説明

神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体

神経性障害をスクリーニングするための方法が、開示される。具体的には、被験体における神経性障害をスクリーニングするための方法が開示され、この方法は、その被験体から得られた組織サンプルを、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベル上昇の存在について分析することによる。特に、被験体における神経性障害を診断する方法、または被験体において神経性障害を発症する可能性を予測する方法が開示され、その方法は、その被験体から得られた組織サンプル中の3N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA)のレベルを決定することによる。神経性障害と関連がある環境因子をスクリーニングするための方法が、開示される。神経性障害または神経性疾患を処置または予防するための方法が、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年8月12日に出願された米国仮特許出願番号第60/494,686号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、神経性障害のスクリーニングに関する。具体的には、本発明は、被験体における神経性障害をスクリーニングするための方法に関し、この方法は、その被験体から得られた組織サンプルを分析し、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することによる。特に、本発明は、被験体における神経性障害を診断する方法、または被験体において神経性障害を発症する可能性を予測する方法に関し、その方法は、その被験体から得られた組織サンプル中の、β−N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA)またはその神経毒性誘導体のレベルを決定することによる。さらに、本発明は、神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体についての環境サンプルのスクリーニングに関する。さらに、本発明は、神経性障害の阻害に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
KurlandおよびMulder(1954)によりグアムのチャモロ人の間で最初に同定された独特の神経性疾患は、症候の組み合わせにより特徴付けられ、この症候はとしては、前傾姿勢、空虚で無表情な顔、痴呆、緩慢な摺り足の動作、意図的な動作の際には停止する安静時振せん、緩慢動作、および手の中への筋肉の沈み込みを生じる筋萎縮が挙げられる。いくつかの臨床的な徴候において、患者は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と区別不能な臨床的症候を有する。他の患者は、痴呆と合わさったパーキンソニズムの特徴(パーキンソニズム痴呆複合、PDC)を有する。なお他の患者において、痴呆のみが観察される。いくらかの患者はまた、ALSおよびPDCの両方を有する。神経病理学的に、その疾患の全ての臨床的形態は、特異的な特徴(神経原線維変化)を生じ、これは皮質および脊髄に見られる。その疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)およびアルツハイマー病(AD)と似ているという局面を有するので、この疾患は、グアムの筋萎縮性側索硬化症−パーキンソニズム痴呆複合(ALS−PDC)として公知であり、そしてlytico−bodigとしてもまた公知である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、その被験体由来の組織サンプルを分析し、その神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することによる。その神経毒性アミノ酸またはその神経変性誘導体は、グルタミン酸レセプターアゴニスト(例えば、β−N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA)、またはβ−N−オキサリル−アミノ−L−アラニン(BOAA))であり得る。組織サンプルにおいて、タンパク質結合神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が分析されても、遊離(非結合)神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が分析されても、またはサンプルにおいてタンパク質結合神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体および遊離神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の両方が分析されても良い。組織サンプルにおいて、タンパク質結合BMAA、遊離BMAAまたはタンパク質結合BMAAおよび遊離BMAAの両方が分析され得る。上記被験体は、神経性障害の症候を有していても、神経性障害について無症候であっても、または神経性障害を発症する危険があると同定されていてもよい。上記神経毒性誘導体は、神経毒性活性を有する任意の誘導体(例えば、上記神経毒性アミノ酸のカルバミン酸付加体または代謝物)であり得る。
【0005】
本発明は、神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、その被験体由来の組織サンプルを分析し、その神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することにより、ここで、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の検出可能なレベルの存在が神経性障害を示す。本発明の方法は、神経性障害を検出するために使用され得、この神経性障害としては、神経原線維変化障害(NFT障害)(例えば、筋萎縮性側索硬化症−パーキンソニズム痴呆複合(ALS−PDC)、アルツハイマー病、または進行性核上性麻痺(PSP))、運動障害(例えば、パーキンソン病)、あるいは運動ニューロン障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS))が挙げられる。
【0006】
本発明は、神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、その被験体由来の組織サンプルを分析し、その神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することにより、ここで、その方法は、神経性障害発症の可能性を予測するために、そして/またはその神経性障害発症までの潜伏期間を予測するために、そして/またはその神経性障害の重症度を予測するために、使用され得る。本発明の方法は、組織サンプルを使用して実施され得、この組織サンプルとしては、神経性組織または非神経性組織が挙げられるが、これらに限定されない。神経性組織は、中枢神経系(CNS)(脳組織または脳−脊髄液(CSF)を含む)と関連付けられていても、末梢神経系(PNS)と関連付けられていてもよい。非神経性組織は、ケラチン組織であり得、毛髪、皮膚、爪(指の爪または足指の爪を含む)、羽、鉤爪、蹄、または角が挙げられるが、これらに限定されない。非神経性組織は、非ケラチン組織であり得、血液、血清、唾液、または尿が挙げられるが、これらに限定されない。
【0007】
本発明は、環境サンプルをスクリーニングして、その環境サンプルが神経性障害と関連があるかどうか決定するための方法を提供し、この方法は、その環境サンプルを分析して、その神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することによる。この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、メチル化アラニン(特に、BMAA)のようなグルタミン酸レセプターアゴニストであり得る。適した環境サンプルとしては、水および/あるいは食品または食物供給源が挙げられる。
【0008】
本発明は、環境サンプルをスクリーニングして、その環境サンプルが神経性障害と関連があるかどうか決定するための方法を提供し、この方法は、その環境サンプルにおいて藍色細菌が産生する神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を検出することによる。この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、メチル化アラニン(特に、BMAA)のようなグルタミン酸レセプターアゴニストであり得る。本発明の方法は、藍色細菌が産生する神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の検出に適しており、その藍色細菌としては、Nostoc属および/またはAnabena属の藍色細菌が挙げられる。適した環境サンプルとしては、水および/あるいは食品または食物供給源が挙げられる。
【0009】
本発明は、被験体において神経性障害を阻害するための方法を提供し、この方法は、特に内在性レザバからその神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を放出することにより、その神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを減少させることによる。この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、メチル化アラニン(特に、BMAA)のようなグルタミン酸レセプターアゴニストであり得る。
【0010】
本発明は、被験体における神経性障害を阻害する方法を提供し、この方法は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と標的分子との相互作用をブロックする神経保護化合物の細胞内濃度を増加させることによる。この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、メチル化アラニン(特に、BMAA)のようなグルタミン酸レセプターアゴニストであり得る。その神経保護化合物は、グルタミン酸であり得る。この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体に結合またはキレート化する薬剤が、包含され得る。
【0011】
本発明はさらに、神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングするためのキットを提供し、ここでそのキットは、その被験体から組織サンプルを得るための手段、およびその組織サンプルを分析し、その神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するための手段を包含する。そのキットは、メチル化アラニン(特に、BMAA)のようなグルタミン酸レセプターアゴニストの存在を決定するための手段を包含し得る。そのキットは、そのサンプル中のタンパク質結合BMAA、遊離BMAA、またはタンパク質結合BMAAおよび遊離BMAAの両方を分析するための手段を包含し得る。そのキットは、上記被験体から、複数の組織サンプルを得、そして分析するための手段を包含し得る。その組織サンプルは、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積していることが既知である組織のサンプル、および神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積していないことが既知である組織のサンプルを包含し得る。その組織サンプルは、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積していることが既知である少なくとも2つの異なる組織のサンプルを包含し得る。そのキットは、上記被験体の繰り返しスクリーニングを行うための手段を包含し得る。
【0012】
表1は、Cycas micronesia Hillの種々のサンプルにおけるBMAA濃度およびGLU濃度を示す。濃度はμg/gとして示されている。
【0013】
表2は、ソテツの組織、ソテツの粉末、およびオオコウモリ(flying fox)の組織のサンプル中のBMAA濃度を示す。
【0014】
表3は、チャモロ人集団およびカナダ人集団由来の患者の上前頭回由来の組織サンプルにおける遊離BMAAおよびタンパク質結合BMAAのレベルを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
本開示は、神経性障害についてスクリーニングするための方法を提供する。本明細書中に提供される方法は、被験体における神経性障害を診断または予測するために、神経性障害と関連がある環境因子についてスクリーニングするために、そして被験体における神経性障害を阻害するために、使用され得る。
【0016】
本発明は、神経性障害について被験体をスクリーニングするための方法を提供し、この方法は、その被験体由来の組織サンプルを分析して、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定することによる。本発明はさらに、環境サンプルをスクリーニングし、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するための方法を提供する。句「神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定する」または「神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定すること」または同様の句は、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の検出可能なレベルの存在または非存在を決定することを包含するだけでなく、サンプルにおいて検出される神経毒性アミノ酸または神経毒性誘導体のレベルを定量することもまた包含する。従って、特定の実施形態において、サンプルにおける「神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定すること」は、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを決定することを包含し得、そしてさらにそのサンプルにおける神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルが、他のサンプルにおいて検出されるレベルと比較して上昇しているか減少しているかのいずれかを決定することを包含し得る。
【0017】
