説明

神経疾患の処置方法

本発明は全般的に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)またはG-CSF受容体(G-CSFR)阻害物質を対象に投与する段階を含む、対象における中枢神経系(CNS)の炎症性神経変性状態および詳しくは多発性硬化症、ドヴィック病、またはウイルス感染症、ならびにそれらから生じる症状および合併症の効果を処置または予防、または改善する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
データの提出
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、「神経疾患の処置」と題する2009年9月15日に提出された米国特許仮出願第61/242,503号に関連し、およびその優先権を主張する。
【0002】
分野
本発明は、全般的に、中枢神経系(CNS)の炎症性神経変性状態、特に多発性硬化症、ドヴィック病、またはウイルス感染症、ならびにそれらにより生じる症状および合併症の効果を処置、予防、またはそうでなければ改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
本明細書において提供される参考文献の関係書目の詳細を明細書の末尾に記載する。
【0004】
先行技術に対する参照は、この先行技術が任意の国における共通の一般的な知識の一部を形成すると認めたわけではなく、またはいかなる形でも示唆したわけではなく、そのようにとられるべきではない。
【0005】
多発性硬化症(MS)およびドヴィック病(視神経脊髄炎[NMO]としても知られる)は、中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす炎症性の神経変性障害である。それらは、炎症細胞が神経系に侵入する自己免疫攻撃によって引き起こされ、それによって脱髄および組織破壊に至る(Morales et al, Adv Neurol 98:27-45, 2006)。この破壊および脱髄により、認知機能障害および高い死亡率が起こる(Bergamaschi et al, Neuroepidemiology 25(1):15-8, 2005; Ragonese et al, Eur J Neurol 15(2): 123-7, 2008)。MSは、男性より女性においてより一般的であり、100,000人あたりおよそ3人に罹患し(Alonso et al, Neurology 71 (2): 129-35, 2008)、再発寛解型(症例の大多数)または急激進行型(少数[10%])のいずれかに分類することができる。現在、いずれの型の疾患も治癒しない。神経炎症の標準治療には、組み換え型インターフェロンの処置およびメチルプレドニゾロンまたはメトトレキサートなどの免疫抑制剤(Lopez-Diego et al, Nat Rev Drug Discov 7(11):909-25, 2008)が含まれる。これらの処置は、疾患の進行を低減させるが防止しない。有効な処置を開発する必要がある。
【0006】
MS病変は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、および好中球が含まれる広範囲の免疫細胞による浸潤を特徴とする(Morales et al, 2006、前記)。類似の病変はまた、脊髄および視神経が選択的に関係するしばしばより攻撃的で急速に進行するドヴィック病患者においても見いだされる(Wingerchuk et al, Lancet Neurol 6(9):805-15, 2007; Wingerchuk et al, Curr Treat Options Neurol 10(1):55-66, 2008)。いずれの障害も異常なCD4+ヘルパーT細胞応答の結果であると広く考えられているが、T細胞を標的とした治療は、臨床においてどちらかというと成功していない(Lopez-Diego et al, 200、前記)。これにより、神経病理学における生得の免疫細胞の役割に関して新たな注目が集まった(Weiner et al, J Neurol 255 (Suppl 1): 3-11, 2008)。
【0007】
好中球は、中心的な生得の免疫エフェクター細胞の1つであり、炎症部位に急速に動員されて、そこで好中球は反応性酸素代謝物などの障害物質を放出する。好中球は、MSおよびドヴィック病患者の双方において神経系に浸潤する他の免疫細胞と共に見いだすことができる。ドヴィック病患者(しばしば予後が不良であると診断されている)からの病変組織および脳脊髄液は、特に好中球に富む(Wingerchuk et al, 2007; 2008;前記)。しかし、CNS病理における好中球の役割は依然として不明である。好中球は、文献においてCNSの自己免疫性炎症の動物モデルにおいて保護的役割または病原性の役割のいずれかを有すると示唆されている。マウスMSモデルにおいて好中球特異的モノクローナル抗体によって好中球を枯渇させると、疾患の重症度が低減した(McColl et al, J Immunol 161(11):6421-6, 1998)。一方、マウスMSモデルにおいて好中球を調べている他の研究者らは、CNSから単離された好中球が有効なT細胞サプレッサーであることを見いだした(Zehntner et al, J Immunol 174(8):5124-31, 2005)。
【0008】
炎症反応に関係する1つのサイトカインは、CSF-3遺伝子によってコードされる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である。G-CSFは、顆粒球の産生を調節する造血増殖因子である(Nicola et al, Nature 314:625, 1985; Metcalf, International Journal of Cancer 25:225, 1980; Nicola et al, Journal of Biological Chemistry 258:9017, 1983)。G-CSFは、I型サイトカイン受容体スーパーファミリーのメンバーである(Demetri et al, Blood 78:2791-2808, 1991)G-CSF受容体(G-CSFR、CSFR-3遺伝子によってコードされる)との相互作用を通してその効果を媒介する。ヒトおよびマウスにおけるG-CSFの主要な生物作用には、骨髄からの好中球の産生および放出を増加させること(Souza et al, Science 232:61, 1986; Lord et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:9499-9503, 1989)、骨髄から末梢血に造血前駆細胞を動員すること(Bungart et al, British Journal of Haematology 22 : 1156, 1990; de Haan et al, Blood 86:2986-2992, 1995; Roberts et al, Blood 89:2736-2744, 1997)、ならびに成熟好中球の分化およびエフェクター機能を調整すること(Yong et al, European Journal of Haematology 49:251-259, 1992; Colotta et al, Blood 80:2012-2020, 1992; Rex et al, Transfusion 35:605-611, 1995; Gericke et al, Journal of Leukocyte Biology 57:455-461, 1995; Xu et al, British Journal of Haematology 93:558-568, 1996; Yong, British Journal of Haematology 94:40-47, 1996; Jacob et al, Blood 92:353-361, 1998)が含まれる。G-CSFはまた、貪食(Bialek et al, Infection 26(6):375-8, 1998)、アポトーシス(Dibbert et al, Proc Natl Acad Sci U S A 96(23): 13330-5, 1999)、およびホーミング(Dagia et al, Nat Med 12(10): 1185-90, 2006; Eyles et al, Blood 112(13):5193-201, 2008)に対して効果を有することが含まれる、骨髄を去った後の成熟分裂後好中球に対しても作用を及ぼす。G-CSFは、好中球減少症を処置するためのみならず、自己および同種異系幹細胞移植のために造血幹細胞(HSC)の動員を誘導するために用いられる(Welte el al, Blood 88:1907-1929, 1996)。
【0009】
先に概要したように、MSにおけるG-CSF/好中球軸の前炎症性機能を支持する好中球枯渇抗体による実験証拠が存在する。加えて、臨床症例試験は、G-CSFによって処置した何人かの患者が、臨床症状の悪化を示すことを報告している(Openshaw et al, "Neurology 54(11):2147-50, 2000; Snir et al, J Neuroimmunol 172(1-2): 145-55, 2006)。しかし、これらの報告は比較的まれであり、CNS疾患状態におけるG-CSFの抗炎症的役割を支持する有意な証拠が存在する。MSの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)動物モデルにおいて、全身および局所(CNS)送達G-CSFによる処置は、疾患を軽減する(Zavala et al, J Immunol 168(4):2011-9, 2002)。これは、他の研究者によってG-CSFに規定されるT細胞寛容(Rutella et al, Transplantation 84(1 Suppl) :S26-30, 2007)および神経保護的役割(Frank et al, BMC Neurosci 10:49, 2009)と一貫する。加えて、G-CSFの抗炎症特性は、I型糖尿病(Hadaya et al, J Autoimmun 24(2): l25-34, 2005)および炎症性腸疾患(Kudo et al, Scand J Gastroenterol 43 (6) :689-97, 2008))などの他の自己免疫疾患において十分に報告されている。実際に、組み換え型ヒトG-CSFは、炎症性腸疾患を処置するために臨床で用いられている(Barahona-Garrido et al, Biologies 2(3):501-4, 2008)。よって、G-CSFは、多数の役割を有する多面発現性のサイトカインである。
【0010】
MS、ドヴィック病、および脳のウイルス感染症などのCNSにおける炎症性神経変性状態の新規処置を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
概要
本明細書を通して、本文がそうでないことを必要としている場合を除き、「含む」という用語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変化形は、記載の要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を含めるが、任意の他の要素もしくは整数または要素もしくは整数の群を除外しないことを意味すると理解されるであろう。
【0012】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、配列同定子番号(SEQ ID NO:)によって参照される。SEQ ID NO:は、配列同定子番号<400>1(SEQ ID NO:1)、<400>2(SEQ ID NO:2)等に数字で対応する。配列同定子番号の要約を表1に提供する。配列表は特許請求の範囲の後に提供される。
【0013】
本発明は、全般的に、CNSの疾患状態が含まれる炎症性神経変性状態の処置においてG-CSF、その受容体、および/またはその産生のアンタゴニストを用いることに関する。全般的に、炎症性神経変性状態は、好中球の浸潤に関連する。詳しくは、本発明は、G-CSF、その受容体、またはその産生に拮抗することによる多発性硬化症(MS)、ドヴィック病(視神経脊髄炎またはNMOとしても知られる)、およびウイルス感染症の処置を企図する。
【0014】
それゆえに、本発明は、炎症性神経変性状態の処置におけるG-CSFもしくはG-CSFRの全身または局所的阻害および/またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現のダウンレギュレーションを企図する。先に示したように、神経変性状態は全般的に、MS、ドヴィック病、およびウイルス感染症などの好中球の浸潤に関連する状態である。
