説明

神経変性疾患の診断/予後判定の指標としてのグルタミニルシクラーゼ

本発明は、診断/予後判定の指標としてグルタミニルシクラーゼ(QC)を使用する、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)及びダウン症候群の神経変性(NDS)などの、神経変性疾患を予測、診断及び予後判定する方法に関する。QCに結合する抗体の使用及び該診断方法を実行するためのキットも、提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、診断/予後判定の指標として、グルタミニルシクラーゼ(QC)を使用する、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)及びダウン症候群の神経変性(NDS)などの、神経変性疾患の予測、診断及び予後判定のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
アルツハイマー氏病(AD)は、認知症を引き起こす神経変性疾患である。用語「アルツハイマー氏病」及び「アルツハイマー病」は、両方とも当該技術分野において使用され、これらの用語は、同等であり、かついろいろなところで互換的に使用される。ADの最初の検出から死亡(termination)までの期間は、数年から15年までの範囲であることができ、この間に患者は次第に精神機能及び身体機能制御の両方を喪失していく。本疾患の進行には、著しいばらつきが存在する。本患者の大部分は、徐々に容赦なく進行する(30ポイントのFolstein小型精神状態スコアで毎年平均3〜4ポイントを喪失する)が、AD症例のおよそ30%は、延長された安定した初期プラトー相が数年間持続する(Haxby J. V.らの論文、「アルツハイマー型認知症患者における認知低下の個々の軌跡(Individual trajectories of cognitive decline in patient s with dementia of the Alzheimer type)」、J. Clin. Exp. Neuropsychol, 14:575-592, 1992)。患者の部分群は、数年にわたり劇症性の急激に進行する衰退過程を有する(Mann, U.らの論文、「アルツハイマー病の不均一性:特徴的神経心理学的及び脳代謝性プロファイルにより分けられた進行速度(Heterogeneity in Alzheimer's disease: Progression rate segregated by distinct neuropsychological and cerebral metabolic profiles)」、J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 55:956-959, 1992)。他の患者(コホートの約10%)は、緩慢に進行し続け、年々段階的な消耗のみ示す(Grossi, D.らの文献、「老人性認知症:第2回国際シンポジウム(Senile dementias, II International Symposium)」、(97−99頁)、パリ:John Libbey Eurotext, 1988)。この不均一性の病理学的、化学的及び分子的基礎は、依然確定されていない。AD進行のばらつきの認識は、重要な臨床的見識を表しており、かつ「非定型」症例により代表される診断する上での困難を説明することができる。ある症例において、AD疾患の家族性の兆候が存在するが、AD症例の大部分は、非家族性であるように見え、最近まで(下記参照)、本疾患の簡単な生物学的マーカーは決定されていない。
【0003】
ADの診断に使用される現在の方法は、剖検患者から得られた脳脊髄液(CSF)又は脳組織の分析に関係している。従ってマーカーの中で、剖検アルツハイマー脳において認められた特徴を説明するタンパク質に関連するものが現在考慮されている。神経原線維のもつれは、細胞骨格タンパク質である過剰リン酸化されたタウタンパク質で主に構成される。神経炎性斑は、アミロイドタンパク質のコアを含み、その多くは、より大きい前駆体タンパク質のタンパク質分解性切断に由来した42-アミノ酸ペプチド(Aβ42)である。同じ前駆体に由来したこのタンパク質の別の型は、40アミノ酸(Aβ40)のみを含む。このタンパク質の沈着は、AD罹病者の脳において認められる。しかしタウペプチドと前述のβアミロイドペプチドの交代は、診断的価値をもたらすのに十分な頻度及び大きさでは生じず、従ってこれらのタンパク質を基にした血液検査は、ADとよく相関しているようには見えない。C-末端の変動性に加え、N-末端が修飾されたAβペプチドは豊富である(Saido, T.C.らの論文、「老人斑の特徴的βアミロイドペプチド種AβN3(pE)の優先的かつ示差的沈着(Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, Aβ N3(pE), in senile plaques)」、Neuron, 14, 457-466 (1995);Russo, C.らの論文、「アルツハイマー病におけるプレセニリン-1変異(Presenilin-1 mutations in Alzheimer's disease)」、Nature, 405, 531-532 (2000);Saido, T.C.、Yamao, H.、Iwatsubo, T.及びKawashima, S.の論文、「ヒト脳内沈着したβアミロイドペプチドのアミノ-及びカルボキシル-末端の不均一性(Amino- and carboxyl-terminal heterogeneity of beta-amyloid peptides deposited in human brain)」、Neurosci. Lett. 215, 173-176 (1996))。大きい割合のAβペプチドは、2個のアミノ酸の分だけのN-末端切断を受け、グルタミン酸残基を露出し、これは引き続きピログルタミン酸(pE)に環化され、Aβ3(pE)-42ペプチドを生じるように思われる(Saido, T.C.らの論文、「老人斑の特徴的βアミロイドペプチド種AβN3(pE)の優先的かつ示差的沈着(Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, Aβ N3(pE), in senile plaques)」、Neuron, 14, 457-466 (1995);Saido, T.C.、Yamao, H.、Iwatsubo, T.及びKawashima, S.の論文、「ヒト脳内沈着したβアミロイドペプチドのアミノ-及びカルボキシル-末端の不均一性(Amino- and carboxyl-terminal heterogeneity of beta-amyloid peptides deposited in human brain)」、Neurosci. Lett. 215, 173-176 (1996))。あるいは、pEは、BACE1によるβ'-切断後に形成され、AβN11(pE)-42を生じる(Naslund, J.らの論文、「アルツハイマー病及び正常加齢におけるアルツハイマー型Aβアミロイドペプチド変種の相対存在量(Relative abundance of Alzheimer Aβ amyloid peptide variants in Alzheimer disease and normal aging)」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 8378-8382 (1994);Liu, K.らの論文、「アルツハイマー病及び若年性ダウン症候群脳におけるAβ11-40/42ペプチド沈着の特徴決定:アルツハイマー病の病因におけるN-末端切断型Aβの意味(Characterization of Aβ11-40/42 peptide deposition in Alzheimer's disease and young Down's syndrome brains: implication of N-terminally truncated Abeta species in the pathogenesis of Alzheimer's disease)」、Acta Neuropathol. 112, 163-174 (2006))。特に、AβN3(pE)-42は、散発性AD及び家族性ADにおけるAβ沈着物の主要構成要素であることが示されている(Saido, T.C.らの論文、「老人斑の特徴的βアミロイドペプチド種AβN3(pE)の優先的かつ示差的沈着(Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, Aβ N3(pE), in senile plaques)」、Neuron, 14, 457-466 (1995);Miravalle, L.らの論文、「コットンウールプラークの主成分であるアミノ-末端切断型Aβペプチド種(Amino-terminally truncated Aβ peptide species are the main component of cotton wool plaques)」、Biochemistry, 44, 10810-10821 (2005))。
【0004】