スクリーニングは、被験体由来の組織サンプルを分析することにより、被験体における神経性障害を診断することまたは予測することを包含するが、これらに限定されない。スクリーニングは、神経性障害を有する被験体において行われても、神経性障害を有する危険がある被験体において行われても、または神経性障害を有する既知の危険を有さない被験体において行われてもよい。スクリーニングはさらに、環境サンプルを分析し、神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体に対する被験体の実際のまたは潜在的な曝露を決定する工程を包含する。
【0018】
本明細書中に提供されるように、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体としては、非タンパク質アミノ酸、興奮性アミノ酸、アミノ酸アナログ、アミノ酸代謝物、アミノ酸のカルバミン酸付加体、およびアミノ酸の結合体が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、1つ以上の神経性障害が、被験体から得られる組織のサンプルにおけるβ−N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA)の存在を決定することにより、その被験体においてスクリーニングされ得る。別の実施形態において、1つ以上の神経性障害が、被験体から得られる組織のサンプルにおける(S)−2−アミノ−3−(3−ヒドロキシ−5−メチルイソオキサゾール−4−イル)プロピオン酸(AMPA)の存在を決定することにより、スクリーニングされ得る。なお別の実施形態において、1つ以上の神経性障害が、被験体から得られる組織のサンプルにおけるβ−N−オキサリル−アミノ−L−アラニン(BOAA、S−(−)−β−N−オキサリル−β−ジアミノプロピオン酸ともまた、記載される)の存在を決定することにより、その被験体においてスクリーニングされ得る。神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を決定するための方法は、必要ならば、同じ化合物の非神経毒性アイソフォームから神経毒性アイソフォームを区別するための(例えば、非神経毒性のD−BOAAから神経毒性のL−BOAAを区別するための)方法を包含することが、理解される。
【0019】
本発明の神経毒性アミノ酸は、非タンパク質アミノ酸であり得、その非タンパク質アミノ酸としては、β−アラニン(3−アラニン)、4−アミノブチレート(GABA)、3−シアノアラニン(β−シアノアラニン)、2−アミノ酪酸、2−メチレン−4−アミノ酪酸、3−メチレン−4−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、5−アミノレブリン酸、2−アミノ−4−メチルヘキサン酸(ホモイソロイシン)、2−アミノ−4−メチルヘキサ−4−エン酸、2−アミノ−4−メチルヘキサ−5−イン酸、2−アミノ−3−メチルペンタン酸、2−アミノアジピン酸、4−エチリデングルタミン酸、3−アミノグルタル酸、2−アミノピメリン酸、N4−エチルアスパラギン、N4−メチルアスパラギン、エリスロ−4−メチルグルタミン酸、4−メチレングルタミン酸、4−メチレングルタミン、N5−メチルグルタミン、N5−エチルグルタミン(テアニン(theanine))、N5−イソプロピルグルタミン、2−アミノ−4−(アミノキシ)酪酸(カナリン(canaline))、2,4−ジアミノブチレート、N4−アセチル−2,4−ジアミノブチレート、N4−ラクチル−2,4−ジアミノブチレート、N4−オキサリル−2,4−ジアミノブチレート、2,3−ジアミノプロピオン酸、N3−アセチル−2,3−ジアミノプロピオン酸、N3−メチル−2,3−ジアミノプロピオン酸、N3−オキサリル−2,3−ジアミノプロピオン酸、N6−アセチルリジン、N6−メチルリジン、N6−トリメチルリジン(ラミニン(laminine))、オルニチン(2,5−ジアミノペンタン酸)、サッカロピン(N6−(2’−グルタミル)リジン)、2,6−ジアミノピメリン酸、N4−(2−ヒドロキシルエチル)アスパラギン、エリスロ−3−ヒドロキシアスパラギン酸、4−ヒドロキシアルギニン、4−ヒドロキシシトルリン、トレオ−4−ヒドロキシグルタミン酸、3,4−ジヒドロキシグルタミン酸、3−ヒドロキシ−4−メチルグルタミン酸、3−ヒドロキシ−4−メチレングルタミン酸、4−ヒドロキシ−4−メチルグルタミン酸、4−ヒドロキシ−グルタミン、N5−(2−ヒドロキシエチル)グルタミン、5−ヒドロキシノルロイシン、トレオ−4−ヒドロキシホモアルギニン、ホモセリン、O−アセチルホモセリン、O−オキサリルホモセリン、O−ホスホホモセリン、4−ヒドロキシイソロイシン、5−ヒドロキシメチルホモシステイン、トレオ−3−ヒドロキシロイシン、5−ヒドロキシロイシン、2−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシリジン、5−ヒドロキシリジン、N6−アセチル−5−ヒドロキシリジン、N6−トリメチル−5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシオルニチン、ミモシン(mimosine)、4−ヒドロキシノルバリン、5−ヒドロキシノルバリン、2−アミノ−4,5−ジヒドロキシペンタン酸、2−アミノ−4−ヒドロキシピメリン酸、4−ヒドロキシバリン、O−アセチルセリン、O−ホスホセリン、ピペコリン酸(ピペリジン−2−カルボン酸)、3−ヒドロキシピペコリン酸、トランス−4−ヒドロキシピペコリン酸、トランス−5−ヒドロキシピペコリン酸、5−ヒドロキシ−6−メチルピペコリン酸、4,5−ジヒドロキシピペコリン酸、トランス−3−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシメチルプロリン、アゼチジン−2−カルボン酸、N−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)アゼチジン−2−カルボン酸、4,5−デヒドロピペコリン酸(バイキアイン(baikiain))、3−アミノ−3−カルボキシピロリドン(ククルビチン(cucurbitine))、2−(シクロペンタ−2’−エニル)グリジン、5−ヒドロキシトリプトファン、アルビジン(albizziine)(2−アミノ−3−ウレイドプロピオン酸)、アルギノコハク酸、カナビノコハク酸(canavinosuccinic acid)、シトルリン、ホモアルギニン、ホモシトルリン、インドスピシン(indospicine)、O−ウレイドホモセリン、6−ヒドロキシキヌレニン、3−(4−アミノフェニル)アラニン、3−(3−アミノメチルフェニル)アラニン、3−(3−カルボキシフェニル)アラニン、3−カルボキシチロシン、3−(3−ヒドロキシメチルフェニル)アラニン、3−(3−ヒドロキシフェニル)アラニン、3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アラニン(L−DOPA)、2−(フェニル)グリジン、2−(3−カルボキシフェニル)グリジン、2−(3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェニル)グリジン、2−(3−ヒドロキシフェニル)グリジン、2−(3,5−ジヒドロキシフェニル)グリジン、4−アミノピペコリン酸、グバシン(guvacine)、2−アミノ−4−(イソキサゾリン−5−オン)−2−イル)酪酸、ラチリン(lathyrine)、またはテトラヒドロラチリンが挙げられるが、これらに限定されない(SpencerおよびBerman,2003,Plant Toxins and Human Health,CABI,1−23頁中)。本開示は、当業者が本発明の神経毒性非タンパク質アミノ酸を同定するための、十分なガイダンスを提供する。
【0020】
非タンパク質アミノ酸の神経毒性誘導体としては、代謝物、カルバミン酸付加体、アナログ、および神経毒性活性を有する他のアミノ酸誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。1つの局面に従うと、神経毒性誘導体は、神経毒性アミノ酸のカルバミン酸付加体(カルバミン酸塩)である。1つの実施形態において、本発明の神経毒性誘導体は、BMAAのカルバミン酸付加体であり、α−N−カルボキシ−β−N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA−α−NCO)および/またはβ−(N−カルボキシ−N−メチル)−アミノ−L−アラニン(BMAA−β−NCO)が挙げられる(Brownsonら、2002、J Ethnopharmacol 82:159−167;MyersおよびNelson,1990,J Biol Chem 265:10193−10195)。別の局面に従うと、神経毒性誘導体は、神経毒性アミノ酸の神経毒性アイソフォームを包含するが、代わりに、特定の実施形態においては、その神経毒性アイソフォームが、この神経毒性アミノ酸であることが理解され得る。神経毒性誘導体はまた、メチル化代謝物、カルバミル化代謝物またはヒドロキシル化代謝物であってもよいし、あるいは糖、脂質、またはタンパク質に結合された代謝物であってもよい。本明細書中に提供される方法が、神経性障害と関連がある神経毒性を決定するために適していること、そして測定される化合物が必ずしも特定の被験体においてインビボで作用している化合物でない場合でさえも、神経毒性の安定な測定を提供し得ることが理解される。1つの実施形態において、本開示は、組織サンプルおよび環境サンプルにおけるBMAAレベルを決定するための方法を提供し、そしてこれらの方法は、これらの方法がBMAAまたは誘導体(例えば、BMAAのカルバミン酸付加体(例えば、BMAA−α−NCO)またはβ−(N−カルボキシ−N−メチル)−アミノ−L−アラニン(BMAA−β−NCO))のどちらが特定の実施形態において最も活性な化合物であるのかを区別しない場合でさえ、安定な結果を生じる。本明細書中に示される方法は、安定であり、そして特定の実施形態の特定の状況に従って、当業者によりさらに洗練され得る。
【0021】
別の局面に従うと、本発明は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体について環境サンプルをスクリーニングする方法を提供する。神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体についての環境サンプルのスクリーニングとしては、神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体への被験体の実際の曝露または潜在的な曝露を決定するためのスクリーニング、および神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体で汚染されている環境サンプルを同定するためのスクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、本発明は、水サンプルまたは食品を含む環境サンプルにおけるBMAAレベルを決定するための方法を提供する。
【0022】
なお別の局面に従うと、本発明は、被験体における神経性障害を阻害するための方法を提供し、この方法は、例えば神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の内在性レザバーを排出させることにより、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを減少させることによる。阻害としては、現存する神経性障害を処置することまたは神経性障害を予防することが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、本発明は、被験体においてBMAAまたはその誘導体の内在性レザバーを排出させるための方法を提供する。
【0023】
別の局面に従うと、本発明は、被験体における神経性障害を阻害するための方法を提供し、この方法は、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体とその標的分子との間の相互作用を妨害することによる。特に、本発明は、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と標的分子との相互作用をブロックする神経保護化合物の細胞内濃度を上昇させることによる、神経性障害を阻害するための方法を提供する。1つの実施形態において、この神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、BMAAまたはBMAA誘導体であり、そしてその神経保護化合物は、グルタミン酸またはグルタミン酸アナログである。神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体に結合する薬剤は、内在性レザバーから放出される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を隔離するために含まれ得る。キレート化剤は、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が内在性レザバーから放出される場合に放出される金属イオンをキレート化するために含まれ得る。
【0024】
本明細書中に提供されるように、被験体は、本発明の方法の実施に適した任意の生物であり得る。具体的には、被験体は哺乳動物であり、より具体的には、霊長類であり、さらにより具体的には、ヒトである。1つの実施形態において、被験体は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体に曝露された実験動物である。このような実験動物としては、マウス、ウサギ、ラット、コウモリ、ブタ、ヒツジ、雌ウシ、サル、類人猿(ape)、または神経性障害についての研究に適した他の動物が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、本発明の方法は、1つ以上の神経性疾患が存在する動物モデルについての実験動物を使用して実行される。別の実施形態において、本発明の方法は、1つ以上の神経性障害の動物モデルの開発の一環として実験動物を使用して実行される。なお別の実施形態において、本発明の方法は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体への曝露の効果が、脳の化学、構造、または機能の研究により測定されている実験動物を使用して実行される。1つの実施形態において、被験体はヒトである。別の実施形態において、被験体は、1つ以上の神経性障害に罹患しているヒトである。別の実施形態において、被験体は、1つ以上の神経性障害について無症候であるヒトである。別の実施形態において、被験体は、神経性障害を発症する危険があると同定されているヒトである。なお別の実施形態において、被験体は、神経性障害と関連がある少なくとも1つの神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体へ曝露されていたことが既知であるかまたはその疑いがあるヒトである。
【0025】
