説明

神経毒を用いる睡眠呼吸障害の処置

本明細書において、神経毒の組成物、および睡眠呼吸障害の処置のためのその使用方法を開示する。本発明の一実施形態において、治療有効量のクロストリジウム神経毒(CnT)またはその軽鎖を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む、睡眠時呼吸障害を処置する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、その開示の全体が本明細書に参照によって組み込まれる、2009年11月9日出願の「神経毒を用いる睡眠呼吸障害の処置」という表題の米国仮特許出願第61/259,629号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸
上気道(UA)の開存性は咽頭開大筋の活動に依存する。ヒトは、その上気道が、ヒトの発話の進化に関係する解剖学的変化である湾曲した形状を有するという理由から独特である。その結果、ヒトのUAは他の種よりも柔軟であり、陰圧下で虚脱しやすい。覚醒している間、ヒトは通路を開放した状態に保つ上気道筋に持続的な緊張を有する。しかし、睡眠中、UA筋の緊張および反射活動は減少し、感受性の個体において、これは呼吸を妨害し得る咽頭の狭窄をもたらす。
【0003】
睡眠呼吸障害(SDB)は睡眠中の広範囲な呼吸問題を包含する医学上の名称である。SDBは重症度が様々である一連の障害を意味し、これらの障害にはいびき、上気道抵抗症候群(UARS)、低呼吸(<50%気流)、および無呼吸(気流なし)が含まれる。SDBは、患者が睡眠の各時間の間に10秒を超えて継続する低呼吸または無呼吸いずれかのエピソードを5回より多く経験する場合に、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と呼ばれる正式な医学的状態となる。いびきはSDBの一般的症状であるため、睡眠呼吸障害の上記の記載内に含まれる。いびきは一般的なパートナーからの訴えによるものであるが、医学的状態ではない。いびきは上気道組織の振動音にすぎない。多くの個体はSDBを伴わないいびきをかく。
【0004】
OSAは、複数の呼吸器、心血管、および中枢神経系のパラメーターを測定する終夜睡眠ポリグラフ(PSG)の記録によって診断される。OSAの重症度は、睡眠の各時間の間の無呼吸および低呼吸の数によって測定され、呼吸障害指数(RDI)とも呼ばれる無呼吸低呼吸指数(AHI)として表される。米国睡眠医学会(The American Academy of Sleep Medicine)はOSAに対する重症度の様々なレベルを規定している:軽度(AHI 5〜15)、中程度(AHI>15〜30)、および重度(AHI>30)。
【0005】
閉塞性睡眠時無呼吸の病態生理
睡眠には4段階の非REM眼球運動(NREM)、および第5段階の急速眼球運動(REM)がある。これらの段階は、筋肉弛緩が次第に増大し、REMの間にUA筋の活動がその最小に到達することによって特徴付けられる。UA筋の弛緩によりUAは狭まり、気流は減少し、それによって低呼吸および無呼吸が引き起こされる。これら気流減少のエピソードは睡眠中にいくらかの程度の覚醒状態を引き起こすことが多い。患者は完全な意識まで覚醒しないが、睡眠パターンは妨げられ、患者は覚醒時間中に眠気および疲労の徴候を示す。無呼吸または低呼吸の診断基準を満たさない正常を超える吸気努力であっても、睡眠障害を引き起こすことがある。この状態は上気道抵抗症候群(UARS)と呼ばれ、UARSは医学的に意義のある低呼吸を示さないが睡眠過剰をもたらすSDBの一形態である。
【0006】
上気道(UA)は、鼻と口と喉頭との間の、空気で満たされた空間を意味する。UAの形状および柔軟性は、OSAに対する危険因子と組み合わされて、UA虚脱をもたらすことがある(が、時には他のメカニズムが寄与することもある)。後方口蓋領域はUAの最も狭い領域であり、軟口蓋および舌の2つの重複する柔軟な構造を含むため、より虚脱しやすい。具体的には、OSAに関与する後方口蓋領域の主要構造は、舌根の湾曲部分である。この構造は弛緩すると非常に柔軟であり、UA圧力の低下は、UAのこの部分に最も影響を及ぼす。
【0007】
OSAの有病率および重要性
OSAの有病率は人口の4〜20%の範囲である。頻繁に引用されるウイスコンシン睡眠コホート研究(Wisconsin Sleep Cohort Study)は、30〜60歳の人では、男性の28%および女性の9%のAHIが5を超えることを見出した。殆んど全ての研究は、大多数のOSA患者、おそらく80%もの患者が診断未確定であることを示唆している。したがって、OSAの発生率における最近の増大は、現存するOSA患者の診断をおおむね反映するものである。
