説明

神経移植体の製造方法

【課題】本発明は、神経移植体の製造方法に関する。
【解決手段】本発明の神経移植体の製造方法は、カーボンナノチューブ構造体を提供するステップと、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成するステップと、前記親水層に極性化の表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行うステップと、前記親水層の極性化の表面に複数の神経細胞を播種するステップと、隣接する神経細胞が互いに接続して、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経移植体の製造方法に関して、特に生物体内に移植することができる神経移植体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経系は、主に神経細胞及び神経膠細胞(グリア細胞)からなり、生物の情報を伝達する神経ネットワークである。該神経ネットワークは、他の組織又は器官と繋がり、機能の調和を行う。神経系において、神経細胞が刺激を受けて、神経伝達物質を放出することによって、組織又は器官の間の情報の伝達を行う。前記神経膠細胞は、神経細胞の支持、栄養・代謝の調節などに働く細胞群である。各々の神経細胞は、形態によって細胞体(Cell body)及び神経突起(Neurite)を含む。前記神経突起は、細胞体から伸び、他の神経細胞又は他の細胞(例えば、筋肉細胞)へ成長する。また、前記神経突起は、樹状突起及び軸索を含み、前記樹状突起は、外部からの刺激を受けて、それを軸索を通して軸索の末端に伝達することによって、前記軸索の末端から他の細胞に神経伝達物質を放出する。
【0003】
現在、神経系が損傷した場合、神経移植体を移植して、神経系を修復する。これは、神経外科の手術において、損傷を修復するための重要な方法である。従来技術の神経移植体とは、神経系において損傷部分の両端を繋ぎ合わせた神経管である。該神経管は、生物分解が可能な材料からなる管状構造体である。神経系において損傷部分の一端に位置する神経細胞は、前記神経管の内壁に沿って神経突起を成長させ、該神経突起は、前記神経系において損傷部分のもう一つの端に位置する神経細胞に到着する。
【0004】
従って、前記神経管は、神経細胞の支持体であり、神経系において損傷部分の神経細胞の神経突起が損傷すると、神経細胞が前記神経管の支持によって神経突起を成長させて、損傷した神経系の修復を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第101239712B号明細書
【特許文献2】特開2008−297195公報
【特許文献3】中国特許出願公開第101284662A号明細書
【特許文献4】特許第3868914号明細書
【特許文献5】特許第4486060号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、損傷部分の神経細胞が死亡した場合、該神経細胞の損傷部分に、神経管を移植しても、損傷した神経系を修復することはできない。
【0008】
従って、本発明は、損傷した神経系を修復し且つその時間を短縮できる神経移植体の製造方法、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
神経移植体の製造方法は、カーボンナノチューブ構造体を提供するステップと、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成するステップと、前記親水層に極性化表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行うステップと、前記親水層の極性化表面に複数の神経細胞を播種するステップと、隣接する神経細胞が互いに接続して、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養するステップと、を含む。
【0010】
前記親水層に極性化表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行うステップにおいて、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面を処理する。
【0011】
前記アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面を処理するステップにおいて、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層を被覆して、10時間以上放置し、前記親水層の表面がアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液に極性化された後、無菌の脱イオン水で前記親水層の表面に形成されたアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液を洗浄して、該親水層の極性化された表面を露出させる。
【0012】
前記親水層に対して、極性化処理を行うステップの前に、前記カーボンナノチューブ構造体に形成された前記親水層に対して、殺菌処理を行う。
【0013】
神経移植体の製造方法は、カーボンナノチューブ構造体を提供するステップと、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成するステップと、前記親水層の表面に極性層を形成するステップと、前記極性層の表面に複数の神経細胞を播種するステップと、神経細胞に複数の神経突起を成長させて、複数の神経細胞の神経突起が互いに接続され、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明における神経移植体の製造方法で製造された神経移植体は、生物体の神経系の神経ネットワークを修復することができる。前記培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブからなる自立構造体であるので、弾性及び延展性に優れ且つ質量も軽い。また、前記培養用基体の親水層の表面は、神経ネットワークの電荷極性と異なる電荷極性を有するので、該神経ネットワークが前記培養用基体の表面に緊密に接着される。従って、前記神経移植体は、破壊された神経系の損傷部分の形状及び大きさによって、裁断し、引き伸ばすことができる。その後、前記損傷部分に移植される。前記神経移植体は、前記神経ネットワークを含み、該神経ネットワークにおける神経細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞との距離は近いので、該神経移植体における神経細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞とは、再び繋がることができる。従って、神経細胞が死亡した神経系の修復が実現できる。
【0015】
本発明の実施例における神経移植体の製造方法は、物理方法を利用するので、容易に親水層をカーボンナノチューブ構造体の表面に形成することができる。且つ神経細胞を影響、損傷する汚染物質を導入することができない。従って、前記親水層は、神経細胞を損傷せず、神経細胞の成長に影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施例に係る神経移植体の断面図である。
【図2】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図3】ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
【図4】積層された複数のカーボンナノチューブフィルムが形成された層状構造体を示す図である。
