説明

神経筋シナプスの維持および再生に関与するマイクロRNAの同定

本発明は、負傷または疾患後における神経筋シナプスの維持および再生の過程に関与するmiRNAの同定に関する。これらのmiRNAの調節が、脊髄損傷および神経変性疾患の治療として提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2008年3月17日に出願された米国仮出願第61/037,260号の利益を主張する。
【0002】
政府援助に関する言明
本発明は、米国国立衛生研究所からの助成金番号HL53351−06の下での助成金援助によりなされた。同政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は広く発生生物学、神経生物学、病理学、および分子生物学の分野に関する。より特定すれば、本発明は、負傷または疾患における神経筋シナプスの維持および再生に影響を与える、骨格筋組織におけるmiRNA発現の変化に関する。本発明は、特定のmiRNA(例えば、miR-206およびmiR-1)のアゴニストを投与することにより、除神経性疾患に罹患した対象を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
ルー・ゲーリック病としてよく知られている筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、最も一般的な成人の運動ニューロン疾患であり、米国内では約30,000人がこれに罹患している(Bruijnら、2004年)。ALS症例の約90%は散発性であり、残りの10%は遺伝性突然変異の結果として発生する(Boilleeら、2006年)。ALSの発症理由に関わらず、類似の症状が該疾患の進行を特徴づける。症状には、選択的な喪失を介する標的骨格筋の除神経および運動ニューロンの変性が含まれ、これらにより、四肢および呼吸器の筋肉における筋萎縮および筋麻痺がもたらされる。ALSは、最も一般的な運動ニューロン疾患であるが、運動ニューロンの喪失を防止し、または診断後における生存率を著明に改善しうる治療剤や有効な治療法は存在しない。ALSの惹起および進行を調節するシグナル伝達経路および下流分子の同定は、新規の治療法の探索において、依然として大きな難題である(Dunckleyら、2007年)。
【0005】
神経筋シナプスの構築および維持を制御する、転写調節および翻訳後調節のネットワークは十分に特徴づけられている(SanesおよびLichtman、2001年)が、この過程の調節における転写後機構の役割は説明されていない。この点では、マイクロRNA(miRNAまたはmiR)が、多くの生物学的過程に対する主要な転写後調節物質として認識されている(Bartel、2004年;Van Rooijら、2007年a)。miRNAとは、配列特異的な形で遺伝子発現を調節する、約18〜約25ヌクレオチドの長さの、小型で、タンパク質をコードしないRNAである。miRNAは、それらの配列が完全に相補的である場合は標的mRNAの分解を促進することにより、またはそれらの配列がミスマッチを含有する場合は翻訳を阻害することにより、標的mRNAの抑制剤として作用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
miRNAは、RNAポリメラーゼII(pol II)またはRNAポリメラーゼIII(pol III;Qiら(2006年)、Cellular & Molecular Immunology、第3巻、411〜419頁を参照されたい)により転写され、個々のmiRNA遺伝子、タンパク質コード遺伝子のイントロン、または複数の密接に関連するmiRNAをコードすることが多いポリシストロニックの転写物、に由来する一般に数千塩基長の一次miRNA転写物(プリmiRNA)と呼ばれる最初の転写物から生じる。Carringtonら(2003年)による総説を参照されたい。プリmiRNAは、核内においてRNアーゼDroshaにより約70〜約100ヌクレオチドのヘアピン形状の前駆体(プレmiRNA)へとプロセシングされる。細胞質への輸送後、ヘアピンプレmiRNAは、Dicerによりさらにプロセシングされて、二本鎖miRNAをもたらす(Leeら、1993年)。次いで、成熟miRNA鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)内に組み込まれ、そこで、塩基対相補性により、その標的mRNAと会合する。miRNAが、mRNA標的と完全に塩基対形成する比較的まれな場合において、miRNAは、mRNAの分解を促進する。miRNAは、標的mRNAと不完全なヘテロ二重鎖を形成し、mRNAの安定性を損なうか、またはmRNAの翻訳を阻害することがより一般的である。脊椎動物における機能喪失型突然変異が示す通り、miRNAは、心肥大、心臓の形態形成、およびリンパ球の発生を含めた、多様な生物学的過程の主要な調節物質である(Van Rooijら、2007年b;Zhaoら、2007年;Xiaoら、2007年)。しかし、神経筋シナプスの機能およびシグナル伝達に対するmiRNAの関係は、依然として明らかとなっていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、miR−206が、傷害または神経変性疾患の結果として生じる除神経後における神経筋接合部の安定性および再生を調節するという発見に部分的に基づく。したがって、本発明は、除神経性神経障害状態に罹患した対象を治療する方法を提供する。一実施形態において、該方法は、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを対象に投与する工程を含む。別の実施形態において、該アゴニストは、miR−206および/またはmiR−1の成熟配列を含むポリヌクレオチドである。別の実施形態において、該アゴニストは、発現ベクターによりコードされる。除神経性神経障害状態は、脊髄損傷、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ失調症、脊髄性筋萎縮症、または脊髄小脳失調でありうる。
【0008】
本発明はまた、対象における除神経性神経障害状態(例えば、脊髄損傷またはALS)を診断する方法も包含する。一実施形態において、該方法は、(a)該対象から骨格筋組織試料を得る工程と、(b)前記試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現を評価する工程と、(c)工程(b)における活性または発現を、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較する工程とを含み、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較したmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現の上昇により、除神経性神経障害状態が診断される。miR−206および/またはmiR−133bの活性を評価する工程は、miR−206および/またはmiR−133bにより調節される1つまたは複数の遺伝子の活性を評価する工程を含む。一実施形態において、miR−206により調節される1つまたは複数の遺伝子は、HDAC4、Dach2、またはミオゲニンからなる群から選択される。
【0009】
本発明はまた、骨格筋におけるmiR−206および/またはmiR−1活性の調節物質を同定する方法も提供する。一実施形態において、該方法は、(a)骨格筋細胞を候補化合物と接触させる工程と、(b)miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する工程と、(c)工程(b)における活性または発現を、該候補化合物の非存在下における活性または発現と比較する工程とを含み、該測定された活性または発現間の差違により、該候補化合物がmiR−206および/またはmiR−1の調節物質であることが示される。該細胞は、該候補化合物と、in vitroで接触させることもでき、in vivoで接触させることもできる。miR−206および/またはmiR−1の調節物質は、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストの場合もあり、miR−206および/またはmiR−1の阻害剤の場合もある。
【0010】
本発明はまた、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストならびに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も包含する。一部の実施形態において、該医薬組成物は、除神経性神経障害状態に対する第2の療法と共に投与することができる。
【0011】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに示す目的で組み入れられる。本明細書で示される具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本発明をより十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1は、除神経筋におけるmiR−206のアップレギュレーションを示す。成体マウス組織における成熟miR−206の骨格筋特異的な発現を示すノーザンブロット解析。ローディング・コントロールとして、U6でノーザンブロットをリプロービングした。
【図1B】坐骨神経離断10日後の成体マウスの筋組織におけるmiR−1およびmiR−206の発現に対するノーザンブロット解析。反対側の足をコントロールとして用いた。ローディング・コントロールとして、U6でノーザンブロットをリプロービングした。EDL=長指伸筋、TA=前脛骨筋、GP=腓腹筋/足底筋。
【図1C】除神経10日後のTA筋(+)において、リアルタイムPCRにより、miR−206、miR−133b、miR−1、miR−133aの転写物が検出された。反対側の筋肉をコントロール(-)として用いた。
【図2A】図2は、miR−206突然変異マウスの作製を示す。マウスmiR−206/133b遺伝子座の概略図。
【図2B】loxP部位で挟んだネオマイシンカセットでプレmiR−206配列を置換することにより、miR−206/133b遺伝子座からmiR−206を欠失させる標的化戦略。サザンブロットに用いられる5’側プローブおよび3’側プローブの位置を示す。
【図2C】外部5’側プローブを用いた、野生型マウスおよびヘテロ接合マウスに由来するゲノムDNAに対するサザンブロット解析。ゲノムDNAをBamHIで消化した。
【図2D】表示されたmiR−206遺伝子型の腓腹筋/足底筋における、成熟miR−206転写物の発現についてのノーザンブロット解析。U6を添加コントロールとして用いた。
【図2E】除神経後のコントロールマウスおよびmiR−206突然変異マウスのヒラメ筋における、プレ−miR−206、プレ−miR−133b、プレ−miR−1−1、およびプレ−miR−1−2に遺伝子特異的なプライマーを用いた、RT−PCR。
【図2F】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色ならびに異染性ATPアーゼ染色では、野生型(WT)マウスおよびmiR−206−/−(KO)マウスのヒラメ筋におけるI型(暗青色)骨格筋線維およびII型(明青色)骨格筋線維の骨格筋構造および骨格筋分布において差違は示されない。
【図3A】図3は、miR−206突然変異マウスにおける再神経支配の遅延を示す。抗ZNP染色(緑色)をBTX(赤色)と重ね合わせることにより検出される通り、坐骨神経の離断後(週数で示される)において、野生型(WT)マウスと比較して、miR−206−/−(KO)マウスでは、再神経支配の遅延が観察される。miR−206−/−マウスにおける抗ZNP(緑色)染色の欠如に注目されたい。
【図3B】坐骨神経離断後のWTマウスおよびmiR−206 KOマウスにおける、再神経支配されたシナプス部位数の時間経過および定量。
【図3C】BTX(赤色)および抗ZNP(緑色)を用いる免疫組織化学により、神経挫滅7〜18日後のWTマウスと比較した、miR−206−/−マウスにおけるNMJに対する再神経支配の遅延が示される。miR−206−/−マウスにおける抗ZNP(緑色)染色の欠如に注目されたい。
【図4A】図4は、miR−206がHDAC4を標的化することを示す。予測される2つのmiR−206結合部位に対して配列相同性を有する複数の動物種に由来するHdac4 3’UTRの概略図。
【図4B】miR−206発現プラスミドの量を増加させながら、野生型(WT)または突然変異体のHDAC4 3’UTR−ルシフェラーゼ構築物と共トランスフェクトしたCOS1細胞のルシフェラーゼ活性。3’UTRにおいて予測されるmiR−206結合部位の突然変異により、miR−206の阻害活性が弱められる。値は、β−ガラクトシダーゼ活性に対して標準化された。
【図4C】除神経3週間後の野生型(WT)マウスおよびmiR−206−/−(KO)マウスから単離された筋肉溶解物におけるHDAC4発現の上昇を示すウェスタンブロット解析。コントロール(Ctrl.)は、HDAC4 mKOタンパク質溶解物を指す。コントロールとしてGAPDHタンパク質を検出した。WTと比較した相対的なタンパク質発現を、ブロットの下方に示す。
【図4D】除神経3週間後の野生型(WT)筋肉およびmiR−206−/−(KO)筋肉において、Hdac4の転写物が検出された。
【図4E】除神経3週間後の野生型(WT)筋肉およびmiR−206−/−(KO)筋肉において、Dach2の転写物が検出された。
【図4F】除神経3週間後の野生型(WT)TA筋肉およびmiR−206−/−(KO)TA筋肉において、ミオゲニンの転写物が検出された。
【図4G】BTX(赤色)および抗ZNP(緑色)を用いる免疫組織化学により、神経挫滅7日後のWTマウスと比較した、HDAC4 mKO突然変異マウスにおける再神経支配の上昇が示される。HDAC4 mKOマウスにおける抗ZNP(緑色)染色の上昇に注目されたい。
【図5A】図5は、ALSマウスにおけるmiR−206のアップレギュレーションを示す。miRNAアレイによる、野生型(WT)マウスおよびG93A−SOD1(ALS)マウスにおけるmiRNAプロファイリングの熱プロット。
【図5B】7カ月齢の野生型(WT)TA筋およびG93A−SOD1(ALS)TA筋におけるmiR−1およびmiR−206の発現についてのノーザンブロット解析。ローディング・コントロールとして、U6ノーザンブロットをリプロービングした。
【図5C】miR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスでは、ALSの発症が増大する。G93A−SOD1マウスおよびmiR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスの代表的な画像。
【図5D】miR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスでは、筋変性が増大する。野生型(WT)マウス、miR−206突然変異マウス、G93A−SOD1マウス、およびmiR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスの腓腹筋/足底筋に対するヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、miR−206が、傷害後における神経筋接合部の安定性および再生を調節するという発見に部分的に基づく。miR−206は、マウスALSモデルの骨格筋内において、また、神経の離断または挫滅後における除神経に応答してアップレギュレートされる。加えて、関連分子であるmiR−133bがmiR−206と同様の形でアップレギュレートされるのに対して、miR−1およびmiR−133aは、ALS疾患モデルにおいて、また、手術による除神経に応答して発現が低下する。miR−206nullマウスを作製することにより、本発明者らは、傷害後における神経筋接合部の安定性および再生の調節において不可欠なmiR−206の役割を明らかにした。これらの結果は、神経筋シナプス機能の調節におけるmiRNAの第1の役割を説明し、ALSならびに他の除神経性疾患および除神経性傷害の発症における主要な構成要素としてmiR−206およびmiR−1を提示する。したがって、本発明は、miR−206および/またはmiR−1の発現レベルを操作することにより神経変性疾患および神経損傷を治療する、新規の治療法を提供する。
【0014】
脊椎動物では、3つの筋特異的miRNA対である、miR−1−1/133a−2、miR−1−2/133a−1、およびmiR−206/133bが、個別の染色体上においてバイシストロニックの転写物として転写される(Liuら、2007年)。miR−1は、転写因子であるHand2の抑制を介して、心筋の増殖および心臓の形態形成を調節することが示されている(Zhaoら、2005年;2007年)。骨格筋芽細胞において、miR−1は、筋形成の抑制物質であるヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)の抑制を介して分化を促進することが示されたが、これとは逆に、miR−133は、筋形成の活性化物質である血清応答因子(SRF)の抑制を介して、分化を抑制することが示された(Chenら、2006年)。miR−1−1が、ヒト第20染色体に由来するmiR−133a−2と共転写されるのに対し、miR−1−2は、ヒト第18染色体に由来するmiR−133a−1と共転写される。加えて、miRNAのmiR−1ファミリーから進化的に分岐したメンバーであるmiR−206は、DNAポリメラーゼαサブユニット(Polal)、コネキシン43(Cx43)、フォリスタチン様1(Fstl1)、およびウトロフィン(Utm)を含めた各種の標的遺伝子の抑制を介して筋芽細胞の分化を促進することが示されている(Kimら、2006年;Rosenbergら、2006年)。miR−206は、ヒト第6染色体の遺伝子間領域に由来するバイシストロニックの転写物から、miR−133bと共に生成される。miR−133bは、パーキンソン病患者において減少し、ドーパミン作動性ニューロンの成熟を調節することが示された(Kimら、2007年)。miR−1−1およびmiR−1−2は互いに同一であり、miR−206とは4ヌクレオチド異なる。miR−133a−1およびmiR−133a−2は互いに同一であり、miR−133bとは2ヌクレオチド異なる。miR−206、miR−1、miR−133a、およびmiR−133bのステムループ配列および成熟配列は、以下:
ヒトmiR−206ステムループ(配列番号:1)
【表1】

