神経学的状態のバイオマーカーアッセイ
対象における神経学的状態を決定するための方法およびアッセイであって、それにより、対象から得られた試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーのレベルが測定される、方法が提供される。該方法およびアッセイは、傷害、疾患、化合物との接触、または他の原因による神経学的損傷などの神経学的状態の協同的な決定のために、複数の神経活性バイオマーカーを測定することを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の支援
本研究の一部は、米国国防総省からの助成金N14-06-1-1029号、W81XWH-8-1-0376号およびW81XWH-07-01-0701号によって援助されたものである。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、そのそれぞれの内容がその全体で本明細書中に参考として組み込まれている2009年6月19日に出願の米国仮出願第61/218,727号および2010年5月17日に出願の米国仮出願第61/345,188号の優先権を主張するものである。
【0003】
本発明は、一般に、個体の神経学的状態を決定すること、特に、神経学的状態を検出、診断、分化または処置する手段として神経予測的な(neuropredictive)条件的バイオマーカーの量を測定することに関する。
【背景技術】
【0004】
臨床神経学の分野は、初期傷害要因(initial insult)に対する生理的応答に関連する中枢神経系組織への二次傷害(secondary injury)を軽減できるのは、初期傷害要因を迅速に診断できた場合、または進行性の障害の場合は中枢神経系組織に対するストレスが事前に選択された閾値に達する前に診断できた場合のみであるという認識によって、いまなお挫折感を感じている。外傷性、虚血性、および神経毒性の化学傷害は、一般的な障害と共に、すべて脳損傷の見込みを提示する。これらの脳損傷の原因のそれぞれの重篤な(severe)形態の診断は、臨床反応試験ならびにコンピュータ断層撮影(CT)および磁気共鳴画像法(MRI)試験によって直接的に行えるが、これらの診断学は、分光イメージングは高価かつ時間がかかる一方で、行動能力を失われた個体の臨床反応試験は価値が限られており、しばしば微細な診断の妨げになる点に、その制限を有する。さらに、既存の診断学の制限が原因で、対象がしばしば損傷が起こったことに気づかないまたは軽微な症状として処置を求めるような、対象がその神経学的状態にストレスを経験する状況は、多くの場合、迅速に解消する。対象の神経学的状態に対するこれらの軽度から中等度のチャレンジ(challenge)に処置しないと、蓄積効果があるか、または続いて重篤な脳損傷イベントをもたらす場合があり、どちらの場合でも臨床予後が不良となる。
【0005】
神経学的状態の分光および臨床反応の診断に関連する制限に打ち勝つために、対象の分子または細胞レベルの健康状態としての変化の内部指標としての、バイオマーカーの使用に対する注目が増加している。バイオマーカーの検出では対象から得られた試料を使用し、その試料中、典型的には脳脊髄液、血液、または血漿中のバイオマーカーを検出するため、バイオマーカーの検出は、神経学的状態の安価、迅速、かつ客観的な測定の見込みを持っている。神経学的状態の迅速かつ客観的な指標を獲得することで、ある程度の客観性を持って正常でない脳状態の重篤度をスケール上で決定すること、結果を予測すること、状態の療法を導くこと、ならびに対象の応答性および回復を監視することが可能となる。さらに、多数の対象から得られたそのような情報により、脳傷害の機構のある程度の見識を得ることが可能となる。
【0006】
いくつかのバイオマーカーは、自動車衝突および戦闘で負傷した対象でしばしば見られるような、重篤な外傷性脳傷害に関連していると同定されている。これらのバイオマーカーには、SBDP150、SBDP150i、SBDP145(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、およびMAP-2樹状細胞傷害関連マーカーなどのスペクトリン分解産物が含まれている。これらのバイオマーカーの性質は、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号および第7,396,654号に詳述されている。
【0007】
細胞骨格タンパク質ファミリーのメンバーとしてのグリア線維酸性タンパク質(GFAP)は、中枢神経系(CNS)の成熟星細胞中などの、主要な8〜9ナノメートルの中間体線維グリア細胞である。GFAPは、40〜53kDaの分子質量および5.7〜5.8の等電点を有する単量体分子である。GFAPは、CNSの外には見つからない、脳特異性の高いタンパク質である。GFAPは脳傷害に応答して放出され、脳傷害のすぐ後に血液およびCSF中に放出される。外傷、疾患、遺伝子障害、または化学傷害のいずれかの結果としての傷害後のCNS中では、星細胞は、GFAPの迅速な合成によって特徴づけられる、アストログリオーシスまたはグリオーシスと呼ばれる様式で反応性となる。しかし、GFAPは通常、年齢に伴って増加し、脳組織におけるGFAPの濃度および代謝回転は幅広く変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,291,710号
【特許文献2】米国特許第7,396,654号
【特許文献2】米国特許第5,475,096号
【特許文献3】米国特許第5,670,637号
【特許文献4】米国特許第5,696,249号
【特許文献5】米国特許第5,270,163号
【特許文献6】米国特許第5,707,796号
【特許文献7】米国特許第5,595,877号
【特許文献8】米国特許第5,660,985号
【特許文献9】米国特許第5,567,588号
【特許文献10】米国特許第5,683,867号
【特許文献11】米国特許第5,637,459号
【特許文献12】米国特許第6,011,020号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】El-Hefnaway, Tら、Clinical Chem.、2004、50(3)、564〜573頁
【非特許文献2】FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁
【非特許文献3】Urrea, C.ら、Restorative Neurology and Neuroscience、2007、25:6576頁
【非特許文献4】MatevossianおよびAkbarian、J Vis Exp.、2008年10月1日、(20)、914頁
【非特許文献5】Pekny Mら、Int Rev Neurobiol.、2007、82:95〜111頁
【非特許文献6】Xu QG、Midha R、Martinez JA、Guo GF、Zochodne DW. Neuroscience.、2008年4月9日、152(4):877〜87頁
【非特許文献7】Leeら、Pharmacological Research、23:312〜328頁、2006
【非特許文献8】Atlas of Neurosurgery: Basic Approaches to Cranial and Vascular Procedures、F. Meyer、Churchill Livingstone、1999
【非特許文献9】Stereotactic and Image Directed Surgery of Brain Tumors、第1版、David G. T. Thomas、WB Saunders Co.、1993
【非特許文献10】Cranial Microsurgery: Approaches and Techniques、L. N. SekharおよびE. De Oliveira、第1版、Thieme Medical Publishing、1999
【非特許文献11】Belayら、Arch. Neurol.、58:1673〜1678頁 (2001)
【非特許文献12】Seijoら、J. Clin. Microbiol.、38:3892〜3895頁 (2000)
【非特許文献13】Ye, Jら、PNAS USA、2008、105:82〜87頁
【非特許文献14】Watts, RAら、Immunology、1990、69(3):348〜354頁
【非特許文献15】Cox, CDら、J Neurotrauma、2008、25(11):1355〜65頁
【非特許文献16】the National Center for Injury Prevention and Control、Report to Congress on Mild Traumatic Brain Injury in the United States: Steps to Prevent a Serious Public Health Problem.、ジョージア州Atlanta: Centers for Disease Control and Prevention、2003
【非特許文献17】Pikeら、J Neurochem、2001年9月、78(6):1297〜306頁
【非特許文献18】「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、NRC Publication、1996年版」
【非特許文献19】Svetlov, SIら、J Trauma.、2010年3月2日、doi:10.1097/TA.0b013e3181bbd885
【非特許文献20】Ringger NCら、J Neurotrauma、2004、21:1443〜1456頁
【非特許文献21】Breier JMら、Toxicological Sciences、2008、105(1):119〜133頁
【非特許文献22】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、第1〜3巻、Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor、1989
【非特許文献23】Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、Greene PublishingおよびWiley-Interscience、New York、1992
【非特許文献24】Current Protocols in Immunology、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1991
【非特許文献25】Methods of Immunological Analysis、Masseyeffら編、John Wiley & Sons、New York、1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、神経学的状態の改善された測定を提供するための方法およびアッセイの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
対象の外傷性脳傷害の重篤度を検出または識別するための方法(process)であって、第1の時点で対象から得られた試料中の第1のバイオマーカー、例示的にはGFAPの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が対象の外傷性脳傷害の規模を決定する、方法を提供する。増加したレベルのGFAPがTBIの指標である。重篤なTBIの症状の非存在下では、傷害の2時間以内の上昇したレベルのGFAPが軽度または中等度のTBIの指標である。第1のバイオマーカーの量は、任意選択で、CTスキャン正常性またはGCSスコアと相関している。本発明の方法により、軽度のTBI、中等度のTBI、重篤なTBI、またはTBIの非存在を識別または検出することが可能となる。任意選択で、1つまたは複数の追加のバイオマーカーの量を試料中または第2の試料中で測定する。追加のバイオマーカーは、任意選択で、UCH-L1、NSE、MAP-2、SBDP150、SBDP145、SBDP120、または対照である。化合物は、任意選択で、試料を得る前に対象に投与する。化合物は、例示的にはカイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である。1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップは、任意選択で、傷害の24時間後の前に単独で、または傷害の24時間にも行う。
【0012】
対象の神経学的状態を決定するための方法であって、第1の時点で対象から得られた試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含み、それにより、該測定が対象の神経学的状態を決定する、方法が提供される。試料は、任意選択で、脳脊髄液、血液、またはその画分である。第1の神経活性バイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である。
【0013】
一部の実施形態では、本発明の方法は、第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、前記第1の神経活性バイオマーカーと同時に測定する。第1の神経活性バイオマーカーは、任意選択でUCH-L1であり、第2の神経活性バイオマーカーは、GFAP、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、NSE、S100β、MAP-2、MAP-1、MAP-3、MAP-4、MAP-5、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-H、α-インターネキシン、CB-1、CB-2、ICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、C-CAM、シナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、SNAP、CRMP-2、CRMP-1、CRMP-3、CRMP-4、iNOS、またはβIII-チューブリンである。一部の実施形態では、第1の神経活性バイオマーカーはLC3であり、第2の神経活性バイオマーカーはMAP1である。第1の神経学的バイオマーカーまたは第2の神経学的バイオマーカーの量は、任意選択で、既知の神経学的損傷を有さない1つまたは複数の他の個体におけるバイオマーカーの量と比較する。第1の神経学的バイオマーカーおよび第2の神経学的バイオマーカーは、任意選択で同じ試料中にある。
【0014】
対象から単離した試料を保持するための基材および第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤が含まれる、対象の神経学的状態を決定するためのアッセイが提供され、第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤と生体試料の一部分との反応が、対象の神経学的状態のエビデンスである。第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤は、任意選択で抗体である。抗体は、任意選択で、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーを認識する。
【0015】
化合物を投与した後に対象における神経学的状態を検出するための方法であって、化合物を対象に投与するステップと、試料を前記対象から得るステップと、前記試料をUCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーの存在についてアッセイするステップとを含み、それにより、前記アッセイが、前記対象において神経学的損傷を検出することを可能にする、方法を提供する。試料は、任意選択で、血清、脳脊髄液、または神経組織である。神経組織は、任意選択で、対象の皮質または海馬から得られる。化合物は、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】対照および重篤なTBIのヒト対象における、最初に採取したCSF試料からのGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図2】図1の対照および重篤なTBIのヒト対象における、血清試料中のGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図3】図1および2のデータを要約する、ヒト対照および重篤なTBIヒト対象におけるGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図4】外傷性脳傷害の単一のヒト対象の動脈圧(MABP)、頭蓋内圧(ICP)および脳灌流圧(CPP)を時間の関数として示す図である。
【図5−1】図4の外傷性脳傷害の単一のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図5−2】図4の外傷性脳傷害の単一のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図6】外傷性脳傷害の別の個別のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図7】入院時およびその24時間後に採取した試料におけるCTスキャンによって決定された、対照および軽度/中等度の外傷性脳傷害のコホート中の個体のGFAP濃度を表す図である。
【図8】図7で使用した試料からのUCH-L1の並行アッセイを表す図である。
【図9】対照、軽度、および中等度の外傷性脳傷害間の傷害規模の関数として提供する、UCH-L1およびGFAPならびにS100βの濃度を示す図である。
【図10】断層撮影スキャンにおける病変に関する入院時の初期エビデンスに関して、図9に示したものと同じマーカーの濃度を示す図である。
【図11】ヒト対象における重篤な外傷性脳傷害後の血清中に存在するUCH-L1、GFAP、S100β、NSE、MBP、およびMAP2の量を、CTスキャン結果の関数として表す図である。
【図12】ウエスタンブロッティングおよびELISAによる、CCI誘導性の外傷性脳傷害後における、ラットCSFまたは血清中でのUCH-L1のレベルを示す図である。
【図13】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット皮質(A)および海馬(B)中での相対的なGFAPの発現を示す図である。
【図14】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット皮質(A)および海馬(B)中での相対的なCNPaseの発現を示す図である。
【図15】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のGFAPレベルを示す図である。
【図16】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のNSEレベルを示す図である。
【図17】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血漿(B)中のUCH-L1レベルを示す図である。
【図18】ウエスタンブロットによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF中のCNPaseレベルを示す図である。
【図19】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のsICAM-1レベルを示す図である。
【図20】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血漿中のiNOSレベルを示す図である。
【図21】ラット(A)およびヒト(B)の組織中のNeuNの分布を示す図である。
【図22】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF中のNeuNおよびSBDP150/145を示す図である。
【図23】外傷性脳傷害後における、ヒトCSF中のNeuNを示す図である。
【図24】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のL-セレクチンを示す図である。
【図25】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットの血清およびCSF中のsICAM-1レベルを示す図である。
【図26】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のβ-NGFレベルを示す図である。
【図27】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のニューロピリン-2レベルを示す図である。
【図28】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のレジスチンレベルを示す図である。
【図29】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のオレキシンレベルを示す図である。
【図30】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のフラクタルカインレベルを示す図である。
【図31】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット小脳中のニューロピリン-2レベルを示す図である。
【図32】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のSBDP145レベルを示す図である。
【図33】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のSBDP120レベルを示す図である。
【図34】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のMAP2の上昇を表す図である。
【図35】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、血清中のUCH-L1レベルを表す図である。
【図36】虚血性または昜出血性の脳卒中を患っているヒト患者から得られた血漿中のSBDP145(A)、SBDP120(B)、およびMAP-2のレベルを示す図である。
【図37】虚血性または昜出血性の脳卒中を患っているヒト患者から得られた血漿中のUCH-L1レベルを示す図である。
【図38】脳卒中におけるUCH-L1の診断的有用性を示す図である。
【図39】TUBB4をバイオマーカーとしたELISAアッセイの検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、異常な神経学的状態の診断および管理において有用性を有する。対象からの神経活性バイオマーカーの測定値を、任意選択で追加の神経活性バイオマーカーで得られた値と組み合わせることで、これまでに達成可能であったよりも高い特異性での対象神経学的状態の決定が提供される。
【0018】
また、対象発明は、将来の疾患または現在もしくは将来の傷害の予測または指標となる神経学的な外傷または状態を検出する手段としても、有用性を有する。例示的には、本発明は、創薬または薬物開発のためのin vivoまたはin vitroの安全性または有効性のスクリーニングプロトコルとしての有用性を有する。創薬または薬物開発は、神経学的状態に向けられた薬物に限定されない。神経活性バイオマーカーは、任意選択で、分析用のリード化合物を選択する手段として、または以前に同定された薬物候補の安全性を評価する手段として、in vivo動物研究における予想されるまたは予想外の神経学的副作用を検出することに、有用性を有する。
【0019】
神経学的状態を決定するための方法であって、試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む方法が提供される。神経活性バイオマーカーとは、神経細胞に随伴する(associated with)、それによって影響を受ける、それによって活性化される、それに影響を与える、または他の様式でそれと関連している、バイオマーカーである。対象に由来する試料中の神経活性バイオマーカーの量は、神経学的状態の存在または非存在と相関する。
【0020】
本明細書中で使用する用語「バイオマーカー」とは、その存在、非存在、レベルまたは活性が、神経学的状態、毒性、損傷、または疾患に相関的または予測的である、抗体、DNA、RNA、miRNA、RNAの断片、DNAの断片、ペプチド、タンパク質、脂質、または他の生体物質を表す。
【0021】
バイオマーカーは、任意選択で、神経毒性傷害要因などの神経学的状態の検出または診断に選択的である。任意選択で、バイオマーカーは、化学誘導された神経毒性のレベルの検出および識別に特異的かつ有効である。そのようなバイオマーカーは、任意選択で神経活性バイオマーカーと呼ばれる。
【0022】
バイオマーカーは、例示的にはペプチドまたはタンパク質である。タンパク質の存在もしくは非存在の検出、またはタンパク質レベルの増加もしくは減少は、神経学的損傷などの神経学的状態の存在または非存在と相関する。本明細書中で使用する、「ペプチド」とは任意の長さのペプチドを意味し、タンパク質が含まれる。用語「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」とは、本明細書中で、特定の大きさを別段に記述しない限りは、任意の特定の意図する大きさの制限なしに使用する。
【0023】
バイオマーカーは、任意選択で、オリゴヌクレオチドなどのポリ核酸である。オリゴヌクレオチドとは、DNAまたはRNA分子である。RNA分子の例には、例示的にはmRNAおよびmiRNA分子が含まれる。RNA分子は、歴史的には血漿中で短い半減期を有すると考えられていた。より最近になって、研究により、RNA分子が血漿中でタンパク質または脂質小胞によって保護されている可能性があることが示された。したがって、神経毒性傷害要因に続いて放出されるRNA分子は、たとえば、細胞、組織、血液、血漿、血清、CSF、または他の生体物質中で検出し、本発明の方法において傷害の存在と関連づけることができる。RNAを生体試料から単離するための、数々の方法が当分野で知られている。例示的には、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている、El-Hefnaway, Tら、Clinical Chem.、2004、50(3)、564〜573頁によって記載されている方法が、本発明において使用可能である。
【0024】
バイオマーカーは、任意選択でタンパク質、任意選択で完全長のタンパク質である。あるいは、またはそれに加えて、本発明のバイオマーカーは、GFAP、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ユビキチンC末端加水分解酵素L1(UCHL1)、神経核タンパク質(NeuN)、2',3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ(CNPase)、細胞間接着分子(ICAM)、具体的にはICAM-1、ICAM-2、およびICAM-5、血管細胞接着分子(VCAM)、具体的にはVCAM-1、神経細胞接着分子(NCAM)、具体的にはNCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、およびNCAM-140、ニューロリン様細胞接着分子(NL-CAM)、活性化白血球細胞接着分子(AL-CAM)、細胞-細胞接着分子(C-CAM)(FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁)、具体的にはC-CAM1、ならびに誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)をコードしている、またはそれであるオリゴヌクレオチドまたはペプチドの一部分または完全長の型である。本発明の神経活性バイオマーカーは、任意選択でCNPaseである。バイオマーカーは、例示的には、タンパク質の断片を含めた、Table 1(表1)中に提示したタンパク質またはそれをコードしている任意のオリゴヌクレオチドである。
【0025】
【表1】
【0026】
バイオマーカーは、例示的にはCNPaseである。CNPaseは、中枢神経系のミエリン中に見出される。ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)は、主にニューロン中に見出される。CNPaseは、ミエリンを産生するシュワン細胞へと発達するオリゴデンドロサイト系統のマーカーである。CNPaseは、本発明において爆風傷害後に統計的に有意な増加したレベルで観察される。CNPaseの最大レベルは、爆風傷害の1時間から30日後の間に観察され、最大の増加は海馬中である。CNPaseのレベルは傷害後の最初の30日間にかけて増加する場合があり、これは、シュワン細胞の発生またはミエリンの産生の増加を示唆している。流体打診傷害後、CNPaseのレベルをBrdU陽性細胞と共に同時局在化した。Urrea, C.ら、Restorative Neurology and Neuroscience、2007、25:6576頁。好ましくは、CNPaseをオリゴデンドロサイトからのシュワン細胞発生の神経活性バイオマーカーとして使用する。特に海馬などの神経組織中でのCNPaseのレベルの変更は、スクリーニングした薬物候補の効果を伝える神経の変化、あるいは化学物質の安全性もしくは有効性の測度または他の治療効果としての指標である。
【0027】
CNPaseは、中枢神経系中のミエリン中に見出される。CNPaseは、任意選択で、薬物候補の安全性および有効性のスクリーニングのためのマーカーとして使用する。例示的には、CNPaseは、試験化合物の保護、再生または破壊効果のマーカーとして使用可能である。任意選択で、薬物スクリーニングをin vitroで行う。CNPaseレベルは、単独でまたは同時培養系の構成成分として培養したシュワン細胞に試験化合物または対照を投与する前、その後、またはその間に決定する。例示的には、シュワン細胞は、感覚神経細胞、筋肉細胞、または星細胞もしくはオリゴデンドロサイト前駆細胞などのグリア細胞と共に同時培養する。
【0028】
バイオマーカーは、任意選択で細胞接着分子(CAM)である。CAMは、細胞-マトリックスまたは細胞-細胞の相互作用分子の免疫グロブリン遺伝子ファミリーに属する。脳中では、これらは、血液脳関門(BBB)の脳血管構成成分ならびにグリアおよび神経細胞とのその相互作用において特に重要である(FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁)。脳血管およびBBBの構造は、外傷性および過圧力誘導性の脳傷害または脳虚血(たとえば脳卒中)の危険性が特に高く、CAMのCSFまたは血液などの生体液内への放出をもたらし得る。脳中に見出されるCAMの例には、可溶性細胞間接着分子(ICAM)、たとえば、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、血管細胞接着分子(VCAM)、たとえばVCAM-1、神経細胞接着分子(NCAM)、たとえば、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、ニューロリン様細胞接着分子(NL-CAM)、ならびに活性化白血球細胞接着分子(AL-CAM)および細胞-細胞接着分子(C-CAM)、たとえばC-CAM1が含まれ得る。
【0029】
バイオマーカーは、任意選択でNeuNまたはGFAPである。NeuNは神経核中に見出される(MatevossianおよびAkbarian、J Vis Exp.、2008年10月1日、(20)、914頁)。GFAPは主に星状グリア細胞中に見出される(数々の参考文献、総説にはPekny Mら、Int Rev Neurobiol.、2007、82:95〜111頁を参照)。また、より低いレベルのGFAP発現は、非ミエリン形成シュワン細胞および「脱分化」中の一部の成熟シュワン細胞中でも検出される(Xu QG、Midha R、Martinez JA、Guo GF、Zochodne DW. Neuroscience.、2008年4月9日、152(4):877〜87頁)。
【0030】