【0008】
OSAに対する主な危険因子は、肥満、性別(男性対女性の比は約3:1である)、および年齢(高齢集団では発生率が増大する)である。高齢化集団において肥満が蔓延するのに伴ってOSAの発生率が急速に増大する可能性がある。
【0009】
眠気(睡眠過剰)はOSAの最も顕著な症状であり、気流減少のエピソードは睡眠中のいくらかの程度の覚醒状態を引き起こすことが多い。患者は完全な意識まで覚醒しないが、正常の睡眠パターンは妨げられ、患者は覚醒時間中に眠気および疲労の徴候を示す。これが産業災害および交通事故の主な原因であると考えられている。国家運輸安全委員会(The National Transportation Safety Board)は、毎年、1500人の致死をもたらす100000件の交通事故が、OSAに直接起因すると推定している。
【0010】
より重要なことに、OSAは消耗性の医学的障害およびさらには死亡をもたらし得る。OSAは、心筋梗塞、脳血管発作、および慢性高血圧に相関する。疫学的研究は、睡眠時無呼吸が、人口統計学上の特徴(すなわち、年齢、性別、および人種)または心血管リスクマーカー(すなわち、喫煙、アルコール、肥満、糖尿病、異脂肪血症、心房細動、および高血圧)と無関係に、心血管疾患に対する危険性を増大することを示している。重度のOSAを有する患者は、10年生存率が健康対象に比べて低いことが見出されている。OSAの効果的な処置は、肺性高血圧および全身性高血圧を低減し、不整脈を低減し、致死的および非致死的な心筋梗塞および脳卒中を低減することによって、心血管の予後を大幅に改善する。OSA処置は、血圧を10mmHgも低下させ、これは次に冠動脈心疾患イベントの危険性を37%、および脳卒中の危険性を56%低減することが示されている。現在の証拠は、昼間の眠気および自動車事故における低減も指摘している。効果的なOSA処置はまた、死亡率を低減し、生存を改善する。
【0011】
処置しないままでいると、OSAは、睡眠過剰、うつ、酸逆流、高血圧、心不全、心房細動、心筋梗塞、脳血管発作、メタボリックシンドローム、交通事故、および産業災害の発生の主要な誘因である。
【0012】
OSAの現在の処置
OSAは明らかに重大な公衆衛生問題である。現在の療法は、行動療法から外科的介入のための口腔/歯科装置までの範囲であるが、いまだ不十分である。
【0013】
持続的気道陽圧(CPAP)装置は、成人のSDBを実質的に改善しており、依然として成人のSDBに対する効果的な形態の療法である。しかし、この装置は扱いにくく、患者からはわずかに許容されているのみである。口腔器具および上気道手術などの他の取組みは、軽度から中程度を超えるSBDに対して比較的限定された成功率を有する。したがって、現在の形態の療法を改善する必要があり、新規な療法を開発する必要がある。
【0014】
(1)非外科的OSA処置
持続的気道陽圧
大部分の国におけるOSAに対する標準的処置は、持続的気道陽圧(CPAP)である。持続的気道陽圧(CPAP)はOSA処置の頼みの綱であり、米国で各年およそ300万人の患者によって使用されている。CPAPは気道に対する空気ステント(pneumatic stent)として働くために、毎夜睡眠中に鼻を通して送り込まれる加圧空気を必要とする。大部分の患者において、これはAHIを標準化し、OSAに付随する眠気を解消するのに効果的である。
【0015】
CPAPは効果的であるが、患者は不快であると知覚し、配偶者にとっては邪魔であり、このため療法へのコンプライアンス低下をもたらすことが多い。推定50〜80%の患者がCPAP療法および危険性を伴う医学的結果を拒絶し、または遵守しない。
【0016】
口腔器具
大部分の口腔器具(OA)は下顎前方整位型である。患者の歯を装置に繋留し、下顎を、上顎に対して前側に出させる。舌は下顎と連結しているので、舌も前側に移動し、これにより上気道の直径が増大する。さらに外側の咽頭壁が伸ばされ、ゆるみがなくなり、また咽頭の空気隙間も増す。
【0017】
口腔器具は、特に軽度のOSAを有する患者において、OSAの症状の改善を示す。OAを偽の対照に対して比較する、十分にコントロールされたクロスオーバー研究は、眠気の改善、およびAHIスコアの5ポイントの改善を示すが、酸素の不飽和化において変化を示さない。しかし、大部分の試験は、軽度から中程度の睡眠時無呼吸だけを研究している。
