説明

神経芽腫の悪性度を含めた検出方法、及び抑制方法

【課題】神経芽腫の悪性度を含めて検出する手段を提供すること。
【解決手段】神経芽腫におけるヒト14番染色体q22領域の核酸のメチル化を指標として神経芽腫の悪性度を判定することを見出した。また、本発明は、神経芽腫においてメチル化による遺伝子転写の不活性化を回復することにより、神経芽腫の増殖を抑制することも見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経芽腫をその遺伝子型を観察することで初期に診断することを目的として、特定の染色体領域に存在する遺伝子の変化を検出することによって癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経芽腫(neuroblastoma)は副腎や交感神経節に発生する腫瘍である。多くは5歳以下の子供に発症するが、稀に5歳を過ぎて発症し、新生児に発見される。副腎と交感神経節は胎児期の神経提と呼ばれる共通の組織から発生するので、神経提由来の細胞が神経芽腫の発生細胞と考えられる(Brodeur., et al., Nat Rev Cancer, 2003,3,203−216;Westermann et al,Cancer Lett,2002,184,127−147)。
【0003】
1歳以降に発症する神経芽腫では一般に進行していることが多く、手術や化学療法、放射線療法を組み合わせた強力な治療が必要であり、特に病期(Stage)4の場合や癌遺伝子MYCNが増えている場合には、造血幹細胞移植(骨髄移植や末梢血幹細胞移植など)を用いた積極的な治療がおこなわれている。しかし、病期4の神経芽腫の場合、造血幹細胞移植を併用した積極的な治療をおこなっても5年後の生存率は30%程度であることから、神経芽腫発症の原因遺伝子を見つけ出し、その機能を解明することで、その知見に基づいた新たな有効な治療法の開発が望まれている。
【0004】
【非特許文献1】Brodeur., et al., Nat Rev Cancer, 2003,3,203−216;Westermann et al,Cancer Lett,2002,184,127−147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経提由来細胞の癌化についての遺伝子レベルでのメカニズムが解明されれば、遺伝子レベルにおける神経提由来細胞の癌化の発見や、神経芽腫の悪性度の診断、進行の抑制をおこなうことが可能となり、さらに、メカニズムに基づく薬剤の選別、開発や治療法の確立が可能となるはずである。具体的には、神経芽腫に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して、遺伝子を中心とした技術的検討をおこなうことにより、この課題を解決することができると考えられる。即ち、本発明は、神経芽腫などの癌に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して癌の検出方法及び細胞増殖抑制剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Comparative Genomic Hybridization (CGH)、または、それに伴う、Bacterial Artigicial Chromosome array−based Methylated CpG island Amplification(BAMCA)はゲノム上で多数の遺伝子増幅並びに欠失、あるいは遺伝子の不活性化に伴う遺伝子異常を解析するためには、簡便で迅速であり、最良の方法である。そして、癌化並びに癌の悪性化などに関与するゲノム上の遺伝子異常を解析するためにCGHアレイに搭載する4500種類のBAC/PAC DNAを選別する(MCG Whole Genome‐4500;Inazawa J., et al.,Cancer Sci,2004,95,559−563)ことにより、神経提細胞の癌化を促進する癌関連遺伝子、すなわち、Prostaglandin E2 receptor2(PTGER2)遺伝子の同定に成功した。そして、PTGER2遺伝子の不活性化、すなわち、PTGER2蛋白質の減少が神経芽腫の増殖を顕著に促進すること、また、PTGER2遺伝子の転写産物または蛋白質を増加させると神経芽腫の増殖を著しく低下することを見出すことに成功し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明によれば、検体において、14番染色体q22領域の遺伝子の不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法が提供される。
好ましくは、遺伝子は、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子である。
好ましくは、検体において、さらにMYCN遺伝子の増幅を検出する。
好ましくは、遺伝子の不活性化は、CpGアイランドのメチル化による不活性化である。
【0008】
好ましくは、遺伝子の不活性化は、ヒストンH4蛋白質又はヒストン3H蛋白質のアセチル化、ヒストンH3K9のメチル化の度合いによる不活性化である。
好ましくは、検体は、神経提由来の細胞である。
好ましくは、癌は神経芽腫である。
好ましくは、遺伝子の不活性化を、DNAチップ法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、リアルタイムRT−PCR法、FISH法、CGH法、または、アレイCGH法、Bsulfite Sequence法、COBRA法を用いて検出する。
【0009】
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法が提供される。
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤が提供される。
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む、細胞の増殖を活性化する方法が提供される。
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む、細胞増殖活性化剤が提供される。
【0010】
本発明によればさらに、検体にインビトロでcAMPを蓄積させることを含む、細胞の増殖を抑制する方法が提供される。
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫に対して、被験物質を接触させて、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法が提供される。
【0011】
本発明によればさらに、ヒストンH3またはH4蛋白質のアセチル化の抑制またはヒストンH3蛋白質の6番目のリジン残基(K9)メチル化に起因してPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫に対して、被験物質を接触させて、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の促進によりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、神経提由来の細胞検体における癌化、悪性度を的確に把握することが可能となった。また、神経芽腫において、遺伝子発現を不活性化するPTGER2遺伝子の転写産物を導入することにより、神経芽腫の増殖を抑制することができる。また、PTGER2遺伝子の発現が不活性化することにより発生する神経芽腫の治療剤のスクリーニングをおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
(1)癌の検出方法