ヒト成熟miR−206(配列番号:2)
【表2】

ヒトmiR−1ステムループ(配列番号:3)
【表3】

ヒト成熟miR−1(配列番号:4)
【表4】

ヒトmiR−133aステムループ(配列番号:5)
【表5】

ヒト成熟miR−133a(配列番号:6)
【表6】

ヒトmiR−133bステムループ(配列番号:7)
【表7】

ヒト成熟miR−133b(配列番号:8)
【表8】

で示される。
【0015】
一実施形態において、本発明は、除神経性神経障害状態に罹患した対象を治療する方法であって、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを該対象に投与する工程を含む方法を提供する。「アゴニスト」は、特定のmiRNAの活性または発現を上昇させる任意の化合物または分子でありうる。例えば、特定の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストは、miR−206および/またはmiR−1の成熟配列を含むポリヌクレオチドでありうる。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号:2および/または配列番号:4の配列を含む。別の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストは、miR−206および/またはmiR−1のプリmiRNA配列またはプレmiRNA配列を含むポリヌクレオチドでありうる。このような実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号:1および/または配列番号:3の配列を含みうる。miR−206および/またはmiR−1の成熟配列、プレ−miR配列、またはプリ−miR配列を含むポリヌクレオチドは、一本鎖の場合もあり、二本鎖の場合もある。該ポリヌクレオチドは、ロックト核酸、ペプチド核酸など1つもしくは複数の化学的修飾、2’−O−アルキル(例えば、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル)修飾、2’−フルオロ修飾、および4’チオ修飾などの糖修飾、ならびに1つもしくは複数のホスホロチオエート結合、モルホリノ結合、またはホスホノカルボキシレート結合、およびこれらを含む組合せなどの骨格修飾を含有しうる。一実施形態において、miR−206および/またはmiR−1の配列を含むポリヌクレオチドは、コレステロールにコンジュゲートされる。
【0016】
別の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストは、miR−206および/またはmiR−1の機能を増大させるか、補完するか、または置換するように作用する、miR−206および/またはmiR−1とは異なる作用物質でありうる。例えば、それらのいずれもがmiR−206の発現をアップレギュレーションするMyoDおよびbHLHタンパク質E12は、miR−206のアゴニストでありうる。miR−206および/またはmiR−1の発現をアップレギュレーションする他の転写因子またはシグナル伝達タンパク質も同様に、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストとして意図される。
【0017】
別の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストは、in vivoにおいてベクターから発現させることができる。「ベクター」とは、対象核酸を細胞内部へと送達するのに用いうる物質の組成物である。直鎖ポリヌクレオチド、イオン化合物または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが含まれるがこれらに限定されない多数のベクターが当技術分野で知られている。したがって、「ベクター」という用語は、自己複製型のプラスミドまたはウイルスを包含する。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるがこれらに限定されない。発現構築物は、生細胞内で複製することもでき、合成することもできる。本出願の目的では、「発現構築物」、「発現ベクター」、および「ベクター」は、互換的に用いられ、一般的で例示的な意味において本発明の適用を示すものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0018】
一実施形態において、miR−206および/またはmiR−1を発現する発現ベクターは、miR−206および/またはmiR−1をコードするポリヌクレオチドに「作動可能に連結された」プロモーターを含む。本明細書で用いられる「作動可能に連結された」または「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、ポリヌクレオチドに対して、RNAポリメラーゼによる転写の開始および該ポリヌクレオチドの発現を制御するのに適正な位置および方向にあることを意味する。miR−206および/またはmiR−1をコードするポリヌクレオチドは、miR−206および/またはmiR−1の一次miRNA配列(プリmiRNA)、前駆体miRNA配列(プレmiRNA)、または成熟miRNA配列をコードしうる。別の実施形態において、発現ベクターは、配列番号:1の配列を含む、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む。別の実施形態において、発現ベクターは、配列番号:2の配列を含む、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む。別の実施形態において、発現ベクターは、配列番号:3の配列を含む、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む。別の実施形態において、発現ベクターは、配列番号:4の配列を含む、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む。配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、または配列番号:4の配列を含むポリヌクレオチドは、約18〜約2000ヌクレオチドの長さ、約70〜約200ヌクレオチドの長さ、約20〜約50ヌクレオチドの長さ、または約18〜約25ヌクレオチドの長さでありうる。
【0019】
特定の実施形態において、遺伝子産物をコードする核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、細胞の合成機構または導入された合成機構により認識され、遺伝子に特異的な転写を開始するのに必要とされるDNA配列を指す。本明細書において、プロモーターという用語は、RNAポリメラーゼI、II、またはIIIの開始部位の周囲にクラスター化した転写制御モジュール群を指すのに用いられる。
【0020】
一部の実施形態では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復、ラットインスリンプロモーター、およびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて、対象のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に十分である場合は、対象のポリヌクレオチド配列の発現を達成するための、当技術分野でよく知られる他のウイルスプロモーター、哺乳動物細胞プロモーター、または細菌ファージプロモーターの使用もまた意図される。特定の実施形態において、骨格筋特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターを用いて、対象のポリヌクレオチド配列を組織特異的に発現させることができる。
【0021】
特性がよく知られたプロモーターを用いることにより、トランスフェクションまたは形質転換後における対象タンパク質の発現レベルおよび発現パターンを最適化することができる。さらに、特異的な生理学的シグナルに応答して調節されるプロモーターの選択により、該ポリヌクレオチドの誘導発現も可能にすることができる。表1および2は、本発明との関連において、対象ポリヌクレオチド(例えば、miR−206および/またはmiR−1のアゴニスト)の発現を調節するのに用いられうる複数の調節エレメントのリストである。このリストは、遺伝子発現の促進に関与する可能性のあるエレメントをすべて網羅的に示すことを意図するものではなく、単にこれらの例示であることを意図するものである。
【0022】
以下は、発現構築物において対象ポリヌクレオチドと組み合わせて用いうるウイルスプロモーター、細胞プロモーター/エンハンサー、および誘導プロモーター/エンハンサーのリストである(表1および表2)。加えて、ポリヌクレオチドの発現を駆動するには、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(真核生物プロモーターデータベース:EPDBによる)もまた用いられうるであろう。送達複合体またはさらなる遺伝子発現構築物の一部として適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、真核細胞は、細胞質内における、特定の細菌プロモーターによる細胞質転写を支援しうる。
【0023】
【表9】

