説明

神経変性疾患に対する診断上及び治療上の標的PRKXタンパク質

本発明は、アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病を進展させるリスクのある個体におけるPRKX遺伝子の調節不全及びそのタンパク質産物を開示する。この知見に基づき、本発明は、被験体のアルツハイマー病を診断及び予後判定するための方法、及び被験体がアルツハイマー病を進展させるリスクが増加しているかを決定するための方法を提供する。さらに、本発明は、アルツハイマー病及び関連する神経変性障害を治療及び予防するための、治療及び予防する方法であって、PRKX遺伝子及びその対応する遺伝子産物を用いる方法を提供する。神経変性疾患の調節剤のスクリーニング法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に対する神経変性疾患の進行を診断し、予後判定し、そしてモニタリングする方法に関する。更に、神経変性疾患の治療制御及び調整剤のスクリーニングの方法が提供される。本発明はまた、医薬組成物、キット及び動物モデルを開示する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生命を強く衰弱させる影響を有する。更に、これらの疾患は、多大な健康的重荷、社会的重荷及び経済的重荷を生じさせる。ADは、全痴呆症患者の約70%を占める最も一般的な神経変性疾患であり、65歳を超える人口の約10%に、85歳を超える人口の最大45%に影響を及ぼすという、恐らく最も破滅的な年齢相関性ある神経変性状態である(非特許文献1;非特許文献2)。現在、その症例数は、アメリカ、ヨーロッパ及び日本で1200万人に達すると見積もられる。この状況は、先進国での老年人口の人口統計上の増加に伴い、必然的に悪化するだろう。ADにおける、個々の脳内で生ずる神経病理学的特徴は、老人斑(これは、β−アミロイドからなる)及び甚大な細胞骨格変化(これらは、異常なフィラメント構造の出現及び神経原線維変化の形成と同時に生じる)である。
【0003】
β‐アミロイドタンパク質は、種々のプロテアーゼによる、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の切断により発達する(非特許文献3;非特許文献4)。2つの型の斑、ビ慢性老人斑及び老人斑(neuritic plaque)は、AD患者の脳内から検出され得る。これらは、主に大脳皮質及び海馬から検出される。脳内における毒性のあるAβの沈着の発生は、ADの進行過程の非常に初期から始まり、そしてこれが、AD病理を導く後の有害な過程の主要プレーヤーであると考察されている。ADの他の病理学的特徴は、神経原線維変化(NFT)及び神経絨毛糸と記載されている(非特許文献5)異常な神経突起(neurite)である。NFTは、ニューロン内に現れ、そして化学的に変更されたタウからなり、これは互いにねじれた対状螺旋状フィラメント(paired helical filaments)(PHF)を形成している。ADの特色として、対状螺旋状フィラメント内で凝集したタウタンパク質と結合した微小管は、特定のアミノ酸の部位(特にセリン214が挙げられる)に異常なリン酸化を示す。タウリン酸化のパターンは、ニューロンの完全性の欠如と相関すると考えられ、そしてNFTの形成に沿ってニューロンの喪失が観察され得る(非特許文献6;非特許文献7)。神経原線維変化の出現及びその数の増加は、ADの臨床的重症度と十分に相関する(非特許文献8)。ADは、記憶形成の初期の欠陥と相関し、最終的には、より高度な認知機能の完全な侵食につながる進行性疾患である。この認知障害としては、とりわけ、記憶障害(memory impairment)、失語症、認知不能及び高次機能の欠損が挙げられる。AD病因特有の特徴は、特定の脳領域及び神経細胞亜集団が変性過程に選択的に傷つきやすくなることである。特に、下側頭葉領域及び海馬が、早期に、そして疾患の進行の間、より激しく、影響を受ける。一方、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは、大部分が無傷のままであり、神経変性から保護されている(非特許文献9)。
【0004】
現在、ADに対する療法も、有効にADの進行を止めるための治療も存在せず、死前にADを高確率で診断するための治療さえも存在しない。個体をADに進展させるいくつかの危険因子が特定されており、その中でも、3つの特異に存在するアポリポタンパク質E遺伝子(ApoE)の対立遺伝子(イプシロン2,3,4)の内、イプシロン4対立遺伝子が最も顕著に個体をADに進展させる(非特許文献10;非特許文献11)。21番染色体におけるアミロイド前駆体タンパク質(APP)、14番染色体におけるプレセニリン−1、及び1番染色体におけるプレセニリン−2に対する遺伝子における遺伝的欠損に起因するようなAD早期発症例はまれに存在するが、遅発性弧発性ADの典型的形態は、これまでのところ、病因学的起源が不明となっている。神経変性障害の遅発性かつ複雑な病因のために、治療剤及び診断剤の開発は、非常な難問となっている。薬物標的及び診断マーカーとなり得るものの数の拡大が重要である。
【非特許文献1】Vickers et al.,Progress in Neurobiology 2000,60:139−165
【非特許文献2】Walsh及びSelkoe,Neuron 2004,44:181−193
【非特許文献3】Selkoe及びKopan,Annu Rev Neurosci 2003,26:565−597
【非特許文献4】Ling et al.,Int J Biochem Cell Biol 2003,35:1505−1535
【非特許文献5】Braak及びBraak,J Neural Transm 1998,53,:127−140
【非特許文献6】Johnson及びJenkins,J Alzheimers Dis 1996,1:38−58
【非特許文献7】Johnson及びHartigan,J Alzheimers Dis 1999,1:329−351
【非特許文献8】Schmitt et al.,Neurology 2000,55:370−376
【非特許文献9】Terry et al.,Annals of Neurology 1981,10:184−92
【非特許文献10】Strittmatter et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1993,90:1977−81
【非特許文献11】Roses,Ann NY Acad Sci 1988,855:738−43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それ故、神経系疾患の病因に洞察を提供すること、とりわけ、これら疾患に対する診断及び治療の開発に適した方法、物質、薬剤、化合物及び動物モデルを提供することが本発明の目的である。この目的は、独立クレームの特徴により解決されている。サブクレームは、本発明の好ましい実施形態を明示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、PRKXが、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連するとの知見に基づく。腎上皮形態形成におけるシグナル伝達を解明することが企図された研究において同定されたPRKX遺伝子は、c−AMP依存性セリン/スレオニンキナーゼをコードする。器官形成の間、胎児の腎中において転写が活性化されるという理由から、この遺伝子は、興味深い調節遺伝子の候補の一つとして見出された。X染色体のXp22.3に位置するPRKX遺伝子(Klink et al.,Hum.Mol.Genet.1995,4:869−878;Schiebel et al.,Hum.Mol.Genet.1997,6:1985−1989)は、Y染色体上にホモログ(PRKY)を有する。PRKX及びPRKYの両遺伝子は、cAMP依存性セリンスレオニンタンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーのメンバーを代表する。前例のない高い配列同一性(cDNAレベルで95%)、及びPRKXの配向性が、Y染色体上のホモログ、PRKY配向性と同一であることにより、X染色体及びY染色体における特異的領域間の異常な対形成及びこれに続く異所性の組換えの頻度が高いことが説明される。この事実のために、PRKYは、本明細書中でPRKXファミリーのメンバーとみなされ得る。
【0007】
以前の研究では、タンパク質キナーゼX(PRKX)リン酸化酵素とタンパク質キナーゼA(PKA)リン酸化酵素との機能的な違いが立証され(Zimmermann et al.,J.Biol.Chem.1999,274:5370−5378)、PRKXと顆粒球/マクロファージ系の分化とが関連づけられ(Semizarov et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95 1998,15412−15417)、PRKXが重要な発達機能を有し得ることが示唆された。PRKXは、脊髄性細胞の成熟及び尿管芽の発達に関与し、常染色体の多嚢性腎疾患優性遺伝子において上方調節される。PRKXとの遺伝子組換えにより、スワイヤー症候群が生じる。PRKXの過剰発現により、cAMP存在下における培養腎上皮細胞の遊走が活性化される(Li et al.,PNAS 2002,99:9260−9265)。PRKXは、最も近似したPRKXファミリーのヒトホモログであるcAMP依存性タンパク質キナーゼA、触媒サブユニット、アイソフォームα及びβに対して、タンパク質レベルで50%の同一性を有する。PRKXの触媒領域は、哺乳類のPKA遺伝子に比べ、タマホコリカビ、及びショウジョウバエのキナーゼ遺伝子KAPC−DICDI、及びDC2に対し、より大きなアミノ酸相同性を共有する(Mann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1992,89:10701−10705;Anjard et al.,Biochemistry 1993,32:9532−9538;Melendez et al.,Genetics 1995,141:1507−1520;Kalderon et al.,Genes Dev.1988,2:1539−1556)という理由から、PRKX及びKAPC−DICDIは、PKA遺伝子には保存されていない独自の機能を共有し得ると言える。KAPC−DICDIは、キイロタマホコリカビの発達に、特に形態形成の細胞遊走において、細胞分化の転写制御においてと同様(Primpke et al.,Dev.Biol.2000,221:101−111;Aubry et al.,Annu.Rev.Cell Dev.Biol.1999,15:469−517)、重要な役割を果たす(Mann et al.,Dev.Biol.1997,183:208−221;Harwood et al.,Dev.Biol.1992,149:90−99)。このことは、PRKXもまた、造血系において細胞分化を制御するというその提唱された役割に加え、高等真核生物の形態形成を制御し得ることを示唆する。系統発生学的分析により、PRKX、KAPC−DICDI、DC2、豚回虫(ascaris suum)KAPC ASCU、及び線虫(Caenorhabditis elegans)kin−1/CAB41352キナーゼが、PKA、PKB、PKC、SGK、又はPKGキナーゼ遺伝子ファミリーとは異なる古代遺伝子(ancient gene)ファミリーを構成することが示された。PKAキナーゼの発現ではなく、PRKXキナーゼの発現が、細胞の形態形成を強く活性化し、細胞遊走の促進と関連して試験管内において上皮の管状構造の形成を促進することが見出された。それ故、PRKXキナーゼは、腎が発達する間、管形成を制御し得、PRKX遺伝子ファミリーは、多細胞性真核生物の細胞の形態形成において重要な役割を果たし得る。PRKXと神経変性疾患、特にアルツハイマー病との関係は、今までのところ明らかにされていない。
【0008】
単数形態「一の(a)」「一の(an)」及び「この(the)」は、本明細書中及び特許請求の範囲の中で用いられる場合、文脈に特段の指図なき限り、複数の言及を包含する。例えば、「一の細胞(a cell)」も、複数の細胞を意味する等である。
【0009】
本明細書と請求項中で用いられる「及び/又は」という用語は、この用語の前後の言葉は、二者択一のもの又は組み合わせるもののいずれか一方としてみなされることを意味する。例えば、「レベル及び/又は活性の確定」は、レベルのみ、活性のみ、或いは、レベルと活性の両方が確定されることを意味する。
【0010】
「レベル」という用語は、本明細書中で用いられる場合、物質(例えば、転写産物(例えばmRNA)又は翻訳産物(例えば、タンパク質若しくはポリペプチド))の、量又は濃度の基準(gage)又は基準(measure)を含むことを意味する。
【0011】
「活性」という用語は、本明細書中で用いられる場合、物質(例えば、転写産物及び翻訳産物)が生物学的効果を及ぼすことのできる能力の測定、又は生物学的に活性化した分子のレベルの測定として理解されるものとする。「活性」という用語は、キナーゼ又はキナーゼサブユニットの結合、拮抗、抑制、阻害、中和、又は分離に関連した、及びキナーゼ又はキナーゼサブユニットの活性化、作動、上方調節に関連した、生物学的及び/又は薬理学的活性にもまた相当する。
【0012】
本明細書中で用いられる場合、用語「レベル」及び/又は「活性」とは、さらに、遺伝子発現レベル又は遺伝子活性をいう。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生を導く転写及び翻訳による、遺伝子中に含まれる情報の利用として定義され得る。
【0013】
「異常調節」は、遺伝子発現の上方調節若しくは下方調節、及び/又は遺伝子産物の安定性の増減を意味する。遺伝子産物は、RNA又はタンパク質のいずれかを含み、そして遺伝子発現の結果物である。遺伝子産物の量は、ある遺伝子がどれだけ活性であるか、及びその遺伝子産物がどれだけ安定なのかを測定するのに用いられ得る。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲の中で用いられる場合、用語「遺伝子」は、コード領域(エキソン)並びに非コード領域(例えば、プロモーター又はエンハンサー、イントロン、リーダー配列、及びトレーラー配列(trailer sequence)といった、コードされない調節エレメント)の両方を包含する。
【0015】
用語「ORF」は、「オープン・リーディング・フレーム」の頭字語であり、そして、ORFとは、少なくとも一つのリーディング・フレーム中にストップコドンを有しておらず、それゆえ潜在的にアミノ酸配列に翻訳され得る核酸配列をいう。
【0016】
「調節エレメント」とは、誘導性型プロモーター及び誘導不能型プロモーター、エンハンサー、オペレーター、並びに遺伝子発現を促進及び調節するその他のエレメントをいう。
【0017】
用語「断片」は、本明細書中で用いられる場合、例えば、選択的スプライシングされた転写産物若しくは翻訳産物、又は短縮された(truncated)転写産物若しくは翻訳産物、又は他の方法で切断された転写産物又は翻訳産物を包含することが意図される。
【0018】
用語「誘導体」は、本明細書中で用いられる場合、変異体、又はRNA編集された転写産物、若しくは化学的に改変された転写産物、若しくは他の方法で変更された転写産物をいうか、或いは、変異体、若しくは化学的に改変された翻訳産物、若しくは他の方法で変更された翻訳産物をいう。目的を明確にするために、転写物誘導体とは、例えば、核酸配列中に変更(例えば、単数若しくは複数のヌクレオチドの、欠失、挿入若しくは交換)を有する転写物をいう。例えば、誘導翻訳産物は、リン酸化の変更、又はグリコシル化の変更、又はアセチル化の変更、又は脂質化(lipidation)の変更等の過程によって、或いは、変性シグナルペプチド切断、又は他のタイプの成熟切断によって生成される可能性がある。これらの過程は、翻訳後に生じ得る。
【0019】
用語「モジュレーター」とは、本発明及び特許請求の範囲の中で用いられる場合、遺伝子又は遺伝子の転写産物又は遺伝子の翻訳産物の、レベル及び/又は活性を、変化又は変更させることのできる分子をいう。「モジュレーター」とは、タンパク質の機能的特性を、増強若しくは阻害し、従ってこれを「調節する」能力を有し、結合、競合、抑制、阻害、中和、分離、活性化、作動、及び上方調節を「調節」する能力を有する分子をいう。「調節」はまた、細胞の生物学的活性に影響を及ぼす能力をいうために用いられる。好ましくは、「モジュレーター」は、遺伝子の転写産物又は翻訳産物の生物学的活性を、変化又は変更させたりすることができる能力を有する。例えば、前述の調節は、生物学的活性及び/又は薬理学的活性の増減、結合特性における変化、或いは前述の遺伝子の翻訳産物の生物学的、機能的、又は免疫学的な特性の任意の他の変化又は変更であり得る。
【0020】
用語「薬剤」、「試薬」又は「化合物」は、細胞、組織、体液に対して、又は任意の生物学的システム若しくは試験される任意のアッセイ系の内で、陽性又は陰性の生物学的作用を有する任意の物質、化学薬品、組成物、又は抽出物をいう。これらは、標的の、アゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニスト又は逆アゴニストであり得る。このような薬剤、試薬又は化合物は、核酸、天然若しくは合成のペプチド若しくはタンパク質複合体、融合タンパク質であり得る。これらはまた、抗体、有機分子若しくは無機(anorganic)分子、又は組成物、低分子、薬物及び前述の薬剤の任意のものの組み合わせであり得る。これらは、試験の目的で、診断の目的で、又は治療の目的で使用され得る。
【0021】
用語「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「プライマー」とは、所定の標的ヌクレオチドに対し、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによりアニールし得、かつ、ポリメラーゼにより延長され得る、短い核酸配列をいう。これらは、特定の配列に対し特異的に選択され得るか、ランダムに選択され得る。例えば、これらは混合した状態において、可能性のある全配列をプライムする。本明細書中で使用されるプライマーの長さは、10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動し得る。「プローブ」は、本明細書中に記載及び開示された核酸配列のうち、短い核酸配列又はこれに相補的な配列である。これらは、全長配列、又は所定の配列の断片、誘導体、アイソフォーム若しくは改変体を包含する。プローブとアッセイ検体との間におけるハイブリダイゼーション複合体の同定により、その検体の中の他の類似配列の存在の検出が可能になる。
【0022】
本明細書中で用いられる場合、「ホモログ又はホモロジー」は、当該分野において、ヌクレオチド又はペプチド配列と別のヌクレオチド又はペプチド配列との近似性(これは、該比較の配列間の同一性及び/又は類似性の程度により決定される)を記載するために使用される用語である。
【0023】
当該分野において、用語「同一性」及び「類似性」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列近似性の程度(これは、クエリー配列と他の好ましくは同一の型の配列(核酸若しくはタンパク質配列)とのマッチングにより決定される)を意味する。「同一性」及び「類似性」を計算及び決定する好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.1990,215:403−410;Altschul et al.,Nucleic Acids Res.1997,25:3389−3402;Devereux et al.,Nucleic Acid Res.1984,12:387)、並びにBLASTN 2.0(Gish W.,http://blast.wustl.edu,1996−2002)、並びにFASTA(Pearson及びLipman,Proc. Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444−2448)、並びに最も長く重複した一対のコンティグを決定及びアライメントするGCG GelMerge(Wibur及びLipman,SIAM J.Appl.Math.1984,44:557−567;Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.1970,48:443−453)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
