説明

神経障害および神経精神障害のボツリヌス毒素処置

【課題】視床が媒介する神経障害を含む神経精神障害および/または神経障害を予防または治療するための医薬および方法を提供する。
【解決手段】三叉感覚神経またはその近傍にボツリヌス毒素含有医薬を末梢投与し、それによって神経精神障害および/または神経障害を予防または治療することにより、視床が媒介する障害などの神経精神障害および/または神経障害を処置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視床が媒介する神経障害または視床の影響を受ける神経障害などの慢性神経障害を含む神経精神障害および/または神経障害を処置(軽減および/または予防を含む)するための医薬および方法に関する。特に本発明は、三叉神経にボツリヌス毒素を投与することによって神経精神障害および/または慢性神経障害を処置するためのボツリヌス毒素を含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害は中枢神経系機能障害である。中枢神経系には脳が含まれる。脳には、脊髄の背側端、延髄、脳幹、橋、小脳、大脳および皮質が含まれる。
【0003】
てんかん
てんかんとは、人が、基礎にある慢性過程により、反復発作を起こす状態を表す。発作は、中枢神経系ニューロンの集合体からの異常で過剰な過同期性発火による突発的事象である。てんかんの数多くの原因には、臨床的特徴および病理学的特徴が弁別的であって特異的な基礎病因を示唆する、さまざまなてんかん症候群が含まれる。てんかんの罹患率は人口1000人あたり5〜10人と見積られている。重症穿通性頭部外傷には、てんかんにつながるリスクが最高で50%ある。てんかんの他の原因には、脳卒中、感染および遺伝的感受性が含まれる。
【0004】
抗てんかん薬療法は大部分のてんかん患者にとって処置の中核であり、さまざまな薬物が使用されてきた。例えばFauci,A.S.ら「Harrison's Principles of Internal Medicine」(McGraw-Hill、第14版、1998)の2321頁を参照されたい。抗てんかん薬の有効な組合せを見つけようとする努力にもかかわらず、てんかん患者の20%は薬物療法に対して抵抗性である。ビデオEECモニタリングを使って、発作焦点の解剖学的位置を明確にし、異常な電気生理学的活動を発作の行動的発現と相関させることができる。位置測定には常用の頭皮記録または頭皮-蝶形骨記録で通常は十分である。器質的病変の同定には高分解能MRIスキャンが常用される。SPECTおよびPETなどの機能イメージング研究は、解剖学的異常を持つ見かけのてんかん誘発領域の局在を証明するのに役立ちうる補助検査である。
【0005】
発作起始部位と推定される位置が同定されたら、神経心理学的検査および頚動脈内アモバルビタール検査(Wada検査)を含む追加試験を使って、言語および記憶局在を評価し、てんかん誘発領域の外科的除去の考えうる機能的帰結を決定することができる。場合によっては、外科手術時に皮質マッピングを行なうことにより、企てるべき切除の正確な程度を決定することもできる。これには、てんかん様障害の程度および問題になっている皮質領域の機能を同定するために、覚醒している患者の電気生理学的記録および皮質刺激が必要である。
【0006】
側頭葉てんかん患者の最も一般的な外科手術では、前内側側頭葉の切除(側頭葉切除術)、または下層にある海馬および扁桃体のより限定的な除去が行なわれる。側頭葉外領域から生じる焦点発作は焦点新皮質切除によって抑制されうる。残念ながら、患者の約5%は依然として臨床的に重大な合併症を発症する可能性があり、側頭葉切除術による処置を受けた患者の約30%は依然として発作を起こすだろう。
【0007】
焦点てんかんに冒される可能性は脳のほとんどすべての部分にあり、焦点てんかんは通常、機能異常を持つ限局性病変に起因する。焦点てんかんの1タイプは精神運動発作である。現在の治療法には、EEGを使って、焦点てんかん発作を起こしやすくする器質性脳疾患領域から生じる異常スパイク波を局在し、次にその病変を外科的に切除して将来の発作を予防することが含まれる。
【0008】
慢性疼痛
人口の約3分の1は慢性疼痛を経験するだろう。米国では慢性疼痛は長期障害の最も一般的な原因であり、約5000万人に部分障害または完全障害をもたらしている。人口が高齢化するにつれて、背部障害、変性関節疾患、リウマチ状態、線維筋痛症、内臓疾患、および癌に起因する慢性疼痛の処置を必要とする人々の数は、増加すると予想することができる。
【0009】
組織傷害などのさまざまな事象が脳への疼痛シグナルを惹起する。これらの電気インパルスは、脊髄の後角でニューロンとシナプシスを形成する侵害受容器と呼ばれる細い無髄神経(C線維)によって運ばれる。後角からは、疼痛シグナルが脊髄視床路を通って大脳皮質に伝達され、そこで感知され、局在され、解釈される。
【0010】
慢性疼痛は単なる長期型の急性疼痛ではない。疼痛シグナルが繰り返し生成されるので、疼痛シグナルに対して中枢神経系を過敏にし抗侵害受容入力に対して中枢神経系を耐性にするような物理化学的変化を、神経経路が起こす。これを中枢感作という。
【0011】
線維筋痛症は、中枢感作が原因と考えられる慢性疼痛症候群である。線維筋痛症の特徴的症状には、広範な疼痛、疲労、睡眠異常および睡眠困難が含まれる。線維筋痛症患者は痛覚過敏の精神物理学的証拠、すなわち、さまざまな圧痛点または発痛点における機械的刺激、熱刺激および電気刺激に対する増強された応答、を示す。線維筋痛症では、これらの圧痛点における感覚がはるかに強く、患者は低下した疼痛閾値を持ち、ごくわずかな圧力にさえ応答する。コペンハーゲン線維筋痛症シンポジウム(Copenhagen Fibromyalgia Symposium)では、線維筋痛症が、身体の4つの1/4区の全てに存在する18箇所の指定圧痛点のうち少なくとも11箇所を患者が持つ状況と定義された。一次性痛覚過敏は組織への傷害が起こった領域に発症し、二次性痛覚過敏は損傷を受けていない組織に見いだされうる。線維筋痛症では侵害受容の末梢異常および中枢異常も記述されている。線維筋痛症患者では、未知の機序により、皮膚および筋中の重要な侵害受容器系が深刻な変化を起こすようである。そのような変化には、バニロイド受容体、酸感受性イオンチャネル受容体およびプリン受容体(purino-receptor)の感作が含まれる。炎症の組織媒介因子および神経成長因子はこれらの受容体を興奮させて疼痛感受性の大きな変化を引き起こすことができるが、線維筋痛症患者には炎症性軟組織異常の一貫した証拠が欠けている。したがって、最近の研究は、線維筋痛症における疼痛の中枢神経系機序に集中している。線維筋痛症の処置には、ステロイド発痛点注射ならびに三環系抗うつ薬、ニューロンチン、および麻酔薬などの薬が含まれるが、これらは全て負の副作用を持っている。
【0012】
卒中後痛
疼痛は消耗性である場合があり、高齢者における広範な疼痛の原因が、脊柱構造内および末梢関節内の変形性関節症、または他の筋骨格状態にあるとされることは珍しくない。しかし、疼痛が広範であり、感覚異常(刺激の適用後に起こる、局在のはっきりしない灼熱感)、異痛(通常は痛くない刺激によって惹起されるもの、または刺激した領域以外の領域で起こる疼痛)、ヒペルパチー(普通の疼痛刺激からの疼痛の増加)および痛覚過敏などの神経障害特徴を示す場合は、中枢神経系に起源を持つ視床痛症候群または中枢性卒中後痛(CPSP)などの病変または障害の結果である可能性がある。疼痛源は中枢神経系内の感覚処理センターである視床を経由する。
【0013】
脳卒中は、脳の一部への血液供給が失われた結果であり、脱力および不明瞭言語をもたらす場合がある。CPSPは脳卒中患者の約8%に発症し、それは脳卒中後1〜6ヶ月以内に起こる。てんかんおよびうつ病のために開発されたいくつかの薬は卒中後痛を軽減しうるが、一般的な痛み止めはこの疼痛には効果がないことが多い。CPSPは、静脈内リドカインまたは経口オピオイド、ならびにアミトリプチリン、カルバマゼピン、テグレトールおよびラモトリジンでも処置されているが、これらの薬は有害副作用を持っている。
【0014】
局所疼痛症候群
複合性局所疼痛症候群(CRPS)(反射性交感神経性ジストロフィー症候群ともいう)は、激しい灼熱痛、骨および皮膚の病理学的変化、発汗過多、組織腫脹、および接触に対する極端な感受性を特徴とする慢性状態である。この症候群は傷害部位(腕または脚への傷害が最も多い)に起こる神経障害であり、その障害は、それが神経、皮膚、筋、血管、および骨を同時に冒すという点でユニークである。これは特に高速衝撃による傷害(例えば弾丸または榴散弾によるものなど)を受けた後に起こる。CRPSは、中枢神経系または末梢神経系における機能障害の結果であると考えられている。CRPS Iはしばしば組織傷害によって惹起され、この用語は上記の症状を持つが基礎に神経傷害を持たない全ての患者を表す。CRPS IIを持つ患者も同じ症状を覚えるが、彼らの場合は明確に神経障害に関係している。CRPSに冒される可能性はどの年齢にもあるが、40〜60歳に起こることが多い。ただし青年層および若年成人層でのCRPS症例数は増加しつつある。CRPSは男性と女性の両方を冒すが、若い女性の方が多いことには大部分の専門家が同意する。傷害部位の近くでCRPSの目に見える徴候の1つは、熱を帯びた光沢のある皮膚の発赤で、これは後に冷たくなり、青みを帯びる。
【0015】
患者が訴える疼痛は傷害の重症度とは釣り合わず、時が経つにつれて、良くなるのではなく、悪化する。最終的には、使わないために関節が曲がらなくなり、皮膚、筋および骨が萎縮する。CRPSの症状は重症度および継続時間がさまざまであり、早期処置はしばしば寛解をもたらす。しかし処置が遅れると、この障害は全肢に素早く拡がる可能性があり、骨および筋の変化が不可逆的になる場合もある。CRPS症例の約50%では、疼痛が6ヶ月を超えて持続し、時には何年間も持続する。医師はCRPSを処置するためにさまざまな薬物を用いる。CRPSの処置には当該肢の挙上および理学療法も用いられる。局所麻酔剤の注射は通常、処置の第1段階である。皮膚下の神経終末に短い電流パルスを印加する手法であるTENS(経皮電気刺激)は、一部の患者で慢性疼痛を緩和するのに役立っている。場合によっては、疼痛を緩和するために外科的または化学的交感神経切除(交感神経系の患部神経の遮断)が行なわれるが、これらの処置は他の感覚も同様に破壊しうる。
【0016】
幻肢痛
幻肢痛は肢を切断した後にその肢が痛むという意識下の感覚である。脳は、身体の一部がもはや存在しない場合でさえ、無傷なままの「全身地図」を作成し、脳がそこにはない肢に持続的メッセージを送ると、幻感覚または幻痛が起こりうる。幻痛または幻感覚はタイプおよび強度に多様性を持ちうる。例えば軽症型は、疼痛に反応した肢を痙動させる鋭い間欠的刺痛として感じられるかもしれない。より重症なタイプの一例は、失われた肢が押しつぶされている感覚であるかもしれない。通常、幻肢痛は時が経つにつれて頻度および強度が低下する。しかし、少数の肢切断患者では、幻肢痛が慢性になり、その疼痛の頻度および重症度ゆえに、消耗性になる。神経細胞が疼痛メッセージを伝達するのを防止することによって発痛点を緩和し、断端痛を軽減するために、リドカイン、マーカイン、ノボカイン、ポントカイン、およびキシロカインなどの麻酔剤がしばしば用いられるが、それらの効果は一時的である。抗炎症薬(アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン)、抗うつ薬(アミトリプチリン、エラビル、パメラー(Pamelor)、パキシル、プロザック、ゾロフト)、抗痙攣薬(テグラトール(Tegratol)、ニューロンチン)および麻酔薬(コデイン、デメロール、モルヒネ、パーコダン、パーコセット)は、やはり幻痛の処置に用いられる他の薬であるが、これらはしばしば有害副作用を持つ。
【0017】
脱髄疾患疼痛
多発性硬化症(MS)、進行性多巣性白質脳症(PML)、散在性壊死性白質脳症(DNL)、急性散在性脳脊髄炎、およびシルダー病などの脱髄疾患は、通常は神経線維を覆っている脂肪質の絶縁材であって神経インパルスの伝達を助けるミエリンの破壊をもたらす後天性慢性炎症性疾患である。脱髄は、露出した軸索に沿って起こる活動電位の伝達に障害をもたらし、それが多数の神経学的欠損、例えば感覚喪失、脱力、視力喪失、眩暈、協調運動障害、括約筋障害、および認知変化を生じる。MSは、通常、初期段階では再発-寛解経過を特徴とし、最初は完全にまたはほぼ完全に回復する。時が経つにつれてこの疾患は神経欠損の不可逆的進行期に入る。急性再発は炎症性脱髄によって起こり、一方、疾患の進行は軸索喪失に起因すると考えられる。この疾患過程は有髄線維路、例えば視神経、ならびに脳および脊髄の白質路に影響を及ぼす。これは、視覚障害、膀胱、腸または性的機能障害、運動脱力および痙縮、感覚症状(しびれ感、感覚異常)、小脳症状(振戦および運動失調)、ならびに他の症状(疲労、認知障害および精神医学的合併症)など、さまざまな症状につながりうる。脱髄障害を処置するために用いられる治療法は疾患修飾療法、急性憎悪時に用いられる薬物、および疾患合併症を処置するために用いられる薬物に分類することができる。今までのところ、疾患の進行を停止するまたは神経学的状態を改善する疾患修飾療法は見つかっていない。
【0018】
このため、処置の中核は依然として対症的管理である。現在の治療法は主に免疫系に影響を与えるものであり、疾患病理に関与する炎症過程を標的としている。ベータインターフェロン(ベタフェロンと呼ばれるインターフェロンベータ1b)、酢酸グラチラマー(コパクソン)およびミトザントロン(mitozantrone)が、その免疫調整作用ゆえに用いられている。それらには、抗炎症環境を生み出すための、白血球増殖および抗原提示の阻害、血液脳関門を横切るT細胞移動の阻害、ならびにサイトカイン産生の調整が含まれる。プレドニゾロンなどの経口ステロイドは、MSの急性発作を短縮するのに有効でありうる。T細胞ワクチン接種、インターロイキン10、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、プラスマフェレーシス、ビタミンD、レチノイン酸、ガンシクロビル、バラシクロビル、骨髄移植および自家幹細胞移植を含む他の治療法候補は、現在臨床評価を受けているところである。
【0019】
上述のように、視床媒介性障害などのさまざまな神経障害の処置として、さまざまな治療的処置を利用することができる。しかし、これらの治療的処置はいくつかの有害副作用を持っている。これらの副作用は、医薬剤が典型的には全身投与され、そしてそれゆえに、薬剤が患者のさまざまな生物学的系に対して比較的非特異的な作用を持つという事実に原因があると考えることができる。例えばベンゾイジアゼピン類の投与は鎮静および筋弛緩をもたらしうる。また、これら薬物に対して耐性が発達することがあり、離脱発作が発症することもある。現在の治療戦略は所望の効果を達成するために薬剤の一貫した反復投与も必要とする。
【0020】
神経精神障害
神経精神障害は、4つの心的能力のうちのどれが冒されているかに従って典型的には分類される神経学的障害である。例えば、神経精神障害の1つの群には、思考障害および認知障害、例えば、統合失調症および譫妄などが含まれる。神経精神障害の2番目の群には、気分障害、例えば、情動障害および不安などが含まれる。神経精神障害の3番目の群には、社会生活行動障害、例えば、性格欠陥および人格障害などが含まれる。神経精神障害の4番目の群には、学習障害、記憶障害および知能障害、例えば、精神遅延および痴呆などが含まれる。従って、神経精神医学的障害には、統合失調症、譫妄、アルツハイマー病、うつ病、躁病、注意欠陥障害、薬物常用癖、痴呆、激越、無感動、不安、精神病、人格障害、双極性障害、強迫障害、摂食障害、心的外傷後ストレス障害、興奮性および脱抑制が含まれる。
【0021】
統合失調症
統合失調症は、世界人口の約1パーセントが冒されている障害である。統合失調症の3つの一般的な症状は、多くの場合、陽の症状、陰の症状、および解体型症状と呼ばれる。陽の症状には、妄想(異常な信念)、幻覚(異常な知覚)、および、まとまりのない思考が含まれ得る。統合失調症の幻覚は、聴覚的、視覚的、嗅覚的または触覚的であり得る。まとまりのない思考は、とりとめのない発言、および、論理的思考プロセスを維持することができないことによって統合失調症患者に現れ得る。陰の症状は、正常な行動が見られないことに相当し得る。陰の症状には、感情の単調性および表現の欠如が含まれ、陰の症状は、社会からの引きこもり、気力の低下、意欲の低下、および活動の低下によって特徴づけられ得る。緊張病もまた、統合失調症の陰の症状に関連し得る。統合失調症の症状は、患者が統合失調症患者として診断されるためには、約6ヶ月の期間にわたって継続して持続しなければならない。患者に見られる症状のタイプに基づいて、統合失調症は、緊張型統合失調症、妄想型統合失調症および解体型統合失調症を含む様々なサブタイプに分類され得る。
【0022】
統合失調症患者の脳は、多くの場合、海馬の縮小および脳幹神経節のサイズ増大に関連し得る肥大した側脳室によって特徴づけられる。統合失調症患者はまた、肥大した第3脳室および溝の拡大を有する場合がある。これらの解剖学的特徴は皮質組織の縮小を示している。
【0023】
統合失調症の原因は正確には知られていないが、いくつかの仮説がある。1つの仮説は、統合失調症は、脳の皮質領域内および辺縁領域内における増大したドーパミン活性に関連するというものである。この仮説は、ある種のドーパミン受容体を阻止する抗精神病薬によって達成される治療効果によって裏付けられる。さらに、アンフェタミンの使用が統合失調症様精神病症状に関連し、アンフェタミン類はドーパミン受容体に対して作用することが知られている。
【0024】