【0015】
「G-CSF」またはその完全名称「顆粒球コロニー刺激因子」という言及には、G-CSFの相同体および誘導体が含まれる。「相同体」または「誘導体」には、G-CSFの多形変種が含まれる。
【0016】
「G-CSFR」またはその完全名称「顆粒球コロニー刺激因子受容体」という用語には、G-CSFRの相同体および誘導体が含まれる。「相同体」または「誘導体」には、G-CSFの多形変種が含まれる。
【0017】
「G-CSFまたはG-CSFRの発現をダウンレギュレートする」段階には、転写、翻訳、および/またはmRNAプロセシングを阻害する段階が含まれる、G-CSFまたはG-CSFRをコードする遺伝材料の発現を阻害する段階が含まれる。
【0018】
「G-CSFまたはG-CSFRの阻害」または「G-CSFまたはG-CSFRに拮抗する」という表現には、G-CSFまたはG-CSFRの活性またはシグナル伝達機能を阻害する段階が含まれる。
【0019】
CNSの炎症性神経変性状態には、疾患状態が含まれる。全般的に、状態は、好中球の浸潤を特徴とするまたは好中球の浸潤に関連する。例には、MS、ドヴィック病、およびウイルス感染症が含まれる。
【0020】
したがって、本発明の1つの局面は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害するために、またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現をダウンレギュレートするために有効な量の物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法を企図する。
【0021】
特定の態様において、本発明は、G-CSFもしくはG-CSFRに対して特異的な抗体、可溶性G-CSFRもしくはそのG-CSF結合部分、およびSEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、からなる群より選択されるG-CSFまたはG-CSFR阻害物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法を提供する。
【0022】
このゆえに、以下からなる群より選択される、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害する、またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現をダウンレギュレートする物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法が提供される:
a.G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体;
b.可溶性G-CSFRまたはそのG-CSF結合部分;
c.SEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子。
【0023】
全般的に、物質は、CNSの炎症性神経変性状態の症状を改善するために十分な時間および条件で投与される。全般的に、状態は、MS、ドヴィック病、またはウイルス感染症などの好中球の浸潤に関連する。
【0024】
より詳しくは、本発明は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害するために有効な量の物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるMS、ドヴィック病、またはウイルス感染症を処置する方法に向けられる。
【0025】
投与は全身または局所投与でありうる。全身投与は特に有用である。「全身投与」という言及には、関節内、静脈内、筋肉内、腹腔内、および皮下注射、注入のみならず、経口、直腸内、および鼻腔内投与、または吸入投与が含まれる。静脈内または皮下注射による投与は特に有用である。
【0026】
G-CSF、G-CSFRまたはその産生に拮抗する物質には、タンパク質様分子、非タンパク質様分子(たとえば、化学実体)、および核酸分子が含まれる。
【0027】
タンパク質様および非タンパク質様分子には、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質、小さい、中間、または大きい化学分子のみならず、天然物スクリーニングまたは化学ライブラリのスクリーニングから同定された分子が含まれる。天然物スクリーニングには、G-CSFもしくはG-CSFR活性またはG-CSFもしくはG-CSFR発現レベルに影響を及ぼす分子または分子の群に関する、植物、微生物、土壌川床、珊瑚、水性環境、および地球外環境からの抽出物または試料のスクリーニングが含まれる。これらの分子はまた、G-CSF/G-CSFR相互作用に影響を及ぼしうる、またはそうでなければG-CSF/G-CSFR媒介シグナル伝達を調整しうる。
【0028】
本発明はさらに、もう1つの抗炎症剤、免疫抑制剤、またはCNSの炎症性神経変性状態を処置するために用いられる他の物質と併用した、G-CSFおよび/またはG-CSFRに拮抗する治療などの併用治療を企図する。
【0029】
したがって、本発明のもう1つの局面は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害する、またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する物質と、コルチコステロイドなどの抗炎症剤、ミトキサントロン、酢酸グラチラマー、インターフェロンなどの免疫抑制剤、または化学療法剤などの少なくとも1つの他の治療物質とを投与する段階を含む、対象におけるMS、ドヴィック病、またはウイルス感染症などの、しかしこれらに限定されないCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法に関する。
【0030】
1つの特定のG-CSFまたはG-CSFR拮抗物質は、G-CSFまたはG-CSFRの活性を阻害する抗体である。1つの態様において、抗体は、G-CSFまたはG-CSFRに特異的または選択的に結合する。他の有用な物質には、低分子阻害剤、可溶性G-CSF受容体またはそのG-CSF結合断片、G-CSFの受容体結合部分、およびG-CSFまたはG-CSFR発現を阻害する核酸分子が含まれる。抗体は、単特異性または二重特異性が含まれる多重特異性でありうる。
【0031】
このゆえに、1つの態様において、本発明は、G-CSFもしくはG-CSFRの活性、またはG-CSFのG-CSFRとの相互作用能を阻害するために有効な量の抗体を対象に投与する段階を含む、対象におけるMS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症を処置する方法を企図する。本発明のこの局面には、G-CSF/G-CSFR媒介シグナル伝達を阻害するために有効な抗体の投与が含まれる。
【0032】
G-CSF遺伝子もしくはmRNAまたはG-CSFR遺伝子もしくはmRNAに向けられるセンスまたはアンチセンス分子が提供されるが、G-CSFまたはG-CSFRの遺伝子またはmRNAのリーダー配列および選択されたイントロンまたはエキソンが含まれるコードまたは非コード領域の任意の部分に対するセンスまたはアンチセンス分子も同様に提供される。このゆえに、SEQ ID NO:2、3、6および/または7の1つまたは複数に対する、長さが20から30ヌクレオチドのセンスおよびアンチセンス分子が本明細書において企図される。
【0033】
処置される有用な対象は、哺乳動物であり、特にヒトである。
【0034】
本発明は、G-CSFまたはG-CSFRのアンタゴニストを含む、薬学的組成物を用いることに拡大される。1つの特に有用な組成物は、抗G-CSF抗体または抗G-CSFR抗体を含む。先に示したように、G-CSFまたはG-CSFRのアンタゴニストには、G-CSFまたはG-CSFR活性のアンタゴニストが含まれる。
【0035】
本発明はさらに、対象におけるMS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症を処置するための薬剤の製造においてG-CSFまたはG-CSFRに対する抗体を用いることを企図する。
【0036】
もう1つの局面は、以下からなる群より選択される、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置するための薬剤の製造において、G-CSFもしくはG-CSRFを阻害する、またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する物質を用いることを提供する:
a.G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体;
b.可溶性G-CSFRまたはそのG-CSF結合部分;
c.SEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスまたはアンチセンス分子。
【0037】
本明細書を通して用いられる配列同定子の要約を表1に提供する。略語の一覧を表2に提供する。
【0038】
(表1)配列IDについての概要

【0039】
(表2)略語

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】G-CSF欠損マウスが、野生型(C57Bl/6)マウスと比較して実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)から保護されることを示すグラフ表示である。疾患を0日目から30日目までモニターして、実験の章に記載されるように麻痺のスコアを決定した。
【図2】抗G-CSF抗体によるG-CSFの作用の遮断が、アイソタイプ対照処置動物と比較して野生型(C57Bl/6)マウスのEAEモデルにおいて疾患の進行を阻害することを示すグラフ表示である。疾患を0日目から30日目までモニターして、実験の章に記載されるように麻痺のスコアを決定した。
【図3】アイソタイプ対照および抗G-CSF抗体処置動物から採取した様々な試料における好中球の百分率の経時的分析のグラフ表示である。
【図4】10日目で屠殺したアイソタイプ対照および抗G-CSF抗体処置動物の双方から精製したT細胞の再活性化後の様々なサイトカインレベルを示す表示である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
詳細な説明
単数形「1つの」、「1つの(an)」、および「その」には、本文が明らかにそれ以外であることを指示している場合を除き、複数の局面が含まれる。このように、たとえば、「1つの神経変性状態」という言及には、1つの状態のみならず、2つまたはそれより多くの状態が含まれる。「1つの物質」という言及には、1つの物質のみならず、2つまたはそれより多くの物質が含まれ;「本発明」という言及には、本発明の1つおよび多数の局面が含まれるなどである。
【0042】
「物質」、「化合物」、および「活性な」という用語は、G-CSF、G-CSFR、G-CSF/G-CSFR相互作用、G-CSF/G-CSFR媒介シグナル伝達、および/またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現に拮抗する所望の薬理学的および/または生理学的効果を誘導する物質を指すために、本明細書において互換的に用いられうる。この用語はまた、塩が含まれる、その薬学的に許容されるおよび薬理学的に活性な型を包含する。このゆえに、所望の効果には、G-CSFの活性またはシグナル伝達または機能の阻害、およびG-CSFまたはその受容体の発現のダウンレギュレーションが含まれる。「発現のダウンレギュレーション」には、「発現の阻害」が含まれ、G-CSFまたはG-CSFR産生に至る転写または翻訳またはRNAプロセシングを阻害するまたは防止するまたは低減させることを意味する。このゆえに、G-CSFおよび/またはG-CSFRレベルの任意の形の低減が本明細書において企図される。
【0043】
G-CSFまたはG-CSFRに拮抗する本明細書において企図される物質には、以下が含まれる:
a.G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体;
b.可溶性G-CSFRまたはそのG-CSF結合部分;
c.SEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子。
【0044】
G-CSFまたはG-CSFRアンタゴニストを、抗炎症剤、免疫抑制剤、および/またはCNSの炎症性神経変性状態の処置において用いられる他の物質などのもう1つの治療物質と共に用いることを伴う併用治療も同様に、本発明によって企図される。
【0045】