本発明による癌の検出方法は、検体において、14番染色体q22領域の遺伝子の不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出することを特徴とする。好ましくは、検出される遺伝子は、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子である。
【0014】
ヒトゲノムプロジェクトの成果により、ヒトPTGER2遺伝子の転写産物は既に知られており、14q22.1染色体に存在する遺伝子である(Duncan AM., et al.,Genomics,1995,25,740−742)。ヒトPTGER2遺伝子がコードする蛋白質は、プロスタグランジンE2(PGE2)の受容体であり、そのシグナリングを仲介する役割を持つ(Narumiya S., et al.,Physiol Rev,1999,79,1193−1226)。しかしながら、このヒトPTGER2遺伝子が、ヒト神経芽腫の発症、または悪性化に関わる重要な癌関連遺伝子であることは未だ知られていない。
【0015】
上述したように、本検出方法は、神経提細胞や神経芽腫におけるPTGER2遺伝子の不活性化を検出することを特徴とする方法である。
PTGER2遺伝子の不活性化を検出する対象となる神経提細胞または神経芽腫は、検体提供者の生検組織細胞が好適である。
この検体組織細胞は、健常人の神経提細胞か、神経芽腫患者の癌組織であるかを問わないが、現実的には、検査等の結果、副腎や交感神経節に癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織、または、神経芽腫であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある神経芽腫の組織、等が主な対象となり得る。
【0016】
本検出方法により、「検査等の結果、副腎や交感神経節に癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織」におけるPTGER2遺伝子の不活性化が認められた場合には、病変組織は癌化に向かって進行しているか或るいは既に癌化の状態であり、かつ、悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療(手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。また、「神経芽腫であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある神経芽腫の組織」におけるPTGER2遺伝子の不活性化が認められた場合にも、癌組織の悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。検体として採取された神経芽腫組織は、必要な処理、例えば、採取された組織からのDNAあるいはRNAの調製をおこない、本検出方法をおこなう対象とすることができる。
【0017】
PTGER2遺伝子の発現量が減少する原因としては、a)PTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化による不活性化、b)ヒストンH4蛋白質のアセチル化の度合いの低下による不活性化、の2通りの要因に大別される。以下に、これら2通りの要因について簡単に説明する。
【0018】
(a)PTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化による不活性化
CpGリッチプロモーター並びにエキソン領域を密にメチル化すると転写不活性化が起こることが報告されている(Bird,AP et al.,Cell,1999,99,451−454).癌細胞では、CpGアイランドはそれ以外の領域と比較すると高い頻度で密にメチル化されており、プロモーター領域のHypermethylationは、癌での癌抑制遺伝子の不活性化に深く関与している(Ehrlich,M.,et al,Oncogene,2002,21,6694−6702)。
【0019】
後述するように、実際、PTGER2遺伝子のエキソンに存在するCpGアイランドはプロモーター活性を有しているが、in vitroでこの領域をメチル化するとプロモーター活性が消失することが判明した。また、このCpGアイランドのメチル化の度合いは、一部の神経芽腫細胞でのPTGER2遺伝子発現の抑制と強く相関していた。そして、神経芽腫細胞を、脱メチル化試薬である5−アザデオキシシチジン(5−aza−dC)存在下で培養することにより、CpGアイランドを脱メチル化することができ、その結果、PTGER2遺伝子発現を回復させることができた。これらの結果により、CpGアイランドの高頻度メチル化(Hypermethylation)が神経芽腫における癌抑制遺伝子の発現抑制を高頻度で起こす原因の一つであることが判明した。
【0020】
(b)ヒストンH4蛋白質のアセチル化の度合いの低下による不活性化
ヒストン蛋白質の修飾がDNAのメチル化によって誘起される遺伝子発現の抑制に関与していることが知られている(Cameron et al.,Nucleic Acids Res.,2001,29,4598−4606)。
トリコスタチンA(Trichostatin A:TSA)は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、アセチル化と遺伝子発現との関係を解析するための重要なツールであるが、TSA存在下で、一部の神経芽腫細胞を培養するとPTGER2遺伝子の発現が上昇した(後述する)。従って、TSA存在下で、細胞内でDNAと結合しているヒストンH3あるいはH4蛋白質のアセチル化の度合いが上昇するものと結論付けられる。さらに、ヒストンH3あるいはH4蛋白質のアセチル化によって誘導されるPTGER2遺伝子発現の活性化は、神経芽腫におけるCpGアイランドのメチル化に依存しないことも判明した。
【0021】
(c)上述した手段により、PTGER2遺伝子の発現量が減少している検体細胞について、さらに、上記(a)、(b)の2通りの不活性化の要因にタイプわけすることは、検体提供者に対して最適の治療(投与すべき抗がん剤の選別をおこなう)をおこなう上で非常に有用である。具体的には、上述した検出手段により、PTGER2遺伝子の発現量が減少していることが判明した検体細胞(癌組織に由来するプライマリー癌細胞)に対して、脱メチル化剤(5−アザデオキシシチジンなど)、または、アセチル化促進剤(トリコスタチンAなど)を作用させて、遺伝子発現量の回復を検討することにより、上記の要因のタイプわけをすることができる。
【0022】
すなわち、検体細胞に脱メチル化剤を作用させて、PTGER2遺伝子の発現量が回復する場合には、検体細胞における遺伝子の抑制要因は、CpGアイランドのメチル化であり、検体提供者に、脱メチル化作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。また、検体細胞にアセチル化促進剤を作用させて、PTGER2遺伝子の発現量が回復する場合には、検体細胞における遺伝子の抑制要因は、ヒストンH3あるいはH4蛋白質におけるアセチル化の抑制であり、検体提供者に、アセチル化促進作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。また、これらの両者の反応が認められる場合には、検体細胞におけるPTGER2遺伝子の発現量の抑制原因は、上記のメチル化と、アセチル化の抑制にあると結論づけられ、脱メチル化剤とアセチル化促進剤の両者を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。
【0023】
(2)細胞増殖の抑制方法、及び細胞増殖抑制剤
本発明によればさらに、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法、並びに上記遺伝子又は蛋白質を含む細胞増殖抑制剤が提供される。