1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの検出または定量は、例示的には、疾患もしくは傷害などの状態を検出、診断、もしくは処置するため、または疾患もしくは傷害などの状態を処置するための化学療法もしくは他の治療剤をスクリーニングするために使用可能である。例示的にスクリーニング可能な疾患または状態には、それだけには限定されないが、多発性硬化症、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、化学療法、癌、パーキンソン病、尺骨神経炎および手根管症候群などの化学的または生理的な異常から生じる神経伝達異常、他の末梢神経障害などのミエリンに関与する疾患が含まれ、例示的には、坐骨神経挫滅(外傷性神経障害)、糖尿病性神経障害、抗有糸分裂剤誘導性神経障害(化学療法誘導性神経障害)、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、遅延型過敏症(DTH)、関節リウマチ、癲癇、疼痛、神経因性疼痛、外傷性脳傷害などの外傷性神経傷害、ならびに子宮内外傷が含まれる。
【0031】
また、本発明のバイオマーカーの検出は、潜在的な薬物候補をスクリーニングするため、または以前に同定された薬物候補の安全性を分析するためにも使用可能である。これらのアッセイは、任意選択でin vitroまたはin vivoのどちらかである。in vivoのスクリーニングまたはアッセイプロトコルには、例示的には、例示的にマウス、ラット、またはヒトが含まれる動物における神経活性バイオマーカーの測定が含まれる。CNPaseなどの神経活性バイオマーカーレベルのレベルを決定または監視するための研究は、任意選択で、例示的にロータロッド、ビームウォーク試験、歩行分析、グリッド試験、ハンギング試験およびストリング試験が含まれる運動協調性試験、例示的にオープンフィールド試験における自発運動活性を検出するものが含まれる鎮静試験、アロディニアの感度試験、すなわち、冷浴試験、38℃でのホットプレート試験およびフォンフレイ試験、痛覚異常過敏の感度試験、すなわち、52℃でのホットプレート試験およびランダル-セリット試験、ならびに感覚神経伝達、運動神経伝達、複合筋活動電位(CMAP)およびh波反射などのEMG評価等の行動分析または運動障害分析と組み合わせる。
【0032】
一部の実施形態では、本発明の方法は、試料中の第1のバイオマーカーの量を測定するステップと、第2のバイオマーカーの量を測定するステップとを含む。第2のバイオマーカーは、任意選択で、第1のバイオマーカーと同じ試料または異なる試料中で測定する。バイオマーカーの存在または活性の一時的な性質を、神経学的状態の指標または識別素として使用可能であることを理解されたい。非限定的な例では、オルニー病変を引き起こすMK-801への実験的全身性曝露の重篤度が、CSFにおけるUCH-L1の一時的な維持に相関している。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、第1の神経活性バイオマーカーの測定と同じまたは異なる時点で測定する。異なる時点とは、例示的には、第1の神経活性バイオマーカーの検出の前または後である。第2の試料は、任意選択で、第1の試料の前、その後、またはそれと同時に得る。第2の試料は、任意選択で、同じまたは異なる対象から得る。
【0033】
第1および第2の神経活性バイオマーカーは、例示的には、異なる状態または異なる細胞種の健康もしくは状態を検出する。非限定的な例として、GFAPは星細胞などのグリア細胞に関連している。追加のバイオマーカーは、任意選択で、神経機能に関連する異なる種類の細胞の健康に関連している。任意選択で、他の細胞種は、軸索、ニューロン、または樹状突起である。グリア細胞、および任意選択で別の種類の神経細胞に関連するバイオマーカーが包含される本発明のアッセイを使用することで、ストレスを与えるまたは死滅させる神経細胞の種類および神経学的状態の定量がもたらされる。特定の細胞種または傷害の種類に関連する例示的なバイオマーカーは、Table 2(表2)に例示されている。
【0034】
【表2】
【0035】
第1の神経学的バイオマーカーを任意選択で少なくとも1つの追加のバイオマーカーと共に協同的に測定し、第1の神経学的バイオマーカーおよび追加のバイオマーカーの量を互いにまたは正常なマーカーレベルと比較することで、対象神経学的状態の決定が提供される。第1の神経学的バイオマーカーと合わせて測定した場合に対象神経学的状態の優れた評価を与える具体的なバイオマーカーのレベルには、例示的には、SBDP145(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、およびMAP-2またはTable 1(表1)に記載されているものなどの他のバイオマーカーが含まれる。GFAPと合わせて測定した場合に、たとえば対象神経学的状態の優れた評価を与える具体的なバイオマーカーのレベルには、例示的には、SBDP145およびSBDP150(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、ならびにMAP-2(樹状傷害)が含まれる。
【0036】
第1のバイオマーカーは、任意選択でUCH-L1である。UCH-L1が第1のバイオマーカーである場合の第2または追加のバイオマーカーの例示的な例には、例示的には、GFAP、例示的にSBDP150、SBDP150i、SBDP145、およびSBDP120が含まれるSBDP、NSE、S100β、例示的にMAP2、MAP1、MAP3、MAP4、およびMAP5が含まれるMAP、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-Hおよびα-インターネキシンなどの神経細線維タンパク質(NF)、CB-1およびCB-2などのカンナビノイド(Canabionoid)受容体(CB)、細胞接着分子、例示的にはICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、およびC-CAM、シナプスタンパク質、例示的にはシナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、およびSNAP、CRMP、例示的にはCRMP-2、CRMP-1、CRMP-3およびCRMP-4、iNOS、βIII-チューブリン、またはその組合せが含まれる。他の第1および第2のバイオマーカーには、例示的には、Nfasc186およびNfasc155、LC3ならびにMAP1、または本明細書中に記載の任意のバイオマーカーの他の組合せが含まれる。
【0037】
バイオマーカーは、任意選択で、同じ試料、同じ対象から同じもしくは異なる時点で採取した試料、またはある対象からの試料および別の対象もしくは対照対象からの別の試料からの試料中で、複数のバイオマーカーの組合せで分析する。本明細書中に記載または当分野で認識されているバイオマーカーの他の組合せに加えて、組合せには、例示的には、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145が含まれる。一部の実施形態では、複数のバイオマーカーを、同じ試料中で、任意選択で同時に測定する。一部の実施形態では、複数のバイオマーカーを別々の試料中で測定する。一部のバイオマーカーを任意選択で同じ試料中で測定する一方で、他のバイオマーカーを他の試料中で測定することを理解されたい。例示的には、一部のバイオマーカーを任意選択で血清中で測定する一方で、同じまたは他のバイオマーカーをCSF、組織、または他の生体試料中で測定する。
【0038】
一部の実施形態では、虚血または何らかのレベルもしくは重篤度の外傷性脳傷害などの神経学的状態があるかどうかを決定するために、複数のバイオマーカーを分析する。例示的には、外傷性脳傷害の重篤度を決定するためには、複数のバイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145である。例示的には、脳卒中が虚血性であるかどうかの決定には、複数のバイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145である。
【0039】
対象に対する実験的爆風傷害の分析により、タンパク質レベルと神経傷害からもたらされる神経学的状態との間のいくつかの本発明における相関が明らかとなった。神経傷害は、任意選択で、全身爆風、身体の特定の部分、例示的には頭部への爆風力、または検出可能もしくは区別可能なレベルの神経活性バイオマーカーを生じる他の神経の外傷もしくは疾患の結果である。いくつかの実験動物モデルが爆風波衝撃の機構を研究するために実装されており、げっ歯類およびヒツジなどのより大きな動物が含まれる。しかし、様々な研究で使用する爆風発生器の多少包括的な性質が原因で、脳傷害の機構および推定上のバイオマーカーに関するデータは、現在まで分析および比較が困難であった。
【0040】
神経学的状態と1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの測定された量との間の相関を提供するために、2つの例としてCSFまたは血清の試料を対象から採取し、試料を1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの測定に供する。対象は神経学的状態が異なる。その後、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの検出されたレベルを、任意選択でCTスキャン結果およびGCSスコアと相関させる。これらの結果に基づいて、本発明のアッセイを開発し、妥当性確認する(本明細書中に参考として組み込まれているLeeら、Pharmacological Research、23:312〜328頁、2006)。
【0041】
バイオマーカー分析は、任意選択で生体試料または生体液を用いて行う。本明細書中で使用可能な生体試料には、例示的には、細胞、組織、脳脊髄液(CSF)、人工CSF、全血、血清、血漿、サイトゾル液、尿、糞便、胃液、消化液、唾液、鼻もしくは他の気道の液、膣液、精液、緩衝生理食塩水、生理食塩水、水、または当分野で認識されている他の生体液が含まれる。
【0042】
神経活性バイオマーカーは、CSFおよび血清から得られることに加えて、例示的には、全血、血漿、唾液、尿、および固体組織生検からも容易に得られることを理解されたい。CSFが、神経系と直接接触していることから好ましいサンプリング液であるが、他の生体液は、他の目的のためにサンプリングされ、したがって、血液、血漿、血清、唾液または尿などの単一の試料で行う一連の試験の一部として本発明の神経学的状態の決定を可能にするという利点を有することを理解されたい。
【0043】
傷害要因後、in vitro培養物中または対象中にin situの神経細胞は、傷害要因を受けていないそのような細胞と比較して、変更されたレベルまたは活性の1つまたは複数のバイオマーカータンパク質またはオリゴヌクレオチド分子を発現する。したがって、神経細胞を含む試料、たとえば中枢神経系または末梢神経系組織の生検が、本発明で使用するための適切な生体試料である。しかし、神経細胞に加えて、たとえば赤血球、心筋細胞、骨格筋中の筋細胞、肝細胞、腎細胞および精巣中の細胞を含めた他の細胞が、例示的にはαII-スペクトリンを発現する。そのような細胞またはこれらの細胞から分泌された液を含めた生体試料も、そのような非神経細胞への傷害を決定および/または特徴づけるための本発明の方法の適応に使用し得る。
【0044】
生体試料は、慣用技術によって対象から得る。たとえば、CSFは腰椎穿刺によって得られる。血液は静脈穿刺によって得られる一方で、血漿および血清は、全血を知られている方法に従って分画することによって得られる。固体組織試料を得るための外科的技法は当分野で周知である。たとえば、神経系組織試料を得るための方法は、Atlas of Neurosurgery: Basic Approaches to Cranial and Vascular Procedures、F. Meyer、Churchill Livingstone、1999、Stereotactic and Image Directed Surgery of Brain Tumors、第1版、David G. T. Thomas、WB Saunders Co.、1993、およびCranial Microsurgery: Approaches and Techniques、L. N. SekharおよびE. De Oliveira、第1版、Thieme Medical Publishing、1999などの標準の神経外科の教科書に記載されている。また、脳組織を得て分析する方法は、Belayら、Arch. Neurol.、58:1673〜1678頁(2001)、およびSeijoら、J. Clin. Microbiol.、38:3892〜3895頁(2000)にも記載されている。
【0045】
本発明のバイオマーカーを発現する任意の対象が本明細書中で使用可能である。対象の例示的な例には、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、非ヒト霊長類、ヒト、ラット、マウス、および細胞が含まれる。本発明から恩恵を得る対象は、例示的には、外傷性傷害要因(たとえば、銃創、自動車事故、スポーツ事故、揺さぶられっ子症候群)によって引き起こされる脳傷害、虚血性イベント(たとえば、脳卒中、大脳出血、心停止)、神経変性障害(アルツハイマー病、ハンチントン病、およびパーキンソン病、プリオン関連疾患、他の形態の認知症など)、癲癇、物質乱用(たとえば、アンフェタミン、エクスタシー/MDMA、またはエタノールから)、ならびに糖尿病性神経障害、化学療法誘導性神経障害および神経因性疼痛などの末梢神経系の病理の被害者等の、異常な神経学的状態を有するまたはそれを発生する危険性が疑われる者である。
【0046】
生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在または非存在を検出するための例示的な方法は、生体試料をヒトなどの対象から得るステップと、生体試料を、例示的には抗体またはアプタマーが含まれる分析するマーカーを検出することができる薬剤と接触させるステップと、任意選択で洗浄後に薬剤の結合を分析するステップとを含む。特異的に結合した薬剤を有する試料は、分析するマーカーを発現する。
【0047】
本発明の方法は、in vitroおよびin vivoで生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーを検出するために使用することができる。試料中の1つまたは複数の他の神経活性バイオマーカーの発現の量を、検出可能なレベルの分析するマーカーを発現することが知られている第1の試料などの適切な対照(陽性対照)および検出可能なレベルの分析するマーカーを発現しないことが知られている第2の試料(陰性対照)と比較する。たとえば、マーカーを検出するためのin vitro技法には、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット、免疫沈降、および免疫蛍光が含まれる。また、マーカーを検出するためのin vivo技法には、例示的には、マーカーと特異的に結合する標識した薬剤を生体試料または試験対象内に導入することが含まれる。たとえば、薬剤は、生体試料または試験対象中のその存在および位置を標準のイメージング技法によって検出することができる、放射性マーカーで標識することができる。
【0048】
1つまたは複数の神経活性バイオマーカーと特異的に結合することができる任意の適切な分子は、協同的なアッセイを達成するために本発明において使用可能である。神経活性または他のバイオマーカー特異的結合剤は、任意選択で、分析するバイオマーカーと結合することができる抗体である。抗体は、任意選択で、検出可能な標識とコンジュゲートしている。そのような抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであることができる。また、インタクトな抗体、その断片(たとえば、FabもしくはF(ab')2)、または操作したその変異体(たとえばsFv)も使用することができる。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含めた任意の免疫グロブリンクラスおよびその任意のサブクラスのものであることができる。
【0049】
抗体に基づくアッセイは、例示的には、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在について生体試料を分析するために使用する。適切なウエスタンブロッティング方法は、本明細書中に記載されている、または当分野で知られている。より迅速な分析には(緊急の医学的状況において重要であり得る)、免疫吸着アッセイ(たとえば、ELISAおよびRIA)ならびに免疫沈降アッセイを使用し得る。一例として、生体試料またはその一部分を、ニトロセルロースもしくはPVDFから作製された膜などの基材、またはマイクロタイタープレートなどのポリスチレンもしくは他のプラスチックポリマーから作製された強固な基材上に固定し、基材を、神経活性バイオマーカーと特異的に結合する抗体と、抗体と分析するバイオマーカーとの結合を可能にする条件下で接触させる。洗浄後、基材上の抗体の存在は、試料が評価するマーカーを含有していたことを示す。抗体を酵素、フルオロフォア、または放射性同位元素などの検出可能な標識と直接コンジュゲートさせる場合、標識の存在は、任意選択で、基材を検出可能な標識について検査することによって検出する。マーカーに特異的な抗体と結合する、検出可能に標識した二次抗体を任意選択で使用し、基材に付加する。洗浄後における基材上の検出可能な標識の存在は、試料がマーカーを含有していたことを示す。
【0050】
また、これらの基本的な免疫アッセイの数々の順列も本発明において使用可能である。これらには、試料を基材上に固定するのとは対照的に、バイオマーカーに特異的な抗体が含まれ、基材を、検出可能な標識とコンジュゲートさせた神経活性バイオマーカーと、抗体と標識したマーカーとの結合を引き起こす条件下で接触させる。その後、基材を試料と、分析するマーカーと抗体との結合を可能にする条件下で接触させる。洗浄後における基材上の検出可能な標識の量の低下は、試料がマーカーを含有していたことを示す。
【0051】
その広範囲におよぶ特徴づけが原因で、抗体を本発明で使用するために本明細書中に例示するが、神経活性バイオマーカーと特異的に結合する任意の他の適切な薬剤(たとえば、ペプチド、アプタマー、または有機小分子)を、抗体の代わりに任意選択で使用する。たとえば、αIIスペクトリンおよび/またはそのSBDPのうちの1つもしくは複数と特異的に結合するアプタマーを使用し得る。アプタマーとは、特異的リガンドと結合する、核酸に基づく分子である。特定の結合特異性を有するアプタマーを作製する方法は知られており、米国特許第5,475,096号、第5,670,637号、第5,696,249号、第5,270,163号、第5,707,796号、第5,595,877号、第5,660,985号、第5,567,588号、第5,683,867号、第5,637,459号、および第6,011,020号に詳述されている。
【0052】
RNAおよびDNA結合抗体は当分野で知られている。例示的には、RNA結合抗体は、ファージディスプレイライブラリからの一連の抗体断片から合成する。RNA結合抗体を合成するために使用する方法の例示的な例は、その内容がRNA結合抗体を作製する方法として本明細書中に参考として組み込まれている、Ye, Jら、PNAS USA、2008、105:82〜87頁中に見出される。したがって、RNAに基づくバイオマーカーに対する抗体を作製することは、当分野の技術範囲内にある。
【0053】
同様に、DNA結合抗体は当分野で周知である。DNA結合抗体を作製する例示的な方法は、その内容が抗DNA抗体を作製する例示的な方法として本明細書中に参考として組み込まれている、Watts, RAら、Immunology、1990、69(3):348〜354頁中に見出される。
【0054】
無数の検出可能な標識がバイオマーカー発現のための診断的アッセイにおいて使用可能であり、当分野で知られている。標識および標識キットは、任意選択でInvitrogen Corp、カリフォルニア州Carlsbadから販売されている。神経活性バイオマーカーを検出する方法において使用する薬剤は、任意選択で、検出可能な標識、たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素とコンジュゲートさせる。西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した薬剤は、西洋ワサビペルオキシダーゼの存在下で色変化を生じる適切な基質を加えることによって検出することができる。使用し得るいくつかの他の検出可能な標識が知られている。一般的な例には、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、蛍光分子、発光分子、コロイド金、磁気粒子、ビオチン、放射性同位元素、および他の酵素が含まれる。
【0055】
本発明は、任意選択で、生体試料中の1つまたは複数の他の神経活性バイオマーカーの存在または量を、神経細胞傷害の重篤度および/または種類と相関させるステップを含む。生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量は、例示的には外傷性脳傷害の神経学的状態と関連している。第1の神経活性バイオマーカーおよび1つまたは複数の追加の神経活性バイオマーカーを協同的に測定する本発明のアッセイの結果は、医師が傷害の種類および重篤度を決定することを助け、欠陥のある細胞の種類を暗示する。これらの結果はCTスキャンおよびGCSの結果と一致している上に、定量的であり、はるかに低い費用でより迅速に得られる。
【0056】
本発明は、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量を正常なレベルと比較して対象の神経学的状態を決定するステップを提供する。1つまたは複数のバイオマーカーの選択、例示的には、軸索傷害の場合はSBDPにより、異常な神経学的状態に関連づけられる神経細胞の種類および細胞死の性質を同定することが可能となることを理解されたい。本発明の方法の実施は、対象の最適な利益のために投与する適切な治療剤を医師が決定することを助けることができる試験を提供する。実施例中に見出される、続いて提供するデータは、外傷性脳傷害の全範囲に関して提供されているが、これらの結果は、虚血性イベント、神経変性障害、プリオン関連疾患、癲癇、化学的発生源および末梢神経系の病理に適用可能であることを理解されたい。性別による相違が異常な対象神経学的状態において注目される場合がある。
【0057】
また、対象における細胞損傷を分析するアッセイも提供する。生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在または非存在を検出するための例示的な方法は、生体試料をヒトなどの対象から得るステップと、生体試料を、例示的にプライマー、プローブ、抗原、ペプチド、化学薬品、または抗体が含まれる分析するバイオマーカーを検出することができる薬剤と接触させるステップと、試料をバイオマーカーの存在について分析するステップとを含む。他の検出方法、例示的にはタンパク質または核酸に特異的な染料との接触も、同様に使用可能であることを理解されたい。
【0058】
アッセイには、任意選択で、(a)任意選択で損傷した神経細胞を有することが疑われる対象から単離した試料を保持するための基材と(試料またはその一部分は、対象から単離する前に対象の神経系と流体連結している)、(b)神経活性バイオマーカー特異的結合剤と、(c)別の神経活性(neurotactive)バイオマーカーに特異的な結合剤と、(d)神経学的バイオマーカーの存在または量を検出するために神経活性バイオマーカー特異的結合剤を生体試料または生体試料の一部分と反応させるため、および生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの存在または量を検出するために別の神経活性(neurotactive)バイオマーカーに特異的な薬剤を生体試料または生体試料の一部分と反応させるための、印刷された指示とが含まれる。本発明のアッセイは、会計勘定をよくために(for financial renumeration)、神経学的状態の検出に使用することができる。
【0059】
アッセイには、任意選択で、薬剤とコンジュゲートしたもの、または二次抗体などの薬剤と特異的に結合する物質とコンジュゲートしたもの等の、検出可能な標識が含まれる。
【0060】
神経学的状態と測定されたバイオマーカーの量との間の相関を提供するためには、CSFまたは血清が任意選択の生体液である。例示的には、CSFまたは血清の試料を対象から採取し、試料をバイオマーカーの測定に供する。生体液または他の生体試料の採取は、例示的には、化学剤または生物剤を投与する前または後である。例示的には、対象に、任意選択で、薬物スクリーニングのための薬剤などの化学薬品を投与する。投与前、投与時、またはそれ以降の任意の所望の時点で、生体試料を対象から得る。薬物が対象の血流中に見出される間、またはその直後に生体試料を得ることが好ましい。例示的には、生体試料は、経口投薬後に観察される血漿濃度の増加中に得る。例示的には、生体試料は、ピーク血漿濃度が得られた後に得る。任意選択で、生体試料は、投与の1、2、3、4、5、10、12、24時間後またはその間の任意の時点に得る。任意選択で、生体試料は、1、2、3、4、5、6、7日またはその間の任意の時点に得る。一部の実施形態では、生体試料は、1、2、3、4週間もしくはそれより後、またはその間の任意の時点で得る。神経毒性は投与の直後に起こるか、または遅延することを理解されたい。生体試料は、任意選択で、1、2、3、6カ月もしくはそれより後、またはその間の任意の時点に得て、遅延型神経毒性を検出する。一部の実施形態では、対象に数時間、数日間、数週間、数カ月、または数年間の間投薬し続け、その間に、1つまたは複数の生体試料をバイオマーカースクリーニングのために得る。一部の実施形態では、第IV相治験を用いて、市販の化学剤または生物剤の継続的な安全性を監視する。これらの治験は、任意選択で数年間または無期限に継続される。したがって、投与の前から最初の投与の数年後までの任意の時点で、神経毒性の1つまたは複数の本発明のバイオマーカーの検出のために生体試料を得る。
【0061】
バイオマーカーのベースラインレベルは、知られている神経学的状態の非存在下における、所望の対象の種において標的生体試料中で得られるレベルである。これらのレベルは具体的な濃度で表す必要はなく、その代わりに、並行対照実験から知られ、蛍光単位、密度単位などに関して表し得る。典型的には、神経学的状態の非存在下では、1つまたは複数のSBDPは、無視できる量でしか生体試料中に存在しない。しかし、UCH-L1はニューロン中で非常に豊富なタンパク質である。特定の種のたとえばニューロン、血漿、またはCSF中における、例示的にUCH-L1またはmRNAなどのUCH-L1バイオマーカーが含まれるバイオマーカーのベースラインレベルの決定は、当分野の技術範囲内に十分ある。同様に、他のバイオマーカーのベースラインレベルの濃度の決定は、当分野の技術範囲内に十分ある。ベースラインレベルは、例示的には、神経学的状態を有することが疑われていない1つまたは複数の対象からの試料中のバイオマーカーの量または活性である。
【0062】
生体試料は、生体試料中に存在する1つまたは複数のバイオマーカーの存在を検出または同定するために当分野で知られている機構によって、アッセイする。生体試料中の標的バイオマーカーの量または存在に基づいて、1つまたは複数のバイオマーカーの比を任意選択で計算する。比は、任意選択で、同じもしくは並行試料中の別のバイオマーカーのレベルと比較した1つまたは複数のバイオマーカーのレベル、または、前記バイオマーカーの量対病理学的神経学的状態を有さないことが知られている対象中の同じバイオマーカーの、測定されたもしくは以前に確立されているベースラインレベルの比である。この比により、対象における神経学的状態の診断が可能となる。本発明の方法では、任意選択で、1つまたは複数のバイオマーカーの比を直接または間接的に変更する治療剤を対象に投与する。
【0063】
本明細書中で使用する「比」とは、標的のレベルが、第2の試料中の標的または同じ標的の知られているもしくは認識されているベースラインレベルよりも高い、陽性比のどちらかである。陰性比は、標的のレベルが、第2の試料中の標的または同じ標的の知られているもしくは認識されているベースラインレベルよりも低いことを説明する。中性の比は、標的バイオマーカーに変化が観察されないことを説明する。
【0064】
神経学的状態は、任意選択で傷害をもたらすまたは生じる。本明細書中で使用する「傷害」とは、細胞または分子の完全性、活性、レベル、頑健性、状態の変更、またはイベントまで追跡可能な他の変更である。傷害には、例示的には、物理的、機械的、化学的、生物学的、機能的、感染性、または細胞もしくは分子の特徴の他のモジュレーターが含まれる。傷害は、任意選択でイベントからもたらされる。イベントは、例示的には、衝撃(例示的には打診)などの物理的外傷、または、血管の封鎖(虚血性)もしくは漏出(昜出血性)のどちらかからもたらされる脳卒中などの生物学的異常である。イベントは、任意選択で感染性因子による感染症である。当業者には、用語、傷害またはイベントによって包含される数々の均等なイベントが認識されるであろう。
【0065】
傷害は、任意選択で、打診衝撃などの物理的イベントである。衝撃は、任意選択で、頭蓋組織を無傷に残すまたはそれが裂けることをもたらす、頭部、身体、またはその組合せへの打撃をもたらすものなどの、打診傷害等である。実験では、例示的にヒトにおける重篤なTBIに等しい1.6mmの陥没深度での制御皮質衝撃(CCI)が含まれる、いくつかの衝撃方法を使用する。この方法は、その内容が本明細書中に参考として組み込まれているCox, CDら、J Neurotrauma、2008、25(11):1355〜65頁によって詳述されている。衝撃外傷を生じる他の実験方法が同様に使用可能であることを理解されたい。
【0066】
また、傷害は、脳卒中からももたらされ得る。虚血性脳卒中は、任意選択でげっ歯類における中大脳動脈閉塞(MCAO)によってモデリングされる。たとえば、UCH-L1タンパク質レベルは、軽度のMCAO後に増加し、重篤なMCAOチャレンジ後にさらに増加する。軽度のMCAOチャレンジは、2時間以内に一過性であるバイオマーカーレベルの増加をもたらし、24時間以内に対照レベルに戻り得る。対照的に、重篤なMCAOチャレンジは、傷害後の2時間以内にバイオマーカーレベルの増加をもたらし、72時間以上まで統計的に有意なレベルを示し、はるかにより持続的であり得る。
【0067】
本発明では、生体試料中のバイオマーカーの存在または量を、神経細胞(または他のバイオマーカー発現細胞)の毒性の重篤度および/または種類と相関させるステップを用いる。より重篤な傷害はより多数の神経細胞を損傷させ、これは立ち代ってより大量のバイオマーカーが生体試料(たとえば、CSF、血清)中に蓄積することを引き起こすため、生体試料中のバイオマーカーの量は、神経学的状態の重篤度に直接関連する。神経毒性傷害要因がアポトーシスおよび/または壊死の種類の細胞死を始動するかどうかも、生体試料中に存在するSBDP145などのSBDPのバイオマーカーを検査することによって決定することができる。壊死性の細胞死はカルパインを優先的に活性化させる一方で、アポトーシス細胞死はカスパーゼ-3を優先的に活性化させる。カルパインおよびカスパーゼ-3のSBDPは識別することができるため、これらのマーカーを測定することで、対象における細胞損傷の種類が示される。たとえば、壊死誘導性カルパイン活性化はSBDP150およびSBDP145の産生をもたらし、アポトーシス誘導性カスパーゼ-3活性化はSBDP150iおよびSBDP120の産生をもたらし、両方の経路の活性化は4つのマーカーすべての産生をもたらす。また、生体試料中に存在するUCH-L1バイオマーカーのレベルまたは動力学的程度により、任意選択で、より重篤な傷害からの軽度の傷害が識別され得る。例示的な例では、重篤なMCAO(2時間)は、CSFおよび血清のどちらにおいても、軽度のチャレンジ(30分間)よりも増加したUCH-L1を産生する一方で、これらはどちらも、傷害を受けていない対象を超えるUCH-L1レベルを産生する。さらに、生体試料中のマーカーの持続または動力学的程度は、より高い毒性を有する神経毒性の重篤度の指標であり、これは、傷害後のいくつかの時点で採取した生体試料中で本発明の方法によって測定した、対象中のUCH-L1またはSBDPバイオマーカーの増加の持続を示す。