1つの特に有用な物質は、G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的または選択的なおよび/またはG-CSF/G-CSFR相互作用を防止する抗体である。
【0046】
「抗体」および「複数の抗体」という用語には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、ならびに完全長の抗体(たとえば、無傷のFc領域を有する)、たとえばFv、Fab、Fab'、およびF(ab')2断片が含まれる抗原結合断片;ならびに一本鎖抗体などの組み換え法を用いて産生された抗体由来ポリペプチドが含まれるがこれらに限定されるわけではない、モノクローナル抗体に由来する全ての様々な型が含まれる。本明細書において用いられる「抗体」および「複数の抗体」という用語はまた、たとえばトランスジェニック動物においてまたはファージディスプレイを通して産生されたヒト抗体のみならず、キメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、または脱免疫抗体を指す。抗体という用語にはまた、その治療的に許容されるおよび抗原結合断片でありうる他の型の抗体、たとえば海洋性軟骨動物もしくはラクダ科、またはそのような抗体に基づくライブラリに由来する単ドメイン抗体が含まれる。抗体の断片または改変型の選択もまた、断片または改変型がその半減期に対して有するいかなる効果も伴いうる。たとえば、ある状況において、好中球減少症などの抗G-CSF/G-CSFR処置の全体的な効果を回避するために抗体が短い半減期を有することは有利でありうる。または、増悪が一般的であるまたは可能性がある場合、より長い半減期を有する抗体は有利でありうる。抗体の「半減期」は、本明細書において2日以内またはそれ未満である場合に短いとみなされる。抗体のより長い半減期は、2日を超える任意の半減期であり、より詳しくは7日より長くてもよい。
【0047】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書において、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指すために用いられる。すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量存在しうる天然に存在する変異を除き、同一である。それゆえに、本明細書において用いられる修飾語「モノクローナル」とは、抗体の実質的に均一な集団から得られている抗体の特徴を示し、抗体が特定の方法によって産生されたことを示すために用いられるのではない。たとえば、本発明に従うモノクローナル抗体を、Kohler and Milstein, Nature 256:495-499, 1975によって記述されるハイブリドーマ法によって作製してもよく、または組み換えDNA法によって作製してもよい(米国特許第4,816,567号に記述されるような)。モノクローナル抗体はまた、Clackson et al, Nature 352:624-628, 1991またはMarks et al, J. Mol. Biol. 222:581-597, 1991において記述される技術を用いてファージ抗体ライブラリから単離されうる。
【0048】
本明細書において用いられる「有効量」および「治療的有効量」という用語は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害する、またはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する、所望の治療的または生理学的効果または転帰を提供する物質の十分量を意味する。加えて、効果は、MS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症などのCNSの炎症性神経変性状態の症状の改善でありうる。望ましくない効果、たとえば、副作用が所望の治療効果と共に現れることもある。このゆえに、医師は、適切な「有効量」が何であるかを決定する場合に、可能性があるリスクに対して可能性がある恩典のバランスをとる。必要な物質の正確な量は、対象の種、年齢、および全身状態、投与様式等に応じて対象により異なるであろう。このように、正確な「有効量」を明記することは可能でないかも知れない。しかし、いかなる個々の例における適切な「有効量」も、ルーチンの実験を用いて当業者によって決定されうる。たとえば、抗G-CSF/G-CSFR抗体のMS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症の効果の改善能を、動物モデル系において評価することができる。当業者は、対象の体格、対象の症状の重症度、および選択される特定の組成物または投与経路などの要因に基づいて必要な量を決定することができるであろう。
【0049】
本発明の1つの態様が、G-CSFまたはその受容体に対する抗体の使用に関連する限り、有効量には、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100μg/kg体重、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000μg/kg体重、または2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mg/kg体重などの約10μg/kg体重から20 mg/kg体重が含まれる。類似の量が単回または併用治療に関して提供される。
【0050】
「CNSの炎症性神経変性状態」という言及には、CNSにおける任意の誇張されたまたは過度のまたは持続的な炎症応答などのCNSの疾患状態が含まれる。一般的に、炎症性神経変性状態は、CNSにおける好中球の浸潤に関連する。CNS状態は、慢性または急性でありうる、またはそのあいだの段階でありうる。慢性状態の増悪などの再発性の急性型もまた、本発明によって企図される。本発明は、特に、MS、ドヴィック病(NMO)、および脳のウイルス感染症に向けられる。
【0051】
一般的に、物質は、薬学的または薬理学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と共に提供される。
【0052】
「薬学的に許容される」担体、希釈剤、および/または賦形剤は、生物学的にまたはそれ以外で望ましい材料を含む薬学的ビヒクルであり、すなわち、材料は、いかなるまたは実質的な有害反応も引き起こすことなく、選択されたG-CSF/G-CSFR拮抗剤と共に対象に投与されうる。担体には、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張性を調節するために用いられる物質、緩衝剤、キレート剤、および吸収遅延剤等が含まれうる。
【0053】
同様に、本明細書において提供される物質の「薬理学的に許容される」塩は、生物学的にまたはそれ以外で望ましい塩である。
【0054】
本明細書において用いられる「処置する」および「処置」という用語は、治療的処置を指し、これには予防的または防止手段が含まれうる。たとえば、処置によって、CNSの炎症性神経変性状態の症状の重症度および/または頻度の低減、状態の症状および/または基礎となる原因の消失、状態および/またはその基礎となる原因の症状の発生の予防、ならびに炎症性神経変性状態後の損傷の好転または救済または改善が起こりうる。そのような症状または特徴には、好中球浸潤の増加、脳脊髄液中の好中球の増加、抗菌因子(ミエロペルオキシダーゼおよびカルプロテクチンなどの)、プロテナーゼ(エラスターゼなどの)、酸ヒドロラーゼ(カテプシンなどの)、ケモカインおよびサイトカインが含まれるがこれらに限定されるわけではない好中球由来因子の放出の増加が含まれる。このゆえに、処置によって「治癒」が起こらない可能性があるが、むしろ症状の改善が起こりうる。加えて、処置は、増悪事象が起こるまで開始されない可能性がある。このような状況において、「予防的」という用語はまた、増悪事象が起こる可能性の予防または処置にも当てはまる。増悪事象の例には、卒中、または全身血管の他の事象またはウイルスなどの病原性物質による感染症が含まれる。
【0055】
抗体はまた、G-CSFまたはG-CSFRに対するラットまたはウサギ抗体の重鎖および軽鎖可変領域と、ヒトの重鎖および軽鎖定常ドメインとを含むG-CSFまたはG-CSFRに対する抗体が含まれるキメラでありうる。
【0056】
「状態」および「疾患」という用語は、本明細書を通して互換的に用いられる。
【0057】
本明細書において用いられる「対象」は、動物、詳しくは哺乳動物を指し、より詳しくは本発明の薬学的組成物および方法によって恩典を得ることができるヒトを指す。本明細書において記述される薬学的組成物および方法から恩典を得ることができる動物のタイプに制限はない。ヒトまたは非ヒト動物であるか否かによらず対象は、個体、患者、動物、宿主、またはレシピエントのみならず対象と呼ばれうる。本発明の化合物および方法は、ヒトの医学および獣医学において応用を有する。
【0058】
特定の哺乳動物はヒトおよび実験動物である。実験動物の例には、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、およびイヌ、ならびに霊長類が含まれる。
【0059】
本発明の特に有用な物質は、G-CSF受容体を通してのG-CSFシグナル伝達を阻害するG-CSFまたはG-CSFRのいずれかに対する抗体である。G-CSFに対するそのような抗体は抗G-CSF抗体と呼ばれ、およびG-CSFRに対する抗体は抗G-CSFR抗体と呼ばれうる。抗G-CSF抗体または抗G-CSFR抗体のいずれかを指すことを意図する場合、これは単純に抗G-CSF/G-CSFR抗体または複数の抗体と呼ばれうる。
【0060】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をいずれも容易に産生することができるが、モノクローナル抗体は、大量に生成することができ、非常に特異的であり、一つの抗原部位に対して向けられることから、モノクローナル抗体が特に好ましい。さらに、モノクローナル抗体調製物は均一であり、治療応用のための抗原結合断片および他の操作された抗体誘導体を生成するためにそれらは理想的となる。
【0061】
ポリクローナル抗体も同様に、比較的容易に調製されるが、ポリクローナル抗体調製物には典型的に、異なる抗原部位に対する異なる抗体が含まれることから、モノクローナル抗体ほど有用でなく、このように治療応用のための抗原結合断片および他の操作された抗体誘導体を生成するためには適していない。
【0062】
先に記述されたハイブリドーマ法は、モノクローナル抗体を産生するために、マウスのような動物において用いられる。しかし、動物に由来する抗体は免疫応答を引き起こす可能性があることから、一般的にヒトに投与するために適していない。以下に記述されるように、そのような抗体を、ヒトまたは望ましい非ヒト対象に投与するために適するように改変してもよい。
【0063】
たとえば、抗G-CSF/G-CSFR抗体はまた、当技術分野において周知の組み換え法(たとえば、大腸菌(E. coli)発現系において)を用いて産生してもよい。このアプローチにおいて、本発明のマウスモノクローナル抗体のようなモノクローナル抗体をコードするDNAをハイブリドーマ細胞株から単離して、標準的な技法を用いてシークエンシングしてもよく、任意で組み換えDNA技術によって操作してもよい。たとえば、DNAをもう一つの関心対象DNAに融合させてもよく、または一つもしくは複数の核酸残基を付加、欠失、または置換するために変更してもよい(変異誘発または他の従来の技術によるような)。DNAをベクターに組み入れてもよく、それらを当技術分野において周知の方法を用いて適切な宿主細胞にトランスフェクトまたは形質転換する(U.S. Patent Nos: 4,399,216;4,912,040;4,740,461;および4,959,455において記述されるように)。ハイブリドーマ細胞株から単離されたDNAをまた、その発現によって産生された抗体の特徴を変化させるために改変してもよい。
【0064】
たとえば、選択されたマウス重鎖および軽鎖定常ドメインをコードするヌクレオチドを、U.S. Patent No. 4,816,567においておよびMorrison et al, Proc. Nat. Acad. Sci. 81:6851, 1984によって記述されるように、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメインをコードするヌクレオチドに置換することによって、マウス抗G-CSF/G-CSFRモノクローナル抗体のキメラ型を産生してもよい。次に、キメラ抗体を、マウス骨髄腫細胞株のような、改変DNAをトランスフェクトされている適切な細胞株において産生してもよい。
【0065】
