説明

神経成長因子産生促進剤

【課題】神経成長因子の産生を高めることにより神経細胞の生存と機能維持を促して神経系の老化を予防ないし改善し、また障害を受けた神経細胞に対してはその細胞自身の変成脱落を予防し、神経障害の進行を防止ないし改善する、高い神経成長因子産生促進活性を有する組成物を提供する。
【解決手段】シロナメツムタケ(FERM P−21344、21345、21346)の子実体又は菌糸体の破砕物又は溶媒抽出物から得られることを特徴とする神経成長因子産生促進活性を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経成長因子(beta nerve growth factor、以下「ベータNGF」と略記)産生促進活性を有する組成物及びその製造方法並びにベータNGF産生促進剤などに関するものであり、さらに詳しくは、神経系の老化予防や神経障害の進行防止、あるいは中枢神経障害や末梢神経障害などの改善等に有効な安全性の高いベータNGF産生促進活性を有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会への移行に伴って老年型痴呆症が増加する傾向にあり、社会的な問題となりつつある。老年型痴呆症の原因となる疾患は数多く知られ、脳器質性障害による痴呆、脳以外の臓器疾患に付随した痴呆、およびストレスによる身体疾患に起因する痴呆に分類される。また、脳器質性障害による痴呆は、原因の違いにより脳血管性痴呆症とアルツハイマー型痴呆症とに分類される。
【0003】
現在、脳血管性痴呆症に対しては脳血管拡張薬などがある程度の効果を示すことが知られているが、アルツハイマー型痴呆症に対しては、その発症原因が今なお不明であり、アセチルコリン分解酵素阻害薬も上市されているものの効果の持続性の点で充分なものとはいえない。そのため、脳器質性障害による痴呆、特にアルツハイマー型痴呆症に対して有用な医薬や食品の開発が所望されている。
【0004】
近年、神経細胞から分泌されるベータNGFなどの神経栄養因子が神経変性疾患に対して優れた効果を示すことが見出され、注目を集めている。ベータNGFは、神経組織の成長及び機能維持にとって重要かつ必要な因子である。ベータNGFは、末梢神経における知覚および交感神経の、ならびに中枢神経における大細胞性コリン作動性ニューロンの、成熟、分化、および生命維持に不可欠であり、脳損傷時の神経細胞の変性を防ぐという作用を示す。これにより、生体内においてベータNGFレベルを上昇させることは、アルツハイマー型痴呆症及び脳血管性痴呆症のような中枢機能障害、精髄障害、末梢神経損傷、糖尿病性神経障害、並びに筋萎縮変性側索硬化症のような末梢機能障害の治療に有用であると考えられる。
【0005】
しかし、ベータNGFはモノマーで13000、ダイマーでは26000もの分子量を有するタンパク質であり、血液脳関門を通過することができない。そのため、例えば中枢機能障害の治療を目的とした場合には、脳室内投与が必要となる。さらに、ベータNGFの大量調製も困難である。このようにベータNGF自体の使用には多くの問題があり、ベータNGF自体を用いることは非常に困難である。
【0006】
ベータNGFが、末梢神経系においては胎生期の知覚及び交感神経節神経細胞の分化及び成長を促進し、神経細胞突起の伸長を促すタンパク質であること、さらに成熟交感神経細胞にとっては一生を通じて生存及び機能維持に不可欠なタンパク質であることが知られている。たとえば、幼若動物に抗ベータNGF抗体を連続投与してベータNGFの生理活性を中和した場合には、交感神経節の顕著な萎縮や神経節神経細胞の死滅が観察されている(非特許文献1、2)。この現象は不可逆的であり、ベータNGFの生理的役割の重要性を証明するものである。また、ベータNGFの作用に関する応用研究も行なわれており、ベータNGFが神経軸索の再生にも有効であることが明らかにされている(非特許文献3)。
【0007】
一方、中枢神経系におけるベータNGFの重要性も知られており、たとえば、中隔から海馬へ投射している神経路を切断したラットの脳室内にベータNGFを投与することによって、中隔のコリン作動性神経細胞の変性、脱落が抑制されること(非特許文献4、5)、老齢ラットの学習、記憶能力がベータNGFの脳室内投与で改善されること(非特許文献6)、脳虚血後に見られる海馬の錐体細胞の遅延性細胞死がベータNGFの前投与により抑制されること(非特許文献7)等が報告されている。
【0008】
このように、ベータNGFが神経細胞の生存に不可欠な因子であることから、神経疾患や神経細胞障害の進行防止ないしは治療を目的として、ベータNGFの産生を促進する物質の検索が行なわれている。その結果、これまでにカテコールアミン類(非特許文献8)、コリン作動性アゴニスト(特許文献1)、桂皮酸アミド化合物(特許文献2)、ベンゾキノン誘導体(非特許文献9)、及びプロペントフィリン(非特許文献10)にベータNGF産生促進作用のあることが報告されている。また、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor)、トランスフォーミング成長因子アルファ及びベータ(transforming growth factor α and β)、上皮細胞成長因子(epidermal growth factor)、及びインシュリン様成長因子(insulin-like growth factor)等のいわゆる細胞増殖因子にもベータNGFの産生を促進する活性が認められている(非特許文献11)。
【0009】
しかしながら、日常的に上記疾患の予防又は進行防止を達成する観点からは、豊富な食経験があり、ベータNGF産生促進作用を有する食品由来の組成物を摂取することが望まれる。
【0010】