本発明の1つの局面に従うと、方法は、被験体由来の組織サンプル、または環境スクリーニングに使用される環境サンプルを、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の1つ以上の形態について分析するために提供される。方法は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の遊離(例えば、非結合、サイトゾル、環化)形態、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のタンパク質結合形態(例えば、タンパク質に結合されているかまたは組み込まれている形態)、あるいは神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の結合体形態(例えば、糖または脂質に結合されている形態)の分析を包含する。当業者は、サンプル中にどの形態の神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が存在しているか決定し得、そしてどの形態が、与えられている実施形態について診断の目的物、または予測の目的物であるか、さらに決定し得る。1つの実施形態において、組織サンプルは、BMAAの1つ以上の形態について分析される。BMAAは、組織中に遊離(非結合)形態で存在してもよいし、タンパク質結合(ここで、BMAAはタンパク質中に組み込まれても、そうでなければタンパク質と結合されてもよい)形態で存在してもよい。1つの実施形態において、遊離BMAAおよびタンパク質結合BMAA両方のレベルが決定される。別の実施形態において、遊離BMAAレベルのみが決定される。別の実施形態において、タンパク質結合BMAAレベルのみが決定される。
【0026】
別の局面に従うと、本発明の方法は、組織サンプルが神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するために分析され得る場合、被験体から得られた任意のその組織サンプルを使用して実施され得る。1つの実施形態において、組織サンプルは、BMAAの存在を決定するために分析され得、そしてBMAAが存在する場合、BMAAの量を決定するために分析され得る。遊離BMAA量および/またはタンパク質結合BMAA量は、その組織サンプルの性質および特定の実施形態において解答される問題に従って、定量され得る。いくつかの実施形態において、遊離BMAAおよびタンパク質結合BMAA両方のレベルを決定することが所望され得る。他の実施形態において、遊離BMAAレベルのみを決定することが所望され得る。他の実施形態において、タンパク質結合BMAAレベルのみを決定することが所望され得る。組織サンプルは、生きている被験体から得られても、保存された検体(保存された組織、生検サンプルおよび/または検死サンプル)または博物館の検体から得られてもよい。保存された組織は、凍結された組織、組織学的検体、固形の保管媒体上で乾燥された組織、または保存された組織の他の形態であり得る。適した組織サンプルとしては、神経性組織または非神経性組織が挙げられるが、これらに限定されない。神経性組織は、中枢神経系(CNS)(脳組織または脳−脊髄液(CSF)を含む)と関連付けられていても、末梢神経系(PNS)と関連付けられていてもよい。非神経性組織は、ケラチン組織であり得、このケラチン組織としては、毛髪、皮膚、爪(指の爪または足指の爪を含む)、羽、鉤爪、蹄、または角が挙げられるが、これらに限定されない。非神経性組織は、非ケラチン組織であり得、この非ケラチン組織としては、血液、血清、唾液、または尿が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、毛髪サンプルが、タンパク質結合BMAAレベルを決定するために分析される。別の実施形態において、皮膚が、BMAAレベルを決定するために分析される。1つの実施形態において、皮膚が、遊離BMAAレベルおよびタンパク質結合BMAAレベルを決定するために分析される。別の実施形態において、皮膚が、遊離BMAAレベルのみを決定するために分析される。別の実施形態において、皮膚が、タンパク質結合BMAAレベルのみを決定するために分析される。なお別の実施形態において、脳組織が、BMAAレベルを決定するために分析される。なお別の実施形態において、脊髄液(CSF)のサンプルが、そのBMAAレベルを決定するために分析される。脳組織またはCSF組織は、タンパク質結合BMAAレベル、遊離BMAAレベル、またはタンパク質結合BMAAおよび遊離BMAA両方のレベルを決定するために分析され得、ここでタンパク質結合BMAAは、神経タンパク質に結合されていても他のタンパク質に結合されていてもよい。
【0027】
(神経性障害についてのスクリーニング)
本発明は、神経性障害についてのスクリーニング法を提供する。本明細書中に提供されるように、神経性障害(神経学的障害、または神経学的疾患、または神経性疾患としてもまた公知)は、中枢神経系(脳、脳幹および小脳)、末梢神経系(脳神経を含む)、および自律神経系(その一部は中枢神経系および末梢神経系の両方に位置する)に関与する障害である。神経性障害は、1つ以上の環境因子または遺伝的因子が、被験体における神経性障害の発症に寄与し得るように、複雑な病因を有し得ることが理解される。神経性障害は、アルツハイマー病またはパーキンソン病のような、よく特徴付けされた障害または症候群を包含し、あるいは複数の障害において観察される徴候(例えば、失語症)または症候(例えば、振せん)であり得る。被験体における神経性障害の発症は、1つの因子、または因子の組み合わせに起因し得ることが、さらに理解される。同様に、被験体における特定の神経性障害は、他の被験体において同じ神経性障害を生じる種々の因子、または因子の種々の組み合わせに起因し得ることが、理解される。本明細書中に提供されるスクリーニング法は、1つ以上の環境因子または遺伝的因子が役割を果たしている神経性障害についてのスクリーニングに適している。
【0028】
スクリーニング法は、被験体における1つ以上の神経性障害を診断するための方法、被験体における1つ以上の神経性障害を発症する可能性を予測するための方法、被験体における神経性障害の重症度を予測するための方法、および神経性障害の発症に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体への被験体の曝露を決定するための方法を包含するが、これらに限定されない。本発明の方法は、繰り返し試験を行い、被験体における神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在およびレベル、ならびに/または環境サンプル中における神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在およびレベルについての時間連続データを生成するための方法を包含する。
【0029】
1つの局面に従うと、被験体における1つ以上の神経性障害を診断するための方法が提供される。方法は、被験体由来の組織サンプル中の神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在または非存在を、評価している神経性障害に関する他の物理的または心理学的な決定と相関付けることを包含する。方法は、被験体由来の1つ以上の組織サンプル中で測定された神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを、評価している神経性障害に関する他の物理的または心理学的な決定と相関付けることを、さらに包含する。1つの実施形態において、組織サンプルが、神経性障害を有すると診断された被験体から得られ、BMAAレベルが決定され、そして1つ以上の神経性障害を診断するための方法の一環として、これらの結果が、その被験体の他の物理的測定または心理学的測定と比較される。本発明の方法は同様に、1つ以上の神経性障害の診断を洗練または確認するために、あるいは他の可能な診断を除外するために、実施され得る。
【0030】
1つの実施形態において、組織サンプルが、神経性障害を有すると疑われている被験体から得られ、BMAAレベルが決定され、そして1つ以上の神経性障害を診断するための方法の一環として、これらの結果が、その被験体の他の物理的測定または心理学的測定と比較される。以下の実施例4および表3に開示されるように、BMAAレベルの上昇が、死亡時にALS−PDC(lytico−bodig)に罹患していた6人のチャモロ人の脳組織において見出された。実施例4にさらに開示されるように、BMAAレベルの上昇はまた、死亡時にアルツハイマー病(AD)に罹患していると診断されたカナダ人患者の脳組織においても見出された。
【0031】
なお別の実施形態において、BMAAレベルは、1つ以上の神経性障害について現在無症候である被験体由来の組織サンプルにおいて測定される。以下の実施例4および表3に開示されるように、BMAAレベルの上昇が、死亡時にALS−PDCについて無症候であったチャモロ人患者の脳組織において見出された。さらなる実施形態において、BMAAレベルは、神経性障害を発症する危険がある(さらなるモニタリングが必要であり得る)被験体を同定するための方法の一環として、1つ以上の神経性障害について現在無症候である被験体由来の組織サンプルにおいて測定される。
【0032】
別の局面に従うと、被験体における1つ以上の神経性障害の重症度を決定するための方法が提供される。この理論により制限されることを望まないが、神経性障害の重症度の1つの指標は、被験体由来の組織サンプルにおいて測定された神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルである。1つの実施形態において、上記BMAAレベルが、1つ以上の神経性障害を有している、または有する疑いがあると診断された被験体由来の組織サンプルにおいて測定され、ここでより高いBMAAレベルは、より重症な神経性障害と相関付けられる。
【0033】
別の局面に従うと、神経性障害を発症する可能性を予測するための方法が提供される。方法は、1つ以上の組織サンプルにおいて測定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを、評価している神経性障害に関する他の物理的または心理学的な決定と相関付けることを包含する。本発明の方法は、被験体由来の1つ以上の組織サンプルにおいて測定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを、その被験体の遺伝的分析と相関付け、神経性疾患を発症する可能性を決定することを、さらに包含する。遺伝的分析は、神経性疾患を発症する可能性を決定するための方法の一環としての、家族歴の分析および/または組織サンプルの遺伝型決定(genotyping)を包含する。この理論により制限されることは望まないが、被験体が神経性障害を発症する可能性は、被験体由来の組織サンプルにおいて測定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在と、直接的な相関を示す。以下の実施例4に開示されるように、BMAAレベルの上昇は、ALS−PDC(lytico−bodig)に罹患している6人のチャモロ人の組織において見出された。実施例4にさらに開示されるように、BMAAレベルの上昇はまた、アルツハイマー病により死亡した個体の脳組織においても見出された。従って、1つの実施形態において、BMAAレベルは、1つ以上の神経性障害の症候を有する被験体由来の組織サンプルにおいて決定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、神経性障害について無症候である被験体由来の組織サンプルにおいて決定される。
【0034】
別の局面に従うと、1つ以上の神経性障害を発症する危険があると考えられる被験体における、神経性疾患の重症度を予測するための方法が提供される。この理論により制限されることは望まないが、被験体由来の組織サンプル中のBMAAレベルは、一度神経性障害がその被験体において発症すると、その神経性障害の重症度と直接的に相関することが理解される。従って、本発明の方法は、1つ以上の組織サンプルにおいて測定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを、神経性障害の重症度の予測に関する他の物理的または心理学的な決定と相関付けることを包含する。本発明の方法は、被験体由来の1つ以上の組織サンプルにおいて測定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを、その被験体の遺伝的分析と相関付け、1つ以上の神経性障害を発症する可能性があると考えられている被験体において神経性障害の重症度を予測することを包含する。遺伝的分析は、家族歴の分析および/または組織サンプルの遺伝子型決定を包含する。
【0035】
別の局面に従うと、長期間にわたり繰り返しの間隔で組織サンプルを採取することによる、神経性障害の長期的研究のための方法が提供され、そしてBMAAレベルが各組織サンプルにおいて決定され、長期的研究のために有用なBMAAレベルについての時間連続データを提供する。BMAAレベルは、進行性核上性麻痺(PSP)に罹患している患者において、経時的に測定された。なお別の実施形態において、被験体由来の組織サンプルにおけるBMAAレベルは、経時的にBMAA放出のレベルを決定するために、長期間にわたって繰り返し測定され、これは1つ以上の神経性障害の将来的な発症の可能性および/またはタイミングおよび/または重症度を予測するために有用なデータを提供する。
【0036】
本発明は、神経性障害をスクリーニングするための方法を提供し、この神経性障害としては、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、およびALS−PDC(または、lytico−bodig疾患)として公知な神経病理学的疾患が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の教示は、本発明がスクリーニング法を提供する他の神経性障害を同定するための十分なガイダンスを提供する:当業者は、本発明の方法を実施して、被験体由来の組織サンプルにおいて神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを決定し得、次いで、これらのレベルを、その被験体における神経性疾患の他の徴候と比較し得、そしてその神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と、特定の神経性疾患の徴候との間に相関が存在するか否かを確認し得る。
【0037】
