説明

神経系の障害の処置

インビトロおよびインビボにおいて、神経発生を調節するための方法が開示される。上記方法は、神経幹細胞と有効な量のFTY720化合物とを接触させる工程を包含する。上記神経発生は、非胚性神経幹細胞または前駆細胞の増殖、分化、移動または生存の調節を含み得る。治療的に有効な量のFTY720化合物を被験体に投与する工程を包含する、神経障害(パーキンソン病、振せん麻痺障害、ハンティングトン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄虚血、虚血性脳卒中、脊髄損傷、癌関連脳損傷、および癌関連脊髄損傷、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上麻痺、レヴィー小体病、脳卒中、大脳梗塞、多発梗塞性痴呆、ならびに老人性痴呆)の予防または処置のための方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連した出願)
本願は、2003年9月12日に出願された特許文献1の利益を主張し、本明細書中に参考としてその全体が援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、神経幹細胞および神経前駆細胞(まとめてNSCと称する)に、一般に作用して、損傷を受けるか、欠けているか、もしくは瀕死であるニューロンまたは他の神経系細胞型を置換し得る子孫を産生する方法に関係する。さらに具体的には、本発明は、NSCをインビボまたはインビトロにおいてFTY720またはその誘導体で処置して、NSCの成長、分化、増殖、生存および移動を調節する方法を含む。これらの方法は、例えば、神経系障害の少なくとも1つの症状を減少させるために有用である。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ここ数年の間に、神経幹細胞が成体哺乳動物の脳において存在することが立証された。新しいニューロンは上記成体哺乳動物の脳において産生されるという最初の示唆は、1960年代に実施された研究(AltmanおよびDas 1965(非特許文献1);AltmanおよびDas 1967(非特許文献2))によってもたらされた。しかしながら、上記哺乳動物の中枢神経系(CNS)内での神経発生は胚形成および周産期に制限されるという理論をひっくり返すために、さらに30年間および精錬された技術手順を必要とした(総説についてはMomma,Johanssonら 2000(非特許文献3);KuhnおよびSvendsen 1999(非特許文献4)を参照のこと)。神経疾患および神経損傷の処置は、従来は現存のニューロンの生存を保つことに注力していたが、神経障害および神経疾患の治療的処置のために神経発生を利用する可能性が、今日では存在する。
【0004】
新しいニューロンの源は成体神経幹細胞(NSC)であり、例えば、側脳室の内側を覆う上衣ゾーンおよび/または脳室下ゾーン(SVZ)内(Doetsch,Cailleら 1999(非特許文献5);Johansson,Mommaら 1999(非特許文献6))、ならびに海馬構成体の歯状回(Gage,Kempermannら 1998(非特許文献7))に位置する。最近の研究は、成体のCNS内における、NSCの種々の付加的な部位についての可能性を明らかにしている(Palmer,Markakisら 1999(非特許文献8))。NSCの非対称的な分裂は、急速な分裂前駆体または前駆細胞の集団を産生すると同時に、それらの数を維持する(Johansson,Mommaら 1999(非特許文献6))。上記前駆体は、それらが分化してゆく細胞型およびそれらが最終的に脳において留まる位置の両方の面から、それらの増殖の程度およびそれらの運命を決定付ける、ある範囲の刺激(cue)に応答する。
【0005】
成体における脳室系の上記NSCは、恐らく、神経管の内側を覆う胚性の脳室ゾーン幹細胞の相当物であり、それらの子孫は分化したニューロンおよびグリアとして上記CNSから移動する(Jacobson 1991(非特許文献9))。NSCは、成体側脳室壁(LVW)に残り、神経前駆体を産生し続け、この神経前駆体は、吻側細胞移動路(rostral migratory stream)を下方に、嗅球の方へと移動し、嗅球においてそれらは顆粒細胞および糸球体周囲のニューロンに分化する(LoisおよびAlvarez−Buylla 1993(非特許文献10))。実質的なニューロンの死は、嗅球において起こり、このことが失われたニューロンの持続した置換についての必要性、すなわち、上記LVWに由来する上記移動前駆体によって充足させられる必要性を生み出す(Biebl,Copperら 2000(非特許文献11))。この進行中の嗅球ニューロンの再集団化に加えて、他の脳領域から失われたニューロンは、上記LVWからの前駆体によって置換され得、この前駆体は、適切な神経突起を備えた、失われたニューロンの表現型へ分化し、正しい標的細胞型とシナプスを形成する強い兆候がある(Snyder,Yoonら 1997(非特許文献12);Magavi,Leavittら 2000(非特許文献13))。
【0006】
インビトロの培養技術は、NSCの増殖および分化の調節に必要とされる外部のシグナルを同定するために確立された(Johansson,Mommaら 1999(非特許文献6);Johansson,Svenssonら 1999(非特許文献14))。分裂促進剤である、EGFおよび塩基性FGFは、上記脳室壁および海馬から単離された神経前駆体を、培養において非常に拡大させることを可能にした(McKay 1997(非特許文献15);Johansson,Svenssonら 1999(非特許文献14))。分裂している前駆体は、未分化状態のままであり、神経球(neurosphere)として公知大きな細胞塊に成長する。上記分裂促進剤の中止と組み合わせた血清の添加は、上記前駆体のニューロン、星状細胞、および希突起膠細胞の、脳の3種の細胞系統への分化を誘導する(Doetsch,Cailleら 1999(非特許文献5);Johansson,Mommaら 1999(非特許文献6))。特定の増殖因子を適用すると、何らかの方法で、各々の細胞型の比率に歪みが生じ得る。例えば、CNTFは、神経前駆体を星状細胞になる結果へと方向付けるように作用する(Johe,Hazelら 1996(非特許文献16);RajanおよびMcKay 1998(非特許文献15))一方で、甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)は、希突起膠細胞分化の促進を示した(Johe,Hazelら 1996(非特許文献16))。PDGFによる神経前駆体のニューロンへの分化の亢進もまた、立証されている(Johe,Hazelら 1996(非特許文献16);Williams,Parkら 1997(非特許文献17))。
【0007】
神経前駆体を増大させ、次いでそれらの細胞運命を操作する能力は、特定の細胞型が失われた神経疾患のための移植療法において非常に大きな意味を有し、もっともはっきりした例は、黒質におけるドパミン作用性ニューロンの変性によって特徴付けられるパーキンソン病(PD)である。PD患者のための以前の移植処置は、黒質のドパミン作用性ニューロンが終末分化を起こしつつあるときに前中脳から得られた胎児性の組織を用いていた(HermanおよびAbrous 1994(非特許文献18))。上記細胞は線条に移植され、そこでそれらは、それら正常なシナプスの標的である、宿主線条体のニューロンとシナプスの接点を形成し、ドパミンターンオーバーおよびドパミン放出を、上記患者にとって有意な機能的利点である正常なレベルに回復させる(HermanおよびAbrous 1994(26))(総説についてはBjorklundおよびLindvall 2000(非特許文献19)を参照のこと)。胎児性組織の移植は、提供者組織の不足により妨げられ、そして胎児性組織の使用は、道徳的問題を生じさせる。しかしながら、NSCのインビトロでの増大および操作は、神経変性疾患のための移植ベースの戦略のために良く特徴付けられた細胞(例えば、PDのためのドパミン作用性の細胞)の範囲を潜在的に提供し得る。組織修復のための成体由来の幹細胞の使用は、胚細胞研究に関連する倫理的な問題を克服することを援助し得る。この目的のために、神経細胞型の増殖と分化を支配する因子および経路を同定することは、これらの原理を証明することになる。
【0008】
最終的に、これらの増殖因子および分化因子の同定は、恐らく、神経疾患および神経障害の処置のための内因性の神経発生の刺激についての見識を提供する。EGFおよび塩基性FGFの両方の脳室内注入は、上記脳室壁細胞集団を増殖させることを示していた。EGFの場合は、隣接する線条体実質の中への前駆体の広範な移動が実証されている(Craig,Tropepeら 1996(非特許文献20);Kuhn,Winklerら 1997(非特許文献21))。上記前駆体の分化は主にグリア系統への分化であり、そしてニューロンの産生は減少した(Kuhn,Winklerら 1997(非特許文献21))。最近の研究は、成体ラットにおけるBDNFの脳室内注入が、上記嗅球および吻側移動路、ならびに実質構造(線条、中隔、視床および視床下部を含む)において、新たに産生されるニューロン数の増加を促進させることを見出した(Pencea,Bingamanら 2001(非特許文献22))。これらの研究は、上記LVWのSVZ内の前駆体の増殖は刺激され得、そしてそれらの系統は、神経になる結果およびグリアになる結果を生み出すために操作され得ることを立証した。
【0009】
現在、インビボにおいて神経発生に影響すると知られている因子の数は少なく、そしてそれらの効果は望ましくないか、または限定されている。神経幹細胞の活性、神経前駆体の増殖、および前駆体の望ましいニューロン細胞型への分化を選択的に刺激し得る因子の探索を、さらに拡大させる必要性がある。必要とされるものは、インビボにおける神経発生を促すための新たな方法および移植治療のための細胞を培養する方法である。
【0010】
FTY720(2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]−1,3−プロパンジオール)は、ミリオシン(myriocin)の化学修飾により得られる(Adachi Kら 1995(非特許文献23))経口活性免疫抑制剤として同定された(例えば、特許文献2;特許文献3を参照のこと)。スフィンゴシンに関連する天然物であるミリオシンは、1972年に抗真菌性の抗生物質として初めて記載された。20年より後、ミリオシンは、子嚢菌網であるIsaria sinclairiiより免疫抑制性代謝産物(ISP−I)として、再発見された。FTY720は活性免疫抑制剤として、現在、多発性硬化症(MS;Novartisの第II相治験は、World Wide Web.iddb.org/において入手可能なInvestigational Drugs Database(IDDB)により公表される)の処置のために開発中である。最近の研究は、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)として公知のMSのために広く使用される動物モデルに基づき、FTY720が、多発性硬化症の症状を緩和し得ることを示唆した。
【0011】
Brinkmannら(2002)(非特許文献24)は、EAEの誘導のその日から2週間にわたって、Wistarラットを経口的にFTY720(0.3mg/kg/日)で処置した。これは、MS様症状の発症を完全に防いだ。Lewisラットにおいて、免疫原としてミエリン塩基性タンパク質を使用して、Fujinoら(2003)(非特許文献25)もまた、FTY720(経口的に1mg/kg/日)による、EAE発症のほぼ完全な抑制を示した。これは、上記CNSの中への白血球浸潤の劇的な減少ならびに上記CNSにおけるIL−2、IL−6、およびINF−γの低下した発現に関連する。最終的に、SJLマウス(EAEを誘導しやすい系統)を使用し、Webbら(2004)(非特許文献26)は、ヒトMSを厳密に模倣していると考えられる、再発−寛解EAE(relapsing−remitting EAE)を誘導した。その著者らは、FTY720処置が、上記動物の臨床的な状態を迅速にかつ持続して改善し、そしてあるミエリンおよび炎症性のタンパク質をコードするmRNAの発現における変化の逆転という結果を招くことを示した。
【0012】
このようにして、FTY720は、活性免疫抑制剤として十分に立証されている。Gタンパク質シグナル伝達のインヒビターである百日咳毒素を使用した実験は、FTY720が、リンパ球上のGタンパク質共役レセプター(GPCR)の機能を調節することにより、リンパ球再循環を変化させ得ることを示した。加えて、FTY720は、S1Pレセプター(SIPR;Mandalaら 2002(非特許文献27))に対して明確な親和性パターンを示すS1Pレセプターアゴニストとして同定された。そのS1PRは、多くの生理学的過程(例えば、血管細胞系、血管透過性、心細胞系、およびリンパ球輸送)の調節に関係している(Fukushima,N、Ishii,I、2001(非特許文献28);Goetzl,E.J&An,S.、1998(非特許文献29);Chun,J.、1999(非特許文献30))。
【特許文献1】米国特許出願第60/502,386号明細書
【特許文献2】国際公開第94/08943号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/36065号パンフレット
【非特許文献1】Altman,J.およびG.Das、「Autoradiographic and histological evidence of postnatal hippocampal neurogenesis in rats」、J Comp Neurol、1965年、第124巻、p.319−335
【非特許文献2】Altman,J.およびG.Dash、「Postnatal neurogenesis in the guinea−pig」、Nature、1967年、第214号、p.1098−1101
【非特許文献3】Momma,S.、C.B.Johanssonら、「Get to know your stem cells」、Curr Opin Neurobiol、2000年、第10巻、第1号、p.45−9
【非特許文献4】Kuhn,H.G.およびC.N.Svendsen、「Origins,functions,and potential of adult neural stem cells」、Bioessays、1999年、第21巻、第8号、p.625−30
【非特許文献5】Doetsch,F.、I.Cailleら、「Subventricular zone astrocytes are neural stem cells in the adult mammalian brain」、Cell、1999年、第97巻、第6号、p.703−16
【非特許文献6】Johansson,C.B.、S.Mommaら、「Identification of a neural stem cell in the adult mammalian central nervous system」、Cell、1999年、第96巻、第1号、p.25−34
【非特許文献7】Gage,F.H.、G.Kempermannら、「Multipotent progenitor cells in the adult dentate gyrus」、J Neurobiol、1998年、第36巻、第2号、p.249−66
【非特許文献8】Palmer,T.D.、E.A.Markakisら、「Fibrobrast growth factor−2 activates a latent neurogenic program in neural stem cells from diverse regions of the adult CNS」、J Neurosci、1999年、第19巻、第19号、p.8487−97
【非特許文献9】Jacobson,M、「Histosenesis and morphogenesis of cortical structures」、Developmental Neurobiology,Plenum Press,New York、1991年、p.401−451
【非特許文献10】Lois,C.およびA.Alvarez−Buylla、「Proliferating subventricular zone cells in the adult mammalian forebrain can differentiate into neurons and glia」、Proc Natl Acad Sci USA、1993年、第90巻、第5号、p.2074−7
【非特許文献11】Biebl,M、C.M.Cooperら、「Analysis of neurogenesis and programmed cell death reveals a self−renewing capacity in the adult rat brain」、Neurosci Lett、2000年、第291巻、第1号、p.17−20
【非特許文献12】Snyder,E.Y.、C.Yoonら、「Multipotent neural precursors can differentiate toward replacement of neurons undergoing targeted apoptotic degeneration in adult mouse neocortex」、Proc Natl Acad Sci USA、1997年、第94巻、第21号、p.11663−8
【非特許文献13】Magavi,S.S.、B.R.Leavittら、「Induction of neurogenesis in the neocortex of adult mice[コメントを参照のこと]」、Nature、2000年、第405巻、第6789号、p.951−5
【非特許文献14】Johansson,C.B.、M.Svenssonら、「Neural stem cells in the adult human brain」、Exp Cell Res、1999年、第253巻、第2号、p.733−6
【非特許文献15】McKay,R.、「Stem cells in the central nervous system」、Science、1997年、第276巻、第5309号、p.66−71
【非特許文献16】Johe,K.、T.G.Hazelら、「Single factors direct the differentiation of stem cells from the fetal and adult central nervous system」、Genes Dev、1996年、第10巻、第24号、p.3129−40
【非特許文献17】Williams,B.P.、J.K.Parkら、「A PDGF−regulated immediate early gene response initiates neuronal differentiation in ventricular zone progenitor cells」、Neuron、1997年、第18巻、第4号、p.553−62
【非特許文献18】Herman,J.P.およびN.D.Abrous、「Dopaminergic neural grafts after fifteen years:results and perspectives」、Prog Neurobiol、1994年、第44巻、第1号、p.1−35
【非特許文献19】Bjorklund,A.およびO.Lindvall、「Cell replacement therapies for central nervous system disorders」、Nat Neurosci、2000年、第3巻、第6号、p.537−44
【非特許文献20】Craig、C.G.、V.Tropepeら、「In vivo growth factor expansion of endogenous subependymal neural precursor cell populations in the adult mouse brain」、J Neurosci、1996年、第16巻、第8号、p.2649−58
【非特許文献21】Kuhn,H.G.、J.Winklerら、「Epidermal growth factor and fibroblast growth factor−2 have different effects on neural progenitors in the adult rat brain」、J Neurosci、1997年、第17巻、第15号、p.5820−9
【非特許文献22】Pencea,V.、K.D.Bingamanら、「Infusion of Brain−Derived Neurotrophic Factor into the Lateral Ventricle of the Adult Rat Leads to New Neurons in the Parenchyma of the Striatum,Septum,Thalamus,and Hypothalamus」、J Neurosci、2001年、第21巻、第17号、p.6706−17
【非特許文献23】Adachi,Kら、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、1995年、第5巻、第8号、p.853−856
【非特許文献24】Brinkmann,V.、Davis,M.D.、Heise,C.E.、Albert,R.、Cottens,S.、Hof,R.、Bruns,C.、Priecschl,E.、Baumruker,T.、Hiestand,P.、Foster,C.A.、Zollinger,M.およびLynch,K.R.、「The immune modulator FTY720 targets sphingosine 1−phosphate receptors」、J Biol Chem、2002年、第277巻、p.21453−7
【非特許文献25】Fujino,M.、Funeshima,N.、Kitazawa,Y、Kimura,H.、Amemiya,H.、Suzuki,S.およびLi,X.K.、「Amelioration of experimental autoimmune encephalomyelitis in Lewis rats by FTY720 treatment」、J Pharmacol Exp Ther、2003年、第305巻、p.70−7
【非特許文献26】Webb,M.、Tham,C.S.、Lin,F.F.、Lariosa−Willingham,K.、Yu,N.、Hale,J.、Mandala,S.、Chun,J.およびRao,T.S.、「Sphingosine 1−phosphate receptor agonists attenuate relapsing−remitting experimental autoimmune encephalitis in SJL mice」、J Neuroimmunol、2004年、第153巻、p.108−21
【非特許文献27】Mandala,S.、Hajdu,R.、Bergstrom,J、Quackenbush,E.、Xie,J.、Milligan,J.、Thornton,R.、Shei,G.J.、Card,D.、Keohane,C.、Rosenbach,M.、Hale,J.、Lynch,C.L.、Rupprecht,K.、Parsons,W.およびRosen,H.、「Alteration of lymphocyte trafficking by sphingosine−1−phosphate receptor agonists」、Science、2002年、第296号、p.346−9
【非特許文献28】Fukushima,N.、Ishii,I.、Contos,J.J.、Weiner,J.A.およびChun,J.、「Lysophospholipid receptors」、Annu Rev Pharmacol Toxicol、2001年、第41巻、p.507−34
【非特許文献29】Goetzl,E.J.およびAn,S.、「Deliversity of cellular receptors and functions for the lysophospholipid growth factors lysophosphatidic acid and sphingosine 1−phosphate」、FASEB J.、1998年、第12巻、p.1589−98
【非特許文献30】Chun,J.、「Lysophospholipid receptors:implications for neural signaling」、Crit Rev Neurobiol、1999年、第13巻、p.151−68
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、本明細書で示されるFTY720(2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]−1,3−プロパンジオール)が、成体の神経幹細胞または神経前駆細胞(NSC)の神経発生を効果的に調節し得るという、驚くべき発見に基づく。したがって、FTY720は、NSCの増殖、分化、移動、または生存を調節するために有用である。本明細書中で使用される場合、用語「FTY720」は、FTY720および本明細書中で詳細に記載される、その誘導体を含む。
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、被験体における神経組織中の細胞と、神経発生を調節するために十分な量のFTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する、被験体における神経発生を調節するための方法を包含する。
【0015】
特定の実施形態において、本発明は、神経系障害(例えば、神経変性疾患、神経疾患、精神疾患、または損傷を含む神経系の他の状態)の症状を緩和するために、FTY720を含む組成物を被験体に投与する方法を包含する。
【0016】
さらなる実施形態において、本発明は、神経系障害の症状を緩和するために十分な量のFTY720を含む組成物を被験体に投与する工程を包含する、被験体における神経系障害の症状を緩和するための方法を包含する。
【0017】
本発明の種々の局面において、FTY720は、インビトロまたはインビボにおいてNSCの活性(すなわち、成長、増殖、分化、移動、または生存)を増大させるために使用され得る。
【0018】
特定の局面において、FTY720は、他の増殖因子とともに、または他の増殖因子なしで神経球培養物を産生、維持、成長および増大させるために使用され得る。
【0019】
加えて、FTY720は、本発明の上記方法での使用のために、組成物(例えば、薬学的組成物または実験用組成物)へと処方され得る。
【0020】
1つの実施形態において、本発明は、哺乳動物のNSC(例えば、成体または他の非胚性細胞)を含む細胞集団と、FTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する、哺乳動物の成体のNSC活性を調節するための方法を包含し、処置された細胞は、無処置の細胞と比較して改善された増殖または神経発生を示す。
【0021】
もう1つの実施形態において、本発明は、1個以上のNSCと、FTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する、初代の哺乳動物NSC(例えば、成体または他の非胚性細胞)を刺激して神経球を形成させるように増殖させるための方法を包含し、この接触された細胞は、NSCの増殖および神経球の形成の増大を示す。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明は:
(a)NSCを含む細胞集団と、FTY720を含む組成物とを接触させる工程;
(b)工程(a)の上記接触させた細胞集団を単離し、その結果NSCに富む細胞集団を産生する工程
を包含する、ヒトNSCに富む細胞集団を産生するための方法を包含する。
【0023】
さらなる実施形態において、本発明は、非胚性神経幹細胞と、その細胞の増殖を増大させるために十分な量のFTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する、インビトロにおいて非胚性神経幹細胞の増殖を増大させるための方法を包含する。
【0024】
もう1つの実施形態において、本発明は、上述の方法によって産生されたヒトNSCに富む細胞集団を含む、細胞培養物を含む。
【0025】
さらにもう1つの実施形態において、本発明は、非胚性神経幹細胞と、その細胞の増殖を増大させるために十分な量のFTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する、非胚性神経幹細胞の増殖を増大させる方法を包含する。
【0026】
さらなる実施形態において、本発明は、FTY720の治療的に有効な量を投与する工程を包含する、哺乳動物の神経組織に位置するNSCのインサイチュ活性を増大させるための方法を包含し、上記投与は、上記神経組織における上記細胞の成長、増殖、分化、移動、または生存を増大させる。
【0027】
本発明はまた、他の幹細胞集団(例えば、造血幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、および腸幹細胞)の増殖を増大させるために、FTY720を含む組成物を被験体に投与する方法を包含する。
【0028】
1つの実施形態において、本発明は、神経系障害を患っている被験体に神経発生を増大させるために十分な量のFTY720を含む組成物を投与する(例えば、全身経路または局所経路を介して)工程を包含する、神経系障害を患っている被験体における神経発生を増大させる方法を包含する。
【0029】
もう1つの実施形態において、本発明は、神経系障害の症状を緩和するために十分な量のヒトNSCに富む細胞集団(上述の方法により産生されたもの)を投与する工程を包含する、被験体における神経系障害の症状を緩和するための方法を包含する。
【0030】
さらなる実施形態において、本発明は、神経系障害の症状を緩和するために十分な量の以下を含む組成物:
(a)成体または他の非胚性組織から得られた、単離されたNSCの集団;および
(b)他の増殖因子を添加した、または他の増殖因子の添加なしのFTY720;
を投与する工程を包含する、被験体における神経系障害の症状を緩和する方法を包含する。
【0031】
本発明はさらに、認知能力を増大させるために、被験体にFTY720を含む組成物を投与する方法を包含する。
【0032】
特定の局面において、本発明のFTY720組成物および他の組成物(例えば、NSCに富む細胞集団)は、被験体の脊髄の中に、例えば、注射、注入、または他の手段により投与される。
【0033】
さらなる局面において、FTY720は、単独で、または1種以上の増殖因子(例えば、EGF、PDGF、TGF−α、FGF−1、FGF−2、NGF、PACAPなど)、または1種以上の抗うつ剤、抗不安処置の薬剤、抗精神病処置の薬剤、てんかん処置の薬剤、アルツハイマー処置の薬剤、パーキンソン処置の薬剤、ドパミンレセプターアゴニスト、精神安定薬、鎮静薬、リチウム、もしくは他の治療剤と組み合わせて使用され得る。
【0034】
特定の局面において、上記FTY720化合物は、0.1ng/kg/日〜1mg/kg/日、1ng/kg/日〜1μg/kg/日、1mg/kg/日〜10mg/kg/日、または10mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で投与され得る。好ましくは、FTY720は、0.3mg〜10mgの用量で投与される。さらに好ましくは、FTY720は、1ng/kg/日〜1mg/kg/日または1μg/kg/日〜0.1mg/kg/日の用量で被験体に投与される。ある局面において、上記FTY720組成物は、0.0001nM〜0.1nM、0.001nM〜10nM、0.1nM〜1nM、1nM〜10nM、10nM〜100nM、または1μM〜10μMの標的組織濃度を達成する量で投与され得る。好ましくは、FTY720は、0.001nM〜0.05nMまたは0.02nM〜0.04nMの標的組織濃度を得るように投与される。本発明の他の実施形態、目的、局面、特徴、および利点は、添付している明細書および特許請求の範囲より明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本開示の全体にわたって、用語「神経幹細胞」(NSC)は、「神経前駆細胞」、「ニューロン前駆細胞」、「神経前駆体細胞」、および「ニューロン前駆体細胞」を含む(全てはNPCとして本明細書で言及される)。これらの細胞は、非胚性(例えば、成体)の細胞であり、持続して細胞増殖を起こすその能力、それら自体の正確な複製物を再生する能力(自己再生)、多数の局所的細胞の子孫を産生する能力、および損傷または疾患に応答して新しい細胞を精巧に作り上げる能力により、同定され得る。
【0036】
用語「NPC」は、ニューロン細胞(例えば、ニューロン前駆体または成熟したニューロン)またはグリア細胞(例えば、グリア前駆体、成熟した星状細胞、または成熟した希突起膠細胞)のいずれかの子孫を産生し得る細胞を意味する。代表的には、上記細胞は、上記神経細胞系統の特徴である表現形マーカーの一部を発現する。上記細胞はまた、ある様式で分化または再プログラムされた場合を除き、インビトロにおいて単独で培養された場合、他の胚の胚葉の子孫を通常産生しない。
【0037】
NSCを含む細胞集団は、神経組織(例えば、ヒト組織(例えば、非胚性(例えば、胎児、成人)の脳、神経細胞培養物、または神経球))から獲得され得る。例えば、上記NSCは、硬膜、末梢神経、または神経節により囲まれた組織に由来し得る。上記NSCは、哺乳動物の脳の側脳室壁に由来し得る。上記NSCは、代替的に、組織(例えば、膵臓、皮膚、筋肉、成体の骨髄、肝臓、および臍帯組織または臍帯血)起源の幹細胞に由来し得る。上記NSCは、上記方法の適用の後、無処置の細胞と比較して、特性(例えば、生存、増殖、または移動)の改善を示す。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「神経球」とは、NSCからなる細胞の塊をいう。「NSC活性」、「NSCの活性」という語句、および同様の表現法は、NSCの成長、増殖、分化、移動、または生存を意味する。
【0039】
用語「処置」は、その用語の本発明に関する種々の文法的形態において、神経障害の有害な効果、障害の進行、障害の病原因子(例えば、細胞欠損、薬物、毒物、細菌またはウィルス)、損傷、外傷、または他の異常な状態を、予防、治療、改善(reverse)、減弱、緩和、寛解、最小化、抑制、または停止することをいう。神経障害の症状としては、緊張、異常運動、異常行動、チック、多動、好戦的であること、反抗的であること、拒絶症、記憶障害、感覚障害、認知障害、幻覚、急性妄想、自分の面倒を自分でみる能力が乏しいこと、ならびに時々の離脱症および引きこもりが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法の一部が上記病原因子に対する反作用を含むため、当業者は、本発明化合物が上記病原因子の作用前または作用と同時に投与される局面(予防的な処置)、および本発明の化合物が上記病原因子の作用の後(かなり後も同様)に投与される局面において、それらは同等に効果的であると認識する。
【0040】
特定の例によれば、ある薬剤の「治療的に有効な量」は、処置を必要とする患者の症状を改善するために十分な量、または疾患およびその合併症を少なくとも部分的に阻止するために十分な量であるように決定されるべきである。このような使用のために効果的である量は、上記疾患の重症度および上記患者の全身的な健康状態に依存する。単回投与または複数回投与は、上記患者によって必要とされる、または許容される投与量および投与回数に依存して要求され得る。本開示において、「障害」は、「疾患」と同様な意味を有するものとする。
【0041】
本発明において、「標的」組織としては、脳室壁、脳室系の壁に近接する空間(volume)、梨状皮質、海馬白板を含む海馬構成体、線条、黒質、網膜、扁桃、マイネルト基底核、脊髄、視床、視床下部、中隔および大脳皮質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本願全体を通して、用語「注射」は、当該分野において公知である全ての形態の注射、および少なくともより一般に記載される注射の方法(例えば、皮下注射、腹腔内注射、筋内注射、脳室内(例えば、側脳室内)注射、実質内注射、クモ膜下腔内注射、および頭蓋内注射)を包含する。注射以外の方法によって投与される場合は、全ての公知の手段が検討され、その手段としては、口腔経路、経鼻経路、肺経路、または直腸粘膜経路を通じた投与が挙げられる。
【0043】
用語「単離された」または「実質的に精製された」は、本発明のある薬剤(例えば、FTY720)に適用される場合は、上記薬剤が、自然状態で関連しているか、または合成の間における他の成分を本質的に含まないことを意味する。それは均質な状態であることが好ましいが、乾燥物または水溶液のいずれかの状態もあり得る。純度および均質性は、代表的には、分析化学技術(例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィ)を使用して決定される。調製物中に存在する主な化学種(species)である薬剤は、実質的に精製される。
【0044】
「薬学的組成物」とは、例えば、被験体(特にヒト被験体)における投与のために有用である組成物をいう。本発明の薬学的組成物は、その意図する投与経路と適合するように処方される。このような処方物は、当該分野において周知である。治療的に有効な量の上記FTY720を含む処方物としては、例えば、錠剤、アンプル剤、カプセル剤、滅菌溶液、液体懸濁液、または凍結乾燥バージョンが挙げられ、そして必要に応じて本明細書中で詳細に記載されるような、安定剤または賦形剤を含む。凍結乾燥された組成物は、適切な希釈剤(例えば、注射用水、食塩水、0.3%グリシンなど)で、宿主体重について1日あたり約5μg/kg〜約0.07mg/kg、0.01mg/kg〜1mg/kg、1ng/kg〜1mg/kg、または1μg/kg〜0.1mg/kg、もしくはそれより多い水準に、再構成される。
【0045】
「経口」投与とは、口を介した摂取によるか、または胃腸系の任意の他の部分を介した処方物の送達(例えば、食道または坐剤を介した投与(suppository administration))をいう。
【0046】
「非経口」投与とは、胃腸管を介した経路以外による組成物(例えば、神経発生調節剤を含む組成物)の送達をいう。特定の局面において、非経口投与は、静脈内、皮下、筋内または髄内(すなわち、クモ膜下腔内)への注射もしくは注入によってなされ得る。
【0047】
「局所的」投与とは、薬剤を、皮膚または粘膜の外面を通過させて基調組織に入るように、皮膚または粘膜の外面(鼻、腸および口の表面膜を含む)に薬学的組成物を適用させることをいう。口の粘膜への適用もまた、経口投与の一形態と考えられ得る。薬学的組成物の局所的投与は、結果として、上記粘膜および周囲の組織へのFTY720の標的化された分布をもたらし得る。上記薬学的組成物はまた、血流に入るために局所的に適用され得、そしてFTY720の全身分布という結果を導く。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「FTY720」には、FTY720および本明細書中に詳細に記述されるようなFTY720誘導体が含まれるが、S1Pは除外される。FTY720誘導体は、例えば、FTY720のリン酸エステル代謝産物およびそれらの薬学的に受容可能な塩、FTY720ホスフェート生物学的同配体(bioisostere)、ならびにインビトロおよびインビボにおいて、細胞の境界および血液脳関門を越えてNSCにアクセスする移入をさらに促進するように修飾されたFTY720を包含する。非修飾FTY720またはFTY720P(以下を参照のこと)もまた、血液脳関門を越えるために使用され得る。
【0049】
(本発明のFTY720化合物)
本発明は、FTY720(2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]−1,3−プロパンジオール)およびその誘導体を利用する組成物および方法を包含する。例えば、表1;米国特許第6,004,565号、同6,476,004号、WO 99/36065、およびWO 94/08943を参照のこと。これらは本明細書中に参考としてその全体が援用される。FTY720誘導体は、上記FTY720分子の任意の化学修飾物を包含するが(例えば、表2を参照のこと)、ただし、上記誘導体はS1Pではない。誘導体の限定されない例としては、例えば、FTY720のリン酸エステル代謝産物、FTY720の薬学的に受容可能な塩、FTY720ホスフェート生物学的同配体、ならびに上記化合物の細胞膜および血液脳関門の通過が促進されるようにリン酸基が修飾された化合物が挙げられる。非修飾FTY720およびFTY720P(以下を参照のこと)はまた、上記血液脳関門を通過させるために使用され得る。必要に応じて、FTY720は、投与後のFTY720の半減期を向上させるためにポリエチレングリコール化(pegylate)され得る。タンパク質および試薬をポリエチレングリコール化する方法は、当業者に周知であり、そして、例えば、米国特許第5,166,322号、同第5,766,897号、同第6,420,339号および同第6,552,170号に記載される。
【0050】
【表1】

