説明

神経変性疾患の治療のためのPKC活性化化合物

本発明は、アルツハイマー病及び脳卒中を含む神経病の治療のために、シクロプロパン化又はエポキシ化されたモノ又はポリ不飽和脂肪酸の誘導体を用いて、プロテインキナーゼC(PKC)のアイソフォームを活性化する方法に関する。本発明は、シクロプロパン化又はエポキシ化されたモノ又はポリ不飽和脂肪酸の誘導体を用いた神経変性を低減させる方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
この出願は、2008年7月28日に出願された米国仮特許出願第61/084172号からの優先権の利益を主張し、その開示の全体は、参照によってここに組み込まれる。
【0002】
本発明は、プロテインキナーゼC(PKC)のアイソフォームを活性化するための組成物及び方法に関する。本発明は、神経変性疾患の低減並びにアルツハイマー病及び脳卒中を含む神経病の治療のための方法をも提供する。
【0003】
アルツハイマー病、脳卒中、及び、抑うつ障害におけるPKCアクティベータ
アルツハイマー病(AD)は、記憶及び認知機能の進行的減退を特徴とする神経変性疾患である。ADに伴った認知症は、アルツハイマー病での用法では、アルツハイマー型老人性認知症(SDAT)と呼ばれている。ADは、臨床的には、記憶、認知、推論、判断及び感情の安定性の進行的な喪失を特徴としており、これらは、次第に深い精神崩壊に導き、最終的には死をもたらす。ADの有り得るメカニズムについては多数の仮説が存在するが、ひとつの中心的な理論は、毒性のベータアミロイド(Aβ)の過剰な形成及び蓄積が、直接又は間接に種々の細胞活動に影響し、神経へのダメージ及び細胞死をもたらすというものである。Selkoe, Neuron. 1991; 6(4): 487-98 1991; Selkoe, J Clin Invest. 2002;110(10):1375-81。
【0004】
ADは、臨床的な兆候の始まりから死に至るまで約8〜15年の平均期間を有する進行性の疾患である。ADは、7番目に多い医学的な死因であると信じられており、米国において約500万人を冒している。罹患者数は、2030年までに770万人に至ると予測されている。65歳を上回る年齢の8人に1人、即ち人口の13%が、ADを有している(Alzheimer’s Association 2008 Alzheimer’s Disease Facts and Figures)。ADは、現在、全世界で約1500万人(全ての人種及び民族を含む)を冒しており、人口に占める高齢者の相対的な増加に起因して、その罹患者数は、次の20〜30年間に亘って増加しそうである。ADは、現状では不治である。
【0005】
プロテインキナーゼC(PKC)は、プロテインキナーゼの最も大きな遺伝子ファミリーの1つである。PKC、PKCβ1、PKCβII、PKCδ、PKCε、及びPKCγなどの幾つかのPKCアイソザイムが、脳内で発現されている。PKCは、本来はサイトゾリックなタンパク質であるが、刺激によって、膜へと移行する。PKCは、アルツハイマー病に関連する多数の生化学的プロセスに関わっていることが示されている。PKCの活性化は、学習及び記憶増強にも決定的な役割を有しており、PKCアクティベータは、記憶及び学習を増強させることが示されている。Sun and Alkon, Eur J Pharmacol. 2005;512:43-51; Alkon et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102:16432-16437。PKCの活性化は、ラットの海馬におけるシナプス形成を誘起することが示されており、神経変性状態におけるPKCによる抗アポトーシス及びシナプス形成の可能性を示唆している。Sun and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2008; 105(36): 13620-13625。PKCアクティベータの1種であるブリオスタチン−1を用いた虚血後/低酸素症の治療は、虚血に誘起されたシナプス形成、神経栄養活性、並びに、空間的学習及び記憶の欠陥を、効果的に救った。Sun and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2008。この効果は、シナプスタンパク質スピノフィリン及びシナプトフィジンのレベルの増加、並びに、シナプス形態の構造的変化を伴っている。Hongpaisan and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2007;104:19571-19576。長期的な連想記憶のためのブリオスタチン誘起シナプス形成も、PKC活性化によって制御される。Hongpaisan and Alkon, PNAS 2007。PKCは、ニューロトロフィンの生産も活性化する。神経栄養因子、特には脳由来の神経栄養因子(BDNF)及び神経成長因子(NGF)は、損傷したニューロン及びシナプスの修復及び再成長を開始させる主要な成長因子である。幾つかのPKCアイソフォーム、特にはPKCε及びPKCαの活性化は、おそらくは神経栄養因子の生産の増大により、神経の損傷に対して対抗する。Weinreb et al., FASEB Journal. 2004;18:1471-1473。PKCアクティベータは、チロシンヒドロキシラーゼの発現を誘起し、ニューロンの生存及び神経突起の生長を誘起することも報告されている。Du and Iacovitti, J. Neurochem. 1997; 68: 564-69; Hongpaisan and Alkon, PNAS 2007; Lallemend et al., J. Cell Sci. 2005; 118: 4511-25。
【0006】
ADは、タウの過剰リン酸化によっても特徴付けられている。タウは、主に脳内で発現され、そこで、ニューロン、アストロサイト及びオリゴデンドロサイト中の微小管の配向及び安定性を制御している。ADでは、正常な可溶性タウが、不溶性の、対となった螺旋状のフィラメントへと変換される。これは、タウにおける翻訳後の変化、主には、多数のプロテインキナーゼによるタウの過剰リン酸化に関連している。幾つかの研究は、合成Aβは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の活性化を通じて、タウのリン酸化を促進することを示している。Wang et al., Journal of Neurochemistry. 2006; 98(4): 1167-1175。PKCの活性化は、GSK−3βの阻害を通じて、ラットの第1海馬ニューロンを、Aβに媒介された神経毒症状から保護することが示されている。Garrido et al., FASEB J. 2002: 1982。
【0007】
PKCは、TNF−アルファ変換酵素(TACE;ADAM17としても知られている)をも活性化する。この酵素は、膜に結合したアミロイド前駆体タンパク質(APP)を、可溶性APP−α又はsAPPαとして知られている非病原性の可溶性の形態に、タンパク質分解によって変換することに関わっている。Alkon et al., Trends in Pharmacological Sciences. 2007; 28(2): 51-60; Hurtado et al., Neuropharmacology. 2001; 40(8): 1094-1102。これらのsAPPα生成酵素は、一般的に、アルファ−セクレターゼと呼ばれている。PKCによるTACEの活性化は、ベータ−セクレターゼ酵素(BACE)によるAPPの開裂によって生産される病原性Aβの細胞レベルも減少させる。これは、TACEの開裂サイトがAPPのAβドメイン内にあるという事実に起因していると思われる。PKCεの過剰発現は、Aβを分解するエンドセリン変換酵素(ECE)の活性を選択的に増加させることが示されている。Choi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2006; 103(21): 8215-8220。加えて、nM以下の濃度の、共にPKCアクティベータであるブリオスタチン及び効能のある合成類縁体(ピコログ)は、TACEの増加による非アミロイド生成性経路を刺激する原因となり、生成される毒性Aβの量を低減させることが見出された。Khan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2009; 34(2):332-9。
【0008】
Aβレベルの減少は、アルツハイマー病における主要な治療目標である。PKCアクティベータによるAβ生成の阻害は、共通の基質APPに対するTACEとBACEとの競合に起因しているかもしれないと推測されている。
【0009】
PKCを媒介とするα−セクレターゼの活性化という戦略は、ADにおける3つの同方向の有益な結果:sAPP−αの生成を増大させて、Aβを減少させること;PKCを媒介とした下流の基質のリン酸化を介して記憶を促進すること;及び、GSK−3βの阻害を通じてタウのリン酸化を減少させることについて、利点を有している。
【0010】
AD患者は、既に、PKCの主要な下流基質であるErk1/2のPKCα/εを媒介としたリン酸化のレベルを減らしている。Khan and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2006;103:13203-13207。加えて、正常なフィブロブラストへのAβの適用は、PKC活性を低減させる。これは、Aβが直接的にPKCα/εを下方制御するためである。PKCアクティベータ、特にはPKCα/εに特異的なPKCアクティベータは、Aβの効果を打ち消し、Aβに誘起された変化を逆転又は阻害させるであろう。
【0011】
脳卒中は、米国における障害及び死亡の主要な要因であるが、限られた治療オプションしか存在しない。幾つかのPKCアイソフォームは、脳卒中の後の虚血症及び再かん流障害を媒介する中心的な役割を有していることが示されている。実験的な脳卒中モデル、マウスジェネティクス、並びに、選択的なペプチド阻害剤及び活性化剤についての研究は、PKCεは耐虚血性の誘起及び障害の抑止に関わっており、他方、PKCδ及びγは損傷に影響を与えることを実証している。Takayoshi et al., Stroke. 2007; 38(2):375-380; 及び Bright et al., Stroke. 2005;36: 2781。PKCεの虚血保護効果の1つの有り得るメカニズムは、PKCεが、アデノシン誘起のミトコンドリアATP感応性カリウムチャネルを媒介することによって、ERK活性を介してミトコンドリアの機能を維持するというものである。他の有り得るメカニズムは、PKCεがCOX−2誘起を介して神経保護効果を引き出すというものである。Kim et al., Neuroscience. 2007; 145(3): 931-941。COX−2活性の生成物であるプロスタグランジンE2(PGE2)は、脳虚血症における神経保護をもたらす。上述した通り、PKCアクティベータの1種であるブリオスタチン−1を用いた虚血後/低酸素症の治療は、虚血に誘起されたシナプス形成、神経栄養活性、並びに、空間的学習及び記憶の欠陥を、効果的に救った。Sun and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2008; 105(36): 13620-13625。
【0012】
循環Aβタンパク質は、急性の虚血発作の患者において高められることが示されている。循環Aβ1−40のレベルは、虚血発作の患者において、コントロールと比較して著しく上昇した。Lee et al., Journal of Neural Transmission. 2005; 112(10): 1371-79。AD患者において、次第に蓄積していく血管Aβと、細動脈及び前頭皮質の壁厚の増大との間に、強い正の相関があることも示されており、このことは、細動脈レベルにおいて連続的に進行するAβに付随した血管障害が収縮期間及び脳血流の自己調節能を害し、下流の毛細血管を障害に対して脆弱にすることを示唆している。Stopa et al., Stroke. 2008;39:814。
【0013】
加えて、脳卒中の幾つかの形態、例えば、コンゴレッド親和性アミロイド血管障害(CAA)としても知られている脳アミロイド血管障害に付随したものは、Aβが原因である。この疾患は、ADにおいて見出されるのと同じAβデポジットが脳の軟髄膜壁及び脳皮質血管の表面に蓄積する血管障害の一形態である。アミロイド沈着は、これらの血管を障害にかかりやすくし、脳出血のリスクを増加させる。CAAは、一過性の虚血発作、くも膜下出血、ダウン症候群、放射後の壊死、多発性硬化症、白質脳症、海綿状脳症、及び拳闘家認知症にも関わっている。
【0014】