【0018】
(2)OSAに対する外科的手順
少数の割合のOSA患者を処置するのに外科的手順が使用されている。CPAPに比べると、外科的手順は全て有効性が劣り、危険性が非常に高い。外科的手順には、軟口蓋手順(例えば、口蓋の硬化および口蓋垂口蓋咽頭形成術)、舌容積低減手順(例えば、舌根正中部切除術および高周波アブレーション)、気道拡張手順(例えば、オトガイ舌筋前位縫合、舌骨筋切開吊り上げ術、および両顎前位縫合)、および気道バイパス(例えば、気管切開)が含まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、治療有効量のクロストリジウム神経毒(CnT)またはその軽鎖を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む、睡眠時呼吸障害を処置する方法を提供することである。
【0020】
ある実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、哺乳動物の鼻、鼻腔、副鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、気管、または気管支に投与される。
【0021】
さらなる実施形態において、睡眠時呼吸障害は、上気道抵抗症候群、低呼吸、中枢性睡眠時無呼吸、および閉塞性睡眠時無呼吸からなる群から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、約0.01単位から10000単位の間の投与量で投与される。他の実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、約0.1単位から1000単位の間の投与量で投与される。さらなる実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、約1単位から100単位の間の投与量で投与される。
【0023】
いくつかの実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F、またはGの少なくとも1つを含む。他の実施形態において、CnTまたはその軽鎖は破傷風毒素を含む。ある実施形態において、CnTまたはその軽鎖は、少なくとも1つのアミノ酸の付加または置換によって修飾されている。
【0024】
いくつかの実施形態において、CnTまたはその軽鎖は局所投与される。他の実施形態において、CnTまたはその軽鎖は注入によって投与される。さらなる実施形態において、CnTまたはその軽鎖はジェット注入または針注入によって投与される。他の実施形態において、CnTまたはその軽鎖はエアロゾル化スプレーによって投与される。
【0025】
いくつかの実施形態において、CnTまたはその軽鎖は徐放送達方法を使用して投与される。ある実施形態において、徐放送達方法は、哺乳動物にデポー注入を注入すること、CnTもしくはその軽鎖を局所的に投与すること、またはCnTもしくはその軽鎖を生体吸収性担体において投与することを含む。
【0026】
ある実施形態において、CnTまたはその軽鎖は呼吸器粘膜または口腔粘膜に適用される。他の実施形態において、CnTまたはその軽鎖は呼吸器粘膜または口腔粘膜を介して投与される。さらなる実施形態において、CnTまたはその軽鎖は翼口蓋神経節に投与される。
【0027】
いくつかの実施形態において、CnTの軽鎖が哺乳動物に投与される。
【0028】
本発明のさらなる一目的は、治療有効量のクロストリジウム神経毒(CnT)またはその軽鎖を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む、睡眠時呼吸障害の症状を処置する方法を提供することである。いくつかの実施形態において、その症状はいびきである。
【0029】
気道は上気道(UA)と下気道(LA)とに分割される。UAは鼻孔(皮膚および粘膜)に始まり、次いで、鼻腔ならびに副鼻腔(上顎、前頭側、篩骨、および蝶形骨)、咽頭(上咽頭、口蓋帆咽頭、中咽頭、および下咽頭)、ならびに声帯のレベルの咽頭を含む。口腔は唇から咽頭の前縁に広がる。LAは、声帯ひだの下の咽頭、気管、気管支(主気管支から終末細気管支)、および肺胞を含む。本開示の目的では、声帯ひだの上の咽頭の部分はUAの部分とみなし、声帯ひだの下の部分はLAとみなす。
【発明を実施するための形態】
【0030】