1つの局面に従うと、本明細書中に提供される方法は、神経原線維変化を伴う神経変性障害(神経原線維変化障害またはNFT障害として公知)についてのスクリーニングに適しており、この障害としては、好銀性顆粒疾患(argyrophilic grain disease)、アルツハイマー病、グアムのALS−PDC、皮質基底核変性、筋緊張性ジストロフィー、ピック病、脳炎後パーキンソニズム、一次進行性失語症、進行性核上性麻痺(PSP)、および亜急性硬化性全脳炎が挙げられるが、これらに限定されない。これらの障害は、一般に、病理学的τタンパク質の異常なフィラメントへの神経内蓄積を導き、時折「タウパチー(tauopathies)」と呼ばれる神経原線維変性(NFD)により、特徴付けられる。異なるNFT障害は、異なるτの病態(すなわち、τタンパク質のアイソフォームおよび脳内分布)を有する。本発明の1つの局面に従うと、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体(例えば、BMAA)のレベルは、NFT障害に罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体由来の組織サンプルにおいて測定される。別の局面に従うと、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体(例えば、BMAA)のレベルは、NFT障害について無症候である被験体由来の組織サンプルにおいて測定される。別の局面に従うと、改変された酸(例えば、BMAA)のレベルが、NFT障害について無症候であるが、例えばNFTの家族暦に基づいて、またはNFT障害と関連がある環境因子への既知のもしくは疑いのある曝露に基づいて、NFT障害を発症する危険があると考えられる被験体由来の組織サンプルにおいて測定される。本発明の方法に従う脳組織の分析は、BMAAレベルの、他の因子との比較を可能にし、NFTが存在しているか否か同定すること、どのτタンパク質アイソフォームが存在しているか同定すること、ならびにその被験体の脳におけるτタンパク質および/またはNFTの分布パターンを調査することを包含するが、これらに限定されない。
【0038】
1つの実施形態において、BMAAレベルは、他のNTF障害とは異なるτ病態を有するALS−PDCに罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体の脳組織において測定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、他のNTF障害とは異なるτ病態を有するアルツハイマー病に罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体の脳組織において測定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、他のNTF障害とは異なるτ病態を有する進行性核上性麻痺(PSP)および/または皮質基底核変性に罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体の脳組織において測定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、他のNTF障害とは異なるτ病態を有するピック病に罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体の脳組織において測定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、他のNTF障害とは異なるτ病態を有する筋緊張性ジストロフィーに罹患していることが既知であるかまたは疑われている被験体の脳組織において測定される。
【0039】
1つの実施形態において、アルツハイマー病に罹患していると診断された被験体由来の組織サンプルにおけるBMAAレベルが、本発明の方法に従って決定される。別の実施形態において、BMAAレベルは、アルツハイマー病について無症候である被験体由来の組織サンプルにおいて決定される。なお別の実施形態において、アルツハイマー病について無症候であるがアルツハイマー病を発症する危険があると疑われている被験体由来の組織サンプルにおけるBMAAレベルが、本発明の方法に従って決定される。
【0040】
別の局面に従うと、本明細書中に提供されるような方法は、神経性障害間を区別するため、そして/またはさらなる神経性障害について神経性障害を有する個体をスクリーニングするために、有用である。1つの実施形態において、ダウン症候群(第21番染色体トリソミーにより引き起こされ、NFTを含む症状により特徴付けられる神経性障害)の個体が、本明細書中に提供されるような神経毒性アミノ酸またはその神経毒性障害についてスクリーニングされる。1つの実施形態において、ダウン症候群に罹患している被験体におけるBMAAの存在を検出することは、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と関連がある神経性障害を発症する危険がある被験体を同定するために使用され得る。別の実施形態において、ダウン症候群に罹患している被験体におけるBMAAの存在を検出することは、被験体における複数の神経性障害間を区別するために使用され得る。別の実施形態において、ダウン症に罹患している被験体におけるBMAAの存在を検出することは、神経性障害の徴候または症状の可能な原因(病因)間を区別するために使用され得る。
【0041】
別の局面に従うと、本明細書中に提供されるような方法は、痴呆についてのスクリーニングのために有用であり、この痴呆としては、アルツハイマー病(AD)、レヴィー小体痴呆(LBD、レヴィー小体を有する痴呆(dementia with Lewy bodies)(DLB)ともまた呼ばれる)および血管性痴呆が挙げられるが、これらに限定されない。別の局面に従うと、本明細書中に提供されるような方法は、運動障害についてのスクリーニングのために有用であり、この運動障害としては、パーキンソン病(PD)、ジストニア(持続性不随意筋収縮)、ハンチントン病(ハンチントン舞踏病)、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性、ジスキネジー、本態性振せん、遺伝性痙性対麻痺、筋クローヌス、下肢静止不能症候群、レット症候群、痙攣、シドナム舞踏病、ツレット症候群、およびウィルソン病が挙げられるが、これらに限定されない。別の局面に従うと、本明細書中に提供されるような方法は、運動ニューロン疾患(MND)についてのスクリーニングのために有用であり、この運動ニューロン疾患としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮(筋ジストロフィー(MD))、およびポリオ後症候群が挙げられるが、これらに限定されない。なお別の局面に従うと、本明細書中に提供されるような方法は、グアムの筋萎縮性側索硬化症/パーキンソニズム痴呆複合(ALS/PDC、lytico−bodigとしても公知)についてのスクリーニングのために有用である。
【0042】
本明細書中に提供されるような方法は、神経性障害のいずれかの徴候または症状が存在するか否かに関わらず、神経性障害についてのスクリーニングのために適していることが理解される。以下の実施例4に開示されるように、BMAAレベルの上昇が、ALS−PDCについて無症候であった1人のチャモロ人由来の脳組織において見出されたが、別の無症候なチャモロ人は、検出可能なBMAAレベルを有さなかった。この結果は、ALS−PDCの症状を示さなかった特定のチャモロ人の脳組織において神経原線維変化が観察されているという知見と一致している。
【0043】
本明細書中に提供されるような方法は、特定の神経性障害が診察され得るか否かに関わらず、神経性障害についてのスクリーニングのために適していることが、さらに理解される。異なる障害は、しばしば類似の徴候および症状(例えば、振せん、痴呆、失語症)を共有するため、本発明の方法は、神経性障害についての初期スクリーニングの一環として適切であり得、ここで、その初期スクリーニングの結果は、どのさらなる試験が完全な評価のために必要とされるかを決定するために、信頼される。例えば、ALS−PDSの被験体は、アルツハイマー病またはパーキンソン病、あるいは両方の疾患と類似の症状を有し得、そしてALS−PDCは別個の障害であると考えられているが、ALS−PDCの被験体がまたアルツハイマー病またはパーキンソン病に罹患することもまた、可能である。従って、被験体におけるBMAAレベルの測定は、どの神経性障害が存在し、その被験体において観察される徴候および症状に貢献しているかを同定することを助ける。
神経性障害としては、後天性てんかん性失語症;急性播種性脳脊髄炎;副腎脳白質ジストロフィ;脳梁の無発育;認知不能;エカルディ症候群;アレグザンダー病;アルパーズ病;交代性片麻痺;アルツハイマー病(AD);筋萎縮性側索硬化症(ALS);グアムの筋萎縮性側索硬化症−パーキンソニズム痴呆複合(ALS/PDC);無脳症;アンジェルマン症候群(Angelman syndrome);血管腫症;無酸素症;失語症;行動不能症;クモ膜嚢胞;クモ膜炎;アルノルト−キアーリ奇形;動静脈奇形;アスペルガー症候群;血管拡張性失調症;注意欠陥過活動性障害;自閉症;自律神経失調症;バッテン病;ベーチェット病;ベル麻痺;良性本態性眼瞼痙攣;良性限局性筋萎縮;良性脳圧低下症;ビンスヴァンガー病;眼瞼痙攣;ブロッホ−サルズバーガー症候群;腕神経叢損傷;脳膿瘍;脳損傷;脳腫瘍;脊髄腫瘍;ブラウン−セカール症候群;キャナヴァン病;手根管症候群(CTS);カウザルギー;中枢疼痛症候群(central pain syndrome);橋中央ミエリン溶解;頭部障害;大脳動脈瘤;大脳動脈硬化;大脳萎縮;脳性巨人症;脳性麻痺;シャルコー−マリー−ツース病;キアーリ奇形;舞踏病;慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP);慢性疼痛;慢性局所疼痛症候群;コフィン−ローリー症候群;昏睡(遷延性植物状態を含む);先天性両側顔面神経麻痺;皮質基底核変性;頭蓋動脈炎;頭蓋骨癒合;クロイツフェルト−ヤーコプ病;蓄積外傷疾患;クッシング症候群;巨細胞性封入体病(CIBD);サイトメガロウイルス感染;舞踏病(dancing eyes−dancing feet syndrorme);ダンディ−ウォーカー症候群;ドーソン病;ドゥ・モルシェ症候群;ドゥジュリーヌ−クルンプケ麻痺;痴呆;皮膚筋炎;糖尿病ニューロパシー;びまん性硬化症;自律神経障害;書字障害;失読症;失調症;早期幼児てんかん性脳障害;トルコ鞍空虚症候群;脳炎;脳ヘルニア;脳三叉神経領域血管腫症;てんかん;エルプ麻痺;本態性振せん;ファブリー病;ファール症候群;失神;家族性痙性麻痺;熱性痙攣;フィッシャー症候群;フリートライヒ運動失調;ゴーシェ病;ゲルストマン症候群;巨細胞性動脈炎;巨細胞封入疾患(giant cell inclusion disease);球様細胞白質萎縮症;ギヤン−バレー症候群;HTLV−1関連ミエロパシー;ハレルフォルデン−シュパッツ病;頭部損傷;頭痛;片側顔面痙攣;遺伝性痙性対麻痺;遺伝性多発神経炎性失調;耳帯状疱疹;帯状疱疹;ヒラヤマ症候群;全前脳症;ハンチントン病;水無脳症;水頭症;副腎皮質亢進症;低酸素症;免疫媒介性脳脊髄炎;封入体性筋痛(inclusion body miositis);色素失調症;乳児フィタン酸蓄積症:乳児レフサム病;乳児痙攣;炎症性ミオパシー;頭蓋内嚢;脳圧低下症;ジュベール症候群;キーンズ−セイアー症候群;ケネディ病;キンスブルン症候群;クリペル−フェーユ症候群;クラッベ病;クーゲルベルク−ヴェランデル病;クールー;ラフォラ病;ランバート−イートン無筋力症候群;ランドー−クレッフナー症候群;後下小脳動脈(ヴァレンベルク)症候群;学習障害;リー病;レノックス−ガストー症候群;レッシュ−ナイハン症候群;白質萎縮症;レヴィー小体痴呆;脳回欠損;閉込め症候群;ルーゲーリグ病(ALS);腰盤疾患(lumbar disc disease);ライム病;神経性後遺症;Lytico−Bodig症候群(ALS−PDC);マチャド−ジョセフ病;大脳症;巨大脳髄症;メルカーソン−ローゼンタール症候群;メニエール病;髄膜炎;メンケズ病;異染性白質萎縮症;小頭症;片頭痛;ミラーフィッシャー症候群;軽度の脳卒中;ミトコンドリアミオパシー;メービウス症候群;単肢筋萎縮症;運動ニューロン疾患;モヤモヤ病;ムコ多糖症;多発梗塞性痴呆;多病巣性運動ニューロパシー;多発性硬化症;体位性低血圧を伴う多系統萎縮症;筋ジストロフィー;重症筋無力症;ミエリン破壊性びまん性硬化症;乳児のミオクローヌス脳障害;ミオクローヌス;ミオパシー;先天性ミオトニー;ナルコレプシー;神経線維腫症;神経弛緩薬悪性症候群;AIDSの神経性発現;狼瘡の神経性後遺症;ライム病の神経性後遺症;神経性筋緊張症;神経セロイドリポフスチノーシス;ニューロン遊走障害;ニーマン−ピック病;オサリバン−マクレオド症候群(O’Sullivan−McLeod syndrome)、後頭神経痛;不顕性脊椎癒合不全続発;オオタハラ症候群;オリーブ橋小脳萎縮;眼球クローヌスミオクローヌス;視神経炎;起立性低血圧症;乱用症候群(overuse syndrome);感覚異常症;パーキンソン病(PD);先天性パラミオトニア;新生物随伴病;発作性発作(paroxysmal attack);パリーロンベルグ病;ペリツェーウス−メルツバッヒャー病;周期性麻痺;末梢ニューロパシー;遷延性植物状態;広汎発達障害;光性くしゃみ反射;フィタン酸蓄積症;ピック病;神経不足(pinched nerve);下垂体腫瘍;多発性筋炎;脳空洞症;ポリオ後症候群;帯状疱疹後神経痛;感染後脳脊髄炎;体位性低血圧症;プラーダー−ヴィリ症候群;原発性側索硬化症;プリオン病;進行性片側顔面萎縮症;進行性多発性白質脳症;進行性硬化ポリオジストロフィ;進行性核上性麻痺(PSP);偽脳腫瘍;ラムジー−ハント症候群;I型ラムジーハント症候群;II型ラムジーハント症候群;ラスムッセン脳炎;反射性交感神経性ジストロフィ症候群;レフサム病−乳児性;レフサム病;反復動作障害(repetitive motion disorder);反復ストレス損傷(repetitive stress injury);不穏下肢症候群;レトロウイルス関連ミエロパシー;レット症候群;ライ症候群;シドナム舞踏病(Saint Vitus Dance);ザントホフ病;シルダー病;脳裂;中隔視覚異形成症;帯状ヘルペス;シャイ−ドレーガー症候群;シェーグレン症候群;サトウ症候群;痙性;二分脊椎;脊髄損傷;脊髄腫瘍;脊髄筋萎縮症;スティフ−パーソン症候群(Stiff−Person syndrome);脳卒中;スタージ−ウェーバー病;亜急性硬化性汎脳炎;皮質下動脈硬化性脳障害;シドナム舞踏病;失神;脊髄空洞症;遅発性ジスキネジー;テイ−サックス病;側頭動脈炎;係留脊髄症候群;トムセン病;胸郭出口症候群;疼痛性チック;トッド麻痺;ツレット症候群;一過性脳虚血;伝播性海綿状脳障害;横断脊髄炎;外傷性脳障害;振せん;三叉神経痛;熱帯性痙性対麻痺;結節硬化症;側頭動脈炎を含む脈管炎;フォン・ヒッペル−リンダウ病(VHL);ヴァレンベルク症候群;ヴェルドニッヒ−ホフマン病;ウェスト症候群;ウィリアムズ症候群;ウィルソン病;ツェルヴェーガー症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
(神経性障害と関連がある環境因子についてのスクリーニング)
