説明

神経学的障害を処置することおよび身体能力を強化することにおけるソレノプシンに関する組成物および方法ならびにその使用

【課題】神経学的障害を処置することおよび身体能力を強化することにおけるソレノプシンに関する組成物および方法ならびにその使用の提供。
【解決手段】本明細書では、ピペリジンアルカロイド、ならびに神経障害用途および身体強化用途におけるそれらの使用を示す。一局面において、このピペリジンアルカロイドはソレノプシンAである。別の局面において、このピペリジンアルカロイドは、シス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−トリデシルピペリジンなどからなる群より選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2006年7月10日に出願された米国仮出願第60/806,887号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
例えば、脳卒中および関連虚血性疾患、脊髄損傷、末梢神経損傷、外傷性脳損傷、網膜変性、てんかん(全身、部分、または不応性てんかん等)、神経精神障害、疼痛性障害、および神経変性障害等、中枢神経系に関係する多数の疾患および障害が知られている。アルツハイマー病(AD)は、最も一般的には、脳内におけるアミロイド−β(Aβ)ペプチドの沈着と関連づけられている。酸化的ストレスおよび炎症は、アルツハイマー病(AD)および関連障害の重要な発症機序である。脳内のAβペプチドの存在は、神経損傷および神経機能障害、ミクログリア活性化、ならびにADの神経病理学的特徴を生じ得る会合体の発達に重要な役割を果たす。(タウ/神経原繊維変化(NFT)の有無に関わらず)Aβは、主に、細胞の酸化防止/炎症防止機構を圧倒する酸化ストレスおよび炎症によって細胞学的性質に障害を引き起こす。現在、ADに対して唯一利用可能な処置薬はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるが、これは、ADの影響を低減する能力が限定されている。しかしながら、現在のデータでは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がADの過程を加速させることが示唆されている。それゆえ、ADに関する疾患、ならびに他の神経性疾患および障害を処置するための新規な治療法を開発することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
要旨
本明細書で具体化および概説する本発明の目的において、本発明は、ピペリジンアルカロイド、およびその神経学上の用途における使用に関する。
【0004】
以下の説明では、本開示の方法および組成物の付加的利点を部分的に記載しており、その説明により部分的な理解が得られるか、または本開示の方法および組成物を実際に用いることにより知ることができる。本開示の方法および組成物の利点は、特に、添付の特許請求の範囲に列記する要素および組み合わせにより実現および達成することが可能である。上記の概略的な説明および以下の詳細な説明はともに単なる例示および説明のためのものであり、請求項に記載の発明を制限するためのものではないことを理解されたい。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
対象の神経変性疾患を処置または予防する方法であって、神経変性疾患の危険がある対象を特定する工程、およびピペリジンアルカロイドを含む組成物を治療有効量で該対象に投与する工程を包含する、方法。
(項目2)
前記組成物はヒアリ(Solenopsis invicta)毒の抽出物を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記ピペリジンアルカロイドは、式:
【化4】


を含み、Rは、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換脂肪族基である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記ピペリジンアルカロイドは2−メチル−6−アルキル−ピペリジンを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記ピペリジンアルカロイドはソレノプシンAである、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記ピペリジンアルカロイドは、シス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−l−イル)ピペリジン、トランス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−1−イル)ピペリジン、シス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジン、トランス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジンからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記ピペリジンアルカロイドは2−メチル−6−ウンデシルピペリジンである、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記対象はアルツハイマー病と診断されている、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記組成物は、前記対象に対して、経口、全身、または頭蓋内投与される、項目1に記載の方法。
(項目10)
アルツハイマー病の危険がある対象を処置する方法であって、ピペリジンアルカロイドを含む組成物を該対象に投与する工程を包含する、方法。
(項目11)
ピペリジンアルカロイドを含む組成物を対象に投与することによる、該対象の身体能力を強化する方法。
【発明を実施するための形態】
【0005】
発明の詳細な説明
以下の特定の実施態様の詳細な説明およびそれに含まれる実施例、ならびに図面およびそれらに関する上記および下記の説明を参照することにより、本開示の方法および組成物をさらに容易に理解することができる。
【0006】
ヒアリ毒中に見られるソレノプシンA等のピペリジンアルカロイドを、例えば、神経性疾患もしくは神経機能障害の処置および/もしくは予防、または神経機能もしくは認知機能の強化に使用できることが分かっている。他の用途については、開示されているか、その開示内容から明白であり、かつ/または当業者に理解されるものである。
【0007】
本開示の方法および組成物に使用可能であるか、それらと組み合わせて使用可能であるか、それらの調製に使用可能であるか、またはそれらの産物である材料、組成物、および成分を開示する。本明細書では、これらおよび他の材料を開示しており、それらの材料の組み合わせ、部分集合、相互作用物、集合体等を開示する場合には、それらの物質の様々な個別的または全体的な組み合わせおよび置換の各々に特に言及して明示的に開示していない場合でも、本明細書では各々について企図および記載されていると理解されたい。例えば、アルカロイドについて開示し、論じる場合、および当該アルカロイドを含む多数の分子に対して行うことが可能な多数の変更について論じる場合には、特に明示しない限り、アルカロイドのあらゆる組み合わせおよび置換、ならびに可能な変更が明確に企図されている。それゆえ、分子A、B、およびCのクラス、ならびに分子D、E、およびFのクラスを開示する場合、および組み合わせ分子の一例としてA−Dを開示する場合には、各々を個別に記載していない場合であっても、各々を個別に、かつ全体として企図している。それゆえ、この例では、A−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E、およびC−Fの組み合わせの各々が明確に企図されており、A、B、およびC;D、E、およびF;ならびに例示した組み合わせA−Dを開示することでそれらを開示したものと見なす。同様に、これらのいずれの部分集合または組み合わせも明確に企図されるとともに開示される。それゆえ、例えば、部分的な集合体A−E、B−F、およびC−Eが明確に企図されており、A、B、およびC;D、E、およびF;ならびに例示した組み合わせA−Dを開示することでそれらを開示したものと見なす。この考え方は、本開示の組成物の作成および使用法の工程を含むがこれらに限定されない本願の全ての局面に適用される。それゆえ、実行可能な付加的な工程が各種存在する場合、それらの付加的な工程の各々が、本開示の方法の特定の実施態様またはそれら実施態様の組み合わせの全てとともに実行可能であること、およびそのような組み合わせの各々が明確に企図されるとともに開示したものと見なされることは言うまでもない。
【0008】
A.定義
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる単数形「a」、「an」、「the」は、文脈上において特に明示しない限り、複数の場合も含むことに留意されたい。それゆえ、例えば、「一つのアルカロイド」と言及した場合は、そのようなアルカロイドが複数ある場合を含み、「そのアルカロイド」と言及した場合は、1つ以上のアルカロイドの場合、および当業者に公知のそれらの等価物の場合を含むことなどがある。
【0009】
「任意の」または「任意で」は、その後に記載する事象、状況、または材料が発生または存在してもしなくてもよいこと、ならびにそのような記載は、当該事象、状況、または材料が発生または存在する場合および発生または存在しない場合を含むことを示す。