AβN3pE-42ペプチドは、Aβ1-40/1-42ペプチドと同時存在し(Saido, T.C.らの論文、「老人斑の特徴的βアミロイドペプチド種AβN3(pE)の優先的かつ示差的沈着(Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, Aβ N3(pE), in senile plaques)」、Neuron, 14, 457-466 (1995);Saido, T.C.、Yamao, H.、Iwatsubo, T.及びKawashima, S.の論文、「ヒト脳内沈着したβアミロイドペプチドのアミノ-及びカルボキシル-末端の不均一性(Amino- and carboxyl-terminal heterogeneity of beta-amyloid peptides deposited in human brain)」、Neurosci. Lett. 215, 173-176 (1996))、かつ多くの知見を基に、ADの病因において際立った役割を果たしている。例えば、AβN3pE-42ペプチドの特定の神経毒性(Russo, C.らの論文、「培養神経及び星状膠細胞の生存に強力に影響を及ぼすピログルタミン酸-修飾型アミロイドβ-ペプチド(Pyroglutamate-modified amyloid beta-peptides--AbetaN3(pE)--strongly affect cultured neuron and astrocyte survival)」、J. Neurochem. 82, 1480-1489 (2002))、及びN-切断型AβペプチドのpE-修飾は、ほとんどのアミノペプチダーゼに加えAβ-分解性エンドペプチダーゼによる分解に対する抵抗をもたらすことが概説されている(Russo, C.らの論文、「培養ニューロン及び星状膠細胞の生存に強力に影響を及ぼすピログルタミン酸-修飾型アミロイドβ-ペプチド(Pyroglutamate-modified amyloid beta-peptides--AbetaN3(pE)--strongly affect cultured neuron and astrocyte survival)」、J. Neurochem. 82, 1480-1489 (2002);Saido, T.C.の論文、「タンパク質分解性障害としてのアルツハイマー病:βアミロイドの同化作用及び異化作用(Alzheimer's disease as proteolytic disorders: anabolism and catabolism of beta-amyloid)」、Neurobiol. Aging 19, S69-S75 (1998))。グルタミン酸のpEへの環化は、N-末端電荷の喪失につながり、これは未修飾型Aβペプチドと比べAβN3pEの促進された凝集を生じる(He, W.及びBarrow, C.J.の論文、「完全長Aβよりもより大きいインビトロにおけるβ-シート形成及び凝集の性向を有する老人斑に認められるAβ3-ピログルタミルペプチド及び11-ピログルタミルペプチド(The Aβ 3-pyroglutamyl and 11-pyroglutamyl peptides found in senile plaque have greater beta-sheet forming and aggregation propensities in vitro than full-length Aβ)」、Biochemistry, 38, 10871-10877 (1999);Schilling, S.らの論文、「pGlu-アミロイドペプチドの播種及びオリゴマー化について(インビトロ)(On the seeding and oligomerization of pGlu-amyloid peptides (in vitro))」、Biochemistry, 45, 12393-12399 (2006))。従ってAβN3pE-42形成の減少は、ペプチドを分解され易くすることによりペプチドを不安定化することができ、次に比較的高分子量のAβ凝集物の形成を防止し、かつニューロンの生存を増強するであろう。
【0005】
しかし長い期間、どのようにしてAβペプチドのpE-修飾が生じるかは不明であった。本出願人は、グルタミニルシクラーゼ(QC)は、弱酸性条件下で、AβN3pE-42形成を触媒することが可能であること、特異的QCインヒビターはインビトロにおけるAβN3pE-42生成を妨害すること、及びその結果グルタミニルシクラーゼの阻害は、アルツハイマー病の原因治療の新規治療概念であることを発見した(Schilling, S.、Hoffmann, T.、Manhart, S.、Hoffmann, M.及びDemuth, H.-U.の論文、「弱酸性条件下でグルタミルシクラーゼ活性を展開するグルタミニルシクラーゼ(Glutaminyl cyclases unfold glutamyl cyclase activity under mild acid conditions)」、FEBS Lett. 563, 191-196 (2004);Cynis, H.らの論文、「哺乳動物細胞内でのピログルタミン酸形成を変更するグルタミニルシクラーゼの阻害(Inhibition of glutaminyl cyclase alters pyroglutamate formation in mammalian cells)」、Biochim. Biophys. Acta, 1764, 1618-1625 (2006);Schillingらの論文、「グルタミニルシクラーゼの阻害−アルツハイマー病の原因治療における新規治療概念(Inhibition of glutaminyl cyclase a novel therapeutic concept for the causative treatment of Alzheimer's disease)、Nature Medicine, 14, 1106-1111 (2008))。
【0006】
現存のADに関する診断マーカー、又は正常な認知反応を示すが、ADの発症が避けられないか若しくは可能性が最も高い対象に関する診断マーカーで満足できるものは、現時点では存在しないように見える。
【0007】
加齢関連認知低下(AACD)及び軽度認知障害(MCI)は、認知症に達していない認知低下を経験する個人を確定するために使用される用語である。これらの用語は同等であり、MCIはより最近に採用された用語であり、かつこれらは本出願を通じ互換的に使用される。本診断に関する判定基準(世界保険機構(WHO))を満足するには、緩徐であり、少なくとも6ヶ月間存在している、認知機能の低下の個人又は家族による報告が必要である。いずれかの認知領域にわたり問題が存在し(圧倒的多数の症例において記憶は損なわれるにもかかわらず)、かつこれらは比較的健常な個人に関して年齢及び教育規準(norm)が利用可能である(すなわち、患者は患者自身の年齢の正常対象と比較される)定量的認知評価における異常な成績により裏付けられなければならない。成績は、そのような試験における好適な集団についての平均値を少なくとも1SD下回らなければならない。認知症も、顕著なうつ病又は薬物作用も存在しない。脳認知機能障害を引き起こすことが分かっている脳又は全身の疾患又は状態も存在しない。本出願人の経験上、臨床的認知症尺度(Clinical Dementia rating)のスケールにおいてCDR.5(「疑わしい認知症」)と分類され、かつこれらの除外基準に合致する患者は全員、AACD/MCIの判定基準にも合致する。アルツハイマー患者の約1/3は、彼等のより全般的な認知低下に先立つ弧発性記憶欠損の明確に限定できる期間を有した(Haxby J. V.らの論文、「アルツハイマー型認知症患者における認知低下の個々の軌跡(Individual trajectories of cognitive decline in patients with dementia of the Alzheimer type)」、J. Clin. Exp. Neuropsychology, 14:575-592, 1992)。記憶に加え他の領域に注目するAACD/MCI判定基準を使用すると、確定可能な前駆症状を伴う割合は、恐らくより高いであろう。幸いなことに、全員ではないAACD/MCI個人が消耗するように見える。これらの対象の著しい数は、試験時に安定した非進行性の記憶欠損を示すように見える。
【0008】
AD、MCI又はNDSの発症を予測するか、又はそれらの進行をモニタリングする試みは、限定された成功に止まっている。本出願の発明者らにより、ヒト対照の参照量から逸脱している対象から得られた生物学的試料中のQC量は、神経系疾患の状態と正の相関を示すことができることが発見された。従ってQCの存在と該病態との相関関係は、先に説明された神経変性疾患のひとつに罹患している患者における診断のための肯定的かつより直接的な試験を表している。従って本発明は、診断マーカーとしてQCを使用する、AD、MCI及びNDSの予測、診断又は予後判定のための、容易に投与された生物学的試料試験を提供する。
【発明の概要】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、AD又はMCIに罹患している対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)の量は、正常(すなわち健常)対照の対象から得られた生物学的試料中のQC量と比べ増加されているという発見を基にしている。これらの神経系疾患と正常対照の間でQC量が異なるという指摘は、対象のAD、MCI又はNDSを診断するための試験の開発の基礎を成している。従って、患者試料中のQC量を測定することによる本発明のAD、MCI又はNDSの診断方法は、これらの神経変性疾患に罹患している患者の現在の臨床的診断評価を大きく改善するであろう。患者から得られた生物学的試料中に存在するQC量の正常対照のそれと比べ新たに発見された差異を基に、このQC量の強力な相関関係は、神経変性疾患の可能性の高い診断を行うことができる。QC量の対照試料と比べ統計学的に有意な増加は、その患者がAD、NDS又はMCIを有する妥当な予測である。正常な年齢が合致した集団から分離された対照QC試料の特徴であるQC量により決定された正常なQC量は、その患者は、AD、MCI又はNDSなどの神経変性疾患を有さないことを示している。正常対照と比べ増加又は減少した生物学的試料中のQC量を基にした神経変性疾患の陽性指標は、一般に特定の疾患の確定的決定を行う上で他の因子と一緒に考慮される。従って試験される対象の増加又は減少したQCレベルは、通常神経変性疾患の確定診断を行う上で、AD、MCI又はNDS-関連した状態の他の受け入れられた臨床症状と一緒に考えられる。
【0010】
従って本発明の第一の態様に従い、
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;及びに