表1:FTY720構造体(FTY720、FTY720P、R−AAL、およびR−AFDを含む)(Brinkmannら、2002)。
【0051】
本発明の方法に従って、FTY720は、安定剤(例えば、シクロデキストリン(例えば、天然のシクロデキストリン、分枝したシクロデキストリン、アルキル−シクロデキストリンおよびヒドロキシアルキル−シクロデキストリン;例えば、欧州特許第1050301号を参照のこと))と組み合わせて使用され得る。FTY720はまた、糖(例えば、単糖類、二糖類、および糖アルコール(D−マンニトール、グルコース、D−キシリトール、D−マルトース、D−ソルビトール、乳糖、果糖およびショ糖))とともに使用され得、この糖はFTY720の投与に時折関連する副作用を減少させ得る。加えて、FTY720は、1種以上の増殖因子(例えば、EGF、PDGF、TGF−α、FGF−1、FGF−2、NGF、PACAPなど)、または1種以上の抗うつ剤、抗不安処置の薬剤、抗精神病処置の薬剤、てんかん処置の薬剤、アルツハイマー処置の薬剤、パーキンソン処置の薬剤、ドパミンレセプターアゴニスト、精神安定薬、鎮静薬、リチウム、もしくは本明細書中に詳細に記載される他の治療剤と組み合わせて使用され得る。
【0052】
FTY720は現在、免疫抑制剤としてNovartisにより開発中である。これらの研究において、FTY720は、肝臓移植後および腎臓移植後の同種移植片拒絶を効率よく防止することが示されており、かつシクロスポリンAとともに投与した場合は相乗効果を示す(Brinkmannら、2001において総説される)。あるT細胞エピトープに対する抗体を除外して、移植において使用される他の免疫抑制剤はすべて、T細胞の攻撃的応答を減少させる有毒な物質である。FTY720は新しい型の免疫抑制剤であり、循環から二次リンパ器官へとリンパ球を再分布させることにより作用する(Chiba,K.ら、1999)。
【0053】
この機序により、FTY720は、自己免疫を含む種々の疾患(例えば、以下についての種々の動物モデル:移植片対宿主病(例えば、Masubuchi,Y.ら、1996)、I型糖尿病(Maki,T.ら、2002;Yang,Z.、2003)、慢性関節リウマチ(Matsuura,M.、Imayoshi,T. & Okumoto,T.、2000;Matsuura,M.、Imayoshi,T.、Chiba,K. & Okumoto,T.、2000)および多発性硬化症(MS)(Webb,M.ら、2004;Brinkmannら、2002;Fujinoら、2003))の症状を、首尾よく緩和し得る。糖尿病に対しては、Yangら(2003)は、FTY720は、非肥満性糖尿病マウスにおける自己免疫性糖尿病を防ぐことを示した。循環するリンパ球の数は、FTY720によって有意に減少した。加えて、単核細胞の島細胞の中への浸潤(I型糖尿病の特徴)は、急に減少した。FTY720が種々の細胞株においてアポトーシスを誘導することは公知であるため、FTY720はまた、癌の処置のためにも開発されている。最近、FTY720がヒト肝癌細胞株におけるアポトーシスの強力な誘導物質であることが報告されており、これは恐らく、Akt経路の下方制御を介している(Leeら、2004)。
【0054】
FTY720は、免疫抑制剤としての使用に関して第III相研究にあり、かつMSの免疫学的ベースの処置に関して第II相研究にある。その両親媒性特性に起因して、FTY720は、優れた経口バイオアベイラビリティー(ラットにおいて80%、イヌにおいて60%、およびサルにおいて40%)を示す。FTY720は、主にCYP4F3によって、対応するカルボン酸へと代謝されることが示されている。0.1mg/kgおよび1mg/kgの単回経口投与量後のラットにおけるT1/2は、それぞれ、18.1時間および21.6時間であった。0.3mg/kg/日でのFTY720の単回経口投与後の薬物動態的研究は、36+/−12時間のT1/2を示した。腎臓移植患者の第I相研究において、0.25mg〜3mgの経口投与量後96時間の間の、FTY720の全血レベルの測定は、FTY720が上記投与量に比例したCmaxおよびAUCで緩徐に吸収される結果を示し、線形的な薬物動態を示した。
【0055】
このようにして、FTY720は、活性な免疫抑制剤および抗癌/抗増殖剤として確立された。したがって、FTY720は、薬学的処方物および実験用処方物のための有用な化合物である。FTY720は、免疫抑制のために経口的に投与された場合に、治療的に効果的であってかつよく耐えられることが示されている。唯一観察された副作用は、軽度かつ一過性の徐脈であった。その作用機序によって予想された通り、FTY720はまた、末梢のリンパ球数の減少に関連している(例えば、Tedesco−Silva Hら、2004を参照のこと)。さらに、FTY720の幅広い範囲の投与量は、本明細書中に記載される処置方法のために、安全に使用され得る。ラットモデルにおいて、LD50は、300mg/kg〜600mg/kg程度に高いと計算された(IDDB;world wide web.iddb.org/において入手可能)。イヌモデルにおいて、200mg/kgの投薬量未満では死亡例は観察されなかった(IDDB)。霊長類は、3mg/kgで処置され、毒性は観察されなかった(IDDB)。PI腎臓移植患者において、0.25mg〜3.5mg(単回投与量)の薬物の投与は、深刻な有害事象を生じなかった。したがって、本発明の特定の局面に従って、ヒト被験体の処置のためのFTY720投与量は、約5μg/kg〜約0.07mg/kgの範囲にわたり得る。加えて、非修飾FTY720およびFTY720Pは、上記血液脳関門を通過し得る。
【0056】
驚くべきことに、本発明の実験は、公知の免疫抑制剤および抗癌剤FTY720がNSC/NPCの活性を刺激するように作用し、そしてそれゆえ、インビボにおいて神経発生を刺激するための、およびインビトロにおいてNSCを培養するために使用され得ることを示す。
【0057】
(FTY720およびS1Pレセプター)
FTY720と内在性のリゾリン脂質スフィンゴシンとはいくつかの構造的特徴を共有し、このような構造的特徴としては、親油性テール、2−アミノ基、およびリン酸ヘッド基(phosphate head group)が挙げられる(表2)。スフィンゴシンおよびFTY720は、インビボにおいてリン酸化された結果、それぞれ、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)およびFTY720Pとなる。S1PおよびFTY720Pの両方は、一群のGタンパク質共役レセプター(S1P〜S1Pと命名されているS1Pレセプター(S1PR))に対するリガンドである。これらは、以前はEDGレセプター(EDG=S1P;EDG=S1P;EDG=S1P;EDG=S1P;EDG=S1P)と呼ばれていた。
【0058】
【表2】