用語「改変体」とは、本明細書中で用いられる場合、本発明において開示されるポリペプチド及びタンパク質に関して、一以上のアミノ酸が、N末端及び/C末端で、及び/又は本発明のネイティブなポリペプチド又はタンパク質のネイティブなアミノ酸配列内で、付加及び/又は置換及び/又は削除及び/又は挿入されているが、本質的な特性を保持している、任意のポリペプチド又はタンパク質をいう。更に、用語「改変体」は、本明細書中で用いられる場合、本発明において開示される遺伝子転写物に関して、一以上のヌクレオチドが、付加及び/又は置換及び/又は削除された、任意のmRNAをいう。
【0025】
更に、用語「改変体」は、ポリペプチド又はタンパク質のうち、より短い又はより長い別形を包含する。「改変体」はまた、PRKXタンパク質の少なくとも200アミノ酸(配列番号1)の長さに亘って、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、そして最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列を包含する。「改変体」としては、例えば、配列番号1を有するPRKXタンパク質の改変体が挙げられる(これは、配列番号2を有するPRKYタンパク質(UniProt取得番号(primary accession number)O43930)である。改変体はまた、高度に保存された領域中において、保存されたアミノ酸が置換されたタンパク質を包含する。本発明においては、断片がPKAサブユニットと等しいPKAタンパク質(プロテインキナーゼK)の断片、誘導体又は改変体を用いないことは、有利であり得る。
【0026】
更に、用語「改変体」はまた、遺伝子転写物のうち、より短い又はより長い別形を包含する。「改変体」は、PRKX遺伝子転写物の少なくとも600ヌクレオチドの長さに亘って、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、そして最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列(配列番号3)を包含する。配列改変体には、一のコドンが選択的塩基配列のために他のコドンと置き換えられているが、DNA配列によって翻訳されたアミノ酸配列が変化しないまま残っているものが包含される。当該分野において公知のこの現象は、特定のアミノ酸を翻訳する一連のコドンの重複性と呼ばれる。
【0027】
本発明における「タンパク質及びポリペプチド」は、PRKXタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を含むタンパク質の改変体、断片及び化学的誘導体を包含する。機能性において影響を有しないであろうこのようなアミノ酸の交換(例えば、リシンに対するアルギニン、ロイシンに対するバリン、グルタミンに対するアスパラギン)も包含される。自然から単離され得るか、又は組換え及び/若しくは合成手段により生み出され得る、タンパク質及びポリペプチドが包含され得る。ネイティブタンパク質又はポリペプチドとは、天然に存在する短縮又は分泌された形態、天然に存在する改変体形態(例えば、スプライス改変体)及び天然に存在する対立遺伝子改変体をいう。用語「単離された」は、本明細書中で用いられる場合、天然の環境から変化させられた及び/又は取り除かれた(すなわち、これらが通常生ずる細胞又は生物(living organism)より単離された)並びに天然には結合していると見出される共存因子(coexisting component)より分離又は本質的に精製された分子又は物質をいうものとみなされる。この概念は、さらに、このような分子をコード化する配列が、人為的に、ポリヌクレオチド(このような分子をコード化する配列が自然な状態においては、連結されていない)に連結され得ることを意味する。そして、このような分子は、組換え及び/又は合成の手段により生成され得ことを意味し、これらはまた、「非ネイティブ」とも呼ばれる。たとえ上述の目的のために、これらの配列が、生命有機体内又は非生命有機体内に、これら当業者にとって公知の技術によって導入され得ても、そして、たとえこれらの配列が、上述の有機体に依然として存在していても、それらは常に単離されたとみなされる。本発明において、「危険性」、「感受性」及び「素因」という言葉は同等であり、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を進展させる可能性に関して用いられる。
【0028】
用語「AD」は、アルツハイマー病を意味する。「AD型神経病理学」、「AD病理学」とは、本明細書中で用いられる場合、本発明において記載した、及び当該分野の文献(Iqbal,Swaab,Winblad and Wisniewski,Alzheimer’s Disease and Related Disorders(Etiology,Pathogenesis and Therapeutics),Wiley&Sons,New York,Weinheim,Toronto,1999;Scinto and Daffner,Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease,Humana Press,Totowa,New Jersey,2000;Mayeux and Christen,Epidemiology of Alzheimer’s Disease:From Gene to Prevention,Springer Press,Berlin,Heidelberg,New York,1999;Younkin,Tanzi and Christen,Presenilins and Alzheimer’s Disease,Springer Press、Berlin,Heidelberg,New York,1998を参照のこと)より一般に公知の、神経病理学的、神経生理学的、病理組織学的及び臨床的な、特徴、徴候及び症状をいう。
【0029】
用語「ブラーク病期(Braak stage)」又は「ブラーク病期(Braak staging)」とは、Braak and Braakによって提起された基準に従った、脳の分類をいう(Braak and Braak、Acta Neuropathology 1991,82:239−259)。ADのブラーク病期により、前脳の既定領域の神経原線維病変の拡張及び分布が評価され、ADの神経病理学的進行が6段階に分けられる(段階0乃至6)。これは、死後のAD神経病理学的段階における進行として十分に確立され、かつ一般的に受け入れられている。精神状態に関して、AD患者の臨床的状態及び認知機能/認知障害と、剖検後に得られた対応するブラーク病期との間に、顕著な相関関係があることが示されている(Bancher et al.,Neuroscience Letters 1993,162:179−182;Gold et al.,Acta Neuropathol 2000,99:579−582)。同様に、神経原線維変化とニューロンの細胞病理学との間の相関関係も見出されており(Rossler et al.,Acta Neuropathol 2002,103:363−369)、そしてそれら両方は、認知機能を予想すると報告されている(Giannakopoulos et al.,Neurology 2003,60:1495−1500;Bennett et al.,Arch Neurol 2004,61:378−384)。さらに、βアミロイドペプチドの沈着に関与し、かつ神経原線維変化の形成が蓄積する病原性カスケードが提唱される。後者は、初期AD特異的事象の分子レベル/細胞レベルで先行することの証拠となる(Metsaars et al.,Neurobiol Aging 2003,24:563−572)。
【0030】
本発明において、ブラーク病期は、それ故、個々のドナーの臨床的な症状/状態によらない(即ち、精神疾病、認知欠陥、他の精神神経パラメータの下落(decline)又はADの明白な臨床的診断の報告の存否に拠らない)、疾患進行の代理マーカーとして用いられる。即ち、Braak病期判断される神経原線維変化は、基礎となる分子細胞病理メカニズムを一般的に反映し、従って、脳の(前)罹患状態を定義する。これは、例えば、ブラーク1の段階のドナーが、定義上、段階2(又はそれ以上)のドナーよりも初期段階の分子/細胞病因を示すこと、及び従ってブラーク病期1のドナーは、例えば、いずれかのより高いブラーク病期のドナーと比較した場合に、コントロールとみなされ得ることを意味する。この点で、コントロール個体と影響を受けた個体との間の差異は、健康なコントロールドナーとAD患者との間の差異に基づく臨床的診断と必ずしも同一ではない可能性があるが、しかしむしろ、コントロール個体と影響を受けた個体との間の差異とは、代理マーカーから演繹されかつこれにより反映された場合の(前)病的な状態の推定上の差異をいう。
【0031】
本発明において、ブラーク病期0は、アルツハイマー病の徴候及び症状に苦しんでいるとはみなされない人を示し得るものであり、ブラーク病期1乃至4は、該個人が、すでにADの臨床的な徴候及び症状に苦しんでいるか否かにより、健康なコントロールの個体又はAD患者のいずれかを示し得る。ブラーク病期が高いほど、ADの徴候及び症状を示す可能性及びADの徴候及び症状が進行するリスクを示す可能性がより高くなる。神経病理学的な評価(即ち、ADの病理学的変化が痴呆の根本的原因である可能性の判断)に関して、勧告がBraak Hにより与えられている(www.alzforum.org)。
【0032】
コントロールから得られた値は、既知の健康状態を表す基準値であり、患者から得られた評価は、既知の疾患状態を表す基準値である。
【0033】
本発明における神経変性疾患又は障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭型認知症(fronto−temporal dementia)、進行性核上麻痺(progressive nuclear palsy)、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆(cerebrovascular dementia)、多発性萎縮症(multiple system atrophy)、嗜銀性顆粒痴呆(argyrophilic grain dementia)及び他のタウオパシー(tauopathies)及び軽度認知障害(Mild cognitive impairment)を包含する。更に例えば、神経変性過程を伴う状態に関しては、虚血性脳梗塞、加齢性黄斑変性、睡眠発作、運動ニューロン疾患、プリオン病、外傷性神経損傷及び修復、並びに多発性硬化症がある。
【0034】
本発明は、セリン/スレオニンプロテインキナーゼファミリーPRKXの遺伝子及び上記PRKXのタンパク質産物の、同定、示差的発現、示差的制御、調節不全であって、特定の検体中での、AD患者の特定の脳領域での、種々のブラーク病期に分類された個体の特定の脳領域での、互いに比較した及び/又は同年齢のコントロール個体と比較したものを開示する。本発明は、AD患者の側頭皮質及び前頭皮質においてPRKXのmRNAレベルが増加し、上方制御されるという点で、PRKXの遺伝子発現が変動すること、コントロール個体のそれぞれの脳領域と比較して、AD患者の脳において調節不全であることを開示する。更に、本発明は、種々のブラーク病期に分類された個体の特定の脳領域において、PRKX発現量が異なり、発現レベルが、すでに早期のブラーク病期(ブラーク1−3)で増加を開始し、そして後期ブラーク病期(ブラーク4−6)の課程で漸進的に増加することを開示する。
【0035】
AD患者とコントロールの個体とを比較した際の、又それのみならず種々のブラーク病期間で比較した際の、PRKX遺伝子転写レベルにおいて見られる差異は、PRKXタンパク質レベルにおいて見られ得るかなりの差異によって更に裏づけされる。コントロール個体とは対照的に、AD患者由来の脳標本内において、PRKXタンパク質は、高レベルで反応性アストロサイトに含まれ、蓄積し、そして斑結合活性化ミクログリア内でCD68タンパク質と共局在し、そして皮質βアミロイド斑と共沈着する。PRKX遺伝子発現のこの調節不全及び対応する遺伝子産物のレベル及び局在の変化(これは、AD型病理学の発達に対応(parallel)する)は、明らかにPRKXとADとの関連性を反映し、そして疾患の経過の間、進行性の病理学的事象の指標である。この関連性の更なる証拠は、ショウジョウバエPRKXオルソログpka−C3が、ショウジョウバエADモデルにおける変性表現型を促進すること、及びこの効果がタウタンパク質の変異体形態の病理学的リン酸化の増加を伴うという知見により提供される。更に具体的には、pka−C3キナーゼは、ADにおいて異常にリン酸化されることが証明されたタウ中の一のアミノ酸部位である、セリン214のリン酸化を増加させる。それ故、PRKXは、ADを導く分子病理学的事象のカスケードに、表面上、関与し得、従って、AD及び他の神経変性疾患に対する治療に基づく低分子の同定及び開発のための有望な標的に相当し得る。PRKX遺伝子発現の調節不全及び対応する遺伝子産物のレベル及び局在における変化と、神経変性疾患(特にAD)の病理学との間の関係を実証する実験は、現在まで記載されたことがない。同様に、PRKX遺伝子内の変異のうち、該疾患と関連することが説明されたものも存在しない。PRKX遺伝子とこのような病期とを関連付けることで、新規の方法、とりわけ該疾患の診断及び治療に対するものが、提供される。更に、PRKXを、ADの初期過程においてすでに生じている病理学的事象と関連付けることは、AD病理の開始を妨げる治療の可能性、脳の修復不能な損傷が生じる前に処置される治療の可能性を提供する。その結果、本発明は、神経変性疾患、特にADになる素因の同定と同様、診断における評価、治療を受けている人の診断におけるモニタリング、予後に対しても実用性を有する。
【0036】
本発明は、AD患者の特定の脳領域におけるPRKXをコードする遺伝子及びその遺伝子産物の異常調節を開示する。下側頭葉、内側嗅皮質、海馬、扁桃のニューロンが、ADにおいて、変性過程を受けやすい(Terry et al.,Annals of Neurology 1981,10:184−192)。これらの脳領域は、主として、学習機能及び記憶機能の過程に関与しており、ADにおけるニューロン欠失及び変性に対する選択的脆弱性を示す。対照的に、前頭皮質、後頭皮質及び小脳の内側のニューロンは、大部分が無傷のままであり、かつ、神経変性的な過程から保護されている。AD患者及び同年齢コントロールの、前頭皮質(F)及び下側側頭皮質(T)由来の脳組織は、本明細書中で開示される実施例に関して使用された。結果として、PRKX遺伝子及びその対応する転写物、並びに/或いは翻訳産物は、原因的な(causative)役割を果たし、選択的な神経変性、及び/又は神経保護に影響を及ぼす。
【0037】
一局面では、本発明は、被験体の神経変性疾患を診断若しくは予後判定する方法、又は、被験体が該疾患を進展させる素因を有しているか、被検体が該疾患を進展させるリスクが増加しているかを決定する方法、又は神経変性疾患を有する被検体に対して施される治療の効果をモニタリングする方法に特徴がある。本方法は、以下:
(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子転写産物、及び/又は
(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子翻訳産物、及び/又は
(iii)該被験体から得られた検体中の、前述の転写産物又は翻訳産物の、断片若しくは誘導体若しくは改変体、
のレベル、発現又は活性、又は両該レベル、発現及び該活性を決定する工程、
並びに該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの該断片、誘導体若しくは改変体の、該レベル、発現及び/又は該活性を、公知の疾患状態(患者)を表す基準値及び/又は公知の健康状態(コントロール)を表す基準値及び/又は公知のブラーク病期を表す基準値と比較する工程、並びに該レベル及び/又は該活性が、公知の健康状態を表す基準値と比較して、変動するか、変更されるか、及び/又は公知の疾患状態を表す基準値に類似するか若しくは等しいか、或いは該被験体が神経変性疾患を有していることの指標若しくは該被験体が該疾患の徴候及び症状を進展させるリスクが増加しているかの指標である公知のブラーク病期を表す基準値と比較して類似しているか、を分析する工程、これにより該被験体中の該神経変性疾患を診断若しくは予後判定するか、又は該被験体が該神経変性疾患を進展させるリスクが増加しているかを決定する工程、を包含する。言い回し「被検体中」とは、開示された方法の結果が、被験体を苦しめる疾患に関する場合、すなわち、該疾患が被験体の「中」にある場合に、開示された方法の結果をいう。
【0038】
更なる局面では、本発明は、被験体中の神経変性疾患の進行をモニタリングする方法に特徴がある。(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)該被検体から得られた検体中の該転写又は翻訳産物の、断片又は誘導体又は改変体の、レベル、発現又は活性、又は両該レベル、発現、及び該活性が決定される。該レベル、発現、及び/又は該活性は、公知の疾患又は健康状態又は公知のブラーク病期を表した基準値と比較される。これによって、該被験体における該神経変性疾患の進行がモニタリングされる。
【0039】
なお更なる局面では、本発明は、神経変性疾患に対する治療を評価する方法又はその治療の効果をモニタリングする方法に特徴がある。この方法は、(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)該疾患に対する治療を受けている被検体から得られた検体中の、該転写産物若しくは翻訳産物の、断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル、発現又は活性、又は両該レベル、発現、及び該活性を決定する工程を包含する。該レベル、発現又は該活性、又は両該レベル、発現及び該活性が、公知の疾患若しくは健康状態又は公知のブラーク病期を表した基準値と比較され、それによって、該神経変性疾患に対する治療を評価する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
好ましい実施形態において、(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)一定期間に亘って該被検体から採取した一連の検体中の、該転写産物若しくは翻訳産物の、断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル、発現又は活性、又はレベル及び該活性の両方が、該疾患の進行をモニタリングするために比較される。更に好ましい実施形態では、一以上の収集された該検体に先立ち、該被検体は治療を受ける。なお別の好ましい実施形態では、該レベル及び/又は活性が、該被検体の治療の前後に決定される。
【0041】
PRKXの該転写産物並びに/或いは該翻訳産物及びその断片、誘導体、又は改変体の、該レベル、発現、及び/又は該活性が、ADで苦しんでいない人、コントロールの人から得られた検体と比較して、AD患者から得られた検体中で増加し、上方制御されているのが好ましい。例えば、PRKXの転写産物並びに/或いは翻訳産物及びその断片、誘導体、又は改変体の、発現及び/又は活性が、患者の検体から測定され、そして健康なコントロールの被験体の検体(基準検体)中のPRKX及びその断片、誘導体又は改変体の、転写産物及び/又は翻訳産物の、発現及び/又は活性と比較される。