(b)前記生物学的試料中のQCの検出された量を、正常対照に特徴的なQC量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQCの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である、対象において可能性の高いアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法が提供される。
【0011】
本発明の好ましい実施態様に従い、この生物学的試料は、血清、血漿、尿又は脳脊髄液などの体液試料である。より好ましくは、この体液試料は血漿である。
本発明の更なる実施態様に従い、QC量は、QCタンパク質レベル又はQC mRNAレベルのいずれかを基に検出される。
【0012】
対象からの生物学的試料中で検出又は定量されたQC量は、当該技術分野において公知の任意の手段により達成されることができる。そのような手段は、例えば、免疫比濁法、免疫蛍光測定法、免疫拡散法、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、タンパク質活性測定、又はQC mRNAレベルの決定に関して、ノーザンブロット若しくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析、例えば、リアルタイムPCRを含むが、これらに限定されるものではない。同じく、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)及びガスクロマトグラフィー(GC)、更にはガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)及び液体-クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)のシステムを含むそれらの様々な機器構成も有用である。
【0013】
好ましくは、生物学的試料中のQC量は、イムノアッセイフォーマットにおいてQCに結合する抗体を用いて検出される。従って本発明の好ましい実施態様に従い:
(a)対象から生物学的試料を得ること;
(b)該生物学的試料を、グルタミニルシクラーゼ(QC)又はそのアイソフォームに結合する抗体と接触させること;
(c)前記抗体及びQCに、免疫複合体を形成させること;並びに
(d)該生物学的試料中のQC量の指標として、形成された免疫複合体の量を検出すること;並びに
(e)この検出された量を、正常対照に対し比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ増加又は減少された検出された量が、神経変性疾患の陽性指標である、対象における神経変性疾患を診断する方法が提供される。
【0014】
また本発明の更なる態様に従い、QCに結合する抗体、及び正常対照に特徴的なQC量の確立された標準を備える、対象が神経変性疾患に罹患しているかどうかを決定するための診断キットが提供される。これらのアッセイを実行するための試薬及び使用説明書も、含まれることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
(図面の簡単な説明)
【図1】図1(a)は、定量的RT-PCRを適用する、QC転写産物レベルの分析を示す。ヒト新皮質脳試料(ブロードマン野22)由来の総RNAを、正常な加齢脳及び指定された異なるブラーク病期のAD脳から単離した。QC転写産物レベルは、ハウスキーピング遺伝子の転写産物濃度に対して標準化した。図1(b)は、QC mRNA分析に使用されたものと同じ症例及び脳領域からのQCのウェスタンブロット分析を示している。可溶性タンパク質の抽出は、組織重量に対して標準化した。図1(c)は、ヒト新皮質脳試料のSDS-及びギ酸抽出物のELISA分析を適用する同じ症例及び脳領域からのAβN3(pE)-42(Aβ3(pE)-42と記される)及びAβ1-42(Aβ1-42)の濃度の定量を示している。Aβ1-42ペプチドのはるかにより穏やかな上昇と比べ、初期AD病期でのAβN3(pE)-42ペプチド濃度の勢いのある(robust)上昇に注目されたい。図1(d)は、正常加齢した対象及び異なるAD病期からのブロードマン野22における抗体4G8による総Aβペプチド及びAβN3(pE)-42ペプチドの免疫組織化学的検出を示している。まばらなAβ斑が、正常加齢において検出されたが、これらの沈着物は、AβN3(pE)-42免疫反応性を欠いていた。しかし全てのAD病期において、Aβ斑の大半は、AβN3(pE)-42ペプチドを含んでいる。
【図2】図2は、刺激されたTHP-1細胞におけるQC及びCCL2の遺伝子発現率決定の結果を示している。
【図3】図3は、THP-1細胞の馴化培地中のQC比活性の決定の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
【表1】


【0017】
(本発明の実施態様の説明)
本発明は、対象から得られた生物学的試料中のQC量を直接検出し、かつ検出されたQC量を正常対照に特徴的なQC量と比較することによる、神経変性疾患を診断するための効率的かつ迅速なインビトロ法を提供する。対象の生物学的試料中の増加したQC量は、AD又はMCI又はNDSの陽性指標である。従って本明細書において説明されるように、QCは、正常対照と比較してAD、NDS又はMCI患者の生物学的試料中で一貫しかつ有意に増加されることが明らかにされている。従って、患者試料中のQC量の検出又は定量により本発明のAD、MCI又はNDSを診断する方法は、これらの神経変性疾患に罹患した患者の現在の臨床診断評価を大きく改善するであろう。
【0018】
従って、生物学的マーカーとしてQCを使用し、対象がAD、MCI又はNDSに罹患しているかどうかを評価する方法が提供される。
グルタミニルシクラーゼ又はグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ(QC, EC 2.3.2.5)は、アンモニアの遊離下で、N-末端グルタミニル残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリン、pGlu*)への分子内環化を、及び水の遊離下で、N-末端グルタミル残基のピログルタミン酸への分子内環化を、触媒する。
【0019】
QCは、最初に1963年にMesserにより、熱帯植物のカリカ・パパイヤ(Carica papaya)のラテックスから単離された(Messer, M.の論文、Nature, 4874, 1299 (1963))。24年後、相当する酵素活性が、動物の下垂体において発見された(Busby, W. H. J.らの論文、J Biol Chem, 262, 8532-8536 (1987);Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、Proc Natl Acad Sci USA, 84, 3628-3632 (1987))。哺乳動物のQCに関して、QCによるGlnのpGluへの転換は、TRH及びGnRHの前駆体について示された(Busby, W. H. J.らの論文、J Biol Chem, 262, 8532-8536 (1987);Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、Proc Natl Acad Sci USA, 84, 3628-3632 (1987))。加えてQCの最初の局在化実験は、ペプチドホルモン成熟において示唆された機能を更に改善する、ウシ視床下部下垂体路における触媒のその推定生成物との同時局在化を明らかにした(Bockers, T. M.らの論文、J Neuroendocrinol, 7, 445-453 (1995))。対照的に、植物QCの生理機能は余り明らかではない。C.パパイヤ由来の酵素の場合、病原性微生物に対する植物防御における役割が示唆された(El Moussaoui, A.らの論文、Cell Mol Life Sci, 58, 556-570 (2001))。他の植物由来の推定QCは、配列比較により最近同定された(Dahl, S. W.らの論文、Protein Expr Purif, 20, 27-36 (2000))。しかしこれらの酵素の生理機能は、依然曖昧である。
【0020】
植物及び動物由来の公知のQCは、基質のN-末端位置においてL-グルタミンに厳密な特異性を示し、かつそれらの反応速度論的挙動は、ミカエリス−メンテン式に従うことがわかった(Pohl, T.らの論文、Proc Natl Acad Sci USA, 88, 10059-10063 (1991);Consalvo, A. P.らの論文、Anal Biochem, 175, 131-138 (1988);Gololobov, M. Y.らの論文、Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398 (1996))。しかしC.パパイヤ由来のQCの一次構造と哺乳動物由来の高度に保存されたQCのそれとの比較は、いかなる配列相同性も明らかにしなかった(Dahl, S. W.らの論文、Protein Expr Purif, 20, 27-36 (2000))。植物QCは、新規酵素ファミリーに属すると思われる(Dahl, S. W.らの論文、Protein Expr Purif, 20, 27-36 (2000))のに対し、哺乳動物QCは、細菌アミノペプチダーゼに対し明白な配列相同性を有することが分かり(Bateman, R. C.らの論文、Biochemistry, 40, 11246-11250 (2001))、このことは植物及び動物由来のQCは、異なる進化上の起源を有するという結論につながる。
【0021】
Gostranovaらは、グルタミニルシクラーゼ活性は、多発性硬化症患者及び対照における脳脊髄液の特徴的特色であることを発見した(Gostranovaらの論文、Clin Chim Acta, 389 (1-2), 152-159 (2008))。