表2:S1P(上)およびFTY720P(下)の構造。
【0059】
本明細書で示されるように、神経形成領域または関連する細胞/組織における、すべてのS1PレセプターのmRNA発現、特にS1PおよびS1PのmRNA発現は、高度かつ神経形成領域(側脳室壁(LVW)または海馬)選択的に発現している。加えて、S1Pレセプターは、成体マウスの脳の側脳室壁(LVW)およびインビトロにおいて培養した成体マウスNSCにおいて、発現している。さらに、S1Pは、LVWの脳室下ゾーン(SVZ)において特異的に発現しており、そしてS1PRは、海馬の歯状回において発現している。
【0060】
FTY720およびそのリン酸化代謝産物は、脳において発現する少なくとも2種のS1Pレセプターの高親和性リガンドとして特徴付けられている(Mandalaら、2002)。FTY720に関して報告されている最も低いEC50値は、S1PおよびS1Pに対するEC50値である。FTY720のリン酸化形態であるFTY720Pに関しては、ピコモルの親和性が報告されている(表3を参照のこと)。しかしながら、FTY720は、S1Pと比較すると、異なりかつ予想外の結合および活性を示す。FTY720Pは、S1Pと比較すると、S1Pレセプターに対してより高い親和性で結合するが、S1Pレセプターに対してより低い親和性で結合する(表3)。FTY720Pが、S1Pを除いたすべてのS1PRに結合する(表3;Fujino,M.ら、2003において総説される)一方で、S1PはS1Pを除いたすべてのS1PRに結合する。加えて、S1Pが、100nM〜3μMの濃度で神経前駆細胞において利用されている(Haradaら、2001)一方で、本発明は、FTY720は0.02nM〜0.04nMのEC50値で神経幹細胞において効果的であると立証する(図2)。したがって、FTY720は、標的NSCにおいて、0.001nM〜0.05nMの濃度で活性である。これらのデータと、本明細書以下で開示するインサイチュハイブリダイゼーションの結果とをひとまとめにして考えると、FTY720がS1Pおよび/またはS1Pを介して増殖を仲介することが示唆される。S1PおよびFTY720の結合特徴における相違は、FTY720に関連した有意に低い毒性および副作用事象を説明し得る。
【0061】
【表3】