意外なことに、クロストリジウム神経毒(CnT)(ボツリヌス毒素および破傷風毒素)を、口腔粘膜および呼吸器粘膜、または周囲の筋肉もしくは神経構造に適用すると、睡眠呼吸障害を改善し得ることが見出された。特に、これら毒素の投薬は筋肉の衰弱を必ずしも引き起こさない。特定の理論によって拘泥しようとするものではないが、CnTは気道の拡張を維持する反射に影響を及ぼし、それにより睡眠中の上気道筋緊張の減少に対抗すると思われる。これは、気道粘膜における末梢感覚構造に対する直接的作用による可能性があり、または毒素の逆方向の輸送後の中枢の作用による可能性がある。感覚要素は粘膜および粘膜下に存在する。とりわけ高い濃度の粘膜受容体が前側の鼻腔、後側の鼻腔、および上咽頭、ならびに喉頭蓋の粘膜において見出されるが、感覚要素は呼吸器および消化管全体にわたって見出される。いくつかの感覚要素は粘膜の下に見出され、気管と食道との間、および肺全体にわたって存在する感覚神経叢などの気道構造の周囲の結合組織にさえ見出される。最後に、神経節(例えば、翼口蓋神経節)は、末梢神経細胞が集中する構造である。
【0031】
クロストリジウム神経毒素(CnT)は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F、G、および破傷風毒素と定義される。CnTはまた、SNAREタンパク質に対して同じ阻止効果を有するこれら毒素の修飾または置換されているバージョン全てを包含する。これらには、天然に生成された毒素の少なくとも1つのアミノ酸の任意の置換または修飾が含まれる。結合ドメインおよび/または転位置ドメインの除去または置換を有する毒素も含まれる。リポソーム、タンパク質形質導入ドメイン、陽イオン性タンパク質、酸性溶液、および当技術分野において知られている多くの他の方法を含めた薬物送達の方法も含まれる。リポソーム、タンパク質形質導入タンパク質、陽イオン性タンパク質、イオン導入法、または当技術分野において知られている他の方法によって細胞内に送達される場合は、これらの毒素の軽鎖がさらに含まれる。
【0032】
実施例において記載するCnTの用量は、指摘する場合以外は、Allergan Inc(Irvine、CA)によって製造されるボツリヌス毒素A(Botox(登録商標))を使用するものである。ボツリヌス毒素の力価の単位の尺度は、マウスの腹腔中に注入した場合にマウスの50%を死滅させる量である。様々なボツリヌス毒素生成物の単位の臨床上の力価は同じであると予想され得るが、ヒトにおいて注入した場合にこれらの力価は異なることが当技術分野においてよく知られている。Botox(登録商標)に対する生物学的同等性の比は現在の市販生成物で知られており、過度の実験なしに決定することができる。Ipsen LTD(Bath、英国)製のDysportの1単位あたり生物学的同等性は、Botox(登録商標)の1/3である。Myobloc(B型ボツリヌス毒素)、Sostice Neuroscience(Malvern、PA)は、Botox(登録商標)の1/40の生物学的同等性を有する。
【0033】
CnTは通常、およそ1cmの小面積中に注入され、より大きな面積を処置するには複数の注入が必要とされる。本明細書および実施例において示されている用量は、全体の処置に必要とされる範囲を意味する。用量は、例えば、限定ではなく、約0.01単位から約10000単位まで、好ましくは約0.1単位から約1000単位まで、または約1単位から約100単位までの範囲であってよい。
【0034】
あるパーセンテージの毒素は粘膜または皮膚に完全に浸透せず、毒素の大部分が適用後にふき取られることが多く、実際の毒素の浸透は1%ほどと低いことがあるので、用量の主な変動はボツリヌス毒素を局所使用することに起因し得る。上記の用量範囲において言及する毒素の量は、それゆえ、身体内に浸透する実際の毒素を意味し、表面上に適用される総用量を意味するものではない。この実際の用量は、FDA認可プロセスの間、必ず研究および定量化されるので、局所薬物治療について知られている。
【0035】
例えば、限定ではなく、1平方cmあたり約0.01単位から約10000単位の用量を、遅延放出、徐放、または遅延型徐放などの制御放出方法を使用して投与することができる。徐放方法は、限定なく、緩効デポー注入、局所調製物、または生体吸収性担体(例えば、ポロキサマー)を含むことができ、それによって、毒素の放出が遅延されまたは長期間にわたって毒素が放出され、この期間は、使用される徐放技術の様式に応じて、例えば、1秒、1分、1日、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月などの範囲であってよい。
【0036】
