説明

神経変性疾患の処置における亜塩素酸

【課題】筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、または多発性硬化症(MS)の新規治療法の提供。
【解決手段】血中免疫細胞活性化を減少させるのに有効な量の亜塩素酸を投与することによって、対象におけるマクロファージ関連神経変性疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、または多発性硬化症(MS)を処置する。また、治療前および治療後に血中免疫細胞活性化を評価することによって治療を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に神経変性疾患、特に病的マクロファージを特徴とする神経変性疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、HIV関連神経障害、またはアルツハイマー病(AD)の処置における亜塩素酸の使用に関する。
【0002】
政府の権利
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された連邦助成金番号U01-CA66529の下に、政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
神経変性疾患は一般に、個体の脳または神経系におけるニューロンの変性を特徴とする。筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、および多発性硬化症(MS)はこのカテゴリーに含まれる。これらの疾患は消耗性であり、それらが引き起こす損傷は不可逆であることが多く、その転帰は多くの場合、致命的である。
【0004】
ALSは、脊髄および脳における運動ニューロンの漸進的変性を特徴とし、これは最終的には進行性の筋脱力および筋麻痺ならびに死につながる。ALSは、散発型および家族型と呼ばれる臨床的には識別不可能な2つの形態で起こる。ミトコンドリア機能障害、スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子中の突然変異、およびニューロングルタミン酸輸送の欠損など、さまざまな仮説が提案されているが、ALSの病理発生は完全には理解されていない。自己免疫がALSの病理発生に関与しているという仮説も設けられている(Appel et al., 1993. J. Neurol. Sci. 118:169-174)。また、最近のいくつかの研究では、ALS患者の脊髄に、活性化された小膠細胞、IgG沈着、FcR発現の増加、およびサイトカイン発現の調節不全が観察され、免疫系がALSの疾患過程に積極的に関与している可能性が示唆されている(Troost et al., 1989. Clin. Neuropathol. 8:289-294;Engelthardt et al., 1990. Arch. Neurol. 47:1210-1216;Schiffer et al., 1996. J. Neurol. Sci. 139(suppl):27-33;Hayashi et al., 2001 J. Neurol. Sci. 188:3-7.9-12)。
【0005】
最近の臨床研究および病理研究では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)において、運動ニューロン系外の関与が比較的よく見られることが示されている(Hayashi et al., 2001, 前記;Obal et al., 2001 Neuroreport. 12:2449-2452;Sola et al., 2002 8. Eur. Neurol. 47:108-112;Ono et al., 2001 J. Neurol. Sci. 187:27-34;Alexianu et al., 2001 Neurology. 57:1282-1289)。小膠細胞/マクロファージ活性化および炎症応答は、ALS疾患の進行と関係づけられている(Appel et al., 1993, 前記;Engelthardt et al., 1990, 前記;Hayashi et al., 2001 前記;Obal et al., 2001 Neuroreport. 12:2449-2452;McGeer et al., 2002 Muscle Nerve. 26:459-47028, 29)。しかし、ALSにおける全身性免疫応答の状態を探究した研究は、今のところほとんどない。集中的な調査にもかかわらず、ALSはその原因も効果的な治療法も知られていない。
【0006】
最近、HIV関連疾患を有する患者におけるALS様症候群の病理発生に、レトロウイルス感染が関係づけられた。Moulignierら(「Reversible ALS-like disorder in HIV infection」Neurology. 57:995-1001)は最近、ALSに似た神経障害を有する6人のHIV-1感染患者の転帰を報告した。これらの患者は全員が抗レトロウイルス治療によって安定化または改善した。MacGrowenら(2001「An ALS-like syndrome with new HIV infection and complete response to antiretroviral therapy」Neurology. 57:1094-10)も、新規HIV感染を伴うALS様症候群において、抗レトロウイルス治療に対する劇的な臨床応答を報告した。
【0007】
AIDSを有する個体の約4分の1は神経病理学的症状を進展させる。HIV-1による感染は脳内の炎症およびニューロン変性を引き起こし(Power et al., 2001 Adv. Virus. Res. 56:389-433)、その結果として、HIV関連痴呆(HAD)またはそれより重症度の低い軽微な認知運動障害をもたらす(Janssen et al., 1991「Report of a Working Group of the American Academy of Neurology AIDS Task Force」Neurology. 41:778-785;McArthur et al., 1993「Multicenter AIDS Cohort Study」Neurology. 43:2245-2252;The Dana Consortium. 1996「Clinical confirmation of the American Academy of Neurology algorithm for HIV-1-associated cognitive/motor disorder. The Dana Consortium on Therapy for HIV Dementia and Related Cognitive Disorders」Neurology. 47:1247-1253)。
【0008】
HIV関連ニューロン傷害の基礎をなす機序は完全には理解されていない。HIV関連神経障害(Pulliam et al., 1997 Lancet. 349:692-695;Diesing et al., 2002 AIDS Reader. 12:358-368)を含む多くの神経疾患の病理発生に、単球/マクロファージ活性化が重要な役割を果たし得ることは、さまざまな研究によって示唆されている(Smits et al., 2000 Eur. J. Clin. Invest. 30:526-535;Fiala et al., 2002 Eur. J. Clin. Invest. 32:360-371;Minagar et al., 2002「The role of macrophage/microglia and astrocytes in the pathogenesis of three neurologic disorders: HIV-associated dementia, Alzheimer disease, and multiple sclerosis」J Neurol. Sci. 202:13-23)。実際、HIV関連神経障害、特にHADと最も良い病理学的相関関係にあるのは、活性化された単核食細胞(血管周囲および実質の血液由来マクロファージおよび小膠細胞)の数であって、脳におけるウイルスの絶対レベルそのものではない(Glass et al., 1995 Ann. Neurol. 38:755-762;Adamson et al., 1999 Mol. Med. 5:98-109)。同様の知見がサルAIDS関連脳症(SIVE)についても報告されている(Williams et al., 2002 Am. J. Pathol. 161:575-585)。ALS疾患を有する患者の脊髄におけるマクロファージ活性化が報告されているが(Appel et al., 1993, 前記;Engelthardt et al., 1990, 前記;Obal et al., 2001, 前記;McGeer et al., 2002, 前記)、ALSの病理発生におけるマクロファージ活性化の役割が今までに決定されたことはない。
【0009】
HADを有する患者の血液(Liu et al., 2000 J. Neurovirol. 6(suppl 1):S70-81)およびSIVEを有するサルの血液(Williams et al., 2002 Am. J. Pathol. 161:575-585)に関する研究により、活性化された血中マクロファージの存在と中枢神経系(CNS)疾患の間の直接的関係が示されている。これらの活性化マクロファージは、血液脳関門(BBB)の破損を媒介し、CNS病理発生の直接的一因になると考えられる。
【0010】
アルツハイマー病(AD)は高齢者の間でもっともよく見られる痴呆の形態である。マクロファージ活性化がADに関与し得ることは、さまざまな研究によって示唆されている(例えば国際公開公報第99/21542号参照)。現在、唯一確実なADの診断方法は、死後剖検によって脳組織中のアミロイド斑および濃縮体の存在を評価することである。したがって、ADの診断は一般に、ADの「可能性あり(possbile)」または「可能性大(probable)」という診断である。専門中核機関の場合、医師は最高90%まで正しくADを診断することができる。ADの「可能性大」を診断するには、病歴、他の原因(例えば甲状腺欠損症、感染性疾患など)を除外するための血液、尿、または髄液の解析、脳スキャン、ならびに記憶力、問題解決能力、注意力、計算能力、および言語能力を評価するための神経心理学的検査を含むいくつかのツールが使用される。
【0011】
多発性硬化症(MS)は、「発作(attack)」を特徴とし、その間にプラークと呼ばれる中枢神経系の白質の領域が炎症状態になる慢性疾患である。これらのプラーク領域の炎症に続いて、脳および脊髄内の神経細胞線維を遮蔽する鞘または覆いを形成する脂肪性物質であるミエリンの破壊が起こる。ミエリンは、脳、脊髄および身体の残りの部分の間の電気化学メッセージの円滑かつ高速な伝達を促進する。ミエリン鞘に対する損傷は、これらの電気化学メッセージの伝達を減速するか、完全に遮断する可能性があり、それは身体機能の減損または喪失をもたらし得る。
【0012】
MSの最も一般的な経過は、一連の発作と発作に続く完全なまたは部分的な寛解として現われ、寛解の間、症状は和らぐが、しばらくすると元に戻ってしまう。このタイプのMSは一般に「再発寛解型(relapsing-remitting)MS」と呼ばれる。「一次進行型(primary-progressive)MS」と呼ばれるもう一つの形態のMSは疾患状態への漸進的下降を特徴とし、明瞭な寛解を伴わず、一時的な安定期または症状の軽微な緩和が見られるに過ぎない。「二次進行型(secondary-progressive)MS」と呼ばれる第3の形態のMSは、最初は再発寛解型の経過をたどるが、後に、一次進行型のMS経過に悪化する。
【0013】
MSの症状は、軽度である場合または重度である場合、急性である場合または長期間継続する場合があり、さまざまな組合せで現われ得る。これらの症状には、かすみ目または複視、赤緑色歪曲(red-green color distortion)、さらには片眼失明などの視覚問題、四肢の筋脱力、協調および平衡問題、筋麻痺、筋疲労、知覚異常、一時的異常知覚感、例えばしびれ感、刺痛、または「チクチク感(pins and needles)」など、そして最悪の場合は、不全麻痺または完全麻痺が含まれ得る。MSを患っている人々の約半数は、例えば集中力、注意力、記憶力および/または判断力の低下などといった認知障害も経験する。これらの認知症状は、情報処理を担う脳の領域において病変が進展した場合に起こる。
【0014】
この分野の進歩にもかかわらず、ALSおよびMSを処置(これらの疾患症状の軽減を含む)するための治療法が、今なお必要とされている。本発明はこの必要に対処するものである。
【0015】
文献
以下の参考文献は文献目録中の文献およびあらゆる引用文献と共に関心の対象となり得る。

【0016】
また、米国特許第4,725,437号、第5,877,222号および第6,086,922号、ならびに米国特許出願公開第20030175832号、第20030158262号、第20030130357号、および第20030130350号も参照されたい。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、血中免疫細胞活性化を減少させるのに有効な量の亜塩素酸を投与することによって、対象におけるマクロファージ関連神経変性疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、または多発性硬化症(MS)を処置する方法を特徴とする。本発明は、治療前および治療後に血中免疫細胞活性化を評価することによって治療を監視する方法も特徴とする。
【0018】
本発明は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読むことにより、最もよく理解される。図面には後述の図が含まれる。
【0019】
本発明をさらに詳しく説明する前に、本発明はここに記載する特定の態様に限定されないことを理解すべきである。それらは当然、さまざまな形態をとり得るからである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるので、本明細書において使用する術語は、特定の態様を説明するために過ぎず、限定するものではないことが意図される。
【0020】