表3:S1Pレセプターに関する結合データ。[γ−35S]GTPγS結合アッセイ(nM)。**示されたS1Pレセプターを発現する安定にトランスフェクトされたCHO細胞の膜に対するS133P結合の競合(nM)。Mandalaら、2002;##Brinkmannら、2002;###Novartisデータ。
【0062】
(S1PRのクローニングおよび発現)
すべてのS1PRは、単一のエキソンによりコードされている。S1Pは、クローニングされた最初のS1PRであった。それは、もともとは内皮細胞の分化の際に誘導される転写産物として発見された。このことが、以前の名前であるEDG(内皮分化遺伝子)のもととなった。ヒトおよびマウス両方のS1Pは382アミノ酸を含み、約43kDaの見かけ上の分子量を有する。S1P(ヒトでは353アミノ酸;マウスでは352アミノ酸)は、後にラット脳およびラット脈管平滑筋細胞より単離され、S1Pは、ヒトゲノムライブラリーより単離された。S1Pは、インビトロにおいて分化した、ヒト樹状細胞およびマウス樹状細胞よりクローニングされた。S1Pは、PC12細胞cDNAライブラリーよりクローニングされた、nrg−1と呼ばれる遺伝子と対応することが示された。最初にS1PRが唯一のS1PRでなくなった(deorphanize)際、S1PはS1Pによって活性化されることが発見された。配列分析は、上記S1PRがカンナビノイドレセプターと約20%のアミノ酸相同性、およびリゾホスファチジン酸レセプター(LPA1〜3、以前はEDG2、4、7と呼ばれていた)と約30%の同一性を示すことを明らかにした。
【0063】
マウスS1Pは、主に脳、心臓、肺、および脾臓において発現しているが、より少ない程度で腎臓、胸腺、および筋肉においても発現している。S1Pは、CNSにおいてS1Pとともに顕著な発現を示す。S1Pは、脳において発現することが見い出された。S1PおよびS1Pは密接に関係し(92%の配列同一性)、かつ同様な組織分布を共有している。これらのレセプターは、心臓および肺において発現するが、腎臓、肝臓、胸腺、脾臓、精巣および脳でも発現している。S1Pはもっぱらリンパ組織において発現し(Graler,ら、2002)、S1Pはもっぱら脳において発現する(Glickmanら、1999)。
【0064】
Chaeらは最近、S1Pの発現をより詳細に検出するために、上記S1P遺伝子座の中にβ−ガラクトシダーゼをノックインさせたβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子発現系を使用した。成体マウスの脳において、S1Pは、プルキンエ細胞、ニューロン細胞体、ならびに星状細胞によって発現されることが見い出された(Chaeら、2004)。Beerらによる研究においては、神経系におけるS1PR mRNAの分布が調査された。彼らは、S1Pがニューロン細胞に限定されることを示した。先の研究に合致し、S1P mRNAはCNSで全く検出されなかった(Beerら、2000)。上記マウス脳におけるS1Pの発現は、第4脳室脈絡叢、間脳の散在細胞に制限することが見い出された(McGiffertら、2002)。ノザンブロット分析およびEST発現プロファイリングにより、ラットS1P発現は、下位脳領域(中脳、脳橋、髄質および脊髄を含む)において特に多量であることが立証された(Glickmanら、1999)。ヒトS1P発現もまた、脳、肺、脾臓、および末梢血白血球に局在している(Imら、2001)。加えて、S1Pは、脳梁、海馬(海馬采)および白質に局在している(Imら、2000)。
【0065】
FTY720は、リンパ球および他の細胞株において、アポトーシスを誘導すると報告されている。これは、細胞内のCa2+レベルの急激な上昇に関連し、そしてPTX非依存性様式において、ホスホリパーゼCに依存している(Shinomiyaら、1997)。この機序は、上記S1Pレセプターを迂回し得る。S1PRおよびそれらの推定される役割に関する付加的な情報は、一般に入手可能である(総説については、Tomanら、2002を参照のこと)。
【0066】
(本発明により処置される疾患および障害)
本発明は、神経系障害(ただし、その障害は多発性硬化症(MS)ではない)を患う被験体に、治療的に有効な量のFTY720を投与することによって、この神経系障害の1つ以上の症状を緩和する方法を包含する。
【0067】
MSが病状およびこの病状の進行における基本的な相違(例えば、world wide web.cnsonline.org/において入手可能な、C.Plank、The Center for Neurologic Studyを参照のこと)によって、他の運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症、すなわちALS)と区別され得ることは、注目されるべきことである。ALSの病状における主な特徴は、脊髄の前角および脳幹の運動核における運動神経細胞の減少である。比較すると、MSは主にミエリンの疾患であり、神経細胞の疾患ではない。上記ミエリンは、軸索、すなわち神経細胞の長い突起を取り囲む。ミエリンは神経系の全体にわたって生じるため、病変は複数の部位に起こり得、そして代表的には複数の部位におこる。しかしながら、上記疾患は、末梢神経のミエリンではなく、中枢のミエリンにのみ発症する。中枢神経組織の他の要素(実際の神経細胞、それらの突起および軸円柱部、ならびに支持組織を含む)は、MSにおいて比較的影響されない。上記軸索を覆うミエリンの破壊は、結果として上記軸索自体の有意な逆行性変性を招かない。すなわち、驚くべきことに神経細胞はMSにおける破壊の有意な証拠を示さない。MSのもう1つの著しい特徴は、FTY720での処置によって標的とされている、自己免疫である。
【0068】
本発明によれば、神経系障害の限定されない例としては、例えば、少なくとも以下が挙げられる:神経変性障害、神経幹細胞障害、神経前駆体障害、虚血性の障害、神経外傷および神経損傷、情動障害、神経精神障害、網膜の変性疾患、網膜損傷および網膜外傷、ならびに学習障害および記憶障害。精神分裂病および他の精神病、脳回欠損症候群、うつ病、双極性うつ病、双極性障害、不安症候群、不安障害、恐怖症、ストレスおよび関連した症候群、認識機能障害、攻撃性、薬物乱用およびアルコール乱用、強迫性行動症候群、季節性気分障害、境界性人格障害、脳性麻痺もまた、挙げられる。本発明のさらなる局面において、神経系の障害としては、少なくとも、痴呆、てんかん、てんかんに関連する損傷、および側頭葉てんかんが挙げられる。脊髄損傷、脳損傷、脳外科手術、脳損傷に関連する外傷、脊髄損傷に関連した外傷、癌処置に関連した脳損傷、癌処置に関連した脊髄損傷、感染症に関連した脳損傷、炎症に関連した脳損傷、感染症に関連した脊髄損傷、炎症に関連した脊髄損傷、環境毒に関連した脳損傷、環境毒に関連した脊髄損傷、自閉症、注意欠陥障害、ナルコレプシー、睡眠障害、および認識障害もまた、挙げられる。
【0069】
本発明の特定の局面において、神経系の障害としては、少なくとも、パーキンソン病(振せん麻痺)(原発性パーキンソン病、続発性振せん麻痺、および脳炎後振せん麻痺を含む);薬物性運動障害(振せん麻痺、急性失調症、遅発性ジスキネジー、および神経弛緩薬性悪性症候群を含む);ハンティングトン病(ハンティングトン舞踏病;慢性進行性舞踏病;遺伝性舞踏病);せん妄(急性錯乱状態);痴呆;アルツハイマー病;非アルツハイマー痴呆(レヴィー小体痴呆、血管性痴呆、ビンスヴァンガー痴呆(皮質下性動脈硬化性脳障害)、ボクサー痴呆(dementia pugilistica)、正常圧水頭症、全身不全麻痺、前頭側頭骨性痴呆(frontotemporal dementia)、多発脳梗塞性痴呆、およびAIDS痴呆を含む);加齢性記憶障害(AAMI);健忘症(例えば、逆行性健忘症、前向性健忘症、全健忘症、モダリティー特異的健忘症、一過性健忘症、安定健忘症、および進行性健忘症、ならびに外傷性健忘症、そしてコルサコフ病)が挙げられる。
【0070】
他の特定の障害としては、特発性起立性低血圧、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上性麻痺(スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー症候群);小脳の構造損傷(例えば、梗塞、出血、または腫瘍に関連した構造損傷);脊髄小脳変性(フリートライヒ運動失調に関連する脊髄小脳変性、無β−リポ蛋白血症(例えば、バッセン−コルンツヴァイク症候群、ビタミンE欠乏症)に関連する脊髄小脳変性、レフサム病(フィタン酸蓄積症)に関連する脊髄小脳変性、小脳性運動失調に関連する脊髄小脳変性、多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮)に関連する脊髄小脳変性、毛細血管拡張性運動失調に関連する脊髄小脳変性、およびミトコンドリア多系統障害(mitochondrial multisystem disorder)に関連する脊髄小脳変性);急性播種性脳脊髄炎(感染後脳脊髄炎);副腎脳白質ジストロフィおよび副腎脊髄神経障害;レーバー遺伝性視神経萎縮;HTLV関連ミエロパシー;運動ニューロン障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮、原発性側索硬化症および進行性偽球麻痺、ならびに脊髄性筋萎縮症(例えば、I型脊髄性筋萎縮症(ヴェルドニッヒ−ホフマン病)、II型(中間)脊髄性筋萎縮症、III型脊髄性筋萎縮症(ヴォールファルト−クーゲルベルク−ヴェランデル病)、およびIV型脊髄性筋萎縮症)が挙げられる。
【0071】
さらなる特定の障害としては、叢障害(例えば、神経叢障害および急性上腕神経叢炎(神経痛性筋萎縮症));末梢性神経障害(例えば、単神経障害、多発性単神経障害、および多発性神経障害(尺骨神経麻痺、手根管症候群、腓骨神経麻痺、橈骨神経麻痺、ギヤン−バレー症候群、慢性再発性多発性神経障害、遺伝性運動神経障害および遺伝性感覚神経障害(例えば、I型およびII型(シャルコー−マリー−ツース病、腓骨筋萎縮症)ならびにIII型(肥厚性間質性ニューロパシー、ドゥジュリーヌ−ソッタ病))を含む));神経筋伝達の障害(例えば、重症筋無力症);神経眼科学的障害(例えば、ホルナー症候群、核間性眼筋麻痺、注視麻痺、およびパリノー症候群);脳神経麻痺、三叉神経痛(疼痛性チック);ベル麻痺;および舌咽神経痛;放射能に誘導される神経系損傷;化学療法に誘導される神経障害(例えば、脳障害);タキソール神経障害;ビンクリスチン神経障害;糖尿病性神経障害;自律性神経障害;多発性神経障害;、ならびに単神経障害;そして虚血性症候群(例えば、一過性虚血性発作、鎖骨下動脈盗血症候群、ドロップアタック、虚血性脳卒中、脊髄虚血、出血性脳卒中、および脳梗塞)が挙げられる。
【0072】
また、同時係属中の米国出願第09/998,861号、同第10/246,091号、同第10/291,290号、同10/291,171号、および同10/429,062号(これらは本明細書中に参考として援用される)において開示される神経系障害も含まれる。
【0073】
(本発明の薬学的組成物)
本発明は、FTY720を含む組成物を神経系障害を患う被験体に投与してNSC活性を刺激し、それによって、神経系における損傷を受けたかまたは失われたニューロンを置換する方法を包含する。このような方法に従って、FTY720は、インビボにおいてNSCまたはNPC活性を調節するために、適切な投与経路を通じて適切な処方物で提供される。
【0074】
1つの局面において、本発明は、所望の神経表現型を得るために、FTY720組成物を投与して上衣細胞および脳室下ゾーンの神経発生(すなわち、細胞の成長、増殖、移動、生存および/または分化)を促進することによって、被験体における神経変性疾患の1つ以上の症状を処置するための再生方法を包含する。例としては、FTY720は、1つ以上の部位(例えば、細胞が損傷を受けるかもしくは失われた領域または損傷を受けていない領域)において、神経発生を増大させるために使用され得る。上衣幹細胞のインビボにおける刺激は、適切な処方物で上記細胞に局所的にFTY720を投与することによって達成される。神経発生の増大によって、損傷を受けるかまたは失われたニューロンは、疾患状態にある脳機能を増強するために置換され得る。
【0075】
特定の局面において、本発明は、FTY720組成物を哺乳動物に投与する方法を包含する。用語「哺乳動物」とは、哺乳類に分類される任意の哺乳動物をいい、哺乳動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、ネコ、ウサギ、マウス、およびラットが挙げられる。好ましい局面において、上記哺乳動物はヒトである。
【0076】
本発明によって含まれるものは、神経系障害の処置のために有用である薬学的組成物である。例えば、上記組成物はFTY720化合物を含み、上記組成物は、単独で、または1種以上のさらなる薬剤の全身的もしくは局所的な共投与(co−administration)との組み合わせで、投与され得る。このような薬剤としては、増殖因子、保存剤、脳室壁透過性増大因子、幹細胞分裂促進剤、生存因子、グリア細胞系抑止剤(glial lineage preventing agents)、抗アポトーシス剤、抗ストレス剤、神経保護剤(neuroprotectant)、および抗発熱剤が挙げられる。上記薬学的組成物は、細胞が損傷を受けたかまたは失われた部位を標的とし、成長、増殖、生存、移動させるかまたは所望の神経表現型に分化させるために、細胞(例えば、上衣細胞および脳室下ゾーン細胞)を刺激することによって、優先的に神経系疾患を処置する。
【0077】
神経系障害を患う被験体を処置するための方法もまた、提供される。この方法は、FTY720を含む効果的な量の薬学的組成物を、上記被験体に
(1)単独で、0.001ng/kg/日〜10mg/kg/日の投与量範囲で、好ましくは0.01ng/kg/日〜5mg/kg/日の投与量範囲で、好ましくは0.1ng/kg/日〜1mg/kg/日の投与量範囲で、好ましくは100ng/kg/日〜1mg/kg/日の投与量範囲で、もっとも好ましくは1ng/kg/日〜1mg/kg/日または1μg/kg/日〜0.1mg/kg/日で、
(2)脳室壁透過性増大因子と組み合わせて、または
(3)局所性または全身性の共投与薬剤と組み合わせて
投与する工程を包含する。
【0078】
投与経路の例としては、経口経路、皮下経路、腹腔内経路、筋内経路、脳室内経路(例えば、脳室内)、実質内経路、クモ膜下腔内経路、頭蓋内経路、口腔内経路、粘膜経路、経鼻経路、および直腸経路が挙げられる。非経口調製物は、アンプル、使い捨ての注射器もしくはガラス製またはプラスチック製の複数回投与量バイアルにより、送達のために処方され得る。加えて、本発明の薬学的組成物および神経発生調節剤は、点眼剤、眼軟膏剤、または点鼻剤として送達され得る。本発明の組成物が点眼剤または点鼻剤の形態で使用される場合、用いられる溶媒としては、滅菌蒸留水または、特に注入用の蒸留水が挙げられる。その活性化合物の濃度は、通常は0.01w/v%〜2.0w/v%の範囲に及び、そして使用の目的に依存して増加または減少され得る。上記点眼剤または上記点鼻剤は、種々の添加剤(例えば、緩衝剤、等張剤、可溶化剤、保存剤、増粘剤、キレート剤、pH調整剤、または芳香剤)をさらに含み得る。
【0079】
それら点眼剤および点鼻剤のための、上記保存剤としては、例えば、四級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムまたは塩化セチルピリジニウム)、パラヒドロキシ安息香酸エステル(例えば、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピルまたはパラヒドロキシ安息香酸ブチル)、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸またはそれらの塩、チメロサール、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウム、メチルパラベンもしくはプロピルパラベンが挙げられ得る。上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース、もしくはカルボキシメチルセルロースまたはそれらの塩が挙げられ得る。上記キレート剤としては、エデト酸二ナトリウムまたはクエン酸などが挙げられ得る。上記pH調整剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ得る。上記芳香剤としては、1−メントール、ボルネオール、樟脳(例えば、DL−樟脳)、ユーカリ油などが挙げられ得る。上記点眼剤および上記点鼻剤は、代表的には、約pH4〜約pH8.5に調整され得る。
【0080】
加えて、本発明の薬学的組成物および神経発生調節剤は、鼻投与または肺投与により送達され得る。エーロゾル化された治療剤の呼吸器送達は、数多くの参考文献において記載される(例えば、Gansslen 1925;Laubeら 1993;Elliottら 1987;Wigleyら 1971;Colthorpeら 1992;Govinda 1959;Hastingsら 1992;Naganoら 1985;Sakr 1992;およびYoshidaら 1987を参照のこと)。乾燥粉末治療剤の肺送達は、米国特許第5,254,330号において記載される。計量式吸入器は、例えば、LeeおよびSciara 1976において記載される。組換えインスリンの気管支内投与は、Schlutiterら 1984;およびKohlerら 1987において簡単に記載される。種々の薬剤の鼻腔内送達および呼吸器送達は、米国特許第5,011,678号およびNagaiら 1984において記載される。
【0081】
非経口適用、皮内適用、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈剤(例えば、注射用水)、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩);および張度の調整のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはブドウ糖)。そのpHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)で調整され得る。上記非経口調製物は、アンプル、使い捨ての注射器またはガラス製もしくはプラスチック製の複数回投与量バイアルの中に封入され得る。
【0082】
注入可能用途のために適切な薬学的組成物としては、滅菌水溶液(水溶性である場合)または滅菌分散剤、および滅菌注入可能水溶液または滅菌注入可能分散剤の即時調製のための滅菌散剤が挙げられる。静脈内投与については、適切なキャリアとしては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、上記組成物は無菌でなくてはならず、そして容易に注入できる(easy syringability exist)程度に流動性であるべきである。上記組成物は製造条件下および貯蔵条件下で安定でなくてはならず、そして微生物(例えば、細菌および真菌)の混入作用を防止して保存しなくてはならない。
【0083】
上記キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、被覆物(例えば、レシチン)の使用、分散剤の場合において要求される粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の混入作用の予防は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)の使用によって達成され得る。多くの場合において、1種以上の等張剤(例えば、糖、多価アルコール(例えば、マンニトール(manitol)、ソルビトール)、および塩化ナトリウム)を上記組成物中に含むことが好ましい。上記注入可能組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム、およびゼラチン)を上記組成物中に含ませることにより、もたらされ得る。
【0084】
滅菌注入可能溶液は、必要とされる量のFTY720を必要に応じて上で列挙された成分の1つまたはその組み合わせを含む適切な溶媒の中に取り込むことにより調製され得、続いて濾過滅菌され得る。一般に、分散剤は、基本の分散媒質および上で列挙されたものからの必要とされる他の成分を含む無菌のビヒクルの中に、FTY720を取り込むことにより調製される。滅菌注入可能溶液の上記調製のための滅菌散剤の場合、調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより、前もって濾過滅菌されたそれらの溶液より、上記活性成分+任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる。
【0085】
経口組成物は、不活性な希釈剤または可食性キャリアを一般に含む。それらは、ゼラチンカプセルに封入されてもよく、または圧縮されて錠剤にされてもよい。経口治療剤投与の目的のために、FTY720は賦形剤とともに取り込まれ得、そして錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、含そう薬としての使用のために流体キャリアを用いて調製され得、ここで、上記流体キャリア中のFTY720は、経口的に適用され、そして口腔内をすすぎ(swish)、そして吐き出すか、または飲み込まれる。薬学的に適合性の結合剤および/または補助物質は、上記組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含み得る:結合剤(例えば、微結晶性セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプンまたは乳糖)、崩壊剤(例えば、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterote);流動促進剤(glidant)(例えば、コロイド状二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、ショ糖またはサッカリン);または芳香剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ芳香剤)。