PKCα及びεは、AD、脳卒中及び抑うつ障害における上述した有益な効果を顕在化させる最も重要なPKCアイソフォームであることが、証拠によって示唆されている。PKCαのアンチセンス阻害は、sAPPαの分泌をブロックすることが示されており、PKCεは、Aβの生成を最も効果的に抑制するアイソザイムである。Racci et al., Mol. Psychiatry. 2003; 8:209-216; 及び Zhu et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2001; 285: 997-1006。それゆえ、アイソフォームに特異的なPKCアクティベータは、潜在的な抗アルツハイマー薬として大いに望まれている。特異的なアクティベータは、ブリオスタチンなどのより低い特異性を示す化合物より好ましい。PKCδ又はβの非特異的な活性化は、不所望の副作用を生み出す可能性があるためである。
【0015】
更には、PKCεは、脳以外の全ての通常組織においても、非常に低いレベルで発現されている。Mischak et al., J. Biol. Chem. 1993; 268: 6090-6096; Van Kolen et al., J. Neurochem. 2008;104:1-13。シナプス前神経線維におけるPKCeの高い存在量は、神経突起の生長又は神経伝達物質の放出における役割を示唆している。Shirai et al., FEBS J. 2008; 275: 3988-3994。したがって、特異的なPKCεアクティベータの効果は、脳に大きく制限され、不所望の末梢副作用は生じないであろう。
【0016】
PKCアクティベータとしてのPUFAs
アラキドン酸(図1参照)などの幾つかのPUFAは、長年に亘って、天然のPKCアクティベータとして知られている。ドコサヘキサエン酸(DHA)も既知のPKCアクティベータであり、Aβ並びに脳を閉塞させるプラーク及びADで示唆されるもつれに関連したタウタンパク質の蓄積を遅くすることが最近示されている。Sahlin et al., Eur J Neurosci. 2007; 26(4):882-9。
【0017】
Kannoらは、新たに合成された、cis−二重結合のかわりにシクロプロパン環を有したリノール酸である8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸(DCP−LA)のプロテインキナーゼC(PKC)活性への効果を記述している。Journal of Lipid Research. 2007; 47: 1146-1156。DCP−LAは、他のPKCアイソザイムに対して7倍以上の効能でPKCεを活性化した。これは、PCP−LAがPKCεに対して非常に特異的であることを示唆している。この化合物は、グルタミン酸末端又はニューロン上におけるシナプス前アセチルコリン受容体の活性を高めることにより、海馬におけるシナプス伝達をも促進した。しかしながら、DCP−LAは、最大限の効果を生み出すために、比較的高い濃度を必要とする。
【0018】
NishizakiらのWO2002/50113は、シクロプロパン環を有したカルボン酸化合物及びそれらの対応する塩であって、LTPなどのシナプス伝達の相乗作用のため及び認知促進薬又は認知症の治療薬として使用するためのものを開示している。これらの合成例は、エステルの調製を開示しているが、その実験結果は、遊離酸の使用を教示している。その理由は、出発物質である脂肪酸のカルボン酸基がシモンズ−スミス反応に使用されるジエチル亜鉛と反応するだろうからである。メチルエステルは保護基としての役割を果たし、加水分解によって除去されてもよく、必要に応じてそのまま残されてもよい。
【0019】
従来技術についての警告には、上述した効果を達成するために高い濃度の投与が必要であること、PKCアイソフォームの非特異的な活性化、又は、未修飾PUFAsの脂肪組織及び他の器官への早い代謝及び隔離(そこでは、未修飾PUFAsはトリグリセリド及びカイロミクロンへと取り込まれる)が含まれる。J Pharmacobiodyn. 1988;11(4):251-61。加えて、未修飾のPUFAsの使用は、無数の有害な副作用を有し得る。例えば、アラキドン酸は、潜在的な炎症誘起効果を有しているプロスタグランジン、トロンボキサン、及びロイコトリエンの生化学的な前駆体である。このことは、病理が炎症を含み易いアルツハイマー病の治療にとって、望ましくないであろう。他の必須の脂肪酸も、一酸化窒素シグナリングの促進、抗炎症効果、及び、コレステロールの整合性に干渉するであろうHMG−CoAリダクターゼの阻害を含む、他の生物学的効果を有しているかもしれない。
【0020】
AD及び脳卒中の双方を治療するための現存のオプションが限られているため、神経保護をもたらすPKCアイソフォームのみを選択的に活性化できる新しい治療法が必要とされている。
【0021】
PUFAs及びMUFAsと病気
オメガ−3 PUFAsが、臨床的うつ病、双極性障害、人格障害、統合失調症、及び注意欠陥障害などの他の気分障害に有益で有り得ることが、ますます多数の研究によって示唆されている。 Ross et al., Lipids Health Dis. 2007; 18;6:21。オメガ−3脂肪酸、特にはドコサヘキサエン及びエイコサペンタエン酸、並びに、オメガ−6脂肪酸に対するオメガ−3脂肪酸の健康的なバランスと、うつのリスクの低減とを結びつける多数の証拠が存在している。Logan et al., Lipids Health Dis. 2004; 3: 25。うつで入院している患者の臨床的研究において、オメガ−3脂肪酸のレベルがはっきりと低いことが見出され、オメガ−3脂肪酸に対するオメガ−6脂肪酸の比率が特に高かった。最近の研究は、重いうつ障害を有した患者の眼窩前頭皮質中において、ドコサヘキサエン酸の選択的な欠乏が存在していることを見出した。McNamara et al. Biol Psychiatry. 2007;62(1):17-24。幾つかの研究は、双極性障害を有した対象は、オメガ−3脂肪酸のレベルがより低いことも示している。近年の幾つかの研究において、双極性障害を有した大人及び子供の双方において、オメガ−3脂肪酸が、プラセボと比べて、うつに対してより有効であることが示された。Osher and Belmaker, CNS Neurosci Ther. 2009;15(2):128-33; Turnbull et al., Arch Psychiatr Nurs. 2008;22(5):305-11。
【0022】
広範囲の研究は、オメガ−3脂肪酸が、炎症を低減させ、心臓病、癌、炎症性大腸炎及びリウマチ関節炎などの慢性病に関連したリスクファクターを妨げる助けをすることも示している。Calder et al., Biofactors. 2009;35(3):266-72; Psota et al., Am J Cardiol. 2006;98(4A):3i-18i; Wendel et al., Anticancer Agents Med Chem. 2009;9(4):457-70。
【0023】
モノ不飽和脂肪酸もまた、障害に有益であることが示されている。タイプ2糖尿病の医学栄養療法のための低脂肪食の代替としてMUFA食を用いることについて、良い科学的なサポートが存在している。Ros, American Journal of Clinical Nutrition. 2003; 78(3): 617S-625S。高不飽和脂肪酸食は、プラズマコレステロール及びトリアシルグリセロール濃度の双方を低減させる。Kris-Etherton et al., Am J Clin Nutr. 1999 Dec;70(6):1009-15。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明において使用が企図される分子の構造(BR−101〜BR−118)を示している。
【図2】図2は、BR−101(DCP−LA)及び活性がより低い2つの誘導体(CR−102及びBR−103)によるin vitroでのPKCεの活性化の結果を示している。
【図3】図3は、種々の濃度のBR−111(DHA−CP6メチルエステル);BR−114(EPA−CP5メチルエステル;及びBR−115(AA−CP4メチルエステル)を用いたPKCεの活性化を示している。
【図4】図4は、他のシクロプロパン化及びエポキシ化された脂肪酸メチルエステル:シクロプロパン化されたリノレンアルコール(BR−104);シクロプロパン化されたリノレイルアルコール(BR−105);エポキシステアリン酸(BR−116);ベルノリン酸メチルエステル(BR−117);及びシクロプロパン化されたベルノリン酸メチルエステル(BR−109)を用いたPKCεの活性化を示している。
【図5】図5は、ラットの海馬ニューロンH19−7/IGF−IR中における、種々の濃度のブリオスタチンによるPKC活性化の時間推移を示している。
【図6】図6は、ブリオスタチン及びDCP−LAによるラット海馬の第1ニューロン中におけるPKC活性化の時間推移を示している。
【図7a】図7aは、PKCアクティベータであるブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)又はBR−111(DHA−CP6)にさらされたニューロ2a(N2A)細胞中における細胞内Aβレベルの減少を描いている。
【図7b】図7bは、PKCアクティベータであるブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)又はBR−111(DHA−CP6)にさらされたニューロ2a(N2A)細胞中における分泌されたAβレベルの減少を描いている。
【図8】図8は、SH−SY5Y神経芽細胞中での対外から適用されたAβの分解におけるBR−111(DHA−CP6)(0.1〜10μM)の効果を示している。
【図9】図9は、ヒトAPPSwe/PS1Dwp用いてトランスフェクトされたN2a神経芽細胞中における、PKCアクティベータであるブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)又はBR−111(DHA−CP6)のTACE活性への効果(9a);ラットの皮質第1ニューロン中におけるTACE活性への種々の濃度のブリオスタチンの効果(9b);及び、ラットの皮質第1ニューロン中におけるTACE活性への種々の濃度のBR−111(DHA−CP6)の効果(9c)を描いている。
【図10】図10は、PKCアクティベータであるブリオスタチン(0.27nM)、BR−101(DCP−LA)(1μM)、BR−111(DHA−CP6)(1μM)、又はエタノールによるSH−SY5Y神経芽細胞中でのエンドセリン変換酵素(ECE)の活性化を示している。
【図11】図11は、SH−SY5Y神経芽細胞の細胞生存に対するBR−101(DCP−LA)及びBR−111(DHA−CP6)(1−100μM)の効果(a)、及び、SH−SY5Y神経芽細胞の細胞増殖に対するBR−101(DCP−LA)及びBR−111(DHA−CP6)(1−100μM)の効果(b)を描いている。
【0025】
本発明は、ポリ不飽和脂肪酸(PUFA)又はモノ不飽和脂肪酸(MUFA)のある誘導体を用いたPKCεの活性化のための方法を提供する。これら化合物は、nM濃度でPKCεを活性化し、このことは、これら化合物を、AD、脳卒中、及びPKCεが神経を保護する他の神経病の治療のための素晴らしい候補としている。
【0026】
定義
「脂肪酸」は、約4〜30の炭素原子を含んだ枝分かれしていない脂肪鎖を有したカルボン酸である;殆んどの長鎖脂肪酸は10〜24の炭素を含んでいる。脂肪酸は、飽和でも不飽和でもあり得る。飽和脂肪酸は、鎖に沿って二重結合又は他の官能基を含んでいない。不飽和脂肪酸は、鎖に沿って、1つ又は2つ以上のアルケニル官能基、即ち二重結合を含んでいる。用語「ポリ不飽和脂肪酸」又は「PUFA」は、2つ以上の二重結合を含んだ脂肪酸を意味している。3つのクラスのPUFAs、即ち、オメガ−3 PUFAs、オメガ−6 PUFAs、及びオメガ−9 PUFAsが存在する。オメガ−3 PUFAsでは、第1の二重結合が、鎖の末端の炭素(オメガ炭素)から3炭素離れた位置に見出される。オメガ−6 PUFAsでは、第1の二重結合が、オメガ炭素から6炭素離れた位置に見出され、オメガ−9 PUFAsでは、第1の二重結合が、オメガ炭素から9炭素離れた位置にある。
【0027】
PUFAsは、「ポリエノイック脂肪酸」とも呼ばれる。ここでは、用語PUFAは、天然及び合成脂肪酸の双方を包含する。PUFAsの主な供給源は、海洋魚及び脂肪種子作物由来の植物油(vegetable oil)であるが、商業的に発展した植物油(plant oil)は、典型的には、リノール酸及びリノレン酸(18:3デルタ9,12,15)に限られている。
【0028】
「cis−PUFA」は、隣接する炭素原子が二重結合の同じ側にあるものである。
【0029】
