説明

神経学的障害の治療に有用な方法および医薬用組成物

【課題】神経障害を持つ患者の神経障害を治療する方法の提供。
【解決手段】神経障害を持つ患者に、患者の循環血中DHA量、血中ARA量、または、その両者を正常なレベルに上昇させるのに有効な量の、DHAを含む単細胞微生物の油脂、ARAを含む単細胞微生物の油脂、または、その両者を投与することからなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含んだ単細胞微生物油脂(single cell microbial oil)、アラキドン酸(ARA)を含んだ単細胞油脂(single cell oil)、またはDHA含有油脂とARA含有油脂との組み合わせ物を治療学的に有効な量にて含む組成物を、神経学的障害の治療を必要とする個体に投与することによって、ある特定の神経退化性疾患や精神医学的障害も含めた神経学的障害を治療する方法に関する。これらの油脂は、医薬用組成物としても、補充食としても、あるいは植物油や脂肪の一部を置き換えることによって食品の形でも投与することができる。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳や他の神経組織には長鎖の多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、これら組織の細胞膜の構造、流動性、および機能を調節する際に、こうした脂肪酸が重要な役割を果たすものと考えられている。アラキドン酸(以後ARAと呼ぶ)はω−6クラスの長鎖多価不飽和脂肪酸(5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、20:4ω−6)であり、
人体中に最も豊富に存在するC20多価不飽和脂肪酸である。ARAは、構造脂質(structural lipid)としての主要な役割の他に、多くの循環エイコセノイド(circulating eicosenoid)〔例えば、プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタサイクリンI2(PG
2)、トロンボキサンA2(Tx2)、およびロイコトリエンB4(LTB4)とC4(L
TC4)〕に対する直接的な前駆体である。これらのエイコセノイドは、リポタンパク質
の代謝、血液のレオロジー、血管の状態、白血球の機能、および血小板の活性化に対して調節作用を示す。ヒトの場合、ARAは新たに合成されないが、リノール酸(飲食物から摂取しなければならない必須脂肪酸)の伸長と不飽和化によって合成することができる。
【0003】
ドコサヘキサエン酸(4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸22:6ω−
3)(以後DHAと呼ぶ)は、ヒトの脳や他の神経組織における灰白質の構造成分のうち最も多く存在する脂肪酸である。ヒトの場合、DHAは新たに合成することはできない。しかしながら、飲食物中に適切な長鎖多価不飽和脂肪酸が供給されれば、幾つかの細胞タイプ(例えばアストログリア)によってこのω−3脂肪酸を合成できるという証拠がある〔S.ムーアらによる“ジャーナル・オブ・ニューロケミストリー56(1991)518-524ページ”〕。脳と網膜の細胞膜中に見いだされるDHAのほとんどは、食物供給源から得られたものであると考えられている。
【0004】
脳細胞に対する回復不能な損傷を防止するために、脳の速やかな発達期に多価不飽和脂肪酸を供給することの重要性は、当業界においてよく知られている。幼児は特にDHAの合成能力が低いが、幼児に母乳(必須脂肪酸、とりわけDHAおよびARAを豊富に含有)を供給することによって、幾らかの不足分は補うことができる〔サンダーズ(Sanders
)らによる“Am.J.Clin.Nutr.,31(1978)805-813ページ”〕。赤ん坊として母乳を
与えられた子供と、赤ん坊として市販の幼児用調合乳を与えられた子供に対する標準的な知能検査の結果を比較した最近の研究によれば、飲食物中の母乳の割合とその結果得られるIQとの間に、用量作用の関係があることが示されている〔A.ルーカス,R.モーリー,T.J.コール,G.リスター,およびC.リーソンらによる“ペイネ・ランセット(Payne
Lancet)339(1992)261-264ページ”〕。これらの研究は、食事調整療法(dietary intervention therapy)が、神経系の構造的発達に利用できるDNAのレベルに影響を及ぼ
しうるということを示している。
【0005】
リン脂質、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンの主要な2種類中のDNAレベルが、アルツハイマー病患者の脳組織においてはかなり減少している
ことが観察されている。高齢の患者(臨床上からは、痴呆や他の精神障害は認められない)から採取した対照標準サンプルは、リン脂質のこれら2種類の脂肪酸組成にそれほどの変化はなかった。これらの結果は、アルツハイマー病患者の脳組織中におけるDHA濃度の変化が、通常の加齢によるものではなく、神経退化性疾患に含まれる病理学的メカニズムに特有のものであることを示している〔M.ソデルバーグ,C.エドランド,K.クリス
テンソン,およびG.ダリナーによる“脂質26(1991)421-425ページ”〕。
【0006】
ペルオキシソーム障害は、極めて長い鎖をもつ脂肪酸のレベルが増大することを特徴とする一群の神経退化性障害であり、罹患した個体においてこれらの脂肪酸を分解するための能力が損なわれたことが原因で起こる。これらの障害は、いずれも、ペルオキシソームとして知られている亜細胞性小器官中に局在化したある欠陥が原因のようであるという点において関連している〔N.ゴードンによる「“ペルオキシソームの障害”,脳の発達9
(1987)571-575ページ」〕。これらのペルオキシソーム障害は、特定の疾患においてみ
られるペルオキシソーム機能の消失の程度に基づいて3つのグループに分類されている〔A.C.テイルによる“ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ペディアトリクス,151(1992)117-120ページ”〕。
【0007】
ペルオキシソーム障害の第1グループは、ペルオキシソームとペルオキシソーム機能の実質的に完全な消失を特徴とする。これらの障害としては、ツェルヴェーガー症候群、新生児の副腎白質ジストロフィー(adrenoleucodystrophy)、乳幼児のレフスム病、及びハイパーペペコリック酸血症(hyperpepecolic acidemia)がある。第2グループの障害は
、多くのペルオキシソーム機能の消失を特徴とし、点状骨端形成異常、およびツェルヴェーガー様症候群がある。第3グループの障害は、1つのペルオキシソーム機能だけの消失を特徴とし、副腎白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害(adrenomyeloneuropathy)、
アシル-CoAオキシダーゼ欠乏症、二官能タンパク質欠乏症、チオラーゼ欠乏症、タイプIの高シュウ酸尿症、無カタラーゼ血症、および大人のレフスム病がある。ペルオキシソーム障害をもつ患者の臨床データによれば、表現型の表示に多様な広がりを示しており、この表現型の表示は患者の年齢によってかなり変化する。しかしながら、いずれの患者においても神経学的機能が徐々に損なわれ、このためしばしば自律神経機能の低下をきたし、早期に死に至ることが多い。
【0008】
ペルオキシソーム障害をもった患者の組織における多価不飽和脂肪酸についての最近の研究によれば、これら組織中の脂肪酸のトータル量は正常だとしても、患者の組織における脂肪酸組成にかなりの変化が起きている、ということが判明した。これらの患者は、血清脂質組成物中のDHAとARAのトータル量がかなり減少している。血清プラスマロゲンのレベルも低下している。
【0009】
アッシャー症候群は、視覚細胞の退化に関連した常染色体の劣性遺伝障害であり、網膜炎pigmentsumを引き起こす。視覚細胞は、視覚細胞のキューター・セグメント(cuter segment)を構成する光受容体のリン脂質中でエステル化されたDHAを極めて多量に含有
している。バザン(Bazan)とその共同研究者らは最近、アッシャー病患者の血漿リン脂
質は、罹患していない個体の血漿リン脂質に比べてDHAとARAの含有量がかなり少ないということを見いだした〔N.G.バザン,B.L.スコット,T.S.レディ,およびM.Z.ペ
リアスによる“Biochem.Biophys Res.Comm.141(1986)600-604ページ”〕。
【0010】
研究者らはさらに、他の臨床的な病気〔例えば、老年痴呆、糖尿病性ニューロパシー、多発性硬化症、精神分裂病、および重金属(例えば、鉛、アルミニウム、および水銀)を多量に取り込んだ場合に付きもののニューロパシー〕に罹っている患者は、血清脂質中にDHAおよびARAを、健康体中に見られるレベルに比較してかなり低下したレベルにて含んでいることを見いだした。例えば最近の研究によれば、ARAの血小板リン脂質への
エステル化レベルの変化と、患者における情緒分裂障害の存在との間に相関性があることが判明した〔L.デミッシュらによる“Prostaglhndins Leukot.Essent.Fatty Acid 46
(1992)47-52ページ”〕。精神分裂病患者の血漿リン脂質中で必須脂肪酸の異常な生化