【0086】
吸入による投与のため、本発明の組成物は、ヒト呼吸器系(例えば、鼻、口、気管、気管支、および肺胞の部位)に吸入器またはネブライザーを使用して、エーロゾル化された形態で送達され得る。例えば、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、または水ベースの吸入器が使用され得る。
【0087】
全身性の投与はまた、経粘膜(transmucosal)手段または経皮手段によってなされ得る。経粘膜投与または経皮投与については、透過させるべき関門に対して適切である浸透剤が、処方物中に使用される。このような浸透剤は、当該分野において一般に公知であり、そしてこのような浸透剤としては、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフンジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは鼻用坐剤(nasal suppository)の使用を通じてなされ得る。経皮投与については、本発明のFTY720組成物は、軟膏(ointment)、軟膏剤(salve)、ゲル剤、またはクリーム剤、当該分野において一般に公知であるような外用適用のための他の手段(例えば、欧州特許第0812588号を参照のこと)へと処方され得る。上記FTY720組成物はまた、点鼻剤またはスプレー剤、または坐剤(例えば、従来の坐剤基剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリド))または直腸送達のための保持浣腸の形態で調製され得る。
【0088】
1つの実施形態において、FTY720は、この化合物を身体からの急速な除去から保護するキャリアを用いて調製される(例えば、制御放出処方物(インプラントおよびマイクロカプセル送達系が挙げられる))。生分解性の生体適合性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸)は、使用され得る。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。上記物質はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incより商業的に入手可能である。リポソーム懸濁剤(モノクローナル抗体で細胞を標的としたリポソームを含む)もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、当業者に公知である方法に従って(例えば、米国特許第4,522,811号において記載される通りに)調製され得る。
【0089】
加えて、上記活性化合物の懸濁剤は、適切な油性注入懸濁剤として調製され得る。適切な親油性の溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチル、トリグリセリド、またはリポソーム)が挙げられる。非脂質性ポリカチオンアミノポリマーもまた、送達のために使用され得る。必要に応じて、上記懸濁剤はまた、適切な安定剤または上記化合物の溶解度を増大させて高度に濃縮された溶液の上記調製物を可能にするための薬剤を含み得る。
【0090】
投与の容易さ、および投与量の均一性のために、経口組成物または非経口組成物を投与量単位形態で処方することは、特に有利である。本明細書中で使用する場合、投与量単位形態とは、処置されるべき被験体についての単位投与量として適切な物理的に別個の単位をいい;各々の単位は、必要とされる薬学的キャリアと共に、所望の治療効果を生み出すように計算された、所定量のFTY720を含む。本発明の上記投与量単位形態の詳細は、FTY720および達成されるべき特定の治療的効果の独特の特性、ならびにこのような活性な化合物を個体の処置のために配合する技術固有の制限によって決定され、そしてこれらに直接的に依存する。
【0091】
上記薬学的組成物は、投与のための指示書とともに、容器、包み(pack)、分配器(dispenser)の中に封入され得る。
【0092】
もう1つの実施形態において、上記試薬は、少なくとも90%の純度のFTY720を含む組成物において投与される。
【0093】
好ましくは、FTY720は、最大の安定性および処方に関する最小の副作用を提供する媒体において処方される。FTY720に加えて、本発明の組成物は、代表的には1つ以上のタンパク質キャリア、緩衝剤、等張塩、および安定剤を含む。
【0094】
一部の例において、FTY720は、ポンプデバイスに連結したカテーテルを移植する外科的手段により投与され得る。上記ポンプデバイスはまた、移植され得るか、または体外に置かれ得る。上記試薬の投与は、間欠性のパルスにおいて、または持続した注入としてなされ得る。脳の別々の領域への注入のためのデバイスは、当該分野において公知である(例えば、米国特許第6,042,579号;同第5,832,932号;および同4,692,147号を参照のこと)。
【0095】
FTY720組成物は、脂質の投与のために、任意の従来の形態で投与され得る。FTY720は、血液−脳関門を通過し得るかまたは回避し得る、当該分野において公知である任意の方法によって投与され得る。上記血液−脳関門を通る通過を亢進させるための方法としては、因子のサイズを最小化する方法、より容易に通過し得る疎水性の因子を提供する方法、上記タンパク質試薬または他の薬剤と上記血液−脳関門を通過する実質的な透過係数を有するキャリア分子とを結合させる方法が、挙げられる(例えば、米国特許第5,670,477号を参照のこと)。
【0096】
試薬、誘導体、および共投与薬剤は、投与に適切である薬学的組成物の中に取り込まれ得る。このような組成物は、代表的には、FTY720および薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。本明細書で使用する場合、「薬学的に受容可能なキャリア」は、薬学的投与に適合する、任意およびすべての溶媒、分散媒、剤皮、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含すると解釈される。薬学的に活性な物質についてのこのような媒体および薬剤の使用は、当該分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が上記活性化合物と適合しない場合を除き、上記組成物におけるそれらの使用が予期される。
【0097】
補助的な活性化合物もまた、上記組成物の中に取り込まれ得る。修飾は、FTY720分子の溶解度またはクリアランスに影響するように、FTY720に対して行われ得る。ペプチド分子もまた、酵素分解に対する耐性を増大させるように、D−アミノ酸を用いて合成され得る。一部の場合、上記組成物は、1種以上の可溶化剤、保存剤、および透過増強剤(permeation enhancing agent)とともに共投与され得る。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、コーンスターチ、結晶性セルロース、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、ゼラチン、血清(syrum)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、不活性ポリマー、水および鉱油が挙げられる。
【0098】
例えば、上記組成物は、保存剤またはキャリア(例えば、タンパク質、炭水化物、および上記薬学的組成物の密度を増大するための化合物)を含み得る。上記組成物はまた、等張塩および酸化還元調節剤を含み得る。
【0099】
一部の実施形態において、投与される組成物は、上記試薬および上記脳室壁の透過性を増大させる1種以上の薬剤(例えば、「脳室壁透過性エンハンサー」)を含む。このような組成物は、注入された組成物が上記脳室壁よりもより深く浸透することを援助し得る。適切な脳室壁透過性エンハンサーの例としては、例えば、リポソーム、VEGF(脈管内皮増殖因子)、IL−s、TNFα、ポリオキシエチレン、脂肪酸のポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、フシジン酸およびその誘導体、EDTA、EDTA二ナトリウム、コール酸および誘導体、デオキシコール酸、グリココール酸、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、コール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、グリココレート、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、ケノデオキシコール酸、ウロスデオキシコール酸、サポニン、グリシルリチン酸、グリシルリチン酸アンモニウム、デカメトニウム、臭化デカメトニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、およびジメチル−β−シクロデキストリンまたは他のシクロデキストリンが挙げられる。
【0100】
(本発明の治療方法および用途)
本発明はまた、治療的目的のため、FTY720を投与してNSCの活性を刺激する方法を包含する。本発明の方法は、神経路に影響する種々の神経系疾患、神経系障害、および神経系損傷の処置を可能にするために、インビボにおいてNSCを修飾または操作するために使用され得る。1つの局面において、本発明の方法は、NSCと、上記NSCの成長、増殖、分化、または生存を刺激するのに十分な量のFTY720を含む組成物とを接触させる工程を包含する。特定の局面において、FTY720は、上記S1PRシグナル伝達経路の活性を刺激する。本発明の方法は、インビトロ(例えば、細胞をFTY720とともに培養することによる)または、代替的に、インビボ(被験体へとFTY720を投与することによる)において実施され得る。このようにして、本発明は、障害(特に神経系障害)に悩まされる個体を処置する方法を提供する。上記方法は、異常な細胞増殖、異常な細胞分化、異常な細胞移動、または異常な細胞生存によって特徴付けられる障害に対して、特に有用である。
【0101】
本発明の種々の局面において、標的組織に対するFTY720の効果、およびその投与が特定の障害の処置のために指示されるかどうかを決定するために、適切なインビトロまたはインビボにおけるアッセイが実施され得る。例えば、インビトロにおけるアッセイは、その被験体の障害に関与する代表的な幹細胞または新たに分化した細胞を用いて、FTY720が上記細胞型に対する所望の効果を発揮するかを決定するために、実施され得る。治療に使用するための、FTY720組成物は、ヒト被験体での試験に先立って適切な動物モデル系において試験され得、その適切な動物モデルとしては、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サル、ウサギなどが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、インビボにおける試験に関しては、ヒト被験体に対する投与に先立って、当該分野において公知である任意の動物モデル系が使用され得る。
【0102】
上記開示された方法は、非胚性(例えば、成体)の脳の脳室の内側を覆う組織の中に位置する上記NSCを巧みに利用している。その脳室系は、ほぼすべての脳領域において見い出されているため、罹患した領域へのより容易なアクセスを可能にする。これらの方法に従って、神経系疾患についての治療は、罹患した領域に近い脳室を取り囲む幹細胞が、必要に応じて操作または改変されるように調整(tailor)され得る。NSC活性は、上記細胞をFTY720を含む組成物に曝すことにより、インビボにおいて変更され得る。
【0103】
本発明の1つの局面において、あるデバイスは、上記FTY720組成物を脳室、すなわち、上記神経幹細胞に投与するために、移植され得る。もう1つの局面において、浸透ポンプに接続されたカニューレは、上記組成物を送達するために使用され得る。あるいは、上記組成物は、脳室の中に直接注入され得る。次に、上記神経幹細胞の子孫は、障害または疾患の結果として損傷を受けた領域の中に移動し得る。多くの脳領域に対して脳室が非常に近接していることにより、幹細胞またはそれらの子孫の中へのFTY720の拡散が可能になる。
【0104】
さらなる局面において、本発明のFTY720組成物は、本明細書中に記載されるように、局所的または全身的に投与される薬剤と組み合わせて局所的に投与され得る。このような薬剤としては、例えば、1種以上の増殖因子、幹細胞分裂促進剤、生存因子、グリア細胞系列抑止剤(glial−lineage preventing agent)、抗アポトーシス剤、抗ストレス剤、神経保護剤、および抗発熱剤、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。上記薬剤は、FTY720の投与前、投与と投与の間または投与後に、投与され得る。
【0105】
投与は、任意の手段によってなされ得る。好ましくは、FTY720組成物は、全身的に投与される。経口投与および注射は、特に好ましい。上記投与は、注入によってなされ得る。その送達は、皮下、腹腔内、筋内、脳室内(例えば、側脳室内)、実質内、クモ膜下腔内、および頭蓋内への送達であり得る。別の例としては、投与は経口的または経鼻的になされ得る。投与は、吸入送達(例えば、エーロゾル(例えば、乾燥粉末スプレーもしくは水ベースのスプレー、またはネブライザー))、ペプチド融合体送達、またはミセル送達を介して実施され得る。
【0106】
前脳に主に罹患するハンティングトン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、および他の神経障害の処置のために、FTY720は、単独で、またはインビボにおけるNSCの改変または操作に効果を及ぼすために上記前脳の脳室に送達されるさらなる薬剤とともに、投与され得る。例えば、パーキンソン病は、脳(特に線条)におけるドパミンの低いレベルの結果である。したがって、上記線条の病変領域において、患者自身の静止幹細胞を誘導してインビボで分裂させ始めること、およびそれらの細胞の子孫を誘導してドパミン作動性細胞に分化させ、このようにしてドパミンのレベルを局所的に上昇させことが有利である。
【0107】
通常、上記ドパミン作動性ニューロンの細胞体は、軸索が線条に向かって突出して、黒質に、および中脳に近接した領域に位置する。本発明の方法および組成物は、パーキンソン病の処置のための、薬物の使用および多量の胚組織の議論のある使用に対する代替手段を提供する。上記側脳室へのFTY720を含む組成物の投与により、線条においてドパミン細胞が産生され得る。
【0108】
筋萎縮性側索硬化症または他の運動ニューロン疾患(多発性硬化症を除く)の処置のために、FTY720は、全身(または、例えば、中心管)に、単独で、またはさらなる薬剤とともに送達され得る。
【0109】
直接に脳室を囲む神経系組織の処置に加え、FTY720は、神経系全体(例えば、CNS)にわたる循環のために、単独で、またはさらなる薬剤とともに腰槽に投与され得る。
【0110】
他の局面において、神経保護剤もまた、FTY720の注入前、注入と注入との間、および/または注入後に、全身的にまたは局所的に共投与され得る。神経保護剤としては、抗酸化剤(還元活性を有する薬剤(例えば、セレン、ビタミンE、ビタミンC、グルタチオン、システイン、フラボノイド、キノリン、還元活性を有する酵素など))、Caチャンネル調節因子、Naチャンネル調節因子、グルタミン酸レセプター調節因子、セロトニンレセプターアゴニスト、リン脂質、不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸、エストロゲンおよび選択的エストロゲンレセプター調節因子(SERM)、プロゲスチン、甲状腺ホルモンおよび甲状腺ホルモン模倣化合物、シクロスポリンAおよび誘導体、サリドマイドおよび誘導体、メチルキサンチン、MAOインヒビター;セロトニン取込み遮断薬、ノルアドレナリン取込み遮断薬およびドパミン取込み遮断薬;ドパミンアゴニスト、L−ドパ、ニコチンおよび誘導体、ならびにNOシンターゼ調節因子が挙げられる。
【0111】
本発明のあるFTY720組成物は、静脈内注射の後、発熱性があり得る(Am.J.Physiol.Regul.Integr.Comp.Physiol.2000 278:R1275-81)。したがって、本発明の一部の局面において、抗発熱剤(antipyrogenic agent)(例えば、cox2インヒビター、インドメタシン、サリチル酸(salisylic acid)誘導体、および他の一般的な抗炎症性/抗発熱性化合物)は、上記FTY720組成物の投与前、投与と投与の間、および/または投与後に、全身的にまたは局所的に投与され得る。
【0112】
本発明のもう1つの局面において、抗アポトーシス剤(カスパーゼインヒビターならびにアポトーシス誘発酵素およびアポトーシス誘発因子のアンチセンス調節のために有用である薬剤を含む)は、FTY720の投与前、投与と投与との間、および/または投与後に、全身的にまたは局所的に共投与され得る。
【0113】
ストレス症候群は神経発生を低下させるため、一部の局面において、FTY720の投与前、投与と投与との間、および/または投与後に、全身的にまたは局所的に投与される抗ストレス薬(例えば、抗グルココルチコイド(例えば、RU486)およびベータ遮断薬)で被験体を処置することが望まれ得る。
【0114】
FTY720の投薬形態の調製のための方法は、当業者に公知であるか、または明らかである。投与されるべきFTY720の量は、被験体の正確なサイズおよび状態に依存するが、例えば、0.001ml〜10mlの体積中に、1ng〜1mg、1μg〜0.1mg、1mg〜100mg、または好ましくは0.3mg〜10mgである。処置の期間および試薬の投与時間もまた、上記被験体のサイズおよび状態、病気の重症度ならびに使用される特定の組成および方法によって、変化する。
神経系障害を有する被験体を処置するための前述の方法の各々の有効性は、上記障害を評価するための標準化された任意の公知の試験により、評価され得る。
【実施例】
【0115】
本実施例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に例示するために示される。これらの実施例は、添付される特許請求の範囲によって包含されるような本発明の範囲を限定するとは決して解釈されるべきでない。
【0116】
本明細書で示される実験データは、インビトロで増殖したNSCの増殖によって示されるように、FTY720が神経発生の調節に対してポジティブな効果を有することを立証する。
【0117】
(実施例1:神経球培養)
5〜6週齢マウスの側脳室の前側壁を、4.5mg/mlのグルコースおよび80ユニット/mlのDNaseを含むDMEM中の、0.8mg/mlのヒアルロニダーゼおよび0.5mg/mlのトリプシンで、37℃で20分間、酵素学的に解離させた。その細胞を、穏やかに粉砕(triturate)し、20ng/mlのEGF(そうでないと明記しない限り)、100ユニット/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを含む、3容量の神経球培地(DMEM/F12、B27補充物、125mMのHEPES、pH 7.4)と混合した。70μmストレーナーに通した後、上記細胞を160×gで5分間、ペレット化(pellet)した。引き続いてその上清を取り除き、そして上記細胞を上述ように補充し神経球培地で再懸濁し、培養皿にプレーティングし、そして37℃でインキュベートした。神経球培養物は、プレーティングの約7日間の後に、分離できる状態となった。
【0118】
上記神経球培養物を離けるために、神経球を160×gで5分間遠心分離することによって収集した。その馴化上清(馴化培地)を取り出し、そして保存した。上記神経球を0.5mlのHBSS(1×)中トリプシン/EDTAに再懸濁し、37℃で2分間インキュベートし、そして分離を援助するために穏やかに粉砕した。さらに37℃で3分間インキュベートおよび粉砕した後、3容量の氷冷NSPH−培地−EGFを加えて、さらなるトリプシン活性を停止させた。上記細胞を220×gで4分間ペレット化し、そして新鮮な神経球培地および馴化培地の1:1混合物中で再懸濁した。EGFを20ng/mlになるまで補充し、そして上記培養物をプレーティングし、そして37℃でインキュベートした。
【0119】
(実施例2:RT−PCR分析)
神経球を、上述のようにしてLVWより調製した。最初に分けてから3日間の後、上記神経球を収集し、そしてQIAGENのRNeasy Mini Kitを製品の使用説明書に従って使用して総RNAを単離した。LVWおよびROBの総RNAを、神経球の総RNAの方法と同じ方法で調製した。RT−PCRに先立って、総RNAを37℃で15分間DNase(Ambion)処理(5μg総RNAあたり1ユニット)し、続いて75℃で10分間熱失活させた。8種のEDG/S1Pレセプターに対応するmRNAの存在を検出するために、InvitrogenのOne−Step RT−PCR Kitを使用した。手短に言えば、58℃のアニーリング温度で、12.5ngの総RNAを各々の反応において使用した。上記総RNAへのゲノムの混入が偽陽性の結果を引き起こしたのではないことをさらに保証するために、Taqポリメラーゼのみを用いた同じ反応を、実験RT−PCRと平行して実施した。その反応物を、臭化エチジウムを含む1.0%アガロースゲル上で電気泳動し、そしてUV光下でバンドを可視化した。上記所望の遺伝子のPCR産物の見込まれた長さに対応するバンドを、クローニングベクターpGEM−Teasyの中へクローン化した。構築物を配列決定して、それらの同一性を確認した。プライマー配列を、以下に示す。
【0120】
【表3−A】

