用いて逆転写酵素により開始するポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、mRNAレベルで検出することもできる。これ以上の詳細については米国特許第5,843,780号を参照されたい。本開示に列挙した個々のマーカーに関する配列データは、ジェンバンク(GenBank)(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)などの公開データベースから入手可能である。mRNAレベルでの発現は、一般的な対照比較実験における標準的な手順に従った細胞試料に関するあるアッセイ法の成績で、明らかに識別可能なハイブリダイゼーションまたは増幅産物が得られる場合に、本開示に記載のアッセイ法の1つに従って「検出可能である」という。蛋白質またはmRNAレベルで検出される組織特異的マーカーの発現は、そのレベルが、未分化pPS細胞、線維芽細胞または他の無関係な細胞種などの対照細胞のものの少なくとも2倍、好ましくは10倍を上回る、または50倍を上回る場合に陽性とみなされる。
【0092】
同じく神経細胞、特に終末分化細胞に特徴的なものに、神経伝達物質の生合成、放出および再取り込みに関与する受容体および酵素、ならびにシナプス伝達に関係する脱分極および再分極に関与するイオンチャネルがある。シナプス形成の証拠は、シナプトフィジンに対する染色によって得られる。特定の神経伝達物質に対する受容性に関する証拠は、γ-アミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸、ドーパミン、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ノルアドレナリン、アセチルコリン、およびセロトニンに対する受容体を検出することによって得られる。
【0093】
本発明の特定の神経前駆細胞集団の分化(例えば、NT-3およびBDNFを用いて)により、少なくとも20%、30%または40%がMAP-2陽性である細胞集団が生じうる。NCAM陽性細胞またはMAP-2陽性細胞のかなりの割合、例えば5%、10%、25%またはそれ以上の割合が、アセチルコリン、グリシン、グルタミン酸、ノルエピネフリン、セロトニン、またはGABAなどの神経伝達物質を合成しうると考えられる。
【0094】
本発明のある種の集団は、0.1%、およびおそらくは1%、3%または5%またはそれ以上の割合(細胞数ベースで)が免疫細胞化学またはmRNA発現による評価でチロシンヒドロキシラーゼ(TH)に関して陽性であるNCAM陽性細胞またはMAP-2陽性細胞を含む。これは当技術分野でドーパミン合成細胞に対するマーカーであると一般にみなされている。
【0095】
分化した集団に存在する成熟ニューロンをさらに解明するために、機能的基準に従って細胞の試験を行うことができる。例えば、神経伝達物質、またはインビボでニューロンに影響を及ぼすことが知られた他の環境条件に反応して生じるカルシウム流を、任意の標準的な技法によって測定することができる。まず、形態的基準またはNCAMなどのマーカーによって集団内のニューロン様細胞を特定する。神経伝達物質または条件を細胞に対して適用し、その反応を観測する(実施例6)。活動電位の所見があるか否か、および加えた電圧と反応との間の遅れ時間はどの程度であるかを明らかにするために、細胞に対して標準的なパッチクランプ法を行うこともできる。本発明の神経前駆細胞集団の分化により、ニューロンの形態的特徴を有し、NCAMまたはMAP-2陽性である上に、以下の頻度で反応を示す亜集団を含む培養物が生じうる:GABA、アセチルコリン、ATP、および高ナトリウム濃度に対する反応が細胞の少なくとも約40%、60%、または80%にみられる;グルタミン酸、グリシン、アスコルビン酸、ドーパミンまたはノルエピネフリンに対する反応が細胞の少なくとも約5%、10%、または20%にみられる。NCAM陽性細胞またはMAP-2陽性細胞の実質的な割合(少なくとも約25%、約50%、または約75%)は、パッチクランプシステムにおいて活動電位の所見も示しうる。
【0096】
本発明による細胞集団の質を確かめるため、ならびに細胞の増殖および分化のための条件を最適化するために、機能的なニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、およびそれらの前駆細胞に対応するその他の望ましい特徴を標準的な方法に従って用いることもできる。
【0097】
神経前駆細胞のテロメラーゼ導入処理(telomerization)
ある種の薬物スクリーニングおよび治療的応用においては、ならびに分化した神経細胞およびグリア細胞の生成のための備蓄物を得るためには、神経前駆細胞に複製能があることが望ましい。選択的には、本発明の細胞に対して、その複製能力を高めるために、発生的に限定された発生系譜細胞または終末分化細胞へと進行する前または後に、テロメラーゼ導入処理を行うことが可能である。テロメラーゼ導入処理を行ったpPS細胞を前記の分化経路の下流に進ませてもよく、分化細胞にテロメラーゼ導入処理を直接行うこともできる。
【0098】
細胞のテロメラーゼ導入処理は、一般的には内因性プロモーターの下で起こる程度を上回ってテロメラーゼ発現を増加させる異種プロモーターの下で、それらがテロメラーゼ触媒成分(TERT)を発現するように、適したベクターによるトランスフェクションもしくは形質導入、相同組換えまたは他の適した技法によってそれらを遺伝的に改変することによって行われる。特に適しているのは、国際公開公報第98/14592号に提示されているヒトテロメラーゼの触媒成分(hTERT)である。ある種の用途に対しては、マウスTERT(国際公開公報第99/27113号)などの種間相同体を用いることもできる。ヒト細胞におけるテロメラーゼのトランスフェクションおよび発現は、ボドナー(Bodnar)ら、Science 279:349、1998、およびチャン(Jiang)ら、Nat. Genet. 21:111、1999に記載されている。もう1つの例においては、hTERTクローン(国際公開公報第98/14592号)をhTERTコード配列の供給源として用い、MPSVプロモーターの制御下にあるPBBS212ベクターのEcoRI部位に、またはLTRプロモーターの制御下にある市販のpBABEレトロウイルスベクターのEcoRI部位につなぎ合わせて導入する。
【0099】
分化したpPS細胞または未分化pPS細胞に対して、ベクターを含む上清を用いて8〜16時間にわたって遺伝的改変を加えた後、増殖培地に交換して1〜2日おく。遺伝子組換え細胞を0.5〜2.5μg/mLピューロマイシンを用いて選別し、再び培養する。続いてそれらを、RT-PCRによるhTERT発現、テロメラーゼ活性(TRAPアッセイ法)、hTERTに関する免疫細胞化学染色、または複製能に関して評価することができる。以下のアッセイキットが研究目的に販売されている:TRAPeze(登録商標)XLテロメラーゼ検出キット(カタログ番号 s7707;Intergen Co.、Purchase NY);およびTeloTAGGGテロメラーゼPCR ELISAplus(カタログ番号 2,013,89;Roche Diagnostics、Indianapolis IN)。TERT発現をRT-PCRによってmRNAに関して評価することもできる。研究目的に販売されているものに、ライトサイクラー(LightCycler)TeloTAGGG hTERT定量化キット(カタログ番号 3,012,344;Roche Diagnostics)がある。連続的に複製するコロニーを、増殖を補助する条件下でさらに培養することによって集積させることができ、望ましい表現型を有する細胞を選択的には限界希釈によってクローン化することができる。
【0100】