QCの異なるアイソフォームであるグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ-様タンパク質(QPCTL)が認められた(WO 2008/034891)。これらの新規タンパク質は、グルタミニルシクラーゼ、例えばヒト由来のQPCTL(更にisoQCと称される)(GenBank寄託番号NM_017659)に対する顕著な配列類似性を有する。
【0022】
QC又はヒトisoQCなどの、タンパク質の複数のアイソフォームは、選択的RNAスプライシング、翻訳後タンパク質分解性プロセシング及び細胞型-特異的グリコシル化を含む、様々な機構により、単独の遺伝子から生成されることもできる。従って本明細書において使用される用語「グルタミニルシクラーゼ」、「QC」及び「isoQC」は、その本来の形でのQCに加え、任意のそのアイソフォームをいう。
【0023】
本発明の使用について好ましいのは、配列番号:1、2、3、4及び5からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒトQC又はそれらのアイソフォームである。
本発明の方法における使用についてより好ましいのは、配列番号:2の、又は更に好ましいのは配列番号:3のアミノ酸配列を有するヒトQPCTLである。
本発明の方法における使用について更に好ましいのは、配列番号:4又は配列番号:5のアミノ酸配列を有するヒトQPCTLである。
本発明の方法における使用について最も好ましいのは、配列番号:1のアミノ酸配列を有するヒトQCである。
【0024】
従って本発明の第一の態様において:
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;及び
(b)前記生物学的試料中のQCの検出された量を、正常対照に特徴的なQC量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQCの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である:対象において可能性の高いアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法が提供される。
【0025】
本発明の発明者らにより、生物学的試料中の増加したQC量は、例えば、AβN3pE-42及び/又はAβN3pE-40及び/又はAβN3pE-38などの、N-末端切断型及びピログルタミン酸化型アミロイドβペプチドの増加した量と相関し得ることが明らかにされている。
【0026】
従って本発明の更なる態様において:
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)AβN3pE-X量を更に検出すること;
(c)前記生物学的試料中のQC及びAβN3pE-Xの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びAβN3pE-Xの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中の増加したQC及びAβN3pE-Xの量は、AD、NDS又はMCIの陽性指標であり、
ここでXが、38、40及び42から選択された整数である:対象において可能性の高いアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法が提供される。
【0027】
好ましい実施態様において、Xは42である。
更に好ましい実施態様において、Xは40である。
また好ましい実施態様において、Xは38である。
【0028】
更に好ましいのは、N-末端切断されかつピログルタミン酸化されたアミロイドβペプチドの単独の形のみではなく、AβN3pE-42及び/又はAβN3pE-40及び/又はAβN3pE-38の組合せもが、QCと一緒に検出される方法である。
【0029】
更に好ましいのは、N-末端切断されかつピログルタミン酸化されたアミロイドβペプチドの単独の形のみではなく、AβN3pE-42及び/又はAβN3pE-40及び/又はAβN3pE-38、並びにpGluABri又はpGluADanなどの家族性アルツハイマー型認知症において生じるペプチドの組合せもが、QCと一緒に検出される方法である。
【0030】
「pGlu-Aβ」又は「AβN3pE」は、Aβのアミノ酸配列の3位においてグルタミン酸残基で始まり、かつここで該グルタミン酸残基は環化され、ピログルタミン酸残基を形成する、AβのN-末端切断された型をいう。特に本明細書において使用されるように、pGlu-Aβは、pGlu-Aβ3-38、pGlu-Aβ3-40、p-Glu-Aβ3-42を含むが、これらに限定されるものではないアミロイド病理に関与した若しくは関連したそのような断片を意味する。
【0031】
本発明の発明者らにより、生物学的試料中の増加したQC量は、例えば、CCL2、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCL13、CCL15、CCL16、CCL25及びフラクタルカインなどのケモカインの増加した量と相関され得ることが更に明らかにされている。
【0032】
従って本発明の更なる態様に従い:
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)ケモカイン量を更に検出すること、
(c)前記生物学的試料中のQC及びケモカインの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びケモカインの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQC及びケモカインの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標であることを含む:対象においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法が提供される。
【0033】
好ましい実施態様において、該ケモカインは、哺乳動物起源のものである。より好ましくは、該ケモカインは、ヒトケモカインである。最も好ましくは、該ケモカインは、ヒトCCL2である。
【0034】
更に好ましい実施態様において、アルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する前述のいずれかの方法は、対象の生物学的試料において、インビトロで実行されることもできる。
【0035】
用語「対象」は、AD、MCI又はNDSなどの神経変性疾患に罹患している又は罹患していると疑われる哺乳動物をいう。好ましくは「対象」はヒトをいう。
用語「生物学的試料」は、末梢血、血漿、リンパ球、脳脊髄液、尿、唾液、上皮、線維芽細胞、又はQCタンパク質を含有するいずれか他の試料を含むが、これらに限定されるものではない、生物学的材料の任意の給源をいう。
【0036】
好ましい実施態様において、QC量は、哺乳動物、最も好ましくはヒトから得られた体液試料において検出される。用語「体液」は、QCを含有する血液、リンパ液、尿及び脳脊髄液(CSF)を含むが、これらに限定されるものではないヒト体内に存在する全ての液体をいう。血液試料は、血漿試料又は血清試料、又はこれらの試料に由来する画分を含むことができる。この試料は、血液からの血漿の調製、粘性液体の希釈などのように、使用前に処理されることができる。血漿試料は、EDTAなどの抗凝固薬により処理されていることが好ましい。
【0037】
本発明の好ましい実施態様に従い、QC量は、対象から採取された血液試料中、より好ましくは血漿試料中で検出される。従って本発明は好ましくは、該対象から血漿試料を得る工程;血漿試料中のQC量を検出する工程;血漿試料中の検出されたQC量を、正常対照由来の血漿試料中のQC量と比較する工程を含み、これにより正常対照と比べ増加したQC量は、AD、NDS又はMCIの陽性指標である、先に説明された方法に関する。増加したQC量は、AD、NDS及びMCIの診断に相関し、かつこれらの診断を補助する上で有用であることが示されている。
【0038】
QC(又はそれらのアイソフォーム)の「増加した量」とは、対象の試料中で検出されたQC量が、当該技術分野において公知であるように、実験誤差の範囲を超えて正常対照者に特徴的な平均QC量よりも大きいことを意味する。好ましくは対象の試料中で検出されたQC量は、正常対照者に特徴的な該平均QC量よりも10%より大きい。より好ましくは、対象の試料中で検出されたQC(又はそれらのアイソフォーム)量は、正常対照者に特徴的な該平均QC量よりも25%より大きく、更により好ましくは50%又は75%より大きい。最も好ましくは、対象の試料中で検出されたQC(又はそれらのアイソフォーム)量は、正常対照者に特徴的な該平均QC量よりも数倍大きく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10倍以上大きい。
【0039】
「正常対照」とは、例えば、少なくとも一人の正常な年齢が合致した対照者から又はその患者の別の時点から得られるもののような、対象から得られた同じ種類の生物学的試料をいう。ある実施態様において、正常対照は、当該患者からより早い時点で採取される。正常な年齢が合致した集団からの正常対照試料は、その集団の家族においてAD、MCI又はNDSの病歴のない健常な年齢が合致した対照の適切な集団の試料から分離されなければならない。一例として、適切な対照集団の試料サイズにより決定されたQCの対照レベルよりも高い血漿QCレベルは、AD、NDS又はMCIの指標である。当業者は、診断されるべき対象由来の試料は、正常な年齢が合致した対照に対して評価されること、及び対象のタンパク質試料中のQC量の有意な増加又は低下は、所与のアッセイにおいて使用される対照との比較を基に決定されることを理解するであろう。
【0040】
本発明の更なる実施態様に従い、QC又はそれらのそれらのアイソフォームの量は、前記QC又はそれらのアイソフォームのタンパク質レベル又はmRNAレベルのいずれかを基に検出される。
【0041】