値の範囲が設けられている場合、文脈上そうでないことが明白である場合を除き、その範囲の上限と下限との間の各中間値(intervening value)(下限の単位の10分の1まで)も、具体的に開示されていると理解される。任意の明記した値または明記した範囲内の中間の値と、他の任意の明記した値または前記明記した範囲内の中間の値とに挟まれた小範囲も、それぞれ本発明に包含される。これら小範囲の上限および下限は、独立して、その範囲に含まれる場合も、その範囲から除外される場合もあり、どちらか一方または両方の限界値が小範囲内に含まれる各範囲、またはどちらの限界値も小範囲内に含まれない各範囲も、本発明に包含され、明記された範囲内の具体的に除外された任意の限界値に依存する。明記した範囲が一方または両方の限界値を含む場合は、それらの含まれる限界値の一方または両方を除外した範囲も、本発明に包含される。
【0021】
別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に記載する方法および材料と類似するまたは等価な方法および材料はどれでも本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書において言及する刊行物は全て、その刊行物の引用に関わる方法および/または材料を開示し、説明するために、参照として本明細書に組み入れられる。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される単数形「一つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈上そうでないことが明白である場合を除き、複数の指示対象を包含するものとする。したがって、例えば「亜塩素酸マトリックス」への言及は、複数のそれら亜塩素酸マトリックスを包含し、「組成物」への言及は、一つまたは複数の組成物および当業者に公知であるその等価物への言及を包含するなどである。
【0023】
本明細書において議論する刊行物は、ただ単に、本願出願日前にそれらが開示されているという理由で記載されているに過ぎない。本明細書におけるどの記載も、本発明が先行発明としてそのような刊行物に先行する権利がないという承認であるとはみなすべきでない。さらに、記載する刊行物の日付は実際の刊行日とは異なる可能性があり、実際の刊行日は別途確認する必要があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ALS患者における改訂ALS機能評価スコア(ALS Functional Rating Score)(ALSFRS-R)と活性化抗原CD38のCD4 T細胞同時発現との関係を表すグラフである。ALSを有する患者を、ALSFRS-R尺度の中間点である24というスコアに基づいて、二つの群に分割した。CD4活性化マーカーCD38は重度の障害を有する患者(0〜24のALSFRS-Rスコア、n=10)では、正常対照(P<0.01)および軽い障害を有する患者(ALSFRS-Rスコア>24、n=26)(P<0.05)と比較して、有意に低かったが、正常対照と軽い障害を有する患者との間には差は認められなかった。
【図2a】図2a〜2bは、ALSを有する患者におけるHLA-DRのCD14同時発現によって定義されるマクロファージ活性化の解析を表すグラフである。図2aは、ALSを有する患者におけるマクロファージ活性化とALSFRS-Rスコアとの負の相関関係を表すグラフである(Pearson、r=-0.3424、P=0.0409)。
【図2b】図2a〜2bは、ALSを有する患者におけるHLA-DRのCD14同時発現によって定義されるマクロファージ活性化の解析を表すグラフである。図2bは、ALS CD14細胞上のHLA-DRのレベルと疾患進行速度(1ヶ月あたりのALSFRS-Rスコア変化)との正の相関関係を表すグラフである(Pearson、r=0.3696、P=0.0265)。
【図3a】図3a〜3bは、正常対照とALSFRS-RカテゴリーによるALS患者群との間の血清IgGレベルおよび血清IgMレベルの比較を表すグラフである。図3aは、重度の障害を有するALS患者においては正常対照と比較して有意に低いレベルの血清IgGが見いだされたが(P<0.05)、軽い障害を有する患者と正常対照との間には差がなかったことを表すグラフである。
【図3b】図3a〜3bは、正常対照とALSFRS-RカテゴリーによるALS患者群との間の血清IgGレベルおよび血清IgMレベルの比較を表すグラフである。図3bは、軽い障害を有する患者における血清IgMのレベルは正常対照より有意に高かったが(P<0.01)、重度の障害を有する患者と正常対照との間には差がなかったことを表すグラフである。
【図4】WF10投与がALS患者における活性化血中マクロファージに及ぼす作用を表すグラフである。
【図5】1サイクルのWF10による処置を受けた多発性硬化症を有する患者から得られた血中マクロファージ活性化測定値を表す混成曲線群のグラフである。
【図6】2人のALS患者にWF10を投与した結果を表すグラフである(WF10,1サイクル=0.3ml WF10/kgを1時間かけて注入し、注入を毎日5日間行い、その5日間レジメンを3週間ごとに1回投与する;4サイクル終了時および5サイクル終了時のデータを示す)。矢印は、WF10サイクルを投与していた期間を示す。ALS/FR(筋萎縮性側索硬化症/機能)スコアから見た結果を示す。「Gチューブ」は胃管が挿入されていた期間を示す。「経口」は患者が口で食物を摂取できたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
概観
本発明は、活性成分として亜塩素酸を(例えばテトラクロロデカオキシゲン(tetrachlorodecaoxygen:TCDO)などの形態で)含むWF10の投与が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者の処置、および多発性硬化症(MS)を有する患者の処置になるという発見に基づいている。理論に拘泥するわけではないが、ALS患者およびMS患者において上昇していてALS疾患およびMS疾患の病理発生の一因となる活性化血中免疫細胞(例えば活性化マクロファージ)の減少を、亜塩素酸はもたらす。さらに、アルツハイマー病(AD)も同様に、ALSと似た形で活性化血中免疫細胞に関連すると特徴づけられるので、ADもWF10の投与による処置に適する。したがって本発明は、活性化血中免疫細胞に関連する神経変性疾患の処置、特に増殖性マクロファージまたは不適切な活性化マクロファージに関連する神経変性疾患の処置に応用することができる。
【0026】
定義
「神経変性疾患」は、機能的神経組織の進行性の(通常は漸進的な)喪失を特徴とする中枢神経系を指す。本発明において特に対象となるのは、罹患者が活性化血中免疫細胞を有する、特に増殖性マクロファージまたは不適切な活性化マクロファージを有する、神経変性疾患の処置である。「非罹病」個体への言及は、一般に、関連する神経変性疾患を有すると診断されていない個体、または関連する神経変性疾患を有すると疑われていない個体を意味する。「罹病」個体への言及は、一般に、関連する神経変性疾患を有すると診断された個体、または関連する神経変性疾患を有すると疑われる個体を意味する。例示的な神経変性疾患には、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、および病原体媒介性または病原体関連性の神経疾患または神経症状(ウイルス感染など、例えばHIV感染)が含まれる。
【0027】
当技術分野においては、CD14細胞表面マーカーを発現させる循環単核細胞を記載するために、「単球」という用語がしばしば用いられ、組織内では、この細胞がマクロファージとも分類されると理解されているので、本明細書において使用される用語「マクロファージ」および「単球」は、可換的に用いられる。
【0028】
本明細書において可換的に用いられる「異常マクロファージ」または「活性化循環単球」または「活性化単球」は、CD14を発現させ(すなわちCD14+であり)、高レベルのHLA-DR(主要組織適合性抗原クラスII)を発現させ、かつ/またはCD16を発現させる(すなわちCD16+である)単球を意味する。一般に異常マクロファージは末梢血中に見いだされるが、個体から採取された他の生物学的試料に見いだされる場合もある。一般にALS患者では、これらの異常マクロファージが、同定可能な付随T細胞活性化を伴わずに存在する。
【0029】
本明細書において、「異常マクロファージの存在」を検出するとは、一般に、異常マクロファージのレベルを検出することを意味する。一般に、異常マクロファージ(または活性化単球)のレベルは、CD14+細胞の集団におけるHLA-DR発現のレベルおよび/またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージおよび/またはCD14+/CD16+細胞の数によって示される。ただし、単球の活性化、分化および/または増殖を示す他のマーカーを使用することもできるだろう。絶対レベルを決定する必要はなく、相対レベルを決定する必要さえないと理解される。検出可能な異常マクロファージの観察で十分である。
【0030】
「増殖性マクロファージ(proliferating macrophage)」または「プロマック(promac)」は当技術分野において理解されており、本明細書において使用する場合は、非疾患血中マクロファージと比較して増殖および/または活性化マーカーの上昇を示す疾患関連血中マクロファージを意味する。通常、マクロファージは、さらなる分裂を起こす能力を持たない最終分化細胞である。本発明において「増殖性マクロファージ」は、さらなる分裂を起こす能力を有するか、末期または最終段階とはみなされない細胞周期の一部にあり、かつ/または不適切な活性化を起こした(例えば「不適切に活性化された」)か、不適切な活性化を起こしている最中である。増殖性マクロファージを検出する方法については後述する。
【0031】
本明細書にいう「病的マクロファージ(pathologic macrophage)」は、増殖性マクロファージおよび不適切に活性化されたマクロファージ(例えば異常マクロファージ)の両方を包含するものとする。したがって病的マクロファージは、上に定義した増殖性マクロファージと、任意の与えられた時点では増殖マーカーを示さない可能性があるが、それでもなお慢性的に活性化されていて、それゆえに病理発生状態にあるような血液中のマクロファージとを包含する。
【0032】
本明細書において「増殖性マクロファージの存在」を検出するとは、一般に、増殖性マクロファージのレベルを検出することを意味する。絶対レベルを決定する必要はなく、相対レベルを決定する必要さえないと理解される。検出可能な増殖性マクロファージの観察で十分である。
【0033】
「マクロファージ関連」疾患、障害または適応症は、対照試料と比較して上昇した(もしくは異常な)マクロファージ増殖レベルまたはマクロファージ増殖速度を有する病的マクロファージに関連する疾患、障害または適応症である。そのような障害には、ALS、MS、HIV関連神経障害、およびADなどのマクロファージ関連神経変性障害が含まれるが、それらに限定されるわけではない。用語「障害」および「疾患」は本明細書においては可換的に用いられる。「HIV関連」疾患は、HIV感染に広く関連するまたはHIV感染に続発する疾患と、広義に定義され、例えば「HIV媒介」疾患は「HIV関連」疾患とみなされる疾患に包含される。特定の態様において、本発明による処置が考えられる障害は、癌ではない(例えば癌以外の疾患または障害である)。他の特定態様において、本発明による処置が考えられる障害は、自己免疫疾患ではない(例えばマクロファージ関連疾患は自己免疫障害または自己免疫疾患以外の疾患または障害である)。例えば障害は移植片拒絶(移植拒絶)ではない。別の態様において、処置される障害は、ウイルス感染、特にHIVまたはHCV感染である(すなわち患者はウイルス感染していない。例えばHIV感染またはHCV感染していない)。さらに別の態様において、障害は、HIV関連痴呆ではない(すなわち患者はAIDS痴呆を有さない)。「マクロファージ関連神経変性障害」は、本明細書においては、具体的には、癌、HIV感染、HCV感染、および自己免疫疾患を除外すると定義される。
【0034】
「マクロファージ関連神経変性障害」は、患者が病的マクロファージ(例えば異常に活性化されたマクロファージおよび/または増殖性マクロファージ、特に、対照試料と比較して上昇した(もしくは異常な)マクロファージ増殖レベルまたはマクロファージ増殖速度に関連する疾患)を有する神経変性疾患である。「マクロファージ関連神経変性障害」は、本明細書においては、具体的には、癌および自己免疫疾患を除外すると定義される。
【0035】
「筋萎縮性側索硬化症」または「ALS」は当技術分野において理解されている用語であり、本明細書において使用される場合は、上位運動ニューロン(脳内の運動ニューロン)および/または下位運動ニューロン(脊髄内の運動ニューロン)を冒して運動ニューロン死をもたらす進行性の神経変性疾患を意味する。本明細書において使用される用語「ALS」には、当技術分野において公知であるALSの類型の全て(例えば古典的ALS(通例、下位および上位両方の運動ニューロンを冒す)、原発性側索硬化症(PLS、通例、上位運動ニューロンだけを冒す)、進行性球麻痺(PBPまたは球発病(Bulbar Onset)、通例、嚥下困難、咀嚼困難および発語困難から始まる型のALS)、進行性筋萎縮(PMA、通例、下位運動ニューロンだけを冒す)および家族性ALS(遺伝型のALS)を含むが、それらに限定されるわけではない)が包含される。
【0036】
「多発性硬化症」または「MS」は当技術分野において理解されている用語であり、本明細書において使用される場合は、神経細胞(特に脳および脊髄の神経細胞)を覆うミエリンの破壊をもたらす進行性の神経変性疾患を意味する。本明細書において使用される「MS」には、当技術分野において公知であるMSの類型の全て(例えば再発寛解型(RRMS)(通例、発作(増悪、再発、またはフレアともいう)後の部分的なまたは完全な回復を特徴とする)、二次進行型(SPMS)(一般に、再発が少なく、能力障害および症状の増加を特徴とする)、一次進行型(PPMS)(一般に、寛解を伴わない症状および能力障害の進行を特徴とする)を含むが、それらに限定されるわけではない)が包含される。
【0037】
「アルツハイマー病」または「AD」は当技術分野において理解されている用語であり、本明細書において使用される場合は、痴呆を特徴とし、American Psychiatric Associationにより(DSM IVにおいて)記憶障害を含む複数の認知欠損の進展と定義されている進行性の神経変性疾患を意味する。
【0038】
「個体」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。哺乳動物には、農用動物、スポーツ動物(sport animal)、齧歯類、霊長類、およびペットが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0039】