【図5】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが等方的に配列されたカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図6】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されたカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図7】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図8】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、非ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤのSEM写真である。
【図9】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤのSEM写真である。
【図10】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、二酸化珪素層が一枚のカーボンナノチューブフィルムに形成された構造体のTEM写真である。
【図11】本発明の第一実施例に係る神経移植体の平面構造を示す図である。
【図12】本発明の第一実施例に係る神経移植体の製造方法のフローチャートである。
【図13】本発明の第一実施例に係る神経移植体における、培養用基体に播種された神経細胞が複数の神経突起を分化したSEM写真である。
【図14】本発明の第一実施例に係る神経移植体が染色されたSEM写真である。
【図15】本発明の実施例2に係る神経移植体の断面図である。
【図16】本発明の実施例2に係る神経移植体の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0018】
(実施例1)
図1を参照すると、本発明の実施例1は、神経移植体100を提供する。該神経移植体100は、培養用基体10及び該培養用基体10の表面に分布する神経ネットワーク20を含む。前記神経ネットワーク20は、複数の神経細胞21を含み、該複数の神経細胞21が互いに接続してネットワーク構造体を形成する。前記培養用基体10の一つの表面には、前記神経ネットワーク20の表面の電荷極性と異なる電荷極性を有し、前記神経ネットワーク20が前記培養用基体10の表面に緊密に接着される。
【0019】
前記培養用基体10は、カーボンナノチューブ構造体12及び親水層14を含む。前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に設置されている。前記親水層14の前記カーボンナノチューブ構造体12とは反対側の表面は、電荷極性を有する。該親水層14の電荷極性は、前記神経ネットワーク20の表面の電荷極性と異なる。前記カーボンナノチューブ構造体12は、複数のカーボンナノチューブからなる。
【0020】
前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12における少なくとも一部のカーボンナノチューブの表面に形成される。具体的には、前記親水層14を、前記カーボンナノチューブ構造体12の内部に浸透させてもよく、前記親水層14を、前記カーボンナノチューブ構造体12の一つの表面に形成されたカーボンナノチューブの表面に形成してもよい。また前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に親水性をもたせると同時に、前記親水層14はさらに極性層を有する。ここで、該極性層は、前記親水層14を極性化させて形成した表面16である。該極性化表面16は、前記親水層14の前記カーボンナノチューブ構造体12とは反対側の表面に形成され、前記神経ネットワーク20における神経細胞21の電荷極性と異なる電荷極性を有する。電荷の作用によって、前記神経細胞21を前記親水層14の前記極性化表面16に接着させるので、前記培養用基体10は、前記神経細胞21に容易に接着できる。従って、前記親水層14は、前記神経細胞21の成長に有利であり、容易に神経ネットワーク20を形成させることができる。前記親水層14の厚さは制限されず、1〜100ナノメートルであることが好ましい。この時、前記培養用基体10は、優れた靭性及び延展性を有する。また前記親水層14の厚さが1〜50ナノメートルである場合(例えば10ナノメートル)、前記親水層14の材料は、例えば、金属酸化物、酸化物の半導体などの親水性を有する無機材料であるが、二酸化珪素、二酸化チタンまたは鉄の酸化物などであることが好ましい。
【0021】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、複数のカーボンナノチューブからなり、該複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接続され、自立構造を形成する。自立構造とは、支持体を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体12を独立的に利用するというものである。前記カーボンナノチューブ構造体12は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルム又は少なくとも一本のカーボンナノチューブワイヤからなるフィルム状構造体である。前記カーボンナノチューブ構造体12が複数のカーボンナノチューブフィルムを含む場合、該複数のカーボンナノチューブフィルムは、積層して設置されている。隣接するカーボンナノチューブフィルムは、分子間力で接続される。前記カーボンナノチューブ構造体12が少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含む場合、該少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体は、折られ、交差し、編まれ、又は織られ、カーボンナノチューブフィルム状構造体に形成される。前記カーボンナノチューブ線状構造体は、少なくとも一つの非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、少なくとも一つのねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又は非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ及びねじれ状カーボンナノチューブワイヤの組み合わせである。該カーボンナノチューブ構造体12の厚さは、実際の応用に応じて決定される。
【0022】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、複数のカーボンナノチューブからなり、該複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接続されるので、軽く、弾性及び延展性に優れている。従って、前記カーボンナノチューブ構造体12は、容易に切り又は引き伸ばすことができる。
【0023】
また、前記カーボンナノチューブは、優れた導電性、熱伝導性、音伝導特性を有するので、前記カーボンナノチューブ構造体12も、優れた電気伝導性、熱伝導性、音伝導特性を有する。神経細胞の成長も、電気伝導性、熱伝導性及び音伝導特性の影響を受けるので、前記カーボンナノチューブ構造体12を含む前記培養用基体10に神経細胞を成長させることは、電気伝導性、熱伝導性及び音伝導特性などの神経細胞21に対する影響を研究することができる。一般的に、前記カーボンナノチューブ構造体12におけるカーボンナノチューブは、化学又は物理的処理を行わないカーボンナノチューブである。即ち、前記カーボンナノチューブは、純粋なカーボンナノチューブである。