略号X:Yは、X個の炭素原子とY個の二重結合を有したアシル基を意味している。たとえば、リノール酸は、18:2と略されるであろう。
【0030】
「メチレン中断ポリエン」は、単一のメチレン基によって互いから隔てられた2つ又は3つ以上のcis−二重結合を有するPUFAを表す。
【0031】
「非メチレン中断ポリエン」又は「ポリメチレン中断脂肪酸」は、2つ以上のメチレン基によって互いから隔てられた2つ又は3つ以上のcis−二重結合を有するPUFAを表す。
【0032】
「モノ不飽和脂肪酸」(MUFA)は、脂肪酸鎖中に単一の二重結合を有し、残りの鎖中の全炭素原子が単結合で結合している脂肪酸である。代表的なMUFAsには、オレイン酸、ミリストレイン酸及びパルミトレイン酸が含まれる。
【0033】
「cis−モノ不飽和脂肪酸」は、隣接する水素原子が二重結合の同じ側にあるものを意味している。
【0034】
共役リノール酸(9−cis,11−trans−オクタデカジエン酸)などの共役脂肪酸は、共役ジエン、即ち、隣接した炭素上に2つの二重結合を有している。幾つかの証拠は、共役リノール酸が抗癌活性を有していることを示唆している。
【0035】
代表的なPUFAsには、リノール酸(9,12−オクタデカジエン酸);γ−リノレン酸(GLA;6,9,12−オクタデカトリエン酸):α−リノレン酸(9,12,15−オクタデカトリエン酸);アラキドン酸(5,8,11,14−エイコサテトラエン酸);エイコサペンタエン酸(EPA;5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸);ドコサペンタエン酸(DPA;7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸);ドコサヘキサエン酸(DHA;4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸);及びステアリドン酸(6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸)が含まれる。
【0036】
ここでは、用語「シクロプロパン」は、C3H6の分子式を有するシクロアルカン分子であって、互いに結合して環を形成した3つの炭素原子を有し、これら炭素原子の各々が2つの水素原子を保持しているものを表す。
【0037】
「エポキシド」は、3つの環原子を有する環状エステルを表す。
【0038】
ここでは、「PUFA誘導体」は、PUFA又はそのアルコール若しくはエステルであって、二重結合の少なくとも1つがシクロプロパン化又はエポキシ化されたものを表す。
【0039】
ここでは、「MUFA誘導体」は、MUFA又はそのアルコール若しくはエステルであって、二重結合がシクロプロパン化又はエポキシ化されたものを表す。
【0040】
PKCεの「選択的活性化」は、本発明のPUFA誘導体化合物が、PKCεを、他の全てのPKCアイソザイムより検出可能な程度に高く活性化することを意味している。具体的な態様では、PUFA誘導体は、例えば、以下で記述されるPKC活性化アッセイを用いた測定において、他のPKCアイソザイムより、PKCεを、少なくとも1倍、2倍又は5倍活性化させる。活性化されると、プロテインキナーゼC酵素は、RACKタンパク質(活性化されたプロテインキナーゼCタンパク質に対する膜結合レセプタ)によって、原形質膜へと移行する。一般的に、活性化されると、プロテインキナーゼC酵素は、RACKタンパク質によって、原形質膜へと移行する。PKC活性化の他の徴候には、特異的なC末端セリン/スレオニン残基におけるホスファチジルイノシトールトリホスフェート依存キナーゼ(PDK1)によるリン酸化及び少なくとも2つの更なるリン酸化、及び/又は、PKCファミリーの各酵素中の良く保存された配列の自己リン酸化が含まれる。PKCの活性化は、Sun and Alkon, Recent Patents CNS Drug Discov. 2006;1(2):147-56に記載されている。
【0041】
「神経変性」は、ニューロンの死を含む、ニューロンの構造又は機能の進行性の喪失を表す。
【0042】
本発明の目的に対して、「神経病」は、APPのβアミロイド生成プロセスに関連したあらゆる中央神経系(CNS)又は末梢神経系(PNS)の病気を表す。これは、ニューロンの喪失、ニューロンの分解、ニューロンの脱髄、グリオーシス(即ちアストログリオーシス)、又は、異常タンパク質若しくはトキシン(Aβなど)のニューロンでの若しくはニューロン外での蓄積を含むがこれらに限定されないニューロン細胞又は膠細胞の欠陥をもたらすかもしれない。
【0043】
代表的な神経病の1つは、ADである。他の代表的な神経病は、脳アミロイド血管障害としても参照されるコンゴレッド親和性アミロイド血管障害(CAA)である。
【0044】
用語「アルツハイマー病」又は「AD」は、Aβデポジションが最終的には中央神経系の細胞中に至るであろう全ての状態を表す。1つの非限定的な態様では、Aβ、特にはAβ1−42ペプチドが、APPのβアミロイド生成代謝から形成される。ADは、家族性の発現において遺伝性であるかもしれず、散発的であるかもしれない。ここでは、ADは、家族性、散発性、並びに、表現型の発現に基づいたこれらの中間物及びサブグループを含んでいる。
【0045】
他の神経病は、ダウン症候群(DS)である。DSの患者は、(30歳代又は40歳代において、)ADの特徴的な病変である、脳アミロイド(Aβ)プラーク及び神経原線維のもつれ(NFTs)を必ず発現する。最近の研究は、Aβ42が、ダウン症候群の脳にデポジットされるこのタンパク質の最初期の形態であり、12歳の若さの対象にも見られるかもしれず、可溶性のAβは、妊娠21週目において、DSの対象の脳において検出可能であることが示されており、これらは、Aβプラークの形成よりずっと早い。Gyure et al., Archives of Pathology and Laboratory Medicine. 2000; 125:. 489-492。
【0046】
ここでは、用語「対象」は、哺乳動物を含んでいる。
【0047】
「薬学的に許容される」という語は、対象に投与されたときに、生理学的に耐えられ且つ典型的には有害反応をもたらさない分子及び組成物を表す。好ましくは、ここでは、用語「薬学的に許容される」は、国又は州政府の規制局に承認されているか、又は、米国薬局方、若しくは、一般的に認識されている、動物、特にはヒトへの使用のための他の薬局方にリストされていることを意味している。「薬学的に許容されるキャリア」は、活性成分が組み合わされてもよく且つこの組み合わせによって活性成分が対象に投与可能となる化学組成物を意味しており、化合物と共に投与される、希釈剤、アジュバント、添加剤又は賦形剤を表し得る。
【0048】
用語「治療のために有効な投与量」又は「有効量」は、検出可能な治療上の応答をもたらす治療剤の量を表す。治療上の応答は、使用者(例えば臨床医)が治療の有効な応答であると認識するであろう如何なる応答であってもよく、例えば、症状及び代用の臨床指標の改善が含まれる。それゆえ、治療上の応答は、一般的には、ADなどの病気又は状態の1つ以上の症状の改善又は阻害であるだろう。検出可能な治療上の応答には、症状又は病気が防がれたか、始まりが遅められたか、又は、治療剤によって弱められたという所見も含まれる。
【0049】
用語「約」及び「およそ」は、測定の所定の性質又は精度において、測定された量の許容できる誤差の度合を一般的に意味しているとする。典型的で代表的な誤差の度合は、所定の値又は値の範囲の20%以内であり、好ましくは10%以内であり、より好ましくは5%以内である。或いは、特に生物学的な系では、用語「約」及び「およそ」は、所定の値と同じオーダーの大きさの範囲内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内の値を意味していてもよい。ここで与えられる数値は、他の記載がない限り、近似値である。即ち、用語「約」又は「およそ」は、明示的に述べられていなくても、そのように推測され得る。
【0050】
本発明は、PUFAs又はMUFAsのシクロプロパン化又はエポキシ化された誘導体であって、1つの、複数の、又は全ての二重結合がシクロプロパン基又はエポキシド基によって置換されたものの使用を含んでいる。末端の官能基は、遊離のカルボン酸であってもよく、脂肪族又は芳香族アルコールとのメチルエステル、エチルエステル、又は他のアルキルエステルであってもよい。このアルコールは、明確に、グリセロール及びその誘導体をも含んでいる。グリセロール誘導体は、生物学的に重要である、なぜなら、脂肪酸は、グリセロールに共役して、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、又はホスファチジン酸の形態で、最も頻繁に見出されるからである。例えば、トリアシルグリセロールは、脂肪酸のカルボキシル基がグリセロールの3つ全ての炭素のヒドロキシル基とエステル化したものであり、トリアシルグリセロール又はトリグリセリドと呼ばれる。
【0051】
カルボン酸をエステル化する目的は、負圧を除去することにより、血脳関門を通過する輸送を促進することにある。アルコール基の目的もまた、血脳関門を通過する輸送を促進することにある。
【0052】
一態様では、本発明において使用される化合物の基礎をなす脂肪酸は、以下の構造を有するポリ不飽和脂肪酸である:
CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH
ここで、Xは2〜6であり、Yは2〜6であり、メチレン又はポリメチレン中断ポリエンを含んでいる。代表的なポリ不飽和脂肪酸は、以下の構造を有している、リノール酸、γ−リノール、アラキドン酸、及びアドレン酸である:
リノール CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6COOH
γ−リノール CH3(CH2)4(CH=CHCH2)3(CH2)3COOH
アラキドン CH3(CH2)4(CH=CHCH2)4(CH2)2COOH
アドレン CH3(CH2)4(CH=CHCH2)4(CH2)4COOH
これらは、オメガ−6 PUFAsである。
【0053】
他の態様では、本発明において使用される化合物の基礎をなす脂肪酸は、以下の構造を有するポリ不飽和脂肪酸である:
CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH
ここで、Xは2〜6であり、Yは2〜6であり、メチレン又はポリメチレン中断ポリエンを含んでいる。代表的なポリ不飽和脂肪酸は、以下の構造を有している、α−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、エイコサテトラエン酸である:
α−リノレン CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH
エイコサテトラエン CH3CH2(CH=CHCH2)4(CH2)5COOH
エイコサペンタエン CH3CH2(CH=CHCH2)5(CH2)2COOH
ドコサヘキサエン CH3CH2(CH=CHCH2)6(CH2)2COOH
これらは、オメガ−3 PUFAsとして知られている。
【0054】
具体的な態様において、本発明の化合物は、ヒドロキシル基がアルコキシ基で置換され且つ少なくとも1つの二重結合がシクロプロパン化されたcis−PUFAのエステルである。この態様の出発材料は、以下の構造を有している:
CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOR 又は CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOR
ここで、Rは、アルコール由来のアルキル基であり、このアルコールには、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、グリセロール、マニトール、及びソルビトールを含むがこれらに限定されないモノハイドリック及びポリハイドリックアルコールが含まれる。
【0055】
更なる態様において、化合物は、少なくとも3つのシクロプロパン化された二重結合を含んでいる。
【0056】
他の態様において、本発明において使用される化合物の基礎をなす脂肪酸は、以下の構造を有するモノ不飽和脂肪酸である:
CH3(CH2)xCH=CH(CH2)yCOOH
ここで、X及びYは、3〜11の奇数である。
【0057】
本発明において使用される化合物の基礎となり得る代表的なモノ不飽和脂肪酸には、オレイン酸、エライジン酸、トウハク酸、カプロレン酸、ラウロレイン酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、パルミトオレイン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、及びペトロセリン酸などのcis−又はtrans−モノ不飽和脂肪酸が含まれる。