本発明の特定の態様では、pPS細胞を、多能性の、または分化能が決定された(committed)神経前駆細胞に分化させ、続いてTERTを発現するように遺伝的に改変する。本発明の他の態様では、TERTを発現するようにpPS細胞を遺伝的に改変した後に、神経前駆細胞または終末分化細胞に分化させる。TERT発現を増加させる改変が成功したかどうかは、TRAPアッセイ法により、または細胞の複製能が向上したか否かを判定することによって判定しうる。
【0101】
細胞を不死化させる他の方法、例えばmyc、SV40ラージT抗原、またはMOT-2をコードするDNAによって細胞の形質転換を行うことなども考えられている(米国特許5,869,243号、国際公開公報第97/32972号、および国際公開公報第01/23555号)。癌遺伝子またはオンコウイルス産物によるトランスフェクションは、細胞を治療目的に用いようとする場合にはあまり適切でない。テロメラーゼ導入処理を行った細胞は、細胞が増殖可能で核型を維持しうることが有益であるような本発明の応用(例えば、医薬品スクリーニング)、および、CNF機能を補強するために個体に分化細胞を投与する治療プロトコールにおいて特に関心がもたれる。
【0102】
神経前駆細胞および終末分化細胞の使用
本発明は、神経前駆細胞、ならびに成熟した神経細胞およびグリア細胞を数多く作製する方法を提供する。これらの細胞集団は、さまざまな重要な研究、開発および販売の目的に用いることができる。
【0103】
本発明の分化細胞は、他の系譜由来の細胞において選好的に発現されるcDNAが比較的混入していないcDNAライブラリーを調製するために用いうる。例えば、多能性神経前駆細胞を1000rpm、5分間の遠心処理によって収集し、続いてペレットから標準的な技法(Sambrookら、前記)によってmRNAを調製する。逆転写によってcDNAにした後、調製物を以下の細胞種:神経細胞系譜またはグリア細胞系譜に分化能が決定された細胞、成熟ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、または望ましくない特異性を有する他の細胞、のいずれかまたはすべてに由来するcDNAとのサブトラクションにかけることができる。これにより、終末分化細胞と比べてニューロン前駆細胞において選好的に発現される転写物を反映する、限定されたcDNAライブラリーが得られる。同様の様式で、ニューロン前駆細胞もしくはグリア前駆細胞または成熟ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトにおいて選好的に発現される転写物を表すcDNAライブラリーを作製することができる。
【0104】
本発明の分化細胞を、多能性神経前駆細胞、神経細胞系譜またはグリア細胞系譜に分化能が決定された細胞、ならびに成熟したニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトのマーカーに対して特異的な抗体を調製するために用いることもできる。本細胞集団はpPS細胞培養物およびCNS組織から直接摘出した神経細胞培養物またはグリア細胞培養物と比べて特定の細胞種が集積しているため、本発明はこのような抗体を産生させる改善された方法を提供する。
【0105】
ポリクローナル抗体は、本発明の細胞を免疫原性形態として脊椎動物に注射することによって調製しうる。モノクローナル抗体の作製は、ハーロウ(Harrow)およびレーン(Lane)(1988)、米国特許第4,491,632号、第4,472,500号および第4,444,887号、ならびにMethods in Enzymology 73B:3(1981)などの標準的な参考文献に記載されている。特異的な抗体分子(最適には一本鎖可変領域の形態で)を入手するための他の方法には、免疫適格細胞またはウイルス粒子のライブラリーを標的抗原と接触させ、陽性選択されたクローンを増殖させることが含まれる。マークス(Marks)ら、New Eng. J. Med. 335:730、1996、国際公開公報第94/13804号、国際公開公報第92/01047号、国際公開公報第90/02809号、およびマクギネス(McGuiness)ら、Nature Biotechnol. 14:1449、1996を参照されたい。本発明のpPSを用いて陽性選択を行い、より幅広く分布する抗原を有する細胞(分化した胚細胞など)または成体由来幹細胞を用いて陰性選択を行うことにより、望ましい特異性を得ることができる。続いてこれらの抗体を用いて、組織試料を用いた免疫診断時の同時染色、ならびに終末分化したニューロン、グリア細胞および他の系譜の細胞から前駆細胞を単離する目的で、望ましい表現型を有する神経細胞を混合細胞集団から同定または回収することができる。
【0106】
遺伝子発現分析
本発明の細胞は、神経前駆細胞に特徴的な転写物および新たに合成された蛋白質の発現パターンを同定する目的に関心がもたれ、分化経路の方向づけまたは細胞間の相互作用の促進にも役立つ可能性がある。分化細胞の発現パターンを入手し、未分化pPS細胞、分化能が決定された他の種類の前駆細胞(他の系譜の方向に分化したpPS細胞、神経細胞培養物またはグリア細胞系譜に分化能が決定された細胞など)、神経冠、ニューロスフェア(neurosphere)もしくは脊髄から得られたものといった他の種類の神経幹細胞と推定されるもの、または成熟したニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、平滑筋細胞およびシュワン細胞といった終末分化細胞などの対照細胞と比較する。
【0107】
発現を蛋白質レベルで比較するのに適した方法には、前記のイムノアッセイ法または免疫組織化学的な手法が含まれる。発現を転写レベルで比較するのに適した方法には、mRNAのディファレンシャルディスプレイ法(Liang、Pengら、Cancer Res. 52:6966、1992)、cDNAライブラリーの全域シークエンシング、およびマトリックスアレイ発現システムが含まれる。
【0108】
遺伝子発現の分析におけるマイクロアレイの使用は、フリッツ(Fritz)ら、Science 288:316、2000;「マイクロアレイバイオチップ技術(Microarray Biochip Technology)」、シャイ(L Shi)、www.Gene-Chips.com.に概説されている。マイクロアレイ分析を行うためのシステムおよび試薬は、アフィメトリクス社(Affymetrix, Inc.、Santa Clara CA);ジーンロジック社(Gene Logic Inc.、Columbia MD);ハイセク社(Hyseq Inc.、Sunnyvale CA);モレキュラーダイナミクス社(Molecular Dynamics Inc.、Sunnyvale CA);ナノジェン社(Nanogen、San Diego CA);およびシンテニ社(Synteni Inc.、Fremont CA)(Incyte Genomics社、Palo Alto CAにより買収)などの企業から販売されている。
【0109】
固相アレイは、プローブを望ましい位置で合成することにより、またはプローブ断片をあらかじめ合成した後にそれを固体支持体に付着させることにより、プローブを特定の部位に付着させることによって製造される(米国特許第5,474,895号および第5,514,785号)。プローブアッセイ法は一般に、アレイを、対象となるヌクレオチド配列を含む可能性のある液体とハイブリダイゼーションに適した条件下で接触させた後に、ハイブリッドが形成されたかどうかを判定することによって行われる。
【0110】