【0024】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子を取り扱う場合、当業者に公知の技術を用いて培養細胞などから取得したcDNAであってもよいし、PCR法などにより酵素学的に合成したものでもよい。PCR法によりDNAを取得する場合、ヒトの染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、目的とする塩基配列を増幅できるように設計したプライマーを使用してPCRを行う。PCRで増幅したDNA断片は大腸菌などの宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0025】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の検出ブローブ又はプライマーの調製、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual、2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY.、1989、Current Protocols in Molecular Biology、Supplement 1〜38、John Wiley & Sons(1987−1997)などに記載された方法に準じて行うことができる。
【0026】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子は、ベクターに組み込んだ組換えベクターの形態で用いることができる。ベクターとしてはウイルスベクター又は動物細胞発現用ベクター、好ましくはウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターとしてはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。中でも、レトロウイルスベクターは、細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させる可能であるからレトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。
【0027】
動物細胞発現用ベクターとしては例えばpCXN2(Gene,108,193−200,1991)、PAGE207(特開平6−46841号公報)又はその改変体などを用いることができる。
【0028】
上記組換えベクターは適当な宿主に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。組換えベクターがウイルスベクターの場合、これを導入する宿主としてはウイルス生産能を有する動物細胞が用いられ、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞などが挙げられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLVなどが、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来の293細胞などが用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法などで行うことができる。また、組換えベクターが動物細胞発現用ベクターの場合、これを導入する宿主としては大腸菌K12株、HB101株、DH5α株などを使用でき、大腸菌の形質転換は当業者に公知である。
【0029】
得られた形質転換体はそれぞれに適した培地、培養条件により培養する。例えば、大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、培養終了後、通常のDNA単離精製法により得ることができる。
【0030】
また、動物細胞の形質転換体の培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、それを含有するウイルス粒子が培養上清中に放出されるので、ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法などにより得ることができる。
【0031】
本発明の細胞増殖抑制剤は、有効成分である上記遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、上記遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0032】
有効成分である上記遺伝子又は蛋白質を配合するために使用する基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0033】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、細胞増殖抑制剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0034】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0035】
(3)細胞増殖の活性化方法、及び細胞増殖活性化剤
本発明によれば、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む細胞の増殖を活性化する方法、並びに上記のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む細胞増殖活性化剤が提供される。
【0036】
siRNAは、約20塩基(例えば、約21〜23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAであり、このようなsiRNA は、細胞に発現させることにより、そのsiRNA の標的となる遺伝子(本発明においては、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子)の発現を抑制することができる。
【0037】
本発明において用いられるsiRNA は、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態のものでもよい。ここで、「siRNA 」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出している。このsiRNA に特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNA と同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNA の中央部でmRNAを切断する。
【0038】
siRNA の配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致することが好ましい。しかし、siRNA の中央から外れた位置の塩基が一致していない場合については、RNAiによる切断活性は部分的には残存することが多いので、必ずしも100%一致していなくてもよい。
【0039】
siRNAの塩基配列と、発現を抑制すべきPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の塩基配列との間で相同性のある領域は、当該遺伝子の翻訳開始領域を含まないことが好ましい。翻訳開始領域には種々の転写因子や翻訳因子が結合することが予想されるため、siRNA が効果的にmRNAに結合することができず、効果が低減することが予測されるからである。従って、相同性を有する配列は、当該遺伝子の翻訳開始領域から20塩基離れていることが好ましく、より好ましくは当該遺伝子の翻訳開始領域から70塩基離れている。相同性を有する配列としては、例えば、当該遺伝子の3'末端付近の配列でもよい。
【0040】