このように、非マウス重鎖および軽鎖抗体定常ドメインに融合したマウス抗G-CSF/G-CSFRモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖可変領域を含むキメラ抗G-CSF/G-CSFR抗体は、本発明によって企図される抗体に含まれる。特定の態様において、非マウス重鎖および軽鎖定常ドメインは、ヒト重鎖および軽鎖抗体定常ドメインである。同様に、キメラ抗体には、G-CSFまたはG-CSFRに対するラットまたはウサギ抗体の重鎖および軽鎖可変領域と、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメインとを含むG-CSFまたはG-CSFRに対する抗体が含まれてもよい。
【0066】
本発明において用いるための抗G-CSF/G-CSFR抗体には、ヒト化抗体が含まれる。一般的に、ヒト化抗体は、相補性決定領域(CDR)残基が、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からのCDR領域残基に置換されているヒト抗体(レシピエント抗体)である。いくつかの場合において、ヒト抗体の一定のフレームワーク領域(FR)残基もまた、対応する非ヒト残基に置換されてもよく、またはヒト化抗体はレシピエント抗体もしくはドナー抗体において見いだされない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能および親和性を増強するためになされる。一般的に、ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト抗体のCDR領域に対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト抗体配列のFRである、少なくとも一つ、典型的に二つの可変領域の実質的に全てを含むであろう。ヒト化抗体はまた任意で、典型的にヒト抗体の定常領域である、抗体の定常領域(Fc)の少なくとも一部を含んでもよい(Jones et al, Nature 321:522-525, 1986;Reichmann et al, Nature 332:323-329, 1988;Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992;Liu et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439, 1987;Larrick et al, Bio/Technology 7:934, 1989;Winter & Harris, TIPS 14:139, 1993;Carter et al, Proc. Nat. Acad. Sci. 89:4285 1992)。同様に、霊長類化抗体を作製するために、マウスCDR領域を、当技術分野において公知の方法を用いて霊長類フレームワークに挿入することができる(たとえば、WO 93/02108およびWO 99/55369を参照されたい)。
【0067】
または、ヒト化抗体は、「ベニヤリング(veneering)」プロセスによって作製してもよい。独自のヒトおよびマウス免疫グロブリン重鎖および軽鎖可変領域の統計分析により、露出された残基の正確なパターンがヒトおよびマウス抗体において異なること、およびほとんどの個々の表面位置は、少数の異なる残基に対して強い選択性を有することが判明した(Padlan et al, Mol. Immunol. 28:489- 498, 1991およびPedersen et al, J. Mol. Biol. 235:959-973, 1994を参照されたい)。したがって、ヒト抗体において通常見いだされるものとは異なる、そのフレームワークにおける露出残基を置換することによって、非ヒトFvの免疫原性を低減させることが可能である。タンパク質の抗原性は、表面の到達可能性に相関する可能性があることから、マウス可変領域をヒト免疫系に対して「見えなくする」ためには、表面残基の置換で十分である可能性がある。このヒト化技法は、抗体の表面のみが変更され、それを支える残基は乱されていないままであることから、「ベニヤリング」と呼ばれる。
【0068】
さらに、WO 2004/006955は、非ヒト抗体の可変領域のCDR配列に関して模範的なCDR構造型を、ヒト抗体配列のライブラリ、たとえば生殖系列抗体遺伝子セグメントからの対応するCDRに関する模範的なCDR構造型と比較することによって、ヒト抗体遺伝子からの可変領域フレームワーク配列を選択することに基づいて、抗体をヒト化する方法を記述している。非ヒトCDRと類似の模範的CDR構造タイプを有するヒト抗体可変領域は、そこからヒトフレームワーク配列を選択すべきヒト抗体配列メンバーのサブセットを形成する。サブセットメンバーを、ヒトおよび非ヒトCDR配列間のアミノ酸類似性によってさらにランク付けしてもよい。WO 2004/006955の方法において、最上位にランクされるヒト配列は、選択されたサブセットメンバーヒトフレームワークを用いて、ヒトCDR配列を非ヒトCDR相対物に機能的に置換するキメラ抗体を構築するためのフレームワーク配列を提供するように選択され、それによって非ヒトおよびヒト抗体のあいだでフレームワーク配列を比較する必要なく、高親和性および低免疫原性のヒト化抗体を提供する。
【0069】
所定の抗体のCDRは、たとえばKabat et al in Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., US Department of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication No. 91-3242, 1991によって記述されるシステムを用いて容易に同定される可能性がある。
【0070】
特定の態様において、本発明において用いられるための抗体は、ヒトモノクローナル抗体である。G-CSFまたはG-CSFRに対するそのようなヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりむしろヒト免疫系の一部を有するトランスジェニックまたはトランスクロモソミックマウスを用いて生成することができる。これらのトランスジェニックおよびトランスクロモソミックマウスには、本明細書においてHuMAbマウスおよびKMマウスと呼ばれるマウスが含まれる。
【0071】
なおさらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現するもう一つのトランスジェニック動物系が当技術分野において利用可能であり、抗体を作製するために用いることができる。たとえば、Xenomouse(Abgenix, Inc.)と呼ばれる別のトランスジェニック系を用いることができ;そのようなマウスは、たとえばUS Patent Nos. 5,939,598;6,075,181;6,114,598;6,150,584および6,162,963において記述されている。
【0072】
その上、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代わりのトランスクロモソミック動物系が当技術分野において利用可能であり、G-CSFまたはG-CSFRに対する抗体を作製するために用いることができる。たとえば、「TCマウス」と呼ばれるヒト重鎖トランスクロモソームとヒト軽鎖トランスクロモソームの双方を有するマウスを用いることができ;そのようなマウスは、Tomizuka et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:722- 727, 2000において記述されている。
【0073】
ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子のライブラリをスクリーニングするためのファージディスプレイ法を用いても調製することができる。ヒト抗体を単離するためのそのようなファージディスプレイ法は、当技術分野において確立されている。たとえばUS Patent Nos. 5,223,409;5,403,484;および5,571,698;US Patent Nos. 5,427,908および5,580,717;US Patent Nos. 5,969,108、6,172,197、およびUS Patent Nos. 5,885,793;6,521,404;6,544,731;6,555,313;6,582,915および6,593,081を参照されたい。
【0074】
ヒトモノクローナル抗体はまた、免疫によってヒト抗体反応が生成されうるように、その中にヒト免疫細胞が再構成されているSCIDマウスを用いて調製することができる。そのようなマウスは、たとえばUS Patent Nos. 5,476,996および5,698,767において記述されている。
【0075】
本発明の抗G-CSF/G-CSFR抗体にはまた、Fv、Fab、Fab'、およびF(ab')2断片のような抗原結合断片が含まれる。従来、抗原結合断片は、完全な抗体のタンパク質分解消化によって生成された(Morimoto et al, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117,1992;Brennan et al, Science 229:81, 1985)。組み換え型宿主細胞において抗体の抗原結合断片を直接産生するために、多くの組み換え法が現在開発されている。
【0076】
たとえば、Fab'-SH断片は、大腸菌から直接回収することができ、これを化学的にカップリングさせてF(ab')2断片を形成することができる(Carter et al, Bio/Technology 10:163-167, 1992)。F(ab')2断片はまた、F(ab')2分子のアセンブリを促進するためにロイシンジッパーGCN4を用いて形成することもできる。Fv、Fab、またはF(ab')2断片はまた、組み換え型宿主細胞培養から直接単離することができる。一本鎖抗体の産生に関して、U.S. Patent No. 4,946,778;Bird, Science 242:423, 1988, Huston et al, Proc. Natl. Acad. Sci USA 85:5879, 1988およびWard et al, Nature 334:544, 1989に記載される方法が含まれる多くの組み換え法が開発されている。一本鎖抗体は、一つのポリペプチド鎖(scFv)を提供するために短いペプチドリンカーを通して重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変領域(Fv領域)断片を連結させることによって形成してもよい。scFvはまた、二つの可変領域のあいだのペプチドリンカーの長さに応じて二量体または三量体を形成してもよい(Kortt et al, Protein Engineering 10:423, 1997)。ファージディスプレイは、本発明の抗原結合断片を産生するためのもう一つの周知の組み換え法である。
【0077】
本発明の抗原結合断片を、所望の特性に関してスクリーニングしてもよい。本明細書において記述されるアッセイは、G-CSFまたはG-CSFRに結合して、G-CSFRを通してのG-CSFシグナル伝達に拮抗する抗原結合断片を同定する手段を提供する。
【0078】
発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株が当技術分野において周知であり、これにはAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株が含まれる。これらには、中でも、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(たとえば、Hep G2)、A549細胞、3T3細胞、および他の多くの細胞株が含まれる。哺乳動物宿主細胞には、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、およびハムスター細胞が含まれる。特に好ましい細胞株は、どの細胞株が高い発現レベルを有するか否かを決定することによって選択される。用いてもよい他の細胞株は、Sf9細胞のような昆虫細胞、両生類細胞、細菌細胞、植物細胞、および真菌細胞である。重鎖またはその抗原結合部分、軽鎖および/またはその抗原結合部分をコードする組み換え型発現ベクターを哺乳動物細胞に導入する場合、抗体は、宿主細胞において抗体を発現させる、またはより好ましくは宿主細胞が生育する培養培地に抗体を分泌させるために十分な期間、宿主細胞を培養することによって産生される。
【0079】