例示的な方法は、ジェネティックマイクロシステムズ(Genetic Microsystems)社のアレイ作製装置(array generator)およびアクソンジーンピックス(Axon GenePix)(商標)スキャナーを用いて行う。マイクロアレイは、分析しようとするマーカー配列をコードするcDNA断片を増幅し、スライドガラス上に直接スポットすることによって調製する。対象となる2つの細胞からのmRNA調製物を比較するために、一方の調製物をCy3標識cDNAに変換し、もう一方をCy5標識cDNAに変換する。この2つのcDNA調製物をマイクロアレイスライドに同時にハイブリダイズさせた後、非特異的な結合を除去するために洗浄する。続いてスライドを標識のそれぞれに適した波長でスキャニングし、その結果生じた蛍光を定量化した上で、その結果を整えてアレイ上の各マーカーに対するmRNAの相対的な存在量の指標を得る。
【0111】
本発明の分化細胞の特徴分析を行うため、およびそれらに影響を及ぼすために用いるための発現産物の同定には、本発明の多能性神経前駆細胞、またはニューロンもしくはグリアの経路に沿って分化しうる細胞などの第1の細胞種におけるRNA、蛋白質または他の遺伝子産物の発現レベルを分析する段階;続いて対照細胞種における同一産物の発現レベルを分析する段階;および2つの細胞種間の相対的発現レベル(一般には、試料中の蛋白質またはRNAの総量により標準化されたもの、またはハウスキーピング遺伝子などのように両方の細胞種において同程度のレベルで発現されると考えられる別の遺伝子産物と比較したもの)を比較する段階;および相対的発現レベルに基づいて対象となる産物を同定する段階が含まれる。
【0112】
薬物スクリーニング
本発明の神経前駆細胞は、神経前駆細胞およびそれらのさまざまな子孫の特徴に影響を及ぼす因子(溶媒、低分子薬、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)または環境条件(培養条件または操作など)のスクリーニングに用いることができる。
【0113】
いくつかの用途においては、pPS細胞(分化細胞、または未分化細胞)を、神経細胞への成熟を促す因子、またはこのような細胞の長期培養下での増殖および維持を促す因子のスクリーニングに用いる。例えば、成熟因子または成長因子の候補の試験は、それらを種々のウェルに入ったpPS細胞に添加した後に、その結果生じた表現型変化を、細胞のさらなる培養および使用に関して望まれる基準に従って判定することによって行われる。
【0114】
本発明の他のスクリーニング用途は、神経組織または神経伝達に対する効果について医薬化合物を試験することに関する。スクリーニングは、化合物が神経細胞に対して薬理効果を及ぼすように設計されたという理由から行ってもよく、または別の効果を及ぼすように設計された化合物に神経系に対する有害な副作用がある可能性があるという理由から行ってもよい。スクリーニングは、本発明の神経前駆細胞または終末分化細胞、例えばドーパミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、コリン作動性ニューロン、感覚ニューロンおよび運動ニューロン、オリゴデンドロサイトならびにアストロサイトなどの任意のものを用いて行うことができる。
【0115】
概論については、標準的な教科書である「薬学研究におけるインビトロの方法(In vitro Methods in Pharmaceutical Research)」、Academic Press、1997および米国特許第5,030,015号を参照されたい。医薬化合物候補の活性の評価は一般に、本発明の分化細胞を候補化合物と、単独または他の薬剤との併用で組み合わせることを含む。試験者は、化合物に起因する細胞の形態、マーカー表現型または機能的活性の変化の有無を判定し(非処理細胞または不活性化合物で処理した細胞と比較する)、観察された変化を化合物の効果と相関づける。
【0116】
細胞傷害性はまず第一に、細胞の生育性、生存、形態、ならびに特定のマーカーおよび受容体の発現に対する影響によって判定しうる。染色体DNAに対する薬剤の影響は、DNAの合成または修復を測定することによって判定しうる。[H]-チミジンまたはBrdUの取り込みは、特に細胞周期内で不定期にみられる場合または細胞複製に必要なレベルを上回る場合は、薬剤の影響と一致する。有害効果には、中期分裂像から判定される姉妹染色分体交換の割合が異常であることも含まれる。より詳細な説明については、ヴィッカーズ(A. Vickers)(pp 375〜410、「薬学研究におけるインビトロの方法(In vitro Methods in Pharmaceutical Research)、Academic Press、1997)を参照されたい。
【0117】
細胞機能に対する影響は、細胞培養下または適切なモデルにおいて、受容体結合、神経伝達物質の合成、放出または取り込み、電気生理、および神経突起またはミエリン鞘の成長などの神経細胞の表現型または活性を観察するための任意の標準的なアッセイ法を用いて評価しうる。
【0118】
治療的使用
本発明は、中枢神経系(CNS)機能の程度を回復させるための神経前駆細胞の使用であって、おそらくは機能の先天性異常、疾病状態の影響または損傷の結果のために、このような治療を必要とする対象に対する使用も提供する。
【0119】
神経前駆細胞の治療的投与に対する適合性を判定するために、細胞をまず適した動物モデルで試験することができる。1つのレベルでは、細胞がインビボで生存し、その表現型を維持する能力を評価する。神経前駆細胞を、免疫不全動物(ヌードマウス、または化学的手法もしくは照射により免疫不全とした動物など)に対して、大脳腔内または脊髄内などの観察可能な部位に投与する。数日ないし数週間またはそれ以上の期間の後に組織を採取し、pPS由来の細胞が存在し続けているか否かを評価する。
【0120】
これは、検出可能な標識(緑色蛍光蛋白質またはβ-ガラクトシダーゼなど)を発現する細胞;あらかじめ標識した(例えば、BrdUまたは[H]チミジンにより)細胞を投与すること;またはその後に構成性細胞マーカーを検出すること(例えば、ヒト特異的抗体を用いて)によって行える。神経前駆細胞を齧歯類モデルで試験する場合には、ヒト特異抗体を用いる免疫組織化学的手法もしくはELISA、またはヒトポリヌクレオチド配列に対して特異的な増幅が起こるようなプライマーおよびハイブリダイゼーション条件を用いるRT-PCR分析により、投与した細胞の存在および表現型を評価することができる。遺伝子発現をmRNAまたは蛋白質のレベルで評価するのに適したマーカーは本開示の別の箇所に提示している。
【0121】
神経系機能の回復に関する試験を行うための種々の動物モデルは、「CNS再生:基礎科学および臨床的進歩(CNS Regeneration: Basic Science and Clinical Advances)」、タスジンスキ(M.H. Tuszynski)およびコルドワ(J.H. Kordower)編、Academic Press、1999に記載されている。
【0122】
本発明の分化細胞を、それを必要とするヒト患者における組織の再構成または再生のために用いることもできる。細胞を、それらが意図した組織部位に定着または移動し、機能欠損領域を再構成または再生させることを可能とする様式で投与する。
【0123】
本発明に含まれるある種の神経前駆細胞は、神経系に対する急性障害または慢性障害の治療のために設計される。例えば、興奮毒性は、てんかん、脳卒中、虚血、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含むさまざまな疾患に関与するとみられている。本発明のある種の分化細胞は、ペリツェウス・メルツパッヘル病、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経炎およびニューロパチーなどの髄鞘形成障害の治療にも適すると思われる。これらの目的には、髄鞘再形成を促すためにオリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞が集積した細胞培養物が適している。
【0124】