対象の生物学的試料中において検出又は定量されたQC量は、当該技術分野において公知の任意の手段により達成されることができる。そのような手段は、例えば、免疫比濁法、免疫蛍光測定法、免疫拡散法、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、タンパク質活性測定、又はQCのmRNAレベルの決定に関しては、ノーザンブロット若しくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析、例えばリアルタイムPCRを含むことができるが、これらに限定されるものではない。同じくいくつか挙げると、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)及びガスクロマトグラフィー(GC)、更にはガスクロマトグラフィー−質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC-MS)及び液体−クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC-MS/MS)のシステムを含む、それらの様々な機器構成も有用である。
【0042】
QCの検出は、ペプチド検出に関する当該技術分野において公知の方法により達成され得るが、抗体、抗体断片、組換え抗体などを使用する免疫学的検出技術の使用が好ましい。従ってそのようなQCの検出は、QC又はそのアイソフォームに特異的に結合し免疫複合体を形成する抗体、更にはこの免疫複合体の形成を検出する試薬の使用を含むが、これらに限定されるものではない。特に好適な1種以上の抗体を利用する検出技術は、免疫比濁法、免疫蛍光測定法、免疫拡散法、ELISA、RIAなどを含む。
【0043】
そのような抗体は、ポリクローナル性又はモノクローナル性であることができる。ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を作製する方法は、当該技術分野において周知である。総説については、Harlow及びLaneの文献(Harlow, E.及びLane, D.、「抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、NY, 1988)及びYeltonらの論文(Yelton D. E.及びScharff M. D.、「モノクローナル抗体:生物学及び医学における強力な新規ツール(Monoclonal Antibodies: a powerful new tool in biology and medicine)」、Ann. Rev. Biochem., 50:657-680, 1981)が参照され、これらの文献は両方とも引用により本明細書中に組み込まれている。モノクローナル抗体に関しては、Kohler及びMilsteinの論文(Kohler G.及びMilstein C、「予め決定された特異性の抗体を分泌する融合細胞の連続培養(Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity)」、Nature, 256:495-497, 1975)が参照され、これは引用により本明細書中に組み込まれている。本発明の抗体は、例えば、IgG又はIgAなどの、任意のアイソタイプであり、かつポリクローナル抗体は、単独のアイソタイプ又はアイソタイプの混合物である。
【0044】
本発明の好ましい実施態様に従い、抗-QC抗体は、モノクローナル抗体である。抗-QC抗体は、広く商業的に入手可能であるが、本明細書において説明された様々なイムノアッセイにおける使用のための抗体は、標準方法に従い作製されることができる。
【0045】
更に本モノクローナル抗-QC抗体は、QCをその未変性型に加え、その任意のアイソフォームで認識することが可能である。従って、そのアイソフォームを含むQCを特異的に認識する任意のモノクローナル抗体が、QCの定量に関する前述の方法において使用され得る。
【0046】
QCを特異的に認識するが、QCのアイソフォームと低い交差反応性を示すか、又はより好ましくは交差反応性を示さない、モノクローナル抗体が、好ましい。あるいは、QCの特定のアイソフォームを特異的認識するが、QCと低い交差反応性を示すか、又はより好ましくは交差反応性を示さない、モノクローナル抗体が好ましい。
【0047】
好適な抗-QC抗体は、例えば、Abnova社(台北市、台湾)から商業的に入手可能なもの、例としてマウスポリクローナル抗体(カタログ番号H00025797-B01P)及びウサギポリクローナル抗体(カタログ番号H00025797-D01P)がある。
好適な抗-QPCTL抗体は、例えば、Abnova社から商業的に入手可能なマウスポリクローナル抗体である(台北市、台湾、カタログ番号H00054814-B01P)。
【0048】
同じくFab、F(ab)2、ssFv(単鎖可変断片)などのこれらのモノクローナル抗体由来の断片及びその抗体の可変領域を保持している他の抗体-様構築物も、それらが当初の結合特性を保持していることを条件として、本発明の方法において使用されることができる。そのような断片は、例えば、パパイン、ペプシン、又は他のプロテアーゼによる抗体の酵素消化により通常作製される。モノクローナル抗体又はそれらの断片は、様々な用途のために修飾されることができることは、当業者に周知である。従って本発明の抗体は、例えばキメラ(例えば、ヒト定常領域に結合されたマウス起源の可変領域により構築された)、ヒト化(動物起源、例えばマウス起源の超可変領域と一緒にされたヒト免疫グロブリン定常骨格)、及び/又は単鎖など、組換え体であることができる。
【0049】
本発明の方法において使用されるQC又はそのアイソフォームに特異的な抗体は、好適な標識により標識され、かつその標識の存在を基に生物学的試料中で同定されることができる。この標識は、抗体がQCに結合された場合に、その抗体の検出を可能にする。標識の例は以下を含むが、これらに限定されるものではない:放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍燐光体)、ルミネセント標識、酵素標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、ケミルミネセント、及びビオチニル基。
先に考察された抗体の複合又は標式の方法は、当業者により容易に遂行されることができる(例えば、Inmanの文献、「酵素学的方法(Methods In Enzymology)」、第34巻、「アフィニティ技術:酵素精製:パートB(Affinity Techniques, Enzyme Purification: Part B)」、Jakoby及びWichek(編集)、Academic Press社、ニューヨーク、30頁、1974年;並びに、Wilchek及びBayerの文献、「生体分析適用におけるアビジン-ビオチン複合体(The Avidin-Biotin Complex in Bioanalytical Applications)」、Anal. Biochem. 171:1-32, 1988を参照されたい)。
【0050】
診断適用に関して、抗-QC抗体は、遊離状態であるか、又はチューブ、ビーズ若しくは本技術分野において使用されるいずれか他の常用の支持体などの固形支持体上に固定されるかのいずれかである。固定は、直接又は間接の手段を用いて実現される。「直接手段」は、支持体と試薬の間の受動吸着(非共有結合)又は共有結合を含む。「間接手段」とは、試薬と相互反応する抗-試薬化合物が、最初に固形支持体に付着されることを意味する。間接手段は、リガンド-受容体システムを使用することもでき、この場合、例えばビタミンなどの分子が、固相上に固定された該試薬及び対応する受容体上にグラフトされる。これは、ビオチン-ストレプトアビジンシステムにより例証される。
【0051】
当業者は、免疫複合体は、生物学的試料中のQCとその抗体の間で形成されること、及び未結合の物質は、その複合体の検出の前に除去されることを容易に理解するであろう。本発明の抗体は、例えば血液、血漿、リンパ球、脳脊髄液、尿、唾液、上皮及び線維芽細胞などの生物学的試料中のQC量の定量のために使用されることは理解される。
【0052】
当該技術分野において公知であるように、そのような抗体結合の決定は、免疫比濁法(凝集)、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)及びラジオイムノアッセイ(RIA)を含むが、これらに限定されるものではない、非常に様々なイムノアッセイフォーマットを用い実行されることができる(例えば、「イムノアッセイの原理と実践(Principles and Practice of Immunoassay)」、(1991)、Christopher P. Price及びDavid J. Neoman(編集)、Stockton Press社、ニューヨーク、NY、並びにAusubelら(編集)の文献(1987)、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、John Wiley and Sons社、ニューヨーク、NYが参照され、これらは両方とも引用により本明細書中に組み込まれている)。検出は、比色法又は放射活性法又は当業者に公知のいずれか他の常法によることができる。当該技術分野において公知の他の標準技術は、「免疫診断法(Methods in Immunodiagnosis)」第2版、Rose及びBigazzi編集、John Wiley and Sons社、ニューヨーク、1980年、並びにCampbellらの文献、「免疫学的方法(Methods of Immunology)」、W. A. Benjamin社、1964年;米国特許第4,366,241号;第4,376,110号;第4,517,288号;及び、第4,837,168号において説明されており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。全般的イムノアッセイの総説については、「細胞生物学の方法(Methods In Cell Biology)」、第37巻、Asai編集、Academic Press社、ニューヨーク(1993);「基礎及び臨床免疫学(Basic And Clinical Immunology)」、第7版、Stites及びTerr編集(1991)も参照されたい。