【0010】
本明細書では範囲を、「約」を付記した一方の特定の値から、および/または「約」を付記した他方の特定の値までで表す場合がある。そのように範囲で表現する場合にも、文脈上において特に明示しない限り、その一方の特定の値から、および/またはその他方の特定の値までの範囲が明確に企図されるとともに、開示したものと見なす。同様に、前に「約」を用いて近似値として値を表す場合、文脈上において特に明示しない限り、その特定の値が開示したものとみなすべき他の明確に企図された実施態様を構成することは言うまでもない。さらに、文脈上において特に明示しない限り、各範囲の端点は、他方の端点に対して有意であるとともに、他方の端点から独立して有意であることは言うまでもない。最後に、文脈上において特に明示しない限り、明示的に開示した範囲内に含まれる個々の値および部分的な範囲の値の全てについても明確に企図されるとともに、開示したものとみなすことを理解されたい。上記の説明は、特定のケースにおいて、それらの実施態様のいくつかまたは全てが明示的に開示されているかいないかに関わらず適用される。
【0011】
記載する特定の方法論、手順、および試薬は変更可能であるため、本開示の方法および組成物がそれらに限定されないことは言うまでもない。本明細書で用いる用語は、単に特定の実施態様を説明するためのものであり、添付の特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定するものでないことも理解されたい。
【0012】
特に定義しない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本開示の方法および組成物が属する分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本方法および組成物の実施または実験に、本明細書に記載するものと類似のまたは同等のあらゆる方法および材料を用いることができるが、特に有用な方法、装置、および材料を説明する。本明細書で引用する文献、およびそれらが引用される材料は、本明細書において参考として明確に援用する。本明細書には、本発明が先願発明による同様の開示に先行しないことを認めると解釈されるような記載はない。いずれかの参照が従来技術を構成することは認めない。参考文献に関する議論はそれらの著者の主張を提示するためのものであり、出願人は、引用文献の正確性および適切性に異議を唱える権利を留保する。本明細書では多数の文献を参照しているが、そのような参照が、それらの文書のいずれかが当該分野で周知の一般知識の一部を構成していることを認めるものではないことは明確に理解される。
【0013】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、「含む」という言葉、およびこの言葉の変形(「含んでいる」および「含んだ」等)は、「を含むがそれらに限定されない」を意味するとともに、例えば、他の添加物、成分、整数値、または工程を排除するものではない。
【0014】
本明細書で用いる「対象」は、脊椎動物、より詳細には、哺乳動物(例えば、ヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ヒト以外の霊長類、ウシ、ネコ、モルモット、またはげっ歯動物)、魚類、鳥類、または爬虫類または両生類とすることができる。この用語は、特定の年齢または性別を示すものではない。よって、成体および新生の対象ならびに胎児が雌雄に関係なく包含されものとする。「患者」という用語は疾患または障害を患う対象を指し、ヒトおよび獣医学的対象を含む。
【0015】
「処置」とは、疾患、病態、または障害の治癒、軽減、安定化、または予防を目的とした患者の医学的管理を意味する。この用語は、積極的処置、すなわち、特に疾患、病態、または障害の改善に関する処置を含むとともに、原因処置、すなわち、関連疾患、病態、または障害の原因の除去に関する処置も含む。さらに、この用語は、待機的処置、すなわち、疾患、病態、または障害の治癒ではなく症状の緩和のために設計された処置;予防的処置、すなわち、関連疾患、病態、または障害の進行の最小化または部分的もしくは完全な阻害に関する処置;および補助的処置、すなわち、関連疾患、病態、または障害の改善に関する他の特定の療法の補完に用いられる処置を含む。
【0016】
「治療効果のある」という用語は、使用する組成物の量が疾患または障害の1つ以上の原因または症状を軽減するために十分な量であることを意味する。そのような軽減には低減または変更を必要とするだけで、必ずしも消失を必要としない。本明細書で用いる「置換」という用語は、有機化合物の全ての許容可能な置換基を含むものとする。広義の局面では、この許容可能な置換基は、有機化合物の非環状および環状、分岐および非分岐、炭素環式および複素環式、ならびに芳香族および非芳香族置換基を含む。例示的な置換基としては、例えば、後述するものが挙げられる。上記許容可能な置換基は、適切な有機化合物に対して、1つ以上および同一または異なるようにすることができる。この開示の目的のために、窒素等のヘテロ原子は、ヘテロ原子の価数を満たす本明細書に記載の有機化合物の水素置換基および/または任意の許容可能な置換基を有するようにすることができる。この開示は、いかなる方法によっても上記有機化合物の許容可能な置換基によって限定されるものではない。また、「置換」または「で置換される」という用語は、そのような置換が置換原子および置換基の許容される原子価に従うものであり、この置換により安定化合物、例えば、転位、環化、消失などによる形質変換が自然に発生しない化合物を生じるという黙示的な条件を含む。
【0017】
本明細書では、各種特定の置換基を表す総称的な記号として「A」、「A」、「A」、および「A」を用いる。これらの記号は、本明細書に開示する置換基に限定されることなく任意のものとすることができ、それらが1つの例において特定の置換基として定義される場合、他の例において他の置換基として定義することができる。
【0018】
本明細書で用いる「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシル等の1〜30個の炭素原子からなる分岐または非分岐の飽和炭化水素基である。アルキル基はまた、置換または非置換とすることもできる。アルキル基は、後述するように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換することができる。アルキルという用語はまた、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等の環状アルキル基である「シクロアルキル」も含む。
【0019】
本明細書で用いる「アルコキシ」という用語は、単一の末端エーテル結合を介して結合したアルキル基である;すなわち、「アルコキシ」基は、OA(ここでAは上記で定義したアルキルである)と定義することができる。
【0020】
本明細書で用いる「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する構造式を持つ2〜30個の炭素原子からなる炭化水素基である。(A)C=C(A)等の非対称構造は、EおよびZ異性体の両方を含むものとする。これは、非対称アルケンが存在する本明細書の構造式において推定可能であるか、または結合記号C=Cによって明示され得る。アルケニル基は、後述するように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換することができる。アルケニルという用語はまた、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル等の環状アルケニル基である「シクロアルケニル」も含む。
【0021】
本明細書で用いる「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する構造式を持つ2〜30個の炭素原子からなる炭化水素基である。アルキニル基は、後述するように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以の基で置換することができる。アルキルという用語はまた、シクロブチニル、シクロペンチニル、シクロヘキシニル、シクロヘプチニル等の環状アルキル基である「シクロアルキニル」も含む。
【0022】
本明細書では、「脂肪族」という用語は、本明細書で定義するようなアルキル、アルケニル、またはアルキニル基を意味するように用いられる。
【0023】
本明細書で用いる「アリール」という用語は、ベンゼン、ナフタレン、フェニル、ビフェニル、フェノキシベンゼン等を含むがこれらに限定されない任意の炭素系芳香族基を含む基である。「アリール」という用語はまた、少なくとも1つのヘテロ原子が芳香族基の環内に組み込まれた芳香族基を含む基として定義される「ヘテロアリール」も含む。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられるがこれらに限定されない。同様に、「アリール」という用語にも含まれる「非ヘテロアリール」という用語は、ヘテロ原子を含まない芳香族基を含む基を規定する。アリール基は、置換または非置換とすることができる。アリール基は、本明細書に記載するように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換することができる。「ビアリール」という用語は、特定の種類のアリール基であり、アリールの定義に含まれる。ビアリールは、ナフタレンのように縮環構造を介して結合されるか、またはビフェニルのように1つ以上の炭素−炭素結合を介して付着した2つのアリール基を指す。