ベータNGF産生を促進する食品由来の物質又は抽出物としては、ホップ又はアシタバから得られる破砕物又は抽出物(特許文献3)、ローズマリー由来のカルノジン酸(特許文献4)、緑茶由来のテアニン(特許文献5)、ガゴメコンブ由来のフコイダン(特許文献6)、プロタミン(特許文献7)、などが知られている。
【0011】
また、シロナメツムタケと同じ茸類由来の物質又は抽出物としては、ヤマブシタケ抽出物(特許文献8)について多く報告があり、その他ブナハリタケ抽出物(非特許文献12)やキヌガサタケ抽出物(特許文献9)、ケロウジ抽出物(特許文献10)、シャカシメジ抽出物(特許文献11)などが知られている。
【非特許文献1】R. Levi‐Montalcina他、Physiological Review,48, 534−569, 1968
【非特許文献2】H. Thoenen他、Physiological Review, 60, 1284−1335, 1980
【非特許文献3】Rich他、Experimental Neurology, 105, 162−170, 1989
【非特許文献4】F. Hefti, Journal of Ncuroscience, 6, 2155−2162, 1986 : L. F.Kromer, Science, 235, 214−216, 1987
【非特許文献5】L. R. Williams他、Proceedings of National Academy of Sciences U. S. A. 83, 9231−9235, 1986
【非特許文献6】W. Fisher他、Nature, 329, 65−68, 1987
【非特許文献7】茂野他、医学のあゆみ、第145巻、579−580, 1988
【非特許文献8】Y.Furukawa他、Journal of Biological Chemistry, 261, 6039−6047, 1986
【特許文献1】特開昭63−83020号公報
【特許文献2】特開平2−104568号公報
【非特許文献9】R. Takeuchi他、FEBS Letter, 261, 63-66, 1990
【非特許文献10】I. Shinoda他、Biochemical Pharmacology, 39, 1813−1816, 1990
【非特許文献11】篠田 他、生化学、第62巻、835頁、1990年
【特許文献3】再表2003−006037号公報
【特許文献4】特開2001−233835号公報
【特許文献5】特開平7−173059号公報
【特許文献6】再表2000−062785号公報
【特許文献7】特開平5−51325号公報
【特許文献8】特開平7−70168号公報
【非特許文献12】Okuyama S, TerashimaT, Kawamura Y, YokogoshiH 、Nutr Neurosci. 7, 741-47,2004
【特許文献9】特開平9−020714号公報
【特許文献10】特開平11−269125号公報
【特許文献11】特開2007−137878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のベータNGF産生を促進する食品由来の物質又は抽出物のベータNGF産生促進活性は低いという問題があった。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ベータNGFの産生を高めることにより神経細胞の生存と機能維持を促して神経系の老化を予防ないし改善し、また障害を受けた神経細胞に対してはその細胞自身の変成脱落を予防し、神経障害の進行を防止ないし改善する、高いベータNGF産生促進活性を有するシロナメツムタケの破砕物又は抽出物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ベータNGF産生促進作用を有する植物又は菌類由来の破砕物又は抽出物の検討を鋭意行った結果、シロナメツムタケの子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物に高いベータNGF産生促進活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、シロナメツムタケの子実体又は菌糸体から得られることを特徴とするベータNGF産生促進活性を有する組成物を要旨とするものである。
【0015】
別の本発明は、シロナメツムタケの子実体又は菌糸体を破砕して破砕物を得ることを特徴とする前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物の製造方法を要旨とするものである。
【0016】
また、別の本発明は、シロナメツムタケの子実体又は菌糸体から溶媒を用いて抽出物を得ることを特徴とする前記したNGF産生促進活性を有する組成物の製造方法を要旨とするものである。
【0017】
また、別の本発明は、前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物を有効成分とすることを特徴とするベータNGF産生促進剤を要旨とするものである。
【0018】
さらに、別の本発明は、前記したベータNGF産生促進活性を有する組成物を含有することを特徴とするベータNGF産生促進活性を有する飲食品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、食経験豊かなシロナメツムタケの子実体又は菌糸体の破砕物又は抽出物を薬学的組成物や食品組成物として利用することにより、神経系の老化予防や神経障害の進行防止、改善が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明におけるシロナメツムタケ(Pholiota lenta)は、分類学上モエギタケ科(Strophariaceae)、スギタケ亜科(Stropharioideae)スギタケ属(Pholiota)に属するキノコである。
【0022】