「マクロファージ関連神経変性疾患個体」または「マクロファージ関連神経変性疾患患者」は、神経変性疾患の臨床症状を示すことにより、神経変性疾患を有すると診断される個体または神経変性疾患を有すると疑われる個体であって、その症状に、患者の血液中の病的マクロファージが含まれる個体である。「非マクロファージ関連神経変性疾患個体」は、マクロファージ関連神経変性疾患を有すると診断されない個体およびマクロファージ関連神経変性疾患を有すると疑われない個体である。「マクロファージ関連神経変性障害」は、本明細書においては、具体的には、癌および自己免疫疾患を除外すると定義される。
【0040】
「ALS個体」または「ALS患者」は、ALS関連症状を示すことにより、ALSを有すると診断される個体またはALSを有すると疑われる個体である。「非ALS個体」は、ALSを有すると診断されない個体またはALSを有すると疑われない個体である。ALSおよびALSを診断する方法は当技術分野において公知であり、本明細書において議論する。
【0041】
「AD個体」または「AD患者」は、AD関連症状を示すことにより、ADを有すると診断される個体またはADを有すると疑われる個体である。「非AD個体」は、ADを有すると診断されない個体またはADを有すると疑われない個体である。ADおよびADを診断する方法は当技術分野において公知であり、本明細書において議論する。
【0042】
「MS個体」または「MS患者」は、MS関連症状を示すことにより、MSを有すると診断される個体またはMSを有すると疑われる個体である。「非MS個体」は、MSを有すると診断されない個体またはMSを有すると疑われない個体である。MSおよびMSを診断する方法は当技術分野において公知であり、本明細書において議論する。
【0043】
疾患(例えばALS、ADまたはMSなどのマクロファージ関連神経変性疾患)の「進展」または「進行」とは、本明細書においては、障害の初期症状発現および/または続いて起こる障害の進行を意味する。例えばALSまたはMSの進展は、神経生検および筋生検ならびにCNSスキャニング技術、例えばMRIなどといった標準的な臨床技術を使って、検出し、評価することができる。しかし進展は、検出不可能であり得る疾患進行も指す。本発明において、進展または進行は、疾患状態の生物学的過程を指す。「進展」には、発生、再発、および発病が含まれる。本明細書におけるALS、ADまたはMSの「発病」または「発生」には、最初の発病および/または再発が含まれる。
【0044】
本明細書において、ALS、ADまたはMSなどのマクロファージ関連神経変性疾患の「進展を遅延させる」とは、患者の疾患が進行する速度を低下させることを含む、疾患の一つまたは複数の症状の進展を延期し、妨害し、減速し、遅らせ、安定化し、かつ/または後回しにすること(例えば、急速に進行する疾患から、より緩慢に進行する疾患へと、患者をシフトさせること)を意味する。この遅延は、処置される個体の障害歴および/または医学的プロファイルに応じて、時間的にさまざまな長さを有することができる。当業者には明白であるように、十分な遅延または有意義な遅延は、個体が検出可能な疾患を進展させないので、実質上、予防を包含する。疾患の進展を「遅延」させる方法は、ある与えられた時間枠で、その方法を使用しない場合と比較して、疾患の程度を低下させる方法である。そのような比較は通例、統計的に有意な数の対象を用いる臨床試験に基づくが、この知識は事例証拠に基づくこともできる。「進展を遅延させる」とは、薬剤を投与しない場合と比較して、程度および/または望ましくない臨床症状発現を和らげ、かつ/または進行の時間経過を減速することまたは長くすることを意味する。したがってこの用語は、症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなち悪化させないこと)、疾患進行の遅延または減速、および検出可能であるか検出不可能であるかを問わず寛解(部分的寛解であるか完全な寛解であるかを問わない)も包含するが、それらに限定されるわけではない。
【0045】
本明細書にいう「生物学的試料」は、個体から得られるさまざまな試料タイプを包含し、診断アッセイまたは監視アッセイに使用することができる。この定義は、血液および生物学的起源を有する他の液状試料、生検標本またはそこから誘導される組織培養物もしくは細胞などの固形組織試料、ならびにその子孫を包含する。この定義は、その入手後に、例えば試薬による処理、可溶化、またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドなどの一定成分の濃縮など、何らかの形で操作された試料も包含する。用語「生物学的試料」は、臨床試料を包含し、培養細胞、細胞上清、細胞溶解液、血清、血漿、生物学的液体、および組織試料も包含する。一般的には試料は末梢血であるか、末梢血に由来し、したがって「血液試料」である。場合によっては、血液は、例えばガラス付着もしくはプラスチック付着などを使って、マクロファージ画分が濃縮されるだろう。
【0046】
「血液試料」は、血液(好ましくは末梢(または循環)血)に由来する生物学的試料である。血液試料は、例えば全血、血漿または血清であることができる。
【0047】
本明細書において(例えば薬剤の)「有効量」とは、所望の結果および/または有益な結果を生じる(その薬剤の)量である。有効量は1回または複数回の投与で投与することができる。一般に有効量とは、マクロファージ関連神経変性疾患患者における、またはマクロファージ関連神経変性疾患個体に由来する、異常マクロファージ(病的マクロファージ)のレベルを減少させるのに十分な量である。いくつかの態様において、有効量は、ALS患者における、またはALS個体に由来する、異常マクロファージのレベルを減少させるのに十分な量である。別の態様において、有効量は、MS患者における、またはMS個体に由来する、異常マクロファージのレベルを減少させるのに十分な量である。別の態様において、有効量は、AD患者における、またはAD個体に由来する、異常マクロファージのレベルを減少させるのに十分な量である。「異常マクロファージのレベルを減少させるのに十分な量」は、好ましくは、異常マクロファージのレベルを、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらにより好ましくは少なくとも約90%減少させることができる。そのような減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、もしくは遅延させ、疾患の発病を遅延させ、かつ/または予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0048】
別の態様において、「CD14+細胞によるHLA-DR発現のレベルを減少させるのに十分な量」は、好ましくは、HLA-DR発現のレベルを、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約90%減少させることができる。そのような減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、もしくは遅延させ、疾患の発病を遅延させ、かつ/または予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0049】
本明細書において、「異常マクロファージのレベル」を低下させるとは、一般に、異常マクロファージまたは活性化単球の個数を減少させることおよび/またはCD14+細胞の集団におけるHLA-DR発現のレベルを減少させることを意味する。さまざまな態様において、異常マクロファージのレベルは、CD14+細胞の集団中のCD16+細胞のパーセンテージおよび/または生物学的試料中のCD14+/CD16+細胞の数を決定することによってアッセイすることができる。絶対レベルを決定する必要はないと理解される。異常マクロファージの相対レベルの観察で十分である。
【0050】
マクロファージ増殖を「調節する」とは、マクロファージ増殖を変化させる薬剤を投与しない場合と比較して、増殖のレベルまたは速度が改変されることを意味する。例えば、亜塩素酸含有組成物を使ってマクロファージ増殖を「調節する」とは、薬剤を投与しない場合と比較して、増殖性マクロファージのレベルまたは増殖の速度が改変されることを意味する。好ましくは、マクロファージ増殖を「調節する」とは、増殖性マクロファージのレベルまたはマクロファージ増殖の速度の、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも90%の変化を意味する。一般に、本発明に関して、マクロファージ増殖を「調節する」とは、薬剤を投与しない場合の当該個体における同じパラメータと比較して、増殖性マクロファージのレベルまたは増殖の速度が減少することを意味する。しかし、治療の過程では、増殖性マクロファージのレベルまたは増殖の速度を、先に測定されたレベルより増加させることが望ましいこともあり得る。調節の度合いは、マクロファージ増殖の測定によって評価することができる。マクロファージ増殖の測定については以下に議論するが、一般的には、マクロファージ集団における増殖マーカーの検出、またはBrdUもしくは3H-チミジンなどの一定の物質(増殖の定量的尺度を提供するであろうもの)の取り込みの検出が必要になる。さらに、マクロファージの増殖性が遺伝子改変(転位、欠失、または挿入など)に起因する場合は、この改変を、当技術分野における標準的技法、例えばRFLP(制限断片長多型)などによって検出することもできるだろう。
【0051】
本明細書にいう「処置」または「処置する」とは、対象(通常は哺乳類対象、一般的にはヒト対象)における任意の治療的介入を意味し、(i)予防、すなわち明白な臨床症状を進展させないこと、例えば有害な状態への疾患進行を予防すること、(ii)阻害、すなわち臨床症状の進展またはさらなる進展を停止させること、例えば既存の臨床症状を軽くすること、および/または(iii)緩和、すなわち臨床症状の後退を引き起こすこと、例えば臨床症状の緩和を引き起こすことを含む。
【0052】
ALSの例示的臨床症状には、筋脱力、筋衰弱、筋痙攣、筋単収縮、不明瞭言語または緩慢言語、嚥下困難、および緩慢な非協調運動が含まれる。ALSのさらなる例示的臨床症状には、ALSを有する対象またはALSを有すると疑われる対象から得られる生物学的試料に検出され得るもの、例えば正常と比較して増加したCD4:CD8細胞比、正常と比較して減少したCD14+細胞数、正常CD14+細胞と比較して増加したCD14+細胞上のHLA-DR発現、正常と比較して増加した活性化単球または活性化マクロファージのレベル、増殖性マクロファージの存在、および正常と比較して減少した血清IgGおよび/またはIgMが含まれ、この場合、本明細書において使用する「正常」とは、ALSに罹患していない対象またはそのような非罹患対象から得られる細胞を意味する。したがって「処置する」は、一つまたは複数の臨床症状の減少を達成することを包含し、その減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、もしくは遅延させ、疾患の発病を遅延させ、かつ/または予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0053】
ADの例示的臨床症状には、最近の出来事、活動、または親しい人々もしくはありふれた事物の名前を思い出しにくいことを含む軽度の健忘;簡単な算数の問題を解くのが困難であること;簡単な作業(例えば歯を磨くこと、または髪を櫛でとかすこと)の方法を思い出しにくいこと;明瞭に考えることができないこと;発語、理解、読解、または筆記が困難であること;および不安もしくは攻撃性、または徘徊傾向が含まれる。
【0054】
MSの例示的臨床症状には、疲労(MS倦怠ともいう)、筋疲労、知覚異常、歩行困難および/または平衡問題、しびれ感、刺痛、または「チクチク感」などの異常感覚、疼痛、膀胱機能障害、腸機能障害、認知機能の変化(記憶、注意、集中、判断、および問題解決に関わる問題)、めまいおよび眩暈、情動問題(例えばうつ病)、性機能障害、および視覚問題が含まれる。重症例では不全麻痺または完全麻痺を伴う場合もある。(例えばかすみ目または複視、赤緑色歪曲、さらには片眼失明)。他の症状には、頭痛、難聴、かゆみ、発作、痙縮、発語および嚥下障害、ならびに振せんが含まれる。MSのさらなる例示的臨床症状には、MSを有する対象またはMSを有すると疑われる対象から得られる生物学的試料中に検出され得るもの、例えば正常と比較して増加したCD4:CD8細胞比、正常と比較して減少したCD14+細胞数、正常CD14+細胞と比較して増加したCD14+細胞上のHLA-DR発現、正常と比較して増加した活性化単球または活性化マクロファージのレベル、増殖性マクロファージの存在、および正常と比較して減少した血清IgGおよび/またはIgMが含まれ、この場合、本明細書において使用する「正常」とは、MSに罹患していない対象またはそのような非罹患対象から得られる細胞を意味する。したがって「処置する」は、一つまたは複数の臨床症状の減少を達成することを包含し、その減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、もしくは遅延させ、疾患の発病を遅延させ、かつ/または予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0055】
用語「対象」および「患者」は、本明細書に記載する薬学的方法、組成物および処置を必要とし得る任意の哺乳動物種または非哺乳動物種の一構成員または複数構成員を意味する。したがって対象および患者には、霊長類(ヒトを含む)、イヌ、ネコ、有蹄類(例えばウマ、ウシ、イノシシ・ブタ類(例えばブタ))、鳥類、および他の対象が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ヒトおよび商業的に重要な非ヒト動物(例えば家畜および家畜化された動物)は、特に関心の対象となる。
【0056】
「哺乳動物」は、任意の哺乳動物種の一構成員または複数構成員を意味し、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、齧歯類など、および霊長類、特にヒトを包含する。非ヒト動物モデル、特に哺乳動物、例えば霊長類、ネズミ、ウサギ目などは、実験調査に使用することができる。
【0057】
本明細書において使用される用語「単位剤形」は、ヒトおよび動物対象への単位投薬に適した物理的に不連続な単位であって、各単位が薬学的に許容される賦形剤(例えば医薬的に許容される希釈剤、担体または賦形剤)と一緒に所望の作用を生じるのに十分な量、計算された所定量の本発明化合物を含有するものを指す。