【0024】
【表10】

【0025】
【表11】

【0026】
【表12】

【0027】
【表13】

【0028】
筋特異的プロモーターが特に興味深く、これらには、ミオシン軽鎖2プロモーター(Franzら、1994年;Kellyら、1995年)、α−アクチンプロモーター(Mossら、1996年)、トロポニン1プロモーター(Bhavsarら、1996年)、Na/Ca2+交換プロモーター(Barnesら、1997年)、ジストロフィンプロモーター(Kimuraら、1997年)、α7インテグリンプロモーター(ZioberおよびKramer、1996年)、および筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター(Jaynesら、1988年;Horlickら、1989年;Johnsonら、1989年)が含まれる。
【0029】
所望の場合は、ポリアデニル化シグナルを組み入れて、遺伝子転写物の適正なポリアデニル化を実行することができる。ポリアデニル化シグナルの性質が本発明の実施を成功させるのに決定的であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンのポリアデニル化シグナルおよびSV40のポリアデニル化シグナルなど、任意のこのような配列を用いることができる。また、ターミネータも発現カセットのエレメントとして想定される。これらのエレメントは、メッセージレベルを増強し、該カセットから他の配列内へのリーディングを最小化するのに用いることができる。
【0030】
本発明の特定の実施形態では、発現構築物内にマーカーを組み入れることにより、in vitroまたはin vivoにおいて本発明の核酸構築物を含有する細胞を同定することができる。このようなマーカーによれば、細胞に同定可能な変化が付与され、発現構築物を含有する細胞を容易に同定することが可能となろう。通常、薬剤選択マーカーの組み入れは、形質転換体のクローニングおよび選択を支援し、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が、有用な選択マーカーである。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの酵素も用いることができる。免疫学的マーカーもまた用いることができる。それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現可能である限りにおいて、用いられる選択マーカーが重要であるとは考えられない。選択マーカーのさらなる例は、当業者によく知られている。
【0031】
発現ベクターを細胞内に導入しうる多数の方法が存在する。本発明の特定の実施形態において、発現構築物は、ウイルス、またはウイルスゲノムに由来する操作された構築物を含む。特定のウイルスが、受容体を介するエンドサイトーシスにより細胞に侵入し、宿主細胞ゲノム内に組み込まれ、安定的かつ効果的にウイルス遺伝子を発現する能力により、該ウイルスは、哺乳動物細胞内に外来遺伝子を導入するのに魅力的な候補物質となっている(Ridgeway、1988年;NicolasおよびRubenstein、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;Temin、1986年)。
【0032】
in vivoにおける送達に好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)構築物のパッケージングを支援し、(b)その中にクローニングされたポリヌクレオチドを発現するのに十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含むことを意味する。発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作形態を含む。36kBで直鎖の二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成についての知識により、アデノウイルスDNAの大型断片に対する最大7kBの外来配列による置換が可能となる(GrunhausおよびHorwitz、1992年)。アデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしに、エピソーム的な形で複製されうるので、レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞に対するアデノウイルス感染は、染色体の組込みを結果としてもたらさない。また、アデノウイルスは構造的にも安定的であり、大規模な増幅後においてもゲノムの再配列は検出されていない。アデノウイルスは、それらの細胞周期段階に関わらず、ほとんどすべての上皮細胞に感染しうる。
【0033】
アデノウイルスは、そのゲノムサイズが中規模であり、操作が容易であり、力価が高く、標的細胞の範囲が広く、感染性が高度であるために、遺伝子導入ベクターとしての使用に特に適する。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである、100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含有する。
【0034】
アデノウイルスベクターが複製欠損型であるか、または少なくとも条件付き欠損型であるという要請以外のアデノウイルスベクターの性質は、本発明の実施の成功に決定的であると考えられない。アデノウイルスは、42の既知の異なる血清型またはサブグループA〜Fのいずれかでありうる。本発明において用いられる条件付き複製欠損型アデノウイルスベクターを得るためには、サブグループCの5型アデノウイルスが好ましい出発物質である。これは、5型アデノウイルスについては、多くの生化学的情報および遺伝学的情報が知られ、アデノウイルスをベクターとして用いる多くの構築物に用いられてきた歴史があるからである。
【0035】
本発明による典型的なベクターは複製欠損型であり、アデノウイルスE1領域を有さない。したがって、E1コード配列が除去された位置に、対象遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入することが最も好都合である。しかし、アデノウイルス配列内における構築物の挿入位置は、本発明にとってさほど重要ではない。対象遺伝子をコードするポリヌクレオチドはまた、Karlssonら(1986年)により説明される通り、E3置換ベクターにおいて欠失しているE3領域の代わりに挿入することもでき、ヘルパー細胞株またはヘルパーウイルスがE4欠損を補完するE4領域に挿入することもできる。
【0036】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現(Levreroら、1991年;Gomez-Foixら、1992年)およびワクチン開発(GrunhausおよびHorwitz、1992年;GrahamおよびPrevec、1991年)において用いられている。近年では、動物試験により、組換えアデノウイルスを遺伝子治療に用いうることが示唆されている(Stratford-PerricaudetおよびPerricaudet、1991年;Stratford-Perricaudetら、1990年;Richら、1993年)。組換えアデノウイルスの異なる組織への投与についての試験には、気管内注入(Rosenfeldら、1991年;Rosenfeldら、1992年)、筋肉注射(Ragotら、1993年)、末梢静脈内注射(HerzおよびGerard、1993年)、および脳内への定位接種(Le Gal La Salleら、1993年)が含まれる。
【0037】
レトロウイルスベクターもまた、細胞内において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを発現するのに適する。レトロウイルスとは、逆転写過程により、自らのRNAを、感染された細胞内の二本鎖DNAへと転換する能力を特徴とする、一本鎖RNAウイルス群である(Coffin、1990年)。次いで、結果としてもたらされるDNAがプロウイルスとして細胞の染色体内に安定的に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を誘導する。この組込みの結果、レシピエント細胞およびその後代において、ウイルス遺伝子配列が保持される。レトロウイルスゲノムは、それぞれ、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をコードする3つの遺伝子である、gag、pol、およびenvを含有する。gag遺伝子の上流に見出される配列は、該ゲノムをビリオン内にパッケージングするためのシグナルを含有する。2つの長末端反復(LTR)配列は、該ウイルスゲノムの5’端および3’端に存在する。これらは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含有し、また、宿主細胞ゲノム内への組込みにも必要とされる(Coffin、1990年)。
【0038】
レトロウイルスベクターを構築するには、対象遺伝子をコードする核酸を、特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノム内に挿入し、複製欠損型のウイルスを作製する。ビリオンを作製するには、gag遺伝子、pol遺伝子、およびenv遺伝子は含有するが、LTRおよびパッケージング成分は有さないパッケージング細胞株を構築する(Mannら、1983年)。レトロウイルスのLTRおよびパッケージング配列と共にcDNAを含有する組換えプラスミドをこの細胞株内に導入する(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)と、パッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子内にパッケージングさせることが可能となり、次いで、これらが培地内に分泌される(NicolasおよびRubenstein、1988年;Temin、1986年;Mannら、1983年)。次いで、組換えレトロウイルスを含有する培地を回収し、任意選択により濃縮し、遺伝子導入に用いる。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞型に感染可能である。しかし、組込みおよび安定的な発現には、宿主細胞の分割が必要とされる(Paskindら、1975年)。
【0039】
本発明では、他のウイルスベクターも発現構築物として用いることができる。牛痘ウイルス(Ridgeway、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;Couparら、1988年)、アデノ関連ウイルス(AAV)(Ridgeway、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;HermonatおよびMuzycska、1984年)、およびヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを用いることができる。これらは、各種の哺乳動物細胞にとって魅力的な複数の特性を提供する(Friedmann、1989年;Ridgeway、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;Couparら、1988年;Horwichら、1990年)。
【0040】
遺伝子構築物の発現を実行するには、発現構築物を細胞内に送達しなければならない。この送達は、細胞株を形質転換する実験室における手順の場合と同様にin vitroで達成することもでき、特定の疾患状態を治療する場合と同様にin vivoまたはex vivoで達成することもできる。送達の1つの機構は、発現構築物が感染性ウイルス粒子内に封入されるウイルス感染を介する。
【0041】
培養された哺乳動物細胞内へと発現構築物を導入するための、複数の非ウイルス法もまた、本発明により意図されている。これらには、リン酸カルシウム沈殿(GrahamおよびVan Der Eb、1973年;ChenおよびOkayama、1987年;Rippeら、1990年)、DEAEデキストラン(Gopal、1985年)、電気穿孔(Tur-Kaspaら、1986年;Porterら、1984年)、直接的なマイクロインジェクション(HarlandおよびWeintraub、1985年)、DNAを充填したリポソーム(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年)、およびリポフェクタミン−DNA複合体、細胞の超音波処理(Fechheimerら、1987年)、高速マイクロプロジェクタイルを用いる遺伝子照射(Yangら、1990年)、および受容体を介するトランスフェクション(WuおよびWu、1987年;WuおよびWu、1988年)が含まれる。これらの技法の一部は、in vivoまたはex vivoにおける使用にうまく適合させることができる。
【0042】
発現構築物が細胞内に送達されたら、対象遺伝子をコードする核酸を様々な部位に配置し、発現させることができる。特定の実施形態において、該遺伝子をコードする核酸は、細胞ゲノム内に安定的に組み込むことができる。この組込みは、相同組換えにより同種の位置および方向でも可能であり(遺伝子置換)、無作為的で非特異的な位置に組み込むこともできる(遺伝子増加)。またさらなる実施形態において、核酸は、DNAの個別のエピソームセグメントとして細胞内に安定的に維持することもできる。このような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞周期とは無関係に、またはこれと同期して、その維持および複製を可能とするのに十分な配列をコードする。発現構築物を細胞へとどのようにして送達するか、また、該細胞のどこに核酸が保持されるかは、用いられる発現構築物の種類に依存する。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態において、発現構築物は、裸の組換えDNAまたはプラスミドだけからなる場合がある。該構築物の導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過する、上記の方法のいずれかにより実施することができる。これは、特に、in vitroにおける導入に適用可能であるが、in vivoにおける使用にも適用することができる。Dubenskyら(1984年)は、成体マウスおよび新生仔マウスの肝臓内および脾臓内へと、リン酸カルシウム沈殿物の形態でポリオーマウイルスDNAを注射することに成功し、これにより、活発なウイルス複製および急速な感染が示された。BenvenistyおよびNeshif(1986年)もまた、リン酸カルシウムにより沈殿させたプラスミドの直接的な腹腔内注射の結果、形質転換遺伝子が発現することを示した。対象遺伝子をコードするDNAはまた、in vivoにおいても同様の形で導入することができ、遺伝子産物を発現しうることが想定される。
【0044】
裸のDNA発現構築物を細胞内に導入するための、本発明のさらに別の実施形態は、パーティクル・ガンを伴う。この方法は、DNAでコーティングしたマイクロプロジェクタイルを、細胞を死滅させずに細胞膜を穿通し侵入することを可能とする高速まで加速させる能力に依存する(Kleinら、1987年)。微小粒子を加速させるための、複数のデバイスが開発されている。このようなデバイスの1つは、電流を発生させる高電圧放電を利用し、この電流により起動力がもたらされる(Yangら、1990年)。用いられるマイクロプロジェクタイルは、タングステンビーズまたは金ビーズなど、生物学的に不活性な物質からなっている。
【0045】
ラットおよびマウスの肝臓組織、皮膚組織、および筋肉組織を含めた、選択された臓器に、in vivoでパーティクル・ガンが適用されている(Yangら、1990;Zeleninら、1991年)。このためには、ガンと標的臓器との間に介在する組織を除去するための、手術による組織または細胞の曝露、すなわち、ex vivoにおける処置が必要とされる場合がある。また、この方法により特定の遺伝子をコードするDNAを送達することもでき、これもまた本発明により組み込まれる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、発現構築物は、リポソーム内に封入することもできる。リポソームとは、リン脂質二重層膜および内部の水性ビヒクルを特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性ビヒクルにより分離される複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過剰な水溶液中に懸濁すると自発的に形成される。脂質成分は、閉鎖構造の形成前に自己再編成を受け、水と脂質二重層間において溶解した溶質とを封入する(GhoshおよびBachhawat、1991年)。また、リポフェクタミン−DNA複合体も意図される。