【0058】
本発明に係るエステルは、モノエステル又はポリエステルを意味している。脂肪酸のエステルには、メチル、プロピル、及びブチルエステル、並びに、プロピレングリコールなどのより複雑なアルコールから得られるエステルが含まれる。非限定的な態様において、R’は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、及びテトラデシルを含んでいる。エステルは、脂肪酸が脂肪アルコールにエステル結合で結合することにより形成されてもよい。
【0059】
エステルは、脂肪族アルコールエステルを含むがこれに限定されないアルコールエステルであり得る。一態様において、アルコールエステルは、グリセロールエステルである。脂肪酸のグリセロールエステルは、グリセロール脂肪酸エステル、グリセロール酢酸脂肪酸エステル、グリセロール乳酸脂肪酸エステル、グリセロールクエン酸脂肪酸エステル、グリセロールコハク酸脂肪酸エステル、グリセロールジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセロール酢酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、及び、ポリグリセロールが縮合されたリシノール酸エステルを含んでいる。
【0060】
他の具体的な態様において、化合物は、少なくとも1つの二重結合がシクロプロパン化されたcis−PUFAのアルコールである。更なる態様では、化合物は、少なくとも3つのシクロプロパン化された二重結合を含んだcis−PUFAのアルコールである。これら化合物は、リノレイックアルコールジシクロプロパン(BR−105)又はリノレニックアルコールトリシクロプロパン(BR−104)を含むが、これらに限定されない。この態様では、R’は、直鎖又は分岐鎖アルコール又はフェノール性アルコールであり得る。
【0061】
他の態様において、本発明の化合物は、少なくとも1つの二重結合がエポキシ基で置換されたcis−ポリ不飽和脂肪酸又はその誘導体である。更なる態様では、化合物は、少なくとも3つのエポキシ化された二重結合を含んでいる。
【0062】
具体的な態様において、化合物は、cis−PUFAのエポキシ化されたエステルであり、脂肪族アルコールエステルを含むがこれに限定されない。エステルは、先にシクロプロパン化されたPUFAsについて記載したのと同じエステルであり得る。更なる態様では、上記アルコールは、グリセロールなどの脂肪族アルコールエステルである。
【0063】
他の具体的な態様では、化合物は、リノレイックアルコールジシクロプロパン又はリノレニックアルコールトリシクロプロパンなどの、エポキシ化されたcis−ポリ不飽和脂肪酸である。上記アルコールは、先にシクロプロパン化されたPUFAsについて記載したのと同じであり得る。
【0064】
他の態様では、上記化合物には、オレイン酸、エライジン酸、エライジックアルコール、オレイルアルコール、及び1−モノリノレイル rac−グリセロールなどのcis−モノ不飽和脂肪酸(cis−モノエノイック酸)由来のシクロプロパン化又はエポキシ化された脂質を含まれる。代表的な化合物には、エライジックアルコールシクロプロパン(BR−106)、エライジン酸シクロプロパン(BR−107)及びオレイルアルコールシクロプロパン(BR−108)が含まれる。
【0065】
更なる態様は、1つ又は2つ以上のエポキシ残基を含んだcis−モノ不飽和脂肪酸若しくは不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、又は脂肪酸アルコール由来のシクロプロパン化された脂質が含まれ、例えば、ベルノリン酸メチルエステルシクロプロパン(例えばBR−109)が挙げられる。
【0066】
具体的な態様では、本発明で使用されるシクロプロパン化された化合物の基礎を形成するPUFAsには、アラキドン酸(AA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(RPA)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法における使用のための代表的な化合物には、ドコサヘキサエン酸メチルエステルヘキサシクロプロパン(BR−111);エイコサペンタエン酸メチルエステルペンタシクロプロパン(BR−114);及び、アラキドン酸メチルエステルテトラシクロプロパン(BR−115)が含まれる。
【0067】
更に具体的な態様では、上記化合物は、以下の構造を有する、ドコサヘキサエン酸のシクロプロパン化されたPUFA誘導体である。
【化1】

【0068】
ここで、Rは、水素原子又はアルキル基である。具体的な態様では、Rは、CH3(BR−111、又はDHA−CB6メチルエステル、又はメチル−3−(2−((2−((2−((2−((2−((2−エチルシクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)−シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)プロパネート)である。
【0069】
他の具体的な態様では、PUFA誘導体は、以下の構造を有している:
【化2】

【0070】
この化合物は、BR−114(EPA−CP5、又はメチル 4−(2((2−((2−((2−エチルシクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)−シクロプロピル)ブタノエート メチルエステル)である。
【0071】
更に別の具体的な態様では、PUFA誘導体は、以下の構造を有している:
【化3】

【0072】
この化合物は、BR−115(AA−CP4、又はメチル 4−(2−((2−((2−((−ペンチルシクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)メチル)シクロプロピル)ブタノエート メチルエステル)である。
【0073】
別の具体的な態様では、PUFA誘導体は、以下の構造を有している:
【化4】

【0074】
ここで、Rは、H又はアルキルエステルである。具体的な態様では、RはCH3である。
【0075】
本発明での使用が予期される天然のシクロプロパン化若しくはエポキシ化されたMUFAs、又はそれらのエステル若しくはアルコール誘導体には、マルベニン酸、ベルノリン酸、及びステルクリン酸が含まれる。代表的な化合物は、ベルノリン酸メチルエステル(BR−117)である。
【0076】
合成方法
脂肪酸並びにそのエステル及びアルコールは、魚油、亜麻仁油、大豆、菜種油、又は藻類などの天然資源からの精製により入手又は製造することもでき、微生物酵素合成と化学合成との組み合わせを用いて合成することもできる。一例として、脂肪酸メチルエステルは、精製された/可食のタイプの油のトリグリセリドの、メタノール及び均一系アルカリ触媒を用いたトランスエステル化によって製造され得る。
【0077】
炭化水素中の二重結合のシクロプロパン化の方法もよく知られている。一例として、改良シモンズ−スミス反応は、二重結合をシクロプロパンに変換する標準的な方法である。Tanaka and Nishizaki, Bioorg. Med. Chem. Let. 2003; 13: 1037-1040; Kawabata and Nishimura, J. Tetrahedron. 1967; 24: 53-58; 及び Denmark and Edwards, J. Org Chem. 1991; 56: 6974。この反応では、ヨウ化メチレン−ジエチル亜鉛などの金属カルベノイドを用いたアルケンの処理が、アルケンのシクロプロパン化をもたらす。Ito et al., Organic Syntheses. 1988; 6:327も参照のこと。メチルエステルのシクロプロパン化も、触媒としての白金(II)アセテートの存在下、ジアゾメタンを用いることにより達成できる。Gangadhar et al., Journal of the American Oil Chemists’ Society. 1988; 65(4): 601-606。
【0078】
エポキシ化の方法もよく知られており、典型的には、有機溶媒中での脂肪酸とジオキシランとの反応を含んでいる。Sonnet et al., Journal of the American Oil Chemists’ Society. 1995; 72(2):199-204。一例として、PUFA二重結合のエポキシ化は、ジメチルジオキシラン(DMD)をエポキシ化剤として用いて達成される。Grabovskiy et al., Helvetica Chimica Acta. 2006; 89(10): 2243-53。
【0079】
治療方法
本発明は、ここで開示されるPUFA誘導体を用いて、AD及び脳卒中などの病原性Aβに関連した神経病を治療することを企図している。本発明は、ここで開示されるPUFA誘導体を用いて、病原性Aβに関連した神経病を予防することも企図している。特定のメカニズムに限定されるわけではないが、PKCεの選択的な活性化は、Aβの生成の付随した減少を伴ったTACE活性の増大をもたらすかもしれない。しかしながら、これは、繊維芽細胞などの非ニューロン細胞中で主に起こっているようである。PKCεの活性化は、更に、ADにおける病原性タウタンパク質の過剰リン酸化を減少させるかもしれない。PKCεの活性化は、更に、AD又はそれに引き続いた脳卒中において、シナプス生成を誘起するか又はアポトーシスを妨げるかもしれない。PKCεの活性化は、更に、GSK−3βの阻害を通じて、Aβを媒介とした神経毒から、ラットのニューロンを保護するかもしれない。PKCεアクティベータは、更に、AβのPKCα/εを減少させる効果を和らげて、Aβに誘起された変化を逆転又は妨害するかもしれない。他のあり得る作用メカニズムは、エンドセリン変換酵素などのAβ分解酵素の活性化である。実施例に示された実験の結果は、これが作用メカニズムかもしれないと示唆している。
【0080】
更に他のメカニズムは、PKCに共役されたM1及びM3ムスカリン受容体の刺激によるものであるかもしれず、この刺激は、TACEによる非アミロイド生成APPのプロセシングを増大させると報告されている。Rossner et al., Prog. Neurobiol. 1998; 56: 541-569。ムスカリンアゴニストは、3x−トランスジェニックADマウスを認知欠陥から救い、部分的にはTACE/ADAM17非アミロイド生成性経路を活性化することにより、Aβ及びタウ病理を減少させる。Caccamo et al., Neuron. 2006; 49:671-682。ムスカリン受容体シグナリングは、PKCに密接に結びついている。ムスカリン受容体mRNAは、PKCによって制御され、M1ムスカリン受容体の活性化によりもたらされるニューロンの分化は、PKCによって媒介される。Barnes et al., Life Sci. 1997; 60:1015-1021; Vandemark et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 2009; 329(2): 532-42。
【0081】
本発明の方法による治療が企図されている他の障害には、うつ障害、双極性障害、統合失調症、リウマチ関節炎、癌、心臓血管病、タイプ2糖尿病、並びに、背景において言及されたものを含むがこれらに限定されないPUFAs又はMUFAsが有益であることが示されている他のあらゆる障害が含まれる。
【0082】
調剤及び投与
PUFA誘導体は、血脳関門を通過することを可能にするであろうあらゆるルートによる投与のために有用な投薬単位で製造されてよい。原形質からのPUFAsは、脳中へと通過できることが実証されている。Rapoport et al., J. Lipid Res. 2001. 42: 678-685。代表的なルートには、経口、非経口、経粘膜、経鼻、吸入、又は経皮ルートが含まれる。非経口ルートには、静脈内、細動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、髄腔内、及び頭蓋内投与が含まれる。
【0083】
本発明の化合物は、慣用的な方法にしたがって調剤され得る。PUFA誘導体化合物は、標準的な処方で対象に提供されることができ、賦形剤、潤滑剤、希釈剤、香味剤、着色剤、及び崩壊剤などの薬学的に許容される全ての添加剤を含んでいてもよい。標準的な処方は、技術水準においてよく知られている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, Mack Publishing Company, 2000を参照のこと。
【0084】