【0024】
本明細書で用いる「アルデヒド」という用語は、式C(O)Hで表される。本明細書全体を通して、「C(O)」はC=Oの短縮表記である。
【0025】
本明細書で用いる「アミン」または「アミノ」という用語は、式NA(ここで、A、A、およびAは、独立して、水素、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0026】
本明細書で用いる「カルボン酸」という用語は、式C(O)OHで表される。本明細書で用いる「カルボキシレート」は、式C(O)O−で表される。
【0027】
本明細書で用いる「エステル」という用語は、式OC(O)AまたはC(O)OA(ここで、Aは、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0028】
本明細書で用いる「エーテル」という用語は、式AOA(ここで、AおよびAは、独立して、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0029】
本明細書で用いる「ケトン」という用語は、式AC(O)A(ここで、AおよびAは、独立して、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0030】
本明細書で用いる「ハロゲン化物」という用語は、ハロゲン類(フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素)を指す。
【0031】
本明細書で用いる「ヒドロキシル」という用語は、式OHで表される。
【0032】
本明細書で用いる「ニトロ」という用語は、式NOで表される。
【0033】
本明細書で用いる「シリル」という用語は、式SiA(ここで、A、A、およびAは、独立して、水素、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0034】
本明細書で用いる「スルホ−オキソ」という用語は、式S(O)A、S(O)、OS(O)、またはOS(O)OA(ここで、Aは、水素、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。本明細書全体を通して、「S(O)」は、S=Oの短縮表記である。
【0035】
本明細書で用いる「スルホニル」という用語は、式S(O)(Aは、水素、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表されるスルホ−オキソ基を指す。
【0036】
本明細書で用いる「スルホニルアミノ」または「スルホンアミド」という用語は、式S(O)NH−で表される。
【0037】
本明細書で用いる「スルホン」という用語は、式AS(O)(ここで、AおよびAは、独立して、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0038】
本明細書で用いる「スルホキシド」という用語は、式AS(O)A(ここで、AおよびAは、独立して、上記のアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基とすることができる)で表される。
【0039】
本明細書で用いる「チオール」という用語は、式SHで表される。
【0040】
本明細書で用いる「R」、「R」、「R」、「Rn」(ここで、nは整数である)は、独立して、上記の基を1つ以上有するようにすることができる。例えば、Rが直鎖アルキル基である場合、このアルキル基の水素原子の1つは、任意で、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキル基、ハロゲン化物等で置換することができる。選択する基に応じて、第1の基を第2の基の中に組み込むか、または第1の基を第2の基のペンダントとする(すなわち、付着させる)ことができる。例えば、「アミノ基を含むアルキル基」という表現では、アミノ基は、アルキル基の骨格内に組み込まれている場合がある。代替的には、アミノ基は、アルキル基の骨格に付着させることができる。選択したこの(これらの)基の性質により、第1の基が第2の基に埋め込まれるか、または付着するかが決定される。
【0041】
特に明記しない限り、実線のみで示し、楔形記号または点線で示さない化学結合を有する式は、可能な異性体の各々(例えば、各光学異性体およびジアステレオマー、および異性体の混合物(ラセミまたはキラル混合物(racemic or scalemic mixture)等)を意図する。
【0042】
B.組成物
本明細書では、ピペリジンアルカロイドおよび神経学的用途におけるそれらの使用を示す。これらのピペリジンアルカロイドは、ヒアリ毒等の毒から誘導することができるか、または本明細書で開示するように合成することができる。
【0043】
1.ヒアリ毒
Solenopsinは、アカヒアリSolenopsis invictaの毒から誘導されたピペリジンアルカロイドである。「ヒアリ」および「Solenopsis invicta」という用語は、元々は南米産であるが現在では米国南東部の11州、米国南西部の一部、カリフォルニア、およびプエルトリコで一般に見られる一般的なアカヒアリを示すために相互互換的に用いられる。ヒアリという用語はまた、クロヒアリおよび他のヒアリの交配種またはSolenopsin毒を産生する他のアリを示すためにも用いられる場合がある。
【0044】
このムシの毒は95%がアルカロイドで構成され、残りには、タンパク質、アミノ酸、ならびにヒアルロニダーゼおよびホスホリパーゼを含む酵素が含まれる。毒中のピペリジンアルカロイドには、2つの主要成分として、ソレノプシンA(トランス−2−メチル6−n−ウンデシルピペリジン)およびソレノプシンB(2,6−トランス−ジアルキル−ピペリジン)がある。
【0045】
イヌおよびネコにおけるダニ、ノミ、または他の寄生虫による感染症をなくすためのSolenopsinの使用は、Rehmertらの米国特許第4,910,209号、同第5,075,320号、および同第5,098,914号(これらの教示については、本明細書においてそれらの全体を参考として援用する)によって開示されている。このアプローチでは、Solenopsinは、ムシの全身抽出物から、またはより高度に精製された材料を含有する経口投与形態から投与されている。これらの薬物を1〜11日間にわたって標準的なブースター量(regular booster dosages)で投与することにより、処置する動物の血中および組織液にアルカロイド組成物を拡散し、体液を摂取する寄生虫を消失させる。
【0046】
2.ピペリジンアルカロイド
ピペリジンアルカロイドは、本開示の組成物および方法で用いることができる。ソレノプシンA等のピペリジンアルカロイドは、合成により生成することもできる。これは、全身抽出物とは異なり、冷却を必要としない。しかしながら、効果的な処置には、より多くの単位数の合成物が必要とされる。例えば、合成により生成したソレノプシンAの1,500単位は、全身抽出物の250単位に相当する。
【0047】
Red Imported Fire Ants(Solenopsis invicta Buren)の咬傷には、毒中に強力な壊死毒素活性を示す高アルカロイド成分が含まれる。この毒の主要成分は、2−メチル−6−n−アルキルピペリジンの各種のシスおよびトランス異性体を有しており、トランス異性体が多く見られる。
【0048】
ピペリジンアルカロイド(ソレノプシンA)の化学構造を下記に示す。
【0049】
【化1】

ここで、Rは、C11アルキル基(すなわち、ウンデシル基)である。しかしながら、毒中に様々な量で存在し得るとともに、本明細書で開示する使用および組成物に適した他の化合物として、
I.シス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン
II.トランス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン
III.シス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン
IV.トランス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン
V.シス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン
VI.トランス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン
VII.シス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−1−イル)ピペリジン
VIII.トランス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−1−イル)ピペリジン
IX.シス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジン
X.トランス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
本開示の組成物および方法において使用可能なピペリジンアルカロイドの他の例としては、以下の一般式を有するものがある。
【0051】
【化2】