【0068】
そのような試験の結果は、カルパインおよび/もしくはカスパーゼ阻害剤またはムスカリンコリン作動性受容体拮抗剤などの特定の治療剤の投与が患者に有益であり得るかどうかを、医師が決定することを助けることができる。この応用は、細胞死機構における年齢および性別による相違を検出する際に特に重要であり得る。
【0069】
本発明には、任意選択で、標的バイオマーカーの1つまたは複数の特徴を変更し得る1つまたは複数の治療剤が含まれる。治療剤は、任意選択で、標的バイオマーカーまたはバイオマーカーの上流エフェクターの作用剤または拮抗剤として役割を果たす。治療剤は、任意選択でバイオマーカーの下流機能に影響を与える。たとえば、アセチルコリン(Ach)は病理学的神経の励起において役割を果たし、TBI誘導性ムスカリンコリン作動性受容体の活性化は興奮毒性過程に寄与し得る。したがって、バイオマーカーには、任意選択で、Achまたはムスカリン受容体のレベルまたは活性が含まれる。任意選択で、使用可能なバイオマーカーは、ムスカリン受容体の活性によって影響を受ける分子、タンパク質、核酸または他のものである。したがって、対象発明において使用可能な治療剤には、例示的には、ムスカリンコリン作動性受容体の活性化の様々な側面を変調するものが含まれる。
【0070】
治療標的または治療標的のモジュレーターとして使用可能な具体的なムスカリン受容体には、M1、M2、M3、M4、およびM5ムスカリン受容体が含まれる。
【0071】
TBIの検出および処置におけるムスカリンコリン作動性受容体経路の適切性は、実験的TBI(Gormanら、1989、Lyethら、1993a)ならびに虚血(KumagaeおよびMatsui、1991)後の脳の脳脊髄液(CSF)中の上昇したAChを実証した研究、また、コリン模倣体の施用による高レベルのムスカリンコリン作動性受容体の活性化の傷害性の性質から生じる(Olneyら、1983、Turskiら、1983)。さらに、ムスカリン拮抗剤の急性投与は、実験的TBI後の行動の回復を改善させる(Lyethら、1988a、Lyethら、1988b、LyethおよびHayes、1992、Lyethら、1993b、Robinsonら、1990)。したがって、ムスカリンコリン作動性受容体と結合する、またはその特徴を変更する化学剤または生物剤を、任意選択で、前臨床創薬における標的の最適化中などに、細胞または組織の神経毒性についてスクリーニングする。
【0072】
対象発明において使用可能な治療的化合物、化学的化合物、または生体化合物は、例示的には、神経毒性傷害要因の危険性にあるまたはそれに供された対象の治療結果を変化させる、任意選択で改善させるために使用可能な、任意の分子、ファミリー、抽出物、溶液、薬物、プロドラッグ、または他のものである。治療的化合物は、任意選択で、作用剤または拮抗剤などのムスカリンコリン作動性受容体モジュレーター、アンフェタミンである。作用剤または拮抗剤は、直接または間接的であり得る。間接的な作用剤または拮抗剤は、任意選択で、アセチルコリンまたは他のムスカリン受容体関連分子、例示的にはアルツハイマー病の処置に現在使用されている分子を分解または合成する分子である。コリン模倣体または同様の分子が、本明細書において使用可能である。本明細書中で使用可能な治療的化合物の例示的なリストには、ジサイクロミン、スコポラミン(scoplamine)、ミラメリン、N-メチル-4-ピペリジニルベンジレートNMP、ピロカルピン、ピレンゼピン、アセチルコリン、メタコリン、カルバコール、ベタネコール、ムスカリン、オキソトレモリンM、オキソトレモリン、タプシガルジン、カルシウムチャネル遮断剤または作用剤、ニコチン、キサノメリン、BuTAC、クロザピン、オランザピン、セビメリン、アセクリジン、アレコリン、トルテロジン、ロシベリン、IQNP、インドールアルカロイド、ヒンバシン、シクロステレッタミン、その誘導体、そのプロドラッグ、およびその組合せが含まれる。治療的化合物は、任意選択で、カルパインまたはカスパーゼのレベルまたは活性を変更させるために使用可能な分子である。そのような分子およびその投与は当分野で知られている。化合物は、対象と接触させる、700ダルトン未満の分子、ペプチド、タンパク質、核酸、または他の有機もしくは無機分子、あるいはその一部分を含めた任意の分子であることを理解されたい。
【0073】
化合物は、任意選択で、対象における神経活性バイオマーカーのレベルを変更させる任意の分子、タンパク質、核酸、または他のものである。化合物は、任意選択で、前臨床もしくは臨床治験において検査されている実験薬物であるか、または、その特徴もしくは影響を解明する化合物である。化合物は、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチンもしくは他の化学療法化合物、NMDA受容体の拮抗剤、本明細書中に記載の任意の他の化合物、そのプロドラッグ、そのラセミ体、その異性体、またはその組合せである。アンフェタミンの例には、エフェドリン、アスパラギン酸アンフェタミン一水和物、硫酸アンフェタミン、デキストロアンフェタミンサッカライド、硫酸デキストロアンフェタミンを含めたデキストロアンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、レボアンフェタミン、そのラセミ体、その異性体、その誘導体、またはその組合せが含まれる。NMDA受容体の拮抗剤の例示的な例には、Table 3(表3)に記載のもの、そのラセミ体、その異性体、その誘導体、またはその組合せが含まれる。
【0074】
【表3】
【0075】
本明細書中で使用する用語「投与すること」とは、化合物を対象に送達することである。化合物は、状態の1つもしくは複数の症状を寛解させるまたは状態を処置することを意図して投与する化学剤または生物剤である。治療的化合物は、当業者によって特定の対象に適切であると決定された経路によって投与する。たとえば、治療的化合物は、経口、非経口(たとえば、静脈内、筋肉内注射によって、腹腔内注射によって、腫瘍内、吸入によって、または経皮)で投与する。必要な治療的化合物の正確な量は、対象の年齢、重量および全体的な状態、処置する神経学的状態の重篤度、使用する特定の治療的化合物、その投与様式などに応じて、対象間で変動する。適切な量は、必要以上の実験を行わずに、本明細書中の教示を考慮して、または当分野の知識によって、日常的な実験のみを用いて、当業者によって決定され得る。
【0076】
また、外傷性脳傷害(TBI)の規模を検出または識別する方法も提供される。外傷性脳傷害は、例示的には、軽度のTBI、中等度のTBI、または重篤なTBIである。本明細書中で使用する軽度のTBIは、12〜15のGCSスコアまたは本明細書中に参考として組み込まれているthe National Center for Injury Prevention and Control、Report to Congress on Mild Traumatic Brain Injury in the United States: Steps to Prevent a Serious Public Health Problem.、ジョージア州Atlanta: Centers for Disease Control and Prevention、2003に記載されている任意の特徴を提示する個体として定義される。中等度のTBIは、9〜11のGCSスコアを提示することと定義される。重篤なTBIは、9未満のGCSスコアを提示すること、異常なCTスキャンを提示すること、または30分間を超える意識消失を含めた症状、24時間より長く持続する外傷後健忘症、および貫通性頭蓋大脳傷害によって定義される。
【0077】
軽度または中等度のTBIを検出または識別する方法は、例示的には、試料を対象から第1の時点で得るステップと、試料中のGFAPの量を測定するステップとを含み、それにおいて、上昇したGFAPレベルが外傷性脳傷害の存在を示す。本発明の方法では、任意選択で、さらに、GFAPの量をCTスキャン正常性またはGCSスコアと相関させる。GCSスコアが12以上であり、GFAPレベルが上昇している場合に、軽度のTBIの正の相関が観察される。あるいは、またはそれに加えて、CTスキャン結果が異常であり、GFAPレベルが上昇している場合に、軽度のTBIの正の相関が観察される。GCSスコアが9〜11であり、GFAPレベルが上昇している場合に、中等度のTBIの正の相関が観察される。あるいは、またはそれに加えて、CTスキャン結果が異常であり、GFAPレベルが上昇している場合に、中等度のTBIの正の相関が観察される。異常なCTスキャン結果とは、例示的には病変の存在である。平凡または正常なCTスキャン結果は、病変の非存在である。
【0078】
GFAPのレベルは、任意選択で、傷害の24時間以内に得られた試料で測定する。任意選択で、GFAPレベルは、傷害の0〜24時間(その間のすべての時点が含まれる)に得られた試料で測定する。一部の実施形態では、第2の試料を、傷害の24時間後またはそれ以降に得て、GFAPの量を、単独でまたは追加のバイオマーカーと共に測定する。
【0079】
軽度または中等度のTBIを検出または識別することするための方法は、任意選択で、第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、Table 1(表1)に記載の任意のバイオマーカーである。任意選択で、第2の神経活性バイオマーカーは、UCH-L1、NSE、MAP2、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、または対照バイオマーカー、例示的にはS100βである。例示的には、UCH-L1のレベルはある時点で上昇しており、傷害後の後の時点で低下している。例示的には、1つまたは複数の試料は、対象から傷害後の2時間以内に得るが、24時間より前の他の時点が同様に使用可能である。生体試料をアッセイし、GFAPの量を、単独でまたはUCH-L1と共に測定する。傷害後の24時間未満の時点での上昇したGFAPおよびUCH-L1、ならびに傷害の24時間後またはそれ以降での低下したレベルは、軽度または中等度のTBIの指標である。24時間より長く持続したレベルの1つまたは複数の神経活性バイオマーカーは、重篤なTBIの指標である。
【0080】
化合物は、例示的には、潜在的な治療剤として、または既知もしくは未知の神経毒性効果を有する化合物のいずれかとして、対象に投与する。化合物は、例示的には、本明細書中に記載の任意の化合物、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチンもしくは他の化学療法剤、NMDA受容体の拮抗剤、その組合せ、その誘導体、そのラセミ体、またはその異性体である。任意選択で、化合物の投与が傷害となる。
【0081】
本発明の方法の実施は、対象の最適な利益のために投与する適切な治療化合物を医師が決定することを助けることができる試験を提供する。実施例中に見出される、続いて提供するデータは、脳傷害の全範囲に関して提供されているが、これらの結果は、虚血性イベント、神経変性障害、プリオン関連疾患、癲癇、化学剤または生物剤の発生源、および末梢神経系の病理に適応可能であることを理解されたい。性別による相違が異常な対象神経学的状態において存在し得る。
【0082】
本発明の様々な態様は、以下の非限定的な実施例によって例示される。実施例は例示目的のみであり、本発明のいかなる実施にも対する限定ではない。本発明の精神および範囲から逸脱せずに、変形および改変を行うことができることが理解されよう。実施例は、一般に、哺乳動物組織、具体的にはラット組織の分析に向けられているが、当業者には、類似の技法および当分野で知られている他の技法が、実施例をヒトなどの他の哺乳動物へと容易に変換することを理解されよう。本明細書中に例示した試薬は、一般的に、哺乳動物種間で交差反応性であるか、または同様の特性を有する代替試薬が市販されており、当業者は、そのような試薬をどこで入手し得るかを容易に理解するであろう。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
バイオマーカー分析の材料。炭酸水素ナトリウム、(Sigmaカタログ#:C-3041)、遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)(Pierceカタログ#:37543)、Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBST、Sigmaカタログ#:T-9039)。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Sigmaカタログ#:P-3813)、Tween20(Sigmaカタログ#:P5927)、Ultra TMB ELISA(Pierceカタログ#:34028)、およびNunc maxisorp ELISAプレート(Fisher)。モノクローナルおよびポリクローナルUCH-L1抗体は、インハウスで作製するか、またはSanta Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手する。αII-スペクトリンおよび分解産物(SBDP)ならびにMAP2に向けられた抗体は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手可能である。数々のサブタイプの抗体の標識は、Invitrogen,Corp.、カリフォルニア州Carlsbadから入手可能である。生体試料中のタンパク質濃度は、ビシンコニン酸マイクロタンパク質アッセイ(Pierce Inc.、米国イリノイ州Rockford)を使用して、アルブミン標準を用いて決定する。すべての他の必要な試薬および材料は当業者に知られており、容易に確認可能である。
【0084】
バイオマーカーに特異的なウサギポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を実験室内で産生させる。抗体の反応特異性を決定するために、組織パネルをウエスタンブロットによってプロービングする。
【0085】
アッセイで使用する抗体の最適な濃度を決定するために、組換えバイオマーカータンパク質をELISAプレートに付着させた間接ELISAを使用する。このアッセイでは、アッセイで使用するバイオマーカー特異的結合剤の適切な濃度を決定する。マイクロプレートのウェルをウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体でコーティングする。最大のシグナルのためのウサギ抗ヒトバイオマーカー抗体の濃度を決定した後、それぞれの抗体の間接ELISAの最大の検出限界を決定する。適切な希釈した試料をウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体(捕捉抗体)と共に2時間インキュベーションし、その後、洗浄する。その後、ビオチン標識したモノクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体を加え、捕捉したバイオマーカーと共にインキュベーションする。十分に洗浄した後、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼのコンジュゲートを加える。1時間のインキュベーションおよび最終の洗浄ステップの後、残ったコンジュゲートを過酸化水素テトラメチルベンジジン(benzadine)の基質と反応させる。酸性溶液を加えることによって反応を停止させ、生じる黄色反応生成物の吸光度を450ナノメートルで測定する。吸光度はバイオマーカーの濃度に比例する。標準物質試料を用いて吸光度値をバイオマーカー濃度の関数としてプロットすることによって検量線を構築し、検量線を用いて未知の試料の濃度を決定する。
【0086】
[実施例2]
重篤な外傷性脳傷害の研究-重篤な外傷性脳傷害を患っている46人の対象を、様々な組織中および傷害後の様々な時点におけるバイオマーカーレベルについて研究する。これらの対象のそれぞれは18歳を超えており、8以下のGCSを有しており、脳室開窓術を必要としており、日常的介護の一部として神経監視を行う。CSF対照として同義に詳述する対照群Aには、18歳以上であり、傷害を有さない10人の個体が含まれる。試料は、ルーチン的な外科的処置用の脊髄麻酔中に得るか、またはCSFへの接近は水頭症もしくは髄膜炎の処置に関連している。正常な対照として同義に記載する対照群Bは、合計64人の個体であり、それぞれが18歳以上であり、脳傷害を伴わない複数の傷害を経験している。研究の人口統計学に関するさらなる詳細は、Table 4(表4)に提供する。
【0087】
【表4】
【0088】
研究で得られた第1の入手可能なCSFおよび血清試料中に見出されるバイオマーカーのレベルを、本質的に実施例1に記載されているELISAによって、組換えバイオマーカーを試料によって置き換えて分析し、結果をそれぞれ図1および2に提供する。図1中に詳述したように採取した第1のCSF試料の平均は11.2時間である一方で、図2のように傷害イベントに続く血清試料の採取の平均の時間は10.1時間である。それぞれのバイオマーカー、UCH-L1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、およびGFAPの量が、それぞれの試料について、対照群と比較した外傷性脳傷害を患った人のコホートについて提供されている。CSFおよび血清のデータのコンパイルに基づいた、傷害に続く最初の12時間以内の様々なバイオマーカーの診断的有用性が図3に提供されており、特に、GFAPの値ならびに追加のマーカーUCH-L1およびスペクトリン分解産物の値を示している。上昇したUCH-L1のレベルは神経細胞体損傷の欠陥の指標である一方で、対応するSBDP120の減少を伴ったSBDP145の増加は、急性軸索壊死を示唆している。
【0089】
外傷性脳傷害のコホートからの1人の対象は、ヘルメットを着用せずにオートバイ事故に巻き込まれた52歳の白色人種の女性であった。救急治療室に入院時、彼女のGCSは3であり、外傷に続く最初の24時間の間、彼女の最良のGCSは8であった。10日後、彼女のGCSは11であった。CTスキャンにより、マーシャルスコア11およびロッテルダムスコア2のSAHおよび顔面骨折が明らかとなった。脳室開窓術を5年後に除去し、全体的に良好な結果が得られた。時間の関数としての、この外傷性脳傷害を患った人の動脈圧(MABP)、頭蓋内圧(ICP)および脳灌流圧(CPP)を図4に示す。MABPおよびCPPの低下によって見られるように、傷害後の約40時間に二次傷害要因の可能性が注目される。この個体からのCSFおよび血清試料あたりの本発明のバイオマーカーの濃度の変化を図5に示す。これらの結果には、CSFおよび血清の両方におけるGFAPの急増ならびに図5に示す他のバイオマーカーの変化が含まれており、傷害の性質および関与する細胞の種類、ならびにスペクトリン分解産物に関連する細胞死の様式に関する重要な臨床情報を提供している。
【0090】
重篤な外傷性脳傷害のコホートの別の個体には、馬が個人の上に倒れることに関連する挫滅傷を患った、51歳の白色人種の女性が含まれていた。救急治療室への入院時のGCSは3であり、イメージング分析は、最初は軽微な皮質および皮質下部の挫傷を伴った平凡なものであった。5日目のMRIにより、後頭蓋窩に顕著な挫傷が明らかとなった。その時点でのマーシャルスケールは11であり、ロッテルダムスケールスコアは3であることが示された。対象は悪化し、傷害の10日後に介護を中止した。一定期間の間のこの個体のCSFおよび血清の値を図6に提供する。
【0091】
時間の関数としての、外傷性脳傷害後のスペクトリン分解産物、MAP-2およびUCH-L1の濃度は、そのそれぞれが本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号および第7,396,654号に例示されているように、他の箇所に報告されている。
【0092】
TBIの結果、具体的にはGCSを予測する、血清中で測定されたバイオマーカーの能力を評価するための分析を行った。段階的回帰分析を用いて、バイオマーカーを独立した予測因子として、年齢および性別の人口統計学的要因、ならびに要因の対間の相互作用を評価した。相互作用は、バイオマーカーと結果との関係性が男性と女性とで異なり得る場合などに、関連する要因間の重要な予測的潜在性を決定し、そのような関係性は、バイオマーカーの相互作用によって性別として定義される。
【0093】
生じる分析により、バイオマーカーUCH-L1、MAP-2、およびGFAPがGCSの統計的に有意な予測因子であると同定される(Table 5(表5)、Table 6(表6))。さらに、GFAPは、UCH-L1および性別と組み合わせて評価した場合に改善された予測性を有する(Table 7(表7)、Table 8(表8))。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
[実施例3]
実施例2の研究を、9〜11のGCSスコアによって特徴づけられる中等度の外傷性脳傷害のコホート、および12〜15のGCSスコアによって特徴づけられる軽度の外傷性脳傷害のコホートで繰り返す。血液試料を、傷害の2時間以内に病院の救急科に到着した時にそれぞれの患者から得て、実施例1および2に記載のようにELISAによってGFAPのレベルをナノグラム/ミリリットルで測定する。結果を、どのような形態の傷害も経験していない対照群のそれと比較する。二次結果には、頭部CTスキャンにおける頭蓋内病変の存在が含まれていた。
【0099】
3カ月にわたって、53人の患者が登録された。35人は13〜15のGCSを有しており、4人は9〜12のGCSを有しており、14人は対照である。平均年齢は37歳であり(範囲は18〜69歳)、66%が男性であった。平均GFAP血清レベルは、対照患者では0、13〜15のGCSを有する患者では0.107(0.012)、9〜12のGCSでは0.366(0.126)である(P<0.001)。13〜15のGCSと対照との間の相違は、P<0.001で有意である。CTで頭蓋内病変を有する患者では、GFAPレベルは0.234(0.055)であり、それと比較して、病変を有さない患者では0.085(0.003)である(P<0.001)。軽度および中等度の群のどちらにおいても、傷害を受けていない対照と比較してMTBI後に血清中のGFAPの有意な増加がある。また、GFAPは、CTでの頭蓋内病変の存在にも有意に関連している。
【0100】
図7は、入院時およびその24時間後の対照および軽度/中等度の外傷性脳傷害のコホート中の個体のGFAP濃度を、CTスキャン結果の関数として示す。このUCH-L1バイオマーカーの研究の過程中に同時アッセイを行う。GFAPを決定するために使用したものと同じ試料に由来するUCH-L1の濃度を図8に提供する。UCH-L1およびGFAPならびに神経学的状態の診断に選択しなかったバイオマーカー、S100βの濃度を、対照、軽度、および中等度の外傷性脳傷害間の傷害規模の関数として、図9に示すように提供する。図10は、図9に示したものと同じマーカーの濃度を、断層撮影スキャンで観察された病変の関数としての入院時の初期エビデンスに関して示す。GFAP単独またはUCH-L1と組み合わせたGFAP値の同時測定により、脳傷害の重篤度に関する迅速かつ定量可能な決定が、GCSスコアおよびCTスキャンと一貫性がある上に、より定量可能な迅速かつ経済的な方法で得られる。
【0101】
また、図9および10の試料は、やはり本質的に実施例1に記載されているELISAによって、NSE、MBP、およびMAP2のレベルについてもアッセイする。図11に示すように、NSEおよびMAP2はどちらも、入院時(傷害の2時間以内)および24時間後のどちらに得られた試料中で測定しても、MTBI血清中で上昇している。
【0102】
さらに、神経学的状態の指標であるバイオマーカーの連結アッセイを用いて、神経学的異常の性質を評価し、この特定の研究では神経細胞体損傷を示唆している。重篤な外傷性脳傷害と同様、性別の変動が注目され、治療剤候補としてホルモン性抗炎症剤の役割が示唆される。
【0103】
[実施例4]
TBI傷害の制御皮質衝撃in vivoモデル:本質的に以前に記載されているように、制御皮質衝撃(CCI)装置を用いてTBIをラットでモデリングする(その内容が本明細書中に参考として組み込まれているPikeら、J Neurochem、2001年9月、78(6):1297〜306頁)。成体の雄(280〜300g)のスプラーグ-ドーリーラット(Harlan、インディアナ州Indianapolis)を1:1のO2/N2Oの担体ガス中の4%のイソフルランで麻酔し(4分間)、同じ担体ガス中の2.5%のイソフルラン中で維持する。直腸サーミスタプローブによって中核体温を連続的に監視し、調整可能な温度制御加温パッドをラットの下に配置することによって37±1℃に維持する。動物を定位固定フレーム内に腹臥位で乗せ、耳および切歯のバーによって固定する。頭蓋正中切開および軟組織の反転後、中央縫合に隣接した、十字縫合および人字縫合の中間で片側(衝撃の部位と同側)開頭術(直径7mm)を行う。硬膜は皮質の上で無処置のまま保つ。脳外傷は、直径5mmのアルミニウム製インパクターの先端(含気シリンダー内に収容される)を用いて、3.5m/秒の速度、1.6mmの加圧および150ミリ秒の滞留時間で右(同側)の皮質に衝撃を与えることによって、生じさせる。ニセの傷害を与えた対照動物には、同一の外科的処置に供するが、衝撃傷害を与えない。適切な傷害前および後の管理は、フロリダ大学施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって設定されている指針ならびに実験動物の飼育および使用の指針(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に詳述されている国立衛生研究所の指針のコンプライアンスを確実にするように行う。さらに、研究は、動物保護法および他の連邦法令ならびに動物および動物を含む実験に関する規制に従って、「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、NRC Publication、1996年版」に記述されている原則を順守して実施する。
【0104】
傷害後の適切な時点(2、6、24時間および2、3、5日間)に、動物に麻酔を行い、すぐに断頭によって屠殺した。脳を素早く取り出し、氷冷PBSですすぎ、半分にした。右半球(衝撃領域周辺の大脳皮質および海馬)を迅速に解体し、氷冷PBSですすぎ、液体窒素でスナップ凍結し、使用時まで-80℃で保管する。免疫組織化学には、脳をドライアイススラリーで素早く凍結し、クライオスタットによって切片(20μM)をSUPERFROST PLUS GOLD(登録商標)(Fisher Scientific)スライド上に作製し、その後、使用時まで-80℃で保管する。左半球では、右側と同じ組織を採取する。ウエスタンブロット分析には、小さな乳鉢および乳棒のセットを用いて、ドライアイス上で脳試料を微粉末へと微粉砕する。その後、微粉砕された脳組織粉末を、90分間、4℃で、50mMのトリス(pH7.4)、5mMのEDTA、1%(v/v)のTriton X-100、1mMのDTT、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Biochemicals)の緩衝液中で溶解する。その後、脳溶解物を15,000×gで5分間、4℃で遠心分離して、不溶性の細片を清澄にして取り除き、スナップ凍結し、使用時まで-80℃で保管する。
【0105】
ゲル電気泳動および電気ブロッティングには、蒸留H2O中の0.25Mのトリス(pH6.8)、0.2MのDTT、8%のSDS、0.02%のブロモフェノールブルー、および20%のグリセロールを含有する2×ローディングバッファーを用いて、清澄にしたCSF試料(7μl)を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用に調製する。20マイクログラム(20μg)のタンパク質/レーンを、10〜20%のトリス/グリシンゲル(Invitrogen、カタログ#EC61352)上のSDS-PAGEによって、130Vで2時間、ルーチン的に分離する。電気泳動後、分離されたタンパク質を、39mMのグリシン、48mMのトリス-HCl(pH8.3)、および5%のメタノールを含有する移行緩衝液中、20Vの定電圧で2時間、周囲温度で、半乾燥移行ユニット(Bio-Rad)内で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に横向きに移行させる。電気移行の後、膜を1時間、周囲温度で、TBS中の5%の無脂肪乳および0.05%のTween-2(TBST)で遮断し、その後、製造者によって推奨されるように、5%の無脂肪乳を含むTBST中の一次ポリクローナルUCH-L1抗体を用いて、1:2000の希釈率で、4℃で終夜インキュベーションする。これに続いて、TBSTで3回洗浄し、2時間、周囲温度で、ビオチン標識した連結した二次抗体(Amersham、カタログ#RPN1177v1)と共にインキュベーションし、30分間、ストレプトアビジンとコンジュゲートしたアルカリホスファターゼ(BCIP/NBT試薬、KPL、カタログ#50-81-08)と共にインキュベーションする。虹色分子量標準(Amersham、カタログ#RPN800V)を用いてインタクトなバイオマーカータンパク質の分子量を評価する。バイオマーカータンパク質レベルの半定量的評価は、コンピュータ支援の比重走査(Epson XL3500スキャナー)および画像分析ImageJソフトウェア(NIH)によって行う。UCH-L1タンパク質は、傷害の48時間後に、ウエスタンブロットによってニセの処置およびナイーブの試料中のUCH-L1の量を超えるレベルで容易に検出可能である(図12)。
【0106】
ELISAは、CCI後にラットにおいて生体試料中のUCH-L1をより迅速かつ容易に検出および定量するために使用する。UCH-L1サンドイッチELISA(swELISA)には、96ウェルプレートを、0.1Mの炭酸水素ナトリウム、pH9.2中の100μl/ウェルの捕捉抗体(500ng/ウェルの精製したウサギ抗UCH-L1、慣用技術によってインハウスで作製)でコーティングする。プレートを終夜、4℃でインキュベーションし、空にし、300μl/ウェルの遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)を加え、30分間、周囲温度で、穏やかに振盪しながらインキュベーションする。これに続いて、試料希釈剤中の検量線用の抗原標準(組換えUCH-L1)(0.05〜50ng/ウェル)または試料(3〜10μlのCSF)(合計体積100μl/ウェル)のどちらかを加える。プレートを2時間、室温でインキュベーションし、その後、自動プレート洗浄機で洗浄する(洗浄バッファー、TBSTを用いて5×300μl/ウェル)。その後、遮断緩衝液中の検出抗体マウス抗UCH-L1-HRPコンジュゲート(インハウスで作製、50μg/ml)をウェルに100μL/ウェルで加え、1.5時間、室温でインキュベーションし、続いて洗浄する。増幅が必要な場合は、ビオチニル-チラミド溶液(Perkin Elmer Elast増幅キット)を15分間、室温で加え、洗浄し、その後、0.02%のTween-20および1%のBSAを含むPBS中の100μl/ウェルのストレプトアビジン-HRP(1:500)を30分間、その後、洗浄する。最後に、100μl/ウェルのTMB基質溶液(Ultra-TMB ELISA、Pierce#34028)を用いて、5〜30分間のインキュベーション時間を用いてウェルを展開する。シグナルは、96ウェル分光光度計(Molecular Device Sepctramax190)を用いて652nmで読み取る。
【0107】
TBI群(打診傷害)のUCH-L1レベルはニセの対照よりも有意に高く(p<0.01、ANOVA分析)、swELISAによって測定したナイーブ対照は、UCH-L1はCSFの初期(傷害の2時間後)に上昇し、その後、傷害の約24時間後に低下した後、傷害の48時間後に再度上昇することを実証している(図12)。
【0108】