一態様では、化合物は、固体の経口投薬型で処方される。例えばPUFAの経口投与のためには、医薬組成物は、結合剤(例えば、ゼラチン化されたトウモロコシでんぷん、ポリビニルピロリドン、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);フィラー(例えば、ラクトース、微結晶セルロース、若しくはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、若しくはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモでんぷん若しくはでんぷんグルコレートナトリウム);又は、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される補形薬を用いた慣用的な手段で調製された錠剤又はカプセルの形態をとってもよい。錠剤は、技術水準でよく知られている方法によりコートされていてもよい。経口投与のための液体製剤は、例えば、溶液、シロップ、又は懸濁液の形態であってもよく、使用前に水又は他の適切な賦形剤を用いて構成される乾燥製品として提示されてもよい。このような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、又は水素化された可食脂肪);エマルジョン化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水溶性賦形剤(例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコール、又は分画された植物油);及び保存料(メチル若しくはプロピルp−ヒドロキシベンゾエート、又はソルビン酸)などの薬学的に許容される添加剤を用いた慣用的な方法により調製されてもよい。これら製剤は、適切な場合には、バッファー塩、香味剤、着色剤、及び甘味剤を更に含んでいてもよい。
【0085】
一例として、薬剤Omacor(登録商標)は、オメガ−3 PUFAsのエチルエステルの濃縮された配合(combination)を含んでいる。薬剤のラベルによると、各1gのカプセルは、少なくとも900mgのオメガ−3脂肪酸のエチルエステル、主にはEPA(465mg)及びDHA(375mg)を含んでいる。Omacor(登録商標)は、淡い黄色の油で満たされた透明の柔らかいゼラチンカプセル(1g)として、1日に最大4回投与される。本発明のPUFA化合物を投与するために類似の組成物が使用され得るが、本発明は、より少ない投薬量でのPUFA誘導体の使用を企図している。PUFAsの安定なワックス−エステル製剤は、n−3 PUFAでエンリッチされた化学当量のエチルエステル及び長鎖アルコール(18−22炭素原子)のトランスエステル化によっても記載されている。Goretta et al., Lebensmittel-Wissenschaft und-Technologie. 2002; 35(5): 458-65。
【0086】
他の態様では、PUFA化合物は、非経口投与用に処方される。上記化合物は、注入によって、例えばボーラス注入又は持続注入によって、非経口投与用に処方されてもよい。注入のための処方は、単位投薬型で、例えば、アンプル又は反復投与コンテナ中で、添加された保存料と共に提示されてもよい。組成物は、懸濁液、溶液、分散液、又は、油性若しくは水性の賦形剤中でのエマルジョンなどの形態をとっていてもよく、懸濁剤、安定剤、及び/又は分散剤などの処方剤を含んでいてもよい。
【0087】
具体的な態様では、本発明のPUFA誘導体は、疎水性キャリアと共に投与される。疎水性キャリアには、包摂錯体、ディスパージョン(ミセル、マイクロエマルジョン及びエマルジョンなど)、並びにリポソームが含まれる。代表的な疎水性キャリアは、包摂錯体、ミセル、及びリポソームである。これらの処方は、技術水準において知られている(Remington’s: The Science and Practice of Pharmacy 20th ed., ed. Gennaro, Lippincott: Philadelphia, PA 2003)。本発明のPUFA誘導体は、疎水性キャリア中に、例えば、キャリア全体の少なくとも1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、又は90重量%の濃度で組み込まれてもよい。加えて、例えば調剤を安定化するために、疎水性キャリア又は溶液中に、他の化合物が含められてもよい。
【0088】
上述した処方に加えて、PUFA誘導体は、デポ製剤として処方されてもよい。このような長時間作用する調剤は、埋め込み(例えば皮下若しくは筋肉内)によって、又は、筋肉内注入によって投与されてもよい。それゆえ、例えば、化合物は、適切な高分子若しくは疎水性材料(例えば、許容される油中でのエマルジョン)又はイオン交換樹脂と共に処方されてもよく、難溶性の塩などの難溶性誘導体として処方されてもよい。
【0089】
他の態様では、PUFA誘導体は、ベシクルで、特には、ミセル、リポソーム、又は、Alkonらの米国特許出願第11/648,808号に記載されている人工LDL粒子で運搬されることができる。
【0090】
投薬量は、1日当たり、1mg〜10g、好ましくは10mg〜1g、非常に好ましくは250mg〜500mgの化合物が届けられるように、適宜調製されてもよい。局所的な投与又は非経口処方のために調製するときには、それらは、最終的な調剤の0.01〜60重量%、好ましくは0.1〜30重量%、非常に好ましくは1〜10重量%を含んだ処方で作製されてもよい。最適な1日当たりの投薬量は、技術水準で知られている方法に決定され、患者の年齢や臨床的に関連する他のファクターによって影響されるであろう。
【0091】
複合薬治療
PUFA化合物は、AD又はAβに関連した他の神経病の患者を治療するために、この障害を治療するために用いられる他の薬剤と組み合わせて使用され得る。ADの治療のために米国で認可されている代表的な薬剤には、Aricepr(登録商標)(ドネペジル)、Exelon(登録商標)(リバスチグミン)、Reminyl(登録商標)(ガランタミン)などのコリンステラーゼ阻害剤、及び、Namenda(登録商標)(メマンチン)などのNMDA受容体アンタゴニストが含まれるが、これらに限定されない。他の潜在的な治療剤には、プロテアーゼ阻害剤(例えば、米国特許第5,863,902号及び5,872,101号参照);例えば、米国特許第7,011,901;6,495,540;6,610,734;6,632,812;6,713,476;及び6,737,420号に記載されているものなどのAβ生成の阻害剤;米国特許第6,303,567及び6,689,752号に記載されているAβ凝集のモジュレーター;並びに、米国特許第6,982,264;7,034,182;7,030,239に開示されているものなどのBACE阻害剤が含まれる。脳卒中の治療のために使用される代表的な薬剤には、アスピリン、組織プラスミノゲンアクティベータなどの抗血小板医薬、又は、他の凝血剤が含まれる。
【0092】
特別の態様では、本発明は、ベンゾラクタムマクロサイクリックラクトンを含むがこれに限定されない他のPKCアクティベータを用いた複合薬治療を企図している。ブリオスタチン−1は、PKCを調節し、APPのTACEによる非アミロイド生成性経路への開裂の増大をもたらすことが示されているマクロサイクリックラクトンである。ブリオスタチンは、ウミウシHermissenda crassicornisの記憶反復の持続を500%以上増大させることができ、また、ラットにおける学習速度を劇的に増大させることができた。米国特許出願第10/919,110号; Kurzirian et al., Biological Bulletin. 2006; 210(3): 201-14; Sun and Alkon, European Journal of Pharmacology. 2005;512(1): 43-51を参照のこと。他の限定されないPKCアクティベータは、Alkinらの係属中の米国特許出願第12/068,742号に記載されている。
【0093】
例えば内因性TACE阻害剤の阻害又は内因性TACEアクティベータの増大によって、TACEを間接的に増大させる薬剤との組み合わせ。PKCを直接的に活性化するための代替アプローチは、内因性アクティベータであるジアセチルグリセロールのレベルを増大させることである。6−(2−(4−[(4−フルオロフェニル)フェニルメチレン]−1−ピペリジニル)エチル)−7−mエチル−5H−チアゾロ[3,2−a]ピリミジン−5−オン(R59022)、及び、[3−[2−[4−(bis−(4−フルオロフェニル)メチレン]ピペリジン−1−イル)エチル]−2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−4(1H)−キナゾリノン(R59949)などのジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤は、内因性リガンドであるジアシルグリセロールのレベルを向上させ、これにより、PKCの活性化をもたらす。Meinhardt et al. (2002) Anti-Cancer Drugs 13: 725。
【0094】
更に他の態様は、BACE阻害剤との複合治療である。BACE阻害剤は既知であり、CoMentis社によって所有され、ヒト臨床試験でポジティブな結果を示しているCTS−21166を含んでいる。他のBACE阻害剤は、国際公開パンフレット第2007/019080号、及び、Baxter et al., Med. Chem. 2007; 50(18): 4261-4264に記載されている。
【0095】
複合治療で使用される化合物は、適合性がある場合には、本発明のPUFA化合物と同じ処方で投与されることができ、別個の処方で投与されることもできる。
【0096】
治療の評価
本発明のPUFA誘導体を用いた治療の評価は、病気の症状又は代用の臨床指標の改善の評価によって為され得る。例えば、治療されたAD対象の記憶又は認知能力の改善は、病原性Aβの蓄積の低減が存在することを示唆するかもしれない。認知フェノタイプには、健忘症、失語症、失行症、及び失認症が含まれるが、これらには限定されない。精神医学的な症状には、人格変化、うつ、幻覚及び妄想が含まれるが、これらには限定されない。限定されない一例として、the Diagnostic and Statistical Manual of Mental disorders, 4th Edition (DSM-IV-TR) (the American Psychiatric Associationにより発行)は、アルツハイマー型の認知症についての基準を含んでいる。
【0097】
ADの表現型の顕在は、Aβプラークの直接(イメージング)又は間接(生化学的)検出などの身体的なものであってもよい。Aβのin vivoイメージングは、放射性ヨウ化フラボン誘導体を撮像剤として用いること(Ono et al., J Med Chem. 2005;48(23):7253-60)により、及び、脳血関門を通過してAβプラークに結合することが示された、40残基の放射性ヨウ化Aペプチド(125I−PUT−A 1−40を産出する)に共役したプトレシンなどのアミロイド結合色素を用いて、達成することができる。Wengenack et al., Nature Biotechnology. 2000; 18(8): 868-72。Aβのイメージングは、スチルベン[11C]SB−13及びベンゾチアゾール[11C]6−OH−BTA−1([11C]PIBとしても知られている)を用いても示されている。Verhoeff et al., Am J Geriatr Psychiatry. 2004; 12:584-595。
【0098】
末梢血液中におけるAβ(1−40)の定量は、リニアイオントラップ中のタンデム型マススペクトロメトリーと組み合わされた高速液体クロマトグラフィーを用いて実証されている。Du et al., J Biomol Tech. 2005;16(4):356-63。アルツハイマー患者の脳脊髄液中における単一Aβタンパク質の凝集体の蛍光相関スペクトロスコピーによる検出も記載されている。Pitschke et al., Nature Medicine. 1998; 4: 832-834。米国特許第5,593,846号は、可溶性Aβを検出するための方法を記載している。抗体を用いたAβペプチド及び終末糖化産物受容体(RAGE)の間接的な検出も記載されている。最後に、発色性基質を用いた脳脊髄液中のBACE−1活性の増大の生化学的な検出もまた、ADの診断的又は兆候的な指標として前提されている。Verheijen et al., Clin Chem. 2006; 52:1168-1174。
【0099】
AD評価の今日的な基準には、初期の進行性で重大な一過性記憶喪失に加えて、ADの1つ又は2つ以上の異常バイオマーカー(生物学的インディケータ)、例えば、MRI上で示される側頭葉の萎縮(衰弱);脳脊髄液中におけるAβタンパク質濃度の異常;脳のPETスキャン上における、グルコース代謝の減少を示す特徴的なパターン;及び近親家族内に関連した遺伝子変異が含まれる。