ここで、Rは、短鎖(すなわち、1〜6個の炭素原子)置換または非置換脂肪族基であり、Rは、7〜30個の炭素原子を有する長鎖置換または非置換脂肪族基である。多くの特定の例では、Rは、メチル、エチル、またはプロピルであり、Rは、10〜20個の炭素(すなわち、それらの混合物を含む10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素)を有するアルキルまたはアルケニル基である。
【0052】
本明細書では、本開示のピペリジンアルカロイドの薬学的に許容可能な塩も企図される。そのような塩は、ピペリジンアルカロイドを、例えば、HCl、HSO、またはHPO等の適量の薬学的に許容可能な酸で処理してカチオン塩を生成することにより調製することができる。1つの例では、上記化合物を酒石酸または酢酸でプロトン化して、それぞれ、酒石酸塩または酢酸塩を生成することができる。他の例では、上記化合物と上記酸を水のみで、または不活性、水混和性有機溶媒と組み合わせて、約0℃〜約100℃の温度(例えば、室温)で反応させる。特定の状況では、適用可能であれば、本開示の化合物と塩基のモル比を選択して特定の塩を所望の割合にする。
【0053】
3.組み合わせ
本明細書に開示の方法および組成物は、各種の組成物と組み合わせて用いることができる。例えば、以下の薬物および薬物のクラスは、神経性の障害の処置に用いることができる:オピオイドおよびオピオイドペプチド、モルヒネ、ヒドロキシモルヒネ、フェンタニル、オキシコドン、コデイン;カプサイシン;ならびにクラスとしてカルバマゼピン、プリミドン、ガバペンチン、プレガバリン、ジアゼパム、フェルバメート、フルオロフェルバメート、ラモトリジン、ラコサミド、レベチラセタム、フェノバルビタール、フェニトイン、fos−フェニトイン、トピラメート、バルプロエート、ビガバトリン、ゾニサミド、オキシカルバゼピン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、局部麻酔薬(リドカイン等)、グルタミン酸受容体拮抗薬、NMDA拮抗薬、α−アドレナリン受容体作動薬および拮抗薬、アデノシン、カンナビノイド、NK−1拮抗薬(CI−1021)、抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン、デシプラミン、イミプラミン)、ガラニン、ソマトスタチン、δ−睡眠誘発ペプチド、エンケファリン、オキシトシン、コレシストキシン、カルシトニン、コルチスタチン、ノシセプチン、ならびに他の神経ペプチド系治療薬の類似体および誘導体、ならびにプルロニックP85ブロック共重合体を含むがそれらに限定されない同種の抗てんかん薬。
【0054】
4.医薬組成物
本化合物またはそれらの誘導体(これらの薬剤のプロドラッグ形態を含む)は、薬学的に許容可能な塩の形態で提供することができる。本明細書で用いる薬学的に許容可能な塩または複合体という用語は、親化合物の所望の生物活性を有するとともに、正常な細胞に対して限定された毒性効果を示す本明細書で開示する活性化合物の適切な塩または複合体を指す。そのような塩の非限定的な例としては、(a)無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸等)で形成された酸付加塩、および有機酸(特に、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、およびポリグルタミン酸等)で形成された塩;(b)金属カチオン(例えば、特に、亜鉛、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン等、これらの多くは、最終的な医薬物形の化合物の水溶性を上昇させ得る)で形成された塩基付加塩がある。
【0055】
この活性化合物を変更して活性種の溶解性、生体利用性、および代謝率に影響を与えることにより、活性種の送達を制御することができる。「水溶性塩形態」または「塩形態」という用語は、本明細書で開示する水溶性塩形態の化合物の形態を示すために用いられる。本明細書で開示する化合物の塩形態は、所望の生物学的効果を有するあらゆる塩を含む。そのような塩の非限定的な例としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸等)で形成された酸付加塩、有機酸(例えば、特に、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、グルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、およびグラクツロン酸(glacturonic acid)等)で形成された塩がある。塩は、ピペリジン環上の窒素を中和して形成してもよく、この結果生じる塩は、当該化合物のはるかに大きな溶解性または送達性を示す。これらはまた、本明細書に開示する化合物の生体利用性および代謝率または安定性に影響することもある。
【0056】
本開示の組成物は、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて治療に用いることができる。それゆえ、本明細書に開示するピペリジンアルカロイドは、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または添加剤と混合して調製することができる。「薬学的に許容可能な」とは、材料が生物学的にまたはそれ以外においても不適切ではない、すなわち、その材料が、好ましくない生物学的効果を生じることなく、またはそれを含有する医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な相互作用を起こすことなく、本開示のピペリジンとともに対象に投与可能であることを意味する。担体は、当業者には公知であるように、当然ながら、活性成分の分解を最小化するとともに、対象における副作用を最小化するように選択される。
【0057】
適切な担体およびそれらの製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(19th ed.)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA 1995に記載されている。典型的には、製剤において適量の薬学的に許容可能な塩を用いて製剤を等張にする。薬学的に許容可能な担体の例には、生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液が含まれるがこれらに限定されない。この溶液のpHは、好ましくは、約5〜約8であり、より好ましくは、約7〜約7.5である。さらに、担体は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性基質等の徐放性製剤を含み、この基質は、造形品の形態、例えば、膜、微粒子、または微小粒子である。例えば、投与する組成物の投与経路および濃度によっては、特定の担体がより好ましい場合があることは当業者には明白である。
【0058】
医薬担体は当業者に公知である。これらは、最も典型的には、生理的pHの滅菌水、生理食塩水、および緩衝液等の溶液を含むヒトに対する薬物の投与のための標準的な担体である。上記組成物は、筋肉内投与または皮下投与が可能である。他の化合物は、当業者が用いる標準的な手順に従って投与される。
【0059】
医薬組成物は、選択分子の他に、担体、濃厚剤、希釈剤、緩衝材、保存料、界面活性剤等を含んでもよい。医薬組成物はまた、1つ以上の活性成分(例えば、抗菌剤、抗炎症薬、麻酔薬等)を含んでもよい。
【0060】
非経口的投与のための調剤は、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液、および乳液を含む。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射用有機エステル(オレイン酸エチル)がある。水性担体は、水、アルコール/水溶液、乳液、または懸濁液(生理食塩水および緩衝媒体を含む)を含む。非経口投与用担体は、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース液(デキストロース液および塩化ナトリウム)、乳酸リンゲル液、または不揮発性油を含む。静脈内投与用担体は、流体および栄養補給液、電解質補給液(例えば、リンガーのデキストロース液をベースにしたもの)等を含む。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガス等、保存料および他の添加剤を含有させてもよい。
【0061】
局所性投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、座薬、噴霧剤、液体、および粉末を含んでもよい。従来の医薬担体(水性、粉末、または油性基材)、濃厚剤等は、必要であるかまたは望ましい場合がある。
【0062】
経口投与のための組成物は、粉末もしくは顆粒、懸濁液もしくは水溶液、または非水性媒体、カプセル剤、サシェ(sachets)、または錠剤を含む。濃厚剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散補助剤、または結合剤が望ましい場合がある。
【0063】
上記組成物のいくつかは、潜在的に、無機酸(塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、およびリン酸等)および有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、およびフマル酸等)との反応、または無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム等)および有機塩基(モノアルキル、ジアルキル、トリアルキル、およびアリールアミン、ならびに置換エタノールアミン等)との反応によって形成される薬学的に許容可能な酸または塩基付加塩として投与可能である。