学が起こっている、という証拠が報告されている〔D.F.ホロビンによる“Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acid 46(1992)71-77ページ”〕。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
研究者らは神経退化性障害(例えば、アルツハイマー病や種々のペルオキシソーム障害)の理解に対してある程度の進歩を果たしたが、これらの障害を治療するための有効な手段は依然として確立されていない。同様に、精神分裂病や上記した他の神経学的障害を治療するための有効な薬物の開発が充分とはいえない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、必須脂肪酸であるDHAとARAの血清、組織、もしくは膜でのレベルが影響を受けるという、神経学的障害を治療するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、有効量の脂肪酸DHAもしくはARA、またはDHAとARAの混合物を患者に投与することを含む、神経学的疾患に罹っている患者を治療する方法に関する。これらの脂肪酸は、DHAやARAが天然複合脂質として供給される油脂の形で(好ましくはトリグリセリドの形で)投与される。治療しようとする神経学的疾患としては、ペルオキシソーム疾患、アルツハイマー病、アッシャー症候群、老年痴呆、糖尿病性ニューロパシー、多発性硬化症、精神分裂病、および重金属(例えば、鉛、アルミニウム、および水銀)を多量に取り込んだ場合に付きもののニューロパシーだけでなく、血清、組織、または膜でのDHA濃度もしくはARA濃度が、正常な個体において見られるDHA濃度もしくはARA濃度に比較してかなり影響を受けている、という他の神経退化性疾患がある。本発明はさらに、これらのω−3およびω−6脂肪酸を治療有効量にて供給する、DHAもしくはARAを含有した医薬用組成物、あるいはDHAとARAとを含有した組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
これらの組成物を投与すると、神経退化性障害あるいはDHAやARAの欠乏に関係した他の障害(例えば精神分裂病)をもっていると診断された患者に対して予防処置だけでなく治療処置も可能となる。これらの治療法や組成物はさらに、こうした神経学的障害のうちの1つを発現する恐れのある個体に対して予報処置を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明によれば、神経学的障害を治療するための方法は、DHAを含んだ微生物油脂、ARAを含んだ微生物油脂、あるいはこれらの組み合わせ物をこのような障害に罹っている人に投与することを含む。こうした神経学的障害としては、神経退化性障害やある特定の精神医学的障害(例えば精神分裂病)があり、これらの障害においては、血清、組織、または膜での必須脂肪酸DHAとARAのレベルが影響を受けている。DHAとARAは天然複合脂質の形態を採っている。
【0016】
DHAとARAはトリグリセリドの形態となっているのが好ましいが、リン脂質の形態となっていてもよい。DHAとARAは、DHA生成微生物またはARA生成有機体を油脂生成条件下にて培養することによって、単細胞微生物油脂として得られる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によれば、DHAまたはARAを含有した単細胞微生物油脂
を生成することのできる微生物が、このような有機体の成長を維持することのできる栄養素含有溶液中にて発酵槽で培養される。生成される微生物油脂は、当該脂肪酸を多量に含有しているのが好ましい(すなわち、少なくとも約20重量%のDHAまたは10重量%のARAを含有)。
【0018】
本発明においては、DHAもしくはARAを含有した微生物油脂を生成することのできるいかなる微生物も使用することができる。これらの微生物は、微生物の培養物から採取したバイオマスの脂肪酸分布にてDHA油脂もしくはARA油脂が存在するかどうかを調べることによって識別することができる。これらの分布は一般に、サンプル中に存在する脂肪酸のメチルエステル誘導体のガスクロマトグラフィーによって得られる。
【0019】
本明細書で使用している“微生物”や“いかなる特定のタイプの微生物”とは、野生型株、突然変異型株、または組み換え型株を含む。DHAまたはARAを含有する微生物細胞油脂を生成するよう設計された野生型微生物や組み換え型微生物を使用して、DHA含有微生物油脂やARA含有微生物油脂を生成させることができる。このような組み換え型株には、同じ基質が供給された場合に、同種の野生型微生物によって生成される量に比較して、より多くの量のDHAもしくはARAを、より多くのトータル油脂を、あるいはこの両方を単細胞油脂にて生成するよう設計されたものも含まれる。より原価効率の良い基質を効率的に使用するよう選定・設計された微生物は、野生型微生物の場合と同量のDHAもしくはARA含有単細胞油脂を生成するものの、本発明の好ましい実施態様に対して特に有用である。
【0020】
DHA含有微生物油脂の生成には、光合成藻類の種〔例えば、チャットネラ(Chattonella)、スケレトネマ(Skeletonema)、タラシオシラ(Thalassiosira)、イソチリシス
Isochrysis)、ヒメノモナス(Hymenomonas)、またはクリプトモナス(Cryptomonas)〕を使用することができる。好ましい微生物は藻類の有機栄養種であり、渦鞭藻綱〔例えばクリプテコジニウム(Crypthecodinium)〕;チトリジオミセテス(Chytridiomycetes
)〔例えばトラウストチトリウム(Thrausto-chytrium)〕やシトゾチトリウム(Schitzochytrium)等の真菌類;あるいは卵菌綱〔例えば、モルチエレラ(Mortierella)、サプ
ロレグニア(Saprolegnia)、またはムコール(Mucor)〕などがあるが、これらに限定されない。
【0021】
DHAを生成させるための好ましい微生物は、クリプテコジニウムも含めた双鞭毛虫類である。特に好ましいのは、偏性有機栄養生物であるクリプテコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)であり、これについては1990年2月13日付け出願の米国特許出願第479,135号に説明されている。C.コーニーが好ましいのは脂肪酸を生成するからであり、このときDHAが、多価不飽和脂肪酸のトータル量の中で約1%より多い量で存在する唯一の多価不飽和脂肪酸であり、この量は本発明の方法を実施する上で重要な点である。メリーランド州ロックヴィルのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にC.コーニーのある株のサンプル(多量の
DHAを生成する)を寄託し、ATCC承認番号40750を付けた。
【0022】
ARAを生成させるのに有用な微生物としては、藻類の種〔例えば、ポルフィリジウム(Porphyridium)、オチロモナス(Ochromonas)、およびヨーグレナ(Euglena)〕、お
よび真菌類〔例えば、ピティウム(Pythium)やモルチエレラ〕などがある。ARAを生
成するこれらの種の多くは、このほかに相当量のエイコサペンタン酸(EPA)も生成する。予想外のことに、P.インシジオスム(P.insidiosum)およびM.アルピナ(M.alpina)はARAを生成するが、少なくとも実質的にはEPAを含まない、ということが見いだされた。ここで“実質的に含まない”とは、ARA対EPAの比が少なくとも5:1で
あるということを意味している。この比は少なくとも10:1であるのが好ましい。油脂
中の脂肪酸含量の1%以下がEPAであるのが最も好ましい。魚油の場合もそうであるが、治療食中のEPAレベルが高いと、食物リノール酸からARAを形成する能力が低下する。さらに、患者(特に、プロトロンビン時間の増大している高齢、高血圧、または妊娠中の患者)にEPAを含有した魚油を投与することは、EPAが血液希薄効果をもっているので望ましくない。したがって、ARAとEPAの両方を生成する真菌種は本発明の方法に使用することができるけれども、EPAをそれほど多くは生成しない種を使用するのが好ましい。好ましい種としては、ピティウム・インシジオスムおよびモルチエレラ・アルピナがある。どちらの種も市販されており、株は、メリーランド州ロックヴィルのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクティブ(American Type Culture Collective)に寄託されている(例えば、ATCC承認番号がそれぞれ28251と42430)。
【0023】
同様に、DHAとEPAの両方を生成する微生物種を、本発明において使用するDHA油脂の生成源として使用できるけれども、少なくとも実質的にEPAを含まない種を使用するのが好ましい。この比は少なくとも10:1であるのが好ましい。油脂中の脂肪酸含
量の1%以下がEPAであるのが最も好ましい。
【0024】
DHA含有油脂の生成
DHAを生成する微生物は、炭素源(例えばグルコース)と窒素源(例えば酵母抽出物やペプトン)を含有した単純な培地にて培養することができる。これらの成分を溶液(例えば海水)中で使用すると、経済的に重要な成長速度と細胞密度が得られる。例えば、3〜5日の発酵工程中、溶液1リットル当たりバイオマス少なくとも10g(好ましくは1リットル当たり20〜40g)というC.コーニーの細胞密度を達成することができる。