統合失調症患者を処置するために使用され得る抗精神病薬の例には、フェノチアジン系薬剤、例えば、クロルプロマジンおよびトリフルオプロマジンなど;チオキサンテン系薬剤、例えば、クロルプロチキセンなど;フルフェナジン;ブチロフェノン系薬剤、例えば、ハロペリドールなど;ロキサピン;メソリダジン;モリンドン;ケチアピン;チオチキセン;トリフルオペラジン;ペルフェナジン;チオリダジン;リスペリドン;ジベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、クロザピンなど;およびオランザピンが含まれる。これらの薬剤は統合失調症の症状を緩和し得るが、その投与はまた、パーキンソン病様症状(震せん、筋肉硬直、顔面表情の喪失);ジストニー;落ちつかいないこと;遅発性ジスキネジー;体重増加;様々な皮膚障害;口渇;便秘;かすみ目;眠気;不明瞭な発言;無顆粒球症を含む様々な望ましくない副作用をもたらし得る。
【0025】
抗精神病薬は、D2受容体、D3受容体およびD4受容体に対する特定の親和性でドーパミン受容体に対して主に作用すると考えられている。D3受容体およびD4受容体は、ある種の抗精神病薬(例えば、クロザピンなど)に対してそれ以外と比較してより大きい親和性を有し得ることが考えられている。統合失調症患者の脳は、尾状核、側坐核(腹側線条体)および嗅結節においてD2受容体の数が増大しているようである。
【0026】
ドーパミンニューロンは、結節漏斗系、黒質線条体系、中脳辺縁系および中脳皮質系の4つの主要な部分系に組織化され得る。結節漏斗部のドーパミン作動系は視床下部の弓状核の細胞体に起源を有し、下垂体柄に突き出る。この系は、統合失調症における二次的な神経内分泌異常に関与し得る。黒質線条体系のドーパミン作動系は黒質に起源を有し、主として被殻および尾状核に突き出る。中脳辺縁系のドーパミン作動系は腹側被蓋領域に起源を有し、側坐核、分界条の核、扁桃および海馬の一部、側方中隔核、ならびに、近心前頭皮質、前帯状皮質および嗅内皮質を含む辺縁系の様々な近心要素に突き出る。側坐核は、扁桃、海馬、嗅内領域、前帯状領域、および側頭葉の一部からの収束部位である。従って、中脳辺縁系のドーパミン作動性突出部は、側坐核から、中隔領域、視床下部領域、前帯状領域および前頭葉に運ばれた情報を調節および変換することができ、そして、これらの領域への側坐核出力の活動しすぎる調節は、統合失調症に関連する陽の症状の一因になり得る。中脳皮質のドーパミン作動系は腹側被蓋領域に起源を有し、新皮質に、大量には前頭前野に突き出る。この要素は、統合失調症の陰の症状に関して重要であり得る。
【0027】
腹側被蓋領域は、側坐核に対するドーパミン作動性入力の発生源であり、脳幹の脳脚橋核からのコリン作動性入力を受け取る。脳脚橋核は、腹側被蓋領域に対する興奮性コリン作動性入力をもたらす(Clarke他、ラットにおける脳脚橋核からのコリン作動性求心性神経による黒質ニューロンの神経支配:神経解剖学的証拠および電気生理学的証拠、Neuroscience、23、1011-1019、1987)。統合失調症患者は、脳脚橋核におけるコリン作動性ニューロンの数が増大していることが報告されている(Garcia-Rill他、統合失調症における中間脳橋(mesopontine)ニューロン、Neuroscience、66(2):321-335、1995)。しかしながら、これらの結果は1つの研究では確認されていなかった(German他、統合失調症における中間脳橋のコリン作動性ニューロンおよびコリン非作動性ニューロン、Neuroscience、94(1):33-38、1999)。
【0028】
躁病
躁病は、米国では何百万人ものうつ病患者を冒す多幸感の持続した形態である。躁状態は、数日間続く、高まった気分、発揚妄想性の気分または怒りっぽい気分によって特徴づけることができ、躁状態には、多くの場合、活動過多、多弁、社会生活での押しつけがましさ、気力の増大、発想の重圧、誇張、注意散漫、低下した睡眠要求、および無謀などの様々な他の症状が伴う。躁病患者はまた、妄想および幻覚を経験することがある。
【0029】
抑うつ性障害には、セロトニン受容体およびノルアドレナリン受容体を標的とする現在の治療法に基づいて、セロトニン作動性およびノルアドレナリン作動性のニューロン系が関与しうる。セロトニン作動性の経路は脳幹の縫線核から始まり、ノルアドレナリン作動性の経路は青斑から始まる。青斑におけるニューロンの電気的活動を低下させることが、抑うつ薬物療法により媒介される作用に関連し得る。
【0030】
躁病は脳内のある種の化学伝達物質の不均衡から生じる可能性がある。躁病はアセチルコリンの低下が一因であり得ることが提案されている。アセチルコリンの低下はノルエピネフリンの比較的より大きいレベルをもたらし得る。ホスファチジルコリンを投与することにより、躁病の症状が軽減されることが報告されている。
【0031】
不安
不安障害には、人口の約10パーセント〜30パーセントが冒されていると考えられ、覚醒、落ちつきがないこと、応答性の高まり、発汗、脈拍増大、血圧上昇、口渇、逃避願望および回避行動を含む恐怖心の様々な症状の頻繁な発生によって特徴づけられ得る。全般性の不安が数ヶ月間にわたって持続し、そのような不安は、運動緊張(震え、引きつり、筋肉痛、不穏);自律神経の活動過多(息切れ、動悸、心拍数増大、発汗、冷たい手)、ならびに、警戒および入念観察(過敏、大げさな驚き応答、集中することの困難)に関連する。
【0032】
ベンゾジアゼピン系薬剤は、γ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体の抑制性作用を増強するので、不安を処置するために頻繁に使用されている。ブスピロンは別の効果的な不安処置剤である。
【0033】
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、認知および非認知の神経精神医学的症状によって特徴づけられる変性脳障害であり、65歳を超える患者については全痴呆症例の約60%を占める。精神医学的症状はアルツハイマー病では共通しており、精神病(幻覚および妄想)が罹患患者の約50パーセントに存在する。統合失調症と同様に、陽の精神病症状がアルツハイマー病では共通している。妄想が、典型的には、幻覚よりも頻繁に生じる。アルツハイマー病患者はまた、解放状態、無感動、低下した情動応答性、意志力の喪失、および低下した自発性などの様々な陰の症状を示すことがある。
アルツハイマー病患者はまた、側脳室および第3脳室の両方の拡大ならびに側頭部構造の萎縮を示すことがある。
【0034】
アルツハイマー病の精神病的症状は、ドーパミンまたはアセチルコリンの濃度のシフト(ドーパミン作動性/コリン作動性の均衡を高め、それにより精神病的行動を生じさせ得る)に関係することが考えられる。例えば、増大したドーパミン放出は統合失調症の陽の症状の原因である得ることが示唆されている。これは、ドーパミン作動性/コリン作動性の均衡の正の破壊を生じさせ得る。アルツハイマー病では、コリン作動性ニューロンの減少がアセチルコリン放出を効果的に低下させ、これにより、ドーパミン作動性/コリン作動性の均衡の負の破壊をもたらしている。実際、統合失調症の精神病を緩和するために使用される抗精神病剤はまた、アルツハイマー病患者における精神病を軽減することにおいても有用である。
【0035】
神経精神医学的障害に関連する症状のいくつかは、少なくとも一部は、脳内のニューロンの興奮性亢進(すなわち末梢神経からの求心性入力に対する感受性増大)に一因があるようである。この解釈は、現在の治療的処置に関連する薬理学によって裏付けられる。例えば、抗精神病処置の多くは、上記で議論されたように、ドーパミンがドーパミン受容体に結合することを妨げることに向けられている。同様に、躁病および不安は、多くの場合、GABAにより媒介される抑制の抑制性作用を高めるベンゾジアゼピン系薬剤で処置されている。米国特許第6,306,403号には、様々な運動障害を処置するためのボツリヌス毒素の頭蓋内投与が開示されている。さらに、定位処置が、異なる脳領域に医薬品を投与して、パーキンソン症候群性震せんを首尾良く軽減するために使用され得ることが知られている。例えば、Pahapill P.A.他、本態性震せん患者におけるムシモールの視床マイクロ注入による震せん停止、Ann Neur、46(2);249-252(1999)を参照のこと。
【0036】
しかしながら、現在の治療的処置はいくつかの有害な副作用をもたらしている。これらの副作用は、医薬用薬剤が典型的には全身的投与によって投与され、従って、薬剤が、患者の様々な生物学的システムに関して比較的非特異的な作用を有するという事実に起因し得る。例えば、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与は鎮静作用および筋弛緩を生じさせ得る。さらに、耐性がこれらの薬物に対して発生することがあり、それだけでなく、中断による発作が生じることがある。現在の治療法はまた、所望される効果を達成するために、薬物の一定かつ反復した投与を必要としている。
【0037】
三叉神経
三叉神経は3つの主要分枝、いくつかの小分枝を持ち、触覚、温度、疼痛、および自己受容(位置覚)シグナルを顔および頭皮から脳幹へと運ぶ頭頸部の大きな感覚神経である。三叉神経感覚線維は皮膚に起始し、三叉神経節(感覚神経細胞体)に向かって進路をとり、三叉神経節を通過して、三叉神経中を、脳幹内に位置する三叉神経感覚核まで進む。
【0038】
三叉神経の3つの主要分枝は眼(V1、感覚)、上顎(V2、感覚)および下顎(V3、感覚)枝である。大きい三叉神経感覚根および小さい三叉神経運動根は、橋の中央外側面で脳幹を離れる。感覚根は、橋からずっと下がって脊髄の第2頸椎レベルまで伸びる最大の脳神経核に終止する。感覚根は、中頭蓋窩底上の陥凹内で、硬膜の層の間にある三叉神経節または半月神経節に合流する。三叉神経運動根は、脳幹の橋中央に位置する三叉神経の咀嚼器運動核中に位置する細胞から起始する。運動根は三叉神経節を通過し、対応する感覚根と合体して、下顎神経になる。これは咀嚼筋、顎舌骨筋および顎二腹筋前腹に分布する。三叉神経の3つの感覚枝は神経節から放射して、三叉神経の3つの分枝を形成する。眼枝および上顎枝は、頭蓋を離れる直前まで、海綿静脈洞の壁内を進む。眼枝は上眼窩裂を通って進み、眼窩を通過して、前頭部および頭頂部の皮膚に達する。上顎神経は翼口蓋窩を経由し正円孔を通って頭蓋に入る。その感覚枝は、下眼窩裂(顔、頬および上歯)ならびに翼口蓋管(軟口蓋、硬口蓋、鼻腔および咽頭)を経由して、翼口蓋窩に達する。頭蓋内で三叉神経節に入る髄膜感覚枝もある。下顎神経の感覚部分は、口頬粘膜、舌の前3分の2、下歯、下顎の皮膚、頭部および頭皮の側部ならびに前頭蓋窩および中頭蓋窩の髄膜からの一般感覚情報を運ぶ分枝から構成される。
【0039】
三叉神経感覚核は脳幹内の背外側橋に位置する。三叉神経中脳路および三叉神経運動核は、それより内側にある。上小脳脚は後側にある。下方では延髄内に伸びる三叉神経脊髄路核とつながっている。上方では各側の感覚核が中脳路核とつながっている。
【0040】
重要なことに、三叉神経感覚核は、(1)三叉神経眼枝(例えば眼窩上領域、角膜、虹彩、篩骨洞からの一般感覚)、(2)三叉神経上顎枝(例えば側頭、頬、口腔、上咽頭からの感覚)、および(3)三叉神経下顎枝(例えば中頭蓋窩、頬内側、舌の前3分の2、オトガイからの感覚)、(4)顔面神経(例えば外耳道からの一般感覚)、(5)舌咽神経(例えば中耳、扁桃、中咽頭、舌の後3分の1からの一般感覚)、(6)迷走神経(耳介枝、髄膜枝、内枝(internal laryngeal branch)、反回枝(recurrent laryngeal branch))、からの求心性(感覚入力)線維を受け入れる。
【0041】
したがって、三叉神経節内の一次ニューロンは、脳幹中の三叉神経主感覚核および三叉神経脊髄路核で、シナプスを形成する。三叉神経系脊髄路核は、頚部皮膚分節との接続が存在する上部頚椎まで伸びる。これらの皮膚分節は、C1〜C4の感覚枝を持つ頚神経叢によって神経支配される。三叉神経は咀嚼筋中の伸展受容器も神経支配する。これらのニューロンの細胞体は、中脳および橋内の三叉神経中脳路核中にある。
【0042】
図1に示すように、三叉神経主感覚核からの上行性(求心性)二次三叉神経ニューロン、三叉神経脊髄路核からの上行性二次ニューロンは、上行して、視床中でシナプスを形成する。視床からの投射は感覚皮質の顔面表現に至る。三叉神経中脳路核からの中枢投射は運動皮質に至る。感覚皮質への視床投射は体性感覚の局在機構に従う。手および顔はホムンクルス地図では不釣り合いに大きな表現を持つ。この身体地図は静的なものではなく、使用パターンによって動的に制御され、使用の増加は皮質表現の増加につながる。注目すべきことに、中心後回中の一次体性感覚皮質は視床からの入力を受け取り、頭頂弁蓋中の二次体性感覚皮質に投射する。感覚皮質から運動皮質への遠心性接続もある。注目すべきことに、三叉神経は極めて大きな神経であり、感覚皮質の28%はそれだけに充てられている。
【0043】
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができるようであり、コリン作動性運動ニューロンに高い親和性を示す。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0044】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
【0045】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス毒素が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス毒素血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。低親和性受容体を介して、また食作用および飲作用によってもさらに取り込みが起こりうる。
【0046】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖またはHC)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。HCのカルボキシル末端セグメントは、ボツリヌス毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0047】
第2段階において、ボツリヌス毒素は、標的細胞の形質膜を横切る。ボツリヌス毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、ボツリヌス毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するHCのアミノ末端セグメントHNによって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、ボツリヌス毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、ボツリヌス毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
【0048】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。これら開裂はそれぞれ、小胞−膜ドッキングの過程を遮断し、それによって小胞内容物のエキソサイトーシスを阻害する。
【0049】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋(すなわち運動障害)によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が小さく、および/または活性持続が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均約3ヶ月であり得るが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。
【0050】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。
【0051】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そしてボツリヌス毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0052】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされうる。
【0053】
例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
【0054】
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0055】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0056】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0057】
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウィスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。
【0058】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してからボツリヌス毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0059】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0060】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。
【0061】