抗体は、標準的なタンパク質精製法を用いて培養培地から回収することができる。さらに、宿主細胞株からの本発明の抗体の発現は、多数の公知の技術を用いて増強することができる。たとえば、グルタミンシンテターゼ遺伝子発現系(GS系)は、一定の条件での発現を増強するための一般的なアプローチである。GS系は、European Patent Nos. 0 216 846、0 256 055および0 323 997、ならびに欧州特許出願第89303964.4号と結びつけて全体としてまたは部分的に考察される。
【0080】
異なる細胞株によってまたはトランスジェニック動物において発現された抗体は、互いに異なるグリコシル化パターンを有する可能性がある。しかし、免疫媒介炎症性CNS病態の処理において用いられるG-CSFまたはG-CSFRに対するそのような抗体は全て、抗体のグリコシル化パターンによらず、本発明の一部である。
【0081】
関心対象抗体とは異なるサブクラスまたはアイソタイプの抗体を誘導するための技術、すなわちサブクラススイッチングも公知である。このように、たとえばIgG1またはIgG4モノクローナル抗体がIgMモノクローナル抗体に由来してもよく、逆もまた同じである。そのような技術によって、所定の抗体(親抗体)の抗原結合特性を保有するが、親抗体とは異なる抗体アイソタイプまたはサブクラスに関連する生物特性を示す新規抗体が調製される。組み換えDNA技術を用いてもよい。特定の抗体ポリペプチドをコードするクローニングされたDNA、たとえば所望のアイソタイプの抗体の定常領域をコードするDNAを、そのような技法において用いてもよい。
【0082】
宿主細胞株におけるクローニングおよび発現のために利用できるベクターは、当技術分野において周知であり、これには、哺乳動物細胞株におけるクローニングおよび発現のためのベクター、細菌細胞株におけるクローニングおよび発現のためのベクター、ファージにおけるクローニングおよび発現のためのベクター、ならびに昆虫細胞株におけるクローニングおよび発現のためのベクターが含まれるがこれらに限定されるわけではない。抗体は、標準的なタンパク質精製法を用いて回収することができる。
【0083】
特定の態様において、本発明の方法において用いるための抗体は、G-CSFRによってG-CSFシグナル伝達に拮抗するヒトまたはヒト化抗G-CSF/G-CSFR抗体である。
【0084】
具体的には、ヒトまたはヒト化抗G-CSF/G-CSFR抗体は、単離型、均一型、または完全もしくは部分精製型である。
【0085】
より具体的には、ヒトまたはヒト化抗G-CSF/G-CSFR抗体は、完全長のモノクローナル抗体または抗原結合断片である。
【0086】
先に示したように、抗体の抗原結合断片または改変型の選択は、個々の半減期に対して断片または改変型が有する効果によって影響を受ける可能性がある。
【0087】
有用な物質のもう一つの例は、G-CSF相互作用に関して天然に存在する膜結合型のG-CSFRと競合するG-CSFRの可溶性型である。当業者は、受容体の可溶性型を容易に調製することができ、たとえばUS 5,589,456およびHonjo et al, Acta Crystallograph Sect F Struct Biol Cryst Commun. 61(Pt 8): 788-790, 2005を参照されたい。
【0088】
または、物質をG-CSFまたはG-CSFR遺伝子材料に対するその結合能に関してスクリーニングすることができる。一つの態様において、G-CSFまたはG-CSFRをコードするcDNA、ゲノムDNA、mRNA転写物、またはESTもしくはSAGEタグのようなその一部を、ナノ粒子またはミクロスフェアのような固相支持体に固定する。固定された核酸分子に、可能性がある物質を接触させて、放射線、放出、原子の励起、質量および/または密度の変化によって結合を検出する。
【0089】
同定された後、物質を核酸分子から溶出させて、より詳細に特徴付けする。たとえば、G-CSF/G-CSFR遺伝子材料に結合する物質は、発現(転写および/または翻訳)を阻害する可能性がある。
【0090】
本発明はさらに、G-CSFまたはその受容体のアンタゴニストとしてG-CSFまたはG-CSFRの化学類似体を用いることを企図する。先に示したように、可溶性のG-CSF受容体もまた用いてもよい。
【0091】
本明細書において企図される化学類似体には、側鎖の改変、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質合成の際の非天然アミノ酸および/またはその誘導体の取り込み、クロスリンク剤の使用およびタンパク質様分子またはその類似体に対してコンフォメーション上の拘束を課す他の方法が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0092】
本発明によって企図される他の物質には、サイトカインまたはその受容体をコードする遺伝子のアンチセンスまたはセンス媒介機構による沈黙化を誘導するために有用であるRNAまたはDNAのような核酸分子が含まれる。センス媒介遺伝子沈黙化はまた、共抑制とも呼ばれ、RNAiの誘導が含まれる広範囲の機構を伴う。したがって、転写および転写後遺伝子沈黙化は、本発明によって企図される。
【0093】
「核酸」、「ヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」という用語には、当業者によって容易に認識されるように、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成型および混合ポリマー、センスおよびアンチセンス鎖の双方が含まれ、これらは化学的もしくは生化学的に改変されてもよく、または非天然もしくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含有してもよい。そのような改変には、たとえば標識、メチル化、一つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドと類似体との置換(モルフォリン環のような)、非荷電連結のようなヌクレオチド間改変(たとえば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)、荷電連結(たとえば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)、懸垂部分(たとえば、ポリペプチド)、インターカレーター(たとえば、アクリジン、ソラレン等)、キレート剤、アルキル化剤、および改変連結(たとえば、α-アノマー核酸等)が含まれる。同様に、水素結合および他の化学相互作用を通して指定された配列に対するその結合能においてポリヌクレオチドを模倣する合成核酸も含まれる。そのような分子は当技術分野において公知であり、これにはたとえば、ペプチド連結が分子の骨格におけるホスフェート連結の代わりとなる分子が含まれる。
【0094】
アンチセンスポリヌクレオチド配列は、たとえばG-CSF遺伝子配列またはG-CSFR遺伝子配列の転写物を沈黙化するために有用である(Geng et al, Molecular Immunology 44:5121-529, 2007を参照されたい)。さらに、G-CSF遺伝子座の全てまたは一部を含有するポリヌクレオチドベクターを、センスまたはアンチセンス方向のいずれかでプロモーターの制御下に置いて、細胞に導入してもよい。細胞内でのそのようなセンスまたはアンチセンス構築物の発現は、標的転写および/または翻訳と干渉する。さらに、共抑制(すなわちセンス-発現を用いる)およびRNAiまたはsiRNAを誘導する機構も同様に用いてもよい。または、アンチセンスまたはセンス分子を直接投与してもよい。この後者の態様において、アンチセンスまたはセンス分子を組成物に製剤化した後、任意の数の手段によって標的細胞に投与してもよい。
【0095】
アンチセンスおよびセンス分子の変化は、モルフォリンヌクレオチド誘導体、およびホスホロジアミデート連結で構成されるオリゴヌクレオチドであるモルフォリノの使用を伴う(たとえば、Summerton and Weller, Antisense and Nucleic Acid Drug Development 7:187-195, 1997を参照されたい)。
【0096】
一つの態様において、本発明は、G-CSFまたはG-CSFRをコードする核酸分子の機能または効果の調節において用いるためのオリゴヌクレオチドおよび類似の種のような化合物を使用し、すなわちオリゴヌクレオチドは転写または転写後遺伝子沈黙化を誘導する。これは、標的核酸をコードする一つまたは複数の核酸分子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することによって達成される。オリゴヌクレオチドは、細胞に直接提供されてもよく、または細胞内で生成されてもよい。本明細書において用いられるように、「標的核酸」および「G-CSFまたはG-CSFRをコードする核酸分子」という用語は、便宜上、コードされるDNA、そのようなDNAから転写されたRNA(プレmRNAおよびmRNA、またはその一部が含まれる)、および同様にそのようなRNAに由来するcDNAを含むために用いられている。本発明の化合物とその標的核酸とのハイブリダイゼーションは、一般的に「アンチセンス」と呼ばれる。その結果、本発明のいくつかの好ましい態様の実践において含まれると考えられる好ましい機構は、本明細書において「アンチセンス阻害」と呼ばれる。そのようなアンチセンス阻害は典型的に、少なくとも一つの鎖またはセグメントが切断、分解、またはそうでなければ操作不能にされるように、オリゴヌクレオチド鎖またはセグメントの水素結合に基づくハイブリダイゼーションに基づく。この点において、そのようなアンチセンス阻害のために、特異的核酸分子およびその機能を標的とすることが現在好ましい。
【0097】
干渉されるDNAの機能には、複製および転写が含まれうる。複製および転写は、たとえば内因性の細胞鋳型、ベクター、プラスミド構築物またはそれ以外に由来しうる。干渉されるRNAの機能には、タンパク質翻訳部位へのRNAのトランスロケーション、RNA合成部位とは離れた細胞内の部位へのRNAのトランスロケーション、RNAからのタンパク質の翻訳、一つまたは複数のRNA種を生じるためのRNAのスプライシング、およびRNAに関係するまたはRNAによって促進される可能性があるRNAを伴う触媒活性または複合体形成のような機能が含まれうる。
【0098】
本発明の文脈において、「ハイブリダイゼーション」は、オリゴマー化合物の相補鎖の塩基対形成を意味する。本発明において、対形成の好ましい機構は、オリゴマー化合物の鎖の相補的ヌクレオシドまたはヌクレオチド塩基(ヌクレオベース)間のワトソン-クリック、フーグスティーン、または逆フーグスティーン水素結合であってもよい水素結合を伴う。たとえば、アデニンおよびチミンは水素結合の形成を通して対を形成する相補的ヌクレオベースである。ハイブリダイゼーションは、様々な状況で起こりうる。
【0099】
アンチセンス化合物は、標的核酸に対する化合物の結合が標的核酸の正常な機能を干渉して活性の喪失を引き起こす場合に特異的にハイブリダイズ可能であり、特異的結合が望ましい条件で非標的核酸配列に対するアンチセンス化合物の非特異的結合を回避するために十分な程度の相補性が存在する。
【0100】
本明細書において用いられるように「相補的な」は、オリゴマー化合物の二つのヌクレオベース間の正確な対形成能を指す。たとえば、オリゴヌクレオチド(オリゴマー化合物)の一定の位置でのヌクレオベースが、DNA、RNA、またはオリゴヌクレオチド分子である標的核酸の一定の位置でのヌクレオベースと水素結合することができる場合、オリゴヌクレオチドと標的核酸のあいだの水素結合の位置は相補的な位置であると見なされる。オリゴヌクレオチドとさらなるDNA、RNA、またはオリゴヌクレオチド分子は、各分子における相補的な位置の十分数が互いに水素結合することができるヌクレオベースで占有されている場合に、互いに相補的である。このように、「特異的にハイブリダイズ可能」および「相補的」とは、オリゴヌクレオチドと標的核酸のあいだで安定かつ特異的な結合が起こるように、十分数のヌクレオベースに対して十分な程度の正確な対形成または相補性を示すために用いられる用語である。
【0101】
本発明に従って、化合物には、アンチセンスオリゴマー化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、外部誘導配列(external guide sequence(EGS))オリゴヌクレオチド、交互スプライサー、プライマー、プローブ、および標的核酸の少なくとも一部とハイブリダイズする他のオリゴマー化合物が含まれる。そのため、これらの化合物は、一本鎖、二本鎖、環状、またはヘアピンオリゴマー化合物の形で導入されてもよく、内部または末端の隆起またはループのような構造要素を含有してもよい。系に導入された後、本発明の化合物は、標的核酸の改変を行うために一つまたは複数の酵素または構造タンパク質の作用を誘発してもよい。そのような酵素の一つの非制限的な例は、RNA:DNA二本鎖のRNA鎖を切断する細胞エンドヌクレアーゼであるRNアーゼHである。「DNA様」である一本鎖アンチセンス化合物がRNアーゼHを誘発することは当技術分野において公知である。したがって、RNアーゼHの活性化によって、RNA標的の切断が起こり、それによって遺伝子発現のオリゴヌクレオチド媒介阻害効率は大きく増強される。RNアーゼIIIおよびリボヌクレアーゼL酵素ファミリーの役割のような類似の役割が、他のリボヌクレアーゼについても仮定されている。
