説明

神経毒インプラント

【課題】ヒト患者において、治療に効果的な神経毒の長期連続放出を可能にする生物適合性、非免疫原性、非生分解性インプラントを提供する。
【解決手段】(a) ポリマーマトリックス;および
(b) ポリマーマトリックス内に存在するA型ボツリヌス毒素;
を含んで成り、A型ボツリヌス毒素がポリマーマトリックスから10日間〜6年間の期間にわたって免疫系反応を生じずに放出される制御放出系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御放出薬剤輸送系に関する。本発明は特に、制御放出神経毒輸送系に関する。
【背景技術】
【0002】
制御放出系は、生体内において、薬剤を所定の速度で所定の期間にわたって輸送することができる。一般に、放出速度は系のデザインによって決まり、概して、pHのような環境条件に非依存性である。薬剤を数年間にわたって輸送しうる制御放出系は既知である。これに対して、除放系は一般に24時間またはそれ以下で薬剤を輸送し、環境要因が放出速度に影響を与えうる。埋め込まれた(移植された)制御放出系(インプラント)からの薬剤の放出速度は、担体インプラント材料および薬剤自体の生理化学的特性の関数である。典型的に、インプラントは、宿主反応をほとんどまたは全く誘発しない不活性材料から製造される。
【0003】
制御放出系は、担体に組み込まれた生物学的活性を有する薬剤を含んで成ることができる。担体は、ポリマーまたはバイオセラミック材料であってよい。制御放出系は、患者の体の選択部位に注入するか、挿入するか、または埋め込むことができ、所望の治療効果を与える方法および濃度で薬剤がインプラントによって放出される長い期間にわたって、その部位に存在する。
【0004】
ポリマー材料は、拡散、化学反応または溶媒活性化、ならびに磁気、超音波または温度変化因子による影響によって、薬剤を放出することができる。拡散はリザーバーまたはマトリックスから得られる。化学制御は、ポリマーの分解、またはポリマーからの薬剤の分裂によって得られる。溶媒活性化は、ポリマーの膨潤または浸透圧作用を包含する。例えば、Science 249;1527−1533:1990参照。
【0005】
膜またはリザーバーインプラントは、ポリマー膜を通過する生物活性薬剤の拡散に依存する。マトリックスインプラントは、生物活性薬剤が均一に分布しているポリマーマトリックスから成る。膨潤制御放出系は一般に、生物学的流体の存在下またはある種の環境刺激の存在下に膨潤を受ける親水性ガラス質ポリマーに基づく。
【0006】
インプラント材料は、好ましくは、実質的に非毒性、非発ガン性および非免疫原性である。好適なインプラント材料は、ポリマー、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート(p−HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)(p−NVP)+、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エチレン−ビニルアセテート(EVAc)コポリマー、ポリビニルピロリドン/メチルアクリレートコポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ酸無水物、ポリ(オルトエステル)、コラーゲンおよびセルロース誘導体およびバイオセラミック、例えば、ヒドロキシアパタイト(HPA)、燐酸三カルシウム(TCP)、およびアルミノカルシウムホスフェート(aluminocalcium phosphate)(ALCAP)を包含する。乳酸、グリコール酸およびコラーゲンを使用して、生分解性インプラントを製造することができる。
【0007】
治療薬の長期間輸送用ポリマーを含んで成る制御放出系が既知である。例えば、非生分解性ポリマーから成る皮下リザーバーインプラントを使用して、プロゲスチンのような避妊ステロイドを25〜30mg/日の量で最高60ヶ月間にわたって放出させることができる(即ち、Norplant(登録商標)インプラント)。デキストラン(分子量約2,000,000)も、インプラントポリマーから放出されてきた。
【0008】
インプラント材料は、生分解性または生物侵食性であってよい。生物侵食性インプラントの長所は、患者から除去する必要がないことである。生物侵食性インプラントは、生物活性物質の膜放出またはマトリックス放出に基づくことができる。PLA−PGAから製造される生分解性微小球は、皮下または筋肉投与に関して既知である。
【0009】
分解性インプラントは、好ましくは、制御放出の期間を通してその構造一体性を維持し、それによって、除去が必要であるかまたは許可された場合に除去することができる。組み込まれた薬剤が治療レベルより低くなった後に、生分解性インプラントは、さらなる期間にわたって低レベルで放出しうる薬剤を保持することなく完全に分解することができる。分解性材料、例えば、乳酸/グリコール酸コポリマー、ポリカプロラクトンおよびコレステロールから製造される、ステロイド輸送用の皮下インプラントおよび注入可能な微小球が既知である。
【0010】
タンパク質インプラント
タンパク質のような大きい高分子用の制御放出系が既知である。例えば、高分子量タンパク質を組み込んだ生物適合性ポリマーペレットを埋め込んで、100日を越える期間にわたるタンパク質の連続放出が示されている。種々の不安定な高分子量酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、分子量88kD、およびカタラーゼ、分子量250kD)が、長期連続放出特性を有する生分解性ポリマーインプラントに組み込まれている。一般に、キャスティング溶液におけるポリマー濃度の増加は、タンパク質がインプラントから放出される初期速度を減少させる。Nature 263;797−800:1976。
【0011】
さらに、アルブミンは、EVAcインプラントから放出することができ、ポリリシンは、コラーゲンに基づく微小球から放出することができる。Mallapragada S.K.ら、Von Recum, A.F.Handbook of Biomaterials Evaluation、第2版、p.431、第27章、Taylor & Francis(1999)。さらに、微小球からのテタヌス毒素の放出も研究されている。同文献p.432。皮下に挿入した焼成EVAcコポリマーは、100日間にわたってインスリンを放出することが示されている。同文献p.433。
【0012】
さらに、ヒト成長ホルモン(hGH)(分子量約26kD)のようなタンパク質を、埋め込まれた際にヒト成長ホルモンを生体内で約1週間にわたって放出させるポリマーマトリックスに封入することが既知である。米国特許第5667808号。
【0013】
制御放出系(即ち、インプラント)は、タンパク質の初期高放出を示し、次に、最少放出を示すことができる。残念なことに、制御放出マトリックスにおけるタンパク質の高濃度によって、タンパク質分子は凝集して、変性免疫原性濃度のタンパク質を生じる傾向がある。
【0014】
拍動性放出インプラント
ヒドロゲルを使用して、シングルパルスおよびマルチプルパルス薬剤輸送インプラントが製造されている。シングルパルスインプラントは、浸透圧制御または溶融制御することができる。Doelker E.,Cellulose Derivatives,Adv Polym Sci 107;199−265:1993。インプラントからのある種の物質のマルチプルパルスは、温度(Mater Res Soc Symp Proc,331;211−216:1994;J.Contr Rel 15;141−151:1991)、pH(Mater Res Soc Symp Proc,331;199−204:1994)、イオン強度(React Polym,25;127−137:1995)、磁場(J.Biomed Mater Res,21;1367−1373:1987)または超音波のようなパラメーターの環境変化に応じて得られることが既知である。
【0015】
残念なことに、非生分解性ポリマーから製造された皮下埋め込み可能な薬剤ペレットは、外科的埋め込みおよび除去を必要とするという欠点を有する。生物適合性、生物侵食性インプラントの使用は、非生分解性インプラントの明らかな欠点を克服することができる。生分解性インプラントは、長期間にわたって薬剤を放出することができ、それと同時にまたはその後にポリマーが組織内で成分に分解し、従って、インプラントを除去する必要がない。例えば、Drug Development and Industrial Pharmacy 24(12);1129−1138:1998参照。
【0016】
分解性ポリマーは、塊状または均質ポリマーとは対照的に、表面侵食ポリマーであってよい。表面侵食ポリマーはその外表面だけから分解し、従って薬剤放出はポリマーの侵食速度に比例する。好適なそのようなポリマーは、ポリ酸無水物であり得る。
【0017】
ボツリヌス毒素
嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は、土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0018】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体)(商品名BOTOX(登録商標)100単位バイヤルとしてカリフォルニア、アーヴィンのAllegan Inc. から入手可能)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50である。BOTOX(登録商標)の1単位は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含んでいる。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natural Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
【0019】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、シナプス前のアセチルコリン放出を阻止するようである。
【0020】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似していると考えられ、少なくとも3つのステップまたは段階を含む。プロセスの第一段階において、毒素は、重鎖、H鎖および細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合し;受容体は、ボツリヌス毒素の各型、およびテタヌス毒素に関して異なっていると考えられる。H鎖のカルボキシル末端部分、HCは、毒素が細胞表面を標的にするのに重要であると考えられる。
【0021】
第二段階において、毒素は、中毒化された細胞の形質膜を通過する。毒素は、先ず、受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから出て、細胞の細胞質に入る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに応答して毒素の配座変化を誘発するH鎖のアミノ末端部分HNによって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを減少させるプロトンポンプを有していることが知られている。配座シフトは、毒素における疎水残基を露出させ、これは、毒素がそれ自身をエンドソーム膜に埋め込むことを可能にする。次に、毒素(または最小において軽鎖)は、エンドソーム膜を通過して細胞質に転位する。