【0058】
本明細書において使用される用語「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全であり、無毒性であり、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないことのない、薬学的組成物の製造に有用な賦形剤を意味し、ヒト薬学用途の他に獣医学的用途に許容される賦形剤も包含する。本明細書および特許請求の範囲において使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、一つのそのような賦形剤および一つより多いそのような賦形剤をどちらも包含する。
【0059】
亜塩素酸およびその投与
本発明に従って亜塩素酸を投与するための亜塩素酸イオンの供給源は、さまざまな形態で提供され得る。例えば亜塩素酸は、亜塩素酸塩(例えばアルカリ金属塩、例えば亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなど)または亜塩素酸塩の混合物として投与することができ、この場合、亜塩素酸塩は好ましくは薬学的に許容される。これに加えて、またはこれに代えて、例えば米国特許第4,507,285号に記載されている亜塩素酸イオンのマトリックスとして、亜塩素酸を投与することもできる。ある態様において、亜塩素酸イオンは、一般式:
ClO2×nO2
[式中、「n」は約0.1〜0.25の値を取り得る]を有する組成物として提供される。そのような薬剤は、ラマンスペクトルにおいて1562cm-1にO2バンドを有することができ、123pmのO-O間隔を有することができる。そのような薬剤の製造は当技術分野においては公知である。例えば米国特許第4,507,285号を参照されたい。
【0060】
ある態様において、本処置方法は「テトラクロロデカオキシゲンアニオン錯体」と呼ばれる生成物(一般に「TCDO」と略記される)の水溶液の投与を伴う。TCDOの製造は周知である。例えば米国特許第4,507,285号の実施例1を参照されたい。
【0061】
亜塩素酸イオンの供給源になる薬剤は、適宜、遊離塩基型または遊離酸型として(すなわち塩としてではなく遊離化合物として)投与することができる。さらに、化合物の任意の薬学的に許容される塩も使用することができる。薬学的に許容される塩は、遊離化合物の生物学的活性を保持しており、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないことのないような塩である。本発明においては、ここに開示する化合物の立体異性体(ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む)、ならびに立体異性体の混合物(ラセミ混合物を含むが、それに限定されるわけではない)も、適宜、使用することができる。構造中に立体化学を明示的に示さない限り、その構造は、記載した化合物の考え得る全ての立体異性体を包含するものとする。
【0062】
製剤
亜塩素酸は、所望する投与経路に応じて選択することができる任意の適切な製剤として提供することができる。
【0063】
米国特許第4,725,437号には、ヒトおよび非ヒト動物に体重1kgあたり約6.2×10-6モルのClO2-〜9.3×10-5モルのClO2-という投与量で静脈内投与するのに適した、化学的に安定化された亜塩素酸マトリックスの水溶液が記載されている。この溶液は、1mlあたり約12〜72マイクロモルのClO2-濃度で亜塩素酸マトリックスを含有する。さらなる亜塩素酸製剤が米国特許第4,507,285号および第4,725,437号に記載されている。
【0064】
TCDOの製剤は本発明においては特に関心の対象となる。WF10は、Oxoferin(Oxo Chemie GmbH、テキサス州フォートワース)とも呼ばれ、市販されている。TCDOの他の製剤は本発明の範囲に含まれる。
【0065】
TCDOなどの亜塩素酸含有組成物は、非経口投与用または経腸投与用(一般的には非経口投与用)に製剤化することができる。したがって亜塩素酸の製剤は、非経口投与、局所投与、または経皮投与、通常は静脈内、筋肉内、または皮下投与に適し、ボーラス注射、徐放(制御放出を含む)、注入などによる投与に適し得る。注入(例えば皮下注入または静脈内注入)による投与は、坐剤の形態での投与と同様、関心の対象となる。追加の薬剤および治療。
【0066】
亜塩素酸は単独で投与するか、さまざまな組合せで投与することができる。組み合わせて投与する場合、亜塩素酸は他の薬剤、特に対象の保護的、姑息的または支持的医療に適したものと共に投与することができる。「と共に」という表現は、ある薬剤が別の物質または治療の前に、またはそれと同時に、またはその後に投与されることを意味する。薬剤と共に投与される薬剤の例にはリルゾール(riluzole)が含まれるが、それに限定されるわけではない。亜塩素酸と共に投与するための他の薬剤には、マクロファージ関連神経変性障害の症状、例えばALS症状、AD症状またはMS症状などを制御するための薬剤が含まれる。本発明に従って亜塩素酸と共に投与するためのさらなる例示的薬剤には、バクロフェン、ジアゼパム、トリヘキシフェニジルおよび/またはアミトリプチリンが含まれるが、それらに限定されるわけではない。非薬物療法(例えば理学療法および/または作業療法、マッサージなど)と共に亜塩素酸を投与することもできる。
【0067】
ある態様において、組成物は、ALS患者、AD患者またはMS患者などのマクロファージ関連神経変性障害患者における異常マクロファージのレベルを(例えば治療前と比較して)減少させるのに有効な量のもう一つの抗増殖剤(例えばポリアミン類似体)を含有しない。例えばTCDOは抗増殖剤との併用療法における投与に関して記載されており、この場合TCDOは、マクロファージへの抗増殖剤の送達が容易になるようにマクロファージの食作用を促進するのに有効な量投与される。本発明では、例えばポリアミン類似体または他の抗増殖剤を亜塩素酸と共に投与しなくても、亜塩素酸が、例えば増殖性マクロファージ/不適切に活性化されたマクロファージの減少などによって患者の処置を容易にするのに有効な量で対象中に存在する活性成分となるような形で、ALS患者、AD患者またはMS患者などのマクロファージ関連神経変性障害患者に、亜塩素酸イオンを(例えば薬学的に許容される塩として、または安定化されたマトリックスとして、例えばTCDOなどとして)投与することが考えられる。
【0068】
投与および投薬
亜塩素酸製剤は一般に、対象の体重に応じて、インビボで投薬される。血液中で活性剤が継続的に分解することにより、薬剤が通常は一定の間隔で投与される。実際の投薬量およびレジメンが薬剤、製剤、症状の重症度、処置に対する患者の感受性および/または副作用などの関数として変動することは、当業者には容易に理解されるだろう。当業者はさまざまな手段によって、投薬量を容易に、かつ日常的に、決定することができる。
【0069】
亜塩素酸含有製剤の例示的用量は、約0.1ml/kg〜約1.5ml/kg、好ましくは約0.5ml/kg体重および1リットルあたり約40〜約80mMol ClO2-、通常1リットルあたり約60mMol ClO2-の濃度で、それぞれ変動し得る。TCDOの場合、静脈内投与されたWF-10を評価する、48人の患者が参加した用量決定第I/II相試験により、約0.5ml/kgという最大用量が確立されている。他の適切な用量として、約0.25ml/kgが挙げられる。
【0070】
投与のレジメン(例えば用量と投与頻度の組合せ)は、一般に、所望の作用をもたらす量および頻度での投与、例えばマクロファージ関連神経変性障害患者の一つまたは複数の症状、例えばALS症状、AD症状またはMS症状などの改善をもたらすのに有効な量の投与が必要である。例えば亜塩素酸は、2、3、4、5、6、7、8、9、10日、またはそれより多い日数連続して投与することができ、その投与期間は最後の投与から1、2、3週間、またはそれより多い週間経ってから再開することができる。例示的一態様において、WF-10レジメンは3週間ごとに5日間の連続処置を含む。
【0071】
ある態様において、亜塩素酸は、マクロファージ増殖の調節(例えば薬剤投与がない場合との比較で増殖性マクロファージのレベルまたはマクロファージ増殖の速度の改変)が達成されるように、および/または不適切なマクロファージ活性化の調節が達成されるように、投与される。亜塩素酸の有効量は、例えば処置前および処置中のプロマックのレベル(または数)を比較することによって決定され、プロマック数の下降傾向は陽性効果(positive effect)と一致する。ある態様において、亜塩素酸は、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも90%の、増殖性マクロファージのレベルまたはマクロファージ増殖の速度の変化が達成されるように投与される。調節の度合いは、当技術分野において記載されているマクロファージ増殖の測定によって評価することができ、一般に、マクロファージ集団における増殖マーカーの検出またはBrdUもしくは3H-チミジンなどの一定の物質(増殖の定量的尺度になるであろうもの)の取り込みの検出を必要とする(例えば米国特許出願公開第20030175832号参照)。そのような減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、かつ/または遅延させ、疾患の発病を遅延させ、さらには予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0072】
増殖性マクロファージまたは不適切に活性化されたマクロファージを検出し、マクロファージ増殖速度を決定するための方法は当技術分野において公知である。例えば増殖性マクロファージは、PCNA、Ki67などの細胞増殖マーカーをアッセイするか、ブロモデオキシウリジン(BrdU)または3H-チミジンの取り込みをアッセイすることによって検出することができる。これらのマーカーは、(増殖性マクロファージに対立するものとして)単なる「活性化」マクロファージを同定するもの、例えばCD69およびCD25などとは異なる。一方、マクロファージを表す細胞サブセットは、CD14、CD68、CD16などの一定の細胞特異的マーカーまたは非特異的エステラーゼの検出によって同定することができる。これらの細胞タイプおよび/または増殖マーカーの検出には、染色技法ならびにFACS選別およびFACS解析などの当技術分野において標準的な方法が用いられる。
【0073】
もう一つの態様において、亜塩素酸は、マクロファージ関連神経変性障害を有する患者(例えばALS患者、AD患者、またはMS患者)における病的マクロファージのレベル(例えば数)の減少が達成されるように、例えばCD14+単球(好ましくは活性化CD14+単球)のレベルの減少が達成されるように、投与される。この態様において、亜塩素酸は、個体におけるCD14+単球、好ましくは活性化CD14+単球および/またはHLA-DR発現が上昇しているCD14+単球のレベル(例えば数)、および/またはCD14+/CD16+細胞の数、および/またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージを減少させるのに十分な量(すなわち有効量)投与される。亜塩素酸の有効量は、例えば処置前および処置中のCD14+単球、好ましくは活性化CD14+単球の数のレベルを比較することによって決定され、CD14+単球数の下降傾向は一般に陽性効果と一致する。「CD14+単球の数を減少させるのに有効な量」は、好ましくは、CD14+単球の数を、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらにより好ましくは少なくとも約90%減少させることができる。CD14+単球、活性化CD14+単球、HLA-DR発現が上昇しているCD14+単球、CD14+/CD16+細胞のレベル、およびCD14+の集団におけるCD16+のパーセンテージを評価する方法は、当技術分野において公知である(例えば米国特許出願公開第20030175832号参照)。そのような減少は、例えば疾患の進行を一時的に軽減し、改善し、安定化し、逆転し、減速し、かつ/または遅延させ、疾患の発病を遅延させ、さらには予防さえするなどの、望ましい付随作用を有し得る。
【0074】
上述の病的マクロファージ(増殖性/不適切に活性化されたマクロファージ(プロマック))のレベル、マクロファージ増殖速度、CD14+細胞、HLA-DR発現などは、異なる時点および/または異なる条件下(例えば処置前、異なる用量など)で測定された同じ個体からのレベル、および/または非罹病標準(例えば非マクロファージ関連神経変性障害患者、例えば適宜、非ALS、非AD、または非MS患者)について決定された平均レベルまたは中央レベル、例えば非罹患個体(例えば非マクロファージ関連神経変性障害個体もしくは個体群;非ALS個体もしくは非ALS個体群;または非AD個体もしくは非AD個体群;または非MS個体もしくは非MS個体群)から得られるものと比較することができる。
【0075】
例えば、HLA-DR発現レベルは、異なる時点および/または異なる条件下(例えば処置前、異なる用量など)で測定された同じ個体からのHLA-DRレベルと比較することができる。一部の態様においては、HLA-DR発現レベルを、非罹病(例えば非ALS、非AD、または非MS)標準に由来する(例えば非ALS個体もしくは非ALS個体群、または非MS個体もしくは非MS個体群、または非AD個体もしくは非AD個体群に由来する)CD14+細胞の集団に対して決定されたHLA-DR発現の平均レベルまたは中央レベルと比較する。非罹病標準のレベルの約1.4倍よりも高いHLA-DR発現レベルの所見は、その個体におけるHLA-DR発現レベルの上昇を示す。一般に、非罹病標準のレベルの約1.5倍より高い、約1.6倍より高い、約1.7倍より高い、約1.8倍より高い、約1.9倍より高い、約2.0倍より高い、約5.0倍より高い、または約10倍より高いHLA-DR発現レベルの所見は、その個体におけるHLA-DR発現レベルの上昇を示す。したがってマクロファージ関連神経変性障害対象(例えばALS対象、AD対象、またはMS対象)におけるHLA-DR発現を、非罹病対象(例えば非ALS対象、非AD対象、または非MS対象)におけるHLA-DR発現レベルにより近くなるように低下させることは、本発明においては関心の対象となる。
【0076】