【0102】
アンチセンス化合物の好ましい型は一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドであるが、多くの種において、二本鎖RNA(dsRNA)分子のような二本鎖構造を導入しても、遺伝子またはその関連する遺伝子産物の機能の強力かつ特異的アンチセンス媒介低減を誘導することが示されている。
【0103】
本発明の文脈において、「オリゴマー化合物」という用語は、複数の単量体単位を含むポリマーまたはオリゴマーを指す。本発明の文脈において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)のオリゴマーもしくはポリマー、またはその模倣体、キメラ、類似体、および相同体を指す。この用語には、天然に存在するヌクレオベース、糖および共有ヌクレオシド(骨格)連結で構成されるオリゴヌクレオチドと共に、類似のように機能する非天然部分を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。そのような改変または置換オリゴヌクレオチドは、たとえば細胞の取り込みの増強、標的核酸に対する親和性の増強、およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増強のような望ましい特性のために、しばしば天然型に対して好ましい。
【0104】
オリゴヌクレオチドは、本発明の化合物の好ましい型であるが、本発明は、本明細書において記述されるような、オリゴヌクレオチド類似体および模倣体が含まれるがこれらに限定されるわけではない他のファミリーの化合物も同様に包含する。
【0105】
アンチセンス化合物の局所送達に関して、これらのオリゴヌクレオチドは、改変骨格または非天然のヌクレオシド間連結を含有してもよい。本明細書において定義されるように、改変骨格を有するオリゴヌクレオチドには、骨格においてリン原子を保持するオリゴヌクレオチドおよび骨格においてリン原子を有しないオリゴヌクレオチドが含まれる。本明細書の目的に関して、および時に当技術分野において参照されるように、そのヌクレオシド間骨格においてリン原子を有しない改変オリゴヌクレオチドもまた、オリゴヌクレオシドであると見なされうる。
【0106】
その中にリン原子を含有する特定の改変オリゴヌクレオチド骨格には、たとえばホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネート、5'-アルキレンホスホネート、およびキラルホスホネートが含まれるメチルおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホラミデートおよびアミノアルキルホスホラミデートが含まれるホスホラミデート、チオノホスホラミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、通常の3'-5'連結を有するセレノホスフェートおよびボラノホスフェート、これらの2'-5'連結類似体、ならびに一つまたは複数のヌクレオチド間連結が3'から3'、5'から5'、または2'から2'連結である逆極性を有する類似体が含まれる。逆極性を有する好ましいオリゴヌクレオチドは、最も3'-側のヌクレオチド間連結、すなわち塩基性であってもよい(ヌクレオベースが失われている、またはその代わりにヒドロキシル基を有する)一つの逆ヌクレオシド残基で一つの3'から3'連結を含む。様々な塩、混合塩、および遊離の酸型も同様に含まれる。
【0107】
本明細書において特に企図されるセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列には、長さが20〜30ヌクレオチドの塩基が含まれる。「20〜30」という言及には、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、もしくは30個、または20〜30ヌクレオベースの範囲外のその同等物が含まれる。「ヌクレオベース」および「ヌクレオチド」という用語は、互換的に用いられる可能性がある。特に有用なセンスおよびアンチセンス分子は、成熟タンパク質(SEQ ID NO:4)をコードするG-CSF遺伝子もしくはmRNA(SEQ ID NO:2および3)、または成熟タンパク質(SEQ ID NO:8)をコードするG-CSFR遺伝子もしくはmRNA(SEQ ID NO:6および7)に向けられる。
【0108】
G-CSF遺伝子もしくはmRNAに対するセンスもしくはアンチセンス分子、またはG-CSFR遺伝子もしくはmRNAのセンスもしくはアンチセンス分子は、G-CSFまたはG-CSFRの遺伝子またはmRNAのリーダー配列および選択されたイントロンまたはエクストンが含まれるコードまたは非コード領域の任意の部分に対して企図される。よって、SEQ ID NO:2、3、6、または7の一つまたは複数に対して、長さが20〜30ヌクレオチドに基づくセンスおよびアンチセンス分子が企図される。
【0109】
代わりの態様において、DNA「ワクチン」が含まれる遺伝子構築物は、アンチセンスまたはセンス分子哺乳動物を生成するために用いられる。さらに、先に記述された好ましい特色の多くが、センス核酸分子にとって適切である。
【0110】
本発明のこの局面は、従来の分子生物学および組み換えDNA技法によって実施された場合に得ることができる。技術は、当技術分野において周知であり、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.;DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, D. N. Glover ed. 1985およびAusubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., 1994のような様々な刊行物において記述されている。
【0111】
本発明の核酸は、天然の調節(発現制御)配列に隣接してもよく、またはプロモーター、配列内リボソーム進入部位(IRES)および他のリボソーム結合部位配列、エンハンサー、反応エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5'および3'-非コード領域等が含まれる異種配列に会合してもよい。
【0112】
「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞においてRNAポリメラーゼに結合して、コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。プロモーター配列は一般的に、転写開始部位によってその3'末端で結合され、任意のレベルで転写を開始するために必要な塩基またはエレメントの最小数が含まれるように、5'方向において上流に伸長する。転写開始部位と共に、RNAポリメラーゼの結合の原因となるタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が、プロモーター配列内に認められてもよい。プロモーターは、エンハンサーおよびリプレッサー配列が含まれる他の発現制御配列、または本発明の核酸に機能的に会合してもよい。遺伝子発現を制御するために用いられてもよいプロモーターには、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよびSV40初期プロモーター領域が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0113】
コード配列は、配列が、コード配列のRNA、好ましくはmRNAへのRNAポリメラーゼ媒介転写を指示する場合に、細胞において転写および翻訳制御配列の「制御下である」、それらと「機能的に会合している」、または「操作可能に会合して」おり、次にこれは、トランス-RNAスプライシングしてもよく(イントロンを含有する場合)、任意でコード配列によってコードされるタンパク質に翻訳されてもよい。
【0114】
「発現する」および「発現」という用語は、遺伝子における情報、すなわちRNAまたはDNA配列の産物への変換を許容するまたは引き起こすこと;たとえばヌクレオチド配列の転写および翻訳に関係する細胞機能を活性化することによってタンパク質を産生することを意味する。DNA配列は、細胞においてまたは細胞によって発現されて、RNA(mRNAまたは二本鎖低分子RNA、ヘアピンRNA、またはアンチセンスRNAのような)またはタンパク質(サイトカイン活性のアンタゴニストまたは抗サイトカイン抗体の一部のような)のような「発現産物」を形成する。発現産物そのものもまた、細胞によって「発現された」と言われてもよい。
【0115】
「ベクター」、「クローニングベクター」、および「発現ベクター」という用語は、宿主を形質転換するために、および任意で導入された配列の発現および/または複製を促進するために、それによってDNAまたはRNA配列を宿主細胞に導入することができる媒体(プラスミドのような)を意味する。
【0116】
「トランスフェクション」または「形質転換」という用語は、細胞への核酸の導入を意味する。これらの用語は、サイトカイン交叉反応抗体またはその断片をコードする核酸の細胞への導入を指してもよい。導入されたDNAまたはRNAを受容する宿主細胞は「形質転換」されており、「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAは、宿主細胞と同じ属もしくは種の細胞、または異なる属もしくは種の細胞が含まれる、任意の起源に由来しうる。
【0117】
「宿主細胞」という用語は、細胞による物質の産生、たとえばタンパク質の発現または遺伝子の複製のために任意の方法で選択、改変、トランスフェクト、形質転換、生育、または使用もしくは操作される任意の生物の任意の細胞を意味する。
【0118】
「発現系」という用語は、ベクターによって運ばれ、宿主細胞に導入されるタンパク質または核酸を、適した条件で発現することができる宿主細胞および適合性のベクターを意味する。一般的な発現系には、大腸菌宿主細胞とプラスミドベクター、昆虫宿主細胞とバキュロウイルスベクター、および哺乳動物宿主細胞とベクターが含まれる。
【0119】
本発明に従って同定された物質(たとえば、抗体、G-CSFの非シグナル伝達変異体型のようなタンパク質、小さい化学分子、可溶性受容体等)は、薬学的組成物において簡便に供給される。
【0120】
注射での使用にとって適した組成物の剤形には、滅菌水溶液(水溶性の場合)、および滅菌注射用溶液の即時調製のための滅菌粉末が含まれる。これは、製造および保存条件で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、たとえば水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、その適した混合物、および植物油を含む溶媒または希釈媒体となりうる。たとえば界面活性剤を用いることによって、適当な流動性を維持することができる。微生物の作用に対する予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサル等によってもたらされうる。多くの場合において、等張性を調節する物質、たとえば糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収遅延剤、たとえばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物において用いることによってもたらされうる。
【0121】
滅菌注射用溶液は、活性化合物の必要量を適切な溶媒において、活性成分および任意で必要に応じて他の活性成分と共に組み入れた後に、濾過滅菌することまたは他の適切な滅菌手段によって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、適した調製法には、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥技術が含まれる。
【0122】