例えば、中枢治療しようとする疾患に応じた神経系の実質内またはクモ膜下腔内の部位に、神経幹細胞を直接移植する。移植は25,000〜500,000細胞/μLの密度の単細胞懸濁液または小凝集物を用いて行う(米国特許第5,968,829号)。運動ニューロンまたはその前駆細胞の移植の有効性は、マクドナルド(McDonald)らによって記載された急性脊髄損傷のラットモデルで評価することができる(Nat. Med. 5:1410、1999)。移植が成功すれば、2〜5週後に病変内に存在し、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/またはニューロンに分化して、損傷端から脊髄に沿って移動している移植物由来の細胞、ならびに歩行、協調性および体重支持の改善が認められるはずである。
【0125】
本発明による神経前駆細胞および終末分化細胞は、ヒト投与用に十分に無菌な条件下で調製した等張性添加剤を含む薬学的組成物の形態として供給することができる。医薬品の製剤化に関する一般的な原理に関しては、「細胞療法:幹細胞移植、遺伝子治療および細胞免疫療法(Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy)」、モルツィン(G. Morstyn)およびシェリダン(W. Sheridan)編、Cambridge University Press、1996;ならびに「造血幹細胞療法(Hematopoietic Stem Cell Therapy)」、ボール(E.D. Ball)、リスター(J. Lister)およびロー(P. Law)、Churchill Livingstone、2000を参照されたい。
【0126】
選択的には、組成物を、何らかの神経学的異常の改善を目的としたCNS機能の再構成といった望ましい目的に関する文書を添付して、適した容器内にパッケージ化してもよい。
【0127】
以下の実施例は、本発明の特定の態様に関する非制限的な例示として提示するものである。
【実施例】
【0128】
実験手順
本セクションには、以下の実施例の項で用いる技法および試薬のいくつかに関する詳細を示す。
【0129】
hES細胞は、初代マウス胚線維芽細胞上、またはフィーダーを含まない系にて維持する。hES細胞を、照射したマウス胚線維芽細胞の上、またはマトリゲル(Matrigel)(登録商標)をコーティングした(培地中に1:10〜1:30)プレート上に播く。フィーダー細胞上のhES細胞培養物は、80%KO DMEM(Gibco)および20%血清代替物(Gibco)から構成され、1%非必須アミノ酸、1mMグルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、および4ng/mLヒトbFGF(Gibco)を補充した培地中で維持する。フィーダー細胞を含まない培養物は、胚線維芽細胞との培養によってあらかじめ馴化し、4ng/mL bFGFを補充した同一培地中で維持する(毎日交換する)。
【0130】
細胞を連続継代によって増殖させる。ESコロニーの単層培養物を1mg/mLコラゲナーゼにより37℃で5〜20分間処理する。続いて培養物を丁寧に剥離して細胞を採取する。塊を丁寧に分離し、小さな塊として新たなフィーダー細胞の上に再びプレーティングする。
【0131】
胚様体は以下の通りに作製する。集密化したhES細胞の単層培養物を、1mg/mlのコラゲナーゼ中で5〜20分間インキュベートした後に、細胞をプレートから剥離することによって収集する。続いて細胞を塊に分離し、80%KO(「ノックアウト」) DMEM(Gibco)および熱非働化を行っていない20%FBS(Hyclone)から構成され、1%非必須アミノ酸、1mMグルタミン、0.1mMβ-メルカプトエタノールを補充した培地を入れた非接着性細胞培養プレート(Costar)中にプレーティングする。細胞は1ウェル(6穴プレート)当たり2mLの培地中に1:1または1:2の比で播く。EBには1ウェル当たり2mLの培地を1日置きに添加することによって栄養分を与する。培地の容積が4mL/ウェルを上回った時点でEBを収集し、新たな培地中に再懸濁する。4〜8日間の懸濁培養の後、EBを基質上にプレーティングし、選択した分化誘導因子の存在下でさらに分化させる。
【0132】
神経前駆細胞への分化は一般に、最終濃度20μg/mL(PBS中)のフィブロネクチン(Sigma)によってコーティングしたウェル上で行う。1mL/ウェル(9.6cm)を用いて、プレートを4℃で一晩または室温で4時間インキュベートする。続いてフィブロネクチンを除去し、プレートをPBSまたはKO DMEMで1回洗浄した後に用いる。
【0133】
NCAMおよびA2B5の発現に関する免疫細胞化学的評価は以下のようにして行う:生細胞を、1%ヤギ血清を含む培地中に希釈した一次抗体とともに37℃で15分間インキュベートし、培地で1回洗浄した後に、標識二次抗体ともに15分間インキュベートする。洗浄後に細胞を2%パラホルムアルデヒドにて15〜20分間固定する。他のマーカーに関しては、培養物を4%パラホルムアルデヒド(PBS中)で10〜20分間固定して、PBSで3回洗浄し、100%エタノール中で透過化処理を2分間行った上で、0.1M PBSで洗浄する。続いて培養物を、5%NGS(正常ヤギ血清)を含む0.1M PBSであるブロッキング溶液中にて室温で少なくとも1時間インキュベートする。続いて培養物を、1%NGSを含む0.1M PBS中に希釈した一次抗体とともに室温で少なくとも2時間インキュベートする。続いてそれらをPBSで洗浄した後に、同一緩衝液中で二次抗体とともに30分間インキュベートする。用いる抗体には表1に示したものが含まれる。
【0134】
(表1) 神経細胞表現型マーカーに対する抗体

【0135】
ビーズ免疫選別(bead immunosorting)は以下の試薬および装置を用いて行う:磁気細胞分離装置;Midi MACs(商標)カラム;0.5%BSAおよび2mM EDTAを含むPBS CMF緩衝液;NCAMまたはA2B5に対する一次抗体;ラット抗マウスIgG(またはIgM)ミクロビーズ;前分離フィルター;ラット抗マウスκPE;ならびにファクスキャン(FACScan)装置。細胞をトリプシン/EDTA(Gibco)を用いて収集し、解離させる。トリプシンを除去した後に、細胞をMACs(商標)緩衝液中に再懸濁する。続いて細胞を一次抗体によって室温で6〜8分間標識し、細胞を300×gで10分間遠心して緩衝液を吸引することによってMACs(商標)緩衝液で2回洗浄する。続いて細胞を10個当たり80μl(最小容積)中に再懸濁する。細胞10個当たり20μl(最小容積)のMACs ram(商標)IgGミクロビーズを添加して6〜12℃で15分間おく。続いて試料をMACs(商標)緩衝液で2回洗浄した後に、磁気分離を行う。磁気細胞分離装置内にカラムを配置し、約3〜5mLの緩衝液中の細胞懸濁液をカラム(LS+ Midi)にかける。3mLのMACs(商標)緩衝液で3回洗浄することによって陰性細胞を流出させる。続いてカラムを磁場から取り出し、5mLのMACs(商標)緩衝液を用いて陽性細胞を溶出させる。
【0136】
分離した後にA2B5+またはNCAM+細胞を、ポリリジンおよびラミニンをコーティングしたプレート上で、N2(Gibco 17502-014)、B27(Gibco 17504-010)および指定の因子を補充したDMEM/F12(Biowhittaker)中にて維持する。因子の入手元を表2に示す。
【0137】
(表2) 神経細胞培養に用いた因子

【0138】
転写レベルでの発現のRT-PCR分析は以下の通りに行う:RNAイージーキット(RNAeasy Kit)(商標)(Qiagen)を製造者の指示に従って用いて、RNAを細胞から抽出する。続いて、混入したゲノムDNAを除去するために最終産物をDNアーゼで消化する。RNAを、10mM Tris pH 7.5、10mM MgClおよび5mM DDTを含む緩衝液中にて、RNAガード(Pharmacia Upjohn)およびDNアーゼI(Pharmacia Upjohn)とともに37℃で30〜45分間インキュベートする。蛋白質を試料から除去するために、フェノール-クロロホルム抽出を行い、3M酢酸ナトリウムおよび100%冷エタノールでRNAを沈殿させる。RNAを70%エタノールで洗浄し、ペレットを風乾させた上でDEPC処理水中に再懸濁する。