1つの局面に従うと、神経性障害と関連がある環境因子についてのスクリーニングのための方法が提供される。神経性障害と関連がある環境因子としては、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体(例えば、BMAA)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に提供されるようなスクリーニングは、環境サンプルを試験し、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体への被験体の実際の曝露または潜在的な曝露を決定することを包含するが、これに限定されない。環境サンプルは、摂取される物質(例えば、水サンプルまたは食物サンプル)から得られ得る。環境サンプルは、計画的に摂取される物質(例えば、飲用水)、あるいは食物供給または食物連鎖の一部である植物または動物であり得る。あるいは、環境サンプルは、偶発的に摂取される物質(例えば、内容物または分泌物が他の摂取される物質と関連するようになる生物(例えば、食物に使用される植物中に存在する藍色細菌共生生物、または洗浄もしくは飲水のために使用される水中の藍色細菌)由来の物質)から得られ得る。
【0045】
1つの実施形態において、環境サンプル中のBMAAレベルは、BMAAへの被験体の実際または潜在的な曝露を決定するために測定される。環境サンプル中のBMAAレベルの測定は、BMAAへの潜在的または実際の曝露の決定につながり、これらの測定値は、これらの環境サンプルに曝露される被験体において神経性障害が発症する可能性を予測するために使用され得る。ソテツ組織および他の植物組織におけるBMAAは、藍色細菌共生生物により産生され、ソテツまたはソテツを摂食する他の生物により取り込まれる(実施例3)ことが理解される。藍色細菌の保管物由来の多数のサンプルが、BMAAを産生する能力について試験され、そして試験されたほぼ全ての株がBMAAを産生した。共生の藍色細菌がソテツにおけるBMAAの供給源である(実施例3)という発見の観点から、土壌および水中のほぼ至るところに藍色細菌が存在することと、多くの藍色細菌がBMAAを産生するという発見とを合わせて、BMAAが多くの環境に存在することが提案される。従って、本発明の方法はさらに、BMAAのような特定の因子についてスクリーニングすることに加えて、藍色細菌の存在について、環境サンプルをスクリーニングすることを包含し得る。
【0046】
別の局面に従うと、環境サンプルは、藍色細菌を含むことが既知である水である。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含む疑いがある水である。別の実施形態において、環境サンプルは、含有物が未知である水である。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含む水を摂取する食用動物(例えば、魚、鳥、シカ、または家畜)であり得る。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含むかまたは共生している苔癬またはコケまたはゼニゴケであり得る。
【0047】
別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含むかまたは共生している海生藻類もしくは淡水生藻類または海生菌類もしくは淡水生菌類であり得る。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含むかまたは共生している海生無脊椎動物(invertbrate)または淡水生無脊椎動物であり得る。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌により残されたストロマトライト、石油化学堆積物、またはミネラル堆積物であり得る。別の実施形態において、環境サンプルは、藍色細菌を含む植物、苔癬、コケ、藻類、海生無脊椎動物、または藍色細菌により残されたストロマトライト、石油化学堆積物、もしくはミネラル堆積物を摂食する食用動物(例えば、トナカイ、カリブー、シカ、ムース、海水魚もしくは淡水魚、鳥、爬虫類、または家畜)であり得る。
【0048】
別の局面に従うと、環境サンプルは、このサンプルが神経性障害と関連があるかどうかを決定するためにスクリーニングされ、これはその環境サンプル中における神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を産生する藍色細菌の存在を決定することによる。環境サンプルをスクリーニングして神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を産生する藍色細菌を検出することにより、神経性障害と関連がある環境因子への、被験体の実際のまたは潜在的な曝露を決定することが可能である。神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体(例えば、BMAA)は、多くの藍色細菌株の属において見出され、この属としては、Nostoc属およびAnabena属が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
別の局面に従うと、複数の環境サンプルが試験され、食物連鎖の至るところの異なるレベルにおいて、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを決定される。この理論により制限されることは望まないが、神経性障害に関連がある因子(例えば、BMAA)の生物学的濃縮は、より低い栄養段階由来の生物の消費よりも、より高い栄養段階由来の生物の消費が、神経毒性へのずっと高度な曝露を与え得るという結果と一緒に、異なる栄養段階の生物組織における因子の蓄積により生じ得る。1つの実施形態において、複数の環境サンプルが食物連鎖において試験され、その食物連鎖は、ソテツのサンゴ状の根、ソテツの葉、ソテツの種子、およびソテツの種子を食することが公知であるオオコウモリ(コウモリ)由来の組織サンプルを含む。別の実施形態において、複数の環境サンプルが、食物連鎖において試験され、その食物連鎖は、水、水生植物、その水および水生植物を摂取する食用動物(例えば、魚、鳥、野生動物または家畜)、および草食動物を摂食する肉食動物を含む。1つの実施形態において、複数の環境サンプルが試験され、BMAAのような因子が特定の食物連鎖において見出されるか否かを決定し得る。複数の環境サンプルを試験した後、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルが、その食物連鎖における蓄積または生物学的濃縮の証拠について、比較および分析され得る。
【0050】
さらなる局面に従うと、神経性障害に関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体について環境サンプルを試験することに加えて、被験体由来の組織サンプルもまた試験される。これは、食物連鎖における環境因子(神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体)の蓄積または生物学的濃縮を決定するため、そしてその食物連鎖の各段階におけるこれらの環境因子のレベルを、その食物連鎖の種々の栄養段階由来の物質を消費する被験体における神経性障害の頻度または重症度と相関付けるための方法を提供する。1つの実施形態において、神経性障害の症候または診断を有する被験体由来の組織サンプルが、神経性疾患と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体について試験される。別の実施形態において、神経性障害に対して無症候である被験体由来の組織サンプルが、神経性疾患と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体について試験される。本発明のこの局面は、神経性障害と、神経性障害と関連があることが既知であるかまたは疑われている環境因子への曝露とを結びつけるための強力な手段を提供する。以下の実施例4に示されるように、BMAAレベルの上昇が、BMAAを含むことが既知かまたは疑われている食物源への既知の曝露後にALS−PDCで死亡した被験体の脳組織において、検出された−すなわち、ALD−PDCで死亡したその被験体は、その人生において何回か伝統的なチャモロ食を食べていたチャモロ人であった。この理論により制限されることは望まないが、これらの結果は、以下の実施例2において提示される結果と一致し、これはオオコウモリ(伝統的なチャモロ人の食物)の標本における高濃度のBMAAを示し、一匹のオオコウモリの消費が、174kg〜1,014kgの加工されたソテツの穀粉を食べることにより得られる用量と等量のBMAA用量という結果になるという、本発明者らによる予測を導く。さらに、BMAAレベルの上昇は、ALD−PDCに無症候であり、他の原因により死亡した1人のチャモロ人被験体において検出された。この理論により制限されることは望まないが、この結果は、発症した(ALD−PDC)チャモロ人および発症していない(無症候)チャモロ人の両方の脳組織において神経原線維変化を発見した、30人のチャモロ人の研究についてのFormanらによる報告(Formanら、2002、Am J Pathol 160:1725−1731)と一致することに注意されるべきである。対照的に、ALS−PDCに無症候であり、他の原因で死亡した別のチャモロ人は、脳組織において検出可能なBMAAレベルを有さなかった。
【0051】
本発明の別の局面は、神経性障害と関連がある環境因子による環境汚染を検出するための方法を提供する。驚いたことに、BMAAレベルの上昇は、アルツハイマー病に罹患していた非チャモロ人(カナダ人)被験体の脳組織において(以下の実施例を参照のこと)、そして進行性核上性麻痺(PSP)に罹患していた非チャモロ人(カナダ人)において、見出された。本発明のこの局面に従うと、これらのアルツハイマー病患者の脳組織におけるBMAAレベルの上昇およびPSP患者由来の組織サンプルにおけるBMAAレベルの上昇は、これらの被験体が、その人生において何回かBMAAの環境的供給源に曝露されていたことを示す。これらの結果は、藍色細菌のBMAAの生物学的蓄積が、他の地域における異なる食物連鎖を通して発生し得ることを示唆した。神経毒へ曝露された集団における疾病の頻度は用量の関数であるので、低レベルの進行性の神経性障害でさえも、藍色細菌により汚染された給水における低濃度のBMAAに曝露されているかもしれない。従って、本明細書中に提供されるような環境スクリーニングは、BMAAまたは神経性障害と関連がある他の環境因子の考えられる環境的供給源を調査するために、行われ得る。本明細書中に提供されるような環境スクリーニングは、他の被験体の、BMAAまたは神経性障害に関連がある他の環境因子への曝露を阻止または最小化し、それによりBMAAまたは他の因子と関連がある神経性障害を発症する危険を減少させるために、行われ得る。
【0052】
さらなる局面に従うと、本発明は、神経性障害と関連がある因子についてのアッセイまたはアッセイキットを開発することにより、神経性障害と関連がある環境因子への曝露から被験体を保護するために使用され得る。1つの実施形態において、アッセイが、BMAAについて食物サンプル(植物質または動物質を含む)を試験するために提供される。別の実施形態において、アッセイが、BMAAについて給水を試験するために提供される。なお別の実施形態において、アッセイキットが、BMAAについての環境スクリーニングのために提供され、ここでキットは、給水、供給食物、および他の環境サンプルを試験するための本発明の方法を実施し、被験体をBMAAへの曝露から保護するための材料を包含する。別の局面に従うと、BMAAについてのアッセイおよびアッセイキットは、公衆衛生目的のために使用され、例えば給水または食物供給源の、BMAAを産生する藍色細菌での汚染を示し得る。
【0053】
(神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレザバー)
神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体は、被験体における1つ以上の内在性レザバーに蓄積し得る。BMAAは、神経性障害に関連する特定の他の環境因子(例えば、水銀またはPCB)と異なり、天然起源である。タンパク質結合BMAAは、種々の組織において見られ、これはタンパク質合成の間またはキャリアタンパク質との結合を通じて取り込まれる可能性を示唆する。以前の報告は、注入されたBMAAの90%が、ラットにおいて、尿または糞のいずれからも排出されなかったことを示した。これは、BMAAが被験体(特に、哺乳動物)に蓄積することを示唆する。ALS−PDCに関連する潜伏期間の疫学的知見と組み合わせると、これらの発見は、内在性神経毒性レザバーを示唆し、このレザバーより、おそらくタンパク質代謝の結果として、経時的にBMAAが放出され得る。この理論に束縛されることは望まないが、そのBMAAレザバーは、以下の少なくとも5つの異なる考えられる神経病理学的経路を通じて、被験体においてダメージを生じる「緩徐な毒素」として機能し得る:(1)BMAAのような非タンパク質アミノ酸の取り込みは神経タンパク質の三次元の折りたたみを変化させ得、これがその生物学的活性を変化させる;(2)タンパク質結合BMAAは金属イオンに共有結合する二量体を形成し得、反応性非タンパク質アミノ酸複合体で中断されたタンパク質を生じ得る。この複合体は、神経細胞におけるイオンバランスを変化させ、遊離ラジカルを生成し、または有害な化学プロセスを触媒さえする;(3)BMAA複合体による、金属イオン(例えば、Zn2+イオン、Cu2+イオン、またはCa2+イオン)の捕獲および放出が、NMDAレセプターおよびAMPAレセプターの本来の機能を妨害し得る;(4)BMAA取り込みが、合成を完了する前にタンパク質を切断し、またはリボソームから放出された後にタンパク質を崩壊させ得、このようなタンパク質合成の中断は、上記タウパチー(NFT障害)の多くの特徴である;そして(5)BMAAは、脳内においてタンパク質代謝を通じて遊離形態で緩徐に放出され得、これがAMPA、NMDAおよび他の神経レセプターにおいてアゴニストとして働く。後者の活性は、BMAAの1回の摂取または偶発性の摂取を、上前頭回におけるBMAAの非常に長期的で定常な低レベルの曝露に効率的に変換し得、これはおそらく興奮毒性を介したニューロンの死をもたらす。病原学的に、このような長期的な低レベルの曝露は、動物モデルにおいて観察されているように、急性疾患を引き起こし得ないが、代わりにチャモロ人の間のALS−PDCに代表される、潜在性および進行性の性質の両方をもたらし得る。従って、内在性レザバー内のタンパク質結合BMAAは、ALS−PDCの「緩徐な毒素」と仮定され得る。
【0054】
BMAAが上記食物連鎖においてタンパク質に結合されているか否かを決定するために、研究が行われた。以下の実施例に示されるように、タンパク質結合BMAAは、藍色細菌、ソテツ種子組織、オオコウモリ(コウモリ)の毛および皮膚、ならびにヒト脳組織のサンプルから全ての遊離アミノ酸を取り出して測定された。全ての遊離アミノ酸を取り出した後、タンパク質画分が加水分解された。次いで、その加水分解されたタンパク質が、BMAAについて試験された。タンパク質結合BMAAは、試験された全ての組織において見られた。この理論に制限されることは望まないが、タンパク質結合BMAAが全ての組織に存在するというこの発見は、タンパク質合成の間、またはキャリアタンパク質との結合を通じて、取り込まれる可能性を示唆する。
【0055】