A型ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0062】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0063】
ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(多汗症の処置のような腺の処置に用いられる場合)。例えばBushara K., Botulinum toxin and rhinorrhea, Otolaryngol Head Neck Surg 1996; 114(3): 507、およびThe Laryngoscope 109: 1344-1346: 1999参照。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0064】
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。商業的に入手可能な2つのヒト用ボツリヌス毒素A型調製物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から市販されている)およびDysport(登録商標)(イギリス、ポートン・ダウンのBeaufour Ipsenから市販されている)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから市販されている。
【0065】
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。
【0066】
米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。
【0067】
ボツリヌス毒素をさまざまな痙攣性筋肉症状の処置に使用した結果、筋肉痙攣の軽減につれて、抑鬱および不安が軽減しうることが報告されている。Murry T.ら、Spasmodic dysphonia; emotional status and botulinum toxin treatment, Arch Otolaryngol 1994 Mar; 120(3): 310-316; Jahanshahi M.ら、Psychological functioning before and after treatment of torticollis with botulinum toxin, J Neurol Neurosurg Psychiatry 1992; 55(3): 229-231。更に、ドイツ特許出願DE10150415A1には、ボツリヌス毒素の筋肉内注射によって抑鬱および関連情動障害を処置することが記載されている。
【0068】
ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案され、または使用されている:皮膚創傷(米国特許第6447787号)、さまざまな自律神経系機能障害(米国特許第5766605号)、緊張頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、副鼻腔頭痛(米国特許出願第429069号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、神経痛(米国特許出願第630587号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、歯科関連疾患(米国仮特許出願第60/418789号)、結合組織炎(米国特許第6623742号)、さまざまな皮膚障害(米国特許出願第10/731973号)、乗り物酔い(米国特許出願第752869号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、損傷筋肉(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号)、口角の下がり(米国特許第6358917号)、神経絞扼症候群(米国特許出願第2003 0224049号)、さまざまな衝動障害(米国特許出願第423380号)、ざ瘡(WO03/011333)、および神経性炎症(米国特許第6063768号)。更に、制御放出毒素インプラント(例えば米国特許第6306423号および第6312708号参照)、また経皮ボツリヌス毒素投与(米国特許出願第10/197805号)が知られている。
【0069】
A型ボツリヌス毒素は、局所運動性てんかんの1種である継続性てんかんの処置に用いられている。Bhattacharya K.ら、Novel uses of botulinum toxin type A: two case reports, Mov Disord 2000; 15(Suppl 2):51-52。
【0070】
ボツリヌス毒素を次のように使用しうることが知られている:自傷創傷およびその結果としての潰瘍を治癒するように口の咀嚼または咬合筋を弱める(Payne M.ら、Botulinum toxin as a novel treatment for self mutilation in Lesch-Nyhan syndrome, Ann Neurol 2002 Sep; 52(3 Supp 1): S157);良性膿腫性病変または腫瘍の治癒を促す(Blugerman G.ら、Multiple eccrine hidrocystomas: A new therapeutic option with botulinum toxin, Dermatol Surg 2003 May; 29(5): 557-9);裂肛を処置する(Jost W., Ten years' experience with botulinum toxin in anal fissure, Int J Colorectal Dis 2002 Sep; 17(5): 298-302)およびある種のアトピー性皮膚炎を処置する(Heckmann M.ら、Botulinum toxin type A injection in the treatment of lichen simplex: An open pilot study, J Am Acad Dermatol 2002 Apr; 46(4): 617-9)。
【0071】
さらに、ボツリヌス毒素は、ラットホルマリンモデルにおいて誘発した炎症性痛覚を軽減するよう作用しうる。Aoki K.ら、Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing, Cephalalgia 2003 Sep; 23(7): 649。さらに、ボツリヌス毒素の神経遮断は、表皮厚さの減少を起こしうることが報告されている。Li Y.ら、Sensory and motor denervation influences epidermal thickness in rat foot glabrous skin, Exp Neurol 1997; 147: 452-462(第459頁参照)。最後に、次のような処置のために脚にボツリヌス毒素を投与することが知られている:脚の過剰発汗を処置する(Katsambas A.ら、Cutaneous diseases of the foot: Unapproved treatments, Clin Dermatol 2002 Nov-Dec; 20(6): 689-699; Sevim, S.ら、Botulinum toxin-A therapy for palmar and plantar hyperhidrosis, Acta Neurol Belg 2002 Dec; 102(4): 167-70)、足指痙攣を処置する(Suputtitada, A., Local botulinum toxin type A injections in the treatment of spastic toes, Am J Phys Med Rehabil 2002 Oct; 81(10): 770-5)、特発性尖足を処置する(Tacks, L.ら、Idiopathic toe walking: Treatment with botulinum toxin A injection, Dev Med Child Neurol 2002; 44(Suppl 91: 6)、および脚ジストニーを処置する(Rogers J.ら、Injections of botulinum toxin A in foot dystonia, Neurology 1993 Apr; 43 (4 Suppl 2))。
【0072】
破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。
【0073】
さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺をもたらすことがなく、たとえあったとしても、ごくわずかである。
【0074】
最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。
【0075】
アセチルコリン
複数の神経調節物質が同一ニューロンから放出されうることを示唆する証拠があるが、典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、筋紡錘線維のbag 1線維によって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0076】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0077】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
【0078】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0079】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0080】
したがって必要なのは、視床媒介性障害などの神経精神障害および/または神経障害を、医薬品の末梢投与によって効果的に処置する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0081】
本発明はこの必要を満たし、視床媒介性障害などの神経精神障害および/または神経障害を、ボツリヌス毒素の末梢投与によって効果的に処置するための医薬および方法を提供する。
【0082】
本明細書では以下の定義が適用される。
「約」は、およそまたはほぼを意味し、本明細書に記載する数値または範囲については、詳述または主張した数値または範囲の±10%を意味する。
【0083】
「筋肉内」または「筋肉内に」は、横紋筋または随意筋の中へ、または中で、を意味し(横紋筋または随意筋へのボツリヌス毒素の投与または注射などの場合)、平滑筋または不随意筋の中へ、または中で、は除外される。
【0084】
「局所投与する」は、動物身体上または動物身体内にあって、ある医薬品の生物学的作用が望まれる部位に、またはその近傍に、その医薬品を直接投与することを意味する。静脈内投与または経口投与などの全身性投与経路は、局所投与からは除外される。
【0085】
「神経(または神経性)障害」は、てんかん、中枢感作による慢性疼痛、中枢性卒中後痛、局所疼痛症候群および幻肢痛などの中枢神経系機能不全である。神経障害には、視床から皮質への入力によって媒介されるまたは影響を受ける脳皮質機能障害が包含される。
【0086】
「神経精神障害」は、典型的には4つの心的能力のうちどれが冒されているかに従って分類される神経障害を意味し、任意の中枢媒介性障害、例えばCNSが発生させる疼痛(すなわち異痛)およびてんかんなどの運動障害も包含する。
【0087】
「末梢投与する」または「末梢投与」は、皮下(subdermal)、皮内、経皮、または皮下(subcutaneous)投与を意味するが、筋肉内投与は除外される。「末梢」は皮下位置にあることを意味し、内臓部位は除外される。
【0088】
「三叉感覚神経」は、末梢からヒト脳内のある位置、例えば脳幹、視床または皮質などへの感覚シグナルまたは感覚情報を受け取る、または伝達する、三叉神経の末梢求心性神経細胞を意味する。したがって、三叉運動(遠心性)神経は三叉感覚神経から除外される。したがって三叉感覚神経は、三叉神経の眼枝、上顎枝、下顎枝、前頭枝、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経、および耳介側頭神経を包含する。
【0089】
本発明によれば、視床媒介性障害などの慢性神経障害を予防または処置するための医薬および方法が提供される。一部の実施形態では、医薬は、患者の1つ以上の三叉感覚神経に接触させ、それによって視床媒介性障害などの慢性神経障害を予防または処置するためのボツリヌス毒素を含むことができる。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素が三叉神経と接触するように、三叉感覚神経に、または三叉神経の近傍に、ボツリヌス毒素を末梢投与する。三叉感覚神経に限定しない例として、視神経、上顎神経、下顎神経、前頭枝、眼窩上神経、滑車上神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、眼窩下神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経または耳介側頭神経が挙げられる。
【0090】
さらに本発明によれば、本方法は、三叉神経を接触させること、そしてさらに視床に求心性線維を送る脊髄神経を接触させることを含む。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素が感覚神経と接触するように、感覚神経に、または感覚神経の近傍に、ボツリヌス毒素を末梢投与する。脊髄神経に限定しない例として小後頭神経または大後頭神経が挙げられる。
【0091】
さらにまた本発明によれば、本発明の範囲に包含される医薬は、視床が媒介する障害または視床の影響を受ける障害、例えばてんかん、慢性疼痛、またはその両方などを予防または処置するのに有効であることができる。慢性疼痛に限定しない例は、中枢感作慢性疼痛、中枢性卒中後痛、局所疼痛、幻肢痛、または脱髄疾患疼痛である。
【0092】
一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を皮下または皮内に投与する。一部の実施形態では、約1単位〜約3000単位のボツリヌス毒素を各神経に投与する。一部の実施形態では、約1単位〜約100単位のボツリヌス毒素を各神経に投与する。
【0093】
本発明による神経精神障害を処置するための方法および医薬は、患者に末梢投与するボツリヌス毒素を含む。ボツリヌス神経毒は、神経精神障害の少なくとも1つの症状を軽減するために処置有効量で投与される。ボツリヌス神経毒は、ボツリヌス神経毒にさらされたニューロンからの神経伝達物質の分泌を減少させることによって、神経精神障害に関連する症状を軽減しうる。
【0094】
本発明の方法に使用するのに好適なボツリヌス神経毒は、細菌により産生される神経毒であり得る。例えば、神経毒は、ボツリヌス菌、Clostridium butyricumまたはClostridium berattiから産生され得る。ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素、B型ボツリヌス毒素、C1型ボツリヌス毒素、D型ボツリヌス毒素、E型ボツリヌス毒素、F型ボツリヌス毒素またはG型ボツリヌス毒素であり得る。ボツリヌス毒素は約10-3U/kg〜約20U/kgの間の量で投与され得る。「U/kg」は、患者体重1kg当たりの単位の略号である。ボツリヌス毒素の効果は約1ヶ月〜5年にわたって持続し得、永続的であり得、すなわち神経精神障害の治癒を提供しうる。
【0095】
本発明に使用するのに好適なボツリヌス神経毒には、天然に産生されるもの、また、組換え産生されたボツリヌス神経毒、例えば、大腸菌により産生されるボツリヌス毒素が含まれる。さらに、または、あるいは、神経毒は、修飾型神経毒、すなわち、天然の神経毒と比較した場合、そのアミノ酸の少なくとも1つが欠失または修飾または置換されている神経毒であり得、または、修飾型神経毒は、組換え産生された神経毒またはその誘導体もしくはフラグメントであり得る。該神経毒は依然、神経伝達物質の放出を阻害することができる。
【0096】
ボツリヌス神経毒は、末梢経路から投与され、それにより、処置される神経精神障害に関与すると考えられる脳内部位に投与される。あるいは、ボツリヌス神経毒は脳部位への末梢感覚入力を減少するように作用しうる。ボツリヌス神経毒は、例えば、下方脳領域、例えば脳橋領域、脳脚橋核、青斑または腹側被蓋領域への求心性(感覚)入力を減少するように末梢投与することができる。ボツリヌス神経毒は、神経伝達物質放出に関連または依存する症状を軽減することができる。ボツリヌス神経毒はまた、神経精神障害を軽減するために、2つのニューロン系の間の均衡を回復させることができる。患者に投与されたボツリヌス神経毒は、コリン作動性ニューロンからのアセチルコリン放出を阻害することができ、潜在的にドーパミン作動性ニューロンからのドーパミン放出を阻害することができ、ノルアドレナリン作動性ニューロンからのノルエピネフリンの放出を阻害することができる。
【0097】
本明細書中に開示される方法に従って処置される神経精神障害には、統合失調症、アルツハイマー病、躁病および不安が含まれるが、これらに限定されない。ボツリヌス神経毒は、神経精神障害(例えば、統合失調症など)に関連する陽の症状を軽減することができ、投与後数時間以内ないし数週(2週)までに症状を軽減させ始めることができる。
【0098】