【0139】
逆転写酵素(RT)反応に関しては、500ngの全RNAを最終濃度が1倍の第一鎖緩衝液(Gibco)、20mM DDTおよび25μg/mLのランダムヘキサマー(Pharmacia Upjohn)と混合する。70℃に10分間、RNAを変性させた後、室温に10分間おいてアニーリングする。dNTPを0.5μLのスーパースクリプトII RT(Superscript II RT)(Gibco)とともに最終濃度1mMとなるように添加し、42℃で50分間インキュベートした後に、80℃に10分間おいて熱失活させる。その後はPCR分析に用いるまで試料を-20℃で保存する。標準的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、対象となるマーカーに対して特異的なプライマーを用いて、以下の反応混合液中で行う:cDNA 1.0μL、10×PCR緩衝液(Gibco)2.5μL、10×MgCl 2.5μL、2.5mM dNTP 3.0μL、5μM 3'-プライマー1.0μL、5μM 5'-プライマー1.0μL、Taq 0.4μL、DEPC水13.6μL。
【0140】
実施例1:NCAM陽性細胞
本実験は、ヒト胚性幹細胞(hES)がNCAM陽性前駆細胞への定方向分化を行いうるか否かを明らかにすることを目的とした。hES細胞をmEFで補助した培養物またはフィーダーを含まない培養物から収集した後に、20%FBSを含む培地を用いる懸濁培養下での胚様体(EB)形成を経て分化させた。続いてEBをそのまま、N2添加物(Gibco)および25ng/mLヒトbFGFを補充したDMEM/F12培地中にてフィブロネクチン上にプレーティングした。約2〜3日間の培養後に、NCAM陽性細胞およびA2B5陽性細胞が免疫染色によって同定された。
【0141】
磁気ビーズ選別およびイムノパンニングはいずれもNCAM陽性細胞を集積させるのに有効であった。最初の細胞集団は一般にNCAM陽性細胞を25〜72%含んでいた。免疫単離を行った後に、NCAM陽性の割合は43〜72%に上昇した。結果を表3に示す。
【0142】
(表3) NCAM陽性細胞に対する分化および選別の条件

因子の略号:
C―毛様体神経栄養因子(CNTF)
F―塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)
N―ニューロトロフィン3(NT3)
I―インスリン様成長因子(IGF-1)
P―血小板由来成長因子(PDGF)
T―甲状腺ホルモンT3
Ra―レチノイン酸
Fk―フォルスコリン
【0143】
示した最初の10件の実験では、選別により回収されたNCAM陽性細胞を、N2およびB27添加物ならびに2mg/mL BSA、10ng/mLヒトCNTF、10ng/mLヒトbFGF、および1ng/mLヒトNT-3を添加したDMEM/F12中にてポリ-Lリジン/ラミニン上にプレーティングした。その後の実験では、N2およびB27添加物、ならびに10ng/mL EGF、10ng/mL bFGF、1ng/mL PDGF、および1ng/mL IGF-1を添加したDMEM/F12中で細胞を維持した。
【0144】
図1(上図)は、NCAM陽性細胞の増殖曲線を示している。本実験で検討した細胞は、20%FBS中での懸濁培養を4日間行って胚様体を形成させ、N2およびB27添加物ならびに25ng/mL bFGFを添加したDMEM/F12中にてフィブロネクチンマトリックス上にプレーティングして2〜3日おくことによって調製した。続いて細胞をNCAM発現に関して陽性選別し、CNTF、bFGFおよびNT3を含む培地中で維持した。選別していない集団に比べて選別した細胞の生存性の増加は認められなかった。NCAM陽性細胞の一部はβ-チューブリンIIIも発現することが明らかとなり、このことからこれらの細胞にニューロンを生成する能力があることが示された。それらは神経細胞に特徴的な形態も示した。A2B5陽性細胞もこの集団内に存在し、これらはグリア前駆細胞と思われた。しかし、極めて少数の細胞はアストロサイトのマーカーであるGFAPに関して陽性であった。この細胞集団は培養下で増殖したが、NCAM陽性細胞の割合(およびニューロンを生成する能力)は数回の継代を経た後に減少した。
【0145】
実施例2:A2B5陽性細胞
本実験における細胞は表面マーカーA2B5に関して免疫選択した。hES細胞を20%FBS中でEBを生成するように誘導した。4日間の懸濁培養後に、EBを、10ng/mLヒトEGF、10ng/mLヒトbFGF、1ng/mLヒトIGF-1、および1ng/mLヒトPDGF-AAを添加したN2およびB27を含むDMEM/F12中にてフィブロネクチン上にプレーティングした。これらの条件下で2〜3日後に、細胞の25〜66%がA2B5を発現する。この集団は磁気ビーズ選別によって純度48〜93%に濃縮される(表4)。
【0146】
(表4) A2B5陽性細胞に対する分化および選別の条件

因子の略号:
C―毛様体神経栄養因子(CNTF)
F―塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)
N―ニューロトロフィン3(NT3)
I―インスリン様成長因子(IGF-1)
P―血小板由来成長因子(PDGF)
T―甲状腺ホルモンT3
Ra―レチノイン酸
Fk―フォルスコリン
【0147】
図2は、A2B5陽性細胞を得るための例示的な手順を示している。用いた略号は以下の通りである:MEF-CM=マウス胚線維芽細胞との培養による馴化培地;+/-SHH=ソニックヘッジホッグの存在下または非存在下;D/F12=DMEM/F12培地;N2およびB27、培養用添加物(Gibco);EPFI=成長因子EGF、PDGF、bFGFおよびIGF-1;PLL=ポリ-Lリジン基質;PLL/FN=ポリ-Lリジンおよびフィブロネクチン基質。
【0148】
図1(下図)は、選別したA2B5陽性細胞の増殖曲線を示している。細胞をポリ-l-リジンをコーティングしたプレート上で同一培地組成中にて維持した。本細胞は連続継代すると増殖する。
【0149】
実施例3:A2B5陽性細胞の成熟
フォルスコリンの添加によってA2B5陽性細胞に分化するように誘導した。これらの細胞を、表5に示した種々の継代培養によって評価した。
【0150】
(表5) 成熟神経細胞の表現型特徴

因子の略号:
C―毛様体神経栄養因子(CNTF)
F―塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)
N―ニューロトロフィン3(NT3)
I―インスリン様成長因子(IGF-1)
P―血小板由来成長因子(PDGF)
T―甲状腺ホルモンT3
Ra―レチノイン酸
Fk―フォルスコリン
【0151】
細胞をA2B5発現に関して選別したにもかかわらず、本集団はオリゴデンドロサイトおよびアストロサイトだけでなく、ニューロンも多くの割合で生成する能力を示した。これは驚くべきことである。すなわち、これまではA2B5発現細胞はグリア前駆細胞であってオリゴデンドロサイトおよびアストロサイトを生じ、一方、NCAM発現細胞はニューロン前駆細胞であって成熟ニューロンを生じると考えられていた。本実験は、pPS細胞が培養下で繰り返し増殖する細胞集団に分化することができ、ニューロンおよびグリアを生じうることを示している。
【0152】
実施例4:哺乳動物の脳内への分化細胞の移植