同様の結果が血清中のUCH-L1で得られる。血液(3〜4ml)を、それぞれの実験期間の終わりに心臓から21ゲージの針を備えたシリンジを用いて直接採取し、ポリプロピレンチューブに入れ、45分間〜1時間、室温で静置して血餅を形成させる。チューブを20分間、3,000×gで遠心分離し、血清を除去し、ELISAによって分析し、結果を図12に示す。TBI群のUCH-L1レベルは、同じニセの時点に対応する試験した2時間から24時間のそれぞれの時点について、ニセの群よりも有意に高い(p<0.001、ANOVA分析)(p<0.005、スチューデントT検定)。UCH-L1は、血清中で傷害の早くも2時間後に有意に上昇する。
【0109】
[実施例5]
複合爆風への動物の曝露:複合爆風実験は、その原稿全体の内容が本明細書中に参考として組み込まれているSvetlov, SIら、J Trauma.、2010年3月2日、doi:10.1097/TA.0b013e3181bbd885に記載のように、衝撃波発生器を用いて行う。
【0110】
導入チャンバを用いて、ラットを、酸素の担体ガス中の3〜5%のイソフルランで麻酔する。足指つまみ反射が失われた後、麻酔剤流を1〜3%まで低下する。ノーズコーンにより麻酔ガスを送達し続ける。イソフルランで麻酔したラットを、その頭部のみを曝露させる定位固定の(sterotaxic)保持具(甲冑設定)または頭部および身体の両方の曝露を可能にする保持具に入れる。頭部は縦軸に沿って自由に動くことが可能であり、頭部の中央に垂直に配置したショックチューブの出口ノズルから5cmの距離に配置する(図2)。傷害を潜在的に悪化させる可能性がある爆風波の反射および二次波の形成を最小限にするために、頭部は薄い鋼製格子から構成される柔軟なメッシュ表面上に横たえる。
【0111】
病理形態学およびバイオマーカーの研究には、動物を、頭部で358kPaの平均ピーク過圧力および約10ミリ秒間の全陽圧相持続期間を用いた単一の爆風波に供する。この衝撃は、致死的ではないが、強力な効果を生じる。
【0112】
ラット組織中のバイオマーカーレベルの分析には、その内容が本明細書中に参考として組み込まれているRingger NCら、J Neurotrauma、2004、21:1443〜1456頁によって以前に詳述されているように、ウエスタンブロット緩衝液中の、氷上でホモジナイズした脳組織試料でウエスタンブロッティングを行う。試料をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、PVDF膜上に電気ブロッティングする。膜を、5%の無脂肪乾燥乳を含む10mMのトリス、pH7.5、100mMのNaCl、および0.1%のTween-20で60分間、室温で遮断する。抗バイオマーカー特異的ウサギポリクローナルおよびモノクローナル抗体を、一次抗体として使用するために実験室内で産生させる。一次抗体と共に(1:2,000)終夜インキュベーションした後、アルカリホスファターゼ(ALP)とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体(1:10,000〜15,000)、続いて比色検出系を用いてタンパク質を検出する。ローディング対照として使用したβ-アクチン発現との比較によって、対象のバンドを正規化する。
【0113】
ラット皮質における重篤な爆風曝露では、GFAPの有意な増加は実証されず(図13A)、対照的に、海馬中ではGFAPの蓄積が有意であった(図13B)。GFAPレベルは海馬中で傷害の7日後にピークとなり、爆風の30日後まで持続する(図13B)。対照的に、CNPaseは、爆風の7〜30日後に皮質中で有意に蓄積される(図14A)。最も突出したCNPase発現の増加は海馬中に見つかり、爆風曝露の30日後に約4倍の増加が実証される(図14B)。
【0114】
血液およびCSF中のGFAPおよびUCH-L1の定量的検出は、市販のサンドイッチELISAによって決定される。UCH-L1レベルは、Banyan Biomarkers, Inc.、フロリダ州AlachuaからのサンドイッチELISAキットを用いて決定される。グリア線維酸性(acid)タンパク質(GFAP)の定量には、BioVendor(ノースカロライナ州Candler)からのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)サンドイッチELISAキットを製造者の指示に従って使用する。
【0115】
脳(海馬)中のGFAP発現の増加には、傷害の24時間後の血清中の迅速かつ統計的に有意な蓄積、続いてそれ以降の低下が伴う(図15B)。CSF中のGFAPの蓄積は遅延され、よりゆっくりと、時間依存的な様式で起こる(図15A)。NSE濃度は、ナイーブな対照動物と比較して、曝露したラットにおいて爆風の24および48時間後の期間に有意により高い(図16)。UCH-L1レベルは、傷害の24時間後のCSFでレベルが増加する傾向となる(図17A)。これらのレベルは、48時間までに統計的有意性まで増加する。UCH-L1の血漿レベルは、24時間までに統計的に有意なレベルまで増加し、続いてゆっくりと減少する(図17B)。ウエスタンブロッティングを使用して、爆風傷害後のラットCSF中のCNPaseのレベルを検出する。CNPaseレベルは傷害の24時間後に増加している(図18)。sICAM-1レベルは、爆風傷害後に、R&D Systems, Inc.ミネソタ州Minneapolisからの市販のキットを用いて、本質的に製造者の指示に従って、ELISAによって測定する。sICAM-1のレベルは、CSF(図19A)および血清(図19B)のどちらにおいても、OBIの1日後までに統計的に有意なレベルまで増加する。iNOSレベルは、爆風過圧力傷害後にラット血漿中で測定する。iNOSのレベルは4日目までに増加し、7日目にはさらなる増加が観察される(図20)。
【0116】
[実施例6]
NeuNレベルは外傷性脳傷害後に増加する。神経学的状態のモデルとして外傷性脳傷害を誘導した後の生体試料中の組織発現およびレベルについて推定上のバイオマーカーNeuNを検査するために、組織試料を、Millipore Corp.、マサチューセッツ州Billericaからのビオチンとコンジュゲートした抗NeuN抗体クローンA60をアビジン-HRP二次抗体と共に用いたウエスタンブロット分析に供する。抗体は、ヒトおよびラットNeuNのどちらに対する交差反応性も示す。図21Aは、NeuNが脳中に主に局在していることを例示している。同様に、NeuNはヒトの脳中で排他的に見出される(図21B)。
【0117】
ラットを、本質的に実施例5に記載されているように、爆風過圧力傷害に曝露する。NeuNレベルは、ニセまたはTBIラットのどちらかのCSFで検査する。NeuNのレベルは、ニセの処置した動物と比較してTBI後に上昇している(図22)。これは、SBDP150および145と類似のパターンである(図22)。
【0118】
実施例2に記載のTBIを患っているヒトを、CSF中のNeuNレベルについて検査する。本明細書中に記載のようにウエスタンブロットによって観察され、濃度測定によって定量されるように、NeuNレベルはほとんどの時点で増加している(図23)。
【0119】
[実施例7]
L-セレクチン、sICAM-1、β-NGF、ニューロピリン-2、レジスチン、フラクタルカイン、およびオレキシンのレベルは、実験的外傷性脳傷害によって変更される。ラットを、本質的に実施例5に記載されている、制御された期間、ピーク圧力および伝達される衝撃が身体の様々な領域に向けられた一次爆風OP曝露に供し、バイオマーカーの試料を、ELISA、抗体マイクロアレイ、およびウエスタンブロッティングによってバイオマーカーレベルについて分析する。L-セレクチン抗体は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa CruzからのL-セレクチン(N-18)である。sICAM-1は、R&D Systems, Inc.ミネソタ州Minneapolisからの市販のキットを用いて、本質的に製造者の指示に従って検出する。β-NGFは、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa CruzからのNGF(M-20)抗体を用いて検出する。ニューロピリン-2は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのニューロピリン-2(C-19)抗体を用いて検出する。レジスチンは、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのレジスチン(G-12)抗体を用いて検出する。フラクタルカイン(Fracktalkine)は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのフラクタルカイン(B-1)抗体を用いて検出する。適切な二次抗体を用いる。
【0120】
L-セレクチン(図24)およびsICAM-1(図25)は、爆風の24時間後にラット血液中で相当蓄積され、爆風後の14日間の間持続する。しかし、CSF中では、sICAM-1含有量は傷害の24時間後に有意に増加し、続いて急落する(図25)。血清中のβ-NGF(図26)およびニューロピリン-2(図27)のレベルは、爆風後の最初の1週間以内に有意に上昇し、動物の全身を爆風波に供した場合に最も明白な変化を示した。レジスチンは、爆風の7日後にラット血清中で有意に蓄積され、続いて徐々に低下する(図28)。オレキシン含有量は、全身を標的とした爆風の24時間後に劇的な上昇を示し、続いて徐々に低下する(図29)。対照的に、動物の頭部のみを標的とした爆風波は、曝露の30日後までオレキシン含有量が徐々に上昇することを引き起こす(図29)。フラクタルカインは、爆風の24時間後にラット血清中で相当蓄積され、爆風後の7日間持続し、全身を標的とした爆風後に著しく高いレベルとなる(図30)。
【0121】
また、ニューロピリン-2のレベルもウエスタンブロットによってラット小脳中で測定する。軸上の頭部に向けられた傷害は、傷害の1日後までに増加したレベルのニューロピリン-2を誘導し、これは30日間かけて進行的に減少する。軸外の傷害は、7日目にピークとなるニューロピリン-2のゆっくりとした増加を生じ、それ以降は減少する。全身爆風は、軸上の傷害で観察されたものと同様のニューロピリン-1の増加および減少を生じる(図31)。
【0122】
[実施例8]
神経毒性のin vitro薬物候補スクリーニング。マウス、ラット皮質性または海馬一次ニューロンを21DIVの間培養し、薬物の用量依存的な応答を調査する。培養細胞を、様々な濃度の、A)どちらもHBSS中の、10μMのグリシン中のグルタミン酸(0.01〜1000μM)、B)培養培地中の0.01〜100μMのカイニン酸、C)培養培地中のH2O2(0.001〜1000μM)、C)培養培地中の亜鉛(0.01〜1000μM)、D)培養培地中のU0126(0.001〜100μM)、およびE)対照としての等体積の培養培地に曝露させる。グルタミン酸処理は、30分間行い、その後、細胞を洗浄し、HBSSを培養培地で置き換え、分析する。残りの候補は、24時間処理し、分析する。抗UCH-L1およびSBDP145に特異的な抗体を用いて、細胞溶解およびELISAによる溶解物のスクリーニングの後に細胞内UCH-L1およびSBDP145のレベルを分析する。UCH-L1のレベルは、グルタミン酸およびH2O2への部分的な曝露の後に増加する。
【0123】
[実施例9]
発生神経毒性化合物の神経毒性のスクリーニング。ReNcell CX細胞をMillipore(カリフォルニア州Temecula)から得る。第3継代目で凍結した細胞を解凍し、ラミニンでコーティングしたT75cm2組織培養物フラスコ(Corning, Inc.、ニューヨーク州Corning)で、表皮成長因子(EGF)(20ng/ml、Millipore)および塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)(20ng/ml、Millipore)を添加したReNcell NSC維持培地(Millipore)中で拡大した。蒔いた3〜4日後(たとえば80%の細胞密度に達する前)、細胞をaccutase(Millipore)で剥離することによって継代し、300×gで5分間遠心分離し、細胞ペレットを、EGFおよびFGF-2を含有する新鮮な維持培地に再懸濁させる。すべての実験において、細胞を、ラミニンでコーティングしたcostar96ウェルプレート(Corning, Inc.、ニューヨーク州Corning)に10,000個の細胞/ウェルの密度で再度蒔く。
【0124】
1nM〜100μMの塩化メチル水銀、トランス-レチノイン酸、硫酸D-アンフェタミン、塩化カドミウム、デキサメタゾン、酢酸鉛、5,5-ジフェニルヒダントイン、およびバルプロ酸への24時間の曝露の前および後の細胞中のUCH-L1およびSBDP145のレベルを決定するために、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている本質的にBreier JMら、Toxicological Sciences、2008、105(1):119〜133頁に記載されているように、免疫細胞化学実験を実施する。細胞を4%のパラホルムアルデヒド溶液で固定し、遮断溶液(リン酸緩衝生理食塩水中の5%の正常ヤギ血清、0.3%のTriton X-100)中で透過処理する。フルオレセインで標識した抗UCH-L1抗体#3524(Cell Signaling Technology、マサチューセッツ州Danvers)を固定した細胞と共に終夜、4℃でインキュベーションし、20×対物レンズを備えたNikon TE200倒立蛍光顕微鏡を用いて可視化する。画像は、RT Sliderカメラ(モデル2.3.1.、Diagnostic Instruments, Inc.、ミシガン州Sterling Heights)およびSPOT Advantageソフトウェア(バージョン4.0.9、Diagnostic Instruments, Inc.)を用いてキャプチャする。
【0125】
[実施例10〜14]
神経毒性のための急性経口in vivo薬物候補スクリーニング。雌のスプラーグ-ドーリーラット(Charles River Laboratories, Inc.、マサチューセッツ州Wilmington)に、メタンフェタミン(4回の10mg/kgの腹腔内注射として(i.p.))40mg/kg(n=8)、カイニン酸(1.2nMの溶液をi.p.注射)、MPTP(30mg/kg、s.c)、ジゾシルピン(0.1mg/kg、i.p.)または化学療法剤シスプラチン(10mg/kg(単一のi.p.注射))(n=4)を投薬する。ペントバルビタール(50mg/kg)の腹腔内注射を用いて麻酔を行う。また、試験物質は、胃管または適切な挿管カニューレを用いた胃管栄養法によって単一の用量で投与することもできる。動物は投薬前に絶食させる。合計4〜8匹の動物を、調査したそれぞれの用量レベルで使用する。
【0126】
投薬の30、60、90、および120分後、ラットを断頭によって屠殺し、血液を心穿刺によって得る。生体液のUCH-L1およびSBDP150およびGFAPのレベルを、サンドイッチELISAまたはウエスタンブロットによって、UCH-L1およびSBDP150およびGFAPに特異的な抗体を用いることによって分析する。対照動物と比較して、メタンフェタミン導入の神経毒性レベルは、UCH-L1およびSBDP150およびGFAPのいずれのCSF濃度も増加させる。シスプラチン、カイニン酸、MPTP、およびジゾシルピンは、UCH-L1、GFAP、およびSBDP150のレベルを増加させる。
【0127】
[実施例15]
中大脳動脈閉塞(MCAO)傷害モデル:ラットをイソフルラン麻酔(導入チャンバによる5%のイソフルラン、続いてノーズコーンによる2%のイソフルラン)下でインキュベーションし、正中頸部切開を用いてラットの右総頸動脈(CCA)を外部および内部頸動脈(ECAおよびICA)の分岐レベルで曝露させた。ICAを翼口蓋分岐まで吻側に沿い、ECAをその舌および上顎の分岐で結紮して切断する。その後、3-0ナイロン縫合糸をICA内にECA断端上の切開を介して導入し(縫合糸の経路は血管壁を通して視覚的に監視された)、前大脳動脈の狭い部分に引っかかって中大脳動脈の起源を遮断するまで、頸動脈管を通して頸動脈分岐から約20mmまで進める。その後、皮膚切開を閉じ、血管内縫合糸を30分間または2時間留置する。その後、ラットを手短に再度麻酔し、縫合糸繊維を撤回して再灌流させる。ニセのMCAO手術には、同じ手順に従うが、線維を内部-外部の頸動脈の分岐を超えて10mmのみ進め、ラットを屠殺するまで留置する。すべての外科的処置中、動物は、恒温加温ブランケット(Harvard Apparatus、米国マサチューセッツ州Holliston)によって37±1℃に維持した。それぞれの実験の終局時に、ラット脳が検死の際にくも膜下出血の病理的エビデンスを示す場合は、これらを研究から排除する。適切な傷害前および後の管理は、すべての動物の飼育および使用の指針のコンプライアンスを確実にするように行う。
【0128】
その内容が本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号に記載されているものに類似の手順によって、スペクトリン分解産物をラットMCAOチャレンジ後に分析する。図32は、血清およびCSFのどちらにおけるSBDP145のレベルも、研究したすべての時点で、軽度の(30分間)チャレンジと比較して重篤な(2時間)MCAOチャレンジ後に有意に(p<0.05)増加することを実証している。同様に、SBDP120は、重篤なMCAOチャレンジ後に、傷害の24〜72時間後にCSF中で有意な上昇を実証している(図7)。しかし、血清中のSBDP120のレベルは、2〜120時間のすべての時点で、軽度のチャレンジと比較して重篤なチャレンジ後に増加している。CSFおよび血清のどちらにおいても、緩和および重篤なMCAOチャレンジはどちらも、ニセの処置した対象と比較して増加したSBDP120および140を生じる。
【0129】
微小管関連タンパク質2(MAP2)は、本質的に本明細書中に記載されているように、ELISAまたはウエスタンブロッティングによって、対象における軽度の(30分間)および重篤な(2時間)MCAOチャレンジ後のCSFおよび血清の両方中のバイオマーカーとしてアッセイする。MAP2(MAP-2(E-12))に対する抗体はSanta Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手する。これらの抗体は、ELISAおよびウエスタンブロッティング手順のどちらにも適しており、マウスおよびヒトのMAP2に対して交差反応性を有する。MAP2のレベルは、CSFおよび血清のどちらにおいても、ナイーブ動物と比較して軽度のMCAOチャレンジ後に対象中で有意に(p<0.05)増加する(図34)。UCH-L1およびSBDPと同様に、どちらの試料中でも重篤なチャレンジ(2時間)は軽度のチャレンジ(30分間)よりもはるかに高いレベルのMAP2を生じる。
【0130】
ELISAは、生体試料中のUCH-L1を迅速かつ容易に検出および定量するために使用する。UCH-L1サンドイッチELISA(swELISA)には、96ウェルプレートを、0.1Mの炭酸水素ナトリウム、pH9.2中の100μl/ウェルの捕捉抗体(500ng/ウェルの精製したウサギ抗UCH-L1、慣用技術によってインハウスで作製)でコーティングする。プレートを終夜、4℃でインキュベーションし、空にし、300μl/ウェルの遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)を加え、30分間、周囲温度で、穏やかに振盪しながらインキュベーションする。これに続いて、試料希釈剤中の検量線用の抗原標準(組換えUCH-L1)(0.05〜50ng/ウェル)または試料(3〜10μlのCSF)(合計体積100μl/ウェル)のどちらかを加える。プレートを2時間、室温でインキュベーションし、その後、自動プレート洗浄機で洗浄する(洗浄バッファー、TBSTを用いて5×300μl/ウェル)。その後、遮断緩衝液中の検出抗体マウス抗UCH-L1-HRPコンジュゲート(インハウスで作製、50μg/ml)をウェルに100μL/ウェルで加え、1.5時間、室温でインキュベーションし、続いて洗浄する。増幅が必要な場合は、ビオチニル-チラミド溶液(Perkin Elmer Elast増幅キット)を15分間、室温で加え、洗浄し、その後、0.02%のTween-20および1%のBSAを含むPBS中の100μl/ウェルのストレプトアビジン-HRP(1:500)を30分間、その後、洗浄する。最後に、100μl/ウェルのTMB基質溶液(Ultra-TMB ELISA、Pierce#34028)を用いて、5〜30分間のインキュベーション時間を用いてウェルを展開する。シグナルは、96ウェル分光光度計(Molecular Device Sepctramax190)を用いて652nmで読み取る。
【0131】
MCAOチャレンジ後、血清中のUCH-L1の規模は、より軽度のチャレンジ(30分間)と比較して重篤な(2時間)チャレンジで劇的に増加する。(図35)より重篤な2時間のMCAO群のUCH-L1タンパク質レベルは、30分間のMCAOよりも2〜5倍高い(p<0.01、ANOVA分析)。ANOVAによるUCH-L1レベルの群の比較は、すべての時点を合わせたすべての群(ナイーブ、ニセ、30分間のMCAOおよび2時間のMCAO)は互いに有意に異なることを示している(§p<0.001)。また、6時間、24時間、および48時間の時点でも全体的にすべての群で統計的に有意な相違が存在する(&p<0.001)。MCAO-30分間の6時間および120時間ならびにMCAO-2時間の6時間の時点で、UCH-L1レベルはその対応するニセの時間の群とは有意に異なる(*p<0.05)。
【0132】
[実施例16]
バイオマーカーレベルはヒト対象において脳卒中傷害と相関する。試料をHeartDrug, Inc.、メリーランド州Towsonから購入する。抗凝固剤としてのクエン酸中の血漿試料を、患者の入院時(ベースライン)および症状が発症した約24時間後に、虚血性(n=15)または昜出血性(n=9)の脳卒中を患っているヒト患者およびクエン酸添加した血漿対照(知られている脳卒中の症状なし、n=10)から採取する。SBDP145、SBDP120およびMAP2のレベルのアッセイを、本質的に実施例16に記載されているようにELISAによって行う。図36に示すように、SBDP145、SBDP120およびMAP-2が脳卒中後に上昇し、最も著しい傾向が昜出血性脳卒中の患者で起こる。
【0133】
[実施例17]
ヒト脳卒中患者から得られた生体試料中のバイオマーカーレベル。クエン酸添加した血漿の試料を、患者が脳卒中症状を発症した24時間以内に行った血液採取から得る(n=10、5人の虚血性脳卒中、5人の昜出血性脳卒中)。本明細書中に記載のようにELISAによって測定されたUCH-L1は、昜出血性および虚血性の群のどちらにおいても、正常な対照と比較して脳卒中患者からの血液中で有意に上昇している(図37)。虚血性と対照の患者との間の相違は、P=0.2の傾向を実証するが、この小さな試料組では統計的有意性に達しなかった。予備ROC分析により0.98のUCが得られる(p>.003)。UCH-L1は昜出血性および虚血性の脳卒中を区別する。
【0134】
慣用の生物学的技法に関与する方法は本明細書中に記載されている。そのような技法は一般に当分野で知られており、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、第1〜3巻、Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor、1989、ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、Greene PublishingおよびWiley-Interscience、New York、1992(定期的な更新を含む)などの方法論の論文中に詳述されている。免疫学的方法(たとえば、抗原に特異的な抗体の調製、免疫沈降、および免疫ブロッティング)は、たとえば、Current Protocols in Immunology、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1991、およびMethods of Immunological Analysis、Masseyeffら編、John Wiley & Sons、New York、1992に記載されている。前述の出版物のそれぞれの内容全体は、それぞれが本明細書中にその全体で明確に含められている場合と同様に、本明細書中に参考として組み込まれている。
【0135】
本明細書中で言及する特許文書および出版物は、本発明が関する分野の技術者のレベルの指標である。これらの文書および出版物は、それぞれの個々の文書または出版物が具体的かつ個々に本明細書中に参考として組み込まれている場合と同程度に、本明細書中に参考として組み込まれている。
【0136】
前述の説明は本発明の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施の際に限定的であることを意味しない。以下の特許請求の範囲は、そのすべての均等物を含めて、本発明の範囲を定義することを意図する。
【技術分野】
【0001】
政府の支援
本研究の一部は、米国国防総省からの助成金N14-06-1-1029号、W81XWH-8-1-0376号およびW81XWH-07-01-0701号によって援助されたものである。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、そのそれぞれの内容がその全体で本明細書中に参考として組み込まれている2009年6月19日に出願の米国仮出願第61/218,727号および2010年5月17日に出願の米国仮出願第61/345,188号の優先権を主張するものである。
【0003】
本発明は、一般に、個体の神経学的状態を決定すること、特に、神経学的状態を検出、診断、分化または処置する手段として神経予測的な(neuropredictive)条件的バイオマーカーの量を測定することに関する。
【背景技術】
【0004】
臨床神経学の分野は、初期傷害要因(initial insult)に対する生理的応答に関連する中枢神経系組織への二次傷害(secondary injury)を軽減できるのは、初期傷害要因を迅速に診断できた場合、または進行性の障害の場合は中枢神経系組織に対するストレスが事前に選択された閾値に達する前に診断できた場合のみであるという認識によって、いまなお挫折感を感じている。外傷性、虚血性、および神経毒性の化学傷害は、一般的な障害と共に、すべて脳損傷の見込みを提示する。これらの脳損傷の原因のそれぞれの重篤な(severe)形態の診断は、臨床反応試験ならびにコンピュータ断層撮影(CT)および磁気共鳴画像法(MRI)試験によって直接的に行えるが、これらの診断学は、分光イメージングは高価かつ時間がかかる一方で、行動能力を失われた個体の臨床反応試験は価値が限られており、しばしば微細な診断の妨げになる点に、その制限を有する。さらに、既存の診断学の制限が原因で、対象がしばしば損傷が起こったことに気づかないまたは軽微な症状として処置を求めるような、対象がその神経学的状態にストレスを経験する状況は、多くの場合、迅速に解消する。対象の神経学的状態に対するこれらの軽度から中等度のチャレンジ(challenge)に処置しないと、蓄積効果があるか、または続いて重篤な脳損傷イベントをもたらす場合があり、どちらの場合でも臨床予後が不良となる。
【0005】
神経学的状態の分光および臨床反応の診断に関連する制限に打ち勝つために、対象の分子または細胞レベルの健康状態としての変化の内部指標としての、バイオマーカーの使用に対する注目が増加している。バイオマーカーの検出では対象から得られた試料を使用し、その試料中、典型的には脳脊髄液、血液、または血漿中のバイオマーカーを検出するため、バイオマーカーの検出は、神経学的状態の安価、迅速、かつ客観的な測定の見込みを持っている。神経学的状態の迅速かつ客観的な指標を獲得することで、ある程度の客観性を持って正常でない脳状態の重篤度をスケール上で決定すること、結果を予測すること、状態の療法を導くこと、ならびに対象の応答性および回復を監視することが可能となる。さらに、多数の対象から得られたそのような情報により、脳傷害の機構のある程度の見識を得ることが可能となる。
【0006】
いくつかのバイオマーカーは、自動車衝突および戦闘で負傷した対象でしばしば見られるような、重篤な外傷性脳傷害に関連していると同定されている。これらのバイオマーカーには、SBDP150、SBDP150i、SBDP145(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、およびMAP-2樹状細胞傷害関連マーカーなどのスペクトリン分解産物が含まれている。これらのバイオマーカーの性質は、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号および第7,396,654号に詳述されている。
【0007】
細胞骨格タンパク質ファミリーのメンバーとしてのグリア線維酸性タンパク質(GFAP)は、中枢神経系(CNS)の成熟星細胞中などの、主要な8〜9ナノメートルの中間体線維グリア細胞である。GFAPは、40〜53kDaの分子質量および5.7〜5.8の等電点を有する単量体分子である。GFAPは、CNSの外には見つからない、脳特異性の高いタンパク質である。GFAPは脳傷害に応答して放出され、脳傷害のすぐ後に血液およびCSF中に放出される。外傷、疾患、遺伝子障害、または化学傷害のいずれかの結果としての傷害後のCNS中では、星細胞は、GFAPの迅速な合成によって特徴づけられる、アストログリオーシスまたはグリオーシスと呼ばれる様式で反応性となる。しかし、GFAPは通常、年齢に伴って増加し、脳組織におけるGFAPの濃度および代謝回転は幅広く変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,291,710号
【特許文献2】米国特許第7,396,654号
【特許文献2】米国特許第5,475,096号
【特許文献3】米国特許第5,670,637号
【特許文献4】米国特許第5,696,249号
【特許文献5】米国特許第5,270,163号
【特許文献6】米国特許第5,707,796号
【特許文献7】米国特許第5,595,877号
【特許文献8】米国特許第5,660,985号
【特許文献9】米国特許第5,567,588号
【特許文献10】米国特許第5,683,867号
【特許文献11】米国特許第5,637,459号
【特許文献12】米国特許第6,011,020号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】El-Hefnaway, Tら、Clinical Chem.、2004、50(3)、564〜573頁
【非特許文献2】FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁
【非特許文献3】Urrea, C.ら、Restorative Neurology and Neuroscience、2007、25:6576頁
【非特許文献4】MatevossianおよびAkbarian、J Vis Exp.、2008年10月1日、(20)、914頁
【非特許文献5】Pekny Mら、Int Rev Neurobiol.、2007、82:95〜111頁
【非特許文献6】Xu QG、Midha R、Martinez JA、Guo GF、Zochodne DW. Neuroscience.、2008年4月9日、152(4):877〜87頁
【非特許文献7】Leeら、Pharmacological Research、23:312〜328頁、2006
【非特許文献8】Atlas of Neurosurgery: Basic Approaches to Cranial and Vascular Procedures、F. Meyer、Churchill Livingstone、1999
【非特許文献9】Stereotactic and Image Directed Surgery of Brain Tumors、第1版、David G. T. Thomas、WB Saunders Co.、1993
【非特許文献10】Cranial Microsurgery: Approaches and Techniques、L. N. SekharおよびE. De Oliveira、第1版、Thieme Medical Publishing、1999