本発明者は、ボツリヌス毒素(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を、ヒト患者が経験する神経精神障害を軽減するために10-4U/kg〜約20U/kgの間の量で末梢投与し得ることを見出した。好ましくは、使用されるボツリヌス毒素は約10-3U/kg〜約1U/kgの間の量で末梢投与される。最も好ましくは、ボツリヌス毒素は約0.1単位〜約10単位の間の量で投与される。重要なことに、本発明の開示された方法の神経精神医学的障害軽減効果は、神経毒の水溶液が投与されたときには約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって、また、神経毒が制御放出インプラントとして投与されたときには約5年までにわたって持続し得る。
【0099】
本発明の方法によって投与されるボツリヌス神経毒の特定の量は、処置される神経精神障害の性質、例えばその重症度および他のさまざまな患者変数(大きさ、体重、年齢および治療に対する応答性を含む)に応じて変動しうる。医師の参考として述べると、典型的には、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、約1単位以上約50単位以下のA型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標)など)が投与される。DYSPORT(登録商標)などのA型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または注射部位につき、約2単位以上約200単位以下のA型ボツリヌス毒素が投与される。MYOBLOC(登録商標)などのB型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または注射部位につき、約40単位以上約2500単位以下のB型ボツリヌス毒素が投与される。約1、2または40単位未満の量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、望ましい治療効果を達成できない可能性があり、一方、約50、200または2500単位を超える量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、臨床的に観察可能な望ましくない筋緊張低下、筋脱力および/または筋麻痺をもたらす可能性がある。
【0100】
より好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約2単位以上約20単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約4単位以上約100単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約80単位以上約1000単位以下を投与する。
【0101】
最も好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約5単位以上約15単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約20単位以上約75単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約200単位以上約750単位以下を投与する。各患者治療セッションについて複数の注射部位(すなわちある注射パターン)が存在しうることに注意することが重要である。
【0102】
本発明は、神経精神障害を発症する傾向を持つ患者の三叉感覚神経に、またはその近傍に、ボツリスヌ毒素を投与し、その結果として神経精神障害の発症を予防することにより、神経精神障害の発症を予防するためにも使用することができる。神経精神障害を発症する傾向を持つ患者は、遺伝的(すなわち家族歴)リスク因子を示す患者、または真に異常なわけではないが神経精神障害への進行を示唆する行動を示す患者である。
【0103】
本発明の態様および特徴の理解を助けるために後述の図面を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】小脳を除く脳幹の背側断面図であり、三叉神経核の位置を示している。
【図2】ヒト頭部における三叉神経および脊髄神経の位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0105】
本発明は、1つには、視床媒介性神経障害などのさまざまな神経障害をボツリヌス毒素の末梢投与によって処置(軽減および/または予防を含む)することができるという発見に基づいている。視床媒介性障害に限定しない例として、てんかん、慢性疼痛(例えば中枢感作慢性疼痛、中枢性卒中後痛、局所疼痛、幻肢痛、または脱髄疾患疼痛)、反射性交感神経性ジストロフィー、異痛状態;キンドリングが疾患過程の一部である慢性神経障害、気分障害(双極性疾患を含む)および運動障害が挙げられる。
【0106】
本発明の一部の実施形態では、神経障害(視床媒介性障害など)を起こす傾向を持つ患者におけるそのような障害の発症を予防するために、ボツリヌス毒素を投与することができる。視床媒介性障害を発症する傾向を持つ患者は、遺伝的(すなわち家族歴)リスク因子を示す患者、または真に異常なわけではないが視床媒介性障害への進行を示唆する行動を示す患者である。一部の実施形態では、そのような傾向を持つ患者に、視床媒介性障害が発症する前に、ボツリヌス毒素を投与する。
【0107】
一部の実施形態では、視床媒介性障害を持つ患者を処置するために、ボツリヌス毒素を投与することができる。投与されたボツリヌス毒素が患者を視床媒介性障害の症状からある期間にわたって解放する場合に、その患者は処置されるという。一部の実施形態では、本発明に従って処置された患者が、1日を超える期間にわたって、視床媒介性障害の症状の減少を経験する。一部の実施形態では、本発明に従って処置された患者が、1ヶ月を超える期間にわたって、視床媒介性障害の症状の減少を経験する。一部の実施形態では、本発明に従って処置された患者が、6ヶ月を超える期間にわたって、視床媒介性障害の症状の減少を経験する。
【0108】
理論に束縛されることは望まないが、本発明の効力を説明するために、ある生理学的機序を述べることができる。すなわち、神経障害が皮質機能障害または調節障害によるものでありうることは知られている。挿間性突発性皮質調節障害などの皮質調節障害は、皮質が視床から受け入れる投射による皮質刺激の影響を受けうる。そしてまた視床は、末梢感覚神経からのシグナル(入力)を運ぶ求心性線維を受け入れることができる。したがって、末梢から視床を経由して皮質に至る感覚入力は、皮質機能障害を引き起こすことができるか、皮質機能障害の発生に寄与することができると考えることができる。したがって、視床への末梢感覚入力の低減により、皮質機能障害を処置することができる。
【0109】
キンドリング理論は、時が経つにつれて、視床に対する末梢感覚刺激無しで起こる、または視床に対する少ない末梢感覚刺激で起こる、皮質機能障害のエピソード(およびそれに続く神経障害)を説明することができる。すなわち、神経障害は、視床入力によって媒介されるまたは視床入力の影響を受ける皮質機能障害として顕在化しうる。皮質の視床媒介性障害は挿間性突発性皮質調節障害をもたらしうる。視床に終止する末梢感覚神経によって皮質が繰り返し(間接的に)刺激されるからである。時が経つにつれて、皮質調節障害エピソード、およびその結果である視床媒介性障害が、末梢感覚刺激無しで、または少ない末梢感覚刺激で、起こりうる。感覚入力無しで起こるまたは少ない感覚入力で起こるこのような皮質調節障害の発生を、キンドリング効果と呼ぶことができる。例えば、てんかんまたは疼痛のエピソードは、反復末梢感覚入力によって誘発されうると考えることができる。すなわち、時が経つにつれて、皮質は、今後のてんかんまたは疼痛のエピソードが、末梢感覚入力がなくても、またははるかに少ない末梢感覚入力でも起こりうるように、刺激された状態(kindled)または感作された状態になることができる。Post RMら「Shared mechanisms in affective illness, epilepsy, and migraine(情動障害、てんかん、および片頭痛に共通する機序)」Neurology. 1994; 44 (suppl 7: S37-S47)、Goddard GVら「A permanent change in brain function resulting from daily electrical stimulation(毎日の電気刺激がもたらす脳機能の永続的変化)」Exp Neurol. 1969; 25: 295-330、Post RM「Transduction of psychosocial stress into the neurobiology of recurrent affective disorder(心理社会的ストレスの、反復性情動障害の神経生物学への変換)」AM J Psychiatry, 1992; 149: 999-1010、およびEndicott NA「Psychophysiological correlates of "bipolarity"(『双極性』の精神生理学的相関物)」J Affect Disord. 1989; 17: 47-56を参照されたい。
【0110】
したがって、中枢神経系の末梢からの感覚刺激を減少させ、それによってさらなるキンドリングを予防するか、視床媒介性障害などの神経障害の発生に対するキンドリング効果を減少させるために、本発明によるボツリヌス毒素の末梢投与を行なうことができる。ボツリヌス毒素の末梢投与が持つこの望ましい治療効果は筋弛緩とは無関係である。本発明の一部の実施形態では、ボツリヌス毒素の投与が筋肉内には行なわれない。さらに、使用したボツリヌス毒素によって提供される抑制効果は、比較的長期間にわたって、例えば2ヶ月を超えて、潜在的には数年にわたって、持続することができる。
【0111】
一部の実施形態では、三叉神経に、および/または三叉神経の近傍付近に、ボツリヌス毒素が三叉感覚神経などの三叉神経と接触するように、ボツリヌス毒素を投与することができる。一部の実施形態では、三叉神経節に、および/または三叉神経節の近傍付近に、ボツリヌス毒素が三叉神経節と接触するように、ボツリヌス毒素を投与してもよい。一部の実施形態では、脊髄神経に、および/または脊髄神経の近傍付近に、ボツリヌス毒素が脊髄神経と接触するように、ボツリヌス毒素を投与することができ、その脊髄神経は視床に求心線維を送るか、視床に終止する。脊髄神経という用語は、一般に、脊髄から出た後根および前根から形成される混合脊髄神経を指す。脊髄神経は、椎間孔を通って椎骨から外へ出た部分である。一部の実施形態では、三叉神経に、および/または三叉神経の近傍付近に、三叉神経節に、および/または三叉神経節の近傍付近に、ならびに脊髄神経に、および/または脊髄神経の近傍付近に、ボツリヌス毒素を投与してもよく、その脊髄神経は視床に求心線維を送るか、視床に終止する。
【0112】
一部の実施形態では、三叉神経に、および/または三叉神経の近傍付近に、ボツリヌス毒素が三叉神経と接触するように、ボツリヌス毒素を投与する。上述のように、ボツリヌス毒素の末梢投与が持つ望ましい治療効果は、皮質への三叉感覚入力のダウンレギュレーションによるものでありうる。あるいは、ボツリヌス毒素は、三叉神経を視床までさかのぼる逆行性輸送に、直接的な中枢作用を発揮する可能性もある。例えば、ボツリヌス毒素の末梢皮下投与は、末梢ボツリヌス毒素注射部位から解剖学的に遠く離れている中枢(後角)ニューロンの感作レベルの低下を引き起こしうることが、証明されている。Aoki K.ら「Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing(皮下ボトックスの抗侵害受容作用の機序:末梢および中枢侵害受容処理の阻害)」Cephalalgia 2003 Sep;23(7):649 ABS P3I14、Cui M.ら「Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing(皮下ボトックスの抗侵害受容作用の機序:末梢および中枢侵害受容処理の阻害)」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002;365 (Suppl 2):R17。
【0113】
したがって、ひとたび視床中に存在すれば、ボツリヌス毒素は、視床ニューロンの皮質刺激能力を低下させ、それによって視床媒介性障害を処置することができる。したがって、本発明によるボツリヌス毒素の投与は、視床における三叉感覚刺激を減少させることで、皮質レベルでのニューロン発火に関する閾値レベルを上昇させ、それによって皮質へのキンドリング入力を取り除いて、視床媒介性障害などの神経障害の処置を可能にするのに、有効でありうる。Bolay,H.ら「Intrinsic brain activity triggers trigeminal meningeal afferents in a migraine model(片頭痛モデルでは固有の脳活動が三叉神経髄膜求心線維の要因となる)」Nature Medicine, vol 8(2);Feb 2002:136-142(ボツリヌス毒素は、慢性片頭痛の進行を変化/改善させるために使用することができ、偏頭痛の発生における三叉神経の関与を示す証拠がある)、Durham P.ら「Regulation of calcitonin gene-related peptide secretion from trigeminal nerve cells by botulinum toxin type A: implications for migraine therapy(A型ボツリヌス毒素による三叉神経細胞からのカルシトニン遺伝子関連ペプチド分泌の調節:片頭痛治療法との関連)」Headache 2004 Jan;44(1):35-43(ボツリヌス毒素は三叉神経感覚ニューロンからのカルシトニン遺伝子関連ペプチド放出を抑制する能力を持つので、ボツリヌス毒素を片頭痛の処置に使用することができる)、およびAoki K.ら「Evidence for antinociceptive activity of botulinum toxin type A in pain management(疼痛管理におけるA型ボツリヌス毒素の抗侵害受容活性を示す証拠)」Headache 2003 Jul;43(Suppl 1):S9-S15(三叉神経などの感覚神経領域に投与されたボツリヌス毒素は中枢感作を減少させることができるという証拠がある)。
【0114】
1つ以上の三叉神経に、および/または1つ以上の三叉神経付近に、ボツリヌス毒素を投与することができる。これらの三叉神経には、眼神経、上顎神経、下顎神経、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経、耳介側頭神経および三叉神経の前頭枝が含まれるが、これらに限定されるわけではない。図2参照。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を1つの三叉神経だけに投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を2つ以上の三叉神経に投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を三叉神経に同時に投与することができる。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を三叉神経に逐次的に投与することができる。
【0115】
一部の実施形態では、脊髄神経にまたは脊髄神経の近傍付近にボツリヌス毒素が投与され、その脊髄神経は視床に求心線維を送るか、視床に終止する。これらの脊髄神経には、小後頭神経および大後頭神経が含まれるが、これらに限定されるわけではない。図2参照。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を1つの脊髄神経だけに投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を2つ以上の脊髄神経に投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を脊髄神経に同時に投与することができる。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を脊髄神経に逐次的に投与することができる。
【0116】
一部の実施形態では、1つ以上の三叉神経および1つ以上の脊髄神経に、または1つ以上の三叉神経および1つ以上の脊髄神経の近傍付近に、ボツリヌス毒素が投与され、その脊髄神経は視床に求心線維を送るか、視床に終止する。一部の実施形態では、眼神経、上顎神経、下顎神経、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経、耳介側頭神経、前頭枝、小後頭神経、および大後頭神経に、ボツリヌス毒素を投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素をこれらの神経に同時に投与する。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素をこれらの神経に逐次的に投与することができる。
【0117】
ボツリヌス毒素は本明細書に示す神経の任意の領域に投与することができる。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素を神経終末に投与する。例えば皮下、皮内および/または真皮下にボツリヌス毒素を投与することができる。
【0118】