【0024】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により、前記カーボンナノチューブ構造体12は、非配向型のカーボンナノチューブ構造体及び配向型のカーボンナノチューブ構造体の二種に分類される。
【0025】
前記非配向型のカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。前記配向型のカーボンナノチューブ構造体は、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列している。又は、配向型のカーボンナノチューブ構造体において、配向型のカーボンナノチューブ構造体が二つ以上の領域に分割される場合、各々の領域における複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されている。この場合、異なる領域におけるカーボンナノチューブの配列方向は異なる。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの中の一種又はこれらの組み合わせである。前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである場合、直径は0.5nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが二層カーボンナノチューブである場合、直径は1nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである場合、直径は1.5nm〜50nmに設定される。
【0026】
具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体12は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルム又は少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含む。
【0027】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む。図2を参照すると、単一の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aは、超配列カーボンナノチューブアレイ(Superaligned array of carbon nanotubes,非特許文献1を参照)から引き出して得られ、自立構造を有したものである。単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記複数のカーボンナノチューブの大部分は、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に平行に、カーボンナノチューブフィルムを引き出す方向に沿って、且つ、同じ方向に沿って配列されている。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で端と端が接続されている。
【0028】
微視的には、前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブ以外に、同じ方向に沿っておらずランダムな方向を向いたカーボンナノチューブも存在している。該ランダムな方向を向いたカーボンナノチューブの割合は、前記同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブに比べて小さい。
【0029】
図3を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長さ方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さは実質的に同じである。前記カーボンナノチューブフィルム143aを有機溶剤に浸漬させることにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aの強靭性及び機械強度を高めることができる。また前記カーボンナノチューブフィルム143aの透光率も75%以上程度まで達することができる。
【0030】
前記カーボンナノチューブ構造体が複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む場合、該複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aは積層して、層状構造体を形成するが、該層状構造体の厚さは制限されない。図4を参照すると、隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145は、それぞれ0°〜90°の角度で交差している。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145が0°以上の角度で交差する場合、前記複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、互いに交差して、網状構造体を形成し、前記カーボンナノチューブ構造体の機械性能を高める。例えば、前記カーボンナノチューブ構造体は、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含み、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。即ち、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブの延長方向は、垂直している。前記カーボンナノチューブフィルム143aの構造及び製造方法は、特許文献1を参照する。前記カーボンナノチューブ構造体を含む前記カーボンナノチューブフィルム143aが少ない場合、例えば、10枚より少ない前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む際、特に、一枚の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む際、前記カーボンナノチューブ構造体は、優れた透光率を有する。
【0031】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のプレシッド構造カーボンナノチューブフィルム(pressed carbon nanotube film)を含む。図5又は図6を参照すると、前記カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは、等方的に配列されているか、所定の方向に沿って配列されているか、または、異なる複数の方向に沿って配列されている。前記カーボンナノチューブフィルムは、押し器具を利用することにより、所定の圧力をかけて前記カーボンナノチューブアレイを押し、該カーボンナノチューブアレイを圧力で倒すことにより形成された、シート状の自立構造を有するものである。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの配列方向は、前記押し器具の形状及び前記カーボンナノチューブアレイを押す方向により決められている。
【0032】
図5を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向せずに配置されている。該カーボンナノチューブフィルムは、等方的に配列されている複数のカーボンナノチューブを含み、隣接するカーボンナノチューブが分子間力で相互に引き合い、接続する。また該カーボンナノチューブ構造体は、平面等方性を有する。該カーボンナノチューブフィルムは、平面を有する押し器具を利用して、カーボンナノチューブアレイが成長する基板に垂直な方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを押すことにより形成される。
【0033】