【0064】
C.方法
本明細書で開示するように、ピペリジンアルカロイドを神経性疾患もしくは神経機能障害の処置、または神経機能もしくは認知機能の強化に用いることができる。他の用途については、開示されているか、その開示内容から明白であり、かつ/または当業者に理解されるものである。
【0065】
理論で束縛することは望まないが、いくつかの局面では、Solenopsinは、フォスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)シグナル伝達を抑制することで神経機能もしくは認知機能に影響を持つようにすることができる。βセクレターゼ(BACE)発現の結果、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の処理を介して細胞内Aβ40−42レベルが上昇する。それゆえ、本明細書で開示するピペリジンアルカロイドを他のPI3K阻害剤と組み合わせて用いることができる。さらに、本開示のピペリジンアルカロイドを用いた対象の処置を、対象の標的細胞でのPI3K活性を検出することにより監視することができる。これによって、例えば、BACE活性の阻害による細胞中のAPP処理を低減することができる。APP処理の低減により、Aβペプチド(1−40および1−42)の産生を制限するとともに、アルツハイマー病(AD)の程度を抑えることができる。
【0066】
1.神経性疾患
本明細書で開示する方法および組成物はまた、例えば、脳卒中および関連虚血性疾患、脊髄損傷、末梢神経損傷、外傷性脳損傷、網膜変性、てんかん(全身、部分、または不応性てんかん等)、神経精神障害、および神経変性障害等の中枢神経系に関する各種の疾患および障害の予防、軽減、または処置に用いることができる。
【0067】
神経精神障害は、統合失調症、統合失調情動障害、注意欠陥障害、気分変調性障害、大うつ病性障害、躁病、強迫性障害、精神活性物質使用障害、不安神経症、パニック障害、および双極性情動障害、例えば、重度双極性情動(気分)障害(BP−I)、軽躁病および大うつを伴った双極性情動(気分)障害(BP−II)を含むがこれらに限定されない。さらに、CNS関連障害は、例えば、American Psychiatric Association’s Diagnostic and Statistical manual of Mental Disorders(DSM)(この最新版の全てを本明細書において参考として援用する)に記載のものを含む。
【0068】
神経変性障害の非限定的な例としては、アレキサンダー病、アルパーズ病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルーゲーリック病)、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病(シュピールマイアー−フォークト−シェーグレン−バッテン病としても知られる)、カナバン病、コケーン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト−ヤコブ病、ハンチントン病、ケネディ病、クラッベ病、レヴィー小体認知症、マシャド−ジョセフ病、脊髄小脳失調症3型)、多発性硬化症、多系統萎縮症、パーキンソン病、ペリツェウス−メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、シュピールマイアー−フォークト−シェーグレン−バッテン病(バッテン病としても知られる)、脊髄小脳失調(特徴が異なる複数のタイプ)、脊髄性筋萎縮症、スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー病、および脊髄癆が挙げられる。
【0069】
アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドを含む老人斑および神経原繊維変化の形成を特徴とする進行性神経変性障害である。これらの斑は、脳の辺縁および連合皮質に見られる。海馬は辺縁系の一部であり、学習および記憶において重要な役割を果たす。アルツハイマー病の対象では、斑の蓄積により、辺縁領域のニューロン構造に損傷が与えられ、最終的には、記憶過程に不具合を生じる。
【0070】
世界中でおよそ2千万人がアルツハイマー病を原因とする認知症を患っている。この病気は、30歳程度の若い人に影響を与える早発型のものであるか、または家族性もしくは散発性のものであり得る。家族性アルツハイマー病は、かつては、純粋に常染色体優性形質として遺伝されると考えられていたが、より多くの遺伝的決定基が単離されるにつれて、この考えは変化してきている。例えば、老人斑に見られるアポリポタンパク質E(ApoE)の正常な対立遺伝子多型の中には、病気の発症から防御するか、または病気が発症する危険性を増大し得るものもある(Strittmatterら(1993)Proc
Natl Acad Sci 90:1977−1981)。
【0071】
アミロイド−β(Aβ)ペプチドは、アルツハイマー病関連前駆体タンパク質、β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)の代謝産物であり、アルツハイマー病(AD)の主要な病理学的決定因子と考えられている。これらのペプチドは、主に、40〜42個のアミノ酸、それぞれ、Aβ1−40(「Aβ40」)およびAβ1−42(「Aβ42」)から構成される。Aβ40およびAβ42は、APPのC末端の近くで生じる2つの酵素的切断によって生成される。切断に関連する酵素、β−セクレターゼおよびγ−セクレターゼは、それぞれ、Aβの−およびC末端を生成する。このAβのアミノ末端は、APP(APP695イソ型番号)のメチオニン残基596とアスパラギン酸残基597間のβ−セクレターゼ切断によって形成される(例えば、米国特許第6,440,698号;および米国特許第5,744,346号参照)。
【0072】
γ−セクレターゼ活性は、このβ−セクレターゼ切断のC末端を様々な位置38−、40−または43−残基で切断し、Aβペプチドを放出する(例えば、米国特許出願第20020025540号参照)。γ−セクレターゼ酵素の完全な分子同一性はいまだ知られていない。プレセニリン1、または密接に関連するプレセニリン2がγ−セクレターゼ活性に必要である。γ−セクレターゼ活性は、プレセニリン1を遺伝子除去した胚由来の培養細胞では80%低減する。プレセニリン1およびプレセニリン2の両方が欠如した細胞では、全てのγ−セクレターゼ活性が失われる。γ−セクレターゼ活性のペプチド模倣性阻害剤をプレセニリン1および2に架橋することができるが、これは、これらのタンパク質が切断の触媒サブユニットであることを示唆している。しかしながら、細胞から分離されたγ−セクレターゼ活性は、>1Mダルトンの大型複合体として色層分析される。遺伝学的研究により、γ−セクレターゼ活性に必要なタンパク質がさらに3つ同定されている;ニカストリン、aph−1およびpen−1(Francisら、2002,Developmental Cell 3(1):85−97;Steinerら、2002,J.Biol.Chemistry:277(42):39062−39065;およびLiら、2002,J.Neurochem.82(6):1540−1548)。高分子量複合体内へのプレセニリンの蓄積は、これらのタンパク質が欠如する細胞では変化する。
【0073】
第3の酵素、α−セクレターゼは、前駆体タンパク質をβ切断部位とγ切断部位の間で切断することにより、AP産生を妨げ、P3として知られるおよそ3kDaの非病的なペプチドを放出する。β−およびα−セクレターゼ切断はまた、ともに結果的に、それぞれ、sAPβおよびsAPPαとして知られるAPPの可溶性の分泌末端断片を生じる。sAPPα断片は、神経保護作用を行うことが示唆されている。
【0074】
正常な人では、Aβペプチドは、2つの優勢型(多数Aβ−40(Aβ1−40としても知られる)型および少数Aβ42(Aβ1−42としても知られる)型、それぞれ個別のCOOH末端を有する)で見られる。ADの主要な組織学的病変は、影響を受けた脳の領域に生じる老人斑および神経原繊維変化である。老人斑は、Aβペプチド、主に、Aβ40およびAβ42から構成される。健康なニューロンは、Aβ40をAβ42と比較して少なくとも10倍多く産生するが、斑は、より可溶性が低いAβ42をより大きな割合で含有する。最も一般的な形態の家族性アルツハイマー病の患者では、Aβ42形態の量の増加が示される。Aβ40形態は、アミロイド班の初期の沈着とは関連しない。対照的に、Aβ42形態は、実質的な班において早期に、かつ優位に蓄積し、Aβ42が家族性アルツハイマー病患者のアミロイド班の沈着において重要な役割を果たすという有力な証拠がある(Roherら、1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:10836;Iwatasubo,T.ら、1994 Neuron 13:45;Yamaguchiら、1995,Amyloid Int.J.Clin.Invest.2:7−16;およびMannら、1996 Am.J.Pathol.148:1257)。
【0075】