H1と命名された細胞系およびH7NHGと命名された遺伝的に改変された細胞系という2つのhES細胞系に由来する細胞を用いて、神経前駆細胞の移植を行った。H7NHG細胞系は、細胞に緑色蛍光タンパク質(GFP)を構成性に発現させる発現カセットを有する。
【0153】
新生SD(Sprague Dawley)ラットに対して、以下の細胞集団の1つであるインプラントを片側の線条体内に移植した:
・未分化hES細胞
・hES細胞から派生した胚様体
・NCAM発現に関して選別した神経前駆細胞(実施例1)
・A2B5発現に関して選別した神経前駆細胞(実施例2)
【0154】
対照ラットには、未分化hES細胞をその上で維持していた、照射したマウス胚線維芽細胞を含む移植片を移植した。移植後に細胞増殖が起こったか否かを明らかにするために、数匹のラットに対して、屠殺の48時間前からBrdUの腹腔内パルス注射を複数回行った。移植から14日後にラットに4%パラホルムアルデヒドによる経心臓潅流を行い、組織を免疫組織化学分析のために処理した。
【0155】
図3は、GFPを発現する細胞を投与したラットの切片の蛍光観察像を示している。すべての移植群で生存細胞が検出された。未分化細胞は無秩序な増殖を思わせる大きな細胞塊として認められ、周囲組織に壊死および空胞化の領域を伴っていた(左側の図)。H1細胞を移植したマウスにおけるAFPに対する免疫染色では、移植後に近位内胚葉へと転換した未分化hES細胞が認められた。胚様体は移植中心部に残存しており、同じく周囲を壊死領域に囲まれていた(中央の図)。これに対して、選別したNCAM陽性細胞は単細胞の外観を呈し、移植部位から遠位方向にある程度移動していた。
【0156】
実施例5:成熟ニューロンの分化
終末分化したニューロンを生じさせるために、FBS培地中にて10μMレチノイン酸(RA)の存在下または非存在下で胚様体を形成させることにより、第一段階の分化を誘導した。4日間の懸濁培養後に、胚様体を、10ng/mLヒトEGF、10ng/mLヒトbFGF、1ng/mLヒトPDGF-AA、および1ng/mLヒトIGF-1を添加した規定培地中にて、フィブロネクチンをコーティングしたプレート上にプレーティングした。胚様体はプレートに付着し、細胞がプラスチック上を移動して単層を形成した。
【0157】
3日後に、ニューロンの形態を呈する多くの細胞が観察された。神経前駆細胞はBrdU取り込みおよびネスチン染色に関して陽性であって、系譜特異的分化マーカーが存在しない細胞として同定された。ニューロン前駆細胞およびグリア前駆細胞と推定されるものは、ポリシアル酸付加型NCAMおよびA2B5に関して陽性として同定された。フローサイトメトリーによる評価で、細胞の41〜60%はNCAMを発現し、20〜66%はA2B5を発現した。NCAM陽性細胞のある亜集団はβ-チューブリンIIIおよびMAP-2を発現することが見いだされた。GFAPまたはGalCなどのグリアマーカーとの共存はみられなかった。A2B5陽性細胞はニューロンおよびグリアの両方を生成するように思われた。A2B5細胞のある亜集団はβ-チューブリンIIIまたはMAP-2を発現し、別の亜集団はGFAPを発現した。ニューロンの形態を示す細胞のいくつかはA2B5およびNCAMの両方に関して二重染色された。NCAM陽性集団およびA2B5陽性集団はいずれもニューロンをグリアよりもはるかに多く含んでいた。
【0158】
分裂促進因子は全く含まず、10ng/mLニューロトロフィン-3(NT-3)および10ng/mL脳由来神経栄養因子(BDNF)を含む培地中に細胞を再プレーティングすることにより、細胞集団をさらに分化させた。約7日後に長い突起を伴うニューロンが認められた。レチノイン酸(RA)の存在下で維持した胚様体から派生した培養物におけるMAP-2陽性細胞の比率(約26%)は、RAの非存在下で維持したもの(約5%)よりも高かった。GFAP陽性細胞はパッチ状として認められた。GalC陽性細胞が同定されたが、細胞は複雑な突起を持たず、大きく平坦であった。
【0159】
細胞種および分化の種々の段階で発現されたマーカーの概要を表6に示す。
【0160】
(表6) 表現型マーカー(免疫細胞化学)

【0161】
神経伝達物質の存在についても評価した。β-チューブリンIIIまたはMAP2を共発現し、神経細胞に特徴的な形態を有するGABA免疫反応性細胞が同定された。ニューロンのマーカーを共発現せず、アストロサイト様の形態を示すGABA陽性細胞も時折同定された。チロシンヒドロキシラーゼ(TH)およびMAP-2の両方を発現する神経細胞が同定された。シナプトフィジン抗体を用いた染色により、シナプス形成が確認された。
【0162】
図4は、ヒトES細胞のH9株から分化した培養物におけるTH染色を示している。胚様体を10μMレチノイン酸の存在下で4日間維持した後に、フィブロネクチンをコーティングしたプレートにプレーティングし、EGF、塩基性FGF、PDGFおよびIGFの存在下で3日間おいた。次にそれらを10ng/mL NT-3および10ng/mL BDNFを添加したN2培地中にてラミニン上に継代し、さらに14日間分化させた。分化細胞を2%ホルムアルデヒドにより室温で20分間固定した後に、ドーパミン作動性細胞のマーカーであるTHに対する抗体を用いて現像した。
【0163】
実施例6:カルシウムの画像化
hES細胞に由来するニューロン機能的特性を調べるためにカルシウム流の標準的なfura-2画像化を用いた。検討した神経伝達物質には、GABA、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、カリウム上昇(5mM Kの代わりに50mM K)、アスコルビン酸(対照)、ドーパミン、アセチルコリン(ACh)およびノルエピネフリンが含まれる。溶液には、ラットリンゲル(RR)溶液:140mM NaCl、3mM KCl、1mM MgCl2、2mM CaCl2、10mM HEPES緩衝液、および10mMグルコース中に0.5mMの神経伝達物質(ATPの10μMを除く)を含めた。外部溶液はNaOHを用いて、pH 7.4に設定した。記録チェンバー内で細胞に1.2〜1.8mL/分の潅流を行い、水浴の入口部の約0.2mL上流に位置する約0.2mLループ式注入器を用いたバスアプリケーション(bath application)によって溶液を適用した。カルシウムの一過性上昇は、適用から60秒以内にカルシウムレベルが基礎値を10%以上上回り、1〜2分以内に基礎値に戻った場合に反応とみなした。
【0164】
図5は、ニューロンに限定された前駆細胞の種々の神経伝達物質に対する反応を示している。図面Aは、2つの異なるカバーグラス上の単細胞からの放出データの比を示している。神経伝達物質の添加は三角印によって上に表示している。
【0165】
図面Bは、個々の神経伝達物質に反応した被験細胞の頻度を示している。図面Cは、観察された神経伝達物質応答の組み合わせを示している。検討した53個の細胞のうち26個はGABA、アセチルコリン、ATP、およびカリウム上昇に反応した。アゴニストの他の組み合わせに反応した集団のサブセットはこれよりも小規模であった。適用したアゴニストのいずれにも反応しなかった細胞は2個のみであった。
【0166】
実施例7:電気生理学
hES細胞由来のニューロンに対して標準的な全細胞パッチクランプ法を行い、電圧固定モードで生じたイオン電流、および電流固定モードで生じた活動電位を記録した。外部水浴の溶液はラットリンゲル溶液とした(実施例6)。内部溶液は75mMアスパラギン酸カリウム、50mM KF、15mM NaCl、11mM EGTA、および10mM HEPES緩衝液とし、KOHを用いてpH 7.2に調整した。
【0167】