もう一つの例では、マクロファージ関連神経変性障害対象(例えばALS対象、AD対象、またはMS対象)から得た試料中のCD14+/CD16+細胞の数またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージを、非疾患(例えば非ALS、非AD、または非MS)標準(例えば非ALS個体もしくは非ALS個体群、または非AD個体もしくは非AD個体群、または非MS個体もしくは非MS個体群)から得た生物学的試料中のCD14+/CD16+細胞の平均レベルまたは中央レベルと比較する。非罹病(非ALS、非AD、または非MS)標準のレベルの約1.5倍より高い、約1.6倍より高い、約1.7倍より高い、約1.8倍より高い、約1.9倍より高い、約2.0倍より高い、約3.0倍より高い、約4.0倍より高い、約5.0倍より高い、または約10倍より高い、試料中のCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージおよび/またはCD14+/CD16+細胞の数の所見は、その個体におけるCD14+/CD16+細胞数の増加を示す。したがって、ある態様においては、CD14+/CD16+細胞の数またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージが減少して、適切な非罹病対象におけるそれらにより近くなるように、本発明による治療が施される。
【0077】
一般に治療は、血中マクロファージ活性化を追跡することによって監視され、これは通常、上述のようにCD14/DRレベルおよびCD14/16陽性細胞のパーセンテージを追跡することによって行なわれる。
【0078】
単位用量の対象化合物を、通常は注射可能な用量で含むキットが提供される。そのようなキットには、単位用量を含有する容器の他に、ALS、AD、またはMSなどのマクロファージ関連神経変性障害対象の処置における亜塩素酸の使用およびそれに付随する利益について記載した情報添付文書も含まれるだろう。好ましい化合物および単位用量は上述したとおりである。
【0079】
対象および治療の監視
一般に、本発明による亜塩素酸の投与を伴う治療に適した個体には、マクロファージ関連神経変性障害を有すると診断された個体、マクロファージ関連神経変性障害「に苦しむ」個体(例えば一つまたは複数の臨床症状を有する、患っているおよび/または示すと診断される個体)、またはそのような障害を進展させるリスクが高いと判断された個体が含まれる。「リスクを有する(at risk)」個体または「高リスク」個体は、マクロファージ関連神経変性障害を進展させる不連続で有意なリスクを有する個体である。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、検出可能な疾患を持っても持たなくてもよく、本明細書に記載する方法を受ける前に、検出可能な疾患を示したことがあっても示したことがなくてもよい。「高リスク」(または「リスクを有する」)とは、疾患の進展と相関する測定可能なパラメータである一つまたは複数のいわゆるリスク因子を、ある個体が有することを意味する。これらのリスク因子の一つまたは複数を有する個体は、これらのリスク因子を持たない個体よりも疾患を進展させる可能性が高い。これらのリスク因子には、例えば遺伝学的(すなわち遺伝性)考慮事項(家族歴および遺伝子マーカーを含む)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。リスク因子を一つ有するだけで高リスクを示す場合も多いと理解される。臨床家は、当業者として、ある薬剤を使った処置が、リスクのある個体に適応を有するかどうかを決定するための裁量を有する。例示的なマクロファージ関連神経変性障害にはALS、ADおよびMSが含まれる。
【0080】
ある態様において、本発明による亜塩素酸の投与を伴う治療に適した個体には、ALSを有すると診断された個体、ALS「に苦しむ」個体(例えばALSの一つまたは複数の臨床症状を有する、患っているおよび/または示すと診断される個体)、またはそのような障害を進展させるリスクが高いと判断された個体が含まれる。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、ALSを進展させる不連続で有意なリスクを有する個体である。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、検出可能な疾患を持っても持たなくてもよく、本明細書に記載する方法を受ける前に、検出可能な疾患を示したことがあっても示したことがなくてもよい。「高リスク」(または「リスクを有する」)とは、疾患の進展と相関する測定可能なパラメータである一つまたは複数のいわゆるリスク因子を、ある個体が有することを意味する。これらのリスク因子の一つまたは複数を有する個体は、これらのリスク因子を持たない個体よりも疾患を進展させる可能性が高い。これらのリスク因子には、例えば遺伝学的(すなわち遺伝性)考慮事項(家族歴および遺伝子マーカーを含む)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。リスク因子を一つ有するだけで高リスクを示す場合も多いと理解される。臨床家は、当業者として、ある薬剤を使った処置が、リスクのある個体に適応を有するかどうかを決定するための裁量を有する。
【0081】
ALSの例示的臨床症状には、筋脱力、筋衰弱、筋痙攣、筋単収縮、不明瞭言語または緩慢言語、嚥下困難、および緩慢な非協調運動が含まれる。ALSのさらなる例示的臨床症状には、ALSを有する対象またはALSを有すると疑われる対象から得られる生物学的試料に検出され得るもの、例えば正常と比較して増加したCD4:CD8細胞比、正常と比較して減少したCD14+細胞数、正常CD14+細胞と比較して増加したCD14+細胞上のHLA-DR発現、正常と比較して増加した活性化単球または活性化マクロファージのレベル、増殖性マクロファージの存在、および正常と比較して減少した血清IgGおよび/またはIgMが含まれ、この場合、本明細書において使用する「正常」とは、ALSに罹患していない対象またはそのような非罹患対象から得られる細胞を意味する。
【0082】
もう一つの態様において、本発明による亜塩素酸の投与を伴う治療に適した個体には、MSを有すると診断された個体、MS「に苦しむ」個体(例えばMSの一つまたは複数の臨床症状を有する、患っているおよび/または示すと診断される個体)、またはそのような障害を進展させるリスクが高いと判断された個体が含まれる。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、MSを進展させる不連続で有意なリスクを有する個体である。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、検出可能な疾患を持っても持たなくてもよく、本明細書に記載する方法を受ける前に、検出可能な疾患を示したことがあっても示したことがなくてもよい。「高リスク」(または「リスクを有する」)とは、疾患の進展と相関する測定可能なパラメータである一つまたは複数のいわゆるリスク因子を、ある個体が有することを意味する。これらのリスク因子の一つまたは複数を有する個体は、これらのリスク因子を持たない個体よりも疾患を進展させる可能性が高い。これらのリスク因子には、例えば遺伝学的(すなわち遺伝性)考慮事項(家族歴および遺伝子マーカーを含む)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。リスク因子を一つ有するだけで高リスクを示す場合も多いと理解される。臨床家は、当業者として、ある薬剤を使った処置が、リスクのある個体に適応を有するかどうかを決定するための裁量を有する。
【0083】
MSの例示的臨床症状には、MSを有する対象またはMSを有すると疑われる対象から得られる生物学的試料中に検出され得るもの、例えば正常と比較して増加したCD4:CD8細胞比、正常と比較して減少したCD14+細胞数、正常CD14+細胞と比較して増加したCD14+細胞上のHLA-DR発現、正常と比較して増加した活性化単球または活性化マクロファージのレベル、増殖性マクロファージの存在、および正常と比較して減少した血清IgGおよび/またはIgMが含まれ、この場合、本明細書において使用する「正常」とは、MSに罹患していない対象またはそのような非罹患対象から得られる細胞を意味する。
【0084】
もう一つの態様において、本発明による亜塩素酸の投与を伴う治療に適した個体には、ADを有すると診断された個体、AD「に苦しむ」個体(例えばADの一つまたは複数の臨床症状を有する、患っているおよび/または示すと診断される個体)、またはそのような障害を進展させるリスクが高いと判断された個体が含まれる。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、ADを進展させる不連続で有意なリスクを有する個体である。「リスクを有する」個体または「高リスク」個体は、検出可能な疾患を持っても持たなくてもよく、本明細書に記載する方法を受ける前に、検出可能な疾患を示したことがあっても示したことがなくてもよい。「高リスク」(または「リスクを有する」)とは、疾患の進展と相関する測定可能なパラメータである一つまたは複数のいわゆるリスク因子を、ある個体が有することを意味する。これらのリスク因子の一つまたは複数を有する個体は、これらのリスク因子を持たない個体よりも疾患を進展させる可能性が高い。これらのリスク因子には、例えば遺伝学的(すなわち遺伝性)考慮事項(家族歴および遺伝子マーカーを含む)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。リスク因子を一つ有するだけで高リスクを示す場合も多いと理解される。臨床家は、当業者として、ある薬剤を使った処置が、リスクのある個体に適応を有するかどうかを決定するための裁量を有する。
【0085】
ADの例示的臨床症状には、最近の出来事、活動、または親しい人々もしくはありふれた事物の名前を思い出しにくいことを含む軽度の健忘;簡単な算数の問題を解くのが困難であること;簡単な作業(例えば歯を磨くこと、または髪を櫛でとかすこと)の方法を思い出しにくいこと;明瞭に考えることができないこと;発語、理解、読解、または筆記が困難であること;および不安もしくは攻撃性、または徘徊傾向が含まれる。ADのさらなる例示的臨床症状には、ADを有する対象またはADを有すると疑われる対象から得られる生物学的試料に検出され得るもの、例えば正常と比較して増加したCD4:CD8細胞比、正常と比較して減少したCD14+細胞数、正常CD14+細胞と比較して増加したCD14+細胞上のHLA-DR発現、正常と比較して増加した活性化単球または活性化マクロファージのレベル、増殖性マクロファージの存在、および正常と比較して減少した血清IgGおよび/またはIgMが含まれ、この場合、本明細書において使用する「正常」とは、ADに罹患していない対象またはそのような非罹患対象から得られる細胞を意味する。
【0086】
治療の監視
本発明による亜塩素酸に基づく治療は、一つまたは複数の臨床症状に対する治療の作用を評価することによって監視し、それに応じて投薬量およびレジメンを調節することができる。一般に亜塩素酸の有効量は、対象における一つまたは複数の臨床症状の改善をもたらす用量または用量群である。
【0087】
例えば、CD14+細胞上の上昇したHLA-DR発現および/または増加したCD14+/CD16+細胞数および/またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージはマクロファージ関連神経変性障害(例えばALS、AD、MS)に関連するので、これらのレベルの監視を使って、治療に対する初期応答性および/または効力ならびに治療の適切な投薬量の評価を容易にすることができる。同様に、CD14+細胞上の上昇したHLA-DR発現および/または増加したCD14+/CD16+細胞数および/またはCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージはMSに関連するので、これらのレベルの監視を使って、治療に対する初期応答性および/または効力ならびに治療の適切な投薬量の評価を容易にすることができる。
【0088】
治療を監視するとは、異なる時点で症状を評価し、それらを経時的に比較することを意味すると理解される。臨床症状の評価が生物学的試料の解析を必要とする場合は、そのような生物学的試料が一般に、例えば治療適用中の異なる時点に取得され、互いに、または対照および/または望ましい値と比較される。生物学的試料の評価によってALS治療を監視する方法は、例えば米国特許出願公開第20030175832号に記載されている。
【0089】
例えば、ALS治療、AD治療またはMS治療などのマクロファージ関連神経変性障害の治療は、末梢血からのCD14+細胞によるHLA-DR発現レベルを決定することによって監視することができる。もう一つの態様においては、治療の監視が、血液試料(好ましくは末梢血)中の、HLA-DR発現量が上昇しているCD14+細胞のレベルを決定するステップを含む。もう一つの態様においては、治療の監視が、血液試料(好ましくは末梢血)中の、CD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージを決定するステップを含む。もう一つの態様においては、治療の監視が、血液試料(好ましくは末梢血)中の、CD14+/CD16+細胞数を決定するステップを含む。もう一つの態様においては、治療中および/または治療完了時に決定された血液試料中の異常マクロファージのレベル(さまざまな態様において、HLA-DR発現量が上昇しているCD14+細胞のレベル、CD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージ、および/またはCD14+/CD16+細胞の数)が、一般に、対照試料におけるレベルおよび/または望ましい値と比較される。もう一つの態様においては、治療の監視が、異常マクロファージの増殖を測定するステップも含む。
【0090】
もう一つの態様において、ALS治療、AD治療またはMS治療などのマクロファージ関連神経変性障害の治療は、治療を受けている患者から特定の時点で採取された試料中の異常マクロファージのレベルを評価することによって監視され、かつ/または治療後もしくは治療完了時に採取された試料は、一般に、治療前に患者から採取された試料中のレベルおよび/または治療中の異なる時点で患者から採取された試料中のレベルと比較される。例えば、治療中に採取した試料中の異常マクロファージのレベルが、治療前に採取した試料または治療中のそれ以前の時点に採取した試料と比較して減少していることは、一般に、治療の陽性効果と一致するだろう。
【0091】
もう一つの態様において、本発明による治療は、末梢血試料などの血液試料からCD14+細胞によるHLA-DR発現レベルを決定することによって評価される異常マクロファージレベルを評価することによって、監視される。例えば治療の作用は、処置前および処置中の、末梢血中のCD14+細胞によるHLA-DR発現のレベルを比較することによって決定され、HLA-DR発現の下降傾向は一般に陽性効果と一致する。