(実施例3:細胞の成長)
細胞を、10nMのFTY720を補充したか、またはFTY720を含まない(対照細胞)DMEM/F12中に、10,000細胞/ウェルの密度で、懸濁細胞として蒔いた。接着性の細胞を、ポリ−D−リジン上に1%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したDMEM/F12中に、30,000細胞/ウェルの密度で蒔いた。これらの細胞が接着したら(4時間後)、その培地を無血清培地と交換し、そして10nMのFTY720を加えた。
【0121】
(実施例4:細胞内ATP−増殖アッセイ)
細胞内ATPレベルは、細胞数と相関することが以前に示された(Crouch,Kozlowskiら 1993)。以下の実験を、4つの平行した実験の組み合わせで実施した(すなわち、4連で実施した)ため、その細胞は種々のアッセイで使用され得た。FTY720を添加し、そして細胞を37℃で3日間インキュベートした。細胞を、Tris−EDTA緩衝液中の0.1%のTriton−X100で溶解した。細胞内ATPを、製造業者の使用説明書(BioThema、Sweden)に従って、ATP−SLキットを使用して測定した。細胞内ATPは、細胞数と相関することが示された(Crouch,S.P.、Kozlowski,R.、1993)。各々の実験について、神経発生の徴候についてウェルを目視検査し、そして計数して、上記アッセイの結果を確認した。結果は、再現性があり、そして統計学的に有意であった。
【0122】
(実施例5:BrdU取り込み−増殖アッセイ)
細胞増殖を測定するために、DNA合成が一般に使用される。このような測定に関しては、有糸分裂がに活性な細胞のDNAを標識するために、H−チミジンが慣習的に用いられる。この実験においては、H−チミジンを、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)により置き換えた。そのピリミジン類似体がDNAの中に取り込まれた後に、BrdUを、免疫学的測定法により検出した。ELISAキットは、Roche、Germanyより提供された。
【0123】
(実施例6:乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイ)
3日間の間に起こった細胞の死を、培地中への乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の漏出量として測定した。生存可能な細胞は、LDHを漏出せず;細胞膜が損傷を受け死んだ細胞のみが、LDHを漏出する。総LDH(培地+細胞)に対する培地中のLDHの比率は、細胞死の百分率を示す。このようにして、処理された細胞および未処理の細胞は、上記ATP増殖アッセイにおいて観察された異なった結果の原因としてアポトーシスを除外するために、比較され得る。LDHの量を、製品(Promega、USA(Chenら、2004もまた、参照のこと))の使用説明書に従って測定した。
【0124】
(実施例7:インサイチュハイブリダイゼーション)
成体マウスの脳全体の切片(14μm)を、−17℃にてクリオスタットで切断し、顕微鏡スライド(Superfrost Plus;BDH、UK)上において解凍し、そして4%のホルムアルデヒド中で5分間固定した。試料を、0.2MのHCl中で15分間除タンパク質処理し、0.1Mのトリエタノールアミン緩衝液(pH 8.0)中の0.25%の無水酢酸中で20分間処理し、そして、ハイブリダイゼーションの前に、5分間のクロロホルム工程を含むエタノール濃度の上昇系列中で脱水した。マウスS1PR mRNAを検出するために、S1Pに対して特異的なアンチセンスcRNAプローブ、S1Pに対して特異的なアンチセンスcRNAプローブを、対応するORF cDNAを含むプラスミド(pGEM−Teasy)より転写し、同時にそれらを[α−35S]UTPで標識した(表4を参照のこと)。
【0125】
【表4】