【非特許文献11】Belayら、Arch. Neurol.、58:1673〜1678頁 (2001)
【非特許文献12】Seijoら、J. Clin. Microbiol.、38:3892〜3895頁 (2000)
【非特許文献13】Ye, Jら、PNAS USA、2008、105:82〜87頁
【非特許文献14】Watts, RAら、Immunology、1990、69(3):348〜354頁
【非特許文献15】Cox, CDら、J Neurotrauma、2008、25(11):1355〜65頁
【非特許文献16】the National Center for Injury Prevention and Control、Report to Congress on Mild Traumatic Brain Injury in the United States: Steps to Prevent a Serious Public Health Problem.、ジョージア州Atlanta: Centers for Disease Control and Prevention、2003
【非特許文献17】Pikeら、J Neurochem、2001年9月、78(6):1297〜306頁
【非特許文献18】「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、NRC Publication、1996年版」
【非特許文献19】Svetlov, SIら、J Trauma.、2010年3月2日、doi:10.1097/TA.0b013e3181bbd885
【非特許文献20】Ringger NCら、J Neurotrauma、2004、21:1443〜1456頁
【非特許文献21】Breier JMら、Toxicological Sciences、2008、105(1):119〜133頁
【非特許文献22】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、第1〜3巻、Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor、1989
【非特許文献23】Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、Greene PublishingおよびWiley-Interscience、New York、1992
【非特許文献24】Current Protocols in Immunology、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1991
【非特許文献25】Methods of Immunological Analysis、Masseyeffら編、John Wiley & Sons、New York、1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、神経学的状態の改善された測定を提供するための方法およびアッセイの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
対象の外傷性脳傷害の重篤度を検出または識別するための方法(process)であって、第1の時点で対象から得られた試料中の第1のバイオマーカー、例示的にはGFAPの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が対象の外傷性脳傷害の規模を決定する、方法を提供する。増加したレベルのGFAPがTBIの指標である。重篤なTBIの症状の非存在下では、傷害の2時間以内の上昇したレベルのGFAPが軽度または中等度のTBIの指標である。第1のバイオマーカーの量は、任意選択で、CTスキャン正常性またはGCSスコアと相関している。本発明の方法により、軽度のTBI、中等度のTBI、重篤なTBI、またはTBIの非存在を識別または検出することが可能となる。任意選択で、1つまたは複数の追加のバイオマーカーの量を試料中または第2の試料中で測定する。追加のバイオマーカーは、任意選択で、UCH-L1、NSE、MAP-2、SBDP150、SBDP145、SBDP120、または対照である。化合物は、任意選択で、試料を得る前に対象に投与する。化合物は、例示的にはカイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である。1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップは、任意選択で、傷害の24時間後の前に単独で、または傷害の24時間にも行う。
【0012】
対象の神経学的状態を決定するための方法であって、第1の時点で対象から得られた試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含み、それにより、該測定が対象の神経学的状態を決定する、方法が提供される。試料は、任意選択で、脳脊髄液、血液、またはその画分である。第1の神経活性バイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である。
【0013】
一部の実施形態では、本発明の方法は、第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、前記第1の神経活性バイオマーカーと同時に測定する。第1の神経活性バイオマーカーは、任意選択でUCH-L1であり、第2の神経活性バイオマーカーは、GFAP、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、NSE、S100β、MAP-2、MAP-1、MAP-3、MAP-4、MAP-5、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-H、α-インターネキシン、CB-1、CB-2、ICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、C-CAM、シナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、SNAP、CRMP-2、CRMP-1、CRMP-3、CRMP-4、iNOS、またはβIII-チューブリンである。一部の実施形態では、第1の神経活性バイオマーカーはLC3であり、第2の神経活性バイオマーカーはMAP1である。第1の神経学的バイオマーカーまたは第2の神経学的バイオマーカーの量は、任意選択で、既知の神経学的損傷を有さない1つまたは複数の他の個体におけるバイオマーカーの量と比較する。第1の神経学的バイオマーカーおよび第2の神経学的バイオマーカーは、任意選択で同じ試料中にある。
【0014】
対象から単離した試料を保持するための基材および第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤が含まれる、対象の神経学的状態を決定するためのアッセイが提供され、第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤と生体試料の一部分との反応が、対象の神経学的状態のエビデンスである。第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤は、任意選択で抗体である。抗体は、任意選択で、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーを認識する。
【0015】
化合物を投与した後に対象における神経学的状態を検出するための方法であって、化合物を対象に投与するステップと、試料を前記対象から得るステップと、前記試料をUCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーの存在についてアッセイするステップとを含み、それにより、前記アッセイが、前記対象において神経学的損傷を検出することを可能にする、方法を提供する。試料は、任意選択で、血清、脳脊髄液、または神経組織である。神経組織は、任意選択で、対象の皮質または海馬から得られる。化合物は、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】対照および重篤なTBIのヒト対象における、最初に採取したCSF試料からのGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図2】図1の対照および重篤なTBIのヒト対象における、血清試料中のGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図3】図1および2のデータを要約する、ヒト対照および重篤なTBIヒト対象におけるGFAPおよび他のバイオマーカーを示す図である。
【図4】外傷性脳傷害の単一のヒト対象の動脈圧(MABP)、頭蓋内圧(ICP)および脳灌流圧(CPP)を時間の関数として示す図である。
【図5−1】図4の外傷性脳傷害の単一のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図5−2】図4の外傷性脳傷害の単一のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図6】外傷性脳傷害の別の個別のヒト対象からのCSFおよび血清試料中のバイオマーカーを時間の関数として表す図である。
【図7】入院時およびその24時間後に採取した試料におけるCTスキャンによって決定された、対照および軽度/中等度の外傷性脳傷害のコホート中の個体のGFAP濃度を表す図である。
【図8】図7で使用した試料からのUCH-L1の並行アッセイを表す図である。
【図9】対照、軽度、および中等度の外傷性脳傷害間の傷害規模の関数として提供する、UCH-L1およびGFAPならびにS100βの濃度を示す図である。
【図10】断層撮影スキャンにおける病変に関する入院時の初期エビデンスに関して、図9に示したものと同じマーカーの濃度を示す図である。
【図11】ヒト対象における重篤な外傷性脳傷害後の血清中に存在するUCH-L1、GFAP、S100β、NSE、MBP、およびMAP2の量を、CTスキャン結果の関数として表す図である。
【図12】ウエスタンブロッティングおよびELISAによる、CCI誘導性の外傷性脳傷害後における、ラットCSFまたは血清中でのUCH-L1のレベルを示す図である。
【図13】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット皮質(A)および海馬(B)中での相対的なGFAPの発現を示す図である。
【図14】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット皮質(A)および海馬(B)中での相対的なCNPaseの発現を示す図である。
【図15】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のGFAPレベルを示す図である。
【図16】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のNSEレベルを示す図である。
【図17】ELISAによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血漿(B)中のUCH-L1レベルを示す図である。
【図18】ウエスタンブロットによって測定した、実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF中のCNPaseレベルを示す図である。
【図19】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF(A)および血清(B)中のsICAM-1レベルを示す図である。
【図20】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血漿中のiNOSレベルを示す図である。
【図21】ラット(A)およびヒト(B)の組織中のNeuNの分布を示す図である。
【図22】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットCSF中のNeuNおよびSBDP150/145を示す図である。
【図23】外傷性脳傷害後における、ヒトCSF中のNeuNを示す図である。
【図24】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のL-セレクチンを示す図である。
【図25】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラットの血清およびCSF中のsICAM-1レベルを示す図である。
【図26】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のβ-NGFレベルを示す図である。
【図27】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のニューロピリン-2レベルを示す図である。
【図28】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のレジスチンレベルを示す図である。
【図29】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のオレキシンレベルを示す図である。
【図30】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット血清中のフラクタルカインレベルを示す図である。
【図31】実験的爆風誘導性の非穿通傷後における、ラット小脳中のニューロピリン-2レベルを示す図である。
【図32】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のSBDP145レベルを示す図である。
【図33】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のSBDP120レベルを示す図である。
【図34】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、CSF(A)および血清(B)中のMAP2の上昇を表す図である。
【図35】ニセ、軽度のMCAOチャレンジ、および重篤なMCAOチャレンジの後における、血清中のUCH-L1レベルを表す図である。
【図36】虚血性または昜出血性の脳卒中を患っているヒト患者から得られた血漿中のSBDP145(A)、SBDP120(B)、およびMAP-2のレベルを示す図である。
【図37】虚血性または昜出血性の脳卒中を患っているヒト患者から得られた血漿中のUCH-L1レベルを示す図である。
【図38】脳卒中におけるUCH-L1の診断的有用性を示す図である。
【図39】TUBB4をバイオマーカーとしたELISAアッセイの検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、異常な神経学的状態の診断および管理において有用性を有する。対象からの神経活性バイオマーカーの測定値を、任意選択で追加の神経活性バイオマーカーで得られた値と組み合わせることで、これまでに達成可能であったよりも高い特異性での対象神経学的状態の決定が提供される。
【0018】
また、対象発明は、将来の疾患または現在もしくは将来の傷害の予測または指標となる神経学的な外傷または状態を検出する手段としても、有用性を有する。例示的には、本発明は、創薬または薬物開発のためのin vivoまたはin vitroの安全性または有効性のスクリーニングプロトコルとしての有用性を有する。創薬または薬物開発は、神経学的状態に向けられた薬物に限定されない。神経活性バイオマーカーは、任意選択で、分析用のリード化合物を選択する手段として、または以前に同定された薬物候補の安全性を評価する手段として、in vivo動物研究における予想されるまたは予想外の神経学的副作用を検出することに、有用性を有する。
【0019】
神経学的状態を決定するための方法であって、試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む方法が提供される。神経活性バイオマーカーとは、神経細胞に随伴する(associated with)、それによって影響を受ける、それによって活性化される、それに影響を与える、または他の様式でそれと関連している、バイオマーカーである。対象に由来する試料中の神経活性バイオマーカーの量は、神経学的状態の存在または非存在と相関する。
【0020】
本明細書中で使用する用語「バイオマーカー」とは、その存在、非存在、レベルまたは活性が、神経学的状態、毒性、損傷、または疾患に相関的または予測的である、抗体、DNA、RNA、miRNA、RNAの断片、DNAの断片、ペプチド、タンパク質、脂質、または他の生体物質を表す。
【0021】
バイオマーカーは、任意選択で、神経毒性傷害要因などの神経学的状態の検出または診断に選択的である。任意選択で、バイオマーカーは、化学誘導された神経毒性のレベルの検出および識別に特異的かつ有効である。そのようなバイオマーカーは、任意選択で神経活性バイオマーカーと呼ばれる。
【0022】
バイオマーカーは、例示的にはペプチドまたはタンパク質である。タンパク質の存在もしくは非存在の検出、またはタンパク質レベルの増加もしくは減少は、神経学的損傷などの神経学的状態の存在または非存在と相関する。本明細書中で使用する、「ペプチド」とは任意の長さのペプチドを意味し、タンパク質が含まれる。用語「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」とは、本明細書中で、特定の大きさを別段に記述しない限りは、任意の特定の意図する大きさの制限なしに使用する。
【0023】
バイオマーカーは、任意選択で、オリゴヌクレオチドなどのポリ核酸である。オリゴヌクレオチドとは、DNAまたはRNA分子である。RNA分子の例には、例示的にはmRNAおよびmiRNA分子が含まれる。RNA分子は、歴史的には血漿中で短い半減期を有すると考えられていた。より最近になって、研究により、RNA分子が血漿中でタンパク質または脂質小胞によって保護されている可能性があることが示された。したがって、神経毒性傷害要因に続いて放出されるRNA分子は、たとえば、細胞、組織、血液、血漿、血清、CSF、または他の生体物質中で検出し、本発明の方法において傷害の存在と関連づけることができる。RNAを生体試料から単離するための、数々の方法が当分野で知られている。例示的には、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている、El-Hefnaway, Tら、Clinical Chem.、2004、50(3)、564〜573頁によって記載されている方法が、本発明において使用可能である。
【0024】
バイオマーカーは、任意選択でタンパク質、任意選択で完全長のタンパク質である。あるいは、またはそれに加えて、本発明のバイオマーカーは、GFAP、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ユビキチンC末端加水分解酵素L1(UCHL1)、神経核タンパク質(NeuN)、2',3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ(CNPase)、細胞間接着分子(ICAM)、具体的にはICAM-1、ICAM-2、およびICAM-5、血管細胞接着分子(VCAM)、具体的にはVCAM-1、神経細胞接着分子(NCAM)、具体的にはNCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、およびNCAM-140、ニューロリン様細胞接着分子(NL-CAM)、活性化白血球細胞接着分子(AL-CAM)、細胞-細胞接着分子(C-CAM)(FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁)、具体的にはC-CAM1、ならびに誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)をコードしている、またはそれであるオリゴヌクレオチドまたはペプチドの一部分または完全長の型である。本発明の神経活性バイオマーカーは、任意選択でCNPaseである。バイオマーカーは、例示的には、タンパク質の断片を含めた、Table 1(表1)中に提示したタンパク質またはそれをコードしている任意のオリゴヌクレオチドである。
【0025】
【表1】
【0026】
バイオマーカーは、例示的にはCNPaseである。CNPaseは、中枢神経系のミエリン中に見出される。ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)は、主にニューロン中に見出される。CNPaseは、ミエリンを産生するシュワン細胞へと発達するオリゴデンドロサイト系統のマーカーである。CNPaseは、本発明において爆風傷害後に統計的に有意な増加したレベルで観察される。CNPaseの最大レベルは、爆風傷害の1時間から30日後の間に観察され、最大の増加は海馬中である。CNPaseのレベルは傷害後の最初の30日間にかけて増加する場合があり、これは、シュワン細胞の発生またはミエリンの産生の増加を示唆している。流体打診傷害後、CNPaseのレベルをBrdU陽性細胞と共に同時局在化した。Urrea, C.ら、Restorative Neurology and Neuroscience、2007、25:6576頁。好ましくは、CNPaseをオリゴデンドロサイトからのシュワン細胞発生の神経活性バイオマーカーとして使用する。特に海馬などの神経組織中でのCNPaseのレベルの変更は、スクリーニングした薬物候補の効果を伝える神経の変化、あるいは化学物質の安全性もしくは有効性の測度または他の治療効果としての指標である。
【0027】
CNPaseは、中枢神経系中のミエリン中に見出される。CNPaseは、任意選択で、薬物候補の安全性および有効性のスクリーニングのためのマーカーとして使用する。例示的には、CNPaseは、試験化合物の保護、再生または破壊効果のマーカーとして使用可能である。任意選択で、薬物スクリーニングをin vitroで行う。CNPaseレベルは、単独でまたは同時培養系の構成成分として培養したシュワン細胞に試験化合物または対照を投与する前、その後、またはその間に決定する。例示的には、シュワン細胞は、感覚神経細胞、筋肉細胞、または星細胞もしくはオリゴデンドロサイト前駆細胞などのグリア細胞と共に同時培養する。
【0028】
バイオマーカーは、任意選択で細胞接着分子(CAM)である。CAMは、細胞-マトリックスまたは細胞-細胞の相互作用分子の免疫グロブリン遺伝子ファミリーに属する。脳中では、これらは、血液脳関門(BBB)の脳血管構成成分ならびにグリアおよび神経細胞とのその相互作用において特に重要である(FrijnsおよびKappelle、Stroke、2002:33:2115頁)。脳血管およびBBBの構造は、外傷性および過圧力誘導性の脳傷害または脳虚血(たとえば脳卒中)の危険性が特に高く、CAMのCSFまたは血液などの生体液内への放出をもたらし得る。脳中に見出されるCAMの例には、可溶性細胞間接着分子(ICAM)、たとえば、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、血管細胞接着分子(VCAM)、たとえばVCAM-1、神経細胞接着分子(NCAM)、たとえば、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、ニューロリン様細胞接着分子(NL-CAM)、ならびに活性化白血球細胞接着分子(AL-CAM)および細胞-細胞接着分子(C-CAM)、たとえばC-CAM1が含まれ得る。
【0029】
バイオマーカーは、任意選択でNeuNまたはGFAPである。NeuNは神経核中に見出される(MatevossianおよびAkbarian、J Vis Exp.、2008年10月1日、(20)、914頁)。GFAPは主に星状グリア細胞中に見出される(数々の参考文献、総説にはPekny Mら、Int Rev Neurobiol.、2007、82:95〜111頁を参照)。また、より低いレベルのGFAP発現は、非ミエリン形成シュワン細胞および「脱分化」中の一部の成熟シュワン細胞中でも検出される(Xu QG、Midha R、Martinez JA、Guo GF、Zochodne DW. Neuroscience.、2008年4月9日、152(4):877〜87頁)。
【0030】
1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの検出または定量は、例示的には、疾患もしくは傷害などの状態を検出、診断、もしくは処置するため、または疾患もしくは傷害などの状態を処置するための化学療法もしくは他の治療剤をスクリーニングするために使用可能である。例示的にスクリーニング可能な疾患または状態には、それだけには限定されないが、多発性硬化症、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、化学療法、癌、パーキンソン病、尺骨神経炎および手根管症候群などの化学的または生理的な異常から生じる神経伝達異常、他の末梢神経障害などのミエリンに関与する疾患が含まれ、例示的には、坐骨神経挫滅(外傷性神経障害)、糖尿病性神経障害、抗有糸分裂剤誘導性神経障害(化学療法誘導性神経障害)、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、遅延型過敏症(DTH)、関節リウマチ、癲癇、疼痛、神経因性疼痛、外傷性脳傷害などの外傷性神経傷害、ならびに子宮内外傷が含まれる。
【0031】
また、本発明のバイオマーカーの検出は、潜在的な薬物候補をスクリーニングするため、または以前に同定された薬物候補の安全性を分析するためにも使用可能である。これらのアッセイは、任意選択でin vitroまたはin vivoのどちらかである。in vivoのスクリーニングまたはアッセイプロトコルには、例示的には、例示的にマウス、ラット、またはヒトが含まれる動物における神経活性バイオマーカーの測定が含まれる。CNPaseなどの神経活性バイオマーカーレベルのレベルを決定または監視するための研究は、任意選択で、例示的にロータロッド、ビームウォーク試験、歩行分析、グリッド試験、ハンギング試験およびストリング試験が含まれる運動協調性試験、例示的にオープンフィールド試験における自発運動活性を検出するものが含まれる鎮静試験、アロディニアの感度試験、すなわち、冷浴試験、38℃でのホットプレート試験およびフォンフレイ試験、痛覚異常過敏の感度試験、すなわち、52℃でのホットプレート試験およびランダル-セリット試験、ならびに感覚神経伝達、運動神経伝達、複合筋活動電位(CMAP)およびh波反射などのEMG評価等の行動分析または運動障害分析と組み合わせる。
【0032】
一部の実施形態では、本発明の方法は、試料中の第1のバイオマーカーの量を測定するステップと、第2のバイオマーカーの量を測定するステップとを含む。第2のバイオマーカーは、任意選択で、第1のバイオマーカーと同じ試料または異なる試料中で測定する。バイオマーカーの存在または活性の一時的な性質を、神経学的状態の指標または識別素として使用可能であることを理解されたい。非限定的な例では、オルニー病変を引き起こすMK-801への実験的全身性曝露の重篤度が、CSFにおけるUCH-L1の一時的な維持に相関している。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、第1の神経活性バイオマーカーの測定と同じまたは異なる時点で測定する。異なる時点とは、例示的には、第1の神経活性バイオマーカーの検出の前または後である。第2の試料は、任意選択で、第1の試料の前、その後、またはそれと同時に得る。第2の試料は、任意選択で、同じまたは異なる対象から得る。
【0033】
第1および第2の神経活性バイオマーカーは、例示的には、異なる状態または異なる細胞種の健康もしくは状態を検出する。非限定的な例として、GFAPは星細胞などのグリア細胞に関連している。追加のバイオマーカーは、任意選択で、神経機能に関連する異なる種類の細胞の健康に関連している。任意選択で、他の細胞種は、軸索、ニューロン、または樹状突起である。グリア細胞、および任意選択で別の種類の神経細胞に関連するバイオマーカーが包含される本発明のアッセイを使用することで、ストレスを与えるまたは死滅させる神経細胞の種類および神経学的状態の定量がもたらされる。特定の細胞種または傷害の種類に関連する例示的なバイオマーカーは、Table 2(表2)に例示されている。
【0034】
【表2】
【0035】
第1の神経学的バイオマーカーを任意選択で少なくとも1つの追加のバイオマーカーと共に協同的に測定し、第1の神経学的バイオマーカーおよび追加のバイオマーカーの量を互いにまたは正常なマーカーレベルと比較することで、対象神経学的状態の決定が提供される。第1の神経学的バイオマーカーと合わせて測定した場合に対象神経学的状態の優れた評価を与える具体的なバイオマーカーのレベルには、例示的には、SBDP145(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、およびMAP-2またはTable 1(表1)に記載されているものなどの他のバイオマーカーが含まれる。GFAPと合わせて測定した場合に、たとえば対象神経学的状態の優れた評価を与える具体的なバイオマーカーのレベルには、例示的には、SBDP145およびSBDP150(カルパイン媒介性急性神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ媒介性遅延型神経アポトーシス)、UCH-L1(神経細胞体損傷マーカー)、ならびにMAP-2(樹状傷害)が含まれる。
【0036】
第1のバイオマーカーは、任意選択でUCH-L1である。UCH-L1が第1のバイオマーカーである場合の第2または追加のバイオマーカーの例示的な例には、例示的には、GFAP、例示的にSBDP150、SBDP150i、SBDP145、およびSBDP120が含まれるSBDP、NSE、S100β、例示的にMAP2、MAP1、MAP3、MAP4、およびMAP5が含まれるMAP、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-Hおよびα-インターネキシンなどの神経細線維タンパク質(NF)、CB-1およびCB-2などのカンナビノイド(Canabionoid)受容体(CB)、細胞接着分子、例示的にはICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、およびC-CAM、シナプスタンパク質、例示的にはシナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、およびSNAP、CRMP、例示的にはCRMP-2、CRMP-1、CRMP-3およびCRMP-4、iNOS、βIII-チューブリン、またはその組合せが含まれる。他の第1および第2のバイオマーカーには、例示的には、Nfasc186およびNfasc155、LC3ならびにMAP1、または本明細書中に記載の任意のバイオマーカーの他の組合せが含まれる。
【0037】
バイオマーカーは、任意選択で、同じ試料、同じ対象から同じもしくは異なる時点で採取した試料、またはある対象からの試料および別の対象もしくは対照対象からの別の試料からの試料中で、複数のバイオマーカーの組合せで分析する。本明細書中に記載または当分野で認識されているバイオマーカーの他の組合せに加えて、組合せには、例示的には、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145が含まれる。一部の実施形態では、複数のバイオマーカーを、同じ試料中で、任意選択で同時に測定する。一部の実施形態では、複数のバイオマーカーを別々の試料中で測定する。一部のバイオマーカーを任意選択で同じ試料中で測定する一方で、他のバイオマーカーを他の試料中で測定することを理解されたい。例示的には、一部のバイオマーカーを任意選択で血清中で測定する一方で、同じまたは他のバイオマーカーをCSF、組織、または他の生体試料中で測定する。
【0038】