本種は木材腐朽性のキノコであり、カラマツ、ブナ等の林床や埋没木に発生することが知られている。また自然界においては、9月から11月にかけて発生し、食用キノコの一つとして好まれてきたキノコである。
【0023】
シロナメツムタケと生物分類学上、近縁な食用きのこの例として、ナメコ(Pholiota nameko)、ヌメリスギタケ(Pholiota adipose)等がある。
【0024】
本発明で用いられるシロナメツムタケは、天然のものでも人工栽培されたものでもよいが、特にシロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツメタケUFC−1911(FERM P−21345)及びシロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)の3菌株が人工栽培のしやすさ、ベータNGF産生促進活性の高さの点から好適に使用することができる。 これらの3菌株は、発明者らが、全国各地より天然から採集したシロナメツムタケ子実体の組織片よりPDA培地((株)ニッスイ)を用いて菌糸体を単離後、純粋培養、拡大培養として得られた保存菌株である。それぞれの菌株の子実体の形態及び胞子の形態的特徴は、中心が褐色を帯びた白から茶白色の饅頭型を呈し、わずか粘性を有する。裏面のヒダは、ベージュからわずかにオリーブ色、淡褐色であり、形状は湾生から直生である。傘の直径は3から10cm程度で、高湿度下ではわずかに滑りがあるが、乾燥時には粘性はない。表面には鱗片があるが、乾燥後は確認しにくい。柄の根元は、褐色を呈し根毛状の菌糸束が発達しており、中実である。なお、傘はわずかに土臭い香りを有している。胞子紋は濃黄色−茶褐色を呈し、胞子は、球形で短い突起がある。これらの形態学的特徴に基づいて、同定すると、本菌株がシロナメツムタケであることは明らかである。なお、本菌は特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約下、平成19年8月21日に日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に所在する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。これら3菌株の生物学的微生物の諸形質について述べる。
【0025】
シロナメツムタケUFC−832(FREM P−21344)は、麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は32mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は37mm、菌糸体性状は、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は24mmとなり、菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。Lフェノールオキシダーゼ検定用培地「0.1%没食子酸添加PDA培地」(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。最適生育温度:PDA培地に直径5±1mmの種菌を接種し、各温度でそれぞれ培養して、14日後に各コロニー直径を測定したところ、最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育しなかった。最適生育pH:PD(ポテトデキストロース)液体培地20mlを滅菌後、1規定塩酸又は1規定水酸化ナトリウム溶液で無菌的にpH3.0−10.0の範囲で0.5毎に調整、直径5mmの種菌を接種し、15日間静置後、各乾燥重量を測定したところ、最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0026】
シロナメツムタケUFC−1911(FREM P−21345)は、麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は35mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は36mm、菌糸体性状は、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は14mm、菌糸体は薄く放射状に伸びる。菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。Lフェノールオキシダーゼ検定用培地(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。最適生育温度:最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育しなかった。最適生育pH:最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0027】
シロナメツムタケUFC−1912(FREM P−21346)は、麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は39mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は30mm、菌糸体性状は、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は22mmとなり、菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。Lフェノールオキシダーゼ検定用培地(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。