図6を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向して配列されている。該カーボンナノチューブフィルムは、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブを含む。ローラー形状を有する押し器具を利用して、同じ方向に沿って前記カーボンナノチューブアレイを同時に押すと、基本的に同じ方向に配列されたカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。また、ローラー形状を有する押し器具を利用して、異なる方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、前記異なる方向に沿って、選択的な方向に配列されたカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0034】
前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの傾斜の程度は、前記カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブと該カーボンナノチューブフィルムの表面は、角度αを成し、該角度αは0°以上15°以下である。好ましくは、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、該カーボンナノチューブフィルムの表面に平行する。前記圧力が大きくなるほど、前記傾斜の程度も大きくなる。前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは、前記カーボンナノチューブアレイの高さ及び該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係し、0.5ナノメートル〜100マイクロメートルである。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの高さが高くなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が小さくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは大きくなる。これとは逆に、カーボンナノチューブアレイの高さが低くなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が大きくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは小さくなる。前記プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムの構造及び製造方法は、特許文献2を参照する。
【0035】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚の綿毛構造カーボンナノチューブフィルム(flocculated carbon nanotube film)を含む。図7を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブは、相互に絡み合い、等方的に配列されている。複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されている。単一の前記カーボンナノチューブの長さは、10マイクロメートル以上であり、200マイクロメートル〜900マイクロメートルであること好ましい。前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造の薄膜の形状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接近して、相互に絡み合い、カーボンナノチューブネット状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは、配向せずに配置されて、複数の微小な穴が形成されている。ここで、単一の前記微小な穴の直径は、1ナノメートル〜500ナノメートルである。前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブは、相互に絡み合って配置されるので、該カーボンナノチューブ構造体は柔軟性に優れ、任意の形状に湾曲して形成させることができる。前記綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの構造及び製造方法は、特許文献3を参照する。
【0036】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含むことができる。前記カーボンナノチューブ線状構造体は、少なくとも一つの非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、少なくとも一つのねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又は非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ及びねじれ状カーボンナノチューブワイヤの組み合わせである。
【0037】
図8を参照すると、前記カーボンナノチューブワイヤ(非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ)は、分子間力で端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブセグメント(図示せず)を含む。前記カーボンナノチューブセグメントは、同じ長さ及び幅を有する。さらに、各々の前記カーボンナノチューブセグメントに、同じ長さの複数のカーボンナノチューブが平行に配列され、隣接するカーボンナノチューブが分子間力で緊密に結合されている。前記複数のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブワイヤの中心軸に平行に配列されている。前記カーボンナノチューブワイヤの長さは制限されず、その直径は0.5ナノメートル〜1ミリメートルである。
【0038】
前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを、有機溶剤で処理して形成したものである。前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、前記図2に示すようなカーボンナノチューブフィルム143aを、有機溶剤で処理することにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aをカーボンナノチューブワイヤに形成させる。
【0039】
具体的には、有機溶剤を前記カーボンナノチューブフィルム143aの表面に滴下し、該有機溶剤を前記カーボンナノチューブフィルム143aに浸漬させる。前記有機溶剤は、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性有機溶剤である。本実施例において、前記有機溶剤は、エタノールである。従って、前記有機溶剤の表面張力によって、前記カーボンナノチューブフィルム143aにおける複数のカーボンナノチューブを縮ませて、該カーボンナノチューブワイヤが形成される。該カーボンナノチューブワイヤは、前記カーボンナノチューブフィルム143aより、比表面積が小さくなり、接着性が低くなる。
【0040】
図9を参照すると、前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸を軸に、螺旋状に配列された複数のカーボンナノチューブを含む。前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、分子間力で端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブセグメント(図示せず)を含む。各々の前記カーボンナノチューブセグメントは、分子間力で端と端が接続された複数のカーボンナノチューブを含む。