【0025】
培養はいかなる適切な発酵槽においても行うことができるが、有機体は、攪拌機つきのタンク発酵槽またはエアリフト発酵槽にて成長させるのが好ましい。攪拌機つきのタンク発酵槽を選定した場合は、ラッシュトン型(Rushton-type)の高効率タービン、ピッチ付きブレード、または船舶用インペラーを使用して攪拌が行われる。攪拌とスパージングにより、微生物への酸素の供給が繰り返される。攪拌速度は通常、酸素要求量の増大により、バイオマスが増大するにつれて大きくする。先端速度(tip speed)は約500cm/秒以下(好ましくは約300cm/以下)に保つのが望ましい。せん断による損傷を受ける
ことなく、より大きな先端速度に耐えることのできる微生物の株の選定は、当技術者にとって公知のことである。
【0026】
DHA含有油脂の生成に使用される有機体は、いかなる適切な栄養素含有溶液中でも成長させることができる。前述のように、海水は、多くの有機体にとって栄養素含有溶液に代わる許容可能な培地である。海水は、天然のままでも、濾過しても、あるいは人工的に混合してもよく、またこれらのいずれも水で希釈して塩分濃度を、例えば通常濃度の1/
2〜1/4に減少させても、あるいは通常濃度の2倍に濃縮してもよい。好ましい培地は
、インスタントオーシャン(InstantOceanR)ブランドの人工海水、あるいは、海水1リ
ットル中4.5〜20gのNaCl、海水1リットル中1.23gのMgSO4・7H2
、及び海水1リットル中90mgのCaCl2を含んだ混合物である。微量栄養素を加え
てもよく、また限定された培地を使用するときには微量栄養素が必要とされることがある。
しかしながら、このような微量栄養素に関しては当技術者によく知られており、一般には海水または水道水中に存在している。選定された有機体が有機栄養性である場合は(例えば、クリプテコジニウムやトラウストチトリウム)、還元炭素供給源(reduced
carbon source)を加える。クリプテコジニウムとトラウストチトリウムは
、成長のために還元炭素供給源を必要とする。
【0027】
海水培地を発酵槽に加えた後、栄養素および培養しようとする微生物の種子培養物を加
える前に、培地を含んだ発酵槽を滅菌処理し、そして冷却するのが好ましい。栄養素と海水とを一緒に滅菌処理することも可能である、このやり方で滅菌処理すると有効なグルコースが失われてしまうことがある。栄養素と微生物は同時に加えても、あるいは逐次的に加えてもよい。
【0028】
効果的な種子濃度は、当技術者であれば容易に求めることができる。攪拌機つきタンク発酵槽を使用する場合は、発酵の開始時に乾量基準にて1リットル当たり約0.05〜1.0gの母集団を加えるのが好ましい。例えば、1ml当たり少なくとも約1〜5×106個のC.コーニー細胞が適切であろう。したがって、30リットルの発酵槽の場合は、生存能力のある細胞を1リットル当たり10〜20g乾量の密度にて含有している播種用培地(seeding media)を1〜3リットル加えることになる。
【0029】
酸素のレベルは、空気飽和レベルの少なくとも約10%という溶解酸素レベルに保持するのが好ましい。DHAの生合成には酸素が必要であり、したがってDHAをより高い収率で得るには、空気飽和レベルの約10〜50%という溶解酸素レベルが必要である。例えば、1秒当たり150〜200cmという攪拌先端速度と、1分当たり発酵槽1容当たり空気1容(1 volume of air per volume of fermentor per minute;VVM)という曝気速度とを組み合わせると、C.コーニーに対して、培地1リットル当たり約25g乾量と
いうバイオマス密度にて、約20〜30%という溶解酸素レベルが得られる。細胞密度がより高くなるとより高い溶解酸素レベルが必要となり、こうした溶解酸素レベルの増大は、曝気速度を増大させること、酸素のスパージングを行うこと、あるいは発酵槽中の空気圧を増大させることよって達成することができる。
【0030】
使用可能な炭素供給源は当技術者に公知である。例えば、炭素は、単糖類または二糖類(例えばスクロース、ラクトース(1dactose)、フルクトース、またはグルコース)の
形で供給することができる。独立栄養生物は、二酸化炭素を炭素供給源として使用する。多くの有機体はさらに、他のより複雑な還元炭素源(例えば糖蜜、フルクトース高含量のコーンシロップ、および加水分解スターチ)上で成長する。一般には、1リットル当たり約20〜50gのグルコースで発酵を開始させる。必要に応じて、発酵中にさらなるグルコースを加える。これとは別に、1リットル当たり約50〜150gのグルコースを最初に加えてもよく、これによってこの後の付加の頻度を最小限に抑えることもできる。他の有機体に供給される炭素源の量は、当技術者であれば容易に求めることができる。
【0031】
還元炭素源のほかに、窒素源(例えば、酵母抽出物やペプトン)も培地に供給される。例えば、ディフコ(Difco)ブランドやマーコー(Marcor)ブランドの酵母抽出物やシェ
フトン(Sheftone)ブランドのペプトンを使用することができる。酵母抽出物やペプトンは、微量栄養素も含有する有機窒素源である。この他の窒素源は、当技術者であれば容易に見いだすことができる。しかしながら、このような化合物は、一般には酵母抽出物より高価である。DHAもしくはARAを生成する藻類の変異株で、尿素、アンモニア、または硝酸塩を窒素源として使用することのできる変異株であれば、いかなる変異株でも本発明において使用することができる。
【0032】
一般には、1リットル当たり約6〜12gの酵母抽出物で発酵を開始させる。必要に応じて、酵母抽出物をさらに加えてもよい。通常の発酵操作には、操作進行中1リットル当たり約8〜15gの酵母抽出物が必要である。したがって、その量の酵母抽出物を最初に加えてもよく、こうすればその後の付加の必要性が少なくなる。正確な量は、当技術者であれば容易に決定することができる。一般に、グルコース対酵母抽出物の比は約2:1〜
25:1である。
【0033】
培養は、いかなる生命維持温度でも行うことができる。一般に、微生物(例えば、クリ
プテコジニウムやトラウストチトリウム)は、約15〜34℃の温度で成長する。ある種の真菌類は、約10〜80℃の温度で効果的に成長する。温度は約20〜30℃に保持するのが好ましい。より高い温度で成長する株が好ましい。なぜなら、そうした株はより速い倍加時間を有し、これによってトータルの発酵時間が短縮されるからである。他の微生物に対する適切な温度範囲は、当技術者であれば容易に決定することができる。
【0034】
培養は、広いpH範囲(一般には、約5.0〜9.0のpH)わたって行うことができる。発育相に対しては、約6.0〜7.0のpH範囲を使用するのが好ましい。KOHやNaOH等の塩基を使用して、接種前に培地のpHを調節する。発酵の後期段階において、栄養素の使用につれて培地のpHが増大または減少することがある。必要であれば、適当な酸もしくは塩基を加えることによって、発酵中のpHを発育相における適切なアルカリ性または酸性に調節することができる。
【0035】
培養物を窒素枯渇相もしくはリン酸塩枯渇相に到達させることにより、あるいは培養物のpHを上昇させることにより、定常相の誘導によって微生物中に微生物細胞油脂の生成が引き起こされる。培地に窒素源が枯渇するとともに、利用可能なグルコースのレベルが成長にとって充分なままであるよう、限定された量の酵母抽出物を供給することによって酵母抽出物の枯渇を引き起こすことができる。単細胞油脂の効率的な生成を促進するのは、炭素源対窒素源の比である。グルコースと酵母抽出物を例として使用すると、接種時における炭素源対窒素源の好ましい比は、(グルコース約10〜15部)対(酵母抽出物1部)である。当技術者であれば、他の炭素源および窒素源に関して同様な比を算出することができる。
【0036】
油脂生成の誘導後、培養物をさらに24時間成長させる。この時間中、DHAを含有した単細胞油脂が合成されており、顕微鏡を使用して観察すると、細胞の内部に油滴が見える。当技術者は、酵母抽出物の付加量に基づいて、予測量の細胞バイオマスを得るのに必要な発酵時間を容易に算出することができる。その時間が経過してから、培養物をさらに24時間成長させて採取する。一般に、例えばクリプテコジニウムまたはトラウストチトリウムの細胞は約60〜90時間にわたって培養されるが、この時間は変わることがある。
例えば、クリプテコジニウム株(ATCC承認番号40750と表示)を使用すると、得られるバイオマスのうち約15〜30%が抽出可能な油脂を含む。株を適切に選定すれば、この割合を増大させることができる。油脂は、一般には次のような脂肪酸組成を有するトリグリセリドを約70%以上含むのが好ましい:
15〜20%のミリスチン酸(C14:0
15〜25%のパルミチン酸(C16:0
5〜15%のオレイン酸(C18:1
30〜50%のDHA(C22:6
この粗製油脂は黄橙色であることを特徴とし、室温では液体である。油脂は少なくとも約20重量%のDHAを含有するのが好ましく、約40重量%のDHAを含有するのがさらに好ましく、少なくとも約50重量%のDHAを含有するのが最も好ましい。
【0037】
当技術者に公知の従来手段(例えば遠心分離、凝集分離、または濾過による分離)によって有機体を採取し、これを直ちに処理することもできるし、あるいはさらなる処理のために乾燥することもできる。いずれの場合も、有効量の溶媒を使用して容易に油脂を抽出することができる。当技術者であれば、容易に適切な溶媒を決定することができる。しかしながら、好ましい溶媒としては、高純度ヘキサンや超臨界流体(supercritical fluid