検討した6個の細胞はすべてナトリウム電流およびカリウム電流を呈し、活動電位を示した。受動的膜特性を-70〜-80mVの電圧段階を用いて決定し、以下のデータを得た:平均キャパシタンス(C)8.97±1.17pF;膜抵抗(R)=487.8±42.0MΩ;アクセス抵抗(R)23.4±3.62MΩ。イオン電流は細胞を-100mVに保持し、試験電圧を10mV刻みで-80〜80mVの範囲で加えることによって決定し、以下のデータを得た:平均ナトリウム電流INa=-531.8±136.4pA;平均カリウム電流IK=441.7±113.1pA;INa(密度)=-57.7±7.78pA/pF;IK(密度)=48.2±10.4pA/pF。
【0168】
図6は、典型的な実験の結果を示している。図面Aは、-100mVの保持電位から-80〜80mVの範囲の試験電位に脱分極させた2つの細胞において観察されたナトリウム電流およびカリウム電流を示している。図面Bは、観察された内向き(Na)および外向き(K)のピーク電流と電圧の関係を示している。ナトリウム電流は-30〜0mVの範囲で活性化され、-10mVまたは0mVでピークに達した。カリウム電流は-10mVを超えたところで活性化され、20〜40mVの電圧では大きさがナトリウム電流以上となった。図面Cは、脱分極刺激に応答して同一細胞によって生じた活動電位を示している。細胞膜は-80pAまたは-150pAの電流で-60〜-100mVの電圧に保持され、短時間にわたり脱分極した。
【0169】
実施例8:神経前駆細胞に由来するドーパミン作動性細胞
胚様体を10μMレチノイン酸の存在下で4日間懸濁培養した後に、EGF、bFGF、PDGFおよびIGF-1を添加した規定培地中にプレーティングして3〜4日間おいた。続いて細胞を磁気ビーズ選別またはイムノパンニングにより、A2B5陽性またはNCAM陽性が集積した集団に分離した。
【0170】
免疫選択した細胞を、10ng/mL NT-3および10ng/mL BDNFを添加した規定培地中で維持した。14日後に、NCAMに関して選別された細胞の25±4%はMAP-2陽性であった。このうち1.9±0.8%はGABA陽性であり、3±1%は、ドーパミン合成の律速酵素で一般にドーパミン合成細胞を代表するとみなされているチロシンヒドロキシラーゼ(TH)に関して陽性であった。
【0171】
NCAMに関して選別された細胞集団において、NCAM +veであった細胞はGFAPまたはGalCなどのグリアマーカーを発現しなかった。これらのデータは、本質的にグリア前駆細胞の混入を伴わない、ニューロンに限定された前駆細胞を含む集団を、hES細胞培養物から直接単離しうることを示している。
【0172】
これに対して、A2B5に関して選別された細胞には、ニューロンおよびアストロサイトの両方を生成する能力があった。集積化を行った後に、細胞をNT-3およびBDNFを添加した規定培地中に入れ、14日間にわたり分化させた。プレーティングから最初の1〜2日以内にA2B5集積化集団内の細胞は突起を伸ばし始めた。2週後に細胞は成熟ニューロンの形態を呈し、細胞の32±3%はMAP-2陽性であった。重要なことに、MAP-2細胞の3±1%はTH陽性であり、一方、0.6±0.3%はGABA免疫反応性であった。これらのデータは、アストロサイトおよびニューロン(ドーパミンを合成するものを含む)の両方に対する前駆細胞を含む細胞集団を、hES細胞から入手しうることを示している。
【0173】
TH発現ニューロンを得るための条件に関するさらに詳細な検討を、以下の通りに行った。集密化したH7系のhES細胞から、32回目の継代の時点で1mg/mLコラゲナーゼ(37℃、5〜20分間)中にてインキュベートし、培養皿から剥離させた上で細胞を非接着性培養プレート(Costar(登録商標))に入れることにより、胚様体を形成させた。この結果得られたEBを、FBSおよび10μM全トランスレチノイン酸を含む培地中で懸濁培養した。4日後に凝集物を収集し、遠心管内で沈降させた。続いて上清を吸引し、凝集物を、増殖培地(DMEM/F12 1:1、N2、1/2の強度のB27、10ng/mL EGF(R & D Systems)、10ng/mL bFGF(Gibco)、1ng/mL PDGF-AAA(R & D Systems)および1ng/mL IGF-1(R & D Systems)を添加)中にて、ポリL-リジンおよびフィブロネクチンをコーティングしたプレート上にプレーティングした。
【0174】
EBを付着させて3日間増殖させた後、トリプシン処理(Sigma)を約1分間行うことによって収集し、増殖培地中にて、1.5×10個/ウェルの密度で、ポリ-リジンおよびラミニンをコーティングした4穴チェンバースライド上にプレーティングして1日間おいた。次に培地を、B27および以下の成長因子混号物の1つを添加した神経基本培地に交換した:
・10ng/mL bFGF(Gibco)、10ng/mL BDNF、および10ng/mL NT-3
・10ng/mL bFGF、5000ng/mLソニックヘッジホッグ、および100ng/mL FGF8b
・10ng/mL bFGFのみ
【0175】
1日おきに栄養分を補給しながら、細胞をこれらの条件下で6日間維持した。第7日の時点で、培地を、B27および以下の混号物の1つを添加した神経基本培地に交換した:
・10ng/mL BDNF、10ng/mL NT-3
・1μM cAMP、200μMアスコルビン酸
・1μM cAMP、200μMアスコルビン酸、10ng/mL BDNF、10ng/mL NT-3
【0176】
培養物に1日おきに栄養分を補給し、第12日になった時点で免疫細胞化学分析のために抗THまたは抗MAP-2で標識した。40倍対物レンズを用いて、3つのウェルの各々における4つの視野を算定することにより、マーカーの発現を定量化した。
【0177】
その結果を表7に示す。bFGF、BDNF、およびNT-3の存在下における初期培養により、最も高い割合でTH陽性細胞が得られた。
(表7) ドーパミン作動性ニューロンの生成のための条件

因子の略号:
F―塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)
F―FGF8
N―ニューロトロフィン3(NT3)
B―脳由来神経栄養因子(BDNF)
S―ソニックヘッジホッグ
CA―cAMP
AA―アスコルビン酸
【0178】
本開示で説明した本発明に対するある種の適合化は、当業者にとって日常的な最適化に属する事項であり、発明の精神、または特許請求の範囲を逸脱することなく、実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ培養物において増殖し、霊長類多能性幹(pPS)細胞を分化させる段階によって得られる細胞集団であって、集団内の細胞の少なくとも約30%が、神経細胞、グリア細胞、またはその両方を生成するように分化能が決定されている細胞集団。
【請求項2】
インビトロ培養物において増殖し、霊長類多能性幹(pPS)細胞を分化させる段階によって得られる細胞集団であって、細胞の少なくとも10%が神経細胞に分化可能であって、細胞の少なくとも10%がグリア細胞に分化可能である、神経前駆細胞を少なくとも約60%含む細胞集団。
【請求項3】
インビトロ培養物において増殖し、霊長類多能性幹(pPS)細胞を分化させる段階によって得られる細胞集団であって、細胞の少なくとも10%がA2B5を発現し、細胞の少なくとも10%がNCAMを発現する、神経前駆細胞を少なくとも約60%含む細胞集団。
【請求項4】
pPS細胞がヒト胚性幹(hES)細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
EGF、bFGF、PDGF、IGF-1、およびこれらのリガンドの受容体に対する抗体からなる群より選択される、成長因子受容体と結合する少なくとも2つのリガンドを含む培地中でpPS細胞を分化させる段階によって得られる、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項6】
成長因子を含む培地中でpPS細胞を分化させ、NCAMまたはA2B5の発現に関して分化細胞を選別した後に、選別した細胞を収集する段階によって得られる、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