【0041】
前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、機械外力で図2に示すような前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aを処理して形成されたものである。具体的には、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aの両端を異なる方向に沿って絞る。該ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aは、接着性を有するので、該カーボンナノチューブフィルム143aは、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤに形成することができる。更に、前記ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤを揮発性有機溶剤で処理してもよい。前記揮発性有機溶剤の表面力の作用で、前記ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤにおける隣接するカーボンナノチューブが分子間力で緊密に接続されるので、該ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤは、直径及び比表面積が小さくなり、大きな密度、優れた機械強度及び優れた靭性を有する。
【0042】
前記カーボンナノチューブワイヤの構造及び製造方法は、特許文献4及び特許文献5を参照する。
【0043】
前記カーボンナノチューブ構造体12の厚さが薄い場合、前記親水層14が前記カーボンナノチューブ構造体12における各々のカーボンナノチューブの表面に形成される。例えば、図8を参照すると、前記カーボンナノチューブ構造体12は、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aであり、前記親水層14は二酸化珪素層である場合、二酸化珪素の粒子が、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aにおける各々のカーボンナノチューブの表面に分布し、且つ各々のカーボンナノチューブを被覆する。しかし、前記カーボンナノチューブ構造体12の厚さが厚い場合、前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に位置するカーボンナノチューブの表面に分布し、前記カーボンナノチューブ構造体12(例えば、前記カーボンナノチューブ構造体12が複数の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含み、特に10枚以上の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む場合)の内部に位置するカーボンナノチューブの表面に到達しにくい。
【0044】
本実施例において、前記カーボンナノチューブ構造体12は、三十枚の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aが積層してからなるものである。隣接する前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145は、90°の角度で交差している。前記親水層14は、厚さが10ナノメートルの二酸化珪素層である。前記二酸化珪素層は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に位置するカーボンナノチューブの表面に分布した二酸化珪素の粒子が連続的に形成されたものである。前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に親水性をもたせるので、神経細胞の成長に適する。また前記親水層14は無機材料からなり、保存しやすいので、前記培養用基体10も保存しやすい。また前記親水層14は、物理的方法を利用して、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に形成されるので、神経細胞21に影響を及ぼし、神経細胞21を損傷する汚染物質が浸入することができない。従って、前記二酸化珪素層も神経細胞21を損傷できず、神経細胞21の成長に影響を与えない。
【0045】
前記カーボンナノチューブ構造体12及び前記親水層14が透明材料である場合、前記培養用基体10も透明である。例えば、前記カーボンナノチューブ構造体12が一枚のドローン構造カーボンナノチューブフィルムであり、前記親水層14が二酸化珪素層である場合、前記培養用基体10は透明構造体である。
【0046】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、優れた靭性及び延展性を有し、前記親水層14の厚さが100ナノメートル以下であるので、前記培養用基体10は優れた靭性及び延展性を有する。特に、前記カーボンナノチューブ構造体12がドローン構造カーボンナノチューブフィルムである場合、前記培養用基体10は、より優れた靭性及び延展性を有する。また、前記親水層が二酸化珪素層または二酸化チタン層である場合、前記培養用基体10は、生物体内に直接移植することができる。
【0047】
前記培養用基体10は、さらに基体(図示せず)を含むことができる。この場合、前記カーボンナノチューブ構造体12は、前記基体の表面に設置され、前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の前記基体とは反対側の表面に設置される。前記基体は、前記カーボンナノチューブ構造体12及び前記親水層14を支持することにも用いられる。前記基体の材料は、プラスチック、生物分解が可能な材料、生物毒性がない材料である。前記プラスチックは、ポリスチレンである。前記生物分解が可能な材料は、熱可塑性の澱粉プラスチック、脂肪族のポリエステル、ポリ乳酸又は澱粉/ポリビニルアルコールである。前記生物毒性がない材料は、シリカゲルである。前記基体の材料は、生物分解が可能な材料又は生物毒性がない材料であるので、該培養用基体10を生物体に直接移植することができる。
【0048】
前記基体の形状及び厚さは、前記カーボンナノチューブ構造体12の形状及び厚さに応じて形成される。例えば、前記基体の表面の面積及び形状は、前記カーボンナノチューブ構造体12の面積及び形状と基本的に同じである。前記カーボンナノチューブ構造体12の厚さが薄い場合、該カーボンナノチューブ構造体12は、小さな機械強度及び大きな比表面積を有する。従って、前記カーボンナノチューブ構造体12は、外力作用によって破損しやすく、ほかの物体に接着しやすい。そこで前記カーボンナノチューブ構造体12を前記基体の表面に設置することによって、前記カーボンナノチューブ構造体12を、移動に便利で、外力作用によって破損されにくく且つ他の物体に接着することを防止する。また前記培養用基体10を生物体内に移植した後、前記基体を除去する必要がない。
【0049】