最適生育温度:最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育しなかった。最適生育pH:最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0028】
シロナメツムタケ子実体の人工栽培方法としては、野外における露地栽培(詳細は、例えば、増野和彦ら「里山を活用した特用林産物(きのこ)の生産技術の開発」P.70−73長野県林業総合センター業務報告2004年度を参照)、袋(プラスティックバック)栽培(詳細は、例えば、山田尚「シロナメツムタケの培養特性と露地発生について」東北森林学会第10回大会講演要旨集P.76(2005)を参照)、ビンを用いた菌床栽培等があるが、本発明で用いられるシロナメツムタケは、いかなる方法を用いて栽培されたものでもかまわない。
【0029】
また、本発明においては、シロナメツムタケの菌糸体も用いることができ、菌糸体は、液体培養法によって得ることができる。液体培地に供試する炭素源として、例えば、グルコース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マンノース等の単糖の他、フルクトース、スクロース、グリコーゲン、麦芽糖、乳糖、可溶性デンプン、イヌリン、ペクチン、デキストリン、マンニット、グリセリン、高級アルコール等、通常用いられる炭素源が使用できる。また窒素源おいては、無機又は、有機窒素源が使用でき、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、尿素、アセトアミド等が挙げられる。また、必要に応じて、微量元素やビタミン等の生育因子を添加することは、通常の培養と何ら変りなく、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、スレオニン、メチオニン等のアミノ酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸、葉酸、ビオチン等のビタミン類が挙げられる。培養温度は、15℃〜30℃、好ましくは18℃〜28℃、20℃〜25℃が最も好ましい。pHは2.5〜8.0、好ましくは3.0〜7.0、3.5〜5.0が最も好ましい。培地成分は、不溶成分を添加することが均一に菌糸体を生育させることができることから好ましい。培養期間は、供試する菌株により接種後、数日から数週間程度に設定されうる。
【0030】
本発明はシロナメツムタケの破砕物又は抽出物を用いるものであり、シロナメツムタケの乾燥破砕物、該破砕物を各種溶媒で抽出した抽出物、該抽出物を濃縮乾燥したものなどが含まれる。本発明で使用するシロナメツムタケとしては、子実体や菌糸体を使用することができるが、神経成長因子促進活性物質が多く含まれる点で、子実体を使用することが好ましい。
【0031】
シロナメツムタケの乾燥条件は特に限定されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば常温乾燥、加熱乾燥や凍結乾燥、減圧乾燥などの方法が利用できるが、好ましくは経済的な30〜100℃での加熱乾燥であり、50〜80℃での加熱乾燥がさらに好ましい。乾燥機は、例えばドラムドライヤーや流動層式乾燥機、棚式乾燥機、振動乾燥機、ロータリードライヤーなどの機械装置類が挙げられるが特に限定するものではない。
【0032】
シロナメツムタケの乾燥後、公知の破砕方法によって乾燥物を破砕することが出来る。破砕する方法は特に限定しないが、破砕物の粒径が1mm以下になるように調整できる破砕機を使用することが好ましい。例えば、乾式石臼式破砕機、ローラーミル、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ハンマーミルなどが挙げられるが特に限定するものではない。
【0033】
以上のようにして得られたシロナメツムタケの破砕物は、そのままで、あるいは必要に応じて他の成分を加えることで本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物となる。
【0034】
また、シロナメツムタケから抽出物を得る際に用いられる抽出溶媒としては、例えば水、超臨界二酸化炭素、低級1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、それらの一種又は二種以上を用いることができる。好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、エーテル類、超臨界二酸化炭素である。
【0035】
抽出を行うには、シロナメツムタケに溶媒を添加してもよいが、できれば上記したようにシロナメツムタケの子実体又は菌糸体乾燥物を破砕した後、破砕物に対して溶媒を添加する方が好ましい。
【0036】
抽出温度は、抽出溶媒が液体状態であり、抽出中にシロナメツムタケに含まれるベータNFG産生促進物質が変質しない条件であれば特に限定しない。抽出温度は使用する溶媒の種類によって適宜選択すればよいが、好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは10℃以下である。また抽出時間は5時間以上が好ましく、さらに好ましくは1日以上であり、最も好ましくは7日以上である。
【0037】
抽出後、破砕物と溶媒との混合物は公知の方法によって固液分離し、抽出液のみを回収すればよい。固液分離する方法としては遠心分離、フィルタープレス、吸引ろ過などが挙げられるが特に限定しない。さらに、必要に応じて抽出液を濃縮・乾燥することもできる。
【0038】
以上のようにして得られたシロナメツムタケの抽出物は、そのままで、あるいは必要に応じて他の成分を加えることで本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物となる。
【0039】