【0053】
QC検出のためのそのようなアッセイは、当該技術分野において説明されたような、直接的、間接的、競合的又は非競合的イムノアッセイであることができる(例えば、「イムノアッセイの原理と実践」、(1991)、Christopher P. Price及びDavid J. Neoman(編集)、Stockton Press社、ニューヨーク、NY、並びにAusubelら(編集)の文献(1987)、「分子生物学の最新プロトコール」、John Wiley and Sons社、ニューヨーク、NY;並びに、Oellirich, M.の論文、J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 22:895-904 (1984)が参照され、これらは引用により本明細書中に組み込まれている)。
【0054】
非競合的イムノアッセイは、QC量が直接検出されるアッセイである。「サンドイッチ」アッセイにおいて、例えば抗-QC抗体は、それらが固定されている固形基板に直接結合されることができる。次にこれらの固定された抗体は、生物学的試料中に存在するQCを捕獲する。こうして固定されたQCは次に、標識を有するヒトQC二次抗体などの標識されている試薬により結合される。
【0055】
競合的イムノアッセイにおいて、生物学的試料中に存在する抗原の量は、既知量の標識された抗原の該試料への添加、及び抗体に結合された標識された抗原の量の検出に従い、間接的に決定される。例えばこの場合、既知量の標識されたQCが、生物学的試料に添加され、かつ次にこの試料は、抗-QC抗体と接触させられる。抗-QC抗体に結合された標識されたQCの量は、生物学的試料中のQCの濃度に反比例される。この理由は、検出される標識されたQC量が増えるにつれ、生物学的試料中で、より少ないQC量が、標識されたQCと競合するために利用されるからである。
【0056】
対象におけるAD、MCI又はNDSを診断するアッセイを実行するための診断キットも、提供されている。従って本発明は、本明細書に説明されたようなQC及びそのアイソフォームに特異的な抗体少なくとも1種に加え、抗体-QC結合している免疫複合体の検出に必要な任意の試薬を備える診断キットを用いて実践されることができる。一般に本キットは、QC及びそのアイソフォームを特異的に認識する単独の抗体を備えることができる。他方で、本キットは、QC及びそのアイソフォームを特異的に認識する一次抗体に加え、シグナル発生標識と複合され、かつ一次抗体と結合すること又は一次抗体が結合している部位とは異なる部位で結合することが可能である二次抗体を備えることができる。二次抗体に連結されたこのシグナル発生標識は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼなどの酵素であることができるが、これらに限定されるものではない。本キットは、緩衝液、固形支持体、溶液などの、本アッセイを実行するための他の試薬を更に備えることができる。本キットは、診断アッセイにおいて1種以上の抗体を使用し、本発明の方法を実行するための使用説明書も含むことができる。
【実施例】
【0057】
(発明の実施例)
(実施例1:インビボにおけるAβN3pE-42の形成及びQC発現)
広範なQC分布が、海馬及び皮質におけるかなりの発現により、哺乳動物の脳において検出された。ADにおけるQC発現は、AβN3pE-42の生成と相関され得るかどうかを評価するために、QC mRNA及びタンパク質の濃度を、剖検後のヒト新皮質脳試料において分析した(図1a、b)。興味深いことに、本発明者らは、正常加齢と比べ、AD脳試料中のQC mRNA及びタンパク質のアップレギュレーションを発見した。更に認知症でない個体とは対照的に、有意な濃度のAβN3pE-42が、AD患者由来の試料において検出され、このことはAβN3pE-42生成におけるQCの役割を裏付けている(図1c)。他方で、ELISA分析は、正常加齢対照の対象において高いAβx-42濃度、及び初期AD病期においてはるかに小さい上昇を明らかにした(図1c)。この知見は、総Aβ(4G8)又は特異的にAβN3pE-42を検出する抗体を適用する免疫組織化学により裏付けられた(図1d)。Aβに関する明白な免疫反応性が、全ての群の脳切片において検出された。対照的に、AβN3pE-42染色は、正常加齢においては存在しなかったが、AD脳組織において特異的であり、ここではAβN3pE-42-免疫反応性斑負荷は、総Aβ斑密度とほぼ同じ程高かった。
【0058】
(材料及び方法)
(ヒト脳組織)
本試験において使用した全ての症例に関するADの確定診断は、海馬体及び新皮質領域内の神経原線維もつれ及び神経炎性斑の存在、並びに米国立神経疾患・言語障害・脳卒中研究所(NINDS)とアルツハイマー病関連障害協会(ADRDA)の合同判定基準への合致を基にした。同じ症例からの皮質組織(ブロードマン脳地図の22野)を、QC mRNA濃度、QCタンパク質及びAβN3pE-42の定量に使用した。合計で対照症例10及びAD症例10において、ブラーク病期I-II及びV-VIの各々を分析した。これらの群は、性別及び年齢について合致していた(対照:平均72±6.6歳;AD I-II:平均73±3.1歳;AD V-VI:平均77±6.6歳)。平均死後経過時間(PMI)は、これらの群間で類似しており、26〜96時間の範囲であった。このPMI期間は、ウェスタンブロット分析によるQCの検出にも、ELISAによるAβの定量にも関連がなかった。qRT-PCRによるQC mRNA検出に関しては、PMIが48時間未満の組織試料のみ含んだ。
【0059】
(QC mRNA定量及びQCウェスタンブロット分析)
組織試料を、1.4mmセラミックビーズを備えたホモジナイザーPrecellysにより、ホモジナイズした(5000rpm、30秒間、peqlab社)。NucleoSpin RNA IIキット(Macherey Nagel社)を製造業者の指示に従い使用し、RNAを単離した。100ngの一定のRNAを、ランダムプライマー(Roche社)及びSuperscript II(Invitrogen社)を用い、cDNAへ逆転写した。定量的リアルタイムPCRを、QPCTのためのQuantiTectプライマーアッセイ(QT00013881、Qiagen社)、更にはQuantiTect SYBR Green RT-PCRキット(Qiagen社)を用い、Rotorgene 3000 (Corbett Research社)において行った。QC絶対量は、外部QC標準DNA(pcDNA3ベクターにクローニングされた完全長QC)の6回希釈を2つ組で用いて決定した。このPCRの検定のために、生成物融解曲線を作成し、かつ単独のアンプリコンを、アガロースゲル電気泳動により確認した。絶対量は、Rotorgeneソフトウェアver.4.6により定量モードで決定した。標準化は、2つの最も安定して発現されているハウスキーピング遺伝子HPRT及びGAPDH(geNorm)に対して行った。ウェスタンブロット分析に関して、脳試料(50mg)を、10mMトリス(pH7.5)、100mM NaCl、5mM EDTA及び0.5%Triton X-100及び10%グリセロールを含有する緩衝液(1ml)中でホモジナイズした。組織は、Downs-ホモジナイザー内で数回ストロークすることによりホモジナイズし、かつ超音波ショックに3×10秒間供した。得られたホモジネートを、20000×gで25分間の遠心分離により清明とした。各試料のタンパク質合計12μgを、トリス-グリシンSDS-PAGEにより分離した。QCは、組換えヒトQCに対して生じた精製されたウサギポリクローナル抗体を用いて検出した。可視化のために、ブロットメンブレンを、ホースラディッシュペルオキシダーゼと複合した二次抗体(Cell Signaling社)と共に、5%(w/v)乾燥ミルクを含有するTBS-T中でインキュベーションし、引き続きSuperSignal West Pico System(Pierce社)を製造業者のプロトコールに従い用いて発色した。
【0060】
(実施例2:刺激されたTHP-1細胞におけるQC及びCCL2遺伝子発現率の決定)
ヒト単球性白血病株化細胞THP-1細胞を、10%FCS(=FBS、ウシ胎仔血清(Invitrogen社))及び60μg/mlゲンタマイシン(Invitrogen社)を含有するRPMI-1640(Rosewell Park Memorial Institute Medium 1640(Invitrogen社))中の懸濁液(5×105個細胞/ml培地)で、5%CO2及び95%加湿大気内、37℃で培養した。QC及びCCL2の刺激作用を調べるために、2×106個細胞を、24ウェルプレート(Greiner社)へ、様々な濃度のリポ多糖体(LPS;Sigma社)を含有するFCS非含有培養培地1ml中に播種した。24時間インキュベーションした後、この培地を遠心分離(300×g、5分間)により、細胞から除去した。
【0061】
RNA単離は、Nucleo-Spin(登録商標)RNA IIキット(Macherey & Nagel社)により実行し、引き続きそのRNA濃度を決定した。Invitrogen社のSuperScript(商標)II逆転写酵素キットを使用し、RNA 1μgを、cDNAへ転写した。
QC及びCCL2の遺伝子発現率は、リアルタイムサイクラーRotor-Gene(商標)3000での定量的PCRにより決定した。動作しているソフトウェアの比較方法を使用し、刺激されたプローブの遺伝子発現率の変化を非刺激対照と比較し、示した。標準化は、参照遺伝子YWHAZ(チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質)に対して行った。結果を図2に示している。
【0062】
(実施例3:THP-1細胞馴化培地における特異的QC活性の測定)