本明細書中に開示される結果は、起源が藍色細菌であるBMAAが、植物および動物組織に蓄積し、上記食物連鎖の一部となるということを示す。特に、これらの結果は、藍色細菌起源のBMAAがグアムの食物連鎖において蓄積されることを示し、この食物連鎖において、BMAAは、BMAAを含むソテツの種子を消費しBMAAを蓄積するオオコウモリにより生物学的濃縮され、そしてチャモロ人が大量のBMAAを含むオオコウモリを食べるときに、さらに生物学的濃縮され、脳組織におけるBMAAの蓄積が、チャモロ人の間のALS−PDC神経性障害と関連するという結果を伴う。
【0056】
BMAAが検出された脳組織は、細胞内神経原線維変化、細胞外神経原線維変化および細胞減少を示した。1人のLytico−Bodig(ALS−PDC)患者において、脳組織からは非結合BMAAは見られなかったが、1mg/gをこえるBMAAが、タンパク質結合画分から回収された。全ての他の患者において、遊離アミノ酸プールから回収されたBMAA(遊離BMAA)に比較して、およそ60〜130倍多い量のタンパク質結合BMAAが存在した。これは、そのタンパク質結合BMAAと遊離BMAAとの間のアミノ酸フラックスの割合が、個体間で変動し、そして栄養状態、遺伝的傾向、年齢、内分泌機能、または特発性の差異の影響を受け得ることを示唆する。この理論に制限されることは望まないが、タンパク質結合BMAAが、被験体に関するBMAAレザバーを表し、そして神経性障害についてのスクリーニングにおいて、より安定な指標であり得る。タンパク質結合形態の(例えば、「内在性神経毒性レザバー」における)BMAA、および遊離アミノ酸プールにおける非結合形態のBMAAの相対量が、用量/持続時間関係を決定するために、神経性障害の臨床的発現と比較されるべきである。
【0057】
世界の他の地域における藍色細菌BMAAの生物学的蓄積についての代替経路の可能性は、カナダ出身のアルツハイマー病患者の脳組織におけるタンパク質結合BMAAの発見により支持される。表3に示されるように、高レベルのタンパク質結合BMAA(149〜1190μg/g)が、ALS−PDCにより死亡した6人のチャモロ人患者全ての前頭皮質組織において、見出された。ALS−PDCにより死亡した6人のチャモロ人患者のうちの5人由来の前頭皮質組織はまた、高レベルの遊離BMAA(3〜10μg/g)を有していた。さらに、有意な量の遊離BMAAおよびタンパク質結合BMAAが、ALD−PDCで死亡したのではない1人の無症候のチャモロ人患者において、見出された。これは、ALS−PDCの臨床的な発現を示さなかったが、検死されたときに有意な神経解剖学的病態を示したチャモロ人の、前記の発見と一致する。BMAAの有意な濃度が、死亡時にアルツハイマー病に罹患してると診断された2人のカナダ人患者の脳皮質の前頭回において見出された。同じ研究において、アルツハイマー病と診断されておらず、別の原因で死亡した13人のカナダ人患者の脳組織は、BMAAの検出可能なレベルを有さなかった。アルツハイマー病(ALS−PDCのτ病態とは異なるτ病態を伴う障害)に罹患しているカナダ人患者におけるBMAAの予期せぬ発見は、BMAAが存在し、そして他の食物連鎖において蓄積し得、最終的にヒト被験体のレザバー(ここからBMAAが経時的に放出され得る)に蓄積し得ることを示唆する。カナダ人のアルツハイマー病患者が、かつてグアムに住んでいたまたはチャモロ食を消費したという証しは存在しないので、彼らの脳において発見されたMDAAは、最終的に非ソテツ供給源へとつきとめられるはずである。従って、本発明は、生物学的濃縮のベクターを同定するための方法を含む、神経性障害と関連がある環境因子の曝露または生物学的濃縮を決定するための方法を提供する。
【0058】
(神経性障害の阻害:処置および/または予防)
なお別の局面に従うと、本発明は、被験体における神経性障害を阻害するための方法を提供する。1つの局面に従うと、神経性障害は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを減少させることにより、阻害される。別の局面に従うと、神経性障害は、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の毒性効果を減少させることにより、阻害される。1つの局面に従うと、神経性障害は、神経毒性アミノ酸アまたはその神経毒性誘導体の、標的分子との相互作用を妨害することにより、阻害される。神経性障害は、1つ以上の存在する障害を処置することにより、または障害の初期症候または初期徴候を処置することにより、または1つ以上の障害の発症を予防することにより、または1つ以上の障害の進行(悪化)を予防することにより、阻害され得ることが理解される。
【0059】
1つの局面に従うと、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルは、被験体における内在性レザバーから、その神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を放出させることにより、減少され得る。本発明はさらに、内在性レザバーからの神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の放出によるダメージを最小化するための方法を提供し、この方法は、その神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と標的分子との相互作用を妨害する神経保護化合物を提供すること、あるいはその神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体に結合し、そして不活性化する化合物を提供することを包含するが、これらに限定されない。1つの実施形態において、神経性障害は、被験体における蓄積を防ぐために、内在性レザバーからBMAAを放出する(「排出する」)ことにより阻害され得る。1つの実施形態において、BMAAがそのレザバーから放出される場合、被験体はBMAAに対するモノクローナル抗体を注入される。別の実施形態において、BMAAがそのレザバーから放出される場合、その被験体は神経保護化合物としてグルタミン酸を注入される。さらなる実施形態において、BMAAがそのレザバーから放出される場合、被験体は放出される金属イオンを吸収するために金属キレート化化合物を注入される。
【0060】
別の局面に従うと、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の毒性効果は、その神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と標的分子との相互作用を妨害し、それによりその神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の有効レベルを希釈する神経保護化合物を添加することにより、減少される。1つの実施形態において、そのBMAAの毒性効果は、BMAAの有効なプールが希釈され、そして標的分子が保護されるように、グルタミン酸(おそらく、グルタメートとしてイオン化されている)またはグルタミン酸ホモログの細胞内レベルを増加させることにより、減少される。この実施形態において、グルタミン酸またはグルタメートは、神経保護化合物として機能する。さらなる実施形態において、キレート化剤が添加される。
【0061】
(神経毒性アミノ酸またはその誘導体についてのスクリーニングのためのキット)
本発明はさらに、神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングするためのキットを提供し、ここで、そのキットは、その被験体から組織サンプルを得るための手段、およびその組織サンプルを分析し、神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するための手段を包含する。組織サンプルを得るための手段は、当該分野において公知である。組織サンプルを分析して、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するための手段は、当該分野において公知であり;非限定の実施形態が、本明細書中に開示される。そのキットは、グルタミン酸レセプターアゴニスト(例えば、メチル化アラニン、特に、BMAA)の存在を決定するための手段を包含し得る。そのキットは、そのサンプルにおけるタンパク質結合BMAA、遊離BMAA,またはタンパク質結合BMAAおよび遊離BMAAの両方を分析するための手段を包含し得る。1つの局面に従うと、本発明のキットは、そのサンプルにおいて決定される神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のそれぞれの検出および定量の両方を促進するために、決定されている1つ以上の神経毒性アミノ酸の「コントロール」サンプルを包含する。1つの実施形態において、キットは、組織サンプルおよびコントロールサンプルがプレート上にスポットされ、溶媒移動により分離され、そして決定され得るような、薄層クロマトグラフィー(TLC)を包含する。
【0062】
本発明の1つの局面に従うと、キットは、上記被験体による複数の組織サンプルを分析するための手段を包含し得る。1つの実施形態において、その組織サンプルは、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積することが既知である組織のサンプル、および神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積しないことが既知である組織のサンプルを包含し得、これにより、特定の組織において神経毒性アミノ酸が蓄積しているか否かの決定を可能にする。別の実施形態において、その組織サンプルは、神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が蓄積することが既知である少なくとも2つの異なる組織のサンプルを包含し得、これは異なる組織における蓄積の相対レベルの決定を可能にする。本発明の別の局面に従うと、キットは、その被験体における繰り返しスクリーニングを行うための手段を包含し得る。1つの実施形態において、その被験体は、数日、数ヶ月、数年にわたり得る繰り返し間隔で、スクリーニングされる。本発明のキットは、上記のような長期的研究において使用され得る。
【実施例】
【0063】
(実施例1.Cycas micronesica HillにおけるBMAAの分布)
BMAAおよびグルタミン酸(GLU)の濃度を、異なるソテツ組織において測定した。他の公知の窒素性神経毒(カルバメート前駆体DAB、DAP、およびODAP(BOAAとしても公知)を含む)もまた、測定した。
【0064】
BMAA、GLU、DAB、DAP、およびODAP(BOAA)を、グアムから収集されたCycas micronesica Hillの野生の種子、ならびに既知の起源(Fairchild Tropical Gardens、Montgomery Botanical Center、およびNational Tropical Botanical Garden)のCycas micronesica Hillの生存標本由来の種々の組織において測定した。BMAAは、大昔(great age)の乾燥哺乳動物において安定であることが見出されている(BanackおよびCox、2003)ので、National Tropical Botanical Garden由来の植物標本組織もまた、分析した。
【0065】
BMAAおよびGLUを、Kisby,RoyおよびSpencer(1988)の技術に従って、少し改変をして、ソテツ組織の遊離アミノ酸抽出物から定量した。水性サンプル抽出物またはトリクロロ酢酸サンプル抽出物を、標準的なプロトコル(CohenおよびMichaud、1993)に従って、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(6−aminoquinolyl−N−hydrozysuccinimidyl carbamate)(ACQ)で誘導体化した。遊離アミノ酸を、37℃にて、勾配HPLCシステム(Waters 717 Automated Injector,Waters 1525 Binary Solvent Delivery SystemおよびWaters Nova−Pak C18カラム、300mm×3.9mm)上で、逆相分離により分離した。個々の化合物を、140mM酢酸ナトリウム、5.6mMトリエチルアミン、pH5.2および60%アセトニトリルの勾配溶出(CohenおよびMichaud,1993)で、そのカラムから溶出した。BMAAピークおよびGLUピークの同定を、認証標準との比較により確認し、そして改変した勾配溶出により再検証した。サンプルにおけるBMAAおよびGLUの濃度を、254nmにおけるUV検出(Waters 2488 UV検出器)を同時に用いた、250nm励起および395nm発光の蛍光検出(Waters 2487 Dual−1 Fluorescence Detector)により決定した。上記ACQ誘導体化BMAAの検出は、等量のBMAAおよび51.2%の平均応答を生じる内部標準ノルロイシンの濃度および比較に依存した。これらのデータは、その誘導体の内部クエンチングを示し得るが、応答パーセンテージは定量可能な濃度範囲を横切って一致したので、サンプルの定量に有意には影響しなかった。検出限界(LOD)および定量限界(LOQ)を、認証標準(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)の濃度勾配より決定した。そのLODおよびLOQは、全ての分析について、注入当たりそれぞれ0.00013μモルおよび0.013μモルであった。以下の表1に示されるように、データ解釈の目的のために、全てのサンプル分析を、LOQの範囲内で定量し、そうでなければ存在しないと報告した。DAB(2,4−ジアミノブチレート)、DAP(2,3−ジアミノプロピオネート)およびBOAA(β−N−オキサリル−アミノ−L−アラニン)に対する認証標準を、これらの化合物の存在または非存在について対応するHPLCピークを同定するためにもまた使用したが、それらの濃度を数値化する試みは行わなかった。Breeze scientificソフトウェア(Trinity Consultants Inc.,Dallas TX)を、システム操作の制御およびデータ収集およびデータ分析のために使用した。
【0066】
表1に示されるように、BMAAおよびGLUは、種々のソテツ組織において生じ、神経毒のDAB、DAP、およびBOAAに対応する化合物も同様であった。GLUは、全ての組織において、BMAAよりも実質的により多い量、見出された。
【0067】
【表1−1】

【0068】
【表1−2】

比較の目的のために、BMAAおよびGLUの相対濃度を、実測された最大濃度で各分子についての濃度を割ることにより、正規化した(図1)。最高濃度のBMAAを、植物生殖組織において見出した。GLUの濃度は、試験された全ての組織において類似しており、明瞭な分布パターンを示さなかった。GLUは、明白なパターンなしで植物全体に分布するようであったが、BMAAは、それが草食動物に対する抑止力として機能し得る、雄性または雌性の生殖組織に濃縮されていた。内質種皮の外層における高濃度のBMAAは、ソテツの内質種皮を飼料とするいずれの草食動物(例えば、オオコウモリ)も、経時的に高蓄積用量のBMAAへ曝露されることを示した。他の神経毒性化合物(BOAA、DAB、DAPを含む)は、検出したが、ソテツ組織における種々の部分において定量しなかった(表1)。