組成物に含まれ得る他の成分としては、本発明におけるベータNGF産生促進活性を低下させないものであれば混合することが可能であり、例えば従来から用いられている薬学的に許容された界面活性剤、溶媒、増粘剤、安定剤、保存料、酸化防止剤、香味料等のような添加剤と混合されることができる。
【0040】
組成物の形態としては、錠剤、液体、カプセル、軟カプセル、ペースト若しくはトローチ、ガム又は飲用可能な溶液若しくは乳濁液、ドライ経口サプリメント、ウェット経口サプリメントなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの形態のものは従来から知られている方法によって作製することができる。
【0041】
本発明のベータNGF産生促進剤は、上記した本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物を有効成分として含むものである。有効成分の含有量としては、摂取する対象者の年齢、体重などによって変わり得るが、成人1日あたり0.1〜1000mg/kg服用できるように含有するのが好ましく、さらに1〜100mg/kgが好ましく、5〜50mg/kgが最も好ましい。
【0042】
本発明のベータNGF産生促進剤に含まれる各種添加剤としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、保存料、コーティング助剤ならびにこれらの組合せが挙げられる。これら添加剤は、通常の医薬品製造における添加剤であれば特に限定されず、より具体的な例としては、ラクトース、デキストリン、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ソルビトール、結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、デキストリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、ステアリン酸及びその塩、タルクなどの添加剤であり、これらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、甘味料などを添加してもよい。またさらに、必要に応じて他の薬剤や食品粉砕物、食品抽出物を添加してもよい。
【0043】
本発明のベータNGF産生促進剤の投与剤形も特に限定されず、日本薬局方に従って適切な剤形に製造される。具体的には、カプセル剤、錠剤、粉剤、除放剤などの剤形に製造される。
【0044】
本発明のベータNGF産生促進活性を有する飲食品は、上記した本発明のベータNGF産生促進活性を有する組成物を含有するものである。有効成分の含有量は1日あたりの摂取量が0.1〜1000mg/kgになるようそれぞれの飲食品の形態に合わせて設定すればよく、さらには1〜100mg/kgが好ましく、5〜50mg/kgが最も好ましい。
【0045】
本発明のベータNGF産生促進活性を有する飲食品に混合され得る他の材料としては、一般に食品用材料として使用され得るものが挙げられる。例としては、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、昆布などから得られる多糖類、大豆や乳製品、動物原料などから得られるタンパク質、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マンニトール、キシリトールや各種オリゴ糖などの糖類、ならびにこれらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、着色料、甘味料、酸味料、食用油、ビタミンや他の食品破砕物、食品抽出物などを添加してもよい。これら適切な材料及び添加剤は単独又は組合せて使用される。またさらに、必要に応じて水を添加して所望の形状に加工してもよい。
【0046】
飲食品の具体例としては、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック菓子、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、インスタント食品に本発明の抽出物を添加してもよい。例えば、抽出物を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠又は溶液にすることで容易に飲食品に含有させることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
なお、ベータNGF産生活性の測定は以下のようにして行った。
〔ヒトグリオブラストーマによるベータNGFの産生〕
終濃度が10%FBS(ウシ胎児血清)、110mg/mlピルビン酸ナトリウム、1%NEAA(非必須アミノ酸溶液:インビトロジェン株式会社)を含むEMEM培地に、12.5 x104細胞/mlの濃度になるよう調製したヒトグリオブラストーマ(神経膠芽腫)T98G細胞(理化学研究所)懸濁液を、24穴マルチプレートの各穴に接種し、3日間培養した。その後、5mg/mlのBSA(ウシ血清アルブミン)を含むOpti-MEM培地に交換し、さらに4日間培養した。再度培地交換し、各被検試料を所定量添加し、さらに7日間培養した。培養上清を回収し、ベータNGF量を測定した。
〔培養上清中のベータNGFの測定法〕
ベータNGFの測定はR&Dシステム社の「ベータNGF、Human, DuoSet Kit」を使用した。ポリスチレン製の96穴マルチプレートに、Capture Antibodyとしてマウス抗ヒトベータNGF抗体溶液を各穴に100μlずつ分注し、室温で一夜放置した。マイクロプレートに吸着されなかった抗体を除去後、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。各穴に300μlのReagent Diluent(1%BSAを含むPBS)を加えて1時間以上、室温でブロッキングをし、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。