)(例えば超臨界CO2)がある。抽出を行う前に、ある特定の親油性酸化防止剤〔例え
ばβ−カロチン、α−トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル(ascorbyl palmitate)、およびBHT〕を加えることができる。これらの化合物は、抽出・精製工程時におけ
る油脂の酸化を起こしにくくする。
【0038】
油脂高含量の植物種子からの油脂の抽出に対し、超臨界流体を使用する一般的な抽出法が開発されている(マフューらによる“超臨界流体による抽出,バターワース,1986)”。しかしながら、これらの標準法は、一般には微生物の抽出に適用できない。例えば、噴霧乾燥した藻類細胞は粉体のコンシステンシーを有しており、微生物バイオマスが圧縮されるので超臨界CO2の流れが制約される。
【0039】
さらに、微小藻類や真菌類の細胞壁は、ほとんどの種子油物質の細胞壁とは化学的に異なる。圧縮を防止し、効率的な流れと抽出を可能にするために、藻類バイオマスを0.1
〜5.0部の脂質非含有構造剤(例えば、セライトや珪藻土)と混合することができる。
50mlの反応器(450気圧,100℃)において、C.コーニーから油脂の86%を
25分で抽出し、そして100%を85分で抽出した。
【0040】
抽出溶媒がヘキサンである場合は、ヘキサンと乾燥バイオマスの適切な割合は、乾燥バイオマス1kg当たりヘキサン約4リットルである。ヘキサンは、攪拌機つき反応容器中において約20〜50℃の温度で約2時間、バイオマスと混合するのが好ましい。ミキシング後、バイオマスを濾過し、油脂を含有しているヘキサンから分離する。これとは別に、湿潤状態のバイオマスペースト(固形分30〜35%)を、より極性の高い溶媒(例えばエタノール、イソプロパノール、又はヘキサンとイソプロパノールの混合物)を使用して直接抽出することもできる。
【0041】
溶媒は、当技術者に公知の蒸留法によって油脂から除去する。濾過、分離、および蒸留を行うためには、従来の種子油加工処理装置が適切である。必要であれば、あるいは特定の用途のために望ましいのであれば、当技術者に公知のさらに他の加工処理工程を施すこともできる。さらに、これらの工程は従来の植物油加工処理に含まれている工程に類似しており、これらの工程により、DHA高含量の極性脂質フラクションの分離が可能となる。
【0042】
ARA含有油脂の生成
ARAを生成する真菌類もしくは藻類を、ARA含有油脂を生成する適切な培養条件下で培養する。必要であれば、微生物を先ず振とうフラスコ中で成長させ、次いで発酵槽に移すことができる。成長培地の組成は変わってもよいが、炭素源と窒素源は常に含有する。好ましい炭素源はグルコースであり、その量は、成長培地1リットル当たりグルコース約10〜200gという範囲でよい。一般に、振とうフラスコ培養に対しては、約50g/リットルのグルコースが使用される。グルコースの量は、最終培養物に求められる密度
に応じて変わりうる。使用できる他の炭素源としては、糖蜜、フルクトース高含量のコーンシロップ、加水分解スターチ、あるいは発酵プロセスにおいて従来使用されている他のすべての低コスト炭素源などがある。さらに、ラクトースを炭素源として供給することもできる。したがって、ホエー透過物(whey permeate)(ラクトース含量が高く、かなり
低コストの炭素源である)を基質として使用することができる。これら炭素源の適切な量は、当技術者であれば容易に決定することができる。通常は、発酵工程中において、追加量の炭素源を加える必要がある。
【0043】
窒素は一般に、成長培地1リットル当たり約2〜15gの濃度にて、酵母抽出物の形で供給する。1リットル当たり約8〜10gの酵母抽出物を供給するのが好ましい。ペプトン、トリプトン、コーン・スティープ・リカー(corn steep liquor)なども含めた他の
窒素源を使用することができる。これら供給源の付加量は、当技術者であれば容易に決定することができる。窒素は、培養操作全体にわたって加えてもよいし、あるいはバッチ方式で(すなわち、培養操作前に一度に全部)加えてもよい。
【0044】
適切な温度(通常は約25〜30℃)で3〜4日培養した後、従来の攪拌機つきタンク発酵槽またはエアリフト発酵槽において接種物として使用するのに充分な量の真菌類または藻類が成長した。発酵は、バッチ発酵方式でも、供給バッチ(fed-batch)発酵方式で
も、あるいは連続発酵方式でもよい。攪拌機つきタンク発酵槽には、ラッシュトン型タービンインペラー、または好ましくは船舶型軸インペラー(marine-type axial impeller)が取り付けられている。
【0045】
所望の炭素源や窒素源を加えることによって発酵槽を調製する。例えば1.5リットル
発酵槽は、水1リットル当たり約50gのグルコースと約6gの酵母抽出物とをミキシングすることによって調製することができる。前述したように、他の炭素源や窒素源、あるいはそれらの混合物も使用することができる。
【0046】
例えば、栄養溶液を含むレアクターは、DHA生産用の微生物培養の所で先に考察したように、接種の前に加熱することによって滅菌しなければならない。30℃に冷やした後、接種物を加え、培養を開始することができる。ガス変換は、空気噴霧によって提供される。空気噴霧速度は変えることができるが、望ましくは、約0、5から約2.0の空気容量/発酵槽容量/分に調整される。望ましくは、溶解酸素レベルは、溶液の空気飽和値の約10%から約50%になるように保たれる。従って、噴霧速度の調整は、培養を行っている間中、必要とされるであろう。
【0047】
攪拌は、発酵を行っている間中、行うのが望ましい。攪拌は、羽根車によって提供される。攪拌チップの速度は、50cm/秒から500cm/秒、望ましくは、100から200cm/秒に設定するのが望ましい。
【0048】
一般に、発酵に用いる接種物の量は、変えることができる。典型的には、発酵槽の全培養液量の約2%から10%の対数増殖期の培養液を、接種物として用いることができる。栄養レベルはモニターしなければならない。グルコースレベルが5g/lより低くなった場合、さらにグルコースを加えなければならない。典型的な培養サイクルには、約100gのグルコースおよび約15gの酵母/lが用いられる。真菌または藻類では、この油脂生産を高めるように培養を行っている間は、窒素を涸渇させることが望ましい。このことは、エム.アルピナ(M.alpina)を生産用微生物として用いる場合、特に真実である。
【0049】
場合によっては、培養物は過剰な量の泡を作るであろう。所望により、熟練者に既知の、例えばMazu310Rの様な、抗発泡剤を発泡を抑えるために加えることもできる。
【0050】
培養の温度は変えることができる、しかし、ARAおよびEPAの両方を生産する微生物は、より高い温度で培養した場合、EPAをより少なく、ARAをより多く生産する傾向にある。例えば、モルチエレラ アルピナ(Mortierella Alpina)を18℃より低い温度で培養すると、EPAを作り始める。従って、ARAの優先的な生産を誘導する水準に温度を保つことが望ましい。適当は温度は、典型的には、約25℃から約30℃である。
【0051】
望ましくは、培養は、所望するバイオマス濁度に到達するまで続ける。望ましいバイオマスは、約15−40g/lの生物体である。典型的には、その様なバイオマスは、接種後48−72時間で達成される。この時、生物体は、典型的には、約5−40%の複合脂質、その約10−50%はARAである、を含み、集菌することができる。
【0052】
集菌は、濾過、遠心分離、または凝集のような任意の適当な方法によって行うことがで
きる。より低い経費で行えるため、濾過が望ましいであろう。
【0053】
集菌後、バイオマスは乾燥させることなく抽出することができる。所望により、バイオマスは、抽出の前に、真空乾燥、流動層乾燥、または凍結乾燥によって、任意の残余水分を除去することができる。水分が除去される場合、ARA含有油脂を抽出するために非極性溶媒を用いることが望ましい。任意の非極性抽出が適当であり、ヘキサンが望ましい。上述のように、CO2またはNOのような臨界超過流体もまた、藻類および真菌からAR
Aを豊富に含む油脂を抽出するために用いることができる。M.alpinaのような真菌は、予想外にCO2で抽出するのが難しいが、真菌バイオマスの油脂の89%程を、9
0℃以上で400気圧の圧力で回収することができる。代わりに、約30から50%の固体を含む湿式バイオマスは、典型的には、細かく砕き、エタノール、イソプロピルアルコール、またはヘキサンとイソプロピルアルコールの混合物のような極性溶媒を用いて直接抽出することができる。
【0054】
水性抽出の望ましい方法は、適当な反応ケットル中、バイオマスを極性溶媒イソプロピルアルコールと混合することが含まれる。その様なケットルは既知である。バイオマス1部当たり3−6部の溶媒を用いることが望ましい。最も望ましくは、混合は、窒素存在下、またはβ−カロチン、α−トコフェノール、アスコルビルパルミテート、またはBHTのような抗酸化剤を加えて行われ、脂質抽出物中のARAの酸化を防ぐ。
【0055】
溶媒は、DHA含有油脂の生産に関して記載した部分に示した方法で、油脂から除去される。また、さらなる油脂精製のための追加段階を遂行することもできる。
【0056】