本発明の別の態様によれば、RNAiにより標的遺伝子の発現を抑制することができる因子として、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造から成るshRNA(short hairpin RNA)を使用することができる。shRNAとは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことを言う。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことができる。上記の通りshRNAは、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことから、本発明において有効に用いることができる。
【0041】
shRNAは好ましくは、3'突出末端を有している。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約20ヌクレオチド以上である。ここで、3'突出末端は、好ましくはDNAであり、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド以上のDNAであり、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチドのDNAである。
【0042】
上記の通り、本発明では、RNAiによりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を抑制することができる因子として、siRNA またはshRNAを使用することができる。siRNAの長所としては、(1)細胞内に導入してもRNA自体は正常細胞の染色体内に組み込まれないので、子孫に伝わる変異を起こすような治療ではなく、安全性が高いこと、及び(2)短鎖二本鎖RNAは化学合成が比較的容易であり二本鎖にするとより安定であること、などが挙げられる。また、shRNAの長所としては、遺伝子発現を長期間抑制することによって治療を行う場合、細胞内でshRNAを転写するようなベクターを作製して細胞内に導入することができることなどが挙げられる。
【0043】
本発明で用いるRNAiによりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を抑制することができるsiRNA又はshRNAは、人工的に化学合成してもよいし、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによってインビトロでRNAを合成することによって作製することもできる。インビトロで合成する場合は、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成することができる。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、RNAiが引き起こされ、標的遺伝子の発現が抑制される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法、又は各種のトランスフェクション試薬(例えば、oligofectamine、Lipofectamineおよびlipofectionなど)を用いてそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0044】
上記したsiRNA又はshRNAは、細胞増殖活性化剤として有用である。本発明の細胞増殖活性化剤の投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。本発明の薬剤は、医薬組成物として使用する場合、必要に応じて薬学的に許容可能な添加剤を配合することができる。 薬学的に許容可能な添加剤の具体例としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、キャリア、賦形剤および/または薬学的アジュバントなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の薬剤の製剤形態は特に限定されないが、例えば、液剤、注射剤、徐放剤などが挙げられる。本発明の薬剤を上記製剤として処方するために使用される溶媒としては、水性または非水性のいずれでもよい。
【0046】
さらに、本発明の細胞増殖活性化剤の有効成分であるsiRNA又はshRNAは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。siRNA又はshRNAをウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用することができる。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、siRNA又はshRNAを発現するDNAを導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。
【0047】
本発明の細胞増殖活性化剤の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分であるsiRNA又はshRNAの種類などを考慮して、当業者が決定することができる。siRNA又はshRNAの投与量は特に限定されないが、例えば、約0.1ng〜約100mg/kg/日、好ましくは約1ng〜約10mg/kg/日である。RNAiは、一般に投与後1〜3日間効果が見られる。したがって、毎日〜3日に1回の頻度で投与することが好ましい。発現ベクターを用いる場合、1週間に1回程度投与することも可能である。
【0048】
本発明では、アンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞増殖活性化剤として使用することもできる。本発明で用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のDNA配列中の連続する5から100の塩基配列に対して相補的な、またはハイブリダイズするヌクレオチドであって、DNA又はRNAのいずれであっても良く、また機能に支障がない限りにおいて修飾されたものであってもよい。本明細書で言う「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドがすべて相補的であるもののみならず、DNA又はmRNAとオリゴヌクレオチドとが安定にハイブリダイズできる限り、多少のミスマッチが存在してもよい。
【0049】
なお、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されていてもよい。適当な修飾を施すことにより、当該アンチセンスオリゴヌクレオチドは生体内で分解されにくくなり、より安定してITIIαを阻害できるようになる。このような修飾されたオリゴヌクレオチドとしては、S−オリゴ型(ホスフォロチオエート型)、C−5チアゾール型、D−オリゴ型(フォスフォジエステル型)、M−オリゴ型(メチルフォスフォネイト型)、ペプチド核酸型、リン酸ジエステル結合型、C−5プロピニルピリミジン型、2−O−プロピルリボース、2'−メトキシエトキシリボース型等の修飾型のアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されているものでもよい。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ耐性、水溶性、RNAへの親和性に特に優れている。リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、S−オリゴ型等のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0050】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基数は、50以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。塩基数があまりに多くなると、オリゴヌクレオチドの合成の手間とコストが増大し、また、収率も低下する。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基数は5以上であり、9以上であることが好ましい。塩基数が4以下の場合には、標的遺伝子に対する特異性が低下して好ましくないためである。