THP-1細胞5×106個を、25cm2懸濁フラスコ(Greiner社)の中のフェノールレッド非含有及びFCS非含有のRPMI-1640(Invitrogen社)5mlへ播種し、かつ異なる濃度のLPS(Sigma社)により刺激した。37℃及び5%CO2下で24時間インキュベーションした後、細胞を培地から分離し、これをMWCO(分子量カットオフ値)10kDaであるU-Tube(商標)コンセントレーター6-10(Merck, Novagen社)を使用する遠心分離(4000×g)により、最終容積250μlまで減らした。そのタンパク質濃度の分析は、Bradford法に従った。特異的QC活性の決定は、研究室内で確立されたHPLC法を用い達成した。結果を図3に示している。
【0063】
(実施例4:QC活性の決定)
(蛍光分析)
全ての測定は、マイクロプレート用BioAssay Reader HTS-7000Plus(Perkin Elmer社)により、30℃で行った。QC活性は、H-Gln-bNAを用い、蛍光測定により評価した。この試料は、20mM EDTAを含有する0.2Mトリス/HCl(pH8.0)中の0.2mM蛍光発生基質、0.25Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Unizyme社、Hrsholm、デンマーク)からなり、かつ最終容積250μlのQCアリコートに適宜希釈した。励起/放出波長は、320/410nmであった。このアッセイ反応は、グルタミニルシクラーゼ添加により開始した。QC活性は、アッセイ条件下でのb-ナフチルアミンの標準曲線から決定した。1ユニットは、先に説明された条件下で、1分間にH-Gln-bNAから1μmolのpGlu-bNAの形成を触媒するQC量と定義した。
【0064】
第二の蛍光分析において、QCは、基質としてH-Gln-AMCを用いて決定した活性であった。反応は、マイクロプレート用NOVOStarリーダー(BMG labtechnologies社)を利用し、30℃で実行した。これらの試料は、5mM EDTAを含有する0.05Mトリス/HCl(pH8.0)中の変動濃度の蛍光発生基質、0.1Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Qiagen社)からなり、かつ最終容積250μlのQCアリコートに適宜希釈した。励起/放出波長は、380/460nmであった。このアッセイ反応は、グルタミニルシクラーゼ添加により開始した。QC活性は、アッセイ条件下での7-アミノ-4-メチルクマリンの標準曲線から決定した。反応速度論的データは、GraFitソフトウェアを用いて評価した。
【0065】
(QCの分光光度法的測定)
本アッセイにおいて、QC活性は、補助酵素としてグルタミン酸デヒドロゲナーゼを利用する先の非連続アッセイ(Bateman, R. C. J.の論文、J Neurosci Methods, 30:23-28 (1989))を改変することにより導かれた連続法を用い、分光光度法により分析した。これらの試料は、最終容積250μl中、各QC基質、0.3mM NADH、14mM a-ケトグルタル酸及び30U/mlグルタミン酸デヒドロゲナーゼからなった。反応は、QCの添加により開始し、340nmでの吸光度の減少を8〜15分間モニタリングすることにより追跡した。
【0066】
アッセイ条件下でのアンモニアの標準曲線から、その初速度を評価し、かつ酵素活性を決定した。全ての試料は、SPECTRAFluor Plus又はSunriseマイクロプレートリーダー(両方ともTECAN社から)のいずれかを使用し、30℃で測定した。反応速度論的データは、GraFitソフトウェアを用いて評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;及び
(b)前記生物学的試料中のQCの検出された量を、正常対照に特徴的なQC量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQCの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である:
対象においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法。
【請求項2】
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)AβN3pE-X量を更に検出すること;
(c)前記生物学的試料中のQC及びAβN3pE-Xの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びAβN3pE-Xの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQC及びAβN3pE-Xの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標であり、並びに
ここでXが、38、40及び42から選択された整数である:
対象においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法。
【請求項3】
(a)対象から得られた生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)ケモカイン量を更に検出すること;
(c)前記生物学的試料中のQC及びケモカインの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びケモカインの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQC及びケモカインの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である:
対象においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断する方法。
【請求項4】
前記QCが、配列番号:1、2、3、4及び5からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒトQC又はそれらのアイソフォームである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記QCが、配列番号:1のヒトQCである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的試料が、血清、血漿、尿又は脳脊髄液である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的試料が、血漿である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記QC量が、免疫比濁法、免疫蛍光測定法、免疫拡散法、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、タンパク質活性測定、ノーザンブロット、PCR、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC-MS、LC-MS、又はLC-MS/MSにより検出される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記QC又はそれらのアイソフォームの量が、該QC又はそれらのアイソフォームのタンパク質レベルを基に検出される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記QC量が、QC又はそれらのアイソフォームに特異的に結合する抗体を用いて検出される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記QC量が、QC又はそれらのアイソフォームの酵素活性を測定することにより検出される、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記QC又はそれらのアイソフォームの量が、該QC又はそれらのアイソフォームのmRNAレベルを基に検出される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記Xが42である、請求項2及び4〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記Xが40である、請求項2及び4〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記Xが38である、請求項2及び4〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
N-末端切断されかつピログルタミン酸化されたアミロイドβペプチドの単独の形のみではなく、AβN3pE-42及び/又はAβN3pE-40及び/又はAβN3pE-38、並びにpGluABri及び/又はpGluADanの組合せもが、QCと一緒に検出される、請求項2、及び4〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記ケモカインが、CCL2、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCL13、CCL15、CCL16、CCL25及びフラクタルカインから選択される、請求項3〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記ケモカインが、CCL2である、請求項3〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
(a)対象から生物学的試料を得ること;
(b)該生物学的試料を、グルタミニルシクラーゼ(QC)又はそのアイソフォームに結合する抗体と接触させること;
(c)前記抗体及びQCに、免疫複合体を形成させること;並びに
(d)該生物学的試料中のQC量の指標として、形成された免疫複合体の量を検出すること;並びに