【0100】
実施例
例1:脂肪酸メチルエステル、シクロプロパン化された脂肪酸メチルエステルの合成
シクロプロパン化された脂肪酸の合成。ポリ不飽和脂肪酸のメチルエステルは、クロロヨウ化メタン及びジエチル亜鉛を用いた改良シモンズ−スミス反応を用いてシクロプロパン化された(Tanaka et al., Bioorg. Med. Chem. Let. 2003; 13: 1037-40; Furukawa et al., Tetrahedron. 1967; 53-58; Denmark et al., J. Org. Chem. 1991; 56: 6974-81)。全ての装置が60℃で1時間に亘ってベークされ、乾燥窒素を含んだ炎を用いて乾燥された。スターラーと温度計とを備えた100mlの3口丸底フラスコは、氷−ドライアイス混合物で包囲され、25mlのジクロロメタン中の1.25g(4.24mmol)リノール酸メチルエステル又はドコサヘキサエン酸メチルエステルで満たされ、Nでバブリングされた。ヘキサン中のジエチル亜鉛の1M溶液(51ml、54.94mmol)が、24インチ20ゲージの注射針を用いて嫌気的に加えられ、−5℃に冷却された。定常的に攪拌しながら、ジヨウ化メタン(8.2ml、101.88mmol)又は塩化ヨウ化メタン(ClCHI)が、1秒に1滴の割合で滴下された。滴下速度は、反応混合物を2℃未満に保持するために、必要に応じて減らされた。反応混合物は、反応の途中で濁り、不溶性の白色亜鉛生成物が遊離された。フラスコは密封され、混合物は1時間反応させられ、その後、2時間かけて次第に室温へと戻された。
【0101】
フード内での爆発性残留物の形成を防ぐため、ジエチル亜鉛は、蒸発除去されなかった。混合物は、過剰のジエチル亜鉛を全て分解させるため、攪拌下、100mlの水中にゆっくりと注がれた。エタンが放出された。混合物は、ガラスの遠心機チューブ中で5000rpmの速度で遠心分離され、上方の水層が除去された。白色の沈殿物がCHClを用いて抽出され、有機層と合わされた。有機層は水により洗浄され、遠心分離された。生成物は、1%の酢酸エチルを加えたヘキサンを用いたシリカゲルG TLCで分析され、ヘキサン中の次第に増大する1−10%の濃度の酢酸エチルを用いたシリカゲルクロマトグラフィーによって精製され、窒素下でエバポレートされて、メチルエステルが無色の油として残された。
【0102】
シモンズ−スミス反応は、出発原料の立体化学を保持する。Furukawa et al., Tetrahedron. 1967; 53-58。ドコサヘキサエン酸メチルエステルは、DHA−CP6に、90〜95%の収率で変換された。生成物は、無色の油であり、エタノール中で202nmに単一のピークを有し、Iとは反応しなかった。IRスペクトラムは、3070cm−1と1450cm−1とに、シクロプロパン環の吸収を示した。同じ条件で、エイコサペンタエン酸メチルエステルがEPA−CP5へと変換され、アラキドン酸メチルエステルがAA−CP4へと変換された。リノール酸メチルエステルは、DCP−LAメチルエステルへと変換され、既知のサンプルと同一であった。
【0103】
メチルエステルの加水分解。メチルエステル(0.15g)が、1mLの1N LiOH及び1mlのジオキサンに溶解された。ジオキサン及びメタノールが、それが均質になるまで加えられ、溶液が60゜で終夜攪拌された。生成物がCHClで抽出され、遠心分離された。水層及び白色の界面が水で再抽出され、白色層が形成されなくなるまで洗浄された。生成物はN下でエバボレートされ、シリカゲル上のクロマトグラフィーを用いて精製された。生成物である無色の油は、ヘキサン中の20%酢酸エチルに溶出された。その純度は、10%酢酸エチル/ヘキサン中でのTLC及び205nmにおけるUV検出を用いたC18RP−HPLCによってチェックされた。
【0104】
エポキシ基は、慣用的な方法により、例えば、m−クロロ過安息香酸又はt−ブチルヒドロペルオキシドを用いた適切なアルケンの酸化により導入することができる。
【0105】
他の合成された化合物には、図1に示したものが含まれる(BR−101〜BR−118)。
【0106】
例2:精製されたPKCεのドコサヘキサエン酸を用いた活性化
プロテインキナーゼCアッセイ。組み換えPKC(1ngのアルファ又はイプシロンアイソフォーム)は、10μMのヒストン、5mMのCaCl、1.2μg/μlのホスファチジル−L−セリン、0.18μg/μlの1,2−ジオクタノイル−sn−グリセロール(DAG)、10mMのMgCl、20mMのHEPES(pH7.4)、0.8mMのEDTA、4mMのEGTA、4%のグリセロール、8μg/mlのアプロチニン、8μg/mlのロイペプチン、及び2mMのベンズアミジンの存在下、BR−101(DCP−LA)と混合された。
【0107】
培養混合物は、10マイクロリットルの総量で、37℃で15分に亘って保温された。反応は、反応混合物を、1×2cm片のリン酸セルロース紙(Whatman P81)上にスポットし、直ちに0.5%のHPO中で1時間に亘って2回洗浄することによって終了させた。リン酸セルロース片は、シンチレーションカウンタ中でカウントされた。幾つかの実験では、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、及び/又はカルシウムが除去された。
【0108】
DHAメチルエステルは、Cayman Chemical(Ann Arbor,ME)から購入された。PKCアイソザイムは、Calbiochem(San Diego,CA)から購入された。精製PKCεは、Calbiochemから購入された。
【0109】
結果
精製されたPKCεを用いたPKC測定は、試験された最小の濃度(10nM)において、化合物BR−101が、PKCεの2.75倍の活性化をもたらすことを示した(図2)。PKCαは、影響されなかった(データは示していない)。化合物BR−102は、活性化されていないPKCεに対して約1.75倍のPKCεの活性化を選択的にもたらした。PKCεの活性化におけるこれら化合物の低濃度での有効性は、それらが優れた治療候補であるだろうことを示唆している。
【0110】
例3:他のPKCアクティベータを用いた精製又は細胞PKCεの活性化
材料。培地は、K−D Medical(Columbia,MD)又はInvitorogen(Carlsbad,CA)から入手された。Aβ1−42は、Anaspec(San Jose,CA)から購入された。ポリ不飽和脂肪酸メチルエステルは、Cayman Chemicals,Ann Arbor,MIから入手された。他の薬品は、Sigma−Aldrich Chemical Co.(St.Louis,MO)から入手された。PKCアイソザイムは、Calbiochem(San Diego,CA)から入手された。精製PKCεは、Calbiochemから購入された。
【0111】
細胞培養。ラット海馬H19−7/IGF−IR細胞(ATCC,Manassas,VA)は、ポリ−L−リシンでコートされたプレート上に置かれ、DMEM/10%FCS中、35℃で、約50%の被覆が得られるまで、数日に亘って成長させられた。細胞は、培地を10ng/mlの塩基性繊維芽細胞成長因子を含んだ5mlのN培地(39℃)に置き換えることによりニューロン表現型への分化を誘起され、37℃でT−75フラスコ中で成長させられた。ヒトSH−SY5Y神経芽細胞(ATCC)は、45%F12K/45%MEM/10%FCS中で培養された。マウスN2A神経芽細胞は、グルタミンを含まないDMEM/10%FCS中で培養された。18日目の胚からのラット海馬ニューロン。
【0112】
Sprague Dawleyラットの脳は、0.5mMのグルタミンと25μMのグルタメート(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含んだB−27neurobasal媒体中の、ポリ−D−リシン(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)でコートされた12又は96ウェルプレート上に置かれ、グルタメートを含んでいない培地中で3日間に亘って培養された。ニューロン細胞は、37℃に保持された培養機中で、5%のCO下、14日間に亘って成長させられた。
【0113】
培養された細胞に関する全ての実験は、他の言及がない限り、3回分実行された。全てのデータポイントは、平均値±SEで表示されている。BR−101(DCP−LA)は、全ての実験において遊離酸として使用された。他方、BR−111(DHA−CP6)、BR−114(EPA−CP5)、及びBR−116(AA−CP4)は、メチルエステルとして使用された。
【0114】
プロテインキナーゼCアッセイ。ラットの海馬細胞が培養され、0.2ml均質化バッファー(20mMのTris−HCl、pH7.4、50mMのNaF、1μg/mlのロイペプチン、及び、0.1mMのPMSF)中に掻き落とされ、Marsonixマイクロプローブソニケータ中でのソニケーション(5秒、10W)によって均質化された。PKCを測定するため、10μlの細胞ホモジェネート又は精製されたPKCアイソザイム(Calbiochemから購入)が、10μMのヒストン、4.89mMのCaCl、1.2μg/μlのホスファチジル−L−セリン、0.18μg/μlの1,2−ジオクタノイル−sn−グリセロール、10mMのMgCl、20mMのHEPES(pH7.4)、0.8mMのEDTA、4mMのEGTA、4%のグリセロール、8μg/mlのアプロチニン、8μg/mlのロイペプチン、及び2mMのベンズアミジン中、37℃で15分間に亘って保温された。0.5μCi[γ−32P]ATPが添加され、32P−リン酸化タンパク質の形成が、上述したリン酸化セルロース上での吸収によって測定された。Nelson and Alkon, J. Neurochemistry. 1995; 65: 2350-57。BR−101(DCP−LA)及び類似化合物による活性化の測定については、PKC活性化は、Kannoらによって記載されているように、ジアセチルグリセロール及びホスファチジルセリンの非存在下で測定され、PKCδ、ε、η及びμは、Kanno et al., J. Lipid Res. 2006; 47: 1146-50に記載されているように、添加EGTA及びCaClの非存在下で測定された。高いCa2+はPKCホスファチジルセリン結合サイトと相互作用して活性化を阻害するため、低濃度のCa2+が使用された。ブリオスタチンによる活性化の測定については、他の言及がない限り、1,2−ジアセチルグリセロールは省略された。
【0115】
結果及び考察
それらのPKCアイソザイム特異性を決定するために、新規化合物は、精製されたPKCと共に5分間に亘って前保温され、PKC活性は、放射分析的に測定された。上記例2に示した通り、BR−101(DCP−LA)は、10nMにおいてPKCイプシロンの有効なアクティベータであったが、他のPKCアイソフォームに対しては、比較的小さな効果を有している(データは示していない)。より高い濃度のBR−101(DCP−LA)は、PKCδ(約1−100μM)を部分的に阻害し、PKCγ(50−100μM)を活性化した(データは示していない)。
【0116】
それぞれがドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、及びアラキドン酸のシクロプロパン化された誘導体であるBR−111(DHA−CP6)、BR−114(EPA−CP5)、及びBR−115(AA−CP4)は、精製されたPKCεを同程度活性化した(図3)。PKCを活性化するために必要な濃度は、BR−101(DCP−LA)より約100倍低く、より高い親和性を示唆している。シクロプロパン化されたリノレニル及びリノレイルアルコール(BR−104及びBR−105)、エポキシステアリン酸(BR−116)、並びに、ベルノリン酸メチルエステル(BR−117)は、PKCに対して、殆んど又は全く効果を有さなかった。シクロプロパン化されたベルノリン酸メチルエステル(BR−109)は、1μMより高い濃度で、PKCεを阻害した(図4)。
【0117】
ブリオスタチン、グニジマクリン及びフォルボールエステルを含む、ジアシルグリセロール結合サイトに結合するPKCアクティベータは、PKC活性の過渡的な活性化と、その後の長期の下方制御とをもたらす。Nelson et al., Trends in Biochem. Sci. 2009; 34: 136-45。これは、培養されたラット海馬細胞において確認されている。ラットH19−7/IGF−IR細胞を(0.04nM及び0.2nMの)ブリオスタチンと共に培養すると、30分間続く2倍の活性化をもたらし、その後、24時間でベースラインに戻る20%の下方制御をもたらした(データは示していない)。対照的に、DCP−LAにさらされたPKCは、少なくとも5時間に亘って高められた(図5)。この持続的な活性化は、第1ニューロンでのみ観察された。