本明細書中に開示される本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、視床媒介性障害の発生、進行および/または持続に関与する選択されたニューロン群の間の化学的シグナルまたは電気シグナルの伝達を阻害しうる。使用するボツリヌス毒素は、該神経毒にさらされたニューロンからの神経伝達物質のエキソサイトーシスを低下させるか、またはそのようなエキソサイトーシスを防止することによって神経伝達を阻害することができる。一部の実施形態では、ボツリヌス毒素は、該毒素にさらされたニューロンの活動電位の生成を阻害することによって神経伝達を低下させることができる。
【0119】
視床媒介性障害を予防または治療するために使用しうる好適なボツリヌス毒素の例には、ボツリヌス菌、Clostridium butyricumおよびClostridium berattiなどのクロストリジウム属細菌が産生するボツリヌス毒素が含まれる。ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素、B型ボツリヌス毒素、C型ボツリヌス毒素(例えばC1型ボツリヌス毒素)、D型ボツリヌス毒素、E型ボツリヌス毒素、F型ボツリヌス毒素およびG型ボツリヌス毒素からなる群から選択しうる。本発明の一部の実施形態において、患者に投与されるボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素である。A型ボツリヌス毒素は、ヒトにおけるその効力が大きく、容易に得ることができ、また、筋肉内注射による投与による筋肉障害の処置についての使用が知られているために望ましい。
【0120】
一部の実施形態において、本発明にはまた、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって得られるか、もしくはそれらによって処理されるボツリヌス毒素;および/または(b)修飾もしくは組換えされたボツリヌス毒素、すなわち、1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸配列が、知られている化学的/生化学的なアミノ酸修飾手順により、もしくは、知られている宿主細胞/組換えベクターの組換え技術の使用により意図的に欠失もしくは修飾もしくは置換されているボツリヌス毒素、そして同様にそのようにして得られた神経毒の誘導体またはフラグメント、の使用が含まれる。これらのボツリヌス毒素変化体は、ニューロン間の神経伝達を阻害する能力を保持すべきであり、これらの変化体のいくつかは、天然のボツリヌス毒素と比較して、増大した阻害作用持続時間をもたらすことができ、または、ボツリヌス毒素にさらされるニューロンに対する高まった結合特異性をもたらすことができる。これらのボツリヌス毒素変化体は、従来のアッセイを使用して変化体をスクリーニングして、神経伝達を阻害する所望される生理学的作用を有する神経毒を同定することによって選択することができる。
【0121】
本発明に使用する好適なボツリヌス毒素には、天然に産生されたもの、また、組換え産生されたボツリヌス毒素、例えば、大腸菌により産生されるボツリヌス毒素が含まれる。一部の実施形態では、毒素は、修飾型毒素、すなわち、天然毒素と比較した場合、そのアミノ酸の少なくとも1つが欠失または修飾または置換されている神経毒でありうる。一部の実施形態では、毒素はキメラ毒素である。
【0122】
本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、真空下での容器における凍結乾燥、真空乾燥形態で、または安定な液体として保存することができる。凍結乾燥前に、ボツリヌス毒素は、医薬的に許容され得る賦形剤、安定剤および/または担体(例えば、アルブミンなど)と組み合わせることができる。凍結乾燥物は、患者に投与するボツリヌス毒素を含有する溶液または組成物を調製するために、生理的食塩水または水で再構成することができる。
【0123】
一部の実施形態では、組成物は、神経伝達を抑制するための活性成分として、1つのタイプのボツリヌス毒素(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を単に含有し得るだけである。一部の実施形態では、組成物は、視床媒介性障害に対し増強された処置効果をもたらし得る2つ以上のタイプのボツリヌス毒素を含むことができる。例えば、患者に投与される組成物はA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素を含むことができる。2つの異なるボツリヌス毒素を含有する単一組成物を投与することにより、ボツリヌス毒素のそれぞれの効果的な濃度を、所望される処置効果を依然として達成しながら、1つのボツリヌス毒素が患者に投与された場合よりも低くすることが可能になり得る。患者に投与される組成物はまた、他の医薬的に活性な成分、例えば、タンパク質受容体またはイオンチャンネルの調節因子などを、ボツリヌス毒素(1つまたは複数)と組み合わせて含有することができる。これらの調節因子は、様々なニューロンの間での神経伝達の低下に寄与し得る。
【0124】
例えば、組成物は、GABAA受容体により媒介される抑制作用を高めるγ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体調節因子を含有することができる。GABAA受容体は、細胞膜を横断する電流の流れを効果的にそらすことによってニューロン活性を阻害する。GABAA受容体調節因子はGABAA受容体の抑制作用を高めることができ、また、ニューロンからの電気シグナルまたは化学的シグナルの伝達を低下させることができる。GABAA受容体調節因子の例には、ベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、ジアゼパム、オキサキセパム、ロラゼパム、プラゼパム、アルプラゾラム、ハラゼアパム、クロルジアゼポキシドおよびクロルアゼペートなどが含まれる。
【0125】
組成物はまた、グルタメート受容体により媒介される興奮作用を低下させるグルタメート受容体調節因子を含有することができる。グルタメート受容体調節因子の例には、AMPA型、NMDA型および/またはカイネート型のグルタメート受容体を介する電流の流れを阻害する薬剤が含まれる。組成物はまた、ドーパミン受容体を調節する薬剤(例えば、抗精神病薬など)、ノルエピネフリン受容体を調節する薬剤、および/またはセロトニン受容体を調節する薬剤を含むことができる。組成物はまた、電位依存性のカルシウムチャンネル、カリウムチャンネルおよび/またはナトリウムチャンネルを介するイオン流に影響を及ぼす薬剤を含むことができる。従って、視床媒介性障害を処置するために使用される組成物は、1つまたは複数のボツリヌス毒素に加えて、神経伝達を低下させ得るイオンチャンネル受容体調節因子を含むことができる。
【0126】
一部の実施形態においては、所望する治療効果を達成するために、ボツリヌス毒素含有組成物を末梢投与することができ、かつ、血液脳関門を横断することができる他の薬剤(例えば、抗精神病薬など)を含有する組成物を静脈内投与などによって全身的投与することができる。
【0127】
一部の実施形態においては、ボツリヌス毒素は、標的組織環境のpHを局所的に低下させる溶液または組成物と組み合わせて患者に投与することができる。例えば、塩酸を含有する溶液は、標的組織環境のpHを局所的かつ一時的に低下させて、神経毒が細胞膜を横断して輸送されることを容易にするために使用することができる。局所的pHの低下は、組成物が、機能的な標的化成分(例えば、神経毒素受容体に結合する毒素の一部、および/または移行ドメイン)を有しないことがあるボツリヌス毒素のフラグメントを含有するときには望ましいと考えられる。例として、そして、限定としてではなく、ボツリヌス毒素のタンパク質分解ドメインを含むボツリヌス毒素フラグメントを、標的組織の局所的pHを低下させる薬剤と組み合わせて患者に投与することができる。何らかの特定の理論にとらわれることを望まないが、低pHは、神経毒フラグメントが細胞内においてその毒性作用を発揮し得るように、細胞膜を横断するタンパク質分解ドメインの移行を容易にし得ると考えられる。標的組織のpHは、ニューロンおよび/または神経膠の傷害を少なくするように一時的に低下させられるだけである。
【0128】
投与方法には、上記で記載されたようにボツリヌス毒素を含有する組成物(例えば溶液)の注入が含まれる。一部の実施形態では、投与方法には、標的三叉組織にボツリヌス毒素を調節的に放出する制御された放出システムの埋め込みが含まれる。例えば、皮下インプラントを用いてボツリヌス毒素を末梢投与することができる。そのような制御された放出システムにより、反復した注入の必要性が低下させられる。組織内におけるボツリヌス毒素の生物学的活性の拡散は用量に相関するようであり、段階的であり得る。Jankovic J.他、Therapy With Botulinum Toxin、Marcel Dekker, Inc. (1994)、150頁。従って、ボツリヌス毒素の拡散を、患者の認知能力に影響を及ぼし得る潜在的に望ましくない副作用を低下させるために制御することができる。例えば、ボツリヌス毒素を、ボツリヌス毒素が、選択された視床媒介性障害に関与すると考えられる神経系に主に作用し、かつ、他の神経系に対しては負の有害な作用を有しないように投与することができる。
【0129】
本発明は、ボツリヌス神経毒の末梢投与が、さまざまな異なる神経精神障害からの有意で長時間持続する解放をもたらしうるという発見にも基づいている。
【0130】
理論に束縛されることは望まないが、本明細書に開示する方法によるボツリヌス毒素の末梢投与は、ボツリヌス神経毒が、患者の頭蓋内のある部位に(ボツリヌス毒素の逆行によって)投与されることおよび/または患者の頭蓋内のある部位への求心性感覚入力を減少させることを可能にし、その結果として、神経精神障害に関与する頭蓋内ニューロンに影響を及ぼすと考えられる。
【0131】
したがって、神経精神障害は、さまざまなストレス要因の影響を受ける挿間性突発性皮質調節障害から始まると考えられる1。時が経つにつれて、これらの皮質調節障害エピソード、およびその結果である神経精神障害が、ストレッサー入力無しで起こりうるようになる。したがって、神経精神障害の発症に関して、キンドリンクモデル2,3は適切である。キンドリングモデルでは、低レベル刺激の反復により、時が経つにつれて、さらなる感覚入力無しで、神経精神障害の発生が起こりうるようになる。脳は、中枢神経系内の経路が強化されて、例えばうつ病、軽躁病、躁病、双極性障害またはてんかんなどの今後のエピソードが、外部刺激とは無関係に、ますます高い頻度で起こりうるような形で、刺激された状態または感作された状態になりうることが知られている。本発明者らによる、神経精神障害のキンドリング理論は、生理的応答性および増強された反応性の説明の節によって裏付けられる4。ボツリヌス毒素は、中枢神経系の求心性刺激を減少させ、それによって神経精神障害のさらなるキンドリングを予防するために使用することができる。
【0132】
1 Post RM, Silberstein SD「Shared mechanisms in affective illness, epilepsy, and migraine(情動障害、てんかん、および片頭痛に共通する機序)」Neurology. 1994; 44 (suppl 7): S37-S47
2 Goddard GV, McIntrye DC, Leech CK「A permanent change in brain function resulting from daily electrical stimulation(毎日の電気刺激がもたらす脳機能の永続的変化)」Exp Neurol. 1969; 25: 295-330
3 Post RM「Transduction of psychosocial stress into the neurobiology of recurrent affective disorder(心理社会的ストレスの、反復性情動障害の神経生物学への変換)」AM J Psychiatry, 1992; 149: 999-1010
4 Endicott NA「Psychophysiological correlates of "bipolarity"(『双極性』の精神生理学的相関物)」J Affect Disord. 1989; 17: 47-56。
【0133】
したがって、神経精神障害は、皮質の求心性刺激を減少させることによって処置することができる。特に、三叉神経およびc2/c3求心線維付近の1部位または複数部位へのボツリヌス毒素の投与は結果として尾側核における応答性の低下を引き起こしうる。次にこれは、視床求心性感覚入力と、それに続いて皮質求心性感覚入力とを減少させうる。c2/c3求心線維は三叉神経複合体(trigeminal complex)に投射し、2次および3次ニューロンの感作と関係することが知られている。意義深いことに、ボツリヌス毒素の末梢皮下投与は、末梢ボツリヌス毒素注射部位から解剖学的に遠く離れている中枢(後角)ニューロンの感作レベルの低下を引き起こしうることが、証明されている。Aoki K.ら「Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing(皮下ボトックスの抗侵害受容作用の機序:末梢および中枢侵害受容処理の阻害)」Cephalalgia 2003 Sep;23(7):649 ABS P3I14、Cui M.ら「Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing(皮下ボトックスの抗侵害受容作用の機序:末梢および中枢侵害受容処理の阻害)」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002;365 (Suppl 2):R17。
【0134】
したがって、末梢三叉感覚神経から皮質への反復感覚入力によって起こりうる神経精神障害の進行を妨げることによって神経精神障害を処置するために、ボツリヌス毒素を使用することができる。注目すべきことに、慢性片頭痛の進行を変化(改善)させるためにボツリヌス毒素を使用できることが報告されており5、偏頭痛の発生における三叉神経の関与を示す証拠がある。Bolay,H.ら「Intrinsic brain activity triggers trigeminal meningeal afferents in a migraine model(片頭痛モデルでは固有の脳活動が三叉神経髄膜求心線維の要因となる)」Nature Medicine, vol 8(2);Feb 2002:136-142。また、ボツリヌス毒素は三叉神経感覚ニューロンからのカルシトニン遺伝子関連ペプチド放出を抑制する能力を持つので、ボツリヌス毒素を片頭痛の処置に使用することができるという証拠もある。Durham P.ら「Regulation of calcitonin gene-related peptide secretion from trigeminal nerve cells by botulinum toxin type A: implications for migraine therapy(A型ボツリヌス毒素による三叉神経細胞からのカルシトニン遺伝子関連ペプチド分泌の調節:片頭痛治療法との関連)」Headache 2004 Jan;44(1):35-43。
【0135】
したがって、ボツリヌス毒素の末梢投与は、求心性三叉神経皮質刺激を減少させることにより、神経精神障害の発生を中枢的に刺激(kindle)する外部ストレッサーを取り除くことができる。三叉神経視床路を通る皮質感覚入力を減少させるためのこのアプローチで処置または軽減することができる状態には、中枢性疼痛症候群、特に中枢感作を伴う慢性疼痛症候群;卒中後痛症候群;反射性交感神経性ジストロフィー;幻肢痛;異痛状態;キンドリングが疾患過程の一部である慢性神経障害;てんかん;気分障害、特に双極性疾患、および運動障害を含む神経精神障害が含まれる。
【0136】
したがって、本発明の方法ではボツリヌス毒素を使用して、三叉神経分枝および/または頚神経ワナ分枝(特にC2およびC3皮膚分節にあるもの)に投与(すなわち注射)した時に、中枢神経系に対する調整効果が得られる。標的とする三叉感覚神経終末には、眼窩上神経、滑車上神経、耳介側頭神経、大後頭神経および小後頭神経が含まれる。この方法は、尾側核の脊髄路への感覚求心線維の減少をもたらし、それによって視床への、それゆえに皮質への、中枢求心性入力の減少をもたらす。
【0137】
したがって、本発明によるボツリヌス毒素の投与は、三叉神経感覚入力を減少させ、それによって皮質へのキンドリング入力を取り除くことによって、所望の中枢効果、すなわち皮質レベルでのニューロン発火に関する閾値レベルの上昇が達成されるように、行なわれる。そうすることにより、中枢媒介性の神経精神障害を処置することができる。したがって本発明の効力は、皮質に対するキンドリング効果の減少によるものでありうる。キンドリング効果の減少は、中枢媒介性神経精神障害の進行を減速させ、または処置することになるからである。
【0138】
三叉神経などの感覚神経領域に投与されたボツリヌス毒素は中枢感作を減少させることができるという証拠がある。Aoki K.ら「Evidence for antinociceptive activity of botulinum toxin type A in pain management(疼痛管理におけるA型ボツリヌス毒素の抗侵害受容活性を示す証拠)」Headache 2003 Jul;43(Suppl 1):S9-S15、Durham P.ら「Regulation of calcitonin gene-related peptide secretion from trigeminal nerve cells by botulinum toxin type A: implications for migraine therapy(A型ボツリヌス毒素による三叉神経細胞からのカルシトニン遺伝子関連ペプチド分泌の調節:片頭痛治療法との関連)」Headache 2004 Jan;44(1):35-43。