一部の実施形態では、虚血または何らかのレベルもしくは重篤度の外傷性脳傷害などの神経学的状態があるかどうかを決定するために、複数のバイオマーカーを分析する。例示的には、外傷性脳傷害の重篤度を決定するためには、複数のバイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145である。例示的には、脳卒中が虚血性であるかどうかの決定には、複数のバイオマーカーは、UCH-L1、GFAP、MAP-2、SBDP120、およびSBDP145である。
【0039】
対象に対する実験的爆風傷害の分析により、タンパク質レベルと神経傷害からもたらされる神経学的状態との間のいくつかの本発明における相関が明らかとなった。神経傷害は、任意選択で、全身爆風、身体の特定の部分、例示的には頭部への爆風力、または検出可能もしくは区別可能なレベルの神経活性バイオマーカーを生じる他の神経の外傷もしくは疾患の結果である。いくつかの実験動物モデルが爆風波衝撃の機構を研究するために実装されており、げっ歯類およびヒツジなどのより大きな動物が含まれる。しかし、様々な研究で使用する爆風発生器の多少包括的な性質が原因で、脳傷害の機構および推定上のバイオマーカーに関するデータは、現在まで分析および比較が困難であった。
【0040】
神経学的状態と1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの測定された量との間の相関を提供するために、2つの例としてCSFまたは血清の試料を対象から採取し、試料を1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの測定に供する。対象は神経学的状態が異なる。その後、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの検出されたレベルを、任意選択でCTスキャン結果およびGCSスコアと相関させる。これらの結果に基づいて、本発明のアッセイを開発し、妥当性確認する(本明細書中に参考として組み込まれているLeeら、Pharmacological Research、23:312〜328頁、2006)。
【0041】
バイオマーカー分析は、任意選択で生体試料または生体液を用いて行う。本明細書中で使用可能な生体試料には、例示的には、細胞、組織、脳脊髄液(CSF)、人工CSF、全血、血清、血漿、サイトゾル液、尿、糞便、胃液、消化液、唾液、鼻もしくは他の気道の液、膣液、精液、緩衝生理食塩水、生理食塩水、水、または当分野で認識されている他の生体液が含まれる。
【0042】
神経活性バイオマーカーは、CSFおよび血清から得られることに加えて、例示的には、全血、血漿、唾液、尿、および固体組織生検からも容易に得られることを理解されたい。CSFが、神経系と直接接触していることから好ましいサンプリング液であるが、他の生体液は、他の目的のためにサンプリングされ、したがって、血液、血漿、血清、唾液または尿などの単一の試料で行う一連の試験の一部として本発明の神経学的状態の決定を可能にするという利点を有することを理解されたい。
【0043】
傷害要因後、in vitro培養物中または対象中にin situの神経細胞は、傷害要因を受けていないそのような細胞と比較して、変更されたレベルまたは活性の1つまたは複数のバイオマーカータンパク質またはオリゴヌクレオチド分子を発現する。したがって、神経細胞を含む試料、たとえば中枢神経系または末梢神経系組織の生検が、本発明で使用するための適切な生体試料である。しかし、神経細胞に加えて、たとえば赤血球、心筋細胞、骨格筋中の筋細胞、肝細胞、腎細胞および精巣中の細胞を含めた他の細胞が、例示的にはαII-スペクトリンを発現する。そのような細胞またはこれらの細胞から分泌された液を含めた生体試料も、そのような非神経細胞への傷害を決定および/または特徴づけるための本発明の方法の適応に使用し得る。
【0044】
生体試料は、慣用技術によって対象から得る。たとえば、CSFは腰椎穿刺によって得られる。血液は静脈穿刺によって得られる一方で、血漿および血清は、全血を知られている方法に従って分画することによって得られる。固体組織試料を得るための外科的技法は当分野で周知である。たとえば、神経系組織試料を得るための方法は、Atlas of Neurosurgery: Basic Approaches to Cranial and Vascular Procedures、F. Meyer、Churchill Livingstone、1999、Stereotactic and Image Directed Surgery of Brain Tumors、第1版、David G. T. Thomas、WB Saunders Co.、1993、およびCranial Microsurgery: Approaches and Techniques、L. N. SekharおよびE. De Oliveira、第1版、Thieme Medical Publishing、1999などの標準の神経外科の教科書に記載されている。また、脳組織を得て分析する方法は、Belayら、Arch. Neurol.、58:1673〜1678頁(2001)、およびSeijoら、J. Clin. Microbiol.、38:3892〜3895頁(2000)にも記載されている。
【0045】
本発明のバイオマーカーを発現する任意の対象が本明細書中で使用可能である。対象の例示的な例には、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、非ヒト霊長類、ヒト、ラット、マウス、および細胞が含まれる。本発明から恩恵を得る対象は、例示的には、外傷性傷害要因(たとえば、銃創、自動車事故、スポーツ事故、揺さぶられっ子症候群)によって引き起こされる脳傷害、虚血性イベント(たとえば、脳卒中、大脳出血、心停止)、神経変性障害(アルツハイマー病、ハンチントン病、およびパーキンソン病、プリオン関連疾患、他の形態の認知症など)、癲癇、物質乱用(たとえば、アンフェタミン、エクスタシー/MDMA、またはエタノールから)、ならびに糖尿病性神経障害、化学療法誘導性神経障害および神経因性疼痛などの末梢神経系の病理の被害者等の、異常な神経学的状態を有するまたはそれを発生する危険性が疑われる者である。
【0046】
生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在または非存在を検出するための例示的な方法は、生体試料をヒトなどの対象から得るステップと、生体試料を、例示的には抗体またはアプタマーが含まれる分析するマーカーを検出することができる薬剤と接触させるステップと、任意選択で洗浄後に薬剤の結合を分析するステップとを含む。特異的に結合した薬剤を有する試料は、分析するマーカーを発現する。
【0047】
本発明の方法は、in vitroおよびin vivoで生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーを検出するために使用することができる。試料中の1つまたは複数の他の神経活性バイオマーカーの発現の量を、検出可能なレベルの分析するマーカーを発現することが知られている第1の試料などの適切な対照(陽性対照)および検出可能なレベルの分析するマーカーを発現しないことが知られている第2の試料(陰性対照)と比較する。たとえば、マーカーを検出するためのin vitro技法には、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット、免疫沈降、および免疫蛍光が含まれる。また、マーカーを検出するためのin vivo技法には、例示的には、マーカーと特異的に結合する標識した薬剤を生体試料または試験対象内に導入することが含まれる。たとえば、薬剤は、生体試料または試験対象中のその存在および位置を標準のイメージング技法によって検出することができる、放射性マーカーで標識することができる。
【0048】
1つまたは複数の神経活性バイオマーカーと特異的に結合することができる任意の適切な分子は、協同的なアッセイを達成するために本発明において使用可能である。神経活性または他のバイオマーカー特異的結合剤は、任意選択で、分析するバイオマーカーと結合することができる抗体である。抗体は、任意選択で、検出可能な標識とコンジュゲートしている。そのような抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであることができる。また、インタクトな抗体、その断片(たとえば、FabもしくはF(ab')2)、または操作したその変異体(たとえばsFv)も使用することができる。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含めた任意の免疫グロブリンクラスおよびその任意のサブクラスのものであることができる。
【0049】
抗体に基づくアッセイは、例示的には、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在について生体試料を分析するために使用する。適切なウエスタンブロッティング方法は、本明細書中に記載されている、または当分野で知られている。より迅速な分析には(緊急の医学的状況において重要であり得る)、免疫吸着アッセイ(たとえば、ELISAおよびRIA)ならびに免疫沈降アッセイを使用し得る。一例として、生体試料またはその一部分を、ニトロセルロースもしくはPVDFから作製された膜などの基材、またはマイクロタイタープレートなどのポリスチレンもしくは他のプラスチックポリマーから作製された強固な基材上に固定し、基材を、神経活性バイオマーカーと特異的に結合する抗体と、抗体と分析するバイオマーカーとの結合を可能にする条件下で接触させる。洗浄後、基材上の抗体の存在は、試料が評価するマーカーを含有していたことを示す。抗体を酵素、フルオロフォア、または放射性同位元素などの検出可能な標識と直接コンジュゲートさせる場合、標識の存在は、任意選択で、基材を検出可能な標識について検査することによって検出する。マーカーに特異的な抗体と結合する、検出可能に標識した二次抗体を任意選択で使用し、基材に付加する。洗浄後における基材上の検出可能な標識の存在は、試料がマーカーを含有していたことを示す。
【0050】
また、これらの基本的な免疫アッセイの数々の順列も本発明において使用可能である。これらには、試料を基材上に固定するのとは対照的に、バイオマーカーに特異的な抗体が含まれ、基材を、検出可能な標識とコンジュゲートさせた神経活性バイオマーカーと、抗体と標識したマーカーとの結合を引き起こす条件下で接触させる。その後、基材を試料と、分析するマーカーと抗体との結合を可能にする条件下で接触させる。洗浄後における基材上の検出可能な標識の量の低下は、試料がマーカーを含有していたことを示す。
【0051】
その広範囲におよぶ特徴づけが原因で、抗体を本発明で使用するために本明細書中に例示するが、神経活性バイオマーカーと特異的に結合する任意の他の適切な薬剤(たとえば、ペプチド、アプタマー、または有機小分子)を、抗体の代わりに任意選択で使用する。たとえば、αIIスペクトリンおよび/またはそのSBDPのうちの1つもしくは複数と特異的に結合するアプタマーを使用し得る。アプタマーとは、特異的リガンドと結合する、核酸に基づく分子である。特定の結合特異性を有するアプタマーを作製する方法は知られており、米国特許第5,475,096号、第5,670,637号、第5,696,249号、第5,270,163号、第5,707,796号、第5,595,877号、第5,660,985号、第5,567,588号、第5,683,867号、第5,637,459号、および第6,011,020号に詳述されている。
【0052】
RNAおよびDNA結合抗体は当分野で知られている。例示的には、RNA結合抗体は、ファージディスプレイライブラリからの一連の抗体断片から合成する。RNA結合抗体を合成するために使用する方法の例示的な例は、その内容がRNA結合抗体を作製する方法として本明細書中に参考として組み込まれている、Ye, Jら、PNAS USA、2008、105:82〜87頁中に見出される。したがって、RNAに基づくバイオマーカーに対する抗体を作製することは、当分野の技術範囲内にある。
【0053】
同様に、DNA結合抗体は当分野で周知である。DNA結合抗体を作製する例示的な方法は、その内容が抗DNA抗体を作製する例示的な方法として本明細書中に参考として組み込まれている、Watts, RAら、Immunology、1990、69(3):348〜354頁中に見出される。
【0054】
無数の検出可能な標識がバイオマーカー発現のための診断的アッセイにおいて使用可能であり、当分野で知られている。標識および標識キットは、任意選択でInvitrogen Corp、カリフォルニア州Carlsbadから販売されている。神経活性バイオマーカーを検出する方法において使用する薬剤は、任意選択で、検出可能な標識、たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素とコンジュゲートさせる。西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した薬剤は、西洋ワサビペルオキシダーゼの存在下で色変化を生じる適切な基質を加えることによって検出することができる。使用し得るいくつかの他の検出可能な標識が知られている。一般的な例には、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、蛍光分子、発光分子、コロイド金、磁気粒子、ビオチン、放射性同位元素、および他の酵素が含まれる。
【0055】
本発明は、任意選択で、生体試料中の1つまたは複数の他の神経活性バイオマーカーの存在または量を、神経細胞傷害の重篤度および/または種類と相関させるステップを含む。生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量は、例示的には外傷性脳傷害の神経学的状態と関連している。第1の神経活性バイオマーカーおよび1つまたは複数の追加の神経活性バイオマーカーを協同的に測定する本発明のアッセイの結果は、医師が傷害の種類および重篤度を決定することを助け、欠陥のある細胞の種類を暗示する。これらの結果はCTスキャンおよびGCSの結果と一致している上に、定量的であり、はるかに低い費用でより迅速に得られる。
【0056】
本発明は、1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの量を正常なレベルと比較して対象の神経学的状態を決定するステップを提供する。1つまたは複数のバイオマーカーの選択、例示的には、軸索傷害の場合はSBDPにより、異常な神経学的状態に関連づけられる神経細胞の種類および細胞死の性質を同定することが可能となることを理解されたい。本発明の方法の実施は、対象の最適な利益のために投与する適切な治療剤を医師が決定することを助けることができる試験を提供する。実施例中に見出される、続いて提供するデータは、外傷性脳傷害の全範囲に関して提供されているが、これらの結果は、虚血性イベント、神経変性障害、プリオン関連疾患、癲癇、化学的発生源および末梢神経系の病理に適用可能であることを理解されたい。性別による相違が異常な対象神経学的状態において注目される場合がある。
【0057】
また、対象における細胞損傷を分析するアッセイも提供する。生体試料中の1つまたは複数の神経活性バイオマーカーの存在または非存在を検出するための例示的な方法は、生体試料をヒトなどの対象から得るステップと、生体試料を、例示的にプライマー、プローブ、抗原、ペプチド、化学薬品、または抗体が含まれる分析するバイオマーカーを検出することができる薬剤と接触させるステップと、試料をバイオマーカーの存在について分析するステップとを含む。他の検出方法、例示的にはタンパク質または核酸に特異的な染料との接触も、同様に使用可能であることを理解されたい。
【0058】
アッセイには、任意選択で、(a)任意選択で損傷した神経細胞を有することが疑われる対象から単離した試料を保持するための基材と(試料またはその一部分は、対象から単離する前に対象の神経系と流体連結している)、(b)神経活性バイオマーカー特異的結合剤と、(c)別の神経活性(neurotactive)バイオマーカーに特異的な結合剤と、(d)神経学的バイオマーカーの存在または量を検出するために神経活性バイオマーカー特異的結合剤を生体試料または生体試料の一部分と反応させるため、および生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの存在または量を検出するために別の神経活性(neurotactive)バイオマーカーに特異的な薬剤を生体試料または生体試料の一部分と反応させるための、印刷された指示とが含まれる。本発明のアッセイは、会計勘定をよくために(for financial renumeration)、神経学的状態の検出に使用することができる。
【0059】
アッセイには、任意選択で、薬剤とコンジュゲートしたもの、または二次抗体などの薬剤と特異的に結合する物質とコンジュゲートしたもの等の、検出可能な標識が含まれる。
【0060】
神経学的状態と測定されたバイオマーカーの量との間の相関を提供するためには、CSFまたは血清が任意選択の生体液である。例示的には、CSFまたは血清の試料を対象から採取し、試料をバイオマーカーの測定に供する。生体液または他の生体試料の採取は、例示的には、化学剤または生物剤を投与する前または後である。例示的には、対象に、任意選択で、薬物スクリーニングのための薬剤などの化学薬品を投与する。投与前、投与時、またはそれ以降の任意の所望の時点で、生体試料を対象から得る。薬物が対象の血流中に見出される間、またはその直後に生体試料を得ることが好ましい。例示的には、生体試料は、経口投薬後に観察される血漿濃度の増加中に得る。例示的には、生体試料は、ピーク血漿濃度が得られた後に得る。任意選択で、生体試料は、投与の1、2、3、4、5、10、12、24時間後またはその間の任意の時点に得る。任意選択で、生体試料は、1、2、3、4、5、6、7日またはその間の任意の時点に得る。一部の実施形態では、生体試料は、1、2、3、4週間もしくはそれより後、またはその間の任意の時点で得る。神経毒性は投与の直後に起こるか、または遅延することを理解されたい。生体試料は、任意選択で、1、2、3、6カ月もしくはそれより後、またはその間の任意の時点に得て、遅延型神経毒性を検出する。一部の実施形態では、対象に数時間、数日間、数週間、数カ月、または数年間の間投薬し続け、その間に、1つまたは複数の生体試料をバイオマーカースクリーニングのために得る。一部の実施形態では、第IV相治験を用いて、市販の化学剤または生物剤の継続的な安全性を監視する。これらの治験は、任意選択で数年間または無期限に継続される。したがって、投与の前から最初の投与の数年後までの任意の時点で、神経毒性の1つまたは複数の本発明のバイオマーカーの検出のために生体試料を得る。
【0061】
バイオマーカーのベースラインレベルは、知られている神経学的状態の非存在下における、所望の対象の種において標的生体試料中で得られるレベルである。これらのレベルは具体的な濃度で表す必要はなく、その代わりに、並行対照実験から知られ、蛍光単位、密度単位などに関して表し得る。典型的には、神経学的状態の非存在下では、1つまたは複数のSBDPは、無視できる量でしか生体試料中に存在しない。しかし、UCH-L1はニューロン中で非常に豊富なタンパク質である。特定の種のたとえばニューロン、血漿、またはCSF中における、例示的にUCH-L1またはmRNAなどのUCH-L1バイオマーカーが含まれるバイオマーカーのベースラインレベルの決定は、当分野の技術範囲内に十分ある。同様に、他のバイオマーカーのベースラインレベルの濃度の決定は、当分野の技術範囲内に十分ある。ベースラインレベルは、例示的には、神経学的状態を有することが疑われていない1つまたは複数の対象からの試料中のバイオマーカーの量または活性である。
【0062】
生体試料は、生体試料中に存在する1つまたは複数のバイオマーカーの存在を検出または同定するために当分野で知られている機構によって、アッセイする。生体試料中の標的バイオマーカーの量または存在に基づいて、1つまたは複数のバイオマーカーの比を任意選択で計算する。比は、任意選択で、同じもしくは並行試料中の別のバイオマーカーのレベルと比較した1つまたは複数のバイオマーカーのレベル、または、前記バイオマーカーの量対病理学的神経学的状態を有さないことが知られている対象中の同じバイオマーカーの、測定されたもしくは以前に確立されているベースラインレベルの比である。この比により、対象における神経学的状態の診断が可能となる。本発明の方法では、任意選択で、1つまたは複数のバイオマーカーの比を直接または間接的に変更する治療剤を対象に投与する。
【0063】
本明細書中で使用する「比」とは、標的のレベルが、第2の試料中の標的または同じ標的の知られているもしくは認識されているベースラインレベルよりも高い、陽性比のどちらかである。陰性比は、標的のレベルが、第2の試料中の標的または同じ標的の知られているもしくは認識されているベースラインレベルよりも低いことを説明する。中性の比は、標的バイオマーカーに変化が観察されないことを説明する。
【0064】
神経学的状態は、任意選択で傷害をもたらすまたは生じる。本明細書中で使用する「傷害」とは、細胞または分子の完全性、活性、レベル、頑健性、状態の変更、またはイベントまで追跡可能な他の変更である。傷害には、例示的には、物理的、機械的、化学的、生物学的、機能的、感染性、または細胞もしくは分子の特徴の他のモジュレーターが含まれる。傷害は、任意選択でイベントからもたらされる。イベントは、例示的には、衝撃(例示的には打診)などの物理的外傷、または、血管の封鎖(虚血性)もしくは漏出(昜出血性)のどちらかからもたらされる脳卒中などの生物学的異常である。イベントは、任意選択で感染性因子による感染症である。当業者には、用語、傷害またはイベントによって包含される数々の均等なイベントが認識されるであろう。
【0065】
傷害は、任意選択で、打診衝撃などの物理的イベントである。衝撃は、任意選択で、頭蓋組織を無傷に残すまたはそれが裂けることをもたらす、頭部、身体、またはその組合せへの打撃をもたらすものなどの、打診傷害等である。実験では、例示的にヒトにおける重篤なTBIに等しい1.6mmの陥没深度での制御皮質衝撃(CCI)が含まれる、いくつかの衝撃方法を使用する。この方法は、その内容が本明細書中に参考として組み込まれているCox, CDら、J Neurotrauma、2008、25(11):1355〜65頁によって詳述されている。衝撃外傷を生じる他の実験方法が同様に使用可能であることを理解されたい。
【0066】
また、傷害は、脳卒中からももたらされ得る。虚血性脳卒中は、任意選択でげっ歯類における中大脳動脈閉塞(MCAO)によってモデリングされる。たとえば、UCH-L1タンパク質レベルは、軽度のMCAO後に増加し、重篤なMCAOチャレンジ後にさらに増加する。軽度のMCAOチャレンジは、2時間以内に一過性であるバイオマーカーレベルの増加をもたらし、24時間以内に対照レベルに戻り得る。対照的に、重篤なMCAOチャレンジは、傷害後の2時間以内にバイオマーカーレベルの増加をもたらし、72時間以上まで統計的に有意なレベルを示し、はるかにより持続的であり得る。
【0067】
本発明では、生体試料中のバイオマーカーの存在または量を、神経細胞(または他のバイオマーカー発現細胞)の毒性の重篤度および/または種類と相関させるステップを用いる。より重篤な傷害はより多数の神経細胞を損傷させ、これは立ち代ってより大量のバイオマーカーが生体試料(たとえば、CSF、血清)中に蓄積することを引き起こすため、生体試料中のバイオマーカーの量は、神経学的状態の重篤度に直接関連する。神経毒性傷害要因がアポトーシスおよび/または壊死の種類の細胞死を始動するかどうかも、生体試料中に存在するSBDP145などのSBDPのバイオマーカーを検査することによって決定することができる。壊死性の細胞死はカルパインを優先的に活性化させる一方で、アポトーシス細胞死はカスパーゼ-3を優先的に活性化させる。カルパインおよびカスパーゼ-3のSBDPは識別することができるため、これらのマーカーを測定することで、対象における細胞損傷の種類が示される。たとえば、壊死誘導性カルパイン活性化はSBDP150およびSBDP145の産生をもたらし、アポトーシス誘導性カスパーゼ-3活性化はSBDP150iおよびSBDP120の産生をもたらし、両方の経路の活性化は4つのマーカーすべての産生をもたらす。また、生体試料中に存在するUCH-L1バイオマーカーのレベルまたは動力学的程度により、任意選択で、より重篤な傷害からの軽度の傷害が識別され得る。例示的な例では、重篤なMCAO(2時間)は、CSFおよび血清のどちらにおいても、軽度のチャレンジ(30分間)よりも増加したUCH-L1を産生する一方で、これらはどちらも、傷害を受けていない対象を超えるUCH-L1レベルを産生する。さらに、生体試料中のマーカーの持続または動力学的程度は、より高い毒性を有する神経毒性の重篤度の指標であり、これは、傷害後のいくつかの時点で採取した生体試料中で本発明の方法によって測定した、対象中のUCH-L1またはSBDPバイオマーカーの増加の持続を示す。
【0068】
そのような試験の結果は、カルパインおよび/もしくはカスパーゼ阻害剤またはムスカリンコリン作動性受容体拮抗剤などの特定の治療剤の投与が患者に有益であり得るかどうかを、医師が決定することを助けることができる。この応用は、細胞死機構における年齢および性別による相違を検出する際に特に重要であり得る。
【0069】
本発明には、任意選択で、標的バイオマーカーの1つまたは複数の特徴を変更し得る1つまたは複数の治療剤が含まれる。治療剤は、任意選択で、標的バイオマーカーまたはバイオマーカーの上流エフェクターの作用剤または拮抗剤として役割を果たす。治療剤は、任意選択でバイオマーカーの下流機能に影響を与える。たとえば、アセチルコリン(Ach)は病理学的神経の励起において役割を果たし、TBI誘導性ムスカリンコリン作動性受容体の活性化は興奮毒性過程に寄与し得る。したがって、バイオマーカーには、任意選択で、Achまたはムスカリン受容体のレベルまたは活性が含まれる。任意選択で、使用可能なバイオマーカーは、ムスカリン受容体の活性によって影響を受ける分子、タンパク質、核酸または他のものである。したがって、対象発明において使用可能な治療剤には、例示的には、ムスカリンコリン作動性受容体の活性化の様々な側面を変調するものが含まれる。
【0070】
治療標的または治療標的のモジュレーターとして使用可能な具体的なムスカリン受容体には、M1、M2、M3、M4、およびM5ムスカリン受容体が含まれる。
【0071】
TBIの検出および処置におけるムスカリンコリン作動性受容体経路の適切性は、実験的TBI(Gormanら、1989、Lyethら、1993a)ならびに虚血(KumagaeおよびMatsui、1991)後の脳の脳脊髄液(CSF)中の上昇したAChを実証した研究、また、コリン模倣体の施用による高レベルのムスカリンコリン作動性受容体の活性化の傷害性の性質から生じる(Olneyら、1983、Turskiら、1983)。さらに、ムスカリン拮抗剤の急性投与は、実験的TBI後の行動の回復を改善させる(Lyethら、1988a、Lyethら、1988b、LyethおよびHayes、1992、Lyethら、1993b、Robinsonら、1990)。したがって、ムスカリンコリン作動性受容体と結合する、またはその特徴を変更する化学剤または生物剤を、任意選択で、前臨床創薬における標的の最適化中などに、細胞または組織の神経毒性についてスクリーニングする。
【0072】
対象発明において使用可能な治療的化合物、化学的化合物、または生体化合物は、例示的には、神経毒性傷害要因の危険性にあるまたはそれに供された対象の治療結果を変化させる、任意選択で改善させるために使用可能な、任意の分子、ファミリー、抽出物、溶液、薬物、プロドラッグ、または他のものである。治療的化合物は、任意選択で、作用剤または拮抗剤などのムスカリンコリン作動性受容体モジュレーター、アンフェタミンである。作用剤または拮抗剤は、直接または間接的であり得る。間接的な作用剤または拮抗剤は、任意選択で、アセチルコリンまたは他のムスカリン受容体関連分子、例示的にはアルツハイマー病の処置に現在使用されている分子を分解または合成する分子である。コリン模倣体または同様の分子が、本明細書において使用可能である。本明細書中で使用可能な治療的化合物の例示的なリストには、ジサイクロミン、スコポラミン(scoplamine)、ミラメリン、N-メチル-4-ピペリジニルベンジレートNMP、ピロカルピン、ピレンゼピン、アセチルコリン、メタコリン、カルバコール、ベタネコール、ムスカリン、オキソトレモリンM、オキソトレモリン、タプシガルジン、カルシウムチャネル遮断剤または作用剤、ニコチン、キサノメリン、BuTAC、クロザピン、オランザピン、セビメリン、アセクリジン、アレコリン、トルテロジン、ロシベリン、IQNP、インドールアルカロイド、ヒンバシン、シクロステレッタミン、その誘導体、そのプロドラッグ、およびその組合せが含まれる。治療的化合物は、任意選択で、カルパインまたはカスパーゼのレベルまたは活性を変更させるために使用可能な分子である。そのような分子およびその投与は当分野で知られている。化合物は、対象と接触させる、700ダルトン未満の分子、ペプチド、タンパク質、核酸、または他の有機もしくは無機分子、あるいはその一部分を含めた任意の分子であることを理解されたい。
【0073】
化合物は、任意選択で、対象における神経活性バイオマーカーのレベルを変更させる任意の分子、タンパク質、核酸、または他のものである。化合物は、任意選択で、前臨床もしくは臨床治験において検査されている実験薬物であるか、または、その特徴もしくは影響を解明する化合物である。化合物は、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチンもしくは他の化学療法化合物、NMDA受容体の拮抗剤、本明細書中に記載の任意の他の化合物、そのプロドラッグ、そのラセミ体、その異性体、またはその組合せである。アンフェタミンの例には、エフェドリン、アスパラギン酸アンフェタミン一水和物、硫酸アンフェタミン、デキストロアンフェタミンサッカライド、硫酸デキストロアンフェタミンを含めたデキストロアンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、レボアンフェタミン、そのラセミ体、その異性体、その誘導体、またはその組合せが含まれる。NMDA受容体の拮抗剤の例示的な例には、Table 3(表3)に記載のもの、そのラセミ体、その異性体、その誘導体、またはその組合せが含まれる。
【0074】
【表3】
【0075】
本明細書中で使用する用語「投与すること」とは、化合物を対象に送達することである。化合物は、状態の1つもしくは複数の症状を寛解させるまたは状態を処置することを意図して投与する化学剤または生物剤である。治療的化合物は、当業者によって特定の対象に適切であると決定された経路によって投与する。たとえば、治療的化合物は、経口、非経口(たとえば、静脈内、筋肉内注射によって、腹腔内注射によって、腫瘍内、吸入によって、または経皮)で投与する。必要な治療的化合物の正確な量は、対象の年齢、重量および全体的な状態、処置する神経学的状態の重篤度、使用する特定の治療的化合物、その投与様式などに応じて、対象間で変動する。適切な量は、必要以上の実験を行わずに、本明細書中の教示を考慮して、または当分野の知識によって、日常的な実験のみを用いて、当業者によって決定され得る。
【0076】
また、外傷性脳傷害(TBI)の規模を検出または識別する方法も提供される。外傷性脳傷害は、例示的には、軽度のTBI、中等度のTBI、または重篤なTBIである。本明細書中で使用する軽度のTBIは、12〜15のGCSスコアまたは本明細書中に参考として組み込まれているthe National Center for Injury Prevention and Control、Report to Congress on Mild Traumatic Brain Injury in the United States: Steps to Prevent a Serious Public Health Problem.、ジョージア州Atlanta: Centers for Disease Control and Prevention、2003に記載されている任意の特徴を提示する個体として定義される。中等度のTBIは、9〜11のGCSスコアを提示することと定義される。重篤なTBIは、9未満のGCSスコアを提示すること、異常なCTスキャンを提示すること、または30分間を超える意識消失を含めた症状、24時間より長く持続する外傷後健忘症、および貫通性頭蓋大脳傷害によって定義される。
【0077】