【0047】
本発明の特定の実施形態において、リポソームは、センダイウイルス(HVJ)と複合させることができる。これは、細胞膜との融合を促進し、リポソームに封入されたDNAの細胞への侵入を促進することが示されている(Kanedaら、1989年)。他の実施形態において、リポソームは、核内非ヒストン性染色体タンパク質(HMG-I)と複合させることもでき、これと共に用いることもできる(Katoら、1991年)。またさらなる実施形態において、リポソームは、HVJおよびHMG−Iの両方と複合させることもでき、これらと共に用いることもできる。このような発現構築物は、in vitroおよびin vivoにおける核酸の導入および発現において用いられて成功しているので、本発明に適用可能である。DNA構築物において細菌プロモーターが用いられる場合、リポソーム内にはまた、適切な細菌ポリメラーゼも組み入れることが望ましい。
【0048】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞内に送達するのに用いうる他の発現構築物は、受容体を介する送達ビヒクルである。これらは、ほとんどすべての真核細胞内における、受容体を介するエンドサイトーシスによる高分子の選択的な取込みを利用する。細胞型に特異的な各種の受容体の分布のため、送達は高度に特異的である(WuおよびWu、1993年)。
【0049】
受容体を介する遺伝子標的化ビヒクルは一般に、2つの成分:細胞受容体特異的なリガンドおよびDNA結合剤からなる。受容体を介する遺伝子導入には、複数のリガンドが用いられている。最も広範に特徴づけられているリガンドは、アシアロ糖タンパク質(ASOR)(WuおよびWu、1987年)およびトランスフェリン(Wagnerら、1990年)である。近年では、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達ビヒクルとして用いられており(Ferkolら、1993年;Peralesら、1994年)、上皮成長因子(EGF)もまた、遺伝子を扁平上皮細胞へと送達するのに用いられている(Myers、EPO0273085)。
【0050】
他の実施形態において、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含みうる。例えば、Nicolauら(1987年)は、ガラクトース末端におけるアシアロガングリオシドである、ラクトシル−セラミドをリポソーム内に組み込んで用い、肝細胞によるインスリン遺伝子の取込みの増大を観察した。したがって、リポソームを伴う場合であれ、そうでない場合であれ、特定の遺伝子をコードする核酸を、任意の数の受容体−リガンド系により細胞型内に特異的に送達することもまた実現可能である。
【0051】
具体例では、オリゴヌクレオチドをカチオン脂質と組み合わせて投与することができる。カチオン脂質の例には、リポフェクチン、DOTMA、DOPE、およびDOTAPが含まれるが、これらに限定されない。参照により具体的に組み込まれる出願公開W00071096は、遺伝子治療に有効に用いうるDOTAP:コレステロール製剤またはDOTAP:コレステロール誘導体製剤などの異なる製剤について説明している。他の開示もまた、ナノ粒子および投与法を含めた、異なる脂質製剤またはリポソーム製剤について論じており、これらには、それらが製剤と、核酸の投与および送達の他の関連する態様とについて開示する程度において参照により具体的に組み込まれる、米国特許公開第20030203865号、同第20020150626号、同第20030032615号、および同第20040048787号が含まれるがこれらに限定されない。粒子を形成するのに用いられる方法はまた、これらの態様に関して参照により組み込まれる、米国特許第5,844,107号、同第5,877,302号、同第6,008,336号、同第6,077,835号、同第5,972,901号、同第6,200,801号、および同第5,972,900号においても開示されている。
【0052】
特定の実施形態において、遺伝子導入は、ex vivoにおける条件下でより容易に実施することができる。ex vivoにおける遺伝子治療とは、動物から細胞を単離し、in vitroにおいて核酸を細胞内へと送達し、次いで、改変された細胞を動物内へと再び戻すことを指す。これは、手術による動物からの組織/臓器の摘出、または細胞および組織の初代培養物を伴う。
【0053】
一実施形態において、本発明は、除神経性神経障害状態に罹患した対象を治療する方法を提供する。「除神経性神経障害状態」とは、疾患または負傷の結果として、1つまたは複数の組織への神経供給が失われる状態を指す。除神経性神経障害状態は、重症筋無力症、ポリオ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、フリードライヒ失調症、脊髄性筋萎縮症、または脊髄小脳失調など、変性性運動ニューロン疾患から生じうる。
【0054】
一実施形態において、本発明は、重症筋無力症に罹患した対象にmiR−206および/またはmiR−1のアゴニストを投与することにより、該対象を治療する方法を提供する。重症筋無力症(MG)とは、変動的な筋力低下および易疲労感をもたらす神経筋疾患である。シナプス後神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体を遮断し、これにより、神経伝達物質であるアセチルコリンの刺激作用を阻害する循環抗体により筋力低下が引き起こされる自己免疫障害である。筋無力症は、コリンエステラーゼ阻害剤または免疫抑制剤により薬剤治療され、選択的な症例においては、胸腺摘出術により治療される。重症筋無力症の特徴は、活動時において増悪し、休息後において改善される筋力低下である。眼および瞼の動き、顔貌の表情、咀嚼、発話、および嚥下を制御する筋肉がとりわけ感受性である。呼吸ならびに頸部および四肢の運動を制御する筋肉もまた影響されうる。
【0055】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象におけるALSを治療する方法であって、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを該対象に投与する工程を含む方法を包含する。ALS(また、ルー・ゲーリック病、またはシャルコー病とも呼ばれる)とは、運動ニューロンの変性により引き起こされる、進行性で、通常致死性の神経変性疾患である。運動ニューロン疾患の1つとして、上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロンが共に変性し、筋肉へとメッセージを送ることを停止するため、該障害では、全身において筋力低下および筋萎縮が引き起こされる。除神経により機能することができないため、筋力は徐々に低下し、線維束性痙攣(攣縮)を発症し、最終的には、この除神経による萎縮が生じる。患者は最終的に、眼以外のすべての随意運動を開始および制御する能力を喪失しうる。FDAにより初めて承認されたALS治療であるRiluzoleは、運動ニューロンの変性を遅延させるが、既に生じた損傷を可逆化することはない。症状を緩和し、患者の生活の質を改善するために、ALSに対する他の治療がデザインされている。
【0056】
別の実施形態において、本発明は、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを投与することにより、それを必要とする対象における脊髄性筋萎縮症を治療する方法を提供する。脊髄性筋萎縮症(SMA)とは、ヒトにおける乳児死亡の主要な遺伝的原因である、常染色体劣性障害である。該疾患は、体幹から末梢へと進行する筋力低下を特徴とし、上肢よりも下肢がより重篤に罹患する。疾患の重症度および発症年齢に基づき、SMAの3つの型が説明されている。I型は、SMA患者の約50パーセントが罹患し、生後最初の6カ月以内に症状が現れる。呼吸器不全により、最初の2年以内に死亡することが典型的である。II型SMAは、6〜18カ月齢において発症し、生存の長さは、呼吸器障害の重症度に依存する。18カ月〜小児初期において症状が発生するIII型SMA患者は、彼らの疾患進行のある時点において大半が車椅子に拘束されるが、通常、寿命は短縮されない。SMAは、筋麻痺および筋萎縮と相関する、脊髄前角におけるアルファ運動ニューロンの喪失を特徴とする。現在のところ、SMA疾患に対する有効な治療は存在しない。
【0057】
さらに別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象におけるフリードライヒ失調症を治療する方法であって、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを該対象に投与する工程を含む方法を提供する。フリードライヒ失調症とは、歩行困難および発話障害から心疾患までの範囲に及ぶ症状を結果としてもたらす、神経系に対する進行性の損傷を引き起こす、常染色体劣性の先天性疾患である。フリードライヒ失調症の運動失調は、脊髄における神経組織の変性、特に、腕および足の筋運動を方向づけるのに不可欠な(小脳との接続を介する)感覚ニューロンから生じる。脊髄は細くなり、神経細胞はそれらのミエリン鞘の一部を喪失する。フリードライヒ失調症の症状には、以下:腕および足における筋力低下、協調運動の喪失、視覚障害、聴覚喪失、発話の不明瞭、脊柱彎曲症(脊柱側彎)、足底弓のせり上がり、糖尿病、および心臓障害(例えば、心房細動、結果として生じる頻脈、および肥厚性心筋症)の任意の組合せが含まれるが、これらの必ずしもすべてが含まれるわけではない。現時点において、症状を抑えることは可能であるが、フリードライヒ失調症の治療は存在しない。
【0058】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における脊髄小脳失調を治療する方法であって、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを該対象に投与する工程を含む方法を提供する。脊髄小脳失調(SCA)とは、緩徐に進行する歩行の協調失調を特徴とする遺伝的疾患であり、手、発話、および眼運動の協調低下と関連することが多い。また、小脳の萎縮が頻繁に生じる。進行性疾患である脊髄小脳失調の治療法は知られていない。運動失調の他の形態と同様に、SCAは、筋運動の良好な協調の喪失や、その他の症状により、不安定でぎこちない身体の動きを結果としてもたらす。この疾患を有する患者は通常、車椅子の使用を必要とするに至り、最終的に、日常的な作業を実行するのに介助を必要とする場合がある。
【0059】
除神経性神経障害状態はまた、1つまたは複数の神経が離断または挫滅する、脊髄神経傷害または末梢神経傷害などの神経傷害からも生じる。外傷性脊髄損傷は、異なる種類に分類することができる。脊髄中心症候群は、下肢と比較して上肢の機能のより大幅な喪失と関連する。ブラウン−セカール症候群は、脊髄の1つの側に対する傷害から生じ、傷害の側における固有受容感覚の低下および喪失、ならびに他の側における痛覚および温熱感覚の喪失を引き起こす。前脊髄症候群は、脊髄前部に対する傷害から生じ、傷害部位の下方における痛覚および温熱感覚の低下および喪失を引き起こすが、脊髄後部において通常担われる固有受容感覚は保存される。脊髄癆は、通常梅毒などの感染疾患に由来する、脊髄後部に対する傷害から生じ、触覚および固有受容感覚の喪失を引き起こす。脊髄円錐症候群は、第1腰椎に位置する脊髄先端部に対する傷害から生じる。馬尾症候群は、第1腰椎下方の脊髄神経根に対する傷害である。傷害後における骨格筋の再神経支配を促進するmiR−206および/またはmiR−1のアゴニストにより、外傷性脊髄損傷および他の種類の神経傷害を治療することができる。
【0060】
本発明の別の実施形態では、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを他の治療モダリティーと組み合わせて用いることが想定される。したがって、本明細書で説明される本発明のmiRNAアゴニストに加えて、対象に「標準的な」医薬療法もまた提供することができる。このような標準的療法は、治療される特定の除神経性神経障害状態に依存するが、これには、Riluzole、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、塩化エドロホニウム(Tensilon(登録商標)、Reversol(登録商標))、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、フィソスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム、リバスチグミン、フェナントレン誘導体、ガランタミン、ピペリジン、ドネペジル、およびタクリン)、および免疫抑制剤(例えば、プレドニゾン、シクロスポリン、マイコフェノール酸モフェチル、およびアザチオプリン)が含まれうる。
【0061】
併用は、骨格筋細胞と、両方の作用物質を含む単一の組成物または医薬製剤とを接触させることによるか、また同細胞と、2つの独立した組成物または製剤であって、1つの組成物がmiR−206および/またはmiR−1のアゴニストを含み、他の組成物が第2の作用物質を含む組成物または製剤とを同時に接触させることにより達成することができる。あるいは、miRNAアゴニストを用いる療法は、数分間〜数週間の範囲の間隔で(1つまたは複数の)他の作用物質の投与に先行または後続しうる。他の作用物質とmiRNAアゴニストを細胞に対して個別に適用する実施形態の場合は、一般に、該作用物質とmiRNAアゴニストが、細胞に対して依然として有利な併用効果を及ぼしうるように、各送達時点の間に長時間が経過しないようにすることになる。このような場合、細胞と両方のモダリティーとを、互いに約12〜24時間以内、より好ましくは互いに6〜12時間以内に接触させることが典型的であり、約12時間だけの遅延時間が最も好ましいことが想定される。しかし、一部の状況では、治療期間をかなり延長することが望ましい場合もあり、この場合、各投与の間において、数日間(2、3、4、5、6、または7日間)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週間)が経過する。
【0062】
miRNAアゴニストまたは他の作用物質の複数回の投与が望ましいこともまた考えられる。これについては、様々な組合せを用いることができる。例示を目的として述べると、miRNAアゴニストが「A」であり、他の作用物質/療法が「B」である場合、合計投与回数3および4回であれば以下の順列が挙げられる。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B B/A/A A/B/B B/B/B/A B/B/A/B
A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A B/A/B/A B/A/A/B B/B/B/A
A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A A/B/B/B B/A/B/B B/B/A/B
他の組合せも同様に意図される。
【0063】
本発明はまた、治療後において、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを除去するか、または消失させる方法も意図する。一実施形態において、該方法は、筋特異的プロモーターを用いる、骨格筋細胞内におけるmiR−206および/またはmiR−1の結合部位領域の過剰発現を含む。該結合部位領域は、miR−206および/またはmiR−1の5’末端の2〜8塩基にわたるシード領域の配列を含むことが好ましい。一部の実施形態において、結合部位は、miR−206および/またはmiR−1の1つもしくは複数の標的の3’UTRに由来する配列を含有しうる。例えば、一実施形態において、miR−206および/またはmiR−1の結合部位は、HDAC4の3’UTRを含む。別の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1の阻害剤は、該マイクロRNAの機能を緩和するかまたは停止させるように、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストの後で投与することができる。このような阻害剤には、antagomir、アンチセンス、または阻害性RNA分子(例えば、siRNAまたはshRNA)が含まれうる。