前記神経ネットワーク20は、前記親水層14の極性化表面16に設置される。図11を参照すると、前記神経ネットワーク20は、複数の神経細胞21を含む。各々の神経細胞21は、細胞体22と、該細胞体22から伸びる複数の神経突起24とを含む。隣接する神経細胞21の間の神経突起24は、互いに接続される。前記神経突起24は、樹状突起及び軸索を含む。前記培養用基体10の表面には、一つの神経細胞21だけがある場合、前記神経細胞21の神経突起24が前記培養用基体10の表面に沿って、各々の方向へランダム成長する。前記培養用基体10の表面には、複数の神経細胞21がある場合、該神経細胞21の神経突起24が隣接する神経細胞21の方向へ成長するので、隣接する神経細胞21が互いに接続される。前記神経細胞21は、哺乳動物の神経細胞を含む。本実施例において、前記神経細胞21は、海馬神経細胞であり、該海馬神経細胞は、三十枚の積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムを有する培養用基体10の表面に成長される。該培養用基体10は、二酸化珪素層及び三十枚の積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む。前記海馬神経細胞は、前記二酸化珪素層の極性化表面に設置される。
【0050】
前記カーボンナノチューブ構造体は、弾性及び延展性に優れ、且つ質量も軽いので、生物体内に直接移植することができる。従って、破壊された神経系の損傷部分の形状及び大きさによって、前記カーボンナノチューブ構造体を支持体としての神経移植体を、裁断し又は引き伸ばして、前記神経系の損傷部分に移植される。前記神経移植体が前記神経ネットワークを含み、該神経ネットワークにおける神経細胞と、前記神経系の損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞との距離は近いので、該神経移植体における神経細胞と、前記神経系の損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞と、は、再び繋がることができる。従って、神経細胞が死亡した神経系の修復が実現できる。
【0051】
図12を参照すると、本発明の実施例1は、神経移植体の製造方法を提供する。該製造方法は、以下のステップを含む。
ステップ10:カーボンナノチューブ構造体を提供する。
ステップ20:前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成する。
ステップ30:前記親水層に極性化表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行う。
ステップ40:前記親水層の極性化表面に複数の神経細胞を播種する。
ステップ50:隣接する神経細胞が互いに接続して、神経ネットワークを形成するまで、複数の前記神経細胞を培養する。
【0052】
前記ステップ10では、前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブを含み、該複数のカーボンナノチューブが分子間力で接続され、自立構造が形成される。前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含み、該カーボンナノチューブフィルムは、例えば、図2に示すようなドローン構造カーボンナノチューブフィルム、図7に示すような綿毛構造カーボンナノチューブフィルム、又は図5又は図6に示すようなプレシッド構造カーボンナノチューブフィルムである。前記カーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブ線状構造であってもよく、該カーボンナノチューブ線状構造は、少なくとも一つのカーボンナノチューブワイヤを含み、該カーボンナノチューブワイヤが図9に示すようなねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又は図8に示すような非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤである。
【0053】
前記ステップ20では、蒸着、スパッタリング、吹付け塗装などの物理的方法を利用して、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に前記親水層を形成して、該親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面は、神経細胞を播種することに用いる。前記親水層の厚さは、1〜100ナノメートル以下である。さらに、懸架されている前記カーボンナノチューブ構造体の表面に前記親水層を形成することが好ましく、前記カーボンナノチューブ構造体の構造特性の保持にさらに有利である。前記親水層の材料は、金属酸化物又は酸化物の半導体などの親水性を有する材料である。具体的には、前記親水層の材料は、二酸化珪素、二酸化チタンまたは鉄の酸化物などである。物理的方法だけを利用するので、容易に前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成することができる。
【0054】
前記ステップ30では、前記親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面に対して、極性化処理を行って、該表面を極性化表面に形成する。具体的には、前記ステップ30は、下記のサブステップを含む。
【0055】
ステップ31:支持体を提供し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に設置する。具体的には、前記親水層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を前記支持体に接触させるように、前記支持体の表面に設置する。具体的には、まず、支持体を提供して、前記親水層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を所定の形状に加工する。その後、所定の形状を有するカーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に設置して、該カーボンナノチューブ構造体を前記支持体に接触させる。前記親水層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に緊密に接着させるために、有機溶剤で該カーボンナノチューブ構造体を処理する。前記支持体は、前記カーボンナノチューブ構造体に対して優れた接着性を有する必要があり、特に前記支持体は、平らな表面を有する必要がある。例えば、該支持体は、プラスチックの表面皿、培養器皿、四角形のプラスチック板である。
【0056】
前記ステップ31は、前記ステップ20の前に行うことができる。即ち、カーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に設置した後、該カーボンナノチューブ構造体の表面に前記親水層を形成する。
【0057】
ステップ32では、前記親水層に対して、殺菌処理を行う。前記殺菌処理の方式は制限されず、該親水層及びカーボンナノチューブ構造体にある細菌を殺菌することが可能であれば、どの処理方式でもよい。例えば、高温殺菌又は紫外線殺菌の方式で、前記親水層及び前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行う。一般的に、前記親水層及び前記カーボンナノチューブ構造体に対して、紫外線殺菌をすることが好ましい。
【0058】
ステップ33では、アミノ酸ポリマー(Polyamion acid)溶液又はポリエーテルイミド(Polyetherimide)溶液で殺菌処理された前記親水層を処理する。具体的には、まず、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液を前記親水層の表面に滴下して該親水層を被覆させ、10時間以上放置する。これによって、前記親水層の表面がアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液に極性化され、該親水層の表面に播種しようする神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性を有する極性化表面を形成して、前記神経細胞への接着性を増加させ、該神経細胞を播種するための条件を提供する。その後、無菌の脱イオン水で前記親水層の表面に形成されたアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液を洗浄して、該親水層の極性化表面を露出させる。従って、前記アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液が、前記神経細胞の成長に影響を与えない。前記アミノ酸ポリマー溶液は、ポリリジン(Polylysine)溶液である。アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液が分布された支持体の表面に神経細胞の成長を防止するために、前記カーボンナノチューブ構造体の周辺には、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液がないことが好ましい。