【0042】
本明細書中及び特許請求の範囲に記載されている方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ、そして本発明の利用に関する好ましい実施形態においては、上述のPRKX遺伝子及びタンパク質は、配列番号1(Genbank 取得番号 P51817)のタンパク質をコードするPRKX遺伝子によって表されたものである。更に配列番号2(Uniprot primary取得番号O43930)のタンパク質をコードするPRKY遺伝子を使用することが好ましい。上述のタンパク質のアミノ酸配列は、Genbank 取得番号 BC041073又はEnsembl 転写物 ID番号ENST00000311978のcDNA配列に対応した、配列番号3又は4のmRNA配列から推測される。本発明の好ましい実施形態においては、PRKXとはまた、ヒトPRKX又はPRKYをコードする配列(cds)を表す核酸配列(それぞれ配列番号5又は6)をいう。本発明において、該配列は、該用語が本明細書中で用いられているように、「単離」されている。
【0043】
本明細書中で請求の範囲に記載されている方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ、そして本発明の利用に関する更なる好ましい実施形態においては、該神経変性疾患又は神経変性障害は、アルツハイマー病であり、該被検体はアルツハイマー病の徴候及び症状に苦しんでいる。
【0044】
分析及び決定される検体は、脳組織又は他の組織、又は体細胞からなる群より選択されることが好ましい。検体はまた、脳脊髄液又は他の体液(唾液、尿、便、血液、血清血漿、又は粘液が挙げられる)も含有し得る。好ましくは、本発明に従った、神経変性疾患に対する診断、予後診断、治療の進行のモニタリング又は評価の方法は、事実上、実施され得、そしてこのような方法は、好ましくは、被験体若しくは患者又はコントロールの人から採取され、集められ、又は単離された検体(例えば、体液又は細胞)に関する。
【0045】
更なる好ましい実施形態においては、該基準値とは、(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)該神経変性疾患に苦しんでいない被検体から得られた検体(コントロール検体、コントロール、健康なコントロールの人)、或いは、神経変性疾患に、特にアルツハイマー病に苦しんでいる被検体から得られた検体(患者検体、患者、AD検体)又はADの徴候及び症状に苦しんでいる可能性があるか否かを定義するブラーク病期に分類された人から得られた検体の中の該転写産物又は翻訳産物の、断片又は誘導体又は改変体の、レベル、発現、又は活性、或いは該レベルと該活性の両方の値をいう。
【0046】
好ましい実施形態においては、被検体から採取された検体である細胞、又は組織、又は体液における、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物並びに/或いはPRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物及び/又はこれらの断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル及び/又は活性及び/又は発現の、公知の健康状態(コントロール検体)を表す基準値と比較した場合の変更は、神経変性疾患、特にADの、診断又は予後又は該疾患に罹患する危険性の増大を示唆する。
【0047】
更に好ましい実施形態においては、被検体から採取された検体である細胞又は組織又は体液における、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物並びに/或いはPRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物及び/又はこれらの断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル及び/又は活性及び/又は発現が、公知の神経変性疾患、特にアルツハイマー病の状態(AD患者検体)を表す基準値と比較して、これに等しいか又は近似することは、該神経変性疾患の診断又は予後又は該疾患になる危険性の増大を示唆する。
【0048】
別の更なる好ましい実施形態においては、被検体から採取された検体である細胞又は組織又は体液における、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物並びに/或いはPRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物及び/又はこれらの断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル及び/又は活性及び/又は発現が、公知のブラーク病期(これは、ADの徴候及び症状を進展させる高度な危険性を反映する)を表す基準値と比較して、これに等しいか又は近似することは、ADに罹患したことの診断又は予後又は危険性の増大を示唆する。
【0049】
しかしながら、PRKXの該転写産物並びに/或いは該翻訳産物及びこの断片、誘導体若しくは改変体の、変動した、変更されたレベル、変更された発現及び/又は変更された活性が、増加、上方制御であることが好ましい。
【0050】
好ましい実施形態では、転写産物のレベル及び/又はPRKXタンパク質をコードした遺伝子の発現のレベルの測定は、被検体から得られた検体において、定量的PCR分析をプライマー組み合わせとともに用いて、該遺伝子特異的配列を、被験体の検体より抽出されたRNAの逆転写により得られたcDNAから増幅して、遂行される。プライマー組み合わせ(配列番号7、配列番号8)は、本発明の実施例(iv)において記載され、本発明中に開示された配列から生成された他のプライマーもまた使用され得る。該遺伝子に対して特異的なプローブを用いたノーザンブロット又はリボヌクレアーゼプロテクションアッセイ(RPA)もまた適用され得る。チップベースのマイクロアレイテクノロジーにより転写産物を測定することが更に好ましくあり得る。これらの技術は、当業者に公知である(Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001;Schena M.,Microarray Biochip Technology,Eaton Publishing,Natick,MA,2000を参照のこと)。免疫学的検定の一つの例は、特許出願WO02/14543で開示及び記載されているように、酵素活性の検出と測定である。
【0051】
本発明はまた、本発明で開示されたような核酸配列又はその断片若しくは改変体に特有の、プライマー及びプローブの構築及び使用に関する。オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブは、蛍光性の、生物発光性の、磁気性の、放射性の物質で特異的に標識され得る。本発明は更に、該特異的ヌクレオチドプライマーを適切に組み合わせて使用して、該核酸配列又はその断片若しくは改変体を検出及び産生することに関する。当業者に周知のPCR分析は、該遺伝子特異的核酸配列を、核酸を含有する検体から増幅するために、該プライマー組み合わせを用いて遂行され得る。このような検体は、ブラーク病期によって定義付けられた、健康な被検体又は疾患被検体のいずれかに由来し得る。増幅が特異的な核酸産物をもたらすか否か、及び種々の長さの断片が得られ得るか否かが、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の指標であり得る。従って、本発明は、全コード配列及び遺伝子配列まで少なくとも長さ10塩基の核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブを提供し、これらは、検査される核酸配列を含有する所定の検体中の遺伝子突然変異及び一塩基多型(これらは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連し得る)を検出するのに有用である。この特徴は、迅速なDNAベースの診断試験の開発に有用であり、好ましくはキットの形態(format)においてもまた有用である。PRKXのプライマーが実施例1(vi)に例示的に記載されている。
【0052】
更に、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物及び/又は該翻訳産物の、断片又は誘導体又は改変体の、レベル及び/又は活性及び/又は発現、並びに/或いは、該翻訳産物及び/又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル又は活性は、免疫学的検定、活性アッセイ(activity assay)及び/又は結合アッセイを用いて検出され得る。これらのアッセイは、抗タンパク抗体又は該抗タンパク抗体に結合する二次抗体のいずれかに結合される、酵素標識、色彩動的(chromodynamic)標識、放射性標識、磁気標識(magnetic label)、又は発光標識の使用によって、該タンパク質分子と抗タンパク抗体との間の結合量を測定し得る。更に、他の高親和性リガンドも使用され得る。使用され得る免疫学的検定としては、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、及び当業者に公知の他の技術が挙げられる(Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1999及びEdwards R,Immunodiagnostics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford;England,1999)。これら全ての検出技術は、技術工学に基づいたマイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ、又はプロテインチップの形態(format)としてもまた用いられ得る(Schena M.,Microarray Biochip Technology,Eaton Publishing,Natick,MA,2000を参照のこと)。
【0053】
別の局面では、本発明は、被検体における神経変性疾患(特にAD)を診断若しくは予後判定するための、又は被験体の神経変性疾患(特にAD)を進展させる性向若しくは素因を決定するための、又は、神経変性疾患(特にAD)を有する被検体に対して施された治療の効果をモニタリングするためのキットを特徴づけ、該キットは、以下:
(a)(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物を検出する試薬(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物を検出する試薬、及び/又は該転写産物若しくは翻訳産物の断片若しくは誘導体若しくは改変体を検出する試薬、からなる群より選択される、少なくとも一の試薬;
(b)以下
・該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの断片、誘導体若しくは改変体の、レベル、又は活性、又は該レベル及び該活性の両方、及び/又は発現を決定する工程;並びに
・該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの断片、誘導体若しくは改変体の、該レベル及び/又は該活性及び/又は発現と、公知の疾患状態(患者)を表す基準値及び/又は公知の健康状態(コントロール)を表す基準値及び/又は公知のブラーク病期を表す基準値と比較する工程;並びに
・公知の健康状態を表す基準値と比較して、該レベル及び/又は該活性及び/又は発現が変動するか、及び/又は公知の疾患状態を表す基準値若しくは公知のブラーク病期を表す基準値と等しいか若しくは近似しているかを分析する工程;並びに
・神経変性疾患、特にADを診断若しくは予後判定する工程、又は該被験体の、このような疾患を進展させる性向若しくは素因を決定する工程であって、該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの断片、誘導体、若しくは改変体の、レベル、発現、若しくは活性、又は該レベル及び該活性の両方が、公知の健康状態(コントロール)を表す基準値と比較して、変動又は変更され、並びに/或いは、該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの該断片、誘導体若しくは改変体が、公知の疾患状態(患者検体)、好ましくはADの疾患状態(AD患者)を表す基準値、及び/又は公知のブラーク病期(神経変性疾患、特にADの診断又は予後判定、又はこのような疾患を進展させる性向若しくは素因の増大、ADの徴候及び症状を進展させる高い危険性)を表す基準値に近似するか又は等しい、工程
により、被験体の、神経変性疾患(特にAD)を診断若しくは予後判定するための、又はこのような疾患を進展させる性向若しくは素因を決定するための、又は治療の効果をモニタリングするための、取扱説明書を含む。本発明に従うキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクのある個体の同定に、特に有用であり得る。
【0054】
PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物及び/又は翻訳産物を選択的に検出する試薬は、様々な長さの配列、配列断片、抗体、アプタマー、siRNA、microRNA、リボザイムであり得る。このような試薬はまた、前述の断片、誘導体又は改変体を検出するのにも使用され得る。
【0055】
更なる局面において、本発明は、被検体における神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断又は予後判定する方法、及び被検体の、このような疾患を進展させる性向若しくは素因を決定する方法、並びに神経変性疾患、特にADを有する被検体に施される治療の効果をモニタリングする方法におけるキットの使用に特徴がある。
【0056】
従って、本発明に従うキットは、疾患の課程の中で不可逆的な損傷を負う前に、疾患の発症に先立って、初期の予防手段、又は治療上の介入に対し、同定された個体を標的化するための一の手段として寄与し得る。その上、好ましい実施形態において、本発明にて特徴付けられるキットは、被験体における神経変性疾患、特にADに対する治療上の処置の成功又は失敗につきモニタリングするのに有用であり得るのと同様に、該被検体におけるこのような疾患の進行をモニタリングするのに有用であり得る。
【0057】
別の局面では、本発明は、被検体における神経変性疾患、特にADを治療又は予防する方法に特徴があり、該方法は、このような治療を必要とする該被検体に対する、治療上又は予防上有効な量での、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト、アゴニスト又は抗体の投与及び処方を包含し、該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト、アゴニスト又は抗体が、(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)乃至(ii)の、断片若しくは誘導体若しくは改変体の、レベル、若しくは活性、又は該レベル及び該活性の両方に直接的に又は間接的に影響する。該薬剤は、低分子を含有する可能性があるか、又はペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドをも含有する可能性がある。該ペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドは、PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体のアミノ酸配列を含み得る。神経変性疾患、特にADを治療又は予防するための、本発明に従う薬剤もまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドから構成され得る。該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、センス配向又はアンチセンス配向のいずれかにおいて、PRKXタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み得る。
【0058】
好ましい実施形態では、本方法は、該薬剤を投与するための、それ自体公知の遺伝子治療及び/又はアンチセンス核酸テクノロジーの方法の適用を包含する。一般的に、遺伝子治療は、突然変異遺伝子の分子置換、治療用タンパク質の合成をもたらす新規な遺伝子の付加及び組換え発現法若しくは薬剤による内因性の細胞遺伝子発現の調節といったいくつかのアプローチを包含する。遺伝子移入技術は詳細に記載されており(例えば、Behr,Acc Chem Res 1993,26:274−278及びMulligan,Science 1993,260:926−931を参照のこと)、そして、この遺伝子移入技術としては、直接的遺伝子移入技術(例えば、DNAの細胞への機械的マイクロインジェクション)及び生物学的ベクター(例えば、組換えウイルス、特にレトロウイルス)若しくはモデルリポソームを用いた間接的技術、又はポリカチオン共沈DNAを用いたトランスフェクションを基礎とした技術、化学的手段(溶剤、界面活性剤、ポリマー、酵素)若しくは物理的手段(機械的ショック、浸透圧ショック、熱ショック、電気ショック)による細胞膜撹乱(cell membrane pertubation)が挙げられるが、これらに限定されない。出生後の中枢神経系への遺伝子移入は、詳細に記載されている(例えば、Wolff,Curr Opin Neurobiol 1993,3:743−748を参照のこと)。
【0059】
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療によって神経変性疾患を治療又は予防する方法(即ち、アンチセンス核酸若しくはその誘導体を特定の重篤な細胞に導入することによる、不十分に発現された遺伝子又は欠損した遺伝子のダウンレギュレーション(例えば、Gillespie,DN&P 1992,5:389−395;Agrawal及びAkhtar, Trends Biotechnol 1995,13:197−199;Crooke,Biotechnology 1992,10:882−6))に特徴がある。ハイブリダイゼーション戦略とは別に、リボザイム(即ち、疾患のメッセージを伝達するRNAを破壊する酵素として作用するRNA分子)の適用についてもまた記載されている(例えば、Barinaga,Science 1993,262:1512−1514を参照のこと)。好ましい実施形態では、治療を受ける被検体はヒトであり、そして、治療用アンチセンス核酸又はその誘導体は、PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物に対して指向される。被検体の中枢神経系、好ましくは脳の細胞は、このような方法で治療されるのが好ましい。細胞貫入(cell penetration)は、公知の戦略(例えば、アンチセンス核酸及びその誘導体と担体粒子とのカップリング)又は上に記載の技術により、遂行され得る。標的化した治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するための戦略は、当業者に公知である(例えば、Wickstrom,Trends Biotechnol 1992,10:281−287)。いくつかの場合、送達は、ほんの局所的な適用により遂行され得る。さらなるアプローチは、アンチセンスRNAの細胞内発現に関する。この戦略において、細胞は、標的核酸の領域に相補的なRNAの合成を指向する組換え遺伝子で、生体外で、形質転換される。細胞内で発現したアンチセンスRNAの治療上の使用は、手順上は遺伝子治療に似ている。遺伝子の細胞内発現を二本鎖RNAの使用により調節する、最近開発された方法(RNA干渉(RNAi)として様々に公知である)は、核酸治療に対する別の有効なアプローチであり得る(Hannon,Nature 2002,418:244−251)。