【0022】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最後の段階は、重鎖、H鎖、および軽鎖、L鎖を結合するジスルフィド結合の減少を含む。ボツリヌス毒素およびテタヌス毒素の全毒性活性は、ホロトキシンのL鎖に含有され;L鎖は、亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、認識、および神経伝達物質含有小胞と形質膜の細胞質表面との結合、および小胞と形質膜との融合に重要なタンパク質を選択的に開裂する。テタヌス神経毒、ボツリヌス毒素/B/D、/F、および/Gは、シナプトブレビン(小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される)、シナプトソーム膜タンパク質を分解させる。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれか1つの結果として除去される。血清型AおよびEはSNAP−25を開裂する。血清型C1は、シンタキシンを開裂すると初めは考えられていたが、シンタキシンおよびSNAP−25を開裂することが見い出された。各毒素は、異なる結合を特異的に開裂する(同じ結合を開裂するテタヌスおよびB型は除く)。
【0023】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣の処置のために米国食品医薬品局によって承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素に比べ、明らかに、低い効力および/または短い活性の持続性を有している。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均して約3ヶ月であり得る。
【0024】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を明らかに阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素は共に25キロダルトン(kD)のシナプトソーム会合タンパク質(SNAP-25)を切断するが、タンパク質内の異なるアミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞会合タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素に対する基質は、種々の異なる細胞タイプに見出せる。Biochem J 1; 339 (pt1): 159-65:1999、およびMov Disord, 10(3): 376:1995 参照(ランゲルハンス島B細胞は少なくともSNAP-25 およびシナプトブレビンを含んでいる。)
【0025】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成する)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0026】
生体外試験によって、ボツリヌス毒素は、脳幹組織の一次細胞培養物からの、アセチルコリンおよびノルエピネフィリンの両方のカリウムカチオン誘発放出を阻害することが示されている。さらに、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの一次培養物において、グリシンおよびグルタミン酸塩の両方の誘発放出を阻害し、脳シナプトソーム試料において、ボツリヌス毒素は、神経伝達物質アセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフィリン(Habermann E.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neuroche 51(2);522-527:1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタミン酸塩(Sanchez-Prieto, J.ら, Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165;675-681:1987)のそれぞれの放出を阻害することも報告されている。
【0027】
従って、適切な濃度を使用した場合、大部分の神経伝達物質の刺激誘発放出は、ボツリヌス毒素によって阻止される。例えば、Pearce, L.B.,Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine,Toxicon 35(9);1373−1412,1393(1997);Bigalke H.ら、Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture,Brain Research 360;318−324:1985;Habermann E.,Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the Release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate,Experientia 44;224−226:1998;Bigalke H.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters,as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord,Naunyn−Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316;244−251:1981、およびJankovic J.ら、Therapy With Botulinum Toxin,Marcel Dekker,Inc.,(1994),p.5参照。
【0028】
A型ボツリヌス毒素は、発酵槽においてクロストリジウムボツリヌスの培地を定着させ増殖させ、次に、既知の方法によって発酵混合物を採取し精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、まずボツリヌス菌によって不活性な単鎖タンパク質として産生され、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0029】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0030】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine, Microbiol Rev.56:80−99 (1992) に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0031】
ボツリヌス毒素および毒素複合体は、List Biological Laboratories, Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウイスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。
【0032】
純粋なボツリヌス毒素は非常に不安定なので、通例、医薬組成物を製造するために使用されない。更に、ボツリヌス毒素複合体、例えばA型毒素複合体は、表面変性、熱およびアルカリ性条件による変性に対しても非常に感受性である。不活性化毒素はトキソイドタンパク質を形成し、これは免疫原性であり得る。その結果生じる抗体の故に、患者が毒素注射に対して応答しなくなり得る。
【0033】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。さらに、毒素含有医薬組成物を製剤化した後に、数ヶ月または数年間にわたって毒素を使用することができる。重要なことに、アルブミンおよびゼラチンのような安定剤を使用して、毒素を、製造および配合工程の間ならびに保存の間に安定化しうることが既知である。
【0034】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフオルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、−5℃またはそれ以下の冷凍庫内で貯蔵する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0035】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水(0.9%Sodium Chloride Injection)を使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性すると考えられるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。BOTOX(登録商標)は、滅菌の理由から、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成してから4時間以内に投与する。この4時間の間、再構成したBOTOX(登録商標)は冷蔵庫において2〜8℃で保管し得る。再構成し、冷蔵したBOTOX(登録商標)は、少なくとも2週間、その効能を維持する(Neurology, 48:249-53:1997)。
【0036】
A型ボツリヌス毒素は下記のような臨床的状況において使用されていることが報告されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0037】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を処置するために、25UのBOTOX(登録商標)の頭蓋骨膜注射(眉間筋、前頭筋、側頭筋に対称的に注射される)は、25U注射後3ヶ月間にわたって、偏頭痛の頻度、最大重度、関連嘔吐および急性薬使用の減少した測定値によって示されるように、賦形剤と比較して偏頭痛の予防的処置として有意な利益を示す。
【0038】
A型ボツリヌス毒素は、最大12ヶ月間にわたって有効性を有することができ(European J. Neurology 6(Supp 4):S111−S1150:1999)、27ヶ月間にもわたって有効性を有する場合もある(The Laryngoscope 109: 1344−1346:1999)。しかし、BOTOX(登録商標)の筋肉注射の一般的な持続期間は、約3〜4ヶ月である。
【0039】