緩衝液1mlあたり、52%のホルムアミド、10%の硫酸デキストラン、208mMのNaCl、2%の50×デンハルト溶液(1%のフィコール、1%のポリビニルピロリドン、1%のウシ血清アルブミン(BSA))、10mMのTris pH 8.0、1mMのEDTA、500ng/mlの酵母tRNA、10mMのジチオトレイトール(DTT)および20×10cpmのプローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液の中で、切片を上記プローブとともに55℃で16時間インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、上記切片を0.5MのNaCl中の10μg/mlのRNase Aで、37℃で30分間処理した。試料を、室温にて4×クエン酸ナトリウム食塩水(SSC;1×SSCは、0.15Mの塩化ナトリウムおよび0.015Mのクエン酸三ナトリウム、pH 7.0である)で20分間、2×SSCで10分間、1×SSCで10分間、そして0.5×SSCで10分間洗浄した。高ストリンジェンシー洗浄を、0.1×SSCの中で、70℃で30分間実施した。すべての洗浄工程は、1mMのDTTの添加を含んでいた。
【0126】
上記切片をエタノール濃度の上昇系列中で脱水し、一晩乾燥させ、そしてオートラジオグラフィのフィルム(Beta−max、Amersham)とともに、3週間にわたってカセット中に取り付けた。上記フィルムをKodak D−19現像液中で現像し、1:3に希釈されたKodak RA−3000中で固定し、リンスし、そして乾燥させた。次に切片を、1:1に希釈したKodak NTB−2核追跡乳濁液(nuclear track emulsion)の中に浸漬し、6週間曝露し、Kodak D−19中で3分間現像し、Kodak RA−3000固定液中で固定し、そしてクレシルバイオレットで対比染色した。そのハイブリダイゼーションの特異性を、同じプラスミドより転写したセンスプローブを使用して試験した。この条件下では、ハイブリダイゼーションシグナルは得られなかった。上記乳濁液に浸漬した切片を、Nikon E600顕微鏡を使用して分析した。
【0127】
(実施例8:インビボにおける増殖実験)
これらの研究のために、11.6mgのFTY720を、0.1%のマウス血清を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)中に溶解し、0.5mg/mlの濃度にした。その溶液を、PBS+0.1%マウス血清中において0.25mg/mlまでさらに希釈した。BrdUを、6.25mg/mlの最終濃度となるように加えた。成体(>8週齢)のオスのC57BL6マウスは、7日間にわたり、24時間毎に1回の200μlのIP注入を受けた。次いでこのマウスをCOで屠殺した。1つのコホートの動物を、屠殺の前にさらに14日間生存させておいた。対照注入は、PBS+0.1%マウス血清中の同じ濃度のBrdUからなっていた。その脳を解剖して取り出し、そして急速凍結させた。0.5mg/mlの上記FTY720溶液は、4°または−20°で貯蔵した後、沈殿物を示した。0.25mg/mlにさらに希釈し、ボルテックスし、そして37°まで加温した後で、沈殿物の量は有意に減少した。
【0128】
(実施例9:発現分析についての結果)
これらの研究は、上記成体マウスの脳における、FTY720P応答性レセプターのmRNAおよびタンパク質の発現パターンを調査した。その結果は、S1PおよびS1Pは、成体マウスの脳の神経原性領域において発現されることを示した。RT−PCRを使用することにより、すべてのS1PR mRNAが、側脳室壁組織またはこの組織由来の培養した神経幹細胞(NSC)に由来する神経球のいずれかにおいて発現されることが見出された(表5)。
【0129】
【表5】