収率は、100gの乾燥バイオマス当たりのARA含有油脂を約5gから50gに変化させることができる。エム.アルピナ(M.alpina)の場合、100gの乾燥バイオマス100g当たり10から50gのトリグリセリドが得られる。オクロモナス(Ochromonas)の場合、100gのバイオマス当たり5−20gのトリグリセリドが得られる。
【0057】
望ましくは、エム.アルピナからの油脂は、一般的には、次の脂肪酸組成:
5−15% パルミチン酸
15−20% ステアリン酸
5−10% オレイン酸
6−10% リノール酸
2−10% リノレン酸
2−10% ジホモγリノレン酸
40−50% アラキドン酸:
をもつ約70%をこえるトリグリセリドからなる。
【0058】
DHAおよびARA含有油脂の投与
本発明に従って、DHA含有微生物油脂、ARA含有微生物油脂、またはこれらの油脂の適当な組み合わせは、健康体で見られるレベルと比較して血液または組織内のDHAおよび/またはARAのレベルが低下したことを特徴とする神経性疾患を患う患者に投与される。個有の投与治療の方針は、血清及び赤血球のDHA並びにARAレベルを正常化することを基本に決定されるであろう。これらのDHAおよびARAの血清レベルは、神経膜の長鎖のポリ不飽和脂肪酸組成を反映していると考えられる。ある場合には、ARAおよびDHAの血清レベルは治療効果を調べるために、一般的な母集団で正常と考えられるレベルの4から5倍に増加させる必要があるであろう。色素性網膜炎または老年痴呆の様なその様な状態を含む疾患に苦しむ患者は、DHA含有油脂のみの投与に好反応を示すであろうが、副腎白質ジストロフィー、糖尿病誘導性神経細胞障害または精神分裂症の様な
状態に苦しむ患者は、DHA含有油脂およびARA含有油脂の組み合わせの投与に、より好反応を示すであろう。なお、他の患者は、ARAを含む微生物油脂のみの投与で救済されるであろう。
【0059】
治療方針は、治療する患者の血清中の関連する脂肪酸レベルを測定した後に決定することができる。何人かの患者では、治療中の赤血球または血清脂質中のDHA及びARAのレベルを測定した後に、神経組織中のDHAまたはARAレベルを正常化することができるであろう。
【0060】
DHA−および/またはARA−含有油脂は患者に直接投与することができるが、より一般的には、それらは、一つまたはそれ以上の医薬として適当な担体、および、所望により、他の治療成分、と組み合わせられるであろう。許容しうる担体とは、調合する他の成分と矛盾せず、かつ患者に有害でない担体である。
【0061】
調合物は、経口、鼻、局所または(皮下、筋肉内、静脈内、および皮内を含む)非経口の投与に適当なそれらを含む。望ましい調合物は、患者の症状および年齢で変えることができる。調合物は、簡便には、例えば、エマルジョン、錠剤、および持続性放出カプセルのような投薬単位の形にすることができ、任意の適当な薬学的方法によって製造することができる。
【0062】
本発明の経口投与に好適な調合物は、カプセルまたは錠剤のような分離した単位として存在させることができ、そのそれぞれは、予想量のDHAあるいはARA油脂、または予想量のDHAおよびARA油脂の適当な組み合わせ、を含む。
【0063】
また、このような経口調合物は、水性液体あるいは非水性液体中の水溶液または懸濁液からなることができる。水溶液は、水中油脂の液体エマルジョンまたは油脂中水の液体エマルジョンの様なエマルジョンであることができる。油脂は、精製し滅菌した液体を、調製した経腸的処方箋に加え、次いで、飲み込むことの出来ない患者の栄養補給チューブに入れることによって投与することができる。
【0064】
一つの好ましい実施態様では、DHAまたはARA微生物油脂は、実施例6に記載するようなゲルカプセルに入れられる。しかしながら、本発明では、ゲルカプセルを製作する任意の既知の方法を用いうることが、認められるであろう。圧縮錠剤は、微生物油脂を適当な機械で圧縮または型取ることによって製造することができる。油脂は、カルボキシメチルセルロースのような乾燥した不活性付帯成分と混合することができる。所望により、錠剤は、コーティングまたはスコアリングすることができ、活性成分がゆっくりとまたは制御されながら遊離するように調合することができる。
【0065】
局所投与に適したその他の調合物には、香味用主成分、通常スクロースおよびアカシアまたはトラガカントゴム中のDHA油脂、ARA油脂またはそれらの組み合わせからなるロゼンジが含まれる。
【0066】
皮膚への局所投与に適した調合物は、医薬として適当な担体中のDHAおよび/またはARA油脂からなる軟膏、クリームおよびゲルとして存在することができる。望ましい局所配置システムは、投与される油脂を含む経皮性パッチである。
【0067】
鼻投与に適した調合物では、担体は、従来の鼻噴霧または鼻点滴剤のような、液体である。
【0068】
非経口投与に適した調合物には、所望により、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬および予定宿
主の血液と調合物の浸透圧を等しくする溶質、を含みうる水性および非水性の無菌注射溶液;ならびに懸濁剤および濃化剤を含みうる水性および非水性の無菌懸濁液が含まれる。調合物は、単位投与量または多投与量の容器に入れておくことができる。本発明の好適な実施態様は、患者に非経口栄養を提供するための調合物の中にDHAおよび/またはARA油脂を混合することを含む。
【0069】
本発明の微生物油脂組成物は、薬剤組成物として投与されることが必要とされるわけではない。また、それらは、ビタミンカプセルまたは普通食の食物置換のように、補食として調合することもできる。微生物油脂は、調理油に置き換えて調合投与することもでき、そうすることによって、標準的な使用法で、患者は、血清中および冒された神経組織膜中のこれらの脂肪酸の濃度を正常または正常に近いレベルにまで上昇させるに十分な量のDHAおよび/またはARAを摂取するであろう。また、特異的なエマルジョン型であるマーガリンは、治療食中のバターまたは普通のマーガリンに置き換えて調合することもできる。単細胞微生物油脂を加工食品に加え、ω−3およびω−6不飽和脂肪酸の改良源を提供することもできる。油脂は、この技術分野で既知の方法を用い、ゼラチン、カゼイン、またはその他の適当なタンパク質をもちいて、マイクロカプセル化することができ、それによって、食品を加工するための乾燥成分型の油脂が提供される。その様な投与方法は、神経細胞変性疾患、例えばハンチングトン(Huntington)病またはアルツハイマー(Alzheimer)病のような、DHAまたはARA代謝欠損に関連する疾患に対して遺伝的素因をもつことが分かっている人の場合にむしろ好適である。その様な個人に食物置換を提供すると、特別な疾患の徴候の始まりを遅らすと言う、意味深い予防効果を提供することができる。
【0070】
長鎖のポリ不飽和脂肪酸DHAおよびARAの投与は、標準的な食品、またはサクラソウあるいはルリジシャの油脂のような特別な油脂から、リノール酸およびリノレン酸、これらの脂肪酸の前駆体をまったく過剰摂取しないと言う重要な利点を提供する。投与したDHAおよびARAは、すでに活性な形で存在しているため、患者は食餌前駆体を代謝する必要がない。この結果、有効な投与量は、治療効果を生み出すのに必要とされる前駆体の投与量より明らかにより低いであろう。
【0071】
特に上記した成分に加えて、本発明の調合物は、香味剤、防腐剤および抗酸化剤のような他の適当な薬剤を含むことができる。特に、微生物油脂を抗酸化剤と混合してDHAまたはARAの酸化を防ぐことが望ましい。その様な抗酸化剤は、食品として受け入れられることが可能であり、ビタミンE、カロチン、BHT、または当業者に既知の抗酸化剤を含むことができる。
【0072】
患者に提供される本発明の組成物の毎日の投与量は、治療を始める前の血清脂質分析によって確認されたDHAおよび/またはARAの欠乏程度に依存するであろう。典型的には、22.65kg(50ポンド)より重い患者に提供させる初期投与量は、一日当たり約50mgDHAから5000mgDHAの範囲であろう。望ましい持続投与量は約500mg/日である。例えば、使用されるDHA油脂が50%のDHAを含む場合、その様な投与量は、油脂約1000mg/日の添加に相当するであろう。
【0073】
22.65kg(50ポンド)より重い患者に提供されるARAの毎日の投与量は、50mgARAから5000mgARA/日であろう。望ましい維持投与量は、500−1000mg/日であろう。使用されるARA油脂が50%のARAを含む場合、その様な投与量は、ARA油脂約1000−2000mg/日の添加に相当するであろう。油脂に含まれるDHAおよびARAの適当な組み合わせによる投薬量は、1000mgDHAおよび1000mgARA/日であろう。
【0074】
望ましくは、患者の血清脂肪酸のプロフィールは、この様な毎日の治療を約4週間行った後、再調査される。次いで、その後の投与量は、血漿脂質または赤血球細胞のDHAおよびARAの観察レベルに応じて、また、治療への観察される医療応答に応じて、修正することができる。ペルオキシソーム疾患の患者は、血漿1ml当たりわずか1−3μgDHAのDHAレベルの赤血球を有する。正常な目標値は血漿1ml当たり約10−30μgのDHAの範囲である。循環するARAの正常な目標値は、血漿1ml当たり約75から約120μgARAである。ひとたび、対象となる循環脂肪酸のレベルが正常になったならば、油脂の毎日の投与量は、循環するDHAおよび/またはARAが望ましいレベルに保たれるように修正することができる。
【0075】