様々な臨床的状態を処置するためにA型ボツリヌス毒素が成功していることにより、他のボツリヌス毒素血清型が注目されている。2つの市販のA型ボツリヌス毒素製剤(BOTOX(登録商標)およびDysport(登録商標))ならびにB型およびF型のボツリヌス毒素の製剤(ともにWako Chemicals(日本)から得られる)の研究が、局所的な筋肉弱化効能、安全性および抗原性を明らかにするために行われた。ボツリヌス毒素製剤が右腓腹筋の頭部に注射(0.5単位/kg〜200.0単位/kg)され、筋肉の弱さが、マウスの指外転評価アッセイ(DAS)を使用して評価された。ED50値を用量応答曲線から計算した。さらなるマウスには、LD50量を決定するために筋肉内注射が行われた。治療指数をLD50/ED50として計算した。別のマウス群には、BOTOX(登録商標)(5.0単位/kg〜10.0単位/kg)またはB型ボツリヌス毒素(50.0単位/kg〜400.0単位/kg)が後肢に注射され、そして筋肉の弱さおよび増大した水の消費が調べられた。後者は、口渇の推定的なモデルである。抗原性は、ウサギに毎月筋肉内注射することによって評価された(B型ボツリヌス毒素については1.5ng/kgまたは6.5ng/kg、あるいはBOTOX(登録商標)については0.15ng/kg)。
【0040】
最大筋肉弱さおよび継続期間はすべての血清型について用量に関連していた。DASのED50値(単位/kg)は下記の通りであった:BOTOX(登録商標):6.7、Dysport(登録商標):24.7、B型ボツリヌス毒素:27.0〜244.0、F型ボツリヌス毒素:4.3。BOTOX(登録商標)は、B型ボツリヌス毒素またはF型ボツリヌス毒素よりも長い作用継続時間を有した。治療指数値は下記の通りであった:BOTOX(登録商標):10.5、Dysport(登録商標):6.3、B型ボツリヌス毒素:3.2。水の消費は、B型ボツリヌス毒素が注射されたマウスが、BOTOX(登録商標)の場合よりも大きかったが、B型ボツリヌス毒素は、筋肉を弱くさせることにおいては効果が低かった。注射した4ヶ月後、4羽のうち2羽(1.5ng/kgで処置された場合)および4羽のうち4羽(6.5ng/kgで処置された場合)のウサギがB型ボツリヌス毒素に対する抗体を生じた。別の研究において、BOTOX(登録商標)で処置された9羽のウサギはどれも、A型ボツリヌス毒素に対する抗体を示さなかった。
【0041】
DASの結果は、A型ボツリヌス毒素の相対的な最大効力がF型ボツリヌス毒素と同等で、F型ボツリヌス毒素の効力はB型ボツリヌス毒素よりも大きいことを示している。効果の継続期間については、A型ボツリヌス毒素はB型ボツリヌス毒素よりも大きく、B型ボツリヌス毒素の効果継続期間はF型ボツリヌス毒素よりも大きかった。治療指数値により示されるように、A型ボツリヌス毒素の2つの市販製剤(BOTOX(登録商標)およびDysport(登録商標))は異なる。B型ボツリヌス毒素を後肢に注射した後に認められる増大した水消費の挙動は、この血清型の臨床的に有意な量がネズミの全身循環に入ったことを示している。これらの結果はまた、A型ボツリヌス毒素と匹敵し得る効力を達成するためには、それ以外の調べられた血清型の量を増大する必要があることを示している。投薬量の増大は安全性を損なう可能性がある。さらに、ウサギにおいて、B型はBOTOX(登録商標)よりも抗原性が大きかった。これは、おそらくは、B型ボツリヌス毒素の効果的な用量を達成するために、より多量のタンパク質が注射されたためである。Eur J Neurol 1999 Nov; 6 (Suppl 4): S3-S10。
【0042】
末梢部位において薬理学的作用を有することに加えて、ボツリヌス毒素は、中枢神経系において脱神経作用も示すことができる。Wiegandら、Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol.1976;292,161-165、およびHabermann,Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol.1974:281,47−56は、ボツリヌス毒素が、逆行移送によって脊髄領域に上行しうることを報告している。従って、末梢部位、例えば筋肉内に注入されたボツリヌス毒素は、潜在的に脊髄に逆行移送することができる。
【0043】
米国特許第5989545号は、特定の標的成分に化学的に共役させるかまたは組換え的に融合させた修飾クロストリジウム神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療しうることを開示している。
【0044】
アセチルコリン
典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心臓の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0045】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0046】
アセチルコリンは、2種類の受容体、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激される全ての効果器細胞、ならびに交換神経系の節後コリン作用性ニューロンによって刺激される効果器細胞に見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに交換神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンの間のシナプスにおいて節後ニューロンの細胞表面に存在する自律神経節内に見られる。ニコチン性受容体も、多くの非自律神経終末、例えば、神経筋接合部における骨格筋線維の膜に見られる。
【0047】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および副甲状腺ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0048】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を通って伝達される信号は、終末軸索において活動電位を生じ、イオンチャンネルを活性化し、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞から神経伝達物質アセチルコリンを放出させる。アセチルコリンは細胞外空間を通過して、筋肉終板の表面において、アセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異的膜イオンチャンネル変化を生じ、その結果、筋肉細胞収縮が生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝物は、さらにアセチルコリンに再処理するために終末軸索に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】米国特許第5667808号
【特許文献2】米国特許第5989545号
【非特許文献】
【0050】
【非特許文献1】Science 249;1527−1533:1990
【非特許文献2】Nature 263;797−800:1976
【非特許文献3】Mallapragada S.K.ら、Von Recum, A.F.Handbook of Biomaterials Evaluation、第2版、p.431、第27章、Taylor & Francis(1999)
【非特許文献4】Mallapragada S.K.ら、Von Recum, A.F.Handbook of Biomaterials Evaluation、第2版、p.433、第27章、Taylor & Francis(1999)
【非特許文献5】Mater Res Soc Symp Proc,331;211−216:1994;J.Contr Rel 15;141−151:1991
【非特許文献6】Mater Res Soc Symp Proc,331;199−204:1994
【非特許文献7】React Polym,25;127−137:1995
【非特許文献8】J.Biomed Mater Res,21;1367−1373:1987
【非特許文献9】Drug Development and Industrial Pharmacy 24(12);1129−1138:1998
【非特許文献10】B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)
【非特許文献11】Biochem J 1; 339 (pt1): 159-65:1999
【非特許文献12】Mov Disord, 10(3): 376:1995
【非特許文献13】Habermann E.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neuroche 51(2);522-527:1988
【非特許文献14】Sanchez-Prieto, J.ら, Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165;675-681:1987
【非特許文献15】Pearce, L.B.,Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine,Toxicon 35(9);1373−1412,1393(1997)
【非特許文献16】Bigalke H.ら、Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture,Brain Research 360;318−324:1985
【非特許文献17】Habermann E.,Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the Release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate,Experientia 44;224−226:1998
【非特許文献18】Bigalke H.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters,as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord,Naunyn−Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316;244−251:1981
【非特許文献19】Jankovic J.ら、Therapy With Botulinum Toxin,Marcel Dekker,Inc.,(1994),p.5
【非特許文献20】Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine, Microbiol Rev.56:80−99 (1992)
【非特許文献21】Wiegandら、Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol.1976;292,161-165
【非特許文献22】Habermann,Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol.1974:281,47−56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0051】
従って、ヒト患者において、治療に効果的な神経毒の長期連続放出を可能にする生物適合性、非免疫原性、非生分解性インプラントが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0052】
本発明はこの要求を満たし、ヒト患者において、神経毒の長期連続放出を可能にする生物適合性、非免疫原性、非生分解性インプラントを提供する。