細胞の少なくとも30%が成熟ニューロンの形態的特徴を有し、かつNCAM陽性である細胞集団を生じるように誘導することができる、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
成熟ニューロンの形態的特徴を有する細胞が以下の特徴のうち少なくとも3つを有する、請求項7記載の細胞集団:
a)アセチルコリンを投与すると、細胞の少なくとも60%がカルシウム流(calcium flux)を示す;
b)GABAを投与すると、細胞の少なくとも60%がカルシウム流を示す;
c)ノルエピネフリンを投与すると、細胞の少なくとも10%がカルシウム流を示す;
d)外部カリウム濃度を50mMにすると、細胞の少なくとも60%がカルシウム流を示す;または
e)全細胞パッチクランプ装置にて刺激を与えると、細胞の少なくとも25%が活動電位を示す。
【請求項9】
細胞の少なくとも1%がチロシンヒドロキシラーゼに対して陽性染色される細胞集団を生じるように誘導することができる、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項10】
確立されたヒト胚性幹(hES)細胞株と同一のゲノムを有する神経前駆細胞および/または成熟ニューロンを少なくとも約60%含む細胞集団。
【請求項11】
神経前駆細胞および/または成熟ニューロンが、NCAM、A2B5、MAP-2、またはネスチンを発現する、請求項10記載の細胞集団。
【請求項12】
前記請求項のいずれか一項に記載の細胞集団をさらに分化させる段階によって得られる、成熟ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、またはそれらの任意の組み合わせを含む細胞集団。
【請求項13】
ニューロンの形態的特徴を有し、かつNCAM陽性である細胞の亜集団(subpopulation)を少なくとも30%含み、亜集団が以下の特性を有する、請求項12記載の細胞集団:
a)アセチルコリンを投与すると、少なくとも60%がカルシウム流を示す;
b)GABAを投与すると、少なくとも60%がカルシウム流を示す;
c)ノルエピネフリンを投与すると、少なくとも10%がカルシウム流を示す;
d)外部カリウム濃度を50mMにすると、少なくとも60%がカルシウム流を示す;または
e)全細胞パッチクランプ装置にて刺激を与えると、少なくとも25%が活動電位を示す。
【請求項14】
細胞の少なくとも1%がチロシンヒドロキシラーゼに対して陽性染色される、請求項12または13記載の細胞集団。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の細胞集団を、cAMP活性化物質、神経栄養因子、またはそれらの組み合わせを含む培地中で培養する段階によって得られる、請求項12〜14のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の細胞集団を提供し、神経前駆細胞の特徴を有する細胞をそれから選択する段階によって得られる、単離された神経前駆細胞。
【請求項17】
請求項10〜15のいずれか一項に記載の細胞集団を提供し、それぞれニューロン、アストロサイト、またはオリゴデンドロサイトの特徴を有する細胞をそれから選択する段階によって得られる、単離された成熟ニューロン、アストロサイトまたはオリゴデンドロサイト。
【請求項18】
ドーパミン作動性ニューロンである、請求項17記載の単離された成熟ニューロン。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の細胞を、cAMP活性化物質、神経栄養因子(神経成長因子、ニューロトロフィン3、もしくは脳由来神経栄養因子など)、またはそれらの組み合わせを含む培地中で培養する段階によって得られる、請求項18記載の単離された成熟ニューロン。
【請求項20】
テロメラーゼ逆転写酵素を発現するように遺伝的に改変された、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞または細胞集団。
【請求項21】
ヒト胚性幹細胞を分化させる段階を含む、チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞を少なくとも1%含む細胞集団を生じうる神経前駆細胞を入手する方法。
【請求項22】
分化段階が、EGF、bFGF、PDGF、IGF-1、およびこれらのリガンドの受容体に対する抗体からなる群より選択される、成長因子受容体と結合する少なくとも2つのリガンドを含む培地中で培養する段階を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ヒト胚性幹細胞を分化させる段階を含む、チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞を少なくとも1%含む細胞集団を入手する方法。
【請求項24】
請求項19記載の神経前駆細胞を入手する段階、およびそれによって入手した細胞をcAMP活性化物質、神経栄養因子(神経成長因子、ニューロトロフィン3、もしくは脳由来神経栄養因子など)、またはそれらの組み合わせを含む培地中で培養する段階を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
以下の段階を含む、化合物の神経細胞毒性または神経細胞の修飾に関するスクリーニングの方法:
化合物および請求項1〜20のいずれか一項に記載の細胞集団または単離された細胞を含む培養物を調製する段階;
化合物との接触によって生じた細胞における表現型または代謝の変化を評価する段階;ならびに
該変化を神経細胞毒性または神経細胞の修飾と相関づける段階。
【請求項26】
以下の段階を含む、神経前駆細胞においてより高度に発現されるmRNA中に含まれるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを入手する方法:
a)請求項1〜15のいずれか一項に記載の細胞集団内の1つまたは複数の細胞における複数のmRNAの発現レベルを、より成熟した神経細胞における同一のmRNAの発現レベルと比較して決定する段階;
b)細胞集団からの細胞においてより高いレベルで発現されるmRNAを、より成熟した細胞におけるものと比べて同定する段階;および
c)段階b)において選択されたmRNA中に含まれる少なくとも30個の連続したヌクレオチドであるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを調製する段階。
【請求項27】
手術または治療法によるヒトまたは動物の治療のための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の細胞集団または単離された細胞を含む医薬品。
【請求項28】
個体における中枢神経系(CNS)機能の再構成または補助のための医薬品の調製における、請求項1〜20のいずれか一項に記載の細胞集団または単離された細胞の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63080(P2013−63080A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−260896(P2012−260896)
【出願日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【分割の表示】特願2001−585312(P2001−585312)の分割
【原出願日】平成13年5月16日(2001.5.16)
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【Fターム(参考)】