CnTは、局所的に、注入によって(限定なく、加圧ジェット注入、もしくは針注入を含む)、エアロゾル化スプレーによって、生体吸収性担体において、または当技術分野において知られている他の方法によって適用することができる。
(実施例)
【実施例1】
【0037】
50歳男性が、AHI10によって反映される軽度の睡眠時無呼吸と診断されている。
【0038】
ポロキサマー担体1cc中1000単位のCnTを、副鼻腔開口部(小孔)を通して左上顎洞中に注入する。ポロキサマーは上顎腔において凝固し、4日にわたって溶解する。1ヶ月目のフォローアップ睡眠研究はAHIが4に改善したことを示しており、睡眠時無呼吸は本質的に治癒している。
【0039】
あるいは、両側上顎洞にポロキサマー担体0.5cc中500単位の用量を注入してもよい。
【0040】
この実施例は、CnTを副鼻腔に適用することによる睡眠時無呼吸を処置する方法を例示するものである。この実施例は、CnTの徐放を提供する担体の使用も例示するものである。
【実施例2】
【0041】
昼間の眠気を有する25歳男性に睡眠試験を行い、AHI4を有することが見出されている。男性はUARSと診断されている。この状態を処置するために、耳鼻咽喉科医は口腔を麻酔する。次いで、喉頭鏡および湾曲した喉頭用の器械を使用して、医師は通常の食塩水0.5cc中50単位のCnTを喉頭蓋の粘膜中に注入する。肉眼で見える小疱が喉頭蓋の舌側上に見られる。合併症について患者を観察した後、家に帰す。2週間で患者は、評点9のエプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale)(ESS)によって反映される、昼間の眠気の顕著な改善を認める。
【0042】
この実施例は、喉頭蓋軟骨において位置する深部の圧受容体に対するCnTの粘膜下注入を例示するものである。
【実施例3】
【0043】
60歳男性がAHI25を有する中程度のOSAと診断されている。医師は患者を、上咽頭の粘膜中に50単位を注入することによって処置する。医師はまず、ネオシネフリン1%スプレーで鼻の充血を除去する。次いで鼻粘膜を1%リドカインスプレーによって麻酔する。次いで、医師は、鼻孔を通して鼻腔の後部まで2.7mm硬度0度の内視鏡を導入する。次いで、25単位のCnTを各下鼻甲介の後方端中に注入する。合併症について患者を観察し、次いで家に帰す。1ヵ月目の再PSGによりAHI14への改善が示される。
【実施例4】
【0044】
別法として、実施例3に記載したのと同じ患者を、溶解可能なセルロース(Surgicel、J&J、Somerset、NJ)中局所CnTで処置してもよい。通常の食塩水中100単位を、1cmのセルロースシート(可能なサイズ範囲1〜20cm)の上に吸収させる。鼻腔を麻酔および充血除去した後、セルロースシートで前鼻孔、鼻腔、または上咽頭の粘膜上を覆う。CnTを24時間、粘膜上に吸収させ、残りのシートが依然として存在する場合は取り除かれるであろう。
【実施例5】
【0045】
別法として、実施例3に記載したのと同じ患者を、翼口蓋管を通して注入することによって、CnT25単位を翼口蓋神経節に両側性に投与することによって処置する。あるいは、鼻腔の片側または両側上の神経節の表面を覆う後鼻孔壁に対してCnT50単位を局所適用することによって、CnTを翼口蓋神経節に投与してもよい。
【実施例6】
【0046】
別法として、実施例3に記載したのと同じ患者を、エアロゾル化した通常の食塩水中CnT10単位の溶液を吸入することによって処置する。エアロゾル化した粒子は気管および気管支上部において沈着し、全身的に吸収され得る肺胞に到達しないように大きさがそろえられている。1ヶ月目の再PSGにより、副作用の所見なしにAHI12への改善が示される。患者にエアロゾル化したCnTの処置を繰り返し施し、1ヵ月後の再PSGにより正常のAHIが示される。
【0047】
本発明の範囲は、実施例において開示される特定の実施形態によって限定されるべきでなく、実施例は本発明のいくつかの態様を例示することを意図し、また機能的に同等のあらゆる実施形態が本発明の範囲内にある。実際に、本発明の様々な変更形態は、本明細書に示し、記載するもののほかに、当業者には明らかになり、添付の特許請求の範囲内にあることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のクロストリジウム神経毒(CnT)またはその軽鎖を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む、睡眠時呼吸障害を処置する方法。
【請求項2】