本発明は、筋痙攣を包含する運動障害のような疾患の処置における、ボツリヌス毒素のような神経毒の反復ボーラスまたは皮下注入に関連した既知の問題、困難および欠陥を克服する神経毒インプラントを提供する。
本発明に含まれる制御放出系は、ポリマーマトリックス、およびポリマーマトリックス内に存在する所定量の神経毒を含んで成り、少量の神経毒を長期間にわたってポリマーマトリックスから放出することができる。
【0053】
神経毒は、実質的に連続的にまたは単相(monophasic)的にポリマーマトリックスから放出させることができ、神経毒がポリマーマトリックスから放出される期間は10日〜約6年間にわたることができる。
【0054】
ポリマーマトリックスは、実質的に非生分解性の物質から製造することができ、神経毒はポリペプチドであってよい。さらに、神経毒は、クロストリジウム神経毒のようなシナプス前神経毒であってよい。さらに、神経毒は、A、B、C1、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択されるボツリヌス毒素であってよい。好ましくは、神経毒素はA型ボツリヌス毒素である。
【0055】
ポリマーマトリックスを構成するポリマーは、メタクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、アクリル酸、シロキサン、酢酸ビニル、乳酸、グリコール酸、コラーゲン、バイオセラミックポリマーおよびそれらのコポリマーから成る群から選択される。
【0056】
インプラントに保持される神経毒の量は、約1単位〜約100,000単位のボツリヌス毒素、好ましくは約1〜約50,000単位のボツリヌス毒素である。例えば、神経毒の量は、約10単位〜約2,000単位のA型ボツリヌス毒素、約100単位〜約30,000単位のB型ボツリヌス毒素であってよい。
【0057】
神経毒は、埋め込まれた系の部位でまたはその近くで、筋肉または筋肉群の弛緩性神経麻痺を生じるのに有効な量においてインプラントから放出されるボツリヌス毒素であってよい。
【0058】
本発明の詳細な態様は、ポリマーマトリックス、およびポリマーマトリックッス内の約10単位〜約20,000単位のボツリヌス毒素を含んで成る制御放出系であり、該系において、少量のボツリヌス毒を、約2ヶ月〜約5年間の長期間にわたってポリマーマトリックスから放出する。
【0059】
本発明の制御放出系の製造方法は、下記の工程を含んで成る:(a)ポリマーを溶媒に溶解してポリマー溶液を作り;(b)ポリマー溶液に神経毒を混合または分散させて、ポリマー/神経毒混合物を作り、(c)ポリマー/神経毒混合物を硬化させ、それによって制御放出系を得る。混合工程の後に、溶媒を蒸発させる工程も含んでよい。
【0060】
さらに、本発明の連続放出系の使用法は、ポリマーマトリックスを含む制御放出系の注入または埋め込みを含んで成り、それによって、コリン作用性神経支配によって影響を受けた運動障害または疾患を処置することができる。
【0061】
最後に、金属カチオンで錯体化した神経毒の製造方法は、下記の工程を含んで成る:(a)神経毒を含有する溶液を作り;(b)多価金属カチオンと神経毒との錯体を生成するのに好適なpH条件下に、多価金属カチオン成分を神経毒溶液に分散させ、それによって、金属カチオン成分と神経毒とのモル比が約4:1〜約100:1の、金属カチオンで錯体化した神経毒の懸濁液を作り;(c)該懸濁液を乾燥させて、金属カチオンで錯体化された神経毒を得る。
【0062】
所定期間にわたって本発明の連続放出系によって投与される神経毒の量は、A型ボツリヌス毒素については約10−3U/kg〜約35U/kg、B型ボツリヌス毒素のような他のボツリヌス毒素については最大約200U/kgである。35U/kgまたは200U/kgは、それぞれA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素のようなある種の神経毒の致死量に近づくので上限である。好ましくは、所定期間にわたって連続放出系によって投与される神経毒の量は、約10−2U/kg〜約25U/kgである。より好ましくは、神経毒は、約10−1U/kg〜約15U/kgの量で投与される。最も好ましくは、神経毒は、約1U/kg〜約10U/kgの量で投与される。多くの場合、約1単位〜約500単位のA型ボツリヌス毒素のような神経毒の投与は、効果的かつ長期持続性の治療的軽減を与える。より好ましくは、約5単位〜約300単位のA型ボツリヌス毒素のような神経毒を使用することができ、最も好ましくは、約10単位〜約200単位のA型ボツリヌス毒素のような神経毒を標的組織に局所投与して、有効な結果を得ることができる。本発明の特に好ましい態様においては、約1単位〜約100単位のA型ボツリヌス毒素のようなボツリヌス毒素を標的組織に局所投与して、治療的に有効な結果を得ることができる。
【0063】
神経毒は、クロストリジウム属細菌、例えば、クロストリジウム・ボツリヌム、クロストリジウム・ブチリクム、クロストリジウム・ベラッティまたはクロストリジウム・テタニ細菌によって、製造することができる。さらに、神経毒は、修飾神経毒、即ち、天然または野生型神経毒と比較して、少なくとも1つのアミノ酸が修飾または置換されている神経毒であってよい。さらに、神経毒は、組換えによって製造された神経毒あるいはその誘導体またはフラグメントであってもよい。
【0064】
神経毒は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C1、D、E、FまたはGのようなボツリヌス毒素であってよい。好ましくは、神経毒はA型ボツリヌス毒素である。
【0065】
重要なことに、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素インプラントの皮下埋め込みによって患者に投与することができる。ボツリヌス毒素は、約1単位〜約10,000単位の量で、患者の筋肉に投与することができる。ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である場合、ボツリヌス毒素を、約1単位〜約100単位の量で患者の筋肉に投与することができる。
【0066】
注目すべきことに、ボツリヌス毒素で処置した腺組織が、毒素注入後27ヶ月間にもわたって減少した分泌活性を示しうることが報告されている。Laryngoscope 1999;109:1344−1346、Laryngoscope 1998;108:381−384。
【0067】
本発明は、神経毒の制御放出用のインプラントならびにそのようなインプラントの製造法および使用法に関する。インプラントは、神経毒を含有するポリマーマトリックスを含んで成ることができる。インプラントは、種々の疾患症状を処置するために筋肉内、硬膜外または皮下に投与した際に、長期間にわたって有効レベルの神経毒を投与するように設計される。
【0068】
本発明はさらに、生物学的に活性で安定な神経毒の制御放出のための、組成物ならびに該組成物の製造法および使用法にも関する。本発明の制御放出組成物は、生物適合性ポリマーのポリマーマトリックス、および該生物適合性ポリマーに分散された生物学的に活性な安定な神経毒を含んで成ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
定義
下記の定義を本明細書において適用する。
【0070】
「生物適合性」は、インプラント埋め込み部位において、インプラント使用によって非有意な炎症反応が存在することを意味する。
【0071】
「生物学的に活性な化合物」は、化合物を投与した患者に有益な変化を生じうる化合物を意味する。例えば、「生物学的に活性な化合物」は、神経毒を包含する。
【0072】
生物学的に活性な化合物について使用される「有効量」は、患者に所望の変化を生じるのに一般に充分な、化合物の量を意味する。例えば、所望される効果が弛緩性筋肉麻痺である場合、化合物の有効量は、麻痺を必要としない隣接筋肉の実質的麻痺を生じず、有意な全身性毒性反応を生じずに、必要とする筋肉の少なくとも実質的な麻痺を生じる量である。
【0073】
インプラントの非活性成分(例えば、マトリックスまたは被覆組成物の製造に使用されるポリマー)について使用される「有効量」は、所望の期間にわたって所望の速度で生物学的に活性な薬剤の放出に正の影響を与えるのに充分な非活性成分の量を意味する。例えば、所望の効果が単一インプラントの使用による筋肉麻痺である場合、「有効量」は、約60日〜6年間にわたって放出しうるようにする量である。「有効量」は、本明細書の開示および当分野における一般的知識に基づいて決めることができる。
【0074】
インプラントの表面積の量について使用される「有効量」は、筋肉麻痺のような所望の効果を得るために、生物学的に活性な化合物の流動を生じるのに充分なインプラント表面積の量である。必要な面積は、特定の活性化合物について得られる放出を測定することによって直接的に決めることができ、調節することができる。インプラントの表面積、またはインプラントの被膜の表面積は、生物学的に活性な化合物を完全に封入するのに必要な膜の量である。表面積は、インプラントの形態に依存する。好ましくは、可能であれば表面積を最少限にして、インプラントの大きさを減少させる。
【0075】
「インプラント」は、制御放出薬剤輸送系を意味する。インプラントは、生物学的活性を有する分子の担体を含有するかまたはそのような担体として作用しうる生物適合性ポリマーまたはセラミック材料を含んで成る。インプラントは、ヒトの体内に注入するか、挿入するか、または埋め込むことができる。
【0076】
「局所投与」は、生物学的に活性な化合物、例えば治療薬の、非全身的経路による組織への直接投与を意味する。従って、局所投与は、皮下、筋肉内、脊髄内(即ち、髄腔内および硬膜外)、頭蓋内および腺内投与を包含する。局所投与は、経口または静脈投与のような全身的経路による投与は含まない。
【0077】
「神経毒」は、神経筋または神経腺接合部を通るインパルス伝達を阻害するか、神経伝達物質のニューロンエキソサイトーシスを阻止するかまたは減少させ、またはニューロンのナトリウムチャンネル電位ゲートにおける活動電位を変化させる薬剤を意味する。神経毒の例は、ボツリヌス毒素、テタヌス毒素、サキシトキシンおよびテトロドトキシンである。
【0078】
「処置」は、哺乳動物の疾患の処置を意味し、下記を包含する:(i)疾患の発生を予防すること;(ii)疾患を抑制する、即ち、疾患の進行を阻止すること;(iii)疾患を軽減し、即ち、徴候の発生を減少させるか、または疾患を後退させること。
【0079】
神経毒制御放出用の本発明のインプラントを製造する方法は、生物適合性ポリマーをポリマー溶媒に溶解してポリマー溶液を作り、生物学的に活性な安定化した神経毒の粒子をポリマー溶液に分散させ、次に、ポリマーを凝固させて、神経毒粒子の分散液を含有するポリマトリックスを形成することを含んで成る。
【0080】
神経毒制御放出用の本発明のインプラントの使用法は、インプラントを患者に埋め込むことによって、長期間にわたって治療有効量の生物学的に活性な神経毒を患者に投与することを含んで成る。
【0081】
本発明は、生物適合性、非生分解性または生分解性ポリマーを含んで成る連続放出インプラントが、治療量の神経毒の生体内における長期間の放出を示しうるという発見に基づく。
【0082】