【0092】
もう一つの態様において、本発明による治療は、病的マクロファージのレベルを評価することによって、例えば末梢血試料などの血液試料からCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージを決定することによって評価される異常マクロファージのレベルを評価することなどによって、監視される。例えば、治療の作用は、処置前および処置中の、末梢血中のCD14+細胞の集団におけるCD16+細胞のパーセンテージを比較することによって決定され、CD14+/CD16+細胞のパーセンテージの下降傾向は一般に陽性効果と一致する。
【0093】
もう一つの態様において、本発明による治療は、病的マクロファージのレベルを評価することによって、例えば末梢血試料などの血液試料中のCD14+/CD16+細胞の数を決定することによって評価される異常マクロファージのレベルを評価することなどによって、監視される。例えば治療の作用は、処置前および処置中の末梢血におけるCD14+/CD16+細胞の数を比較することによって決定され、CD14+/CD16+細胞の数の下降傾向は一般に陽性効果と一致する。
【0094】
キット
本発明では、単位用量の亜塩素酸イオンの供給源、例えば亜塩素酸(例えばアルカリ金属塩、例えば亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなど)、亜塩素酸塩の混合物、亜塩素酸イオンのマトリックス、例えば一般式ClO2×nO2を有する組成物[式中、「n」は約0.1〜0.25の値をとることができる]、例えばTCDOなどを含むキットも考えられる。一般に、そのような単位用量は注射可能な剤形、特に注入に適した剤形をとっている。そのようなキットには、単位用量を含有する容器の他に、ALS、AD、またはMSなどのマクロファージ関連神経変性障害対象の処置における亜塩素酸の使用およびそれに付随する利益について記述した情報添付文書も含まれるだろう。任意で、キットは、マクロファージ関連神経変性疾患を有する患者の同定に関する情報およびそのような患者の治療の監視に関する情報(例えば病的マクロファージ、例えば増殖性マクロファージ、活性化マクロファージの評価に関する情報)を含む。
【実施例】
【0095】
以下の実施例は、本発明をなす方法および本発明を使用する方法が当業者に完全に開示され説明されるように記載するものであって、本発明者らがその発明であるとみなしているものの範囲を限定する意図はなく、以下の実験が行なわれた実験の全てまたは唯一行なわれた実験であることを述べようとするものでもない。使用する数字(例えば量、温度など)については正確さが確保されるように努力したが、多少の実験誤差および偏差は考慮されるべきである。別段の表示がある場合を除き、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0096】
方法および材料
以下に述べる実施例では次の方法および材料を使用した。
【0097】
対象
Forbes Norris MDA/ALS Research Center(米国カリフォルニア州、San Francisco)においてEl Escorial基準(Brooks et al.「El Escorial World Federation of Neurology criteria for the diagnosis of amyotrophic lateral sclerosis. Subcommittee on Motor Neuron Diseases/Amyotrophic Lateral Sclerosis of the World Federation of Neurology Research Group on Neuromuscular Diseases and the El Escorial "Clinical limits of amyotrophic lateral sclerosis" workshop contributors」J. Neurol. Sci. 124(suppl):96-107)によって診断された40人のALS患者(平均年齢±SD, 59.5±13.3歳)から、UCSF AIDS and Cancer Specimen Resource(ACSR)プログラムによってコーディネートされたCPMC and UCSF committees on human research guidelineに従って、採血した。臨床試験および臨床実践において総合的機能状態を評価するために使用され、0〜48に採点される、改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)(Cedarbaum et al., 1999「The ALSFRS-R: a revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function」J. Neurol. Sci. 169:13-21)を使って、各患者の臨床状態を評価し、血液検査から1ヶ月以内に更新した。
【0098】
40人の患者は男性26人(年齢範囲34〜87歳;平均年齢±SD, 58.0±14.0歳)および女性14人(年齢範囲40〜77歳;平均年齢±SD, 62.4±11.7歳)からなった。彼らはALS歴が4〜93ヶ月であり、ALSFRS-Rスコア範囲は8〜43だった。家族性ALS(fALS)を有する患者は2人だけで、38人の患者は散発性ALS(sALS)と診断された。標本を研究したALS患者(表では「Pt」と略記)に関する人口統計学的情報を表1に示す。このうち13人の患者は、標準的用量のさまざまな抗炎症薬(Celebrex、Vioxx、Naproxyn、Excedrin)を使用し、31人の患者はリルゾール(50mg毎日2回)を服用しており、10人の患者は両方の薬物投与を受けていた。
【0099】
(表1)臨床の概要


A50mg毎日2回 B標準的用量
【0100】
37個の正常対照血液試料(平均年齢±SD, 41.8±9.2歳)は、Stanford University Blood Centerで採取された血液から取得し、ALS患者血液標本と同様の方法で処理した。それらは21人の男性(年齢範囲25〜61歳;平均年齢±SD, 43.5±8.6歳)および16人の女性(年齢範囲25〜59歳;平均年齢±SD, 35.9±9.7歳)からなった。IgGおよびIgM試験用の対照試料は80人の献血者より得た血漿からなり、これらもStanford University Blood Centerから入手した。
【0101】
フローサイトメトリー
末梢血10mlを各患者および正常対照からヘパリン加チューブに採取し、同日免疫学試験のために室温で検査室に移した。細胞免疫学的活性化は、T細胞サブセット上のCD38およびCD14細胞上のHLA-DRのレベルを定量することによって評価した。CD14細胞上のCD16(FcガンマIII受容体)発現を単球分化に関するもう一つのマーカーとして使用した。これは組織マクロファージに特有のサイトカイン発現パターンと関連する抗原だった(Ziegler-Heitbrock et al., 1993. Eur. J. Immunol. 23:2053-2058;Frankenberger et al., 1996. Blood. 87:373-377)。単球の分化に関連する単球顆粒性は、側方光散乱特性(SSC)に対するCD14関連「バックゲーティング(backgating)」によって測定した。全血を、CD14-フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、CD16-フィコエリトリン(PE)(DAKO,米国、カリフォルニア州、Carpinteria)、CD8-FITC、CD38-PE、HLA-DR-PE、およびCD4-ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)(Becton-Dickinson,米国カリフォルニア州、San Jose)により、室温で15分間染色した。陰性対照は、アイソタイプIgG-FITC、IgG-PE、およびIgG-PerCPで染色したアリコートからなった。染色は全て製造業者の仕様書に従って行なった。次に、試料をFACS Lysing Solution(Becton-Dickinson)により室温で10分間溶解した後、0.1%アジ化ナトリウム+PBS Ca++Mg++フリーで洗浄した。次に、染色された細胞を固定溶液(0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS中の1%パラホルムアルデヒド)1mlに再懸濁した。解析は、Cellquestソフトウェアを使ってFACScanフローサイトメーター(Becton-Dickinson)でデータを取得することにより行なった。この際、1回の解析につき少なくとも20,000個の細胞をカウントした。
【0102】
血清IgGおよび血清IgMの検出
ALS患者血液からPercoll勾配遠心分離によって血漿を取得し、使用時まで-70℃で凍結した。血清抗体を決定するための標準的ELISA:抗ヒトIgG Fabまたは抗ヒトIgM(Sigma,米国ミズーリ州、セントルイス)を、37℃で少なくとも1時間インキュベートすることにより、96穴ELISAプレート(Nunc,デンマーク、Roskilde)中にコーティングした(100mcl/ウェル)。プレートをTBS(150mM NaCl,20mM トリス-HCl,pH7.4)で1回洗浄した後、室温で150mcl(マイクロリットル)/ウェルのBLOTTO(TBS+0.1%Tween-20,2.5%正常ヤギ血清,2.5%脱脂粉乳)を添加することにより、穏やかに撹拌しながら30分間ブロックした。次に、ELISAプレートをTBSで1回(1×)洗浄した。被覆プレートに血清の連続希釈液を加え(各希釈液につき二つ一組のウェル,100mcl/ウェル)、室温で90分間反応させた。IgGおよびIgM(Sigma)の標準校正系列(0〜5mcg/ml)を調製し、ELISAウェルに加え、並行してインキュベートした。BLOTTOを全ての希釈液に使用した。90分間のインキュベーション後に、全ての液を吸引によって除去した後、全てのプレートをTBSで3回洗浄した。結合したIgG抗体は、BLOTTOに1:10000希釈した抗ヒトIgGアルカリホスファターゼコンジュゲート(Promega Corp.,米国ウィスコンシン州、Madison)100mcl/ウェルを加えることによって検出した。結合したIgM抗体は、BLOTTOに1:5000希釈した抗ヒトIgMアルカリホスファターゼコンジュゲート(Kirkegaard & Perry,米国メリーランド州、Gaithersburg)100mcl/ウェルを加えることによって検出した。抗体コンジュゲートを穏やかに撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。コンジュゲートを吸引によって除去し、プレートをTBSで4回洗浄した。各ウェルにPNPP基質(Sigma)100mclを添加した後、室温で20分間インキュベートすることによって呈色反応を進展させた。各ウェルの光学密度(O.D.)を405nmで読み取った。例外的に低い値または例外的に高い値を有する血清はいずれも再試験した。ALS試料から得られた生データのIgG値およびIgM値に、正常血漿からの調製手段の相違を考慮するための換算因子を掛けた。
【0103】
統計解析
ALS患者について細胞活性化を「陽性」または「陰性」と定義するためのカットオフ値は、37人の正常なALS陰性健常ドナーから得られた値との比較によって決定した。結果を平均±SDとして表す。統計解析は、GraphPad Prism 4.0ソフトウェア(米国カリフォルニア州、San Diego)によって行い、二群比較のための両側t検定および多群間の相違を解析するための一元配置(One-Way)ANOVA(Newman-Keuls検定)を含めた。相関関係はPearsonの順位相関係数を使って解析した。全ての解析について、P<0.05の値を有意とみなした。
【0104】
実施例1:正常対象と比較したALS患者における免疫活性化の横断研究
免疫活性化の横断的研究を、ALSと診断された40人の患者から得た血液に対して、37人の対照との比較で行い、初期統計解析は薬物処置状態とは無関係に行なった。ALS血球は異常な活性化レベルを示した。表2にこの研究の結果を要約する。
【0105】
(表2)ALS患者および正常対照の血液における血清抗体および分化抗原発現の比較解析

A血清IgGおよび血清IgM用の対照試料についてはn=80。
BCD4およびCD8 T細胞上に発現されるCD38蛍光の中央値。
CCD14単球上に発現されるHLA-DR蛍光の平均。
【0106】
ALSを有する患者は、対照と比較して、CD4 Tリンパ球サブセットのレベルが比率的に有意に高かった(P<0.0001)。対照的に、CD8 T細胞レベルは患者でも対照でも似ていた。これら対照との比率的相違は、ALSを有する患者におけるCD4/CD8細胞比の有意な増加を示している(P=0.0261)。T細胞サブセットにおける正常を上回るリンパ球活性化の証拠は、ALSを有する患者には観察されなかった。
【0107】
対照と比較して、ALS患者血液における総白血球数内のCD14細胞の絶対パーセントは有意に減少した(P=0.0002)。ALSを有する患者からのCD14+単球は、正常レベルより有意に高いレベルの主要組織適合性(MHC)抗原クラスII(HLA-DR)を発現させた(P<0.0001)(表2)。血管周囲マクロファージは、通常、MHCクラスII(HLA-DR)を構成的に発現させ、それは傷害に応答してアップレギュレートされる(Streit et al., 1989「Expression of Ia antigen on perivascular and microglial cells after sublethal and lethal motor neuron injury」Exp. Neurol. 105:115-126)。血液単球上のHLA-DRの調節は、さまざまな病理発生状態と関連づけられており、血液測定は臨床上有意義であることが示されている(Gascon et al., 2002「Increased HLA-DR expression on peripheral blood monocytes in subsets of subjects with primary HIV infection is associated with elevated CD4 T-cell apoptosis and CD4 T-cell depletion」J. Acquir. Immune. Defic. Syndr. 30:146-153;Gu et al., 2003「Time course of proinflammatory and anti-inflammatory responses after cardiac operation: monocyte HLA-DR expression」Ann. Thorac. Surg. 76:654-655;Melichar et al., 2003「Phenotype and antitumor activity of ascitic fluid monocytes in patients with ovarian carcinoma」Int. J Gynecol. Cancer. 13:435-443)。ALS血液ではCD14細胞のほぼ半分が、組織マクロファージの特徴を有し、正常レベルより有意に高いCD16抗原を発現させていた(P<0.0001)。