【0139】
したがって、三叉神経支配領域における求心性インパルスの減少は、最初は脳幹において、その後は、視床、感覚皮質、および運動皮質において、中枢求心線維を減少させることができる。したがって神経精神障害は、例えばキンドリング効果を阻害し、中枢求心線維への感覚入力をダウンレギュレートすることなどによって、処置することができる。
【0140】
頚神経叢分枝から三叉神経脊髄路核の尾側部への入力には、後頭骨および後頭下部に張り巡らされた大後頭神経および小後頭神経が含まれる。他の神経には大耳介神経および頚部前皮神経が含まれる。本発明の好ましい実施形態では、真皮領域を走るこれらの三叉神経分枝にボツリヌス毒素を送達する。
【0141】
上に概説した処置は、長期間にわたって中枢神経系活性化をダウンレギュレートし、キンドリングを減少させると予想される。この効果は筋弛緩とは無関係である。注射は、顔、首および頭部の筋肉にではなく、三叉神経分枝および頚神経叢分枝の領域に行なう必要がある。
【0142】
概説した処置の目的は、皮質ホムンクルスに対する効果を最大化することである。三叉神経感覚系アプローチを用いることにより、送達されるボツリヌス毒素の各単位が、頭部/顔表現に対して最大の皮質作用を持ち、副作用は最小になる。これにより、末梢に送達されるボツリヌス毒素の各単位の最大中枢作用が可能になる。
【0143】
本発明に従って実行される方法の効果(処置結果)に関する別の理論は、ボツリヌス毒素はいくつかの異なるCNS神経伝達物質(例えば、アセチルコリン)のニューロンエキソサイトーシスを阻害することができるという事実に基づく。コリン作動性ニューロンが脳全体に存在することが知られている。さらに、コリン作動性の核が、感情、行動および他の認知機能に関与する脳領域への突出部を伴って、基底核または脳基底部に存在する。従って、本発明の方法の標的組織は、脳のコリン作動性の系(例えば、基底核または脳脚橋核など)の、神経毒により誘導される可逆的な脱神経(denervation)を含むことができる。例えば、三叉神経またはその近傍へのボツリヌス神経毒の末梢注入または末梢埋め込みは、ボツリヌス毒素のコリン作動性脳核への逆行性輸送を可能にすることができ、結果として、(1)脳脚橋核から腹側被蓋領域内に突き出るコリン作動性終端に対する毒素の作用による、コリン作動性ニューロンの標的部位からのドーパミン作動性放出のダウンレギュレーション;および(2)腹側被蓋領域に突き出るコリン作動性ニューロンに対する毒素の作用により腹側被蓋領域出力を弱めること、を生じさせることができる。
【0144】
あるいは、本発明のボツリヌス毒素の使用には、非アセチルコリン神経伝達物質のエキソサイトーシスの阻害が含まれる。例えば、ボツリヌス毒素のタンパク質分解ドメインが標的ニューロンに取り込まれたとき、毒素は、そのニューロンからの何らかの神経伝達物質の放出を阻害すると考えられている。従って、ボツリヌス神経毒を、実質的な数のドーパミン作動性ニューロンを含有する標的脳核に末梢投与することができ、その結果、神経毒は、そのようなニューロンからのドーパミンの放出を効果的に阻害する。同様に、ボツリヌス神経毒を他の核に投与することができ、例えば、セロトニンのエキソサイトーシスを阻害するために縫線核に、また、ノルエピネフリンのエキソサイトーシスを阻害するために青斑核に投与することができる。
【0145】
本明細書中に開示される本発明に従って使用されるボツリヌス神経毒は、神経精神障害の発生、進行および/または持続に関与する選択されたニューロン群の間の化学的シグナルまたは電気シグナルの伝達を阻害しうる。使用するボツリヌス神経毒は、使用用量レベルで、該神経毒にさらされる細胞に対して細胞傷害性でない。使用するボツリヌス神経毒は、神経毒にさらされたニューロンからの神経伝達物質のエキソサイトーシスを低下させるか、またはそのようなエキソサイトーシスを防止することによって神経伝達を阻害することができる。あるいは、ボツリヌス神経毒は、毒素にさらされたニューロンの活動電位の生成を阻害することによって神経伝達を低下させることができる。使用したボツリヌス神経毒によってもたらされる神経精神障害抑制効果は、比較的長期間にわたって、例えば、2ヶ月以上にわたって、また、潜在的には数年間にわたって持続しうる。
【0146】
本発明に従って神経精神障害を処置するために使用しうる好適なボツリヌス神経毒の例には、ボツリヌス菌、Clostridium butyricumおよびClostridium berattiなどのクロストリジウム属細菌が産生するボツリヌス神経毒が含まれる。ボツリヌス神経毒は、A型ボツリヌス毒素、B型ボツリヌス毒素、C型ボツリヌス毒素、D型ボツリヌス毒素、E型ボツリヌス毒素、F型ボツリヌス毒素およびG型ボツリヌス毒素からなる群から選択しうる。本発明の1つの実施形態において、患者に投与されるボツリヌス神経毒はA型ボツリヌス毒素である。A型ボツリヌス毒素は、ヒトにおけるその効力が大きく、容易に得ることができ、また、筋肉内注射による投与による筋肉障害の処置についての使用が知られているために望ましい。
【0147】
本発明にはまた、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって得られるか、もしくはそれらによって処理されるボツリヌス神経毒;および/または(b)修飾もしくは組換えされたボツリヌス神経毒、すなわち、1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸配列が、知られている化学的/生化学的なアミノ酸修飾手順により、もしくは、知られている宿主細胞/組換えベクターの組換え技術の使用により意図的に欠失もしくは修飾もしくは置換されているボツリヌス神経毒、そして同様にそのようにして得られた神経毒の誘導体またはフラグメント、の使用が含まれる。これらのボツリヌス神経毒変化体は、ニューロン間の神経伝達を阻害する能力を保持すべきであり、これらの変化体のいくつかは、天然のボツリヌス神経毒と比較して、増大した阻害作用持続時間をもたらすことができ、または、ボツリヌス神経毒にさらされるニューロンに対する高まった結合特異性をもたらすことができる。これらのボツリヌス神経毒変化体は、従来のアッセイを使用して変化体をスクリーニングして、神経伝達を阻害する所望される生理学的作用を有する神経毒を同定することによって選択することができる。
【0148】
本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、真空下での容器における凍結乾燥、真空乾燥形態で、または安定な液体として保存することができる。凍結乾燥前に、ボツリヌス毒素は、医薬的に許容され得る賦形剤、安定剤および/または担体(例えば、アルブミンなど)と組み合わせることができる。凍結乾燥物は、患者に投与するボツリヌス毒素を含有する溶液または組成物を調製するために、生理的食塩水または水で再構成することができる。
【0149】
組成物は、神経伝達を抑制するための活性成分として、1つのタイプのボツリヌス神経毒(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を単に含有し得るだけであるが、他の処置用組成物は、神経精神障害に対して増強された処置効果をもたらし得る2つ以上のタイプのボツリヌス神経毒を含むことができる。例えば、患者に投与される組成物はA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素を含むことができる。2つの異なるボツリヌス神経毒を含有する単一組成物を投与することにより、ボツリヌス神経毒のそれぞれの効果的な濃度を、所望される処置効果を依然として達成しながら、1つのボツリヌス神経毒が患者に投与された場合よりも低くすることが可能になり得る。患者に投与される組成物はまた、他の医薬的に活性な成分、例えば、タンパク質受容体またはイオンチャンネルの調節因子などを、ボツリヌス神経毒(1つまたは複数)と組み合わせて含有することができる。これらの調節因子は、様々なニューロンの間での神経伝達の低下に寄与し得る。
【0150】
例えば、組成物は、GABAA受容体により媒介される抑制作用を高めるγ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体調節因子を含有することができる。GABAA受容体は、細胞膜を横断する電流の流れを効果的にそらすことによってニューロン活性を阻害する。GABAA受容体調節因子はGABAA受容体の抑制作用を高めることができ、また、ニューロンからの電気シグナルまたは化学的シグナルの伝達を低下させることができる。GABAA受容体調節因子の例には、ベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、ジアゼパム、オキサキセパム、ロラゼパム、プラゼパム、アルプラゾラム、ハラゼアパム、クロルジアゼポキシドおよびクロルアゼペートなどが含まれる。
【0151】
組成物はまた、グルタメート受容体により媒介される興奮作用を低下させるグルタメート受容体調節因子を含有することができる。グルタメート受容体調節因子の例には、AMPA型、NMDA型および/またはカイネート型のグルタメート受容体を介する電流の流れを阻害する薬剤が含まれる。組成物はまた、ドーパミン受容体を調節する薬剤(例えば、抗精神病薬など)、ノルエピネフリン受容体を調節する薬剤、および/またはセロトニン受容体を調節する薬剤を含むことができる。組成物はまた、電位依存性のカルシウムチャンネル、カリウムチャンネルおよび/またはナトリウムチャンネルを介するイオン流に影響を及ぼす薬剤を含むことができる。従って、神経精神障害を処置するために使用される組成物は、1つまたは複数のボツリヌス毒素に加えて、神経伝達を低下させ得るイオンチャンネル受容体調節因子を含むことができる。
【0152】
好ましくは、ボツリヌス神経毒を、三叉神経または三叉神経枝もしくは三叉神経節核またはそれらの近傍に投与することにより、末梢投与する。この投与方法により、ボツリヌス神経毒を、選択した頭蓋内標的組織に投与しおよび/または作用させることが可能になる。投与方法には、上記で記載されたようにボツリヌス神経毒を含有する溶液または組成物の注入が含まれ、また、標的三叉組織にボツリヌス神経毒を調節的に放出する制御された放出システムの埋め込みが含まれる。そのような制御された放出システムにより、反復した注入の必要性が低下させられる。組織内におけるボツリヌス毒素の生物学的活性の拡散は用量に相関するようであり、段階的であり得る。Jankovic J.他、Therapy With Botulinum Toxin、Marcel Dekker, Inc. (1994)、150頁。従って、ボツリヌス毒素の拡散を、患者の認知能力に影響を及ぼし得る潜在的に望ましくない副作用を低下させるために制御することができる。例えば、ボツリヌス神経毒を、ボツリヌス神経毒が、選択された神経精神障害に関与すると考えられる神経系に主に作用し、かつ、他の神経系に対しては負の有害な作用を有しないように投与することができる。
【0153】
さらに、ボツリヌス神経毒は、標的組織環境のpHを局所的に低下させる溶液または組成物と組み合わせて患者に投与することができる。例えば、塩酸を含有する溶液は、標的組織環境のpHを局所的かつ一時的に低下させて、神経毒が細胞膜を横断して輸送されることを容易にするために使用することができる。局所的pHの低下は、組成物が、機能的な標的化成分(例えば、神経毒素受容体に結合する毒素の一部、および/または移行ドメイン)を有しないことがあるボツリヌス神経毒のフラグメントを含有するときには望ましいと考えられる。例として、そして、限定としてではなく、ボツリヌス毒素のタンパク質分解ドメインを含むボツリヌス毒素フラグメントを、標的組織の局所的pHを低下させる薬剤と組み合わせて患者に投与することができる。何らかの特定の理論にとらわれることを望まないが、低pHは、神経毒フラグメントが細胞内においてその毒性作用を発揮し得るように、細胞膜を横断するタンパク質分解ドメインの移行を容易にし得ると考えられる。標的組織のpHは、ニューロンおよび/または神経膠の傷害を少なくするように一時的に低下させられるだけである。
【0154】
所望する治療効果を達成するために、ボツリヌス神経毒を末梢投与し、かつ、血液脳関門を横断することができる他の薬剤(例えば、抗精神病薬など)を含有する組成物を静脈内投与などによって全身的投与することができる。
【0155】
本発明に従って使用するインプラントは、様々なポリマーを含有しうる。例えば、ポリ無水物ポリマーのGliadel(登録商標)(Stolle R & D, Inc.、Cincinnati、OH)(これは20:80の比率でのポリカルボキシフェノキシプロパンとセバシン酸との共重合体である)が、インプラントを作製するために使用されており、また、悪性神経膠腫を処置するために末梢的に埋め込まれている。ポリマーおよびBCNUを、塩化メチレンに同時に溶解し、マイクロスフェアにスプレー乾燥することができる。その後、マイクロスフェアは、直径が1.4cmで、厚さが1.0mmのディスクに圧縮成形によって圧縮され、窒素雰囲気下でアルミニウムホイルポーチに包装され、2.2メガラッドのγ線によって滅菌され得る。このポリマーは2週間〜3週間の期間にわたってカルムスチンの放出を可能にする。だが、ポリマーの大部分が分解するためには1年以上を要し得る。Brem, H.他、再発性神経膠腫に対する化学療法の生分解性ポリマーによる術中制御送達の安全性および効力のプラセボ対照試験、Lancet、345;1008-1012:1995。
【0156】
一部の実施形態においては、本明細書中に開示される方法を実施する際に有用なインプラントを調製するために、所望する量の安定化されたボツリヌス毒素(例えば、再構成されていないBOTOX(登録商標)またはDYSPORTなど)を、塩化メチレンに溶解された好適なポリマーの溶液に混合することができる。溶液は室温で調製することができる。その後、溶液をペトリ皿に移して、塩化メチレンを真空デシケーター内で蒸発させることができる。所望されるインプラントサイズに従って、そしてそれ故神経毒の配合量に依存して、乾燥された神経毒配合インプラントの好適な量を、約8000p.s.i.で5秒間または3000p.s.i.で17秒間、鋳型で圧縮成形して、神経毒を含むインプラントディスクを形成する。例えば、Fung L.K.他、サル脳における生分解性ポリマーインプラントからのカルムスチン4-ヒドロペルオキシシクロホスファミドおよびパクリタキセルの間質送達の薬物動態学、Cancer Research、58;672-684:1998。
【0157】
本発明に従った標的組織への末梢投与のために選択されるボツリヌス毒素の量は、処置される視床媒介性障害、その重篤度、脳組織関与または処置の程度、選ばれた神経毒毒素の溶解性特性、ならびに、患者の年齢、性別、体重および健康状態などの判断基準に基づいて変化し得る。例えば、影響を受ける脳組織の領域の大きさは、注入された神経毒の体積に比例し、一方で、視床媒介性障害抑制効果の大きさは、ほとんどの用量範囲について、末梢投与されたボツリヌス毒素の濃度に比例すると考えられる。適切な投与経路および投薬量を決定するための様々な方法が、一般には、主治医によって場合毎に決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998)(Anthony Fauci他編、第14版、発行:McGraw Hill)を参照のこと)。
【0158】
非A型ボツリヌス毒素の用量は、哺乳動物に投与されたときにA型ボツリヌス毒素と予防または治療の程度がほぼ同じ(持続期間は異なりうるが)ならば、A型ボツリヌス毒素用量と同等である。予防または治療の程度は、後述の患者機能改善基準の評価によって調べることができる。
【0159】
ボツリヌス毒素は、約10-4U/kg〜約20U/kg(A型の単位数)の間の量で、または非A型ボツリヌス毒素の相当するU/kg量で、本発明の開示された方法に従って末梢投与することができる。約10-4U/kgの用量により、小標的脳核に送達された場合、視床媒介性障害抑制効果を生じさせることができる。約10-4U/kg未満のボツリヌス毒素の末梢投与は著しい処置結果または持続した処置結果を生じさせない。約20U/kgを超えるボツリヌス毒素(例えば、BOTOXなど)の末梢用量は、全身的作用の危険性を持つ。従って、視床媒介性障害に関与している頭蓋内標的組織への、本明細書に記載するような末梢経路からのボツリヌス毒素の投与は、望ましくない著しい認知機能不全を生じさせることなく、処置する視床媒介性障害に関連する症状を効果的に減少させる。従って、本発明の方法は、望ましくない副作用が現在の全身的な処置療法よりも少ない、より選択的な処置を提供しうる。
【0160】
一部の実施形態においては、約1単位〜約40単位のA型ボツリヌス毒素(または相当する量の他の型)を三叉神経および/または脊髄神経に本発明に従って投与する。一部の実施形態においては、約3単位〜約30単位のA型ボツリヌス毒素(または相当する量の他の型)を三叉神経または脊髄神経に本発明に従って投与する。一部の実施形態においては、約5単位〜約25単位のA型ボツリヌス毒素(または相当する量の他の型)を三叉神経または脊髄神経に本発明に従って投与する。一部の実施形態においては、約5単位〜約15単位のA型ボツリヌス毒素(または相当する量の他の型)を三叉神経または脊髄神経に本発明に従って投与する。
【0161】
一部の実施形態においては、視床媒介性障害を処置するためにボツリヌス毒素を1つまたはそれ以上の神経に注射する:眼窩上神経(各側約5単位のA型、または相当量の他の型を両側に)、滑車上神経(各側約5単位のA型、または相当量の他の型)、三叉神経の前頭枝(各側約12.5単位のA型、または相当量の他の型)、耳介側頭神経(各側約20単位のA型、または相当量の他の型)、小後頭神経(各側約5単位のA型、または相当量の他の型)、および/または大後頭神経(各側約5単位のA型、または相当量の他の型)。一部の実施形態においては、1回のセッション当たりの総用量は、A型ボツリヌス毒素約105単位、または他の型の相当量である。