本発明のインプラントは、所望の作用部位における切開によって外科的に挿入することができ(即ち、筋肉痙攣の減少のため)、または中空針埋め込みガン、例えば、米国特許第4474572号に開示されているタイプのガンを使用して、皮下または筋肉投与することができる。針の直径は、使用されるインプラントの大きさに対応するように調節することができる。さらに、本発明のインプラントを頭蓋内に埋め込んで、標的脳組織に治療量の神経毒を長期間にわたって輸送することができる。インプラントが生物適合性、非免疫原性材料から成るので、インプラントが消費された後に本発明の非生分解性インプラントを除去する必要がない。
【0083】
神経毒を安定化するために、インプラントマトリックスを形成することができる好適なポリマーとの混合に関して神経毒を有用にする形態において(即ち、フリーズドライまたは凍結乾燥した粉末神経毒)、ならびに神経毒が選択ポリマーのマトリックスに存在するかまたは組み込まれる間の両方において、種々の医薬賦形剤を使用することができる。好適な賦形剤は、デンブン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウムおよび乾燥脱脂乳を包含する。
【0084】
インプラントの厚みを使用して、本発明の組成物による水の吸収、従って本発明の組成物からの神経毒の放出速度、を調節することができ、厚いインプラントは薄いインプラントよりゆっくりポリぺプチドを放出する。
【0085】
インプラントは、第一段階の間、バースト期間において、最適以下の量の神経毒を急速に放出することができる。バースト期間は一般に24時間持続し、多くの場合、埋め込から約1時間程度に過ぎない。次に、インプラントによって放出される神経毒の量は、急速に減少し、放出神経毒のかなり減少した、有意に相対的に一定な(即ち、ゼロ程度の動態)レベルで安定する。神経毒放出のこの第二の長期段階は、1年〜約5または6年の期間にわたることができる。第二段階の初期の部分は、メークアップ(make up)期間と称される。
【0086】
バースト段階およびメークアップ期間に放出される神経毒の追加量は、好ましくは特定の疾患または苦痛を処置しうる神経毒の最適量に等しい。一時的な長さのメークアップ期間は、その期間の終了時に神経毒の最適投与が有意に減少した有効性を示す期間より幾分短い。例えば、上肢痙攣を処置するために、筋肉内A型ボツリヌス毒素の最適量は、上腕二頭筋に注入される約90単位である。一般に、ボーラス注入から1〜7日以内にそのようにして誘発された弛緩性麻痺は、約3ヶ月後に実質的に減少する。本発明の皮下神経毒インプラントは、埋め込み後に基本的に直ぐに(即ち、バースト期間)、約60単位のボツリヌス毒素を放出する形態にすることができる。この最適以下の量の神経毒は、急速かつ実質的な軽減を与える。第二段階の間に、インプラントは約0.4単位/日の神経毒、例えばA型ボツリヌス毒素を連続的に放出し、それによって約75日後に、90単位の最適量がインプラントによって標的組織に放出される。
【0087】
ボツリヌス毒素が高い特異的親和性を示すシナプス前ニューロン受容体は、同定されていない。ボツリヌス毒素の長期間のニューロン内半減期を説明する一般的に認められるメカニズムも解明されていない。それにもかかわらず、ボツリヌス毒素受容体の非遮断(unblocking)、再出現、再合成および/または再活性化、または新しい神経芽の出現、またはその両方の場合もある動的プロセスが、明らかになり、ボツリヌス毒素の投与によって生じる麻痺作用の漸減を説明することが知られている。ボツリヌス毒素の最適量(合計90単位)をインプラントによって放出させるのに75日を必要とするが、ボツリヌス毒素の作用の減衰の動的性質により、後のインプラントによる毒素の放出(即ち、75日を越える)は、好ましくない領域または過剰領域の麻痺を生じない。従って、この例において、76日目にインプラントによって放出される毒素は、1日目またはほぼ1日目にインプラントによって放出された毒素によって生じた脱神経に反応して形成された新しい受容体および/または神経芽に結合すると考えられる。脱神経プロセスのローリング性(rolling nature)は、全身に拡散するかまたは好ましくない麻痺を生じうる過剰の毒素を生じるのではなく、メークアップ期間終了後の毒素の連続放出は、同じ所望筋肉部位内で単に再び脱神経することを意味する。従って、脱神経の球状パターン(spherical pattern)を想定し、他の要素を一定に維持すれば、バースト放出は、脱神経を必要とする組織塊(mass)の最適サイズの約2/3の直径を有する組織の球体(sphere)を脱神経する。メークアップ期間およびその後の期間の神経毒の後期放出は、最適なまたは所望の程度の組織の脱神経、および標的組織内の最近になって再神経化した(renervated)部位において脱神経を再開する量の神経毒を与える。
【0088】
眼瞼痙攣が、外側瞼板前部眼輪筋に、約5単位のA型ボツリヌス毒素を筋肉注入する(2〜4ヶ月の間隔で繰り返す)ことにって処置できることは既知である。重要なことに、本発明の単一インプラントは、例えば1年間にわたって、眼瞼痙攣の処置に使用することができる。この疾患に関して、神経毒のインプラント放出による処置に1年間の期間を選択し、15%のバースト特性のポリマーを使用した場合、インプラントに充填される合計神経毒は20単位であってよい。バースト期間において、約3単位の毒素を放出し(埋め込みから24時間以内)、次に、約0.0467単位/日を連続放出する(即ち、約2.3ピコグラム/日のBOTOX(登録商標)が放出される)。従って、42日目までに合計約5単位の神経毒が放出される。この例(15%バースト、残りの85%は364日間にわたる)における放出速度は0.234%/日である。この例において、患者は1日目に20単位のインプラントを受け、1年後に、患者は、消費されたインプラントを除去され、さらに20単位のインプラントを挿入される。従って、365日目の第二インプラントの作用を含めて、25単位が365日間で投与される。
【0089】
1モル(M)のA型ボツリヌス毒素錯体は約9x105gを含有するので、1ピコグラム(pg)のA型ボツリヌス毒素錯体は約1.1x10−18Mである。従って、組み込まれた神経毒合計量の0.234%/日の所望の放出は、約2.53x10−18M/日の放出に相当する。1年間の治療期間で、20%バースト、次に364日間で80%は、約0.22%/日または0.044単位/日または2.2ピコグラム/日または約2.42x10−18M/日の制御放出を生じる。20単位インプラントからの20%バーストは、埋め込み後の最初の約24時間で、4単位の神経毒を与える。一般に、インプラントの表面積は、インプラント表面積各ycm2について、x単位の放出毒素/日に相当する。
【0090】
約5単位〜約100単位/注入のボツリヌス毒素注入によって、種々の症状を処置することができる。25単位のA型ボツリヌス毒素が最適ボーラス用量である症状を、1年間にわたって処置する一般的なインプラントには、100単位のA型ボツリヌス毒素錯体を装填することができる。バーストを20%にし、次に、364日間で80%にすることができ、これは0.22%/日または0.22単位/日または11ピコグラム/日または約1.21x10−17M/日に相当する。
【0091】
5年間の治療期間、即ち、25単位の20回のボーラス注入に関して、一回めの注入は時間0において行い、20回めの注入は57ヶ月めに行って、一連の注入で合計500単位とする。これに対して、本発明の場合、25単位のボツリヌス毒素、例えばA型ボツリヌス毒素に反応性の症状の治療用の5年間のインプラントは、500単位の毒素をインプラントに充填して製造することができ、このインプラントは、20単位バースト(4%バースト)、次に約1736日間で約480単位を放出すること特徴とし、これは、インプラントによって放出される0.267単位/日または5.56x10−4%/日または13.35ピコグラム/日に相当する。
【0092】
マトリックスインプラントは、適切な溶媒に選択したポリマーを溶解させることによって製造することができる。このキャスティング溶液に、必要量の凍結乾燥またはフリーズドライした粉末神経毒(即ち、治療期間にわたって放出される合計必要量の神経毒、例えば非再構成BOTOX(登録商標))を混合する。この方法を使用して被覆インプラントペレットを形成することができ、加えられる変更は、本発明の態様において使用する被膜が神経毒に不透過性の生物侵食性ポリマーであることである。従って、被膜が分解するまで、神経毒がマトリックスから周囲組織に拡散することはない。
【0093】
ボツリヌス毒素を混合させるキャスティング溶液または他の溶液のpHは4.2〜6.8に維持され、その理由は、7より高いpHにおいて、安定化された神経毒(安定化神経毒)タンパク質がボツリヌス毒素から解離して、毒性の漸減を生じるからである。好ましくは、pHは約5〜6である。さらに、混合物/溶液の温度は約35℃を越えてはならず、その理由は、溶液/混合物において約40℃より高い温度に加熱された場合に、毒素は容易に無毒化されるからである。
【0094】
ボツリヌス毒素のような神経毒を生体内制御放出する本発明の好適なインプラントを製造して、インプラントが連続的にかまたは拍動的に神経毒を放出しうるようにすることができる。「連続放出」は、初期バースト段階後の、実質的に単相的な毒素の放出を意味する。連続放出は、変曲点を有しうるが、平坦相は有さない。連続放出は、単位時間につき同量の神経毒がインプラントから放出されることを必要としない。拍動性放出インプラントは、二相または三相的に神経毒を放出することができる。従って、拍動性放出インプラントは、相対的に短い初期誘導(バースト)期間、次に、神経毒がほとんど放出されないかまたは放出されない期間を有することができる。
【0095】
生物学的に活性な神経毒の制御放出とは、水性神経毒の直接投与後に得られる期間より長い期間にわたって、治療に有効な、無視できる血清レベルの、生物学的に活性な神経毒を生じる放出である。制御放出は、約6ヶ月またはそれ以上、より好ましくは約1年またはそれ以上の期間にわたる神経毒の放出であるのが好ましい。
【0096】
ボツリヌス毒素のような神経毒の生体内制御放出用の本発明の好適なインプラントは、神経毒の連続放出または拍動性放出を発現することができる。さらに、インプラントは、非生分解性または生分解性ポリマー材料を含んで成ることができる。重要なことに、本発明は、(1)連続放出の、非生分解性神経毒インプラント;(2)連続放出の、生分解性神経毒インプラント;(3)拍動性放出の、非生分解性神経毒インプラント;および(4)拍動性放出の、生分解性インプラントを包含し、これらの4種類のインプラントはそれぞれ、皮下注入または埋め込みに好適な種々の形態、例えば、ペレット、円板、微小球、フィルム、ロッドおよびチューブの形態に製剤化することができ、それぞれ、例えば、リザーバーまたはマトリックス構造を覆う1つまたはそれ以上の被膜を有することができる。
【0097】
本発明のインプラントは、注入用の懸濁剤として製剤化することもできる。そのような懸濁剤は、医薬分野においてよく知られている一般的な方法によって製造することができ、例えば、好適なメッシュスクリーン、例えば120メッシュを取り付けた超遠心分離粉砕機において、ポリアクチド/ポリペプチド混合物を粉砕し、篩にかけた粒子を、注入用の溶媒、例えばプロピレングリコール、水に、場合により一般的な粘度上昇剤または懸濁化剤、油または他の既知の好適な注射用液体賦形剤と一緒に懸濁させることによって製造できる。
【0098】