【0060】
更に好ましい実施形態では、本方法は、ドナー細胞又は好ましくは移植片拒絶を最小化若しくは低減するために処置されたドナー細胞を、該被検体の中枢神経、好ましくは脳に移植する工程であって、該ドナー細胞が、該薬剤をコード化する少なくとも一のトランスジーンの挿入により遺伝的に改変されている工程を包含する。該トランスジーンは、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターにより運搬され得る。トランスジーンは、トランスジーンをコード化するDNAの非ウイルス性物理的トランスフェクションにより、特にマイクロインジェクションにより、ドナー細胞へと挿入され得る。トランスジーンの挿入はまた、エレクトロポレーション、化学的に媒介されたトランスフェクション、特にリン酸カルシウムトランスフェクション若しくはリポソーム媒介性トランスフェクションにより、遂行され得る(例えば、Mc Celland and Pardee,Expression Genetics:Accelerated and High−Throughput Methods,Eaton Publishing,Natick,MA,1999)。
【0061】
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療及び予防するための該薬剤は、該被検体(好ましくは、ヒト)に、被験体細胞を該被検体に導入する工程を包含する過程であって、該被検体細胞が、試験管内で、該治療用タンパク質をコード化したDNA断片を挿入するための処理がなされており、該被検体細胞が、該被検体の生体内で、治療上有効量の該治療用タンパク質を発現している過程により、投与され得る治療用タンパク質である。該DNAセグメントは、試験管内で、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって、該細胞へと挿入され得る。
【0062】
本発明に従う治療又は予防の方法は、胚性肝細胞若しくは胚性生殖細胞(embryonic germ cell)及びニューロン成人肝細胞(neuronal adult stem cell)を用いた、治療上のクローニング、移植及び幹細胞治療の適用を包含し、上述の細胞治療法及び遺伝子治療法のいずれかと組み合わせられる。幹細胞は、全能性又は多能性であり得る。これらはまた、器官特異的であり得る。罹患した及び/又は損傷した脳細胞又は脳組織を修復するための戦略は、(i)成体組織からドナー細胞を採取する工程を包含する。それらの細胞の核は、遺伝物質が取り除かれた未受精卵細胞へ移植される。胚性幹細胞は、体細胞核移植を経た胚盤胞の細胞から単離される。次いで、分化因子の使用により、この肝細胞の、専門化した細胞型、好ましくは神経細胞へと指向される進展が導かれるか(Lanza et al.,Nature Medicine 1999,9:975−977)、或いは(ii)試験管内での増殖(expansion)、及びこれに続く移植(grafting)及び移植(transplantation)のために、中枢神経系、又は骨髄(間葉系幹細胞)から単離した、成体幹細胞を純化(purify)する工程、又は(iii)直接的に、内因性神経幹細胞の増殖、移動、及び機能的ニューロンへの分化を誘導する工程(Peterson DA,Curr.Opin.Pharmacol.2002,2:34−42)に導かれる。成人神経幹細胞には、損傷した脳組織又は罹患した脳組織を修復する大きな可能性がある。その理由は、成人脳の胚中心には、ニューロン損傷又は機能不全がないからである(Colman A,Drug Discovery World 2001,7:66−71)。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明に従う治療又は予防のための被験体は、ヒト又は非ヒト実験動物(例えば、マウス若しくはラット、家畜動物、又は非ヒト霊長類)であり得る。実験動物は、神経変性障害についての動物モデル(例えば、AD型の神経病理を有するトランスジェニックマウス及び/又はノックアウトマウス)であり得る。
【0064】
更なる局面では、本発明は、(i)PRKXタンパク質をコードした遺伝子、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)乃至(iii)の、断片若しくは誘導体若しくは改変体からなる群より選択された少なくとも一つの物質の、活性又はレベル、又は該活性及び該レベルの両方、及び/又は発現の、薬剤、アンタゴニスト若しくはアゴニスト若しくはモジュレーターを特徴とする。そして該薬剤、アンタゴニスト若しくはアゴニスト、又は該モジュレーターは、神経変性疾患、特にADの治療において潜在的な活性を有する。
【0065】
別の側面では、本発明は、神経変性疾患、特にADの治療又は予防のための医薬の製造において、(i)PRKXタンパク質をコードした遺伝子、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)乃至(iii)の、断片若しくは誘導体若しくは改変体、からなる群より選択される少なくとも一の物質の、活性又はレベル、又は該活性及び該レベルの両方、及び/又は発現の、薬剤、抗体、アンタゴニスト若しくはアゴニスト、又はモジュレーターの使用を提供する。該抗体は、配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、又はその断片、誘導体、若しくは改変体(特に配列番号2を有する改変体)である免疫原に対して特に免疫反応性であり得る。
【0066】
更なる局面では、本発明は、該薬剤、抗体、アンタゴニスト若しくはアゴニスト、又はモジュレーター、及び好ましくは医薬上の担体を含有する医薬組成物を特徴とする。担体とは、モジュレーターと共に投与される希釈薬、補助薬、賦形剤又はビヒクルをいう。
【0067】
本発明の別の局面は、
(i)PRKXタンパク質をコードした遺伝子、及び/又は
(ii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)乃至(iii)の断片若しくは誘導体若しくは改変体、
からなる群より選択される少なくとも一の物質の、レベル及び/又は活性及び/又は発現の、アンタゴニストを含有する医薬に関する。ここで、アンタゴニストは、アンチセンス核酸、抗体若しくは抗体断片、siRNA、リボザイム、アプタマー、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0068】
抗体、又は抗体断片として、以下の物質:
Fab断片、VL、VH、CL、及びCH Iドメインからなる一価の断片;F(ab)2又はF(ab`)2断片;ヒンジ領域にてジスルフィド結合により連結された二つのFab断片を含む二価の断片;VH及びCH1ドメインからなるFd断片;抗体の一本鎖アーム(single arm)のVL及びVHドメインからなるFv断片、dAb断片;単離された相補性決定領域(CDR);並びに一本鎖Fv(scFV)抗体、scfv、f(ab)断片が理解される。
【0069】
一局面では、本発明はまた、治療上又は予防上有効な量の医薬組成物で満たした、一以上の容器を含むキットをも提供する。
【0070】
更なる局面では、本発明は、ネイティブPRKX遺伝子転写制御エレメントではない転写因子の制御下で、特に配列番号1を有するPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)をコードする、非ネイティブPRKX遺伝子配列を含む、組換え型の遺伝的に改変された非ヒト動物を特徴とする。該組換え型の、非ヒト動物の生産は、(i)該遺伝子配列及び選択可能なマーカー配列を含む遺伝子標的化構築物を提供する工程、及び(ii)非ヒト動物の幹細胞中へと該標的化構築物を導入する工程、及び(iii)該非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚へと導入する工程、及び(iv)該胚を偽妊娠非ヒト動物へと移植する工程、及び(v)該胚が頂生にまで進展するのを可能にする工程、及び(vi)遺伝的に変更された非ヒト動物を同定する工程であって、該非ヒト動物のゲノムが両方の対立遺伝子に該遺伝子配列の修飾を含む、工程、並びに(vii)過程(vi)の遺伝的に変更された非ヒト動物を育種(breeding)して、遺伝的に変更された非ヒト動物を得る工程であって、該非ヒト動物のゲノムが該遺伝子の配列の変更を含み、該遺伝子の発現、誤発現、低発現、又は過剰発現、及び該遺伝子配列の断絶又は変異が、神経変性疾患、特にADの徴候及び症状を進展させる素因を非ヒト動物にもたらす、工程を包含する。このような動物の生産及び構築のための戦略及び技術は、当業者に公知である(例えば、Caecchi,Science 1989,244:1288−1292並びにHogan et al.,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1994並びにJackson及びAbbott,Mouse Genetics and Transgenics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford,England,1999を参照のこと)。
【0071】
遺伝的に改変された、このような組換え型の非ヒト動物を、動物モデルとして、試験動物として又はコントロール動物として、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の研究のために、利用することは好ましい。このような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断法及び治療法の開発において、化合物、薬剤及びモジュレーターを、スクリーニング、試験、確証するのに有用であり得る。本発明では、このような遺伝的に変異した動物のスクリーニング法における使用が開示される。
【0072】
更なる局面では、本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断法及び治療法の開発において、化合物、薬剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び確証するために、特に配列番号1を有するPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)をコードした遺伝子配列が、誤発現された細胞、低発現された細胞、発現されない細胞、若しくは過剰発現された細胞、又は断絶された細胞若しくは別の様式で変更された細胞を利用する。
【0073】
別の局面では、本発明は、神経変性疾患(特にAD)又は関連する疾患及び障害の治療若しくは予防において使用するための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストをスクリーニングする方法に特徴があり、この薬剤、モジュレーター又はアンタゴニスト若しくはアゴニストは、(i)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子、及び/又は(ii)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)乃至(iii)の断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)からなる群より選択される一以上の物質の、発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させる能力を有する。このスクリーニング法は、(a)細胞と試験化合物とを接触させる工程、及び(b)(i)乃至(iv)に列挙された一以上の物質の活性及び/又はレベル、又は活性及びレベルの両方、及び/又は発現を測定する工程、及び(c)該試験化合物とは接触していないコントロール細胞における該物質の活性及び/又はレベル、又は活性及びレベルの両方、及び/又は発現を測定する工程、及び(d)工程(b)及び(c)の細胞内の物質の、レベル及び/又は活性及び/又は発現を比較する工程であって、接触細胞中の該物質の、レベル及び/又は活性及び/又は発現における変更により、この試験化合物が、神経変性疾患及び障害の治療又は予防における使用のための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであることが示される、工程、を包含する。該細胞は、本発明で開示された細胞であり得る。
【0074】
別の更なる局面では、本発明は、神経変性疾患(特にAD)又は関連する疾患及び障害の治療又は予防における使用のための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト若しくはアゴニストをスクリーニングする方法に特徴があり、この薬剤、モジュレーター又はアンタゴニスト若しくはアゴニストが、(i)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子、及び/又は(ii)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)乃至(iii)の断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)からなる群より選択される一以上の物質の、発現及び/又はレベル及び/又は活性を変更させる能力を有し、(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは関連障害の徴候及び症状を進展させる素因が与えられているか、又は既に進展させている非ヒト試験動物に対し、試験化合物を投与する工程であって、該動物が、本発明において開示された動物モデルであり得る、工程、及び(b)(i)乃至(iv)に列挙された一以上の物質の、活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する工程、及び(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症状を等しく進展させる素因が与えられているか、又は既に進展させている非ヒトコントロール動物、及びこのような試験化合物が投与されていない非ヒト動物における該物質の、活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する工程、並びに(d)工程(b)及び(c)の動物中の該物質の、活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較する工程であって、非ヒト試験動物中の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化により、試験化合物が神経変性疾患及び障害の治療又は予防における使用のための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであることが示される、工程、を包含する。
【0075】
別の実施形態では、本発明は、医薬を製造するための方法を提供し、該方法は、(i)神経変性疾患の薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを、前述のスクリーニングアッセイにより同定する工程、並びに(ii)該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを医薬担体と混和する工程の段階を包含する。しかし、該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストはまた、他の型のスクリーニング法及びアッセイによっても、同定され得る。
【0076】
別の局面では、本発明は、リガンドと、特に配列番号1を有するPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)との間の、結合の阻害又は結合の増強の程度を決定するために、及び/又は特に配列番号1を有するPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)に対する該化合物の結合の程度を決定するために、化合物を試験するためのアッセイ、好ましくは複数の化合物をハイスループット形態でスクリーニングするためのアッセイを提供する。リガンドと、PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合の阻害を決定するために、該スクリーニングアッセイは、(i)該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の懸濁液(liquid suspension)を、複数の容器に添加する工程、並びに(ii)該阻害のためにスクリーニングされる化合物又は複数の化合物を該複数の容器に添加する工程、並びに(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドを該容器に添加する工程、並びに(iv)該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体、及び該化合物又は複数の化合物、及び検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドを、インキュベートする工程、並びに(v)好ましくは該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体と結合した蛍光の量を測定する工程、並びに(vi)該リガンドと、該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合の、一以上の該化合物による阻害の程度を決定する工程の段階を包含する。該PRKX翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体を、人工リポソーム中に再構成し、対応するプロテオリポソームを生成し、リガンドと該PRKX翻訳産物との間の結合の阻害を決定することが好ましい。界面活性剤からリポソーム内へのPRKX翻訳産物を再構成させる方法が、詳細に記載されている(Schwarz et al.,Biochemistry 1999,38:9456−9464;Krivosheev及びUsanov,Biochemistry−Moscow 1997,62:1064−1073)。蛍光標識されたリガンドを用いる代わりに、いくつかの局面において、当業者に公知のいずれかの他の検出可能な標識(例えば、放射性標識)を使用し、それに沿って検出するのが好ましい。該方法は、リガンドと、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の遺伝子産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合を阻害する能力において、改良されるか又は別のやり方で最適化された化合物を評価するのと同様、新規化合物の同定にも有用となり得る。担体粒子の使用に基づいたこの場合においては、蛍光結合アッセイの一つの例は、特許出願WO00/52451において開示及び記載されている。更なる例は、特許WO02/01226において記載された競合アッセイ法である。本発明におけるスクリーニングアッセイについての好ましいシグナル検出法は、次の特許出願:WO96/13744、WO98/16814、WO98/23942、WO99/17086、WO99/34195、WO00/66985、WO01/59436、WO01/59416において記載されている。
【0077】
一の更なる実施形態において、本発明は、(i)前述の阻害結合アッセイにより、化合物を、リガンドとPRKXタンパク質をコードした遺伝子の遺伝子産物との間の結合の阻害剤として同定する工程、及び(ii)その化合物と医薬担体とを混和する工程、の段階を包含する、医薬の製造のための方法を提供する。しかしながら、該化合物はまた、他のタイプのスクリーニング法によっても同定され得る。