【0118】
ブリオスタチンは、フォルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)より高いPKCへの親和性を有しているが(EC50=1.35nM vs.10nM)、ブリオスタチンは、PKCの下方制御にあたっては、PMAよりずっと低い有効性しか有していない。PKC活性は、8hにおいて、フォルビノールエステルによって強く下方制御されるが、ブチオスタチンで処理された細胞中でのPKCは、ベースライン上及びその付近である(データは示していない)。この差異は、da Cruz e Silva et al. J. Neurochem. 2009: 108: 319-30によって報告された、PdBuによって生成されるAβの増大を説明するかもしれない。これらの研究者は、培養されたCOS細胞に、8時間に亘って1μMのPdBuを適用し、Aβの増大を観察した。この増大は、フォルビノールエステルによるPKCの下方制御に帰せられており、これらの結果と整合している。下方制御は、DCP−LA及び関連化合物については、測定できなかった。
【0119】
例4:Aβの生成及び分解に対するPKCアクティベータの効果
細胞培養。細胞培養は、先に例3で記載したのと同様にして行われた。
【0120】
Aβ測定及び細胞生存アッセイ。Aβは、Aβ1−42ヒト蛍光分析ELISAキット(Invitrogen)を用いて、製造者の説明書に従って測定された。結果は、Biotek Synergy HT マイクロプレートリーダー中で測定された。AlamarBlue及びCyQuant NF(Invitrogen)は、製造者の説明書に従った。
【0121】
結果及び考察
PKCεの活性化のAβ生成への効果を測定するため、我々は、多量のAβを生成する、ヒトAPPSwe/PS1Dでトランスフェクトされたマウスニューロ2a(N2a)神経芽細胞を用いた。Petanceska et al., J. Neurochem. 1996; 74: 1878-84。これら細胞を24時間に亘って種々の濃度のPKCアクティベータ:ブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)、及びBR−111(DHA−CP6)と共に培養すると、細胞内(図7a)及び分泌(図7b)Aβの双方のレベルが大幅に減少した。ジアシルグリセロール結合差異とへの結合によりPKCを活性化するブリオスタチンでは、阻害は二相性であり、20nM以上の濃度では、正味の効果をもたらさなかった。これは、このクラスのPKCアクティベータの、高濃度で使用された場合にPKCを下方制御するという能力によって説明されるかもしれない。対照的に、PKCのホスファチジルセリンサイトに結合するBR−101(DCP−LA)及びBR−111(DHA−CP6)は、10〜100μMの濃度まで単調に増大する阻害を示し、より高い濃度でも下方制御の徴候を示さなかった。
【0122】
PKCアクティベータによるAβのレベルの減少がAβ合成の阻害によるものかAβ分解の活性化によるものかを決定するために、我々は、BR−111(DHA−CP6)(0.01〜10μM)と低濃度(100nM)の外因性モノメリックAβ−42とを、培養されたSH−SY5Y細胞へと適用した。この濃度のAβは、測定可能な毒性又は細胞死をもたらすには低すぎる。SH−SY5Y細胞は微量のAβしか生成しないため、この実験は、PKCアクティベータのAβ分解を促進させる能力の有効なテストであった。24時間後、殆んどのAβは細胞中に取り込まれ、培地中におけるAβ濃度は検出不能であった。0.01〜10μMのDHA−CP6のこれら細胞への添加は、Aβの細胞内レベルを45−63%減少させた。これは、PKCεアクティベータが、外因性Aβの分解速度を増大させたことを示している(図8)。
【0123】
DHA−CP6、ブリオスタチン、及びDCP−LAは、alamar Blue及びCyQuant着色によって測定された細胞生存又は細胞増殖に影響を有さなかった(図11a及びb)。このことは、Aβ生成の低減は、細胞増殖又は細胞生存の変化によってもたらされたものでないことを示している。
【0124】
例5:PKCアクティベータのTACE活性への効果
TACEアッセイ。TACEは、5μlの細胞ホモジェネート、3μlのバッファ(50mMのTris−HCl7.4+25mMのNaCl+4%のグリセロール)、及び1μlの100μM TACE基質IV(Aβz−LAQAVRSSSR−DPa)(Calbiochem)を、1.5mlのポリプロピレン遠心機チューブ中で、37゜で20分間に亘って保温することによって測定された(Jin et al., Anal. Biochem. 2002; 302: 269-75)。反応は、4℃まで冷却することによって停止された。サンプルは、1mlに希釈され、蛍光(ex=320nm,em=420nm)が、Spex Fluorolog 2 分光蛍光計で素早く測定された。
【0125】
結果及び考察
以前の研究者は、フォルボール12−ミリステート13−アセテートなどのPKCアクティベータは、sAPPαの増大及びAβの減少に関連したTACE活性の大きな増大をもたらし、TACEとBACE1とがAPP基質の利用可能性について競合していること、及び、PKCアクティベータがこの競合をTACEに有利にシフトさせることを示唆していることを報告した。Buxbaum et al., J. Biol. Chem. 1998; 273: 27765-67; Etcheberrigaray et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2006: 103:8215-20。しかしながら、これらの初期研究の多くは、繊維芽細胞及び他の非ニューロン細胞のタイプで行われたものであり、これら細胞のタイプは、PKCアクティベータに対して、ニューロンとは異なった応答をするようである。例えば、Etcheberrigarayらは、10pM〜100pMのブリオスタチンによるヒト繊維芽細胞におけるPKCの活性化がα−セクレターゼ活性の初期速度を、それぞれ16倍及び132倍に増大させることを見出した(Etcheberrigaray et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2006)。しかしながら、ヒトSH−SY5Y神経芽細胞、N2aマウス神経芽細胞(図9a)、及びラット海馬由来の第1ニューロン(図9b及びc)中では、PKCアクティベータであるブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)及び/又はBR−111(DHA−CP6)は、TACE活性の小さな増大しかもらさなかった。このことは、PKCアクティベータによるニューロン中のAβレベルの如何なる低減も、TACEの活性化以外の他のメカニズムを原因としているに違いないことを示唆している。
【0126】
例6:PKCアクティベータのエンドセリン変換酵素活性への効果
ECEアッセイ。SH−S757神経芽細胞が、ブリオスタチン(0.27nM)、BR−101(DCP−LA)(1μM)、及びBR−111(DHA−CP6)(1μM)と共に培養された。エンドセリン変換酵素(ECE)が、Johnson and Ahn, Anal. Biochem. 2000; 286: 112-118の方法を用いて、蛍光分析的に測定された。細胞ホモジェネート(20μl)のサンプルが、50mMのMES−KOH、pH6.0、0.01%のC12E10(ポリオキシエチレン−10−ラウリルエーテル)、及び15μMのMcaBK2(7−メトキシクマリン−4−アセチル[Ala7−(2,4−ジニトロフェニル)Lys9]−ブラジキニン トリフルオロ酢酸塩)(Sigma−Aldrich)中で培養された。37℃で60分後、トリフルオロ酢酸を0.5%まで加えることにより、反応がクエンチされた。サンプルが水で1.4mlまで希釈され、ex=334nm、em=398nmにおいて、蛍光が測定された。
【0127】
結果と考察
Aβは、in vivoにおいて、インスリン分解酵素(インスリシン)、ネプリシン、及びECEを含む多数の酵素によって分解され得る。PKCεの過剰発現はECEを活性化することが報告されている(Choi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2006; 103: 8215-20)ため、我々は、PKCアクティベータのECEへの効果を調べた。ブリオスタチン、BR−101(DCP−LA)及びBR−111(DHA−CP6)は、全て、ECE活性の持続的な増大をもたらした(図10)。ECEはジアセチルグリセロール結合C1ドメインを有さないため、このことは、ブリオスタチンによる活性化が、ECEの直接的な活性化によるものではなく、ECE又はECEを活性化する中間体のPKCによるリン酸化に起因していたに違いないことを示唆している。この結果は、PKCアクティベータによるECEの間接的な活性化が、患者におけるAβのレベルを低減させる有用な手段となり得ることも示唆している。
【0128】
本発明のPUFA誘導体などのPKCεを特異的に活性化する化合物の利点は、フォルビノールエステル及び類似の1,2−ジアシルグリセロール(DAG)アナログと比べてより低い下方制御をもたらすことにある。DAGに基づいたアクティベータへのPKCの二相的な応答は、PKCアクティベータが、ある時点ではAβレベルを減少させるが他の時点ではそれを増大させるかもしれないことを意味している。da Cruz e Silva et al., J. Neurochem. 2009; 108: 319-330。意図とは逆の効果を避けるためには、注意深い投薬及び注意深い患者のモニタリングが必要であろう。この新しいクラスのPKCアクティベータは、PKCを下方制御する能力が比較的低いために、この問題は回避され得る。
【0129】
特許、特許出願、刊行物、製品の記載及びプロトコルは、この出願の全体に亘って引用されている。これらの開示内容は、その全体が、あらゆる目的について、参照によって、ここに組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼCのイプシロンアイソフォームを活性化する方法であって、前記プロテインキナーゼCの前記イプシロンアイソフォームを、少なくとも1つの二重結合がシクロプロパン環/基によって置換されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステル又はcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである有効量の化合物に接触させることを含んだ方法。
【請求項2】
全ての前記二重結合がシクロプロパン環/基によって置換されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH 又は CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOHの構造を有しており、Xは2〜6であり、Yは2〜6である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリ不飽和脂肪酸は、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノール酸、γ−リノール酸、α−リノレン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、又はこれらの誘導体である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物は、シクロプロパン化されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステルである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物は、シクロプロパン化されたドコサヘキサエン酸メチルエステル(BR−111)、エイコサペンタエン酸メチルエステル(BR−114)、又は、シクロプロパン化されたアラキドン酸メチルエステル(BR−115)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エステルは脂肪酸アルコールエステルである請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記アルコールは脂肪族アルコールである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脂肪族アルコールはグリセロールである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物は、シクロプロパン化されたcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物は、リノレイックアルコールジシクロプロパン(BR−105)又はリノレニルアルコールトリシクロプロパン(BR−104)である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物の濃度は、約5nM〜約10μMの範囲内にある請求項1に記載の方法。