【0162】
一部の実施形態においては、本発明の方法によって投与されるボツリヌス毒素の量は、処置される視床媒介性障害の性質(その重症度を含む)および他のさまざまな患者変数(大きさ、体重、年齢および治療に対する応答性を含む)に応じて変動しうる。一般的な指針として述べると、典型的には、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、約1単位以上約50単位以下のA型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標)など)が投与される。DYSPORT(登録商標)などのA型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または注射部位につき、約2単位以上約200単位以下のA型ボツリヌス毒素が投与される。MYOBLOC(登録商標)などのB型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または注射部位につき、約40単位以上約2500単位以下のB型ボツリヌス毒素が投与される。約1、2または40単位未満の量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、望ましい治療効果を達成できない可能性があり、一方、約50、200または2500単位を超える量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、臨床的に観察可能な望ましくない筋緊張低下、筋脱力および/または筋麻痺をもたらす可能性がある。
【0163】
一部の実施形態では、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約2単位以上約20単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約4単位以上約100単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約80単位以上約1000単位以下を投与する。
【0164】
一部の実施形態では、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約5単位以上約15単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約20単位以上約75単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約200単位以上約750単位以下を投与する。各患者治療セッションについて複数の注射部位(すなわちある注射パターン)が存在しうることに注意することが重要である。
【0165】
重要なことに、本発明の方法では、改善された患者機能を提供することができる。「改善された患者機能」は、痛みの軽減、ベッドで過ごす時間の減少、歩行の増大、より健康的な態度、より多様な生活スタイル、および/または、正常な筋緊張により認められる回復などの要因によって測定される改善として定義することができる。改善された患者機能は、改善された生活の質(QOL)と同義的である。QOLは、例えば、知られているSF-12またはSF-36の健康調査スコア化法を使用して評価することができる。SF-36では、身体的機能性、身体的問題による役割制限、社会的機能性、体の痛み、全体的な精神的健康状態、情緒的問題による役割制限、活力、および全体的な健康状態認識の8分野において患者の身体的および精神的な健康状態が評価される。得られたスコアは、様々な一般集団および患者集団について得ることができる発表された値と比較することができる。
【0166】
本明細書に開示する発明に従って視床媒介性障害を処置する方法には、下記を含む多くの利益および利点がある。
1.視床媒介性障害などの神経障害の症状を劇的に軽減または排除することができる。
2.視床媒介性障害の症状を、神経毒の注射1回につき少なくとも約2週間〜約6ヶ月、徐放性神経毒インプラントを使用すれば約1年〜約5年間にわたって、軽減または排除することができる。
3.ボツリヌス毒素の皮内または真皮下注射または植込みからは、重大な望ましくない副作用は、ほとんどまたは全く起こらない。
4.本方法は、患者の可動性の増加、より積極的な態度、および生活の質の改善という望ましい副作用をもたらすことができる。
【0167】
以下の限定でない実施例は、考えうる症例シナリオおよび本発明の範囲に包含される状態を処置するための具体的方法を当業者に提供するものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。以下の実施例では、さまざまな様式で、ボツリヌス毒素の末梢投与を行なうことができる。例えば、局所(クリーム剤もしくは経皮貼付剤)、皮下注射、または徐放性インプラントの皮下植込みによって行なうことができる。
実施例
【実施例1】
【0168】
ボツリヌス毒素の眼窩上および滑車上投与
眼窩上神経および滑車上神経は頭皮の前頭部分および額を神経支配する。どちらの神経も三叉神経の第1枝または眼枝である。眼窩上神経は、眼窩上隆起に沿って顔面正中線より約2.5cm側方の瞳孔中線(midpupillary line)中にある眼窩上孔を通って頭骨から出る。滑車上神経は、眼窩上孔より約1.5cm内側にある滑車上切痕(supratrochlear notch)中を眼窩の上内側端(upper medial corner)に沿って頭骨から出る
【0169】
ボツリヌス毒素の眼窩上投与および滑車上投与は、眼窩上孔の領域または滑車上切痕の領域から行なうことができる。眼窩上孔から行なう場合は、その領域を特定し、その部位に皮内丘疹を生じさせるべきである。麻酔した領域を通して針を挿入し、骨に向かって進める。約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を下前頭筋(inferior frontalis muscle)のレベルで孔の外側に注射する。
【0170】
滑車上神経には、眼窩上隆起と鼻根の接合部に対して、1.5cm内側に針を進めることによって、到達することができる。前と同様に、約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を注射する。
【0171】
注射を滑車上神経の領域から行なう場合は、鼻根と眼窩上隆起の接合部で鼻根の上に丘疹を置くべきである。眉弓の全長に沿って皮膚に浸潤させる。この注射を用いる場合は、上および/または下眼瞼に起こる腫脹の可能性について、患者に警告すべきである。このタイプの注射の場合、一側につき約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)で通常は十分であり、両側にも20単位以下を注射すべきである。どんな注射でも同じだが、斑状出血または血腫形成のリスクは存在する。
【実施例2】
【0172】
ボツリヌス毒素の眼窩下投与
眼窩下神経は下眼瞼、頬の内側面、上唇、および鼻の外側部分を神経支配する。これは三叉神経の第2枝または上顎枝の分枝である。眼窩下神経は、眼窩下隆起(infraorbital ridge)の下方1cm、かつ瞳孔中線中、顔面正中線の約2.5cm側方にある眼窩下孔を通って頭骨から出る。眼窩下孔を出た後、眼窩下神経は4つの分枝、すなわち下眼瞼枝、内鼻枝、外鼻枝、および上唇枝に分かれる。
【0173】
眼窩下注射は2種類の方法で、すなわち直接皮膚注射によって、または口腔内注射によって、行なうことができる。眼窩下孔を触診し、約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を、その管の中ではなくその管の近くに、神経を取り囲むように注射する。
【0174】
注射を口腔内アプローチによって行なう場合は、注射に先だって粘膜に表面麻酔を適用することにより、患者の苦痛を和らげることができる。一方の手の親指および人差し指を使って唇を持ち上げつつ、同じ手の中指で眼窩下孔を触診すべきである。孔を触診しながら、上唇溝に、犬歯窩の頂端で、針を挿入する。約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を眼窩下孔の近傍に注射する。
【0175】
眼窩下注射では下眼瞼の腫脹および斑状出血が起こりうることを患者に警告した方がよい。また、麻酔液を眼窩に注射する場合は、過度の疼痛、複視、眼球突出、および失明が起こりうる。針を眼窩下縁の上方または眼窩下孔中に置くと、反応の可能性が増加する。
【実施例3】
【0176】
ボツリヌス毒素のオトガイ神経投与
オトガイ神経は下唇およびあごを神経支配する。これは三叉神経の第3枝または下顎部分の分枝である。オトガイ神経は、瞳孔中線中、顔の正中線から約2.5cmの位置にあるオトガイ孔を通って頭骨から出る。
【0177】
オトガイ神経への注射には皮膚アプローチまたは口腔内アプローチを用いることができる。この神経に皮膚から注射する場合は、孔を触診して、ボツリヌス毒素の丘疹を置くべきである。次に、針を再挿入して、オトガイ孔の近傍まで進めるが、その中まで進めてはならない。約5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を、その領域に注入すべきである。もう1つの選択肢として、口腔内アプローチを用いる場合は、一方の手の中指で孔を触診し、同じ手の親指と人差し指で唇を持ち上げるべきである。針は下唇溝に第1小臼歯の頂端で挿入し、5単位のボツリヌス毒素(例えばA型)を注射する。
【実施例4】
【0178】
てんかんを処置するためのボツリヌス毒素の使用
23歳の男性が小児期に始まる慢性発作を呈しうる。これは、右腕に始まり、腕を上がって顔面まで進行する強直間代運動を伴いうる。最終的に彼は意識を失い、約3分間続く全般身体発作を起こしうる。彼の神経学的検査および頭部MRIスキャンは正常でありうる。彼は3つの抗痙攣薬、すなわちデパコート、テグレトール、およびトパマックスを服用しているが、まだ1週間に1回ほど発作を起こしうる。自動車局(DMV)は彼に運転を許可しないだろう。彼の処置歴には、4ccの希釈液を使用し、三叉神経ターゲティングアプローチを使って以下のように注射が行なわれる、3クールのA型ボツリヌス毒素が含まれうる:眼窩上神経、両側に各側5単位;滑車上神経、各側5単位;三叉神経の前頭枝、各側12.5単位;耳介側頭神経各側20単位;小後頭神経、各側5単位;および大後頭神経、各側5単位。総用量は105単位になりうる。
【0179】
一部の実施形態では、上記ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素の単位である。一部の実施形態では、使用されるボツリヌス毒素がA型でないが、A型と同じ単位相当量を持つだろう。彼の発作制御は1回目の処置の4週間後に改善し、現在はデパコートだけを服用しており、他の2つの抗痙攣剤は止めることに成功している、ということになりうる。彼は6ヶ月間発作を起こさずにいることができる。
【実施例5】
【0180】
中枢感作を伴う慢性疼痛症候群を処置するためのボツリヌス毒素の使用
60歳の女性が、18箇所中18箇所が陽性圧痛点である慢性の線維筋痛症歴を持ちうる。彼女の処置歴は、三環系抗うつ剤および高用量のニューロンチンを含みうる。これらの投薬にもかかわらず、彼女は疼痛制御を達成するためにますます高用量の麻酔薬を必要としうる。彼女は、顔面、頭皮、頚部および肩帯に、そしてまたその四肢に沿って、異痛を発症しうる。ステロイド発痛点注射は緩和をもたらさないだろう。彼女は慢性連日性頭痛を経験しうる。その後、彼女は、A型ボツリヌス毒素、4cc希釈液による処置を、三叉神経ターゲティングアプローチにより、上に概略を示した部位に105単位を使って受けうる。3回の処置サイクル後に、彼女の全身痛は処置サイクルごとに減少し、彼女は現在では頭痛がなくなり、身体の不快感も頚部と顎だけに限定されるようになることができる。不快感が残留しているため、4回目の処置では、ボツリヌス処置の用量と部位を、以下のように増加させうる:上記の部位に加えて、頚部傍脊柱筋に各側15単位を浸潤させることによって頚神経感覚枝を処置し、咬筋運動枝を各側15単位で処置することができる。投与される総用量は165単位になりうる。彼女はもはや毎日の経口薬を服用せず、彼女の疼痛は解消している、ということになりうる。
【実施例6】
【0181】
中枢性卒中後痛症候群を処置するためのボツリヌス毒素の使用
高血圧および糖尿病を持つ80歳の男性が、視床が関わる脳卒中を起こしうる。3ヶ月後に、彼は知覚異常(dyesthesia)(刺激の適用後に彼の四肢に起こりうる局在のはっきりしない灼熱感)、ヒペルパチー(疼痛刺激に対する増強された応答)および異痛(痛くない刺激を疼痛と感じる)を発症しうる。彼の状態は静脈内リドカインおよび大量の経口オピオイドでは改善しないだろう。アミトリプチリン、テグレトールおよびラモトリジンにも効果がない場合がある。彼は、ある時に、A型ボツリヌス毒素、4cc希釈液による処置を、三叉神経ターゲティングアプローチを使って受けうる。これは処置後6週間以内に完全な疼痛の除去をもたらしうる。
【実施例7】
【0182】
局所疼痛症候群を処置するためのボツリヌス毒素の使用
40歳の女性が、外科的安定化が必要な腓骨骨折を伴う転倒後に右下肢の反射性交感神経性ジストロフィーを発症しうる。疼痛を伴う皮膚分節に沿ったA型ボツリヌス毒素の試験皮下注射では、疼痛緩和をもたらすことができない。患者は、この処置の後に起こる脚筋疲労の増加を訴えうる。彼女は慢性腎不全を持ち、経口処置の使用に対して抵抗性を示しうる。上記の症例で確立されたプロトコールを使って、三叉神経ターゲティングアプローチを利用することができる。ここでも105単位を注射することができる。2回の処置サイクル後に、彼女の疼痛は、彼女が再び運動プログラムを開始できるところまで、減少しうる。
【実施例8】
【0183】
幻肢痛を処置するためのボツリヌス毒素の使用
68歳の糖尿病女性が、末梢血管疾患の結果として、左膝上切断を受けている、ということがありうる。彼女は重症な残存左足疼痛を持ち、そのせいで夜眠ることができない、ということが起こりうる。彼女は催眠法を試したが効果がなかった、ということがありうる。彼女はパメラーおよびニューロンチンを服用していて、睡眠には多少役立っているが、疼痛には役立っていない、ということがありうる。A型ボツリヌス毒素の三叉神経ターゲティング処置を2サイクル行なった後に、彼女は夜通し眠ることができるようになり、不快感もなくなりうる。
【実施例9】
【0184】
脱髄疾患を処置するためのボツリヌス毒素の使用
28歳の女性が、再発する絶え間ない多発性硬化症を持ち、ベタセロンを服用しているが、1年に約2回は再発が起こる、ということがありうる。彼女は他のMS免疫調整処置には十分に耐えることができない。彼女は子供の頃にリユーマチ熱を患っていた、ということがありうる。そのため、利用できる他のMS調整処置は、彼女には利用できない場合がある。考えあぐねて、A型ボツリヌス毒素三叉神経ターゲティングを、標準的な105単位用量で用いることができる。4サイクルの処置後は、彼女は最初の月に1回再発を起こしただけで、彼女の脳MRIスキャンは病変の増加を示さない、ということになりうる。
【実施例10】
【0185】
双極性障害を処置するためのボツリヌス毒素の使用
24歳の女性患者が、精神科病棟への頻繁な入院を必要としうるうつ病から多幸症への迅速な気分周期を経験しうる。彼女は双極性障害と診断される。30単位のボツリヌス毒素型を、三叉神経および頚神経叢の分枝付近に、皮下投与することができる。具体的には、以下の位置の1つ以上にボツリヌス毒素を(注射などによって)投与することができる:
【0186】
(1)三叉神経の眼枝の前頭枝は眼窩内で滑車上神経および眼窩上神経に分かれる。滑車上神経は滑車と眼窩上孔の間で眼窩から出る。眼窩上神経は眼窩上孔を通過して眼窩の上面から出る。三叉神経の滑車上神経枝および眼窩上神経枝の位置は、そこにボツリヌス毒素を投与するために、眼窩上孔または眼窩上切痕によって特定することができる。次に、これらの神経はどちらも、前頭筋の下かつ骨膜の上を進む。したがってボツリヌス毒素は、三叉神経のこれらの末梢枝(滑車上神経および眼窩上神経)に浸潤するように、前頭筋の下かつ骨膜の上に投与することができる。(2)三叉神経の耳介側頭枝は三叉神経の下顎枝から生じて、顎関節の領域に存在し、その位置にボツリヌス毒素を投与することができる。
【0187】
(3)三叉神経の浅側頭枝は浅側頭動脈に随行し、その進路に沿ってボツリヌス毒素を投与するための触診は容易である。(4)三叉神経の頚枝は大後頭神経および小後頭神経を生じ、そこには、それらが、乳様突起とイニオンの間の中ほどにある触知可能な後頭動脈の直ぐ内側および外側の項部隆起(nuchal ridge)を横切る位置に、ボツリヌス毒素を投与することができる。(5)三叉神経の下部頚神経の枝は、それらが半棘筋および僧帽筋を貫く位置で、ボツリヌス毒素を浸潤させることができる。したがって、ボツリヌス毒素の投与は、例えば、これら5つの三叉神経分枝部位の1つ以上に行なうことができる。処置後、患者の双極性状態は、数週間以内に改善されうる。
【実施例11】
【0188】
疼痛を処置するためのボツリヌス毒素の使用
患者は、5年前の足首骨折後の状態として右下肢を冒す反射性交感神経性ジストロフィーを持つ30代の女性でありうる。その疼痛は、有痛皮膚分節へのA型ボツリヌス毒素注射を含む医学療法では難治性でありうる。しかし、三叉感覚分枝および頚神経叢感覚分枝(実施例10で説明したもの)へのA型ボツリヌス毒素注射後は、彼女の疼痛が徐々に減少し、3ヶ月周期で4回目までには、彼女は全ての医学的処置を止めることができ、正常に機能することができる。