表5.RT−PCRによって(1〜3のスケールにおいて)評価した発現レベル。インサイチュハイブリダイゼーションの結果を、図3に示す。
【0130】
インサイチュハイブリダイゼーション技術を、上記S1PRレセプタータンパク質が発現している脳領域を調査するためにも使用した。ラットの胚性の脳においてこの技術を使用して他者により実施された以前の研究は、側脳室壁(LVW)の脳室下ゾーン(SVZ)において、S1Pが大部分は発現されることを明らかにした。対照的に、S1Pは主に点状パターンで散在し、そして脈管内皮マーカーと共存し、このことは、新脈管形成における役割を示す(McGiffertら、2002)。本明細書で示されるデータは、成体マウスの脳におけるS1Pの発現が、LVWの上記SVZに制限され、吻側細胞移動路の中に拡大することを示す。上記S1Pレセプターは、脈絡叢、海馬(歯状回およびCA1〜CA3)、および梨状皮質において発現し、それらは成体の神経発生の別の領域である。上記成体マウスの脳において、S1PまたはS1Pについてのハイブリダイゼーションは、観察されなかった。特に、上記S1PレセプターおよびS1Pレセプターは、FTY720Pと最高の親和性で結合することが見出された(表3)。したがって、これら2つのレセプターは、本明細書において立証されるようなFTY720による増殖誘導についての最も有望な標的である。
【0131】
(実施例10:インビトロにおける増殖アッセイについての結果)
FTY720Pは、成体の神経幹細胞のインビトロにおける増殖を誘導すると決定された。上記ATPアッセイを使用して、FTY720処理した懸濁細胞および接着性細胞において、細胞内ATPレベル(およびそれゆえ、細胞数)における、それぞれ、25%および42%の増加が見られた。増殖を確認するために、BrdUの取り込みを、DNA合成を評価するために使用した。FTY720処理した懸濁細胞および接着性細胞において、BrdUの取り込みにおいて、それぞれ52%および271%の増加が測定された。ATPおよびBrdU取り込みにおけるこれらの増加は、統計学的に有意であると決定された(図1)。別々の実験において、NSCについての用量応答曲線を作成(perform)したところ、それにより、FTY720の非常に低いEC50(0.02nM(図2))が明らかとなった。FTY720についての上記EC50値はEGFについてのEC50値と同等な範囲にあり、このことは、FTY720がNSCについての非常に強力な有糸分裂促進剤であることを示している。細胞数の相違がアポトーシスレベルにおける相違の結果ではなかったことを確実にするために、LDHレベル(細胞死を測定するアッセイ)を測定した。対照細胞とFTY720処理細胞との間におけるLDHレベルの有意な変化は、観察されなかった。
【0132】
(実施例11:FTY720を特徴付けるためのインビボにおける実験)
神経発生のFTY720刺激を特徴付けるために、インビボにおける研究が実施され得る。このような研究は、神経発生に対する増殖因子の影響を試験するために使用される上記脳室内注入実験においてモデル化され得る。EGFおよび塩基性FGFの両方の注入は、脳室壁細胞の集団を増殖させることが示されており、そしてEGFの場合では、隣接する線条体実質の中への前駆体の広範な移動が示されている(Craig,C.G.、V.Tropepeら、1996;Kuhn,H.G.、J.Winklerら、1997)。ニューロンの産生が減少している間は、上記前駆体の分化は、主にグリア系列への分化である(Kuhn,H.G.、J.Winklerら 1997)。最近の研究は、成体ラットにおけるBDNFの脳室内注入が、嗅球ならびに吻側細胞移動路、および実質構造(線条、中隔、視床および視床下部を含む)において新たに生成されるニューロンの数の増加を促進させることを発見した(Pencea,V.、K.D.Bingamanら、2001)。
【0133】
神経発生に対するFTY720の効果を決定するために、上記化合物は、ある範囲の濃度でマウスおよび/またはラット中に、全身的または局所的(例えば、鼻腔内、経口、腹腔内、または静脈内)に投与され得る。げっ歯類の側脳室の中への化合物の注入、ならびに新しいニューロンおよびグリアの検出に関する基本的な実験設定を、以下に記載する。
【0134】
上記S1Pレセプターを介したFTY720活性の役割の証拠は、これらの分子を単独で、または組み合わせのいずれかについてノックアウトマウスを使用することによって、獲得され得る。成体マウスの脳におけるS1PおよびS1Pについての発現パターン、ならびに他のS1PRと比較して高いFTY720P親和性(表3)により、S1Pおよび/またはS1Pを神経幹細胞におけるFTY720の有望な標的となり、このことは本明細書において示されたデータと一致する。FTY720の脳室内注入あり、または脳室内注入無しのS1Pレセプターノックアウトマウスを使用した実験は、神経発生における各々のレセプターの正確な役割を解読することを補助する。これらの研究は、上記EDGレセプターファミリーのメンバーの1つ以上を介して機能するFTY720の効果を決定するために使用され得る。
【0135】
(実施例12:FTY720についての臨床適用)
上記S1PR(例えば、S1PまたはS1P)を介してNSCを増殖させるFTY720の能力を特徴付けることが、1つの目標である。FTY720で誘導される神経幹細胞活性の刺激は、多くの神経系の障害(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、うつ病のすべての形態、認知障害、精神分裂病、ハンティングトン病、および脊髄損傷のような外傷)の症状を緩和することにおいて、有益である。神経幹細胞活性の誘導に加えて、FTY720の抗炎症活性はまた、パーキンソン病を処置することに相乗様式で作用し得る。
【0136】
最近の研究は、鼻へ適用すること、すなわち「鼻から吸い込むこと(sniffing)」による、脳室系へ化合物を送達する代替的なアプローチの可能性を強調した(Born,J.、T.Langeら、2002)。この送達の手段は、鼻腔内注入と同様であるが、適用された化合物の全身性の副作用を本質的に回避する。上述の実験からの成功した結果は、この適用アプローチを評価するために行われる。種々の疾患と取り組むために、FTY720組成物は、げっ歯類疾患モデルおよび非ヒト霊長類疾患モデルにおいて、処置として特徴付けられ得る。
【0137】
(動物モデル)
FTY720は、回復を立証するための以下のCNS疾患/CNS障害/CNS外傷の動物モデルが特徴付けられる。例示的なモデルを、以下に列挙する;付加的な/改変されたモデルもまた、使用される:
(てんかんのモデル)例えば、電気ショック誘導性痙攣(Billington Aら、Neuroreport 2000年11月27日;11(17):3817−22)、ペンチレンテトラゾール誘導性痙攣(Gamaniel Kら、Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 1989年2月;35(2):63−8)またはカイニン酸誘導性痙攣(Riban Vら、Neuroscience 2002;112(1):101−11);
(精神病/精神分裂病のモデル)例えば、アンフェタミン誘導性常同症/歩行運動モデル(Borison RL & Diamond BI、Biol Psychiatry 1978年4月;13(2):217−25)、MK−801誘導性常同症モデル(Tiedtkeら、J Neural Transm Gen Sect 1990;81(3):173−82)、MAM(メチルアゾキシメタノール)誘導性モデル(Fiore Mら、Neuropharmacology 1999年6月;38(6):857−69;Talamini LMら、Brain Res 1999年11月13日;847(1):105−20)またはリーラーモデル(Ballmaier Mら、Eur J Neurosci 2002年4月;15(17):1197−205);
(パーキンソン病のモデル)例えば、MPTP誘導性変性(Schmidt & Ferger、J Neural Transm 2001;108(11):1263−82)、6−OHドパミン誘導性変性(O’Dell & Marshall、Neuroreport 1996年11月4日;7(15−17):2457−61);
(アルツハイマー病のモデル)例えば、脳弓采損傷モデル(Krugelら、Int J Dev Neurosci 2001年6月;19(3):263−77)、基底前脳損傷モデル(Moyse Eら、Brain Res 1993年4月2日;607(1−2):154−60);
(脳卒中のモデル)例えば、局所虚血(Schwartz DAら、Brain Res Mol Brain Res 2002年5月30日;101(1−2):12−22);総体虚血(2−脈管閉塞または4−脈管閉塞)(Roof RLら、Stroke 2001年11月;32(11)2648−57;Yagita Yら、Stroke 2001年8月;32(8);1890−6);
(筋萎縮性側索硬化症のモデル)例えば、pmnマウスモデル(Kennel Pら、J Neurol Sci 2000年11月1日;180(1−2):55−61);
(不安のモデル)例えば、高架式十字迷路試験(elevated plus−maze test)(Holmes Aら、Behav Neurosci 2001年10月;115(5):1129−44)、ガラス玉覆い隠し試験(marble burying test)(Broekkampら、Eur J Pharmacol 1986年7月31日;126(3)223−9)、オープンフィールド試験(Pelleymounterら、J Pharmacol Exp Ther 2002年7月;302(1):145−52);
(うつ病のモデル)例えば、学習性無力試験(learned helplessnss test)、強制水泳試験(forced swim test)(Shirayama Yら、J Neurosci 2002年4月15日;22(8)3251−61)、球切除(bulbectomy)(O’Connorら、Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 1988;12(1):41−51);
(学習/記憶についてのモデル)例えば、Morris水迷路試験(Morris water maze test)(Schenk F & Morris RG、Exp Brain Res 1985;58(1):11−28);
(ハンティングトン病についてのモデル)例えば、キノリン酸注入(Marco Sら、J Neurobiol 2002年3月;50(4):323−32)、トランスジェニック/ノックイン(Menalled LBおよびChesselet MF、Trends Pharmacol Sci. 2002年1月;23(1):32−9に概説される);ならびに
(加齢についてのモデル)老年のマウス/ラットを使用する。
【0138】
これらのモデルは、投与されるFTY720組成物および送達系(意図される組成物の処方を含む)に従うべき方法に必要とされる任意の特定の適応について意図される。
【0139】
健常モデルおよび/または疾患モデル/外傷モデル/障害モデルを使用する、インビボにおいて関連するリガンド/レセプターの役割の研究を、以下のプロトコル(脳室内投与)に従って実施する。以下のプロトコルではラットについて記載されているが、マウスについても利用可能である:
(神経発生−化合物のインビボ試験:)
(動物:)オスのラット(マウスについては相当するプロトコルもまた使用される)。動物舎:12時間明期/暗期体制;飼料:標準的な固形飼料;自由に摂食および飲水;標準的なケージ中に5匹の動物;
(化合物投与:)BrdUまたはH−チミジンもしくは他の増殖マーカーおよび関連する化合物の、1〜14日間にわたる浸透圧ミニポンプによる脳注入。注入後0〜4週間の間の生存。
【0140】
(手術:)Pencea Vら(2001)にある通りの、動物取り扱いおよび手術法。
【0141】
(ポンプの除去:)ポンプの挿入から1〜14日間の後:動物の麻酔下。
【0142】
(脳試料収集:)動物のナルコーシス;NaClでの経噴門灌流;パラホルムアルデヒド(4%)溶液での灌流;脳を取り出し、パラホルムアルデヒド(4%)溶液中で一晩保存;4℃の30%ショ糖溶液中に移す;嗅球(OB)を分離;メチルブタンの中で−80℃にて凍結させ、そして−80℃のフリーザーの中で保存する。
【0143】
(切片化:)クリオトームでの同側OBの矢状切片化および残りの脳の冠状切片化。
【0144】
(免疫組織化学:)増殖性脳領域、細胞移動路(migratory stream)、および臨床的に関連する領域に関して、分析および定量化を行う(これらの領域のすべてではなく、一部についてを、以下に例示する)。
【0145】
以下の抗体の1種または数種を使用した、DAB(ジアミンベンジジン)または蛍光の可視化:ニューロンマーカーとして、NeuN、Tuj1、抗チロシン水酸化酵素、抗MAP−2など;神経膠マーカーとして、抗GFAP、抗S100など;希突起神経膠細胞マーカーとして、抗GalC、抗PLPなど。BrdU可視化について:抗BrdU。
【0146】
(定量:)I)同側脳領域における、DAB−BrdU免疫組織化学および立体解析学的定量。II)4週間生存群:同側半球;a)DAB免疫組織化学(立体解析学)による、背側の海馬歯状回、背側の海馬CA1/白板、嗅球(OB)、脳室下ゾーン(SVZ)、および線条体のBrdU陽性細胞の定量化;b)すべての(OB、DG、CA1/白板、SVZ、壁−対−線条体)構造体についての共焦点顕微鏡での二重染色の定量:系列マーカーでの二重染色の、BrdU+の検査。さらなる実験の詳細は、Pencea Vら、J.Neurosci 9月1日(2001),21(17):6706−17において見出され得る。
【0147】
(鑑別分析:)定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR)またはレーザー走査サイトメトリー(LSC)が、実施され得る。マイクロアレイ分析およびSELDI(表面増強レーザー脱着/イオン化)質量分光法を用いるプロテオミクスベースの研究もまた、使用され得る。
【0148】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、添付した上述の記載において示されている。本明細書に記載された方法および材料と同様または等価である任意の方法および材料は、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料はここに記載される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、明細書および特許請求の範囲から明らかである。
【0149】
本願の明細書および添付した特許請求の範囲において、単数形は、文脈がそうでないことを明らかに示すのでない限り、複数の対象物を含む。他に定義されている場合を除き、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同様の意味を有する。そうでないことが明らかに記述されている場合を除き、本明細書で使用または意図されている技術は、当業者に周知である標準的な方法論である。
【0150】
(参考文献)
【0151】
【表6−1】

【0152】
【表6−2】

【0153】
【表6−3】

【0154】
【表6−4】

【0155】
【表6−5】

【0156】
【表6−6】

【0157】
【表6−7】

【0158】
【表6−8】

本明細書中で引用されるすべての特許および刊行物は、本明細書中に参考文献として援用される(2003年9月12日出願の米国特許出願第60/502,386号、2003年5月8日出願の米国特許出願第10/434,943号、2002年7月2日出願の米国特許出願第60/393,159号、および2002年5月8日出願の同60/379,114号により、以前の開示を含む)。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1A】FTY720は、インビトロにおいて懸濁培養物または接着性細胞として成長させたマウスNSCを増殖させる。図1Aは、ATPアッセイについての結果を示す。
【図1B】FTY720は、インビトロにおいて懸濁培養物または接着性細胞として成長させたマウスNSCを増殖させる。図1Bは、BrdU取り込みについての結果を示す。
【図2】ATPアッセイにより測定した、NSCのインビトロ増殖に対するFTY720濃度の効果。EC50値は、0.02nMにおいて計算した(0.04nMにおいて最大)。
【図3A】成体マウスの脳の矢状切片。図3A:S1Pは、吻側細胞移動路に拡がるLVWのSVZにおいて発現される。
【図3B】成体マウスの脳の矢状切片。図3B:S1Pは、海馬の歯状回およびCA1〜CA3、ならびに脈絡叢において発現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において神経発生を調節するための方法であって、該被験体における神経組織の中の細胞と、神経発生を調節するために十分な量のFTY720またはその誘導体を含む組成物とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、神経発生の調節は、神経幹細胞または神経前駆細胞の増殖、分化、移動、または生存の調節である、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記神経幹細胞または前記神経前駆細胞は、非胚性細胞である、方法。
【請求項4】
神経幹細胞の増殖を増大させるための方法であって、該方法は、該細胞と、該細胞の増殖を増大させるために十分な量のFTY720またはその誘導体を含む組成物とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記細胞は、非胚性細胞である、方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、前記誘導体は、FTY720Pである、方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、0.001nM〜0.05nMの濃度を得るように前記細胞に加えられる、方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、0.02nM〜0.04nMの濃度を得るように前記細胞に加えられる、方法。
【請求項9】
請求項4に記載の方法であって、前記細胞は、哺乳動物の細胞である、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記細胞は、ヒトの細胞である、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記細胞は、成人の細胞である、方法。
【請求項12】
請求項4に記載の方法であって、前記細胞はさらに、1つ以上の増殖因子と接触させられる、方法。
【請求項13】
被験体において神経系障害の症状を緩和するための方法であって、該方法は、該被験体に該症状を緩和させるために十分な量のFTY720またはその誘導体を含む組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記誘導体は、FTY720Pである、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、前記神経系障害は、神経変性障害、神経幹細胞障害、神経前駆体障害、虚血性障害、神経の外傷および損傷、情動障害、神経心理学的障害、網膜の変性疾患、網膜の損傷および外傷、ならびに学習障害および記憶障害からなる群より選択される、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、前記神経系障害は、パーキンソン病、振せん麻痺障害、ハンティングトン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄虚血、虚血性脳卒中、脊髄損傷、癌関連脳損傷、および癌関連脊髄損傷、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上麻痺、レヴィー小体病、脳卒中、大脳梗塞、多発梗塞性痴呆、および老人性痴呆からなる群より選択される、方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、1ng/kg/日〜1mg/kg/日の濃度で投与される、方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、1μg/kg/日〜0.1mg/kg/日の濃度で投与される、方法。
【請求項19】
請求項13に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、5μg/kg〜約0.07mg/kgの濃度で投与される、方法。
【請求項20】
請求項13に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、0.3mg〜10mgの量で投与される、方法。
【請求項21】
請求項13に記載の方法であって、前記被験体は、哺乳動物である、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記被験体は、ヒトである、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記被験体は、成人である、方法。
【請求項24】
請求項13に記載の方法であって、前記被験体はさらに、1つ以上の増殖因子を投与される、方法。
【請求項25】
請求項13に記載の方法であって、前記被験体はさらに、抗うつ薬、抗不安処置の薬剤、抗精神病処置の薬剤、てんかん処置の薬剤、アルツハイマー処置の薬剤、パーキンソン処置の薬剤、MAOインヒビター、セロトニン取込み遮断薬、ノルアドレナリン取込み遮断薬、ドパミン取込み遮断薬、ドパミンアゴニスト、L−ドパ、精神安定薬、鎮静薬、およびリチウムからなる群より選択される1種以上の薬剤を投与される、方法。
【請求項26】
請求項13に記載の方法であって、前記組成物は、全身に投与される、方法。
【請求項27】
請求項13に記載の方法であって、前記組成物は、経口経路、皮下経路、腹腔内経路、筋内経路、脳室内経路、クモ膜下腔内経路、頭蓋内経路、口腔経路、粘膜経路、経鼻経路、および直腸経路からなる群より選択される経路により投与される、方法。
【請求項28】
請求項13に記載の方法であって、前記組成物は、経鼻噴霧剤または鼻用坐剤として処方される、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法であって、前記組成物は、乾燥散剤吸入器または水溶液ベースの吸入器によって投与される、方法。
【請求項30】
請求項13に記載の方法であって、前記FTY720またはその誘導体は、前記被験体の中枢神経系に投与される、方法。
【請求項31】
インビトロにおいて非胚性神経幹細胞の増殖を増大させるための方法であって、該方法は、該細胞と、該細胞の増殖を増大させるために十分な量のFTY720またはその誘導体を含む組成物とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、前記誘導体は、FTY720Pである、方法。
【請求項33】
請求項31に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、0.001nM〜0.05nMの濃度で前記細胞に加えられる、方法。
【請求項34】
請求項31に記載の方法であって、前記FTY720または前記誘導体は、0.02nM〜0.04nMの濃度で前記細胞に加えられる、方法。
【請求項35】
請求項31に記載の方法であって、前記細胞は、哺乳動物の細胞である、方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法であって、前記細胞は、ヒトの細胞である、方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、前記細胞は、成人の細胞である、方法。
【請求項38】
請求項31に記載の方法であって、前記細胞はさらに、1つ以上の増殖因子と接触させられる、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2007−505098(P2007−505098A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525926(P2006−525926)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003288
【国際公開番号】WO2005/025553
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(505077792)ニューロノバ エービー (5)
【Fターム(参考)】