【0078】
更に本発明は、化合物を試験するための、好ましくは、複数の化合物をハイスループット形態でスクリーニングし、該化合物と、特に配列番号1を有するPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)との結合の程度を決定するためのアッセイを提供し、該スクリーニングアッセイが、
(i)該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の懸濁液を、複数の容器に添加する工程、並びに(ii)該結合に関してスクリーニングされる、検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物又は複数の検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物を、該複数の容器に添加する工程、並びに(iii)該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体、及び該検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物又は検出可能な、好ましくは蛍光で標識化合物を、インキュベートする工程、並びに(iv)好ましくは該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体と結合した蛍光の量を測定する工程、並びに(v)一以上の該化合物による、該PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合の程度を決定する工程、を包含する。この型のアッセイでは、蛍光標識を使用することが好ましくあり得る。しかしながら、他のタイプの検出可能な標識もまた、用いられ得る。このタイプのアッセイにおいてもまた、PRKX翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体を、本発明で記載したようにして、人工リポソーム内に再構成させることも好ましくあり得る。該アッセイ法は、新規化合物の同定及びPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体と結合する能力が、改良されるか又は別のやり方で最適化された化合物の評価に対して、有用であり得る。
【0079】
更なる一実施形態では、本発明は、医薬を製造するための方法を提供し、該方法は、(i)前述の結合アッセイにより、PRKXタンパク質をコードした遺伝子の遺伝子産物に対して結合剤として化合物を同定する工程、及び(ii)その化合物と医薬担体とを混和する工程の段階を包含する。しかしながら、該化合物は、他のタイプのスクリーニング法によってもまた、同定可能であり得る。
【0080】
別の実施形態では、本発明は、本明細書中で特許請求されるスクリーニングアッセイに従う、いずれかの方法により得ることのできる薬剤を与える。更なる一つの実施形態において、本発明は、本明細書中で特許請求の範囲に記載されたスクリーニングアッセイに従ういずれかの方法によって得られた薬剤を与える。
【0081】
本発明の別の局面は、配列番号1を有するタンパク質分子及び該タンパク質分子の使用に特徴がある。該タンパク質分子は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検出するための治療上の標的としての、PRKXをコードした遺伝子の翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)である。
【0082】
更に本発明は、配列番号1を有するタンパク質分子及び該タンパク質分子の使用を特徴とする。該タンパク質分子は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を予防又は治療又は寛解する、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト、アゴニスト、試薬又は化合物のスクリーニング標的としての、PRKXをコードした遺伝子の翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)である。
【0083】
本発明は、特に免疫原に対して免疫反応性を有する抗体を特徴とする。ここで該免疫原は、特に配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードしたPRKX遺伝子の翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体(例えば、配列番号2を有する改変体)である。免疫原は、該遺伝子の翻訳産物における免疫原性又は抗原性のエピトープ又は部分を含み得る。ここで該翻訳産物の免疫原性又は抗原性の部分は、ポリペプチドであり、そしてここで該ポリペプチドは、動物において抗体応答を惹起する。そして該ポリペプチドは、該抗体により免疫特異的に結合される。抗体を生成するための方法は、当業者に周知である(Harlow et al.,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1988を参照のこと)。用語「抗体」は、本発明で用いられる場合、当該分野で公知の全ての形態の抗体(例えば、ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体、キメラ抗体、組換え抗体、抗イディオタイプ抗体、ヒト化抗体、又は一本鎖抗体及びこれらの断片)を包含する(Dubel及びBreitling,Recombinant Antibodies,Wiley−Liss,New York,NY,1999を参照のこと)。例えば、本発明の抗体は、最新式技術(state−in−the−art)(例えば、酵素免疫測定法(例えば、酵素結合免疫吸着測定法、ELISA)、ラジオイムノアッセイ、ケモルミネッセンスイムノアッセイ、ウエスタンブロット、免疫沈降及び抗体マイクロアレイ)に基づいた様々な診断上及び治療上の手法において有用となる(Harlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor,New York,1999 and Edwards R.,Immunodiagnostics:A practical Approach,Oxford University Press,Oxford,Englad,1999を参照のこと)。これらの方法は、PRKX遺伝子の翻訳産物又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の検出を伴う。
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、該抗体は、被検体から得られた検体中の細胞の病理学的状態の検出に用いられ得る。そして該検出は、該抗体を用いた該細胞の免疫細胞化学的染色を含む。ここで、公知の健康状態を表す細胞と比較した場合の、該細胞の、染色の程度の変更又は染色パターンの変更は、該細胞の病理学的状態を示す。好ましくは、病理学的状態は、神経変性疾患、特にADに関する。細胞の免疫細胞化学的染色は、当該分野で周知の多くの種々の実験方法によって実行され得る。しかしながら、抗体結合の検出に関して自動化された手法を適用するのが好ましくあり得、ここで細胞の染色の程度の決定、又は細胞の細胞染色若しくは細胞内染色のパターンの決定、又は細胞表面上若しくは細胞内の細胞小器官若しくは他の細胞内構造における抗原の形態的分布は、米国特許第6150173号に記載された方法に従って実行される。
【0085】
本発明の他の特徴及び利点は、例示に過ぎず、開示の残部を決して限定する意図のない、以下の図面の記載及び実施例より明らかになるであろう。
(図面)
【0086】
図1は、GeneChip分析によって測定及び比較された、種々のブラーク病期に対応した個体由来のヒト脳組織検体中のPRKX遺伝子由来mRNAのレベルの差異の同定を示す。これは、それぞれのmRNA種のレベルがADの進行と量的に相関しており、それ故、Braak and Braak(ブラーク病期)に従った脳組織検体の神経病理学的段階に基づき測定された場合にADの指標であることを示唆する。ブラーク病期0の5人の異なるドナー(C011、C012、C026、C027及びC032)、ブラーク病期1の7人の異なるドナー(C014、C028、C029、C030、C036、C038及びC039)、ブラーク病期2の5人の異なるドナー(C008、C031、C033、C034及びDE03)、ブラーク病期3の4人の異なるドナー(C025、DE07、DE11及びC057)、ブラーク病期4の4人の異なるドナー(P012、P046、P047及びP068)の各々の前頭皮質及び下側側頭皮質のcRNAプローブが、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayの分析に、それぞれ使用される。主に下側側頭組織での、ブラーク病期の進行に伴うPRKX遺伝子の上方調節を反映する差異が示されている。
【0087】
図2は、定量的RT−PCR分析によって測定した場合の、ADの指標である種々のブラーク病期に対応した個体からのヒト脳組織検体中の、PRKX遺伝子由来mRNAのレベルの差異の確証のためのデータを列挙する。Roche Lightcycler高速熱サイクル技術を使用した定量的RT−PCRは、GeneChip分析に対して用いたドナーと同一のドナーの前頭皮質(Frontal)及び下側側頭皮質(Temporal)のcDNAを適用して遂行された。データは、遺伝子発現レベルにおいて有意な差を示さないシクロフィリンB標準遺伝子の値に標準化された。最も低いブラーク病期0の検体と、高いブラーク病期4を示す検体との間の比較により、PRKXの遺伝子発現レベルにおけるかなりの差が明確に実証される。
【0088】
図3は、定量的RT−PCR分析、98%の信頼性レベルでの中央値の統計法(Sachs L (1988)Statistische Methoden:Planung und Auswertung.Heidelberg New York,p.60)の使用により測定された場合の、ADの指標である種々のブラーク病期に該当する個体由来のヒト脳組織検体中のPRKX遺伝子由来mRNAの絶対的なレベルの分析を示す。このデータは、ブラーク病期0乃至2の被検体を含む、コントロールと定義付けられたグループ(defining control group)に基づき算出された。これは、ブラーク病期3乃至4を含む、AD病理が進行した状態にあると定義付けられたグループを算出されたデータと比較される。GeneChip分析の結果を傍証する、上方調節を反映した顕著な差違が、前頭皮質及び下側側頭皮質において示されている。ブラーク病期0乃至2の下側側頭皮質(T)とブラーク病期3乃至4の下側側頭皮質とを比較すると、最も顕著な差異が明白である。該差異は、コントロールのヒトの下側側頭皮質及び前頭皮質に対する、AD病理の進行した個体の側頭皮質及び前頭皮質におけるPRKXの上方調節、及びAD病理の進行した個体の下側側頭皮質における、前頭皮質と比較したPRKXの上方調節を反映している。
【0089】
図4Aは、配列番号1、ヒトPRKXタンパク質のアミノ酸配列(Genbank 取得番号P51817)を開示する。全長ヒトPRKXタンパク質は、358アミノ酸を含む。
【0090】
図4Bは、配列番号2、ヒトPRKYタンパク質のアミノ酸配列(UniProt primary 取得番号 O43930)を開示する。全長ヒトPRKYタンパク質は、277個のアミノ酸を含む。
【0091】
図5Aは、PRKXタンパク質をコード化しており、2350ヌクレオチドを含む、配列番号3、ヒトPRKX cDNAのヌクレオチド配列(Genbank 取得番号 BC041073)を示す。
【0092】
図5Bは、PRKYタンパク質をコード化しており、895ヌクレオチドを含む、配列番号4、ヒトPRKY cDNAのヌクレオチド配列(Ensembl転写物ID番号ENST00000311978)を示す。
【0093】
図6Aは、1077ヌクレオチドを含み、配列番号3のヌクレオチド185乃至1261を有する、配列番号5、ヒトPRKX遺伝子のコード配列(cds)を描写する。
【0094】
図6Bは、834個のヌクレオチドを含み、配列番号4のヌクレオチド18乃至852を有する、配列番号6、ヒトPRKY遺伝子のコード配列(cds)を描写する。
【0095】
図7は、配列番号3,PRKX cDNAの断片(clipping)に対応する定量的RT−PCRによるPRKX転写レベルプロファイリングに用いられたプライマー(プライマーA、配列番号7及びプライマーB、配列番号8)の配列アライメントを描写する。
【0096】
図8は、PRKX cDNA配列の配列番号3、PRKXコード配列の配列番号5、及びPRKX転写レベルのプロファイリングに用いられた両プライマー配列(配列番号7、配列番号8)のアラインメントを図式的に示す。
【0097】
図9は、AD患者由来のヒト脳標本中に観察される、PRKXタンパク質と皮質βアミロイド斑との共沈を例証する。これとは対照的に、同年齢の非ADコントロールの個体由来の脳標本においては、このようなPRKXタンパク質の沈殿は観察されない。この典型的な例は、患者において、PRKXタンパク質がアミロイド斑(コントロールでは存在しない)と共沈(例えば、矢印)するという一般的な知見を実証する。ブラーク病期4及び1において、AD患者及び同年齢の非ADコントロール由来の、アセトンで固定した、新鮮凍結死後ヒト脳側頭皮質標本のクリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真(原倍率4倍)がそれぞれ描写されている。特異的PRKX免疫反応性は、親和性精製がなされたポリクロナールラビット抗PRKX血清(Abgent)、次いでAlexaFluor−488接合ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)によって明らかにされ、グレースケール写真(各々のパネルの4枚のうちの右上)又は結合写真中の緑色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。神経特異的体細胞マーカータンパク質NeuNは、マウスモノクロナール抗NeuN抗体(Chemicon)、次いでCy3結合ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)によって検出され、グレースケール写真(各々のパネルの4枚のうちの左上)又は結合写真中の赤色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。核は、DAPI(Sigma)によって青く染められる。4枚のうちの右下は、対応する位相差写真を示す。
【0098】
図10は、AD患者の皮質中の反応性アストロサイトが、高レベルでPRKXタンパク質を含有することを例証する。これに対し、ADの影響を受けていない、年齢に相応したコントロールの個体の皮質中のアストロサイトには、PRKXタンパク質がほんの少しのレベルしか検出されない可能性がある。ブラーク病期4と0において、AD患者(原倍率20倍)及び同年齢の非ADコントロール(原倍率40倍)由来の、アセトンで固定した、新鮮凍結死後ヒト脳側頭皮質標本のクリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真がそれぞれ描写されている。特異的PRKX免疫反応性は、親和性精製がなされたポリクロナールラビット抗PRKX血清(Abgent)、次いでAlexaFluor−488接合ヤギ抗ラビットIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)によって明らかにされ、グレースケール写真(各々のパネルの4枚のうちの右上)又は結合写真中の緑色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。アストロサイト特異的マーカータンパク質GFAPは、マウスモノクロナール抗GFAP抗体(Abcam)、次いでCy3接合ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)によって検出され、グレースケール写真(各々のパネルの4枚のうちの左上)又は結合写真中の赤色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。核は、DAPI(Sigma)によって青く染められる。4枚のうちの右下は、対応する位相差写真を示す。左のパネルは、コントロール標本中の、一の典型的なアストロサイトを示す(電力40倍)。右のパネルは、AD標本における、多くの反応性アストロサイトの特徴的な外観を示す(電力20倍)。
【0099】
図11は、PRKXタンパク質が、AD患者由来の脳組織検体中で、大量に蓄積し、斑結合活性化ミクログリア内でCD68タンパク質と共局在することを例証する。それに対し、ADの影響を受けていない、同年齢のコントロール個体由来の脳組織検体中には、PRKXタンパク質のこのような蓄積は観察されない。ブラーク病期4と1において、AD患者(原倍率40倍)及び同年齢の非ADコントロール(原倍率100倍)由来の、アセトンで固定した、新鮮凍結死後ヒト脳側頭皮質標本のクリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真がそれぞれ描写されている。特異的PRKX免疫反応性は、親和性精製がなされたポリクロナールラビット抗PRKX血清(Abgent)、次いでAlexaFluor−488結合ヤギ抗ラビットIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)によって明らかにされ、グレースケール画像(各々のパネルの4枚のうちの右上)又は結合写真中の緑色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。ミクログリア特異的マーカータンパク質CD68は、マウスポリクロナール抗CD68抗体(Dako)、次いでCy3接合ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)によって検出され、グレースケール写真(各々のパネルの4枚のうちの左上)又は結合写真中の赤色シグナル(各々のパネルの4枚のうちの左下)のいずれかのようにして可視化される。核は、DAPI(Sigma)によって青く染められる。4枚のうちの右下は、対応する位相差写真を示す。左のパネルは、コントロール標本中の、二つの典型的な小グリア細胞を示す(電力100倍)。右のパネルは、AD標本中の、アミロイド斑を構成する(populating)多くの活性型ミクログリアの特徴的な外観を示す(電力40倍)。顕微鏡写真は、斑結合活性ミクログリアによって、CD68タンパク質が大量に発現され、そしてPRKXタンパク質が同時に蓄積及び共局在し、強い黄色結合シグナル(これは、対照的にコントロール検体にはないことが発見される)を生ずることを特徴的に例示する。更に、この例は、反応性アストロサイトによるPRKXタンパク質の発現が、コントロールと比べて、ADにおいては典型的に増強されることを明らかに実証する(矢印)。
【0100】
図12は、トランスジェニックハエにおける、ヒトPRKX遺伝子のpka−C3、ショウジョウバエオルソログのmRNA発現の検出を示す。gmr−GAL4の制御の下、pka−C3特異的プライマーを用いたRT−PCRにより発現した二つの異なるpka−C3トランスジェニックハエ系における、pka−C3発現の検出が描写される。反応の効率は、サイクル数及びpka−C3特異的プライマー対のRT−PCR反応の効率(E=1.86)に従って計算される。この計算に基づき、系pka−C3[03065]のpka−C3は、コントロールのハエに比べ、2.7倍高発現である一方、系[02687]のpka−C3は、コントロールのハエに比べ下方調節されている。各遺伝型3通りについて測定がなされた。用いた遺伝型は、w;P{EPgy2}Pka−C3EY02687/gmr−GAL4;w;P{EPgy2}Pka−C3EY03065/gmr−GAL4及びw;gmr−GAL4/+であった。