4つの遺伝子の突然変異は、人をアルツハイマー病にかかりやすくさせることが分かっている:ApoE、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、プレセニリン−1、およびプレセニリン−2(Selkoe(1999)Nature 399:A23−A31)。ApoE遺伝子のe4対立遺伝子は、遅発性アルツハイマー病の危険性を高める。β−アミロイドタンパク質(Aβ)は、老人斑の主要成分であり、通常、β−およびγ−セクレターゼがAPPを切断するときに形成される。アルツハイマー病患者では、これらの神経病理学的班において大量のAβが生成され、細胞外に蓄積される。Aβ沈着の根本となるメカニズムを理解しようとする取り組みにおいて、最近ではAPP切断セクレターゼが注目されている。実際、2つの酵母アスパルチルプロテアーゼがAPPをインビトロで処理することが示されている(Zhangら(1997)Biochem Biophys
Acta 1359:110−122)。ペプチド模倣プローブを用いた証拠により、セクレターゼが膜内切断アスパルチルプロテアーゼであることがさらに確認されている(Wolfeら(1999)Biochemistry 38:4720−4727)。プレセニリン−1遺伝子は、APPカルボキシル末端を切断するγ−セクレターゼの候補である。いくつかの証拠により、プレセニリンの疾病過程における関与が裏付けられている。プレセニリンは、APPとともに免疫沈降する可能性があり、プレセニリン遺伝子の突然変異により、42−アミノ酸ペプチド形態のAβの産生が増大する。これらのミスセンス点突然変異の結果、特に侵攻性の早発型形態の病気が生じる(HaaasおよびDeStrooper(1999)Science 286:916−919)。
【0076】
β−セクレターゼと考えられるプロテアーゼBACE1およびBACE2(β部位APP切断酵素1および2)はAPPを切断する能力があるため、潜在的な治療標的である。Vassarら(1999;Science 286:735−741)は、BACE1がAPPを切断してインビトロでAβペプチドを産生するβ−セクレターゼ活性を有するアスパルチルプロテアーゼであることを見出した。これは、全ての脳の領域にわたってそれ程多くないレベルで発現し、ニューロンには集中するがグリアには集中しない。BACE1と52%のアミノ酸同一性を有するBACE2が、Saundersら(1999;Science 286:1255a)に記載されている。BACE1が11番染色体の長腕に位置するのに対して、BACE2は21番染色体のダウン症候群領域に位置する(Acquatiら、(2000)468:59−64;Saundersら、同上)。中年のダウン症候群患者はβ−アミロイド沈着が多いため、この位置は重要である。BACEファミリーの他のメンバーもまた、このAPP切断に関与することがある:Aβペプチドのアミノ末端は不均一に切断されると思われるが、これは、いくつかのβ−セクレターゼがAPP処理に関与していることを示している(Vassar(1999)Science 286:735−741)。
【0077】
アルツハイマー病と他の多くの遺伝子およびタンパク質との関連性が報告されている。胎児性アルツハイマー抗原(FALZ)およびシヌクレインa(SNCA)は、脳班およびもつれ(tangles)に見られる。いくつかの遺伝子多型の遺伝も病気を発症する危険性の増加に関連する。例えば、遺伝子をコードするβ2−マクログロブリン(プロテアーゼ阻害剤として作用可能なタンパク質)の多型は、遅発性のアルツハイマー病を発症する危険性の増加に関連する。
【0078】
100年前、アロイス・アルツハイマーは、彼の名前を冠した神経変性障害の主要な行動的および神経病理学的特徴を述べている。ADは、記憶および認知の進行性障害により臨床的/行動的に特徴付けられる。この臨床症状の緩徐な進行と関連する神経病理学的および神経生物学的変化は、アミロイド班および神経原繊維変化(NFT)の蓄積(Gearing M.ら、The Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease(CERAD).Part X.Neuropathology confirmation of the clinical diagnosis of Alzheimer’s Disease.Neurology.1995;45(3 Pt l):461−466)グリオーシス(Unger JW.,Microscopy Res.Technique.1998;43:24−28)、正常な老人に関する樹状可塑性(dendritic plasticity)の低下(Buell SJ.Coleman PD.,Science.1979;206(4420):854−856)、Flood DG.ら、Brain Research.1985;345(2):366−368,Flood DGら、Brain Research.1987;402(2):205−216)、ならびにニューロンの密度低下(Coleman PD.Flood DG.,ら、Neurobiology of Aging.1987;8(6):521−545)、Terry RDら、1987;21:530−539,West MJら、Lancet.1994;344:769−772)およびシナプスの密度低下(Scheff SW.ら、Neurobiology of Aging.1990;11(1):29−37)を含む。
【0079】
アルツハイマー病脳組織における遺伝子発現の変化の研究では、推定で約35%となるメッセージレベルの全般的な低下が示されている(Doebler JAら、Journal of Neuropathology & Experimental Neurology.1987;46(l):28−39)、(Griffin WSら、Alzheimer Disease & Associated Disorders.1990;4(2):69−78)、(Harrison PJら、Psychological Medicine.1991;21:855−866)。この全般的なmRNAの低下という背景に反して、特定の研究では、多種多様な遺伝子の発現の増加および減少が実証されている。アルツハイマー病の影響を受けた遺伝子クラスにはニューロン特異的に発現するものもある。これらは、特に、シナプス構造および機能ならびにニューロン骨格に関連する特定の遺伝子の発現の減少を含む(Ginsberg SD.ら、Annals of Neurology.2000;48(l):77−87)、(Yao Pら、Journal of Neuroscience.1998;18(7):2399−2411)。ADにおいて発現が変化する他のクラスの遺伝子は、細胞周期に関連するものを含む(Arendt T.,Neurobiology of Aging.2000;21(6)::783−796)、(Husseman JW.ら、Neurobiology of Aging.2000;21(6):815−828)、(Nagy Z.ら、Neurobiology of Aging.2000;21(6):761−769)、(Vincent Iら、J.Neurosci.1997;17:3588−3598)、および炎症/ストレス反応(確認のために、(Akiyama H.ら、Neurobiology of Aging.2000;21(3):383−421)を参照されたい)。これらの遺伝子クラスは、白血球(Wakutani Y.ら、Dementia.1995;6(6):301−305)、単球(Jung SS.ら、Neurobiology of Aging.1999;20(3):249−257)、および上皮細胞(Schmitz A.ら、Histochemistry & Cell Biology.2002;117(2):171−180)を含む神経系の外側に存在する各種の細胞型ならびに他の細胞型で発現する。
【0080】
ヒトの死後脳由来の単一ニューロンまたはホモジネートによる複数の遺伝子産物(メッセージ)の発現プロフィールの多変量解析を用いてアルツハイマー病と対照サンプルとを識別することができる(Cheetham JE.ら、Journal of Neuroscience Methods.1997;77(l),:43−48,Chow,N.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1998;95:9620−9625)。
【0081】
Aβ関連障害の症状は当業者には周知である。例えば、アルツハイマー病の症状は当該分野では周知であり、例えば、記憶喪失、軽度認知障害、認識衰退、重度認知障害、および、例えば、10年間の間に結果として機能的能力を喪失させる人格変化を含み得る。衰弱した状態では、患者は、通常、重度障害を示し、植物性神経機能のみを保持する。アルツハイマー病の症状には、細胞内神経原繊維変化および細胞外実質性および脳血管アミロイドを含む特定の分野で公知の神経病理学的病変も含まれる。
【0082】
それゆえ、対象のアルツハイマー病を処置または予防する方法であって、ピペリジンアルカロイドを含む組成物を治療有効量で対象に投与する工程を含む方法が提供される。アルツハイマー病の危険がある対象を処置する方法であって、ピペリジンアルカロイドを含む組成物を対象に投与する工程を含む方法も提供される。本明細書で用いる「障害」および「疾患」という用語は、対象の病状を指すために相互互換的に用いられる。
【0083】
本明細書で用いる「Aβ関連障害」または「Aβ障害」」という用語は、Aβレベルの逸脱または調節障害を含む疾患(例えば、アルツハイマー病)または病状(例えば、老年性認知症)である。Aβ関連障害は、アルツハイマー病、ダウン症候群、および封入体筋炎を含むがこれらに限定されない。それゆえ、Aβ関連障害をアルツハイマー病とすることができる。Aβ関連障害の進行は、遅延または好転させることができる。細胞または組織によって示されるアミロイド−βペプチド(Aβ)レベルを調節する方法であって、細胞または組織を、Aβレベルの調節に十分なピペリジンアルカロイドを含む一定量の組成物と接触させる工程を含む方法も提供される。