調節剤が適切に保護される場合、これはたとえば不活性希釈剤もしくは同化可能な食用担体と共に経口投与されてもよく、硬もしくは軟ゼラチンカプセルに封入されてもよく、錠剤に圧縮されてもよく、食事の食物と共に直接取り込まれてもよく、または乳汁によって投与されてもよい。経口治療的投与に関して、活性成分を賦形剤と共に組み入れてもよく、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウェーハ等の剤形で用いてもよい。そのような組成物および調製物は、調節剤の重量の少なくとも1%であるべきである。組成物および調製物の百分率は、当然変化してもよく、簡便に単位重量の約5〜約80%であってもよい。そのような治療的に有用な組成物における調節剤の量は、適した用量が得られる量である。本発明に従う好ましい組成物または調製物は、経口投与単位剤形が調節剤の約0.1μg〜約200 mgを含有するように調製される。代わりの用量には、約1μg〜約1000 mgおよび約10μg〜約500 mgが含まれる。これらの用量は、個体あたりまたはkg体重あたりであってもよい。投与は時間、日、週、月、または年毎であってもよい。
【0123】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤、クリーム等はまた、本明細書において以降記載される成分を含有してもよい。ゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤;リン酸カルシウムのような賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸等のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;および蔗糖、乳糖、もしくはサッカリンのような甘味料を加えてもよく、またはペパーミント油、冬緑油、もしくはサクランボ香料のような着香料を加えてもよい。単位投与剤形がカプセル剤の場合、上記のタイプの材料のほかに液体担体を含有してもよい。他の様々な材料がコーティングとして存在してもよく、または用量単位の物理的形状を改変するために存在してもよい。たとえば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤をシェラック、糖、またはその双方によってコーティングしてもよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、活性化合物、甘味料としての蔗糖、保存剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、色素、およびサクランボまたはオレンジ香料のような着香料を含有してもよい。当然のこととして、いかなる単位投与剤形も調製するために用いられるいかなる材料も、薬学的に純粋であるべきであり、使用される量で実質的に非毒性であるべきである。さらに、活性化合物(群)を徐放性調製物および製剤に組み入れてもよい。
【0124】
薬学的に許容される担体および/または希釈剤には、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためにそのような媒体および物質を用いることは、当技術分野において周知であり、任意の従来の培地または物質が調節剤と非適合性である場合を除き、治療的組成物におけるそのような使用が企図される。補助活性物質もまた、組成物に組み入れることができる。
【0125】
先に示したように、投与はいかなる手段によって行ってもよい。
【0126】
最適な所望の反応(たとえば、治療反応)を提供するために、投与養生法を調節してもよい。たとえば、1回ボーラス用量を投与してもよく、数回の分割用量を一定時間で投与してもよく、または投与は治療状況の緊急性に応じてそれに比例して低減もしくは増加させてもよい。投与の容易さおよび投与の均一性のために非経口組成物を投与単位剤形で製剤化することは特に有利である。
【0127】
当業者である医師または獣医師は、必要な薬学的組成物の有効量を容易に決定および処方することができる。たとえば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要な用量より低いレベルで薬学的組成物において用いられる用量で抗G-CSF/G-CSFR抗体を開始して、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることができるであろう。一般的に、本発明の組成物の適した1日量は、所望の効果を産生するために有効な最低用量である化合物の量であってもよい。そのような有効量は一般的に、先に記述された要因に依存するであろう。投与は、好ましくは標的(たとえば、肺)部位の近傍の注射によることが好ましい。望ましければ、薬学的組成物の有効な1日量を、1日を通して適当な間隔で個別に2、3、4、5、6回、またはそれより多い回数で投与してもよい。
【0128】
治療応用の場合、本発明の抗G-CSF/G-CSFR抗体は、ボーラスとしてまたは一定時間にわたる持続的注入としてヒトに静脈内投与されてもよい用量が含まれる、先に考察した剤形のような薬学的に許容される投与剤形で哺乳動物、好ましくはヒトに投与される。
【0129】
組成物はまた、調節剤がタンパク質様分子である場合に、ベクターが調節剤をコードすることができる核酸分子を有する、標的細胞にトランスフェクトすることができるベクターのような遺伝的分子を含んでもよい。ベクターはたとえば、ウイルスベクターであってもよい。この点において、一定の細胞を単離する段階、細胞を遺伝子操作する段階、および細胞を同じ対象または遺伝的に関連するもしくは類似の対象に戻す段階が含まれる、広範囲の遺伝子治療が本発明によって企図される。
【0130】
このゆえに、本発明は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害するために有効な量の物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法を企図する本発明のさらなる局面を企図する。
【0131】
もう1つの局面は、以下からなる群より選択されるG-CSFまたはG-CSFR阻害物質を対象に投与する段階を含む、CNSの炎症性神経変性状態を処置する方法を提供する:
a.G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体;
b.可溶性G-CSFRまたはそのG-CSF結合部分;
c.SEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子。
【0132】
もう1つの局面において、本発明は、G-CSFもしくはG-CSFRの活性を阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害するために有効な量の物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるMSまたはドヴィック病を処置する方法に向けられる。
【0133】
本発明のもう1つの局面は、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する物質と、抗炎症剤、免疫抑制剤、またはCNSの炎症性神経変性状態の処置において用いられる他の物質などの少なくとも1つの他の治療物質とを投与する段階を含む、対象におけるMS、ドヴィック病、および脳のウイルス感染症などの、しかしこれらに限定されないCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法に関する。
【0134】
特定の態様において、本発明は、G-CSFまたはG-CSFRまたはG-CSF/G-CSFR相互作用の活性を阻害するために有効な量の抗体またはその抗原結合部分を対象に投与する段階を含む、対象におけるMS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症を処置する方法を企図する。
【0135】
本発明はさらに、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置するための薬剤の製造において、G-CSFもしくはG-CSFRの活性を阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する物質を用いることを企図する。
【0136】
なおさらなる局面は、物質が以下からなる群より選択される、CNSの炎症性神経変性状態を処置するための薬剤の製造において、G-CSFもしくはG-CSFRを阻害するまたはG-CSFもしくはG-CSFRの発現を阻害する物質を用いることを企図する:
a.G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体;
b.可溶性G-CSFRまたはそのG-CSF結合部分;
c.SEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子、またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子。
【0137】
特定の態様において、本発明は、対象におけるMS、ドヴィック病、または脳のウイルス感染症を処置するための薬剤の製造において、G-CSFまたはG-CSFRに対する抗体を用いることに向けられる。
【0138】
本発明のこれらの局面に従って、CNSの炎症性神経変性状態は、好中球の浸潤に関連するまたは好中球の浸潤を特徴とする状態である。特定の状態は、MS、ドヴィック病、および脳のウイルス感染症である。
【0139】
G-CSFまたはその受容体の阻害を試験するために有用な動物モデルまたはG-CSF媒介シグナル伝達の拮抗に対する他のアプローチには、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルが含まれる。
【0140】
本発明に従って、試験アンタゴニストによるG-CSFの抑制は、EAEモデルにおいて好中球数に有意な影響を有し、モデルにおける疾患レベルを低減させた。好中球は、CNS炎症の重要なメディエーターであることから、EAEモデルにおいてG-CSFアンタゴニストによって好中球数の有意な低減が誘導されたことは、G-CSF活性の拮抗が有用な治療アプローチであることを示している。
【0141】
本発明を、以下の非制限的な実施例によってさらに説明する。実施例において、以下の材料および方法を使用する。
【0142】
動物
雌性C57Bl/6マウスまたはG-CSF KOマウス(A. Dunn, Ludwig Institute for Cancer Research, Parkville, Australiaによって提供された)を用いた。
【0143】
薬物投与
マウスに、アイソタイプ対照または抗GCSF抗体(第1章で概要したとおり)の明記された用量を1日1回、静脈内注射によって投与した。
【0144】
抗体
好中球数を分析するために、抗CD11b(M1/70)、および抗GR1(1A8)をBD pharmingen(San Diego, CA, USA)から購入した。アイソタイプ対照(ラットIgG1)HRPNは、BioXcell(West Lebanon, NH, USA)から購入した。中和抗G-CSF(MAB414)は、R&D systems(Minneapolis, MN, USA)から購入した。
【0145】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)
EAEを、8〜12週齢の雌性マウスにおいて誘導した。マウスに、CFA(Difco, BD San Diego, CA, USA)中で乳化させたミエリンペプチド35-55 MOG(Mimotopes, Clayton, Vic, Australia)100μgを皮下免疫した後、百日咳毒素(Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)200 ngをd0およびd2に静脈内投与した。臨床麻痺スコアを、既に記述されたように各マウスに関して最大スコア6で評価した(Langrish et al, J Exp Med 201(2):233-40, 2005)。
【0146】
好中球数の評価
EAEにおける抗G-CSF処置の際の好中球数の分析に関して、動物をd0(無処置)、d7、d14、およびd21に屠殺した。脾臓および頚部LNから単細胞浮遊液を作製して、赤血球溶解緩衝液(Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)による低張溶解によって赤血球を除去した。血液分析に関して、赤血球を低張溶解によって除去した。骨髄分析に関して、大腿骨を採取して氷冷PBS中に押し出し、赤血球を低張溶解によって除去した。CNS細胞の分析に関して、単核球を既に記述されたように単離した(Langrish et al, 2005、前記)。脾臓、血液、リンパ節、骨髄およびCNS細胞の単細胞浮遊液を、抗CD11bおよびGR1抗体(1/100倍希釈)によって染色して、洗浄し、FACS Canto(BD, San Jose, CA, USA)において試験した。Flowjoソフトウェア(Treestar, Ashland OR, USA)を用いてデータを分析した。