【0051】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(又はその誘導体)は常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置(例えばAppliedBiosystems社製など)によって容易に合成することができる。合成法はホスホロアミダイトを用いた固相合成法、ハイドロジェンホスホネートを用いた固相合成法などで得ることができる。
【0052】
本発明においてアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞増殖活性化剤として使用する場合には、一般的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドと製剤用添加物(担体、賦形剤など)とを含む医薬組成物の形態で提供される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトを含む哺乳動物に医薬として投与することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの投与経路は特に限定されず、経口投与または非経口投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔などへの粘膜投与、または吸入投与など)の何れでもよい。
【0053】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの製剤形態は特に限定されず、経口投与のための製剤としては例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与のための製剤としては例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤、点鼻剤、点耳剤などが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む薬剤の形態、使用すべき製剤用添加物、製剤の製造方法などは、いずれも当業者が適宜選択可能である。
【0054】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの投与量は、患者の性別、年齢または体重、症状の重症度、予防または治療といった投与目的、あるいは他の合併症状の有無などを総合的に考慮して適宜選択することができる。投与量は、一般的には、0.1μg/kg体重/日〜100mg/kg体重/日、好ましくは0.1μg/kg体重/日〜10mg/kg体重/日である。
【0055】
さらに本発明では、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の機能欠失型遺伝子を細胞増殖活性化剤として使用することもできる。機能欠失型遺伝子とは、該当する遺伝子においてその機能を欠失するように変異が導入されている遺伝子のことを言う。具体的には当該遺伝子から作製されるアミノ酸配列の少なくとも1個の構成アミノ酸を欠くもの、少なくとも1個の構成アミノ酸が別のアミノ酸で置換されているもの、少なくとも1個のアミノ酸が付加されたもの等の本来の機能を欠失した一般にムテインと呼ばれるタンパク質を翻訳する当該遺伝子がこれに相当する。
【0056】
機能欠失型遺伝子を細胞増殖活性化剤として使用する場合は、有効成分である上記遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、上記遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0057】
上記基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0058】
機能欠失型遺伝子の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0059】
機能欠失型遺伝子の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0060】
また、上記した本発明の各種の遺伝子治療剤は、常法により調製されたリポソームの懸濁液に遺伝子を添加し凍結した後融解することにより製造することもできる。リポソームを調製する方法は、薄膜振とう法、超音波法、逆相蒸発法、界面活性剤除去法などがある。リポソームの懸濁液は超音波処理した後、遺伝子を添加するのが遺伝子の封入効率を向上させる上で好ましい。遺伝子を封入したリポソームはそのまま、又は水、生理食塩水などに懸濁して静脈投与することができる。
【0061】
(4)抗腫瘍物質のスクリーニング方法
上述したように、神経芽腫に関しては、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の不活性化が大きな要因となっており、遺伝子の働きを正常化する薬剤は、神経芽腫に対する抗腫瘍剤として用いることが可能であると考えられる。特に、この不活性化の要因が、PTGER2遺伝子のCpGアイランドによるメチル化、及び/または、ヒストンH3あるいはH4蛋白質のアセチル化の抑制である場合には、これらの要因を解消・緩和することができる薬剤は、抗腫瘍剤として有用である。
【0062】
そこで、本発明は、上述したように、脱メチル化作用を有する薬剤のスクリーニング方法である本スクリーニング方法1と、アセチル化促進作用を有する薬剤のスクリーニング方法である本スクリーニング方法2、を提供する発明である。
【0063】
これらの本スクリーニング方法をおこなう前提として、検体細胞においてPTGER2遺伝子の発現量が抑制されている神経芽腫細胞を確保する必要がある。すなわち、本スクリーニング方法1においては、「PTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫細胞株」が、本スクリーニング方法2においては、「ヒストンH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫細胞株」が必要となる。これらの細胞株の確立法は、上述した知見に基づいた上で、常法に従いおこなうことができる。例えば、少なくとも、PTGER2遺伝子の不活性化が確認された細胞の中から、既存の脱メチル化試薬(例えば5−アザデオキシシチジン)を作用させることにより、PTGER2遺伝子のレベルが回復する細胞を選択して、これを継代して、所望する「PTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫細胞株」(以下、メチル化癌細胞株ともいう)として確立することができる。また、少なくとも、PTGER2遺伝子のメチル化が確認された神経芽腫細胞の中から、既存のアセチル化促進剤(例えば、トリコスタチンA等)を作用させることにより、PTGER2遺伝子のレベルが回復する細胞を選択して、これを継代して、所望する「ヒストンH3あるいはH4蛋白質のアセチル化の抑制に起因してPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫細胞株」(以下、脱アセチル化癌細胞株ともいう)として確立することができる。
【0064】