【実施例12】
【0189】
てんかんを処置するためのボツリヌス毒素の使用
患者は、二次性に全般化する部分感覚発作を持つ48歳の男性でありうる。彼は、全般強直間代発作を頻繁に起こし、医学的処置にはあまり応答しない。迷走神経刺激装置(VNS)を考慮することができる。これは部分起始発作に承認されているからである。VNSの推定作用機序は、皮質求心線維が迷走神経の刺激によってダウンレギュレートされうることである。しかしVNSは睡眠時無呼吸を悪化させる場合があり、この患者ではそれが問題になりうるので、上記実施例10で説明したような三叉神経および頚神経叢の感覚枝周辺へのA型ボツリヌス毒素注射で、VNSを置き換えることができる。2回の処置サイクル後に、患者の発作は標準的な経口抗痙攣薬で制御することが初めて可能になる。使用する注射技術には、この技術を使って、美容術を省くことができるように、すなわち下部顔面および四肢の筋力が保たれうるように、三叉神経および頚神経叢の分枝が関わりうる。
【実施例13】
【0190】
A型ボツリヌス毒素を用いた統合失調症の処置
48歳男性が、日常生活における低下した意欲および興味により来院しうる。この患者は、様々な声が聞こえると訴えうる。患者を6ヶ月間にわたって定期的にモニターしうる。症状はモニターリング期間を通して徐々に悪くなり得、患者は統合失調症であると診断されうる。上記の実施例10に示されたように、三叉神経および頚神経叢の分枝付近に30単位のボツリヌス毒素型を皮下投与することができる。患者は48時間以内に退院し得、数日(1日〜7日)、統合失調症の陽の症状の著しい改善(緩解)を享受しうる。統合失調症の陽の症状は約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって著しく軽減されたままでありうる。治療的緩和を延ばす場合、好適な量のボツリヌス毒素(例えばA型ボツリヌス毒素)を含む1個以上のポリマーインプラントを標的組織部位に設置することができる。
【実施例14】
【0191】
B型ボツリヌス毒素を用いた統合失調症の処置
以前に統合失調症と診断され、それについて処置されている68歳女性が、新しい治療的処置を試みることを希望しうる。この女性は、ボツリヌス毒素治療を勧めることのできる医師の助言を求めることができる。上記の実施例10に示されたように、三叉神経および頚神経叢の分枝付近での皮下注射により、200単位〜約2000単位のB型ボツリヌス毒素調製物(例えば、Neurobloc(登録商標)またはInnervateTM)を脳脚橋核に投与することができる。患者は48時間以内に退院し得、数日(1日〜7日)、統合失調症の陽の症状の著しい改善を享受しうる。幻覚はほぼ完全に消失しうる。陽の症状は約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって著しく軽減されたままでありうる。治療的緩和を延ばす場合、好適な量のB型ボツリヌス毒素を含む1個以上のポリマーインプラントを標的組織部位に設置することができる。
【実施例15】
【0192】
C1型〜G型ボツリヌス毒素を用いた統合失調症の処置
71歳女性が、乱れた思考パターンにより入院し、幻聴および幻視に悩まされうる。上記の実施例10に示されたように、三叉神経および頚神経叢の分枝付近での皮下注射により、1単位〜100単位のC1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素を、腹側被蓋領域に対する興奮性のコリン作動性突出部を化学的に脱神経化するために脳脚橋核に投与することができる。患者は48時間以内に退院し得、数日(1日〜7日)、すべての幻覚の著しい寛解を享受し、統合失調症のこの症状は約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって著しく軽減されたままでありうる。治療的緩和を延ばすために、好適な量のC1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素を含む1個以上のポリマーインプラントを標的組織部位に設置することができる。
【実施例16】
【0193】
A型ボツリヌス毒素を用いたアルツハイマー病の処置
知力の進行性低下に直面し、かつ、歯磨きまたは整髪などの単純な仕事を行う方法がもはや思い出せない85歳男性が入院しうる。この患者は、それ以外の点では、85歳のわりには健康でありうる。この男性は進行型アルツハイマー病と診断されうる。上記の実施例10に示されたように、三叉神経および頚神経叢の分枝付近での皮下注射により、約30単位のA型ボツリヌス毒素を青斑に投与することができる。
【0194】
患者の記憶喪失は完全には回復しないかもしれないが、患者が示していた精神病的症状は軽減し得、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減されたままでありうるか、または、インプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させたボツリヌス毒素の量に依存して約1年〜5年にわたって実質的に軽減されたままでありうる。
【実施例17】
【0195】
B型〜G型ボツリヌス毒素を用いたアルツハイマー病の処置
上記実施例16の患者は、水溶液で、または好適な皮下神経毒インプラントの形態で、約1単位〜約1000単位の間のB型、C1型、D型、E型またはG型ボツリヌス毒素を用いて、同じプロトコルを用いて、および上記の実施例10に示されたようにして等しく処置することができる。そのような処置により、精神病的症状は1日〜7日で治まり得、そして、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減されたままでありうるか、または、インプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させた神経毒の量に依存して約1年〜5年にわたって実質的に軽減されたままでありうる。
【実施例18】
【0196】
A型ボツリヌス毒素を用いた躁病の処置
44歳男性が躁病と診断されうる。上記の実施例10に示されたようにして、30単位のA型ボツリヌス毒素を三叉神経および頚神経叢の付近に皮下非筋肉内注射することができる。患者の躁病症状を1日〜7日で鎮めることができ、また、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月の間にわたって実質的に軽減されたままにすることができるか、または、挿入しうるインプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させたボツリヌス毒素の量に依存して約1年〜5年にわたって実質的に軽減されたままにすることができる。注目すべきことに、躁病行動を著しく弱めることができ、患者は、実質的により制御された行動パターンを有する。
【実施例19】
【0197】
B型〜G型ボツリヌス毒素を用いた躁病の処置
上記実施例18の患者は、水溶液で、または好適な神経毒インプラントの形態で、約1単位〜約1000単位の間のB型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素を用いて、標的化する同じプロトコルおよび方法を使用して等しく処置することができる。そのような処置により、症状を1日〜7日で鎮めることができ、また、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減されたままにすることができるか、または、インプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させた神経毒の量に依存して約1年〜5年の間にわたって実質的に軽減されたままにすることができる。インプラントは、実施例10に示された位置の1つまたはそれ以上に挿入することができる。
【実施例20】
【0198】
A型ボツリヌス毒素を用いたてんかんの処置
右利きの22歳の女性患者がてんかんの病歴により来院しうる。MRI、そしてEEG記録の研究に基づいて、側頭葉てんかんの診断がなされうる。約5単位〜50単位の神経毒(例えば、A型ボツリヌス毒素など)をもたらすインプラントを、実施例10に示されたように三叉神経および頚神経叢の分枝付近で皮下挿入することができる。てんかん発作を約2週間以内に実質的に減少させることができ、また、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減されたままにすることができるか、または、インプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させたボツリヌス毒素の量に依存して約1年〜5年にわたって実質的に軽減されたままにすることができる。
【実施例21】
【0199】
B型〜G型ボツリヌス毒素を用いたてんかんの処置
上記実施例20の患者は、水溶液で、または好適な神経毒インプラントの形態で、約1単位〜約1000単位の間のB型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素を用いて、標的化する同じプロトコルおよび方法を使用して等しく処置することができる。インプラントは、実施例10に示された位置の1つまたはそれ以上に挿入することができる。そのような処置により、てんかん発作を1日〜7日で鎮めることができ、また、1回の毒素注入につき約2ヶ月〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減されたままにすることができるか、または、インプラントポリマーの特定の放出特性およびインプラントに担持させた神経毒の量に依存して約1年〜5年にわたって実質的に軽減されたままにすることができる。
【0200】
本書の説明から、記載の実施形態に加えて本発明の様々な変更形態が当業者には明らかであろう。そのような変更形態も特許請求の範囲に含むことを意図する。本願において挙げた引用物はいずれも、引用によってその全体を本書に組み込むものとする。上に挙げた引用物、文献、特許、出願および刊行物はいずれも、引用によってその全体を本書に組み込むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経障害を処置するための医薬であって、神経障害を持つ患者の三叉神経に投与されることによってその神経障害を処置するボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項2】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
ボツリヌス毒素が皮下に投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
ボツリヌス毒素が非筋肉内投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項6】
神経障害を処置するための医薬であって、神経障害を持つ患者の三叉感覚神経に、または三叉感覚神経の近傍に、治療有効量で皮下に非筋肉内投与されることによって、その神経障害の症状の発生を減少させ、よってその神経障害を処置するボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項7】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
神経障害の発症を予防するための医薬であって、神経障害を発症する傾向を持つ患者の三叉感覚神経に、またはその三叉感覚神経の近傍に投与されることによってその神経障害の発症を予防するボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項9】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項8に記載の医薬。
【請求項10】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項8に記載の医薬。
【請求項11】
ボツリヌス毒素が約1単位〜約3,000単位の量で投与される、請求項8に記載の医薬。
【請求項12】
投与がボツリヌス毒素の局所または皮下投与によって行なわれる、請求項8に記載の医薬。
【請求項13】
神経障害を処置するための医薬であって、三叉感覚神経に有効量で投与されることによってその神経障害を処置するボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項14】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項13に記載の医薬
【請求項15】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項13に記載の医薬。
【請求項16】
視床媒介性障害を処置するための医薬であって、三叉感覚神経に接触させることによってその視床媒介性障害を処置するためのボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項17】
三叉感覚神経が眼神経、上顎神経、下顎神経、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経および耳介側頭神経からなる群より選択される、請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
視床媒介性障害がてんかん、慢性疼痛、またはその両方である、請求項16に記載の医薬。
【請求項19】
慢性疼痛が中枢感作慢性疼痛、中枢性卒中後痛、局所疼痛、幻肢痛、および脱髄疾患疼痛からなる群より選択される、請求項18に記載の医薬。
【請求項20】
ボツリヌス毒素が、三叉感覚神経に、または三叉神経の近傍に、ボツリヌス毒素がその三叉神経と接触するように末梢投与される、請求項16に記載の医薬。
【請求項21】
視床媒介性障害を処置するための医薬であって、眼神経、上顎神経、下顎神経、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙腺神経、鼻毛様体神経、上歯槽神経、頬神経、舌神経、下歯槽神経、オトガイ神経または耳介側頭神経、小後頭神経および大後頭神経からなる群より選択される神経に接触させることによってその視床媒介性障害を処置するためのボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項22】
神経精神障害を処置するための医薬であって、神経精神障害を持つ患者の三叉神経に投与されることによってその神経精神障害を処置するボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項23】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項22に記載の医薬。
【請求項24】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項22に記載の医薬。
【請求項25】
ボツリヌス毒素が皮下に投与される、請求項22に記載の医薬。
【請求項26】
ボツリヌス毒素が非筋肉内投与される、請求項22に記載の医薬。
【請求項27】
神経精神障害を処置するための医薬であって、神経精神障害を持つ患者の三叉感覚神経に、または三叉感覚神経の近傍に、治療有効量で皮下に非筋肉内投与することによって、その神経精神障害の症状の発生を減少させ、よってその神経精神障害を処置するためのボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項28】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項27に記載の医薬。
【請求項29】
神経精神障害の発症を予防するための医薬であって、神経精神障害を発症する傾向を持つ患者の三叉感覚神経に、またはその三叉感覚神経の近傍に投与することによってその神経精神障害の発症を予防するためのボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項30】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項29に記載の医薬
【請求項31】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項29に記載の医薬。
【請求項32】
ボツリヌス毒素が約1単位〜約3,000単位の量で投与される、請求項29に記載の医薬。
【請求項33】
投与がボツリヌス毒素の局所または皮下投与によって行なわれる、請求項29に記載の医薬。
【請求項34】
神経精神障害を処置するための医薬であって、三叉感覚神経に有効量で投与して神経精神障害を処置するためのA型ボツリヌス毒素を含む医薬。
【請求項35】
ボツリヌス毒素がA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項34に記載の医薬。
【請求項36】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項35に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140462(P2012−140462A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89468(P2012−89468)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【分割の表示】特願2006−538205(P2006−538205)の分割
【原出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】