長期間にわたる37℃の体内における封入神経毒の変性は、神経毒をアルブミンで凍結乾燥し、酸性溶液から凍結乾燥し、低水分溶液から凍結乾燥し(これらの3つの基準は、非再構成BOTOX(登録商標)の使用によってA型ボツリヌス毒素について満たされる)、特定のポリマーマトリックス組成物を使用することによって神経毒を安定化することによって減少させることができる。
【0099】
生物学的に活性な神経毒の生体内における放出は、神経毒の放出期間において、有意な免疫系反応を生じないのが好ましい。
【0100】
マトリックス安定化神経毒
安定化神経毒は、+2またはそれ以上の価を有する多価金属カチオンの少なくとも1種類で錯体化した、生物学的に活性な非凝集神経毒を含んで成ることができることを我々は見出した。
【0101】
好適な多価金属カチオンは、生物適合性金属カチオン成分に含有された金属カチオンを包含する。使用される量においてカチオン成分が被投与体に非毒性であり、被投与体の体における有意に有害なまたは不都合な作用、例えば注入部位における免疫反応を示さない場合に、金属カチオン成分は生物適合性である。
【0102】
好ましくは、神経毒を安定化する金属カチオンに関して、金属カチオン成分/神経毒のモル比は、約4:1〜約100:1、より一般的には約4:1〜約10:1である。
【0103】
神経毒を安定化するのに使用される好ましい金属カチオンは、Zn++である。ボツリヌス毒素は二価亜鉛エンドペプチダーゼであることが知られているので、二価亜鉛カチオンが好ましい。より好ましい態様において、Zn++カチオンを含有する金属カチオン成分/神経毒のモル比は約6:1である。
【0104】
神経毒を安定化する金属カチオンの適正は、種々の安定性表示法、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、逆相クロマトグラフィー、HPLC、ならびに凍結乾燥後および微粒子からの放出の間の神経毒の効力を求める金属カチオン含有神経毒凍結乾燥粒子についての効力試験を行うことによって、当業者によって測定することができる。安定化神経毒において、生体内で水和の間に微粒子内に凝集し、および/または水和によるかまたは制御放出組成物の製造工程によるかまた制御放出組成物の化学的特性によって生物学的活性または効力を失う神経毒の傾向は、神経毒をポリマー溶液に接触させる前に少なくとも1種類の金属カチオンと神経毒との錯体を形成することによって減少される。
【0105】
本発明によって、神経毒は、制御放出期間における生体内での有意な凝集に対して安定化される。有意な凝集は、ポリマーに封入された、またはポリマーマトリックス組み込まれた神経毒の約15%またはそれ以上の凝集を生じる凝集の量として定義される。好ましくは、凝集を、神経毒の約5%未満に維持する。より好ましくは、凝集を、ポリマーに存在する神経毒の約2%未満に維持する。
【0106】
神経毒制御放出組成物における神経毒は、他の賦形剤、例えば、増量剤または付加的安定剤、例えば凍結乾燥の間に神経毒を安定化させる緩衝剤と混合することもできる。
増量剤は一般に不活性物質を含んで成る。好適な増量剤は、当業者に知られている。
【0107】
本発明の制御放出組成物に好適なポリマーまたはポリマーマトリックスは、生物適合性でなければならない。ポリマー、およびポリマーの分解生成物が被投与体に被毒性であり、被投与体の体における有意に有害なまたは不都合な作用、例えば注入部位における免疫反応を示さない場合に、ポリマーは生物適合性である。
【0108】
神経毒制御放出組成物のポリマーは、生分解性材料から製造することができる。本明細書において定義される生分解性は、組成物が生体内で分解または侵食して、より小さい化学種を生成することを意味する。分解は、例えば、酵素的、化学的および物理的工程によって生じうる。
【0109】
好適な生物適合性生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコシド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコシド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ酸無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリレート、ポリ(p−ジオキサノン)、ポリ(アルキレンオキサレート)、生分解性ポリウレタン、それらのブレンドおよびコポリマーである。
【0110】
ポリマーの末端官能基を修飾することもできる。例えば、ポリエステルは、ブロックトポリマー、非ブロックトポリマー、またはブロックトポリマーと非ブロックトポリマーとのブレンドであってよい。ブロックトポリマーは、一般に当分野において従来から定義されているように、特にブロックトカルボキシル末端基を有するポリマーである。一般に、ブロッキング基は重合の開始剤から誘導され、一般にアルキル基である。非ブロックトポリマーは一般に、遊離カルボキシル末端基を有する。
【0111】
本発明に使用される生分解性ポリマーに許容される分子量は、所望のポリマー分解速度、機械的強度のような物理的特性、および溶媒におけるポリマーの溶解速度のような因子を考慮して、当業者によって決めることができる。一般に、許容される分子量範囲は約2,000ダルトン〜約2,000,000ダルトンである。好ましい態様において、ポリマーは生分解性ポリマーまたはコポリマーである。より好ましい態様において、ポリマーは、約1:1のラクチド/グリコリド比、および約5,000ダルトン〜約70,000ダルトンの分子量を有するポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(以下に「PLGA」と称す)である。さらに好ましい態様において、本発明に使用されるPLGAは、約6,000ダルトン〜約31,000ダルトンの分子量を有する。
【0112】
生物学的に活性な安定化神経毒粒子を含有する制御放出微粒子の用量中にまたは選択的制御放出系に含有される神経毒の量は、治療または予防に有効な量であり、そのような量は、体重、処置される症状、使用されるポリマーの種類、およびポリマーからの放出速度のような要素を考慮して、当業者によって決めることができる。
【0113】
1つの態様において、神経毒制御放出組成物は、約10−4%(w/w)〜約1%(w/w)の生物学的に活性な安定化神経毒を含有する。そのような神経毒粒子の使用量は、神経毒の所望の効果、計画放出レベル、神経毒を放出しなければならない回数、および神経毒が放出される期間に依存して変化する。神経毒粒子充填量の好ましい範囲は、約10−4%(w/w)〜約0.1%(w/w)神経毒粒子である。神経毒充填量のより好ましい範囲は、約10−3%(w/w)〜約1%(w/w)神経毒である。生物学的に活性な安定化神経毒粒子の最も好ましい充填量は約10−2%(w/w)である。
【0114】
他の態様において、神経毒制御放出組成物は、安定化神経毒粒子に含有されず、ポリマーに分散されている第二金属カチオン成分も含有する。第二金属カチオン成分は、安定化神経毒に含有されているのと同じ種類の金属カチオンを含有するのが好ましい。または、第二金属カチオン成分は、1つまたはそれ以上の異なる種類の金属カチオンを含有することもできる。
【0115】
第二金属カチオン成分は、制御放出組成物のポリマーマトリックスからの神経毒の放出を調節する作用をし、例えば、金属カチオンのリザーバーとして作用して、神経毒が金属カチオンによって安定化される期間をさらに長くして、組成物における神経毒の安定性を高める。
【0116】
放出を調節するのに使用される金属カチオン成分は一般に、少なくとも1種類の多価金属カチオンを含有する。神経毒の放出を調節するのに好適な第二金属カチオン成分の例は、Mg(OH)2、MgCO3(例えば4MgCO3Mg(OH)25H2O)、ZnCO3(例えば3Zn(OH)22ZnCO3)、CaCO3、Zn3(C6H5O72、Mg(OAc)2、MgSO4、Zn(OAc)2、ZnSO4、ZnCl2、MgCl2およびMg3(C6H5O72を包含するかまたは含有する。第二金属カチオン成分対ポリマーの好適な重量比は約1:99〜約1:2である。最適な比率は、使用されるポリマーおよび第二金属カチオン成分に依存する。
【0117】
本発明の神経毒制御放出組成物は、フィルム、ペレット、円柱、円板または微粒子のような多くの形態に形成することができる。本明細書において定義される微粒子は、約1mm未満の直径を有する、安定化神経毒粒子を分散させたポリマー成分を含んで成る。微粒子は、球形、非球形または不規則形であってよい。微粒子は微小球であるのが好ましい。一般に、微粒子は注入に適した大きさにされる。微粒子の好ましい大きさの範囲は、直径約1〜約180ミクロンである。
【0118】
生物学的に活性な非凝集神経毒の制御放出用の組成物を形成する本発明の方法において、適量の生物学的に活性な安定化神経毒の粒子を、ポリマー溶液に分散させる。
【0119】
好適なポリマー溶液は、約1%(w/w)〜約30%(w/w)の好適な生物適合性ポリマーを含有し、該生物適合性ポリマーは一般に、好適なポリマー溶媒に溶解される。好ましくは、ポリマー溶液は約2%(w/v)〜約20%(w/v)のポリマーを含有する。5%〜約10%(w/w)のポリマーを含有するポリマー溶液が最も好ましい。
【0120】
本明細書において定義される好適なポリマー溶媒は、ポリマーがそれに可溶であるが、安定化神経毒粒子がそれに実質的に不溶性かつ非反応性である溶媒である。好適なポリマー溶媒の例は、極性有機液体、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチルおよびアセトンである。
【0121】
生物学的に活性な安定化神経毒を製造するために、金属カチオンと神経毒との錯体を形成するのに好適なpH条件下に、少なくとも1つの好適な金属カチオン成分を有する好適な水性溶媒に神経毒を混合する。一般に、錯体化神経毒は、溶媒に懸濁した曇った沈殿物の形態にされる。しかし、錯体化神経毒は溶解状態であってもよい。さらに好ましい態様において、神経毒はZn++との錯体にされる。
【0122】
神経毒の錯体を形成するのに好適なpH条件は、一般に約5.0〜約6.9のpH値を包含する。好適なpH条件は、水性緩衝剤、例えば炭酸水素ナトリウムを、溶媒として使用することによって一般に得られる。
【0123】
好適な溶媒は、水性炭酸水素ナトリウム緩衝剤におけるように、神経毒および金属カチオン成分がそれぞれ少なくとも僅かにそれに可溶性の溶媒である。水性溶媒に関して、使用される水は、脱イオン水または注射用水(water-for-injection, WFI)であるのが好ましい。
【0124】
神経毒は、金属カチオン成分と接触する前に、固体または溶解状態であってよい。さらに、金属カチオン成分も、神経毒と接触する前に、固体または溶解状態であってよい。好ましい態様において、神経毒の緩衝された水溶液を、金属カチオン成分の水溶液と混合する。
【0125】
一般に、錯体化神経毒は、溶媒に懸濁した濁った沈殿物の形態にされる。しかし、錯体化神経毒は溶液状態であってもよい。好ましい態様において、神経毒はZn++との錯体にされる。
【0126】
次に、Zn++で錯体化した神経毒を、例えば凍結乾燥によって乾燥して、安定化神経毒の微粒子を形成する。懸濁しているかまたは溶液状態のZn++で錯体化した神経毒を、バルク凍結乾燥するか、または小量に分け、次に凍結乾燥することができる。好ましい態様において、Zn++で錯体化した神経毒の懸濁液を、例えば超音波ノズルを使用して、微小化し、次に、凍結乾燥して、安定化神経毒粒子を形成する。Zn++で錯体化した神経毒混合物を凍結乾燥するのに使用しうる手段は、当分野で既知の手段を包含する。