【0101】
図13は、ショウジョウバエPRKXオルソログpka−C3の過剰発現により、ADトランスジェニックハエモデルにおいてTauP301L誘導光受容細胞変性が促進されることを示す。網膜の直径(黒矢印)によって判断すると、pka−C3(03065)の発現により、gmr−GAL4の制御下で、hTauP301Lを発現するハエのTauP301L誘導光受容細胞変性が促進される。pka−C3(02687、部分的機能喪失)の共発現は、TauP301L誘導表現型には、影響を及ぼさない。用いられた遺伝型は、w;P{EPgy2}Pka−C3EY03065/gmr−GAL4,UAS−TauP301L−w;P{EPgy2}Pka−C3EY02687/gmr−GAL,UAS−TauP301L−w;gmr−GAL4,UAS−TauP301L/+であった。
【0102】
図14は、ショウジョウバエPRKXオルソログpka−C3が、TauP301L及びpka−C3を共発現したハエにおけるTauP301Lのセリン214のリン酸化に関与していることを示す。pka−C3(02687)の部分的機能喪失は、野生型(wt)pka−C3(03065)トランスジーンを共発現したハエと比較して、TauP301Lのセリン214におけるリン酸化を減少させる。TauP301L及びpka−C3(03065)を共発現したハエにおいて、コントロールのハエと比べてTauP301L のリン酸化が増加するのを明らかにする一方、部分的機能喪失したpka−C3(02687)は、セリン214におけるタウのリン酸化を僅かに減少させている可能性がある(データーは有意性には達していない)ことを明らかにする、TauP301Lのリン酸化されたセリン214の定量が描写される。GraphPad Prism 3.02を用いた統計分析がなされた。用いられた遺伝型は、w;P{EPgy2}Pka−C3EY03065/gmr−GAL4,UAS−TauP301L−w;P{EPgy2}Pka−C3EY02687/gmr−GAL,UAS−TauP301L−w;gmr−GAL4,UAS−TauP301L/+であった。
【0103】
図15は、Swedish変異APPを安定に共発現したH4−神経膠腫細胞における誘導性PRKXタンパク質産物のウエスタンブロット分析を示す。PRKXは、C末端にmycがタグ化され、かつ組織培養細胞中に導入された。PRKXの発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下である。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、PRKXの発現がスイッチオンになる。細胞は回収され、可溶化され、mycエピトープに対して指向される抗体を1:3000希釈で用いたウエスタンブロット分析に供された。矢印は、約43kDaに達する濃いバンドを示す。テトラサイクリン非存在下では、同等の分子量で走る薄いバンドのみが、目に見え、誘導性プロモーターのリークによるバックグラウンドの発現がかろうじて示される。
【0104】
図16は、Swedish変異APP及びtetリプレッサーを安定に共発現するH4−神経膠腫細胞中の誘導性PRKXタンパク質産物の免疫蛍光分析を示す。PRKXは、C末端にmycがタグ化され、かつ組織培養細胞中に導入された。PRKXの発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下である。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、カバーガラス(glass cover slip)上に播種された細胞内でPRKXの発現がスイッチオンになる。24時間のインキュベーションの後、細胞は、免疫蛍光分析のためにメタノール固定され、mycエピトープに対して指向される抗体(1:3000希釈)を用いて、続いて抗myc抗体に対して指向される蛍光標識された抗体(1:1000)とともにインキュベーションすることにより、PRKXの発現が検出された。次いで、細胞は、顕微鏡のスライド上にマウントされ、蛍光顕微鏡の下で分析された。細胞の細胞質内でのPRKXの発現は、強い緑色の蛍光によって、左上及び真中の写真中で見ることができる。下のパネルでは、コントロールの細胞が同様に分析されており、緑色の蛍光を検出することはできない。上及び下の左及び右の写真における青色は、細胞の核を示し、DAPI(1:1000)により可視化されている。
【0105】
図17は、ニューロン内にヒトPRKXを発現したトランスジェニックマウスに対する標的化戦略を描写する。ターゲティングベクターは、トランスジーンをRosa26遺伝子座に組み入れるために、トランスジーン及びRosa26相同配列から構成される。短いホモロジーアーム(SA)は、約1.1kbからなり、長いホモロジーアーム(LA)は、約4.3kbからなる。Rosa26遺伝子の3つのエキソンは、ローマ数字で示される。トランスジーンは、脳特異的Thy1.2遺伝子の調節配列を含むネズミThy1.2発現カセットに位置する、ヒトPRKXのオープンリーデイングフレーム(ORF PRKX)から構成される。トランスジーンの5`プライム、ネオマイシン耐性遺伝子(NEO)及びスプライス受容体が位置し、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターにより駆動されるNeo選択マーカーの発現を可能にする。Neoマーカーの3`プライム、polyAシグナル(pA)は転写を停止させる。
【実施例】
【0106】
(実施例1:ヒト脳組織検体中の示差的に発現されたアルツハイマー病関連遺伝子の同定及び確証)
ADに関連した遺伝子の発現における具体的な差異を同定するために、臨床的にも神経病理学的にもよく特徴づけられた個体からのヒト脳組織標本に由来する多様なcRNAプローブを用いて、GeneChipマイクロアレイ(Affymetrix)分析を行った。この技術は、多様な遺伝子の発現プロフィールを作製するため、及び種々の組織検体中に存在するmRNAの量(population)と比較するために広く用いられる。本発明では、選択された死後脳組織標本(前頭皮質及び下側側頭皮質)中に存在するmRNAの量の存在を分析した。組織検体は、種々のブラーク病期に分類され得る個体に由来し得、この種々のブラーク病期は、健康なコントロールの個体(ブラーク0)とADの徴候及び症状で苦しむ個体(ブラーク4)との間の全範囲を反映した。個体遺伝子の示差的な発現の確証を、遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを用いたリアルタイム定量的PCRの適用によって行った。更に、免疫組織学的分析用の遺伝子産物特異的抗体を使用し、タンパク質レベルで、健康段階と疾患段階との間の特異的差異を分析した。この方法は、初期のブラーク病期(これは、疾患の初期課程で生じる病理学的事象を示す)での発現レベルの差を特別に検出することが企図された。従って、別個(differential)のものと同定された該遺伝子は、事実上、ADの病因に関係している。
【0107】
(i)AD患者の脳組織解剖:
AD患者及び同年齢のコントロールの被検体由来の脳組織を回収した。死後6時間以内に検体は直ちにドライアイスで凍結した。各組織の検体切片を、パラホルムアルデヒドで固定し、神経原線維病理の種々の段階で、Braak and Braakに従って、神経病理学的にブラーク病期(0−4)に段階付けした。発現差異分析のための脳領域を同定し、RNA抽出を行うまで、−80℃で保存した。
【0108】
(ii)全mRNAの単離:
全RNAを、製造者のプロトコールに従って、RNeasyキット(Qiagen)を使用することによって、死後凍結脳組織より抽出した。正確なRNA濃度及びRNA品質を、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いることにより、Eukaryote total RNA Nano LabChip systemの適用により決定した。調製したRNAの追加的品質試験(すなわち、部分的分解物の除外)及びDNAの混入の試験のために、特別に設計されたイントロンのGAPDHオリゴヌクレオチド及びゲノムDNAを、基準コントロールとして利用し、製造者により提供されたプロトコール中に記載されたようにして、LightCyclerテクノロジー(Roche)を用いて融解曲線を生み出した。
【0109】
(iii)プローブ合成:
ここで、上記(ii)で記載されたようにして抽出した全RNAを、出発物質として用いた。cDNAの生産のために、製造者のプロトコール(Roche)に従って、cDNA Synthesis Systemを行った。製造業者のプロトコールに従って試験管内転写T7−Megascript−Kit(Ambion)を利用して、cDNA検体を、cRNAに転写し、そしてビオチンで標識した。cRNA品質を、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いて、mRNA Smear Nano LabChip Systemを利用し、決定した。正確なcRNAの濃度は、測光分析(OD260/280nm)により決定した。
【0110】
(iv)GeneChipハイブリダイゼーション:
市販のスパイクコントロール(Affymetrix)bioB(1.5pM)、bioC(5pM)、bioD(25pM)及びcre(100pM)と共に、精製及び断片化したビオチン標識化cRNAプローブを、各々ハイブリダイゼーション緩衝液(0.1mg/ml Herring Sperm DNA,0.5mg/ml Acetylated BSA,1×MES)中に60ng/μlの濃度で再懸濁し、その後5分間、99℃で変性(denature)させた。続いて、プローブを、一のプレハイブリダイズした(1×MES)Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)に各々適用した。アレイハイブリダイゼーションを、一晩、45℃、60rpmで行った。マイクロアレイの洗浄及び染色は、GeneChip Operating System(GCOS)1.2(Affymetrix)によって制御されたEukGe_WS2v4(Affymetrix)の取り扱い説明書に従った。
【0111】
(v)GeneChipデータ分析:
蛍光生データを、GCOS 1.2 ソフトウエア(Affymetrix)により制御されるGeneScanner 3000(Affymetrix)を使用して獲得した。データ分析は、DecisionSite 8.0 for Functional Genomics(Spotfire)を用いることにより行った:生データを、GCOS 1.2 software(Affymetrix)によって、「存在」しているとされたものに限定した;生データの標準化は、百分位数値で表した;mRNA発現差異プロフィールの検出を、Spotfireソフトウェアのプロフィール探索ツールを用いて行った。PRKXタンパク質をコードした遺伝子に対するこのようなGeneChipデータ分析の結果を、図1に示す。
【0112】
(vi)定量的RT−PCRによる遺伝子発現差異の確証:
PRKX遺伝子発現差異の肯定的確証を、LightCyclerテクノロジー(Roche)を用いて行った。この技術は、増幅の間のポリメラーゼ連鎖反応についての高速熱サイクル及び蛍光シグナルのリアルタイム測定に特徴を有し、それ故、一端読み取りよりもむしろ動的読み取りを用いることにより、RT−PCR産物の高度に正確な定量を可能としている。AD患者及び同年齢のコントロールの個体各々の前頭皮質及び下側側頭皮質由来のPRKX cDNAの相対量を、最大9組織まで、ブラーク病期ごとに4つの数において各々決定した。
【0113】
先ず、PRKXをコードする遺伝子に対する特異的プライマーを用い、PCRの効率を決定するために検量線を作成した。
【0114】
プライマーA、配列番号7,5’−TGGGGAGGTCTACCTTCAGTATC−3’(配列番号3のヌクレオチド1865−1887)及びプライマーB、配列番号8,3’−GGGAAGATATGGGAGCGAATT−5’(配列番号3のヌクレオチド1939−1959)。
【0115】
PCR増幅(95℃及び1秒、56℃及び5秒、並びに72℃及び5秒)を、20μlの容積(LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I mix(FastStart Taq DNAポリメラーゼ,反応溶液,dTTPの代わりにdUTPを混和させたdNTP,SYBR Green Iダイ及び1mM MgCl;Roche),0.5μMプライマー,2μlのcDNA段階希釈物(最終濃度40,20,10,5,1及び0.5ngヒト全脳cDNA;Clontech)並びにさらに3mMのMgClを含有する)で行った。融解曲線分析により、約79.5℃で、目に見えるプライマーダイマーのない、単一ピークを示した。qPCR産物の質及び大きさを、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を用いたDNA 500 LabChipシステムを適用し、決定した。PRKXタンパク質をコードした遺伝子に予想される95bpの大きさにおける単一ピークを、検体の電気泳動図において観察した。
【0116】
3mMのMgClの代わりに、MgClをさらに1mM加えた点以外は同様の様式で、シクロフィリンB(cyclophilin B)のPCR効果を決定するために、特異的プライマー配列番号9,5’−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3’及び配列番号10,5’−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3’を用いて、qPCRプロトコールを適用した。融解曲線分析により、約87℃で、単一ピークを示し、プライマーダイマーが目に見えなかった。PCR産物のバイオアナライザー分析は、予期された大きさ(62bp)の一のピークを示した。
まず、標準値の計算のために、用いたcDNA濃度の対数を、それぞれPRKX及びシクロフィリンB(Cyclophilin B)の閾周期値(threshold cycle value)Ctに対してプロットした。検量線(すなわち、直線回帰)の傾き及び切片を計算した。第2段階において、コントロール及びAD患者の前頭皮質及び下側側頭皮質由来のmRNA発現を、並行して分析した。Ct値は、対応する検量線:
10^(Ct値−切片)/傾き[ng全脳cDNA]
を用いて測定し、そしてng全脳cDNAに変換した。計算したcDNA濃度値を、試験した各組織プローブについて並行して分析されたシクロフィリンBに対して標準化し、そして得られた値を、任意相対的発現レベルとして定義した。PRKXタンパク質をコードする遺伝子に対する、このような定量的RT−PCR分析の結果を図2に示す。
【0117】
(vii)種々のブラーク病期に分類された組織検体を比較したmRNA発現の差異の統計的分析
この分析において、種々の時点での種々の実験間の、リアルタイム定量的PCR(Lightcycler法)の絶対値は、キャリブレーターを使用しなくても、定量的な比較に使用するのに十分一貫していることが証明された。シクロフィリンは、100組織より多くのqPCR実験のいずれかで、標準化の基準として使用した。標準化実験において、とりわけ、シクロフィリンが最も一貫して発現したハウスキーピング遺伝子であることが見出された。それ故、シクロフィリンに対して得られた値を用いることにより、概念の証明がなされた。
【0118】
第一の分析は、3人の異なるドナーの前頭皮質及び下側側頭皮質の組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いた。全分析実験において、各組織から同一のcDNA調製物を使用した。この分析においては、データの小さな数のために、正規分布が達成されなかった。それ故、中央値及びその98%信頼度レベルの方法を適用した(Sachs L(1988) Statistische Methoden:Planung und Auswertung.Heidelberg New York,p.60)。この分析は、絶対値の比較に関して中央値から8.7%の中間偏差(middle deviation)、及び相対的比較に関して中央値から6.6%の中間偏差を示した。
【0119】
第二の分析は、2人の異なる各ドナーの前頭皮質及び下側側頭皮質におけるqPCR実験からのシクロフィリン値を用いたが、種々の時点からの種々のcDNA調製物を用いた。この分析は、絶対値の比較に関して中央値から29.2%の中間偏差、及び相対的比較に関して中央値から17.6%の中間偏差を示した。この分析から、qPCR実験からの絶対値が使用され得るが、中央値から得られた中間偏差が、更に考慮されるべきであると結論した。
【0120】
PRKXの絶対値の詳細な分析を、中央値及びその98%信頼度レベルの方法を用いて行った。平均値とは対照的に、中央値の計算は、単一の域外値に影響されない;それ故、後者は、異常に及び/又は非対称に分布する少数のデータの選択の方法である(Sachs L (1988) Statistische Methoden:Planung und Auswertung.Heidelberg New York,p.60)。それ故、PRKXの絶対的レベルは、シクロフィリンとの相対的標準化の後に使用した。中央値及び98%信頼度レベルを、低レベルブラーク病期(ブラーク0乃至ブラーク2)から構成されるグループ及び高レベルブラーク病期(ブラーク3乃至ブラーク4)から構成されるグループに対し、計算した。この分析は、AD病理の過程内の、mRNAの発現差の初期の開始を同定することを目的とした。上に記載の分析を、図3に示す。
【0121】
(viii)免疫組織化学的分析を適用した、タンパク質レベルでのPRKX遺伝子の発現差異とADとの関連性の確証
ヒト脳内PRKXの免疫蛍光染色のために、及びADの影響を受けた組織とコントロール組織との比較のために、患者を含むドナーであって、Braak and Braakに従って神経原線維病理学の種々の段階(本明細書を通して、簡潔に「ブラーク病期」と呼ばれる)で臨床的にADと診断されかつ神経病理学的にADと確証されたドナー及び臨床的にも神経病理学的にもADの徴候のない同年齢の非ADコントロールの個体に由来する死後新鮮凍結前頭前脳標本及び死後新鮮凍結側頭前脳標本を、クリオスタット(Leica CM3050S)を用いて、薄さ14μmに切った。この組織切片を、室温で空気乾燥し、10分間アセトンで固定し、そして再度空気乾燥した。PBSで洗浄後、切片をブロッキング緩衝液(PBS中、10%正常ウマ血清、0.2%TritonX−100)で30分間、プレインキュベートし、そして次いで、ブロッキング緩衝液中の親和性精製抗PRKXウサギポリクロナール抗体(Abgent/BioCat,Heidelberg,Germany)(1:20希釈)で、一晩4℃にてインキュベートした。0.1% TritonX−100/PBSで3回リンスした後、切片を、1% BSA/PBS中Fluor−488−結合ヤギ抗ラビットIgG抗血清(Jackson/Dianova,Hamburg,Germany)(1:1500希釈)で2時間室温でインキュベートし、そして次いで再度PBSで洗浄した。(i)神経体細胞(neuronal somata)又は(ii)アストロサイト又は(iii)ミクログリアのいずれかの同時染色は、それぞれ(i)ニューロン特異的ソマティックマーカータンパク質NeuN(Chemicon,Hampshire,UK;350倍希釈)又は(ii)アストロサイト特異的マーカータンパク質のグリア酸性原線維タンパク質(GFAP,Abcam,Cambridge,UK;250倍希釈)又は(iii)ミクログリア特異的マーカーCD68(Dako,Hamburg,Germany;100倍希釈)のいずれかに対する更なるマウスモノクロナール抗体を用いて上記のようにし、いずれの場合でも、続いて、各場合においてCy3接合ヤギ抗マウス二次抗体(Jackson/Dianova;800倍希釈)を用いて、行った。核の染色は、PBS中5μM DAPIに3分間切片をインキュベーションすることにより行った。リポフスチンの自己蛍光を防止するために、切片は、70%エタノール中、脂溶性黒染料Sudan Black B(1%w/v)で5分間室温で処理し、そして順次、70%エタノール、蒸留水、そしてPBS中に連続的に浸した。切片は、ProLong−Goldアンチフェードマウント媒体(antifade mount medium)(Invitrogen/Molecular Probes,Karlsruhe,Germany)と共にカバースリップした。顕微鏡写真は、水銀灯直立顕微鏡(BX51,Olympus,Hamburg,Germany)を用い、落射蛍光又は位相差照明条件を用いて得た。適当なジクロムフィルター及び鏡組み合わせ(本明細書中でこれ以降、「チャンネル」と呼ぶ)を、いずれかの蛍光色素(AlexaFluor−488,Cy3,DAPI)の特異的な励起のために、及び該抗体又は核DAPI染色による特異的標識により生じる放出された蛍光の読み出しのために用いた。顕微鏡写真は、電荷結合ディスプレイカメラ(charge−coupled display camera)、及び適当な写真獲得(image acquisiton)、及び処理ソフト(ColorView−II及びAnalySIS,Soft Imaging System,Olympus,Germany)によってデジタル方式で撮った。異なったチャンネルから得られた蛍光顕微鏡写真を、上記特異的免疫標識、及び核(DAPI)の、GRBモードでの同時観察を生み出すために(例えば、最大3つの異なるチャンネルからのシグナルの共局在を分析するために)重ね合わせた。