【0069】
(実施例2.グアムのオオコウモリ(コウモリ)におけるソテツ神経毒の生物学的濃縮)
BMAAレベルを、グアムのCycas micronesica Hillの組織、およびPteropus mariannus mariannus(グアムの固有のオオコウモリ(コウモリ))の組織において、測定した。Petropus mariannus mariannusは現在非常に絶滅の危機に瀕しているので、BMAAを、3匹のオオコウモリの博物館標本由来の皮膚組織において測定した。この標本は、50年前にグアムにおいて収集され、乾燥した研究用の皮膚として保存され、そしてカルフォルニア大学バークレー校のMuseum of Vertebrate Zoology(MVZ)に保管されたものである。
【0070】
グアムから収集されたCycas micronesica Hillの種子、およびグアムから収集された加工(洗浄、解毒)されたソテツの穀粉の標本(Dr.J.C.Steele,1987−1988)のサンプルを、それらのBMAA含量について分析した。チャモロ人によるソテツの穀粉の伝統的な調製は、一般に、Cycas micronesica Hillの種子の配偶体を、2〜3日おきに水を交換しながら約3週間、振盪(siaking)することを包含する。
【0071】
BMAAを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して検出し、そして結果を、薄層クロマトグラフィー(TLC)およびガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)で確認した。BMAA分析のために、オオコウモリおよびソテツ組織の遊離アミノ酸抽出物を調製した。組織サンプルを、水またはトリクロロ酢酸で30分間再水和し(平均組織調製物は80mg/ml±32SD)、柔らかくし、そして濾過した。抽出物を、標準的なプロトコルに従って、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(ACQ)で誘導体化した。遊離アミノ酸を、37℃にて、勾配HPLCシステム(Waters 717 Automated Injector、Waters 1525 Binary Solvent Delivery SystemおよびWaters Nova−Pak C18カラム、300mm×3.9mm)において、逆相分離により分離した。個々の化合物を、140mM酢酸ナトリウム、5.6mMトリエチルアミン、pH5.2(移動相A)および60%アセトニトリル(移動相B)の勾配溶出で、流速1.0ml/分にて、そのカラムから溶出した。勾配条件は、以下の通りであった:最初=100%A、2.0分=90%Aカーブ11、5.0分=86%Aカーブ11、10.0分=86%Aカーブ6、18.0分=73%Aカーブ6、30.0分=60%Aカーブ10、35.0分=40%Aカーブ6、39.0分=10%Aカーブ6。引き続き、100%のBで5分間洗浄し、100%のAで5分間再平衡した。BMAAピークの同定を、市販標準(Sigma B−107;純度>94%)との比較により確認し、そして改変された勾配溶出により再検証した。サンプルにおけるBMAAの濃度を、Waters 2487 Dual−1 Fluorescence Detectorを使用して、250nmでの励起および395nmでの発光にて、蛍光タグにより決定した。ACQ−誘導BMAAの検出は、濃度に依存した。そして定量を、等量のBMAAおよび51.2%の平均応答を生じるノルロイシン内部標準(単一の中程度の濃度を示す)の比較により達成した。これらのデータは、数回の実験に対する平均の応答値を表現し、この誘導体化プロトコルおよびBMAAとその内部標準との間の相対比の有効性を示した。この結果は、その誘導体化化合物の内部クエンチングを示唆しているものであり得るが、応答パーセンテージは定量可能な濃度範囲を横切って一致していたため、サンプルの定量に有意には影響しなかった。検出限界(LOD、検出され得るが必ずしも定量はされ得ない、サンプルにおける分析物の最低濃度として定義される)および定量限界(LOQ、吸光度対濃度に関する検量線の直線範囲内の濃度)を、認証標準(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)の濃度勾配により決定した。全ての分析について、そのLODは、注入当たり0.00013μモルであり、LOQは、注入当たり0.013μモルであった。データ解釈のために、すべてのサンプル分析を、そのLOQの範囲内で数値化し、そうでなければ検出されない(ND)として報告した(表1)。Breeze科学ソフトウェア(scientific software)(Trinity Consultants Inc.,Dallas TX)を、システム操作の制御およびデータ収集およびデータ分析のために使用した。
【0072】
HPLC画分におけるBMAAの同定を確認するために、HPLC画分およびBMAA標準(BMAA、Sigma B−107;メチオニン、Aldrich 15,169−6)を使用してTLCを行った。簡潔に述べると、誘導体化標準および組織サンプルの0.5分のHPLC画分を、収集およびプールし、次いでSavant speed−vac濃縮器において濃縮し、そしてTLCプレートのチャネル上にスポットした。TLCを、60mlブタノール:15ml氷酢酸:25ml 0.5N NaClの移動相にて、裏面がガラスの250μm分析用層シリカゲルプレート(20×20cm)を使用して行った。乾燥後、プレート上のBMAAを、365nm紫外光で可視化した。最後に、BMAAと同定されたピークを含むHPLC画分のGC−MSで、Sigma標準化合物およびオオコウモリ(コウモリ)組織(MVZ 114607)より単離されたサンプルの両方について、02.1m/zにBMAAの存在を確認した。
【0073】
【表2】

表2に示されるように、9μg/gの平均BMAA濃度を有したソテツの種子の内質種皮とは対照的に、オオコウモリの皮膚組織は、増加量のBMAA(1,287〜7,502μg/g)を含んだ。しかし、その種子の最外皮は、2,657μg/gもの、異常な高濃度のBMAAを有した。オオコウモリ(コウモリ)組織の50年前の博物館標本におけるBMAAの豊富さを示すこれらの結果は、このかつて豊富であったオオコウモリ種を消費したチャモロ人が、無意識で高用量のBMAAを摂取したことを実証した。例えば、MVZオオコウモリ標本#114607(生体重は500g、そしてその標本の至るところにBMAAが一様に分布していると想定される)の消費は、3,751mgのBMAAの摂取という結果になり、これは1,014kgの加工されたソテツの穀粉の消費に匹敵する。表2はさらに、公表された論文からのソテツの穀粉のサンプルにおける、BMAA濃度に匹敵する量を示す。表2における値の差異は、異なる抽出法、分析の方法論における差異、そしてBMAA回収の効率について調整されていない値を反映している。
【0074】
(実施例3.藍色細菌の神経毒:藍色細菌起源のBMAA)
Cycas micronesia Hill、ソテツ組織;Azolla植物(カウアイのハナペペ近くで収集された);Gunnera植物(カウアイのMt.Wailalealeから収集された)の感染されたサンゴ状の根から単離された活動的に増殖している藍色細菌の200mgのサンプルにおいて、BMAAを定量した。全てのサンプルを、0.1Nトリクロロ酢酸中で2回ホモジナイズし、15,800×gで3分間遠心分離して、タンパク質を沈殿させ、遊離アミノ酸を抽出した。沈殿物を、窒素雰囲気下にて24時間、6N HCl中で加水分解し、続いて遠心分離および限外濾過し、沈降物を除去して、タンパク質結合BMAAを遊離させた。次いで加水分解抽出物のアリコートを、完全に乾燥するまで凍結乾燥し、誘導体化のために20mM HCl中に再懸濁した。サンプル抽出物を、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートで誘導体化し、そしてアミノ酸を、上記のようにHPLC分離を介して定量した。
【0075】
上記サンプルにおけるBMAAの存在、ならびにHPLC画分におけるBMAAピークの同一性および純度を、波長可変ダイオードアレイ検出器(DAD)と、エレクトロスプレーイオン化インターフェイス(ESI)を使用する大気圧イオン化源(API)を有するSL単一四重極MSとを組み合わせたAgilent 1100 HPLCを使用して、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS)により検証した。30℃に加温されたWaters SymetryShield RP 18カラム上で、水中のCHCN(10〜40%)の線形勾配溶出で、化合物を分離した。窒素ガスを純化し、噴霧圧35psiで、そのESIインターフェースに供給し、そしてそのMS内での化合物の検出のために2つの異なるモードを使用した。そのDADは、200〜600nmのフルスペクトルスキャンおよびセミミクロのフローセル内における0.5nmの分解能で、254nmに化合物を検出した。50Vのフラグメンター電圧にて100〜600Daの範囲で、1.0Vずつ増加させながら、初期シグナルをポジティブスキャンモードにおいて決定した。45ミリ秒の休止時間および70Vのフラグメンター電圧で、ポジティブスキャンモードにおいて、選択的イオンモニタリング(SIM)を通して、BMAAを同定した。両方のシグナルについて、キャピラリー電圧は4kVであり、エレクトロン倍増器の電圧増加は4Vであった。サイクル時間は0.82秒/サイクルであり、2つのMSシグナルの各々に対して、50%に分割した。
【0076】
(BMAAの藍色細菌起源)
藍色細菌共生生物を、Cycas micronesica Hillの感染されたサンゴ状の根から単離し、カウアイのカラヘオ(Kalaheo)のNational Tropical Botanical Gardenにおいて成長している3つの登録された(accessioned)標本(公知の起源の保障された標本)から増殖させ、繰り返し継代しながら純粋培養した。藍色細菌共生生物に感染されたソテツの根組織の分析のために、表面を滅菌した根を70%エタノールに3分間浸漬し、引き続き2滴の界面活性剤を含む1.6%次亜塩素酸ナトリウムに30分間浸漬し、そして滅菌脱イオン水で3回連続的に洗浄することにより、土壌伝播性の細菌をCycas micronesica Hillの根の組織から取り出した。表面を滅菌した根の外植片(1〜2cm長)を切り取り、ジェランガム(gellam gum)(Sigma)で凝固された標準BG−11培地(pH7.1)上で、培養した。根の外植片培養物を、35〜45μモル/m/秒の光強度で16時間の光周期、および25〜30℃の温度の、制御された環境室において、インキュベートした。7〜10日間の培養後、その根の外植片の藍色細菌共生生物のコロニーの増殖が、明瞭に目に見えた。個々の藍色細菌コロニーの連続的な継代培養により、根の組織からの残余BMAAが存在しないことを保証した。藍色細菌増殖におけるアミノ酸の影響を評価するために、BG−11培地に、グルタメートまたはグルタミン(0、126μモル/Lまたは250μモル/L)を補充し;藍色細菌の増殖は、これらのアミノ酸の補充により2倍増加した。培養物純度の組織学的検証を、化学的分析に先立って行った。その藍色細菌コロニーは、一般に、異質細胞を欠いていたようであり、そして多産の繊維状の増殖を観察した。
【0077】
(結果)
BMAAは、非感染のソテツの根においては検出されなかったが、藍色細菌共生生物Nostocにより感染されたサンゴ状の根には豊富に存在し、軽度の感染のサンゴ状の根は37μg/gのBMAAを有し、重度の感染のサンゴ状の根は2μg/gのBMAAを有した。サンゴ状の根から単離されたNostocの純粋培養は、0.3μg/gのBMAAを有することを見出した。根ではないソテツ組織において、BMAAは、ソテツの種子(これは、オオコウモリにより食べられる)に濃縮され、果肉の内質種皮において9μg/gのBMAAが、そして2,657μg/gものBMAAが、その内質種皮の外皮に存在する。表1における結果もまた、参照のこと。
【0078】
藍色細菌共生生物を有する2つの無関係の植物種のさらなる研究を、藍色細菌が植物宿主におけるBMAA源であることを決定するために行った。藍色細菌共生生物を有する稲の水田における浮水シダ(floating fern)のAzolla filiculoidesは、2μg/gのBMAAを有した。藍色細菌共生生物を有する大きな葉の(large leafed)被子植物のGunnera kauaiensisは、葉柄組織に4μg/gのBMAAを有した。タンパク質ペレット(タンパク質結合BMAA)におけるBMAAのレベルは、遊離アミノ酸として定量されたBMAAのレベルよりも約240倍高かった。これらの結果により、藍色細菌起源のBMAAが多くの環境において見出され得、そして多くの食物連鎖において摂取され得ることを確認した。
【0079】
(実施例4.脳組織におけるBMAA)
BMAAレベルを、グアムの8人のチャモロ人患者および15人のカナダ人患者の脳の上前頭回の200mgサンプルにおいて測定した。組織は、カナダ、バンクーバーB.C.のBritish Columbia大学のDr.Patrik McGeerより提供された。患者から検死された組織を、15%緩衝化スクロース維持溶液における保存に先立ってパラホルムアルデヒド中で固定し、ここで死亡と検死との間の時間間隔は、4時間から5日間まで変動した。そのチャモロ人患者の家族性の関係、病歴、および組織化学的な特徴は、以前に開示されている(McGeerら、1997、Neurology 49,400−409)。さらに、カナダ人患者から検死された組織が提供され、これは死亡の前にアルツハイマー病と臨床的に診断された2人のカナダ人患者からの2つのサンプル、および進行性神経変性疾患とは違う天然の原因により死亡した13人のカナダ人患者を含む。
【0080】