【0064】
本発明はまた、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストならびに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も包含する。臨床的な適用を意図する場合、医薬組成物は、意図される適用に適切な形態で調製される。これには、一般に、発熱物質の他、ヒトまたは動物に対して有害でありうる他の不純物を本質的に含まない組成物の調製を伴う。
【0065】
高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含めた脂質ベースの系など、コロイド分散系を、本明細書に記載のマイクロRNA機能に対するアゴニストのための送達担体として用いることができる。骨格筋組織などの組織に対して本発明の核酸を送達するのに適する市販の脂質エマルジョンには、Intralipid(登録商標)、Liposyn(登録商標)、Liposyn(登録商標)II、Liposyn(登録商標)III、Nutrilipid、および他の類似の脂質エマルジョンが含まれる。in vivoにおける送達担体として用いるのに好ましいコロイド系は、リポソーム(すなわち、人工膜小胞体)である。このような系の調製および使用は、当技術分野でよく知られている。例示的な製剤はまた、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる、US5,981,505;US6,217,900;US6,383,512;US5,783,565;US7,202,227;US6,379,965;US6,127,170;US5,837,533;US6,747,014;およびWO03/093449においても開示されている。
【0066】
一般に、送達担体を安定させ、標的細胞による取込みを可能とするのに適する塩および緩衝液を用いることが所望される。緩衝液はまた、組換え細胞が患者に導入される場合にも用いられる。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性ビヒクル中において溶解または分散した有効量の送達担体を含む。「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー性反応、または他の都合の悪い反応をもたらさない分子的実体および組成物を指す。本明細書で用いられる「薬学的に許容される担体」には、ヒトに対する投与に適する薬剤などの薬剤を製剤するのに用いるのに許容される、溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのこのようなビヒクルおよび作用物質の使用は、当技術分野でよく知られている。従来のビヒクルまたは作用物質が本発明の有効成分に適合しない場合を除いて、治療組成物におけるその使用が意図される。それらが該組成物の核酸を不活化しない場合は、補完的な有効成分もまた組成物中に組み込むことができる。
【0067】
本発明の活性組成物は、従来の医薬調製物を包含する。本発明によるこれらの組成物の投与は、その経路を介して標的組織に達しうる限りにおいて、任意の一般的な経路を介しうる。これには、経口経路、鼻腔内経路、または口腔内経路が含まれる。あるいは、投与は、皮内注射、経皮注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または静脈内注射を介する場合もあり、骨格筋組織内への直接的な注射による場合もある。このような組成物ならば通常、前出に記載の通り、薬学的に許容される組成物として投与される。
【0068】
活性化合物はまた、非経口投与も腹腔内投与も可能である。例示を目的として述べると、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなど、界面活性剤と適切な形で混合された水中において調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中、ならびに油中においても調製することができる。保管および使用の通常の条件下において、これらの調製物は一般に、微生物の増殖を防止する防腐剤を含有する。
【0069】
注射用の使用に適する医薬形態には、例えば、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射用溶液または注射用分散液を即時調製するための無菌粉末が含まれる。一般に、これらの調製物は無菌であり、容易な注射可能性が存在する程度の流体である。調製物は、製造条件および保管条件の下において安定であり、細菌および真菌など、微生物の汚染作用に対して保護されるべきである。適切な溶媒または分散媒は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体のポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および植物油を含有しうる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合は必要とされる粒子サイズの維持により、また界面活性剤の使用により維持することができる。微生物作用の防止は、各種の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを組み入れることが好ましいであろう。注射用組成物の長時間吸収は、組成物中における吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によりもたらすことができる。
【0070】
無菌の注射用溶液は、所望の他の任意の成分(例えば、上記で列挙された)と共に、活性化合物を適切な量で溶媒内へと組み込んだ後で、濾過による滅菌を行うことにより調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒、また例えば、上記で列挙した通りの他の所望の成分を含有する無菌のビヒクル内へと、各種の無菌の有効成分を組み込むことにより調製することができる。無菌の注射用溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法には、(1つまたは複数の)有効成分に、あらかじめ無菌で濾過されたそれらの溶液に由来する任意のさらなる所望の成分を添加した粉末をもたらす、真空乾燥法および凍結乾燥法が含まれる。
【0071】
本発明の組成物は一般に、中性または塩の形態で製剤することができる。薬学的に許容される塩には、例えば、無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデリン酸など)に由来する酸添加塩(タンパク質の遊離アミノ基により形成される)が含まれる。タンパク質の遊離カルボキシル基により形成される塩はまた、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄)に由来する場合もあり、有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなど)に由来する場合もある。
【0072】
製剤された溶液は、投与製剤に適合する形で、かつ治療的に有効であるような量で投与することが好ましい。製剤は、注射用溶液、薬剤放出カプセルなど、各種の形態において容易に投与することができる。水溶液中における非経口投与の場合、例えば一般には、溶液を適する形で緩衝化し、例えば、まず十分な生理食塩液またはグルコースにより希釈液を等張とする。このような水溶液は、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に用いることができる。特に、本開示に照らすと、当業者に知られる通り、無菌の水性ビヒクルを用いることが好ましい。例示を目的として述べると、1回の用量は、等張NaCl溶液1ml中に溶解させ、皮下注入液1000mlに添加することもでき、提案されている注入部位に注射することもできる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15版、1035〜1038および1570〜1580頁を参照されたい)。薬理学的治療剤および投与法、用量などは当業者によく知られており(例えば、関連部分において参照により本明細書に組み込まれる「Physicians' Desk Reference」;Klaassen、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」;「Remington's Pharmaceutical Sciences」;および「The Merck Index」、第11版を参照されたい)、本明細書における開示に照らして、本発明と組み合わせることができる。適切な用量には、約20mg/kg〜約200mg/kg、約40mg/kg〜約160mg/kg、または約80mg/kg〜約100mg/kgが含まれる。治療される対象の状態に応じて、用量には何らかの変化が必然的に生じる。投与責任者は、いずれにせよ、個々の対象に適切な用量を決定し、このような個別の決定は、当業者の技能の範囲内にある。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDAの生物学的製剤事務局基準により要請される無菌性、発熱物質性、一般的な安全性、および純度の基準を満たすものとする。
【0073】
本明細書に記載の任意の組成物は、キット内に含まれうる。非限定的な例では、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストがキット内に包含される。キットは、miRNA二本鎖のハイブリダイゼーションを促進する水およびハイブリダイゼーション緩衝液をさらに包含しうる。キットはまた、細胞へのポリヌクレオチドアゴニストの送達を促進する1つまたは複数のトランスフェクション試薬も包含しうる。
【0074】
キットの成分は、水性ビヒクル中にパッケージングすることもでき、凍結乾燥形態でパッケージングすることもできる。キットの容器手段には一般に、その中に成分を入れ、好ましくは、適する形で分注することが可能である、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段が含まれる。キット内に複数の成分が存在する場合(標識試薬および標識は、共にパッケージングすることができる)、キットはまた一般に、その中にさらなる成分を個別に入れることが可能な第2、第3、または他のさらなる容器も含有する。しかし、成分の各種の組合せは、バイアル内に含めることができる。本発明のキットはまた、販売用に、核酸を含有するための手段、および他の任意の試薬のための気密容器も包含することが典型的である。このような容器には、その中に所望のバイアルが保持される、射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器が含まれうる。
【0075】
キットの成分が1つおよび/または複数の溶液中において提供される場合、該溶液は水溶液であり、無菌の水溶液が特に好ましい。しかし、キットの成分は、(1つまたは複数の)乾燥粉末として提供することができる。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、該粉末は、適する溶媒の添加により再構成することができる。溶媒はまた、別の容器手段内において提供しうることが想定される。
【0076】
容器手段には一般に、その中に核酸製剤を入れ、好ましくは、適切に配分する、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、および/または他の容器手段が含まれる。キットはまた、無菌の薬学的に許容される緩衝液および/または他の希釈液を含有するための第2の容器手段も含みうる。
【0077】
このようなキットはまた、miRNA/ポリヌクレオチドを保存もしくは維持するか、またはそれらの分解に対して保護的である成分も包含する。このようなキットは一般に、適する手段において、各個別の試薬または溶液ごとに異なる容器を含む。
【0078】
キットはまた、キット成分を用いる他、該キット内に包含されない他の任意の試薬を用いるための指示書も包含する。指示書は、実行可能性があるバリエーションも包含しうる。キットはまた、非経口投与または筋肉内投与など、各種の投与経路によりmiRNAのアゴニストを投与するための器具またはデバイスも包含する。
【0079】
本発明はまた、対象における除神経性神経障害状態を診断する方法も包含する。一実施形態において、該方法は、(a)該対象から骨格筋組織試料を得る工程と、(b)前記試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現を評価する工程と、(c)工程(b)における活性または発現を、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較する工程とを含み、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較したmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現の上昇により、除神経性神経障害状態が診断される。別の実施形態において、該方法は、(a)該対象から骨格筋組織試料を得る工程と、(b)前記試料におけるmiR−1および/またはmiR−133aの活性または発現を評価する工程と、(c)工程(b)における活性または発現を、正常な組織試料におけるmiR−1および/またはmiR−133aの活性または発現と比較する工程とを含み、正常な組織試料におけるmiR−1および/またはmiR−133aの活性または発現と比較したmiR−1および/またはmiR−133aの活性または発現の低下により、除神経性神経障害状態が診断される。除神経性神経障害状態には、脊髄損傷、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ失調症、脊髄性筋萎縮症、および脊髄小脳失調が含まれうる。
【0080】
一実施形態において、miR−206および/またはmiR−133bの活性を評価する工程は、miR−206および/またはmiR−133bにより調節される1つまたは複数の遺伝子の活性を評価する工程を含む。例えば、一部の実施形態において、miR−206により調節される1つまたは複数の遺伝子は、HDAC4、Dach2、またはミオゲニンである。別の実施形態において、miR−1および/またはmiR−133aの活性を評価する工程は、miR−1および/またはmiR−133aにより調節される1つまたは複数の遺伝子の活性を評価する工程を含む。別の実施形態において、該方法は、前記除神経性神経障害状態に対する治療を該対象に投与する工程と、miR−206/miR−133bおよび/またはmiR−1/miR−133aの発現または活性を再評価する工程とをさらに含む。治療後において得られるmiR−206/miR−133bおよび/またはmiR−1/miR−133aの発現または活性は、該対象から既に(例えば、治療前に)得られた正常な組織試料または組織試料におけるこれらのmiRNAの発現と比較することができる。
【0081】
本発明は、神経筋シナプスを維持および再生する調節物質を同定する方法をさらに含む。例えば、一実施形態において、本発明は、骨格筋内におけるmiR−206および/またはmiR−1活性の調節物質を同定する方法を提供する。miR−206および/またはmiR−1の機能に対するアゴニストの同定は、ALSまたは神経傷害など、除神経性神経障害状態の治療において有用である。miR−206および/またはmiR−1の調節物質(例えば、アゴニスト)は、本発明の方法による除神経性神経障害状態を治療するための医薬組成物中に組み入れることができる。
【0082】
これらのアッセイは、候補物質の大規模なライブラリーに対する無作為的なスクリーニングを含む場合もあり、あるいは、該アッセイは、miR−206および/またはmiR−1の発現および/または機能を阻害する可能性をより高めると考えられる構造的な属性に注目して選択される特定クラスの化合物に対して焦点を絞るのに用いる場合もある。
【0083】