本スクリーニング方法においては、上記のメチル化癌細胞株または脱アセチル化細胞株に対して被験物質を接触させることが必要である。この接触の態様は、特に限定されないが、メチル化細胞株の培養物に対して、被験物質を好適には適切な希釈倍率で希釈して添加して、引き続き培養をおこなうことによりおこなわれる。そして、被験物質を添加する前のメチル化癌細胞株または脱アセチル化細胞株におけるPTGER2遺伝子の発現量と、添加後の遺伝子の発現量を、好適には経時的に定量し、定量前後の遺伝子の発現量の差を、被験物質を添加せずに同条件で培養された対照培養物と比較して、対照培養物よりも、被験物質を添加した培養物における遺伝子の発現量が増加している場合には、被験物質は1)メチル化癌細胞株を用いた試薬においては「PTGER遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質」(本スクリーニング方法1)として選別され、2)脱アセチル化癌細胞株を用いた試験においては「ヒストンH3あるいはH4蛋白質のアセチル化の促進によりPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質」(本スクリーニング方法2)、として選別される。
さらに、本スクリーニング方法をおこなって、所望の神経芽腫に対する抗腫瘍成分としてスクリーニングされた物質を、さらに、in vivoのスクリーニング、例えば、上記のメチル化癌細胞株、または、脱アセチル化細胞株を植えつけたヌードマウスでの神経芽腫細胞の増殖抑制効果とヌードマウスの生存率の向上を指標とするスクリーニング方法にかけて、最終的な絞込みをおこなうことが好適である。
【0065】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1:神経芽腫におけるPTGER2遺伝子の不活性化
神経芽腫での新規な遺伝子変化を検出するために、2種の神経芽腫細胞株(IMR32細胞とGOTO細胞)から調製したゲノムDNAを用いて、MGC Whole Genome Array−4500を用いてBAMCA法による解析をおこなった(Inazawa J., et al.,Cancer Sci,2004,95,559−563)。なお、対象として、5種類のStageIの神経芽腫から調製したゲノムDNAを混ぜて使用しCy5で標識した。被検DNAとして、IMR32細胞とGOTO細胞から調製したゲノムDNAを使用しCy3で標識した。具体的には、SmaI(100Units)とXmaI(20Units)で消化した各ゲノムDNA(5μg)にアダプターオリゴを結合し、そのアダプターに相補的なプライマー、Cy3−dCTP、Cy5−dCTP(GEヘルスケア)を用いてPCR反応をおこなうことで標識した。BAMCA法によるハイブリダイゼーションの後、CGHアレイをGenePix 4000Bスキャナー(Axon Instruments、CA、USA)を用いてCy3及びCy5に由来する蛍光をモニタリングした。得られた結果をGenePix Pro4.1イメージングソフトウエア(Axon Instruments、CA、USA)を用いて解析した。Cy3に由来する蛍光強度の平均とCy5に由来する蛍光強度の平均を同じ値に調整し、Cy3/Cy5のRatioを求めた。ゲノムに異常がない場合にはRatio値は1である。Ratio値が1.5以上の時にゲノムの変化が認められると判定した。その結果、14q22.1染色体領域に存在する1クローン(RP11−262M8)にゲノムの変化が認められると判定した。その染色体領域には2つの遺伝子[PTGDR遺伝子(NM000953)、PTGER2遺伝子(NM000956)]が存在していることがヒトゲノムデータベース(http://genome.ucsc.edu/)から確認した。そのゲノム構造の模式図を図1Aに示す。
【0067】
2つの遺伝子の発現を20種類の神経芽腫細胞株を用いて、RT−PCRにより確認した(図1B)。この結果、PTGER2遺伝子が発現していない神経芽腫細胞株は、全てMYCN遺伝子の増幅が起きていることがわかった。
【0068】
また、PTGER2遺伝子の発現の抑制が、DNAのメチル化による原因かどうかを調べるため、PTGER2遺伝子が発現していない神経芽腫細胞株を用い、脱メチル化試薬5‐aza‐dCydを1μM、5μMで5日間、そして/また、脱アセチル化阻害剤TSAを100ng/mlで12時間処理をおこなった。それらの細胞由来からRNAを抽出し、PTGER2遺伝子の発現をRT−PCRで調べた(図1C)。その結果、PTGER2遺伝子は、TSA処理、5‐aza‐dCyd、その両者の処理により、遺伝子発現を回復することがわかった。この結果は、明らかに、PTGER2遺伝子の発現抑制には、DNAのメチル化とヒストンのアセチル化が関与していることが推定される。
【0069】
実施例2:PTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化についての検討
CpGアイランドのメチル化は遺伝子発現を抑制するメカニズムの1つである。PTGER2遺伝子のCpGアイランドをCpGPLOTプログラム(http://www.ebi.ac.uk/emboss/cpgplot/)を用いて解析した結果、PTGER2遺伝子のエキソン1周辺にCpGアイランドが存在することを確認した(図2A)。
【0070】
そのエキソン1を3つの領域にわけ、Bisulfiteシーケンス法(Toyota M.,et al., Cancer Res.59,2307,1999)により、メチル化の度合いを確認した(図2B)。メチル化の検討には、EZ DNAメチレーションキット(Zymo RESEARCH,CA,USA)を使用し、神経芽腫細胞に由来するゲノムDNA(2μg)をSodium bisulfite中50℃で1晩処理をおこない、目的とするメチル化DNAを増幅するようにデザインしたプライマーを用いてPCRをおこなった。得られたPCR産物をTaqI制限酵素(New England BioLabs)で消化した。TaqIはメチル化されないシトシンがSodium bisulfiteで修飾された配列は消化しないが、メチル化されたシトシンがSodium bisulfiteで修飾されない配列を消化する性質を利用して、メチル化の度合いをモニタリングした。PCR断片を電気泳動後、メチル化された断片のバンドとメチル化されない断片のバンドの濃度比をMultiGauge2.0(富士フイルム株式会社)を用いたデンシトメトリーにより測定し、メチル化された領域のメチル化度を%で表示した。また、これらの配列をTOPO TAクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。その結果、PTGER2遺伝子を発現していない3つの神経芽腫細胞株(IMR32、GOTO、SJ‐N‐CG)は、エキソン1の領域(Region 2と3)が高頻度にメチル化されていることがわかった。
【0071】
また、図2Aで同定したPTGER2遺伝子のCpGアイランドのプロモーター活性を調べるために、このCpGアイランドの周辺を含めて3つの断片にわけそれらの断片をルシフェラーゼレポータープラスミド(pGL3‐Basic vector:Promega)に挿入し、神経芽腫細胞株(SJ‐N‐CG、SH‐SY5Y)へトランスフェクションした。Dual-Luciferaseレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて、マニュアルに従ってルシフェラーゼ活性を測定し、各Regionを有するpGL3ベクターに由来するルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、Region1のルシフェラーゼ活性が高いことがわかった(図2C)。高度にメチル化されていたRegion3は、ルシフェラーゼ活性があまり高くないことから、直接的に遺伝子発現の不活性化に関与していないかもしれない。
【0072】