上記のように、ある神経疾患を治療するためには、血液中の循環DHAおよび/またはARAのレベルを正常レベルの4から5倍に上昇させることが望ましい場合もある。それ故、循環DHAおよびARAのレベルは、それぞれ、約120−150μg/mlおよび約480−600μg/mlに上昇させることができる。
【0076】
任意の具体的な理論に結び付ける事を望むわけではないが、発見者らは、DHAの投与は、神経細胞のカルシウム吸収調節能力の故に、神経疾患の治療に効果的であると信じる。神経細胞の脱分極化は、細胞内のカルシウムレベルを上昇させる結果になり、ホスホリパーゼを活性化する原因となり、細胞膜から遊離DHAを放出させる結果になる。この遊離DHAはカルシウムチャンネル遮断薬として作用し、それ故、細胞へのカルシウムの侵入を制限する。この様に、DHAレベルは、神経細胞膜に存在し、それ故、これらの長鎖のポリ不飽和脂肪酸の活性化誘導放出に有効であり、細胞内のカルシウムレベルを制御するであろう。DHA欠乏が存在する場合、細胞内のカルシウムレベルが上昇し、アミロイドプラークタンパク質の生産が剌激される。さらに、細胞内カルシウムが高いと、タウタンパク質に関連する微小管のリン酸化を剌激し、結果として神経細線維のもつれを発達させる結果になる。
【0077】
血清脂質は、一般的には脂肪酸の輸送または運送システムとして働くので、血清脂質は、神経細胞に組み込まれるDHAおよびARAの最も有望な源である。
【0078】
動物およびヒトで研究すると、血清中の高レベルのDHAおよびARAは、脳の高レベルのDHAおよびARAと一致することが示された。それ故、全血清脂質組成中のDHAおよびARA濃度を高めることは、これらの成分を豊富に含む微生物油脂を補食として提供することによって、標的神経組織へのDHAおよびARAの配達を増加させるに違いない。
【0079】
ARAは、神経膜の主成分であるが、その神経単位細胞の機能へのARAの役割は余り明らかではない。多くの神経疾患がDHAおよびARAの両方の欠乏を示している。本発明の目的は、これらの両成分のレベルを補充するために、微生物油脂からのDHAおよびARAを用いて、これらの重要な脂肪酸の両方を正常化することである。神経組織中のEPAレベルは一般的に低く、EPAの補充はARAレベルを低下させ、ある場合には禁忌を示すかもしれないので、任意の意味のある量のEPAを加えることなくDHAおよびARAを補充することは、本発明の重要な態様である。ARA油脂と組み合わせたDHA油脂の治療投与は、正常な健康体のそれに匹敵する体内のω−3からω−6の長鎖のポリ不飽和脂肪酸の比率の維持または確立に有効であるかもしれない。
【0080】
本発明は、一般的に記載されており、参照は以下の具体的な実施例を制限するものではない。
【実施例1】
【0081】
4.3kgのInstant OceanRを230リットルの水道水と混ぜ合わせる
ことによって作られる1.5倍濃度の人造の海水の培養液を、350リットルの攪拌タンク発酵槽に入れた。培養液を含む発酵槽を滅菌し、28℃に冷却した。濃度400g/lの濃縮した酵母エキスを6.81、濃度400g/1のグルコースシロップを12.51、および濃度106細胞数/mlまたは約1.3g/lのバイオマス密度の接種用発酵槽からシー.コーニー(C.cohnii)接種物を301、培養液に加えた。攪拌は、チップ速度を73cm/秒に設定し、通気は1VVMに設定し、これは280リットル/分と等価である。さらに、12リットルのグルコースシロップを約44時間後に加え、さらに43リットルをそれから32時間後に加えた。この様にして、全体で、67.5リットルのグルコースシロップを加えた。
【0082】
20%をこえる溶解酸素を維持するために、攪拌チップ速度を、44時間で175cm/秒に、55時間で225cm/秒に上昇させた。76時間で、チップ速度を150cm/秒に下げた。培養は、最後に負荷したグルコースが細胞内油脂に変換されるまでさらに十分な時間増殖させ、その後、集菌した。集菌した細胞は、約4%の水分含有量にまで乾燥させた。ヘキサンを乾燥させたバイオマスに加え、ガラスケットル中、25℃で2時間攪拌した。ロータリーエバポレーターを用いてヘキサンを除去し、約700gの粗DHA含有油脂を調製した。
【実施例2】
【0083】
60kgの酵母エキス、45kgのNaCl、12.3kgのMgSO4 7H2O、お
よび0.9kgのCaCl2 2H2 Oを7,000リットルの水に溶解し、15,000リットルの発酵槽に加えた。この溶液を滅菌した後、650kgグルコース/3,000リットルの濃度の滅菌グルコース溶液を3,000リットル加えた。培養液の初期pHは6.3に、温度は28℃に、通気は0.5から1.0VVMに、ベッセルの背面圧は0.2バールに、さらに攪拌チップ速度は120cm/秒に設定し、その後、細胞密度約60x106細胞数/ml、これは接種用タンク中で1リットルの培養液当たり4−5gのバ
イオマス乾燥重量に等しい、に達したC.cohniiの接種用培養液300リットルをベッセルに接種した。発酵の経過中、Dow1520のような食物に加えうる消泡剤を必要に応じて加え、8N−H2SO4または4N−NaOHを必要に応じて用いpHを6.3に保った。溶解酸素レベルは、ベッセル背面圧および攪拌を高めることによって、空気飽和状態の20%以上に保った。さらなるグルコースの添加は、グルコースレベルを5g/lより上に保つために、93時間および111時間に必要であった。119時間で、発酵槽を17℃に冷却し、発酵培地を遠心分離で処理した。25%の固体を含む608kgのスラリーが回収された。スラリーは噴霧乾燥し、DHA含有量40−45%の約30−40kgの油脂を含む約150kgの乾燥藻類粉末を生産した。乾燥藻類粉末は、標準的な野菜油抽出装置および方法を用いて、ヘキサン抽出した。溶媒除去に次いで、50℃で水を加えることによって粗油のゴム質を取り除いた。脱ゴム油は遠心分離によって収集し、55℃で1時間アルカリ塩基およびリン酸を混合することによって精製した。
次いで、精製し脱ゴム化した油脂を遠心分離によって収集し、90℃でクエン酸および脱色クレーを加えることによって穏やかに脱色した。脱色クレーを濾過することによって、5mEq/kgより少ない過酸化物価の精製脱色油脂(RB−oil)を生産した。RB−oilは、高真空短縮経路蒸留によって脱臭し、その後、得られた脱臭RB−oil(RED−oil)は、カプセル化、錠剤化、またはバラ積用に調製された。得られた油脂は、1mEq/lより小さい過酸化物価、0.05%より少ない遊離脂肪酸含量、45から47%のDHA含量、および約200のヨウ素数を持っていた。
【実施例3】
【0084】
トラウストチトリウム アウルム (Thraustochytrium aurum)
の脂質の調製
2.5gのNaCl、5gのMgSO4・7H2O、1gのKCl、0.1gのKH2PO4、0.2gのCaCO3、0.2gの(NH4)2SO4、2.0gのグルタミン酸ナトリウム/水1リットルを、1.7リットルの攪拌タンク発酵槽に入れた。タンクを滅菌した後、10μgのチアミン−HCl、0.1gのNaHCO3、および10μgのビタミンB12を含む滅菌水を加え、次いで、30%の滅菌グルコースを150ml、および10%の滅菌酵母エキスを50ml加えた。pHは6.0に調整し、通気は1.0VVMに調整し、かつ、攪拌は300rpmに調整し、その後、同培養液で増殖させたトラウストチトリウムアウルムの5日令の振とう培養液を100ml接種した。培養液は9日後に収集し、約4g乾燥重量のバイオマスを得た。バイオマス中の脂質のDHA含量は10から15%である。
【実施例4】
【0085】
ピチウム インシディオスム(Pythium insidiosum)の 脂質の調製
80リットル(総要量)の発酵槽中に、51リットルの水道水、1.2kgのグルコース、240gの酵母エキスおよび15mlのMAZU 210SRの消泡剤を入れた。発
酵槽は121℃で45分間滅菌した。滅菌過程の間に、さらに5リットルの凝縮水を加えた。pHを6.2に調整し、次いで、細胞密度5から10g/lのピチウム インシディ
オスム(ATCC#28251)の接種物をおおよそ1リットル加えた。攪拌速度は、チップ速度250cm/秒に相当する125RPMに調整し、通気速度を1SCFM(standard cubic feet per minute、標準立方フィート/分)に設定した。運転中、24時間で、通気速度を3SCFMに上昇させた。28時間で、50%重量のグルコースシロップをさらに2リットル加えた。50時間で、発酵槽を集菌し、その結果、約2.2kg湿潤重量のバイオマスが得られ、これは、培養液1リットル当たりおおよそ15g乾燥重量に相当する。集菌したバイオマスは、吸引フィルター上、おおよを50%の固体からなる高固体ケーキで圧搾し、その後、凍結乾燥させた。乾燥させたバイオマスは、モーターおよび乳房ですりつぶし、200gの乾燥バイオマス当たり1リットルのヘキサンを加え、室温で2時間攪拌を続けて抽出した。次いで、混合物を濾過し、濾過物を減圧濃縮し、乾燥バイオマス100g当たり5から6gの粗油脂を得た。バイオマスは乾燥バイオマス20g当たり1リットルのエタノールで、1時間、室温で再抽出し、濾過し、溶媒を減圧濃縮し、100gの乾燥バイオマス当たり22gの粗油脂を得た。第二の画分は主にリン脂質であったが、これに対して第一の画分はリン脂質とトリグリセリドの混合物を含んでいた。画分は、一緒にして、約30から35%のアラキドン酸を含むがEPAの検出できない油脂を生成した。
【実施例5】
【0086】
Mortierella alpinaの脂質の調製