【0122】
(実施例2:トランスジェニックキイロショウジョウバエ、細胞培養系、そしてトランスジェニックマウスモデルを用いたADにおけるPRKXの機能の分析)
【0123】
ヒトBACEトランスジェニックハエ、及びヒトTauP301Lトランスジェニックハエを、Greeve等(Greeve et al.,J.Neurosci.2004,24:3899−3906)に従って、また本発明で記載したようにして生み出した。ヒト微小管結合タンパク質タウアイソフォームNP_005901.2(RefSeqペプチドID)の全オープンリーディングフレームを含んだ1.4kbEcoRI制限断片を、GAL4結合部位UAS(Brand及びPerrimon,Development 1993,118:401−15)のpUAST下流のEcoRI部位にサブクローニングした。CをTにする変異(cC/Tgggaggcg)を、アミノ酸部位301においてプロリン(CCG)をロイシン(CTG)に変化させるために導入した(TauP301L,cDNAを、Jurgen Goetz,Gotz et al.,Science 2001;24 Vol.293.no.5534,pp.1491−1495によって親切にも提供された)。Pエレメント媒介性生殖細胞系列形質転換を、Spradling と Rubinの記載のようにして(Rubin及びSpradling,Science 1982,218:348−53;Spradling及びRubin,Science 1982,218:341−7)行った。独立した3つのヒトTauP301Lトランスジェニックハエ系を、全長タウタンパク質の発現のために、生み出し、そして試験した。
【0124】
ヒトAPP及びショウジョウバエプレセニリンランスジェニックハエ、UAS−APP695II及びUAS−DPsn−変異体(L235P)は、親切にもR.Paro及びE.Fortiniにより提供された(Fossgreen et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1998,95:13703−8;Ye及びFortini,J Cell Biol 1999,146:1351−64)。ショジョウバエの内因性pka−C3遺伝子(ヒトPRKX遺伝子のホモログ)の発現に影響を与える2つのショウジョウバエランスジェニックPエレメント系は、Bloomington Drosophila Stock Center(#19832;y1 w67c23;P{EPgy2}Pka−C3EY03065及び#15581;y1 w67c23;P{EPgy2}Pka−C3EY02687)から入手した。F.Pignoniから入手したgmr−GAL4駆動(driver)系は、トランス遺伝子の眼特異的発現を達成するために用いた。
【0125】
(i)トランスジェニックハエの遺伝学:
遺伝的交雑を、25℃で標準的なショウジョウバエ培養培地で引き起こした。用いた遺伝子型は、w;UAS−hAPP695,UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4/Tm3−w;UAS−hAPP695,UAS−hBACE437/CyO; gmr−GAL4,UAS−DPsnL235P/Tm3−w;gmr−GAL4,UAS−TauP310L−y1 w67c23;P{EPgy2}Pka−C3EY02687及び.y1w67c23; P{EPgy2}Pka−C3EY03065(インディアナ大学でBloomington Drosophila Stock Centerより入手した)であった。
【0126】
(ii)トランスジェニックハエの免疫組織化学:
免疫組織化学及び組織学的分析のために、成虫のハエを4%パラホルムアルデヒドにて3時間固定し、PBSで1回洗浄し、そして25%スクロースに移し、4℃で一晩インキュベーションした。ハエは、カミソリで断頭し、頭部をTissue Tek(Sakura)に埋め込み、液体窒素にて即凍結させた。10μmの水平凍結切片は、クリオスタット(Leica CM3050S)を用いて調製した。免疫染色を、製造業者の取り扱い説明書に従って、Vectastain Eliteキット(Vector Laboratories)を用いて行った。以下の一次抗体を用いて、成虫網膜細胞の光受容体細胞を染色した:Developmental Studies Hybridoma Bankによって提供された24B10(alpha− chaoptin,1:5)。
チオフラビンS染色のために、10μmパラフィンを埋め込んだ切片を、Mayers Hemalum(Sigma)で5分間対比染色し、水道水で10分間リンスし、1%チオフラビンS(Sigma)水溶液中で3分間染色した。スライドは、蒸留水で数回リンスし、1%酢酸中で15分間インキュベートし、水道水でリンスし、そしてVectashieldマウント媒体(Vector laboratories)にマウントした。スライドを、Olympus BX51蛍光顕微鏡(430nm 励起、550nm 発光)にて分析した。斑は手で数え、統計分析を、GraphPad Prism 3.02を用いることにより行った。
【0127】
(iii)PKA−C3トランスジェニックハエにおけるAbeta測定:
Abetaの免疫沈降のために、ハエ頭部を、1×PBS、5mM EDTA、0.5% TritonX−100、及び1×プロテアーゼ阻害剤の混和Complete(Roche Applied Science)中で、ホモジナイズした。溶解物は、Clontechからの抗体プロトコールガイドにおいて記載されているようにして、抗体で処理した。抗体mab6E10抗体(抗Abeta1−16,Signet Pathology Systems)を、免疫沈降のために使用した。検体を、10−20%勾配Novex Tris−Tricineゲル(Invitrogen)で分離し、そしてProtran BA 79 Celluloseナイトレート膜(0.1μm,Schleicher/Schuell,Dassel,Germany)上にブロットした。βアミロイドの検出は、mab 6E10及びヤギ抗マウスペルオキシダーゼ接合二次抗体(Dianova)を用い、記されているようにして行った(Ida et al.,J Biol Chem 1996,271:22908−14)。
【0128】
(iv)PKA−C3トランスジェニックハエの発現分析:
トランスジェニックショウジョウバエにおけるショウジョウバエpka−C3の発現を検出するために、逆転写PCR(RT−PCR Reaction)反応を、本発明で記載のようにして(例1(vi))、pka−C3特異的プライマー(5’−AGAGGCATCGCTGGTTCAAG,3’−GTACATCGGGCAAAATTGGTG)を用いて行った。
【0129】
(v)pS214特異的ELISA:
10個のハエ頭部を、ホスファターゼ阻害剤を含有する50μlの細胞可溶化緩衝液(10mM Tris,pH7.4;100mM NaCl;1mM EDTA;1mM EGTA;1mM NaF;20mM Na;2mM NaVO;1% TritonX−100;10%グリセロール;0.1% SDS;0.5% デオキシコレート,10μMオカダ酸)中でホモジナイズした。溶解物を、13000rpmで3分間遠心し、上清を100倍希釈で使用し、製造業者のプロトコールに従って、ヒト タウ [pS214]免疫アッセイキット(Biosource)を用いることでTauP301LのS214でのリン酸化を決定した。リン酸化されたS214の量を、ヒトタウ[全]イムノアッセイキット(Biosource)を用いることにより、TauP301Lの全量に対して、標準化した。同一のライセートを、8000倍希釈で用いた。GraphPad Prism 3.02を、統計的分析のために用いた。
【0130】
(vi)PRKXを誘導的に発現する細胞系の産生:
Swedish変異アミロイド前駆体タンパク質(APP)を発現するH4−神経膠腫細胞系に、pcDNA6/TR−ベクター(これは、Invitrogen#K1020−01より購入した)上にコード化されるtet受容体をトランスフェクトし、抗生物質ブラストサイジンの添加後、クローン細胞を単離した。次いで、得られた細胞系を用いて、細胞内のtet−オペレーター配列の制御の下でPRKXを導入した。PRKXの発現は、製造業者の取り扱い説明書(Invitrogen #K1020−01)に従い、1μg/mlテトラサイクリンの添加により、誘導され得る。
【0131】
(vii)PRKXを発現したトランスジェニックマウスの産生:
特異的にヒトPRKXのcDNAを神経細胞内で発現させるために、PRKXトランスジェニックマウスを産生した。この目的のために、神経特異的発現を導き、そして次いで脳細胞内にのみ発現を引き起こさせるため(Luthi及びvan der Putten,J.Neuroscience 1997,17:4688−4699)、脳特異的Thy1調節配列(Thy1.2プロモーター+調節エレメント)を含むマウスのThy1.2 発現カセットの中に、ヒトPRKXのオープンリーディングフレーム(ORF PRKX)cDNAをクローン化した。トランスジーンを、Rosa26遺伝子座中に配列を集約するために、Rosa26ターゲティングベクターの中にクローン化した(染色体6上のマウスRosa beta geo 26遺伝子;J:39814,Seibler et al,Nucleic Acids Research 2003,31:e12)。トランスジーンの5`プライム、Neo選択マーカーを置いた(図20を参照のこと)。Neoカセットは、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターによって駆動されるNeo選択マーカーの発現を可能にするスプライス受容体を含む(Friedrich及びSoriano,Genes Dev.1991,5:1513−1523;Zambrowicz et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:3789−3794)。NeoマーカーのpolyAシグナル(pA)の3`プライムは、転写及びRosaプロモーターの影響を停止させる。ターゲティングベクターは、Rosa26遺伝子座中において相同組換えをもたらすゲノム129S6DNAに由来するRosa26相同配列を含む。短いホモロジーアーム(SA)は、約1.1kbからなり、長いホモロジーアーム(LA)は、約4.3kbからなる。
ターゲティングベクターをクローン化し、そしてさらにC57BI/6Nマウス胚幹細胞(ES)にトランスフェクトした(Hogan et al.,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Mnual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1994並びにJackson及びAbbott,Mouse Genetics and Transgenics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford,England,1999)。相同組換えの後、標的化したES細胞クローンを、サザンブロット分析により同定し、標準的な技術を用いてキメラマウスを生み出すために胚盤胞へ注入した(Tymms及びKola,Gene Knock Out Protocols,Humana Press 2001)。生み出したキメラマウスの生殖細胞系列の伝達が成功した後、この動物を、トランスジェニックADマウスモデルと交雑し、ADバックグラウンドでトランスジェニックPRKXマウスを生み出した。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、ヒト脳組織検体中のPRKX遺伝子由来mRNAのレベルの差異を同定したものであって、上記ヒト脳組織検体が、種々のBraak期に該当する個人に由来するもの、を開示する。Braak and Braak(ブラーク病期)に従った脳組織検体の神経病理学的な病期分類により測定した場合、これは、各々のmRNA種のレベルがADの進行と量的に相関し、従ってADの指標であることを示唆する。
【図2】図2は、定量的RT−PCR分析により測定した場合の、ヒト脳組織検体中のPRKX遺伝子由来のmRNAのレベルの差異を証明するためのデータを列挙するものであって、上記ヒト組織検体は、ADの指標である種々のブラーク病期に該当する。
【図3】図3は、定量的RT−PCR分析及び98%信頼度レベルでの中央値の統計的方法の使用により測定された場合の、ADの指標である種々のブラーク病期に従った個体由来のヒト脳組織検体中のPRKX遺伝子由来mRNAの絶対的レベルの分析を示す。
【図4A】図4Aは、配列番号1、ヒトPRKXタンパク質のアミノ酸配列を開示する。
【図4B】図4Bは、配列番号2、ヒトPRKYタンパク質のアミノ酸配列を開示する。
【図5A】図5Aは、配列番号3、ヒトPRKXcDNAのヌクレオチド配列を示す。
【図5B】図5Bは、配列番号4、ヒトPRKYcDNAのヌクレオチド配列を示す。
【図6A】図6Aは、配列番号5、ヒトPRKX遺伝子のコード配列(cds)を描写する。
【図6B】図6Bは、配列番号6、ヒトPRKY遺伝子のコード配列(cds)を描写する。
【図7】図7は、PRKX遺伝子由来mRNAのレベルを、定量的RT−PCRにより、対応するPRKX cDNAの断片(clipping)を用いて測定するために使用されたプライマーの配列アライメントを描写する。
【図8】図8は、PRKXの、cDNA配列、コード配列及びPRKX転写レベルプロファイリングに使用された両プライマーの配列アライメントを模式的に図表化したものである。
【図9】図9は、AD患者(ブラーク病期4)由来のヒト脳検体中でのPRKXタンパク質と皮質βアミロイド斑との共沈を例証する。対照的に、ADの徴候及び症状に苦しんでいると診断されていない、同年齢のコントロール(ブラーク病期0)由来の脳検体中には、このようなPRKXタンパク質の沈殿は観察されない。
【図10】図10は、AD患者(ブラーク病期4)の皮質中の反応性アストロサイトが、PRKXタンパク質を高レベルで含有することを例証する。対照的に、ADの徴候及び症状に苦しんでいるとは診断されていない、同年齢のコントロール(ブラーク病期0)の皮質中のアストロサイト内には、低レベルのPRKXタンパク質しか見出すことが出来ない。
【図11】図11は、AD患者(Braak4)由来の脳組織検体において、PRKXタンパク質が重度に蓄積され、そして斑結合活性化小神経膠細胞(plaaque−associated activated microglia)内でCD68タンパク質と共局在していることを例証する。対照的に、ADの徴候及び症状に苦しんでいるとは診断されていない、同年齢のコントロール(Braak 1)由来の脳組織検体中には、このようなPRKXタンパク質の蓄積は検知されない。
【図12】図12は、2つの異なるpka−C3トランスジェニックハエ系統におけるショウジョウバエpka−C3(ヒトPRKX遺伝子のオルソログ)のmRNAの発現の検出を示す。
【図13】図13は、ハエ網膜の直径により判断する場合、ショウジョウバエPRKXオルソログpka−C3の過剰発現により、トランスジェニックハエにおけるTauP301L誘導型光受容体の変性が加速されることを示す。
【図14】図14は、TauP301L及びpka−C3が共発現したハエにおいて、ショウジョウバエのPRKXオルソログpka−C3がTauP301Lのセリン214のリン酸化に関与することを示している。pka−C3(02687)の部分的な機能欠損は、野生型のpka−C3(03065)トランスジーンを共発現しているハエと比べて、セリン214におけるTauP301Lのリン酸化を減少させる。
【図15】図15は、Swedish変異APPを安定に共発現するH4−神経膠腫(neuroglioma)内で誘導性のPRKXタンパク質産物のウエスタンブロット分析を示す。
【図16】図16は、Swedish変異APPを安定に共発現するH4−神経膠腫内で誘導性のPRKXタンパク質産物の免疫蛍光分析を示す。
【図17】図17は、ニューロン内でヒトPRKX遺伝子を発現しているトランスジェニックマウスに対する標的戦略を描写する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体中の神経変性疾患を診断若しくは予後判定する方法、又は被検体が該疾患を進展させる素因を有するかを決定する方法、又は神経変性疾患を有する被検体に施した治療の効果をモニタリングする方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該被検体から採取した検体中の、(i)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードした遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)該転写産物又は翻訳産物の断片又は誘導体又は改変体のレベル及び/又は活性を決定する、工程、
b)該転写産物及び/又は該翻訳産物及び/又はこれらの断片、誘導体若しくは改変体の該レベル及び/又は該活性と、公知の疾患状態を表す基準値及び/又は公知の健康状態を表す基準値及び/又は公知のブラーク病期を表した基準値とを比較する、工程