この結果から、PTGER2遺伝子の発現調節には、DNAのメチル化の他にエピジェネティックなメカニズムが関与している可能性があることが予想される。そこで、ChIPアッセイ(Sonoda,I.,et al,Cancer Res,64,3741−3747,2004)を用いて、ヒストンのアセチル化またはメチル化を確認することにした。図2AにChIPアッセイに用いたプライマーの位置、図2Dに結果を示す。その結果、アセチル化されたヒストンH3とヒストンH4に結合したDNA断片は、PTGER2遺伝子が発現していない細胞株(SJ−N−CG、GOTO)においては、PTGER2遺伝子が発現している細胞株(SH−SY5Y)と比較して減少していた。しかし、リジン9番目がトリメチル化されたヒストンH3に結合したDNA断片は、SJ−N−CG、GOTO細胞株で増加していた。これらの結果は、PTGER2遺伝子が発現していない神経芽腫は、ヒストンH3とヒストンH4が低アセチル化され、その上、ヒストンH3の9番目のリジンがメチル化され、さらにPTGER2遺伝子のCpGアイランドRegion3がメチル化されている。これらの度合いにより、PTGER2遺伝子の発現調節がおこなわれていることが予想される。
【0073】
実施例3:プライマリー神経芽腫でのPTGER2遺伝子CpGアイランドのメチル化
これまで、神経芽腫細胞でPTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化を解析してきたが、実際に神経芽腫組織でも同様な現象が起こっているかどうかを検討した。組織は、Stage1の神経芽腫組織を1つとStage4の神経芽腫組織を3つを用いて、Bisulfiteシーケンスで解析した(図2B)。その結果、Stage4の2つの神経芽腫組織において、Region3の高いメチル化が確認できた。また、Stage1の神経芽腫組織からは高メチル化は確認できなかった。
【0074】
さらに49例の神経芽腫組織のRegion3についてのメチル化を、メチル化特異的PCR(Methylation‐specific PCR;MSP)をおこない、そのPCR産物を3%アガロースゲル電気泳動で確認し調べた結果、49例中12例はRegion3のメチル化が確認された(24.5%)。12例のうち4例は、Stage1、2、3、4Sであり、残り8例はStage4の神経芽腫組織であった(図3A)。また、MYCN遺伝子が増幅している神経芽腫9例のうち8例は、PTGER2遺伝子のRegion3がメチル化されていることがわかった(88.9%)(図3B)。そして、MYCN遺伝子が増幅されていない40例では、PTGER2遺伝子のRegion3がメチル化されているのは4例のみであった(10%)。これらの結果、PTGER2遺伝子のメチル化とMYCN遺伝子の増幅を検出することにより、神経芽腫の悪性度を見極めることが可能であることを示している。
【0075】
実施例4:PTGER2遺伝子の活性化による神経芽腫の増殖抑制
これまでの結果から、PTGER2遺伝子発現を活性化することで、神経芽腫の増殖が抑制されるかどうかを検討した。まず、PTGER2遺伝子のMycタグを発現するプラスミド(pcDNA‐PTGER2‐Myc)を構築した。これは全長を有するPTGER2遺伝子の役割をモニタリングするために使用できる。本プラスミドは、RT−PCRにより増幅したPTGER2 cDNAをpcDNA3.1発現ベクターにMycタグと翻訳フレームがあうように挿入して作製した。対照として、PTGER2遺伝子を挿入しない空ベクター(pcDNA3.1‐mock)を使用した。これらの発現プラスミドを、トランスフェクション試薬であるFuGENE6(Roch Diagnostics)と混合し、SJ−N−CG、GOTO細胞へトランスフェクションした。2または3週間後にネオマイシン系薬剤であるG418存在下で増殖する細胞を70%エタノール70%エタノールで固定し、クリスタルバイオレッドで染色することによりカウントした。その結果、空ベクターでトランスフェクションした細胞と比べてpcDNA‐PTGER2‐Mycでトランスフェクションした細胞は顕著にコロニー数が減少した(図4)。この結果は明らかにPTGER2遺伝子の発現を活性化することで、神経芽腫の増殖を抑制でき癌抑制剤として機能することを示している。
【0076】
実施例5:cAMPの細胞内濃度増加による神経芽腫の増殖抑制
PTGER2蛋白質とG蛋白質は連結し、細胞内のcAMPの濃度を増加に関連があることから(Narumiya, et al., Physiol Rev,79,1193‐1226,1999)、cAMPの細胞内濃度と神経芽腫の増殖との関係性を探ることにした。まず、PTGER2遺伝子を発現していない神経芽腫細胞株(GOTO、SJ−N−CG)と発現している細胞株(SJ−N−KP、KP−N−SIFA)に、8−Br−cAMPを増殖培地中に、それぞれ0mM、0.01mM、0.1mM、1mM添加し、72時間培養した。その後、細胞の生存率は、WSTアッセイを用いて検出した(図5)。その結果、PTGER2遺伝子を発現していない細胞株に、8−Br−cAMPを添加し、細胞内のcAMPの濃度を増加させた場合、PTGER2遺伝子を発現していない神経芽腫の増殖が抑制されていることが明らかとなった。このことから、PTGER2遺伝子を発現していない神経芽腫において、細胞内のcAMPを蓄積させるということは、癌抑制剤として機能することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、PTGDR遺伝子とPTGER2遺伝子のゲノム構造と神経芽腫細胞株における遺伝子発現を示す。A:PTGDR遺伝子とPTGER2遺伝子のゲノム構造を示す。オープンとフィルボックスは非翻訳領域とコーディングエキソン配列、ハッチボックスは1479bpと1482bpのCpGアイランドをそれぞれ示す。B:正常な脳、副腎、MYCN遺伝子の発現のあり(+)、なし(−)の神経芽腫細胞株におけるPTGDR遺伝子とPTGER2遺伝子のRT−PCR解析を示す。コントロールとして、GAPDHの発現を示す。C:5−aza−dCと/またはTSAの処理あり(+)なし(−)をおこなった神経芽腫細胞株におけるPTGDR遺伝子とPTGER2遺伝子のRT−PCR解析の結果を示す。また、コントロールとして、GAPDHの発現を示す。両方の遺伝子の発現は3種類の細胞株で5−aza−dCで処理すると回復した。また、3種類の細胞株でPTGER2遺伝子の発現はTSAのみの処理により回復した。
【図2】図2は、PTGER2遺伝子の発現状態とDNAメチル化とヒストン修飾の関連性を示す。A:PTGDRとPTGER2遺伝子のエキソン1周辺領域のCpGアイランド(スティプルバー)の地図。CpG部位は垂直線で示す。各遺伝子の断片(Region1−3)はCOBRAとBisulfiteシーケンスによりメチル化を決定した(黒い矢印で示す)。プロモーターアッセイにおけるPTGER2遺伝子の断片(Region1−4)は平行線で示す。ChIP−PCRにより解析した領域はアローヘッドで示す。B上図:PTGDR遺伝子またはPTGER2遺伝子の非発現(IMR32、GOTO、SJ−N−CG)と発現(KP−N−SILA、SH−SY5Y)神経芽腫細胞株、4種類のプライマリー神経芽腫におけるBisulfiteシーケンスの結果。オープンとフィルのスクエアは非メチル化とメチル化CpG部位を示し、各列は1種類のクローン由来である。TaqI制限部位は黒いアローヘッドで示す。黒い矢印(MSP)と白い矢印(USP)はメチル化と非メチル化アレルを増幅するためにデザインしたプライマー配列の位置を示す。下図:各遺伝子の発現有り(+)なし(−)の神経芽腫細胞株におけるPTGDRとPTGER2のCpGアイランドのRegion3に伴うCOBRA実験。PCR産物はTaqIにより消化した。矢印は非メチル化アレル、アローヘッドはメチル化アレルを示す。C:PTGER2CpGアイランドのプロモーター活性。pGL3空ベクター(mock)とCpGアイランドRegion1−4の異なった配列を含むレポーターを構築した。それらをPTGER2遺伝子が発現している細胞(SH−SY5Y)と発現していない細胞(SJ−N−CG)へトランスフェクションした。ルシフェラーゼ活性はコントロールに対してノーマライズした。データは3つの独立した実験の平均±SDを示す。D:ChIPアッセイは、神経芽腫細胞内でのPTGER2プロモーター領域のメチル化とヒストンアセチル化の状態を示す。