【0147】
T細胞の再活性化およびサイトカインアッセイ
脾臓、鼠径部、腋窩および上腕LNを、MOG/CFAによる皮下免疫後10日目にマウスから採取した。細胞を、70μmフィルターを通してのホモジナイゼーションによって単離した後、培地中で2回洗浄して、各処置群に関してプールした。CD4+ T細胞を、製造元(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)の説明書に従ってMACS陽性選択によって精製した。T細胞の純度は、FACSによって決定したところ、>95%CD4+であった。精製CD4+ T細胞2×105個を、0.2 ml中で放射線照射脾細胞2×105個と共に、100μg/ml MOG35-55ペプチドを有する96ウェルプレートにおいて1試料あたりウェル3個ずつ3日間培養した。上清を回収して、Luminex 200機器(Austin, TX, USA)において製造元の説明書に従ってMilliplexアッセイ(Millipore, Billerica, MA, USA)によってサイトカインを測定した。
【0148】
統計分析
統計分析を行うために用いられる両側のマンホイトニー検定を、Prism(商標)ソフトウェアを用いて行った。
【実施例】
【0149】
実施例1
G-CSF欠損マウスは、自己免疫性神経炎症のEAEモデルにおいて疾患の臨床徴候から保護される
自己免疫性神経炎症におけるG-CSFの役割を調べるために、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスモデルを用いた。EAEは、運動ニューロン機能の変性が含まれるMSおよびドヴィック病の臨床および組織病理学的徴候の多くを再現する広く用いられる動物モデルである。
【0150】
野生型(C57Bl/6)またはG-CSFノックアウトマウス(KO)マウスにおいてEAEを誘導した。疾患を0日目から30日目までモニターして、臨床麻痺を採点した。
【0151】
G-CSFを欠損するマウス(G-CSFノックアウトマウス、G-CSF KO)は、進行性の運動ニューロン機能障害から保護されることが見いだされた(図1)。このことは、インビボにおいて、G-CSFが自己免疫性CNS破壊の病原性機構において重要な前炎症性の役割を果たすことを示した。
【0152】
実施例2
G-CSFの遮断は自己免疫性神経炎症のEAEモデルにおいて疾患の臨床徴候を阻害する
G-CSFの治療的阻害がインビボで有益であるか否かを調べるために、先に記述したように野生型マウスにおいてEAEを誘導して、中和抗G-CSFモノクローナル抗体(mAb)によって処置した。中和抗G-CSF mAbによってマウスを処置すると、EAEの臨床進行を阻害することが見いだされた(図2)。抗G-CSFは、臨床症状発現までの平均日数(スコア1)に影響を及ぼさず[表3]、またはピーク疾患までの平均日数(表4)に影響を及ぼさなかった。しかし、中和抗G-CSF mAbによる処置は、平均臨床スコアを阻害して、進行性の麻痺から動物を保護した(表5)。それゆえ、初回発症後の疾患の進行は遅くなる。
【0153】
(表3)平均疾患発症日数

* 有意差なし
【0154】
(表4)ピーク臨床スコアまでの平均日数

* 有意差なし
【0155】
(表5)平均臨床スコア

* p=0.005
【0156】
実施例3
抗G-CSF処置は自己免疫性神経炎症のEAEモデルにおいて疾患誘導好中球を阻害する
インビボでの好中球数に及ぼすG-CSF遮断の効果を評価するために、先に記述したEAEモデルにおいてアイソタイプ対照または抗G-CSF処置の際に経時的分析を行った。動物をd0(無処置)、d7、d14、およびd21に屠殺して、好中球数を評価した。
【0157】
EAEの誘導後、好中球数は、血液、骨髄、CNS、リンパ節、および脾臓において増加した(図3)。抗G-CSFによる処置は、これらの部位の全てにおいて好中球増加を阻害して(図3)、インビボでの好中球応答の制御におけるG-CSFの重要な役割と一貫した。
【0158】
実施例4
抗G-CSF処置は自己免疫性神経炎症EAEモデルにおける前炎症性T細胞サイトカインを阻害する
CD4+ T細胞サイトカインは、炎症の重要な調節因子である。この経路における抗G-CSF処置の効果を解明するために、先に記述したEAEモデルにおいてアイソタイプ対照または抗G-CSF処置マウスの10日目の屠殺動物の脾臓およびリンパ節からの精製CD4+ T細胞を用いて、MOGによってインビトロで精製CD4+ T細胞を再活性化して、サイトカイン発現を分析した。
【0159】
抗G-CSF処置は、再活性化に応答して前炎症性サイトカインの発現を阻害した。抗G-CSF処置は、全てEAEを促進させる重要なサイトカインであるIL-6、TNFα、GM-CSF、およびIL-17の発現を低減させた(図4)。抗G-CSF処置はまた、神経炎症の際の細胞動員にとって重要なCC-ファミリーケモカインの発現も阻害した(Boven et al, Clin Exp Immunol 122(2):257-63, 2000)。再活性化の際のCD4+ T細胞によるMIP-1α、MIP-1β、MCP-1およびRANTESの発現は、インビボで抗G-CSF処置によって阻害された(図4)。
【0160】
実施例5
様々なG-CSFアンタゴニストによるhG-CSF受容体発現Ba/F3細胞におけるG-CSF媒介増殖の阻害
Layton et al, J. Biol. Chem. 272:29735-29741, 1997によって記述されたようにhG-CSFRを安定にトランスフェクトしたBaF3細胞を、96ウェルプレートにおいて5%v/v FBSおよび0.5 ng/ml rhまたはmGCSF(R&D Systems、カタログ番号はそれぞれ、214-CSおよび414-CS)を有するDMEM培地中で細胞20,000個/ウェルで培養した。G-CSFアンタゴニスト(R&D Systems MAB414、抗hG-CSFR mAb711およびhG-CSFR-Fc)を、1μMから開始して3倍滴定用量で加えて、培養48時間後に細胞増殖をMTS還元(Cory et al, Cancer Commun. 3:207-12, 1991; Riss and Moravec, Mol. Cell Biol. 3(1):184a, 1993)によって測定した。
【0161】
A.抗G-CSF抗体による阻害:
抗G-CSFは、IC50 10 pMでmG-CSF増殖を阻害することができた。
【0162】
B.抗hG-CSFR抗体による阻害:
hG-CSF受容体に対するマウスモノクローナル抗体、mAb711(Layton et al、前記、1997)およびそのヒト化誘導体はそれぞれ、IC50 1.1 nMおよび1.5 nMでmG-CSF増殖を阻害することができた。
【0163】
mAb711の重鎖および軽鎖可変領域とヒトIgG1重鎖および軽鎖定常領域とを含むキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体mAb711と類似のIC50でG-CSF活性を阻害した。
【0164】
C.可溶性hG-CSFR-Fcタンパク質による阻害:
可溶性G-CSFR-Fcタンパク質(Honjo et al, Acta Cryst F61:788-790, 2005)は、22 pMのIC50でmG-CSF増殖を阻害することができた。
【0165】
これらの結果は、G-CSFに対する抗体、G-CSFRに対する抗体、および可溶性G-CSF受容体が含まれるがこれらに限定されるわけではない、多様なアンタゴニストによってG-CSFの生物活性が阻害されることを証明している。
【0166】
当業者は、本明細書において記述される本発明が、具体的に記述される内容以外の変化形および改変を受けることを認識するであろう。本発明には、そのような全ての変化形および改変が含まれると理解される。本発明にはまた、本明細書において、個々にまたは集合的に言及または示された段階、特色、組成物、および化合物の全て、ならびに該段階または特色の任意の2つまたはそれより多くの任意のおよび全ての組み合わせが含まれる。
【0167】
参考文献






【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択されるG-CSFまたはG-CSFR阻害物質を対象に投与する段階を含む、対象におけるCNSの炎症性神経変性状態を処置する方法:
G-CSFもしくはG-CSFRに対して特異的な抗体;可溶性G-CSFRもしくはそのG-CSF結合部分;およびSEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子;またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする20〜30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子。
【請求項2】
G-CSF抗体が、G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗原結合断片である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炎症性神経変性状態が、多発性硬化症(MS)、ドヴィック病、および脳のウイルス感染症である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗炎症剤、免疫抑制剤、またはCNSの炎症性神経変性状態の処置において用いられる他の物質からなる一覧より選択される治療物質の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体がモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
抗体が、キメラ、ヒト、またはヒト化抗体である、請求項9記載の方法。
【請求項8】
抗体がヒト抗体である、請求項9記載の方法。
【請求項9】
物質が、G-CSFもしくはG-CSFRに対して特異的な抗体;可溶性G-CSFRもしくはそのG-CSF結合部分;およびSEQ ID NO:3に記載される配列を含む、G-CSFをコードする核酸分子を標的とする長さが20から30ヌクレオベースの20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子;またはSEQ ID NO:7に記載される配列を含む、G-CSFRをコードする核酸分子を標的とする長さが20から30ヌクレオベースの20から30ヌクレオチドのセンスもしくはアンチセンス分子からなる群より選択される、対象における好中球の浸潤に関連するCNS状態を処置するための薬剤の製造における、G-CSFもしくはG-CSFRの活性を阻害する、またはG-CSFもしくはG-CSFRをコードする遺伝子の発現を阻害する物質の使用。
【請求項10】
G-CSF抗体がG-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗原結合断片である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
CNS状態が多発性硬化症である、請求項9記載の使用。
【請求項12】
CNS状態がドヴィック病である、請求項9記載の使用。
【請求項13】
CNS状態が脳のウイルス感染症である、請求項9記載の使用。
【請求項14】
対象がヒトである、請求項9記載の使用。
【請求項15】
抗炎症剤、免疫抑制剤、またはCNSの炎症性神経変性状態の処置において用いられる他の物質からなる一覧より選択される治療物質の使用をさらに含む、請求項9記載の使用。
【請求項16】
G-CSFまたはG-CSFRに対して特異的な抗体がモノクローナル抗体である、請求項9記載の使用。
【請求項17】
抗体が、キメラ、ヒト、またはヒト化抗体である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
抗体がヒト抗体である、請求項15記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−504603(P2013−504603A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529062(P2012−529062)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001191
【国際公開番号】WO2011/032204
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(500021413)シーエスエル、リミテッド (28)
【Fターム(参考)】