軽度または中等度のTBIを検出または識別する方法は、例示的には、試料を対象から第1の時点で得るステップと、試料中のGFAPの量を測定するステップとを含み、それにおいて、上昇したGFAPレベルが外傷性脳傷害の存在を示す。本発明の方法では、任意選択で、さらに、GFAPの量をCTスキャン正常性またはGCSスコアと相関させる。GCSスコアが12以上であり、GFAPレベルが上昇している場合に、軽度のTBIの正の相関が観察される。あるいは、またはそれに加えて、CTスキャン結果が異常であり、GFAPレベルが上昇している場合に、軽度のTBIの正の相関が観察される。GCSスコアが9〜11であり、GFAPレベルが上昇している場合に、中等度のTBIの正の相関が観察される。あるいは、またはそれに加えて、CTスキャン結果が異常であり、GFAPレベルが上昇している場合に、中等度のTBIの正の相関が観察される。異常なCTスキャン結果とは、例示的には病変の存在である。平凡または正常なCTスキャン結果は、病変の非存在である。
【0078】
GFAPのレベルは、任意選択で、傷害の24時間以内に得られた試料で測定する。任意選択で、GFAPレベルは、傷害の0〜24時間(その間のすべての時点が含まれる)に得られた試料で測定する。一部の実施形態では、第2の試料を、傷害の24時間後またはそれ以降に得て、GFAPの量を、単独でまたは追加のバイオマーカーと共に測定する。
【0079】
軽度または中等度のTBIを検出または識別することするための方法は、任意選択で、第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含む。第2の神経活性バイオマーカーは、任意選択で、Table 1(表1)に記載の任意のバイオマーカーである。任意選択で、第2の神経活性バイオマーカーは、UCH-L1、NSE、MAP2、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、または対照バイオマーカー、例示的にはS100βである。例示的には、UCH-L1のレベルはある時点で上昇しており、傷害後の後の時点で低下している。例示的には、1つまたは複数の試料は、対象から傷害後の2時間以内に得るが、24時間より前の他の時点が同様に使用可能である。生体試料をアッセイし、GFAPの量を、単独でまたはUCH-L1と共に測定する。傷害後の24時間未満の時点での上昇したGFAPおよびUCH-L1、ならびに傷害の24時間後またはそれ以降での低下したレベルは、軽度または中等度のTBIの指標である。24時間より長く持続したレベルの1つまたは複数の神経活性バイオマーカーは、重篤なTBIの指標である。
【0080】
化合物は、例示的には、潜在的な治療剤として、または既知もしくは未知の神経毒性効果を有する化合物のいずれかとして、対象に投与する。化合物は、例示的には、本明細書中に記載の任意の化合物、任意選択で、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチンもしくは他の化学療法剤、NMDA受容体の拮抗剤、その組合せ、その誘導体、そのラセミ体、またはその異性体である。任意選択で、化合物の投与が傷害となる。
【0081】
本発明の方法の実施は、対象の最適な利益のために投与する適切な治療化合物を医師が決定することを助けることができる試験を提供する。実施例中に見出される、続いて提供するデータは、脳傷害の全範囲に関して提供されているが、これらの結果は、虚血性イベント、神経変性障害、プリオン関連疾患、癲癇、化学剤または生物剤の発生源、および末梢神経系の病理に適応可能であることを理解されたい。性別による相違が異常な対象神経学的状態において存在し得る。
【0082】
本発明の様々な態様は、以下の非限定的な実施例によって例示される。実施例は例示目的のみであり、本発明のいかなる実施にも対する限定ではない。本発明の精神および範囲から逸脱せずに、変形および改変を行うことができることが理解されよう。実施例は、一般に、哺乳動物組織、具体的にはラット組織の分析に向けられているが、当業者には、類似の技法および当分野で知られている他の技法が、実施例をヒトなどの他の哺乳動物へと容易に変換することを理解されよう。本明細書中に例示した試薬は、一般的に、哺乳動物種間で交差反応性であるか、または同様の特性を有する代替試薬が市販されており、当業者は、そのような試薬をどこで入手し得るかを容易に理解するであろう。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
バイオマーカー分析の材料。炭酸水素ナトリウム、(Sigmaカタログ#:C-3041)、遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)(Pierceカタログ#:37543)、Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBST、Sigmaカタログ#:T-9039)。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Sigmaカタログ#:P-3813)、Tween20(Sigmaカタログ#:P5927)、Ultra TMB ELISA(Pierceカタログ#:34028)、およびNunc maxisorp ELISAプレート(Fisher)。モノクローナルおよびポリクローナルUCH-L1抗体は、インハウスで作製するか、またはSanta Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手する。αII-スペクトリンおよび分解産物(SBDP)ならびにMAP2に向けられた抗体は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手可能である。数々のサブタイプの抗体の標識は、Invitrogen,Corp.、カリフォルニア州Carlsbadから入手可能である。生体試料中のタンパク質濃度は、ビシンコニン酸マイクロタンパク質アッセイ(Pierce Inc.、米国イリノイ州Rockford)を使用して、アルブミン標準を用いて決定する。すべての他の必要な試薬および材料は当業者に知られており、容易に確認可能である。
【0084】
バイオマーカーに特異的なウサギポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を実験室内で産生させる。抗体の反応特異性を決定するために、組織パネルをウエスタンブロットによってプロービングする。
【0085】
アッセイで使用する抗体の最適な濃度を決定するために、組換えバイオマーカータンパク質をELISAプレートに付着させた間接ELISAを使用する。このアッセイでは、アッセイで使用するバイオマーカー特異的結合剤の適切な濃度を決定する。マイクロプレートのウェルをウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体でコーティングする。最大のシグナルのためのウサギ抗ヒトバイオマーカー抗体の濃度を決定した後、それぞれの抗体の間接ELISAの最大の検出限界を決定する。適切な希釈した試料をウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体(捕捉抗体)と共に2時間インキュベーションし、その後、洗浄する。その後、ビオチン標識したモノクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体を加え、捕捉したバイオマーカーと共にインキュベーションする。十分に洗浄した後、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼのコンジュゲートを加える。1時間のインキュベーションおよび最終の洗浄ステップの後、残ったコンジュゲートを過酸化水素テトラメチルベンジジン(benzadine)の基質と反応させる。酸性溶液を加えることによって反応を停止させ、生じる黄色反応生成物の吸光度を450ナノメートルで測定する。吸光度はバイオマーカーの濃度に比例する。標準物質試料を用いて吸光度値をバイオマーカー濃度の関数としてプロットすることによって検量線を構築し、検量線を用いて未知の試料の濃度を決定する。
【0086】
[実施例2]
重篤な外傷性脳傷害の研究-重篤な外傷性脳傷害を患っている46人の対象を、様々な組織中および傷害後の様々な時点におけるバイオマーカーレベルについて研究する。これらの対象のそれぞれは18歳を超えており、8以下のGCSを有しており、脳室開窓術を必要としており、日常的介護の一部として神経監視を行う。CSF対照として同義に詳述する対照群Aには、18歳以上であり、傷害を有さない10人の個体が含まれる。試料は、ルーチン的な外科的処置用の脊髄麻酔中に得るか、またはCSFへの接近は水頭症もしくは髄膜炎の処置に関連している。正常な対照として同義に記載する対照群Bは、合計64人の個体であり、それぞれが18歳以上であり、脳傷害を伴わない複数の傷害を経験している。研究の人口統計学に関するさらなる詳細は、Table 4(表4)に提供する。
【0087】
【表4】
【0088】
研究で得られた第1の入手可能なCSFおよび血清試料中に見出されるバイオマーカーのレベルを、本質的に実施例1に記載されているELISAによって、組換えバイオマーカーを試料によって置き換えて分析し、結果をそれぞれ図1および2に提供する。図1中に詳述したように採取した第1のCSF試料の平均は11.2時間である一方で、図2のように傷害イベントに続く血清試料の採取の平均の時間は10.1時間である。それぞれのバイオマーカー、UCH-L1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、およびGFAPの量が、それぞれの試料について、対照群と比較した外傷性脳傷害を患った人のコホートについて提供されている。CSFおよび血清のデータのコンパイルに基づいた、傷害に続く最初の12時間以内の様々なバイオマーカーの診断的有用性が図3に提供されており、特に、GFAPの値ならびに追加のマーカーUCH-L1およびスペクトリン分解産物の値を示している。上昇したUCH-L1のレベルは神経細胞体損傷の欠陥の指標である一方で、対応するSBDP120の減少を伴ったSBDP145の増加は、急性軸索壊死を示唆している。
【0089】
外傷性脳傷害のコホートからの1人の対象は、ヘルメットを着用せずにオートバイ事故に巻き込まれた52歳の白色人種の女性であった。救急治療室に入院時、彼女のGCSは3であり、外傷に続く最初の24時間の間、彼女の最良のGCSは8であった。10日後、彼女のGCSは11であった。CTスキャンにより、マーシャルスコア11およびロッテルダムスコア2のSAHおよび顔面骨折が明らかとなった。脳室開窓術を5年後に除去し、全体的に良好な結果が得られた。時間の関数としての、この外傷性脳傷害を患った人の動脈圧(MABP)、頭蓋内圧(ICP)および脳灌流圧(CPP)を図4に示す。MABPおよびCPPの低下によって見られるように、傷害後の約40時間に二次傷害要因の可能性が注目される。この個体からのCSFおよび血清試料あたりの本発明のバイオマーカーの濃度の変化を図5に示す。これらの結果には、CSFおよび血清の両方におけるGFAPの急増ならびに図5に示す他のバイオマーカーの変化が含まれており、傷害の性質および関与する細胞の種類、ならびにスペクトリン分解産物に関連する細胞死の様式に関する重要な臨床情報を提供している。
【0090】
重篤な外傷性脳傷害のコホートの別の個体には、馬が個人の上に倒れることに関連する挫滅傷を患った、51歳の白色人種の女性が含まれていた。救急治療室への入院時のGCSは3であり、イメージング分析は、最初は軽微な皮質および皮質下部の挫傷を伴った平凡なものであった。5日目のMRIにより、後頭蓋窩に顕著な挫傷が明らかとなった。その時点でのマーシャルスケールは11であり、ロッテルダムスケールスコアは3であることが示された。対象は悪化し、傷害の10日後に介護を中止した。一定期間の間のこの個体のCSFおよび血清の値を図6に提供する。
【0091】
時間の関数としての、外傷性脳傷害後のスペクトリン分解産物、MAP-2およびUCH-L1の濃度は、そのそれぞれが本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号および第7,396,654号に例示されているように、他の箇所に報告されている。
【0092】
TBIの結果、具体的にはGCSを予測する、血清中で測定されたバイオマーカーの能力を評価するための分析を行った。段階的回帰分析を用いて、バイオマーカーを独立した予測因子として、年齢および性別の人口統計学的要因、ならびに要因の対間の相互作用を評価した。相互作用は、バイオマーカーと結果との関係性が男性と女性とで異なり得る場合などに、関連する要因間の重要な予測的潜在性を決定し、そのような関係性は、バイオマーカーの相互作用によって性別として定義される。
【0093】
生じる分析により、バイオマーカーUCH-L1、MAP-2、およびGFAPがGCSの統計的に有意な予測因子であると同定される(Table 5(表5)、Table 6(表6))。さらに、GFAPは、UCH-L1および性別と組み合わせて評価した場合に改善された予測性を有する(Table 7(表7)、Table 8(表8))。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
[実施例3]
実施例2の研究を、9〜11のGCSスコアによって特徴づけられる中等度の外傷性脳傷害のコホート、および12〜15のGCSスコアによって特徴づけられる軽度の外傷性脳傷害のコホートで繰り返す。血液試料を、傷害の2時間以内に病院の救急科に到着した時にそれぞれの患者から得て、実施例1および2に記載のようにELISAによってGFAPのレベルをナノグラム/ミリリットルで測定する。結果を、どのような形態の傷害も経験していない対照群のそれと比較する。二次結果には、頭部CTスキャンにおける頭蓋内病変の存在が含まれていた。
【0099】
3カ月にわたって、53人の患者が登録された。35人は13〜15のGCSを有しており、4人は9〜12のGCSを有しており、14人は対照である。平均年齢は37歳であり(範囲は18〜69歳)、66%が男性であった。平均GFAP血清レベルは、対照患者では0、13〜15のGCSを有する患者では0.107(0.012)、9〜12のGCSでは0.366(0.126)である(P<0.001)。13〜15のGCSと対照との間の相違は、P<0.001で有意である。CTで頭蓋内病変を有する患者では、GFAPレベルは0.234(0.055)であり、それと比較して、病変を有さない患者では0.085(0.003)である(P<0.001)。軽度および中等度の群のどちらにおいても、傷害を受けていない対照と比較してMTBI後に血清中のGFAPの有意な増加がある。また、GFAPは、CTでの頭蓋内病変の存在にも有意に関連している。
【0100】
図7は、入院時およびその24時間後の対照および軽度/中等度の外傷性脳傷害のコホート中の個体のGFAP濃度を、CTスキャン結果の関数として示す。このUCH-L1バイオマーカーの研究の過程中に同時アッセイを行う。GFAPを決定するために使用したものと同じ試料に由来するUCH-L1の濃度を図8に提供する。UCH-L1およびGFAPならびに神経学的状態の診断に選択しなかったバイオマーカー、S100βの濃度を、対照、軽度、および中等度の外傷性脳傷害間の傷害規模の関数として、図9に示すように提供する。図10は、図9に示したものと同じマーカーの濃度を、断層撮影スキャンで観察された病変の関数としての入院時の初期エビデンスに関して示す。GFAP単独またはUCH-L1と組み合わせたGFAP値の同時測定により、脳傷害の重篤度に関する迅速かつ定量可能な決定が、GCSスコアおよびCTスキャンと一貫性がある上に、より定量可能な迅速かつ経済的な方法で得られる。
【0101】
また、図9および10の試料は、やはり本質的に実施例1に記載されているELISAによって、NSE、MBP、およびMAP2のレベルについてもアッセイする。図11に示すように、NSEおよびMAP2はどちらも、入院時(傷害の2時間以内)および24時間後のどちらに得られた試料中で測定しても、MTBI血清中で上昇している。
【0102】
さらに、神経学的状態の指標であるバイオマーカーの連結アッセイを用いて、神経学的異常の性質を評価し、この特定の研究では神経細胞体損傷を示唆している。重篤な外傷性脳傷害と同様、性別の変動が注目され、治療剤候補としてホルモン性抗炎症剤の役割が示唆される。
【0103】
[実施例4]
TBI傷害の制御皮質衝撃in vivoモデル:本質的に以前に記載されているように、制御皮質衝撃(CCI)装置を用いてTBIをラットでモデリングする(その内容が本明細書中に参考として組み込まれているPikeら、J Neurochem、2001年9月、78(6):1297〜306頁)。成体の雄(280〜300g)のスプラーグ-ドーリーラット(Harlan、インディアナ州Indianapolis)を1:1のO2/N2Oの担体ガス中の4%のイソフルランで麻酔し(4分間)、同じ担体ガス中の2.5%のイソフルラン中で維持する。直腸サーミスタプローブによって中核体温を連続的に監視し、調整可能な温度制御加温パッドをラットの下に配置することによって37±1℃に維持する。動物を定位固定フレーム内に腹臥位で乗せ、耳および切歯のバーによって固定する。頭蓋正中切開および軟組織の反転後、中央縫合に隣接した、十字縫合および人字縫合の中間で片側(衝撃の部位と同側)開頭術(直径7mm)を行う。硬膜は皮質の上で無処置のまま保つ。脳外傷は、直径5mmのアルミニウム製インパクターの先端(含気シリンダー内に収容される)を用いて、3.5m/秒の速度、1.6mmの加圧および150ミリ秒の滞留時間で右(同側)の皮質に衝撃を与えることによって、生じさせる。ニセの傷害を与えた対照動物には、同一の外科的処置に供するが、衝撃傷害を与えない。適切な傷害前および後の管理は、フロリダ大学施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって設定されている指針ならびに実験動物の飼育および使用の指針(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に詳述されている国立衛生研究所の指針のコンプライアンスを確実にするように行う。さらに、研究は、動物保護法および他の連邦法令ならびに動物および動物を含む実験に関する規制に従って、「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、NRC Publication、1996年版」に記述されている原則を順守して実施する。
【0104】
傷害後の適切な時点(2、6、24時間および2、3、5日間)に、動物に麻酔を行い、すぐに断頭によって屠殺した。脳を素早く取り出し、氷冷PBSですすぎ、半分にした。右半球(衝撃領域周辺の大脳皮質および海馬)を迅速に解体し、氷冷PBSですすぎ、液体窒素でスナップ凍結し、使用時まで-80℃で保管する。免疫組織化学には、脳をドライアイススラリーで素早く凍結し、クライオスタットによって切片(20μM)をSUPERFROST PLUS GOLD(登録商標)(Fisher Scientific)スライド上に作製し、その後、使用時まで-80℃で保管する。左半球では、右側と同じ組織を採取する。ウエスタンブロット分析には、小さな乳鉢および乳棒のセットを用いて、ドライアイス上で脳試料を微粉末へと微粉砕する。その後、微粉砕された脳組織粉末を、90分間、4℃で、50mMのトリス(pH7.4)、5mMのEDTA、1%(v/v)のTriton X-100、1mMのDTT、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Biochemicals)の緩衝液中で溶解する。その後、脳溶解物を15,000×gで5分間、4℃で遠心分離して、不溶性の細片を清澄にして取り除き、スナップ凍結し、使用時まで-80℃で保管する。
【0105】
ゲル電気泳動および電気ブロッティングには、蒸留H2O中の0.25Mのトリス(pH6.8)、0.2MのDTT、8%のSDS、0.02%のブロモフェノールブルー、および20%のグリセロールを含有する2×ローディングバッファーを用いて、清澄にしたCSF試料(7μl)を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用に調製する。20マイクログラム(20μg)のタンパク質/レーンを、10〜20%のトリス/グリシンゲル(Invitrogen、カタログ#EC61352)上のSDS-PAGEによって、130Vで2時間、ルーチン的に分離する。電気泳動後、分離されたタンパク質を、39mMのグリシン、48mMのトリス-HCl(pH8.3)、および5%のメタノールを含有する移行緩衝液中、20Vの定電圧で2時間、周囲温度で、半乾燥移行ユニット(Bio-Rad)内で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に横向きに移行させる。電気移行の後、膜を1時間、周囲温度で、TBS中の5%の無脂肪乳および0.05%のTween-2(TBST)で遮断し、その後、製造者によって推奨されるように、5%の無脂肪乳を含むTBST中の一次ポリクローナルUCH-L1抗体を用いて、1:2000の希釈率で、4℃で終夜インキュベーションする。これに続いて、TBSTで3回洗浄し、2時間、周囲温度で、ビオチン標識した連結した二次抗体(Amersham、カタログ#RPN1177v1)と共にインキュベーションし、30分間、ストレプトアビジンとコンジュゲートしたアルカリホスファターゼ(BCIP/NBT試薬、KPL、カタログ#50-81-08)と共にインキュベーションする。虹色分子量標準(Amersham、カタログ#RPN800V)を用いてインタクトなバイオマーカータンパク質の分子量を評価する。バイオマーカータンパク質レベルの半定量的評価は、コンピュータ支援の比重走査(Epson XL3500スキャナー)および画像分析ImageJソフトウェア(NIH)によって行う。UCH-L1タンパク質は、傷害の48時間後に、ウエスタンブロットによってニセの処置およびナイーブの試料中のUCH-L1の量を超えるレベルで容易に検出可能である(図12)。
【0106】
ELISAは、CCI後にラットにおいて生体試料中のUCH-L1をより迅速かつ容易に検出および定量するために使用する。UCH-L1サンドイッチELISA(swELISA)には、96ウェルプレートを、0.1Mの炭酸水素ナトリウム、pH9.2中の100μl/ウェルの捕捉抗体(500ng/ウェルの精製したウサギ抗UCH-L1、慣用技術によってインハウスで作製)でコーティングする。プレートを終夜、4℃でインキュベーションし、空にし、300μl/ウェルの遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)を加え、30分間、周囲温度で、穏やかに振盪しながらインキュベーションする。これに続いて、試料希釈剤中の検量線用の抗原標準(組換えUCH-L1)(0.05〜50ng/ウェル)または試料(3〜10μlのCSF)(合計体積100μl/ウェル)のどちらかを加える。プレートを2時間、室温でインキュベーションし、その後、自動プレート洗浄機で洗浄する(洗浄バッファー、TBSTを用いて5×300μl/ウェル)。その後、遮断緩衝液中の検出抗体マウス抗UCH-L1-HRPコンジュゲート(インハウスで作製、50μg/ml)をウェルに100μL/ウェルで加え、1.5時間、室温でインキュベーションし、続いて洗浄する。増幅が必要な場合は、ビオチニル-チラミド溶液(Perkin Elmer Elast増幅キット)を15分間、室温で加え、洗浄し、その後、0.02%のTween-20および1%のBSAを含むPBS中の100μl/ウェルのストレプトアビジン-HRP(1:500)を30分間、その後、洗浄する。最後に、100μl/ウェルのTMB基質溶液(Ultra-TMB ELISA、Pierce#34028)を用いて、5〜30分間のインキュベーション時間を用いてウェルを展開する。シグナルは、96ウェル分光光度計(Molecular Device Sepctramax190)を用いて652nmで読み取る。
【0107】
TBI群(打診傷害)のUCH-L1レベルはニセの対照よりも有意に高く(p<0.01、ANOVA分析)、swELISAによって測定したナイーブ対照は、UCH-L1はCSFの初期(傷害の2時間後)に上昇し、その後、傷害の約24時間後に低下した後、傷害の48時間後に再度上昇することを実証している(図12)。
【0108】
同様の結果が血清中のUCH-L1で得られる。血液(3〜4ml)を、それぞれの実験期間の終わりに心臓から21ゲージの針を備えたシリンジを用いて直接採取し、ポリプロピレンチューブに入れ、45分間〜1時間、室温で静置して血餅を形成させる。チューブを20分間、3,000×gで遠心分離し、血清を除去し、ELISAによって分析し、結果を図12に示す。TBI群のUCH-L1レベルは、同じニセの時点に対応する試験した2時間から24時間のそれぞれの時点について、ニセの群よりも有意に高い(p<0.001、ANOVA分析)(p<0.005、スチューデントT検定)。UCH-L1は、血清中で傷害の早くも2時間後に有意に上昇する。
【0109】
[実施例5]
複合爆風への動物の曝露:複合爆風実験は、その原稿全体の内容が本明細書中に参考として組み込まれているSvetlov, SIら、J Trauma.、2010年3月2日、doi:10.1097/TA.0b013e3181bbd885に記載のように、衝撃波発生器を用いて行う。
【0110】
導入チャンバを用いて、ラットを、酸素の担体ガス中の3〜5%のイソフルランで麻酔する。足指つまみ反射が失われた後、麻酔剤流を1〜3%まで低下する。ノーズコーンにより麻酔ガスを送達し続ける。イソフルランで麻酔したラットを、その頭部のみを曝露させる定位固定の(sterotaxic)保持具(甲冑設定)または頭部および身体の両方の曝露を可能にする保持具に入れる。頭部は縦軸に沿って自由に動くことが可能であり、頭部の中央に垂直に配置したショックチューブの出口ノズルから5cmの距離に配置する(図2)。傷害を潜在的に悪化させる可能性がある爆風波の反射および二次波の形成を最小限にするために、頭部は薄い鋼製格子から構成される柔軟なメッシュ表面上に横たえる。
【0111】
病理形態学およびバイオマーカーの研究には、動物を、頭部で358kPaの平均ピーク過圧力および約10ミリ秒間の全陽圧相持続期間を用いた単一の爆風波に供する。この衝撃は、致死的ではないが、強力な効果を生じる。
【0112】
ラット組織中のバイオマーカーレベルの分析には、その内容が本明細書中に参考として組み込まれているRingger NCら、J Neurotrauma、2004、21:1443〜1456頁によって以前に詳述されているように、ウエスタンブロット緩衝液中の、氷上でホモジナイズした脳組織試料でウエスタンブロッティングを行う。試料をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、PVDF膜上に電気ブロッティングする。膜を、5%の無脂肪乾燥乳を含む10mMのトリス、pH7.5、100mMのNaCl、および0.1%のTween-20で60分間、室温で遮断する。抗バイオマーカー特異的ウサギポリクローナルおよびモノクローナル抗体を、一次抗体として使用するために実験室内で産生させる。一次抗体と共に(1:2,000)終夜インキュベーションした後、アルカリホスファターゼ(ALP)とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体(1:10,000〜15,000)、続いて比色検出系を用いてタンパク質を検出する。ローディング対照として使用したβ-アクチン発現との比較によって、対象のバンドを正規化する。
【0113】
ラット皮質における重篤な爆風曝露では、GFAPの有意な増加は実証されず(図13A)、対照的に、海馬中ではGFAPの蓄積が有意であった(図13B)。GFAPレベルは海馬中で傷害の7日後にピークとなり、爆風の30日後まで持続する(図13B)。対照的に、CNPaseは、爆風の7〜30日後に皮質中で有意に蓄積される(図14A)。最も突出したCNPase発現の増加は海馬中に見つかり、爆風曝露の30日後に約4倍の増加が実証される(図14B)。
【0114】
血液およびCSF中のGFAPおよびUCH-L1の定量的検出は、市販のサンドイッチELISAによって決定される。UCH-L1レベルは、Banyan Biomarkers, Inc.、フロリダ州AlachuaからのサンドイッチELISAキットを用いて決定される。グリア線維酸性(acid)タンパク質(GFAP)の定量には、BioVendor(ノースカロライナ州Candler)からのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)サンドイッチELISAキットを製造者の指示に従って使用する。
【0115】
脳(海馬)中のGFAP発現の増加には、傷害の24時間後の血清中の迅速かつ統計的に有意な蓄積、続いてそれ以降の低下が伴う(図15B)。CSF中のGFAPの蓄積は遅延され、よりゆっくりと、時間依存的な様式で起こる(図15A)。NSE濃度は、ナイーブな対照動物と比較して、曝露したラットにおいて爆風の24および48時間後の期間に有意により高い(図16)。UCH-L1レベルは、傷害の24時間後のCSFでレベルが増加する傾向となる(図17A)。これらのレベルは、48時間までに統計的有意性まで増加する。UCH-L1の血漿レベルは、24時間までに統計的に有意なレベルまで増加し、続いてゆっくりと減少する(図17B)。ウエスタンブロッティングを使用して、爆風傷害後のラットCSF中のCNPaseのレベルを検出する。CNPaseレベルは傷害の24時間後に増加している(図18)。sICAM-1レベルは、爆風傷害後に、R&D Systems, Inc.ミネソタ州Minneapolisからの市販のキットを用いて、本質的に製造者の指示に従って、ELISAによって測定する。sICAM-1のレベルは、CSF(図19A)および血清(図19B)のどちらにおいても、OBIの1日後までに統計的に有意なレベルまで増加する。iNOSレベルは、爆風過圧力傷害後にラット血漿中で測定する。iNOSのレベルは4日目までに増加し、7日目にはさらなる増加が観察される(図20)。
【0116】
[実施例6]
NeuNレベルは外傷性脳傷害後に増加する。神経学的状態のモデルとして外傷性脳傷害を誘導した後の生体試料中の組織発現およびレベルについて推定上のバイオマーカーNeuNを検査するために、組織試料を、Millipore Corp.、マサチューセッツ州Billericaからのビオチンとコンジュゲートした抗NeuN抗体クローンA60をアビジン-HRP二次抗体と共に用いたウエスタンブロット分析に供する。抗体は、ヒトおよびラットNeuNのどちらに対する交差反応性も示す。図21Aは、NeuNが脳中に主に局在していることを例示している。同様に、NeuNはヒトの脳中で排他的に見出される(図21B)。
【0117】
ラットを、本質的に実施例5に記載されているように、爆風過圧力傷害に曝露する。NeuNレベルは、ニセまたはTBIラットのどちらかのCSFで検査する。NeuNのレベルは、ニセの処置した動物と比較してTBI後に上昇している(図22)。これは、SBDP150および145と類似のパターンである(図22)。
【0118】
実施例2に記載のTBIを患っているヒトを、CSF中のNeuNレベルについて検査する。本明細書中に記載のようにウエスタンブロットによって観察され、濃度測定によって定量されるように、NeuNレベルはほとんどの時点で増加している(図23)。
【0119】
[実施例7]