【0084】
本明細書で用いる細胞または組織は、興奮細胞(例えば、感覚ニューロン、運動ニューロン、または介在ニューロン);グリア細胞;初代培養細胞(例えば、初代培養神経またはグリア細胞);神経またはグリア細胞株由来の細胞(単数または複数);解離細胞(単数または複数);全細胞または無傷細胞(単数または複数);透過性細胞(単数または複数);破壊細胞製剤;単離および/または精製細胞製剤;細胞の抽出物または精製酵素製剤;組織または器官(例えば、脳、脳構造、脳切片、脊髄、脊髄切片、中枢神経系、末梢神経系、または神経);組織切片、および動物全体を含むがこれらに限定されない。特定の実施態様では、上記脳構造は、大脳皮質、海馬、または他の哺乳類種におけるそれらの解剖学的および/または機能的対応物である。特定の実施態様では、上記細胞または組織は、N2a細胞、初代神経培養または海馬組織外植片である。
【0085】
2.神経機能および身体能力の強化
本明細書で開示する方法および組成物はまた、神経および/または認知機能の強化にも用いることができる。本目的のために認識促進を哺乳動物である対象の認知能力の改善測定値として定義することができる。ラット等の実験用実験室動物の認知能力を測定する方法および手段は当業者には周知である(例えば、シャトル箱、モリス迷路等)。同様に、ヒト対象者の認知能力を測定する当業者に公知の方法が存在する(例えば、Beckerらが採用するもの)。薬物療法の有効性を評価する臨床試験では、アルツハイマー病患者の認知能力を調べるために多数の検定が用いられている。例としては、「Alzheimer Disease Assessment Scale」(ADAS−Cog)(Rosenら、Am.J.Psychiatry 1984 141,1356−1364)および「Mini Mental State Examination」(MMSE)(Rosenら、J.Psychiatric Res.1975 12,189−198)が挙げられる。認識促進は、統計的に有意な改善によって検知する(例えば、薬物を投与する検定群を対照群と比較し、適切な統計的検定(例えば、スチューデントt検定)で測定する。
【0086】
本明細書で開示する方法および組成物はまた、身体能力の強化にも用いることができる。本目的においては、身体能力強化を哺乳動物である対象の身体能力の改善測定値として定義することができる。ラット等の実験用実験室動物の身体能力を測定する方法および手段は当業者には周知である(例えば、握力、トレッドミル等)。同様に、ヒト対象者の身体能力を測定する当業者に公知の方法が存在する。多数の検定を用いて個人の身体能力が調べられている。
【0087】
3.作成方法
本開示のピペリジンアルカロイドは、アリ毒に見ることができるかもしくはそれから抽出することができるか、または合成的に生成することができる。
【0088】
i.抽出物
アリ毒抽出物は、アリ毒またはアリ全体から作成することができる。全身抽出物については、ムシを目の細かい生地ですり潰し、魚油等の食用担体材料とともに全身抽出物として可溶性カプセル剤に入れ、投与するまで冷凍保存する。この毒は、その有効性を維持するために冷蔵保存することができる。さらに、各ムシは、およそ1単位の毒、すなわち、40ナノリットルのSolenopsin(ソレノプシンAおよびソレノプシンB)を含有することがある。
【0089】
ii.化学合成
本化合物はまた、当該分野で周知の一般的な方法を用いて合成することができる。例えば、Wilkinsonらは、Org.Lett.2(2)155−8,2000において、2,6−二置換ピペリジンアルカロイドのエナンチオ選択的合成法を報告している。Monfrayらもシス−2,6−二置換および2,4,6−三置換ピペリジンアルカロイドの合成法を報告している(Tetrahedron Asymm.16(5):1025−34,2005)。Hirokiらは、トランス−2,6−二置換ピペリジンアルカロイドの調製法を報告している(Org.Biomol.Chem.4:1587−95,2006)。さらなる例がBeakおよびLeeによって報告されており、この例では、Boc(tert−ブトキシカルボニル)保護環状アミンを用いるとともに、それらを2,6−二置換ピペリジンに変換している(J.Org.Chem.58:1109−1117、1993)。さらに、Yamauchiらは、パン酵母を用いて(2−オキソシクロヘキシル)アセテートを還元し、鏡像異性的に純粋な出発原料を得た後、それらを用いて2,6−二置換ピペリジンを調製したことを報告している(Biosci.Biotechnol.Biochem.68(3):676−84,2004)。本明細書で開示する2,6−二置換ピペリジンアルカロイドの合成経路のさらなる例は、例えば、Felpinら、Curr.Org.Syn.1:83−109,2004;Cominsら、J.Org.Chem.56:2506,1991;およびWangら、J.Org.Chem.70:1897−1900,2005において見ることができる。さらに他の例としては、Solenopsin誘導体および類似ピペリジンアルカロイドを調製する方法が米国特許第6,369,078号に開示されている。これらの参考文献の各々は、少なくともピペリジンアルカロイドおよびそれらを調製する方法の教示については、その全てを本明細書において参考として援用する。
【0090】
Solenopsin等のピペリジンアルカロイドの化学合成法は、米国特許出願公開第2005/0038071号に開示されている(これらの組成物および方法の教示については、その全てを本明細書において参考として援用する)。効果的な柔軟化学反応を用いてソレノプシンAおよびソレノプシンAの類似体を合成することができる。本明細書に開示する多数の類似体については、各種の方法を用いることが可能であるとともに、それらに適合させることができる。例えば、これらの教示について本明細書において参考として援用するComins,D.L.ら(J.Org.Chem.1991,56,2506)を参照されたい。例えば、4−クロロピリジンは、−78℃のTHF中の臭化アルキルマグネシウム用いてピリジン環の2位にR基を導入した後、クロロギ酸フェニルで処理して個々のジヒドロピリジン誘導体を得るようにすることができる。次いで、このジヒドロピリジン誘導体を、テトラヒドロフラン中のカリウムt−ブトキシドを−42℃で用いて、対応するN−Boc(Bocは炭酸第三ブチル基である)誘導体に変換することができる。メチル(または他のアルキル基)は、最初の工程として、−78℃のTHF中にn−ブチルリチウム(n−BuLi)を入れた後、ヨウ化メチルを用いてジヒドロピリジン化合物の6位にメチル(または他のアルキル基)を導入することによりジヒドロピリジン環の6位に導入することができ、ジアルキル置換塩素置換ジヒドロピリジン誘導体を形成することができる。次いで、ジアルキル置換コリン置換ジヒドロピリジン誘導体(dialkyl substituted chorine substituted dihydropyridine derivative)に水素化処理(メタノールにおける水素、パラジウム/炭素触媒)を行って4位の塩素族を取り除くことができ、この誘導体を、塩化メチレン中のNABH/TFAを用いて水素化し、ジアルキル置換N−bocピペリジン誘導体を得る。このboc基を、塩化メチレン中の15%トリフルオロ酢酸を用いてジアルキル置換ピペリジン誘導体を生じることで容易に取り除くことができる。塩の生成は、塩基窒素を酸性化する適切な酸を用いて容易に行うことができる。
【0091】
代替的な化学合成法では、ジアルキル置換ピペリジン類似体に対してより効果的な経路を用いることができる。この経路により、ピペリジン環の2位の側鎖に二重結合を容易に導入することができる。この方法は、Beakらにより報告される化学的方法(Beak,P.;Lee,W.K.J.Org.Chem.1993,58,1109;Tetrahedron Lett.1989,30,1197(この合成法の教示について本明細書において参考として援用する))に従うようにすることができる。この方法は、メチレン基のリチオ化−置換に関する位置選択的およびジアステレオ選択的方法を明示している。
【0092】
N−bocピペリジンを、−78℃のsec−ブチルリチウム(sec−BuLi)に曝した後、硫酸ジメチルに曝してメチル置換N−Bocピペリジン類似物を得ることができる。次いで、上記で調製したN−Bocピペリジン類似物を−78℃のsec−BuLiに曝した後、ジメチルホルムアミドに曝してホルミルピペリジン誘導体を生成し、これをウィティッヒ反応によりさらに反応させて、より鎖が長いアルキル化産物(飽和または不飽和)を生成することができる。不飽和側鎖が望ましい場合、ウィティッヒ反応によりその様な置換基を直接的に得た後、手順に従ってBoc基を除去することができる。塩の生成についても、当該分野で利用可能な標準的な方法を用いて容易に行うことができる。
【0093】
代替的には、アルキル(飽和)側鎖を得るために、水素/Pd/Cを用いてウィティッヒ生成物を還元して完全飽和側鎖を得ることができる。塩の生成の前に、先に述べた方法を用いてBoc基を容易に取り除くことができる。
【0094】
当業者は、上述した化学合成法を容易に適合させて、ピペリジン環の2位および6位に異なる側鎖を置換し、本開示の化合物を生成することができる。これらの方法は、本開示の化合物に多数の側鎖を生成するように容易に適合させることができる。
【0095】
4.投与方法