【0059】
前記ステップ40では、前記親水層の極性化表面に神経細胞用培養液を滴下して、該親水層を被覆させる。これによって、前記神経細胞用培養液における神経細胞は、前記親水層の表面に播種される。前記神経細胞は、例えば、海馬神経細胞などの哺乳動物の神経細胞を含む。前記親水層の表面に播種された神経細胞は、分化していない神経細胞である。該分化していない神経細胞は、培養液に分散され、前記神経細胞用培養液が形成される。
【0060】
前記ステップ50では、神経細胞が培養されたカーボンナノチューブ構造体を炭酸ガスインキュベーターの中に放置し、培養して、時間によって培養液を入れ替える。前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量は5%であり、その温度は37℃である。前記神経細胞の培養環境は、神経細胞が生物体の中で生存できる環境と、できるだけ同じである。前記神経細胞の培養時間は、実際の応用に応じて選択することができる。前記ステップ50において、前記複数の神経細胞の神経突起は、該細胞体22から伸びた後、複数の神経細胞の間の神経突起が互いに接続されて、神経ネットワークが形成される。従って、前記ステップ50の環境下で前記神経細胞が培養された後、成熟状態となり、該神経細胞から分化してきた神経突起が互いに接続され、図13に示すような神経ネットワークが形成される。
【0061】
次に、具体的な実施例で第一実施例に係る神経移植体の製造方法を詳しく説明する。該神経移植体の製造方法は、下記のステップを含む。
【0062】
積層された三十枚の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体を提供し、該カーボンナノチューブ構造体における隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。
【0063】
前記カーボンナノチューブ構造体を懸架させるために、該カーボンナノチューブ構造体をフレームに固定する。電子ビーム蒸着法を採用して、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に厚さが10ナノメートルである二酸化珪素層を形成し、該二酸化珪素層を前記カーボンナノチューブ構造体の外表面に位置するカーボンナノチューブに形成させる。
【0064】
本実施例において、二酸化珪素層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を四角形に加工した後、該カーボンナノチューブ構造体をプラスチックの培養器皿の底部に置いて、該カーボンナノチューブ構造体を前記培養器皿の底部と接触させる。前記二酸化珪素層の厚さが10ナノメートルである。アルコールで前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬して、該カーボンナノチューブ構造体を前記培養器皿の底部に緊密に接着させる。前記カーボンナノチューブ構造体及び前記プラスチックの培養器皿を殺菌インキュベーターに置き、前記二酸化珪素層、前記カーボンナノチューブ構造体及び前記プラスチックの培養器皿を紫外線で半時間照射する。その後、殺菌処理された二酸化珪素層の表面に濃度が20μg/mlであるポリリジン溶液を滴下して、該ポリリジン溶液で前記二酸化珪素層の表面を被覆させ、20時間放置する。これによって、前記二酸化珪素層の表面が極性化され、極性化表面が形成される。その後、無菌の脱イオン水で前記親水層の表面に形成されたポリリジン溶液を洗浄して、該二酸化珪素層の極性化表面を露出させる。該二酸化珪素層の極性化表面は、播種しようする海馬神経細胞と異なる電荷極性を有する。
【0065】
無菌の環境下で、前記二酸化珪素層の極性化表面に海馬神経細胞用培養液を滴下して該二酸化珪素層を被覆させ、該海馬神経細胞用培養液における海馬神経細胞を前記二酸化珪素層の表面に播種させる。前記海馬神経細胞用培養液は、分化していない海馬神経細胞を培養液に分散して形成されたものである。
【0066】
前記海馬神経細胞が培養された培養器皿を炭酸ガスインキュベーターの中に放置し、培養して、時間によって培養液を入れ替える。前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量は5%であり、その温度は37℃である。インキュベーターでは、培養液で前記海馬神経細胞を7日間培養する。図14は、染色された神経移植体のSEM写真である。図14が示すように、前記神経移植体における複数の神経細胞から、複数の神経突起が分化して、該複数の神経細胞が、前記複数の神経突起を介して互いに接続され、神経ネットワークが形成されている。
【0067】
前記培養用基体が透明である場合、前記神経移植体を染色せず、光学顕微鏡を利用して、神経細胞、神経ネットワーク及び神経移植体を観測することもできる。
【0068】
(実施例2)
図15を参照すると、本発明の実施例2は、神経移植体200を提供する。該神経移植体200は、培養用基体30及び該培養用基体30の表面に分布された神経ネットワーク20を含む。前記培養用基体30は、カーボンナノチューブ構造体12、親水層14及び極性層36を含み、前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に設置される。前記極性層36は、前記親水層14の前記カーボンナノチューブ構造体12とは反対側の表面に設置される。前記神経ネットワーク20は、前記極性層36の前記親水層14とは反対側の表面に設置される。即ち、前記親水層14は、前記カーボンナノチューブ構造体12と前記極性層36との間に設置される。
【0069】
前記極性層36は、前記親水層14の表面に極性をもたせ、前記培養用基体30の極性と、該培養用基体30に接着する神経細胞の極性と異ならせるので、前記培養用基体30は、前記神経細胞21を播種して、神経ネットワークを形成するためによい条件を提供する。前記極性層36は、前記神経ネットワーク20の電荷極性と異なる電荷極性を有するので、神経細胞21への接着を高めることができる。前記極性層36は、アミノ酸ポリマー層又はポリエーテルイミド層であり、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面の極性を変えることができるが、前記アミノ酸ポリマー層はポリリジン層であることが好ましい。本実施例において、前記極性層36は、ポリリジン層である。
【0070】
図16を参照すると、本発明の実施例2は、神経移植体の製造方法を提供する。該製造方法は、以下のステップを含む。
ステップ10:カーボンナノチューブ構造体を提供する。
ステップ20:前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成する。
ステップ230:前記親水層の表面に極性層を形成する。
ステップ240:前記極性層の表面に複数の神経細胞を播種する。
ステップ50:神経細胞に複数の神経突起を成長させて、複数の神経細胞の神経突起が互いに接続され、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養する。