組織を2回、0.1Nトリクロロ酢酸においてホモジナイズし、15,800×gにて3分間遠心分離して、タンパク質を沈殿させ、遊離アミノ酸を抽出した。タンパク質結合BMAAを、24時間一定に煮沸している6N HCl中にて110℃で、その沈殿物を加水分解することにより遊離させた。粒子性の物質を、15,800×gでの限外濾過(Ultrafree−MC,Millipore Corp)により、500μlのアリコートから除去し、生じた抽出物を乾燥凍結した。アミノ酸を、20mM HClに再懸濁し、100%メタノール、水中の50%メタノール、および20%ずつ増加させるホウ酸塩緩衝液:アセトニトリル(0.5Mホウ酸塩:0〜60%CHCN)の勾配での、連続的な洗浄で平衡化されたSep−Pac C18カートリッジへ適用した。サンプル抽出物におけるBMAAを、標準的なプロトコル(Banackら、2003、Neurology 61:387−389)に従い、6−アミノキノリル−ヒドロキシスクシンアミジルカルバメートで誘導体化した。アミノ酸を、上記(実施例3)のようにHPLC分離を介して定量した。上記サンプルにおけるBMAAの存在、ならびにHPLC画分におけるBMAAピークの同一性および純度を、波長可変ダイオードアレイ検出器(DAD)と、エレクトロスプレーイオン化インターフェイス(ESI)を使用する大気圧イオン化源(API)を有するSL単一四重極MSとを組み合わせたAgilent 1100 HPLCを使用して、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS)により検証した。30℃に加温されたWaters SymetryShield RP 18カラム上で、水中のCHCN(10〜40%)の線形勾配溶出で、化合物を分離した。窒素ガスを純化し、噴霧圧35psiで、そのESIインターフェースに供給し、そしてそのMS内での化合物の検出のために2つの異なるモードを使用した。そのDADは、200〜600nmのフルスペクトルスキャンおよびセミミクロのフローセル内における0.5nmの分解能で、254nmに化合物を検出した。50Vのフラグメンター電圧にて100〜600Daの範囲で、初期シグナルをポジティブスキャンモードにおいて決定した。BMAAを、抽出イオンクロマトグラムを使用して決定し、この中でその分子のイオンピークを確認した。
【0081】
(結果)
表3に示されるように、高レベルのタンパク質結合BMAA(149〜1190μg/g)を、ALS−PDCにより死亡した6人全てのチャモロ人患者の前頭皮質組織において見出した。ALS−PDCで死亡した6名全てのチャモロ人患者のうちの5名に由来する前頭皮質組織もまた、高レベルの遊離BMAA(3〜10mg/g)を有した。さらに、有意な量の遊離BMAAおよびタンパク質結合BMAAを、ALS−PDCで死亡したのではない1人の無症候のチャモロ人患者において見出し、これはALS−PDCの臨床的発現を示さないが、検死されたとき有意な神経解剖学的な病態を示したチャモロ人の以前の発見と一致する。有意な濃度のBMAAを、アルツハイマー病により死亡したと診断された2人のカナダ人患者の脳の皮質の前頭回において見出した。他の13人のカナダ人患者(全て他の原因により死亡)の前頭皮質組織は、検出可能なレベルのBMAAを有さなかった。
【0082】
【表3−1】

【0083】
【表3−2】

添付の特許請求の範囲において定義された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変が好ましい実施形態に対してなされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、Cycas micronesia HillにおけるBMAA濃度およびグルタミン酸(GLU)濃度を示す。これは各アミノ酸の最大濃度で割ることにより正規化されており、これによりその植物全体の相対的な豊富さの比較が可能である。9μg/g未満の値は、この図において見られ得ない。なぜなら、これらの値は、その最大濃度と比べてあまりに小さいからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングする方法であって、該方法は、該被験体由来の組織サンプルを分析し、該神経性障害に関連する神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記メチル化アラニンが、β−N−メチルアミノ−L−アラニン(BMAA)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質結合BMAAが分析される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
遊離BMAAもまた分析される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体が、神経性障害の症候を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記被験体が、神経性障害に関して無症候である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体が、神経性障害を発症する危険があると同定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の検出可能なレベルの存在が、神経性障害を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記神経性障害が、神経原線維変化障害(NFT障害)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記神経性障害が、筋萎縮性側索硬化症−パーキンソニズム痴呆複合(ALS−PDC)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記神経性障害が、アルツハイマー病である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記神経性障害が、神経性核上性麻痺である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記神経性障害が、運動障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記運動障害が、パーキンソン病である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記神経性障害が、運動ニューロン疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記運動ニューロン疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スクリーニング方法が、神経性疾患を発症する可能性を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記方法がさらに、前記神経性障害の発症までの潜伏期間を予測する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記スクリーニング方法が、前記神経性障害の重症度を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記組織サンプルが、神経性組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記神経性組織が、中枢神経系(CNS)と関連付けられている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記組織が、脳組織である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組織が、脳−脊髄液(CSF)である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記神経性組織が、末梢神経系(PNS)と関連付けられている、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記組織が、非神経性組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記組織が、ケラチン組織である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組織が、毛髪である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記組織が、皮膚である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記組織が、爪である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記爪が、指の爪である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記爪が、足指の爪である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記組織が、羽である、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記組織が、鉤爪である、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記組織が、蹄である、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記組織が、角である、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記組織が、非ケラチン組織である、請求項28に記載の方法。
【請求項40】
前記組織が、血液である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記組織が、血清である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記組織が、唾液である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記組織が、尿である、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
環境サンプルをスクリーニングして該環境サンプルが神経性障害と関連があるかどうか決定する方法であって、該方法は、該環境サンプルを分析して、該神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定する工程を包含する、方法。
【請求項45】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記メチル化アラニンが、BMAAである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記環境サンプルが、水である、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記環境サンプルが、食品である、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
環境サンプルをスクリーニングして該サンプルが神経性障害と関連があるかどうか決定するための方法であって、該方法は、該環境サンプル中の、藍色細菌が産生する神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体を検出する工程を包含する、方法。
【請求項51】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記メチル化アラニンが、BMAAである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記藍色細菌が、Nostoc属由来である、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記藍色細菌が、Anabena属由来である、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記環境サンプルが、水である、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
前記環境サンプルが、食品である、請求項50に記載の方法。
【請求項58】
被験体における神経性障害を阻害するための方法であって、該方法は、該神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のレベルを減少させる工程を包含する、方法。
【請求項59】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、前記被験体における内在性レザバーから放出される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記メチル化アラニンが、BMAAである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
被験体における神経性障害を阻害するための方法であって、該方法は、該神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体と標的分子との相互作用をブロックする神経保護化合物の細胞内濃度を増加させる工程を包含する、方法。
【請求項64】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記メチル化アラニンが、BMAAである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記神経保護化合物が、グルタミン酸である、請求項63に記載の方法。
【請求項68】
神経毒性アミノ酸結合剤または神経毒性アミノ酸の神経毒性誘導体結合剤を投与する工程をさらに包含する、請求項63に記載の方法。
【請求項69】
キレート化剤を投与する工程をさらに包含する、請求項63に記載の方法。
【請求項70】
神経性障害を有するかまたは有する危険がある被験体をスクリーニングするためのキットであって、該キットは、組織サンプルを分析し、該神経性障害と関連がある神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体の存在を決定するための手段を包含する、キット。
【請求項71】
前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体が、グルタミン酸レセプターアゴニストである、請求項70に記載のキット。
【請求項72】
前記グルタミン酸レセプターアゴニストが、メチル化アラニンである、請求項71に記載のキット。
【請求項73】
前記メチル化アラニンが、BMAAである、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
タンパク質結合BMAAが測定される、請求項70に記載のキット。
【請求項75】
遊離BMAAが測定される、請求項70に記載のキット。
【請求項76】
コントロールとして使用するための前記神経毒性アミノ酸またはその神経毒性誘導体のサンプルをさらに含む、請求項70に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−521464(P2007−521464A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508290(P2005−508290)
【出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2003/039202
【国際公開番号】WO2005/019830
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506045853)インスティテュート フォー エスノメディシン (1)
【Fターム(参考)】