【0048】
標準溶液としてのヒト組み換えベータNGF溶液あるいは、上記の実験により得られた各培養上清100μlを各穴に分注し、室温で2時間放置した後、標準溶液あるいは、培養上清を除去した。さらに各穴を3回ずつ洗浄した。Detection Antibodyとしてヒツジ抗ヒトベータNGF抗体溶液を各穴に100μlずつ分注し、室温で2時間放置した後、ホースラーディッシュ由来パーオキシダーゼを各穴に100μlずつ加えて遮光して室温で20分間静置し、Wash Buffer(0.05% Tween20を含むPBS)で各穴を3回洗浄した。各穴にSubstrate Solution(過酸化水素とテトラメチルベンジジンの混合液)を100μlずつ加え室温で20分間反応させた。Stop Solutionとして2Nの硫酸を50μlずつ加え、直ちに吸光度計にて450/540nmの吸光度を測定し、標準曲線よりベータNGF量を算出した。
【0049】
実施例1
〔シロナメツムタケの人工栽培〕
シロナメツムタケの人工栽培は、以下の通りに実施した。
850ccポリプロピレン製の培養ビン(千曲化成(株))にブナ鋸屑(有限会社新井商店)150g、フスマ(豊橋飼料(株))30g、水道水350gを加えてよく混合した。この培地を105℃、60分、引き続き120℃、45分間高圧蒸気滅菌し放冷した後、PDA培地(ポテトデキストロース寒天培地)(株式会社ニッスイ)で培養したシロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、UFC−1911(FERM P−21345)及びUFC−1912(FERM P−21346)の種菌を接種した。培養条件は、暗黒下23℃、湿度55±5%条件化で、培養基に見かけ上菌糸体が蔓延するまで培養し、さらに10日間培養を続け熟成させた。子実体原基発生処理として、腐葉土を培養基表面に高さ約10mm(約50g)をクリーンベンチ内で無菌的に覆土し、さらに15日間追培養を実施した。その後、照度20ルクス、温度20℃、湿度90%の条件化で子実体原基が形成されるまで培養した。
【0050】
〔キノコ子実体抽出物の調製〕
上記の通り栽培したシロナメツムタケ3株と野外から採集してきた天然のシロナメツムタケ14株の子実体、及び対照としてヤマブシタケ(市販栽培品)の子実体を80℃で熱風乾燥し、回転刃付ブレンダーで破砕処理を行い、1mm以下の破砕物を得た。この破砕物1gに対してメタノール10mlを添加し、4℃にて1週間抽出処理を行った。これらの各抽出物を遠心分離(3000rpm、10分間)して上清を回収した。
【0051】
得られたシロナメツムタケ子実体17株及びヤマブシタケ子実体の各メタノール抽出液を、抽出濃度(原料換算)が1000μg/mLとなるように培養液に加えて、ヒトグリオハイブリドーマT98G細胞を培養した。回収した培養上清中に産生されたベータNGF量を測定した。キノコ抽出液の代わりに抽出溶媒であるメタノールを等量添加した時の培養上清中NGF濃度を対照とし、各々のパーセント比を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

表1からシロナメツムタケ子実体のベータNGF産生促進作用が極めて高いことが分かる。
【0053】
実施例2
実施例1で得られたキノコ抽出物のうちシロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、UFC−1911(FERM P−21345)及びUFC−1912(FERM P−21346)並びにヤマブシタケ子実体の各メタノール抽出液を、抽出濃度(原料換算)が500、1000、1500μg/mLとなるように培養液に加えて、ヒトグリオハイブリドーマT98G細胞を培養した。回収した培養上清中に産生されたベータNGF量を測定した。
【0054】
キノコ抽出液の代わりに抽出溶媒であるメタノールを等量添加した時の培養上清中NGF濃度を対照とし、各々のパーセント比を算出した。結果を図1に示す。
【0055】
図1から栽培シロナメツムタケ子実体のベータNGF産生促進作用が極めて高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】栽培シロナメツムタケ子実体及びヤマブシタケ子実体のメタノール抽出物のベータNGF産生促進作用の濃度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロナメツムタケの子実体又は菌糸体から得られることを特徴とする神経成長因子産生促進活性を有する組成物。
【請求項2】
シロナメツムタケの子実体又は菌糸体を破砕して破砕物を得ることを特徴とする請求項1記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物の製造方法。
【請求項3】
シロナメツムタケの子実体又は菌糸体から溶媒を用いて抽出物を得ることを特徴とする請求項1記載の神経成長因子産生促進活性を有する組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の組成物を有効成分とすることを特徴とする神経成長因子産生促進剤。
【請求項5】
請求項1記載の組成物を含有することを特徴とする神経成長因子産生促進活性を有する飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96760(P2009−96760A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270300(P2007−270300)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】