c)該レベル及び/又は該活性が、公知の健康状態を表した基準値と比較して変動しているか、及び/又は公知の疾患状態を表す基準値若しくは、公知のブラーク病期を表す基準値と類似しているか又はこれに等しいかを分析する工程であって、該公知のブラーク病期が、該被検体が神経変性疾患を有していること、若しくは該被検体が該疾患を発症させる危険性が増加していること、若しくは該治療が該被検体中で効果を有することを示唆する、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記神経変性疾患が、アルツハイマー病である、方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法であって、前記PRKXタンパク質をコードする遺伝子が、配列番号1を有するPRKXタンパク質をコードする遺伝子であり、かつ、前記PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物が、配列番号1を有するPRKXタンパク質である、方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、前記配列番号1のアミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、方法。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項4に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法に従って、被検体中の神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を診断若しくは予後判定するための、又は被験体のそのような疾患を進展させる素因を決定するための、又は神経変性疾患を有する被検体に施した治療の効果をモニタリングするための、キットの使用であって、該キットが、(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)該転写産物若しくは翻訳産物の、断片若しくは誘導体若しくは改変体、を検出する試薬からなる群より選択された少なくとも一の試薬を含む、キットの使用。
【請求項7】
請求項6に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、使用。
【請求項8】
請求項6に記載の使用であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項9】
請求項6又は請求項8に記載の使用であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、使用。
【請求項10】
遺伝的に改変された非ヒト動物であって、PRKXタンパク質又はこれの断片若しくは誘導体若しくは改変体をコードする非ネイティブ遺伝子を、ネイティブPRKX遺伝子転写制御エレメントではない転写エレメントで制御し、前記遺伝子配列の発現、断絶、又は変更により、該非ヒト動物が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病関連の徴候を進展させる素因を示す、遺伝的に改変された非ヒト動物。
【請求項11】
請求項10に記載の動物であって、前記徴候が、神経原線維変化の形成を含み、及び/又は該動物が、昆虫又は齧歯動物である、動物。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の遺伝的に改変された非ヒト動物であって、PRKXタンパク質をコードする非ネイティブ遺伝子配列を含み、該PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、遺伝的に改変された非ヒト動物。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の遺伝的に改変された非ヒト動物であって、PRKXタンパク質の改変体をコードする非ネイティブ遺伝子配列を含み、該改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、遺伝的に改変された非ヒト動物。
【請求項14】
請求項10、請求項11又は請求項13のいずれか1項に記載の遺伝的に改変された非ヒト動物であって、PRKXタンパク質の改変体をコードする非ネイティブ遺伝子配列を含み、該改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、遺伝的に改変された非ヒト動物。
【請求項15】
請求項10から請求項14のいずれか1項に記載の遺伝的に改変された非ヒト動物の、非ヒト試験動物及び/又はコントロール動物としての使用であって、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防に有用な診断法及び治療法の開発における化合物、薬剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び確証するための、使用。
【請求項16】
PRKXタンパク質をコードする遺伝子配列又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体が、スクリーニング、試験及び確証のために発現され、破壊され又は変更された細胞の使用であって、該スクリーニング、試験及び確証が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防に有用である診断法及び治療法の開発における化合物、薬剤、及びモジュレーターをスクリーニング、試験、及び認証するための、使用。
【請求項17】
請求項16又は請求項55に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、配列番号1を有する、使用。
【請求項18】
請求項16又は請求項55に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対し、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項19】
請求項16又は請求項55に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号2を含み、好ましくは、配列番号2から構成される、使用。
【請求項20】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防に使用するための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを同定するためのスクリーニングの方法であって、該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストが、以下:
(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)乃至(iii)の、断片若しくは誘導体若しくは改変体、
からなる群より選択される一以上の物質の、発現又はレベル又は活性を変更させる能力を有し、
該方法が、以下:
(a)細胞と試験化合物とを接触させる、工程;
(b)(i)乃至(iv)に列挙した一以上の物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する、工程;
(c)該試験化合物と接触していないコントロール細胞における、(i)乃至(iv)に列挙した一以上の物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する、工程;並びに
工程(b)及び(c)の該細胞における、該物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較する工程、を包含し、該接触された細胞における該物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現の変更が、該試験化合物が、該神経変性疾患の治療又は予防に有用な薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであることを示す、方法。
【請求項21】
請求項20の方法であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、方法。
【請求項23】
請求項20又は請求項22に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、方法。
【請求項24】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防に使用するための、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを同定するためのスクリーニングの方法であって、該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストが、以下:
(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)乃至(iii)の断片若しくは誘導体若しくは改変体、
からなる群より選択される一以上の物質の、発現又はレベル又は活性を変更させる能力を有し、
該方法が、以下:
(a)試験化合物を、神経変性疾患又は関連疾患若しくは関連障害の徴候及び症状を進展させる素因が与えられているか又は既に進展させた非ヒト試験動物に投与する工程;
(b)(i)から(iv)に列挙した一以上の物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する工程;
(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは関連障害の徴候及び症状を進展させる素因が与えられているか又は既に進展させた非ヒト試験動物並びにこのような試験化合物が投与されていない非ヒト動物中の(i)乃至(iv)に列挙した一以上の物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する工程;
(d)工程(b)及び(c)の該動物中の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較する工程であって、該非ヒト試験動物における物質の該活性及び/又はレベル及び/又は発現の変更が、該試験化合物が、該神経変性疾患の治療又は予防に用いる薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであることを示す、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記PRKXタンパク質が、配列番号1を有する、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、方法。
【請求項27】
請求項24又は請求項26に記載の方法であって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、方法。
【請求項28】
化合物を試験するためのアッセイ、或いは神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防に使用する薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを同定するために好ましくはハイスループット形態で複数の化合物をスクリーニングするためのアッセイであって、該アッセイにおいて、リガンドとPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合の阻害の程度又は結合の増強の程度が決定され、及び/又は該化合物とPRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体との結合の程度が決定される、アッセイ。
【請求項29】
請求項28に記載のアッセイであって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、アッセイ。
【請求項30】
請求項28に記載のアッセイであって、前記翻訳産物の前記改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、アッセイ。
【請求項31】
請求項28又は請求項30に記載のアッセイであって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、アッセイ。
【請求項32】
(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)乃至(iii)の、断片若しくは誘導体若しくは改変体、
からなる群より選択される少なくとも一の物質の、レベル及び/又は活性及び/又は発現の、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであって、
該薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストが、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防において潜在的な活性を有する、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニスト。
【請求項33】
請求項32に記載の薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニスト。
【請求項34】
請求項32に記載の薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対し、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニスト。
【請求項35】
請求項32又は請求項34に記載の薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストであって、前記翻訳産物の改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニスト。
【請求項36】
請求項32から請求項35のいずれか1項において特許請求された薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストの使用、及びPRKXタンパク質をコードする遺伝子又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の翻訳産物である免疫原に対し特異的に免疫反応性の抗体の使用であって、該使用が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防のための医薬の製造における使用である、使用。
【請求項37】
請求項36に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、使用。
【請求項38】
請求項36に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項39】
請求項36又は請求項38に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、使用。
【請求項40】
請求項20から請求項31のいずれか1項に記載のアッセイにより取得可能な、請求項32から請求項35のいずれか1項に記載の少なくとも一の物質の、レベル及び/又は活性及び/又は発現の、薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニスト。
【請求項41】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療又は予防する方法であって、該方法が、このような治療又は予防を必要とする被検体に対し、請求項32から請求項35のいずれか1項に特許請求された薬剤、モジュレーター、アンタゴニスト又はアゴニストを、治療上又は予防上有効な量で投与及び処方する工程を包含する、方法。
【請求項42】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断上の標的としての、タンパク質分子の使用であって、該タンパク質分子が、PRKXタンパク質をコードする遺伝子又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の翻訳産物である、使用。
【請求項43】
請求項42に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、使用。
【請求項44】
請求項42に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対し、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項45】
請求項42又は請求項44に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、使用。
【請求項46】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防又は治療又は寛解する、モジュレーター、薬剤又は化合物のスクリーニング標的としてのタンパク質分子の使用であって、該タンパク質分子が、PRKXタンパク質又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体である、タンパク質分子の使用。
【請求項47】
請求項46に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、使用。
【請求項48】
請求項46に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号1の前記アミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項49】
請求項46又は請求項48に記載の使用であって、前記改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、使用。
【請求項50】
免疫原に対して特異的に免疫反応性の抗体の使用であって、該免疫原が、PRKXタンパク質をコードする遺伝子又はその断片若しくは誘導体若しくは改変体の翻訳産物であり、該抗体が、被験体から得られた検体中の細胞の病理学的状態を検出するための抗体であって、該検出が、該細胞の該抗体を用いた免疫細胞化学的染色を包含し、該細胞の該抗体を用いた免疫細胞化学的染色の程度又は染色パターンが、公知の健康状態を表す基準値と比較して変更されていることが、該細胞の、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関連する病理学的状態を示す、使用。
【請求項51】
請求項50に記載の使用であって、前記PRKXタンパク質が、前記配列番号1を有する、使用。
【請求項52】
請求項50に記載の使用であって、前記改変体が、前記配列番号1のアミノ酸に対して、少なくとも200アミノ酸の長さに亘って、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性を有する、使用。
【請求項53】
請求項50又は請求項52の使用であって、前記改変体が、配列番号2を含み、好ましくは配列番号2から構成される、使用。
【請求項54】
(i)PRKXタンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)該PRKXタンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)乃至(iii)の、断片又は誘導体若しくは改変体、
からなる群より選択される少なくとも一の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現のアンタゴニストを含有する医薬であって、該アンタゴニストが、アンチセンス核酸、抗体、又は抗体断片、siRNA、リボザイム、アプタマー及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、医薬。
【請求項55】
請求項16に記載の細胞の使用であって、前記遺伝子配列の発現、断絶、又は変更が、神経変性疾患の徴候、特にアルツハイマー病に関連した徴候、及び対状螺旋状フィラメント(PHF)の形成を含む、より詳細な徴候を進展させる素因を示す該細胞を生み出す、細胞の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公表番号】特表2008−545423(P2008−545423A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514099(P2008−514099)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062741
【国際公開番号】WO2006/128879
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】