7,500リットルの発酵槽を4,500リットルの水で満たし、225kgのデキストロース、27kgの酵母エキスおよび450gの消泡剤(Dow1520)を加えた。pHは5.0に調整し、培養液は121℃で60分間滅菌した。滅菌し28℃に冷却した後、pHはNaOHで5.5に調整し、通気は0.25VVMに調整し、背面圧は0.2バールに設定し、A315羽根車での攪拌は80cm/秒の速度に設定した。培養液には、Mortierella alpinaの20時間令の接種用培養液2.2g/lを1
80リットル接種した。pHは運転中、37時間までは上下させておき、その時点で6.5に制御した。攪拌は、酸素要求量がピークに達した26時間で110cm/秒に上昇させたが、32時間で、80cm/秒に戻した。123時間で、タンクは、40ミクロンのバックに適応するボックバスケット遠心分離機を用いて集菌した。次いで、原料を液体床ドライヤーを用いて乾燥させ、実施例2のようにヘキサンで抽出した。
【0087】
発酵により、ARA含量45%の粗油脂が17kg得られた。
【実施例6】
【0088】
実施例1または2にしたがって調製したDHAを豊富に含む油脂は、カプセル化または錠剤化のいずれかによって経口使用するために製造された。1g/カプセルの透明にシールしたゼラチンカプセルは、従来の製造方法で製造した。1つの油脂または油脂混合物を含むバンド化ゲルキャップは、実際的な置換分岐ピペッターを用いてゲルキャップの底に250μlの油脂を分配することによって製造した。この方法で、±3−5%の重量精度が得られた。次いで、頭部をゲルキャップの上に置き、カプセルバンド化装置を用い、色付きゼラチンでバンド化にした。変法として、ゲルキャップの底にカルボキシメチルセルロースを満たして、120μlの油脂を、このバインダー上に直接ピペットで置いた(このバインダーは、油脂を吸収し、いかなる漏れをも防ぐであろう)。頭部にゲルキャップを置き、カプセルバンド化装置を用い、色付きゼラチンでバンド化にした。その他に、カルボキシメチルセルロースは、3部のカルボキシメチルセルロースに対して1部の油脂の比率で、分かれた容器内で油脂と混合し、次いで錠剤プレス機を用いて錠剤にプレスすることもできる。
【0089】
この手順は実施例4および5に従って製造したARAを豊富に含む油脂を用いて繰り返した。
【実施例7】
【0090】
実施例1、2、3、4および5に記載したように、微生物から製造した粗微生物油脂は従来の野菜油加工処理方法を用いて加工処理した。油脂は50℃で水と混合してホスファチドを除去することによって脱ゴム化し、次いで水とゴムの混合物を遠心分離で除去した。油脂は、アルカリ塩基、次いでリン酸と55℃で混合することによって遊離の脂肪酸を除去して精製し、次いで水−脂肪酸混合物を遠心分離で除去した。加工処理した微生物油脂は、クエン酸および標準的漂白クレーを90℃で混合することによって漂白し、濾過して、油脂内の使用済クレーおよび任意の残余極性粒子を除去した。ある場合、油脂は、高圧蒸留または向流蒸気臭気除去剤を用いて脱臭し、その結果、最終的に、精製、漂白および脱臭した油脂(RBD oil)が得られた。典型的には、この過程をへた油脂の詳細
は、2mEq/kgより小さい過酸化物値および0.05%より小さい遊離脂肪酸レベルであった。この様な詳細は、標準的な野菜油で典型的であり、微生物油脂は、この状態で、マーガリン、ショートニング、スプーンで使えるドレッシング、液体ドレッシングの製造に、または他の工業的食物製造物の油脂成分として、野菜油の代わりに用いられる。微生物油脂は長鎖のポリ不飽和脂肪酸、とくにDHAおよびARA、を非常に豊富に含み、この微生物油脂少なくとも1部に対して、特別な生産物を調製するために選ばれた従来の油脂10部で希釈する。チョコレート製品に取り入れるためには、油脂はココアバターで希釈される。ショートニングまたはベーキング製品として用いるためには、油脂はココナッツまたはパーム油で希釈される。サラダドレッシングとして用いるためには、油脂は、キャノーラ、大豆、べにばな、またはコーン油のような標準的なサラダ油脂で希釈される。
【実施例8】
【0091】
アルツハイマー病の症状を示す患者は、C.cohniiから得たDHAを豊富に含む油脂を、一日当たり1から3カプセル(1カプセル当たり50%DHAを含むDHA単細胞微生物油脂を含む)投与することによって治療する。患者の血清のDHAおよびプラスマロゲンのレベルは、これらの2物質の血清レベルが正常化される時期を測るため、投与期間中、日常的にモニターする。正常なアメリカ人の2倍の血清DHAレベルが望ましい。
【実施例9】
【0092】
ペルオキシソームに疾患を持つ患者は、0.5ml(500mg)のDHA油脂を20
0−250mgのDHA濃度で、一日一回、Sustical(Ross Labora
tories)からなる胃フェステル形成食に直接投与した。
【0093】
患者の血清DHAおよびプロスマロゲンのレベルは、投与期間中、日常的にモニターした。治療を始めて6週間で、患者のDHAレベルは、血漿1ml当たり1.85μgから13.6μgに改善された。正常なレベルは19.0±6.4μg/mlである。予想に反して、患者のプラスマロゲンのレベルはほぼ正常である。DHA油脂単独での治療では、血清ARAレベルは正常レベルの約50%で、比較的変化しないままであった。
【実施例10】
【0094】
血清DHAおよびARAレベルが低下する一つの形の老年痴呆を患っている患者は、1gのカプセルを一日当たり1個から3個投与され、それぞれのカプセルにはDHAおよびARA油脂が約2:1(ARA:DHA)の割合で含まれており、総投与量は、DHA500mg/日、ARA1000mg/日である。患者の血清脂質は、4週間で再照合した。血清DHAおよびARAのレベルが正常レベルの5倍より少なく(即ち、血清DHAが、血漿1ml当たり100μgより少なく、かつ血清ARAが血漿1ml当たり500μgより少ない)、かつ症状が続いていれば、患者は、血清ARAおよびDHAレベルが所望のレベルに達するまで、および/または、症状が緩和されるまで、同じ投与量の療法を続けるべきである。その後、投与量は、症状が再び現れるまで、または、血清のARAおよびDHAレベルが正常な範囲になるまで、低下させることができる。
【実施例11】
【0095】
精神分裂症の患者は、一日当たり1gのカプセルを1から9個投与され、それぞれのカプセルはARA/DHA比率が約2:1からなるバランスのDHAおよびARA油脂を含み、総投与量はDHA1000mg/日、ARA2000mg/日である。患者の血清脂質は、4週間で再照合した。血清のDHAおよびARAのレベルは正常レベルの5倍より少なく(即ち、DHAは血漿1ml当たり100μgより少なく、ARAは血漿1ml当たり500μgより少ない)、症状が持続していれば、患者は、血清のDHAおよびARAが所望するレベルに到達する、および/または症状が緩和されるまで、同じ投与量の養生法を続けるべきである。ひとたび、神経病の症状が与えられた投与量で和らげられた場合、症状がもう一度表れるまで、または血清ARAおよびDHAレベルが正常範囲になるまで、維持投与量を滴定により低下させることができる。
【実施例12】
【0096】
10μg/dl以上の血液の鉛レベルは、米国疾病予防防止センター(the U.S
.Centers for Disease Control and Preventio
n)によって“神経学的に有意である”と考えられている。試験され、10μg/dlを越える血液の鉛レベルを持つと認められた患者は、一日当たり1gのゲルカプセルを1−3個投与され、それぞれのカプセルはARA/DHA比率約2:1からなるバランスのDHAおよびARA油脂を含み、DHAの総投与量は250mg/日、ARAは500mg/日である。患者血清の鉛レベル、血漿の脂肪酸およびプラスマロゲンのレベルは、4週間で再照合された。血清のDHAおよびARAレベルが正常レベルの5倍より少なく(即ち、DHAは血漿1ml当たり100μgより少なくARAは血漿1ml当たり500μgより少ない)、症状または高い鉛レベルが持続していれば、患者は、所望の脂肪酸レベルが達成されるまで、および/または症状が緩和されるまで、同じ投与量の養生法を続けるべきである。ひとたび、血清のARAおよびDHAレベルが、正常レベルの5倍以上になれば、そののち、投与量レベルは減少させねばならない。もし神経障害の症状が和らげられる、または血清の鉛レベルが与えられた投与量で減少したならば、その後、症状が再び現れる、または血清のARAおよびDHAレベルが正常の範囲になるまで、維持投与量を滴定により低下させてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
老人性痴呆症、糖尿病性ニューロパシー、色素性網膜炎、多発性硬化症、およびアルツハイマー病からなる群から選択される疾患の症状を治療、緩和、もしくは予防するための医薬の製造における、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含む組成物の使用であって、前記組成物が実質的にエイコサペンタエン酸(EPA)を含まないことを特徴とする前記使用。
【請求項2】