L-セレクチン、sICAM-1、β-NGF、ニューロピリン-2、レジスチン、フラクタルカイン、およびオレキシンのレベルは、実験的外傷性脳傷害によって変更される。ラットを、本質的に実施例5に記載されている、制御された期間、ピーク圧力および伝達される衝撃が身体の様々な領域に向けられた一次爆風OP曝露に供し、バイオマーカーの試料を、ELISA、抗体マイクロアレイ、およびウエスタンブロッティングによってバイオマーカーレベルについて分析する。L-セレクチン抗体は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa CruzからのL-セレクチン(N-18)である。sICAM-1は、R&D Systems, Inc.ミネソタ州Minneapolisからの市販のキットを用いて、本質的に製造者の指示に従って検出する。β-NGFは、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa CruzからのNGF(M-20)抗体を用いて検出する。ニューロピリン-2は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのニューロピリン-2(C-19)抗体を用いて検出する。レジスチンは、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのレジスチン(G-12)抗体を用いて検出する。フラクタルカイン(Fracktalkine)は、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzからのフラクタルカイン(B-1)抗体を用いて検出する。適切な二次抗体を用いる。
【0120】
L-セレクチン(図24)およびsICAM-1(図25)は、爆風の24時間後にラット血液中で相当蓄積され、爆風後の14日間の間持続する。しかし、CSF中では、sICAM-1含有量は傷害の24時間後に有意に増加し、続いて急落する(図25)。血清中のβ-NGF(図26)およびニューロピリン-2(図27)のレベルは、爆風後の最初の1週間以内に有意に上昇し、動物の全身を爆風波に供した場合に最も明白な変化を示した。レジスチンは、爆風の7日後にラット血清中で有意に蓄積され、続いて徐々に低下する(図28)。オレキシン含有量は、全身を標的とした爆風の24時間後に劇的な上昇を示し、続いて徐々に低下する(図29)。対照的に、動物の頭部のみを標的とした爆風波は、曝露の30日後までオレキシン含有量が徐々に上昇することを引き起こす(図29)。フラクタルカインは、爆風の24時間後にラット血清中で相当蓄積され、爆風後の7日間持続し、全身を標的とした爆風後に著しく高いレベルとなる(図30)。
【0121】
また、ニューロピリン-2のレベルもウエスタンブロットによってラット小脳中で測定する。軸上の頭部に向けられた傷害は、傷害の1日後までに増加したレベルのニューロピリン-2を誘導し、これは30日間かけて進行的に減少する。軸外の傷害は、7日目にピークとなるニューロピリン-2のゆっくりとした増加を生じ、それ以降は減少する。全身爆風は、軸上の傷害で観察されたものと同様のニューロピリン-1の増加および減少を生じる(図31)。
【0122】
[実施例8]
神経毒性のin vitro薬物候補スクリーニング。マウス、ラット皮質性または海馬一次ニューロンを21DIVの間培養し、薬物の用量依存的な応答を調査する。培養細胞を、様々な濃度の、A)どちらもHBSS中の、10μMのグリシン中のグルタミン酸(0.01〜1000μM)、B)培養培地中の0.01〜100μMのカイニン酸、C)培養培地中のH2O2(0.001〜1000μM)、C)培養培地中の亜鉛(0.01〜1000μM)、D)培養培地中のU0126(0.001〜100μM)、およびE)対照としての等体積の培養培地に曝露させる。グルタミン酸処理は、30分間行い、その後、細胞を洗浄し、HBSSを培養培地で置き換え、分析する。残りの候補は、24時間処理し、分析する。抗UCH-L1およびSBDP145に特異的な抗体を用いて、細胞溶解およびELISAによる溶解物のスクリーニングの後に細胞内UCH-L1およびSBDP145のレベルを分析する。UCH-L1のレベルは、グルタミン酸およびH2O2への部分的な曝露の後に増加する。
【0123】
[実施例9]
発生神経毒性化合物の神経毒性のスクリーニング。ReNcell CX細胞をMillipore(カリフォルニア州Temecula)から得る。第3継代目で凍結した細胞を解凍し、ラミニンでコーティングしたT75cm2組織培養物フラスコ(Corning, Inc.、ニューヨーク州Corning)で、表皮成長因子(EGF)(20ng/ml、Millipore)および塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)(20ng/ml、Millipore)を添加したReNcell NSC維持培地(Millipore)中で拡大した。蒔いた3〜4日後(たとえば80%の細胞密度に達する前)、細胞をaccutase(Millipore)で剥離することによって継代し、300×gで5分間遠心分離し、細胞ペレットを、EGFおよびFGF-2を含有する新鮮な維持培地に再懸濁させる。すべての実験において、細胞を、ラミニンでコーティングしたcostar96ウェルプレート(Corning, Inc.、ニューヨーク州Corning)に10,000個の細胞/ウェルの密度で再度蒔く。
【0124】
1nM〜100μMの塩化メチル水銀、トランス-レチノイン酸、硫酸D-アンフェタミン、塩化カドミウム、デキサメタゾン、酢酸鉛、5,5-ジフェニルヒダントイン、およびバルプロ酸への24時間の曝露の前および後の細胞中のUCH-L1およびSBDP145のレベルを決定するために、その内容が本明細書中に参考として組み込まれている本質的にBreier JMら、Toxicological Sciences、2008、105(1):119〜133頁に記載されているように、免疫細胞化学実験を実施する。細胞を4%のパラホルムアルデヒド溶液で固定し、遮断溶液(リン酸緩衝生理食塩水中の5%の正常ヤギ血清、0.3%のTriton X-100)中で透過処理する。フルオレセインで標識した抗UCH-L1抗体#3524(Cell Signaling Technology、マサチューセッツ州Danvers)を固定した細胞と共に終夜、4℃でインキュベーションし、20×対物レンズを備えたNikon TE200倒立蛍光顕微鏡を用いて可視化する。画像は、RT Sliderカメラ(モデル2.3.1.、Diagnostic Instruments, Inc.、ミシガン州Sterling Heights)およびSPOT Advantageソフトウェア(バージョン4.0.9、Diagnostic Instruments, Inc.)を用いてキャプチャする。
【0125】
[実施例10〜14]
神経毒性のための急性経口in vivo薬物候補スクリーニング。雌のスプラーグ-ドーリーラット(Charles River Laboratories, Inc.、マサチューセッツ州Wilmington)に、メタンフェタミン(4回の10mg/kgの腹腔内注射として(i.p.))40mg/kg(n=8)、カイニン酸(1.2nMの溶液をi.p.注射)、MPTP(30mg/kg、s.c)、ジゾシルピン(0.1mg/kg、i.p.)または化学療法剤シスプラチン(10mg/kg(単一のi.p.注射))(n=4)を投薬する。ペントバルビタール(50mg/kg)の腹腔内注射を用いて麻酔を行う。また、試験物質は、胃管または適切な挿管カニューレを用いた胃管栄養法によって単一の用量で投与することもできる。動物は投薬前に絶食させる。合計4〜8匹の動物を、調査したそれぞれの用量レベルで使用する。
【0126】
投薬の30、60、90、および120分後、ラットを断頭によって屠殺し、血液を心穿刺によって得る。生体液のUCH-L1およびSBDP150およびGFAPのレベルを、サンドイッチELISAまたはウエスタンブロットによって、UCH-L1およびSBDP150およびGFAPに特異的な抗体を用いることによって分析する。対照動物と比較して、メタンフェタミン導入の神経毒性レベルは、UCH-L1およびSBDP150およびGFAPのいずれのCSF濃度も増加させる。シスプラチン、カイニン酸、MPTP、およびジゾシルピンは、UCH-L1、GFAP、およびSBDP150のレベルを増加させる。
【0127】
[実施例15]
中大脳動脈閉塞(MCAO)傷害モデル:ラットをイソフルラン麻酔(導入チャンバによる5%のイソフルラン、続いてノーズコーンによる2%のイソフルラン)下でインキュベーションし、正中頸部切開を用いてラットの右総頸動脈(CCA)を外部および内部頸動脈(ECAおよびICA)の分岐レベルで曝露させた。ICAを翼口蓋分岐まで吻側に沿い、ECAをその舌および上顎の分岐で結紮して切断する。その後、3-0ナイロン縫合糸をICA内にECA断端上の切開を介して導入し(縫合糸の経路は血管壁を通して視覚的に監視された)、前大脳動脈の狭い部分に引っかかって中大脳動脈の起源を遮断するまで、頸動脈管を通して頸動脈分岐から約20mmまで進める。その後、皮膚切開を閉じ、血管内縫合糸を30分間または2時間留置する。その後、ラットを手短に再度麻酔し、縫合糸繊維を撤回して再灌流させる。ニセのMCAO手術には、同じ手順に従うが、線維を内部-外部の頸動脈の分岐を超えて10mmのみ進め、ラットを屠殺するまで留置する。すべての外科的処置中、動物は、恒温加温ブランケット(Harvard Apparatus、米国マサチューセッツ州Holliston)によって37±1℃に維持した。それぞれの実験の終局時に、ラット脳が検死の際にくも膜下出血の病理的エビデンスを示す場合は、これらを研究から排除する。適切な傷害前および後の管理は、すべての動物の飼育および使用の指針のコンプライアンスを確実にするように行う。
【0128】
その内容が本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第7,291,710号に記載されているものに類似の手順によって、スペクトリン分解産物をラットMCAOチャレンジ後に分析する。図32は、血清およびCSFのどちらにおけるSBDP145のレベルも、研究したすべての時点で、軽度の(30分間)チャレンジと比較して重篤な(2時間)MCAOチャレンジ後に有意に(p<0.05)増加することを実証している。同様に、SBDP120は、重篤なMCAOチャレンジ後に、傷害の24〜72時間後にCSF中で有意な上昇を実証している(図7)。しかし、血清中のSBDP120のレベルは、2〜120時間のすべての時点で、軽度のチャレンジと比較して重篤なチャレンジ後に増加している。CSFおよび血清のどちらにおいても、緩和および重篤なMCAOチャレンジはどちらも、ニセの処置した対象と比較して増加したSBDP120および140を生じる。
【0129】
微小管関連タンパク質2(MAP2)は、本質的に本明細書中に記載されているように、ELISAまたはウエスタンブロッティングによって、対象における軽度の(30分間)および重篤な(2時間)MCAOチャレンジ後のCSFおよび血清の両方中のバイオマーカーとしてアッセイする。MAP2(MAP-2(E-12))に対する抗体はSanta Cruz Biotechnology、カリフォルニア州Santa Cruzから入手する。これらの抗体は、ELISAおよびウエスタンブロッティング手順のどちらにも適しており、マウスおよびヒトのMAP2に対して交差反応性を有する。MAP2のレベルは、CSFおよび血清のどちらにおいても、ナイーブ動物と比較して軽度のMCAOチャレンジ後に対象中で有意に(p<0.05)増加する(図34)。UCH-L1およびSBDPと同様に、どちらの試料中でも重篤なチャレンジ(2時間)は軽度のチャレンジ(30分間)よりもはるかに高いレベルのMAP2を生じる。
【0130】
ELISAは、生体試料中のUCH-L1を迅速かつ容易に検出および定量するために使用する。UCH-L1サンドイッチELISA(swELISA)には、96ウェルプレートを、0.1Mの炭酸水素ナトリウム、pH9.2中の100μl/ウェルの捕捉抗体(500ng/ウェルの精製したウサギ抗UCH-L1、慣用技術によってインハウスで作製)でコーティングする。プレートを終夜、4℃でインキュベーションし、空にし、300μl/ウェルの遮断緩衝液(Startingblock T20-TBS)を加え、30分間、周囲温度で、穏やかに振盪しながらインキュベーションする。これに続いて、試料希釈剤中の検量線用の抗原標準(組換えUCH-L1)(0.05〜50ng/ウェル)または試料(3〜10μlのCSF)(合計体積100μl/ウェル)のどちらかを加える。プレートを2時間、室温でインキュベーションし、その後、自動プレート洗浄機で洗浄する(洗浄バッファー、TBSTを用いて5×300μl/ウェル)。その後、遮断緩衝液中の検出抗体マウス抗UCH-L1-HRPコンジュゲート(インハウスで作製、50μg/ml)をウェルに100μL/ウェルで加え、1.5時間、室温でインキュベーションし、続いて洗浄する。増幅が必要な場合は、ビオチニル-チラミド溶液(Perkin Elmer Elast増幅キット)を15分間、室温で加え、洗浄し、その後、0.02%のTween-20および1%のBSAを含むPBS中の100μl/ウェルのストレプトアビジン-HRP(1:500)を30分間、その後、洗浄する。最後に、100μl/ウェルのTMB基質溶液(Ultra-TMB ELISA、Pierce#34028)を用いて、5〜30分間のインキュベーション時間を用いてウェルを展開する。シグナルは、96ウェル分光光度計(Molecular Device Sepctramax190)を用いて652nmで読み取る。
【0131】
MCAOチャレンジ後、血清中のUCH-L1の規模は、より軽度のチャレンジ(30分間)と比較して重篤な(2時間)チャレンジで劇的に増加する。(図35)より重篤な2時間のMCAO群のUCH-L1タンパク質レベルは、30分間のMCAOよりも2〜5倍高い(p<0.01、ANOVA分析)。ANOVAによるUCH-L1レベルの群の比較は、すべての時点を合わせたすべての群(ナイーブ、ニセ、30分間のMCAOおよび2時間のMCAO)は互いに有意に異なることを示している(§p<0.001)。また、6時間、24時間、および48時間の時点でも全体的にすべての群で統計的に有意な相違が存在する(&p<0.001)。MCAO-30分間の6時間および120時間ならびにMCAO-2時間の6時間の時点で、UCH-L1レベルはその対応するニセの時間の群とは有意に異なる(*p<0.05)。
【0132】
[実施例16]
バイオマーカーレベルはヒト対象において脳卒中傷害と相関する。試料をHeartDrug, Inc.、メリーランド州Towsonから購入する。抗凝固剤としてのクエン酸中の血漿試料を、患者の入院時(ベースライン)および症状が発症した約24時間後に、虚血性(n=15)または昜出血性(n=9)の脳卒中を患っているヒト患者およびクエン酸添加した血漿対照(知られている脳卒中の症状なし、n=10)から採取する。SBDP145、SBDP120およびMAP2のレベルのアッセイを、本質的に実施例16に記載されているようにELISAによって行う。図36に示すように、SBDP145、SBDP120およびMAP-2が脳卒中後に上昇し、最も著しい傾向が昜出血性脳卒中の患者で起こる。
【0133】
[実施例17]
ヒト脳卒中患者から得られた生体試料中のバイオマーカーレベル。クエン酸添加した血漿の試料を、患者が脳卒中症状を発症した24時間以内に行った血液採取から得る(n=10、5人の虚血性脳卒中、5人の昜出血性脳卒中)。本明細書中に記載のようにELISAによって測定されたUCH-L1は、昜出血性および虚血性の群のどちらにおいても、正常な対照と比較して脳卒中患者からの血液中で有意に上昇している(図37)。虚血性と対照の患者との間の相違は、P=0.2の傾向を実証するが、この小さな試料組では統計的有意性に達しなかった。予備ROC分析により0.98のUCが得られる(p>.003)。UCH-L1は昜出血性および虚血性の脳卒中を区別する。
【0134】
慣用の生物学的技法に関与する方法は本明細書中に記載されている。そのような技法は一般に当分野で知られており、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、第1〜3巻、Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor、1989、ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、Greene PublishingおよびWiley-Interscience、New York、1992(定期的な更新を含む)などの方法論の論文中に詳述されている。免疫学的方法(たとえば、抗原に特異的な抗体の調製、免疫沈降、および免疫ブロッティング)は、たとえば、Current Protocols in Immunology、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1991、およびMethods of Immunological Analysis、Masseyeffら編、John Wiley & Sons、New York、1992に記載されている。前述の出版物のそれぞれの内容全体は、それぞれが本明細書中にその全体で明確に含められている場合と同様に、本明細書中に参考として組み込まれている。
【0135】
本明細書中で言及する特許文書および出版物は、本発明が関する分野の技術者のレベルの指標である。これらの文書および出版物は、それぞれの個々の文書または出版物が具体的かつ個々に本明細書中に参考として組み込まれている場合と同程度に、本明細書中に参考として組み込まれている。
【0136】
前述の説明は本発明の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施の際に限定的であることを意味しない。以下の特許請求の範囲は、そのすべての均等物を含めて、本発明の範囲を定義することを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の外傷性脳傷害の重篤度を決定するための方法であって、第1の時点で前記対象から得られた試料中のGFAPの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が前記対象の外傷性脳傷害の重篤度を決定する、方法。
【請求項2】
前記GFAPの量をCTスキャン正常性またはGCSスコアと相関させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脳傷害の重篤度が、外傷性脳傷害なし、軽度の外傷性脳傷害、中等度の外傷性脳傷害である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの量を測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記追加のバイオマーカーが、UCH-L1、NSE、MAP-2、SBDP150、SBDP145、SBDP120、対照、またはその組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記外傷性脳傷害のレベルが重篤な外傷性脳傷害である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記測定の前に化合物を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の時点が傷害後の2時間以内である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
対象の神経学的状態を決定するための方法であって、第1の時点で前記対象から得られた試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が前記対象の神経学的状態を決定する、方法。
【請求項10】
前記神経学的状態が虚血である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の神経活性バイオマーカーが、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の神経活性バイオマーカーがUCH-L1であり、前記第2のバイオマーカーが、GFAP、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、NSE、S100β、MAP2、MAP1、MAP3、MAP4、MAP5、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-H、α-インターネキシン、CB-1、CB-2; ICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、C-CAM; シナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、SNAP; CRMP-2、CRMP-1、CRMP-3、CRMP-4、iNOS、βIII-チューブリン、または対照である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の神経活性バイオマーカーを前記第1の神経活性バイオマーカーと同時に測定する、請求項4または12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の神経活性バイオマーカーがLC3であり、前記第2の神経活性バイオマーカーがMAP1である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の神経活性バイオマーカーがGFAPであり、前記第2の神経活性バイオマーカーがUCH-L1、NSE、MAP2、SBDP150、SBDP145、またはSBDP120である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記対象中の前記第1の神経活性バイオマーカーの量を、既知の神経学的損傷を有さない他の個体と比較するステップをさらに含む、請求項1、9、または12に記載の方法。
【請求項18】
前記対象中の前記第2の神経活性バイオマーカーの量を、既知の神経学的損傷を有さない他の個体と比較するステップをさらに含む、請求項4または12に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の神経学的バイオマーカーおよび前記第2の神経学的バイオマーカーが同じ試料中にある、請求項4または12に記載の方法。
【請求項20】
対象の神経学的状態を決定するためのアッセイであって、
前記対象から単離された生体試料を保持するための基材、
第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤
を含み、それにより、前記第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤と生体試料の一部分との反応が前記対象の神経学的状態のエビデンスとなる、アッセイ。
【請求項21】
前記第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤が抗体である、請求項20に記載のアッセイ。
【請求項22】
前記抗体が、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン; EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーを認識する、請求項21に記載のアッセイ。
【請求項23】
化合物を投与した後に対象における神経学的状態を検出するための方法であって、
化合物を対象に投与するステップ;
試料を前記対象から得るステップ;
UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン; EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーの存在について前記試料をアッセイするステップ
を含み、それにより、前記アッセイが、前記対象において神経学的損傷を検出することを可能にする、方法。
【請求項24】
前記化合物が、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である、請求項7または23に記載の方法。
【請求項25】
前記アンフェタミンがメタンフェタミンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記試料が、血液もしくはその画分、脳脊髄液、または神経組織である、請求項1、9、20、または23に記載の方法。
【請求項27】
前記神経組織が前記対象の皮質または海馬から得られる、請求項26に記載の方法。
【請求項1】
対象の外傷性脳傷害の重篤度を決定するための方法であって、第1の時点で前記対象から得られた試料中のGFAPの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が前記対象の外傷性脳傷害の重篤度を決定する、方法。
【請求項2】
前記GFAPの量をCTスキャン正常性またはGCSスコアと相関させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脳傷害の重篤度が、外傷性脳傷害なし、軽度の外傷性脳傷害、中等度の外傷性脳傷害である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの量を測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記追加のバイオマーカーが、UCH-L1、NSE、MAP-2、SBDP150、SBDP145、SBDP120、対照、またはその組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記外傷性脳傷害のレベルが重篤な外傷性脳傷害である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記測定の前に化合物を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の時点が傷害後の2時間以内である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
対象の神経学的状態を決定するための方法であって、第1の時点で前記対象から得られた試料中の第1の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップを含み、それにより、前記測定が前記対象の神経学的状態を決定する、方法。
【請求項10】
前記神経学的状態が虚血である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の神経活性バイオマーカーが、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン、EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
第2の神経活性バイオマーカーの量を測定するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の神経活性バイオマーカーがUCH-L1であり、前記第2のバイオマーカーが、GFAP、SBDP150、SBDP150i、SBDP145、SBDP120、NSE、S100β、MAP2、MAP1、MAP3、MAP4、MAP5、MBP、Tau、NF-L、NF-M、NF-H、α-インターネキシン、CB-1、CB-2; ICAM、VAM、NCAM、NL-CAM、AL-CAM、C-CAM; シナプトタグミン、シナプトフィジン、シナプシン、SNAP; CRMP-2、CRMP-1、CRMP-3、CRMP-4、iNOS、βIII-チューブリン、または対照である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の神経活性バイオマーカーを前記第1の神経活性バイオマーカーと同時に測定する、請求項4または12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の神経活性バイオマーカーがLC3であり、前記第2の神経活性バイオマーカーがMAP1である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の神経活性バイオマーカーがGFAPであり、前記第2の神経活性バイオマーカーがUCH-L1、NSE、MAP2、SBDP150、SBDP145、またはSBDP120である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記対象中の前記第1の神経活性バイオマーカーの量を、既知の神経学的損傷を有さない他の個体と比較するステップをさらに含む、請求項1、9、または12に記載の方法。
【請求項18】
前記対象中の前記第2の神経活性バイオマーカーの量を、既知の神経学的損傷を有さない他の個体と比較するステップをさらに含む、請求項4または12に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の神経学的バイオマーカーおよび前記第2の神経学的バイオマーカーが同じ試料中にある、請求項4または12に記載の方法。
【請求項20】
対象の神経学的状態を決定するためのアッセイであって、
前記対象から単離された生体試料を保持するための基材、
第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤
を含み、それにより、前記第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤と生体試料の一部分との反応が前記対象の神経学的状態のエビデンスとなる、アッセイ。
【請求項21】
前記第1の神経活性バイオマーカー特異的結合剤が抗体である、請求項20に記載のアッセイ。
【請求項22】
前記抗体が、UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン; EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーを認識する、請求項21に記載のアッセイ。
【請求項23】
化合物を投与した後に対象における神経学的状態を検出するための方法であって、
化合物を対象に投与するステップ;
試料を前記対象から得るステップ;
UCH-L1、GFAP、NSE、NeuN、CNPase、CAM-1、iNOS、MAP-1、MAP-2、SBDP145、SBDP120、βIII-チューブリン、シナプスタンパク質、ニューロセルピン、α-インターネキシン、LC3、ニューロファシン; EAAT、DAT、ネスチン、コルチン-1、CRMP、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-5、VCAM-1、NCAM-1、NCAM-L1、NCAM-120、NCAM-140、NL-CAM、AL-CAM、またはC-CAM1である神経活性バイオマーカーの存在について前記試料をアッセイするステップ
を含み、それにより、前記アッセイが、前記対象において神経学的損傷を検出することを可能にする、方法。
【請求項24】
前記化合物が、カイニン酸、MPTP、アンフェタミン、シスプラチン、またはNMDA受容体の拮抗剤である、請求項7または23に記載の方法。
【請求項25】
前記アンフェタミンがメタンフェタミンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記試料が、血液もしくはその画分、脳脊髄液、または神経組織である、請求項1、9、20、または23に記載の方法。
【請求項27】
前記神経組織が前記対象の皮質または海馬から得られる、請求項26に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公表番号】特表2012−530907(P2012−530907A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516369(P2012−516369)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/039335
【国際公開番号】WO2010/148391
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(510275172)バンヤン・バイオマーカーズ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/039335
【国際公開番号】WO2010/148391
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(510275172)バンヤン・バイオマーカーズ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
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