【0127】
好ましくは、安定化神経毒の粒子は、直径約1〜約6μmである。神経毒粒子を細分化する(fragment)ことができる。または、ポリマー溶液に添加した後に、例えば超音波プローブまたは超音波ノズルを使用して、神経毒粒子を細分化することもできる。
【0128】
他の態様において、安定化神経毒粒子に含有されていない第二金属カチオン成分も、ポリマー溶液に分散させる。
【0129】
第二金属カチオン成分および安定化神経毒を、連続的に、逆の順序で、間欠的に、別個に、または同時添加によって、ポリマー溶液に分散しうるものと理解される。または、ポリマー、第二金属カチオン成分および安定化神経毒を、連続的に、逆の順序で、間欠的に、別個に、または同時添加によって、ポリマー溶媒に混合することもできる。
【0130】
この方法では、次に、ポリマー溶媒を凝固させて、安定化神経毒粒子の分散系を含有するポリマーマトリックスが形成される。
【0131】
ポリマー溶液から神経毒制御放出組成物を製造する好適な方法は、米国特許第3737337号、第3523906号、第3691090号および第4389330号に開示されている溶媒蒸発法である。溶媒蒸発は、神経毒制御放出微粒子を形成する方法として使用することができる。
【0132】
溶媒蒸発法において、安定化神経毒粒子分散系を含有するポリマー溶液を、ポリマー溶媒がそれに部分的に混和性の連続相に混合するか、または該連続相と一緒に撹拌して、乳濁液を形成する。連続相は一般に水性溶媒である。多くの場合、乳化剤を連続相に含有させて、乳濁液を安定化させる。次に、ポリマー溶媒を数時間またはそれ以上にわたって蒸発させ、それによってポリマーを凝固させて、安定化神経毒粒子の分散系を含有するポリマーマトリックスを形成する。
【0133】
ポリマー溶液から神経毒制御放出微粒子を形成する好ましい方法は、米国特許第5019400号に開示されている。微小球を形成するこの方法は、相分離のような他の方法と比較して、特定の神経毒含有量を有する制御放出組成物の製造に必要とされる神経毒の量をさらに減少させる。
【0134】
この方法において、安定化神経毒粒子分散系を含有するポリマー溶液を加工して、液滴を形成し、該液滴の少なくとも有意な部分がポリマー溶液および安定化神経毒粒子を含有する。次に、これらの液滴を、微粒子を形成するのに好適な手段によって凍結する。液滴を形成するためにポリマー溶液分散系を処理する手段の例としては、超音波ノズル、加圧ノズル、Rayleighジェットへの分散系の誘導、または溶液から液滴を形成する他の既知の方法がある。
【0135】
微粒子を形成するために液滴を凍結する好適な方法は、液滴を、液体アルゴンおよび液体窒素のような液化ガスに、またはその近くに、誘導して、凍結微小液滴を形成し、次に、液体ガスから分離する。その後、凍結微小液滴を、液体非溶媒、例えば、エタノール、あるいはヘキサンまたはペンタンと混合したエタノールに曝露する。
【0136】
凍結微小液滴中の溶媒を、固体および/または液体として非溶媒に抽出して、安定化神経毒含有微粒子を形成する。エタノールと、ヘキサンまたはペンタンのような他の非溶媒との混合は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーのようなある種のポリマーからの溶媒抽出速度を、エタノールだけの場合より速くすることができる。
【0137】
例えば超音波ノズルの直径を変化させることによって、液滴の大きさを変化させて、広範囲の大きさの神経毒制御放出微粒子を製造することができる。極めて大きい微粒子を必要とする場合、微粒子をシリンジから冷液に直接押し出すことができる。ポリマー溶液の粘度を増加させると、微粒子の大きさも増加する。この方法によって、例えば直径が約1000μmより大きく約1μmまでの大きさの微粒子を製造することができる。
【0138】
ポリマー溶液から神経毒制御放出組成物を製造するさらに他の方法は、例えば鋳型においてフィルムまたは付形物を形成するフィルム流延を包含する。例えば、安定化神経毒粒子の分散系を含有するポリマー溶液を鋳型に入れ、次に、一定した乾燥重量を有するフィルムまたは付形物が得られるまで、当分野で既知の方法によってポリマー溶媒を除去するか、またはポリマー溶液の温度を下げる。
【0139】
生分解性ポリマーインプラントの場合、神経毒の放出は、ポリマーの分解による。分解速度は、ポリマーの水和速度に影響を与えるポリマーの特性を変化させることによって調節することができる。このような特性は、例えば、ポリマーを構成するラクチドおよびグリコリドのような種々のモノマーの比率;ラセミ混合物に代わるモノマーのL−異性体の使用;およびポリマーの分子量を包含する。これらの特性は、ポリマーの水和速度を調節する親水性および結晶性に影響を与えうる。塩、炭水化物および界面活性剤のような親水性賦形剤を組み込んで、水和を増加させることもでき、それらはポリマーの侵食速度を変化させることができる。
【0140】
生分解性ポリマーの特性を変化させることによって、拡散および/またはポリマー分解が神経毒放出に寄与するのを調節することができる。例えば、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーのグリコリド含量を増加させ、ポリマーの分子量を減少させることによって、ポリマーの加水分解を増加させ、従って、ポリマー侵食による増加した神経毒放出を与える。さらに、ポリマー加水分解速度は、非中性pHにおいて増加する。従って、酸性または塩基性賦形剤を、微小球の形成に使用されるポリマー溶液に添加して、ポリマー侵食速度を変化させることができる。
【0141】
本発明の組成物を、非全身的投与手段、例えば埋め込み(例えば、皮下、筋肉内、頭蓋内、膣内および皮内)によって、ヒトまたは他の動物に投与して、神経毒による種々の医学的症状の処置に関する既知のパラメーターに基づいて、必要用量の神経毒を与えることができる。
【0142】
投与に適切な、インプラントによる特定の用量は、前記の要素に依存して、当業者によって容易に決めることができる。投与量は、処置されるかまたは脱神経される組織質量、および市販毒素製剤にも依存しうる。さらに、ヒトにおける適切な投与量は、他の組織の効果的な脱神経に必要なボツリヌス菌の量の測定から推定することもできる。従って、注入されるA型ボツリヌス毒素の量は、処置される組織の質量および活性レベルに比例する。一般に、約0.01単位/kg〜約35単位/kg患者体重のボツリヌス毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を、本発明のインプラントによって単位期間(即ち2〜4ヶ月間、または2〜4ヶ月に1回)にわたって放出して、所望の筋肉麻痺を効果的に得ることができる。約0.01U/kg未満のボツリヌス毒素は、筋肉において有意な治療効果を有さず、一方、約35U/kgを超えるボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素のような神経毒の毒性用量に近づく。インプラントの注意深い製造および設置によって、有意な量のボツリヌス毒素が全身的に現れるのを予防する。より好ましい用量範囲は、約0.01U/kg〜約25U/kgのボツリヌス毒素、例えば、BOTOX(登録商標)として製剤化されている毒素である。投与されるボツリヌス毒素の実際の量(U/kg)は、処置される組織の大きさ(質量)および活性レベルならびに選択された投与経路のような要素に依存する。A型ボツリヌス毒素は、本発明の方法に使用される好ましいボツリヌス毒素血清型である。
【0143】
好ましくは、本発明の方法を実施するのに使用される神経毒は、ボツリヌス毒素、例えばボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、FまたはGの1つである。使用されるボツリヌス毒素は、ヒトにおける高有効性、入手容易性、ならびに筋肉注射によって局所投与した場合の骨格筋および平滑筋の疾患の処置に関する既知の安全性および有効性により、A型ボツリヌス毒素であるのが好ましい。
【0144】
本発明は、コリン作用性神経支配によって影響を受けた運動障害または疾患を処置するのに使用される、長期間の治療効果を有する神経毒の使用を含む。例えば、毒素生産クロストリジウム属の細菌種、例えば、クロストリジウム・ボツリヌム、クロストリジウム・ブチリクムおよびクロストリジウム・ベラッティのいずれかによって作られる神経毒を使用するか、または本発明の方法に使用しうるように適合させることができる。さらに、全てのボツリヌス血清型A、B、C、D、E、FおよびGを本発明の実施に有利に使用することができるが、先に説明したようにA型が最も好ましい血清型である。本発明を実施して、1ヶ月間〜約5または6年間にわたって有効な改善が得られる。
【0145】
本発明は、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって、得られるかまたは処理される神経毒錯体ならびに純粋神経毒;(b)修飾または組換え神経毒、即ち、既知の化学的/生化学的アミノ酸修飾法によるか、または既知の宿主細胞/組換えベクター組換え法によって、1つまたはそれ以上のアミノ酸またはアミノ酸配列を作為的に欠失し、修飾し、または置換した神経毒、ならびにそのようにして製造した神経毒の誘導体またはフラグメントを含み、本発明は、細胞に存在する細胞表面受容体に対する1つまたはそれ以上の結合標的成分を有する神経毒も含む。
【0146】
本発明に使用されるボツリヌス神経毒は、容器中、凍結乾燥または真空乾燥形態で、真空下に保存することができる。ボツリヌス毒素を凍結乾燥する前に、医薬的に許容される賦形剤、安定剤および/または担体、例えばアルブミンと組み合わせることができる。凍結乾燥または真空乾燥物質を、生理食塩水または水を使用して再構成することができる。
【0147】
本発明は、運動障害のような慢性疾患の治療的改善を与えるための、埋め込まれた制御放出神経毒錯体の使用も含む。従って、神経毒は、皮下に埋め込むかまたは植え込むことができる好適なポリマーマトリックスに包埋されるか、吸収されるか、または保持されて、所望の標的組織への神経毒の1年間またはそれ以上の遅延および制御放出を与えることができる。ポリペプチド剤の制御放出を可能にする埋め込み可能なポリマーは既知であり、挿入または皮下取付に好適なボツリヌス毒素インプラントの製造に使用することができる。例えば、Pain 1999;82(1):49−55;Biomaterials 1994;15(5):383−9;Brain Res 1990;515(1−2):309−11および米国特許第6022554号、第6011011号、第6007843号、第5667808号および第5980945号参照。
【0148】
適切な投与経路および投与量を決定する方法は、一般に、ケースバイケースで主治医によって決められる。そのような決定は、当業者に日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998)、Anthony Fauciら編、第14版、McGraw Hill出版を参照)。
【実施例】
【0149】
下記の実施例は、本発明に含まれる特定の組成物および方法を示し、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0150】