【0108】
MHC抗原クラスII(HLA-DR)およびCD16マーカーに関する反応性の増大によって定義される異常単球表現型は、ALSを有する患者と正常対照とのCD14関連SSC(顆粒性および分化の尺度)の有意な相違に関連した。対照と比較して、ALS患者からの単球は、統計的に増加した顆粒性(高いSSC値)を有した(P=0.0198)。
【0109】
最後に、体液性免疫の総合的状態を、ALSを有する患者および対照における血清IgGおよび血清IgMのレベルを定量することによって評価した(表2)。ALSを有する患者における血清IgGレベルは対照より有意に低かったのに対して(P=0.0038)、血清IgM濃度は有意に高かった(P=0.0171)。
【0110】
実施例2:進行ALS疾患ではCD4 T細胞活性化が減少する
Tリンパ球活性化が疾患の継続時間または重症度に関係するかどうかを検証するために、T細胞活性化の結果を表1に示す臨床ALS値と比較した。臨床相関解析を単純化するために、ALSFRS-Rスコア(0〜48,疾患なし=48)に基づいて患者を二つの群に分割した。重度の障害を有する患者(0〜24のALSFRS-Rスコア,n=10)を、障害の軽い患者(ALSFRS-Rスコア>24,n=26)と比較した。
【0111】
図1に示すように、CD4 T細胞表面上のCD38抗原の検出によって定量されるT細胞活性化レベルは二つの群間で有意に異なった(P<0.05)。対照と比較して、24以下のALSFRS-Rスコアを有する患者ではCD4/CD38反応性が有意に低かったのに対して(P<0.01)、疾患の重症度がそれより低いALS患者(ALSFRS-Rスコア>24)ではCD4/CD38反応性の相違が認められなかった。測定した他のT細胞(CD4またはCD8)パラメータのいずれにも、有意な疾患関連変化は観察されなかった。
【0112】
実施例3:マクロファージ活性化とALS疾患進行
全身性の単球/マクロファージ活性化が疾患の継続時間または重症度と関係するかどうかを評価するために、表2から得られるマクロファージ活性化パラメータを疾患重症度の臨床尺度に対してプロットすることにより、何らかの疾患特異的な変化が存在するかどうかを検証した。
【0113】
(総白血球数の一部としての)CD14細胞のレベルは、軽度の疾患または重度の疾患を有する個体間で変化しなかった。単球/マクロファージ活性のレベルと、ALSFRS-Rスコアによって定義される重症度との間には、有意な相関があった(Pearson、r=-0.3464,P=0.0409)(図2a)。
【0114】
ALS疾患疾患の速度(1ヶ月あたりのALSFRS-Rスコア変化)をCD14細胞のHLA-DR発現と比較したところ、直接的で有意な関係が観察された。図2bは、より高いCD14-DRレベルが、より急速なALS疾患の進行と関連したことを示している(Pearson、r=0.3696,P=0.0265)。最後に、CD14発現単球上でのマクロファージ分化抗原CD16同時発現レベルの上昇は、疾患の重症度とは無関係だった。
【0115】
実施例4:ALSを有する患者における血清IgGおよび血清IgMの変化
表2は、血清におけるIgGおよびIgMの濃度が、正常対照と比較してALSを有する患者では有意に異なることを示している。血清IgGおよび血清IgMのレベルは疾患重症度によっても変化した。0〜24のALSFRS-Rスコアを有するALS患者は、正常対照より有意に低いレベルの血清IgGを有し(P<0.05)、軽い疾患を有する個体および対照では血清IgGレベルは類似していた(図3a)。しかし血清IgMレベルは、軽い疾患を有する個体では有意に高く(P<0.01)、対照と重度の疾患を有する個体との間には有意差がなかった(図3b)。
【0116】
実施例5:ALS特異的免疫活性化状態の治療に関係した変化
表1にはALSを有する患者が本研究における評価時に服用していた薬物が示されている。これらの薬は2つの異なるカテゴリー、すなわちALS疾患進行を減速させるために承認されたリルゾールと、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)とに分類された。ALSを有する患者における免疫活性化測定に対する薬物処置の作用を、表3に要約する。特に、HLA-DRおよびCD16によって測定されるマクロファージ活性化および分化レベルは治療に伴って変化しなかった。
【0117】
(表3)正常対照および薬物投与を受けているまたは薬物投与を受けていないALS患者における血清抗体および分化抗原発現の比較解析

A血清IgGおよび血清IgM用の対照試料についてはn=80。
BCD4およびCD8 T細胞上に発現されるCD38蛍光の中央値。
CCD14単球上に発現されるHLA-DR蛍光の平均。
【0118】
NSAIDの包含でさえ、低いマクロファージ活性化レベルとは関連しなかった(表3)。同様に、CD4/CD38同時発現のレベルおよび血清IgGに関して、3つの処置カテゴリーの患者間に有意差はなかった。しかし、二重治療(リルゾール+NSAID)が血清IgMレベルの正常化と関連したのに対して、リルゾール単独群は無処置患者と相違しなかった。
【0119】
実施例1〜5に関する考察
本研究では、ALSにおいて全身性の免疫改変が存在し得るかどうかを決定するために、ALSを有する患者からの血液に対して免疫表現型解析および体液性免疫評価を行なった。ALSを有する患者の血液には持続的に活性化されたマクロファージが観察された。高レベルのマクロファージ活性化および分化はALSの全過程にわたって持続した。また、HLA-DRのCD14同時発現によって定義されるマクロファージ活性化は、疾患重症度に関連する形でさらに高くなり、疾患進行の速度に直接関係した。さらにまた、リルゾール(現在唯一承認されているALSの処置)およびNSAIDによる処置を受けたALS患者では、マクロファージ活性化状態は改善されなかった。血中マクロファージ活性化度とALS疾患進行速度との直接的関係は、血液とCNSにおいて進行中の病理発生過程との連関を示している。
【0120】
ALSを有する患者において循環単球上のHLA-DRレベルが有意に高いのは、ALSを有する患者の脊髄および脳における小膠細胞/マクロファージの反応を拡げる運動ニューロン傷害に対する末梢免疫系の反応に原因があると考えることができる。または、図2a〜2bによって示唆されるように、かつ、HADおよびSIVEにおいて観察されるように、ALSを有する患者の血中の活性化マクロファージは脊髄血管周囲領域と連絡し、疾患において直接的な病理発生的役割を果たし得る。
【0121】
ALS CD14細胞上の高レベルのHLA-DRは、ALSにおける組織マクロファージマーカーCD16を同時発現させるCD14細胞の比率の上昇と結びつけられた。CD14+/CD16+単球は、循環中で、成熟組織マクロファージと共通の特徴を獲得する細胞の亜集団である。これらは、TNFα、IL-1α、およびIL-6などの炎症促進性サイトカインを産生することができるが、それらによる強力な抗炎症性サイトカインIL-10の発現は低いか、存在しない。したがってCD14+/CD16+細胞は、通常の単球よりも深刻なレベルの炎症を誘発し得る。
【0122】
CD14+/CD16+単球は炎症部位に素速く移動することができ、そこでそれらは炎症促進性マクロファージへと容易に成熟する。理論に拘泥するわけではないが、アルツハイマー病(AD)およびAIDS関連痴呆などの神経障害は、これらの細胞がCNS中に移動しBBBを横切る場合に放出する神経毒性因子が一因であり得る。CD16発現単球上の上昇したHLA-DR発現レベルは、ADおよびHADにおける活性化マクロファージと同様の機序により、ALSにおいて血中単球がCNS中に移動し、BBBを横切るという結果をもたらす可能性がある。ALSを有する患者におけるCD14細胞の絶対パーセントの減少は、疾患の血管周囲領域への循環CD14/CD16+細胞の移動と関連し得る。そこではこれらの細胞が、ALSにおいて病理発生的役割を潜在的に果たすとして関係づけられているIL-6などの局所神経毒性因子を放出し(Ono et al., 2001「Increased interleukin-6 of skin and serum in amyotrophic lateral sclerosis」J. Neurol. Sci. 187:27-34;Sekizawa et al., 1998「Cerebrospinal fluid interleukin 6 in amyotrophic lateral sclerosis: immunological parameter and comparison with inflammatory and non-inflammatory central nervous system diseases」J. Neurol. Sci. 154: 194-199)、それがAIDS関連痴呆および他のHIV関連神経障害と同様に、運動ニューロンを損傷し得る。
【0123】
この横断的研究では血中マクロファージ異常はALS病理発生過程全体を通して持続したが、T細胞測定値は、疾患重症度に関係する変化を示した。正常対照と比較して、ALS患者ではCD4を発現させるT細胞が有意に増加していたが、CD8 T細胞のパーセンテージは正常範囲内にあり、その結果、ALSではCD4/CD8細胞の比が有意に増加していることが示された。本明細書において記載するALS患者の末梢血におけるCD4+ T細胞の割合の増加およびCD4/CD8比の増加は、アネルギーへの、またはTh1型細胞性免疫応答よりもTh2型体液性応答への、免疫バランスの考え得るシフトを示唆している。このTh2様リンパ球免疫応答は、ALSにおける高レベルの活性化CD14+/CD16+単球の存在によって誘発され得る。活性化マクロファージでのFcγR(CD16)結合は、これら活性化マクロファージの表現型を、Th2様応答を優先的に駆動し免疫系のTh1型適応成分の改変をもたらす細胞へと変化させ得る。
【0124】
血清IgGおよび血清IgM抗体の濃度は正常対照と比較して有意に異なり、疾患の進行に伴っても変化した。ALSを有する患者は疾患の初期段階では正常なIgG濃度を有し、高レベルのIgMを有していた。ALSを有する患者では、疾患の進行に伴って、血清IgGレベルの低下とそれに付随する血清IgM分泌の正常化が観察された。ALS患者における血清IgMの正常化は併用療法に関連した。ALS患者血液における血清抗体レベルの変化は、CD4 T細胞機能障害および/または欠損Th1型免疫を駆動する持続的マクロファージの活性化に関係する可能性がある。
【0125】
T細胞活性化マーカーの研究において、CD38レベルはCD4 T細胞上でALS疾患の進行と共に減少した。しかしCD8/CD38反応性は正常範囲内に留まった。これらのデータは、(T細胞)免疫系の適応成分がALS病理の発生中に活性とならなかったことを示唆している。ALSを有する患者からの血液に関する本発明者らの観察は、リンパ球が、小膠細胞/マクロファージとは異なり、活発なALS脊髄関連免疫炎症反応にわずかな役割しか果たさないことを示唆している。したがって、ALSにおける神経炎症過程はリンパ球浸潤にはわずかにしか依存しないと考えられ、むしろマクロファージ活性によって駆動される。
【0126】
本発明者らは、ALSを有する患者における血球活性化の全身性改変を、初めて実証した。ALS血液には持続的な疾患関連マクロファージ活性化が観察され、CD14細胞上のHLA-DRレベルは、ALS疾患進行の速度と直接関連した。本研究により、ALS疾患における全身性マクロファージ活性化が確認され、ALS病理発生におけるマクロファージの積極的な役割が暗示される。異常に活性化されたマクロファージが、付随するT細胞活性化の証拠を伴わずに、ALS血液中に観察された。これらの観察結果は、全身性免疫調節不全がALSの病理発生に役割を果たすことを示している。本明細書に提示するデータは、ALSが、運動ニューロン喪失を引き起こす局所症状発現を伴う全身性炎症性疾患の一種であり得ることを示している。
【0127】
これらの観察は、循環単球の活性化関連マーカーおよび炎症関連マーカー(例えばHLA-DRおよびCD16)ならびにALSを有する患者におけるT細胞活性化の状態を測定することによって達成することができる、ALS疾患疾患を監視するための本発明の方法の基礎である。本発明は、免疫機能障害疾患としてのALSの処置の監視に、貴重な支援を提供する。さらにこれらの観察は、ALSにおける炎症を減少させることを目的とする治療的介入に関係するので、本発明の基礎でもある。
【0128】
実施例6:WF10による2人のALS患者の処置
2001年より後にALSと診断された2人の患者にWF10(IMMUNOKINE(商標)とも呼ばれる)を与えた。各症例において薬物は、各患者について同じ用量および同じ投与間隔で使用した。0.3cc/kgの用量を1時間注入として静脈内に5日間投与した(0.5cc/kgのWF10,亜塩素酸含有溶液の63mM溶液,5日間にわたって毎日500ccの食塩水に入れて1時間かけて注入)。このレジメンを3週間毎に繰り返した。したがって、1サイクルは、1時間注入の5日間と、それに続く薬物投与のない3週間から構成された。患者1は5サイクル受け、患者2は4サイクル受けた。有害副作用はどちらの患者にも認められなかった。
【0129】
患者1は家族型のALS(スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子SOD中に公知の突然変異)を有する59歳の女性であり、診断時(スコア40)から21ヶ月後のWF10治療開始時(スコア15)まで、標準的ALS機能評価スコア(ALS/FRS)による測定で進行性の機能喪失を示していた。標準的ALS患者において、ALS/FRSスコアリングシステムに基づくALS進行の速度は本質的に直線的であり、下降する傾斜に従って予測可能な速度で進行するALSが知られている。この症例では、もう一人の患者の症例と同様に、予測される疾患進行速度は、ALS/FRSスコアの実線下降線から伸びる予測点線として示されている。治療の開始時に、患者1はもはや食物または液体を嚥下することができず、給餌のために彼女の胃には胃腸チューブ(Gチューブ)が設置されていた。摂食不能は変性ALS過程の脳関与の徴候であるのに対して、ALS/FRS測定は脊髄変性を証明する。