【0071】
ステップ230では、まず、前記カーボンナノチューブ構造体を前記支持体に接触させるように、前記支持体の表面に設置する。具体的には、前記親水層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を所定の形状に加工する。その後、所定の形状を有するカーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に設置して、該カーボンナノチューブ構造体を前記支持体に接触させる。前記支持体は、前記カーボンナノチューブ構造体に対して優れた接着性、及び平らな表面を有する必要があるため、例えば、該支持体は、プラスチックの表面皿又は培養器皿である。前記親水層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を前記支持体の表面に緊密に接着させるように、有機溶剤で該カーボンナノチューブ構造体を処理する。その後、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液を前記親水層の表面に滴下して、該親水層を被覆させ、10時間以上放置し、極性層を形成する。該極性層は、神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性を有して、神経細胞への接着性を高める。前記アミノ酸ポリマー溶液は、ポリリジン溶液である。アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液が分布された支持体の表面に神経細胞の成長を防止するために、前記カーボンナノチューブ構造体の周辺に、アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液がないことが好ましい。
【0072】
本実施例において、二酸化珪素層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を四角形に加工した後、該カーボンナノチューブ構造体をプラスチックの培養器皿の底部に置いて、該カーボンナノチューブ構造体を、前記培養器皿の底部と接触させる。前記二酸化珪素層の厚さが10ナノメートルである。アルコールで前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬して、該カーボンナノチューブ構造体を前記培養器皿の底部に緊密に接着させる。濃度が20μg/mlであるポリリジン溶液を滴下して、該ポリリジン溶液に前記二酸化珪素層の表面を被覆させ、12時間放置する。
【0073】
前記ステップ230は、更に紫外線で前記極性層が形成されたカーボンナノチューブ構造体を照射して、殺菌を行う。
【0074】
前記ステップ240では、無菌の環境下で神経細胞用培養液を前記培養用基体30を被覆するまで滴下する。
【0075】
本発明の実施例における神経移植体の製造方法で製造された神経移植体は、生物体の神経系の神経ネットワークを修復することができる。前記培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブからなる自立構造体であるので、弾性及び延展性に優れ且つ質量も軽い。
【0076】
また、前記培養用基体の親水層の表面は、神経ネットワークの電荷極性と異なる電荷極性を有するので、該神経ネットワークが前記培養用基体の表面に緊密に接着される。従って、前記神経移植体は、破壊された神経系の損傷部分の形状及び大きさによって、裁断し、引き伸ばすことができる。その後、前記損傷部分に移植される。前記神経移植体が前記神経ネットワークを含み、該神経ネットワークにおける神経細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞との距離は近いので、該神経移植体における神経細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞とは、再び繋がることができる。従って、神経細胞が死亡した神経系の修復が実現できる。
【0077】
また、本発明の実施例における神経移植体の製造方法は、物理的方法を利用するので、容易に親水層をカーボンナノチューブ構造体の表面に形成することができ、また神経細胞に影響を及ぼし、神経細胞を損傷する汚染物質が浸入することができない。従って、前記親水層は、神経細胞を損傷せず、神経細胞の成長に影響を与えない。
【符号の説明】
【0078】
100、200 神経移植体
10、30 培養用基体
12 カーボンナノチューブ構造体
14 親水層
16 極性化表面
20 神経ネットワーク
21 神経細胞
22 細胞体
24 神経突起
36 極性層
143a ドローン構造カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ構造体を提供するステップと、
前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成するステップと、
前記親水層に極性化表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行うステップと、
前記親水層の極性化表面に複数の神経細胞を播種するステップと、
隣接する神経細胞が互いに接続して、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養するステップと、
を含むことを特徴とする神経移植体の製造方法。
【請求項2】
前記親水層に極性化表面をもたせるために、該親水層に対して、極性化処理を行うステップにおいて、
アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面を処理することを特徴とする、請求項1に記載の神経移植体の製造方法。
【請求項3】
前記アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面を処理するステップにおいて、
アミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液で前記親水層を被覆して、10時間以上放置し、前記親水層の表面がアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液に極性化された後、無菌の脱イオン水で前記親水層の表面に形成されたアミノ酸ポリマー溶液又はポリエーテルイミド溶液を洗浄して、該親水層の極性化された表面を露出させることを特徴とする、請求項2に記載の神経移植体の製造方法。
【請求項4】
前記親水層に対して、極性化処理を行うステップの前に、前記カーボンナノチューブ構造体に形成された前記親水層に対して、殺菌処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の神経移植体の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ構造体を提供するステップと、
前記カーボンナノチューブ構造体の表面に親水層を形成するステップと、
前記親水層の表面に極性層を形成するステップと、
前記極性層の表面に複数の神経細胞を播種するステップと、
神経細胞に複数の神経突起を成長させて、複数の神経細胞の神経突起が互いに接続され、神経ネットワークを形成するまで複数の前記神経細胞を培養するステップと、
を含むことを特徴とする神経移植体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−157354(P2012−157354A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5493(P2012−5493)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】