miR−206および/またはmiR−1の調節物質を同定するためには、一般に、候補化合物の存在および非存在下におけるmiR−206および/またはmiR−1の機能を、任意選択により、神経筋シナプスの維持および再生のための細胞または動物モデルを用いて決定する。例えば、方法は一般に、(a)骨格筋細胞を候補化合物と接触させる工程と、(b)miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する工程と、(c)工程(b)における活性または発現を、該候補化合物の非存在下における活性または発現と比較する工程とを含み、該測定された活性または発現間の差違により、該候補化合物がmiR−206および/またはmiR−1の調節物質であり、これにより、神経筋シナプスを維持および再生する調節物質であることが示される。アッセイは、単離された細胞において実施することもでき、単離された臓器において実施することもでき、生体において実施することもできる。
【0084】
miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する工程は、miR−206および/またはmiR−1の発現レベルを評価する工程を含みうる。当業者は、例えば、ノーザンブロット法またはRT−PCRを含めた、RNA発現レベルを評価する各種の方法に精通しているであろう。miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する工程は、miR−206および/またはmiR−1の活性を評価する工程を含みうる。一部の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1の活性を評価する工程は、神経筋接合部の安定性を評価する工程を含む。他の実施形態において、miR−206および/またはmiR−1の活性を評価する工程は、miR−206および/またはmiR−1によって調節される遺伝子の発現または活性評価する工程を含む。miR−206および/またはmiR−1によって調節される遺伝子には、例えば、HDAC4、Dach2、またはミオゲニンが含まれる。当業者は、miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する各種の方法に精通しているであろう。このような方法には、例えば、ノーザンブロット法、RT−PCR、ELISA、またはウェスタンブロット法が含まれる。
【0085】
本発明のすべてのスクリーニング方法は、有効な候補物質を見出し得ない場合であっても、それ自体において有用であることが当然ながら理解される。本発明は、このような候補物質をスクリーニングする方法を提供するのであり、これらを見出す方法だけを提供するわけではない。
【0086】
本明細書で用いられる「候補化合物」という用語は、miR−206および/またはmiR−1の神経筋シナプスの維持および再生の機能を潜在的に調節しうる任意の分子を指す。有用な化合物の同定を「総当たりで行う」試みにおいて、有用な薬剤の基本的な基準を満たすと考えられる分子ライブラリーは、各種の販売元から購入することが典型的であろう。組合せにより生成されるライブラリーを含めた、このようなライブラリーのスクリーニングは、活性について類縁の(および非類縁の)多数の化合物をスクリーニングするための迅速で効果的な方法である。組合せ法はまた、活性ではあるがその他の点では望ましくない化合物に対してモデル化される、第2世代、第3世代、および第4世代の化合物の創出を介して、潜在的な薬剤の迅速な発展にも役立つ。本発明の方法によりスクリーニングされうる候補化合物の非限定的な例は、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、または低分子である。miR−206および/またはmiR−1の調節物質はまた、miR−206および/またはmiR−1の上流調節因子に対するアゴニストまたは阻害剤でもありうる。
【0087】
実施が迅速、廉価、かつ容易なアッセイは、in vitroアッセイである。このようなアッセイでは一般に単離分子が用いられ、迅速かつ多数での実施が可能であり、これにより、短時間で得られる情報量が増大する。試験管、プレート、ディッシュを含めた各種の容器、およびディップスティックまたはビーズなどの他の表面を用いてアッセイを実行することができる。例えば、標的miRNAに対するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを評価することができる。
【0088】
化合物のハイスループットスクリーニングのための技法は、WO84/03564において説明されている。プラスチックピンまたは他の一部の表面などの固体基質上では、多数の低分子化合物を合成することができる。このような分子が、miR−206および/またはmiR−1とハイブリダイズする能力について、迅速にスクリーニングすることができる。
【0089】
本発明はまた、細胞においてmiR−206および/またはmiR−1の発現ならびに機能を調節するそれらの能力について化合物をスクリーニングすることも意図する。この目的のために特別に改変された細胞を含めた、骨格筋細胞(例えば、C2C12細胞)に由来する細胞株を含めた各種の細胞株を、このようなスクリーニングアッセイに用いることができる。
【0090】
in vivoにおけるアッセイは、神経筋シナプスの維持および再生についての各種の動物モデル(例えば、G93A-SOD1トランスジェニックマウス)の使用を伴う。それらのサイズ、操作の容易さ、ならびにそれらの生理学的性質および遺伝学的構成により、マウスが、とりわけトランスジェニック動物に好ましい実施形態である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、アレチネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、およびサル(チンパンジー、テナガザル、およびヒヒを含めた)を含めた他の動物も同様に適する。調節物質についてのアッセイは、神経筋シナプスの維持および再生についてのモデルを提供するように改変された動物種を含めた、これらの動物種のいずれかに由来する動物を用いて実施することができる。
【0091】
試験化合物による動物の治療は、該動物に対する適切な形態での該化合物の投与を伴う。投与は、臨床的目的に用いうる任意の経路を介して行われる。in vivoにおける化合物の有効性の判定には、シナプスの構造またはシグナル伝達の変化が含まれるがこれに限定されない各種の異なる基準を伴いうる。また、毒性および用量反応の測定も、動物においては、in vitroまたはin cytoにおけるアッセイの場合よりも有意味な形で実施することができる。
【0092】
本発明は、細胞におけるHDAC4の発現を調節する方法であって、該細胞をmiR−206および/またはmiR−1の調節物質と接触させる工程を含む方法を包含する。一実施形態においてHDAC4の発現は、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストの投与後細胞において低下する。別の実施形態において、HDAC4の発現は、miR−206および/またはmiR−1の阻害剤の投与後細胞において上昇する。特定の実施形態において、細胞は骨格筋細胞である。
【0093】
別の実施形態において、本発明は、miR−206阻害剤を細胞に送達することにより、該細胞におけるmiR−206の発現または活性を緩和または除去する方法を提供する。細胞は、in vitroの場合もあり、in vivoの場合もある。miR−206阻害剤には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、antagomir、および阻害性RNA分子(例えば、shRNAまたはsiRNA)が含まれうる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miR−206配列に対して少なくとも部分的に相補的な配列、例えば、成熟miR−206配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的な配列を含みうる。一部の実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miR−206配列に対して実質的に相補的でありうる、すなわち、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%相補的でありうる。一実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miR−206配列に対して100%相補的な配列を含む。一部の実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、antagomirである。「antagomir」とは、miRNA配列に対して少なくとも部分的に相補的な、一本鎖の化学修飾されたリボヌクレオチドである。antagomirは、2’−O−メチル糖修飾など、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含みうる。一部の実施形態において、antagomirは、修飾ヌクレオチドだけを含む。antagomirはまた、部分的または完全なホスホロチオエート骨格を結果としてもたらす、1つまたは複数のホスホロチオエート結合も含みうる。in vivoにおける送達および安定性を促進するため、その3’端において、antagomirをコレステロールまたは他の部分へと連結することができる。miRNAを阻害するのに適するantagomirは、約15〜約50ヌクレオチドの長さ、より好ましくは約18〜約30ヌクレオチドの長さ、また最も好ましくは約20〜約25ヌクレオチドの長さでありうる。「部分的に相補的な」とは、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的な配列を指す。antagomirは、成熟miR−206配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的でありうる。一部の実施形態において、antagomirは、成熟miR−206配列に対して実質的に相補的でありうる、すなわち、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%相補的でありうる。他の実施形態において、antagomirは、成熟miR−206配列に対して100%相補的である。
【0094】
miR−206の機能を阻害する別の手法は、miR−206の成熟配列に対して少なくとも部分的に同一であり、部分的に相補的な二本鎖領域を有する阻害性RNA分子を投与することである。阻害性RNA分子は、二本鎖の小型干渉RNA(siRNA)分子の場合もあり、ステムループ構造を有する短鎖ヘアピンRNA(shRNA)分子の場合もある。阻害性RNA分子の二本鎖領域は、成熟miR−206配列に対して少なくとも部分的に同一であり、部分的に相補的な配列、例えば、これに対して約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一でありかつ相補的な配列を含みうる。一部の実施形態において、阻害性RNAの二本鎖領域は、成熟miR−206配列に対して少なくとも実質的に同一であり、実質的に相補的な配列を含む。「実質的に同一であり、実質的に相補的な」とは、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%同一であり、かつ、相補的な配列を指す。他の実施形態において、阻害性RNA分子の二本鎖領域は、miR−206配列に対する100%の同一性および相補性を含有しうる。
【0095】
本発明の各態様をさらに例示する目的で以下の実施例を組み入れる。後続の実施例において開示される技法は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者により発見された技法および/または組成物を表し、したがって、その実施に好ましい様式を構成すると考えうることが当業者によって理解されるはずである。しかし、当業者は、開示される具体的な実施形態において、多数の変更を行うことができ、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果がなおも得られることを、本開示に照らして理解されたい。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
除神経性骨格筋においては、骨格遅筋において豊富なmiR−206がアップレギュレートされる
【0097】
miR−206は、配列においてmiR−1と密接に関連し、同じシード領域を共有する筋特異的miRNAである。心臓および骨格筋において発現するmiR−1とは対照的に、miR−206は、骨格筋だけにおいて発現する。異なる骨格筋に対するノーザンブロット解析により、miR−206は、ヒラメ筋などの遅線維を含有する筋肉群において極めて豊富であることが明らかとなった(図1A)。miR−1は、すべての筋肉群において同様のレベルで発現する(図1B)。
【0098】
正常な成体マウスの下肢に由来する骨格筋のmiRNA発現プロファイルと、10日間にわたり手術による坐骨神経の切除下に置かれたマウスによる同プロファイルとを比較した。被験対象である320のmiRNAのうち、16のmiRNAのレベルが、除神経に応答して著明な影響を受けた(>2倍のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)。miR−206は、除神経筋において、最も劇的にアップレギュレートされたmiRNAの1つであった。ノーザンブロット(図1B)およびリアルタイムPCR(図1C)により、miR−206は、除神経後においてアップレギュレートされることが確認された。アップレギュレーションは、主に速筋線維を含有する3つの筋肉である、長指伸筋(EDL)、前脛骨筋(TA)、および腓腹筋/足底筋(G/P)において劇的であった(図1B)。miR−206レベルは、主に遅筋線維を含有する、神経支配の正常なヒラメ筋においてより高度であり、除神経後におけるアップレギュレーションは、これに応じてそれほど顕著ではなかった。miR−206と同じプロモーターから転写されることと符合して、除神経後においてはmiR−133bもまたアップレギュレートされたのに対し、miR−1およびmiR−133aは、除神経に応答して約50パーセントダウンレギュレートされた(図1Bおよび1C)。これらの結果は、miR−206が、神経傷害後における筋肉の修復において役割を果たしうることを示す。加えて、該データにより、miR−206およびmiR−1は、配列においては類似するが、多様な刺激に対する発現パターンおよび異なる応答は、これら2つのmiRNAに固有の機能を示すことが示唆される。
【0099】
(実施例2)
神経傷害後のmiR−206ノックアウトマウスにおける、骨格筋の再神経支配の遅延
【0100】
in vivoにおけるmiR−206の機能を決定するため、miR−206ノックアウトマウスを作製した。miR−206は、miR−133bと共に、バイシストロニックのプレmiRNAとして転写される。miR−206の発現を消失させ、miR−133bの発現を保持するように、標的化戦略をデザインした(図2AおよびB)。129SvEvゲノムDNAから2.7kbの5’アームを増幅し、Sac IIおよびNot Iで消化し、pGKNeo−F2L2DTA標的化ベクター内へとライゲーションした。Hind IIIおよびEco RVで2.1kbの3’アームを消化し、標的化ベクターのネオマイシン耐性カセットとDTAカセットとの間にライゲーションした。5’側および3’側の外部プローブを伴うサザンブロット法により、標的化されたES細胞を同定した。適正に標的化されたmiR−206対立遺伝子を伴う1つのクローンを3.5日齢のC57BL/6マウスの芽細胞内への注射に用い、結果として生じるキメラをC57BL/6マウスの雌に受精させ、生殖細胞系列伝達を行った。
【0101】
野生型およびmiR−206のヘテロ接合体に由来するゲノムDNAに対するサザンブロットにより、突然変異体対立遺伝子の適正な標的化および生殖細胞系列伝達が確認された(図2C)。突然変異体マウスの骨格筋における成熟miR−206の不在は、ノーザンブロット解析により確認された(図2D)。miR−206の欠失は、連結されたプレ−miR−133bまたは密接に関連するmiR−1−2もしくはmiR−1−2の発現に対して影響を及ぼさなかった(図2E)。miR−206の標的化された欠失についてホモ接合のマウスは生存し、体重、行動、または、H&E染色および異染性ATPアーゼ染色により見られる骨格筋の全体的な構造もしくは線維種類の分布において大きな異常を示さなかった(図2F)。
【0102】