上記組成物は、例えば、経口、非経口(例えば、静脈内)、頭蓋内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮、体外、または局所性投与等を行なうことができる(局所鼻腔内投与または吸入による投与を含む)。吸入による組成物の投与は、噴霧または液滴機構による送達により鼻または口を介して行うことができる。送達はまた、挿管により呼吸器系(例えば、肺)のあらゆる場所に対して直接的に行うことができる。必要とされる組成物の正確な量は、対象の種、年齢、体重、および全体的な状態、処置する障害の重篤度、特定の使用組成物、投与方式等に応じて対象ごとに変更される。それゆえ、全ての組成物について正確な量を示すことは不可能である。しかしながら、本明細書の教示があれば、当業者は、日常的な実験のみを用いて適量を決定することが可能である。
【0096】
上記組成物の非経口的投与を用いる場合には、一般には、注射によることを特徴とする。注射剤は、従来の形態で調製することができ、溶液または懸濁液、注射の前に懸濁液の溶解に適した固形、または乳液とすることができる。非経口的投与の他の手法では、一定の用量が維持されるように、徐放性または持続放出性製剤が使用される。例えば、本明細書において参考として援用する米国特許第3,610,795号を参照されたい。
【0097】
上記材料は、溶解、懸濁してもよい(例えば、微小粒子、微粒子、または細胞内に組み込む)。これらは、抗体、受容体、または受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的とするようにしてもよい。一般に、受容体は、構造性またはリガンド誘発性のエンドサイトーシスの経路に含まれる。これらのクラスリン被覆ピットの受容体クラスターは、クラスリン被覆小胞を介して細胞に入り、受容体が選別される酸性化エンドソームを通過した後、細胞表面に戻るか、もしくは細胞内に貯蔵されるか、またはリソソーム内で分解される。内在性経路は、栄養摂取、活性タンパク質の除去、巨大分子の一掃、ウィルスおよび有害物質の日和見的侵入、リガンドの分裂および分解、ならびに受容体レベル調節等の各種の機能を果たす。多くの受容体は、細胞型、受容体濃度、リガンドのタイプ、リガンドの価数、およびリガンド濃度に応じて、複数の細胞内経路を辿る。受容体媒介エンドサイトーシスの分子および細胞機構については概説されている(BrownおよびGreene、DNA and Cell Biology 10:6,399−409,1991)。
【0098】
5.投与量
上記組成物の効果的な投与量および投与スケジュールは実験に基づいて決定してもよく、そのような決定は当業者の能力の範囲内である。上記組成物の投与用量域は、症状障害に変化させる所望の効果を生じるように十分に広い。この用量は、不要な交差反応、アナフィラキシー反応等の副作用を生じる程大きくしてはいけない。一般に、用量は、患者の年齢、健康状態、性別、および病気の程度、投与経路、または投与計画に他の薬物が含まれているかどうかに応じて変更され、当業者が決定することが可能である。なんらかの禁忌(counterindications)がある場合、個々の医師は用量を調整することが可能である。用量は変更可能であり、1日または数日間にわたって、1日に1回以上の投与を行うことができる。所与のクラスの医薬品に対する適切な用量については、文献においてガイダンスを見ることができる。例えば、抗体の適切な投与量を選択する際のガイダンスは、抗体の治療的使用に関する文献で見ることができる(例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies,Ferroneら、eds.,Noges Publications,Park Ridge,NJ.,(1985)ch.22およびpp.303−357;Smithら、Antibodies in Human Diagnosis and Therapy、Haberら、eds.,Raven Press,New York(1977)pp.365−389)。単独で用いる抗体の典型的な1日投与量は、上記のファクターに応じて、1日につき、体重1kgに対して約1μg〜100mg以上までの範囲とすることができる。
【0099】
本開示の組成物を神経性疾患の処置、阻害、または予防のために投与した後、当業者に公知の各種の方法で治療の有効性を評価することができる。例えば、当業者は、認知機能を判定することで、本明細書で開示する組成物が対象の神経性疾患の処置または阻害に有効であることを理解する。
【0100】
D.特定の実施態様
対象の神経変性疾患を治療または予防する方法であって、神経変性疾患の危険がある対象を特定し、ピペリジンアルカロイドを含む組成物を治療有効量で対象に投与する工程を含む方法が提供される。上記組成物は、ヒアリ(Solenopsis invicta)毒の抽出物を含むようにすることができる。上記ピペリジンアルカロイドは、式:
【0101】
【化3】

を有するようにすることができ、ここでRはn−アルキル−ピペリジンである。
【0102】
上記ピペリジンアルカロイドは、2−メチル−6−アルキル−ピペリジンを含むようにすることができる。上記ピペリジンアルカロイドは、ソレノプシンAとすることができる。上記方法のピペリジンアルカロイドは、シス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−ウンデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−トリデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン、トランス−2−メチル−6−ペンタデシルピペリジン、シス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−1−イル)ピペリジン、トランス−2−メチル−6−(シス−4−トリデセン−1−イル)ピペリジン、シス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジン、トランス−2−メチル−6−(シス−4−ペンタデセン−1−イル)ピペリジンからなる群より選択可能である。上記ピペリジンアルカロイドは、2−メチル−6−ウンデシルピペリジンとすることができる。
【0103】
1つの局面では、上記対象はアルツハイマー病と診断されている。上記組成物は、対象に対して、経口、全身、または頭蓋内投与することができる。
【0104】
アルツハイマー病の危険がある対象を処置する方法であって、ピペリジンアルカロイドを含む組成物を対象に投与する工程を含む方法も提供される。
【実施例】
【0105】
1.実施例1:動物実験
Charleston,SC産のS.invictaからヒアリ毒(FAV)を抽出し、アリが逃げないようにするためにテフロン(登録商標)ビーカーに入れて輸送した。ヘキサン(5ml)が入った30mlバイアルにアリ(n=100)を入れた。次いで、バイアルに封をして、24時間後にFAVアルカロイドが存在するかどうかについて内容物を分析した。アリは、溶媒に接した際に毒を出した。
【0106】
ヒアリ毒(FAV)抽出物をいくつかの異なる投与量(1、10、および100ng/kg(腹腔内、毎日)で高齢ラット(20ヶ月)に注射した。7日後、モリス水迷路およびオープンフィールド試験を用いて動物の行動分析を行った。動物は、賦形剤を注射した動物と比較して、加齢に伴う障害に用量依存的な改善を示した。さらに、上記投与量では動物に悪影響は見られなかった。
【0107】
2.実施例2:臨床試験
米国生まれで当時86歳であった独身の白人男性のD氏の臨床的観察では、25ポンドの体重減少、倦怠感、情動不安、気分の落ち込み、失見当識、および不安神経症が見られた。患者には、認知機能、特に、見当識(時間、場所、人)、最近の記憶、新たな学習能力、短期記憶容量(digit span)、情報および語彙、計算力にの分野に関して大きな低下が見られるとともに、軽度から中程度のアルツハイマー病の抽象的な思考的特徴が見られた。
【0108】
FAV(20〜30個の咬傷、20〜30単位/μl)に偶然さらされた後48〜72時間以内に、患者は、特に、上述した分野において認知基準が著しく改善した;1年間(維持量なしで)この患者を追跡したところ、患者は、多少の認知的後退を示したが、認知能力は、依然として著しく改善されたままである。さらに、うつ病の全ての兆候が無くなっており、その1年間で体重が27ポンド増え、1週間に4回ジムに通い、高齢者の仲間との活動的な社会生活を再開している。友人および家族は、氏の生活に劇的な転換があったと語っている。
【0109】
患者が過去に摂取したことがあり、現在も摂取している医薬は、1日につき81mgのアスピリンのみであるため、薬理学において類まれな新たな歴史が示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【公開番号】特開2013−82750(P2013−82750A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−22219(P2013−22219)
【出願日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【分割の表示】特願2009−519616(P2009−519616)の分割
【原出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(509010735)シナプシン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】