(e)この検出された量を、正常対照の対象からの試料に対し比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ増加又は減少された検出された量が、神経変性疾患の陽性指標である:
対象における神経変性疾患を診断する方法。
【請求項20】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、ADの陽性指標である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、MCIの陽性指標である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、NDSの陽性指標である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
(a)生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;及び
(b)該生物学的試料中のQCの検出された量を、正常対照に特徴的なQC量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQCの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である:
対象からの生物学的試料においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断するインビトロ方法。
【請求項24】
(a)生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)AβN3pE-X量を更に検出すること;
(c)前記生物学的試料中のQC及びAβN3pE-Xの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びAβN3pE-Xの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQC及びAβN3pE-Xの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標であり;かつ
ここでXが、38、40及び42から選択された整数である:
対象からの生物学的試料においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断するインビトロ方法。
【請求項25】
(a)生物学的試料中のグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームの量を検出すること;並びに
(b)ケモカイン量を更に検出すること;
(c)前記生物学的試料中のQC及びケモカインの検出された量を、正常対照に特徴的なQC及びケモカインの量と比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ該生物学的試料中のQC及びケモカインの増加された量が、AD、NDS又はMCIの陽性指標である:
対象の生物学的試料においてアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群の神経変性(NDS)又は軽度認知障害(MCI)を診断するインビトロ方法。
【請求項26】
前記QCが、配列番号:1、2、3、4及び5からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒトQC又はそれらのアイソフォームである、請求項23、24又は25のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項27】
前記QCが、配列番号:1のヒトQCである、請求項23〜26のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項28】
前記生物学的試料が、血清、血漿、尿又は脳脊髄液である、請求項23〜27のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項29】
前記生物学的試料が、血漿である、請求項23〜28のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項30】
前記QC量が、免疫比濁法、免疫蛍光測定法、免疫拡散法、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、タンパク質活性測定、ノーザンブロット、PCR、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC-MS、LC-MS、又はLC-MS/MSにより検出される、請求項23〜29のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項31】
前記QC又はそれらのアイソフォームの量が、該QC又はそれらのアイソフォームのタンパク質レベルを基に検出される、請求項23〜30のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項32】
前記QCの量が、QC又はそれらのアイソフォームに特異的に結合する抗体を用いて検出される、請求項23〜31のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項33】
前記QCの量が、QC又はそれらのアイソフォームの酵素活性を測定することにより検出される、請求項23〜30のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項34】
前記QC又はそれらのアイソフォームの量が、該QC又はそれらのアイソフォームのmRNAレベルを基に検出される、請求項23〜30のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項35】
前記Xが42である、請求項24及び26〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項36】
前記Xが40である、請求項24及び26〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項37】
前記Xが38である、請求項24及び26〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項38】
N-末端切断されかつピログルタミン酸化されたアミロイドβペプチドの単独の形のみではなく、AβN3pE-42及び/又はAβN3pE-40及び/又はAβN3pE-38、並びにpGluABri及び/又はpGluADanの組合せもが、QCと一緒に検出される、請求項24及び26〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項39】
前記ケモカインが、CCL2、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCL13、CCL15、CCL16、CCL25及びフラクタルカインから選択される、請求項25〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項40】
前記ケモカインが、CCL2である、請求項25〜34のいずれか1項記載のインビトロ方法。
【請求項41】
(a)生物学的試料を、グルタミニルシクラーゼ(QC)又はそのアイソフォームに結合する抗体と接触させること;
(b)前記抗体及びQCに、免疫複合体を形成させること;並びに
(c)該生物学的試料中のQC量の指標として、形成された免疫複合体の量を検出すること;並びに
(d)この検出された量を、正常対照の対象からの試料に対し比較すること:を含み、
これにより、正常対照に比べ増加又は減少された検出された量が、神経変性疾患の陽性指標である:
対象からの生物学的試料において神経変性疾患を診断するインビトロ方法。
【請求項42】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、ADの陽性指標である、請求項41記載のインビトロ方法。
【請求項43】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、MCIの陽性指標である、請求項41記載のインビトロ方法。
【請求項44】
前記正常対照と比べ増加された検出された量が、NDSの陽性指標である、請求項41記載のインビトロ方法。
【請求項45】
QCに結合する抗体及び正常対照に特徴的なQC量の確立された標準を備える、神経変性疾患を診断するためのキット。
【請求項46】
神経変性疾患の診断のための生物学的マーカーとしてグルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームに結合する抗体を使用する方法であって、前記抗体と、対象から得られた生物学的試料を接触させ、該試料中のQC量を決定することを含む、前期方法。
【請求項47】
対象における神経変性疾患を診断するための生物学的マーカーとしての、グルタミニルシクラーゼ(QC)又はそれらのアイソフォームに結合する抗体の使用。
【請求項48】
前記神経変性疾患が、ADである、請求項45〜47のいずれか1項記載のキット、方法又は使用。
【請求項49】
前記神経変性疾患が、MCIである、請求項45〜47のいずれか1項記載のキット、方法又は使用。
【請求項50】
前記神経変性疾患が、NDSである、請求項45〜47のいずれか1項記載のキット、方法又は使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−529571(P2011−529571A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520526(P2011−520526)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059951
【国際公開番号】WO2010/012828
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】