miR−206/133b遺伝子座に由来する転写物は元来、Merlieら(Vellecaら、1994年)により、シナプスに関連する非コードRNA(7H4と称する)として同定された。神経伝達物質受容体およびシナプス後装置の他の構成要素をコードする遺伝子について示されている通り、おそらく、7H4は、神経筋接合部(NMJ)と関連する筋核により選択的に転写される(Sanesら、1991年;SunesenおよびChangeux、2003年)。報告された7H4の配列はmiR−206を包含しなかったが、RT−PCRにより、この転写物にはmiR−206配列が包含されることが示され、7H4と同様、miR−206も、筋線維のシナプス領域において豊富であることが確認された(データは示さない)。したがって、元の7H4 RNA(Vellecaら、1994年)は、miR−206/133b遺伝子座から部分的にプロセシングされたプリmiRNAを表すと考えられる。これらの結果に加え、筋肉の構造または機能における明らかな表現型が見られないことから、本発明者らは、NMJに関心の焦点を合わせた。新生仔および成体の野生型マウスおよびmiR−206−/−マウスのTA筋、EDL筋、およびヒラメ筋におけるNMJの構造を検討した。アセチルコリン受容体(AChR)に結合する蛍光タグ付きブンガロトキシン(BTX)を用いて、シナプス後膜を可視化した。運動軸索および神経終末は、それぞれ、神経フィラメントタンパク質に対する抗体およびシナプス小胞タンパク質であるシナプトタグミン2(ZNP)に対する抗体により検出された(Foxら、2007年)。新生仔および成体の突然変異マウスのNMJを年齢相応の野生型NMJと比較したところ、明らかな差を示さなかった(データは示さない)。したがって、miR−206は、NMJの形成および成熟にとっても可欠である。
【0103】
除神経筋におけるmiR−206の頑健なアップレギュレーションを踏まえ、本発明者らは次に、miR−206が、神経傷害後における再神経支配を調節しうるかどうかを問うた。miR−206−/−およびコントロール野生型の同腹子の坐骨神経を大腿中央部において切断し、1〜8週間後におけるTA筋の再神経支配を評価した。除神経後において、再生中の軸索は、元のシナプス部位を優先的に再神経支配する(SanesおよびLichtman、1999年)ので、神経により並置されるシナプス後部位の数を定量した。除神経後においてもシナプス後AChRは大部分が完全性を保つため、BTX染色(赤色)をZNP染色(緑色)と重ね合わせることにより、再神経支配を正確に評価することができる。野生型マウスにおいて、再神経支配は除神経の2〜3週間後において開始され、傷害の5週間後までにほぼ完了した(図3AおよびB)。これに対し、miR−206−/− TA筋の再神経支配は傷害の3週間後まで開始されず、傷害の5週間後においても遅延して継続された(図3AおよびB)。神経を切断するのでなく挫滅させた場合もまた、再神経支配が遅延し、この処置では、神経内間隙が生成されず、標的に対する再生が神経切断後の場合よりも迅速に生じる(図3C)。腓腹筋およびEDL筋においても同様の結果が得られた(データは示さない)。したがって、複数の筋肉および2つの種類の神経傷害後において、miR−206非存在下の再神経支配が著明に遅延したことにより、miR−206は、傷害後における神経筋接合部に対する再神経支配の調節において不可欠の役割を果たすことが示唆される。
【0104】
神経離断後における再神経支配の成功は、一連の工程を伴う。まず、軸索切断されたニューロンにおいて成長プログラムが開始され、その遠位切断部を介して筋肉に到達するようにそれらの軸索が再生する。予測される通り、野生型の神経およびmiR−206−/−の神経において同様の数の神経線維が観察されたので、突然変異動物においてもこれらの工程は損なわれなかったが、該突然変異筋においてはNMJがわずかしか形成されなかった(データは示さない)。これらの結果は、miR−206ノックアウト動物においても、軸索の再生それ自体は損なわれなかったことを示す。
【0105】
軸索が枝分かれし、筋線維に接触し、これらを再支配すると、別の一連の工程が筋肉内において生じ、最終的に神経伝達物質の放出に特化した新たな神経終末が形成される。miR−206の非存在下における再神経支配の長期の遅延により、miR−206は、傷害後におけるNMJとの運動神経の相互作用に影響を与える、筋肉から発生するシグナルを調節することが示唆される。miR−206−/−の筋線維上における元のシナプス部位の再神経支配がいくつもの点で異常であったことは、この結論と符合する。第1に、突然変異マウスにおいて再生された神経によるシナプス部位の再支配は、その多くが部分的であるに過ぎなかった。第2に、miR−206−/−マウスの終末領域におけるシナプトタグミン2(ZNP)レベルは、コントロールマウスの場合よりも低度であった。逆に、運動軸索の終末前領域では、コントロールよりも突然変異体においてシナプトタグミン2レベルが高度であった。したがって、突然変異体で再生された神経終末においては、小胞が適正に凝集できない。最後に、運動軸索がmiR−206−/− NMJを超えて出芽する場合が多いことにより、筋肉から発せられる「終結」シグナルを欠く可能性が示唆される(データは示さない)。
【0106】
(実施例3)
miR−206は骨格筋におけるHDAC4を標的化する
【0107】
コンピュータにより予測されたmiR−206の多くの標的のうち、ヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)のmRNAが最も有効な標的のうちに入る。マウスHdac4 mRNAの3’UTRは、miR−206のシード配列に対して完全な相補性を有する、2つの進化的保存配列を含有する(図4A)。さらに、HDAC4は、神経筋遺伝子発現の制御にも関与している(Cohenら、2005年;Tangら、2008年)。また、密接な関連のあるmiRNAであるmiR−1も、in vitroにおいて、HDAC4 mRNAの翻訳を阻害することが示されている(Chenら、2006年)。miR−206がHDAC4の翻訳を抑制することが可能であるかどうかを調べるため、CMVプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼレポーターの下流において、HDAC4 mRNAの3’UTRをクローニングした。miR−206の量を増加させながらトランスフェクトした結果、ルシフェラーゼ活性が用量依存的に低下し、HDAC4の3’UTR内におけるmiR−206標的配列の突然変異は、miR−206による抑制を阻止した(図4B)。野生型コントロールの場合と比較して、miR−206−/−動物の骨格筋では、HDAC4タンパク質の発現が上昇した(図4C)。miR−206−/−マウスにおいてHdac4 mRNAレベルが変化しなかったことは、この場合におけるmiR−206が、mRNAの不安定化によるのではなく、翻訳の阻害により作用することを示す(Valencia-Sanchezら、2006年)(図4D)。先行研究は、HDAC4が、ミオゲニンの抑制因子であるDach2発現の抑制を介してミオゲニン発現を誘導することを示している(Cohenら、2007年;Tangら、2009年)。予測される通り、miR−206−/−マウスの除神経後において、Dach2の転写物が減少し、ミオゲニン転写物が増加したことは、除神経性miR−206−/−マウスにおけるHDAC4タンパク質発現の上昇およびHDAC4の下流におけるシグナル伝達抑制の増強と符合する(図4EおよびF)。
【0108】
HDAC4が筋内におけるmiR−206の効果を媒介するかどうかを調べるため、loxP部位によりHdac4遺伝子の第6エキソンを挟む、条件付きHdac4ヌル対立遺伝子を有するマウスを作製し、骨格筋組織において特異的にCre組換え酵素を発現するトランスジェニックマウス(HDAC4 mKO)を用いて、該筋内における該対立遺伝子を欠失させた(Potthoffら、2007年;Liら、2005年)。HDAC4の非存在下において、NMJは正常に形成および成熟した(データは示さない)。しかし、神経の挫滅または切断の後において、HDAC4突然変異マウスの筋肉は、コントロールの場合よりも迅速に神経支配され(図4G)、miR−206−/−マウスの場合と対蹠的な表現型を示した。同様に、HDAC4突然変異マウスにおいては、神経終末の再生により、コントロールの場合よりも良好にシナプス部位が被覆されるのに対し、miR−206が欠失すると、シナプス部位に対する完全な支配が妨げられる。これらの知見は、miR−206が、傷害後における再神経支配に対するHDAC4の負の影響に対して反作用するように機能するという結論と符合する。
【0109】
(実施例4)
筋萎縮性側索硬化症のマウスモデルにおけるmiR−206のアップレギュレーション
【0110】
筋肉の除神経を結果としてもたらす疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態進行に関与するmiRNAを同定しようと努める中で、ALSのマウスモデルとして認知されているG93A−SOD1トランスジェニックマウス(Sonら、2007年)のGP筋に対して、miRNAアレイによるプロファイリングを実施した。半接合のG93A−SOD1トランスジェニックマウスは、6カ月後までに進行性の神経筋欠損を発症し、その直後に四肢の1つまたは複数において麻痺を示し、9カ月後までに死亡した(Puttaparthiら、2002年)。該アレイは、7カ月齢のG93A−SOD1トランスジェニックマウスおよび同野生型マウスの筋肉に対して実施された。G93A−SOD1マウスのGP筋においてアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた多くのmiRNAのうちで、miR−206が最も大幅にアップレギュレートされた(図5A)。ノーザンブロット解析によりアレイ結果が確認され、バンドの定量化により、末期のALSマウスにおいて、miR−206の発現が約9倍に上昇し、miR−1の発現が2分の1に低下することが明らかとなった(図5Bであるが、データは示さない)。ALSの進行を遅延させるのに用いられる治療薬であるRiluzoleによりC2C12筋細胞を治療したところ(McGeerおよびMcGeer、2005年)、miR−206の発現が低下し、miR−1の発現が上昇した(データは示さない)。
【0111】
筋変性におけるmiR−206の役割をさらに解明するため、miR−206突然変異動物をG93A−SOD1動物と交配させることによって、二重突然変異マウスを作製した。miR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスでは、ALSの発症が増大した。図5Cは、G93A−SOD1マウスおよびmiR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスの代表的な画像を示す。二重突然変異マウスでは、後ろ足の麻痺が増強されることに注目されたい。野生型、miR−206ノックアウトマウス、G93A−SOD1動物、およびmiR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスの腓腹筋/足底筋に対するヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色が証拠だてる通り、miR−206/G93A−SOD1二重突然変異マウスにおいては、筋変性もまた増大した(図5D)。これらの結果は、miR−206の喪失により神経筋変性が増悪することを示し、これは、miR−206発現の操作が、ALSなどの神経変性障害の治療に対する実行可能な治療法でありうることを示唆する。
【0112】
ALSマウスモデルおよびALS患者におけるタンパク質コード遺伝子の調節異常は十分に説明されている(Boilleeら、2006年;Gonzalez de Aguilarら、2007年)。しかし、現在のところ、ALSにおけるmiRNAの発現プロファイルは報告されていない。本発明者らは、ALSのマウスモデルとして認知されているG93A−SOD1トランスジェニックマウスの筋内において、複数のmiRNAの発現、最も注目すべきはmiR−1およびmiR−206の発現が著明に変化することを見出した。運動ニューロンに対する損傷がALS表現型を惹起するためには、ある要件が存在すると考えられるが、該疾患の病理学的な進行には他の細胞型が明らかに関与している(Boilleeら、2006年b)。これらの観察により、ニューロン以外のmRNAの役割ほか、ALSにおいて見られる病理学的な遺伝子ネットワークへの影響におけるmiRNAの役割も裏付けられる。
【0113】
酸化的損傷、グルタミン酸興奮毒性、および逆行性軸索内輸送欠損を含め、複数の機構がALSの進行に寄与することが提起されている(Dunckleyら、2007年)。本発明者らの知見は、miRNAの発現変化もまた、ALSの進行に寄与する可能性が高い機構であることを示す。ALSにおける運動ニューロン変性を結果としてもたらす正確な分子機構は明確でないが、該疾患の共通の収束点および初期の病理学的な特徴が、標的筋肉の除神経であることは明らかである。したがって、有効な治療剤は、該疾患の進行におけるこれらの早期段階を標的化すべきである。除神経筋の他、G93A−SOD1マウスにおいてもmiR−206発現が頑健に上昇することにより、miR−206発現の操作が、ALS、および神経筋接合部の機能不全を伴う他の運動ニューロン疾患と関連する臨床症状を治療するための新規の潜在的な治療標的を表すことが示唆される。
【0114】
本明細書で論じられ引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。本明細書において開示および特許請求されるすべての組成物および方法は、本開示に照らして不適切な実験なしに作製および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態との関連で説明してきたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱しない限りにおいて、本明細書に記載の組成物および方法に対して、また、該方法の工程または工程の連鎖において、変更を適用しうることは当業者に明らかであろう。より具体的に述べると、同じであるかまたは類似の結果が達成される場合、化学的にも生理学的にも関連する特定の作用物質により、本明細書に記載の作用物質を置換しうることは明らかであろう。当業者に明らかな、このような類似の置換および変更のすべては、添付される特許請求の範囲により規定される本発明の趣旨、範囲、および概念の内にあるものと見なされる。
【0115】
特許請求の範囲および/または明細書において、「含む」という用語と共に用いられる場合の「ある(a)」または「ある(an)」という語の使用は、「1つの」を意味しうるが、また、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは1つを超える」の意味とも符合する。本明細書で論じられる任意の実施形態は、本発明の任意の方法または組成物との関連で実装しうることが意図され、またこの逆のことも意図される。さらに、本発明の組成物およびキットは、本発明の方法を達成するのに用いることができる。本出願の全体において、「約」という用語は、ある値が、該値を決定するのに用いられるデバイスまたは方法についての誤差の標準偏差を包含することを示すのに用いられる。
【0116】
特許請求の範囲における「または」という用語は、代替物のみを指すことが明示的に示されるか、または代替物が相互に除外的でない限り、「および/または」を意味するように用いられるが、本開示は、代替物のみ、ならびに「および/または」を指す定義を支持する。
【0117】
本明細書および(1つまたは複数の)請求項において用いられる「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」など、「含む(comprising)」の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」など、「有する(having)」の任意の形態)、「包含する(including)」(ならびに「包含する(includes)」および「包含する(include)」など、「包含する(including)」の任意の形態)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」など、「含有する(containing)」の任意の形態)という語は、包含的またはオープンエンドであり、列挙されていないさらなる要素または方法の工程を除外しない。
【0118】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に述べられたことに補完的な例示的な手順上の詳細または他の詳細を提供する程度において、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0119】
【表14】