前記CnTまたはその軽鎖が、哺乳動物の鼻、鼻腔、副鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、気管、または気管支に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記睡眠時呼吸障害が、上気道抵抗症候群、低呼吸、無呼吸、中枢性睡眠時無呼吸、および閉塞性睡眠時無呼吸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CnTまたはその軽鎖が約0.01単位から10000単位の間の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記CnTまたはその軽鎖が約0.1単位から1000単位の間の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記CnTまたはその軽鎖が約1単位から100単位の間の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CnTまたはその軽鎖が、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F、またはGの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記CnTまたはその軽鎖が、少なくとも1つのアミノ酸の付加または置換によって修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記CnTまたはその軽鎖が破傷風毒素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記CnTまたはその軽鎖が局所投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記CnTまたはその軽鎖が注入によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記注入が加圧ジェット注入または針注入である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記CnTまたはその軽鎖がエアロゾル化スプレーによって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記CnTまたはその軽鎖が徐放送達方法を使用して投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記徐放送達方法が、哺乳動物にデポー注入を注入すること、CnTもしくはその軽鎖を局所的に投与すること、またはCnTもしくはその軽鎖を生体吸収性担体において投与することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記CnTまたはその軽鎖が呼吸器粘膜または口腔粘膜に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記CnTまたはその軽鎖が呼吸器粘膜または口腔粘膜を介して投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記CnTまたはその軽鎖が翼口蓋神経節に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記CnTの軽鎖が哺乳動物に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
治療有効量のクロストリジウム神経毒(CnT)またはその軽鎖を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む、睡眠時呼吸障害の症状を処置する方法。
【請求項21】
前記症状がいびきである、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2013−510193(P2013−510193A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538916(P2012−538916)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/056086
【国際公開番号】WO2011/057301
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512120292)
【Fターム(参考)】