左、アセチル化ヒストンH3(Ac−H3)、アセチル化ヒストンH4(Ac−H4)、トリメチル化ヒストンH3−リジン9(3Me−H3K9)の抗体を用いた、DNA−蛋白質複合体の免疫沈降法。実験は、PTGER2遺伝子を発現している細胞株(SH−SY5Y)とPTGER2遺伝子を発現していない細胞株(SJ−N−CG、GOTO)からクロスリンクした抽出物を用いた。PTGER2プロモーター領域を含んだ免疫沈降したサンプルはPCRにより増幅させた。免疫沈降前(Input)のソニケートしたクロマチンの部分は、ノーマライズのためのポジティブコントロールとして供給した。抗体が非存在の免疫沈降はネガティブコントロールとして供給した。右、ChIP−PCR産物の定量解析。ChIP−PCR産物より生産したバンドはデンシトメトリー(LAS−3000、富士フイルム)により定量した。SJ−N−CGとGOTO細胞株において、PTGER2プロモーター内のアセチル化ヒストンH3とH4に結合したDNAは減少した。また、SY5Yと比較してトリメチル化ヒストンH3K9は増加した。これは、神経芽腫細胞におけるPTGER2遺伝子の発現調節に、CpGアイランド内のメチル化パターンとプロモーター領域内のヒストン修飾が関連していることを連想する。
【図3】図3は、プライマリー神経芽腫におけるPTGER2のメチル化と発現状態を示す。A:神経芽腫のプライマリーサンプルにおけるMSP実験の結果。メチル化と非メチル化アレルのためのプライマーは図2Bに示すPTGER2のCpGアイランドRegion3内に設計し、増幅した。アローヘッドは2種類の腫瘍でのメチル化アレルを示す。B:プライマリー神経芽腫のPTGER2のメチル化状態、腫瘍病期(左)とMYCN増幅状態(右)の比較。メチル化状態はMSPにより決定した。左、PTGER2CpGアイランドは病期1、2、3、または4Sの37症例中4例(10.8%)がメチル化されていた。病期4では12症例中8例(66.7%)がメチル化されていた(p=0.0004、Fisher‘s exact test)。右、MYCN遺伝子の増幅している9症例では8例(88.9%)がPTGER2CpGアイランドのメチル化を伴う。MYCN遺伝子の増幅していない40症例では4例(10.0%)のみPTGER2CpGアイランドのメチル化を伴う(p<0.0001、Fisher‘s exact test)。
【図4】図4は、神経芽腫の増殖に関するPTGER2遺伝子発現の効果を示す。PTGER2遺伝子が発現していない神経芽腫細胞株(GOTOとSJ−N−CG)を用いたコロニーフォーメーションアッセイ。これらの細胞へPTGER2を含むMycタグベクター(pcDNA3.1−PTGER2−Myc)または、空ベクター(pcDNA3.1−empty)を一過性でトランスフェクションし、G418存在下で2−3週間薬剤選択をおこなった。左、トランスフェクション後2(SJ−N−CG)または3(GOTO)週間で薬剤耐性コロニーを形成した結果、PTGER2遺伝子をトランスフェクションした細胞のコロニー形成は、空ベクターをトランスフェクションした細胞よりも少ないことがわかった。右、コロニー形成の定量解析。>2mmコロニーをカウントした、そしてその結果は3回の別々の実験の平均値±SDとして表した。統計解析はMann−Whitney U test(:a、p<0.05対空ベクターをトランスフェクションした細胞)を用いた。
【図5】図5は、神経芽腫の増殖におけるcAMPアナログ、8−Br−cAMPの細胞浸透性の効果を示す。野生型GOTOとSJ−N−CG細胞、PTGER2の発現をしていないSJ−N−KPとKP−N−SIFA細胞に、8−Br−cAMPを様々な濃度で添加し72時間培養した。そして、細胞生存率をWSTアッセイにより決定した。統計解析は、分散分析の1つであるScheffe‘s test(:a、p<0.05対賦形剤を添加した細胞)を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、14番染色体q22領域の遺伝子の不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法。
【請求項2】
遺伝子が、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子である、請求項1に記載の癌の検出方法。
【請求項3】
検体において、さらにMYCN遺伝子の増幅を検出する、請求項1又は2に記載の癌の検出方法。
【請求項4】
遺伝子の不活性化が、CpGアイランドのメチル化による不活性化である、請求項1から3の何れか記載の癌の検出方法。
【請求項5】
遺伝子の不活性化が、ヒストンH4蛋白質又はヒストン3H蛋白質のアセチル化、ヒストンH3K9のメチル化の度合いによる不活性化である、請求項1から3の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項6】
検体が、神経提由来の細胞である、請求項1から5の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項7】
癌が神経芽腫である、請求項1から6の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項8】
遺伝子の不活性化を、DNAチップ法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、リアルタイムRT−PCR法、FISH法、CGH法、または、アレイCGH法、Bsulfite Sequence法、COBRA法を用いて検出する、請求項1から7の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項9】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項10】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤。
【請求項11】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む、細胞の増殖を活性化する方法。
【請求項12】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む、細胞増殖活性化剤。
【請求項13】
検体にインビトロでcAMPを蓄積させることを含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項14】
PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫に対して、被験物質を接触させて、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法。
【請求項15】
ヒストンH3またはH4蛋白質のアセチル化の抑制またはヒストンH3蛋白質の6番目のリジン残基(K9)メチル化に起因してPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現が抑制されている神経芽腫に対して、被験物質を接触させて、PTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、ヒストンH4蛋白質のアセチル化の促進によりPTGDR遺伝子又はPTGER2遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−5621(P2009−5621A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169875(P2007−169875)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年5月28日 http://www.nature.com/onc に発表
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】