【0120】
【表15】

【0121】
【表16】

【0122】
【表17】

【0123】
【表18】

【0124】
【表19】

【0125】
【表20】

【0126】
【表21】

【0127】
【表22】

【0128】
【表23】

【0129】
【表24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
除神経性神経障害状態に罹患した対象を治療する方法であって、miR−206および/またはmiR−1のアゴニストを前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項2】
前記アゴニストが、miR−206および/またはmiR−1の成熟配列を含むポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アゴニストが、配列番号:2および/または配列番号:4からなる群から選択される配列を含むポリヌクレオチドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アゴニストが、脂質送達ビヒクル中に製剤化される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アゴニストが、発現ベクターによりコードされる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アゴニストが、筋特異的プロモーターの制御下にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記除神経性神経障害状態が、脊髄損傷、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ失調症、脊髄性筋萎縮症、または脊髄小脳失調である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記除神経性神経障害状態に対する第2の療法を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の療法が、Riluzole、コリンエステラーゼ阻害剤、および免疫抑制剤からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アゴニストが、経口、経皮、もしくは経静脈、または骨格筋組織内への直接的な注射により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象における除神経性神経障害状態を診断する方法であって、
(a)前記対象から骨格筋組織試料を得る工程と、
(b)前記試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現を評価する工程と、
(c)工程(b)における活性または発現を、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較する工程とを含み、正常な組織試料におけるmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現と比較したmiR−206および/またはmiR−133bの活性または発現の上昇により、除神経性神経障害状態が診断される方法。
【請求項12】
前記除神経性神経障害状態が、脊髄損傷、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ失調症、脊髄性筋萎縮症、または脊髄小脳失調である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
miR−206および/またはmiR−133bの活性を評価する工程が、miR−206および/またはmiR−133bにより調節される1つまたは複数の遺伝子の活性を評価する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
miR−206により調節される1つまたは複数の遺伝子が、HDAC4、Dach2、またはミオゲニンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
骨格筋におけるmiR−206および/またはmiR−1活性の調節物質を同定する方法であって、
(a)骨格筋細胞を候補化合物と接触させる工程と、
(b)miR−206および/またはmiR−1の活性または発現を評価する工程と、
(c)工程(b)における活性または発現を、前記候補化合物の非存在下における活性または発現と比較する工程とを含み、
前記測定された活性または発現間の差違により、前記候補化合物がmiR−206および/またはmiR−1の調節物質であることが示される方法。
【請求項16】
前記細胞をin vitroまたはin vivoで候補物質と接触させる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記候補化合物が、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または低分子化合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
miR−206および/またはmiR−1のアゴニストと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2011−515407(P2011−515407A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500898(P2011−500898)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/037405
【国際公開番号】WO2009/117418
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】