実施例1
Zn++安定化神経毒の製造
100単位の神経毒、例えば非再構成BOTOX(登録商標)を炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解して、神経毒溶液を作る。Zn++溶液を、脱イオン水および酢酸亜鉛二水化物から作り、次に、ゆっくり混合しながら神経毒溶液に添加して、Zn++神経毒錯体を生成する。次に、1%の酢酸を添加して、Zn++神経毒錯体のpHを6.5〜6.9に調節する。これによって、不溶性Zn++安定化神経毒を含んで成る曇った懸濁沈殿物が形成される。それによって、後のポリマーマトリックスへの組み込みの際の有意な凝集に対して安定化された神経毒(例えばA型ボツリヌス毒素)錯体を得る。
【0151】
実施例2
神経毒制御放出ペレット
ポリマー溶液または重合性溶液への組み込みに好適な神経毒は、凍結乾燥粉末として商業的に入手可能なA型ボツリヌス毒素(例えばBOTOX(登録商標))である。さらに、最終インプラント性能に影響を与えずに、種々のポリマーおよびコポリマーを混合し、乾燥状態で保存することができる。例えば、紫外線硬化開始剤を使用するアクリレートコポリマーである。実施例1に記載したように、神経毒をZn++で錯体化することができる。次に、Zn++安定化神経毒錯体を、未硬化アクリレートコポリマー、紫外線開始剤および酸(pH5.5〜6.8)と混合する。混合物を、紫外線を透過させるガラスまたは透明プラスチック製ペレット鋳型に入れる。鋳型を20℃に維持した恒温水浴に入れる。ペレットを約50秒間にわたって紫外線で硬化し、容器に入れ、滅菌する。紫外線硬化の時間および強度は、有意でない量の神経毒が粉砕されるかまたは変性される程度の時間および強度である。
【0152】
ペレットの大きさおよびペレット内の神経毒の濃度は、所望の用途によって決まる。ペレットを埋め込む場合、ペレットは体内で水和され、インプラント内からの神経毒の初期バーストを少し遅らせる。ペレットの外側を、必要とされる初期バースト濃度の神経毒の一部で被覆することによって、この遅延を補うことができる。この例において、ペレットの有効性は、約4ヶ月間〜約6ヶ月間である。
【0153】
実施例3
神経毒制御放出製剤
ペレットが神経毒を効果的に輸送しうる期間を長くするために、多層材料を使用することができる。即ち、内部材料は、ポリビニルピロリドン/メチルメタクリレートコポリマーから製造することができる。この材料は、神経毒錯体の高濃度を維持することを可能にする。神経毒の好適な量を、実施例1に記載したようにZn++で錯体化し、次に、この錯体を、未硬化コポリマー、低温開始剤および酸(pH5.5〜6.8)と混合する。混合物をガラスまたはプラスチック製のペレット鋳型に入れる。鋳型を約35℃の恒温水浴に約6時間〜約8時間入れる。これによって、長期制御放出に必要とされる神経毒のリザーバーが形成される。
【0154】
次いで、神経毒の放出を延長するために、第二材料を初期ペレットのまわりに硬化させる。この材料は、高分子密度および生物適合性に関して選択される。ポリメチルメタクリレート(PMMA)はこの特性を有する材料の例である。ペレット(上記)を、未硬化PMMA/低温開始剤と一緒に鋳型に入れる(挿入成形)。未硬化PMMAの第二被膜は、ペレットの均一被覆を確実にするのに必要であると考えられる。好ましくは、PMMAの厚みは0.5mmである。形成後、ペレットの外側を所望の初期バースト濃度の神経毒で被覆する。PMMA層は、リザーバーにおける神経毒の遅延(最大3ヶ月)を可能にするのに充分な厚みにされる。神経毒がインプラントの表面に到達した際に、神経毒の第二の大きいバーストが得られる。この第二バーストの次に、約3ヶ月間のゆっくり減少する神経毒放出速度が得られる。この例において、ペレットの有効性は約7ヶ月間〜約9ヶ月間である。
【0155】
実施例4
多層神経毒制御放出インプラント
多層(高密度ポリマー/神経毒含有低密度ポリマー)を使用することによって、一時的な神経毒制御放出は増加しうるが、インプラントの大きさも増加しうる。インプラントが大きくなると共に、神経毒は体の広い領域に分散し、インプラントの有効性を減少しうる。これを避けるために、インプラントを、チタンのような非透過性材料の容器に入れる。小さい開口を維持して、容器に入れたペレットからの神経毒のピンポイント放出を可能にする。これにより、一般に、インプラントが、顕著に異なる放出特性を効果的に有しうるようになる。基本的に、これは、神経毒がポリマーの厚い部分を通過することも可能にし、神経毒放出期間を効果的に増加させる。
【0156】
内部材料は、ポリビニルピロリドン/メチルメタクリレートコポリマーのような材料から製造しうる。この材料は、神経毒錯体の高濃度を維持することを可能にする。神経毒は、Zn++で錯体化される。次に、錯体を、未硬化コポリマー、低温開始剤および酸(pH5.5〜6.8)と混合する。混合物をガラスまたはプラスチック製のペレット鋳型に入れる。鋳型を35℃に制御された水浴に約6時間〜約8時間入れる。これによって、長期制御放出に必要とされる神経毒のリザーバーが形成される。
【0157】
神経毒の放出を延長するために、第二材料を初期ペレットのまわりに硬化させる。ペレット(上記)を、未硬化PMMA/低温開始剤と一緒に鋳型に入れる(挿入成形)。未硬化PMMAの第二被膜は、ペレットの均一被覆を確実にするのに必要であると考えられる。理想的には、PMMAの厚みは0.5mmである。多層を形成するために、前記と同じ挿入成形法を適用する。
【0158】
高密度ポリマーの最後の層を適用する際に、チタンペレットを鋳型として使用する。ペレットを、未硬化PMMAと一緒にチタンペレット内側に入れる。ペレットに蓋をし、ペレットを35℃の強制空気循環炉に約6時間〜約8時間入れる。ペレットの蓋は、神経毒の放出を可能にする22ゲージの開口を有する。この例において、ペレットの有効性は約10ヶ月間〜約24ヶ月間である。
【0159】
実施例5
層状カラムを有する神経毒プラント
長期間の放出を維持するための代替的方法は、高密度ポリマー/神経毒含有低密度ポリマーの層を、上述のチタンペレットの内側に配置するものである。硬化は、35℃の強制空気循環炉において、適用される各層について約6時間〜約8時間で行うことができる。ペレットの直径は、適用される神経毒の量に関する重要な決定要素である。層の数は、インプラントが有効性を維持する期間を決定しうる。各層について、PMMA層の厚みは約0.5mmであることができ、神経毒含有低密度ポリマーの厚みは約0.3mmであってよい。付加される各層について、約3ヶ月の有効性の増加が得られる。耐用年数2年のインプラントは、インプラントの長さを約6.4mmに増加し、チタンシェルの断面の大きさを1mm増加して、合計約7.4mmにすることによって製造できる。
【0160】
本明細書に開示した本発明の組成物および方法は、下記を含む多くの長所を有する:
1.単一インプラントを使用して、1年またはそれ以上の期間にわたって、治療に有効な連続的または拍動的な神経毒の投与を行うことができる。
2.有意量の神経毒を全身に出現させずに、局所組織領域に神経毒を輸送する。
3.患者の継続ケアの必要性の減少。
4.神経筋障害のような疾患を処置するための、神経毒の定期的注入の必要性の減少。
5.必要とされる注入の回数の減少による、患者の快適感の増加。
6.患者のコンプライアンスの向上。
【0161】
本発明の神経毒制御放出製剤の長所は、標的組織における長期間の一定治療レベルの神経毒を包含する。長所は、必要とされる注入の回数を減少させることによる、患者のコンプライアンスおよび容認の増加も包含する。
【0162】
本明細書で引用した全ての文献、論文、出版物、特許および特許出願は、それら全体として、本発明の開示に組み込む。
【0163】
いくつかの好ましい方法に関して本発明を詳しく説明したが、本発明の範囲に含まれる他の態様、形式および改変も可能である。例えば、種々の神経毒を、本発明の方法に効果的に使用することができる。さらに、本発明は、2つまたはそれ以上の神経毒、例えば2つまたはそれ以上のボツリヌス毒素を、インプラントによって同時にまたは連続的に投与する局所(即ち、筋肉内、腺内および頭蓋内)投与法を包含する。例えば、臨床反応の消失または中和抗体が発現するまで、A型ボツリヌス毒素をインプラントによって投与し、次に、B型ボツリヌス毒素またはE型をインプラントによって投与することができる。または、ボツリヌス毒素血清型A〜Gのいずれか2つまたはそれ以上の組合せを局所投与して、所望治療効果の開始および期間を調節することができる。さらに、非神経毒化合物を、神経毒の投与の前に、同時に、または後に、インプラントによって投与し、それによって、ボツリヌス毒素のような神経毒がその治療効果を発揮する前に、向上した、またはより迅速な脱神経の開始のような付加効果を得ることができる。
【0164】
本発明は、インプラントによる神経毒の局所投与による運動障害および/またはコリン作用性神経支配によって影響を受けた障害の治療用の、制御放出インプラントのような薬剤の製造における、ボツリヌス毒素のような神経毒の使用もその範囲含む。
【0165】
従って、特許請求の範囲に記載した意図および範囲は、前記の好ましい態様の記載に限定すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ポリマーマトリックス;および
(b) ポリマーマトリックス内に存在するA型ボツリヌス毒素;
を含んで成り、A型ボツリヌス毒素がポリマーマトリックスから10日間〜6年間の期間にわたって免疫系反応を生じずに放出される制御放出系。
【請求項2】
A型ボツリヌス毒素が、連続的にまたは単相的にポリマーマトリックスから放出される請求項1に記載の制御放出系。
【請求項3】
ポリマーマトリックスが、非生分解性である物質から成る請求項1に記載の制御放出系。
【請求項4】
ポリマーマトリックスを構成するポリマーが、メタクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、アクリル酸、ポリメチルメタクリレート、シロキサン、酢酸ビニル、乳酸、グリコール酸、コラーゲン、バイオセラミックポリマーおよびそれらのコポリマーから成る群から選択される請求項1に記載の制御放出系。
【請求項5】
ポリマーマトリックス内に存在するA型ボツリヌス毒素の量が、10単位〜2,000単位である請求項1に記載の制御放出系。
【請求項6】
(a) ポリマーマトリックス;および
(b) ポリマーマトリックス内の10単位〜20,000単位のA型ボツリヌス毒素を含んで成り、A型ボツリヌス毒素がポリマーマトリックスから、2ヶ月〜5年の期間にわたって免疫系反応を生じずに放出される制御放出系。
【請求項7】
免疫系反応を生じずに運動障害を処置するための医薬の製造における、ポリマーマトリックスおよびA型ボツリヌス毒素を含む連続放出系の使用。

【公開番号】特開2012−67144(P2012−67144A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3327(P2012−3327)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【分割の表示】特願2002−501400(P2002−501400)の分割
【原出願日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】