【0130】
WF10の1回目のサイクル後に、患者はその症状に劇的な改善を見せた。これには、Gチューブの除去につながる嚥下および摂食能力の回復(グラフ上の点線はGチューブ設置時を意味し、除去は実線として示されている。治療を中断した後は、点線が新しいGチューブの設置を示している)、顔面筋線維束攣縮およびボーカルウェイバリング(vocal waivering)の停止(停止した、両方の神経疾患の悪化症状)が含まれる。治療時および治療中断後の2ヶ月間は、ALS/FRSスコアが7ヶ月にわたって10で安定した状態を保った。これは、治療しなければ5ヶ月以内に0まで進行すると予測されていた時点である。彼女は治療開始後8ヶ月間は口で摂食することができたが、Gチューブの設置後に摂食するとは決して予想されなかった。5サイクル後に薬物を得ることができなくなったために、7ヶ月間の安定した疾患状態後に治療を中断した。その後、6ヶ月以内に、彼女のALS疾患は処置前の速度と同じ速度で進行した。図6に示す曲線によれば、この患者は、7ヶ月にわたって疾患が安定したALS/FRSスコアにも、8ヶ月間の摂食不能という脳に基づく症状(球症状)の逆転にも、有益な効果を示した。現在承認されている薬物も公知の実験薬物も球症状を逆転させたことはなく、ALS/FRSスコアの安定化を引き起こした薬物もなかった。
【0131】
患者2:2003年に散発(非家族)型のALSと診断されたこの37歳の男性は、診断時に40というALS/FRSスコアを有し、図6に示すように1年以内に急速に進行していた。WF10治療時に彼はちょうど、もはや嚥下できなくなったために、Gチューブを設置されたところだった。WF10治療から1週間以内に、患者1における臨床応答と同様に、彼は摂食能力を回復し、Gチューブは除去された。この患者は4サイクルのWF10を受け、この間に彼のALS/FRSスコアは21で安定状態を保ち、これにより、彼は歩行器を使って歩き続けること、および家族と交流しつづけることができた。彼の生活の質は治療の開始と共に劇的に改善された。特許出願時点で、彼は摂食を続けており、彼のALS/FRSスコアは21のままで、これらの有意な応答はどちらも5ヶ月間持続していた。上述のように、このタイプの作用を示したことのある治療はない。
【0132】
図4は、WF10による処置の結果としての患者1における血中マクロファージ活性化結果の変化を示している。Y軸は、血中CD14細胞(単球/マクロファージ)の表面上に発現されたHLA-DRの単位数を表す。2番目の柱(ALS急速)は、急速に下降する臨床経過を有するALS患者が示すDR発現レベルを表している。3番目の柱(ALS緩慢)は、緩慢に進行する疾患を有するALS患者におけるDR発現レベルを表している。これらの2つの柱の間の進行速度は、約5〜10倍異なる(図2aおよび図2b)。DRレベルが高い患者はDRレベルが低い患者より5〜10倍速く進行する。
【0133】
図4における最初の柱群は、ALS患者におけるDRのベースラインレベル(高、迅速進行患者)を表し、2番目の柱は5日間のWF10サイクル(0.5cc/kgのWF10,63mM溶液の亜塩素酸含有溶液,3日間にわたって毎日500ccの食塩水において1時間かけて注入)を1回行なってから3週間後に発現されたDRレベルを表している。最初の柱群の3番目の柱は、CD14細胞上のDR発現の正常(38人の正常献血者の混成)レベル±1標準偏差を表している。
【0134】
図4に示すように、患者1における循環血中単球(CD14+細胞)上のHLA-DRのレベルは、1サイクル後には上昇したレベルから正常レベルまでシフトすることが示された。最近の論文(Zhang et al, J NeuroImmunology 2005 159:215-224)では、単球上のDRのレベルがALS疾患進行速度と有意に関連づけられた。この図に示すデータは、急速進行患者の速度を緩慢進行患者の速度と比較しており、患者1の血中単球がWF10投与により急速表現型から緩慢表現型へと変換したことを示している。このデータは、図6に示す臨床データと共に、亜塩素酸系薬物による全身性マクロファージ活性の調節が(MSについて図5にも示すように)、血液検査および臨床観察の両方によって監視できることを示唆している。
【0135】
これらのデータは、WF10投与が、急速に進行するALS患者における症状の改善に関連したことを実証すると同時に、解消されたマクロファージ活性化の血液値、例えば病的マクロファージの減少が、患者の改善に付随したことを実証している。
【0136】
実施例7:WF10によるMS患者の処置
図5は、上記実施例6に記載された1サイクルのWF10による処置を受けた多発性硬化症(MS)を有する患者から得られた血中マクロファージ活性化測定値を表す混成曲線群である。Y軸に沿った値は、測定されたパラメータのそれぞれを正常レベル(38人の正常ドナーの平均値)で割って比を求めた、観察された測定値の比を表す。0日目は5個の異なるマクロファージ活性化/増殖マーカーに関するベースライン値を表す。それら5個のマーカーはそれぞれ0日目に正常範囲(実線および点線で示す)を超えて上昇していた。
【0137】
次に患者を上述のように1サイクルのWF10で処置し、その後、3日間のWF10投薬の開始後14日目および28日目に、2回の血液検査を行なった。マクロファージの増殖(CD14Ki67,CD14PCNA)および活性化(CD14/DR,CD14SSC,CD14/16%)は全て、14日目には正常範囲に向かってシフトして、測定した5個のマクロファージパラメータ中5個で、1サイクルのWF10に対する応答を示した。2週間後(28日目)には、値は本質的に処置前レベルまで戻っていた。これらのデータは、多発性硬化症を有する患者における異常マクロファージ増殖/活性化パラメータに対する薬物誘発作用と一致している。
【0138】
実施例8:ALS患者およびAD患者のマクロファージの解析
免疫活性化の横断的研究を、sALSと診断された38人の患者から得た血液に対して、対照群との比較で行い、初期統計解析は薬物処置状態とは無関係に行なった。この調査においては、sALS患者と比較するために2つの対照群(すなわち28人の年齢対応正常対照および神経疾患対照としての25人のAD患者)を選択した。sALSを有する患者からの血球は、疾患対照AD患者と同様に、異常な活性化レベルを示した。この研究の結果を表4に要約する。sALSおよびADを有する患者は、正常対照と比較して比率的に有意に高いレベルのCD4 Tリンパ球サブセットを有していた(p<0.05)。対照的に、CD8 T細胞レベルおよびCD4/CD8の比は3つの群全てにおいて類似していた。sALSを有する患者および疾患対照では、T細胞サブセットにおいて正常を上回るリンパ球活性化の証拠は観察されなかった。
【0139】
(表4)sALS患者、正常対照およびADの血液における血清抗体および分化抗原発現の比較解析

aCD4およびCD8 T細胞上に発現されるCD38蛍光の中央値。
bCD14単球上に発現されるDR蛍光の平均。
CCD14関連側方光散乱特性。
d血清IgGおよび血清IgM用の対照試料についてはn=80。
eND,データなし。
【0140】
単球/マクロファージマーカーの解析により、sALSおよびADを有する患者からのCD14+単球は正常レベルより有意に高い主要組織適合性(MHC)抗原クラスII(HLA-DR)を発現させたが(p<0.001)、総白血球数内のCD14細胞の絶対パーセントには、sALS患者血液標本にもAD患者血液標本にも正常対照と比較して差が認められなかったことが示された(表4)。sALS血液およびAD血液中のCD14細胞のほぼ半分が、組織マクロファージの特徴を有し、正常レベルより有意に高いCD16抗原を発現させていた(p<0.001)。HLA-DRおよびCD16の高い発現によって定義される異常単球表現型は、sALSを有する患者と正常対照とのCD14関連SSC(顆粒性および分化の尺度)の有意な相違に関連した。正常対照と比較して、sALS患者からの単球は、統計的に増加した顆粒性(より高いSSC値)を有した(pb0.01)。最後に、体液性免疫の総合的状態を、sALSを有する患者および対照における血清IgGおよび血清IgMのレベルを定量することによって評価した(表4)。sALSを有する患者における血清IgGレベルは対照より有意に低かったのに対して(p<0.003)、血清IgM濃度は有意に高かった(p<0.03)(AD患者からの血清は研究に利用できなかった)。
【0141】
高レベルのマクロファージ活性化および分化はsALSの全過程にわたって持続した。また、HLA-DRのCD14同時発現によって定義されるマクロファージ活性化は、sALS疾患進行の速度に直接関係した。さらにまた、リルゾール(現在唯一承認されているALSの処置)またはNSAIDによる処置を受けたsALS患者では、マクロファージ活性化状態は改善されなかった。血中マクロファージ活性化度とALS疾患進行速度との直接的関係は、血液とCNSにおいて進行中の病理発生過程との連関を示唆している。
【0142】
上記は単に発明に原理を説明しているに過ぎない。本明細書に明示的には説明したり示したりはしていないが、本発明の原理を体現し本発明の趣旨および範囲に包含されるさまざまな変更を当業者が考案できるであろうことは、理解されるだろう。さらにまた、本明細書に記載した全ての実施例およ条件的言語は、原則として、本発明の原理および本発明者らが当技術分野の拡大に捧げる概念の理解を助けるためであって、そのような具体的に述べられた実施例および条件に限定されるわけでないと解釈されるべきである。さらにまた、本発明の原理、局面および態様ならびにその具体的実施例を述べた本明細書における全ての陳述は、その構造的および機能的等価物をどちらも包含するものとする。さらに、そのような等価物は現在公知である等価物も、将来開発される等価物、すなわち構造とは無関係に同じ機能を果たす開発された任意の要素も包含するものとする。したがって本発明の範囲は、本明細書に示し説明した例示的実施例には限定されないものとする。むしろ、本発明の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲によって体現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロファージ関連神経変性障害を有する対象またはマクロファージ関連神経変性障害のリスクを有する対象に亜塩素酸を投与する段階を含み、亜塩素酸が対象におけるALSを処置するのに有効な量投与される、対象におけるマクロファージ関連神経変性障害を処置する方法。
【請求項2】
亜塩素酸が亜塩素酸イオンのマトリックスの形態で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
亜塩素酸イオンのマトリックスがテトラクロロデカオキシゲン(tetrachlorodecaoxygen)(TCDO)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
TCDOが水性製剤として投与される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
製剤がWF10である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
亜塩素酸が薬学的に許容される亜塩素酸塩の形態で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
マクロファージ関連神経変性障害が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
マクロファージ関連神経変性障害が多発性硬化症(MS)である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
マクロファージ関連神経変性障害がアルツハイマー病(AD)である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
マクロファージ関連神経変性障害を有する対象またはマクロファージ関連神経変性障害のリスクを有する対象に亜塩素酸を投与する段階を含み、亜塩素酸が、対象における病的マクロファージ(pathologic macrophage)のレベルを該投与前のレベルと比較して減少させるのに有効な量投与される、マクロファージ関連神経変性障害を有する対象またはマクロファージ関連神経変性障害のリスクを有する対象における病的マクロファージを減少させる方法。
【請求項12】
亜塩素酸が亜塩素酸マトリックスの形態で投与される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
亜塩素酸マトリックスがテトラクロロデカオキシゲン(TCDO)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
TCDOが水性製剤として投与される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
製剤がWF10である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
亜塩素酸が薬学的に許容される亜塩素酸塩の形態で投与される、請求項11記載の方法。
【請求項17】
亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
マクロファージ関連神経変性障害が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
マクロファージ関連神経変性障害が多発性硬化症(MS)である、請求項11記載の方法。
【請求項20】
マクロファージ関連神経変性障害がアルツハイマー病(AD)である、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−67110(P2012−67110A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233850(P2011−233850)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【分割の表示】特願2006−552151(P2006−552151)の分割
【原出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】