前記組成物がアラキドン酸(ARA)をさらに含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記DHAがDHAを含有する微生物油DHAとして供給され、および/または、前記ARAがARAを含有する微生物油ARAとして供給される、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記DHA含有微生物油が、クリプテコディニウム(Crypthecodinuim)、スラウストチトリウム(Thraustochytrium)、またはシゾチトリウム(Schizochytrium)の種である微生物によって産生される、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記ARA含有微生物油が、ポルフィリディウム(Porphyridium)、オクロモナス(Ochromonas)、ムコール(Mucor)、ピシウム(Pythium)、またはモルティエレラ(Mortierella)の種である微生物によって産生される、請求項3記載の使用。
【請求項6】
前記DHA含有微生物油が少なくとも20重量%のDHAを含み、前記ARA含有微生物油が少なくとも10重量%のARAを含む、請求項2記載の使用。
【請求項7】
前記DHAを含有する微生物油DHAが少なくとも40重量%のDHAを含む、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項8】
前記DHA含有微生物油と前記ARA含有微生物油が、一日当たり約50〜約5000mgのDHAおよび一日当たり約50〜約5000mgのARAの用量濃度にて投与される、請求項3記載の使用。
【請求項9】
前記微生物油DHAが、一日当たり約50〜約5000mgのDHAの用量濃度にて投与される、請求項3記載の使用。
【請求項10】
前記組成物が経口投与される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記組成物が、カプセル、錠剤、またはエマルジョンにて投与される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物が、栄養補助食品の成分として、好ましくはビタミンカプセルまたは食品代替物として投与される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記組成物がさらに、DHAおよび/またはARAの血中濃度を、血漿1ml当たり約10〜約30μgのDHAおよび血漿1ml当たり約75〜約120μgのARAに保持するのに有効な濃度を含む、請求項2記載の使用。
【請求項14】
DHAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含
んだオイルの使用であって、前記神経障害が色素性網膜炎であり、前記組成物が、経口投与、鼻腔投与、または局所投与に使用すべく製造される、前記使用。
【請求項15】
ARAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、アラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルの使用であって、前記障害が多発性硬化症と色素性網膜炎からなる群から選択される、前記使用。
【請求項16】
DHAとARAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルと、アラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルの使用であって、前記障害が多発性硬化症と色素性網膜炎からなる群から選択され、前記組成物が、経口投与、鼻腔投与、または局所投与に使用すべく製造される、前記使用。
【請求項17】
前記組成物が経口投与に使用すべく製造される、請求項14または請求項16に記載の使用。
【請求項18】
ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルが魚油を含む、請求項14または請求項16に記載の使用。
【請求項19】
DHAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んでいて、DHA対EPA(エイコサペンタエン酸)の比が少なくとも10:1であるオイルの使用であって、前記神経障害が糖尿病性ニューロパシーと多発性硬化症からなる群から選択される、前記使用。
【請求項20】
ARAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、アラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んでいて、ARA対EPA(エイコサペンタエン酸)の比が少なくとも10:1であるオイルの使用であって、前記神経障害が糖尿病性ニューロパシーである、前記使用。
【請求項21】
DHAとARAの欠乏に伴う病状に関連した神経障害を治療するための組成物を製造するための、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んでいて、DHA対EPA(エイコサペンタエン酸)の比が少なくとも10:1であるオイル、およびアラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んでいて、ARA対EPAの比が少なくとも10:1であるオイルの使用であって、前記神経障害が糖尿病性ニューロパシーである、前記使用。
【請求項22】
ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルのDHA対EPA(エイコサペンタエン酸)の比が少なくとも10:1であり、アラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルのARA対EPAの比が少なくとも10:1である、請求項14〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
ドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイル、および/または、アラキドン酸(ARA)を含有するトリグリセリドおよび/またはリン脂質を含んだオイルが微生物油を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
DHAを含んだ前記微生物油が少なくとも20%のDHAを含む、請求項23記載の使用。
【請求項25】
ARAを含んだ前記微生物油が少なくとも10%のARAを含む、請求項23記載の使用。
【請求項26】
DHAまたはARAを含んだ前記微生物油が少なくとも40%のDHAまたはARAを含む、請求項23記載の使用。
【請求項27】
神経障害を治療するための前記組成物は、投与すると、患者におけるDHAおよび/またはARAの血清レベルを上昇させることができるか、あるいは患者の赤血球中のDHAおよび/またはARAのレベルを上昇させることができる、請求項1〜26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
神経障害を治療するための前記組成物は、投与すると、体内におけるω−3長鎖ポリ不飽和脂肪酸とω−6長鎖ポリ不飽和脂肪酸との比を、正常な健常者における前記比と同等に保持できるか又は安定させることができる、請求項1〜27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
DHAおよび/またはARAがトリグリセリドの形態をとっている、請求項1〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
DHA含有オイルを産生できる少なくとも1種の藻または真菌をDHAオイル産生条件下にて培養することによって、そして産生されたオイルを回収することによって前記DHAオイルが得られ、および/または、ARA含有オイルを産生できる少なくとも1種の藻または真菌をARAオイル産生条件下にて培養することによって、そして産生されたオイルを回収することによって前記ARAオイルが得られる、請求項1〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記DHAオイルが、渦鞭毛藻、チトリジオマイセート(Chytridiomycete)、またはウーマイセート(Oomycete)を培養することによって得られる、請求項30記載の使用。
【請求項32】
前記の藻または真菌が、クリプテコディニウム(Crypthecodinuim)、スラウストチトリウム(Thraustochytrium)、シゾチトリウム(Schizochytrium)、モルティエレラ(Mortierella)、サプロレグニア(Saprolegnia)、またはムコール(Mucor)の種である、請求項30記載の使用。
【請求項33】
前記ARA産生微生物が、ピシウム(Pythium)またはモルティエレラ(Mortierella)の種を含む真菌であるか、あるいはオクロモナス(Ochromonas)、ユーグレナ(Euglena)、またはポルフィリディウム(Porphyridium)の種を含む藻である、請求項30記載の使用。
【請求項34】
前記組成物が、カプセル、錠剤、エマルジョン、または加工食品の形態をとっている、請求項1〜33のいずれか一項に記載の使用。

【公開番号】特開2011−121978(P2011−121978A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21979(P2011−21979)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【分割の表示】特願2007−327930(P2007−327930)の分割
【原出願日】平成6年6月2日(1994.6.2)
【出願人】(508004410)マーテック バイオサイエンシーズ コーポレーション (26)
【Fターム(参考)】