【請求項13】
プロテインキナーゼCのイプシロンアイソフォームを活性化する方法であって、前記プロテインキナーゼCの前記イプシロンアイソフォームを、二重結合がシクロプロパン環/基によって置換された、cis−モノ不飽和脂肪酸、cis−モノ不飽和脂肪酸エステル、又はcis−モノ不飽和脂肪アルコールである有効量の化合物に接触させることを含んだ方法。
【請求項14】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)xCH=CH(CH2)yCOOHの構造を有しており、X及びYは3〜11の奇数である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記cis−モノ不飽和脂肪酸又は脂肪アルコールは、オレイン酸、エライジン酸、エライジックアルコール、オレイルアルコール、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ベルノリン酸、及び、1−モノリノレイル rac−グリセロールである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化合物は、エライジックアルコールシクロプロパン(BR−106)、エライジン酸シクロプロパン(BR−107)、オレイルアルコールシクロプロパン(BR−108)、又は、ベルノリン酸メチルエステルシクロプロパン(BR−109)である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物の濃度は、約5nM〜約10μMの範囲内にある請求項13に記載の方法。
【請求項18】
プロテインキナーゼCのイプシロンアイソフォームを選択的に活性化する方法であって、前記プロテインキナーゼCの前記イプシロンアイソフォームを、少なくとも1つの二重結合がエポキシ基によって置換されたcis−ポリ不飽和脂肪酸又はその誘導体である有効量の化合物に接触させることを含んだ方法。
【請求項19】
全ての前記二重結合が前記エポキシ基によって置換されている請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH 又は CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOHの構造を有しており、Xは2〜6であり、Yは2〜6である請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリ不飽和脂肪酸は、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノール酸、リノレン酸、又はこれらの誘導体である請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記化合物は、エポキシ化されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステルである請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記エステルは脂肪酸アルコールエステルである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記アルコールは脂肪族アルコールである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記脂肪族アルコールはグリセロールである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物は、エポキシ化されたcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物は、エポキシ化されたドコサヘキサエン酸メチルエステルである請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物の濃度は、約5nM〜約10μMの範囲内にある請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物は、前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCを、アルファアイソフォームのプロテインキナーゼCに対して又は前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCが前記化合物に接触していない場合と比較して、少なくとも2倍活性化する請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記化合物は、前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCを、アルファアイソフォームのプロテインキナーゼCに対して又は前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCが前記化合物に接触していない場合と比較して、少なくとも2倍活性化する請求項13に記載の方法。
【請求項31】
前記化合物は、前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCを、アルファアイソフォームのプロテインキナーゼCに対して又は前記イプシロンアイソフォームのプロテインキナーゼCが前記化合物に接触していない場合と比較して、少なくとも2倍活性化する請求項18に記載の方法。
【請求項32】
必要としている対象の神経変性を減少させる方法であって、それを必要としている対象に、神経変性を減少させるために有効な量の、少なくとも1つの二重結合がシクロプロパン環/基によって置換されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステル又はcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである化合物を投与することを含んだ方法。
【請求項33】
全ての前記二重結合がシクロプロパン環/基によって置換されている請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH 又は CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOHの構造を有しており、Xは2〜6であり、Yは2〜6である請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記ポリ不飽和脂肪酸は、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノール酸、γ−リノール酸、α−リノレン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、又はこれらの誘導体である請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物は、シクロプロパン化されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステルである請求項23に記載の方法。
【請求項37】
前記化合物は、シクロプロパン化されたドコサヘキサエン酸メチルエステル(BR−111)、エイコサペンタエン酸メチルエステル(BR−114)、又は、シクロプロパン化されたアラキドン酸メチルエステル(BR−115)である請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記化合物は、シクロプロパン化されたcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記化合物は、リノレイックアルコールジシクロプロパン(BR−105)又はリノレニルアルコールトリシクロプロパン(BR−104)である請求項38に記載の方法。
【請求項40】
必要としている対象の神経変性を減少させる方法であって、それを必要としている対象に、神経変性を減少させるために有効な量の、二重結合がシクロプロパン環/基によって置換された、cis−モノ不飽和脂肪酸、cis−モノ不飽和脂肪酸エステル、又はcis−モノ不飽和脂肪アルコールである化合物を投与することを含んだ方法。
【請求項41】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)xCH=CH(CH2)yCOOHの構造を有しており、X及びYは3〜11の奇数である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記cis−モノ不飽和脂肪酸又は脂肪アルコールは、オレイン酸、エライジン酸、エライジックアルコール、オレイルアルコール、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ベルノリン酸、及び、1−モノリノレイル rac−グリセロールである請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記化合物は、エライジックアルコールシクロプロパン(BR−106)、エライジン酸シクロプロパン(BR−107)、オレイルアルコールシクロプロパン(BR−108)、又は、ベルノリン酸メチルエステルシクロプロパン(BR−109)である請求項40に記載の方法。
【請求項44】
必要としている対象の神経変性を減少させる方法であって、それを必要としている対象に、神経変性を減少させるために有効な量の、少なくとも1つの二重結合がエポキシ基によって置換されたcis−ポリ不飽和脂肪酸又はその誘導体である化合物を投与することを含んだ方法。
【請求項45】
全ての前記二重結合が前記エポキシ基によって置換されている請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記脂肪酸は、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOH 又は CH3CH2(CH=CHCH2)x(CH2)yCOOHの構造を有しており、Xは2〜6であり、Yは2〜6である請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記ポリ不飽和脂肪酸は、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノール酸、リノレン酸、又はこれらの誘導体である請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物は、エポキシ化されたcis−ポリ不飽和脂肪酸エステルである請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物は、エポキシ化されたcis−ポリ不飽和脂肪アルコールである請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記化合物は、エポキシ化されたドコサヘキサエン酸メチルエステルである請求項48に記載の方法。
【請求項51】
シクロプロパン化されたドコサヘキサエン酸メチルエステル(BR−111)、エイコサペンタエン酸メチルエステル(BR−114)、シクロプロパン化されたアラキドン酸メチルエステル(BR−115)、リノレイックアルコールジシクロプロパン(BR−105)、リノレニルアルコールトリシクロプロパン(BR−104)、エライジックアルコールシクロプロパン(BR−106)、エライジン酸シクロプロパン(BR−107)、オレイルアルコールシクロプロパン(BR−108)、若しくは、ベルノリン酸メチルエステルシクロプロパン(BR−109)、又は、これらの組み合わせと、
薬学的に許容されるキャリアと
を含有した組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−529503(P2011−529503A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521235(P2011−521235)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/051927
【国際公開番号】WO2010/014585
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】